○インターミッション #04
「どうだった?」
陽光を照り返すアルミ製の扉を開けて、げっそりした顔で出てきたマコト・フライト中尉は、
そこに待ち受けていたシュキ、チェンナ、キース、アイリ、サリア、セイバーから不意打ちを受けた
最も、その程度は予想していた彼女だが、答えることになる言葉も悔しいことに予想していた言葉と同じだった
「多分、駄目だと思う」
その言葉に全員の顔が曇る
「・・・・・えと、さ。あの、太った中佐がいるじゃない」
「あぁ、そんなのも居たわね」
マコトが言う件の「中佐」とは、サーリットンにシオン達が到着する直前、
グレンリーダーに必死でカンドランドへの後退を訴えていた、太っちょの中佐のことだ
「民間団体だけじゃなくて、兵団内部にもヘルファイアみたいな大規模破壊兵器を使うのに反対してる人達が居て、
実は、あの中佐も、その口らしいのよ。それで、将軍閣下が静養中の今、議事を進めていたのがそいつだったから・・・・・」
もう、お手上げ
動作でその意志を示し、マコトは弱り切った顔で一同を見回した
マコトの肩書きが未だに「コバルト小隊隊員」ではなく、「一小隊長」だった為に審議の場に同席することを許されたため、
何とか、シオン・マクドガル中尉の無罪を訴えようとしたのだが、うまくいかなかったようだ
「それで、三日後の軍法会議で処分を言い渡すって事になっちゃった」
「処分って、どうなるの!?」
マコトの“処分”という言葉に込められた意味に、パイロット一同は聞くまでもなくわかっていたが、
唯一パイロットではないシュキだけは、わからなかった。わかりたくもなかった
“軍法会議”という場に於いての、“処分”という言葉の使われ方を
「・・・・・良くて、軍籍剥奪」
「じゃぁ、悪かったら!!?」
もう、ここまで来れば彼女にだってわかっている
罪に付随する罰の中で、最も大きなものといえば、一つしかない
マコトは、唇を歪めて、いじめっ子が言い訳をするような口調で言い放つように、こう言った
「銃殺」
予想はしていた
だが、それが的中していた事への衝撃は隠せない
シュキとサリア、セイバーは蒼白になり、チェンナは親指の爪を噛んでいる
「ねぇ、キース。何とかならないの!?」
「あのなぁ・・・・・何とかできるならとっくにそうしてるっての!
いくら何でも、こいつは事がデカくなりすぎだ・・・・・」
「こっそり、連れ出すとかは?駄目?そういうのは無し?」
「阿呆」
アイリの向こう見ずな意見を一蹴し、キースは再び黙考に入る
“シオン・マクドガル中尉を、軍法会議の場から逃がす”という事が目的ならばそれでも良いのだが、
そうなると、シオンは脱走兵として追われる身になってしまう。それを手引きした者も脱走幇助と扱われるだろう
本末転倒も甚だしい上に、何よりそんな救出劇にシオンが賛成するとは思えない
彼自身は、処罰を受け入れるつもりさえあるのだ
「隊長に掛け合ってみるって言うのは?」
「ん〜、隊長でも難しいかもな。ヘルファイア級の兵器の無断使用を認めるって言うのはなぁ・・・・・
一応、兵団のトップにいる人間がそんなもん気安く認めちゃまずいだろ」
「うん、カンドランドの議会からも相当な苦情が来てたから・・・・・将軍閣下の権力を濫用しても無理、と思う」
会議の最中に聞かされた、カンドランド議会の代表が訴えた苦情を思い出して、マコトは大きく溜息をついた
カンドランドは、戦火こそ免れたものの、実は大変な被害を最後の最後で被っていたからだ
シオンが撃ったヘルファイアの大爆発。そして、そこに生じた核爆発レベルの電磁波の嵐
爆風による被害は無かったが、近代都市群は荒れ狂うEMPの奔流に対しては全くの無力だった
カンドランド市街全域、およそ7割の電子機器が、データもろともに一瞬にして天に召されたのである
一般家庭は勿論、病院、発電所、金融機関、工場、道路信号、その他諸々のコンピュータ制御されていた全てが一瞬で死に絶えたのだ
停電は一時間程で全て持ち直されたのだが、その間に発生した事態は決して、軽い事ばかりではない
特に交通機関への打撃が招いた混乱は大きかった
信号機だけは十数分で復旧したとはいえ、その間に起こった事故件数は決して少なくはなかったし、
それへの対処に向かう緊急車両は渋滞に呑まれて身動きができなくなると言う有様だったのである
ついで病院での停電も巨大な混乱を招いた
運悪く、その時手術中だった患者は、一命こそ取り留めたものの、手術前よりも症状が悪化してしまったという
電源が落とされた保育器を前にして、親や看護士達がどれほどの恐怖に駆られたかは想像に難くない
ケミカル系の工場ではいきなり停止した生産ラインから薬品が流れ出し、一時は毒ガス騒動にまで発展しかけた
株式取引は一瞬にして白紙と化し、激務をやっとの思いでこなした企業戦士は卒倒し、一般家庭からも非難と抗議が集中砲火
そんな苦情の全てを聞かされた議会が、半ば以上八つ当たり気味の抗議を訴えてきたのも、無理はあるまい
じゃぁ、デススコーピオンのヘルファイアにカンドランドが焼き尽くされても良かったのか?
言うまでもなく、否
その辺りが、正義の味方の辛いところである
「だぁぁっ!!どうすりゃ良いのよ!!」
マコトが吼える。誰彼構わず殴りかかっていこうとするマコトをチェンナが必死で押さえつけている
キースとアイリは、グレンリーダーに掛け合って、今後どうするべきかの相談に忙しい
シュキもその話に混じって、証拠の改竄や抹消の必要があるかどうかを論じている
サリアとセイバーに何かを期待するのは宗教に近い
だから、
「あ、あの」
怖ず怖ずとセイバーが口を挟んできたとき、
誰もが一斉に彼の方を向き直り、そして何となく落胆した顔になった
「どしたセイバー?何か良いアイデアでも思いついたのか?」
「え、ええと、ですね」
一同の反応に、かなり意志を挫かれながらも、後ろのサリアからの応援もあって(ふれふれせいばー)、彼は躊躇いながら口を開いた
「議会の説得や、兵団内部の調停は、将軍閣下の力でも、無理なんですよね?」
「うん・・・・・多分ね」
「強引に納得させるかもしんないけど、そうなったら非難囂々だろうし、下手をすれば失脚させられるかもしれない」
「だったら、他の方なら良いんじゃないですか?」
あっけらかんと言うセイバーだが、一同は深い溜息をついた
やっぱり、セイバーだった。と
「あのなぁ、セイバー。よく考えてみろ」
「は、はい」
「他、って一体何処の誰だよ?」
「それは「隊長より政治的地位が上で兵団への影響力も兼ね備えていて民間に人気があって絶対に俺達の味方になってくれる物好
セイバーの言葉を中途で遮ったキースの言葉が、不意にぷっつりと途切れた
セイバーとサリアを除く一同が怪訝な表情で、自分の言葉を小さく反芻しているキースを見ている
長い沈黙の後、彼は、歓喜に唇を歪めてセイバーの両肩をばしばし叩き、ひとしきり笑った後、
「お前天才。っていうか、何で俺達は気付かなかったんだ!!?」
「そ、そうでしょう?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!!!一体、どういうことなの!!!?」
アイリが慌てて割って入り、そんな彼女を笑いすぎて涙の滲んだ目を向けたキースが、人差し指を立てて話し始める
「良いか。アイリ。よーく考えろ」
「う、うん」
「隊長より政治的地位が上で兵団への影響力も兼ね備えていて民間に人気があって絶対に俺達の味方になってくれる物好き。だ」
「いや、だからさ。そんな人いるわけないじゃない!!」
「そうかぁ?よく考えて見ろよ。“案外身近に”いるだろ?」
その言葉に、アイリは考え込んで顔を俯かせ
「あ―――――――――――――――っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
<独房>
「何故、だ。マクドガル中尉」
鉄格子の向こうに項垂れているシオンの姿に、少なからぬ衝撃を受けているようだ
戸惑いや驚きを通り越して、凍ったように表情が動かない
彼、グレンリーダーがまさに仮面のような無表情でシオンに尋ねた
「何故、独断であんな真似をしたんだ。中尉」
「・・・・・閣下」
「やめてくれ、そんな呼び方は・・・・・!!
俺は、また、何もできなかったんだ!!本当ならば、そこには俺が居るべきだったのに!!!」
壁を殴る音が低く響く
シオンは、掛ける言葉に詰まった
グレンリーダーが慚愧の念に駆られている。というのは見ればわかる
だが、そんな彼に何を言えばいいかは、わからなかった
「・・・・・今はカンドランドの無事を喜んでください。自分は、全て、覚悟していたつもりですから」
無理をして、そう言った
だが、グレンリーダーは壁に背を預けて、ずるずると床にへたり込んでしまう
俯かせた表情は見えない
へたり込み、立てた膝の上で組んだ腕の中に埋まった表情を伺い知ることはできない
だが、もしかしたら、
にわかには信じがたいことだが、微かに震える肩と、息遣いに混じる僅かな揺らぎから、彼は、泣いていたのかも知れない
「やめてくれ・・・・・それ以上は」
「・・・・・」
やめてくれ。と言われてはやめるしかない
シオンは押し黙った
鉄格子を挟んだ二人の距離は、ほんの5m程しか離れていない
だが、その距離は無限に等しく感じ、間にあるのは鉄格子ではなく鋼鉄の壁のように思えた
「俺は・・・・・惨めだ」
「!?」
惨めだ
確かに、グレンリーダーはそう言った
シオンには理解できない
何故、彼が自分を蔑むのかが理解できない
アルサレアのエース。新しき将軍。闇を裂き、未来を切り開く光の剣
前戦役当時、一曹長だったシオンや、下士官達にとっては「グレン小隊」と言えば、それは伝説の名だった
その隊長で、今ではアルサレアの将軍である彼が、何故、自分を惨めなどと言うのか
「・・・・・何故、そのような事を?」
恐る恐る、シオンは訊ねた
問われたグレンリーダーは、俯かせた表情をそのままに、独白を紡ぐ
だが、切り出されたその独白は、シオンの質問に対する返答とは、すぐには思えないものだった
「・・・・・前戦役が激化した発端になった理由は、知っているか?」
突然の問いかけに、シオンは慌てて思考を巡らせた
テストに臨む学生の気持ちで、過去の記憶を掘り返す
「えぇっと、前将軍閣下が、ヴァリムに暗殺された事・・・・・ですよね。フェンナ様が議会で発表された事実を聞いたときは、
ショックでした。そんな事があったなんて・・・・・」
「あの時、前将軍閣下が乗っていた輸送機を護衛していたのは俺なんだ」
「。」
さらり、とグレンリーダーは言った
その言葉の意味を理解するのに数瞬の時間を要し、シオンはそれに返す言葉を思い付けない
躊躇うような沈黙を保つ彼に構わず、グレンリーダーは心の傷を抉り返すような述懐を続ける
それは、シオンが知らない、一般に公開されることなく歴史の闇に葬られた、『真実』だった
「その後、俺は、将軍の影を演じることになった。参謀本部長と相談し、将軍暗殺の事実をひた隠しにして」
「・・・・・」
「そんな中、小隊のオペレーターにフェンナが配属されてきた。知っているだろう?
現アルサレア首相、フェンナ・クラウゼンが元オペレーターだって事は」
「え、えぇ。しかし、グレン小隊のオペレーターだったとは、知りませんでした」
「あぁ、そこまでは発表されてなかったか・・・・・フェンナの家族は、前将軍閣下と、姉が一人いたんだ。
クレア・クラウゼン。母を病で早くに亡くしていたフェンナにとって、母親同然だったらしい」
シオンは、息を呑んだ
クレア・クラウゼンの名は知っている
ヴァリムの隠密部隊がフランズスを急襲し、その奪還作戦の中で聞いた名前だ
「知っていると思うが、クレア様は病気療養の為にフランズスに滞在中。ヴァリムに人質にされた」
「えぇ、病院に立てこもったヴァリム軍から他の患者達を保護する為に、身分を明かして取引をしたと」
シオンの言葉にグレンリーダーは小さく頷く
そして、己の心を、悔恨の刃で斬り刻むように、言葉を紡ぎ出す
「殺された。俺は、また、護れな、かった」
・・・・・
微笑みを浮かべて、赤い花束を抱いて、眠っているように見えた
その微笑みは、とても穏やかで、見ているだけで安心できるような、そんな透き通った微笑だった
・・・・・泣かないでください・・・・・
脆く、儚く、だがそれ故に美しく、悲しい、殉教者の微笑みだった
・・・・・貴方の所為では無いのです。だから、お願いですから、泣かないでください・・・・・
・・・・・
グレンリーダーがやや顔を上げた
迷い子の様な、慟哭を上げる寸前のような顔で、彼は床に落とした自分の掌を見つめている
口調が淡々としていることが、逆にシオンを恐怖させた
壊れかけた彼の心を、見たような気がしたからだ
「俺に何ができたと思う?父親が殺され、姉を亡くし、打ちひしがれていた女の子に何を言ってやれたと思う?
それだけじゃない。そんな女の子に俺達は首相の肩書きを押しつけて一国の旗印に祭り上げ、悲しむ暇さえ与えなかった。
あの娘を助けてやれなかったどころの話じゃない。逆に、地獄に叩き落としたんだ・・・・・」
壊れた視線がシオンを見上げた
壊れた視線と、眼が合った
そこには、誰もが知る『将軍』『英雄』は居なかった
ただ、悔恨に満ちた過去と、慚愧に囚われた現在を抱え、贖罪の為に茨の未来を突き進むことを己に誓った、
あまりにも、あまりにもちっぽけで哀れな人間が一人いる
「気が、狂いそうだった。あの娘の話を聞く度に、あの娘の笑顔を見る度に・・・・・本当は、あの娘の父親はとうに死んでいて、
それを護れなかったのは俺なのに、フェンナはそれを知らなかった。大人の勝手な都合で知らされていなかった。
クレア様が死んで、最も手酷く彼女の心を傷付ける形で、それを知らせる羽目になったのに、俺はずっと裏切っていたのに、
逃げてしまっても、誰も責める資格なんて無かったのに、あの娘は首相となって、アルサレアを導く立場に就いた」
俺だったら、絶対に逃げ出していたよ
暗い笑顔でそう呟いて、彼は再び顔を俯けた
組んだ腕の中に顔を埋め、一人小さく呟きを漏らす
「俺は・・・・・本当に、駄目だ、無力なんだ。俺は、何も、成し遂げていないのに。
前将軍閣下を護れなかった。クレア様を護れなかった。あの娘の大切な物は片端から奪い去られたのに、俺は何もできなかった。
あの娘から何もかもを奪ったのはヴァリムなんかじゃない。あの娘を利用していた、俺達なんだ・・・・・」
『貴方が殺したのよ』
フォルセア・エヴァはそう言った
いつか、多くの人々の口から自分に向けられるであろう言葉を
あの娘の口から、自分に向けられるべき言葉を
責めてくれれば良かったのに
泣いてくれれば良かったのに
お前の所為だと言ってくれれば良かったのに
なのに、彼女は責めなかった
なのに、彼女は泣かなかった
お前の所為で家族はみんな死んだんだと言わなかった
今でも彼女が話し掛けてくれることが、彼の心を斬り刻む
今でも彼女が笑顔を見せることが、彼の心を斬り刻む
今でも彼女がそこに居ることが、彼の心を斬り刻む
今でも、フェンナが好意を抱いてくれていると言うことが、グレンリーダーの心を狂わせる
彼女の父を死なせたのは自分なのに
彼女の姉を死なせたのは自分なのに
なのに
なのに、
「フェンナを、一人にしたのは、本当は、俺なんだ・・・・・」
独房の片隅の暗闇に、彼の嘆きを積もってゆく
先程からずっと黙りこくっていたシオンが、ふと腰を上げた
手首は手錠に拘束されたままだ
先程までは、グレンリーダーの独白に衝撃を受けていた様子だったが、今はそんな様子が微塵も無く表情を消している
ゆっくりと、鉄格子を隔ててそこに居るグレンリーダーの方に歩み寄り、
ガンッ!!!!!!!!!
鉄格子を蹴り付けた
悪戯を見咎められた子供のように、グレンリーダーが驚いて顔を上げる
そして、そこにあった憤怒の形相に、僅かだが怯えが走った
「失礼を、致しました」
ゆっくりとそう言ってシオンは背を向け、座っていた椅子に戻る
先程の瞬間まで、シオンにとってのグレンリーダーという存在は、“同じ人間では無い特別な存在”だった
“グレン小隊”とは伝説の名であり、その小隊長の名とは、歴史の教科書に載る類の物だと思っていた
でも、本当は、違ったのだ
考えてみれば、当たり前のことだった
誰もがそう感じるように、彼だって際限なく悩み、のたうち回るほどに苦しみ、葛藤の末に答えを見出していったのだろう
同じ、人間なのだから
いつか、彼は自分の事を罪人だと言った
彼の背負った罪の十字架とは、前将軍とクレアの二人を護れず、フェンナをこの世の地獄に突き落としたことだ
そう、彼は思っている
「閣下の自責の念は、わかる気がします」
気がする、というだけですけどね。と、シオンは付け足した
そして、思うことを口にする
「だから、重荷を下ろそうとしているんですか?今回の一件を利用して」
「・・・・・」
図星なのだろうか
グレンリーダーは何も応えない
常のシオンなら、『逃げる』という事は肯定しただろう。だが、今回だけはそうはいかない
自分でどう思おうと、彼はアルサレアの将軍なのだから
「自分の立場をどのように受け止めているのかは私にはわかりませんが、
閣下の存在は、アルサレアに住まう人間の、兵団の一人一人にとっての、希望なんです。きっと、首相閣下にとっても」
「・・・・・」
「少し前に、隊にいる先輩みたいな人に言われたんです。『指揮官なら迷うな』『迷う前に叩き潰せ』って」
「・・・・・それで、君はそうなったのか?」
グレンリーダーの言葉に、シオンは首を横に振った
「まだ、迷っています。自分本位の事しか、できていませんから」
結局はそうなのだろう。と思う
アルサレアかヴァリムか、どちらかを選ばなくてはならない。そして自分はアルサレアを選んだ
それだけの事なのだろうと
理由なんて、大袈裟に考えすぎていたのかも知れないと、今は思うことがある
リンナのような特殊な理由も有れば、オスコットのような実にささやかな理由から戦う者もいる
ムラキや自分のように、戦いに理由を見出せず、ただ、ただ生き残る為に戦っている者だって居るだろう
だけど、どんな理由があったって、理由なんか無くたって、結局“戦う”ことは同じなのだ
「『迷う前に叩き潰せ』。それも答えの一つなんでしょうけど、神様がその解答に花丸つけてくれるとは限りませんしね。でも」
「・・・・・」
そしてシオンは叫んだ
独房の闇に積もる嘆きよ吹き飛べ、とばかりに
力の限りに、言い放った
「迷ってばかりじゃ何も始まらないんです!!!!始まってもいないのに幕を下ろそうなんて考えてどうしますか!!!!!!」
無限に感じた彼との距離が、ようやく5m程に戻ってくる
ずっと耐えてきた
ずっと被り続けてきた、ヒビの入った“将軍”の仮面
たった一人、護れなかったあの日、誓ったはずなのに
フォルセア・エヴァが、言った様に、自分は決められているのかも知れない
いつも、大切な人を護ることができない、と
だけど、
だけど、あんな奴に言いっ放しにされてどうする!?
「やっぱり、駄目だな。俺は・・・・・乗り越えなきゃいけないのに、すぐ元に戻ってしまう。
君の言うとおりだ。まだ、俺は将軍として、何も始めていないのにな・・・・・」
シオンの恫喝めいた大声の余韻が独房から消えた頃、彼は腰を上げて、自嘲気味に呟いた
「・・・・・でも・・・・・大丈夫だ。もう、問題無い」
ようやく、笑みが戻った
どこか無理をした、強ばった感じの笑顔だが、それが、グレンリーダーの笑顔であることに間違いは無い
その事にようやく安堵を感じると同時に、先程までのやり取りを思い出して大いに焦りを覚えるシオンである
“将軍”に向かって、“中尉”風情が何という無礼な口の利き方をしてしまったのか
「・・・・・あ、えと、その、先程の事は、できれば内密に・・・・・」
「あぁ、そうしてくれると俺も助かる。
参ったな、君を助けるつもりで来たんだが・・・・・助けられてばかりだ。様ぁ無い」
「助ける、と言ってもどうやってですか?」
「マクドガル中尉。俺を誰だと思ってるんだ?」
シオンの疑問に質問の言葉を返し、グレンリーダーはどこか不敵で得意げな笑みを作った
「将軍閣下は将軍閣下ですけど・・・・・!!?」
「何だ。わかってるじゃないか」
そう言って彼がポケットから取り出したのは、じゃらじゃらと金属音を立てる鍵束だった
躊躇うことなく数本の内の一本を独房の錠前に突っ込む
そして手首を捻って鍵穴に突っ込んだ鍵を回そうと
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
慌ててシオンが立ち上がった時には、錠前は実に小気味良い、がちゃん、という音を立てている
グレンリーダーがきょとんとした顔を上げ、
「どうしたんだ?」
「閣下は、何をしているかわかっているのですか!!?」
「勿論」
二の句に詰まるシオンである
だが、そんな彼には構わずグレンリーダーは独房の扉を開け放ち、別の鍵を指に挟んで一歩踏み込んできた
「“将軍”の権限で、マクドガル中尉、君を釈放する」
「しかし、自分は「君の功労への恩賞にしちゃ安いものさ」
3mに距離が詰まる
手首から肘の間を拘束する5つの手錠をジャラつかせながらシオンは後ずさる
ここで自分が解放されてしまったら、カンドランドの抗議は誰に向かう?
“ヘルファイアを撃った張本人”が居なくなってしまったら、抗議の向かう先は“ヘルファイアを用意した者”だろう
それはつまりグレンリーダーであり、アルサレア兵団のトップが槍玉に挙げられることになる
一大スキャンダルであり、失脚の危険さえ容易に考えられる
そんなことはあってはならない
「これは、自分の負うべき責任なんです!」
「・・・・・」
強い意志の込められたシオンの眼を、困った顔でグレンリーダーは見やり、指先に鍵束を回しながら彼に尋ねる
「死ぬことになってもか?」
「・・・・・」
「先程、Gエリアのゴスティール山脈基地から通信があった」
「え!?」
「君に用があったらしいんだが・・・・・向こうはかなり驚いてたらしいぞ」
思わず苦笑する両名である
「アイリとオールティー伍長が、電話口で必死になっていたよ。君の隊にイズミ軍曹というのがいるらしいな」
「・・・・・えぇ」
「“大変なことになっている”らしい。アイリが言うんだから相当なんだろう」
たらり、と冷や汗が頬を滑り落ちた
シオンは知らないことだが、リンナは一度、アイリ機:ストラングルの鼻先にヒート・グレイヴを一挙動で突きつけた事もあった
その被害者だったアイリだから、必死でリンナを説得しているのであろう
あの娘が本気で暴れ出したら、ましてそこにシオン・マクドガルの生き死にが絡んでいたなら、
多分、グレン小隊でも無傷では止められる自信が無い。フォルセア・エヴァでも連れて来るしかないだろう
「いいか、マクドガル中尉。まだ、君の役目は終わっていない。君の戦場はまだ無くなっていないんだ。身代わりなんて考えるな」
「・・・」
「君にしかできない事がある。君にしか護れないモノがある。君にしか託せない未来がある」
ぽん、と肩に手を置き、グレンリーダーは限りなく透明な素顔で、シオンに懇願した。心から
「だから、頼む。こんな所で終わらないでくれ」
シオンは顔を俯けたまま、何も言えなかった
どちらが正しいのだろう
このまま自分が罰を受けて、今回の一件に始末を付けることか
グレンリーダーに責任を引き受けてもらい、彼を悪役にして騒動を収めることか
できれば、第三の選択を選びたい
誰も悪役にならずに済む、そして事件の全てを収拾できるような、そんな選択をしたかった
だけど、現実にそんなことはできないし、そうする手段も、二人は全く持ち合わせていなかった
あくまで、“二人は”
「うーっす、中尉さん。いるかぁ?」
「キース?」「エルヴィン中尉?」
独房の中で、グレンリーダーが振り返り、シオンが顔を上げた
何故か開いている独房の扉と、独房に入っているグレンリーダーと、彼の持っている鍵束を視認して、キースはでっかい溜息をついた
「隊長〜。何考えてるのかはよっくわかるんだけどさ・・・・・そりゃぁ、やめとこうぜ」
「キース、しかし「あぁ。わかってるわかってる。隊長の考えそうなことはよ〜〜〜っくわかってるって!」
ほら、出た出た
そう言いながらグレンリーダーの肘を掴んで独房から引っ張り出し、スリじみた手つきで鮮やかに鍵束を取り上げている
錠前に鍵を突っ込んで元通りに施錠をし、シオンの方を見て、申し訳ない、という表情になった
「悪ぃ、中尉さん。何とかするからもちっと辛抱しててくんないか?あと3日ほど」
「それは構いませんけど・・・・・エルヴィン中尉、一体何を企んでいるんですか?」
「今は秘密。ま、そのうち判るさ・・・・・・それと」
へらへらした表情を一変させて、キースは真剣な顔を作った
その表情の変化にただならぬ気迫を感じ、シオンは固唾を呑む
「何ですか?」
「中尉さん、クラン中尉に、いつかのヴァリムの情報の出所とか、内通者の有無とかを探って貰ってたんだってな?」
「えぇ、何か進展が?」
「良くて悪い知らせだ」
「はい?」
キースの言った言葉の意味が掴めずに、思わず聞き返してしまうシオンである
良くて悪い知らせ、というと・・・・・それはつまり、「良い知らせ」なのだが「内容が悪い」という意味だろうか?
「それは、どういうことですか?」
「容疑者が挙がった。あっちじゃぁ、もう拘束しているらしい」
シオンは思わず椅子を蹴って立ち上がり、鉄格子に歩み寄った
「それで、誰だったんですか?詳しい事はまだ判っていないのですか!?」
「・・・・・良いか、中尉さん。落ち着いて聞けよ」
素直に頷き、深呼吸をした
大きく吸って、大きく吐く
視線を上げてキースの顔を見る。彼の口がゆっくりと動き、
「逮捕されたのは、ルーキー。ジータ・ランバート軍曹だ」
「・・・・・は?」
長い沈黙の後、シオンはようやくそう言った
<発令所:オペレーター席>
「・・・・・それ、嘘や冗談や演出の類じゃないの?」
『残念ながら、ね。私だってそう言いたいわ。まさか隊長が逮捕されているなんて・・・・・』
レシーバーから聞こえてくるクランの言葉に、腰が抜けるほどの衝撃を受けたシュキが辛うじてそう言い、クランが言い返した
ジータ・ランバート逮捕の一報は、実はまだ伏せていることがある
今、クランが伝えたのは、「ジータ・ランバート軍曹が内通者である疑いが強い為、一時拘留している」という情報であって、
「ジータ・ランバート軍曹が実はヴァリム人で独断専行の末、敵前逃亡、友軍機への攻撃、通敵容疑の罪で逮捕した」とは言っていない
言えるか、んなこと
Gエリアに残っていた面々で相談した結果、取りあえず、ジータの生い立ちなどに関する事実は伏せておく、という事にしたのだ
シオン達へ知らせるのは、直接口頭で、という事に決めている
彼をどう裁くにせよ、それまではコバルト小隊に余計な混乱を持ち込みたくない。というのが全員の本音だったからだ
ショックから立ち直ったシュキが、明るい口調でクランに話す
こういう時、彼女は強い
「あ、でもこっちはダイジョブ。隊長の行動は確かに独断だったけど、何とかできそうだから」
『何とか、って、あなた達は一体何をするつもりなの?危ないことや人に迷惑を掛けることはしちゃ駄目ですからね』
「はーい、わかってますって」
『ならいいけど・・・・・』
まるっきり、姉と妹のやり取りにしか聞こえない。もしくは、母と娘
だが二人の年齢差を考えれば、母親というのはクランに失礼か
『それと、シュキ』
「ん、何?」
『先程、エルヴィン中尉から話を聞きました・・・・・貴方、見せたのね?』
「・・・」
クランの一言に、シュキの顔色が変わった
そこにあるのは、インペリアルに乗らされた時と同じくらいの、明確な恐怖と怯えの色だ
赤毛を俯かせ視線は意味も無くキーボードを追い始める
禁忌を犯したことを責められているような、そんな風に見えた
『約束、したわよね。勝手に、貴方の技術を見せてはいけない。と』
「・・・・・ごめんなさい。でも・・・・・」
何を言っても言い訳にしか受け止めてくれないだろう
そう思いながらも、シュキは顔を上げて反論しようとした
キースに促され、グレンリーダーに依頼され、自分はウィルスの解析をした
そして、フォルセア・エヴァとの対抗策としてインペリアルへの搭乗を求められた
命令では無かったが、彼女はシオンと共にPFに搭乗し戦場を駆け、ヴァリムの撃退に一役買った
最後にはヘルファイアの無断使用の幇助までしている
罪を問われるなら、シオンと同列に扱われても文句は言えないだろう
「・・・・・でも・・・・・」
涙で瞳が揺れている
クランとの「約束」は、彼女が今までの人生の中で交わしてきた誓約の中で、最も重いものだった
それを、自分は破ってしまった。“電子情報戦略の技は軽々しく使わない”という約束を
禁忌を犯した畏怖が心を締め上げ、嗚咽が喉からせり上がってくる
ごめんなさい。そう言いたいのに、言葉が言葉になりきらない
唇から出てくるのは、嗚咽になりきらない、しゃくり上げるような吐息しか出てこない
『・・・・・良いのよ』
「へ?」
モニターの向こうで、“先生”は優しい、どこか寂しげな微笑みを浮かべていた
『涙を拭いて、胸を張りなさい、シュキ・オールティー!』
「は、はひっ!!」
情けない返答の声に苦笑しながらも、クランは言葉を続ける
『良く、頑張ったわね』
褒められた
その事実が脳味噌に染み込んで理解するのに、数秒の時間を要するほど彼女は驚いた
クラン・ネルモアに褒められた
彼女の指導下に入ってオペレーター修行を始めてから、こんな風に面を向かって褒められたのは、初めてではないだろうか
いや、間違いなく初めてだ
その事実が、飛び上がりたくなるほどに嬉しくもあり、同時に凄まじく居心地を悪くさせる“照れ”が襲ってくる
結局、顔を輝かせたり俯かせたりしながらシュキは何も言えない
そんな教え子の奇妙に悶える様子を微笑ましそうに見守っていた先生は、愉しそうに唇を綻ばせている
『シュキ、貴方・・・・・何をしているの?』
「あ、え、いや、その」
口から出そうになる言葉が、「ありがとうございます」とか「勿体無いお言葉です」とかいう大袈裟な言葉になりそうで、
そんな台詞が似合う筈もないのに、突然の事態にシュキは空転する思考の中で戸惑うばかりだった
百面相じみた彼女の表情の変化を見守っていたクランが、不意に表情を引き締めた
それにつられるように、シュキも表情をびしっと引き締める
『とにかく・・・・・隊長に関する出来事は欠かさず報告を入れて頂戴。リンナが大変だから』
「あ゛、やっぱし?」
『えぇ。こちらからも、何かあったときは連絡を入れるわ。隊長には必ず貴方から口頭で伝えて。良いわね』
「はぁい」
『返事は短く!』
「はいっ!」
シュキは深く考えずに返答を返したが、
“必ず貴方から口頭で”ということは、連絡の内容をできるだけ他人に知られぬように、ということである
深く考えれば、そうした指示の向こうにある、“何かを隠している”ということに気付けただろうが・・・・・
生憎、彼女はシュキ・オールティーであった。クランの言葉に疑問を抱く筈もなく、彼女は着々と仕事をこなす
キースとアイリから頼まれた、シオンの釈放の為に必要らしい、情報の収集と、一部の改竄を
<三日後:早朝>
「やれやれ、やっとあの忌々しい抗議から解放されるのかと思うと、肩の荷が下りた気分になるな」
太った中佐は、寝起きらしく弛んだ肉体を弛んだ動作で解しながらそうぼやいた
誰もが寝不足、もしくは徹夜明けという状況下にあった割に、その顔は精彩に満ちた色艶の良い顔色だ
何だかんだと言いながら、肝心なところは他人任せにしていたのだろう
そうしていると、控えめなノックがドアから聞こえてきた
訝しみながらも応えを返す
「中佐殿に、火急の用向きがあると言う者が来ておりますが・・・・・」
「火急の用向き・・・・・?何処の誰だ?」
「兵団本部勤務の事務准尉だと聞いております」
事務准尉、という言葉に中佐の機嫌は一気に斜めに駆け下りた
怒鳴りつけて追い払いたい衝動に駆られつつも、兵団本部から来た者を無下に扱うのは不味いかと思い直し、通すように命じる
数分後、入ってきたのは、紅茶色の赤毛を背中で三つ編みにし、ごついフレームの眼鏡を掛けた小柄な女性士官だった
「早朝より申し訳ありません。兵団本部の命により、中佐殿に火急の用件があって参りました」
「御苦労、話を聞きましょうか」
椅子を勧め、二人は座って向かい合った
そこで、中佐の脳裏に不意に“何か”が浮かんだ
どこか遠目に、この女性を見たことがあるような気がするのだ
だが、どんなに記憶を巡らせても“気がする”という以上の事を思い出すことができない
「用件のみ、お伝えいたします」
「う、うむ」
斬りつけるような鋭い口調
どこか、気圧されそうになる自分に戸惑いながら、何とか体面を繕う
が、そんな体面も次に発せられた言葉に呆気なく崩壊する事になった
「本日の軍法会議で処罰される士官、コバルト小隊隊長:シオン・マクドガル中尉の判決を無罪とさせていただきます」
「・・・・・何を仰られるのかと思えば、それは兵団本部の意向なので?」
「勿論」
惚けた顔つきを何とか持ち直し、余裕の表情で問いかける中佐に、准尉はあっさりと頷いた
「そ、それはどういう理由でかね!?」
「それをお話ししている時間がありません。詳しくは軍法会議の場に於いてお話しいたします。では」
「ま、待ちたまえ!!そ、それは兵団本部の決定なのか!?責任者は誰だ!!」
「ご安心ください中佐殿・・・・・貴方に責任を被せようなどとは思っていません」
「そういう事ではない!!」
声を大にしてそう言いつつも、内心はどっと安堵している中佐である
席を立って、ドアノブに手を掛けていた准尉がゆっくりと振り返り、窓から降り込む朝日の光を眼鏡に照り返しながら、こう言った
「“アルサレア側にヘルファイアを使用した事実は無い”そうしたシナリオを既に組んであります。
貴方は、黙って、それを認めてくださるだけで良いんです」
ゆっくりと、念を押す様な口調で言ってくる
小柄な、しかも女性の下士官に、何故これほどの迫力を感じるのか、明らかに気圧されつつある自分に苛立ちながら、
中佐は先程の口にした質問を繰り返した
「だから、それを画策したのは、誰なのかね!!!」
「・・・・・・・」
准尉が、ゆっくりと眼鏡を下ろした
そして、にっこりと微笑を拵える
天使のような微笑みに、中佐の顔が驚愕に引きつってゆく
あり得ぬモノを見たような
あってはあらぬモノを見たような
気が遠くなるような思いを感じながら、彼は全てを諦めた
やがて日が昇り、喧噪が戻ってくる
そんな気配を壁越しに感じながら、シオンは溜息を一つついた
多分死ぬだろう。そう思ってはいる。だが、そこには勿論恐ろしさがあった
「出るんだ」
憲兵にそう言われ、立ち上がる
拘束はそのままに、官舎に向かって歩かされる
そこが、軍法会議の会場であった
「静粛に!!」
法務大佐が静粛を求め、水を打ったように、喧噪が静寂へと転じる
傍聴席にはシュキ、マコト、チェンナ、サリア、セイバーの姿が目に入った
だが、グレンリーダーやキース、アイリの姿がそこにはない
(まぁ、良いか)
内心でそう呟いて、彼はしばし瞑目した
軍法会議、というのは、傍目に見れば裁判の形式に則り、審議の判決を言い渡す場のように思えるが、
実際は違う
軍法会議に於いては、裁判の様な審議はほとんど“しない”
この場は、被告の有罪無罪を決める場ではなく、ただ判決を言い渡す場だからだ
何故なら、殆どの場合、被告人が己の罪状を認めており、物的証拠や証人などが挙がっているケースが大半だから
だから、罪を犯した者も最初から腹を括って、諦めている
「どうせ自分は死刑だ」と
そして、シオンもそうであった。朗々と語られる自分の罪状を聞きながら、「どうせ自分は死刑だ」と思っている
ヘルファイアの無断使用と、それに伴うカンドランドへの被害
ヴァリムを撤退させたという功績もあるが、カンドランドからの抗議と世論の口撃の前には壁にもなるまい
だから、何を言われても驚かないつもりだった
どんな判決が下されても、それは当然のことであり、全てを受け入れる。どこか満ち足りた気持ちさえあった。そんなつもりだった
その、つもりだった
「―――以上の罪により、シオン・マクドガル中尉を・・・・・銃殺とする」
やはり、ショックだった
「死ね」と命じられた衝撃は、眼を堅く閉じていても目の前を漆黒の闇に落とすほど、痛烈なものだった
傍聴席から猛烈なブーイングが迸り、途端に場が騒然となる
主に抗議の叫びを上げているのは、若い層の士官の様だった。たちまち官舎を揺るがすような大騒ぎになってゆく
憲兵連中が雪崩れ込み、傍聴席の士官達を追い出そうと警棒を振りかぶるが、
「・・・・・待ってください!!!!!」
不意に発せられた鋭い一声に、満場一遍に静まりかえった
軍法会議という場に於いて、まさか下された判決に異議を申し立てる者が居るとは思っていなかったのだろう
いそいそと退出しようとしていた法務大佐が足を止め、怪訝な顔をしながら再び席に着く
言い逃げに走らなかったのは、制止を呼びかけたのが兵団本部から送られてきた人物であると言うことを聞いていたからだ
傍聴席の面々も顔を見合わせて、成り行きを見守っている・・・・・憲兵と睨み合いながら
この事態に最も驚いたのは、言うまでもなくシオン・マクドガル本人である
(・・・・・誰だろう?)
紅茶色の赤毛を三つ編みに結い、ごついフレームの眼鏡を掛けた事務准尉は書類の束を挟んだクリップボードを胸に抱えて立ち上がった
そして、毅然とした口調で言い放つ
「判決に対し、異議を申し立てます」
「ふむ、貴官の姓名は?」
「申し遅れました。アルサレア機甲兵団所属、フェ
電源が落ちたかのように、不意に彼女の言葉が止まった
誰もが怪訝な顔になり、「フェ」の続きを待っている
「フェ・・・・・何かね?」
「フェ、フェン・・・リエッタ。フェンリエッタ・クラ・・・・・じゃない・・・・・クローヴィス事務准尉であります」
「?」
その名乗りにますます怪訝な顔になる一同である
裁判長である法務大佐が、ひとまず全員の着席を命じ、憲兵も脇に控える形になった
そして彼女、フェンリエッタ・クローヴィス事務准尉が書類を捲って話し始める
「本部の調査結果から、シオン・マクドガル中尉の行動が銃殺にあたるということは考えられません」
「ヘルファイアのような大規模破壊兵器を免責条文も無しに使用した罪は軽くは無い。
敵軍撤退という功績もあるが、カンドランドの被った損害も甚大であり、悪しき先例となりかねない事態だ。銃殺が妥当である」
再び、傍聴席に緊張が戻る
気の早い奴が立ち上がって、隣席の面々に押さえつけられている
「マクドガル中尉がヘルファイアを使用したと?」
「その通りだ。現に起こったあの規模の爆発はそれ以外の説明がつかないだろう」
「その様な事実はありません」
シオンが振り返った
その顔は、はっきりと驚愕に彩られている
(ヘルファイアを使用した事実が無い?何を言ってるんだ彼女は?!)
ざわざわと傍聴席がざわめき始める
それを押しとどめるはずの憲兵達も呆然と立ちつくしていた
呆気にとられた法務大佐が慌てて静粛を求めて木槌をがんがん振り下ろしている
「じ、事実が無いとはどういうことだ!?ならば、あの爆発は!!」
「ご説明します・・・・・兵団本部の調査結果では、先の戦闘での大爆発は、確かにヘルファイア級の大規模破壊兵器のモノでした」
フェンリエッタが静かに言い、その言葉に法務大佐はふんぞり返った
だが、次の瞬間にはそのふんぞり返った姿勢は、椅子ごとひっくり返りそうなる羽目になる
「ただし、敵の。です」
「て、敵の?」
「それについては、数多くの証拠、証人がいます」
そう言って、フェンリエッタの脇に進み出てきたのは、
いつものお調子者の仮面はどこへやら、別人の様に凛とした顔つきのキースである
「アルサレア機甲兵団第一特務小隊隊長、キース・エルヴィンであります。
自分は、確かに、敵機がヘルファイアを装備しているのを確認いたしました!
敵機種、識別名称:デススコーピオンと呼ばれるヴァリムのPFは、ヘルファイア使用による一撃離脱を定石とする高機動機。
仮に、敵が同型のレールキャノンを装備していた可能性もありますが、恐れながら小官そうとは思えません。
戦況、敵機の装備していた電波迷彩装備等から、敵軍が死なば諸共の気概で攻め寄ってきたとなら、
装備はまず間違いなくヘルファイアであろう。そのように愚考いたします!」
「ちなみに、彼の証言には他多数の賛同者がおります」
長々とした証言の後、キースは一礼して踵を返し、退出してゆく
その去り様に、呆然としているシオン目掛けていつもの顔で目配せを一つ残していった
キースの証言に賛同する声が傍聴席から響いてくる
前代未聞の審議劇に、法務大佐は静粛を求めることも忘れ、喘鳴の様な口調で言葉を紡ぐ
「し、しかし、当基地に残っていた記録によれば、間違いなくヘルファイア装備のPFが存在していたのだ!
出撃直前にそれを制止しようとしていた者もいる!中佐!!」
「はっ」
太った中佐が席を立った
法務大佐に一礼し、弛んだ顎の汗をハンカチで拭って、弱り切った顔で彼は呟いた
「実は、あの時は自分も緊急時故焦っておりましたので・・・・・証言に絶対の自信はありません」
「な」
法務大佐が信じられないと言う顔で中佐の方を振り返る
だが、その視線の先にある巨体は、素知らぬ顔で着席していた
ヘルファイア使用による世論からの追求を免れる為、結託してシオンを生贄にする算段を立てていたのに!
そして、フェンリエッタは容赦しなかった
「当基地にヘルファイア装備の機体が搬入されていた事実はありません」
「馬鹿な!!記録を調べればすぐにわかることだ!!」
今度こそ、法務大佐は怒鳴り声を上げた
だが、そんな怒声には毫も怯まず、赤毛の事務准尉殿は素っ気ない口調で一言言っただけだ
「どうぞ」
「な、何?」
「どうぞ、記録を調べてください。その様な事実があったかどうか」
法務大佐の憤りに満ちた視線で睨み付けられた気の毒な担当官が、慌てて端末に向かって記録を改め始める
その背中を、ある者は不安そうに、ある者は余裕綽々の顔で、ある者は戸惑いながら、ある者は冷然と見守っていた
そして、その担当官が振り返り、
「ヘルファイアを装備していた機体が搬入された記録は、残されていません」
ょし!
後ろの方で、シュキとマコトが二人でガッツポーズを決めていた
それを横目に見たシオンは、溜息と共に確信を抱く
キースの言っていた「何とかする」というのは、全てを“無かったことにしてしまおう”というとんでもない力業だったのだ
だが、疑問は残る
あの事務准尉は何者なのか
何故、こうまで都合良く協力してくれるのだろうか?
疑問は尽きないが答えも出ない
取りあえずは、成り行き通りに進むしかない
「記録に残されていないだと!?よく調べろ!」
「・・・・・やはり、記録されていません」
基地のPF搬入・搬出記録というのは通常、必ず残されるようになっている
識別番号、所属、武装、コールサイン、搭乗者等、詳細に至るまで
そうした記録は、データの重要度としてはとても高い位置にあり、書き換えなどは不可能だ
普通なら
だが、法務大佐は知らない
本気のシュキ・オールティーに突破できないプロテクトは無い。という事を
「先の戦闘で、シオン・マクドガル中尉が搭乗したのは、通常の炸薬弾頭を搭載したレールキャノンでした。
砲撃距離を延ばすためにリニアバレルを延長したモデルを搭載していたのです。そちらの記録はありますよね?
識別番号は・・・・・」
フェンリエッタの指示に、担当官は三度キーボードを叩いて記録を洗う
「あ、ありました!間違いありません」
瞠目する法務大佐とは対照的に、フェンリエッタはにっこりと笑顔を浮かべた
書類の束の間からディスケットを一枚抜き出して、
「それでも信用されないだろうと思って映像記録とレコーダーも持参して参りました。
“マクドガル中尉がレールキャノンで、ヘルファイア装備のPFを撃破、後にその機体のヘルファイアが誘爆する瞬間”
ご覧になりますか?」
「・・・・・もう良い。結構だ」
苦虫を纏めて噛み潰したような顔の法務大佐が、諦めきった口調でそう言った
その顔に、我が意を得た事を確信したのであろう。フェンリエッタが一礼して着席する
だが、法務大佐はシオンの無罪を宣言するではなく、逆にシオンに問いかけた
「シオン・マクドガル中尉。数々の証拠から君がヘルファイアを無断使用したという事実が無いと言うことが判明した」
「・・・・・」
シオンは、何も言わない。言えない
そんな彼に構わず、法務大佐は猛禽じみた目つきで、彼に最後の質問を投げかけた
「これらは、全て真実なのかね?」
「・・・・・」
シュキと、マコトと、チェンナと、サリアと、セイバーと、
陰から見守るキースと、アイリと、そしてフェンリエッタの視線が彼に集中する
どちらが正しいのか、本当に正しいこととは何なのか
シオンは、それを考えていた
キース達の手回しによって、どうやら自分のヘルファイア使用という“事実”は闇に葬られたらしい
だが、それは嘘だ。間違いなく嘘なのだ
ここで、「そのような事実はありません。自分は確かにヘルファイアを無断で使用しました」と答えれば、
間違いなく自分は罪に問われ、多分処刑となるだろう。だが、それが本当なのだ
「どうしたのかね、マクドガル中尉」
法務大佐の声が低く響く
罪を犯した者は、罰を受けなくてはならない
そして、自分は罪人だ。罪は罰によって贖われるべきだ
(今は・・・・・贖罪の為か)
不意に、グレンリーダーの言葉が脳裏に蘇った
(俺は罪人なんだ・・・・・本来は、こうして生きていることを許されるはずがない程の大罪を犯している・・・・・)
彼も、自分を罪人だと言い、贖罪の為に戦っていると言った
(フェンナを、一人にしたのは、本当は、俺なんだ・・・・・)
血を吐くような、感情の吐露
決して容易には理解できないであろう、刻みつけられた傷と罪科
己を呪いながらも決して生きることを放棄せず、死よりも辛いであろう贖罪を誓ったグレンリーダー
過酷な運命を背負わされ、逃げるでも、ただ立ち尽くすでもない。立ち向かう事を選んだフェンナ・クラウゼン
だけど、自分はどうなのだろう
二人の様に、決して特別な人間ではないのに
それでも、グレンリーダーは言ってくれたのだ
(君にしかできない事がある。君にしか護れないモノがある。君にしか託せない未来がある)
それが何なのか、自分には未だにわからない
Gエリアの解放を指していたのか、それよりももっと大きな可能性を指していたのか、それはわからない
(だから、頼む。こんな所で終わらないでくれ)
「・・・・・あぁ。まだ、終われないんだった・・・・・」
ぽつり、と呟いた言葉はあまりに小さく、誰の耳にも届くことはなかった
ただ、シオン自身の心にだけ、深く響き、染み通ってゆく
まだ、終われない
まだ、何も成し遂げていない
諦念の極みにあった力無い微笑が消え、活力でも注入されたかのように“中尉”が戻ってくる
「・・・・・真実を私の口から言わなかったのは、決して怠慢だったわけではありません」
シオンの口から紡ぎ出される言葉に、彼を見守る者全員に笑顔が戻ってくる
「状況故、拘束も仕方が無いと思っていました。保身と取られては返って状況を悪くすると思い、真相の調査を待っていました」
「・・・・・だが、その為に君は冤罪で銃殺されるところだった・・・・・正気だったのかね?」
法務大佐の言葉にシオンは頷き、獰猛な笑顔を向けた
「頼れる仲間が大勢居るので、何とかなると確信していました」
彼を見守っていた者達の笑顔に、若干の照れが混じる
しばらくの沈黙の後、法務大佐は小さく溜息をついて、朗々たる口調で満場に告げた
「シオン・マクドガル中尉の判決を撤回・・・・・無罪とする」
歓声が弾けた
傍聴席で、シュキとマコトがハイタッチを決めている。セイバーが両隣からチェンナとサリアに抱き付かれて振り回されている
羨ましいと言うよりも気の毒にしか見えないのは何故だろう
視線を左方に移せば、キースとアイリが親指を立てた拳をぐっと突きだしている
キースはいつもの笑顔をにやっと輝かせ、アイリは不器用なウィンクを送っていた
彼らの側にいる事務准尉:フェンリエッタも、微笑を拵えて小さく手を振っている
これが正しかったのかどうかはシオンにはまだわからない
正しいのか、間違いなのか、選ぶべき選択はいつも難題にして酷薄を極めており、しかも時間制限まであるものだ
ならば、考えよう。時間の限り考えよう
どちらが正しいのか、何が間違いなのか、時間の許す限り考えよう
後は、選んだ答えに後悔しなければ良い。自分の答えを貫き通せば良い
ようやく、シオンは一つの結論を、いや、一つの境地に至ったのだった
<執務室>
「それで、結局悪巧みの首謀者は誰だったんですか?」
手錠を解かれて、手荒な復帰祝いをたくさんいただいた後、グレンリーダーの執務室に通されたシオンの第一声である
居並ぶ子分共の顔に、一斉に冷や汗が流れ落ちた
躊躇いがちにキースが進み出て、恐る恐る、と言う感じで口にする
「言い出しっぺは、セイバー」
「て、キース先輩!!僕になるんですか!!?」
そりゃそうだよ。という視線がセイバーに集中する
言い出したのは彼なのだから
「それに、まさかこんな方まで担ぎ出してくるなんて・・・・・」
「え?な、何の事でしょう?」
「演技は良いですから、もうバレていますよ」
シオンの視線の先にいたのは、フェンリエッタ・クローヴィス事務准尉殿である
だが、両手を顔の前でひらひら振って誤魔化そうとしている姿と、重そうな礼服に身を包んだ姿はなかなか直結できない
紅茶色の赤毛に、ごついフレームの眼鏡を掛けた、ふわふわした笑顔を浮かべている小柄な女性
彼女に向かって、シオンは言った
「フェンナ様なんでしょう」
「え゛!?」
がきっ、と奇妙なポーズのまま硬直してしまうフェンリエッタ、いや、フェンナである
「そんな、完璧な変装だと思っていたのに!!」
「ま、まぁ、ね」
引きつった笑顔でアイリが相槌を打った
確かに、フェンナの変装は良い線を行っていた
彼女を良く知る者が見れば、間違いなくフェンナと判ってしまうだろうけど、
そうでない者からすれば、オペレーター姿など見たことがない者からすれば、まずわからなかっただろう
シオンがフェンナの変装を見破ったのは、状況から鑑みた推理に過ぎない
後は、名乗る時にあまりに不自然に言い淀んだ所とか、都合良く協力してくれる人物とかを考えた結果だ
勿論、軍法会議が閉廷した後で、フェンナは法務大佐に正体を明かし、この件に関して一切の関与をしないことを約束させていた
こうして、サーリットン戦線での戦闘、その最中であったヘルファイアの爆発の真実は、完全に闇に葬られている
「しかし、何故フェンナ様が自ら?それも、変装なんかして」
「ま、最初はついでみたいな形だったんだけどな」
ぽりぽりと頭を掻きながらキース
彼の言葉をグレンリーダーが引き取って続ける
「フェンナには、カンドランドへの公式声明を発表する役割があって、こっちには来る予定だったんだ。
ただ、何の手も打たないままだと、アルサレアはヘルファイアの使用に対する批判を浴びることになるだろう」
「だからって、ヴァリムを一方的に悪者にすることは無かったでしょう。その建前のついで、自分は助けられたんですか?」
冷ややかな視線でグレンリーダーを見返すシオンだが、彼は語気を強くして言い返した
「違う。君を助ける課程で建前を組み立てたんだ。上層部への圧力を掛ける必要もあったしな。
あとは、オールティー伍長と、フライト中尉に手伝って貰って、ね」
「・・・・・シュキ、今更聞くのも変だけど、君はどこまで手を伸ばしたんだ?」
「えーと、ね、PF搬入記録の書き換えにレコーダーの抹消、証拠映像の捏造に・・・・・」
赤毛の少女が指折り思い出す姿に、シオンは果てしない疲労感と、同時に背筋が凍るような恐怖も感じていた
彼女の能力は、異能と呼ぶべきレベルだ
搬入記録の書き換え、などと簡単に彼女は言っているが、それは重要機密にあたる情報なのである
搬入記録=配備機体の全て、なのだから。そんな情報を護るデータベースに簡単にアクセスできる筈がないし、書き換えるなど論外だ
論外の筈だ
だが、シュキはそれをやってのけた
それだけではなく、他多数の記録の書き換えと抹消と捏造を、三日間という僅かな時間で、微かな足跡さえ残さず
彼女自身、判っているのだろうか?自分のやっていることが、どれほどの事なのか
「映像記録の捏造なんかはあたしも頑張ったんだよ」
「フライト中尉も、電情戦の技術が?」
驚いたシオンがマコトの方を振り返るが、視線の先にちょこんと座っている兵団最年少小隊長殿はううんと首を横に振り、
「映像の作成の方だよ。あたしのコレクションが結構資料になってね。例えば・・・・・」
「マコト、後になさい・・・・・申し訳ありません、始まると長いので」
機先を制してチェンナが止めた
膨れっ面になるマコトだが、彼女の性格がオスコットと良く似ていることを考えれば、彼女が何を始めるつもりだったのかは理解できる
マコトの趣味はロボットアニメ鑑賞である。しかもかなりマニアックなレベルの
そこで培われた彼女の知識と、文字通り肌身離さぬコレクションと称されている数多の映像ディスケット
よもや、提出された映像記録(捏造)が、ロボットアニメの一場面をベースに合成されたモノとは法務大佐は露も知らぬだろう
「さて、もうこの話は良いだろう。マクドガル中尉、とにかく君は今後もコバルト小隊を率いてGエリア解放を頼む」
「了解しました。ですが・・・・・」
気合の入った敬礼を見せるも、たちまちシオンの顔が曇った
何故なら、彼の愛機:インペリアルは先の戦闘で、フォルセア・エヴァのハーメルン・ヴォイスに操られた7機のヌエに、
完膚無きまでに、ろくに原型を留めた残骸さえ残らないほど破壊されたからだ
つまり、今の彼には乗るべき機体が無い
コクピットが残っているために、イメージ・フィードバック・システムなどの操作系を再調整しなくて良い分、
機体さえ有ればすぐに戦場に出ることが可能だが、乗り慣れた愛機の喪失、というのは片翼をもがれたに等しい
生半可な機体では足手まといにしかならないだろう
かといって、インペリアルと同型機を手配していたのでは時間が掛かりすぎる
どうするべきかを考えていると、フェンナがシオンに声を掛けた
「機体の事でしたら、既に解決済みです」
「え?」
「悪いが、君の裁判中に勝手に引き渡し書類にサインをさせて貰った・・・・・最優先で整備中だ」
山のような書類を叩いて、グレンリーダーは不敵な笑みを浮かべた
「それで、その機体ってどんな機体なんですか!?」
瞳を輝かせ、身を乗り出して質問の言葉を口にするのは、何故かアイリだ
「それって新型?まさかレディメイドのカスタムモデルなんかじゃないよね、何か秘密兵器とか必殺技とか有るの!?」
それに続くのは今更言うのも阿呆らしいがマコトである
キースがアイリのパイロットスーツの襟首を引っ張り、チェンナはスリッパでマコトの後頭部を張り飛ばした
抗議の声を叫びながらも二人は席に戻ってゆく
突然の事に目を丸くするグレンリーダーとフェンナだったが、咳払いを一つして威儀を正し、言葉を続ける
「ただ、機体の引き渡しは、君に直接行って貰わなきゃならないんだ」
「それは、何故ですか?」
「既存のコクピット周りとは規格が違ってね。フィードバックなんかの調整が必要なんだよ」
「え、でも、既存のPFは全て、パーツと電子兵装に互換性があるのでは?」
シオンの言葉に、フェンナが応えた
どこか、重々しい口振りで
「あらゆる意味で、特別製の機体なんです・・・・・詳しいことは、行けばわかりますよ」
「・・・・・わかりました」
その意味深な言葉に、釈然としない思いを抱きながらも、シオンはひとまず頷いた
「それで、どこに行けば良いのでしょう?
やはり、兵団本部の研究施設へ?それとも、オルフェンの開発工廠ですか?」
シオンが挙げた二つの場所は、どちらもPFを製造・開発している場所としては真っ先に思いつくモノだ
だが、グレンリーダーとフェンナは揃って首を横に振った
全員の頭上に疑問符が浮かび上がり、口々に地名を挙げてゆくが、それらの全てが否定された
意見が出尽くし、沈黙する一同を前に、グレンリーダーは人差し指をぴんと立て、その指先に全員の集中する
それを頭上に向けた
全員の視線も天井に向かった
誰もが、即座にその意味を理解できなかった
「軌道エレベーターへの足は手配してある。宇宙、シード・ラボで受け取ってくれ」
<Gエリア:ゴスティール山脈基地>
通信を受けるクランの後ろ姿を食い入るように、コバルト小隊:留守番組の面々は見つめていた
そのレーザーの如き視線を後頭部に感じながら、クランはサーリットンとの、シュキとの通信をカット
椅子から立ち上がって振り返り、にっこりと笑顔を見せた
「隊長の無罪放免が認められたそうです」
その一言に、一同はどっと安堵の溜息をついた
リンナに至っては安堵の余り涙ぐんでさえいる
「そ、それで、隊長達はもうこちらへと戻ってこられるのですか?」
クランが差し出したハンカチで頬を拭いながらリンナが問うが、クランはその問いかけにはやや硬い表情で首を横に振った
その仕草に怪訝な表情になる一同であった
“逮捕”と聞いた時は、それこそどうなるのだろうと不安に思った物だが、今では無罪が確定している筈である
それなのに戻ってこられないとはどういうことなのだろう?
「サーリットンでの交戦で、隊長の機体:インペリアルが大破してしまったらしく、代替機を受領する為にしばらく遅れるらしいです」
「本人は無事なのか」
抑揚の無い口調
それを聞いたのはリンナではなく、意外にもランブルだった
ちなみにリンナは同じ質問を口にしようとして先に言われたために、口をぱくぱくやっている
「えぇ、隊長自身は軽傷だったそうです」
「へぇ、心配だったのか?ランブル」
からかい口調のオスコットに、ランブルは常と同じポーカーフェイスを保ったまま、実に明快に斬って捨てた
「無駄に他人ばかりを気に掛けていないかと。あいつはまだまだ甘いので」
「何言ってンだ?俺に言わせりゃお前さんだってまだ甘いよ」
「同感ゾイ」
熟年コンビに掛かっては“アルサレアの狂犬”も形無しである
オスコットは直後に、「ま、うちの隊長さんは大甘の甘ちゃんだけどな」と付け加え、それを聞きつけたリンナが猛然と睨み上げる
「・・・・・ジータに関して、あいつの意見は?」
呻くように言葉を漏らすムラキに、明るかった雰囲気は一変した
誰もが押し黙って、クランの言葉を待っている
『・・・・・にわかには、信じられませんね。まさか、ジータが・・・・・』
『しかし、あまりにも状況が悪すぎました。仮にあそこで拘束できていなければ、撃墜されていたと思いますし・・・・・』
『不幸中の幸い・・・・・とは言えないか。そういえば、“友軍機への攻撃”って、その時戦っていたのは誰だったんですか?』
『ペルフェクシオン、リンナでした』
『本人に怪我は?』
『ごく軽傷ですよ。帰られたらテーピングを換えてあげてください』
『?』
『いえ、こちらの話です。それと隊長・・・・・何だか口調が変わっていませんか?』
『え?あ、いや、その、グレン小隊と行動していたから・・・・・昔は敬語が癖だったから、戻ったかな?』
『ふふ、その方がとても“らしい”とは思いますよ。
・・・・・それはそれとして、ジータ君の処罰について、どう考えられますか?』
「それで、『あいつは言い訳をしたのか?』と隊長さんが?」
「えぇ」
オスコットの言葉にクランが頷き、一同は続きを促した
クランは困った顔で、溜息をつくように言葉を吐き出す
「私は、『いいえ』と答えました。そして、隊長は『それならあいつを信じましょう』と」
「・・・・・つまり、ほっとけって事かい?」
「そういうこと・・・・・でしょうね。命令違反のみ処分せよ。と」
「まぁ・・・・・あっさりと」
微妙な空気がオペレータールームに溢れた
安堵のようで、どこか違う居心地の悪さを感じさせる、戸惑いの混ざった空気
全員が胸中で思ったことを、やはりランブルが口にした
「それで・・・・・良いのか?」
誰も、即座には答えられなかった
ムラキは厳つい顎に手を当てて考え込んでおり、ギブソンは居心地悪そうに頭を掻いている
リンナはおろおろと一同の様子を伺い、オスコットさえ煙草を指に挟んだまま何も言えないで居る
意外にも、その沈黙を破ったのは、クランだった
実に明快に、あっさりと、彼女は言ってのけた
「良いんじゃないですか?本当にあの子を処分するつもりなんて、無かったんでしょう?」
「いや、そう、はっきり言われても・・・・・なぁ」
苦笑しながらも、同意してしまうオスコットとギブソンである
だが、ランブルだけはスカーフェイスのしかめっ面をそのままにこう言った
「ならば、処分は命令違反を犯したというだけ、か。
だが、あいつの素性無視して良いわけではないだろう。今後の行動には有る程度の監視が必要と思うが・・・・・?」
「ホント、お前さんって指揮官向きだよな」
オスコットの軽口に、ランブルは一瞬だけ本気の憎悪を込めた視線を向けたが、
その視線を向けられた本人は小さく肩をすくめただけだ
何を馬鹿なことを
ランブルは心中で吐き捨てている
自分が指揮官に向いている、などと
彼の経歴を知る者ならば、そんなことは絶対に言いはしないだろう
何せ、彼は“狂犬”、味方殺しのランブル・クリスティーンなのだ
そんな自分が指揮官に向いているなどと、悪い冗談か、さもなくば単にからかっているのか
「じゃ、取りあえず、ルーキーは命令違反ってことで、どうする?ムラキ」
「そうですね・・・・・独房、にはもう入っているか」
「じゃぁ、飯抜きなんてのはどうかのう?」
「アナクロですわね。大尉は・・・・・」
「アレはきついゾイ!」
「基地全部の窓拭きとかどうだ?」
「小学生じゃないんですから・・・・・って、この基地の窓全部!?凍死しますよ!」
「じゃぁ、便所掃除とか・・・・・おぃおぃ、そんな、本気で怒んなよランブル」
腕を組んだまま、ずっと黙っていたランブルが、スカーフェイスでぎろりと一同を睨み倒し、踵を返した
やってられん、とでも言わんばかりに
「俺はあいつを信用してはいません・・・・・何か怪しい素振りを見せればその時は撃ちます」
冷徹な口調
突き放すような冷たい態度
だが、歩み去る彼の後ろ姿を見て、オスコットとギブソンの熟年コンビは笑っていた
「あいつも、変わったなぁ」
「んむ」
「変わったって・・・・・どこがですの?」
思案顔のリンナが訊ねる
クランも同じような顔で、問いかけへの返答を待っている
「昔のあいつだったら、いちいちあんな事聞かずに撃ってたゾイ。いや、もうルーキーの奴は撃墜されてたろうなぁ」
「だな・・・・・隊長が伝染ったかぁ?」
弾けるような笑いが背中から聞こえてくる
だが、ランブルは決して振り返らなかった
<サーリットン:グレン小隊>
「さて、と」
シオンを軌道エレベーターに、マコトとチェンナをGエリアに送り出して、グレンリーダーは背伸びをした
氷が砕けるような音で、関節がごきごき鳴っている
「キース、アイリ、俺達も始めよう」
「了解ッ!」
「いえっさー」
アイリが実に気合の入った敬礼を返し、キースは実に気合の抜けた返答を返した
準備と言っても、これから三人が掛かるのは、PFの整備と言った類の準備ではなく、出発前の後始末だったからだ
詳しく言えば、書類の整理や各種手続きなどである
アイリほど気合を入れる必要は、まず、無い
「しっかし、隊長。どうして中尉さんをわざわざシード・ラボまで行かせたんだ?」
「言ったろう?特別な機体を引き渡すんだ。って」
「それにしても、わざわざ宇宙でなんて大袈裟すぎません?何か事情でもあるんですか?」
「あぁ」
二人の疑問に、書類を整理する手を休めずにグレンリーダーは答える
時にペンを走らせ、時に焼却炉行きの段ボール箱に書類を放り込みながら
だが、疑問を投げかけたキースとアイリは顔を見合わせるばかりだ
シード・ラボ
アルサレアの宇宙ステーションで、その名の通り、中身は主に研究開発機関である
前戦役の最中には、ヴァリムに急襲されたこともあり甚大な被害を被ったが、1年経った今では何とか再建されている
だが、宇宙空間というのは、兎角面倒な事が多い
“酸素が無い”“重力が無い”。当たり前すぎるこの2点。特に前者はいとも容易く人を死に至らしめる
それに、人間は元々重力下で生まれた生き物なのだ、無重力下では肉体的・精神的悪影響が大きい
デメリットだらけのようだが、それでも、このラボがPF開発に与えた功績は大きい
最初は精密機器の固まりだった陸戦兵器が、空戦仕様機へと代わり、無重力戦仕様機へと昇華していったのは、
間違いなくこのシード・ラボでの研究開発があったからだ
しかし
しかし、である
わざわざ、シード・ラボで開発しなければならない理由というのは何だろう?
工廠設備で言えば、間違い無く、シオンの挙げた兵団本部やオルフェンの設備の方が整っている
人員だって地上の方が断然多い
わざわざ、人手が少なく、そして設備で一歩劣る施設で開発しなければならなかったのだろうか?
無重力下の方が組み立ては確かに容易になろうが、まさかそれほどの大物という事はないだろう。オーガル・ディラムじゃあるまいし
「事情って、どんなだ?」
「あぁ」
キースの言葉に、グレンリーダーは書類に落とした視線をそのままに、右手のペンを紙面に走らせた
新しい書類の塔の頂に手を伸ばしながら、何でも無い事のように言う
「万一事故ったら、兵団本部が丸ごと吹っ飛ぶような代物らしいぞ。詳しいことは俺も知らないけど」
「。」
「。」
絶句
石のように固まったキースとアイリである
(んな機体、引き渡しても良いのかよ?)
(そんな機体、ホントに大丈夫なの?)
二人の声なき叫びは聞こえなかったようだ
グレンリーダーは書類の整理を黙々とこなしていった
・・・・・数十分後
ドアが控えめにノックされ、グレンリーダーが入室の応えを返す
ドアをくぐって現れたのは、やたらと重そうな最高位礼服のフェンナであった
眉根を寄せた険しい顔をしているのは、絢爛豪華な礼服の所為だろうか?
「どしたの?フェンナ」
「カンドランドの代表団と、何かあったのか?」
「いえ、そっちはどうにか丸く収まったのですが・・・・・Gエリアの戦況に異変があります」
さっと一同の顔に緊張が走った
フェンナは手に提げていたクリップボードから一枚書類を取り出して、全員で見れるように机の上に置く
黒髪と金髪と赤毛と栗毛が、執務机の上に頭を付き合わせた
「Gエリアのヴァリム戦力が、更に後退しているんです。二つあった拠点、メイモンデット島とリベル諸島方面。
その片方、メイモンデット島を完全に放棄して、リベル諸島方面に戦力を終結させているというのです」
「コバルト小隊は?」
「ムラキ・オニキス少尉の指揮下で、メイモンデット島のヴァリム基地を占拠、
敵残存戦力は無く、一切損害無くこれに成功とのことです」
「じゃ、敵の残りはマジでそこ、リベル諸島だけってこと?」
「はい」
頷くフェンナである
Gエリアの解放がいよいよ後一歩となった。それはとても嬉しい
だが、残存戦力を終結させたリベル諸島の守りは、途轍もなく堅牢なモノになっている
コバルト小隊が精鋭部隊とは言え、小隊規模でどうにかできる状態ではあるまい
「援軍には行くつもりだったが・・・・・これは好都合と見るべきか?」
「Gエリアの敵兵力のおよそ3割がヴァリム本土防衛に呼び戻されているらしいのです。
恐らく、今回のこの兵力集中は、手薄になった拠点から各個撃破されるのを恐れたのでしょう」
「そりゃそうだよな・・・・・」
「フェンナ、本土のヴァリムの状況は?」
「今のところ目立った動きはないそうです。先の敗走で再編成中と予想されています」
「どうする隊長?時間掛けるのは好ましくないんじゃないの?」
キースの軽口に、グレンリーダーはすぐには応えなかった
状況を計算しているのだろうか、目を伏せて、静かに俯いている
しばしの黙考の後、グレンリーダーは強い意志を封じ込めた双眸で一同を見回し、“将軍”の言葉を口にした
「キース、アイリ、各特務小隊に大至急移動準備を」
「へへっ、了解だ!」
「了解!!」
「フェンナ、君は本部に戻れ」
「嫌です」
即答である
「サリアみたいな事を言うんじゃない」
「嫌です。絶ッ対に嫌です。シュキちゃん達から色々聞いたんですからね。今回は危なかったって。だからついて行きます」
「だ、だからって、な。おぃ、キース!お前からも「じゃ、お先!!」きーすっ!!逃げるなよっ!!!」
キース・エルヴィン中尉、戦線離脱
説得を頼もうとするも、彼の姿は既にドアの向こう
とても、彼の方が年上だとは思えない。あまりに鮮やかな逃げ足であった
仕方なく、グレンリーダーはもう一人の部下の方に頼むことにする
「アイリ、何とか言ってやってくれないか?」
「ん〜」
困った顔のアイリとフェンナが、しばし、睨み合った
そして、アイリが数秒後出した結論はと言うと・・・・・
「ん、良いんじゃないですか?フェンナが来てくれれば助かるし」
「あいりっ!!!?」
「良いの?ホントに!?」
愕然と固まるグレンリーダーを後目に、アイリはフェンナの首を引っ張って、こう囁いた
「ま、フェアじゃないしね」
そして、にやりと不敵な笑顔を見せる
だが、フェンナもそれと同じ種類の不敵な笑みで迎え撃った
「良いんですか?そんなこと言って・・・・・後悔させてあげますから」
「こっちこそ、同じ台詞を返すわよ・・・・・じゃ、隊長!そゆことで!」
互いの拳を軽く打ち合わせてアイリは向き直り、シュタッ、と手を挙げて戦線離脱
執務室に二人ッきりで残すというのには若干の抵抗を覚えるが、自分は彼女よりも先に隊長に会っていたのだ
公平に行くなら、これくらいは容認しても良いらしい
「し、しかしだな、フェンナ。一国の首相が戦場に出てきているなんて知られたらどうなる?
敵からすれば千載一隅の、絶好のチャンスを与えることになるんだぞ!」
「大丈夫ですよ」
「どうしてっ!?」
「ほら、こうすれば・・・・・」
そう言って、フェンナは一度は外していたカツラを被り直し、素通しの眼鏡を乗せた
襟に階級章をはっ付けて、完成である
「フェンリエッタ・クローヴィス事務准尉。グレン小隊の臨時オペレーターとして同行いたします!」
ぺろりと舌を出して、びしっと敬礼する
思わず納得し掛けるグレンリーダーだが、慌てて頭を振って思考を閉め出すと、
「いや、駄目だそういう問題じゃない!執政とか全部すっぽかしてるんだろう!?参謀長だって許すわけ「あ、それなら大丈夫です」
「どうしてっ!!?」
既に悲鳴に等しくなっている
グレンリーダーの悲痛な感じのする叫びに、フェンナは涼しい顔でこう答えた
「当面の公務は全部片づいていますから。カンドランドへの公式声明の発表。市議会への説明とかも」
「し、しかしだな。戦場に出るともなれば・・・・・」
「参謀長には伝言を残しておきましたから、後始末の心配もありませんよ」
<アルサレア機甲兵団本部施設:首相執務室>
「・・・・・」
ぴー
“フェンナです。突然ですがしばらく留守にします。事情は説明しません。探しても良いですが戻るつもりはありません。では”
ぶつっ
「・・・・・」
<所戻ってサーリットン>
「いや、駄目だ。絶対に駄目だ!もしもの事があったらどうする!!
それに、わざわざ専属オペレーターなんて就かなくても、オペレーター要員の代わりは「私の代わりは幾らでもいるんですか?」
フェンナの言葉に、グレンリーダーはぐっと言葉を詰まらせた
彼女の瞳が、今にも涙を零しそうほど潤んでいたからだ
「教えてください。貴方達をナビゲートするのに、私以上に適格な方がいるのですか?」
「そ、それは・・・・・フェンナが来てくれれば、心強いさ。だけど・・・・・俺は、君を・・・・・」
悔恨がグレンリーダーの心をゆっくりと曇らせる
いつだって護れなかった自分なのに、本当に大丈夫なのだろうか?と
確かに、フェンナのナビは、グレン小隊の呼吸とピッタリ合った、正に小隊の“頭脳”だ
小隊指揮こそグレンリーダーの役目だが、更に各機の管制をフェンナが受け持てば、戦力の増強は間違いない
予想されるGエリアでの激戦をくぐり抜けるのに、フェンナの復帰は何よりもありがたいものだ
だが、同時にフェンナはアルサレアの首相なのである
幾らオペレーターが後方に位置するとは言え、絶対に安全という保証は何処にも無い
悔やんでも悔やみきれない過去を持つグレンリーダーには、どうしても、躊躇わずにはいられなかった
「・・・・・ねぇ、隊長」
フェンナが、語りかけてくる
優しく、ゆっくりと紡ぎ出される言葉は耳に心地良いが、そこにはっきりと含まれている憂いが物悲しい
躊躇うようにグレンリーダーはフェンナと視線を絡ませた
そこにあったのは、先程のように潤んだ瞳ではなく、千年の孤独に耐えてきた者のような、酷く乾いた瞳があった
「・・・・・待っているのも、辛いんですよ」
「・・・・・フェンナ」
「お願いです。私も、一緒に行かせてください。決して、足手まといにはなりませんから」
足手まといなど、とんでもない
その言葉を何とか飲み下し、グレンリーダーは大きく溜息をついて、
フェンナの、今は作り物の紅茶色の赤毛を、くしゃっと撫でる
どこか吹っ切れたような、良い感じに自棄っぱちの笑顔がそこにはあった
つづく
○用語(誤)集、順不同
・この用語集とゲーム本編は、ほとんど関係有りません
加えて、想像で書いている部分がほとんどです。あんまり深く考えちゃダメです
フェンリエッタ・クローヴィス、事務准尉
・人物
アルサレア兵団本部勤務の事務准尉、サーリットンで公式声明などを発表・説明するためにやってきたフェンナの秘書官
と、言うのは勿論建前
架空の人物であり、IDその他は全て偽造。フェンナが自由に動く為の、いわば“隠れ蓑”
名前を考えたのはフェンナ自身であり、「フェンナ・クラウゼン」をもじった名前なのは言うまでもないが、
こうした名前は咄嗟の時に本名と混ざるものである。軍法会議の場で、フェンナが名前を言い淀んだのはその為
教訓:偽名を名乗るときは自分の本名とは程遠い物にしましょう
よく見れば、どこからどう見てもフェンナ
EMP
・エレクトリック・マグネティック・パルスの略称。つまりは“電磁波”
日常的な所ではパソコンとか、そのディスプレイとか、携帯電話とかから出ている、アレ
一般的な認識では「浴びると体に悪いって言う奴でしょう?」という程度と思われる
要は、“電線を電気が流れると電磁波は必ず発生する”という事くらいは知っておきましょう
が、しかし、この電磁波が強力になると、説明が面倒なので簡単に言うと、電子機器を壊してしまうんです
それが何故、ヘルファイアの爆発で発生するのかというと、
ここにも本当は長々とした蘊蓄がくっつくべきなのでしょうが省略して、大爆発が起こるとそこには電磁波、
電磁衝撃波が発生すると“言う”のです!!詳しくは皆さん各自でお調べください
私見ながら、こうした現象は“核爆発の場合のみ起こるのか”どうかは未確認です
放射線とかの関係なのかも・・・・・?まぁ、どうでも良いですね
余談ながら、市販の電磁波防止グッズ(シールとかキーホルダー)は、科学的には全く効果の無い代物だと思います
本気で電磁波を防ぎたい方は金網でも被るしかないでしょう
軍法会議
・軍隊、での裁判の場
本文中にここに立ったのは、“コバルトリーダー”にして“主人公”のシオン・マクドガル中尉
同僚には笑い者にされ、必死に戦った挙げ句が逮捕、犯罪者扱い・・・・・不憫な主役である
幸いにも、彼の銃殺刑はグレン小隊やシュキ達、フェンナの手によって撤回された
シードラボ
・宇宙ステーション
ゲームではJ−2で活躍する“レガルド小隊”の拠点にして、本文中では、うちの不憫な主役の行き先
惑星Jの軌道上に浮かんでいるステーションの中では、研究・開発機関なども備えた最も大規模な物
国土でヴァリムに劣るアルサレアにとっては、重要な課題である宇宙開発の要の一つ
だが、何故溶鉱炉の上で試験運用をせにゃならんのか・・・・・人工重力の発生源なども不明
遠心重力、かな?
詳しくは本文中にも
軌道エレベーター
・建造物
オフィシャルの歴史ではかなり重要な存在なのだろうが、その割にはあまりに地味
J−1本編ではヴァリムに占拠されるという一幕もあった
そのミッションの時の内部構造は・・・・・とても“エレベーター”とは言えない
高度約500km程まで伸びており、その先端にはシャトルの発着場がある。宇宙開発の要の一つ
これらの設定はオリジナルです。オフィシャルにはもっと詳細な設定があるのかも知れません
メイモンデット島
・地名
そう言えば前話で書き忘れていた
ゴスティール山脈基地と超弩級荷電粒子砲ハデスズ・ボイスを破壊された為に後退・集結したヴァリムの拠点の一つ
規模の大きな基地なのだが、ここで戦ったのはジータとダンのみ
彼らの交戦の最中にベリウムはリベル諸島方面に移動し、その後駐留していた部隊も移動した模様
もぬけの殻であることを知ったコバルト小隊によっていともあっさり占拠された
ゲームでは、ハーセット湖・メイモンデット山岳部付近
が、勝手な都合により、本文中ではメイモンデット島
リベル諸島
・地名
Gエリア駐留のヴァリム軍が立てこもった最後の拠点
複数の諸島域と、本島から成る広大な戦場
コバルト小隊にとっては最終決戦の舞台であり・・・・・
後書き
いよいよ大詰めっぽくなって参りました
Gエリアにおけるコバルト小隊の戦いも、残すところリベル諸島方面を残すのみです
が
予定では三部構成に分かれる予定・・・・・また、長くなりそうです
最後の最後を書きたいが為に今まで続けてきたような物
さぁ、ここぞとばかりに書き綴らねば・・・・・書き綴れよ?私
それと重大なお話が
この度、私の勝手な都合により、掲載先をタングラムさんの運営されている「辺境の地」へ移転させていただきました
この一文を読んでいる頃には既に明白でしょうけど・・・・・
勝手ですが、御理解と、御支援をよろしくお願いいたします
管理人より
T.Kさんよりインターミッション#04をご投稿頂きました!
フェンナ、大活躍(笑)
しかし……シード・ラボでは一体どのような機体が研究されているのやら。
待ちに待った続きですので、皆さんも是非感想を書きましょう!