「語られざる歴史と報告書」超外伝その1

 〜こうして二人は出会った〜

 第三話








 

 顔に生暖かい風と、腹部にズシリとした重さを感じたルキアは目を覚ました。
 寝ぼけ眼をこすりながら目を開けると……彼女の眼前には、目を血走らせ荒い息を吐く人喰い兎がいた。

「キャーーーーーーー」

 彼女が悲鳴をあげるのと同時に、兎の胸部へ拳を打ち込み宙に浮かせ追撃の蹴りを一発。
 その勢いを利用して立ち上がり、目にも止まらないラッシュを浴びせた。
 この時、人喰い兎は消え去く意識の中で、彼女の背に天という文字が見えたという。

「「「テケリ・リ!」」」

 彼女の叫びを聞き付けた人喰い兎達が、ダンとルキアのいる部屋へ雪崩れ込んできた。
 ルキアは戦闘態勢に入るが……その横でいびきが聞こえてくる。

「また、このパターンなのね……」

 ルキアは肩を落とし、相方であるダンを見下ろした。
 彼女がうな垂れている間にも人喰い兎は、続々と集まってくる。
 ルキアは扉の前に陣取る人喰い兎達を警戒しつつダンの脇腹を蹴って起こそうと試みるが、一向に目を覚ます気配がない。

「はぁ、ダンの代わりにジータ君が……」

「あんな奴なんかより、俺のが頼れるだろうがぁっーーーー!!」

 前回と同様ジータの名を言ったと同時に目を覚ますダン。
 恐らく彼の目覚まし時計は、ジリリリと鳴るのはなくジータジータと鳴るのであろう。

「あら、ダンよりは頼りになるわよ」

「あんなウジウジしている奴の何処が頼れるんだ!」

 こうして何時もの夫婦漫才が始まった。  二人の世界に入っていけない人喰い兎達は、どうしていいか判断がつかず、テレビでしか観たことが無かった光景を眺めることとなった。
 中には、二人の漫才を評価をする兎も現れる始末である。


「……お主ら、兵士より漫才師になった方がよいのではないか?」

 兎達の後ろから男の声がした。
 その声を聞いた途端、兎達は道を開けた。
 声の主は、それに何ら驚く事もなく開いた道を通り二人へと歩み寄る。

「「誰が漫才師(ですって!)だぁ!」」

 二人の声が見事にハモる。

「お主らに決まっておろうが、全く見事なもんじゃ」

 男は笑いながら持っていた杖で二人を差した。

「漫才師じゃない、ヴァリム軍の兵士だ!」

「兵士ならこの状況で漫才などやらぬわ」

 謎の杖男とダンによる不毛な堂々巡りが始まった。
 これを見て頭が冷えたルキアは、男に誰なのかと尋ねた。

「儂は悪夢の召喚士という科学者じゃ」

「おい、そんなゲームのキャラみたいな名前じゃなくて、本名を言いやがれ」

「ふん、お主みたいな下賤な輩に名乗る様な名ではないわ!」

「なんだとクソ野郎! もう一度いってみろ!!」

「そんなに言って欲しいならいくらでも言ってやるわい」

「言ってみろ。言ったら、この拳が黙ってないぞ!」

 ダンが拳を見せる。

「ふん、やはり武人というのは野蛮な奴等ばかりじゃの。そうすれば直ぐに大人しくなると思っておる」

 悪夢の召喚士が嘲笑う。

「…………」

 鋭かったダンの目は更に鋭さを増し、拳を強く握りしめる。
 そんなダンの心情なぞお構いなしに口撃を加え続ける悪夢の召喚士。
 ダンも言い返すが、口数は徐々に減りだし、最後は黙ってしまった。
 ダンは歯を食い縛って堪えた。
 彼の人生でもTOP3に入る程にだ。
 ダンもここで手を出せば負けだと頭では理解していた……が、彼の若さが、それを許せなかった。
 ダンの拳が相手の顔に目がけ繰り出そうとしていた。


「あんた達……いい加減にしなさい」

 鬼神の形相をしたルキアであった。
 その声に気付いた男二人は――――

「「ハ、ハイ!」」

 彼女の形相に根源的な恐怖に突き動かされ、涙を滲ませてながら即座に土下座をするダンと悪夢の召喚士であった。
 そして、少し前まであった攻撃性は、嘘のように掻き消えたのであった。






 

「テストパイロットですか?」

 ルキアが言った。
 そんなこんなで落ち着いた三人は、場所を食堂へ移し説明がてらに食事をしていた。
 因みに調理はコック姿の人喰い兎がしている。
 ダンとルキアはそこで招集という名の拉致の理由を聞かされた。

「うむ、ジャポネルクの次期主力機計画の一環でな、徒手格闘に特化した機体を造ったんじゃ」

 グラスに注がれたワインを飲む悪夢の召喚士。

「乗ってみれば分かるが、搭乗者の技量がはっきり出てしまう機体なんじゃよ」

「それで何で俺達が拉致られたんだよ?」

 どんぶり飯をがっいていたダンが言った。

「とある人物に、ヴァリム軍人で体術に優れた者がいるかと聞いたら、お主らを推薦したんじゃ」

「……俺達、今まで使った事あったか?」

「軍に入ってからは……ないわね」

 二人は顔を見合わせ疑問符を浮かべた。
 二人は、PFの動作と運用の問題上、自分達の技を一切使わなかった。
 しかし、中には技どころか奥義まで使う者もいるが……相当暇だったのだろう。
 話を戻す。
 どうやって判明したのだろうか? 答えは簡単である。
 ルキアがダンにツッコミ代わりで蹴り倒していたからだ。
 ヴァリムは、力は正義というお国柄もあって武道、武術を学んでいる者が多く、そういった連中達の話題となり、最終的には推薦者の耳に届いたのである。

「お主ら、もう少し周りに目を配る様にするべきじゃな」

 悪夢の召喚士の言葉に二人は首をかしげた。

「そんな事より、ずっと疑問に感じていたんだが」

「なんじゃ?」

「兎どもが、飯を作ったり統制のとれた集団行動が出来るのは、何故だ?」

「ん? そんなもん改良したからに決まっておろう」

 ダンの疑問に悪夢の召喚士は素っ気なく答えた。

「信じられないって顔じゃな。
 余り知られてないが、人喰い兎は捕食した生物の遺伝子を取り込み進化しよるのじゃ。たまに変な姿をした人喰い兎がいた、なんて話を聞くじゃろ」

 悪夢の召喚士の言葉に二人は頷く。

「儂が、ここに住み始めてから少し経ったくらいだったかの。人の姿をした人喰い兎を見かけてな」
「そのタイプは絶滅したのではありませんか?」

「儂もそう記憶していたんじゃが……まあ、突然変異じゃろ、話を戻すぞ。儂は、それを捕獲して解析しての…………」

 ルキアの質問を最後に二人は押し黙ってしまった。
 そこから専門の講義へ発展していったからである。
 講義の内容を簡単に言うならコー○ィ○ー○ーである。
 そして、この話が終える頃には専門知識のない聴き手二人はグロッキーになっていたのは言うまでもない。






 

 講義を終えた三人は、機体の置いてある格納庫へと向かった。

「暫くはここでの生活じゃから、ここの構造をよく覚えておくんじゃ」

 格納庫へと降りるエレベータに着くまでに何匹かの人喰い兎が掃除をしている姿が二人の目に入る。
 人類史上最悪の害獣と呼ばれる人喰い兎が、せっせと掃除をする姿はここでしか見れないだろう。

 そして悪夢の召喚士の姿を見ると深々とお辞儀をする人喰い兎。
 見慣れない光景を見ながら、エレベータの前に辿り着いた。

「あの悪夢の召喚士さん」

 エレベータに乗り込もうとする男に向かってルキアが尋ねる。

「ここでは博士と呼んでくれ」

「では、博士。私達の所属などはどうなるのでしょうか?」

「所属はテストパイロットとしてジャポネルクへの出向になる。給料も上がるそうじゃ」

「給料か、そういえば全く使ってないよな」

「言われて思い出すぐらいだからね」

 ついこの間までアルサレアと死闘を繰り広げていたので、当然といえば当然である。

「到着じゃ」

 エレベータの扉が開いた。
 眼前には二人の想像を超えた空間が広がっていた。

「……想像していたよか広いな」

「そうね」

 二人の驚きも当然であろう。
 何せ、その広さは基地の格納庫並な上に地下にある。
 とても個人で持てるような物ではない。
 二人は、前にいる男の認識を改めた。

「あの機体じゃ」

 悪夢の召喚士が歩きながら中央部ある機体に指を差す。

「……これ、シンザンよね?」

「シンザンだな」

 二人の眼前には、ディテールこそ違うが、無武装のシンザンが二機あった。

「クライアントからの指示でな、外観はシンザンに似せてくれと言われたのじゃよ」

「次期主力機というのは、シンザンの後継機なのですか?」

 悪夢の召喚士の言葉にルキアが尋ねた。

「そこまでは知らん。儂は、クライアントの要望を聞いて造っただけじゃからな」

 やれやれ、という風に肩をすくめ答えた。

「それで、おっさん。こいつは、どういう機体なんだ?」

 ダンの問いを機に悪夢の召喚士の説明が始まった。

「こいつはパンチャー機を発展させた機体じゃ。従来のモノは、限られた動作しか出来なかったのじゃが、この機体は人の動きをほぼ再現できるんじゃ」

「演武が出来たりするのですか?」

 ルキアが自身の技の型を見せながら言った。

「うむ、可能じゃな。それどころかバク宙もできるぞ」

「操作が難しくなりそうだな」

 ダンが言った。
 PFの基本的な操作は、レバーとフットペダルを用いて行う。
 レバーは、機体の進行方向を決めるのに使い、フットペダルはブーストやジャンプをするのに使う。
 攻撃は、レバーに付いているトリガーを引く事により、予め組み込んでおいた動作を行う。

「確かに従来の操作機構では複雑になるじゃろう」

 悪夢の召喚士は、持っていた杖で地面を軽く叩いた。
 すると、コックピットと搭乗者が突然三人の前に姿を現し、二人を驚かせる。

「ホログラムじゃ、いちいち驚くでないわ」

 コホン、と一つ咳払いをし改めて説明を始める悪夢の召喚士。

「これは、朧に積んであるのと全く同じ物じゃ」

「朧とは、あのシンザンに似た機体の名前ですか?」

「そういう事になるの、だが今見て欲しいのはこことこれじゃ」

 彼が杖でパイロットの頭と手を指した。

「手のとこはスティックから半球になってるが、頭のは補助用のヘルメット……形は今までのと変わらないみたいだが、何処が違うってんだ?」

「変わってるのは中身、外見は大して変わらんよ」

 そう言ってホログラムのヘルメットを叩く仕草をする。

「だから、どう違うんだよ?」

「端的に言えば、自分の思い通りに機体を動かす事が出来る」

「……はぁ?」

 ダンは訳が分からなくなり、頭を掻き毟った。
 ソレは戦場で生き残る為に、常にやってきた事だからだ。
 己の考え通りに動かす、というのは自分で操作する事、だと思っていたダンは訳が分からなくなったのだった。

「やっぱり鈍いのう、儂が言ってるのは文字通りの意味じゃよ」

 悪夢の召喚士が肩をすくめる。

「つまり、自身の思考を反映させるということですか?」

 それまで黙って話を聞いていたルキアが、頭を捻っているダンの代わりに答える。

「嬢ちゃんは理解がはやいの、そういう事じゃ」

「思考をダイレクトに……そんな事が出来んのかよ……おっさん、乗っていいのか?」

 半信半疑ではあるが、とりあえず試してみたくなったダンがそう言う。

「故障すると嫌じゃから、シミュレーターなら構わんよ」

「地上じゃ」

「じゃ、早くそこに行こうぜ」

「まったくもう、落ち着きがないわね」

 新しい操作に、相当興味が出たダンは一刻も早く地上に行きたいようだ。
 そんな様子にルキアも、悪夢の召喚士も呆れた表情を見せている。




 

 それから四ヶ月の間、二人は機体に慣れる為の色々な訓練をこなした。
 その中には、ヴァリム軍に入ってからあまり出来なかった生身での訓練も入っている。
 この間に遥か北方の地域である事件が起こっていた。
 そんなある日―――

「お主ら、Gエリアを知っておるか?」

 外で組み手をしていた二人に、悪夢の召喚士が尋ねる。

「確か、北の極地に近いとこだったか?」

 珍しくダンが答えた。

「そんな場所がどうかしたのですか?」

「少し前にの、知り合いからアルサレアとヴァリムが、ドンパチしとるって話があっての」

 その一言に二人は言葉を失った。
 両国ともに疲弊していた筈、たった二年やそこらで戦争を再開出来る程の国力が回復してるとはとても考えられかった。

「そこでお主らに、朧の実戦データの収集を兼ねて行ってもらうことにした」

「ここ数日、整備の兎達が慌ただしいと思ったら、そういう事だったか」

「そういう事じゃ。行ってくれるの?」

 悪夢の召喚士の要望に二人は首を縦に振った。
 理由は、自分達の力がどこまで通じるかを試したい気持ちと、幼い頃に突然消えた一人の少年を探す為に可能性のある所に行きたいからである。

「博士、機体の整備はどうするのですか?」

「それは儂の知り合いに頼んであるから安心せい」

「おっさんは行かないのか?」

「行きたいのじゃが、これで忙しい身でな」

「そうか……今まで世話になったな」

「何から何まで、ありがとうございました」

 二人は悪夢の召喚士に敬礼した。
 さらにルキアは敬礼の後に、笑顔で握手までもしていった。

「ふん、そう思うのじゃったらしっかりデータ収集してくるんじゃよ」

 少し照れながらそう言う悪夢の召喚士。

「了解、しっかりとってきてやるから期待してな!」

「私も全力を尽くします!」

 ダンとルキアが力強く答えた。

「ま、今のお主らなら心配はいらんじゃろ、気をつけてな」

 こうして二人は、Gエリアへと向かった。
 そして、その地で長年探していた少年と再会する事となる。







 完
 



 〜後書き〜

 完結させるのに随分かかった……書き出した頃は、直ぐ終わると思いましたが上手くいかないですね。
 今回、掲載するにあたって、前に書いたのを纏め直しましたのは、1と2が短すぎたのと……毎度の事なのですが、他の話と整合をとるためです。
 まあ、それは日の目を見る事はないでしょう、JPの要素がアルサレア、ヴァリムってだけで他はオリジナルですから。

 この話のタイトルが超外伝にした理由は、ギャグ満載(実際はちがいますが)でやるつもりだったからです。
 因みに外伝は真面目な話になります。
 では、また何年後かにお会いしましょう(爆)

 悪夢


 スペシャルサンクス
 相方
 


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