〜アルサレア本拠地・参謀長室〜
ラグナチームが侵攻する敵基地に着いた頃、ゴルビー参謀長は自室に2人の人物を呼び寄せていた。
コンコン、と扉をノックする軽快な音が響く。
「入りたまえ」
「「失礼します」」
そういって入ってきたのは金髪の青年と活発そうな女性……少女と言った方がよいだろうか?
「よく来てくれた……早速だが、君たちはGエリアは知っているかね?」
「Gエリアというと北にある、あのGエリアですか?」
少女に1度視線を向け、青年は疑問を返した。
「そう、君達が今考えている所だ」
「まさか、そこに行け……と言うのですか?」
今度は少女が青年に短く目配せし、質問を返す。
「ふ、よく分かっているではないか。察しがよくて助かるよ」
「長い付き合いですからね……で参謀長、任務は我々だけで?」
「現地では先に、コバルト隊という特務部隊が任務に就いている」
「コバルト……あ〜、あの特務部隊の事なら時々噂を聞きますよ」
「部隊長が凄いらしいですね? 参謀長」
本来、Gエリアでの事は軍でも一部の者しか知らぬ機密事項に値する。
その事を知る様子の2人に、ゴルビーは素直に驚いた。
「ほぉう、その事まで知っているとは……」
だがこの参謀長は、それを表情に出すような素直な人物でもない。
「君らにもそのGエリアの戦列に、な。なにぶん事情が事情でロクに援軍も送れなくてな」
「それで俺達に白羽の矢が……と言うわけですか」
青年の発言にゴルビーは深く頷いた。
「しかし場所が場所だ、君らにはこれを拒否する権利もあるが……どうする?」
君達が決めてくれ、という視線を向けるゴルビー。
この部屋に来て初めてまともに話し始める2人。
しかしその2人こそが、アルサレアで知らない人はいないとまでいわれる
元グレン小隊のメンバー…………。
キース・エルヴィンとアイリ・ミカムラその人である。
「では、よろしくな」
「「了解しました!!」」
2人は敬礼をし、その部屋を後にする。
数日後、準備を終えた二人はコバルト隊と合流するべくアルサレア本国を出発した。
〜セストニア氷原・休憩室〜
「……おい」
「……なんだランブル、俺に用か?」
素っ気無く答えたラグナに、ランブルが詰め寄る。
「なんだじゃないだろう! 貴様、その顔はどういうことだ?」
「ちっ……やっぱりバレちまったか…………」
めんどくさそうに視線を逸らしたが、ランブルは追撃の手を止めない。
肩に手をかけ、その場を去ろうとしたラグナを捕まえる。
「お前だけなら気づかなかったかもしれん、だがその喋りにヒュウガのヤツもいたからな。
これだけ条件が揃って、顔見知りにバレないと思う方がおかしいぞ! 逃げるな、説明して貰うぞラグナ」
「あ〜はいはいわかったよ……その前に、だランブルよ」
「チッ……なんだ?」
しぶしぶ、といった感じでラグナの話に耳を貸す。
「お前さ、フェンナ・クラウゼンが暗殺されそうになった事件知ってるか?」
「…………知らんな、それとお前のその顔と関係があるのか?」
さらに詰め寄るランブルに、これ以上話を長引かせると危ないと思ったラグナはポツポツと説明を始める。
「実はその犯人な、俺…………らしいんだ」
「馬鹿を言え、何故自分を犯人だとバラすんだ?」
一瞬身を引いたものの、すぐに体勢を建て直し冷静に答えるランブル。
「それがな、俺にも微妙〜にその記憶が残ってるっぽいんだが、良く分からねーんだ」
「……本当に、お前が犯人だとでもいうのか?」
「少なくとも自分から進んで襲おうと思って襲ったんじゃねえ。
……でも軍のお偉いさん方は俺が犯人だと本気で思ってやがる」
話を聞いて、少し考え込んでいるランブル。
そこへもう1つ情報を追加するラグナ。
「そんで、以前の俺はいないことになった。ヒュウガ以外のメンバーはこのことを知らないんだ」
「……つまり、重罪を犯した犯人がこんな辺境で、特務部隊の隊長をやってる……
そうとバレるわけにはいかない……そう言うことか?」
「そういうこったな。そこで、おまえにはバレたら言おうと思ってたことがある。
頼む、このことは他のヤツらには黙っててくれねぇか?」
ぶっきらぼうに言いながらも、ラグナは深々と頭を下げる。
「フンッ、貴様をつまらん事で殺させるわけにはいかないからな……いいだろう」
「すまねぇ、恩にきるぜ」
ランブルに向かって手を合わせる仕草をする。
「勘違いするな、お前を倒すのはこの俺だからだ! それまでは死なせんからな」
「ああ、分かってるさ。だがそう簡単には負けてやらねぇかんな」
2人が鋭い眼光を交差させた。
「そしてこれだけは言っておく、俺の邪魔だけはするなよ」
ラグナから視線を外したランブルは、馴染み深い捨て台詞を残し去っていった。
「……ランブルのヤツ昔っからあのセリフだけど、よく飽きねぇよなぁ」
〜セストニア氷原・ブリーフィングルーム〜
双子の悪魔との激戦を、かろうじて制したラグナチーム。
敵機60という大軍を巧みな計略を使い、わずか10機で本拠地を守りきったオスコットチーム。
今彼らがいるのは、ヴァリム軍を退けて占領した基地である。
そして占領してから次の日の朝を迎えた。
「隊長おはようございます、今朝は随分お早いんですね」
珍しく、朝早く起きてきたラグナを見て苦笑するクラン。
「ああ、おはよーさん……別に笑わなくても良いだろ?」
「いえ……寝癖が、凄いんですよ」
「……マジ!?」
そう言われて、あわてて自分の頭を抑えるラグナ。
「はい、マジです」
「隊長、凄い寝癖ですねぇ」
ラグナが慌てているところに、後ろからヒュウガが声を掛けてきた。
「カミカワ大尉、おはようございます」
「クランさん、貴女一体いつ寝てるんですか?」
ブリーフィングルームに来ると、自分より必ず先にいるクランに疑問をぶつけるヒュウガ。
「言われりゃ確かに……俺はいつも遅いけどな」
「寝てはいますよ? 仕事で遅くなって、あまり長い時間は寝てませんけどね」
「なんだってそんなに早く起きれんだよ」
「そうですね……習慣が身に付いただけ、ですよ」
口元に指をあて、冗談交じりにそう言うクラン。
ラグナとヒュウガはもう笑うしかなかった。
「あはははは…とりあえず隊長」
「ははは…なんだヒュウガ?」
「その寝癖直してきましょうよ、付き合いますから」
「あ、ああそうするか……」
2人は連れだって、洗面所へ向かった。
それからしばらくして、コバルト隊全員がブリーフィングルームに集まった。
「クラン、また新しい人が来るんだよね? それも2人」
「また増えるのかい……随分賑やかになるねぇウチの隊も」
オスコットが嬉しそうにぼやく。
「多分、皆さんも名前ぐらいは聞いたことがあると思いますよ?」
「……そんな有名人さんが来るんですの?」
「ええ、だってその2人は……」
リンナの問いかけにクランが答えようとした瞬間、
ブリーフィングルームのドアが勢いよく開け放たれた。
「だってその2人とは何を隠そう!!」
目にも止まらぬ速さで人の間を抜ける影。
「グレン小隊に名を連ねていた!!」
そちらに目を奪われた者の隙を突き、同じ様に人の間を抜けるもう一つの影。
「な、なんだ!?」
ラグナが驚き振り返る。
「キース・エルヴィンと!!」
動きが止まった一つの影が名乗りを上げた。
「アイリ・ミカムラ!!」
先の止まった影に合わせて動きを止めるもう一つの影。
「「この2人なのだから!!!」」
そしてその正体が明らかとなった。
キースと名乗った青年と、アイリと名乗った少女はポーズを極めている。
何故かランブルとクランを除くメンバーの頭には
ポーズを決めている2人の後ろに、爆発するシーンが浮かんでいた。
「……という事で、こちらがキース・エルヴィン大尉とアイリ・ミカムラ大尉です」
先の事件など、何も無かったかのように話を続けるクラン。
「まっ、よろしくなっ!!」
「私たちが来たからにはもう大丈夫!」
久しぶりの作戦への参加で、妙に力が入りハイテンションになっている2人。
しかし、2人が作ってしまった際どい空気は変化せず……
「ま〜、冗談はコレぐらいにしといて……」
「ちょ、ちょっと調子に乗りすぎたかもね」
肩を落とし、苦笑いをする2人。
「まあ……なんだ、噂は聞いてるぜ、よろしく頼む。
俺がこの部隊で隊長をやらせてもらってるラグナだ」
「ええ、よろし……ってあんたは!」
ラグナの名を聞いた途端、迫ろうとするアイリ。
その様子に勘付き、腕を掴んで引き寄せたキース。
「おい、今は騒ぎを大きくするべきじゃない……わかってるよな?」
アイリに耳打ちをするキース。
勿論周りの人には聞こえていない程度で、だ。
「どうかしたのですか?」
ジータが恐る恐る尋ねる。
先ほどの奇行が頭に残っているらしく、微妙な距離から声をかけている。
「あ、ああなんでもない!なんでもないったら!! それと敬語なんか使わなくて良いからね」
「それオレも!! 敬語とかむず痒いぜ」
キースが口を挟む。
「おうわかった、よろしくな」
「隊長は最初から敬語じゃありませんでしたよ?」
ヒュウガのその言葉に、クランとランブルを除く皆が爆笑した。
こうして全員が挨拶を終える頃には、クランが次の話を持ち出してきた。
「皆さん、次の話をしてもよろしいでしょうか?」
「次の話って何? ……もしかしてクラン、新しい武器のこと?」
シュキの言葉に頷いたクラン。
その後に彼女はこう続けた。
「……新兵器の説明のために、本日はもう一人ゲストを招きました」
「誰ですか?」
ムラキが尋ねる。
「もう少ししたら来ると思いますので、それまで各自休憩にしたいと思います」
「「「了解〜」」」
〜セストニア氷原・休憩室〜
ラグナがコーヒーでも飲もうと思い、休憩室に来たときだった。
「ちょっとあんた、こっちに来なさい!」
自販機を前にしているラグナの後ろには、キースとアイリが仁王立ちしている。
「うおっ、何だ突然?」
「隊長さんにゃわりぃが、今は大人しく従った方が身の為だぜ?」
軽い口調だが、その目の奥にはラグナを射抜かんとする敵意が見て取れる。
「……どういうことだ」
ソレに感付いたラグナは、警戒態勢へと移る。
「コイツこう見えても、ミカムラ流っていう拳法使いなんだよ」
そう言ったキースの隣で、指をゴキゴキと鳴らすアイリ。
少し……いや、かなり怖い。
「……分かった分かった、どこへでも連れてけよ?」
アイリの雰囲気に圧されたラグナは、降参降参といった感じに両手を上げた。
そして、2人にワケも分からず連行されて行かれた。
〜セストニア氷原・キースの部屋〜
2人に連れられてやってきたのは、キースの部屋だった。
まだこちらに到着したばかりで、荷物の整理なんかは進んでいない様子である。
「で? こんなトコまで連れてきてなんっ……」
「何だ、とは言わせないんだからねっ……キース!」
アイリはラグナをベットの上に押さえ込んだ。
う、動かねぇ……この身体のどこにそんな力あんだよ!?
押さえつけられたラグナは、何とか抜け出そうと必死にもがいた。
だが、そんな抵抗も虚しくびくともしない。
「わりぃな……隊長さんよ、正直に答えてもらうぜ?」
そしてキースはラグナの頭に拳銃を突きつける。
2人の声に、どこか殺意のようなものを感じ取ったラグナ。
「穏やかじゃねぇな……何もしねぇから離してくれよ。
そんなに強く押し付けられちゃ、苦しくて喋れねえからよ」
「ちゃんと正〜直に、質問に答えなさいよ?」
「返答次第によっちゃ、アンタを行動不能にしてやるからな」
さらに力を込め、銃を突きつけるキース。
「わかったわかった……早く質問しろよ、休憩時間終わっちまうぜ?
っと、その前にマジで苦しいから離しな」
最初は抵抗したものの、冷静な対応をするラグナ。
それを見て一瞬無言となる2人。
ラグナは早くしてくれと促した。
その崩れない態度が却って、2人はラグナが嘘をつくような事はないと信じさせた。
「わかったわ、けど暴れないでね」
最初は抵抗したものの、冷静な対応をするラグナ。
それを見て一瞬無言となった2人。
言葉には出さないが、早くしてくれと促すラグナ。
その崩れない態度が却って、2人には彼が嘘をつくような事はしないだろうと信じさせた。
「アンタ、フェンナちゃんを殺そうとしただろ?」
「フェンナちゃんって……フェンナ・クラウゼンのことか?」
視線は2人から話さず、言葉を選びながら答えるラグナ。
「とぼけないで!! アンタいきなりドアを蹴破って、フェンナに銃向けたんだから!」
自分でも曖昧なはずの記憶を、注意深く探る。
「………………あっ!?」
今こうやって責められる事について、1つだけ思い当たる節があった。
「思い出したみたいだな?」
「んな馬鹿な……あれは夢じゃなかったってのかよ!?」
「……夢? 夢ですって!? あんたは実際に私達の前に姿を現しているのよ!?
今のあんたの顔とは違うけどね!」
「じゃあ……キース、俺の銃を打ち落としたのはお前か?」
「なんだ、やっぱり分かってるんじゃねぇか……」
彼が夢で見たと思っていたこと……
それは幻などではなく、現実で起こっていた。
紛れも無い事実を突き付けられて、ラグナはこれ以上無い程に混乱した。
ただでさえ見たくもない夢、その夢が現実で起こっていた……
恐ろしい事件だと言うことを、ラグナは認めたくなかった。
「まだとぼけるの!? いい加減に白状したら?」
「あんまり焦らすなよ、誤って撃ちかねないぜ?」
「認めたからってどうなるってんだ?」
「なんであんたが、あんな事をしたのかが知りたいからよ」
アイリが拳をきつく握りこむ。
「信じられねえだろうが、あの出来事は夢だって思ってたんだ。
そんな俺が、なんて答えれば良いんだよ!
それにあの時、俺は自分の意思では動いていなかったんだぜ?」
必至になって弁解しようとしているラグナを睨むキースとアイリ。
必至にそれでも態度を崩さずに弁解しようとするラグナ。
それを注意深く睨む、キースとアイリ。
「……アレって嘘よね?」
小声で耳打ちをするアイリ。
「眼を見ろよ……アレが嘘言ってるような眼に見えるか?」
「勿論、さっきから気付いてるわ……でも!!」
「俺達、別に人殺しがしたいわけじゃないだろ?」
数多の戦場をくぐり抜けてきたキースとアイリ。、
戦いの中で養われたのは、何もPFの扱いだけではない。
極限状態での人を見る目も、また養われてきたのだ。
そして彼の眼は、いくら見ても……嘘を言ってる眼では無かった。
それも当然、何しろラグナは嘘を言っていない。
ラグナは、自分の身体が操られていたような感覚にあったこと。
また自分のやったことを、夢のように感じていたこと。
彼らの前で何一つ、嘘はついていないのである。
「ごめん、チョット頭に血が上り過ぎたみたい」
「とりあえずこの話は保留……だな?」
「仕方ないか……」
一通り、2人での話が付いたキースとアイリ。
そしてラグナの方を向く。
「とりあえず、今のところはあんたの言う事を信じるわ」
「……へ?」
「ただ、今度また怪しい素振りを見せたら……」
「さっきまでのは一体?」
突如解放され、不思議に思うラグナ。
「ぶっ飛ばすからね」
「ホントに撃つからな」
「あ、ああ…………なんだってんだよ……ブツブツ」
終わったのかと思いきや、最後の最後で脅されるラグナ。
こうして、ラグナの知らぬ所で話は終わっていた。
〜セストニア氷原・ブリーフィングルーム〜
休憩時間を終え、ブリーフィングルームへと戻ってくるメンバー達。
そして戻ってきた部屋には、白衣を着た見知らぬ男がクランと話をしていた。
「あ、そろそろ休憩が終わりのようですね」
「そのようだな」
「クラン〜、全員揃ったみたいだよ! ……何故か隊長がやつれてる気がするけどね」
この短い時間で、彼に何があったのか知らない者達。
彼らは何があったのか気になったが……
「何でもねぇよ」
と言って答えようとはしないラグナ。
が、彼は微かに震えているのであった。
「ではみなさん、話を初めてよろしいですね?」
「始めちゃってよ〜」
「先程お知らせをしましたゲストが、先ほど到着いたしました」
皆の前に、白衣を着こなしいかにも科学者然とした男が姿を表した。
「新兵器の説明と、運用方法を説明に来たヒョウドウだ」
「ん? ヒョウドウってどっかで聞いたような……」
頭をひねるラグナ。
「この間の通信のこと、もう忘れたのか?」
「…………ああ! ジータが倒れたときの!!」
「あまり大声で言わないで下さい隊長!」
情けないと思ったのか、恥ずかしそうにするジータ。
「あれは実験で倒れたのだから何も恥ずかしがることはない。
むしろあのレベルまで耐えられた事が珍しいんだ」
イメージ的に人のことをフォローするのが、これほど似合わない男もいないだろう。
「それはそうかもしれませんが……」
「いつまでもウジウジするなー!! ジータらしくないよ〜」
「だな……ほらジータ、しっかりしろ!!」
シュキとムラキに励まされ、なんとかジータは立ち直った。
「ではそれぞれの新兵器の説明に入るが……構わないか?」
「すいませんでした。お願いします」
「ではまず、君の機体の新兵器についてだが……」
ヒョウドウが新兵器の話を始めた。
※かなり専門的な言葉やら説明があるので話の内容は割愛させていただきます。
あまりにも専門的過ぎる話に、クランを除くメンバーはグロッキー状態となった。
そんなメンバーにお構いなく、説明を続けるヒョウドウ。
話は進み、ラグナの機体に装備される新兵器についての話の番となる。
そこで、一同は驚愕する事となる。
「ラグナ……君の機体には、他の機体には無い危険が付きまとうことになる。
それでも私が持ってきた新兵器を、使う覚悟はあるか?」
「どの程度の覚悟をしろって?」
「あえて言うなら…………命を懸ける覚悟だ」
「「「!!!」」」
ヒョウドウのその言葉に、ブリーフィングルームはあっと言う間に静かになった。
彼はそれでも、構わず話を続ける。
「それでも……使う覚悟はあるか? 使う使わないはお前の自由だ」
「そいつを使えば、俺は強くなれるのか?」
「俺が保証しよう……今の倍以上の強さが手に入るだろう」
「選択肢なんてないな、使わせてもらうぜヒョウドウ」
命と言われているにも関わらず、あっさりと答えるラグナ。
自分を地に伏せさせたリュウハの影が、脳裏に焼き付いているのであろう
「お前の機体に積まれる兵器……装置と言った方がいいだろうな。
これの開発に私は反対した……この意味が分かるか?」
「アンタは、パイロットを犠牲にする兵器を作りたがらない。
そう言うことなんだろ? 分かってるさ」
「……あの適性検査はそのため、だったんですね?」
ヒュウガがヒョウドウに詰め寄る。
「察しがいいな君は……ヒュウガ、と言ったか?」
「はい、そうです」
深い溜め息を一つ、漏らすヒョウドウ。
少しの間を置き、彼はまた話を始めた。
「あの装置には制約が多すぎるんだ。
まさかこの部隊に使える者がいるとは、正直思っていなかった」
黙りこむ一同
「パイロットを危険に晒すことには、どの小隊でも変わらないがな……」
ヒョウドウが自嘲的な含み笑いをする。
「戦争なんてそんなモノさぁ……自分が犠牲にならなければ、他の誰かが犠牲になる。
その逆もまた然りだよ」
オスコットが語り始める。
「何の犠牲もない方が良いだろうけど、そういうわけにはいかない……それが戦争ってもんさ。
博士もそんないちいち落ち込んでたら、キリ無いよ?」
「分かっているさ、そんなのはな…………」
その湿っぽい空気に耐えられなくなった者が1人。
「ああもう!! 暗い雰囲気はたくさんだ! ヒョウドウ!
その装置を使えるのは、俺しかいないんだな!?」
「その通りだ……本当に良いんだな?」
ラグナに向かって最後の確認をするヒョウドウ。
「人間いつかは死ぬんだぜ? 戦争やってる俺達なら、尚更な。
それなら戦闘を早く終わらせられる方が、死ぬ可能性は低くなるさ」
「分かった……それでは説明を始めよう」
※この話も長いので割愛させていただきます。
「という事だが…………分かったか? ラグナ」
「おう、その装置の危険性も鳥肌が立つぐらいにな」
「隊長さん!? そんな装置をほんとに使う気なんですの!?」
ラグナに降りかかる命の危険を案じ、声を張り上げるリンナ。
「こんなの、正気の沙汰とは思えないですよ!」
信じられないモノを目の当たりにしたかのように言うジータ。
「いくら強くなるからってさ……こいつはちょっとねぇ」
いつも余裕のあるオスコットも、流石に退き気味だ。
「大丈夫だって!! 俺がそんな簡単に死ぬようなヤツじゃないのは
みんなわかってんだろ?」
ラグナが暗い雰囲気を払うように、皆を見回し笑顔で言う。
「さっき聞いた説明だと、危なくなったらすぐに装置を止めることも出来る……って言ってたしな」
「隊長〜ホントにそれ使うの?」
シュキが心配そうな表情を浮かべている。
ランブル、キース、アイリの3人はラグナの顔を見ているが黙ってた。
「戦力が上がるのは願ってもいないことですが……隊長、本当に良いんですね?」
最後の駄目押しをしてくるクラン。
「使うさ……そこまでの状況が差し迫っているんだぜ?
誰がなんと言おうと、俺はコイツを使いこなしてみせるさ」
「やっぱりですか……隊長ならそう言うと思ってましたけど、無茶もいいとこですよ?」
これには反対したいと思ってはいるが、口には出さないヒュウガ。
それというのも、ラグナのことを他のメンバーよりもわかっている所為だろう。
「……どうやら私ごときが何を言っても無駄のようだな」
ヒョウドウは説得を諦めたようだ。
「自分の仲間が、これだけ言ってるのに諦めないのではな。
とりあえず、今回持ってきたモノは全て置いていくとしよう。
後はお前たちの好きにするがいい。
健闘を祈っているぞ? 縁があらばまた会おう。」
「ああ……また何かあったら頼むぜ、ヒョウドウ」
「分かっている……それではな」
彼は颯爽と、ブリーフィングルームから去っていった。
「ウ、ア゛ア゛ア゛!! あだまがっ……頭がいた、い…………」
ヒョウドウがブリーフィングルームから去って間もなく、
ジータが、突然頭を抱えて苦しみだした。
「どうした!?」
「分からないよ! ……ジータがいきなり頭を抑えて……」
突然の事態に、慌てふためくシュキ。
「ウガアアア゛ア゛ア゛ッ!!」
「ムラキ、ヒュウガ! ジータを押さえろ!!」
「「了解!!」」
ジータの左側をムラキが、右側をヒュウガが押さえる。
「クラン、お前ヒョウドウから何か聞いてねーか?」
ラグナが、ヒョウドウと一番話をしたであろうクランに話を振る。
「……そういえば、一定値ギリギリまでの検査を耐えた後にショックが出た人の場合、
後遺症が出るかもしれない……と言っているのを聞きました!」
「それだ! まずは救護室に運ぶぞ!!」
「「「了解!」」」
皆の慌てた声を聞きながら、ジータの意識は闇に飲み込まれていった。
〜アルサレア・ジータの夢〜
ん……どこだ、ここは……
「おいジータ、そろそろ行こうぜ?」
誰だ……?
コバルト隊の中で、俺にこんな親しく接する人はいない筈なのに……
「おい、試合がはじまっちまうだろうが!」
「ジータ君、早く行こう?」
「……もうそんな時間だった?」
これは……もしかして俺の、小さい頃の……夢なのか?
「待ってよ、僕を置いていかないでよ! ○○○○○!!」
俺、今なんて言ったんだろう……段々景色が薄れていく……もうすぐ夢も覚めるみたいだ……
久々だな、こんな…夢……を見たの…は……
〜セストニア氷原・救護室〜
ジータが夢を見ている間に、救護室にはラグナがやって来ていた。
隊員達の中でも、ヒョウドウに詳しい説明を受けたラグナ。
彼は、とりわけジータの事が心配になっていた。
そしてラグナが来るのとほぼ同時に、ジータが目を覚ましたのである。
「お、気が付いたか!?」
「…………隊長、ここは?」
「お前さん、また倒れたんだぜ?」
「急に頭が痛くなって……運ばれて、目が覚めるまでの記憶が……」
「こりゃ、今回の作戦参加は見合わせた方がいいか」
この調子では……と考えたラグナ。
だが、ジータはその提案を呑もうとはしない。
「だ……大丈夫です!! いざとなったら、退かせて貰います」
ラグナはじっと、ジータの眼を見た。
しばしの間、天井を仰ぎ思案する。
「……無理はするなよ?」
「勿論ですよ、任せて下さい」
「まあ、今は休んでおきな。作戦は明日だぜ」
その言葉を最後に、ラグナは救護室を後にした。
ジータがもう一度寝て起きた頃には、全機体の準備が終わっていた。
〜セストニア氷原・ヴァリム本拠地〜
ジータが倒れた頃、作戦に失敗したブライスを
リュウハと双子は冷淡な目で見ていた。
「……失敗したな、ブライス」
「グググッ……ならば、どうするというのだ!?」
激しい歯軋りを、惜し気もなく響かせリュウハを睨むブライス。
「ここからは、俺に指揮を執らせてもらおうか?」
「フフフフフ、出来るモノならやってみるがいいリュウハよ。
神佐の腕前、じっくりと拝見させてもらおうか!!」
「では早速だがブライス、貴様にはもう一つの重要拠点の方に移ってもらう……いいな」
ブライスの挑発に、全く反応せず話を始めるリュウハ。
「……それで?」
リュウハは目の前のテーブルに地図を広げる。
「前回の戦闘で、我々は60という決して少なくない数のPFを失っている」
淡々とした口調だが、どこか棘のあるリュウハの発言に青筋を立てるブライス。
しかしリュウハは、それを一切無視して2つの基地の場所に指を指す。
「貴様に守って貰う場所がここだ。
……そして現在、我々がいる基地がここだ」
「それはわかっている」
「知っての通り、現在この2つの基地は要塞化が進んでいる」
「……俺は何をすればいいのだ?」
勿体つけた説明に、ブライスがしびれを切らして単刀直入に聞く。
「こちらの重要拠点で篭城して、アルサレアの戦力を釘付けにする。
……お前に出来るか?」
「そんな事、この天才ブライス様には朝飯前だ!
で、貴様はその間何をしているつもりだ?」
その台詞に、この場にいた者はこう思った。
日付が変わっても無理だろうな、と。
「援軍にて敵の後方基地を襲い、敵を包囲し補給路を断つ。
後は殲滅なり消耗戦をするなり、だな。
それまでは、後方の撹乱をするとしよう。
……損害が少なければ、もう少し積極的な作戦を取れたのだがな」
今度は、パイルバンカーをぶち込まれる。
それを聞いた瞬間、ブライスの顔が真っ赤になる。
だが、事実は事実なので何も言い返せなかった。
「…………了解した、せいぜい失敗しないようにな」
説明を聞き終えたブライスは、捨て台詞を吐き大股で部屋から出ていった。
モアイの気配が無くなってからマイが腹を抱えて笑いだした。
「さて……次はお前達の番だ」
マイの笑いが収まるのを待ち、リュウハは口を開いた。
「は〜ぁ、待ちくたびれたぜ」
「本当は何を考えているの?」
「やはりユイは気が付いていたか……」
ヤレヤレ、と肩をすくめるリュウハ。
「あ、あたいだって気付いてたんだからな!!」
「ハハハ……分かっている」
「マイ、嘘を言うのはよくないわ……珍しいわね、貴方が笑うなんて」
見栄を張るマイが余程おかしかったのか、笑っているリュウハ。
それを見て、珍しく驚きを隠せないユイ。
「なんだよ〜、ホントに分かってたんだからなぁ!!」
少しイジケ気味のマイ……付き合いの古い3人だからこそ見せる表情なのだろう。
「……すまない、では本題に入らせてもらうぞ」
「分かったわ」
「ああ、いいぜ」
リュウハはユイとマイに本当の作戦を告げる。
神妙な表情で黙って話しを聞いている2人。
「……やはりそういうことね」
「……なるほどな、分かった」
「では頼んだぞ。 ユイ、マイ」
「「了解」」
話が終わり、2人とも部屋から出ていった。
リュウハは彼女らを見送ると、携帯電話を出しどこかへと掛けた。
「……私だ、例の件はどうなってる?」
〜セストニア氷原・ブリーフィングルーム〜
新兵器が到着して早一日が経過していた。
ヴァリムに大打撃を与えたコバルト隊。
彼らはその波に乗り、ヴァリムを一気に攻め落とす作戦に踏み切る。
しかしヴァリムも、そう馬鹿ではなかった。
全員が部屋へと集まり、作戦会議を開始しようというところでクランが叫ぶ。
「皆さん、大変です!!」
「どうしたの〜?」
シュキが彼女の目の前にある通信機の画面を覗き込む。
その画面を見た途端固まるシュキ。
皆が何事かと、一気に画面の見える場所に集まる。
そこには、4枚の写真が表示されている。
内2枚は何の変哲もない、基地の写真だ。
日付が付いており、作戦前日のモノだという事が分かる。
残りの2枚の日付は、つい一時間程前に撮影されたものだ。
その2枚にはどちらにも、前日とは違うモノが写っている。
それは、たった一晩あまりで完成されたとは思えない堅牢な基地が写されていた。
「クラン、コレまさか……」
「はい……皆さんがお考えの通りだと思います。
まさか、ヴァリムの動きがここまでとは」
「本当ですね……」
ヒュウガが憎しげに呻く。
「ま、ぼやいても仕方ないんじゃないの?」
「だよなぁ……とりあえず、作戦の概要を聞こうぜ?」
皆が意気消沈としている中、ラグナが話の先を促す。
「え、ええ……それではブリーフィングを始めます。
シュキ、いつもの通り皆さんに書類を配って」
「はいはーい!!」
彼女はこの仕事に慣れてきたのか、書類を配るスピードが徐々に速さを増す。
「敵のダメージが回復しない内に、こちらから攻め込み作戦を終わらせる。
その予定でしたが、それも困難になりました。」
彼女の背後にあるスクリーンに、先程の写真が映しだされる。
先刻彼らを辟易させた、威容を誇る敵拠点だ。
「ご覧の通り、敵の拠点はとても強固な物となっております」
「何か破る方法はありませんの?」
「急な事でしたので、現在の所は何も……」
リンナの問いに、クランが沈痛な面持ちで答える。
「ヘルファイヤーによる攻撃は効果ないんですか?」
ジータが挙手しながら言う。
「前回我々が使ってしまっていますので、ヘルファイヤーによる攻撃にも耐えられると思います」
「「「………………」」」
この発言を境に、皆押し黙ってしまった。
「…………そうだ、アレがあるじゃないですか!!」
「おいヒュウガ、いきなりびっくりするじゃねーか?」
ヒュウガの突然の大声に、吃驚する一同の中でラグナが声をかけた。
「私の機体は通常形態を含めて、3タイプに換装できるようになったんです」
「……随分と器用なことが出来るようになったんだな」
「まあそれは良いとして……その中の一形態に拠点攻撃形態というのがありまして。
攻撃力だけなら桁外れなモードがあるんですが、クランさん私の機体データ出せますか?」
「はい……コレですね」
クランはすぐさま、ヒュウガの機体データを呼び出した。
ヒュウガも皆の前に立ち説明し始めた。
「先程も言いましたが、私の機体は3タイプに換装できます。
その中の1つにアトロウシャスモード、という拠点攻撃形態が存在します」
スクリーンにアトロウシャスモードの画像が表示されている。
「このでかいレーザー砲は、アルサレア要塞に備え着けられていたものを改修した物です」
「要塞に付いてるっていうと、あれか……」
ムラキが呟いた。
それは先のアルサレア要塞での戦いの時、ヴァリムの空中空母にダメージを与えた代物である。
「威力は皆さんもご存知だと思うので省かせていただきます。
これなら、壁に穴を開けることが可能だと思います」
その場にいる全員が、その様子を想像してみたようだ。
一様にその表情には翳りが見える。
「確かにそうだろうが……もう一方の基地はどうする?」
ランブルが肝心なところを指摘する。
「ええ、そこが問題なんですよね……」
「……ねぇ、ちょっといい?」
アイリが手を挙げる。
「どうぞ」
「当然、予備パーツってあるわよね?」
「ありますね」
「それを同じ様な砲台に改造して……じゃダメなの?」
「お前にしちゃ冴えてるじゃないか!」
「にしちゃって何よ!」
キースの茶々に向かって、アイリが睨み返す。
「いい案なんだけどさ、まずは整備班の連中に聞いてみないと」
このままでは机上の空論だ、とオスコットは言う。
「それでは、私が掛け合ってきますので一時解散とします。
1時間後ここに集まっていて下さい」
「「「了解!」」」
それからぴったり1時間後、クランとシュキが戻ってきた。
シュキの顔には疲労の色が浮かんでいる。
「全員いますね……では、ブリーフィングを再開します」
メンバーが揃っているのを確認し、彼女は説明を開始し始める。
「ミカムラ大尉の案ですが、3日あれば作れるそうです」
アイリがガッツポーズを決める。
自分の案が通った事がそこまで嬉しいだろうか。
「ただし注意点が1つ……1発が限度とのことです」
「そうなると、ぶっつけ本番ということだね」
とオスコットが目を細め言った。
「さっき言いそびれましたが、運搬はどうするのですか?」
オスコットに続けて、ムラキが次の問題点を指摘する。
「そこは今から説明します。シュキこれを配って」
シュキが2度目の書類配布を行った。
「では、改めて今回の作戦を説明します」
作戦の概要はこうなっている。
ラグナ・ヒュウガ・オスコット・ランブル
前回の作戦で一緒に戦ったコルドハンター隊の5名(Antonチーム)
キース・アイリ・ムラキ・ジータ・リンナ
上記と同じく、コルドハンター隊の5名(Bertaチーム)の2部隊で進攻する。
そして中継ポイントにて、それぞれのチームをオフェンスとディフェンスの2チームに分ける。
オフェンスは敵基地へ強襲し、時間を稼ぐ。
ディフェンスはヒュウガの機体の換装パーツと、砲台を乗せた輸送車の護衛にあたる。
その内訳と目標は以下の通りである。
Anton 目標:左・平原部の基地
オフェンス ●ラグナ・ランブル・オスコット
ディフェンス ●ヒュウガ・コルドハンター隊5機
Berta 目標:右・窪地の基地
オフェンス ●キース・アイリ
ディフェンス ●ムラキ・ジータ・リンナ・コルドハンター隊5機
「…………説明は以上となりますが、質問は?」
「航空機による輸送は行わないのですか?」
陸路での輸送よりも、空路からの輸送の方が早いのではないのか
と判断するジータ。
「当初はそうなる予定でしたが、作戦当日の天候が怪しいので車両にしました。
他に質問はありますか? …………ない、ですね。では本日は解散とします」
〜セストニア氷原・格納庫〜
「……これは凄いわね」
視線の先には、彼女の提案した改造砲があった。
この3日間整備班が、昼夜問わずの突貫作業によって完成させたモノだ。
そして作戦当日の今、改造砲の最終調整に加えPFの整備と忙しさのピークを迎えていた。
「こんなのを3日で作り上げた連中に、感謝しないとな」
アイリの横にいたキースが言った。
「これだけ頑張ってくれた整備班の為にも、成功させないとならないわね」
「そうだな」
キースがニッと笑う。
その目には闘志が満ちている。
「ここにいましたか」
2人の背後から、リンナが声をかけた。
リンナの背後にはジータとムラキがいる。
「リンナちゃん、もう時間かい?」
「はい」
「そいじゃ、行くとしますかね」
「キースさん、アイリさん……聞きたい事があるのですが」
「ん? 何だ?」
「何?」
グレン小隊のメンバーだったというキースとアイリに
興味が湧いたのか、ジータが作戦について尋ねた。
「……大尉らは今回の作戦をどう思ってますか?」
「へ? そりゃあ、2つの基地を同時に攻め落とす上に、
さらにこんな少人数でやろうってんだから無茶もイイトコだとは思うわ」
冷静に状況を分析するアイリ。
「けどま、見たところ結構な数のベテランも揃ってるみたいだし……
やってやれないことはないんじゃないのって思ってるぜ?」
続けてキース。
「確かに強い人も多いですけど……大丈夫でしょうか?」
「ジータさん!! 何を今頃弱気になってるんですの!!」
「そうだぞジータ、リンナ少尉の言う通りだ」
リンナとムラキの叱咤にも、曖昧な笑みを返すジータ。
流石に今回の強行作戦に、自信が湧かないのか不安がっているようだ。
「ホントにどうしたんですの? その落ち込み具合は
戦うのが怖いから……と言うわけではなさそうですわ」
「いえ、ちょっと自信がないだけですよ……ホントに、それだけです」
ちょっとだけ疑った目になり、彼をよく観察するリンナ。
「……私が言っても、無駄のようですわね」
「すいません、こればっかりは……」
悩んでいることが1つではないことを、自分からバラしてしまったジータ、
それでもリンナはそれ以上突っ込む事は出来なかった。
〜Bertaチーム・出撃準備中〜
「ジータ……さっきはどうしたんだ」
機体のチェックをしているジータの機体に
ムラキがプライベート通信を入れてきた。
「ムラキさん……いえ、なんでもないですよ」
「……自分にも話せんことか?」
「…………検査の後遺症で倒れたとき、あいつの夢を……見たんです」
「そうか……」
「こんな時に限って、駄目ですよねこんなんじゃ」
苦笑するジータ。
そして今まで溜めてたモノが、少しだけ開いたスキマ少から顔を覗かせる。
「忘れようと思って、でも駄目なんですよ……こんな弱い自分が悔しい!!」
「ジータは弱くなんか無い、それどころか強いと思うぞ」
じっとジータを見つめていたムラキが口を開いた。
「どうしてでしょうか?」
「今までずっと、辛い思い出と戦ってきただろう?
今まで一度たりとも、その思い出から逃げなかっただろう?
自分は、辛い思いをしたことがない……と言ったら嘘になるが。
お前の思い出ほど、辛いのは持ち合わせてないからな」
「ムラキさん……でも、でも!」
「だから自分には、その恐怖がどれほどのものか想像すら出来ない。
ただこれから、一緒に考えることは出来ると思っている。
今まで一人で耐えてきたことなんだ、二人でならもっとがんばれるだろう?
辛い思い出だからと、逃げ出してはいけないから……な?」
それを聞いていたモニター越しのジータは、次第に表情を明るくしていった。
ようやく吹っ切れた様子の彼を見て、満足そうなムラキ。
「ムラキさん、ありがとうございます……もう大丈夫です!」
ムラキはあえて、何も言わずに通信を切った。
「さて……みんな準備はいいか?」
物凄いタイミングでキースが声をかけてきた。
「OK! いつでもいけるわ!」
「自分も、いつでもどうぞ!」
「私も大丈夫ですわ」
そしてジータは……
「いつでも行けますよ! さあ行きましょう!!」
先ほどと様子が違うジータを確認し、Bertaチームは行動を開始したのであった。
〜Antonチーム・出撃準備中〜
「コルドハンター隊の皆、今日は1つよろしく頼むぜ」
「こちらこそ、よろしく頼みますコバルトリーダー」
格納庫内にて、挨拶を交わす2人。
コルドハンター隊の隊長が、モニター越しのラグナに返答した。
「隊長、あの双子……また出てきますかね?」
前回の戦いを思い出している様子のヒュウガ。
双子のことを考えて、複雑な表情になっている。
「ん? もしかして双子って……あの双子かい?」
オスコットも気になるのか、通信に割り込んでくる。
「ああ、俺達は前回その双子と交戦した……かなり強かったぜ」
「そうか……一度だけ戦ってるとこを……見たことがあるよ、おじさんは……」
遠くを見つめるような視線で心ここにあらずという様子のオスコット。
一体何を見たというのだろうか?
「それって誰の戦闘ですか?」
「おいおい誰って……今、隊長達が話してたじゃないの!」
「見てたって……その言い方だと、戦闘に参加してなかったって事になると思うんですが……」
「ああ、その時ちょうど自分の機体だけ出られなくてねぇ…………」
その場にいる全員が、オスコットの気持ちを理解できていた。
Antonチームは全て、アルサレア戦役を戦い抜いた者達で構成されていた。
そして自分だけが、仲間の助けになれない事がどれだけ辛いかを知っている。
「凄かったんだよ……目の前でいきなり3機の味方が消された時はね……」
「多分、その時より強くなってるぜ……あの2人はな」
前回の戦闘の様子から、思ったことを伝えるラグナ。
「そうか、もし戦えたら……」
「あの、オスコットさん?」
今度は妙に思い詰めた表情をする。
そしてブツブツと、独り言を漏らす。
ヒュウガが呼びかけても気が付かない。
「……伍長、早まったマネだけはするなよ」
いたたまれなくなったのか、あのランブルが口を挟む。
「……分かってるさ」
〜両チーム・出撃間際〜
「エルヴィン大尉、準備はよろしいですか?」
「year! いつでもいけるぜ!」
「リーダー、今日も頑張ろうね!」
「ああ、言われるまでもねぇ!!」
たのもしい返事を返す2人。
「今回もシュキがこっちのオペレーターか……ま、よろしくたのむわ!」
「そう言えば前回もシュキさんでしたね、私もよろしく♪」
前回の作戦も、シュキと一緒だったラグナとヒュウガ。
誰がオペレーターになっても、この2人ならば問題はないような気もするところではあるが。
「うう〜……今回もベテランさんばっかりで緊張するよ〜」
なんで自分がこっちのオペレーターに回されたんだろう?
と、自分でも思ってしまうぐらいベテランばっかりのチームに回されてしまった彼女。
「まあまあ、そうやって力を入れ過ぎるのはよくないとおじさんは思うな〜」
「……せいぜい足手まといになるなよ」
ここで緊張をほぐしてやろうという気遣いの心が伺えるオスコット。
それに対して、容赦ない一言を放つランブル。
「……が、頑張ります」
緊張のあまり、どこまでも縮んでいくシュキであった。
「エルヴィン隊長も負けないようにお願いします」
「……すまねぇがクランさん、今隊長と比べるのは勘弁してくれないか?」
「はぁ……申しわけありません、了解しました」
クランが頭に?を浮かべている。
無理もない事だろう、その話を聞いて理解できるのは
ラグナと彼以外ではアイリしかいないのだから。
「キース! 隊長だからって調子に乗るんじゃないわよ!!」
「わーってるよ! アイリこそ逆らいすぎるなよ?」
「仲良いんですね、お二人は」
「楽しそうですね」
「元気があるのはいいことですわ」
グレン小隊ではお馴染みだった2人の漫才も、ここでは珍しい光景なのだろう。
仲の良さそうな言い合いをする2人を見て、苦笑する3人であった。
「それでは両部隊……出撃してください!!」
〜進軍中・Bertaチーム〜
荒れると予想された天候は、曇り空から変わる気配がない。
その為か予想以上の進行速度で、キース達は進軍していた。
「なんつーか……妙に敵が来ねぇなあ」
「ぼやかないぼやかない! いいことじゃない? 敵がいないっていうのは」
「でもよ〜、コレじゃ肩慣らしにもならないぜ?」
「……うっ、それは確かに」
楽々と進行出来ている所為で、気が緩みっぱなしのキースとアイリ。
「……ムラキさん、アレで良いんでしょうか?」
「仮にも、私たちより多くの戦場をくぐり抜けてきた方達です。
何か考えがあるのだと思いますわ」
猛然と前を行くキースとアイリの姿に対し、それぞれ違う反応を返す3人。
因みに彼らの後方にいるコルドハンター隊も、似たような会話をしていた。
そんなやり取りをしているところに、クランからの連絡が入る。
「エルヴィン大尉、敵数機を捕捉しました」
「お迎えに来てくれるとは……気が利いてるね! で、距離は?」
「距離、現在15000の位置ですが……速いですね。
もう10000を切ります」
クランが素早く報告を返してくる。
どうやら、ただの雑魚敵というわけではないようだ。
「その速度……明らかにカスタムタイプよね? 指揮官機かしら」
「そりゃわかんねぇぜアイリ? 現に、今までザコが強い機体使ってたことあっただろ?」
いつの間にか2人の眼に、力溢れる光が宿っている。
「……さっきまでとは違う何かを感じる、やっぱりふざけてるばかりじゃないんだ」
「思ったとおり……ですわ」
「……久しぶりに、グレン小隊の戦いが見られるかもな」
俄然Bertaチーム全員にやる気がみなぎる。
「距離、5000を切ります……目測可能距離に突入!」
彼女がそう言った次の瞬間、目の前に現れたのは……
「アナタタチデスネ? 私タチノブラザーノ命ヲ奪ッタ部隊ハ!!」
「許シマセンヨ!!」
「敵ヲ討ッテヤルカラ覚悟シヤガレ!!」
そう言い迫るのは、3機が3機ともパイルバンカーを構えたカスタム機だ。
「ま、まさかまたですの?」
リンナが呆れ顔をしてモニターを見ている。
彼女にしてみればもう3度目の顔なので、うんざりするのも無理もない話である。
「エルヴィン大尉! 間もなく中継ポイントですが、どうしますか?」
「……微妙な所だな」
ここで戦いを始めてしまえば、自分達の本来の目的を達成するのが遅れてしまう。
キースは短い時間で、この状況をどう脱するかと考えた。
「どうするの、キース!!」
「ナニヲゴチャゴチャ言ッテルノデスカ!」
「コチラカラ行キマスヨ!!」
しかし思考の時間は、そう長くは与えられなかった。
3人の内の2人が、猛烈なスピードでこちら側に迫って来る。
「エルヴィン大尉、ここは自分達に任せて下さい」
「そうですわね、大尉らは予定通り先に行って下さいまし!」
考える時間を与えてはくれなかった敵を前に、若き2人の戦士が躍り出た。
「大丈夫です、自分達は負けませんから!!!」
2人のサポートをするべく、自機の銃器を構えなおすムラキ。
「……アイリ、ここは任せようぜ?」
「そうね……うん、分かったわ」
皆の目を見て納得したキースとアイリ。
2人はグッドマンの隙を見て、予定通りに先行した。
「ムラキ大尉、後は任せたぜ!!」
その場を去る2人を除いた場合、1番位が高いムラキにキースは後を任せる。
「任されました! コルドハンター隊は車両の護衛にあたれ!」
「1人モ逃ガシマセ〜ン!」
先行する2人を追おうとしたグッドマンを、ムラキが遮る。
コルドハンター隊も、すかさず輸送車両の護衛に回った。
「邪魔デスカラ、ドイテクダサイネ〜!!」
無防備に近づいてきた2人のうちの1人が、パイルバンカーを振りかぶる。
「そんな大振りじゃ、隙が大きいんだよ!!」
パイルのモーションの隙を逃さず、斬りかかるジータ。
「危ナイ!! ブラザー、右後ロダ!!」
敵の1人が危険を知らせようとする、が
「あなた方の敵は、1人ではありませんわ!!」
ジータと別方向から、隙の出来たグッドマンに斬りかかるリンナ。
見事にそれがヒットする。
「グウウウウゥゥ!! ……デスガ、マダ大丈夫デース」
敵も然る者、2方向からの攻撃にも関わらず直撃は避けているようだ。
「コレハ、思ッタヨリ手強イゾ!!」
「コチラモ、フォーメーションヲ組ムンダ!!」
「オー、了解シタ!!」
グッドマン3人衆は、フォーメーションを組み始めた。
「ジータ、イズミ少尉……来るぞ!」
「「了解!」」
「コノ技ヲ食ラッテハ、タダデハ済ミマセ〜ン!」
3機のカスタムPFが、代わる代わるMLRSを発射し続ける。
たちまち周囲の視界は、爆煙によって奪われる。
「考えたな……だがこれでは」
「敵だって条件は同じはず……ですよね?」
「嫌な予感がします、気をつけて下さいな」
リンナの嫌な予感が的中した、という訳では無いのだろうが
ジータの背後に、突然敵機が出現した。
「サッキハヨクモ、ヤッテクレマシタネ〜!!」
いかにモーションの隙が大きい武器とはいえ、予測も出来ない位置からの攻撃。
加えて既にモーションが終わりかけの攻撃をかわすことは不可能に近い。
背部からの強烈な衝撃を、まともに受けてしまうジータ。
「うぐあああ!!」
「コノ『スモーク・ミスト』ノ中デハ、満足ニ動ケル方ガオカシイノダヨ!!
HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」
「笑イガ止マラナイトハコノコトダ!! HAHAHAHAHA!!」
「一気ニ片ヅケヨウジャナイカ、ブラザー達!!」
そう、グッドマン達がいかにこの黒煙の中を自由に動けるとしても、だ。
最終的に至近距離まで寄らなければ、効果的なダメージは与えられないモノである。
「それに、これには弱点がまだある……」
ムラキがニヤリと笑った。
「コレデ……終ワリダアアアアア!!!」
またもジータの後ろに現れたグッドマンが、勝利を確信し笑顔を浮かべ咆えた。
「こんな近くまで接近されて……対応できない方がおかしいですよ!!」
ジータは刀を盾のように構え、パイルバンカーのインパクトの瞬間を待つ。
「斬馬刀如キデ、コレニ耐エラレルト思ッテルノデスカ!!」
彼は思いきり、見覚えのある刀にパイルを打ち付けた。
そう彼の思うとおり、従来の刀であったならばあっけなく砕け散ってた事だろう。
だがジータの持っている得物は、従来のモノではないし斬馬刀でもない……。
「こんどはこちらの番だぞ、『斬魔刀』の一撃……受けてみろ!!」
「ナ、ナニイイイ!? パイルヲ受ケキルダトオオオ!?」
攻撃を受けきったジータは、跳ね返された反動でよろける相手を一刀の元に両断した。
「OH! マイガ…」
両断された敵機は最後の台詞を言いきるまでもなく、その姿を霧散させた。
「「ブラザーーーーーーーーー!!!」」
2人になったグッドマン達の、悲痛な叫びが戦場に木霊した。
「コノママジャ終ワレナイ……セメテ1人デモ、道連レニシナケレバ!!」
今度はリンナの背後に、1人が姿を現す。
機体を取り巻く煙の中から、命を穿つ杭を向けて。
「……それで私を落とせると、本気で思っているんですの?」
ブーストを吹かし、右脚を軸にして素早く機体を振り向かせるリンナ。
それまで機体があった場所を、パイルが空を切って過ぎてゆく。
背後に振り向く勢いを利用し、長刀が一閃。
パイルの一部分が音も立てずに切り裂かれ、地面に破片が落ちる。
「ミーハ夢デモ見テイルノカ……」
切断面が陽光に輝いている。
あまりにも鮮やかな切り口に、驚きを隠せないグッドマン。
「ドウシタ!? ブラザー!! 応答シロ!!」
一振り一振りに鋭利な風切り音を伴わせ、『ユキヒメ』が戦場を舞う。
「イズミ流長刀術免許皆伝は、伊達じゃありませんのよ!」
「カワセ!! 逃ゲロ、ブラザーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「せめて苦しまないように、倒して差し上げますわ……イヤアァァァァッ!!!!!」
「風ガ……聞コエル…………」
リンナがユキヒメを振るった刹那……彼から全ての音が消え、敵機が爆ぜた。
「マタシテモ……マタシテモ!! ココハ退クシカナイトイウノカ!!
スマナイブラザー……仇ハ必ズ取ッテヤルカラナ!!」
残った一機が、撤退を決め後ろを振り返り逃げ出す。
「……今日ハコチラノ負ケノヨウデスネ……デスガ! 次会ウトキハ必ズ!」
「そう易々と見逃すと思っているのか? ファイヤー!!」
逃げようとするグッドマンに、全方位から火線が集まる。
どうやら、待ち伏せの形で攻撃を全て当てられたようだ。
「グッ……ナ、ナゼ……」
幸か不幸か、装甲が厚かったお陰で機体は爆発せずにいた。
だが内部は無事では済まず、計器は爆発しモニターは砕け散った。
その破片は、中の男の身体をズタズタに傷付ける。
「……確かに視界を遮断するのは良い手だった。
だが、レーダーまでは遮断出来ていない」
緩やかな風が流れ、煙が晴れてきた。
逃げようとしたグッドマンの周囲を、ムラキとコルドハンター隊が囲む。
「それとこいつらを雑魚と侮っていたのが、運の尽きだ」
「エースと呼ばれる程ではないが、我々も開戦から生き残っている……舐めるなよ!!」
コルドハンター隊の隊長が言った。
アルサレアがヴァリムを退けたのは、何もPFの力だけではない。
彼等の様なベテランが数多く生き残っている事こそ、アルサレアの強さである。
「ソウデスネ、ミーノ負ケデス…………HAHA……HA」
そう言い残し、最後のグッドマンもこの世から旅立った。
「それにな……この戦法は、砂漠のサーリットンじゃ日常茶飯事なんだよ」
そう、ムラキが言うとおりサーリットンは砂漠である。
砂嵐の中で作戦を行ったり、グッドマンの様な事を行う連中もいる。
あちらでは、何も知らない新兵くらいにしか通用しない戦法である。
「いいか二人とも! PFでの戦闘は視界だけに頼るのではなく、レーダーも見て戦え」
「「了解です!」」
少し得意げに語るムラキに、良い返事を返すジータとリンナ。
「「了解です!」」
「……しかしムラキさん、彼らは何人いるんですの?」
「さあ……自分にもさっぱりだよ」
「もう何人でもいいですよ……それよりもクランさん、作戦の予定にズレは?」
益体もない会話を切り上げ、時間的猶予を聞くジータ。
「問題ありませんね、予定より早いくらいです」
「そうか……リリー少尉、輸送車両に問題は?」
「特に問題ありません」
ムラキの問いに、コルドハンター隊の隊長であるリリー少尉が答えた。
「了解した。皆、勝ったからといって気を抜くなよ!」
「「「了解!」」」
〜進軍中・Antonチーム〜
「隊長、キースさん達は大丈夫ですかね?」
「あん? どうしたヒュウガ、らしくない心配しやがって」
「なんとなくですけど……嫌な予感がするんですよね」
「どんな風にだよ?」
「なんと言いますか、こう……うんざり、と言った感じの」
このヒュウガの予感は見事なまでに的を得ていた。
だがその被害を被ったのは、肝心のキースとアイリ以外の者だという事は流石に予想出来なかった。
「……嫌な予感なのに危険は無さそーな感じだな」
「あくまでも予感ですから……笑い話で済むならその方が良いですよ」
ハハハと笑みを浮かべ、返事を返すヒュウガ。
「案外当たっちゃったりするんだよねぇ……そういうのって」
「止めろよオスコット、ホントに当たったらどうすんだよ」
「大丈夫でしょうよー。もし当たってもおじさんの所為じゃないし〜」
自称おじさんが悪戯っぽく笑う。
実際この予感は当たっているが、彼らが知るのは作戦が終わった後である。
「……………」
さっきから沈黙を通すランブル。
見かねたヒュウガが、小声でラグナに通信する。
「ランブルさん、ずっとダンマリですけど……いいんですか?」
「ほっとけほっとけ、いっつもそうなんだからよ」
うんざりした表情でそう言い放つラグナ。
この関係が長く続いていた……と分かる感じだ。
「貴様ら……全部聞こえてるぞ! 作戦中だというのに、
よくそこまでふざけていられるものだな」
「それはこっちのセリフでもあるんだぜ?」
「なに?」
「お前もよくもそこまで、緊張しっぱなしでいられるもんだな……ってよ」
「ふん、常に戦場に気を配っているだけだ」
彼は当然だ、と言わんばかりに言ってのけた。
その常にという姿勢がどれほど大変なものか、ここにいるメンバーは分かっているつもりだ。
「俺だって、気ぐらい配っているぜ?」
「そんな腑抜けた気の配り方では、
奇襲をかけられたときに急な反応が出来ないだろうが!」
戦場での対応が自分とは全く違うラグナ。
隙だらけに見える為、彼はその態度に気を許すことが出来ない。
「あんまり気を張りすぎて、無駄に疲れたって意味ねーだろうが」
「気の張りすぎで悪いことなどあるものか!!」
ラグナも自分とは合わない彼に対してついつい、
無意識の内に張りつめた空気になってしまい強い口調になってしまう。
「カミカワ大尉、あの2人はいつもああなのでしょうか?」
コルドハンター隊の1人がヒュウガに通信を入れてきた。
「ええ、そんな感じなんですよ……。
そろそろ中継ポイントに着きますよ、お2人さん?」
野犬と狼のスキンシップは留まる事なくヒートアップ。
もうどうにも止めようが無くなってきたとこで、体よく中継点が近づいてきていた。
〜キース&アイリ・敵基地前〜
ムラキ達に進言され、敵基地の寸前まで先行してきたキースとアイリ。
「言われてたことだけど……実際に見るとうんざりだな」
「要塞化してるって……ここまでなんてね」
2人の眼前にあるのは、ブリーフィングで見せられた以上に強固な壁を持つヴァリムの基地。
「あの3人では足止めにもならんとは思っていたが、これほど早く突破されるとはな」
突如、2人の頭上から声が聞こえてくる。
「誰だ!」
「上ね!!」
2人が同時に上を見上げる。
そこには深い赤のカラーリングに、黒のラインが施された禍々しい雰囲気を放つ機体があった。
「先日お前達の隊長に挨拶した者だ」
「ヴァリムの人間が、どうやってアルサレア要塞に入れるのよ!」
「……ミカムラ大尉、グレンリーダーではなくコバルトリーダーです」
アイリのボケにクランがツっこむ。
「ってーとリュウハってのはあんたか?」
「そういうことだ」
アイリのボケを華麗にスルーして、シリアスシーンを続ける男が2人。
その流れを汲み取り、アイリも会話へと参加する。
「あんた、私達相手に1人でやる気?」
「この機体……ディアボロスならば、私1人でも問題はない」
「へっ、その強がりも何処まで通用するかな?」
「ふん、すぐに泣き言を聴かせて貰う……行くぞ!」
次の瞬間眼前に捉えていたはずの機体――ディアボロスの姿が消えた。
「来ます、戦闘態勢を取ってください!」
「了解!新しい兵器のテストには十分過ぎる相手だぜ!」
「了解! こっちもいつでもOKよ!」
2人は背中合わせにPFを構える。
相手は一体……どこから出てきても、対応できるようにと言う考えだろう。
「残念だが、俺に小細工は通用せんぞ」
敵機の位置を知らせるレーダーの光点が、一瞬点った。
2人がそう思うやいなや、突如眼前に現れる紅き巨体。
大型ビームソードが、2体のPFへと横薙ぎに振るわれる。
「っ! なんて速さだよ!」
サイドステップでかわすキース。
「でも、まだ反応できる速度よ!」
アイリは紙一重に、スウェーで避ける。
「反応速度はまずまず……か」
「なに余裕かましてくれてんの! 次はこっちの番だぜ?」
グレン小隊のガンナーが、2丁のライフルを構える。
「まだまだ! これからなんだからっ!」
グレン小隊のグラップラーが、両の剛拳を打ち鳴らす。
「…………いいだろう、来い!」
リュウハは大型の銃――ベフィマスランチャーを無造作にキースへと向けた。
「キース! 狙われてるわ!」
「分かってるって! そっちこそカウンターされんなよ?」
この状況でまだ軽口を叩く二人。
だが決して、余裕があるわけではない。
リュウハに向かって、アイリが突っ込んでいく。
「撃たせるもんですかー!」
「……ふむ、高速格闘戦タイプか、ならば」
狙いの矛先を急にアイリへと向ける。
キースを狙っていたと思われた銃口が、急に自分の方を向きエネルギーの塊を吐き出す。
彼女はまたも寸でのところで回避した……かに思われたが、ぎりぎりで装甲を掠めてしまっていた。
「何て威力よ……追加の装甲が無かったら、危なかったわね」
彼女の機体の肩アーマーには、凄惨な爪痕が刻まれている。
「こいつを今までのPFとは、思わない方がいい」
ベフィマスランチャーをライフルモードからマシンガンモード
――この武器はライフル・マシンガン、そしてバスターの3形態に変形する――
へ切り替え、アイリへとばら撒く。
「あんまり舐めないでよっ!」
向きを変え、さらに加速し迫るアイリ。
緻密な体重移動を交え、かなりの速度を出している。
「こっちからもいくぜ?」
アイリに気を取られている隙を狙い、彼も攻撃を開始する。
しかし弾丸は、ディアボロスのいた場所をすり抜けていくばかりだ。
「……あのデガブツ並みの大きさなのに、あの運動性は反則だろ!!」
「こちらは右と左で銃の形が若干違う……中距離変則射撃タイプか、それなら」
アイリの距離を測りつつ、彼に向け弾幕を張るリュウハ。
「そうやってれば、こちらの照準は合わせられない……って普通は思うだろ?」
彼はなおも弾幕を絶やさない。
さらにそこへ、左から回り込むアイリの攻撃が加わる。
キースはブーストとサイドステップを巧みに使い分け、左右に移動しながら撃ち続ける。
「面白いコンビネーションだな、だが!!」
アイリの拳が当たる直前で、リュウハは上に向かって飛んだ。
空振りをした彼女は、体勢を立て直そうとブーストをふかそうとする。
「もうっ! 後少しだったのに……きゃああッ!!」
アイリの体勢を立て直す一瞬の隙を突き、彼は大型ビームソードを投げつけた。
「おいアイリ、直撃かっ!? ちっきしょう何て反応しやがる!」
「あたしは大丈夫よ……まだまだぁっ!!」
「終わりか? 元グレン小隊の実力といっても、この程度だったか」
彼は心底呆れたように、あらためて二人の方にベフィマスランチャーを構える。
「アイリ! 同時に奥の手使うぞ!!」
「まだ試してないんだけど……仕方ない、オッケー!」
「まだ切り札を持っているのか、面白い」
「実を言うと俺達もまだ使ったこと……ないんだがな? リュウハさんよぉ!!」
「俺に付け焼き刃が通じる、と? それぐらいの判断は付くと思ってたんだがな」
「タダの付け焼き刃かどうか、その身で感じなさいよ!!」
2人は一旦距離を取る。
リュウハはあえて、その後を追うことはしなかった。
「一応注意だけはしておこうか、最後の一撃を侮るワケにはいかんからな」
彼らの只ならぬ一撃の気配を感じ取るリュウハ。
その場から動かず、キースとアイリの動向を見続けている。
「アグレッシブライフル・マルチアングルイェーガー、共に最大出力!」
「特殊追加装甲解除、コード入力……スタンバイOK」
「頼むぜ相棒、一か八かだ! カウントダウンスタート……5…4…3…」
「相手だって無敵じゃない……鍛えた拳を信じて、突き抜けるだけよ!!」
キースが銃へのエネルギーを、臨界点まで高めている。
アイリも同様に、持てる力と技術をフルに使い切ろうとギリギリまで力を込める。
「…2…1…さあ、行くぜ?」
「アイリ、いくわよっ?」
2人の呼吸が、静かにシンクロして行く。
リュウハにも、その緊張が伝播する。
「「0!!」」
2人の機体が、弾けるように離れた。
先にアイリが飛び出し、リュウハへと組みかかって行く。
「せやああああああああああ!!!」
「先程より幾分かは反応速度が向上したか、だがこの程度で!」
拳・肘・膝……機体のあらゆる部分を使い、先ほどは見られなかった動き。
彼は対応しきれずに、何発かのクリーンヒットを許していた。
「……何っ、手強い!」
リュウハもアイリの動きに合わせ、ビームサーベルを振るう、だが……。
「甘いわ! 毘沙門解除!」
今度はアイリが相手の動きの隙を付き、一瞬にして自機の形態を変化させる。
拳の部分以外の装甲を外した彼女の機体の速さ、変化前の非ではない。
形態変化以前の速度とモーションパターンに慣れさせらた目では、
到底追いつくことも、対応する事も並大抵では出来る事ではない。
さらに一撃の重みすら上昇しているのだから、相手は堪ったものではない。
「速い、そして重いな……この装甲をもってしても、そう長くは保たんか」
アイリの更なる加速に反応が遅れるリュウハ。
さらにその隙を付き、キースの攻撃が加わる。
「これでどうだい? ツインチャージ・MAXファイアッ!!」
出力を極限まで高めた2種類の銃撃が、リュウハへと迫る。
「ぬう、これほどまでの攻撃速度を叩き出すとはな……くっ!」
打撃によりディアボロスへ強い衝撃が伝わり、装甲が少しずつ脆くなっていき。
銃撃によりディアボロスの回避行動を妨げ、徐々に逃げ道を奪ってゆく。
「言ったでしょ? ただの付け焼き刃なんかじゃないって!!」
集中しているのか、キースの言葉はここには無かった。
次々と繰り出される豪速のコンビネーションに、手を出せないリュウハ。
そこへ追い討ちをかけるように、彼女は信じられない事をやってみせる。
「H M 発 動 ! !」
アイリの機体が金色の光を纏う。
彼女の機体に搭載された、専用HM【ロケット・ガール】
毘沙門を解除した状態でのみ、使用可能となるHMである。
その能力は、パンチ力の強化。
そして…………機体が持つあらゆるスピードの上乗せである。
特に腕部稼動速度は、PFが出せる限界値を超える程のレベルである。
「これでどう!? ……はあっ! せいっ!! てやああああああっ!!!」
アイリが最後とばかりに、これまで以上の連続コンボを叩き込む。
流石の彼もコレには対応が間に合わず、隙を生む事となる。
「こっちもこれで最後だ!」
その隙を狙いキースが放った弾丸は、ディアボロス左の肩へと吸い込まれてゆく。
結果……
「……まさか、片腕を持っていかれるとはな」
リュウハが悔しげでありながらも、心底楽しげに呟く。
「year!! これなら流石に……」
「はあ……はあ、こんなの相手にしたのいつ以来かしらね」
2人は機体と身体は、共に満身創痍の状態になっていた。
対してディアボロスは、片腕を無くしている。
とはいえ、戦闘の継続は可能な状態であるらしい。
リュウハが反撃に転じようとしたところで、基地からの通信が入った。
「神佐、準備完了致しました」
「ご苦労、私もそちらへ向かおう」
「了解です」
そして、ヴァリム兵士からの通信は切れた。
「……時間になってしまったな。
それなりに楽しませて貰った礼に、一つ面白いモノを見せてやろう」
ディアボロスの紅翼から、何かが複数射出される。
「暇がないのでな……すぐにカタを付けさせてもらう。
悪く思うなよ、システム起動……目標補足!」
射出されたモノは、キース達の機体から一定距離を保ちつつ高速移動を開始する。
正体不明の風切り音が、2人の耳へ運ばれてくる。
「チッ、まだいけるぜ!!」
「ここまでやって、終われないわ!」
既に機能停止してもおかしくない状態の機体で、強がりを言うキースとアイリ。
「大人しく寝ていろ」
リュウハのセリフが合図と言わんばかりに、2人の機体を無数のレーザーが襲う。
「ぐあああああああ!!!」
「きゃああああああ!!!」
ほぼ全方向からのレーザーで、一瞬にしてスクラップ同然と化すPFが2機。
「嘘……だろ」
「……こんなのアリ?」
「また楽しませて欲しいモノだな、さらばだ」
落とされた腕を回収し、動かなくなった2人に背を向けて去っていくディアボロス。
キースとアイリは、その後ろ姿を呆然と見送ることしか出来ないでいた。
「……なあ」
「今は何も、言わないで……」
2人が救助されたのは、それから40分程が経過してからだった。
第3話中編(改訂版)・END
後編へ
・後書き
ナイトメア:久しぶりだね。
桃音 :もう忘れ去られてる頃合だろう。
ナイトメア:桃色の悪夢としては何年も更新してないからな。
桃音 :というわけで、新作やるぜー、と言っておきながら
またもや改訂版である事を深くお詫び申し上げます(´・ω・`)ショボーン
ナイトメア:その分、気合入れました。
桃音 :いくつか変更点がありますが、SSを書く役割分担が多少変更されました。
ナイトメア:と言っても大したことでもないけど。
桃音 :いや、大したこと無いことも無いと思うんだが……
ナイトメア:俺がちょちょいと書いて、相方がそれを修正しているだけじゃないか。
桃音 :まあ、改訂版の場合は、0からやり直すモノでは無いからね。
原本がある分、元のやり方と似ているとは思うよ。
ナイトメア:それを考えた人間だからガラリと変えてしまえるけどね(笑)
桃音 :次の変更点が、アイリのチート化です。
全く予想していなかったんですが、良い方向に化けてくれました。
ナイトメア:その場の思いつきだったお陰で投稿が一週遅れになってションボリしましたが、
書いてみたらいい出来になったので良しとしました。
桃音 :最後の最後で、かなりの盛り上がりになったと、満足しています。
ナイトメア:あとは、作戦内容を変えたことか。
桃音 :細かいとこなので、原作に丸投げにしてほぼ変えずに修正だけしておきました。
ナイトメア:本当は、航空部隊や歩兵部隊を使った物にしようかと思ったけど
やると別物になるのと、場面転換が多くて相方の頭がパンクするかもしれないので止めました。
桃音 :大まかな変更点は以上です。ここを読んでおられる方は、
読破済みだと思われますので、あとは省略という事で(苦笑
ナイトメア:次回は来年の3月前後になると思います。
桃色の悪夢:では、また次の後書きにて〜
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