〜3〜
「そろそろ目標まで20km.の地点です」
――と、ステア。
言い終わると深呼吸が聞こえた。
他のメンバーの緊張感も最高潮に達している。
ここまでくれば口数は少ない。
もちろん、自分の位置が本当に「目標まで20km.」かどうかなど調べる術はない。
砂漠戦仕様の高出力レーダーを搭載していても、頼りになるのは機体の中にある地図と速度計によって算出された「おそらく」の値のみ。
あとは機体に敵のレーダー波が当たっているかどうかだが、これを当てにするのは危険過ぎる。
20km.に少し余裕を持たせて停止。
機体各所の最終点検、これから敵陣のド真ん中に飛び込むのだ、WCSに安全装置でもかかっていたならシャレにはならない。
ここでは慎重過ぎるという事はないのだ。
砂嵐はまだ晴れない。
だが、これは計算通り。
晴れてもらっては敵基地の大出力レーダーで瞬時に発見されてしまう。
基地のレーダーはPFのレーダーとは比べ物にならない程の索敵範囲を持つ。
しかし、この砂の壁は質量があるからこそレーダー波を遮断・攪乱するブランクポイントを作り出す。
基地から一定程度離れてしまえば、幾ら精度を上げてもノイズだけしか入らない。
物理的な壁、任務の障壁――これらは願い下げだが、敵に対しては第三の「隠れ蓑としての壁」としての効果があるからこそ、こういった奇襲作戦は功を奏す。
そして、その限界点がだいたい20km.。
そこから内側は、ノイズの中にノイズが混じる。
そのノイズが浮き彫りになるエリアである。
だから砂嵐の中には敵部隊はいない。
ノイズがあれば、それは敵のものになるからだ。
だからこそ一気に抜ける必要がある。
もちろん、そこを抜ければ敵陣のド真ん中。
それも実戦待機状態の――嵐で大戦争になっていないだけに、充実した戦力が「よく来た、歓迎するよ」とばかりにお節介を焼こうと待っている。
功を奏しやすい奇襲作戦が一般的ではない理由である。
――ここまでヤバイ任務はそうはなかった。
そんなものを敢えてするのだ、馬鹿馬鹿し過ぎて反抗する気力もなくなるくらいだ。
例え目標が中規模の基地であっても、そんな格付けに何の意味もない事は誰でも解る。
上層部はよほど俺達に死んで欲しいと見える――だが、グダグダ言っても仕方がない。
デインは何度目かの覚悟を決めた。
「各員突撃準備・・・。エーク、カウントダウン開始」
「10秒前から・・・9・・・8・・・7・・・」
デインの合図で突撃までのカウントダウンが始まる。
WCSを最終確認――安全装置は解除済み、ここからが本番だ。
目を閉じて誰もが人生のカウントダウンにならないように祈り、そして腹を括る。
こればかりは幾らやっても慣れるものではない。
慣れろと言うならMM計画に言え、こっちにはお門違いだ。
「・・・6・・・5・・・4・・・」
カウントダウンは進み、否が応に鼓動は高まる。
「・・・3・・・2・・・1・・・」
目をキリリと見開く。気合が乗った。
スロットルレバーを握る手に力を込める。
「突撃ぃぃぃぃっ!!」
デインの掛声と共にスロットルレバーを一気に押し上げる。
フルブースト、機体の推進力は最大まで押し上げられ、砂の壁をブチ破りながら一列に、さながら超特急のように爆進する。
目標まで――という指標も過去のものだ。
砂嵐の中ではどこを向いても同じなのだが、余所見をしていても仕方がない。
目視も出来ない状態では「そろそろだろう」という感覚がものを言う。
「作戦はBプラン、1−3−2で行く。エーク、ハート、ステアは突入を援護。行くぞレイ、カンナも付いて来いよ!!」
「おうさ!!」
「まかせろ!!」
「後方支援は俺に任せろ。ハートは右についてくれ。」
「あいよ、任せな!!」
「露払いは任せて下さい、ステア=コルチカム、一番槍行きます!!」
ステアは機体の推力リミッターを解除。
V-MAX状態のキシンは紅い炎を背に更に増速する。
そしてVシールドを構えながら左肩のプロポシブルキラーを連続発射。
これも用心のためだ。
続いて急上昇、紅い炎が一直線に昇る。
この下を突撃部隊が通過する手筈だ。
砂の壁の向こうで爆発が見えた、かなり大きい。
プロポシブルキラーに当てられたミサイルが暴発したのだろう。
気になって距離計を見る。
――残り10km.――
まだ結構な距離がある。
砂嵐が弱くなってきているのではないか、ステアはそう感じた。
ここからは厳しくなるぞと言い聞かせる。
一方、ステアの前進と合わせて、エークのタルカス、ハートのヴェタール改はそれぞれ左右に離れた。
機体はV-MAX状態に移行、援護砲撃を一列のまま行う訳にも行かない。
「ステアの露払いは上手く行っているようだ。爆発の位置が目標地点だ、今度はこっちがでかいのブチかますぞ」
「ああ!!」
タルカスは左肩のMLRSと左腕のロングバズーカを連射、ヴェタール改も左肩のMLRSと右腕のMガントレットを一斉射、機体を走らせながら数セット発射したところで、ヴェタール改が停止した。
何かを思い出したかのように。
「どうした!!」
「突入の前に、ちょいと忘れていた事があってねぇ」
ハートはMガントレットを待機状態にし、バトルハンマーを変形させた。
ハンマーバスター――レーザービーム系の武器では最高クラスの破壊力を持つ「殲滅兵器」だ。
エネルギーチャージ開始。
ハートはニヤリとしながら照準を注視する。
発射が待ち遠しい。
「デイン、レイ、それとカンナぁ!! これより突入口を抉じ開ける、一気に行きなぁ!!」
「あぁ!?」
「発射ぁ!!」
ハートの豪快な雄叫びと共にハンマーバスターも雄叫びを上げ、その口から吐き出された閃光は、砂を蹴散らしながら敵基地を目指す。
前にいた3人には右側に薄っすらと青白い光が走ったように見えた。
距離はそれなりにある筈だから、その奔流は凄まじいものだ。
「なるほどな、俺達も行くぜ!!」
「ここからが修羅場ですね。修羅場のアシュラの槍捌き、アルサレアに魅せてやりますよ」
レイはかなり乗ってきている。
カンナも士気が旺盛だ。
「ただし、出来るだけ殺すな。俺達はヴァリムじゃない、中には同郷もいるかも知れんからな」
「ああ、解っている」
「出来るだけやってみます」
――向こうにとって敵には変わりない。
相変わらず甘い考えだなと、デインは思った。
しかし、これが傭兵部隊「Feint Operators」の存在意義。
ヴァリムの中で、ヴァリムではないという証。
自分が自分である拠り所だ。
例えヴァリムに与していようと、祖国に対する気持ちは同じ。
ただその方法が違うだけだ。
その一心さえ忘れなければ。
少し緩んだ心に再び活を入れる。
各機ブーストモードをV-MAXに移行、目標――敵陣中心部。
砂嵐が薄くなってきた。
上空に紅い炎が見える。
ステアのキシン、こちらに来る誘導弾を全て無効化してくれているようだ。
露払いは万全、このまま行く。
左右からは後方支援の2機から発射されたミサイル。
続いて何度目かのハンマーバスター。
目の前で大爆発が起こった、目標は近い。
――残り5km.――
接近警報が響く。
ビンゴ――と、心の中で叫ぶ。
基地がレーダーレンジ内に入った。
高い城壁を持つ軍事都市クラスの基地だ。
その外観に少し驚愕する。
「何が中規模だ、諜報部は何をやっていた!!」
レイは憤慨する。
この規模なら一個大隊がいても不思議ではない。
「諦めるな、基地の規模が戦力の規模を表すとは限らない」
エークは冷静だ。
ここは主戦場からは遠い位置にある。
ともすれば戦力は豊富とはいかない筈だ。
3人の上空からはステアが、左右からは後方支援のエーク、ハートが追いついてきた。
「そこの壁に穴がある、突入する!!」
カンナが少し前に出る。
ウィング変形、シールドを構えて。
ハートのハンマーバスターでブチ抜いた部分を目指す。
「全く、若いねぇ・・・アタイも行くよ!!」
ハートのヴェタール改も前進する。
装備の割に速度がある。
「デイン、こっちは城壁の上から行くぞ」
「ああ!!」
デインのオニと、レイのフルスペックヤシャは上昇。
上空から一気に敵中枢に迫る。
「俺達はバックアップだ。不測の事態に備える」
「解ったわ」
エークのタルカスと、ステアのキシンは推力をミリタリーに落とす。
――絶対少数での要塞強襲が今、始まりを告げた。
今週のネタバレ(笑)
機体のイメージが最初とぜんぜん違うじゃねぇかよ!!
・・・・・・いやぁ申し訳ない。結構悩んだ挙句、「強襲するならどんな装備がいるんだろう」という事で、少し、いやかなり手を加えさせて頂きました。
調子に乗ってここまで引き伸ばしましたが、そろそろ本題に入ってきました。超がつく程無謀な陽動強襲が始まります。コミカル路線はここで卒業。これ以降はシリアス路線です。
さぁさぁ、続きをどうぞ。
管理人より
レビさんより第3話をご投稿頂きました!
少数での要塞強襲……かなり無茶ですね〜(汗)
勝機はやはり……奇襲ですね。