険しい山岳の奥深くにたたずむ研究所の印象は、辺境の監獄だった。
いや、実際、監獄ならまだマシなほうだと言えただろう。
なぜなら監獄は罪人でさえ、人間として扱ってくれるからだ。
しかし、ここには人権を守ってくれる法も存在しない。
あるのは、同じ人間を単なる実験材料としか見ていない人間たちの狂気。
野望に満たされた科学者たちの果てなき暗黒――。
言葉では表せぬほど、身も心も手ひどく扱われた少女――シリア・ブルーナイトにあったのは、絶望の日々だった。
それでもここに戻って来たのは、絶望の闇に差し込むたった一筋の希望のため――。
自分の大切な者を、救うためだった――。
「――失敗しただと!?」
案の定――というか、ドクター・キサラギの反応は、烈火のごとく凄まじいものだった。
目の前で跪くシリアに向けて、いきなり容赦のない蹴りが飛ぶ。
一回や二回どころではない――まるで彼女を壊そうとするかのように、何度も何度も蹴りつけた。
シリアは苦痛の叫びも押し殺し、ひたすらサンドバッグになり続ける。
やがて息を乱したドクター・キサラギは、ねめつけるような視線を彼女に向けた。
「――貴様……自分の置かれた立場というものを理解しているのだろうな?貴様に課せられた役目は、実験材料の捕獲と邪魔者の排除――それが果たせぬというのなら、妹の命を救ってやることはできぬぞ……?」
「――理、解……しています……」
「――ならば、なぜノコノコと帰ってきたぁ!!」
弱々しくつぶやいたシリアに向けて、再びドクターの蹴りが飛ぶ。
「あ、ぐ……っっ!!」
今度は耐えることも出来ずに、シリアは硬い床を大きく転がった。
床を濡らす赤い滴――肌の露出した部分にはいくつもの大きな痣が浮かび、少女の持つ美しさは欠片も残っていない。
まさにボロ雑巾という表現しか出来ない彼女だったが、それでも瞳には確固たる意志の輝きが宿っていた。
ドクターは続ける。
「――よいか。これが最後のチャンスだ……その負傷したというアルサレアの兵士と、遭遇した部隊の人間をすべて殺して来い……それが出来るまでは、帰ってくるな!!」
「――わかりました……ただ、ひとつだけ……欲しいものがあるのですが……」
シリアは、腫れ上がった瞼の奥から、鋭い眼光を覗かせる。
「……なんだ!?また薬か?まだ、禁断症状の出る時ではあるまい!!」
ドクターはせせら笑ったが、次の彼女の言葉に、思わず息を呑み込んだ。
「――いいえ……ヘルファイアを、私のヌエ・カスタムに積んで欲しいのです」
「……なん、だと……?」
ヘルファイア――それは、ヴァリムが先頃開発した究極のPF搭載兵器。
破壊力は核には及ばないが、基地のひとつ程度ならば確実に吹き飛ばしてしまえる威力を持った超高性能ミサイルだ。
しかしその運用は危険と隣り合わせであり、好戦的なヴァリム軍の兵士もこの武器だけは使おうとしない。
そう。いまだかつてヘルファイアを使って生き残った者は、敵も味方も皆無だったのである――。
「――ヘルファイアを積むということの意味は、わかっておるのだろうな……?」
ドクターは、シリアの正気を疑うかのように言った。
あきらかにまともな思考ではない――身体強化に使った薬の副作用でも出たのかと思ったのだろう。
だが、シリアの決意は変わっていなかった。
「――もちろん理解しています……しかし、私の力が及ばなかった場合でも、ヘルファイアを使えば敵を殲滅することが可能です……確実にドクターの要望に沿うことができるでしょう……」
「……フン……死も覚悟の上ということか……?」
一切の迷いを捨て去った瞳――彼女はあきらかに死ぬ覚悟を固めていた。
「……はい……私の命と引き換えで構いません……妹を、救ってくださると言うのなら……」
「……自分の失敗を棚に上げて、交換条件か……妹を救うために死ぬ姉とは、くだらん美談だな」
ドクターはつまらなそうに鼻を鳴らした。
彼にしてみれば、実験体――もっと言えば自分以外の人間がどうなろうと、知ったことではない。
彼にとって重要なのは、自分の身の安全と研究データだけなのだから。
「……いいだろう。貴様の覚悟を買ってやる……どのような形であれ、今回の任務を達成することが出来たならば……貴様の妹の手術の件、引き受けてやろうではないか」
ドクターは、およそ彼らしくない台詞を放った。
覚悟を買う――そんな殊勝な言葉が、彼の口から出てくること自体、間違ったものと言えた。
シリア自身も心の底から信用しているわけではなかったが、今はその言葉を信じる以外、彼女に希望は残されていない。
「……ありがとうございます。では、早速準備に取りかかりますので……」
その一言と共に頭を下げたシリアは、痛む身体を引きずって研究室から出ていった。
薄闇の研究室に、静寂が戻ってくる。
冷たい機械の駆動音が単調なリズムを刻む中、シリアを見送ったドクター・キサラギは、口元を歪めて忍び笑いを漏らした。
「……ク、クククククク……真実を知らんというのは、まったく哀れなものだな……クククククク……!」
シリアに見せた顔とは、また別の姿――しかし、まぎれもない彼の本性。
暗い闇に支配された科学者の狂気が、そこにあった――。
研究室から離れた廊下で、シリアは力尽きたように壁際に座り込んだ。
全身を走る痛みは確かに耐え難いものがあったが、今の彼女にとって辛いものではない。
ただ、唯一の希望が絶えなかった――そのことだけが、彼女の心を支えていた。
シリアは、再び胸のロケットを取り出して、蓋を開く。
中で笑う二人の少女は、この世の闇を知らなかった頃の輝きに満ちていた。
「――セレナ……」
呆然とシリアはつぶやく。
彼女の妹――セレナ・ブルーナイトは、重度の心臓障害を抱えており、このままでは余命いくばくもない状態だった。
その命を救うには相当に難度の高い手術をするしかないのだが、ヴァリム国内でもその手術を行うことが出来る医者は、たったの一人だったのである。
それが、ドクター・キサラギ――バイオケミカルの世界的権威でありながら、同時に医者としても名を馳せた人物。
だが、シリアたちは戦争で両親を亡くしており、姉妹二人だけで生活していた。
妹はまともに動くことも出来ず、姉の稼ぎだけがすべての収入源――。
日々の生活で精一杯の二人に多額の手術費用が払えるわけもなく、希望は絶たれたかに見えた。
そんな折だった。ドクター本人から話を持ちかけられたのは――。
「――もし、わしの研究の礎となる気があるならば、手術をタダでやってやろうではないか……」
その言葉に、シリアは最後の望みを託すことにした。
そして、彼の提示した条件こそが――。
完全なる兵士を生み出すための実験体――すなわち、モルモットになれというものだった――。
たとえ、非人道な真似をすることになっても良いと思った。
自分自身の命すら、どうなっても構わないと思った。
たった一人の、かけがえのない家族を救うために、彼女は悪魔と契約することを決めた――。
「――もう、後戻りは許されない……!たとえ、この身が地獄に落ちることになっても……セレナ、あなたの未来だけは、守ってみせる……!」
血にまみれた決意が、シリアを奮い立たせた。
先の戦いで抱いた迷い――そんなものは、すべて捨ててしまえ。
必要なのは、非情なるマシーンの心。
罪悪感など微塵も抱かぬ、殺人者の心。
そう。自分は、人間を捨てるのだ、と――。
カシュー平原の南に位置するラ・ムール補給基地――。
ヴァリムとの国境近辺に位置するこの基地は、堅固な守りと充実した設備を持った、アルサレアでも随一の施設として知られている。
サーリットンのような激戦区ではないにしろ、ヴァリムの部隊がしばしば活動を見せるために、基地には常時二個中隊が駐留していた。
例の渓谷を脱出したグレン小隊は、現在、輸送機バインガルドと共にこの基地に滞在していた。
謎のヌエの襲撃やオスコット伍長の救助によって、行方不明事件の調査は停滞した形になっている。
とはいえ、事件の背後でヴァリムが動いているのは間違いなく、彼らは機体の調整や補給、先の戦闘データの解析などに追われていた。
「――ご苦労だねぇ。ライム君」
解析室に入ってきたヴァイスは、目の前にいた緑髪の女性に声をかけた。
「――これは少佐。お疲れ様です……オスコット伍長の容態はどうでした?」
「――残念ながら、絶対安静だそうだ……しばらくは、まともに話も出来んよ」
救出されたオスコットは、かなりの重傷であった。医者の見立てでは生き残る可能性は50%あるかないかということだったらしい。
だが、生命力が強かったのか悪運が強かったのか手術は無事に成功し、彼は一命を取り止めていた。
「――そうですか……まぁ、仕方ありませんね」
ライムは安堵とも失望とも取れるため息をつく。
心配という思いも確かにあったが、実は彼だけが持つ情報を聞きたいというのが、グレン小隊全員の本音だった。
「……まぁ、あの傷で命が助かっただけ幸運だったと言うべきかな……で、これが例のPFのデータなのかね?」
相変わらず凄い煙を上げる葉巻を咥えながら、ヴァイスは目の前のモニターを睨んだ。
そこには先の戦闘においてカーマインが収集した、謎のヌエのスペックデータが映し出されている。
「――ええ、そうです。驚愕の性能ですよ、これは……」
コンソールの前に座ったライムは、漂ってくる煙を気にすることもなく、淡々とパネルを操作した。
スペックデータの一部が拡大される。
「――このデータを見ると、ブースターはヴァハGを改良したもののようです。消費出力は57%上昇してますが、性能は2倍以上に跳ね上がっています。最高速度はマッハ1をオーバー……そのスピードを最大5分まで持続させることが可能なんですから、まさに戦闘機並というべきですね」
「――しかし、空気抵抗を考えないPFでそこまでの速度を出すことが可能なのかね?」
「――通常では無理ですね。しかし、このヌエの機体重量を見て下さい」
ライムはそこで、別のデータを拡大した。
そこに現れた数字の羅列に、ヴァイスの目が見開かれる。
「――機体重量9.3t!?通常のヌエより6t以上軽いのか?しかし、どうしてこれほどの軽量化を図ることが出来たのだ?」
「――カーマイン中尉の言葉によれば、武装やフレームは従来のものと同じらしいのですが、装甲強度をかなり犠牲にしているようです。稼働の邪魔となる関節付近の装甲はほとんどカット。コクピット周りですら安全基準値を50%も下回っているという結果が出ました」
「……バカな。それではまるで音速の棺桶だ。パイロットの安全性など、なにひとつ考えていない設計ではないか!」
あまり動揺を表に出さないヴァイスも、さすがに声を荒げていた。
元々PFとは、戦場からの帰還率を向上させるために開発されたものだ。ゆえにアルサレア、ヴァリムを問わずPFの設計においては、パイロットの安全性こそが最重要視される。
しかし、このヌエはそのコンセプトに真っ向から対立しているのだ。このデータを信じるならば、サブマシンガン一発でも直撃を受ければ、コクピットは血の海になってしまうだろう。
「……耐久性も限界ギリギリで保たれているようです。下手をすると、高速移動中に機体が崩壊する危険性すらありますね」
説明するライムも冷や汗を浮かべている。
よほどの熟練パイロットでもない限り、この機体は操れない――いや、正直これは人間の乗る物ではないとさえ言えた。
ヴァイスは、葉巻を噛み締める。
この機体はパイロットを殺すために存在している――あきらかに人間の命を軽視した代物だった。
「――どんな理由があって、こんな機体を造ったのはわからんが……まさに悪魔の所業だな。それで、例の突然消えるシステムについては、なにかわかったのかね?」
それは先の戦闘における一番重要なポイントであったが、返ってきたのは否定のため息だけだった。
「……残念ながら……カーマイン中尉も、そこまでPFの専門家ではないですからね……サチコ主任がいれば、少しはなにかわかったかも知れませんが……」
「……そうか。さすがの天才オペレーターも、お手上げだったか……」
ヴァイスにもため息が伝染する。やはり簡単に解析出来るほど、甘いシステムではないようだ。
「……ところでその中尉は、一体どこへ行ったのかね?」
「――さっき、シュタイン大尉に連れていかれましたよ。戦闘シミュレーションを手伝わされていると思いますが……?」
「――フ〜ム……無粋なデートだねぇ。もっとも、あの堅物男のことだ。今回の一件で、なにか危機感を抱いたのかもしれんな……」
皮肉げな笑みを浮かべるヴァイスだったが、その瞳は笑っていない。
今の言葉は、彼自身にも向けられたものなのだとライムは理解していた。
「――先程、このデータを見て厳しい顔をしてましたから……不言実行、とは彼のためにある言葉かもしれませんね」
「――あまり堅物なのも、考えものだがな……だが、そこがアイツの魅力であり強みでもある。グレン将軍も、あいつはこれからのアルサレアにとって必要な人間になるだろうとおっしゃっていたよ」
どこか神妙なヴァイスの物言いに、ライムは軽く微笑んでみせる。
彼が他人のことを賞賛するのは、滅多にないことだった。
「――フフ……少佐も、彼を買ってらっしゃるんですね……」
「……まぁ、まだまだ教えなければならんことは、山ほどあるがね……」
「……あまり、変なことは吹き込まないで下さいね?少佐の女癖の悪さが伝染したら大変ですから」
ヴァイスは思わず顔をしかめる。
女性に対しては百戦錬磨を自負する彼も、ライムにだけは優位に立てないようだ。
「……ライム君。前々から気になっていたのだが、君は私のことを誤解しているのではないかね?」
「――あら。理解しているとおっしゃって下さい」
子供のように笑う彼女を見て、ヴァイスは言い返す言葉も見つからず、無造作に頭を掻いた。
「――シュタインさ〜〜〜ん……まだやるんですかぁ?」
かたやオペレータールームでは、カーマインが眠そうな表情でぼやいていた。
シュタインはJ-ファー・カスタムの中で、彼女より送られてくるデータを元に、戦闘シミュレーションを繰り返している。
「――ああ……ターゲットPFの数を、もう20機増やしてくれ。あとJ-ファー・カスタムのグリップ圧を20%減少で設定してくれないか?」
「――もう、やめましょうよ〜〜〜〜……これで63回目ですよ?シュタインさんなら、もうバッチリJ-ファー・カスタムのスペックを引き出せますって!」
カーマインの言うように、もはやシュタインは思考レベルMAXのターゲットPFを、無傷で80機は屠ることができるようになっていた。
並のパイロットなら丸一日努力しても無理なことを、たった数時間でやってしまったのだから、彼の操縦センスは天才的と言うほかはない。
だが、それでもシュタインは満足していないようだ。
「――機体の性能を100%引き出すだけではダメだ。100%を超えたレベルで機体を操れてこそ、パイロットの存在価値が出てくる。それに……これでは、あのヌエには勝てないだろう。また中尉のフォローに頼ることになってしまう……中尉なしでも戦えるようにならなくてはダメだ」
先の戦闘ではカーマインの指示があったからこそ、ヌエを退けることが出来た。
だが、それは裏を返せば、カーマインがいなければ負けていたということだ。
彼女はともかくシュタインとしては、そこが不本意だったらしい。
「――わたしは頼ってもらっても、全然構わないんですけど……あ!?それとも、わたしは用済みってことですか?必要な時だけ使って、いらなくなったらポイだなんて……シュタインさんったら結構、鬼畜!女の敵ですねぇっ!」
「い、いや、違う!別に中尉がいらないって言っているわけじゃない!」
慌てて弁解するシュタイン。
性格的な問題もあるのだろうが、言葉足らずな彼は、なにかと誤解を受けやすい。
もっとも、カーマインもからかい半分で言っているので深刻になる必要もないのだが、つい真面目に謝ってしまう辺りも、シュタインらしい反応と言える。
「……すまない。中尉……だが俺は、もっと強くなりたいんだ。早く戦争を終わらせて、みんなが平和に暮らせる日を手に入れるために、出来る限りのことはしておきたい」
どこか真摯な表情になった彼に対して、カーマインは静かに諭す。
「……そんなこと……みんなが思ってるはずですよ?それに誰だって、一人でなんでも出来るわけじゃない……人を頼ることだって、必要なことじゃないですか?」
「……ああ。もちろん、それもわかってる。でも、そうじゃないんだ……傲慢な言い方かもしれないが……俺は、人に頼って妥協してしまうことで、自分の力のなさをごまかすような真似をしたくないんだ。出来るなら俺一人でも、みんなを……この国を守りたいと思う……!」
「……シュタイン、さん……」
カーマインはシュタインの言葉と、吸い込まれるような引力を秘めた瞳に、思わず顔を赤らめた。
たった一人の力でどうにかなるほど、戦争も世の中も甘いものではない。
だが、志ある者の存在が戦争を終わらせ、世の中を変える力となるのも、また事実だ。
今、ここにいる青年は、確かにただの兵士かもしれない。
しかし、いつか本当にこの戦いを終わらせることの出来る人間になるんじゃないか――?
カーマインはシュタインに対して、そんな漠然とした思いを抱いていた。
もちろん根拠はなく、女の勘とでもいうべきものだったが。
(――しょうがないかな……でも、こんな真っ直ぐなとこがシュタインさんの良いとこかもね……)
彼女は心の中で、少し愛しげにつぶやく。
目の前のモニターに映る真摯な青年――今、自分がすべきことは、彼の力になることだろう。
「……わっかりました!シュタインさん!こうなったら、とことんまで付き合いますよぉ!ターゲットも20機プラスと言わず、40機プラスでいきましょう!」
「――40機?いや、中尉……いくらなんでもそれは……」
「――な〜〜に言ってるんですかぁ!わたしを頼らないって言うんだったら、そのくらい出来ないとダメですよ!!ついでに、時間制限もつけちゃいましょう!!」
シュタインは呆気に取られたが、もはやカーマインは聞く耳持たずである。本気になった彼女は、どうやら容赦がないようだ。
軽快にコンソールを操作する彼女を見てシュタインは感謝しつつも、苦笑いを浮かべざるを得なかった。
それから数時間が経過し――東の空が白み始めた頃。
基地周辺の夜間巡回任務に当たっていた第24特務中隊は、北の彼方から接近してくる謎のPFを探知していた。
「――隊長。高速でこっちに向かってくるPFがあります!機影は1!」
「……一機だと?識別は、どうなってる?」
「――味方のものではありません!これは、間違いなくヴァリム軍のものです……なんだ?このスピードは!?はっ、速い!!」
部隊の全員が少なからぬ驚きを抱く中、淡い光の下に姿を現したのは、白い塗装が印象的なヌエだった。
そのフォルムはどことなく華奢だ。そして、その外観に似合わぬ大きな包みのようなものを、右肩にマウントしている。
恐らくはなんらかの肩兵器なのだろうが、すっぽりとシートに覆われているため、判別はつかない。ただ、その大きさから、相当な破壊力を有するものだということは、容易に想像がついた。
その他には、武装らしきものは見当たらない――いわば、ほとんど丸腰の状態だった。
「……投降でもするつもりでしょうか?」
誰かが、ふとそうつぶやいたが、部隊長は鼻であしらう。
「――バカを言え。通信回線も開かず、白旗を持っているわけでもないヤツが、投降なぞするものか……なによりあの殺気、戦う意志のない人間のものではない!」
確かにヌエから放たれている雰囲気は、素人にも感じられるほどの威圧感に満ちている――まさに、鬼気と呼ぶべきものだ。
「――どういうつもりか知らんが、たった一機――しかも丸腰で我らに挑んでくるとは、身の程知らずなヤツめ!各機、散開しろ!一斉射で仕留める!!」
敵がただ者ではないということは理解出来たが、物量の差は歴然だった。
部隊長は、一気に葬り去ることを選択する――ある意味、賢明な判断と言えた。
「――撃てぇい!!」
号令と共に、数機のJ-ファーがサブマシンガンを発射する。
連続して響き渡る重低音――激流のような弾幕が、ヌエを襲った。
『……遅い……』
だが、白色の機甲兵は、精密かつ繊細な動きで弾幕をすり抜けながら、特務中隊のほうにせまってくる。人間業とは思えない動きだった。
レーザーソードを構えた隊長機の脇を、ヌエは高速ですり抜けていく。
その瞬間――隊長機が轟音と共に、炎を巻き上げた。
「ぐわあぁぁぁぁ……!!」
「たっ!隊長!!うっ、うわああぁぁぁぁぁぁ……!!」
同じようにヌエのすり抜けた端から、J-ファーが炎に包まれていく。
なにをされたのかもわからぬまま、部隊の半数以上が連続で破壊されていった。
『――[夢幻星光流、命我烈光破]……冥土への手土産にすることね……』
機械のように冷徹な声が、外部スピーカーを通して放たれる。
全身を駆け抜けた言いようのない戦慄に、生き残った者たちは動くことすらも忘れていた。
そして、白い悪魔による虐殺は、再開された――。
『――緊急警報!!ヴァリム軍のPFが一機、0時の方角から接近中です!!巡回中の第24特務中隊が交戦しましたが……全滅した模様!!』
基地内部に響き渡った驚愕のアナウンスが、早朝のまどろみを吹き飛ばす。
たった一機のPF――それが一個中隊を壊滅させたという事実は、悪夢の中にでもいるかのような出来事だ。
しかし真実を知るわずかな者たちは、それがまぎれもない現実として存在し得ることを理解していた。
「――総員、第一種警戒態勢!!PF部隊は、敵機の迎撃に当たれ!!たった一機でやってきた無謀野郎を後悔させてやるんだ!!」
基地司令の檄が飛ぶ。
しかし、そこに割り込んだ低い声があった。
『――待つんだ司令!ヤツと防衛部隊を、これ以上戦わせてはならん!ここは、我々グレン小隊が引き受けるから、他の者には手を出させるな!!』
グレン小隊長のヴァイスは、J-ファー・カスタム1号機のコクピットから叫んでいた。
敵は間違いなく、あのヌエだ。
だとしたら、並のパイロットでは、何人集まろうとも勝負にはならない。
「――なにを言うか、少佐!たった一機の敵にコケにされて、黙って見ていろというのか!?」
『――勝てない戦いを強いる真似はよせ!つまらないメンツは捨てるんだ!それにヤツは、例のPF行方不明事件に関係している……ならば、ヤツについてのすべての権限は、このグレン小隊にある!』
グレン将軍の特命を受けたグレン小隊は、行方不明事件に関係するすべての事柄に対しての優先権を持つ。
したがって、どんな階級の人間であろうとグレン小隊の行動を阻むことは出来ないし、協力の要請を断ることも出来ないのである。
「……ならば、君たちならヤツに勝てるという保証でもあるのかね……?」
その事実を知っている基地司令は、半ば忌々しげに吐き捨てた。
自分の預かる部隊を全滅させられたのだから、彼の怒りもわからなくはない。
だが、今は個人的な感傷で動いてはいけない時だ。
『――心配は無用だ。そのために、我々グレン小隊はいる』
ヴァイスは、自信に満ちた表情で言い切った。
もちろん彼とて100%勝てるとは思っていなかったが、これ以上余計な被害を出さないためには、嘘でもそう答えるしかなかったのである。
「……わかった……とりあえずは、君たちを信用することにしよう……」
『……協力、感謝する……今回の被害は、ある意味で我々の不手際……今度こそは確実に、ヤツを仕留めてみせよう!』
瞳を伏せた基地司令に対して彼は敬礼すると、通信機に向かって号令した。
『――行くぞ、シュタイン!ライム君!!グレン小隊……出撃する!!』
『『――了解!!』』
多くの兵士たちが見守る中、三機のJ-ファー・カスタムが朝焼けの中に飛び出していった。
『……来たわね。今度は……殺し尽くしてみせる』
前方より迫ってきたグレン小隊を見据え、シリアは冷たく言い放った。
苦い屈辱を味わった敵――だが、今回は前と違い、ヌエ・カスタムの性能は100%発揮出来る状況にある。
そして、なにより負けるわけにはいかない理由があった。
己が命と引き換えにしてでも、ヤツらを倒す。
悲しいまでの決意は、不退転の意志――そしてそのための力は、己が拳と地獄の炎の異名を持つヘルファイアだ。
すべてを終わらせ、たったひとつの希望を掴み取るために、彼女は純粋な戦闘マシーンとなる。
ブースト全開――ヌエ・カスタムの全身に彼女の意志が伝染し、鋼の唸りが咆哮と化した。
『――敵機の確認完了。機体の詳細データは、前回とほぼ一致……90%の確率で、あの時のヌエみたい!でも、なんか肩のパーツ……あれから強力なエネルギー反応が出てる!気をつけないとやばいよ、少佐!とにかく基地から離れて迎撃して!!』
「――了解した……そうか……ヤツも、勝負をつけに来たというわけだな……」
カーマインの警告に対し、ヴァイスは静かな表情で頷いた。
決着をつけたいという思いは、互いに同じ。恐らくは、死闘になるだろう。
戦力の差、技術の差――勝敗を分けるものは多々あれど、結局のところそれを決めるのは、勝利への意志と執念の差だ。
これまでは受け身だった相手が、たった一人で敵地に乗り込んでくる。その意味するところは、絶対の覚悟を背負うということである。
半端な気持ちでは迎撃できない。
圧倒的な戦力の差を持ちながらヴァイスは――いやグレン小隊の全員は、電流のように駆け抜ける緊張に肌が逆立っていくのを感じた。
基地から数キロほど離れた地点で、鋼鉄の影同士は向かい合った。
機械の唸りと風の音――それが異様に張り詰めた場を支配する。
「――改めて問おう!お前は、一体何者だ?なぜ、多くの人間たちの命を巻き込む!?」
ヴァイスは、外部スピーカーを使って呼びかけた。そうすることで戦いを回避出来るとは思っていなかったが、事件に関わった敵の言葉を、直接聞きたいと思った。
静かに立ち止まっていたヌエから返答が返ってきたのは、一分近くの間を置いてからだ。
その声は、極めて冷徹であるにも関わらず、底知れぬ暗黒に満ちていた。
『――それを語る理由はないわ……私は、お前たちのすべてに、死を運ぶために来たのだから……』
(――なんと?この声……女?しかもまだ相当若い娘ではないか……!?)
ヴァイスは顔をしかめながら、操縦桿を握り締めた。
相手が女であることに驚いたのではない。
その年齢にはあまりに不釣り合いな闇を背負った声に、驚愕し――そして、同時に哀れみを抱いていたのだ。
「――そうか。今は語る言葉を持たないか……ならばここでお前を倒し、改めて話を聞くとしよう!」
『――そんなことが出来るほど、今の私は甘くないわ!!』
ヴァイスとシリアの叫びが、戦いの合図となった。
白いヌエ・カスタムが大地を駆ける。肉食獣を思わせる獰猛さで、グレン小隊に襲いかかった。
「――今度は簡単にはいかないわよ!!」
小隊散開。ライム機が手にした新型兵器レーザーマシンガンが、赤色の閃光を振り撒く。
レーザーマシンガンの弾速は、通常の弾丸よりも速い。直撃はせぬまでも、ヌエの動きに追いつき外装を削り取っていく。
『――新兵器?でも……甘い……』
ブースト出力連続微調整。ジグザグに右前方移動しながら、機体前傾で接近。
そのまま一気に跳躍――空中で加速したヌエ・カスタムが、ライム機に襲いかかる。
「――そんな!?前よりも速い……!?」
かろうじて機体を反らしたライムだったが、レーザーマシンガンを見事に蹴り飛ばされた。
『――そんな鈍い動きで、私を止められると思ったの?』
着地したヌエが、すかさず拳を握って追撃をかける。
『――ライムさん!左ステップ!!』
カーマインの警告――しかし、間に合わない。ライムの反応速度は並のパイロット以上のものがあったが、シリアのそれとは天地の開きがあった。
J-ファー・カスタムの右肩に拳が炸裂し、フレームが音をたてて砕けた。
「くぅぅっっ……!」
強烈な衝撃に、ライム機はバランスを崩して転倒した。
再度の追撃をかけようとするシリアだったが、飛来したサブマシンガンの弾に、それを阻まれる。
「――それ以上は、やらせん!」
弾幕を盾にしながら、シュタインの機体が突っ込んできた。
フォースソードの閃光が空に蒼い軌跡を描く。その一撃を、短距離バックブーストでかわしたシリアは、再び拳を握り締めた。
『――迂闊ね!』
「――くっっ!?」
パワーグリップからヌエは前方に重心移動――フォースソード振り下ろしの隙を突いて、必殺の鉄拳を放つ。
すかさずサブマシンガンで受け止めるシュタイン。銃身がひしゃげ、衝撃で機体が後方に傾いだ。
しかし、シリアの攻撃は終わらない。
拳を振るった体勢から右足を踏み込み、機体を左回転。低い軌道での後ろ回し蹴りを放った。
傾いだ状態から後方ブーストをかけるシュタインだったが、わずかに間に合わず、左足を見事に蹴られた。
そのまま距離を取って着地するも、機体が左に揺らぐ。
コンディションモニターにアラートの表示――左脚部の内部フレームが完全に破壊されていた。
「――くっ!?なんて動きだ……こんな動きがPFで出来るというのか?」
まるで拳法の連携のようなヌエの動きに、シュタインは冷や汗を浮かべる。相手の動きはPFで出来るものとは思えないほど、繊細かつ流麗なものだった。
この前の動きとは格段の差だ。
ヌエ・カスタムは、すでに次の行動に移っている。一気に跳躍すると、今度はヴァイスのJ-ファー・カスタムに襲いかかった。
『――はああああああああぁぁぁぁっっ!!!』
「――おおおおおおおおぉぉぉっっ!!!」
気合の叫びが交錯する。
ヌエの飛び蹴りを左に回り込んで回避したヴァイスは、サブマシンガンを連射。
しかし、ヌエは反転着地と同時に、すかさず機体を沈み込ませる。
頭上を無数の閃光が駆けていく。シリアは、そのまま獣のようにヴァイス機にブーストダッシュ。突き上げるようにアッパーを放つ。
「――むうっっ!!」
ヴァイスは機体を反らすことでそれを回避するが、攻撃を空振ったヌエが、そのままJ-ファー・カスタムに体当たりしてきた。
『……やるわね。でも、ここまでだわ!』
ヴァイス機を押し流すような形になったヌエだが、左腕をJ-ファー・カスタムの右肩にかけると、そのまま押し倒すように倒立。華麗に空中で前転した。
だが、ヴァイスもただでは転ばない。倒され際に、サブマシンガンを空中のヌエに向かって放っていた。
その閃光が、ヌエの肩兵器のシートを吹き飛ばす。
「――!?な!あれは……!!」
その瞬間、グレン小隊の誰もが目を見張った。
ヌエの肩にあったもの――それは、究極の爆炎破壊兵器[ヘルファイア]だったのである。
ヌエを着地させたシリアは、どこか静かな口調で言った。
『――バレてしまったみたいね……もっとも、だからといって、なにが変わるというものでもないのだけど……』
「――バカな!お前は、本当に死ぬつもりで、ここへ来たというのか!?」
ヴァイスは驚愕を隠せない。
たった一人で敵地に乗り込んできたことから、並大抵の覚悟ではないと思っていたが、まさかヘルファイアを積んでいるとは思ってもみなかった。
ヘルファイアを積む――それはまさに、自分を含めたすべてのものを葬り去るということなのだから。
『――それが、どうしたというの?私の役目は、お前たちを殺すこと……それが果たされるのならば私は、自分の命でも兵器にしてみせる……!』
だが、答えるシリアの口調に、まったく変化はない。
あまりにも冷たい言葉は、機械そのものだった。
自分の命すら兵器と呼ぶ少女。
その絶対とも言える覚悟が、今の彼女に力を与えているのだ。
「……お前をそこまで駆り立てるものとは、一体なんだ!?なぜ、そうまでして戦う!?」
『……さっきも言ったはずよ!それを語る理由はないとね!!お前たちは、ここで死ぬ!そして……あの基地の人間も皆、同じ運命を辿るのよ!!』
冷血なる闘志が、吹雪となって吹き荒れる。
すべてを消し去ろうとする暗黒の戦乙女が、猛然とヴァイスに襲いかかった。
「……そんなことは、やらせん!!!」
ヴァイスのJ-ファー・カスタムが、すべての武器を排除した。
同時に腰溜めの前傾姿勢――まるで、相撲の立ち合いのような格好で、せまるヌエを迎え撃つ。
『……どういうつもりか知らないけど、これがお前に止められるかしら!!』
ヌエのブースト炎が瞬間的に蒼く変わる。超速の一撃が、J-ファー・カスタムを捉えた。
『――命我、烈っっ光破ぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっっ!!!!』
「――ぬううおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」
衝撃。
そして轟音――。
二機のPFがぶつかり合い、大気が、大地が熱く震えた。
シリアの必殺の拳――[命我烈光破]が、ヴァイス機のヘッドと左腕を破壊して、メインフレームの肩口に突き刺さっていた。
だが同時に――残されたJ-ファー・カスタムの右腕が、ヌエの身体をがっちりと抱え込んでいた。
『――!?そ、そんな!?まさか!!』
機械と化していたシリアの顔に、驚愕の表情が浮かぶ。
自分の最高の技を見切られたのは、これが初めてのことだった。
「――今だ。シュタイン!!ヘルファイアを……斬り落とせぇぇぇっっ!!」
「――おおおおおおおぉぉぉっっ!!」
ヴァイスは通信機に向かって叫ぶと、操縦桿を固定。すかさずコクピットハッチをオープンしてPFを飛び出した。
そのまま乗降用のワイヤーガンを発射、ヌエ・カスタムの胸部へと飛び移る。
ほぼ同時に、動きの止まったヌエに、シュタインのJ-ファー・カスタムが突進。フォースソードが蒼い軌跡を描き――ヘルファイアを、肩ごと斬り落としていた。
「……あきらめろ!これで……チェックメイトだ!!」
唐突にシリアの上方から、声がかかった。
見るとヴァイスが、開いたコクピットハッチの前で仁王立ちになって、銃を向けている。
どうやらシリアが気を抜いていた間に、外部操作でハッチを開放していたようだ。
「……見事な、ものね……」
シリアは、すでにどうしようもない状況に追い込まれていることを悟っていた。
機体は動かせず、ヘルファイアを使うことも出来ない――おまけに頭上からは銃口が覗いていた。
しかし――それでも打つ手が尽きたわけでは、なかった。
「――でも、本気で決着がついたと思っているとしたら……おめでたいことだわ……!」
「――なにっっ!!」
「――言ったはずよ!!私は……自分の命すら、兵器にしてみせると!!」
そう言うとシリアは素早くパネルを操作し、ジェネレーターのリミッターを解除した。
ヌエの機体が赤熱化し、周囲の温度が上昇していく。
『――いけない!!みんな!!ヌエが自爆するっっ!!あと……10秒っっ!!』
カーマインの絶叫。
この至近距離でヌエが自爆すれば、間違いなくヘルファイアを巻き込む。
そうすれば、基地にまで被害は及ばなくとも、グレン小隊は確実に壊滅してしまうだろう。
あまりにも恐るべき決断――それはシリアの、最後の意地だった。
「――これで本当にチェックメイト……フフ……さよならね……アルサレアの男……」
穏やかに微笑みながら、シリアはヴァイスを見つめた。
それはすでに、機械の瞳ではなかった。
あきらめたようでもあり、すべてをやり遂げたようでもある静かな瞳――。
だが、対するヴァイスの瞳には、あきらめの色は浮かんでいなかった。
「――娘!私も言ったはずだぞ!……そんなことは、やらせんとっっ!!」
叫びながら、彼はヌエのコクピットに飛び降りる。
そして、シリアの鳩尾に、拳の一撃を叩き込んだ。
「ぐっっ!?……お、お前……まさ、か……?」
「――お前には聞きたいことがある!この私の目の前で……簡単には死なせん!!」
意識を失ったシリアを抱いてヴァイスはシートに座り込むと、ベルトで身体を固定する。
そのまま、ヌエの脱出システムを作動させた。
シートがイジェクトされ――二人は、天空へと放り出される。
「――少佐ぁっっ!!」
ライムのJ-ファー・カスタムが、すかさずジャンプ。ヴァイスたちをキャッチして、そのままブーストを全開にして遠ざかる。
同時にシュタインもヘルファイアを拾い上げて、一気にその場を離脱した。
そして数秒後。
主を失った二機のPFが光を放ち――やがて大音響と共に、爆発した。
「――任務完了……グレン小隊、これより帰還する……」
『……お疲れ様でした。みんな、無事で良かったね……』
シュタインが、カーマインに通信を入れると、どこかいつもと違う返答が返ってきた。
普段は余裕の表情を見せる彼女も、今回はさすがに穏やかではなかったらしい。
「――ああ、そうだな……すまない中尉。心配かけた……」
シュタインはモニターに向かって微笑んでみせるが、彼も改めて、己の不甲斐なさを痛感していた。
シミュレーションでは結果を残せたものの、今回の実戦では、ほとんど役に立っていなかったのだから。
戦闘の経験が、絶対的に不足しているのかもしれない。
すべてを守れる人間になる――彼の目指す目標は、いまだ遠かった。
『――シミュレーション……またやり直します?』
そんな思いを見抜いたのか、カーマインが穏やかな表情で言う。
「――そうだな……お願いするよ、中尉……まだまだ、俺も未熟だ……」
微笑みを苦笑に変えたシュタインは、わずかに頷くと、果てのない空の先を見つめ直した。
飛翔していく二機のJ-ファー・カスタム。
ライム機の手の上ではヴァイスが、腕に抱いたシリアへと目を落としていた。
(――自分の命すら兵器にする、か……だが、単に命令に忠実なだけとは思えなかった……最後に見せたあの瞳の理由――この娘は、どんな思いを抱いて戦っていたというのだろうか……?)
鬼神のごとき強さを見せた少女が、最後に見せたわずかな感情。
行方不明事件の真相よりも、ヴァイスは、ただそれだけが気になっていた。
東の空に陽が昇る――。
死闘を終えた戦士たちは、光の祝福の中に、一時だけ身を委ねていた――。
―― 第3話に続く ――
○ あとがき
皆様、お待たせしました。[PMMZ]の第2話をお送りします。
またしても、プロットより進んでねぇ……一体、この話、何話まで続くことになるのやら……。
ま、なにはともあれ最初の戦いは一段落……しかし、本番はこれからなのです。
さぁ、続きがどうなるか……第3話にご期待下さいね!!
双首蒼竜
管理人より
双首蒼竜さんより第2話をご投稿頂きました!!
いやはや、シリア強すぎです(汗)
この頃から強いとは・・・・これはもう流石と言うべきですね。
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