「これを変えてみるかの……う〜む」
端末で仕事をしているおっさんの背後から、一羽の人喰い兎が近づいてきた。
「博士、隊長兎から連絡がきました。」
後ろから近づいてきた人喰い兎が喋った――人喰い兎は、通常喋ることは出来ないが、人を捕食することで会話が可能となる可能性もある――
「テケリ・リ?(呼んだ?)」
「……博士、人語は解るのでそちらでなくとも大丈夫です」
人食い兎語で返答するおっさんに対して喋る兎が言った。
「条件反射じゃ。気にするな」
「了解でありますって呑気にやってる場合ではありません!」
「ん? 何かあったのか?」
慌てて喋る兎を訝しげにみるおっさん。
「ハァ……隊長兎殿から善い報せと悪い報せが入りましたが、どちらから先に聞きますか?」
おっさんのマイペースに呆れつつ、隊長兎が送って来た報せを選択させる喋る兎。
「なら、善い報せからにするかの」
「では、善い報せですが、ターゲットの捕獲に成功いたしました」
「おお! これでようやくアレの調整に入れるのう」
「そして悪い報せですが、もしかしたらターゲットが届かないかもしれません」
喜ぶおっさんを尻目にサラリと悪い報せを言う喋る兎であった。
Side 兎
ダンとルキアを捕獲した人喰い兎達。
兎達が撤収した後、人喰い兎に襲われたという報せを聞き、現場に駆け付けたハント協会――ハント協会とは、正式名称を惑星J害獣ハント協会と呼ぶ。
宇宙船アルサレアが惑星Jに不時着した当時、未知の生物が数多く生息していた。その中でも、人類に最も害であったのが人喰い兎であった。
そこで管理者の一人が、人喰い兎や人に害になる生物を駆逐しようと有志を募ったのが始まりだという。
そして聖歴24年の現在では、惑星J上の各地に支部を置くまでになったのだが……近年は逆に駆逐し過ぎて、絶滅寸前の生物の保護を訴える団体や環境保護団体などからの圧力により活動は縮小の傾向にある――に追われていた。
「テケリ・リ!(副官!)」
「テケリ・リ?(何ですか?)」
脱兎の如く駆ける隊長兎の横を涼しい顔で逃げる副官兎。
「テケリ・リ?(ターゲットはどうしているのだ?)」
「テケリ・リ(こんな前にいますから確認のしようがないです)」
そう、この二羽はあろう事か先頭を走っていたのである。
「テケリ・リ?(通信機はどうした?)」
「テケリ・リ(通信兵がいませんから通信できませんな)」
「テケリ・リ!(ちょっと見てこい!)」
「テケリ・リ(やなこったです)」
命令に逆らう部下の態度に怒った隊長兎は、副官兎に鉄拳制裁しようとしたがスルリと避けられてしまう。
激昂した隊長兎が、一発でも殴ろうと拳を繰り出すが、悉く避けられるのであった。
「テケリ・リ!(避けるな!)」
そんな事をしながら、部下達の遥か先を駆けていた。
そんな2羽がじゃれあっている(?)頃、殿にいる部隊は追っ手の追撃を阻止しようと動いていた。
「テケリ、テケリ・リ(キャプテン、戦闘準備完了しました)」
先を行く隊長兎と違い、威厳に満ちた風貌の兎が、部下からの報告を聞いている。
「テケリ・リ(偵察隊から報告はきたか?)」
キャプテン兎が言う
「テケリ・リ。テケリ、テケリ・リ(今しがた報告がありました。5台の輸送車で移動中で、その中にアマギヌがいた模様です)」
アマギヌ――人喰い兎の天敵の一つ。
狩猟民族であり、少数の集団に分かれてヴァリム北部の山岳部を中心に転々としている。
活動地域には関連性があるため、他の集団と一時的に合流する事も多い。
都会の人間は好きではないものの、村落の人間とは結構付き合いがあり、偶に物々交換している。
自然界の掟の中で暮らすため、身体能力は標準的な人間よりも高く、さらに狩人としての独自の技術を持つ。
狩りの対象は食える動物全て、他に食料として自生する植物の類を取る。
また、人食い兎を狩る事もあるが、その場合は熟練の者達だけで行う。
因みに集団から離れ単独で活動している者達もいる――
その場にいた兎達が動揺する。
兎達にとって彼らがいかに天敵であるかが伺える。
「テケリ・リ!(静まれい!)」
キャプテン兎が動揺する部隊に一喝する。
「テケリ・リ! テケリ・リ!(我々に与えられた任務は何だ! そこの奴、言ってみろ!)」
「テケリ! テケリ・リ! テケリ!(サー! ターゲットを創造主に送り届けることであります! サー!)」
指名された兎が言う
「テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ(その通りだ。相手がアマギヌであろうと関係はない。敵は消してしまうのみだ)」
「「「テケリ! テケリ・リ!(サー! イエッサー!)」」」
部下である兎達が上官に返答する。
「テケリ、テケリ・リ(では諸君、奴等の下品なケツをヒィヒィ言わせて来い)」
「「「テケリ! テケリ・リ!(サー! イエッサー!)」」」
威厳あるキャプテンの言葉に叱咤された兎達。兵隊兎達は、その目に炎を灯して応えた。
天敵といえども戦い方はある……人喰い兎も、狩られているばかりではない。
逆に狩ってやるのだ。そう、狩りが人間の専売特許で無いところを見せてやる―――
一言も鳴く兎はいなかった。
だが、彼らの目がそう語っていた。
Side ハンター
男は思った。今回はどこか変だ。
まず、人喰い兎が軍事基地を襲うという話は、今まで聞いたことがなかった。
奴等は慎重な性格の生物である。もし、襲うとするなら小さな集落だ。
現にそういった報告も数々ある。
それが集落ではなく、軍事基地である。
PFによる戦闘が主流とはいえ歩兵による攻撃がないわけではない。どんな基地にでも歩兵戦の装備はあるのだ。
襲撃された基地の規模は大きくないが、アルサレアとの国境が近い為に装備は充実している。
そんな所を襲ったのだ。
「なあ、あんた今回の襲撃をどう思う?」
俺は、隣にいる男に話し掛けた。
「ん? そうだな、最初に思ったのは、変という事だな」
「やっぱりそう思うか。人喰い兎が、基地を襲うなんて話なんか聞いた事ないよな」
隣にいた男さえ、こう思っている。他の奴に聞いても似た返事をしてくれるだろう。
「俺も聞いた事ないね。あと、変に思ったのは大量の血痕があった事だな」
「血痕? 俺が見たとこには血痕なんて無かったな」
俺が見たのはPF格納庫だ。人喰い兎から逃げていたのか機材やパーツが散乱としていた。
奴等の捕食方から考えて大量の血痕が出る事はない。
「俺が見たのは兵舎だったんだが……スプラッタ映画みたいな惨状だったよ」
男の表情が曇った。
そんなもん見たら気分は最悪だろうな。
俺は、男に元気出せよと肩を叩こうとした…………
後ろが騒がしい。
何事だ、と思う間もなく後方から爆発音が聞こえた。
爆発の振動が、先頭を走る車両まで伝わり、フロントガラスが震えている。
後ろに乗ってる奴等が、後方の車両が爆発したぞと言った。
車を止めさせ、私は外に出た。
「お前達も降りろ」
乗っていた部下に言った。
部下達が、車両から次々と降りてくる。
「アンディとジョニーは周辺を警戒、リカルドは私に付いて来い」
三人の小隊長に指示を出し、現場へと駆けつける。
爆発したのは、真ん中の車両であった。
道幅の狭い林道が災いして、部隊を分断された形となってしまった。
「何があった?」
先に駆けつけた部下に聞いた。
「どうやら、左から無反動砲による攻撃を受けた模様です。今、アマギヌの一部を向かわせました」
ここは彼らに任せた方が安全か。
「生存者は?」
「残念ながらいません」
一体、どこの誰だ? 最近、抗議活動してたあのグループか?
そう思案を巡らせていたところで聞こえてくるものがある。
「笛の音?」
アマギヌ達が、敵を見つけた時の合図の笛だ。音からして遠くはない。
「マツナガ! 救援に向かえ!」
部下にそう命じマツナガの小隊が移動しようとしたその時、マツナガが倒れた。
どこを撃たれたかは判らないが、じわりと血が滲むのが見える。
出血量からして即死ではなさそうだ。
「狙撃だ! 隠れろ!」
私達は、未だ燃えている車両を盾にし隠れた。一体、敵は誰なんだ!
Side 兎
「テケリ・リ(命中)」
木の上に二羽の人喰い兎がいた。一羽は狙撃銃を持ち、もう一羽は双眼鏡を持っている。
「テケリ・リ(餌に食い付かないか)」
「テケリ・リ(だったら一撃で仕留めるべきだったな)」
狙撃銃を持った兎が言った。
狙撃の態勢はそのままである。
「テケリ、テケリ・リ(突撃班、攻撃お願いします)」
「テケリ・リ(了解)」
双眼鏡を持った兎が、インカムで指示を出す。
「テケリ・リ(始まったな)」
狙撃銃を持った兎が言った。
「テケリ・リ(援護するぞ)」
「テケリ・リ(了解)」
狙撃銃を持った兎が引き金を引く。
双眼鏡を持った兎が、次の獲物を指示する。
見事なコンビである。
「テケリ・リ(よし次)」
「テケリ、テケリ・リ。テケリ・リ(狙撃班、アマギヌがそっちに行った。撤収せよ)」
引き金を引こうとしたその時、インカムからアマギヌが向かっていると報告が入った。
「テケリ・リ(C班、了解)」
二羽は急いでその場を離れた。
こうして、殿部隊による迎撃作戦は成功し、ダンとルキアは無事に届けられたのであった。
※アマギヌの設定は管理人様からお借りしたものなので、使いたい場合は管理人様の方へお願いします。
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相方
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