……BTおまけシナリオ(本編21話)から数日後……


 すでに初夏を迎えたこの時期、照り付けるような暑い日差しが窓から差し込む中、整備端末を操作していたのは、ジークにオニを持ってきたあの大尉である。

「…こんなものか?」

 モニターの数値を確認し、軽く頷く大尉は少し離れた場所で待っていた男…ジークの方に視線を送る。

「終わったぞ、少尉」
「ありがとうございます」

 ジークは大尉に歩み寄ると、敬礼をしながら礼を述べた。
 ここは第二ギラ・ドゥロ補給基地の格納庫内である。
 何故かジークはこの大尉に大破したオニの補修とカスタマイズを受けていた。
 ちなみに、アイリス達「赤の小隊」の面々もこの基地で補修と改修を受けていたが、数日前に整備を終え出発しており、ここにはいない。

「好きに使えとは言ったが、その日のうちにスクラップにするとは、驚きだったぞ」
「恐れ入ります」

 システムチェックを終えた大尉がジークに向き直る。
 ジークもジークで機体補修に関して感謝しているものの、機体を損壊した事については反省している様子は無い。

「…まぁ、いい。このような機会はなかなか巡り合わないのだから、整備士としては望外の極みとも言える」

 意外にもジークの態度に怒る事無く、大尉は整備端末を閉じると機体を見上げる。
 前と同じく黒を基本色としている機体であるが、今回はカラーリングを若干変更しており、金や白を所々に配色されている。
 このカラーリングは、ジークのパーソナルカラーである。
 つまり、グリュウ大尉専用機としてチューンされたオニは、今この時点で初めて、ジークの乗機である『黒狼』として正式に生まれ変わった事を意味していた。

「注文をつけていた能力は全て付けた、後はマニュアルを熟読し実践で学べ」

 少し寝不足気味な表情で電話帳ほどもある分厚いマニュアルを渡す大尉。
 それを受け取ったジークはマニュアルを脇に抱えて敬礼を返す。

「さて、私も別件で一仕事あるから戻るが、何か聞きたい事、言いたい事はあるか、少尉? 遠慮なら無用だ」
「は、それでは一つ、伝言を頼め…ゴホッ…ますか?」
「ふむ?」
「…中佐殿に感謝を、とお伝えください」

 ジークは流派独特の謝辞を示す動作をしながらそう伝えると、大尉は苦笑を漏らす。
 大尉の反応を見て、馴染みとしか意味が伝わらない事をしたと謝るジーク。

「…いやこちらが失礼をした、そう伝えた中佐の表情を思い浮かべたものでな」

 しかし、それは勘違いであると説明し、逆にジークに謝る大尉。

「…私見でものを言わせて貰うが、おそらく中佐が今の言葉を聞けば、こう返すだろう…『感謝されるようなことは何一つしていない、むしろこちらが謝辞と感謝を述べたいくらいだ』とな」
「……?」

 無表情だった大尉が、ジークに初めて含み笑いを見せながらそう言うが、その言葉の意味するところを測りかねるジーク。
 そんなジークの反応を見ながら端末を片付けた大尉は最後に、

「…例え半ば押し付けられる形だろうが、この機体を託された以上、かの大尉の名を汚すような事はするなよ、少尉」

 そう言いながらジークの肩を叩きつつ、格納庫を出て行った。

「……」

 ジークはしばし、腰に下げられた刀と生まれ変わったオニ…黒狼を交互に見ると、大尉を最敬礼で見送った。
 かくして、ジークはまたひとつ、あるいはふたつ、背負うものが増えたのであった。






 

機甲兵団Jフェニックス 外伝 狼と鷲、漆黒と蒼穹の出会い

第6話






 

 ジークが新しい機体を手に入れて決意を新たにし…心も晴れやかになっている頃、アルサレアの作戦参謀本部にある会議室では今まさに、心身ともに混迷を極めていた。

 史上最年少…もしくは史上最強とも言われる若き将軍が無事に救助された事で、いままで滞っていた今作戦…アルサレア要塞戦の総括的会議が再開されていたからだ。
 なお、その若き将軍は念のための検査入院となっているが、今日の午後には退院し、その後は自室療養の予定である。

 しかし、総括的会議…と言えばまだ聞こえは良いが、要は各部隊の戦果と活躍を照らし合わせて、賞罰の程度や叙勲・昇進の有無を話し合う場である。
 そんな会議を最も活躍した人物の一人である、若き将軍不在の状態で行うのはどうかという声もあったが、彼の性格を考えれば退院直後から職務に戻ろうと考えるのは必至なので、面倒事…心労が溜まりそうな事は早めにやっておこうという配慮がされたようだ。


 そういった中…各隊が順番に自分らが如何に奮闘したかを説明して来た中で、一際大きい声で喋っているのは、ディンゴ=エルドラン中佐だった。

「我が隊が犠牲を恐れずに奮闘したからこそ、この戦いに勝つ事が出来たのだ!!」

 …少々見苦しいのでディンゴの言っていることを簡単に説明すると……彼の大隊、厳密には直属の部下が率いていた傭兵部隊が、ジークとアイリスを相手に戦ったからこそ、上手く時間稼ぎが出来てグリュウとの合流が間に合わず、戦線を辛うじて維持できた……と主張したのだ。

 …たしかに、赤の小隊が戦線を分断・後方支援を行い、そこへグリュウとジークが先陣に立ち…その後にキシン部隊等を送り込んだとしたらどうだろう?
 単純な戦力比で考えるなら、かつてグレン将軍直轄の特務小隊としてその名を轟かせた若き将軍の部隊が万全な状態で相手をしたとしても、グリュウとジークの相手(足止め)に手一杯で、要塞を目指していたキシン部隊や赤の小隊の相手までしていられないだろう事は、ある程度彼らの実力を把握していれば容易に想像できる事態である。

「…しかし中佐…たった2機を足止めするために、犠牲となったのが100機とは…」
「では逆にお聞きする…あの剣狼相手に、いままで幾百の犠牲があったか貴官は理解しているのか!? そしてあまり有名ではないが、蒼紅の鷲…こちらも一説では剣狼…黒夜叉とも互角に渡り合える実力の持ち主とか…そんな化け物連中を相手に、どこまで犠牲を抑えて戦えるのかを!?」
「…む…」

 そう切り返されると、言葉に詰まる一同。
 しかし、彼らの性格や事情をよく知る者がいるならば、「グリュウは将軍と1対1の正々堂々とした雌雄を望んでおり、ジークはそういった戦いにはよほどの事情が無い限り介入しないだろう」という展開になるのは、それこそ容易に想像できる。
 もし仮にそうならなかったとしても、あれほど目立つ部隊と人物が一堂に会した戦闘が派手にならないはずが無く、そうなれば要塞でも事態を素早く察知し、増援を送るなどの手の打ち様がいくらでも出来たはずである。
 それにそもそも、ジークとアイリスがグリュウの所に向かったのは、偶然が重なった事による結果にすぎない…むしろ、ディンゴの指揮下にあった傭兵部隊がきっかけになった、とも言える。

「それにだ、我が隊が犠牲になったのは、所属不明機のヘルファイア自爆による巻き添えが原因なのだ」
「…その所属不明機とは?」
「現在調査中だが…問題の剣狼と蒼紅の鷲が無事に脱出している点から、ヴァリムの特務小隊ではないかと考えている」

 そう説明しつつ、ディンゴは生き残りの隊員(アカネ)が撮影したとされる、まるでかつてサーリットンに出来た地平…それに良く似た状況の写真を見せる。

「これは!?」
「まさか…!?」

 ドヨドヨと騒ぎ出す一同だが、ディンゴはあらかじめ決めていたようにもう一枚写真を出す。

 やや不鮮明だがヴァリム製に近いフォルムを持った紫色の機体写真だ。
 …言うまでもなく、テミストを始めとした彼直属の特務小隊が使っていた機体である……どうやら、この為にテミスト達にこの機体を与えていたようだ。

「…私もこの写真を見るまでは、正直あの男の仕業かと思ったほどですがな…同時に確信しましたよ…ヴィクティム中将閣下は正しかったと!」

 一瞬声を止めると、我慢しきれなくなったかのように手で顔を隠すディンゴ。
 その影からは、うっすらと涙が見えた。

「…中将閣下は『悪夢の戦略家』と呼ばれた通り、一見して人道的でない手法も数多く試みてきた…それは事実です…しかし! それは常々戦争で失われる命を気に掛けておられたからなのです! 敵陣のど真ん中でヘルファイアを使うような真似をすれば、いつか同じ手段で報復される…それを常々心配されていたのです!!」
「……むう……」

 少しわざとらしかったが、暗にケイオウの事を指しながら、彼に親交深かった将官や佐官を挑発、牽制するディンゴ。

 ヴィクティム中将…当時准将が、ケイオウ特尉を抹殺しようとして、無茶苦茶な任務をやらせていたのでは…という事は、アルサレア上層部でもよく知られていたが……そういう真意まではさすがに知らなかったらしい…少し顔を厳しくさせる。

 ケイオウの数多い信望者の中で、もっとも地位の高い人物の一人とされる…ロワナー中将も反論したい所だったが、故人を持ち出された上に、ここでケイオウを弁護する発言を言えば、後々面倒な事態になるので、指が手に食い込まんばかりに握り締めて我慢する。

 ヴィクティム中将がすでに故人なので真意を問う事も出来ず、ケイオウは表面上、英雄扱いされていたが、実際はSSSクラスの犯罪者として今もその行方を追われているからだった。

 …結局その後も審議を煙に撒こうとしたディンゴの演説じみた説明が延々と続き……

 

「ふはははっ全てはシナリオどおりっ!」

 ディンゴは自らの執務室で、手の裏に隠していた目薬を外しつつ、書類を団扇代わりにして、ふんぞり返っていた。
 ちなみに団扇代わりにしていたのは、准将の認印が押された作戦概要書だ。
 
 …先ほどの演劇じみたわざとらしい演説も、かつてヴィクティム中将が書いたものを流用したらしい。

 剣狼…ジークやアイリス、グリュウの共闘云々については確証のない結果論に過ぎず…またヘルファイアによる自爆攻撃も、これがあの事件以降初めての事であるので、これがヴァリムの報復と考えるのは早計である…と、判断されたものの……ディンゴは満足していた。

 確かに味方の犠牲は大きかったが、補給基地2つ…PF撃破数も合計で200機前後という功績…補給基地から拿捕した物資や、損失を補填するに足る多額の寄付金を提供した事により、1階級昇進…大佐になる事がほぼ決定したからだった。
 正式な辞令はしばらく後…少なくても戦果の最終的な裁定が決まった後になるので、まだ内定であるのだが。

「ふっふふ…」

 なにやら変な笑顔で近くに備えてあったジュースを飲むディンゴだが、味が気に入らなかったのか、冷蔵庫の中をもう一度探し…そこで少し顔を険しくする。

「…やはり、大佐たる者、こんな手間程度に自分で動くものではないな! …私の言う事を素直に聞いて、従順な秘書か誰かを付ける事にするか!!」

 …などと考えるディンゴは…後に理想と言えそうな…そうでないような人材を見つけるのだが…それはまた別の話になる。



 

 また一方のヴァリムでは……



 

(…必要性がある案件の一つであると思われる……なお測定用として譲渡した機体のデータ(・・・・・・・・・・・・・・・)および旧搭乗機を改めて解析すると、機体稼動前後と機械稼動中のBURM設定データに差異が見られる事から、何らかのオーバーテクノロジーを用いて装置を小型化している可能性も現段階では否定できない為、当該人物には引き続き監視…必要とあれば拘束も行い、持物を調べる事も………)

 窓の外からはそろそろ太陽が地平線の彼方へ沈もうとしているのか、やや赤みかかった陽の光が照明代わりとなって照らしていた。
 そんな中一人の男が、士官学校の一室で難しい顔をしながら何かの文書をまとめていた。

「…う〜ん、これ以上憶測で書くのはやめておくか……」

 ため息を吐いた男は「…なお〜」以降の文面を消して一部内容を修正すると、文書を印刷する。

「…さっき大尉から送ってもらったデータ、検証結果を追加すると……ふむ…まだ校正する点もあるが……とりあえず…こんなものかな?」

 …印刷した文章にざっと目を通すと…椅子に深く腰掛け、休憩する。

「……ふぅ〜…戦場から戻った直後に、今度は士官学校で講義とは…相変わらず人使いが荒いですね…閣下も……」

 一言愚痴を漏らして飲み物を口に運ぶと、ふと思い出したかのように端末を操作する。

(……保安システムにアクセス……音声回線カット……)

 ……文書精査のどさくさに紛れてなにか、とんでもないことをしているようだが……(汗)

 そして、おもむろに携帯電話らしき物を取り出し、スイッチを押す。

「…………あのな…いきなりって言うがもう夕方だぞ? ……ん、そうか…そっちは……いやすまない。……こちらは今回の任務報告書を書くついでに、先任として技術士官候補生相手の特講を頼まれ……今終わったところ……」

 どうやら知り合いに電話しているようだが……?

「…私は……これから報告をまとめるから、早ければ明後日、遅くても週末になる………そうか、上手く都合が合えば、港で合流できそうだな………ああ……あぁ……」

 そんな聞き様によっては世間話とも思われる話をしていると、来客を告げるチャイムが鳴った。

「…っと、誰か来た様だ…あぁ、楽しみにしてるよ」

 そして電話を終わらせると、入り口付近を映したモニター兼スピーカーマイクを操作する。

「……ん…?」

 映っていたのは、まだ幼さも残る初々しい女性だった。
 ……服装から察するに、この士官学校の生徒だと思われるが…?

(…確か…さっきの講義で積極的に質問をしてきた……?)

 見覚えのある顔にふと、そんな事を思った男は、部屋のドアを開けて招き入れる。

「…なにか、用ですか? …認証番号06…いや…ハヅキ候補生?」
「失礼しまっす!」

 先程にはなかった、柔らかい口調と笑顔で話しかける男に、ハヅキと呼ばれた女性は敬礼をして入室する。

「…実は、えーと……さっきの講義でぜひ聞きてぇ…聞きたい事が」
「…長引くようなら、ちょっとまってくれないかな?」
「は?」

 なにやらモゴモゴして話す女性に、男は苦笑しながら端末を操作する。

「…(設定を元に戻して)…これでよし…っと、いや話の途中ですまなかった。こちらもレポートを作成中だったものでね」
「い、いえ」
「…あとは…無理に敬語、使わなくてもいいぞ?」
「え?」
「なにか、無理して敬語を使っている雰囲気だったからね」

 そう言われて、すこし目を丸くして驚くハヅキだが、安堵するように息を吐く。

「いやぁ、助かったぁ〜…正直、こういう雰囲気、苦手なもんでね」

 男同様に、先程までとは全然正反対な口調と態度で接するハヅキ。

「んじゃさ、さっそくで何だけど…さっき話してた『規格外BURM』って奴を、もう少し詳しく教えてもらえねぇかな?」
「…ふむ……言っておくが、難しいぞ?」
「ふっ、望む所!」

 ハヅキは任官前の士官候補生という身分で、中佐の階級章を付けた男に対し、挑発とも取れそうな不敵な笑みを浮かべる。
 本来ならその場で殴り倒されても文句をいえない態度だったが…男の方も苦笑とも冷笑とも取れる微笑を浮かべると、手元のある、作成中の資料に目が留まる。

(…そうか…これも言ってみれば、『規格外』なのだろうな……)


 などと意味深な事を考えつつ、講義の為に用意した自分用の資料をハヅキに手渡すのだった。







 

 ……アルサレア戦役が終わり、半年以上が経過したある日……

 アルサレア戦役…その中でも要塞戦での功績で、ジークは中尉となっていた。
 本来なら昇格だけでなく勲章や報償も与えられるのだが…今回は敗戦の事後処理もあって手続きが遅れに遅れた事と、ジーク自らたっての希望で期間は短かったが、連続休暇が今頃になって与えられる事となった。
 そして、その休暇でジークが何をしたかといえば……何故か旅人のふりをして、アルサレア領にある…とある町を訪れていた。
 幸い、ここはジークのような人間に寛容な町であり、またヴァリムとの国境からもそう離れてはいない辺境なので彼の顔を知る人間はいないようだ。


 ここはかつて、ジークとシリウスが最後に仕合をした地…つまり、シリウスとジークが共闘した最後の場所……その山地の麓に出来た町である。
 まだ数年の時しか経っていないので、立派な建築物があるわけではない、そして決して大きい町でもないが…ここには活気があった。

 ジークはこの町で水と食糧を買うと、山の頂上目指して進む。
 山道を1時間ほど歩いて到着した山頂は記念公園として整備されており、その中心には石碑が建てられていた。
 この石碑はこの地で散った若者達を称え、供養するために建てられた慰霊碑であり、グレン将軍の死が発覚した後は、彼が遺した偉業の一つとして管理されているらしい。

 この町も当初は若者達の遺族が集まって出来た、小さい集落だった。
 しかし、いつの頃からかヴァリムの支配政策に反対して故郷を棄てた者が、少しでも故郷に近い場所という理由で移り住むようになり……そして、石碑を建てる際にこの地から採れた土や石の質が良いという事が判明した後は、陶匠や彫師が集まり、それがこの集落の産業となった。

 アルサレア戦役後は石碑に纏わる…シリウス最後の戦いに関する…逸話も広まり、剣士や刀匠も足を運び、また記念公園化に伴って、街道や幹線道路の整備が行われた事で、アルサレア・ヴァリム間で交易を行っていた者達の中継基地、取引場所としても機能する、産業都市となったのである。

 そんな町の歴史…わずか数年の間に行われた事柄を事細かに書かれた記念碑を通り過ぎ、公園の中心にある石碑の前に立つジーク。


 この地に眠る全ての勇者に


 その石碑にはそのような…ただそれだけの短い記述があった

(……これを見た者に『後に続く言葉を考えさせる』のを意図していたのだろうな)

 人によって、この石碑に何を願うか…その想いは様々である。
 そして、ここで失った命はアルサレアだけでなく、ヴァリムの人間も数多くいる。
 そういった者分け隔て無く、思想や国という枠に囚われずに、支えとなるように考えた言葉なのだろう。

 そんな事を考えながら、ジークはここに来るまでに聞いたシリウスに関する噂を思い浮かべながら、黙祷をささげた。


 

 そのシリウスに関する噂をジークなりの解釈を交えて再現したのが、こんな内容である。


 ジーク達と別れたシリウスは、それこそ武神の如く戦った。

 柔剛織り交ぜたその戦い方は戦慄を感じると共に美しくもあり…近付く者を次々と切り払いつつも、動きに一切の乱れなく動くその様は、まるで誰もいない場所で剣舞の練習でもしているかのようであった。

「…どうやら、相当厄介なヤツに見込まれたようだ…!」

 言葉とは裏腹に笑みを漏らしながら、機体を操作するシリウスである。
 個人的にはそろそろ撤退を始めたいところなのだが、敵指揮官は巧みな用兵でシリウスの退路を塞いでいるらしい。


 ……そして……


 シリウスは戦いながら、昔を思い出していた。

 あれはいつのことだっただろうか?
 いつかあった場所、かつてあった草原…黄金色に輝く草原と緋色の空の中、3人の人間が対峙していた

 その手に持つは流麗たる形をした草原同様に黄金の輝きを放つ刀。
 その身に宿すは確固たる闘志と充足した高揚感。

 口元に微笑さえ浮かべて、両者は刀を構え…言葉を刀に介して語り合う。


 その宴は、陽が落ちるまで続けられた…そんな漠然としたイメージがシリウスの頭を巡っていた。


 …確か、サクヤにつづき、俺もヴァリムの軍人となり、ジークは他の道場生と修行を続ける(もっとも、俺達の実力が突出しすぎていて、ジークは稽古にならないと愚痴っていたが)生活も幾年が過ぎた…そんな頃だったな。


「おまえは、最後の一撃って状況になると、大降りになる…何度も言わせるな」
「窮鼠猫を噛む…とよく言うけれど、それは猫に油断と隙があればこそ、成立するのだし」
「…分かっている」

 姉兄同然の人間から言い方こそ違えど同じ事を指摘され、ブスッとなるジーク。


 そう、休暇をほぼ同時期にもらえる事になったサクヤと俺は、日程を調整し帰省…久々に3人揃う事が出来たので、バカンスと修行を兼ねて、道場から少し離れた山でキャンプをする事にした、そんな経緯だったはずだ。


「…はっきり言っておくぞ、相手を殺すつもりならともかく、相手を倒すだけのつもりなら…それはいずれ命取りになる……特に1対多数になればな」
「……………」
「まして戦場に出れば、そういう状況は何度でも起こりうる…」
「貴方も軍に入るつもりなら、その癖は直した方がいいわよ…?」


 あの時ジークは『そんな事は分かっている、だがどうすればいい?』そんな事を頭の中で考えていたような、複雑な顔をしながら俺達の指導を受けていた気がする。
 結局その癖は、あいつなりに技のレパートリーを変えたり隙の少ない連続技を考えてみたりしたようだが、軍に入った(俺にスカウトされた)後も直らず――――

 そう思いかけたと同時に、機体が大きく揺れる。
 どうやらかなりいい一撃を喰らったらしい。

「…俺も人の事は言えんか…まして戦いの最中に昔の事を思い出すようではなっ!!」

 これではまるで死にに逝くようではないか、自分でそう思ってしまうと、無性に可笑しくなるシリウスであった。

 …しかし、それが冗談で済まなくなる様な事態はまもなく訪れた。

「ちっ…」

 自分では逃げていたつもりだが、いつの間にか誘い込まれていたらしい。
 四方八方を十重二十重に包囲され、逃げ場を完全に失ったシリウスは立ち止まる。

「…さてどうするか」

 ここまで追い詰められても諦めていないのか、シリウスは陣の隙を見定めるべく、周囲を見渡す。

「……あの機体は…?」

 シリウスの表情にわずかな喜色が浮かんできた。
 斬馬刀を地面に突き刺し、シリウスが操るヌエを見据えていた、Jファーとは明らかに異なる機体を発見したからだ。

「…自ら仲間の盾となり、わが親衛隊100機を打ち倒し勇者よ、名を聞こう」

 その黒と金で彩色された、問題の機体に搭乗していると思われる人物からの静かながらも見下すような物言いに、嬉しそうにしながらもフンと鼻を鳴らすシリウス。

「……あいにく、どこの馬の骨とも知れないヤツに名乗るほど、安い名は持っていないつもりだが?」

 名を聞くならまず先に名乗れ、ある意味お約束な台詞で挑発するシリウス。

「ほう?」
「…貴様っ」

 使い古された挑発には乗らんよ、と言いたげな顔をする相手だが、おそらく部下の一人だろう…我慢出来ずに飛びかかろうとするのを、手で制する。

「構わん…この者は大言を吐く資格がある」
「……はっ……」

 実行で示した行為にはどんな文句も遠吠えになる、そう言いたかったのだろう。
 その事を察したのか、渋々と引き下がる部下に視線を送り、再びシリウスの方を見る。

「……部下共々、礼儀を欠いたようだ。…私はグレン=クラウゼン、アルサレアの軍を統べる者だ」


 グレン=クラウゼン

 敗戦濃厚だった戦いを根底から逆転させた英雄。
 戦場を混迷させ、無用の犠牲を増やした諸悪の根源。

 陣営によって言われ方は様々だがこの名を知らぬものなど、軍に属するものならアルサレアはもとよりヴァリムにも居はしないだろう。


「…なるほど、貴公がそうか。……それは失礼をした」
「構わんよ。貴君とは敵同士…礼儀がどうこうと咎めるつもりは無い」

 互いに冷笑とも苦笑とも思える笑顔を浮かべる二人は、申し合わせていたかのように前に出る。

「わが名はシリウス=ロシュフォート…将軍閣下に一騎打ちを申し込みたいが、返答は如何に?」
「そのつもりでここに来た」
「…了承した…」

 シリウスは感謝するかのように刀を掲げると、独特の構えで向き直る。
 グレン将軍もそれに応じるように構えた。

「…いざ!」
「応!」

 双方の掛け声が始まりの合図となり、激しい戦いが繰り広げられたという……。

 これ以後の戦いは、「グレン将軍が勝利し、シリウスは善戦空しく敗れた」という結果しか伝えられておらず、詳細には語られていない。
 しかし、その戦いにおいて、両者は笑いながら戦ったと言う噂や、それまで毎日のように前線に出て指揮を取っていたグレン将軍が、少なくてもその戦い以後しばらくの間、前線に姿を見せなかった事から、おそらくシリウスは当時「アルサレア最強」…いや、「世界最強」と評しても間違いない人物とPFを相手に、相応の痛手を負わせたのだろう。
 そして、シリウスはこの戦いの中で、自分が目指していた「最強」という称号を追い求めるという行為に、何らかの区切りを付けられたのかもしれない。
 そして…自分自身に納得できる、満足できるだけの何かをその手に掴み――――

(…上を向いたまま、笑って逝けたのだろうな……)

 そう考えながら、色々話したい事があったのだろう、長い黙祷を捧げるジークだった。



 

 石碑への巡礼を終えると、やや急いでヴァリム領内へと戻ったジーク。
 あまりアルサレアに滞在すると面倒な事になりかねない…という事情もあっただろうが、他にも急ぐ理由があった。

 アルサレア要塞戦からほぼ定期的におこなっていた、アイリスと模擬戦をする「約束の日」が迫っていたからだった。

 アルサレア要塞から退却、そしてあの激戦の後同じ基地に収容された二人は、どちらから言い出した訳でもないが、互いが暇で会えるようなら、模擬戦を行なおうと約束していた。

 ジークは、更なる強さと死闘をしてなお決まらなかった勝負を付けるため。
 アイリスは…おそらく、彼との戦いを通じて感得した、更なる飛躍へと進むため。

 もっとも、要塞戦の直後にやったような激戦を行なうと、機体修理に半端でない費用がかかる(公式な訓練ではないので、修理費用などは個人負担なのである)ので、5分の時間制限及び訓練用の装備を付けてのものであったが。


 そして…いつからだろうか…二人が「戦う事」以外の目的で会うようになったのは?

 最初は模擬戦の後、互いの反省検討のために飲食物を食べつつ語り合う程度のものだった。
 それがいつからか、一見すればデートとしか思えないような状態に発展して行き……そして……


 模擬戦を終えたジークは、木陰で休憩をしていた。
 アイリスも腰を降ろして休んではいたものの、最近忙しくてやっていなかったという愛銃の手入れに精を出していた。

「…よし…」

 整備の為に一旦分解した銃を組み立て直し弾丸を装填したアイリスは、ふとジークの方を見る。

 ジークは木に体重を預け、腕を組みながら眼を瞑っていた。アイリスが銃の激鉄を起こしても目を開ける気配はまったく無い。

(……寝ている?)

 最近、アイリスはジークのこうした、普段ならまず他人に見せないだろう光景を目にする事が多くなってきた。

「……ん…」

 アイリスの視線に気が付いたのか、ようやく目を覚ますジーク。

「おはよう…というのは変…かしら?」

 ちなみに今は昼である。

「すまない、どうやら疲れているようだ」
「気にしないで、あれほどの技を放った後ですもの」

 ちらりとアイリスが見た先には、以前ジークが砕いたものより二周り以上大きいだろうと思える岩が真っ二つに裂け、地面にも大きく裂け目が出来ていた。

「…アレは使わない方がよさそうだ」
「…どうして?」
「…威力が大きすぎて加減が出来ない」

 訓練用の模擬刀、しかも空中で放ってあの威力である。もしエクスカリバーを使用し、足場があるところで放てば、どうなるか分かったものではない。

「そして放った後の隙が大きすぎる上、機体はもとより使うパイロットへの負担も大きすぎる」

 かつて生身で放ったサクヤがそうであったように、強すぎる威力を持った技というのは使い手にもそれなりのリスクが生じるモノである。
 この技を放った瞬間、ジークは貧血に近い眩暈とブラックアウトを覚えた。
 そして休憩をしたものの、すぐに眠ってしまうほど疲労するのである。
 加速重圧とIFSによるフィードバックの影響ですらこうなのだから、生身で放てばこの程度では済まないだろう。

「使いこなせない、手に余る技術を戦場で使うのは危険。それを俺に教えたのは、おまえだ」
「あら、そうだった?」

 ジークの問いに笑いを浮かべ、照れを誤魔化すかのように立ち上がる。

「それを言うなら、私も同じよ…あの戦いで自分もどこかでまだ、自惚れていた所があったんだ、貴方はそう教えてくれた」
「…そうなのか…」

 こんな未熟な自分でも教えられる所があったのか、とやや自分の力に自覚が無い、意外そうな表情をするジークであった。



 

 ジークが操るオニは、満身創痍な状態で是空を振る。
 その先にあるのはホライゾン。アイリスが操る機体、ジークが戦って来た中では間違いなく強敵の部類…その中でも五指に入るだろう相手だ。

 その相手に、一瞬の隙を作らせ必殺の一撃を叩き込む攻撃は、その狙いを違える事無くホライゾンの腰へ向かう。

 しかし、そのホライゾンは是空が当たる瞬間…青白く機体を光らせた(・・・・・・・・・・)

 そして、黄金の巨石を金の鎚で叩いたかのような、激しくも甲高い音が鳴り響いた。


 

 是空は確かにホライゾンに当たった。それは間違いない。
 オニの腕を通じて、その手応えをジークも感じていた。

 しかし、その表情は険しい。

 ホライゾンの脇腹には…今も是空が食い込んでいる(・・・・・・・・・・)

 本来、神速状態での一撃というものは、攻撃力10倍という恩恵に加え、音速を軽く超える超スピードにより衝撃波も発生するので、よほど物質的強度または質量的に差が無い限り、斬れないものは無いはずである。
 そして先述したとおり、神速中に一度始めた動作を止める術は、殆ど無いと言っても良い。
 しかし、実際には是空は脇腹の半ばにも到らない位置でピタリと停まっており、傷の深さを人間に例えるなら、皮や肉は斬れていても、筋肉に阻まれて内臓や骨にまでは達していない、動くには少々苦痛を伴うが、致命的なものではない…そんな感じだ。
 しかも、脇腹に喰い込んでいる是空をよく見れば、その刀身が微妙に歪み…微細なヒビが入っているようにも見える。

 これは何を意味するか?

 つまり、ホライゾンはオニが放った是空の神速状態での一撃…瞬間的には300000を超えるとも言われる威力を誇る、必殺の一撃を防ぎ切った事になる。

(…ぬかった……!)

 ジークはこの時、アイリスと初めて共闘した時の会話が脳裏に浮かびそして思う、あの時、自分は何を聞いていた、と。
 アイリスはあの時、3発…最低2発以上のヘルファイアを、殆どダメージらしいダメージも無く防ぎ切ったと言っていた。

 つまり、合計60000は超えるであろう攻撃を、ホライゾンはHMによる防御だけではね返した事になる。
 今回もそれと同じなのだろう、以前のヘルファイア直撃を受けた時と同じように、神域によって是空が当たるほんの一瞬のタイミングを見切り、その瞬間に合わせてHMを起動させたとしか、考えられない。

(だがまさか…!)

 しかし、元々基本防御が4000と高いホライゾンの装甲は直撃の瞬間のみ40000を越える鉄壁の防御となっていたと思われるが、それだけで300000の攻撃を防げるとは思えなかった。
 実際、アイリスのホライゾンを捉えた瞬間、ジークは回避動作をされる事も考えて剣を振るっていた。アイリスもその一撃が回避不可であり、そしてHMによる防御だけではこの攻撃を完全に防げないとも、悟っていたのだろう。


 ジークは足元に視線を送る。
 そこにはホライゾンの右足と、左手にあったはずのLMGが銃身を両断される形で地面に落ちていた。

(LMGを犠牲に攻撃をやり過ごし、反撃に転ずる……)

 この事はジークも仕合の前に想定していた事だ。
 しかし想定はしていたが、まさかこの局面でやってのけるとは、さすがのジークも想定していなかった…否、出来なかった。


 すでに知っているだろうが、HMはなぜか手にしていた武器に対しても防御等の補正を与える事が出来る。
 つまり防御補正10倍のHMが発動中であるなら、LMGはどんな盾や装甲より堅牢な防御壁となっていたはずである。

 そして、アイリスの体術もこの要因に大きく関与していた。
 刀での一撃は刀にかかる力よりも速さ、そして刀を引くタイミングがその威力を大きく左右する、と言われている。
 また、振り始めた瞬間より振り抜く直後、根元より剣先の方が威力を増す事から、時に蝋燭の灯を例えとして使われ、振る時の間合いが重要であると教えられる事が多い。

 だが、ジークはLMGによってその速度とタイミングを損ない、それによって生じた一瞬の間隙を付かれて右足を一歩踏み込まれた事で、間合いをも外されてしまっていた

 

 つまりアイリスはその場から退かずに、高防御HMによってどんな堅牢な盾より強化されたLMGと、ホライゾン自らが持つ防御力、そして踏み込む事で体位を変えた事による間合い外し…この三段構えの防御で必殺の一撃を完全に相殺したのだった。

 

(切り札を持っていたのは、お互い様という事かっ!)

 思わず負け惜しみをしたこの時を後から思い返すと、この瞬間アイリスは神速の発動に成功していたのかもしれない、と、ジークは思う。
 もっとも、彼女にその自覚は無いらしく、ただ負けまいと無我夢中でやったとの事であり、実際に動いたのはたった一歩なので、神速になっていようといなくとも結果に大差は無かっただろうが。


 ここまで、時間にして1秒も経っていない。
 いまだ是空の一撃で鳴り響いた音が辺りに轟いている中、先に動いたのはアイリスだった。

 彼女はここまで計算して、一歩踏み出していたのだろうか?
 それとも勝負への執念が呼び込んだ偶然だったのだろうか?

 ジークの間合い…剣での一撃に最適な間合いが、一歩踏み込んだ事でアイリスの間合い…格闘での一撃に最適な間合いになっていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「…ってぃっ!」

 短い掛け声と共にアイリスはホライゾンから是空を押し退けると、スラスターとブーストで重量制御でもしたのか、是空を掴んだまま音もなく宙に浮いた瞬間、サマーソルトキックを敢行しオニを蹴り上げた。

「ぐぁっ!」

 必殺の一撃を思わぬ形で防がれて、いまだ硬直状態にあったジークのオニはたまらず吹き飛ばされた。
 しかし、アイリスの攻撃…切り札はまだ残っていた。

 サマーソルトキックで一回転し着地した直後、いまだ吹き飛ばされて宙を舞っていたオニめがけて、今まで一度も使わなかった兵器、ダブルキャノンを発射したのだ。

 これを格闘ゲームに例えるなら、しゃがみ動作キャンセルのコンボによるハメ攻撃とでも言うのだろうか?
 空中にいる状態ならば、神速は使えない、少なくても素早い機動は出来なくなる、自分の意思で飛んでいないのだとしたらなおさらだ。
 防御する事ならば可能だが、すでに満身創痍、しかも一刀侍魂発動中のオニでは神速中であろうと是空の鞘無しで防御するのは危険すぎる。

(一か八かっ!)

 後が無いジークは無理な体勢から神速を発動、すでに眼前にまで迫っているキャノンの砲弾を斬ろうと、是空を振るう。

(一つ!)

 二発の砲弾の一発目を斬ったジークは返す刀でほぼ同時に来ていた二発目を斬ろうとする。
 だが、先程の必殺の一撃を防がれた衝撃をまともに返され、微細なヒビが入っていた是空にとって、今の衝撃はすでに致命的なものとなっていた。

「!!」

 二発目の砲弾に斬り付けた瞬間、是空は短い付き合いとはいえ幾度も救い、救われた主へ、『最後の奉公です』と告げるかのように甲高い音を上げ、砕け散ったのだった。



 

 至近距離からのダブルキャノンを喰らい、左の肩部パーツの一部が吹き飛ぶ。
 是空の最後の踏ん張りで何とか砲弾の軌道を逸らせたが、その是空は半ば以上から砕け、右手から弾かれる。是空の鞘も既に手を離れ、機体に到ってはその是空と同じくらいボロボロでまともに動けるかどうかも怪しい。

 だが、ジークは吹き飛ばされながら、右手が動くかを確認するかのように握り締める

(…まだ動く)

 左足は…ダメージこそ深刻だが、多分これ以上動かさなければ壊れない…が。

(ダメージを庇って機会を逸すくらいならば、たった一歩でも前へ…!)

 あくまで攻めの姿勢を貫くジークは、今にも折れそうに軋む内部フレームに構わず着地し、地面を滑りながら慣性に逆らうように前屈姿勢をとる。

(…ただ一撃、より速く、そして強く)

 ジークの手持ち技の中で最速にして最強の技、絶無明閃光斬を鞘無しで使う動きのイメージ頭の中でしていると、不意にかつてサクヤが見せた技のイメージが頭をよぎる。

(稲妻の如き動き、光の如き剣閃…其即ち、全てを切り裂く刃……!)

 ともするとそのまま気を失いかねない衝撃をその身に受け、思い出したかのように襲い掛かる神速の副作用がジークの身体に重く圧し掛かる。
 が、ジークはそれらをアイリスと同等かそれ以上である勝負への執念で意識の片隅に追いやると、意識も一緒に追いやられてしまいそうな感覚の中で機体を操る。

(その全ては無理であったとしても…!)

 前屈姿勢のまま腕を後ろに振り、さながらスピードスケートのスタートのような姿勢で、時間が一瞬停まったかのように機体を停止させる。

「届けぇっ!」

 この時、ジークは自分が何を言っていたのか、覚えていなかったらしい。
 ただ、あの状況に到っては、ジークももう勝てるとは思っていなかった。
 それでも、どうせ倒れるのなら前のめりに…腕一本でも動くのなら徒手空拳の一撃だけでも当てる、それだけを考えていたらしい。

 その無意識の叫びを始動の合図とするかのように、踏み出しと同時にブーストを全開し、地面ギリギリの超低空飛行で文字通りのロケットダッシュをする。
 そして腕を剣に見立てたかのように手刀を構えると、アイリスのホライゾンに鋭い視線を送る。

 狙いは―――先程の脇腹…!

 アイリスもジークがまだやる気なのを察して、その攻撃に真っ向から対抗するかのように防御姿勢をとる。

「無明…」
「神威…」

 超低空飛行の勢いをそのままに着地し、腰を落としながら捻り、そのまま全身のばねを使って一歩踏み出すと、しなった鞭のように手刀を突き出す…!

「閃光斬!!」
「滅消陣!」

 サクヤが「秘奥義の片鱗」と称した動きを模倣した一撃がホライゾンに直撃し、再び激しく甲高い音が辺りに鳴り響くのだった。

 

 第三者にはあっという間にと感じる交錯が終わり、両者は互いに背を向けた位置で立ち止まる。
 再び鳴り響いた激しい音を物語るように、オニの右腕はスクラップとなっており、肘関節から先の部分がコードに繋がった状態で垂れ下がっていた。
 一方のホライゾンは防御姿勢のまま固まっており、脇腹の傷は先程よりも大きく拡がられ火花を上げていたが、残っていたLMGを緩慢な動きでジークに向けると、トリガーを引く。

「…私の負け、ね」

 LMGからは一瞬光が出ただけで、弾は発射されなかった。
 どうやらジークの悪あがきとも取れる最後の一撃で、ジェネレーターかエネルギー伝達系に致命的なダメージを負ったらしい。
 緩慢とした腕の動きも、残ったエネルギーを全て使ってやっと動いたのだろう。

「いや…そうでもない…」

 ジークの言葉と共に、オニの左足が押し潰れるように壊れ、左腕で受身を取るように倒れる。

「…見てのとおりだ。それに、そちらにはまだ、攻撃手段が残っているだろう…?」

 サイクロンショットを暗に示して、その事を指摘するジーク。
 確かに、残っていた4基のサイクロンショットはいまだ健在である。
 今のジーク…オニに、サイクロンショットを避ける手段は無い。


「悪いけど、今のサイクロンショットは完全マニュアル制御状態にある…私からの命令無しでは動けないし、今のホライゾンからはその命令を送ることが出来ない」

 モニターが全滅したコクピットで、辛うじて非常照明と通信機だけはバッテリーのおかげで動いている中、苦笑交じりでそう答えるアイリスは手動でコクピットハッチを開き、携帯用通信機を装着して外に出る。
 そこで初めて今のオニの状態を確認して、嘆息する。

「確かに、まともには動けないでしょうけど…そちらもまだ、戦う手段は残っていると思うけど?」

 そう言って、少し離れた所に転がっている是空の鞘と柄に視線を送るアイリス。
 今のオニの状態でも、残った右足と左手で起き上がるくらいならできるし、ブーストも生きているので空を飛ぶ事も出来る。
 そして、折れたとは言え是空の柄と鞘を組み合わせれば、まだ武器として使える。是空とはこういう事態も想定して製作された剣なのだから。

「まだ、戦うつもりか?」
「貴方がそれを望むならば、ね」

 ジークの問いに不敵な微笑で答えるアイリス。
 …彼女の態度から察するに、この期に及んでもまだ何か隠し玉がありそうな気配である。

「………」

 モニター越しですら感じる、アイリスのただならぬ自信と気配に、その根拠は何なのか興味が無いとは言えないジークだが……

「いや、やめておく」

 ここはジークが引き下がった。
 これ以上の戦闘は勝負などではなく、単なる意地の張り合いでしかないと感じたのだ。

「…そう、よかった」

 安堵の声を出すアイリスだが、その表情はどこか残念と言いたげな顔である。

「…何故だ?」

 その表情が気になったジークは、アイリスに聞いてみる。
 そんなジークの心情を知ってか知らずか、冗談なのか本気なのか…判断が付きかねる笑顔を見せるアイリス。

「これ以上戦うなら、手加減できそうにないからよ」
「……」

 正直「早まったか?」と思ってしまうジークであった。


 そして、回想で語られた戦いは、双方五体不満足になるほど戦い続けた結果、引き分けと言う形で終結したが、トレーラーを持ってきていたジークはともかく、アイリスが動けなかった為やむなく救難信号を送出する事にした。
 やってきたのは当初の目的地だった第二ギラ・ドゥロ補給基地に移動中であった、大尉が指揮する第9補給大隊の分隊だった(表向きの理由は補給基地所属の部隊を送り届ける事であったらしい)ので、収容後はそのまま補給基地へと同行したらしい。

 第二ギラ・ドゥロ補給基地へと到着したジークは、前の基地に連絡、担当していた整備士に無事である事と礼を述べ、アイリスも目的地へと先行していたゼノンとライナスを現地待機していた整備部隊ごと補給基地へ呼ぶ羽目となったが、どの道所属不明勢力に関する聞き取り調査等で、いずれはここに寄る事になっていたので、順序が変わっただけで手間が省けた、とも言えるらしい。

 またほぼ大破したオニは大尉の部隊が補修を請負う事となり、前の基地に置いて来たキシンカスタムを輸送するよう手配し、本隊へ足りないパーツや部品の発注をしたので、やや補修に時間がかかるとの事だったが…連日連夜の作業で疲れが溜まっていたジークにとっては良い休養となったので、特に問題はなかった。

 赤の小隊も機体整備や補修以外に一部武装の改修とかで、完了まで数日はかかるとの話だった事から、補給基地で情報の収集や調査に従事し、合間を見ては激務の前の休養とばかりに身体を休めていた。(先述の「約束」はこの間に交わされたものだと、言う事だが…?)

 そして数日後、赤の小隊は目的地である商業都市へ向かい、ジークの機体も程なく完成…そこで冒頭の話へ繋がる訳である。


 

 半年近い昔の事を鮮明に思い出しながら話していた両者だが、アイリスの溜息によって中断される。

「それにしても、ただの手刀でやられるとは、思わなかったわ」
「…正直な実感を言っても良いか?」
「何?」
「……俺自身が、一番驚いていた」
「……」

 ここは笑うところなのだろうか?
 そんな事でも思ったのか、なんとも複雑な顔をするアイリスであった。

「とにかく必死だったからな」

 その複雑な表情をどう受け取ったかは知らないが、ジークも苦笑なのか失笑なのかよく分からない顔で言った。


 なるほど、ジーク本人も殆ど無自覚のうちに放ったものなのだろう、そう解釈したアイリスはならばと客観的に考えてみる。

 居合い切りは刀を鞘に滑らせる事で刀を加速、そのまま振り抜く事で超高速の一撃となる技である。
 しかし、その加速が速ければ速い分だけ、刀を持つ腕や身体に相応の負荷がかかるのも、事実である。それは銃を用いての居合い技といえる、クイックドロウを使えるアイリスには聞かずとも分かる事である。

 その負担を受ける腕には相応の筋力と手首の強さを求められるのは必然であり、その腕から繰り出す速さと言うのは、銃でも剣でも武器無しでも変わらないだろう…そうなればその速度で放たれた手刀の威力はかなりの物になるはずだ。
 IFSはそうした達人の動きもある程度までなら再現できるはずであり、HM発動状態ならば腕速も10倍なので、オニの腕にも生身で放った時と同等かそれ以上の負荷や威力があったのは、想像に難くない。

(一流の技は全てに通ず、そんなところなのかしら?)

 ある人物から似たような事で助言された事もあり、ジークほど自分の力に無自覚ではなかったアイリスはそう結論付けた。


 アイリスが一人でそんな事を考えていた一方、ジークもジークで考え事をしていた。

(自分に見合わぬ力は危険、それは神速にも当てはまる……)

 回想で語られた戦いの以後、アルサレアのとある部隊を相手にした時や『味方殺し』と恐れられた猛者との確執、そしてアイリスとの模擬戦を経てふと、思う事があった。

 思えば、HM神速を使えるようになって以降、自分は剣術の鍛錬を怠っていなかっただろうか?
 強力な火器に頼っての戦いは楽だが、そればかりに頼るようでは刀が錆びる、と教えられた事はあったが、まさにそれではなかろうか?

(少なくとも…グリュウ中佐は、神速という力無しでも、巧みな戦術と用兵、部隊の鍛度を以って部隊を前線に押し上げ、己が実力で防衛線を突破している…)

 神速の(敵と呼んで差し支えない相手から貰った)力を使ってどうにか突破した俺と違い…などと、自嘲するジークである。
 もっとも、戦場と言うのは生き物だ、全く同じ状況での戦闘などありえないし、仮に全く同じ状況であったとしても、同じ結果になるとは限らない。
 ジークとてそのくらいの事は承知しているだろう…が、常識的に納得できても、心情的には納得できない事も、自らを以って学習済みである。

(力に驕るものはいずれ力に溺れ、力に滅する、と言うが…俺は、神速と言う力を手に入れて、逆に弱くなってしまったのだろうか…)

 アイリスを始めとする、特殊技能を有する人間やPFと戦えば戦うほど、神速というものが必ずしも有効でない事を思い知らされたジークは、そんな言葉と邪推を考えてしまっていた。

 しかし、幸か不幸か、そのジークが抱いていた問題はすぐに解決する事になる。


 

 休暇中のジークとは違い、アイリスは次の任務を数日後に控えているらしく、今回は比較的早めの解散となった。
 休暇中に自分がやっておきたかった用事も済ませたので、後は入院中で動けないサクヤの代理として覇王天剣の道場に帰省し、師範に近況報告をしようと思っていたが…

「そういえば、こんな話があったわ」

 …と、アイリスから聞かされた話で、一転する。


 先述したが、独立した指揮系統を持つ赤の小隊を、直接の上司以外が動かす場合、命令では無く要請と言う形で話が来る。
 そんな彼女の日課として、要請依頼が来ているかどうかの確認作業があるのだが、今回はほぼ同時期に、穏健派と強硬派、2つの勢力から要請が入っていた。

 その内容にざっと目を通せば、かつてアルサレアに拿捕された、ヴァリムが誇る巨大空中空母「オーガル・ディラム(ヤタガラス)」を狙って、ザッハ空港に急襲を仕掛けるという作戦が進行しているらしく、すでに少数の部隊が選出され、進軍に向けて準備中らしい

 そこまでは双方とも同じだった。
 問題なのはその先だ。


「…強硬派は、急襲部隊の支援……穏健派は、急襲部隊の脱出路の確保……」

 アイリスからの話では、空港へ急襲するのはかつてグリュウ大尉(現中佐)が率いていた隊員を中核とする部隊らしく、ベリウム東方方面司令官の指揮下にある部隊がその支援を任されるらしいが、赤の小隊にも参加を持ちかけられたらしい。
 ただ、赤の小隊の基本方針として「中立を保つ」という行動理念と、この作戦そのものに胡散臭さを感じていた彼女らは、適当な理由をつけて今回は断ろうと思っていた、との話だった。

「…貴方だから、言ったけれど…」

 ここまで言って「言い過ぎた」と、思ったのだろう。ばつがわるそうな顔をするアイリス。

「ん…あぁ、休暇中の身だからな…ここで聞いた事は何も無かった、たまたま知っていたとしてもそれは俺が独自に調べた事だ…で良いのか?」
「そうね…なら、いいかも」
「了解した」

 そして二人は出発のために準備していたが……

「…ん、そうか……」
「………」

 ふと、ジークの中で何かが閃いた。
 そんなジークを横目で見ていたアイリスは、無言で嘆息したのだった。

 

 アイリスと別れたジークはさっそくアリバイ作りを兼ねて、最寄の軍施設に移動し中尉の権限と一般的な情報網を使って情報収集を始めた。

「………主要施設の動き…軍輸送機の入出港数…なるほど…これは…」

 ザックシティ及び隣接するザッハ空港に関する概要、ここ最近の都市情勢、世論、噂などを調べ、少なくても軍や空港施設に何らかの動きが見られる(囁かれている)事、眉唾程度の信憑性しか無いアングラの情報提示欄に割と核心に近い情報が出ている事が分かった。

「…人の口に戸は立てられぬ、か……ん、軍のジープが都市部を暴走…?」

 最近発行されたと思われる新聞や情報誌で軍に関連する記事を切り抜いたブックレットを見ながら、いくら情報規制や隠蔽をしようともどこかに抜け道はあるものだ、と改めて思いつつ、何かが起こると確信する。


 そして休憩も程ほどに再出発するジークは、今までの情報を精査しながら想像する。

 入出港した輸送機の数から察するに、かなりの戦力が空港に配備されている事になる。
 そこから推察される戦力規模はアルサレア戦役時にこそ劣るだろうが、その分精鋭中の精鋭がヤタガラスや空港の防衛を担当している筈。

 かつてオーガル・ディラムの攻防戦に参加したグリュウは、隊長機同士の闘いに敗退した事でオーガル・ディラムを奪われたとして、責任を問われた。
 以後における彼らの進退を鑑みれば、「黒夜叉」として名を馳せたグリュウにとって、この作戦がターニングポイントだったのだろう。
 その艦をグリュウ直下だった部隊が破壊しようと言うのである、なんとも皮肉な話だった。

 グリュウ中佐とは剣を交える事叶わなかったが、ヤタガラスを撃破する事で中佐に対する餞と詫びにならないか?
 ……狭量な自己満足…欺瞞だと承知しているが、この戦いで神速を戦いに使わずに勝つ事で、中佐に勝ったと言えないだろうか。

 建前と本音が入り混じる思考の中、ジークは戦闘時での神速及び神速を使う技を封印して次の戦いに臨むべく、黒狼をアルサレアとの国境…カシュー平原に程近い基地へ向けたのだった。




 

 ここで、数奇な別れと出会いを繰り返した一人の剣士を主軸とした話を、ひとまず終える事とする。
 その一人の剣士…ジーク=フェルナンデスは友から引き継いだだけだったはずの夢に、背負わなくとも良かった責務をあえて背負いながら自らの夢とするべく苦労を糧に、血肉へと換えてきた。

 その夢を託した人物、シリウス=ロシュフォートが眠る大地にある石碑には、毎年何百何千という人が訪れ、ある者は言葉を、祈りを、あるいは花や食べ物といった…自分がここに来た、もしくは逝った者がここに居た事を示す、証となるモノを供えた。

 だが、ジークあの時…長い黙祷あと、何も供えずにそのまま山を下りたらしい。

 それはかつてアイリスに独白したように、彼の前に供えるものは既に決まっており、まだ手に入れていないから…なのだろう。
 そしてジークがシリウスに何かを供える時、それはジークが幻想という名の夢に、成否を問わずに何らかの区切りを付け、結論を報告する事を決断した時だろう。
 それがいつになるのか、それは誰にも分からない…しかし、そう遠くない未来、彼は気付くだろう、『忘れる事』と『裏切る事』が決して同義では無い事を。


 なぜなら、今の彼には共に同じ道を歩める存在と、後に続くだろう存在がいるのだから。







 

 ………終わり………



 



 機体紹介

 ジーク専用機体「黒狼」
 グリュウ大尉専用機としてチェーンされたオニをベースに、2代目黒狼(キシンカスタム)のパーツ及び武装を組み込んで完成した、3代目の黒狼である。
 歴代機体の特徴である右手にカタナ系武器一つ装備という、BURM補正「一刀侍魂」発動機体であり、攻撃力と機動性を最優先としたカスタマイズが施されている。
 なお、ここに至るまでの経緯や対ホライゾン戦での経験を反省したのか、これ以後特殊な兵装を積極的に取り入れるようになった。

 新武装「エクスカリバー」
 キシンカスタム使用時の刀「是空」に代わる新しい武器。名前のとおり既存のエクスカリヴァを改良した武器である。
 既存のものと比べて形状は同じであるが、対ホライゾン戦で得た反省を考慮してか刀身にサーマルコーティングが施されており、レーザー兵器を始めとする光学系兵器に対して高い耐性を持っている。
 なお、是空の鞘を改修して流用しているため、盾としても活用可能である。

 新武装「ヴァハGβ」
 PF用としてはもっとも高性能なブースターの一つとされるヴァハGの改良品。
 通常と違う点は任意で解除可能なリミッターが付いている事であり、リミッター解除時の最高速度及び加速度は50に迫るが、発熱量と消費量も跳ね上がるので長時間の使用は不可である。
 なお、リミッター解除の条件は任意で設定可能としており、ジークはHM(神速)使用時と特定の構えからのダッシュ時としている。
 サイバーフォーミュラのスパイラルブースト(アスラーダの2段ブースト)をイメージしてください。


 真・絶無明閃光斬
 ジークのオリジナル技「絶無明閃光斬」の派生技にして、防御不可の真絶技。アイリスとの戦いでの最後の一撃、サクヤが見せた秘奥義「神威滅消陣」の未完成版を基とした技である。
 一言で言えば超高速移動からの居合い切りであり、超高速移動で遠心力と突進力の速度を上乗せすると同時に敵の死角を突く事で、斬撃の威力をさらに高めている。
 そして斬撃の瞬間に神速を発動、いままで全方位に放っていた無数の斬撃を一つの軌跡で繰り出す事で、技名の由来である「無明の世界で放たれるただ一筋の閃光」を本当の意味で顕現させる超高速の抜刀術である。
 普通の無明閃光斬も名手が使えば「目にも留まらない高速抜刀術」だけに神域や神速の使い手でも避けるのならばともかく、防ぐのは困難であると思われる。
 (本来は高威力だが刹那的である神速の一撃を、神速が解除される瞬間まで…つまり約1秒間受け続けることになるため)

 その威力はオーガル級艦船の船体直径に匹敵する大きさの岩を両断し、大口径バスターランチャーすら斬り裂いたらしいが、そのあまりの威力にジーク自ら封印した事もあり、正式記録上彼がこの技を完全な状態で放った事は無いとされている。
 なお、後に居合い術ではないがこの技を基とし、威力を抑えた応用派生技がいくつかあるらしい。


 HM「神速」について
 PFの特徴の一つである、BURMシステムの設定の一つ…ジェネレーターの過剰出力により機体の周囲にある種のエネルギーフィールドを形成、それによる接近戦用武器(パンチ含む)の攻撃力と機体防御力、各駆動系強化による歩行速度と腕部稼動速度を飛躍的に向上させるシステム「ハイパーモード(HM)」と総称されるシステムの一種。
 システム設計の自由さから一口にHMと言っても攻撃や防御等に特化したものや、瞬間転移を可能にするなど、様々な種類があるが…HM神速をシステム上から見た場合……

 1 各補正が1000%前後、又はそれ以上の補正がある。
 2 発動時間が発動前後硬直を含めても1.00秒前後(偏差0.20未満)。

 ……という条件で発動するHMの事を指している。

 この超短時間で機体制御を行う事は、IFS(イメージフィードバックシステム)仕様の機体でも思考中のノイズ(どれだけ一つの動作に意識を集中しても、無意識下で色々な事を考えるのでそれが邪魔になっている)により制御不可能とされていた。
 しかし一部のパイロットに天才的才能と努力の結果、後天的に得られた才覚と技術によって、制御を可能とした例も報告されているが、発現率はきわめて低く、実戦で活用するにはあまりに不安定である。

 <中略>(実際に制御に成功したパイロットの経歴や事例など)

 このように制御に関してはパイロットの資質をも問われる…特殊なHMを、(操縦者に資質がある事を前提に)100%制御可能としたのが…アルサレアの特尉「クレイジーウインド」こと「ケイオウ=ロイドゲイル」であるが、後に行方が分からなくなり、研究資料も何者か(諜報部の調査でも不明。本人の仕業か?)により隠蔽され、どういう理論なのかは全くの不明である

 <中略>(ケイオウ特尉の経歴について)

 しかしながら、特尉の行動とHM神速を制御できる者との行動を照らし合わせると、いくつかの例外を除き彼、もしくは彼に極めて近しい者に接触した後に発動可能としている共通点も報告されており……

 <中略>(『剣』の称号を持つ者とケイオウ特尉との関係を示唆)

 ……以上の共通点と類似点から愚考するに、「思考ノイズを除去し、イメージしている動作情報をPFに合わせて最適化するサブ制御システム」が機体に搭載されているという説を有力視していた。
 しかし、今回彼に関与し少なからず影響を受け、上記の条件を全て有している、ある人物のPFを整備する機会に運良く巡り合わせたので解析した所、それらしきシステムは無く、後日データ収集の為に測定器を搭載した機体を提供したものの、確証を持てるデータは得られず…また上記システムを構築する為にはコクピットブロック全てを電脳化しなければならない事が判明した為、残念ながらこの説は否定せざるを得ない。(なお、測定器については回収及び隠蔽済)
 しかし、先述の調査でいくつか疑問点も顕在したために、今後も調査、研究の必要性がある案件の一つであると思われる。

 <以下抹消及び省略>

 ※とあるPF設計技師の研究資料より抜粋・編集したものを掲載



 

 感想

 ネタの都合上、途中で終わるような感がありますが、どうにか目的としていた所まで書き終えました(遅)
 ジークと言う人物を思い描いていてふと思うこと、それは彼自身は多少の捻くれはあるものの、その心根は非常に純粋であると言う事です。
 その純粋さはそのまま信念の強さに表れますが、時としてその純粋さは同時に汚れ易さと脆さをも露呈する、非常に危うい弱さ、のような感じも受けました。
 それは常日頃から他人の顔色をうかがって生活し、明確な目的意識を持てない人間にとって羨ましく感じる部分でもあります。

 今回はそういったあまり他作品では表現されない彼の心情、その強さと強さの裏返しである弱さ脆さを出し、より深く彼という人物を表現したいと思っていましたが、皆さんにはどう映ったでしょうか?(汗)

 彼の語られない部分、語る機会が無かった部分、そしてこれから語ることになるだろう部分を多く残す形となりましたが、この内のいくつかの事案についてはまた別の形で発表される事になると思いますので、いずれ機会があれば出るだろうと、思います(苦笑)

 最後に、この作品を読んでくれた皆さん、および作成にあたって協力してくれた皆さん、本当にありがとうございました。



 

 原作者であり監修を務めて頂きました、我龍さんからの感想

 思えば長い道程だった…<お前が言うかというツッコミは華麗にスルー
 キャラクター原案及び(一応)監修という形で、この作品に関わらせて頂きました、我龍です。

 ことの始まりは…確か、ヨニカさんから「ジークのアルサレア戦役の話(含、アイリスとの出会い)を書きたいんですが」といった感じの事を言われた事から始まったように記憶しております<うろんげ
 この様な魅力的な提案を、一体誰が断れるでしょうか? 私は二つ返事で了承しました。
…それが、後々私達(主にヨニカさん)にどの様な苦境をもたらすかなど、全く考えずに…。

 既に御存知の方が殆どでしょうが、私はキャラ作成を基本的に即興で行っています。
そして、その上で気に入ったキャラには後付設定をどんどん付け加えていくという…。

 これが何を意味するか?
 答えは簡単。


「設定が穴だらけ」(爆死)


 今作のメインどころであるジークとアイリスの2人も、無論例外ではなく…ヨニカさんには絶望的に御迷惑をおかけ致しました。
 そもそも、私はキャラクターの外見・性格イメージキャラというものを設定していないので、既に何人かの作家様方に使って頂いているジークはともかく、アイリスはさぞや書きにくかったと思われます。
 2人とも外見イメージは指定してあったものの、性格イメージは全く指定していなかったので<後に、アイリスも急遽性格(内面)イメージキャラを指定するという荒業というか、暴挙に出た訳ですが(死)

 そして、その穴だらけの設定のせいで四苦八苦したのが、「刀狩」・「ジークの行動パターン(不知火が折れるくだり)及び戦う理由」でした。
 …無論、これはあくまで私からの見方であって、ヨニカさんの苦労はそれを遥かに上回ると思われますが<何しろ、本編執筆中に重要どころに位置する新キャラ(サクヤ)の設定をぶち上げるという暴挙をかまされたりしていますので(殴打)
 最初の「刀狩」に関しては、こちらから「その様な事実はありません」と否定の姿勢を打ち出し、「何故そのような事になったのか」等の細かい部分に関しては、全面的にヨニカさんにお任せしてしまいました(滝汗)
 そして問題となったのが「ジークの行動パターン(不知火が折れるくだり)及び戦う理由」。
 これは大変でした。不知火の件に関しては、ヨニカさんから送られてきた草稿を元に、私の方で「我龍的ジーク」に変更させて頂き、それを更にヨニカさんが全体のバランス等を考慮しながら調整していくという…私的には楽しくも、ヨニカさんには迷惑をかけまくるという方法で執筆して頂きました。
 更に大変だったのが「ジークの戦う理由」です。
 この部分に関しては、今まで一度も触れられていない部分だったので、こちらで書いたものをヨニカさんに送らせて頂き、調整してもらうという形を取りました。
 余談ですが、この部分を読んだ方で、ピンと来た方もいらっしゃるかもしれません。ジークが「とある作品の主人公」をモロにベースにしているという事に(汗)<使う技も殆どがその作品に出てくる技をイメージしたものですし

 …監修という名のもとに私がした仕事は、以上です(殴打)
 他にした事と言えば、ちょろっとだけ台詞回し等にチェックを入れさせて頂く程度で…。
 その他の設定に関しましては、穴だらけの設定をそのつどヨニカさんに埋めて頂きました(死)
 外伝になっていますが、赤の小隊創設経緯もヨニカさんの案をそのまま使ってもらっていますし、シリウスの最期のくだりに関しても、全面的にヨニカさんにお任せしてしまいました。

 で、その間私は何をしていたかというと…何もしていませんでした(撲殺)
 それどころか、迷惑ばかりかけてました。
 作品に登場こそしていませんが、「刀狩」ザガン、「アイリスの親友」シルヴィア等…メインどころ2人に絡む新キャラを作り…その上、26年の事件等で2人に大きく関わってくる例の人物達の設定を弄り、余計複雑にしてみたり…何故かジェイルの裏設定を語ったり…挙句、複雑極まりない人物相関図を作ってみたりと…迷惑しかかけていないという…<ヨニカさん、本当にごめんなさい(土下座)<無駄に私の主力キャラ裏設定を知らされたお陰で、さぞや大変だったかと(滝汗)

 そして…キャラ製作者がこんなのですから…話が広がる広がる(死)
 当初の予定では4話で終了予定と聞いていましたが…気付けば6話+外伝という…。
もう…何というか…本当に「ごめんなさい」状態です。

 しかし、その分断言できます。


「この作品のジークこそ、オリジナルである」と。


 ヨニカさんは節目ごとに草稿を送ってきて下さるのですが…最終話の草稿に、ヨニカさんにすら話していない裏(脳内)設定が盛り込まれており、私は思わず「…私の思考を読みましたか?」と今思えば実に阿呆な質問を…(滝汗)<曰く「キャラの独り歩きです」だそうですが

 こんなエピソードがあるくらい、あの2人の事を理解しているヨニカさんが執筆した、この作品以上にオリジナルに近い作品は、他にない…少なくとも私はそう思っています。

 色々と事情があって、感想は全く書かなくなった私ですが、実は誰よりも毎回続きを楽しみにしていました。
 ヘルファイアの嵐が2人に襲い掛かった時は、「2人とも大丈夫なのか?」と思いましたし、『死神』が出てきた時は「おお!」と1人ニヤけて危険人物になっていたり…。
 そして自分で「2人の勝負は常に引き分け」という設定を作っておきながら、いざ2人が戦うシーンを読んで「おいおい、一体これでジークはどうやって引き分けに持っていくんだ?」とか、5話のラストを読んで「ちょっと待った! なんぼなんでもこれ、アイリス負けたんじゃ?」と思わず冷や汗をかいたり、アイリスの戦闘描写を読んで「おお、アイリスはこうやって戦うのか」と原作者にあるまじき事を思ったりしてました。
 …こう書くと、むしろ原作・監修者というよりは、一読者として毎回楽しませて貰っていたんだなぁ…としみじみと思います。

 最後になりましたが、今回この様な機会を設けて下さったヨニカさん。
 随所で適切なアドバイスを下さった、関係者の皆さん。
 …何より、この作品を読んで下さった全ての方々に、無限の感謝を。
 どうもありがとうございました!
 そして、今後もキャラ共々よろしくお願い致します!




 


 管理人より

 ヨニカさんより最終話をご投稿頂きました!!

 それが決闘の結果でしたか〜。まさにギリギリでしたね(笑)

 裏方でも色々と動いてましたし(爆)

 何はともあれ(本編の)完結お疲れ様でした!
 


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