機甲兵団Jフェニックス 外伝 狼と鷲、漆黒と蒼穹の出会い

第5話






 

 ……聖歴21年……共同墓地にある空き地にて……


「……う……ぐ……?」
「……気が…付いた…?」

 …サクヤが放った技をまともに受けたジークは完全に意識が飛んでおり、全身血だらけになって倒れていた。
 …血だらけと言っても斬られたのは皮一枚程度の深さであるし、見た目の出血ほど重症ではなさそうだったが。

「…だから、動くな、といったでしょうに……」
「……あれだけの殺気放たれて、動くなと言う方が無理な話だ……」

 手足の感覚を確かめながらゆっくりと起き上がるジークは、ズタズタになった服を破って血を拭う。
 一方、サクヤの表情は口調とは裏腹に何故か青く、疲労困憊といった感が強い。
 …恐らく、先程の技はそれほど肉体を酷使するものだったのだろう。

(…普通は、逆に動けなくなるんだけど…)

 心の中で苦笑の呟きをしながらも、荷物の中から救急箱を持ってくるサクヤ。

「…手伝うわよ?」
「…一人でやる」

 サクヤから救急箱を奪い取ると、自分で消毒液を拭きつけ表情を歪めつつ、包帯を巻いていくジーク。
 その傍らにはレーザーで斬られたかのように鋭利な断面で真っ二つにされた木刀の一部が転がっていたりしていたが、それはひとまず置いておこう(汗)


 

 ジークの手当てが程々に進んでくると、今にも倒れそうだったサクヤの顔色も回復し…手にしていた木刀と折れた木刀を荷物にしまうと、ジークに向き直る。

「あれが、今の私に出来る最高の技…口伝のみで伝わる、秘奥義の片鱗……」
「…秘奥義…あれが……」

 ジークがサクヤを見上げる。

「…………」

 今は大分回復しているようだが、つい少し前までのサクヤの表情を思い出し、ジークは思わずかける言葉も出せずに凝視する。
 今までどれだけ厳しい鍛錬や仕合を幾度となくしようとも、あそこまで鋭い…見た者全てを魂から切り刻むような強烈な殺気や、あそこまで疲労の色を見せている表情を見た事が無いからだ。

 そして思う、自分と彼女の差は比べる事すら間違いなほど、かけ離れているという…分かっているつもりになっていて忘れていた事を。


「彼と同じものを目指す気なら、いつまでも下を見ないで上を見て歩きなさい。……貴方が目指す道の未来(さき)は、蒼穹の彼方よりもなお高い……そして漆黒の闇よりもなお深い道程………」

 サクヤは少し厳しく…そして何処か寂しそうにジークに言うと、そっと歩き出す。

「…けれど、もしその頂が見えない道程に歩き疲れたのなら、立ち止まって景色を眺める事も必要…という事も、忘れないでね」

 ジークからはその表情を窺えなかったが、すこし優しく言うとサクヤは無言で去っていった。
 サクヤの言葉をかみ締めるように、考えるジーク。

「……頂の見えない果て無き……この程度で屈していては到底辿り着けない険しい…道、か……」

 そう解釈したジークは、傷めた傷を包帯で巻いて横になると、どこまでも青い空を見ながらそう呟いた。


 そして、今……聖歴23年………あの日から幾度と見たであろう、どこまでも青い空を見上げながら、ジークは待っていた。

(我ながら、思慮が足りなかったな……)

 あの時、サクヤが言った言葉…そして自分の解釈を思い出し、失笑とも取れる表情で思うジーク。
 思えばサクヤは、シリウスの生き方…その行く末をどこかで危惧していた。
 自分も同じ道を選ぼうとした時反対しなかったのは…シリウスの例から、逆効果だと思ったのかもしれない。
 だからこそ、だったのだ。

 …シリウスが目指していた未来(さき)を『蒼穹の彼方より…漆黒の闇よりなお遠い道程』と例え、『歩き疲れた時は、歩を止めて休む事も必要』と助言したのは。


 ジークの脳裏に、今まで剣を交え…心躍る戦いを繰り広げた者の顔と叫びが次々と浮かび、消える。
 その人物達と剣を交える内に、いつしかジークはシリウスが抱いていただろう想いと苦悩に触れた。

 最強と言う称号の意味、シリウスが目指していた『最強』とは何であるのか、サクヤはあの時本当は何を言いたかったのか。

 自分でこうと決めていながらも、なぜか心の片隅で引っ掛かっていた疑問…何年もの間抱いていた思いであったが、アイリスに問われ、改めて自分の在るべき位置を見直し、そして分かった。

 …いや、思い出したといった方がいいだろう…サクヤのあの言葉は、自身の経験と優しさから出た『忠告』であったと。

 

(すまない、だが……俺は歩みをとめるわけには行かない……)

 彼には、彼自身の目的があった。
 些細な自己満足に過ぎないのかもしれないが、大事な目的が。

 かつて、自分と対峙し…打ち負かされてしまった者の名前と顔を思い浮かべる。
 その中でほぼ唯一、一合すら合わせられずに不覚を取った相手がいた。

 ジークを含め接近戦を得意とする者にとって、もっとも苦手とされる超長距離戦闘をも得意とし、まさしく「神の弓矢」を思わせる正確無比にして無慈悲な弓撃手。
 負けるにしても「惜敗」が多かった(身内を除く)ジークに、初めての「完敗」を味あわせた相手。

(…覇王天剣流は相手を屠る事に重点を置いた剣術…しかし俺は少々距離を取られた程度(・・・・・・・・・・・)で為す術もなく倒された……)

 弓対刀…しかも音速を超えた攻撃に対し、少々(・・)という表現で例えるのはどうかという疑念もあるが、本人がそう思ってないのでそれはひとまず措いておこう。

(そして…)

 数日前に出会い、その強力な火力と機動力でアルサレアの部隊を圧倒しただけでなく、あの狂気が渦巻いた激しい戦いの中にあってなお、激情に駆られる事無く冷静に戦い抜いた射撃手。
 あの時は結局の所戦う事は無かった…しかし、もしあの時戦う事になったなら、おそらく何の対策も立てる暇もなく、倒されていたと思える相手。

(…俺が…あいつが目指した剣は、不得意な相手と戦法に直面した程度で膝を屈し、地金を晒してしまう程度だったのか………?)

 おそらく今の自分と比較してもなお、遥か高い場所にいるであろうサクヤの姿が思い浮かび、自分の未熟から出た妄想を否定する。

(…俺たちが目指していた剣は、この程度で屈するようなものではない…そうだろう、シリウス……!)




 

 一方……

「………」

 表情とは裏腹に内心かなり驚き動揺しているアイリスはしかし、そんな感じをこちらの錯覚かと思わせるほど冷静に機体を操作し、通信回線を開く。
 程なくして、オニに乗っていたジークの顔が映像モニターに映り、先程とはまた違った驚きが心の中で奔走するがそれを隠し、言葉を出す。

「……事情を聞いてもいいかしら、フェルナンデス少尉?」
『…先の約束を果たしに』

 ジークも幾分興奮しているのか、いきなり用件の核心を切り出してきた。

『…約束? 隊長、何か約束があったのですか?』
『…違うだろバカ、その機体の出所はどうしたって事がまず先だろ?』

 詳しい経緯を知らないライナスはジークの言葉を反芻しながら不審気に眉をひそめる。
 そんなライナスに突っ込みを入れるゼノン。…彼もこうなった経緯を知らないはずだが、何か思うところがあるのだろう、特にジークの言動に不審感は持ってないようだ。

「…………そうね……」

 ゼノン達の会話を半分聞き流す形でアイリスはどうするかを考え……

「…クリューガー少尉、ライを連れて先行してもらえる?」
『…あん?』
「急な修繕に問題があったのか、足の調子が良くないの。彼に事情を聞くついでに、ここで簡単な修理をしてみるわ」
『え…大丈夫ですか!?』

 アイリスの言葉を真に受けて、心配したライナスが割り込む。
 ゼノンは彼女が何を言いたいのか察し、嘆息する。

『………了解…ほら、行くぞライ!』
『え、ええっ? でもあのオニの事は…?』
『それは誤認だろ、黒いキシンをオニに見間違えた…』
『ちょ、いくら僕だってオニとキシンの区別くらい…!』
『づべこべ言わずに来いっての、だいたい乗ってるのはあの剣狼なんだ…味方であるのは……』

 察しの悪いライナス…まぁ、本人にしか知りえない複雑な心情もあるのだろうが…を引きずりながらこの場を去って行くゼノンだった。

 二人が完全にレーダー圏外に出たのを確認すると、アイリスは接触通話が出来るまで接近し、通信用ワイヤーを射出して回線を開く。

「この方が話しやすいでしょう?」
『…そうだな、感謝する』
「それはどうも…で、まず本題の前に質問、その機体はどうしたの?」
『…それは……』

 ほんの少し逡巡したジークだが、説明を始めようと、その経緯を思い出す……。



 

 それは、昨日…今日を知らせる朝日が、そろそろ東の空を染め始めそうな時間である。

「……っくそ…これでは間に合わん…!」

 八つ当たりだと自覚しつつも声を荒げるジーク。
 しかし、その八つ当たりを聞いた人物はその態度にややムッとしたのか、作業をしながら嘆息する。

「こっちだって準備が色々あったんですよ! そっちこそ『夜明けまでに機体を直したい、先に作業を始めてる』って電話してきた挙句にあの始末ですか!?」

 休もうとした所で叩き起こされてさすがに不機嫌なのか、その人物…キシンカスタムの調整と補修を担当していた整備士は、かなり不満そうに文句を言う。

 心労と疲労によって設計図を枕にし、簡易作業卓を寝台代わりに眠ってしまっていたジークだが、整備士が手の空いている同僚を引き連れてきた物音に反応し、ようやく目を覚ましたらしい。

「その件については何度も謝った! その上でこうして協力を頼んでいる…!」
「それは、当たり前です! 私だって、自分の仕事には誇り持ってますから、やるべき事はきっちりやらせていただきます!」

 二人してこんな事を口論していると……

「…失礼、フェルナンデス少尉はこちらにおられるか?」
「「……?」」

 ……口論をしている横から、一人の人間がハンガーに顔を出してきた。


 

 年齢は若そうだが、大尉の階級と正装を身に付けた人物は第9補給大隊に属していた整備主任官であると名乗った。

「…第9補給大隊…というと確か……」
「…貴官のご活躍で壊滅を免れた、仮設補給基地を中心に活動していた部隊だ」
「…ということは、このキシンを整備した方ですか!?」

 先の口論が尾を引いてか、やや興奮した様子で整備士が聞く。

「…厳密に言えば、部隊長である私の上司が自ら整備・調整したのだが……」

 咳払いをしつつ恐縮しながら訂正し、大尉はそう答えた。

「その部隊に属する方が、何用でこちらに?」

 猫の手も欲しい所なので、この機体に一番詳しいであろう人間の登場は素直にありがたかったが、とりあえず会釈しながらこの人物がここに来た理由を尋ねる整備士。

「…我らが隊長から、少尉に託けと侘びがあるそうなので、代理として来た」
「……侘び?」

 託けならともかく、詫びられるような事をした覚えの無いジークは、首を傾げた。

 

 第9補給大隊は比較的後方に展開していた事もあり、敗退後の追撃に晒される事も、他の部隊ほど損耗する事も無く、安全圏まで撤退に成功したらしい。
 その後部隊は敗残部隊を収容し整備に当たりながら部隊の再編成を行い、この基地と第二ギラ・ドゥロ補給基地へ分隊して向かおうとしていたのだが、ちょうどその時…ゲルノイド中央基地から召集命令が届いたとの事だった。

「……つまり、この基地に補給が届いたのは、貴方の大隊が召集に応じたから…だと?」
「…それは私の口から言うべき事でも、断定できる事でもない」

 あくまで淡々と、感情を抑制した声で、事務的にそう答える大尉。

 つまり、状況だけで判断するなら、ゲルノイド中央基地の司令官は再三の要請に心打たれていたのではなく、他の基地に恩を売りながら防備をさらに補充できる、もっとも得をする方法を選んだだけに過ぎなかった訳だ。

 そう考えた整備士は「大人の世界って奴は…」などと呟きながら、額に手を当てつつ悶答する。
 それでこの会話は終わった、と思ったのだろう…大尉はジークに向き直る。

「…あの時中途半端な整備で送り出した上に、交わした…」
「…って、中途半端!? これが…!?」

 ブツブツと呟いていた整備士は「中途半端」という単語に過敏に反応する。

「…なにか?」
「……ぃ、ぃぇ…」

 暗に「これ以上邪魔するな」と言いたげな大尉の視線に押し黙る整備士。

「……その時の『約束』とやらを果たせずに後方に下がる事を、部隊長は最後まで憂いておりました」
「…いや、それは仕方が無いのでは…?」

 やや後ろで「これを中途半端なんて言われたら俺って何?」と言いたげに苦悶するのを同情するようにチラリと見ながら、礼を返すジーク。

「その一件を含め、自分だけが安全な所に下がる事をすまないと思われたのでしょう…密かに手配を進め、密使として私を詫びの品と共にこの基地に遣し、つい先程到着したのだ」
「…恐縮です…しかし、詫びの品?」

 大尉という事もあり敬礼をしながら尋ねるジーク。

「うむ、今持って来させる」

 いつのまにか大尉の後ろで待機していた人間達…よくよく見ればあの時に部隊長とやらの人物の指示で働いていた整備士…に手で合図をする。

「例の機体を」
「はっ!」

 待機していたうちの一人が代表して敬礼すると、外に走り去っていく一同

 

 ……待つ事しばし、彼らはPF搭載用トレーラーを誘導しながら、戻ってきた。
 そして、丁寧に梱包していたシートを取り払うと、そこに現れたのは……

「…これは!?」
「そう、グリュウ大尉の機体として調整されたキシンの上位機種…オニだ」

 改めて事情を聞けば、この機体はグリュウ大尉に渡したオニのスペアパーツに、キシンのパーツを補完して作られたレプリカであるらしい。
 もっともレプリカと言っても、性能はオリジナルと何の遜色も無いはずであり、ジークのキシンカスタムを整備した時のデータに合わせて調整されているので、使い勝手も問題ないだろうとの事だった。

「…状況を鑑みれば、これを眠らせておくにはあまりに勿体無い事に加え、使うなら貴官の様な人物にこそ使って欲しいと、大尉も考えておられる事だろう…我が隊長はそう思われたそうだ」
「…お気持ちは素直にありがたいと思う…しかし…このような事を独断で決めても…?」

 いくら戦時下とは言え、経緯を聞けばこの措置は「たかが」大隊長である人物の独断で決められたという事になる。
 上下の規律に厳しいヴァリムにおいて、そのような独断が許されるのだろうか…自分だけの問題ならまだしも、この一件が問われ…他にまで波及してしまうような事態は、出来れば避けたいと思うジークである。

「貴官の危惧する所は、私も理解できる。…そこでこれだ」

 ジークの察しの良さに、満足げに頷いた大尉は…書類が入っていると思われる封筒を渡す。

「これは…!」

 封筒の中身を見て、再び驚くジーク。
 中に入っていた書類は、「フェルナンデス少尉にオニのスペアパーツを受領する」という旨の内容が記され、将官もしくは元帥位に相当する人間にしか使う事を許されない認印が押された命令書であった。

 …しかも日付は要塞戦直前とされていた。

「これをどう使おうとも、勝手にするが良いだろう。私が託けられたのは、以上だ」

 それだけ言うと、大尉は部下を引き連れて格納庫から姿を消したのだった。

 

「……………」

 …思い出したが、伏せておかねばならない情報が多すぎてどう説明して良いか分からないジークである。
 この一件を説明し、そんな事はありえ無いとは思うが、万が一アイリスから漏れるような事態になれば、自分だけでなくこの機体を持ってきた大尉…そしてその指示をした人物にまで迷惑がかかるからだった。

「…少尉?」
「…先日…と言っても今日の早朝だが、この機体と一緒にこの命令書が届いた」

 …結局、苦し紛れの策として日付を指で隠した命令書をモニター越しに見せたジークである。
 アイリスも内心驚いていた影響もあったのか、その事には気づかず、話を進める。

「…つまり、貴方も事情は詳しく知らされていない、ということ?」
「ああ、戦時下特例でそうなったと言う以外は、知らない。後日正式に問い質すつもりだが…」

 これは事実なので、ジークも自信を持って答えた。
 そして、PFで基地を出ると騒ぎになるので、アイリスが出発する数時間前にトレーラーに載せたまま基地を発ち…ここで待っていた、そう説明するジーク。

「…そう…」

 何かがおかしい、とは感じつつも…自分達の小隊も似たり寄ったりの経緯で創設されている事もあり、何か言えない事情でもあるのだろう、そう推察したアイリスは、これ以上この話題に触れるのはやめようと思った。


「大体の事情は分かったわ。…さて…あとは……」
「……分かっている」

 いまいち歯切れの悪い今回のような事にならないよう、アイリスが来るまで調整の具合を確認しながら、考えていた「答え」を再び頭の中に思い浮かべるジーク。


 今度は、隠す事無く、全てを語ろう…改めて決意したジークは、語りだした。





 

「昔…俺の友に馬鹿な奴がいた。そいつは『神に挑んでいた』」

 そう言って、どこか遠くを見つめながらジークは語りだした。自らの『戦う理由』を。

「そいつは『最強』という言葉を追い求めていた。だが、同時に誰よりも理解していた。実際に『最強』なんてものは存在しない、と」

 それは、幻想なんだ。そう言ってジークは続ける。

 なぜなら、本当の意味で最強を名乗るつもりでいるのなら、称号そのものに意味がなくなるからだ。

「もし、その称号を本当に手に入れようとするのなら…世界中のあらゆる総ての生命で殺し合い、そして最後の1人として生き残る…そんな事でもしない限り、『最強』という称号を手に入れるのは無理なんだろうからな」

 …称号とは、他者が他者を分類するもの、もしくは他者が他者を恐れ敬うためのもの…つまり、個の存在にはまったく必要のないもの。

 そして、個だけで評したそれは「自称」に過ぎず、決して「称号」ではない。

 だから、『最強』なんて存在しない。

 そんな事を実行した、出来た者など、この世のどこにもいはしないから。
 仮にそれを成したとしても、その瞬間にその称号は意味を失い、地に堕ちる。

 ジークの言葉の端々には、そういった思いが込められていた。

「それはそいつも…よく分かってたんだろう」

 微かに苦笑してジークは続ける。
 あの時分かっていなかったのは自分だけだった。
 サクヤはおそらく、理解していたのだろう。
 だから、ああ言った。

 真の意味で最強になる…という事は、人の身で蒼穹の彼方まで行こうとする行為そのものなのだと。

 …いずれ山の極みに達したとき、そこで立ち止まるべきだと。

 …そうしなければ、いずれは漆黒の闇に飲まれるだけであると。


「不可能に…幻想に挑戦する事を比喩として、そいつは『神に挑んでいる』と言っていた」
「全てを理解していた上で、尚幻想を求めていた…そういう事?」

 アイリスの問いにジークは頷く。


「ああ、だが…そいつは死んだ。志半ばでな」

 震える心を押し殺し、あくまで淡々と言葉をつむぐジーク。
 しかし、その表情に一瞬痛みが走った様に見えたのは、アイリスの気のせいだったのだろうか…?
 だが、彼自身はその事に気付かないまま語り続ける。
「あるいは…満足して逝ったのかも知れない。その道を歩く事がどんな事かをそいつは誰よりもよく知っていた筈だからな」

 手にした刀『斬裂』に視線を落とし、ジークは語り続ける

 ―――――


 僅かな…しかしとても長く感じられた沈黙の後、再びジークは語りだした。

「…そいつが死ぬ少し前に、大きな荷物を受け取った奴がいた」

 そいつもまた馬鹿正直な上に融通の聞かない奴でな、そう言いたげに自嘲めいた笑みを浮かべて、ジークは再び遠くを見つめる

「あろうことかその『神に挑む者』は、そいつにこう言ったんだ。『俺の夢と一緒にこいつを預かってくれ』とな」

 モニター越しで自分と向かい合ってくれている…まるで愚痴のような取り止めのない話に、真摯な態度と表情で付き合ってくれているアイリスに、ジークは手にした刀を掲げて言った。

「返すつもりだったんだ…だが、あいつは帰って来なかった」

 刀を通して、今はここにいない誰かに語りかける様にジークは呟く。

「堪らないよな…残された者は、どうすればいい?」

 まるで血を吐いている様だ。悲しみを湛えた双眸で刀を見つめるジークを見て、アイリスは思った。
 ジークの独白は続く。

「憧れだった…夢だった…いつかは追いつきたい。そしていつかは同じ処に立ちたい。ずっとそう思ってた。だが…あいつは帰って来なかった」
「…だから、背負ったの?」
 何が、とはアイリスは言わなかった。だが、それで伝わったのだろう。
 ジークは静かに頷く。

「背負ったつもりは…多分、ない。俺は…俺は、恐らく追いつきたいんだ、と思う」

 誰に、とはジークは言わなかった。

「もう、俺は永遠に追いつく事ができない。もし、追いつく事ができるとすれば…それは俺が『最強』の称号を手にした時だけだろう」

 そう言うと、ジークはアイリスを真っ向から見つめて言った。

「だから、俺は戦う。志半ばで逝ったあいつの為に。あいつに追いつく為に。例えそれが幻想であっても…俺は神に挑み続ける」

 それが…俺の『戦う理由』だ。そう語るジークの双眸には、かつてアイリスが見た意志の強さが再び蘇っていた。

(ああ、そうか…)

 彼の戦う理由を聞いて、アイリスは思った。
 確かに今彼が語った事は嘘ではないだろうし、実際、それは彼にとって十二分過ぎる程の『戦う理由』なのだろう。
 しかし、彼女は同時に感じた。彼にとって『神に挑み続ける』事は、同時に『忘れずにいる為』なのだと。
 かつて彼にとって友であり、憧れであり、夢であったというその人物。そして託されたもの…何より、その人物を喪ってしまったという心の傷を。
 それはとても不器用で、とても悲しくて…けれどどこまでも真っ直ぐで…そして何より『彼らしい』理由だった。


「改めて言おう…アイリス・シュタインベルガー中尉。俺と手合わせをして欲しい」
「…その前にもう一つ、聞くわ。なぜ私と?」

 自分でも意地が悪い…と思いつつも聞いてみるアイリス。

「……そうしなければ、先へ進めない…そう思ったからだ」

 自分に向けられる、真っ直ぐな視線を正面から受け止め……

「……その申し出…受けさせて貰うわ。ジーク・フェルナンデス少尉」

 ……満足した様子でアイリスは頷いた。

「………感謝する」
「いえ、こちらこそ。…それから、ありがとう」

 最後の、かすかに口を動かすだけの…ほんの微かな呟きは届かなかったのか、ジークは首を傾げる。

「…中尉?」
「…いいえ、気にしないで」

 これは自分自身に対してのけじめみたいなものだから、アイリスはそう言いたげに微笑しながら首を横に振る。

(ありがとう。…あなたの戦う理由を教えてくれて。そして…ごめんなさい。悪意がなかったとはいえ、心の傷に触れてしまって)

 知らなかったとはいえ、彼女はジークの心の傷に触れてしまった。それは他人が触れていい類のものではない。
 だからといって謝ればいいという問題でもない。それでは逆に彼を傷つけてしまう可能性もある。

 今の自分が謝る代わりに出来る事…それが彼と手合わせする、という事だった。
 何より…今の彼となら手合わせしても構わない。そう思ったからこそ、彼女は彼の申し出を受けたのだった。




 

「…勝負は相手が動けなくなるまで、合図は…」

 付近を見回したアイリスは、LMGを腰に固定すると機体の真下にあった石を拾う。

「…これが地面に落ちたら始めるって事でどう?」
「……了解した」
「…いくわよ…?」

 黙って頷くと、刀を構えるジークのオニ。
 アイリスのホライゾンも、無造作に石を空に投げると、LMGを構えなおした。

 

 アイリスが慎重にLMGを構え、いつでも動けるように体勢を整えている一方、ジークは………

(……1撃勝負になる…)

 …いつも通りと思える事を考えながら是空を両手で構えていた。
 しかし、これはいつも通りと言うことではなく、ジークなりにアイリスの戦い方をイメージして出た結論であるらしい。

 彼女はその気になれば、LMG14連射による超高密度攻撃が行えるのである。
 神速中は防御力10倍になるため平気だろうが、もし神速解除直後にこの攻撃が来た場合、一刀侍魂発動中のオニでは凌ぎきれるものではない。
 いや、もしも…サイクロンショットを休み無く撃たれ続けるような真似をされても同じだろう。
 そして両手のLMG、これも厄介だった。

(LMG1つを犠牲にして攻撃を凌ぎ…神速解除の瞬間を狙う……)

 神速は確実でなくとも、神域は100%で発動できるアイリスなら、LMGで目眩ましをすると同時に是空の軌跡を見切ってLMGで防御、オニを闘牛相手に戦うマタドールのようにやり過ごす事も不可能ではない…かもしれない。
 そして、神速が解除される瞬間を待ち、至近距離での一斉射…という事も、不可能ではないように思えた。
 いや、彼女が本気でジークを倒そうと思えば、そのくらいは必ずやってのけるだろう。

「……よし…!」

 アイリスの出方をそう読んだジークは小さく叫ぶと、突撃に備えて構えを取った。

 

 合図の瞬間、一気に神速で距離を詰めるジークに対し…アイリスはLMGで応射しつつ横に飛び退くように移動する。
 歩行能力が極めて高いホライゾンは、神速中にも関わらず中量級PF…BURMで歩速の強化をしていないPF並の速度でステップ移動をしていた。

「…予想よりも遥かに速い…!」

 その動きの速さで是空の一撃は空を斬ってしまったが、その挙動は予想した通りなので、ジークはニヤリと笑うと神速が解除された直後、即座に再発動させて転進する。

 神速中は基本的に一定方向にしか移動できず、方向を変えるためには一旦神速が解除されるのを待たなければならない…これは本家本元の神速でも同じらしい。
 例外として、旋回運動は可能な事…作用反作用で生じる力を利用して転進する事なら可能らしいが、この時点のジークではそれを知らなかった。

 即座に方向転換出来たことで後ろから来た紅い集中光弾の回避に成功したジークは再び同じ手法で方向転換すると、サイクロンショットを狙うつもりなのか、背後やや側面からホライゾンに接近を試みる。

「もらった!」

 しかし、アイリスも神域を連続使用してジークの動きを見切っていたのだろう…ジークの剣の間合いに入った直後、ウイングを大きく広げてサイクロンショットを一斉射する。

「くっ!?」

 至近距離からの一撃…本来の使い方ではないので威力は弱く、ジークのオニも神速発動中という事もあり、ダメージ的には全然問題はなかった…が、LMGを思わせる特有の赤い発光はジークの目…そして機体のモニターに激しい焼け付きを残していた。

(めくらまし…!?)

 一瞬驚いたジークであったが、クサナギとの戦いの時も似たような事をされたので、レーダー表示を見ながらホライゾンの位置を割り出し、腰部を両断するかのように是空を横に振る…が、是空を持つ手に手応えは無く、再び空を切った。

「……!(上!?)」

 レーダー表示は間違いなく是空を振るった位置に間違いなので、是空が空を切った瞬間にそう直感したジーク。
 そして、その直感が正しい事は、集中豪雨のように降って来た赤い閃光が証明して見せられたのだった。


 ―――――――Side アイリス―――――――


 石を放り投げたアイリスは、剣を両手で構えるオニを見据えながら、幾通りもの動きを考える。

(…やはり、長引けばこちらが不利……)

 ジークよりもかなり前に神域と神速と呼ばれるものを知っており、その長所と短所も把握しているアイリスだったが、状況は厳しいと判断したらしい。
 それは神速を自由に使えるジークに対し、アイリスの神速発動確率は平均3割…調子が本当に良い時でも、5割弱の博打勝負であるためだ。
 接近戦でこのハンデはかなり厳しい。

 …だが、長距離からの射撃戦ならそのハンデは無くなる…とは言わないが、幾分ましになる。

(…と、普通ならそう考えるでしょうけど…)

 ジークがアイリスの立場であっても、間違いなくそう考えるだろう。
 しかし、アイリスは少し違う戦術を考えていた。

(まず機先を制し、相手に迂闊な接近戦は危険と判断させる事…そうするには…)

 ジークの行動を予測し、それに対処し得る戦術を組み上げていくアイリス。


 

 戦いの合図の直後、ジークが神速状態で突っ込んできた瞬間、アイリスはホライゾンのスラスターとブーストを併用しつつ…宙に浮くか浮かないかという勢いでジャンプしながら移動を開始する。
 歩行中にブースターとスラスターを併用するのは、それらで浮力を働かせ、実際の機体重量を軽減させる事が目的らしい。

 この動作は、誰にでも出来るという訳ではない。
 少しでも浮力が多ければ、十分な踏み込みや踏み切りが出来ず、浮力が少なければその動きに大きな変化はない。動作や自機及び周囲の環境…その他もろもろの要素を吟味し、その時点で最高の動きを得られる浮力を維持していないと不可能であるからだ。

 それを類稀な才能と、才能に恥じない努力の成果で可能としたホライゾンの動きは、総重量を軽量級機体並にまで軽減された状態で、重量級機体の歩行能力を維持している為、通常のPFとは全く比較にならない…拠点防衛機以上の旋回性能と、第3世代機体並の歩行速度を獲得しているのだ。


 この動きを以って神速状態で突っ込んできたジークのオニをかわすアイリスはすぐに次の行動に移る。

(私が彼なら、次はサイクロンショットを狙う…!)

 確信に近い推測が既にあったアイリスはジークの動きを確認することなく、サイクロンショットをウイング形態のまま一斉射しつつ、高速ジャンプを行なう。
 神速を使っているジークの動きを確認してから動いては、遅すぎるからだ。

 そして、想像通りの行動をとっていたジークが彼女の真下を通過するのを確認したアイリスは少し微笑むと、ホライゾンを後方宙返りさせつつサイクロンショットを一斉射出…同時に一斉射撃を行なったのだった。

 

 ―――――――Side Out――――――――

 

 サイクロンショット一斉射という手痛い洗礼を受けたジークは、是空の鞘で防御しつつ即座に退いた。

「……あの一瞬で4割のダメージか!」

 ある程度は理解していたつもりだったが、それは所詮「つもり」だった事を悟り、戦慄するジーク。

(…だが、神速中ならあの攻撃も大ダメージにはならない事は分かった…そしてこの距離……)

 退いた時、神速を発動したのだが、その間だけはダメージらしいダメージはなかったらしく、さらに今ジークとアイリスはおよそ1000前後離れており、ここまで離れるとさすがに命中精度が落ちるようで、直撃の軌道は全弾数の内およそ2割…残りはオニの装甲をギリギリでかすめる程度だったからだ。

 もっともホライゾンにはサイクロンショットと言う、距離差を無くす武器があるのだが…アイリスは何故かサイクロンショット6基を自分の周囲を囲うように展開して守りを固めているだけだ。
 それはおそらく…ジークの突進力…神速に因る超高速攻撃を警戒しているのだろう…と推察できた。

「……ならば……!」

 今もなお続いている紅い雨を一旦神速で振り切るジークは、是空を水平に構える。

「これでどうだ!!」

 そして、アイリスが最も恐れているであろう、神速の連続発動で一気に突撃するジーク。
 その攻撃は紙一重でかわされてしまったが、さすがのアイリスでも余裕はなかったらしく、反撃は来なかった。

「……もう一度っ!」

 幾分マシになったとはいえ、肉体を苛む頭痛と目眩を我慢して素早く反転すると、再び突進を始めるジーク。


 ジークの2度目の突進もかわされてしまったが、先程よりも確実に迫っていた事から、3度目の正直とばかりに突進を敢行するため、確実に決められる距離まで神速を使わずに近付こうと接近を試みる……
 しかし、それを見て危険と判断したのか、アイリスもサイクロンショットを残らず射出し始めた。

 

 ―――――――Side アイリス――――――――

 

(神速で移動できる距離は、そう長くはない…この距離を一気に詰めるには何回か連続で行なう必要がある)

 それを知っているアイリスは、1000以上離れているのを気にもしていないかのように、マニュアル射撃用の照準にオニをインサイトしながら、冷静にその動きを観察していた。

「…サイクロンショット、射撃オートで周囲に展開し固定……」

 そしてサイクロンショットをホライゾンの周囲300前後に配置するアイリス。

 ジークはそれらの動きを観察し、こちらが防御に徹していると思ったのだろう。
 いきなり神速で突進してきたジークに対し、アイリスはサイクロンショットのオート射撃だけで対応し、反撃できたのにそのままギリギリでやり過ごす。
 さらに連続でジークが突進してきたが、それも同じようにサイクロンショットだけで応射するだけで両手のLMGを使う事無く回避する。
 その間にアイリスがやっていたのは、オート射撃設定にしていたサイクロンショットの動作情報を集計する事だった。

(……やはりこの距離を詰めるには、『神速』を数回に分けて発動している……)

 人の目には全くと言って良いほど映らなかったジークの動きだが、センチ単位の射撃精度と半径500以上ともいわれる索敵能力を誇るサイクロンショットのセンサーは、「神速解除の直後に神速再突入を行なうオニ」をはっきりと捉えていたのだ。
 そして、アイリスはサイクロンショットの反応があってから神域に入る事で、十分な余裕を持って回避することが出来る…らしい。

(一回あたりの移動距離と時間…少し短いけど、これはおそらく軌道修正と負担軽減の為にあえて短くしていると考えられるから……発動時間が1秒と考えると…推測される最大移動距離……このくらいね…?)

 つまり、その計算で出た距離以上の間合いを保っていれば、神域が使えるアイリスなら気付かない間に斬られるという可能性はきわめて低くなり、それ以上近付いてくれば危険だと言う「必殺の間合い」が分かった事になる。
 そして一回あたりの神速の発動時間と移動距離を算出できるなら、今ジークがやっている攻撃は殆ど意味がない……むしろ次の挙動が読み易い状況だという事になる。

(……あとは、上手く誘導できるか…?)

 いくら動きが見えると言っても、それは視覚的なものであり、神速という超高速移動に対しては体が付いて行かないだけに、真っ向から狙いをつけてもすぐに察知され、回避されてしまうのは間違いない。
 それに神速中は防御力も高くなっているので、確実にダメージを与えるためには、オニの動きをある程度まで絞り込んで、ピンポイントで攻撃…もしくは神速解除の瞬間を狙わなければ有効な攻撃にならないのだ。


 つまり長距離でも神速中でも攻撃できたのにしなかったのは、アイリスの狙いを悟られないようにするのが目的だったのだろう…ジークが3回目の突進を試みた瞬間、アイリスは即座に残していたサイクロンショットを全部射出した。

 

 ―――――――Side Out―――――――

 

「…!?」

 アイリスが総てのサイクロンショットを射出させ、今まで展開していたサイクロンショットもV字型に陣形を変えた事に警戒し、動きを止めたジークだが…神速発動中であるならば、大ダメージにはならない事を確認していたので一瞬の逡巡の後、大地を蹴った。

 そして、ホライゾンは両手のLMGをこちらに放つと同時に、新たに自機の周囲に展開したサイクロンショットも、全く見当違いな方向に(・・・・・・・・・・)何発か放つ。


(…広域拡散による無差別攻撃? ……しかし……)

 扇状に放たれる、何の狙いも付けられていないように感じる…アイリスらしくない攻撃に…何か違和感のようなものを感じつつ、LMGを最小限の動きで回避したジークは、再びアイリスが操るホライゾンに向けて突進した。


「この間合い…!」

 ややギリギリだったが、HM神速2回発動でホライゾンに最接近出来る距離まで近付けたジークは、これを最後の一撃とするべく、操縦桿に力を込め…神速を発動させる。

「…貰った!」

 1度目の神速で一気に間合いを詰め…改めてホライゾンの動きと位置を確認…そしてやはりギリギリでホライゾンに肉薄できる距離まで接近できる間合いである事を確認したジークは、再び神速を発動!
 しかし、一見無差別攻撃と思われたサイクロンショットの攻撃だが、その意味するところ…つまり狙っていた事が発露したのは次の瞬間だった。

 

(かかった!)

 アイリスはジークがこっちの予想通りに動いてくれた事で、今の今まで伏せておいた手札を切った。

 先程の広域拡散乱射攻撃は、神速状態にある激しい機動を最小限の動きに抑えるための布石であり、切った手札をより確実に活かす為の前準備に過ぎなかったのだ。
 いや、布石というならば戦いを始めてからの総ての行動が布石であり、前準備だった。

 これを決着とするべく準備していたアイリスは、オニが真っ直ぐこちらに接近してくるのを……『必殺の間合い』で神速発動するのを待っていたかのように(・・・・・・・・・・)後退すると、アイリスはほぼ真正面…ジークが向かってくる方向に狙いを付け、周囲に展開していたサイクロンショットとLMGを一斉に発射し始めた。
 そしてコンマ数秒遅れて、予め一定距離を取って展開していたサイクロンショットも一斉に照準を定め、発射する。
 しかし、この一斉発射の狙いはジークではなく、無差別に狙ったものでもなかった。

 2度目の一斉射撃は、さっきまでホライゾンの居た位置(・・・・・・・・・・・・・・・)を狙ったものだった。
 放たれた1射目の赤い光はオニの装甲を(僅かばかりとは言え)削り取り、そして1射目の赤い光にやや遅れて発射された2射目の赤い光は、ジークの進路を阻むように放たれていた。
 しかも、第1射目の攻撃はただ装甲を削るだけが目的ではなかった。
 LMGによる攻撃を受けたものなら誰でも思うが、この攻撃は視界を大きく阻害する効果もある。
 そしてアイリスはその効果を最大限に活かすため、わざわざ狙いを付けにくい頭部に狙いを絞って撃っていたのだ。

 わざと隙を作り、接近させて罠を張る…これはひとつ手順を間違えれば、逆に命取りとなる戦い方だ。
 だがアイリスは、あえてこの戦術を選択した。

 つまりアイリスは安全距離からの射撃だけで勝負を付けようなどとは、微塵も思っていなかったのである。
 アイリスが本当に手段を選ばない戦い方をするなら…対神速対策を徹底的にするならば、彼女は間違いなく空中戦を選択するだろう。
 神速がHMである以上、歩行速度や腕速度を上げる事は可能でも、ブースト性能は殆ど(加速性能を除く)上がらないからだ。

 ほぼ対等な条件での戦いはいかに相手の力を削ぎ、自分の力を発揮できる状況が作れるか、これで決まると言っても良い場合がある。
 それはアイリスにとって常套と言える手段だが、今回に限っては彼に有利な地上戦で戦おうと考えていた。
 ただそれは、無謀とも思える…否、不可能と断定出来る願いを、そうと知りつつ叶えようとして必死な彼に対する、侮辱だろう。

 だがしかし、全力で向かってくる相手には対等な条件で全力を出し、相手が命をかけるならこちらも命をかける。

 そしてなにより、どんな技術にも必ず欠点があり、それに頼りすぎるのは自滅を招く(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)事を悟らせる為に。

 今のアイリスはそのくらいの強い対抗心と、強い気持ちでジークにぶつかっていたのだ。
 そうした覚悟と、幾重にも用意した周到な準備を経て…狼を捕縛するための罠を完成させたのだった。

 

 ジークが(それ)に気付いたのは、総ての準備が終わった後…すでに回避不可な状況にまで追い込まれた後だった。
 赤い閃光による目隠しが拭い去られた後、ジークの目に映ったのは、自分の周囲を覆うように射出されていた赤い閃光…LMGの弾光の軌跡だった。
 しかも神速中という事もあり、その紅い軌跡はまるでシンザンが放つバイオゼリーのように動きが遅く、その進む先はHM神速が解除される瞬間、通過する場所付近だ。

「な…!」

 前述したが、HM神速というものは発動時間が短いという事もあり、基本的に一定方向に動き始めたら、いくつかの例外を除き…その方向にしか進めない。
 そして、HMという特性上、一旦発動したら途中での解除は武器を壊されるか手放す以外、不可能である。
 しかし、HMを途中解除すれば、PFはOSの再設定(BURM調整)で最低数秒、行動不能になる。
 それはジークにとって最悪な、そしてアイリスにとって最良の機会になる。

「くっ!」

 広域乱射攻撃をかけたのは…周囲に拡散する事でジークの動きを限定させる格子を作り…そしてこの包囲攻撃を隠す為。
 ギリギリの間合いまで接近を許させたのは、こちらがどう動くかを決定付ける為であり、罠を張るポイントを確定させる為の布石。
 その集大成とも言えるこの赤い光の奔流は、さながら魚の進路上に狙いをつけて張り巡らす定置網のようにジークを待ち構え、その中心に誘うかのように集まっている。

 遠めに見るなら、この光景は美しいと感じるものかもしれない。
 しかし、実際にここに突っ込むジークにして見れば、あれは戦慄と恐怖を生むもの以外の何物でもない。

 その美しくも恐ろしい光景を見ながら、頭の中で瞬時にアイリスの狙いを悟ったジークだが……すでに進路変更不可の状態に置かれていたため、選択の余地がなかった。

 つまり、網のように張り巡らされた赤い光弾に突っ込んで行く事だけ……完全に裏を掻かれた事に自分の深慮の無さを感じながらしかし、前に進むしかないのである。


 誰しもこの一瞬、この状況を目の当たりにすれば、終わった、そう思うだろう。
 諦めの悪さと負け惜しみが人一倍強いジークとて、一瞬そう思ってしまうほどに。

 しかし

…無理? 俺ならそう思うまえに、一歩、踏み出しているな…それから確かめるさ。

 幾百と仕合、幾千と語り合い、幾万と刀を交え合った、兄とも友とも呼べる漢の何気ない…そう、ただ何気なく呟いた台詞が、力を抜きかけた四肢に火を付ける。

負けというのは、争いに敗れる事じゃない…自分の信念が折れる事、屈する事を指すの

 ある時には上から、また別のある時には横から手を差し伸べてくれた…差し伸べられる位置にいてくれた、姉とも師とも呼べる女性の助言が、折れかけていた決意を支える。


「…っ!!」

 その「声」に背中を押されるように殆ど無意識に近い行動で、ジークは是空を地面に突き刺し制動をかける。
 もちろん理論上は音速を軽く超えている速度で移動しているのだから、この程度では全く止まらない。

「はっ!!」

 ジークもその位は承知しているのだろう、一瞬の迷いもなく是空を両手で握ると、そのまま振り抜くっ!
 地面に突き刺したまま疾走し一気に振り抜いた是空は、音速の衝撃波と共に大量の土砂を巻き上げジークの前方…赤い網へと急襲し、ほんの僅かな…刹那的時間差を置いて、ジークのオニも土砂と赤い光が交差する場所へと突っ込んで行ったのだった。


 

 …激しい光と土砂でオニがどうなったか不明だが…アイリスはこれで決まったと思ったのだろう、間合いの中に近寄りこそしないが、サイクロンショットを全て戻し、その歩みをゆっくりとしたものに変える。

『…生きてる?』

 そしていままで一言も喋らなかった(互いに神速状態になってないと、喋っても何を言っているのか分からない状態なので仕様がないといえば仕方がない)アイリスは高帯域通信でジークに問いかける。

「……問題ない」

 正直な所、殆ど気を失いかけていたジークだったが、アイリスの声に触発されて正気に戻ったなどとは言えず、機体を立ち上がらせると、機体状態を確認する。
 程なく、土砂の煙が晴れる……と、オニの外見がだいぶはっきり見えてくる。

『……?』

 その姿にやや訝しげ…信じられないという驚きを少し混ぜたような表情をするアイリス。
 オニの装甲はやや焼け焦げていたり塗料が剥げ落ちていたり…融解している部分こそあるものの、外見だけを見ればいずれも致命傷とは言えない物ばかりだったからだ。
 これは神速が解除された瞬間にサイクロンショットの直撃を受けたにしては、損傷が少なすぎる。

『………どういう手を使ったか、聞いても良いかしら?』

 ジークはどう話そうか迷ったが…

「…知らん」

 自分でもどう説明して良いか分からなかったし、戦いの最中に仕掛けを話すのもナンセンスだと思い、誤魔化した。

『……そう』

 しかし、アイリスもジークの一連の動作から何をしたのか、大体の想像は付いているのだろう、少し頷くだけでそれ以上聞こうとはしなかった。
 その代わりではないのだろうが、一呼吸を待った後戦闘を開始した両名。

 しかし、まったく無傷のホライゾンに対し、オニの損傷は見た目以上に深刻だった。
 さっきの無茶な制動で突入のタイミングをずらし、砂煙でレーザーの威力を減衰させてみたものの、やはり五体満足で済むものではなかった。
 特に下半身の損傷が深刻だった。よくよく見てみれば、外部装甲には細かい亀裂が幾筋も入っており、それは内部フレームにまで延びていた。

(くそ…左足が思ったように動かん…!)

 そしてやはり先程の無理な急制動によるダメージがあるのだろう。
 左足駆動系の反応が極端に悪い。そして、全身の関節や駆動系から今まで聞いたことも無いような異音が出ていた。
 このままでは動き続けるだけで機体は消耗し、いずれは動けなくなるだろう。
 玉砕覚悟で突っ込むという手が無いわけでもないが、彼女にああいう手法があると分かった以上、今の状態では接近する前に今度こそやられてしまう。

「…なにか、無いか……!?」

 相変わらずの赤い豪雨の中、今の状況を打開する手段が無いかと、周囲を見回すジーク。
 しかし、砂丘と草原が広がるこの場所には、遮蔽物となる大きな森や大岩は殆ど無い。
 あるのは、PFの胸程度しか隠せない小さい森と、PF数機がギリギリ隠れられるような小さい岩石しかなかった。

 並のPFならこれでも多少はましなのだろうが、サイクロンショットを持ったホライゾンでは、盾の効果にもなりはしない。

「…だめか!」

 ならば一か八か…と一瞬思ったジークだが、ここでふと疑問に思った。

(…なぜアイリスは、神速の動きを見切れた?)

 これが分からなければ、先程と同じ目にあう…そう思ったジークは、神域状態で考えてみる。
 ジークとて神速状態の動きが、レーダーや動態センサーに捉えられない事は承知している。

 神域が使えるアイリスなら、その動き自体は見切れるだろう。
 しかし、神速に入るタイミングや解除のタイミングまで察知できるとは思えない。
 だが、少なくてもあの攻撃は「こちらが神速に入るタイミング」か「神速一回で移動できる距離」が分からないと、不可能だ。

(何か、新しいシステムを積んでいる……それとも別の……?)

 そんな事を考えて動きが単調になったのか、LMGかサイクロンショットが今までよりも正確にオニの移動を妨げてくる。

「…ぉのっ!」

 その攻撃を是空の鞘で凌ぎ、距離をとるため全力疾走―――

「…ガッ…!?」

 ―――全力疾走した瞬間、左足がその動きに耐えかね、まるで折れたかのような異音を上げる。
 そしてバランスを崩したオニはそのまま倒れ―――――

「まだだっ!!」

 ―――是空の鞘を今度は松葉杖か棒高跳びの棒のように使って空を体操選手のように飛ぶ事で、赤い閃光の攻撃を回避しながら、体勢を危うく立て直した。

「…くぅっ!」

 変に勢いを付けた事で重圧がかかって肺が軋み一瞬意識が飛びかけたが、着地の衝撃で気を持ち直すジーク。

 そして再び走り始めるが、問題の左足は………悲鳴を上げつつも何とか反応している。

(くそ…何とか対策を立てないと、もう保たないか!)

 そして、手にしていた鞘を腰に戻そうとして…一瞬何かが頭をよぎった。

(…是空…銘の由来はおそらく『色即是空』……古代宗教の教えの一つで『総てのものはただそこに在る訳ではなく、因縁があって存在している』…つまり、『総ての存在はそれを使う者の意図や思惑で意味を変える』……!)

 鞘にして盾であり、時には折れた剣の代わりとしても機能する、万能なる鞘。

 それはこの剣の製作者がそれを意図して造ったからだが、先程のジークのように支えとしても使えるようにとは、造っていないだろう。

 馬鹿と鋏は使い様と言うが、それは何もそれだけに限った事ではないという事である。

 そういう考えに思い至った瞬間、脳裏にアイリスがサイクロンショットを、自分の周囲を囲うように(・・・・・・・・・・・)一定間隔を空けて展開した光景が映る。

「この剣を造った刀匠は助言をするのが好きなようだな……!」

 今にも倒れてしまいそうな状況なのに、ニヤリと笑うジーク。

「…玉砕に出る前にひとつ、試してみるか…!」

 何か閃いたのか、ジークは進路を急転換すると、先程視界に入った小さい岩山へ向かい始めたのだった。

 

 当然だが、その動きはアイリスも察知した。

「……距離をとった…いえ、あの岩山へ…?」

 彼女もジークが玉砕覚悟で突っ込んでくると思っていたのだろう、いざと言う時のためにサイクロンショット4基を残していた状態でジークを攻撃していたのだが、予想に反した行動をとったジークに一瞬、緊迫した空気が抜ける。

(あのくらいの遮蔽物でサイクロンショットを防げるとでも……?)

 それとも何か考えでもあるのか…と思ったが、念のために一旦サイクロンショットを戻す事を選択したアイリスは、再充電の後再び8基を射出し、ジークを岩山ごと包囲するように展開操作する。

(どんな企みかは知らないけど…誘いに乗ってあげるわ)

 この彼女らしい慎重な選択と…自らが持つ技術に対しての自信と自負、そしてもう勝負は決まったという余裕と油断から出た…ある意味もっとも彼女らしからぬ行動が、彼女の犯した最大のミスであった。

 

 アイリスが一瞬呆けて、再充電のタイミングが遅れた事もあり、何とかこれ以上ダメージを受けずに岩山まで到達したジークは、とりあえず影に隠れる。

 そしてその後を追ってアイリスのホライゾンとサイクロンショットがこちらを包囲するように向かってくるのをレーダーで確認したジークは、大きく深呼吸をして拳を叩く。

「…保って、くれよ…!」

 その呼びかけに応じるように、オニは是空を鞘に収め、独特な構えを取る。
 オニが見る、視線の先…目の前には、問題の岩山がある。

 PFサイズから見てもやや大きいそれを、しかし……


「絶無明閃光斬!!」


 …いつか見た大技で、いとも容易く岩石を小間切りにし、剣閃で生じた強烈な竜巻と真空波すら伴った突風は、小間切りにした岩をさらに削岩していく。
 そして周囲に発生した竜巻と突風は、進路上全ての岩と土砂を巻き込む砂津波となってアイリスらに襲い掛かったのだった。

 

 辺り総てをなぎ払うかのような衝撃をまともに受けて、多少なりとは言え吹き飛ばされてしまったアイリスは、大いに焦っていた。

(そうか、これがあった…!)

 それはジークが放った技「絶無明閃光斬」により、12基あったサイクロンショット…その大半が破壊…もしくは飛行不能にされたからだ。
 何基かは地面に埋もれただけで復帰可能だったが、操作圏外まで飛ばされた為、こちらから近寄らなければ使えない。
 そして、そんな事をしている余裕は無い…もし一瞬でも注意を逸らせば、その瞬間負けるかもしれない。
 神速状態の移動は、レーダーですら捕捉不可能なのだ。
 それを補うための小細工…サイクロンショットのレーダー代用化はもう使えない。
 今は目視と気配察知だけが、神速発動の回避タイミングを察知する手段だった。

 しかし、彼が放った技の余波で砂煙が発生し、その目視と気配察知すら困難にさせている。

 やはりここは一旦後方に退くべきか、そして吹き飛ばされたがまだ使えるサイクロンショットを再起動させる。

 など、様々な想いがアイリスの中で駆け巡った。

「………」

 一瞬レーダー表示を見ると、オニは急速にこちらに向かって接近中なのが分かった。
 もう時間が無い、何か対策を立てないと――――

「……フフ……」

 ―――しかし、何を今さらという、自嘲をこめた微笑を浮かべたアイリス。


 自分で望んで、ギリギリの勝負になると承知で、この勝負を挑んだのである。
 しかもこの事態は自分の油断もあったとは言え、予測される事態でもあった。
 予測された事態の中でも最悪のケースになったのは痛いが、すでに予測していた窮地に追い込まれた程度で、取り乱してどうするというのだろう。
 この程度のものなら、彼は何度も経験しているだろうに。

 そう思うと、先程まであれこれ考えていた自分が何だか馬鹿らしく思えてきた。
 全力には全力で、命を賭けるならこちらも、と決めたはずなのに。

(……次で、決着をつける)

 そう覚悟したアイリスはその場でLMGと残していたサイクロンショット4基を構え、煙の向うから現れるだろうオニに狙いをつける。

(………見えた!)

 砂煙の境目、自分と彼を分ける境に現れた黒い影を捉え、アイリスはLMGのトリガーを引き絞ぼり、サイクロンショットを一斉に発射させた。

 

 その砂嵐の中、ジークのオニは一直線に向かって疾走していた。
 向かう先にはおそらく臨戦態勢で待ち構えているアイリスのホライゾンがいる。
 いくら砂煙でLMGやサイクロンショットの威力を減衰させているとは言え、このまま素直に突っ込んでも接近できる前に落とされるのは、間違いない。

(……勝負は一瞬……)

 しかし、それでも進む歩を落とさず、オニは是空の剣と鞘を手に持ちながら、タイミングを計るように移動する。

 そして徐々に視界が開けてくる。

 ジークは左手に力を入れると、是空の鞘を力一杯に前に振った。



 

 アイリスは煙の中に黒い影が見えた瞬間、迷わずLMGとサイクロンショットを発射させた。
 前述したとおり、神速の動きを確認してから動いては、遅すぎるからだった。
 この選択は、おそらく正しい。

 だが、それは…目標がそうすると理解していない場合(・・・・・・・・・・・・・・・・・)である。
 そして、武器の選択も、間違いだったかもしれない。
 LMGの閃光が視界を遮る効果があるのは、LMGで攻撃された人間なら誰でも知っている事だろう。
 しかし、それを逆に言うなら…撃った方の視界も同時に遮られている事(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を意味していないだろうか?

「!!」

 アイリスがそれを悟ったのは、一斉射を行った後、神域に入って間も無くだった。
 あの黒い影は囮だった。

 ジークは煙から出る直前、是空の鞘を投げ付けていたのだ。

 そうして囮に気を向けていたその先に、ジークのオニが飛び出してきた。
 この時、アイリスが総ての武器を使用していなければ、次の瞬間勝負は決まっていたかもしれない。
 しかし、総ての武器を使用していたアイリスがジークに狙いを変えるのには、ほんの僅か…コンマ数秒の時間を必要としていた。

 だが…神速使いたるジークには、それで十分すぎる時間だった。

 

 もはや賭けに近かった狙いが当たり、アイリスに隙を作らせたジークは、残る力をすべて注ぐかのように神速を使う。
 しかし、無理な稼動と満足な状態でも機体への負荷が大きい技のおかげで、オニの駆動系は既に限界を超えていた。
 一歩踏み出すごとに回路を焼き、骨格フレームが軋み、装甲がひび割れていく。
 その痛みを噛み締めるかのようにジェネレーターが大きく唸りを上げて機体を一歩でも前に進ませようと力を生み出す。

 そして、ジークは満身創痍ながらもようやく、完全な形でアイリスのホライゾンを眼前に捕らえた。

『っ!』

 アイリスが短い悲鳴を上げながら構えようとしているが、もう遅い。
 このタイミングと間合いなら、たとえ神速を使われようとも、回避不可能…ジークはそう確信した。


「これで、決まりだっ!」


 オニの右手が大きく右後ろに振られ、その手に持つ必殺の一撃…銀の輝きを放つ大剣「是空」が寸分の狂いも無くホライゾンの腰へと吸い込まれていく………


 そして、黄金の巨石を金の鎚で叩いたかのような、激しくも甲高い音が鳴り響いた。











 

 ………第6話に続く………



 



 あとがき

 …え〜お待たせして(?)申し訳ありません(謝)
 やっと、満足する内容で仕上げることが出来ました。
 このシーンを考えるに当たり、さんざん試行錯誤を繰り返し、各方面からアイディア提供をお願いし、さらなる修正や設定を考察していたら、いつの間にやらかなりの時間を空けてしまいました(死)

 では、また次回何時になるか分かりませんが、気長にお待ち下さい。




 

 設定
 アイリスの戦闘方法について補足

 1 PFの高速歩行技術
 正式な名称がない(彼女にとっては既に当たり前の技術なので名前をあえて付けていない)のでこのような表現で説明しているが、作中での説明通り、ブースターとスラスターで適度な浮力を発生させ、脚部に掛かる機体重量を軽くする事で、通常では考えられない機動性を発揮する技術である。
 ここで問題になってくるのは、「何故アイリスが『適度な浮力』を維持する事が出来るのか?」だが、それは彼女がPF操縦前から使えていたと言う、「神域」によって可能としていたのである。
 神域とは、人間の視覚…いや、五感の感度や神経伝達速度が最高に高まり、通常では認識できないもの…見逃してしまうものを、認知する能力の事である。
 例えるなら、格闘技などで「相手の動きが止まって見える」と表現したり、「喧騒とした場所で針が落ちる音が聞こえた」というような状態が似ているだろうか?
 実際は、そんな状態とは比べ物にならないほどの情報量を獲得できる技術である…故に人間では1秒前後しか維持できないのであるが…彼女はそれを使って、「最高の動きが可能」な浮力を導き出していたのだ。

 そして彼女は訓練により、神域無しで「最高の浮力」を発生させる事も可能としていた。
 人間が認知できない…認知が難しい事を行なう時…それは普通、長年の経験…それこそ何年、何十年という時間をかけ、その膨大な経験で得られる「直感」によって、可能としていた。
 弦の音だけで楽器の調律を正確に行なえる奏者…もしくはほんの一口でワインの識別ばかりか、年代や産地まで区別できるソムリエや、頭のイメージだけで経過した時間や手にした物の重量を正確に割り出せる人間…がそれに当たるだろうか?
 そんな職人芸並の技術を短時間で身につけるのは、並大抵の苦労ではなかっただろう…例え神域で「最高の浮力」が得られる、具体的な数値や感覚を、実感として理解していたとしても…である。 

 そこから推察しても、彼女の才能の高さと常に努力を怠らない直向な性格が分かる。


 2 サイクロンショット応用術
 元来自律攻撃兵器であるサイクロンショットは索敵機能と照準システム、動態センサーを独立した形で搭載しているが、これを利用する事で様々な応用が利くのである。
 アイリスが用いたのは、複数のサイクロンショット反応動作タイムラグ、動作または反応した時の照準の距離と方向から相手の位置や動きを調べるという、いわばGPSを使って自分がいる場所を調べるのと同じ理屈を用いていると言っても良いだろう。
 このやり方を利用すれば、万一自機のレーダーが壊れても索敵可能であり、例え濃霧の中だろうとレーダーが通用しない戦場であっても索敵を行う事が可能であるらしい。

 この技術を応用して、本来レーダーにも動態センサーにも反応らしい反応は出ない神速中の動きを、アイリスは神速解除から再突入までのわずかな時間(約0.2秒弱)でオニの位置を捕捉し、出現位置を予測するという離れ業をやってのけている。




 


 管理人より

 ヨニカさんより第5話をご投稿頂きました!!

 ちょうど良いところで切れてますね……ううむ、気になります。

 しかし、オニを入手した理由はそういうことでしたか〜。
 


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