Chapter5 昇天:〜戦神の片鱗。



 長い―――しかし、戦った者にしてみれば短い沈黙を破り、遂にその姿をあらわした『紅い機動兵器』

 蒼い空に光り輝くそれは得てして眩しく美しいコントラストを描いていた。
 蒼と紅は互いに混ざってはいない。
 それだけ紅い光が強く輝いているのだ。

 その中に光を放つ光源が薄く見える。
 その姿は周囲より僅かに暗く血のように紅いが、確実にパイロットの血の気を引かせている。

 比較的細身の―――それはあくまで不釣合いとしか言えない超重量級の腕部と比べての事であるが、やはりおかしなバランスをしている。
 自機の半身ほどありそうな腕部、その違和感は計り知れない。
 ただ、そこから強力な一撃が放たれるであろう事は明確であり、それは作戦前に見た戦闘データーを参照しなくとも、見ただけで解った。

 最大の特徴である腕のクロウは背部バーニアとして「待機」されていが、それが装備された場合には手が付けられなくなる可能性があった。
 今はそうではない、それが唯一の気休めである。

 ああ、ついにこの時が来てしまったか――と、実際に戦ったハルカゼとグレンリーダーは思った。
 しかし、今回はJインフィニティーがある。
 実際にどこまで通用するかは解らないが、それだけが頼りであった。


 現在の状況は進路前方に天井部を穿たれたミラムーン材質研究所と、その上空に目標の『紅い機動兵器』ただし後方をオービタルストライカーに塞がれ、双方に囲まれているような形であった。

「前門の虎に後門の狼か・・・どうする・・・」

 冷汗が頬を伝う感覚すら今は希薄で、喉が痛いくらいしか解らない。
 グレンリーダーは固唾を飲んだ。厳しい選択を迫られていた。

 まずこの状況で考えられる事は4つ、攻撃案の場合、先に「降下中のオービタルストライカーを破壊する」か「紅い機動兵器を破壊する」のどちらか。
 または第3の提案として「一度逃げる」が存在するが、これを選ぶ事は失敗すれば挟撃される事を意味するため、選択肢では無かった。

 ただし問題は、攻撃案のどちらかを選択すると、それを免れたどちらかに狙われる事になる。しかし、現状の二正面の状態は論外であった。
 尤も部隊を分けたとしても、万一『紅い機動兵器』を止められなかった場合にオービタルストライカーに回された方が後ろを向いている隙を突かれて紅い機動兵器に屠られる可能性もあった。
 どちらにしても部隊を分けた状況で、『紅い機動兵器』を止められると言う保証がまるでなかったのである。
 やってみる価値がない訳ではないが、危険な賭けは成功しそうもなかった。

 結局残ったのは第4の「降下させてから全員でふたつとも叩く」という第3案の変形したような答を出さざるを得なかった。


「各機左右に散開!まずは敵を一方向に捉える!!」

 やはり「起点」がなければ戦術は成立しない。
 そのためにも考える暇が無くなるような余裕のない配置は出来得るだけ避けなくてはならない。
 特に死角からの攻撃がある場合ならば尚更である。

 グレン小隊はキース隊が『紅い機動兵器』に対して左、グレンリーダー隊が右に散開した。

 前後を挟む敵に対して左右に展開すれば二正面の状態ではなくなる。
 また、四つ巴の状態に持ち込む事によって先に動き出した敵に対して前後からの挟撃を仕掛ける事も可能になるし、悪くとも膠着状態に持ち込めれば思考時間が創出出来る。
 それだけでも現状より遥かに状況が改善する。

「・・・あれが・・・敵か・・・何か、とてつもなくヤバそうだな・・・」

 冷汗が頬から首へと伝う。襟は既に大量の水分を含んでいた。

 キースは思わず漏らすが、この中にそれ以外の感情を持つ者などいはしなかった。

 ただ、それは交戦経験のある者には尚更で、キース達はその時の脅威、戦慄、そして恐怖を想像出来ない分まだマシであった。

 『死の恐怖』―――百戦錬磨の彼らは久しくその感覚を覚える事はなかった。しかし、今この瞬間に体は震え、間違いなくそれを感じていた。


「こわいくらいにきれいですぅ・・・」

 サリアも思わず呟く。

 恐ろしくも見とれてしまいそうな美しさ。この状況は過去にギルゲフとの最終決戦にて、彼の駆るタナトスと対峙した事にも覚えた感覚である。

 血のように紅く輝く機体に目を奪われそうになる。
 しかし、その紅は死の危険で溢れている。死は美しいもの―――もしかすると、そういった美意識とどこか通じるものがあるのかも知れない。
 ただ、それに魅了され、己を見失えば確実に生命諸共呑み込まれる事になるだろう。




 降下中のオービタルストライカー、『紅い機動兵器』、キース隊、グレンリーダー隊がほぼ菱形を作り、それぞれを視界に納めるが、オービタルストライカーが接近する事によって、その形は徐々に三角形へと崩れていった。

 しかし、最も警戒しなければならない『紅い機動兵器』はその場を動こうとはしなかった。

 オービタルストライカーが接近する、目標はJインフィニティーであった。
 当然ではあったが、敵はこちらにむざむざ囲まれるために『紅い機動兵器』と合流しようとは思っていなかった。
 流石に接近されたこの状況ではオービタルストライカーに意識を集中せざるを得なくなる。


「やべぇ!敵さん地上に降りちゃったよぉ!!」

 キースが焦ったような口調で叫ぶ。しかし、その右腕は既にメガバスターランチャーを構えていた。

 グレンリーダーはそれを確認する。

「援護しろ、キース!!」

 グレンリーダーの叫びと共にキースはブースト全開で飛翔、『紅い機動兵器』を視界に収めつつもオービタルストライカーと一定の距離を保ちながら平行にすれ違い、斜め後ろに回りこむ。
 JブレイカーとJインフィニティーがオービタルストライカーを挟み込むような状態になった。
 アタック成功。僅か一瞬での出来事であったが、その勝機は確実なものとなった。

 Jブレイカーは惰性で空を滑空、更に四分の一周する。
 そしてオービタルストライカーだけでなく『紅い機動兵器』も視野に入れた十字砲火の陣形を取り、メガバスターランチャーを構えた。

 スナイパーは狙いを付ける際にひとつの目標に思考の大部分を使用しなければならない性格を持つが、動きを止めれば的になるのは当然であった。
 そのため目標が多数であれば出来得る限り一方向に、強いては集中によって狭窄する視界にまで収まるように動く事が必須条件である。

 キースは降下しながらもメガバスターランチャーをチャージ、そして発射。

 先程の連続射撃で銃身が僅かに曲がっている事、ノイズの影響で命中率が下がる事は解っていたため比較的低出力な拡散モードでの発射であったが、そのシアン色の光の数発が敵を捉えた。

 オービタルストライカーはシールドウィングでその全てを防御する。
 シアンの光が幾つにも分かれて乱反射し、空に散った。
 この程度の出力など全く効果はないらしいが、防御を重視したその動きは徐々にではあるが確実に遅くなっていた。

「どんなノイズがあろうと、止まっていれば!!」

 コクピットの中、グレンリーダーはエネルギーバスタービームキャノンの実戦での初めての射撃に僅かながらの緊張があったが、次々に完了する発射シークェンスが最終段階に移行した瞬間にそれが確信に変わった。

「行けぇぇぇぇぇっ!!」

 勝機を見出したグレンリーダーが吼え、トリガーが引かれた。

「およっ!!」

 キースの右方向から斜め上に向かって轟音と共に何かの塊がオービタルストライカーへと吸い込まれた。

 着弾―――蒼い光球が空を照らした。キースは眩しさに目を細める。

 一瞬ではあるが同心円状に広がっていく衝撃波と、それによる空気密度の差がはっきりと確認出来た。それが破壊力の凄まじさを物語っていた。

 オービタルストライカーに吸い込まれたエネルギーの塊はエネルギーバスタービームキャノンの最大出力には程遠く、本来の性能を温存した攻撃に留まっていた。
 だが、オービタルストライカーを完全に爆散させるには至らずとも高い熱防御を誇るシールドウィングを完全にバラバラにし、更にその半身を消滅させた。


 ―――いや、その表現は適切ではない。Jインフィニティーのエネルギーバスタービームキャノンは、その名の通り粒子ビーム系の武器である。
 粒子ビーム系はレーザービーム系の武器に比べて射程で劣るものの、その攻撃の効果は熱だけではなく、粒子の塊を亜光速でぶつける事による強力な衝撃力にもある。
 つまり相手の装甲属性に関係なく致命的なダメージを与えられるのである。
 それはシールドに穴が開くのではなく、シールドそのものがバラバラに弾け飛んだ事が破壊の最大要因が衝撃攻撃であった事を証明していた。
 そのため、ここで特筆する事は強力な衝撃攻撃によって、大気圏を突破する事も、更にヘルファイヤさえ防ぎ切る事の出来るシールドを完全に破壊出来た事にある。


 これが拠点すら破壊する一撃の片鱗か――と、ハルカゼは思った。並みのPFならば脱出する暇もないだろう。


 半身を失いバランスを崩したオービタルストライカーは黒い煙を吐きながら後方に沈んでいく。
 爆散しないのが不思議な程である。
 おそらく爆発する前に動力部そのものの質量が消滅したのだろう。
 最早追撃する必要はなさそうであるのだが、止めを刺そうとした時、悪夢はついに動き出した。


 『紅い機動兵器』は「ヴュキュィィィン」という起動音と共にメインカメラが蒼く光らせ、右腕に巨大なビームブレードを展開した。

「隊長、来ます!!」

 先程から『紅い機動兵器』を警戒していたアイリが叫ぶ。
 そして、敵はその叫びと共にアイリの方へ凄まじい速度で突撃していった。


「速過ぎる?きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 目に映る『紅い機動兵器』の姿が瞬く間に視界全てを支配する。
 それでも瞬きしている暇はない。
 アイリはHDDバーニアを逆噴射、咄嗟に後退する。直撃は死だ。

 ビームブレードと斬貫刀が互いに鍔競り合う。
 鍔競り合うとは言ってもアイリの斬貫刀は敵のブレードをただ防いであるだけである。

「くっ・・・重い・・・」

 斬貫刀に亀裂が走り始めた。
 相手のパワーに対して圧倒されており、いつまでも太刀打ち出来るようなものではなかった。
 アイリはハイパーバーニアで更に後退、必死で衝撃を受け流す。

 そもそも斬貫刀は内部にブースターを内蔵しているため比較的耐久度が低い。
 更に、突撃してきた分の運動エネルギーによって完全に圧倒されていたため、最早斬貫刀が破壊されるのも時間の問題となった。


「アイリ先ぱ〜い、援護しますぅ!!」

 Jフェニックスカスタム、出力全開。激突する2機に必死で喰らいつく。

 Jスラッシャーを押し潰さんとする『紅い機動兵器』の速度はマッハ2強―――変形機構を持たないJフェニックスカスタムには少々苦しい速度である。

 サリアが焦ったような表情でディバイドビームライフルと、あるだけのフェザーオービット全てを射出、一斉発射。

 幾重にも重なった光の帯が2機を引き裂こうとする。

 流石にこの程度の攻撃が通用するとも思えなかったが、この一撃を回避しない訳にはいかないと思ったのか、或いは同士討ちを狙ったのか、『紅い機動兵器』は急上昇、アイリのJスラッシャーから離れた。

「えっ?きゃっ!!」

 サリアの放ったビームの嵐は2機の間を引き裂く事には成功したものの、その内の1発が破損しかかったJスラッシャーの斬貫刀を完全に破壊してしまった。

「ちょっとサリアぁ!!」

「ごめんなさいですぅ・・・」

「そこまでにしておけ」

 今度はハルカゼが2人の会話を引き裂くように合流する。

「とりあえず・・・まずはJインフィニティーのために3人で敵の足を止める。目標はあくまで釘付けにする事だ。無理に倒そうと思うな。通用しないと思ったらすぐに離れて立て直せ」

「了解!!」 「わかったですぅ」

 ハルカゼはキースとグレンリーダーの方を向いた。

「あとは・・・頼んだぞ・・・」

「ああっ、俺っちに任せてくれ」

「そちらもな・・・死ぬなよ・・・」

 2人は真剣な目に笑顔というアンバランスな表情で返す。


 この時点で通信障害はかなり収まってきたため、すぐにでもオペレータールームにノイズの原因を聞きたいところであったが、この状況においてそこまでの余裕はなかった。



 囮となる3機のPFは先程のサリアの一斉射撃によって距離をとった『紅い機動兵器』を見据えた。

「『CB・トライデントスクエア』で行く。アイリは左舷、サリアは右舷、攻撃は俺に合わせてくれ。2人とも・・・行くぞっ!!」

 『トライデントスクエア』とは3人以上で行うCBの事であり、比較的速度のある機体で前左右から同時に攻撃を掛ける事によって迎撃時に必ず生じる隙を誰かが確実に狙う事が出来る戦術である。
 そして、特に最初の起点から三叉矛のような形で突撃し、最後は敵を終点とする四角形を描く事からその名で呼ばれている。


 ハルカゼは目を大きく見開き、Jアサルトを前進させた。
 ブースト全開、コクピットに伏すデンソンが体に圧し掛かる。
 少し気掛かりだが、あまり意識を割いている余裕はない。
 それと同時にアイリのJスラッシャーが左に、サリアのJフェニックスカスタムが右に飛び出した。

 この3機の中で一番速度が遅いのはハルカゼのJアサルトである。
 故に、3方同時攻撃は一番遅いJアサルトに合わせる必要がある。
 そのため左右から弧を描くように移動する事で敵の攻撃を回避し易くするだけでなく、何よりも時間の調整をする必要があった。

 しかし、前方からのJアサルトの攻撃は敵にとって最も警戒され易いものである。
 尤も、Jアサルトが崩されたとしても残りの2機が僅かでも敵を釘付けに出来ればそれで目的は達成される。
 そのためだけのこの作戦ですら二段構えであった。


 Jスラッシャーは腕部を変形、肘部からスライドしてせり出したユニットがマニピュレーターーを覆い隠す。
 アイリはJスラッシャーの肩部に装備されているボールペンのキャップのようなものに右腕を差し込んだ。
 サーマルジャケットと強制収束器を内蔵したこれがなければ腕から発生する強力なエネルギーはマニピュレーターーを融解させる。

 準備完了、サリアに破壊された斬貫刀の替わりに片手専用アーマードガントレット「ギガビームブレード」を構える。
 そのエネルギーが如何程のものかは光の奔流を見れば容易に想像出来る。この一撃も直撃すれば斬り裂かれる程度のような甘いものではない。

 そして、Jアサルトと同じタイミングでオーバードドライブユニットを起動させた。機体は蒼い光に包まれる。

 通常の戦闘速度ならば最も速いJフェニックスカスタムは大きく弧を描き、ビームカタールシールドブースターのビームカタールを展開した。
 

 『紅い機動兵器』は巨大なビームブレードを両腕に構え、直進するハルカゼのJアサルトではなく、サリアのJフェニックスカスタムの方向へと飛翔した。

 CBは起点となる出足が基本である。そこさえ崩せば点は線にまで展開する事はなくなり、後の攻撃が全て破綻する。

「こっちに来たですぅ!!」

「いかん、アイリッ!!」

「ウチのサリアに・・・触らないでよ!!」

 グレンリーダーが吼えるそのワンテンポ前にアイリはHDDバーニアを発動した。

 アイリのJスラッシャーの速度は飛躍し、青白い炎が空を裂いた。

 しかし、サリアのJフェニックスカスタムはその圧倒的な速度のため大きく弧を描いていた。Jスラッシャーも同様である。
 この時2機の距離は5km以上離れており、時間はサリアが敵の攻撃をどれだけ防げるかにかかっていた。


 サリアは何とか『紅い機動兵器』のビームブレードをシールドとビームベイオネット・ブレードモードで防いでいたが、敵も機体としては一回り以上大きい上にパワー、ブレードの出力が圧倒的であったため、最早防ぎ切れるのには限界があった。

「先ぱ〜〜い、もう保ちませぇぇぇぇぇぇん!!」

 この状況で『紅い機動兵器』とJフェニックスカスタムの速度は相対によって拮抗しており、減速していた機体はエネルギーバスタービームキャノンの発射には適していたが、グレンリーダーはトリガーを引く事が出来なかった。
 このまま発射しては確実にサリアの命を奪う事になると目に見えていたからである

「サリア、早く離れろ!!」

 その叫びは届かない。
 Jフェニックスカスタムは身動きひとつとれない状態にある。
 操縦桿を握る掌からは汗が滲み、トリガーに添えた指は痙攣しているかのように震えていた。


 その時、激突する2機に2つの蒼光が接近した。JスラッシャーとJアサルトである。
 当然Jアサルトより加速性能と瞬間的な最高速度が圧倒的なJスラッシャーの方が早く攻撃態勢に入った。

「このぉぉぉぉっ、離れなさいよっ!!」

 アイリは運動エネルギーに乗ったブレードを振り下ろした。

 これを貰う訳にはいかないと判断したのであろう。
 流石の『紅い機動兵器』もサリアを開放し、両腕のブレードで挟むように防御した。


 Jスラッシャーのギガビームブレードは斬貫刀よりも明らかに威力が高い。
 しかし、そのエネルギー消費は第3世代PF以降の強力な革命的エネルギーシステムである重力融合炉―――核融合によって生じたエネルギーを強力な重力によって指向性を持たせ、従来のように熱エネルギーを電力に変換するのではなく、核融合そのものをエネルギー源として利用する、所謂「コロナシステム」の途上形態―――を以ってしてもネックになる程で、最大出力にした場合に例え『紅い機動兵器』のエネルギーフィールドの貫通が可能であったとしてもほんの数秒の展開でエネルギー切れになってしまうのである。
 そのためアイリは通常程度の出力での斬撃を行ったのであった。

 それでも斬撃の攻撃力はエネルギー出力に一定程度左右されながらも、やはり機体自体の運動エネルギーに規定されるところが大きい。
 『紅い機動兵器』は運動エネルギー保存の法則に従って弾き飛ばされた。

 すかさず相手も背部バーニアで減速する、それは動きが止まったに等しい。

「くっ・・・このっ!!」

 アイリはサリアが離れたのを確認すると追撃を開始、すぐさま敵に張り付き一撃を見舞う。
 そしてギガビームブレードの出力を上げた。
 ビームは更に巨大化し、『紅い機動兵器』の巨大なブレードをも圧倒し始めた。

「アイリ、離れろ!!」

「止めろ。ソイツは危険過ぎる!!」

 先程から全く攻撃が噛み合っていない。
 危険な傾向だとグレンリーダーとハルカゼが同時にアイリを制止する。
 しかし、アイリは聞く耳を持たない。

「隊長の手を借りるまでも・・・」

 明らかな命令違反。そして危険極まりない独断専攻であったが、これは決して間違った判断ではなかった。
 実際に考えてこの近距離で敵に背中を見せる事は死を意味する。それはスペックが不利な場合なら尚更である。
 そもそもこの場合、仮にアイリがすぐに離脱出来たとして作戦が立て直せたと言う保証がないだけでなく、目を放した隙にどんな攻撃をされるかが解らない。
 つまり、敵の性能が未知数であって且つ最低でも自分に比べて圧倒的な力を持っている事が確実に解っている場合には敢えて攻撃を正面から受けた方が安全であるという稀有な事例である。

 しかし、そこまで彼女が計算していたかどうかは疑問である。


 ギガビームブレードが『紅い機動兵器』のブレードを侵食、真紅のエネルギーフィールドも限界のようにすら見えた。

 このままならいける――アイリは確信した。

 しかし、敵は受け止める事を止め、そのまま自由落下。Jスラッシャーがブレードを振り切ったところで急上昇し、ブレードごと右腕を斬り裂いた。
 これは先程ハルカゼがした事と本質的には同じである。

「なっ!?」

 一瞬の出来事、彼女には何が起こったかが解らなかった。
 ただ解る事は、敵がJスラッシャーの右腕を斬り裂いたという結果の事実だけである。

 そして敵はもう片方のブレードを横に薙いだ。

「ぐぅぅぅっ!!」

 アイリは辛うじて左腕のストライクシールドで防御。
 しかし、推進機構や武装を内蔵する多目的シールドは通常のシールドに比べて防御面で劣るため、あまりのエネルギーにシールド面は融解、尚も貫通したパワーによってそのまま吹っ飛ばされてしまった。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ブレードの断面から黒煙が吐き出される。敵は攻撃の手段を失ったJスラッシャーに向かって止めを刺そうと構えた。


「させるか!!」

 グレンリーダーは動きを止めた敵に向かってエネルギーバスタービームキャノンを通常出力で発射。
 一射目は威嚇射撃、――避けなければ直撃する程度の精度はあったが、敵は問題なく回避。解り切った攻撃など通用しない。
 つまりこれは先のサリアの一斉射撃と同じように2機の距離を離す程度の意味しか持たないものである。

 されどもグレンリーダーは撃ち続ける。
 一射、二射、三射、次々に放つ。
 決して直撃はしないが、Jスラッシャーが体勢を立て直すまでは止める訳にはいかない。


 それと同時にキースのJブレイカーがメガバスターランチャーを放った。
 この攻撃は『紅い機動兵器』の硬直を狙ったもので、光速の一撃は最早避けようがなかった。

 直撃までの刹那、『紅い機動兵器』はその血のように紅いエネルギーフィールドを展開した。
 それはメガバスターランチャーの放つシアン色の光と混ざり、不気味な紫の光を空に向かって増幅・同心円状に放射させた。

 しかし、その瞬間にグレンリーダーは唖然とした。
 何故なら、あれ程の防御力を誇ったエネルギーフィールドがメガバスターランチャーの攻撃を防げなかったのである。

 装甲がひしゃげ、直撃部分は僅かに融解していた。
 尤も、『紅い機動兵器』に直接的なダメージを与える事には成功したものの、やはり大したダメージにはなっていない様子であった。

「何故キースの攻撃は防御出来ない?」

 グレンリーダーはひとつの疑問と撃破への糸口を垣間見る事となった。




 それと同時にグレンリーダーの支援と同時にハルカゼのJアサルトがアイリのJスラッシャーを抱えて離脱した。

「バカヤロウ!!一人でどうにかなるような甘いヤツじゃない事くらい解ってんだろうが!!」

 ハルカゼは吠えた。

「・・・すみません・・・しかし、あの状況では・・・」

 ハルカゼはアイリの言葉を片耳に留め、『紅い機動兵器』を見据えた。キースの射撃は直撃したものの、未だ健在と言ったところであった。

 今回は前回よりも部隊全体の総合力は遥かに高い。それでも苦戦を強いられている。
 前はこんなに強かったかと疑問になったが、敵の攻撃に今ひとつ徹底した部分がないようにも見えた。
 そこが付け入る隙になれば良いがと、ハルカゼは思った。

「・・・その話はお互い生き残ってからだ。まだ行けるか?」

「ブレードはもう一本残っています。シールドは・・・」

 シールド表面には巨大な裂傷があり、『紅い機動兵器』の攻撃どころかPFのサブマシンガンすら防げないだろう。推進機構も不全、それは既にデットウェイトの塊でしかなかった。

 アイリはJスラッシャーの、既にシールドとしての機能を失いつつあるストライクシールドを強制排除、最後のギガビームブレードを装着した。

 これ以上は機体が保たない、次が最後の攻撃になるかも知れない。
 アイリは否応なくも覚悟を決めざるを得ない状況にあった。

「まだ行けます!!」

「そうか・・・取り敢えずもう一度、今度は波状攻撃だ。今度は『CB・ガンパレードマーチ』で行く。おそらく同時攻撃は成功しそうにないからな。この際フィールドが貫通するかはどうでも良い、とにかく足を止める。サリアも解っているな!!」

「わかってますぅ」

「今度こそ頼んだぞ・・・散開っ!!」

「了解!!」

「わっかりましたぁ!!」

 3機のPFは再び飛翔する。最後の突撃を掛けるために、最後の突撃にするために。




 今度は弧を描かない。3機が3機とも直進した。
 『ガンパレードマーチ』とは特化機体を持つ特務小隊が、その各々異なる特徴を最も活かす戦法として考案されたものである。

 基本的に最初の攻撃はダミーだが、命中するようならそれが本命になるような自由裁量のある波状攻撃のため読まれ難いが、同時に先程のトライデントスクエアに比べて更に繊細な反応が求められるスピード重視のCBであり、攻撃が噛み合えばその効果は必殺であるとヴァリムからも恐れられている。

「いきまぁぁぁぁぁすっ!!」

 サリアのJフェニックスカスタムは急加速、爆風に跳ねるように先陣を切る。

 ビームベイオネットをブレードモードに、大きく振り被って斬り掛かる。
 いや、正確には斬り掛かろうとしただけである。
 サリアのJフェニックスカスタムは腕の振りと同時に急降下した。

「今度こそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 間髪を入れず、Jフェニックスカスタムの後ろに隠れていたJスラッシャーが最後のギガビームブレードを装着した左腕で薙ぎ払う。
 かなりの高出力での斬撃である。

 『紅い機動兵器』はそれを片腕のブレードで受け止め、もう片腕でJスラッシャーに斬り掛かろうとする。
 攻撃を防ぐシールドは既にない。しかし、Jスラッシャーは先程とは違い深追いはせずに刃を下げて急上昇、攻撃を回避する。
 すかさず敵も追撃しようとした瞬間。

「させないですぅ!!」

 サリアのJフェニックスカスタムが下から『紅い機動兵器』の背後を斬り上げる。
 加速前の敵は加速し切ったJフェニックスカスタムを振り切る事が出来ないために防御せざるを得ない。

「でかしたっ!!」

 動きの遅くなった敵の頭を押さえるために急速上昇していたハルカゼのJアサルトは、すかさず急降下し、バーニア全開で重力を味方に付けたブレードを振り下ろした。

 しかし、敵はエネルギーフィールドを展開。ハルカゼの一撃をブレードで受け止める事なく防いだ。

 そして『紅い機動兵器』は背部バーニアを両腕に装着。
 その動作は目の前で見るハルカゼ以外には一瞬のものでしか認識出来ず、ただただ超重量級の腕部が更に巨大化したようにさえ見えた。

 装着されたバーニアの先端からクロウが顔を覗かせる。
 禍々しいまでの形相だ、こちらの命を奪う事を何よりの楽しみにしているようにさえ見える。

 『紅い機動兵器』はメインカメラを紅く光らせ、その掌をJアサルトに向けた。中心部には銃口のようなものがある。
 間近で見れば、それは驚く程にアームキャノンと似ていた。

 ―――最初に交戦した時からPFではないのだろうかと思っていたものの、確信が持てなかったために「やはり似ている部分があると思っていた」程度のものが、今回間近で見てそれが間違いであった事に気付いた。
 これもPFか、或いはその系統から派生したものなのではないのだろうか。
 ハルカゼは確信したが、相手が静止しているチャンスを逃す訳には行かない。
 後は敵の攻撃より二人の射撃が早い事をただ祈るか、催促するしかなかった。

「くっ・・・今だっ、早くしろ!!」

「キース!!」

「あいよっ、隊長っ!!」

 今度は攻撃が噛み合った。
 射線軸上には敵機体が止まって見える。

 Jブレイカーはメガバスターランチャーを発射。
 Jインフィニティーも攻撃範囲の広さからJアサルトとJフェニックスカスタムを誤射する可能性のある最大出力モードではなく、通常モードで発射したが、それでも誤射しない程度での最大限の攻撃力を付与したものである。
 当然それは先程貫通したメガバスターランチャーよりも遥かに威力は高いため、これでいけると思っていた。

 しかし、その見積もりは誤りであった。
 ヴァリム共和国軍フェンリル機動師団のレビ=プラウド中佐はセレスとの戦闘の際に敵のエネルギーフィールドは「リニアフィールドとアンチビームフィールドの同時使用」であり、そのため「レーザービーム系の攻撃なら辛うじて貫通する」と見抜いていた。
 しかし、グレンリーダーは未だその事に気付いていなかった。

 瞬間的にJアサルトとJフェニックスカスタムが離れる。
 何故ここまで完璧に行くのかが不思議なくらい敵はあっさり作戦に乗ってくれた。

 そして二つの光が直撃する。太陽が間近で誕生したような光景であった。

 ―――いや、それは直撃した筈であった。しかし、そこにいるのは無傷とは言えないが、未だ健在な『紅い機動兵器』であった。


「馬鹿なっ・・・直撃の筈だぞ・・・」

「どう言うこった?俺っちの武器よりそっちの方が明らかに強いんだろ?何で敵はピンピンしてるんだ!?」

 流石に驚きは隠せない。
 先程オービタルストライカーを一撃で吹き飛ばしたエネルギーバスタービームキャノンの砲撃に、ましてやそれよりも強力な筈の一撃に耐えたのだから。

 しかし、敵は動かず、ただ浮いているような、エネルギーの多くを使ってしまったような印象を受けた。


「ちいっ!!」

 グレンリーダーはJインフィニティーの右腕と一体化している冷却待ちのエネルギーバスタービームキャノンを強制排除した。

 敵の動きが鈍くなったこの瞬間が勝機、次の砲撃まで待ってはいられない。

「隊長、何を?」

「このキャノンを壊してしまう訳にもいかんだろう」

 グレンリーダーはJインフィニティーの大型HDDバーニアと肩部シールドスラスター、そしてアタックウィング基部のバーニアを全開にした。

 その瞬間に機体の周りは青白い炎に包まれ、それが収まった頃にはJインフィニティーはハイパービームベイオネットを最大出力のブレードモードにし、『紅い機動兵器』の更に巨大になった腕部と鍔迫り合いをしていた。

「速えぇ・・・」

 下から見上げるキースは見とれてしまった。
 その速度は巨体に似合わずアイリのJスラッシャーに勝るとも劣らない程であった。


 鍔迫り合いを制し、パワーにものを言わせて大きく腕を薙ぐ。
 敵を吹き飛ばした瞬間に僅かに後退、距離をとる。

 Jインフィニティーは僅かな時間に大型フェザーオービットをバスターモードで射出。操縦はオート、脅威を目の前に深く考えている暇はない。

 フェザーオービットは敵を四方八方から取り囲み全方向から発射、シアン色の閃光が迸る。幾つかが真紅のエネルギーフィールドをものともせずに直撃し、装甲を灼く。
 それでも効果的なダメージを与えているようには見えない。

 敵は全方向からのバスターに怯む事なくこちらに向かってくる。
 物理的な攻撃の殆どを無効とするフィールドを持っているのだ、それならば弱点を補うために装甲は耐熱に特化したもので覆われているのは当然の帰結である。
 しかし、そうであっても撃ち続けるしかない。
 僅かなダメージであっても通用しているのは確かなのだから。

 グレンリーダーは迫る敵の前にバスターランチャーの監獄を作り出した。一撃一撃は頼りなくとも、収束すれば効果は期待出来る。

 敵は光の監獄を目の前に動きを止めた。怯んだ隙が出来たように見えた。

 Jインフィニティーは頭部メガバスター砲を発射、それを目くらましにしながらブースト全開で相手に取り付く。

 両腕から展開されたハイパービームベイオネットのブレードを敵に突き立てる。
 右腕から、そして左腕。
 相手の手が出せないように、反撃の隙を与えぬように次々と斬撃が繰り出される。
 その一撃一撃は常に最大出力で展開されていた。

 空中で激しくぶつかり合うJインフィニティーと『紅い機動兵器』計算上、性能の差は概ねの項目では殆どなく、ただ敵の最高速度とエネルギーフィールドの出力が圧倒的であるだけであった。



 しかし、ここにいる全員は驚愕の事実を知る事となる。



「ふはははははっ・・・アルサレアの精鋭・・・そうでなくてはな・・・」


「っ!!」

「しゃ、しゃべったですぅ!!」

 サリアが驚く。
 勿論全員が驚いていた。
 しかし、サリア以外の者は驚きのあまり一瞬声が出なかった。

 実際に戦っているグレンリーダーは更に驚いていた。
 しかし、その戦いは会話の途中でも途切れる事はなかった。

「馬鹿な。人・・・が、乗っているのか?」

「アルサレアのエース・・・面白い機体に乗っておるのぉ・・・影であるオービタルストライカーを墜とす姿は見事なものであった」

「ッ!?」

 グレンリーダーは絶句した。
 会話の内容は明らかに『紅い機動兵器』に乗っているのが最低でもアルサレア、ヴァリム、そしてミラムーンの内の何れかの者であると言う事を表している。
 しかし、前回の戦闘は明らかにイレギュラーな事態であった。
 今回はそうではなかったものの、パイロットが乗っているのであればここまでの動きは出来ない。


「お前は・・・何者だ?」

「私はカーリー=レドウィン・・・名前くらいは知っているだろう?」

 カーリー=レドウィン―――ミラムーン材質研究所で“教授”と呼ばれていた人物である。
 これは一般には知られていないのであるが、彼の過去の経歴は“E”という謎の表記がされるのみで、入植した時期が第一次移民期であると言う謎の人物である。
 だが、冷凍睡眠を繰り返しているとは言え、そもそも彼は既に高齢で、戦闘に耐えられるような体ではなかった。


 カーリー教授は驚くグレンリーダーを見て言った。

「この機体、『アレス』と言うのだよ。覚えておきたまえ、ふはははは、目的は達した、準備運動はこのくらいにしてやろう・・・今度はその力、我々のために使ってくれる事を祈るよ・・・」

「待てっ!!お前は」

「時間か・・・話はここまでだ、アルサレアのエース」

 カーリーは驚くグレンリーダーを尻目に急上昇した。
 信じられない事にその速度は大気圏離脱に十分な速度に達しており、紅い帯を纏ったその姿は一瞬にして虚空に消えて行った。




「大気圏を突破したのか?最早追う事は出来んな・・・カーリー=レドウィン・・・一体何だと言うのだ・・・」

「隊長・・・あれは一体・・・」

「・・・こりゃぁ、えらい事になったな。とにかく、ここまで来たのだから研究所に行こうじゃないか。運良く敵さんが天井ブチ抜いてくれたんだからな」

 アイリの心配をよそにハルカゼが具申する。
 この男は冷静だった、今までの驚きの連続が麻痺させたのであろうか。

「・・・各機、撃破したオービタルストライカーを完全に処理しろ。その後にミラムーン材質研究所へ向かう」

 その拳は硬く握られ、震えていた。
 ここで『紅い機動兵器』を逃した事が後々に不幸な結果をもたらすのではないのかと、胸を掴まれるような不吉な予感がよぎった。



 

 突然現れた『紅い機動兵器=アレス』――戦神の名を冠する機動兵器の正体は何なのか。

 そして、今解る事は、その後に残ったのは疲労と、新たな疑問だけであった。




 ミラムーン材質研究所へ行けば解る。
 出撃前にはそう考えていた。
 疑問の解決が出来ると思っていた。
 しかし、結果は行く事でその疑問は更にその霧を濃くしただけで、状況は混迷の一途を辿った。

 だからこそ新たな疑問を解決するための再出発をする必要があった。

 そして一同は半壊したミラムーン材質研究所へと向かうのであった。








 Chapter6へ続く


 



 後書き

 レビです、最近出没する事も少なくなってしまって・・・どうもお久しぶりです。遂にシナリオ単位での掲載を諦め、この様な分割掲載に・・・どうも申し訳ないです(泣)
 して、遂にアレスとグレン小隊の全面衝突が起こった訳ですが、無理してJインフィニティーを運用したばっかりに連携がうまくいっていないという弱点があった訳でして、結局取り逃がす羽目に・・・
 因みにアレスとJインフィニティーの一騎打ちは最初はなかったんですが、あまりに寂しいんで追加してしまいました。
 ―――あと、アタックウィングのバスターモードはレーザービーム系の攻撃なんで、粒子ビーム系のブレードモードの状態とは違ってアレスのエネルギーフィールドを貫通したって訳だったりします。


 だらだらと長い文章ですが、感想お待ちしています。

 でわでわ〜


 


 管理人より

 レビさんよりシナリオ3チャプター5をご投稿頂きました!

 流石に強いですね、アレスw

 しかし、教授は一体どうやって動かしているのやら……(謎)
 


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