〜4〜


 

「うぉぉぉぉぉぉぉっ」

 カンナが壁を抜ける。さすがは城壁都市、中に入れば砂嵐はかなり収まっている。

「・・・ッ!!」

 目の前に現れたのはJキャノンにJグラップラー。
 速度を落とさずそのまま突っ込む。
 運が良い、相手は旧式だ。

 レーダーには機影が10以上あるが、少し離れた布陣。
 各個撃破に適している。
 対してこちらは上位機体のカスタム仕様、基本性能が違う。
 敵の戦力が豊富でないという読みは当たったようだ。
 だが、油断は出来ない。
 輸送部隊を襲撃する特務小隊がいてもおかしくはないからだ。

「せやぁぁぁぁぁっ!!」

 アシュラは急上昇。フローターウィング射出、目標は最前線のJキャノン。
 目標周辺を高速旋回するウィングがとんでもない数の光弾を浴びせる。

「ぐっ、こんな程度で堕ちはしねぇぜ!!」

 これだけではPFは破壊出来ない。
 当たり前だ、本命は別にある。

 敵パイロットはアシュラにキャノンを向ける。
 相手はかなりの高速だが、この距離で外す訳には行かない。
 目標を注視、確実に狙う。

「目にもの・・・どわっ!!」

 Jキャノンのメインフレームに投げつけられたバトルハンマーがめり込み、一気に吹っ飛ばす。
 爆発はしないが、もはや立ち上がる事は出来ない。
 続いてコクピットの射出を確認、これで一丁上がりだ。

「解り切っていた事だが、待ち伏せされるのは気分の良い事じゃないねぇ。カンナ、援護するからしっかり決めなよっ」

 ハートは次のJグラップラーに向けてMガントレットのミサイルを放つ。

「うっ、うわぁぁぁぁっ!!」

 正面からはミサイル、上空からはレーザースピアを持ったアシュラ。
 格闘用の機体では判断が難しいパターンだ。
 だからこそ、はめやすい。
 敵パイロットの情けない絶叫が響く。
 まだ新兵のようだ。

「悪く思うなよ、てあぁりゃぁ!!」

 カンナの駆るアシュラの速度はアルサレアの第二世代空戦用PFであるJフェニックスを超えている。
 うろたえた敵が放つカイザーナックルなど当たりはしない。
 カンナは冷静に回避すると、右腕のレーザースピアで袈裟斬り。左腕を斬り裂く。
 続いて機体を半回転、横薙ぎで両足を奪う。

「まだまだぁ!!」

 最後に倒れこんだ機体のヘッドフレームと肩のキャノンを同時に潰す。
 僅か一瞬の出来事だ。


 

 その間にも敵PFは続々と集結してくる。
 目立っているカンナとハートに向かって一直線だ。
 相手は守備本隊。
 こちらも一度姿を晒した以上、不意を突く事は出来ない。
 ここからが技量の勝負。

「敵は相当の手練れだ、あれをやるぞ」
「了解、あれですね」

 ――と、嫌な会話も入るようになってきた。
 今度は新兵などではない、高い錬度を誇る正規軍だ。

「敵は一機だ、一気に押し込むぞ!! 国を失った者達の怒りを思い知らせてやるのだ!!」

 敵部隊の隊長らしき男が叫び、それと同時に5機が正面から2人に襲い掛かる。
 こちらを分断して各個撃破を狙う戦術だ。

 カンナには一個小隊、3機のPFが張り付いた。
 Jファーカスタム。
 一応第一世代PFの範疇であり旧式の部類には入るが、こいつは別格だ。
 拡張性の高い汎用機は今でも第一線で通用する。

 上から、左右から、3機同時にフォースソードを振りかぶる。
 少々厳しいパターンだ。無傷で切り抜けるのは不可能に近い。

 本来なら下に逃げるのがセオリーだが、敵の練度から察するに、おそらくそれすら見越した攻撃なのだろう。
 追い詰められれば選択肢は減る一方だ。

 アシュラは左腕のカイザーシールドを構えて上のJファーカスタムに向かって急上昇。
 敵は当然フォースソードを振ってくる、それはシールドで防御。

 嫌な音と共に被弾ゲージが溜まっていく。
 まだ1発や2発、大した事はない。

 そのままJファーカスタムにシールドをお見舞いし、怯んだ隙に本命のレーザースピアを首あたりに突き刺そうとする。
 しかし、敵もかなりの手練れ、右腕を犠牲にする事でスピアの軌道を外し、辛うじて回避。

「ぐううっ、ヴァリムめ!!」
「こいつら出来る!!」

 アルサレアの兵はヴァリムより1ランク上の練度を持つ。
 そうでなければ先のアルサレア戦役で、国力で圧倒的に劣るアルサレアがヴァリムに勝てる筈はない。
 そんな戦いを生き抜いてきた猛者達だ、例えヴァリムのエースクラスでも3機に囲まれては苦しい戦いを強いられる事になる。

 しかし、そうは言ってもカンナとて槍の扱いはヴァリム随一。
 機体性能も勝っている。そう簡単に遅れは取らない。

 さっきの攻撃であの機体の右腕は潰れている。
 まずは黙らすのが先だ――カンナは他の2機を全力で無視し、手負いの1機に集中する。

 トルネードショットを牽制に、出来るだけ右側からの攻撃を掛ける。
 相手は右腕がない。五体満足ではない敵を追い詰めるのは比較的容易かった。

 隙を見せたな――カンナは身を乗り出して叫ぶ。

「終わりいぃぃぃっ!!」

 レーザースピアをメインフレームに、コクピットの上を狙って突く。
 こんな状況になってまでコクピットを外そうとするのは彼の真面目な性格故だ。

 しかし、運命は残酷であった。
 敵は回避しようとブースターを噴かした。
 機体は僅かに上昇、不幸にもスピアの剣先はコクピットを貫いた。

「なっ!!」

 機体の振動を通して何らかの空洞を刺し貫いたような、心理的に嫌悪感のする感触が嫌という程に伝わってくる。空洞とはコクピットの事である。

 コクピットを潰されれば脱出装置は働く筈もなく、機体は爆発。
 パイロットの生死など調べるまでもなく、確認するだけ無駄である。

「たっ、隊長がやられたぁ!!!」
「このヴァリム野郎がぁ、許せねぇ・・・ぜってぇ殺してやる!!」

 一瞬の沈黙。その声でカンナはハッと気付く。

「くそぉぉぉぉぉっ、また殺してしまったのか、俺は!! ・・・なんで避けたんだよっ!!!」

 悲しみは怒りに変わる。
 敵パイロットはカンナに、カンナは自分に。
 コクピットを外す事に誰よりもこだわっていたカンナは、何度目の殺人に己を責めた。











 

 ――その後方、ハートにも2機が張り付いていた。

 ミサイル多数接近。相手のCBは遠距離主体だ。

「ヴァリムが、これでも喰らいやがれ!!」

 敵PFから、周囲の砲台から凄まじい数のミサイルが発射される。
 これだけでPFの10機や20機は堕とせそうな破壊力を秘めているだろう。
 まさに破滅的、変態的。
 撃った奴等はただのサディストじゃない。

「よぉし、一機撃破!! ・・・げっ、マズったか!!」

 足を止めたハートにミサイルが殺到する。
 だが、速度はあっても加速の遅いヴェタール改では避け切れない。
 Mガントレットのカウボーイショットで何とか凌ぐが、これだけの数のミサイルを迎撃するのには連射が遅過ぎた。

「ここは任せて下さい!! ・・・ジャミング開始・・・目標、基地砲台群」

 ステアのキシンは急降下、そのままカウンターリングを斉射する。

 リングから放たれた特殊な電波は凄まじい量のミサイルの目標を瞬時に書き換える。

 ジャミングされたミサイルは掌を返すように旋回し、自らが発射された砲台を目指した。
 周囲からは幾多の小爆発が起こり、レーダー上の固定兵装のポインターは次々に消滅していく。

「後ろっ!!」

 キシンは半回転。
 左腕に持つVシールドをガトリングガンに変形させ、右腕の改造三連サブマシンガンの中軸にあるプチマシンガンと共に一斉射、残りの全てを迎撃した。

 球形の爆炎が周囲を埋め尽くす。
 その壮絶な光景はさながら煉獄の立ち昇る地獄絵図のようだ。

「何ぃ!!」
「そこぉ、余所見しない!!」

 ハートのバトルハンマーが怯んだ敵PFを頭から潰し、膝を崩した機体を更に横へと吹っ飛ばす。
 機体は大破、素早く周囲を索敵。
 パイロットを気にしている暇はない。

「周囲よし。ステア・・・助かったよ」
「このエリアは制圧完了でしょう。・・・行きましょう」
「そうさねぇ」

 ハートは紅く立ち昇る炎に目を遠くした。











 

 ――その上空、敵陣中央まであと少し。

「ハートにはステアが付いたか。エークはカンナに付いてくれ」
「もう付いてるぜ・・・こいつらやるな」
「エーク、こっちはヤバイ。どわぁぁぁっ!!」
「カンナか? どうした・・・ちいっ!!」

 上空の2機は地上の砲台群からの容赦ない対空砲撃に晒されている状態にあったが、思った程PFの食い付きが良くない。
 囮としては失格である。
 このまま長期戦になれば戦況は絶望的だ、デインも苛立ちを隠せない。

「この節操なしめ・・・レイ、やるぞ」
「フン・・・やはり無謀だったな。だがっ!!」

 フルスペックヤシャはブーストを加速にパワーダイブ。
 ナインとレーザーマシンガンで地上の砲台群を掃射、次々に薙ぎ払う。

 だが、砲台の数は多かった。
 PFの数は少なくとも、ここが大規模な軍事基地には変わりがない。

「ぐっ・・・まだまだぁ!!」

 砲弾がフルスペックヤシャの肩アーマーを撃ち抜いた。
 凄まじい振動に一瞬ヒヤリとしたが、腕はまだ動く。
 大した問題ではない。

 今度はハイパーキャノンを連射。
 虎の子だが、残していても仕方がない。

 中枢部分まで目と鼻の先。
 砲台もあらかた沈黙。
 さすがにPFもこちらに食い付かざるを得ない。
 かなり必死だ。
 それは、こちらに一直線に向かってくる、その直線的な動きから手に取るように見て取れた。
 そこに付け入る隙がある。

 他の四人はこれで少しは楽になっただろう。
 後は、楽にしてやった分の重みをどう支えるかだ。


「ヴァリム野郎がっ、舐めた真似してくれるじゃねぇか!!」
「ヴァリムを殺せ、祖国の恨みだ!!」
「もうすぐ援軍が来る。各機突撃っ、この基地をヴァリムに渡すな!!」

 敵パイロットの苦々しい声が聞こえてくる。
 こちらを威嚇するように、わざと全軍周波で通信状態にしているようだ。

「マジかよ・・・」
「陽動としては、ここまで上手く行き過ぎると逆に問題だな。早めに済まさないと、こっちまでヤバイ」

 心なしか、敵PFの数が増えているような感じがした。
 周囲を見回すと、今度はそれが確信に変わった。
 じりじりと詰め寄る敵PFの中に、先程まで確認されなかったJフェニックスやJアームドといった上位機体が見受けられたのだ。

「はめられたな、デイン。おそらく敵は少数で誘き出してから中心部で温存していた戦力を投入、包囲殲滅する作戦だったんだろう。どうりで少ねぇと思ったよ」

 ただ吐き捨てるだけで打開策を出せていない、エークも少し冷静さを欠いているようだ。

「デイン、どうするよ」

 レイは聞くが、その表情は既に答えを出していた。
 後は確認だけだ。

「これより敵本隊を最大火力で叩く。四人は敵を後ろから叩け、出来得るだけ目に見える被害を与えるぞ!!」
「今選べる選択肢の中では一番マトモだ。・・・そう来なくちゃな」

 最大火力とは全弾撃ち尽くすという事だ、レイはニヤリとしながら親指を立てる。

「アタイらの前で死ぬんじゃないよ!!」
「死んでも死体は回収できませんからねっ!!」
「おめぇら縁起でもねぇ事を・・・死ぬなよ」
「生きて下さいよ!!」

 最後のカンナの一言だけが妙に心に響いた、何かあったのだろうか。


「ここからが陽動強襲部隊Feint Operatorsの本領発揮だな。行くぞデイン!!」


 レイは機体をフルブースト。
 手近な一機にレーザーマシンガンを浴びせながら、アサシンファングを加速に飛び掛る。
 選んだ相手はJアームド。
 機体性能ではこちらが遥かに勝るが、油断すればコアバスターが火を噴き、己が命を焼き尽くす危険な相手だ。
 余裕があるうちに、一気に潰しておきたい。

 デインもそれに続く。
 メインフレームにレーザーアサルトライフルを斉射。
 コアバスターさえ潰せばJアームドは牙を抜かれたも同然である。

 一方、相手のJアームドもただではやられない。
 甘く見るなと言わんばかりにコアバスターを斉射。
 だが、パターン通りの攻撃など回避は容易い。

 それに対して、こいつはおつりだと言わんばかりに2機合わせて数十発の弾丸を、僅か5秒程の間に叩き込む。
 コアバスターからは黒煙が上がった。
 まずは一機。
 だが、レイは慎重な男だ。
 機関停止したJアームドのメインフレームに更にアサシンファングを数発見舞う。




 

 Jアームドの撃破によって弾幕が薄くなったと見るや、一気に敵陣中央へと駆ける。
 ここに至ってようやくエーク達と敵を挟撃するような格好になった。

「良い位置にいるじゃないか、援護するよっ!!」
「敵PFのミサイル攻撃は任せて下さい」

 ここまで来れば必勝パターン。
 勝利の方程式の完成だ。

 デインにも余裕が生まれてきた。
 レイのフルスペックヤシャと背中を合わせる。

「とにかく暴れろ、裏で輸送任務があるって事がどこかに隠れちまうくらいによ!!」
「ただ誘き寄せるだけじゃない、誘いに乗らざるを得ない状況を作り出す事が本当の陽動作戦なんだよ!!」

 全武装を一斉射。
 全身から銃弾を吐き出し、ミサイルが火を噴く。
 彼等にとって陽動と強襲の区別はなかった。

「ステア、ミサイルが来ている!!」
「アームズブレイクには気をつけろ、強襲任務で武器を奪われればおしまいだ!!」

 さすがに被弾ゲージが上がっていく。
 まだ僅かながらの余裕があるが、いつまでも耐えられる訳ではない。

「前方、敵戦力低下!! くうっ、シールド半減、ダメージ危険域突破」
「直撃!! くっ・・・左腕破損、機能不全・・・しゃらくさいねぇ」

 ステアとハートの機体はそろそろ限界だ。
 長居は無用、デインは撤退のタイミングを計る。
 まだ無理だ。ここで撤退しても背後を突かれるだけだ。

 ハートはステアのシールドに護られながら最後のハンマーバスターを発射、死力を尽くした一撃は敵陣を深く抉る。

 続いてバトルハンマーを、バスターの一撃を辛うじて耐えたJフェニックスに投げつける。
 如何に熱防御に特化している機体でもハンマーバスターの一撃は致命的だ、満身創痍の機体は避ける事も出来ず、命中し、不死鳥は不恰好に中に舞った。

 ハンマーを抱いて無様に飛ぶ機体を一瞥し、ハンマーバスターのリアクターを自爆させる。
 ただ強制排除するよりも、こちらの方が経済的だ。

「脱出ポット射出確認・・・・・・遠距離戦に移行する」

 ハートも少しホッとする。状況は予断を許さないが。








 

「突破口は開いた。一気に畳んで、さっさと逃げるぞ」
「こちらレイ、地上管制施設発見。援護しろデイン、これより破壊する」
「よしっ、このまま押し切れ!!」
「こちらハート、残弾ゼロだ。そろそろ引き際じゃないのかい?」
「エークだ。こっちも弾切れだ」

 このままいけば拠点制圧も夢ではないが、弾切れではそれを維持する事が出来ない。
 それに、先程の敵パイロットの通信にあった援軍が気になる。
 敵の援軍が来るのなら陽動は大成功だが、撤退のタイミングを逸してしまえば生き残る事すら叶わなくなる。

「そうだな・・・各機撤退。増援が来る前に、一気にずらがるぞ!!」
「了解っと」

 ステアは撤退の信号弾を上げる。
 テルミッド反応を利用した、超高照度の目くらましだ。
 砂嵐で索敵機能を上げているカメラにはかなり厳しいものだろう。
 こちらも光に背を向けていなければ酷い目に遭っているところだ。

「敵は怯んだ、撤収ぅぅぅぅぅぅっ!!」
「ひゃっほう!!」
「俺達はヴァリム軍 第64特務戦隊だ、忘れんなよ!!」

 自分達の存在を戦争の明るみに出す訳にはいかない。
 去り際に嘘だけついて逃げる。
 俺達が一番嫌いな奴の部隊名だ。

 撤退の決断から実行まで僅か数秒、逃げるのは大得意だ。
 再び激しさを増した砂嵐の中に身を隠し、合流ポイントへと向かう。



 

 神出鬼没。こうでなくては陽動強襲など務まらないのである。








第5話へ続く

 



 今週のネタバレ(笑)


 陽動強襲の極意「ただ誘き寄せるだけではなく、その誘いに乗らざるを得ない状況を作り出す事」
 ・・・爆発でしたね(爆)

 やっぱり鍵を握っていたのはハンマーバスター。
 JUでも殆どのステージで持ち歩いたお気に入りの武器ですからね。
 因みにハートはバトルハンマーをノーマルハンマーにも、ブーメランハンマーにも使いこなしています。
 いやぁ〜強い強い。

 因みに、カンナのイベントは本当なら第二章でやろうと思ってたんですが、短編に纏めたかったので繰り上げました。
 おかげで第二章クロウディア篇では感動の嵐が(ニヤリ)
 それでも少し急ぎ過ぎましたかね(汗)

 そして次回、遂に奴等が出てきます。
 デイン達が最も嫌う第64特務戦隊。
 本当に嫌な奴が一人いるんで、どういう奴か楽しみにして下さい。
 どうでもいい話ですが、その「嫌な奴」だけはレンタル可能です。好きな所に出してやって下さい(笑)


 でわでわ、次回もお楽しみに。

 


 管理人より

 レビさんより第4話をご投稿頂きました!

 結構危ない橋でしたが、どうにか上手くいきましたねw

 しかし嫌な奴ですか……一体どんな奴やら<想像はつきますが(爆)
 


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