〜ヴァリム本拠地・ブライス側〜


「司令官殿、敵機を捕捉いたしました」

「来たか……数は?」

「確認出来るのは3機です」

「少な「少ないわね、何を企んでるのかしら?」……」

 ブライスの背後にいたユイが呟く。
 その横にはマイが並ぶ。

「ヌヌヌ……貴様等、何しに来た!」

 セリフを奪われたブライスは、青筋を立てユイに怒鳴る。
 彼女達は、本来リュウハの所にいるはずだったからである。

「アンタがこの前みたいなヘマをしないよう、手伝いに来たの…さっ!」

 ブライスに向かい、わざとらしい挑発をするマイ。
 彼の長い頭を人差し指でグリグリと押し、台詞の最後で突き放した。

「チッ……指揮官は私だ! お前達はさっさと迎撃に出ろ!!」

「言われなくても、そうするわ……」

「ちょ〜っと馬鹿にされたぐらいで、頭に血を上らせてちゃ駄目だろ〜? 指・揮・官・ど・の?」

 更なるマイの発言に、顔を見る間に真っ赤にするブライス。
 我慢の限界と言った様子で、何かもう一言いわれたらキレるのは確実である。

「そこまでにしときなさい……マイ、行くわよ」

「了〜解! さってと、強いヤツいるかな〜?」

 ユイとマイが、部屋から去っていった。

「ヌググググ……ガキはガキらしく大人の言うことを聞いておればよいのだ、クソッ!!」

 ここにいた連中は『あんたに言われたくねえよ!』と心の中でツッコミを入れた。
 しかし部下達もさる者で、そんな事はおくびにも出さずに仕事をこなす。

「司令官、迎撃はどうされますか?」

「予備以外の部隊で出撃できる者から即座に発進……それと支援攻撃を怠るな!!」

「了解」

「さて、アルサレアの奴等の手並みを拝見させてもらおうか?」

 メインモニターに映る3機を眺めつつ、彼は気味の悪い笑顔を浮かべた。






 

 〜Antonオフェンスチーム・敵基地前〜


 中継ポイントにて、ヒュウガ達と別れたオフェンスチーム。
 敵基地へ向かってフルブーストをかけていた。

「レーダーに反応、数20!」

 目視で、敵基地の輪郭が確認出来そうな所まで迫った時の事であった。
 シュキはレーダーに映る敵影の数を、メンバーに伝える。

「前回あれだけやったのに、ま〜だそんなにいるのかい……」

「まあ、新兵器のテストをするにはちょうどいいじゃねえか」

 ボヤくオスコットに対し、ラグナは意気軒昂である。

「それはそうだけど、ちょっと数が多すぎないかい?」

「貴様等、おしゃべりもそこまでにしておけ」

 交戦距離まで間も無く、と言ったところでランブルが言う。

「へーへー、それじゃ真面目にやるか……オスコット頼むぜ!」

「あいさぁっ!」

 オスコットが機体を急停止させ、バスターランチャーを構えると同時に何かを展開させる。
 そして密集する先鋒部隊に向かい、一撃を放った。
 だが敵も、彼のモーションを確認しジャンプして回避する。

「いつもなら躱されて終わり……だけどこいつは、一味違うってね」

 撃つ前に展開した何かが、バスターランチャーの光線を跳ね返した。
 直進していた弾道が上空へと向かい、そこにいた運の悪い1機を撃墜する。
 さらに他の何かが、再度光弾を跳ね返し撃墜スコアを伸ばしていく。

「うわぁ……この新型バスターランチャー思ってたより使い勝手がいいねぇ」

 先程までの気乗りしない声色はどこへやら、初めて使った新兵器に驚きを隠せずにいる。

「スキュラの行動パターン2、パターン5にしてと」

 オスコットは兵装パネルをタッチし、トリガーを引く。
 撃った直後に何か――リフレクション・ビット スキュラ――が弾道を2時の方向へ逸らし、
 射線上にいた敵を貫き、別のスキュラが9時の方向へ再反射すると同時にスライドし始めた。
 ビームは、バスターランチャーお馴染みの薙ぎの動きとなり4機を撃墜する。

「敵さん、散開したか」

 小隊ごとに密集していた敵は、危険と判断し距離をとりだす。
 展開し終え、敵も攻撃を開始しだした。
 しかし機体間の距離が開きすぎた為、弾幕の密度は薄くなってしまう。

「オスコット、いい仕事だぜ! ランブル俺達も行くぞ!」

「分かっている、俺に指図するな!」

「あの2人、仲良くできないのかねぇ」

 上手く敵集団の動きを制限したオスコット。
 バラバラにされた敵は、各個撃破の良い的となる運命である。

「敵増援を確認したよ! あと敵基地からミサイルによる攻撃も確認出来たから注意してね?」

「「「了解!」」」

「良い指示じゃねーかシュキ! この調子で頑張ってこーぜ!」

「うん、この調子で敵を張り切ってやっつけよー!!」

 自分でも思っていたよりスムーズに仕事が出来て、思わず声のテンションが上がるシュキであった。






 

 〜Antonディフェンスチーム・砲撃ポイント〜


 オフェンスチームが敵と交戦する少し前、砲撃ポイントへと辿り着いたディフェンスチーム。
 彼らは一息つく間もなく、ヒュージレイドの換装作業へと入った。

「シュキさん、換装完了です! これよりチャージに入ります」

 準備を終えたヒュウガは、シュキに通信を入れる。

「は〜い、じゃあカウントダウン開始っ!」

 彼女の声と共に、チャージ開始のボタンが押された。
 それを境に、ジェネレーターの駆動音が高まる。

「あっ、隊長達の戦闘が始まったよ!」

「了解、そのまま隊長達のオペレート頼みますね」

「らじゃ! 何かあったら知らせるねっ」

 ラグナ達の戦闘が本格化する前に、シュキは通信を切った。

「大尉、これはなんですか……」

 コルドハンター隊の1人が、唖然しつつヒュウガに尋ねる。

「すいませんが僕の方からじゃ見れないので、映像回してもらえますか?」

「これは申し訳ない……どうですか?」

「ばっちりですよ、これはこれは……」

 モニターには、どでかい砲台が映し出されている。
 機体のほとんどが収納され、表に出ているのはハンドMLRSと肩のMLRSだけだ。
 これをパッと見でPFだとは、誰も気づけないであろう。
 その威容に場にいる全員が、声を失っていた。

「ところで大尉、1つ聞いてもよろしいですか?」

 別の隊員がヒュウガに恐る恐る聞いてきた。

「おいアパム、そんなこと聞くなよ」

「いえ、構いませんよ。それでなんでしょうか?」

 映像を回している隊員が窘めるが、ヒュウガはやんわりとそれを制す。

「何故、このような辺境の基地に来られたのですか?」

「ああ、それですか……」

「すいません、言いにくい事でしたら無理にとは申しませんので」

「いえいえよくあることですから、ウチの隊長ってあんな性格でしょう?
 上と衝突ばかりしていましてね……その結果です」

 こういう話もあるだろうと想定していたヒュウガは。
 予め返答の仕方を、何パターンも考えていたのである。

「……大変ですね」

「ええ、色々と……で、あなた達もそれですか?」

「はい、我々も同じような理由です」

 事情を知るヒュウガは、彼らがただの左遷ではないことを分かっていた。
 本当の理由は兵力の確保であり、この地に飛ばされた人間には勿論それは知らされていない。
 ここでヒュウガに1つの疑問が湧き起こる。
 コバルト隊のメンバーは何故この地にいるのであろうか、と。
 しかしその考えも、シュキの通信によって遮られる。

「ヒュウガさん! レーダーに2機、物凄いスピードで接近してくるよ」

「ありゃ、見つかりましたか」

「ヴァリムのレーダーは思った以上のモノか!」

 コルドハンター隊の隊長が、レーダーを睨みながら言う。
 レーダーにも、2つの光点が映し出されていた

「もうすぐ視界に入るよ!」

 シュキの警告が、その場にいた全員に伝わる。

「全機、視界に入ったら一斉射撃!」

「「「「了解!!」」」」

 皆の了解を得て間もなく、敵機が視認出来る距離まで迫る。

「…………よし、ファイアっと待て中止だ!」

 何かに気がついた隊長が、射撃中止の命を出す。

「ミサイルか、どこから……」

 隊員の1人が、その正体に驚く。
 こちらにやってきたのは、2基のミサイルであった。。

「正面ばかりに気をとられちゃ……ダメだろ?」

 ミサイルに気をとられたコルドハンターの背後に、紅いシンザンが出現する。
 すぐさま振り返る、が……

「おっせえよ!」

 紅いシンザンは、大鎌で1機を狩り獲る。
 次の獲物を狙おうとするが、すぐさま散開され距離をとられた。
 コルドハンター隊が散開しヒュージレイドから離れた隙に、大手裏剣がヒュージレイドを襲う。
 しかし狙われたヒュウガは、難なく迎撃した。

「相変わらず危ない方達ですね、双子の悪魔さん?」

「この爆発は……機体の形状は違うようだけど、あなただったの」

 手裏剣を飛ばしてきたのは、上空にいる蒼いシンザンだった。

「あん時のヤツか! 決着つけようぜ!!」

 意気揚々と合流するユイとマイ。
 襲撃してきたのは、双子の悪魔であった。

「テメエの相手は俺だ! ジョンの仇取らせてもらうぜ?」

「おいアパム、俺は脱出してるぞ!」

 先程マイに倒されたジョンが、アパムに怒鳴る。

「よしアパム、お前はナガミネと組んで紅いのに当たれ。スコットは私と蒼いのをやるぞ」

「「「了解!」」」

 彼らの隊長が、部下に指示を出す。
 4機のコルドハンターが、2機のシンザンから一定の距離を取り陣形を組む。

「カミカワ大尉、援護頼みます」

「了解です、ガーデルマン少尉」

 とは言ったものの、自分では動けないし死角がある状態のヒュージレイドでの援護では限界がある。
 了解はしたが、相手が相手だけにどうするかと頭を巡らせるヒュウガ。

「姉貴、どうする?」

「先に護衛を片付けるわ」

「おっけ〜、少しは楽しめるといいんだけどな……」






 

 〜Antonオフェンスチーム・敵基地前〜


「隊長! 大変大変っ!!」

「どうした? こっちも大変なんだけどな」

 オスコットの活躍により、先鋒は上手く退けた。
 しかしその後、敵は増えに増え続けて現在80機近くの敵を相手にしている状態である。
 苦しい状況ではあるが、オスコットの援護と敵の無闇な支援攻撃によって敵も上手く動くことが出来ず、
 何とか戦うことができている。

「ディフェンスチームが、双子の悪魔に襲われているの!」

「あっちゃあ、よりによってあいつらか……おっと」

 突進してきた極地戦型ヌエの攻撃をかわし、これを斬り伏せる。
 ラグナは黙々と戦い続け、応答が間に合わない。
 特に敵に強いのがいる、というわけではない。
 彼はその場その場の判断で、少しでも危険と判断したならば、
 まずは戦闘の方へ集中するようにしているのだ。

「……隊長?」

 シュキが恐る恐る、再び声をかける。

「…………チッ仕方ねえか! 2人とも、救援頼むわ」

 何機目かの極地戦型ヌエを斬り倒し、沈黙していたラグナが口を開く。

「大将、ここはどうすんのさ?」

「まさか1人でやる、とか抜かすなよ?」

「そのまさかよ!」

 ランブルの言に、ニヤリと答える。

「1人でって、勝算は?」

「例の新兵器を使えば……それに、ここを凌いでもヒュウガがやられちゃ作戦どころじゃねえしな」

 だから行ってくれ、と2人に告げるラグナ。

「あいさー……了解したよ」

「チッ、貴様を倒すのはこの俺だ! ヘマするなよ?」

 問答が無駄だと悟り、2人は反転しその場を離脱した。

「隊長、ヒュウガさんに連絡しておいたよ」

「おうサンキュー! んじゃ俺の事はいいから、あっちのサポート頼むぜ」

 忙しいから、とシュキの応答も聞かずに通信を遮断するラグナ。
 口には出さなかったが、ヒュウガ達の方に専念して欲しいという事のようだ。
 ヒュウガにこの事が伝われば、彼女にどうして欲しかったかも伝わるはず。
 ソレを見越し、彼は言葉少なに通信を切ったのだ。

「それじゃ、新兵器を試すか……え〜と、使い方は…………これだな」

 電子データ化したマニュアルを読み出すラグナ。
 もしここに開発者のヒョウドウがいたら、間違いなく雷が落ちるであろう。
 その間にも敵の砲火は、彼へと目掛け降り注ぐ。
 それをレーダーと、モニターちょろ見のみで回避していく。
 不用意に接近してきた敵機を、後方に見える敵と自分の間に入れる事も忘れない。

「まずは……ああそうか、BFD起動!」

 ラグナがそう叫ぶと、軽く脳が揺さぶられる感覚を感じた。

「なん、だこりゃ……頭の中にモニターと同じような映像がありゃあ」

 彼の脳内に、とても鮮明な3Dビジョンが出現した。
 どうやらそのビジョンは、今自分がいる戦場が映し出された物のようだ。
 ただ限度はあるらしく、肉眼で遠くに見える部分は表示されてはいない。
 限定的な範囲を切り取り、自分の頭の中に投影している……と言うことのようだ。

「鎌持ったのが3機来る……ん? まだ来てない……おっ、来た」

 突進してきた敵の、次の行動らしき映像が再生される。
 しかし実際の視界に入っている敵は、まだそんな行動をとってはいない。
 故障かと思いマニュアルを取るが、どうやらそうではないらしい。

「……先読みね、科学の進歩ってのは凄ぇな」

 極地戦型ヌエの攻撃を造作もなく弾き返し、返り討ちにする。

「何か違和感があるな……とりあえず、いってみっかぁ!!」

 ディスプレイに表示されていたマニュアルを消し、真面目な操縦へと復帰した。
 レバーを握り直し、スイッチ類を再点検し調整する。
 そして、いつものようにブーストをふかし敵に迫っていく。

「うおぉ! なんかいつもより速くねーか、コイツ!!」

 違和感の正体は、これであった。
 普段よりも、動作1つ1つの体感速度が増していたのである。

「これもBFDの効果か……とっ!!」

 不意に瞬間転移で仕掛けてきたシンザンを、さも当たり前に斬り捨てるラグナ。
 いくらベテランといえども、瞬間転移での奇襲に動じない者はいない。

「おいおい、腕の振りの速さも上がってるんじゃねーかこりゃ!」

 気になってパネルを叩き機体の状況を調べてみると、機体の機動性や駆動系が上昇していた。
 相手の動きを先読みし、更に運動性が全般的に上がっている。
 今のハイ・アブソリュートとラグナには、雑魚敵がいくら束になってかかってこようと物の数ではない。

「こりゃ、とんでもない代物だな……」

 この僅かな独り言の間にも、撃墜スコアが伸びていく。

「さて、そろそろ仕上げにかかるか……とくと味わえ!! 必殺―――」


 ブレードワルツ


 機体が高速回転を始める。

「……っ!! さすがに久々でこの技はきついか!?」

 自機を兵器の自動ブーストを利用し、高速回転させるこの技。
 パイロットに多大な負荷がかかるのは、言うまでもない。
 蛇足ではあるが、人間がその場で何回も回ると目を回す現象が起きる。
 ラグナがこの技を頻繁に使っていた頃は……


 気合で乗り切っていたのだ!



「だけどなぁ、雑魚なんかに時間を食われるわけにはいかねぇんでな!!」

 ラグナは何とか正気を保ちつつ、無造作に敵の一団に突撃していく。
 ハイ・アブソリュートとすれ違う度に、次々と敵機が鉄屑・スクラップへと変貌する。

「隊長……まさかあれは、エクスキューショナーズ『狂える漆黒の疾風』では?」

「な、嘘だ! ヤツらは全員死んだと聞いている!」

「ですがあの技はっ!!」

 ラグナを指しているのだろうか?
 敵兵士の一部が、聞いたこともないような呼び名を口にする。
 これを聞いた彼の反応は、というと……

「まだ知ってるヤツがいたのか! だがそれを知ってる以上……
 消さないわけにはいかねぇんでな

 敵兵の会話を聞いた瞬間、纏う空気が変わっていた。
 ラグナはより回転を上げる。
 まるで、何かを掻き消すように。

「本当にあの部隊が生きていたというのか……ぐああ!!」

 ラグナに斬られ、最後の1機が爆散する。

「殲滅完了っと、これ以上の増援はなさそうだな」

 周辺の確認を終えところで突如、彼の頭に鋭い痛みが襲いかかる。

「う゛ぅぅ゛あ゛、ち……きしょう、頭に響きやがるぜったくよぉ!!」

 頭を抑え、頭痛が去るのを待つ。
 痛みが去ると状況確認の為、切っていた通信のスイッチを入れた。

「シュキ、そっちの方はどうなった?」






 

 〜双子・砲撃ポイント〜


「姉貴ぃ、あのミサイルうざくね〜?」

「ええ、そうね……」

 襲撃を受けたディフェンスチームは、いきなり1機撃墜されたものの何とか持ちこたえていた。
 双子の悪魔の強さは、技量も然ることながら連携による攻撃にある。
 しかし今回の戦闘では、それを活かしきれていない。
 連携によってコルドハンター隊に隙を作っても、ヒュウガに邪魔されるのだ。
 ヒュージレイドから絶妙なタイミングで放たれるミサイルによって、決定打を決められないのである。

「私が隙を作るわ……上手くいったらあの砲台に突撃して、マイ」

「オッケー」

 モニターに映る姉の表情を見たマイは、ニヤっと口の端しを吊り上げた。
 他の者が見ても絶対に分からないような、ユイの僅かな表情の変化。
 マイは自信を持って断言出来る……姉は何かを仕組んでいる、と。
 ユイのシンザンがジャンプし、大型手裏剣10枚をコルドハンター隊に向けて放った。

「ここからは、本気でやらせてもらうわ」

 コルドハンター隊は、迫ってくる大型手裏剣を迎撃する。
 が、不規則な動きで弾丸をすり抜けていく。
 大型手裏剣はコルドハンター隊を囲み、マイの邪魔をされないぐらいに動きを制限されてしまう。

「やっぱ、姉貴は凄いな」

 指示された通り、ヒュージレイドへと突撃するマイ。
 しかし囲みを突破した1機のコルドハンターが、マイの背後からの攻撃で阻止しようとする。
 だがマイは、それを全て回避した。

「大人しくしてれば、少しは長生き出来たってのに……って姉貴いつの間に!?」

 マイが目にしたのは、いつの間にか敵の傍へと移動していた姉のシンザン。
 そして短刀で貫かれている、1機のコルドハンターだった。






 

 〜ディフェンスチーム・砲撃ポイント〜


「完全に囲まれてしまったか……」

 蒼いシンザンから放たれた手裏剣により、コルドハンター隊は身動きがとれずにいた。

「紅いのが大尉の方に行っちまう! 何か抜ける方法はないものか!?」

「少尉! 1時の方向に、辛うじて抜けれそうな隙間があります」

 手裏剣包囲網の隙間を見つけ、スコットがそう伝えた。
 ガーデルマンのモニターに、その隙間の場所が映し出される。

「よし、パワーモーターで穴を広げてやる、スコットはその間を抜けろ」

「了解です」

「2人とも、タイミングを見誤るなよ」

「「了解」」

 ようやく蜘蛛の糸程の希望を見つけ、コルドハンター隊が作戦を実行に移す。

「スリーカウントで始める……3・2・1・てぇっ!」

 スコット機を除く3機が撃ち始める。
 手裏剣は保っていたバランスを崩し、PF1機分の隙間が生まれた。

「スコット、今だ!」

 ガーデルマンの言葉と共に、スコット機がフルブーストで囲みを突破した。
 そうこうしている内に、目標はヒュージレイドまであと少しという距離まで迫っている。

「やらせるか!」

 背を向けている紅いシンザンに、サーマルプラズマライフルを連射する。

「よし、これで……って後ろ向いたまま避ける!?」

 攻撃をかわした目標は、ターゲットをスコットへと変えた。
 当初の予定とは違うが、こっちに突撃してくる紅きシンザン。
 形はどうであれ、ヒュージレイドから目を背ける事には成功する。

「来いよ、バケモノ!」

 腹を括った彼は、勇気を奮い立たす為に言った。

「スコット伍長、脱出してください!」

 そんな彼の言葉とは裏腹な一言が、スピーカーから流れてくる。
 それに何かを感じたスコットは、レーダーを見ると自機のすぐ後方に光点が1つ。
 彼は反射的に、強くレバーを引く。

「……遅いわよ」

 背後から高速で突き出される、刃。

「ぐっ!! 抜かったかっ」

 機体を破壊されながらも、スコットはなんとか脱出に成功する。
 だが手裏剣で囲まれたコルドハンター隊に、それを知る術はない。

「オペレーター! スコットはどうなった?」

 コルドハンター隊の隊長であるガーデルマン少尉が、シュキに尋ねる。

「信号確認、ただちに回収班を向かわせますっ!」

「了解した……さて、どうやって抜けるかだな」

 一時は隙間を開けた手裏剣だが、未だその囲みを解かれていない。
 どうやって抜けるかを考えあぐねていると、前方から謎の小さな何かが飛来してきた。

「コルドハンター隊、そこを動かないでちょうだいよ?」

 その言葉と共に、一条の光が過ぎ去った。
 飛び交う小さな物体に光弾が当たると、跳ね返しながら手裏剣へと向かう。
 ビームはなお跳ね返されならがら、コルドハンター隊を囲っていた手裏剣を弾き飛ばしていく。

「騎兵隊のご到着ってね」

「リースボン伍長か、救援感謝する」

 彼らを救ったのはオスコットであった。

 彼らを囲いから解いたのは、オスコットであった。
 ユイは弾かれて崩れた手裏剣を、即座に回収する。

「救援は伍長だけ、か?」

「いえ、もう1人いますよ」

 オスコットがそう言うと、双子達のいる方の上空を指し示した。

「ヴァリムめ、消えろっ!」

 1機のPFが、双子に目がけて対PF砲弾を撃ち込む。
 2機のシンザンは、これを瞬間転移で回避する。

「ランブルさん、来てくれたんですね」

 今まで余裕の無かったヒュウガが言う。

「……ふん、作戦を台無しにされては困るからな」

「ランブルさん、上から敵がきます!」

 モニターから切羽詰ったシュキの声が、彼へと届く。
 上空から紅いシンザンが、大鎌を振りかざしてランブルへとパワーダイブで突撃する。

「甘い! それじゃ俺は殺れん!!」

 肩に装備された追加バーニアを噴射し、後方へとスライド。
 同時に両手に持つキャノンで反撃。
 しかし、紅いシンザンはこれを易々と回避した。

「ランブルさん、危ない!!」

 シュキが、レーダーを見ながら叫ぶ。
 後方から狙ったかのように蒼いシンザンが出現し、ヤミフブキから伸びる刃を突き出そうとしている。
 先程撃墜されたコルドハンターを狙ったのと同じコンビプレイに、回避も防御も間に合いそうにない。

「さようなら」

 スピーカーから冷たい声が流れ、ランブルの額に汗が浮かび上がる。
 彼は強く、強く【間に合え!】と念じレバーを引く。
 奇しくも先程と瓜二つのシーンが、再現されようとしてた。

「だぁから1人で行くなって言ったのに……さっ」

 そんな両機の間に割り込む緑の光線。
 蒼いシンザンは、仕留め損なったランブル機との距離を開ける。

「仕留め損なうなんて……あの緑色、手強い」

 ランブルが背後を見ると、オスコット機が得物を上空に向けていた。
 彼を間一髪で救い出したのは、オスコットであった。

「……礼をいう」

「素直じゃないねえ」

 ランブルは決まりが悪そうにポツリと礼を言う
 彼はそれを、苦笑いで受け止めた。

「おい、そこのゴツいの!」

 紅いシンザンが、外部スピーカーで誰かに呼びかける。

「……伍長、ゴツいのとは俺か?」

「う〜ん……だろうね」

 何か引っかかるような物を感じつつも、ランブルは外部スピーカーをONにする。

「……なんだ、紅いの」

「あたいとサシで勝負しな!!」

 そのとんでも発言に、この場にいた全ての人間が唖然とした。
 PFが主力兵器となった現在の戦場で、一騎打ちという現象が起こることはある。
 だがそれは、その場の流れの上で起きるものである。
 自ら望んで――中にはそういう輩はいるが――やるような事ではない。

「マイ、いい加減にしなさい」

「いいじゃ〜ん! それに合図もまだ来てないし……なっ姉貴、頼むって!!」

 モニター越しに、姉を拝み倒すマイ。

「……いいけど、合図が来たら直ぐに撤退よ」

「さすが姉貴! 話がわかるぜっ」

 子供のように笑顔を覗かせるマイ。

「さてと、ゴツいの! 覚悟しな!」

 マイは、ブーストペダルを力一杯踏み込んだ。

「おっと、俺らを忘れてもらっちゃ……」

 駆けつけたコルドハンター隊が、2機の間に割り込む。

「あんたらに、もう用はないから! じゃーな!」

 最大戦速で突っ込んできた紅いシンザンが、そのままランブル機に突っ込む。
 コルドハンター隊の妨害をモノともせず、この場を離れていった。
 ランブルはこの時の紅いヤツに殺気を感じなかった為、不意を突かれて押し込まれた形だ。
 そうして2人は、その場から遠ざかっていった。

「心配しなくても、あなた達の相手は別に用意してあるわ」

 ユイがコルドハンター隊の方を見ながら、シンザンの右手を上げる。
 それを合図に、周りに5機のシンザンが現れた。






 

 〜マイVSランブル・戦闘開始〜


 マイは飢えていた。
 アルサレア戦役が終結し、やることといえば訓練や演習ばかり。
 姉や仮面を付けた変な男との勝負は楽しめたが、実戦で感じられるモノとは何か違う。
 フラストレーションが溜まる日々の中、辺境の地で始まった今回の作戦。
 先日ようやく解消できそうな相手が見つかったが、モアイ面の馬鹿のせいで中途半端に終わっている。
 そして、今日それが叶いそうであった。

「ハハッ! あたいの動きについて来る……あんた良いじゃん!!」

 シンザンの右肩に装備されたガトリングが、大量の弾丸を吐き出し弾幕を形成する。
 対するランブルは前腕部に装着しているゴツいキャノンの片方の盾を使い、弾幕の中へと突進。
 硝煙の中を潜り抜けると、ランブルの眼前に鎌を掲げたシンザンがいた。

「や〜っぱ突っ込んできたね、お見通しだぜ!」

「その程度の読みか、小娘」

 ここでランブルは、肩のバーニアを点火し再加速。
 それを利用したタックルで、向かってきたシンザンを吹っ飛ばした。
 バランスを崩させたシンザンに、止めを刺そうとキャノンを撃つ。

「まだまだっ!」

 雪面に接地する前にブースターを噴かし、吹き飛ばされた体勢のまま機体を上昇させ砲弾を回避。
 体勢を直し、お返しとばかりにナインからミサイルを発射する。
 ランブルは、弾数の多いソレを難なく避ける。

「くーっ! これこれ、この感覚! あたいが欲しかったのはコレだよ!」

 心の渇いていた部分が、潤っていくのが分かる……彼女はそう思った。

「アルサレアの狂犬さんよ、もっとあたいを愉しませてくれよ!」

「……貴様、どこでそれを聞いたぁっ!!」

 アルサレアの狂犬という言葉を聞いたランブルの様子が、普段とは明らかに違っていた。

「どこだっていいだろ、もっと殺りあおうぜ」

「黙れ!」

 ランブルがトリガーを引く。
 しかし先程までと違い、正確とは言い難い狙いで撃ったキャノンは当たらない。

「おっーと」

 マイは何避けるまでもないその弾を、ゆっくりと避ける。
 彼はひたすらに連射し、砲身から白い煙が上がっているのもお構いなしであった。

「ハァーッ、ハァーッ……消えろぉおお!」

 ランブルの攻撃は、それまでの正確無比なモノと打って変わってただの力押しになっていた。

「何だこいつ……さっきと全然違うじゃんか」

 単調すぎる攻撃に、昂っていたマイの感情が急激に覚めていく。

「ハァー、つまんねーの……これで終わらせるぜ」

 マイは両手に持つ大鎌を投げた。
 大鎌は空中で変形し、卍手裏剣へと変化する。
 ランブルはソレを防御しようとするが、ソレはただの手裏剣ではなかった。

「素直に真正面からいくかってーの、このアホ犬」

 手裏剣は忽然と姿を消し、ランブル機の後方へと出現する。

「ぐっ……ぐ…………がああ!」

 戻ってきた手裏剣をキャッチしたシンザンは、再度投擲。
 瞬間転移した変形手裏剣が、次に出てくる場所を把握しきれないランブル。
 徐々に機体が、ボロボロにされていく。

「ぐ、が…………」

 すっかり冷静さを無くした彼は、シンザンへと突撃を開始。
 何とか肉薄するが、その射程での効果的な武装も持っていない。
 その上マイは、攻撃する寸前に瞬間転移で消えた。

「面白かったけど、今のアンタじゃあたいを熱くさせる事なんて出来やしないよ!!」

 彼の背後に出現したシンザンが手裏剣を大鎌へと変形させ、ランブル機を一刀両断。
 コクピット部は狙わずに、ランブルを戦闘不能にした。

「今度はまともなままで頼むぜ? じゃあな〜」

 メインフレームとレッグフレームが分離したPFを、一瞥するマイ。
 そこに、リュウハからタイミングよく通信が入った。

「2人とも撤退だ、合流ポイントに集合しろ」

「あいよ〜! マイ・キサラギ、これより合流ポイントに向かうよ」






 

 〜オスコットVSユイ・戦闘開始〜


 ユイがどこからか呼び寄せたシンザンの集団。
 その相手は、タダでさえ数の減っているディフェンスチーム。
 その負担を減らす為、オスコットは1人で双子の悪魔の片割れと戦うこととなる。

「ここまで来れば、後ろは気にしなくてもよさそ〜だねぇ」

 小競り合いを繰り返し、ジリジリとユイを引き離すオスコット。
 大分離れた場所へと、たどり着く事に成功していた。

「オスコットさん、本当に大丈夫?」

「おじさんは大丈夫だからさ〜、向こうのサポート頼むよ」

 心配そうにしているシュキに、オスコットは普段どおりの調子で答える。

「……あなた、随分と無謀ね」

「本当にそうか、試してみなよ?」

「そうさせてもらうわ」

 先に動いたのは、シンザン。
 高速で横にスライドし、ヤミフブキを撃ち出す。
 オスコットは、飛来するソレを槍で払い落とした。
 同時にバスターランチャーでの反撃も忘れない。
 シンザンは、ジャンプでこれを回避した。

「まだまだ、ここからってね!」

 先行していたスキュラが、通り過ぎたビームをシンザンのいる上空へと方向転換させる。
 彼女は難なく避けるが、さらに別のスキュラが再転換させた。

「厄介ね、だったら……」

 ヤミフブキを、1基のスキュラへと向ける。
 しかし、別のスキュラからのビームがそれを許さない。

「そいつをやらせないのも、仕事の1つなのさ」

「案外やる……少し本気でいかせてもらうわ」

 シンザンが、大型手裏剣を投擲する。
 それほどの速度は出ていない、とオスコットは迎撃する。

「なっ、避けられた? それなら!」

 直ぐ様バスターランチャーを反射させ、撃ち落とそうとする。
 が、着弾直前に手裏剣は軌道を変えて避けてしまう。

「これって基本使い捨てじゃなかったっけ……反則だよ、こりゃ」

「ふふっ……大変そうね」

 オスコットの死角へ、瞬間転移したユイ。
 この距離なら確実にダメージを与えられる、ヤミフブキを撃ち出す。
 死角の至近距離から高速で撃ち出される手裏剣を、かわす術はない。

「ぐぅっ、まだまだだ」

 ダメージを貰いつつ、銃口をシンザンへと向ける。
 が、警告音が鳴り響き攻撃を中断せざるをえないオスコット。
 先程の手裏剣が、また彼に向かってくる。
 今度はスピアで、それを薙ぎ払おうとする。

「げぇ……何この重さ!? しかもよく斬れそうだな」

 手裏剣に気をとられてシンザンから攻撃され、シンザンに集中すると手裏剣の餌食となる図式。
 こんな相手と互角にやりあった隊長ら、大したもんだねぇとオスコットは思った。

「一気に追い込まれちゃったかい……ここは一か八か、やってみるしかないかね」

 このままだと機体がもたない……迷っている暇はなかった。
 一旦スキュラをエネルギーチャージの為に戻し、同時にハイパーモード発動のスイッチを入れる。
 機体性能だけではなく、チャージの効率も幾分か上昇する。

「まだ、諦めないのね……」

 発光を確認したユイは操縦桿を握り直し、大型手裏剣を操作するパネルに手を添える。

「おじさんの悪足掻き、特とご覧あれ!」

 スキュラを再度展開し、手裏剣の迎撃を狙うオスコット。

(速くはなったけど予測範囲内ね……)

 そんな風に思ったその時、彼女を大きな振動が襲う。

「背後からのダメージ!? 何処から……」

 ユイは己の周囲を見回すと、2本の光線を確認。
 種明かしをすると1本目の照射を終え、すぐさま2本目の射撃を行っているだけである。
 だが、ただ単に2本のビームを撃てば当たるというモノではない。
 スキュラの軌道をより複雑に、幾重にも相手に誤認させるようなパターンの動きをさせる。
 そして何より、その膨大な数のプログラムを記憶して適材適所に扱うオスコットの技量。
 それがあって、初めて成せる技となる。

「お嬢さん……あの時の無念、晴らさせてもらおうか」

 スキュラの反射間隔を、緩急をつけ狭めていく。
 その間手裏剣は、ハイパーモードで上昇した機動力で回避。
 バスターランチャーからの攻撃は、全てシンザンへと注ぎ込まれる。
 ビームを手裏剣の迎撃に使うのではなく、全て相手へ叩き込むことを選択した。
 余裕のあったユイも、次第にソレが消え失せていった

「ぬ、勝機! おりゃぁぁあああ!!」

 動きの止まった隙をつき、左手に持ったスピアをシンザンへと投擲した。
 機体が出せる、限界の力で。

「だめ……間に合わないわ」

 回避が間に合わないと判断したユイ。
 せめてダメージを最小限に抑えようと、機体を操作する。
 その結果直撃を避けはしたが、投擲された槍に右肩を貫かれ、
 反射されたビームには、ヘッドフレームを破壊された。

 およそ全戦闘力の、80%は持っていかれたと言っても過言ではない。

「右腕部稼働不能……構成パーツを欠いた事により瞬間転移機能停止」

 淡々と己の状況を口頭に出し、彼女は確認作業を済ませる。

「右腕部の損失による斬神星の使用不可……戦闘継続は不可能、かしらね」

 ここまで散々特別製と言われてきたあのあの大型手裏剣。
 通常のシンザンが使うには、無理が生じる設計である。
 彼女のシンザンは、右腕部に強化が施され使えるようになっていたのだ。

「はぁ〜、どんなもんだ……ってヤバっ!」

 未だ空中を漂う1枚の手裏剣は、狙った獲物へ喰らいつこうとしていた。
 運の悪いことに、ここでハイパーモードが終了。
 パネルに再起動までの時間が表示される。
 オスコットの心拍数が、人生で一番の数値を叩き出す。
 万事休すかと思ったところで機体が再起動し、本能的にレバーを引く。
 かわす事は出来ず、直後に強い衝撃が襲った。

「……し、死ぬかと思った〜」

 安心して顔を上に向けると、見えない筈の空が見えている。
 損傷を確認すると、首の付け根から肩関節部にかけてゴッソリ持っていかれている。
 切断された部位は、コックピットの上壁にまで達していて、空が見えているのはその結果だ。
 どうやら寸での所で、コックピットへの直撃は免れていた。
 レバーを引いていなければ……と思うと、彼の顔は蒼白へと変わっていた。

「あなた、運がいいわ」

 そんな所へ、ユイが接触通信を入れてくる。

「そのようだねぇ……で、まだやるかい?」

「フフ、残念だけど撤退命令がきたから遠慮させてもらうわ。それじゃ」

 瞬間転移でこの場を立ち去るユイ。
 ちょうどそこへ、シュキから通信が入る。

「オスコットさん、こっちは防衛成功! それと砲撃準備完了したよ」

「おーけー、できたら早いとこ救援頼むよ〜」

 それからすぐに、オスコットの近くに待機していた回収用PFが到着。
 オスコットは無事回収された。






 

 〜ディフェンスチーム・砲撃ポイント〜


 シュキからの戦況報告を聴き終えたヒュウガは、オスコットへ通信を入れた。

「オスコットさん、大丈夫ですか?」

 モニターに映ったオスコット機を見て驚くヒュウガ

「はは、もうクッタクタだわ……」

 疲労の色を浮かべているが、笑って返すオスコット。
 ソレに加えサバイバルキット付属の防寒コートを着て隙間風を凌いでいる。

「あ゛ーさっぶ〜……ところでランブルは?」

「ランブルさんは撃破され、先程回収されました」

「そうかい大事は無いようだね……隊長は?」

「そっちはピンピンしてますよ」

「はは、流石は隊長だな」

 いくら雑魚といえども、あれだけの数相手にほぼ無傷のラグナ。
 その様を想像し、オスコットは苦笑する。

「では砲撃を開始しますので、また後ほど」

「了解、んじゃ頑張って〜」

 鼻を啜りながら、ヒュウガとの通信を切るオスコット。
 彼はそれを確認し、次の行動へと移る。

「コルドハンター隊の皆さん砲撃開始します! なので後方へお願いします」

「「「了解」」」」

「システムオールグリーン、最終安全ロック解除」

 ヒュウガが引き金に手を当てた。
 そして、静かに引く。
 砲塔の先に光が収束していく……
 轟音と共に直径がPF並にありそうな光の奔流が、敵要塞へと襲いかかった。






 

 〜ヴァリム・基地司令部〜

 突然の轟音が響ったと思った直後、地震と間違うような衝撃がヴァリム基地へと走る。

「司令官殿!!」

「…………ううっ……何事だ!?」

「要塞の壁に大穴が開けられ、被害は調べている最中です」

 報告を聞いたブライスの顔が、あっという間に青ざめていく。

「ば、馬鹿な!? あの壁を貫くなど……」

「各所からの報告と映像から判断すると、事実です」

「メインモニターに回せ!」

 映された映像に、食い入るように見入るブライス。
 そして改めて青ざめる。

「恐らくは、アルサレアの新兵器かと思われます」

「そんなのは分かっている!! ええい、援軍はまだか!!!」

「連絡はまだです……レーダー回復します、敵影は1!」

「1機だと? さっきの奴か」

「どうされますか?」

「たかが1機、俺が出る! 後は任せるぞ」

 ブライスは急ぎ、自分の機体がある格納庫へと向かった。
 基地に甚大な被害が出ている為か、全員慌ただしく走りまわっている。
 この時ほとんどの者が、ブライスに敬礼せずに過ぎ去っていく。
 緊急の事態故の事だが、彼にはそれが全く面白くない。
 程なくして、格納庫へ到着する。

「くそっ! どいつもこいつも私を馬鹿にしおって……」

 ブライス用PFに、文句を言いながら乗り込む。

「クソッ!クソッ!クソッ! ブライス、出撃する!」

 苛立っていたためか、彼は出撃する際に機体のバランスを崩してしまう。
 そのままヨロけて、機体を発進口の壁にぶつけてしまった。

「ええい! 無機物までもが私の邪魔をするか!!」

 苛立った心を落ち着かせることなく、ブライスはそのまま出撃した。
 その時ブライスは「ミシッ」と言う嫌な音がしたのに、気づかなかった。






 

 〜ラグナ・ヴァリム基地〜


「すげぇな……」

 開いた穴の大きさに、驚きつつ呆れるラグナ。

「た〜いちょ〜」

「今度は何だ、シュキ?」

「ヒュウガさん以外、戦闘可能な機体がないよ」

「はぁ……わーったわーった! 俺が制圧しとくから皆を休ませておいてくれ」

「了〜解っ」

「で、歩兵部隊はどれくらいで到着するんだ?」

「あと15分でそっちに着くよ」

 何かと忘れられがちであるが、基地を制圧するには歩兵部隊が必要不可欠である。
 どれだけ進化しようが、PFは歩兵の代わりにはなりえない。
 人の手では出来るが、PFでは出来ないことの代表格と言えよう。

「……こりゃ酷ぇぜ」

 敵基地へと突入するラグナ。
 内部は結構な広さがあり、その半分くらいが火災に見舞われている。
 ヒュウガの砲撃の衝撃が、基地全体へと広がっていた。

「迎撃する余裕もない、か……」

 敵の本拠地に乗り込んだというのに、出迎えが無い。
 彼はてっきり、熱い歓迎を受けるモノだと思っていた。

「隊長! 速い敵が1機そっちに行くよ!」

 それは自機のレーダーでも確認出来、確かに速いとラグナは思った。
 その移動速度からして、一般的に高機動と呼ばれる物より尚速い。
 ソレを迎え撃つ為に、操縦桿を握り直した次の瞬間―――

「貴様か、一人ノコノコ乗り込んできたバカというのは!」

 珍妙な姿をしたヴァリムのPFが姿を現し、パイロットからの通信が入った。
 少し気の抜けたラグナであったが、そのPFの手に握られている得物に目を見張る。

「お前1人か? 随分と余裕じゃねぇか」

 少しだけ心拍数を上げつつ、ラグナが敵のパイロットへ問う。

「アルサレアの機体1機如きに、わざわざ戦力を裂くのは惜しいのでな!!」

 先程まで青ざめさせていた顔に、赤みが戻ってきている。
 ここでラグナを倒し、溜め込んだ鬱憤を晴らしてしまいたいのであろう。

「どうしてヴァリムのヤツらはこんなに血気盛んなんだ?」

 モニター越しに小声でシュキに話を振るラグナ。

「ええ!? 私に聞かれても困るよ〜」

 従って当然のように、彼女は困惑の意思を返す。

「冗談だよ冗談……んでそっちの二刀流さんよ、降伏すんのか?」

「それはこちらのセリフだ! 我らの増援がお前らの基地に向かっているぞ?」

 しかし、そんな報告は入ってはいない。
 問題があれば、すぐにその情報が伝えられるはずである。
 つまりブライスは、ハッタリをかましているだけであった。
 当然、ラグナには通じない。

「冗談も休み休みにしやがれ、このモアイ野郎!」

 モニターの隅に移る敵の顔を、端的に揶揄するラグナ。

「きっ貴様ぁっ、生きて帰れると思うな!!」

 モアイと呼ばれ、瞬時に怒りが頂点へと達したブライスが先手を奪う。

「フハハハハ!! どうした、怖じ気付いたか!!」

「んなわけねぇさ、鬱陶しいだけだ」

「ならば遠慮などせずに攻撃してくるがいい! もっとも当てられればの話だが、な」

 相手の機動に翻弄され、攻めあぐねるラグナ。
 挑発も意に介さず、静かに敵の動きを見極める。

「あ〜……見てても隙を突ける気がしねえ」

 ブライスに隙が無い、と言うことではない。
 単純に速すぎて手が出せない、と言うことである。

「あの武器がなあ……ラッキーパンチでも決まった日にゃあ目も当てられねえ」

 だからと言って、何時までも黙っているワケにもいかない。

「ま、ウダウダしてても仕様がない……か」

 ラグナが突撃をかける準備へと入る。
 相手の得物は脅威であり、危険もある。
 しかし決して、ブライスの技術が自分より上などということはない。
 これまで黙って、時が過ぎるのを待っていたわけではない。
 なるべくならダメージを食らわずに対処したかった。
 だがソレを100%やる事が出来る、と言い切る事はできない。
 そう言うことを自分の中で結論づける為に時間をかけていた。

「臆せもせずようやく覚悟を決めたようだなぁ? だがな……」

「……なっ!?」

 さらなる速度上昇に加え、急激なターンの繰り返しで翻弄するブライス。
 こんな面妖な男がここまでのモノだとは、思えなかったラグナ。

「隙ありだ、頂くっ!!」

「くっ、後手に回りすぎたし適当にやりすぎちまった!」

 ラグナは防御しようと、双剣をクロスさせ構える。
 ブライスが真・双斬破を繰り出そうとした、その時!!!

















 パキイイイィィィィィィィイイイイン!!!!!



 真・双斬破が綺麗な音を立て、折れてしまったのである。
 先程出撃前に聞こえたミシッという音の正体は、真・双斬破にヒビが入っていた音であった。
 一応説明を加えさせてもらいたい。
 真・双斬破は対でこそ真価を発揮する特殊な刀。
 1本だけ装備されていると、BURM補正により違反機となってしまう。
 そしてブライスは、フルブーストを限界までかけていた……と言うことは?


「ぬおお!! EN回復が間に合わないだと!!?」


 真・双斬破が1本だけ機能している。
 その為違反機体が発動し、なおかつENを全て消費した状態に……結果として!!


「ぐああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 ブライスの機体は脱出ポッドを除き、跡形もなく爆散した。
 それを見ていたラグナは――――

「あ、あれ? 今、目の前にいたモアイ野郎は……?」

「隊長どうしたの? 大丈夫!?」

 ラグナのただならぬ様子に、心配そうにシュキが尋ねる。

「……なあ、シュキ」

「ん? どうしたの?」

「今、俺の目の前にいた敵は?」

 未だに何が起きたのか、掴めないラグナ。
 目の前で触れてもいない敵が、突然爆散すればそうもなろう。

「隊長が倒したんだよね?」

 レーダーの光点を追い、ラグナ機の光点とぶつかった瞬間に消えた敵を示す光点。
 彼女の目には、彼が倒したようにしか見えていない。

「………まあ、いいか!!」

 ラグナは深く考えないことにした。
 賢明な判断といえるだろう。
 ここにいる者供に、正しい答えが分かっている者などいないのだから。






 

 〜???・ブライス〜


 脱出ポッドが着地したのは基地から近い海岸であった。

「な、何だったというのだ……」

 ブライスは打った頭を抑えながら外へと出てきた。
 いきなり自分の機体が爆発したのでは、考えるヒマなど与えられるはずも無かった。

「ブライス、ご苦労だったな」

 そこへ双子を伴ったリュウハが突然現れた。

「リュウハ、何故ここにいる?」

「任務を果たした司令官殿を労いにな」

「ということは……援軍が到着したのか!」

「そういうことだ」

 ブライスに手を差し伸べるリュウハ。
 その時、リュウハの口元が歪んでいる事にブライスは気づかなかった。
 手を握った瞬間、リュウハはブライスの後ろに回り込み首を締め上げた。

「ぐ、うぅ……何、をする、ん、だ」

「すまんが、1つ嘘をついていてな」

 ブライスの首を締め上げる力は、どんどん強くなる。
 彼は抵抗を試みるが、着地の衝撃で全身を打ち付けていた。
 その為思うように動けずに、リュウハの成すがままとなっている。

「実はこの作戦、島からの撤収が本来の目的だった」

 彼は、ブライスの気道を更に締め上げる。
 痛む身体に鞭を入れ、必死にもがくブライス。
 しかし完全に極っており、僅かな抵抗などではビクともしない。

「その為に貴様を捨駒にしたというわけだ。
 貴様のお陰で作戦は成功……感謝するが、ここで消えてくれ」

 ブライスの顔が蒼白へと変わってゆき、その身体は痙攣をし始める。
 そしてブライスの手足はダランと垂れ下がり、魚の様に口をパクパクとさせる。
 それを見たリュウハは、ゆっくりと彼を寝かせる。
 これ以上、絞める意味がないからである。

「さて、これでここでの仕事は終わりだ」

「やっと寒い所から離れられる〜!! にしても姉貴」

 マイがユイの方を見る。

「……何?」

「まさか姉貴が負けるなんてさー」

「そうだな、あの損傷には驚いた」

「……勝敗は決まらなかった、後で戦闘データを見てみなさい」

「それでマイ、貴女はどうだったの?」

「あたいか? 当然勝ったに決まってるじゃん!!」

 軽く胸を叩き、自身の戦果を誇ろうとするマイ。

「その割には、機体がボロボロだな? ユイほどではないが」

 そこへすかさず、リュウハが茶々を入れてくる。

「だあああっ!! リュウハ、そこでツッこむんじゃねーよ〜」

「やはりあの部隊……かなりの精鋭が集まってると見るべきね」

 その内の一人と交戦し、手痛い手傷を負わされたユイ。
 次の戦いに向け、その瞳が冷たく鋭く光を帯びる。

「そんでリュウハは? 当然勝ったんだろーけどさ」

「勝ったには勝ったが、遊びすぎたのか片腕は持っていかれた」

「ウソだろ! ディアボロスと戦える奴なんているのかよ!」

 彼の機体性能を知る者にとって、それに損傷を加える事は無理に近いと知られている。
 その為マイには、その報告がどうしても嘘にしか思えない。
 ディアボロスは現在輸送機に収容され、確認が出来ない。
 そう言うことも相まって、彼女にそう思わせる要因となっている。

「嘘ではない、お前らが倒せなかっただけのことはあるな」

「くう〜っ! 燃えてきた! 早く次の戦いに行きたいぜ!!」

 強いヤツと戦いたがるマイの悪い癖が出る。

「マイ、落ち着いて……次の手は何かあるのかしら?」

「報告と機体の修理があるので、本土へと戻る」

 そこまで言い終わると、リュウハはあることを思い出す。

「そうだ、作戦が始まった後にアマツの奴から連絡があってな」

「へぇ、ヤツから……それで?」

 せっかちにも言葉の先を促すマイ。
 ユイも口は出さないが、その視線はリュウハへと注がれている。

「2人の力じゃシンザンでも力量不足だろ?
 双子の悪魔に相応しい器を用意した……だとさ」











 第3話後編(改訂版)・END

 第4話へ

 



 〜大した変更もないので後書きも手抜きになるよサーセン\(^o^)/〜

ティア:また随分端折りましたね、先生

背徳 :いいんだ、疲れない後書きでもな……んじゃ締めよろしく

悪夢 :次回もサービス、サーry


 


[感想掲示板へ] [目次へ] [投稿部屋へ] [さんの部屋へ]