Chapter6 後祭:〜醒めない夢を見た男。



 一時的とは言え『紅い機動兵器=アレス』の脅威は去った。
 しかし、それに搭乗していたのはカーリー=レドウィン教授――既に高齢で機動兵器の操縦など出来る筈もない彼がグレン小隊と互角以上に渡り合えたのかが不思議であったが、そもそも根本的な問題として、何故彼がアレスに搭乗していたのか不明であった。

 アーマイル丘陵地で交戦した際には人間が乗っているとは思えない動きをし、ケイオウ特尉の自爆の衝撃を受けた筈である。
 ましてや、その後にパイロットが発見されたという報告はなかった。

 そして、ミラムーン人であるカーリーは、ミラムーン材質研究所では開発の主導的立場にいる人物であり、その貢献はアルサレアにとっても大きいものであった。

 そのような人物が、ましてや高齢の人物が自ら機動兵器を駆って――例えアーマイル丘陵地の時は無人であっても自作自演で合同調査部隊を壊滅させるとは――考えられなくもないが、それがどうであろうともアーマイル丘陵地から始まった一連の事件を何ら説明するものにはならない。
 それはミラムーン政府の慌てようを見れば、少なくとも今回の出撃まではミラムーン側にとってもイレギュラーな事態であっただろうと考えられるからである。


 そして、去り際に言った「今度はその力・・・我々のために使ってくれる事を祈るよ・・・」という言葉の真意も、何もかもが不明であった。







 


 アレスが虚空に消えてから数十秒、ミラムーン材質研究所から1機のシャトルが飛び立った。

「シャトル・・・何だ?」

 アレスの事で驚き切った彼らは最早その程度の事では動揺しない。
 急に波が引いたかのように感情が僅かな放心を起こしていた。
 先程のオービタルストライカーの「援護」の事に関しても、アレスの解放に関してもミラムーン側にいる何者かの手引きがあるようである。

 しかし、単体での大気圏突破能力を持たないPFでは今更それを追う事も出来ない。
 出来るのは見ている事だというのは解っている。
 それが彼らの本音であった。







 

 グレン小隊各機は撃破したオービタルストライカーの処分を始めた。
 そもそもインフィニティー系のオービタルストライカーが簡単に撃破出来たのには理由がある。
 それはこの電波障害である。
 オービタルストライカーA型は基本的に無人機であり、その操作はメインベースである人工衛星J’s Moonで行われる。
 当然ではあるがステラマックス時には宇宙空間の方が電波障害を強く受ける事となる。
 よって、宇宙からの緻密な操縦ではなく固定プログラムで動いていたためであった。

 しかし、それを反対解釈すれば電波障害が収まってきた今、「撃破したと思っていたのが実は機能停止をしていただけであった」というオチは避けねばならなかった。 


 キースはグレンリーダーが撃破したオービタルストライカーを見た。
 それはエネルギーバスタービームキャノンの直撃を受け、メインフレームの大半を奪われたオービタルストライカー「だったもの」として、その威力を物語っていた。

 背筋から寒気が昇った。

「あのバケモノ・・・これを難なく耐えやがったってのか・・・」

 キースは呆然としながらも唇を噛み締めた。
 そこには痛みはなく、麻痺した痛覚の代わりにこのまま唇を噛み切ってしまいそうな不思議な感覚を覚えた。

 そしてメガバスターランチャーを構えた。
 本来なら最大の火力であるそれを温存し、ブレードで片付けるのが常識であるが、アレスという脅威が去った今――研究所内部に敵がいないとも言い切れなかったが、狭い内部でこのような大型火器を使う事もないだろうとの判断であった。

「・・・だが、ヤツはこれを防げなかった・・・何が違う・・・威力には関係ないもの・・・・・・そうか!!」

 キースはメガバスターランチャーを発射。
 オービタルストライカーの四肢を切断し、それぞれのパーツを完全に破壊すると、グレンリーダーに通信を繋いだ。

「どうしたキース、増援か!!」

 いきなりの通信に敵の増援かと勘違いしたグレンリーダーは真剣な顔で対応する。

「いっ・・・いや、・・・隊長、俺なりに考えたんだが、ヤツにエネルギーバスタービームキャノンが効かなかった訳・・・強力な電磁フィールドか何かで粒子ビームを無効にするからじゃないのかな?」

「なるほど・・・だからレーザービーム系のメガバスターランチャーが貫通したのか・・・」

「もしそうならビームブレードを含めて粒子ビーム系の武器は全く通用しない可能性があるかも知れない。今度の戦いにはギブソンのおっさんにJキャノン・ノイエで来てもらうとかしないと・・・」

「ええええっ? 私あの人苦手なんですよぉ、隊長!!」

 アイリは金切り声、それも気の抜けたような奇妙な声を発した。
 そこまでにアイリはギブソンが苦手であった。
 これは幾度か共に戦ってきた仲であっても未だ解消されて―――むしろそれは悪化の一途を辿っていた。


 暗く湿った雰囲気のグレン小隊に明るい空気が蘇り始めたようであった。
 戦闘が続けば心は荒む。
 しかし、そんな時代においてもこの換気の良さはグレン小隊の持ち味でもあった。




 そして5分後、全てのオービタルストライカーを処分したグレン小隊はミラムーン材質研究所へ向かったが、そこは既にアレスによって天井が破壊されたため、近くにヴァリムの強奪部隊が隠れていた場合はそこから内部に進入される危険性があった。
 そのためグレン小隊は通常の入口ではなく破壊された天井部分から進入する事とした。

 

 流石に問題が問題であったのであろう。
 結局ヴァリムの軍勢も現れず、一同は何の妨害も受ける事無くアレスが地下から撃ち抜いた大穴へと到達した。
 その周辺は吹き上げられた巨大な岩石が至る所に散乱していた。


「・・・これか・・・深いな。これをブチ抜いたって事だ、相手が準備運動で助かったな」

 ハルカゼが皮肉そうに言う。

「ああ、幾らか疑問があるが、虎穴に入らずんば・・・だからな」

「隊長、私が先行します」

 まずはグレン小隊の切り込み隊長であるアイリが先発を申し出る。
 だが、彼女は決して危険が好きと言う訳ではない。
 それは先程のアレスとの戦闘において敵を甘く見たという不甲斐なさに自ら責任を取ろうしての事でもあった。

「そうか・・・それでは、キースとサリアはここで待機しておいてくれ」

「ええっ?」

「ちょっと、そりゃないぜ隊長!!」

「んっ!どういう事だ?」

 ここから先は何があるかは解らない。
 ミラムーン材質研究所の配備実態は防衛上の最高機密で、如何にアルサレア軍元帥のグレンリーダーであっても簡単には解らないのが現状であった。

 まだ内部に敵がいる可能性がゼロではない。
 しかし、狭い研究所内部では射撃武器を持つ方が有利となるのではあるが、アレスによる天井部の破壊によって落盤の可能性があるため、強力な火力を持つ機体よりも格闘戦重視の機体の方が侵入に適しているとの判断である。


 それに不満そうな男が頭を掻く。
 バツの悪そうな顔をしているのはキースである。

「いや、その・・・なぁ・・・」

 キースはサリアの方を向く。
 しかし、彼女はキースと同じ考えではなかったようで、「ぷいっ」と横を向いてしまった。

「私、キース先輩と一緒にいたくないですぅ、なんかニタニタして・・・セクハラですぅ!!」

「はぁ?俺っちがいつ何したって言うんだよ!!大体、俺は材質研究所の中身が気になるから行きたいっていう意味で言ったんだよ!!」

「ほら、顔が赤くなったですぅ、やっぱりセクハラですぅ!!」

「ちょっとキースぅ!! あなたサリアに何か変な事でもしたのぉ?」

 アイリが詰め寄る。

「してねぇよ!!」


 またいつもの調子である。
 そしてこれは何故かグレン小隊の名物となっていた。

「大変だな・・・」

 ハルカゼが溜息を吐きながら疲れたような表情でグレンリーダーに言った。
 そして、グレンリーダーは顎を掻きながら苦笑した。

「ははは・・・これも慣れれば結構癒されるぞ。戦争が遊びになるのは困るが、戦争の間には遊びの要素があっても良いんじゃないか? 結局、それがなくて心まで荒んだヤツが戦争を遊びにするんだからな・・・」

「・・・かもな・・・・・・うっ・・・」

「どうした!!」

 グレンリーダーはハルカゼに何かが起こったと思っていたが、よく聞くと、その声の主はハルカゼではなかった。

「デンソンが起きたようだ」

「そうか・・・」

 グレンリーダーは溜息と共に胸を撫で下ろした。

「おいっ起きるなら起きろ、この機体は1人乗りなんだ」

 ハルカゼはデンソンを揺すった。

「くっ・・・やっぱり地獄でしたか・・・結構善行は行ってきた筈なんですが・・・」

「はぁ?何言ってやがる、てめぇは生きてるんだよ!!」

「生きてる? つっ!!」

 今まで気を失っていたデンソンの体に痛覚が蘇った。

「無理はしない方が良い。アバラが何本か折れている」

「・・・自分のPFは・・・どうなりましたか・・・」

「大破した。その後に機密保持のために俺が破壊した・・・すまんな」

「そうですか・・・新型をいきなり潰してしまいましたか・・・パイロット失格ですよね・・・」

 デンソンは俯いた。
 これで2連続で機体を失った事になる。
 ましてや今度は新型の機体である。自分は情けない奴なのだと卑下にするような感情が表情に滲み出ていた。

 そこにキースが妙に明るい声を掛けてきた。

「なぁーに言ってんだよデンソン、新型を実戦でいきなりオシャカにするってのがエースパイロットってモンだぜ!! なぁ隊長、隊長だって黒夜叉と初めて戦った時も当時最新型のJファーカスタムを速攻でブッ壊しちまったしな!!」

「そうなんですか?」

 デンソンがグレンリーダーの顔を見ると、そこにはいつもの真剣な顔ではなく苦笑した顔があった。

「そういうこった。・・・あっ、今お前が乗ってるJアサルト、これから中に入るらしいからこっちに移れ。その辺の事をじっくり教えてやる(は〜っ、これでサリアと二人っきりにならなくて済むぞぉっ)」

 心の中でガッツポーズ。
 少なくとも二人きりになるよりか気まずさはないだろう。
 キースはデンソンを無理矢理Jブレイカーのコクピットに乗せた。




 

 デンソンを乗せたキースのJブレイカーとサリアのJフェニックスカスタムを後衛に配備し、残りの3人が縦穴へと突入しようとした。

「では、行くか」

「あっ、そうそう」

「何だキース?」

「メインカメラの映像、こっちにもまわして欲しいなってな・・・宝捜しの楽しみをこっちにも分けてくれよ」

「そうだな・・・危険があった場合にすぐ解るしな・・・しかし、中の状況が上まで通じるとは限らんぞ」

「そん時はそん時、とりあえず頼むぜ!!」

「解った」

 まずはJスラッシャーが先に降下する。
 研究所内部は比較的狭いとはいえPFが通れるだけのスペースはあった。
 しかし、アレスが穿った穴は研究所の最下層まで続いていたが、何故か施設自体の電源は落ちてはいなかった。

「信じられない・・・ここまでの威力が・・・」

 アイリはその異様な光景に思わず呟く。
 しかし、グレンリーダーは冷静に違和感を感じ取った。

「いや、全部吹き飛ばすには上にあった岩石が少な過ぎる。おそらくここは吹抜けだったのだろう」

「まぁ、それでも外にある岩石分をブチ抜いたって事は大したもんだな。それより、俺達がオービタルストライカーの処分をしてた時、確か何もしてなかったよな? オペレータールームとは繋がったのか?」

「ああ、しかし、恒星極大期の電磁波の総量が通常の数倍から数十倍だったらしいが、詳しい事は調査中との事だ。今はこちらに集中しよう」

 グレンリーダーは暗い地の底を見据えた。

「ああっ、チクショウ、もう映像が届かねぇ!!」

「キース隊長っ、せっかく真剣な話をしている最中だったのですから邪魔しないであげて下さいよ!!」

 張り詰めた空気を切り裂くように、突然キースの悔しさに満ち溢れた声とそれを止めようとするデンソンの声が飛び込んできた。

 またいつものパターンである。
 アイリの反応は実に早かった。

「ざ〜んね〜んね〜ぇキースぅ、こっちは楽しんでくるね」

「Oh〜No!! Son of a Bitch!!」

 次第に消えゆく地上との通信の最果てに、アイリに向かってキースから吐かれる汚い言葉が印象的であった。

 

 その深い、あまりに深い縦穴は真実を覆い隠す闇のようで、入ると2度と出られないブラックホールのような印象を受けた。
  

 厳重そうな隔壁は今はなく、無残に破壊されている。最下層まで一直線だ。


 そして、3人は研究所最下層。
 アレスが解析されていたとされる区画に到達した。
 破壊された隔壁から白い光が漏れる。
 ここも電源は落ちてはいない。
 むしろ違和感がする程に明るかった。

 そこは高さ30m、奥行き300mと比較的狭く、その床の一部分には『紅いもの』が撒き散らされていた。

 これはアレスの装甲板でも塗料でもない。間違いなく『人間の血』であった。
 

「きゃっ、これは・・・血?」

「うっ・・・だろうな・・・しかし、解剖は解剖でもここでは機動兵器の解剖をしていた筈だ。それなのにどうして人間の血があるんだ?それも、何人分もの・・・だ」

 地下研究室はドック状の空間に様々な機器が乱立しているという、御世辞にも整頓されたとは言い切れない状態であったが、少なくとも事故によって人間の血が出てくるような場所ではなく、考えられるのはアレス関連の事だけである。


「さっきのシャトルが怪しいな。今までの状況から推測すると・・・まぁ、最初の調査依頼は本物だと仮定してだが、全ては『紅い機動兵器』の何らかの行動・・・この場合はシャトルの脱出かも知れんが、とにかく時間稼ぎだろう。上は既に脱出したヤツらの仲間に占拠されていると考えるのは自然だな。それに、オービタルストライカーの展開に関しても一気に殲滅出来るか、されるかは別として、降下のタイミングをずらす事によって少々の時間を殺す事が出来る。そう考えると、もしかしたらこの血の主は脱出したヤツらの口封じに殺されたか、或いはアレス占有に反対したから処分された研究員という構図も考えられるな」

 ハルカゼは考察するが、普通に考えればマンガか小説のような展開である。
 しかし、それを非とする理論が出てこないのも現状である。

「地上のサリアがこれを見てないで良かったな」

「・・・・・・・・・私も既に滅入ってますよ・・・」

 アイリは明るくふくれて見せるが、所詮は虚勢である。
 そもそも男でも血の池を見て気分の悪くなるのが当然で、それで気分が良くなるとすればそれは変質者か、彼らを殺した修羅だけである。

「・・・とにかく、ここにいても仕方がない。何かヤツの正体・・・カーリー教授のデーターでも残っていれば・・・」

 グレンリーダーは周囲を見渡した。
 すると、区画の端の方にひとつ人間用の通路があった。
 その気密ドアの電源が入っている事から中に入れると考えられる。

(・・・そこから中に入れるらしいな・・・PFでは入れないだろう)

「・・・ハルカゼ少佐、来てくれ。アイリはいざという時のためにそこで待機していてくれ。あと、このあたりに端末があったらカーリー教授関係の事を調べて送ってくれ」

「了解です、隊長」

「了解だ」

 グレンリーダーとハルカゼはシートの裏にあるボックスから白兵戦用の戦闘服とマシンガンを取り出し、予備のマガジンを戦闘服に仕込む。
 ホルダーにはハンドガン、専用のを二丁ずつ。

 一見装備が貧弱なようにも見えるが、特殊な樹脂製の装甲板を内蔵する戦闘服は高い靭度を誇り、軽量ながらも対人機関銃程度なら同じ部分を十数発撃ち込まれない限りは貫通すらしない。ヘルメットに関しては更に強固である。

 手持ちの武装全てを携行してPFから降り、気密ドアを開けて内部に進入した。



 

 大部屋の明るさとは対照的に通路の中は薄暗く、これが何処に通じているのかが解らない。
 むしろ先があるのかを疑ってしまう程である。
 そしてそのコンクリートで作られた無機質な空間に2人の足音だけが響き渡り、先程の勢いを急速に奪っていった。

「・・・アイリ・・・・・・何か解ったか?」

 PFのOSを端末と繋いで施設を解析しているアイリに通信する。
 どうやら地上には電波が届かなくとも施設内は別のようであった。

「・・・その通路、ひとつ向こうの区画が巨大なコンピューターベースとなっているようですが、データーが残っているかも知れませんね」

「そうか、対侵入兵器の反応は?」

「・・・ありませんが、油断しないで下さい」

「油断しろって言われても油断しないさ・・・」

 グレンリーダーは通信機をしまうと、むこうの区画とを隔てていると思われる隔壁の前に立った。

「まずは軽く開けろ。見た感じで無理そうなら合図する。その時はすぐに閉めてくれ」

 ドアの開閉速度がどの程度のものかは解らないが、警報のサイレンが鳴っていない事から対人迎撃システムが起動しているとは考えられないため『いきなり一斉射撃』というのは、あまり現実味のある話ではなかった。

「・・・いくぞ・・・」

 ハルカゼがドアの開閉ボタンに手を当てた。

「あぁせえぇぇいのぉぉぉぉぉぉっ!!」

 2人は同時に掛け声を上げ、その叫びと同時に扉が開く。
 グレンリーダーは一瞬の間に内部の状況を網膜に焼き付け、体を瞬間的に反転させて開き続ける隔壁へと身を隠した。

「中はそう広くない、天井に武器もなかった。行けるぞ」

 グレンリーダーは最終確認のために銃のホルダーを部屋に向けて放り投げた。
 通常の対人用兵器ならば、何らかの攻撃方法によってホルダーが地面に落ちきるまでにアクションがある筈である。
 しかし、そうはならなかった。

「・・・俺が先に行く」

 ハルカゼは少し下がり、加速しながら一気に部屋の中へと転がり込んだ。そして立ち上がると、近くにあった机の中へと滑り込んだ。

「・・・・・・大丈夫なようだな・・・向こうのドアは電源が入っていないから開きそうもない。今はここで終点だな」

 ハルカゼは机の下から這い出て、グレンリーダーが入るのを確認すると端末に手をかけた。

「ここはこれだけのようだな・・・ドアを開けるか・・・」

 ハルカゼが先程閉鎖されていたドアを開けると、そこには意外な光景が広がっていた。

「これは・・・・・・一体・・・?」

 2人は絶句した。

 そこには巨大な独立型スーパーコンピューターと、何よりもそこに不自然に存在するベッドと、そこに横たわる頭部に数々の電極に繋がれた、そしてアレスに搭乗していた筈のカーリーの肉体があった。
 そして、彼をよく見ると頭部に頭蓋穿孔手術の痕が見られ、そこから伸びた電極はスーパーコンピューターと直結されていた。

「一体・・・ヤツらは何をやったんだ・・・ここで・・・」

「さっきの紅い機動兵器・・・アレスだったか・・・確かにカーリー教授の声がした。・・・ブレインデバイスシステムか? ・・・いや、あれはせいぜいOSにする程度で限界の筈だ・・・それに、電極があるという事は脳が残っているという証拠だ」

 ブレインデバイスシステムとは、最も柔軟なコンピューターである脳とOSとを直接繋いだもので、パイロットの操縦補助を行う究極のOSデバイスであるが、その運用に際しては常にバランスの崩壊による暴走の危険性を孕むため、OSとなる脳に人格が残っていない事が絶対の条件となっているものである。
 しかし、現にカーリーの脳はここにあり、それでもアレスは間違いなくカーリーの人格を持っていた。


 その時、グレンリーダーはベッドの横に数枚の紙が置いてあるのを見つけた。

 『Project Cyber GenerationU』そう書かれた紙はおそらく脱出した研究員が忘れて行ったのであろう。
 カーリーの肉体が残っているのがその証拠である。
 しかし、置いていった研究員は本当に焦っていたらしく、内容は表紙と端書だけで、詳しい内容は殆ど書いてはいなかった。
 もしかしたら敢えて情報をリークする事によってこちらを混乱させる目的があるのではないかと疑いたくもなる。
 しかし、そこに書いてあった『ヒトと機械の完全な融合』『人格維持の半永久』というフレーズがグレンリーダーを凍らせた。

 ここだけを見ればアレスはミラムーンによって建造された事となる。
 それもアルサレアですら全容を掴んではいないヴァリム共和国最高機密レベルの技術であるブレインデバイスシステムのようなものを搭載した機動兵器――また、それを隠蔽するために自作自演の部隊を派遣し、それを自作自演で壊滅させた事になる。確かにその戦闘で戦死した者はいなかったが。

 そして、それをカーリーが強奪した、或いはそれすらも自作自演という事になる。

 その理論で同時期にファーレンで起こった同規模の閃光現象の説明をつける事はミラムーンとヴァリムの同盟を意味する事になる。
 そうであれば状況は最悪である。
 現在アルサレア・ヴァリム間は大規模な戦争状態に突入している訳ではないが、ミラムーンがヴァリムに付けば状況は一変する事など、誰が見ても明らかである。
 それも身の安全をエサに売り込んだと考えれば、全ての筋が通るようにさえ見える。


 しかし、それにしては不十分な部分も存在する。
 仮にヴァリムとの同盟が水面下で存在すると仮定すれば、今回の作戦はグレン小隊の暗殺という事になる。
 しかし、そうすれば今度はカーリーの存在を証明する事が出来なくなる。

 こうなれば最後の言葉の真意が、全ての鍵となりそうである。

 

「これは・・・・・・なぁ」

 最早ハルカゼにもこの状況全てを一括して繋ぐ事の出来る線を見つけられないでいた。

「最早私にもどうなっているのかが解らん。だが、後で後悔しないように今出来る事をしておこう」

 グレンリーダーは記録用のディスクを端末に繋ぐ。
 これだけで旧世代のデータベース並みの容量がある。
 そして目ぼしそうなデーターを全て選択した。

 書き込みには時間が掛かると思われたが、事は一瞬で済んだ。
 流石はスーパーコンピューターと言うべきだろう。

「・・・・・・我々がここにこれ以上いても意味はないだろう。・・・・・・アイリ、聞こえるか」

「隊長、どうしたんですか?」

「今すぐこちらに向かって増援を呼んでくれ。特にキール大尉やエルル中尉といったような電子戦闘部隊をだ。当然アルサレアのな・・・。あとは、主要研究所を防衛している基地は全て戦闘配置、対空防御網のレベルを最大に設定させておいてくれ。それと、アルサレア要塞にインフィニティーのTHELキャノンをスタンバイ、我々は増援が到着次第アルサレア要塞に帰還する」

「了解しました」

 そう言い残してアイリのJスラッシャーは再び地上へと闇を斬り裂いていった。

 

 スーパーコンピューターを使えば記録など一瞬の事であるが、スーパーコンピューターであるが故に全ての情報を引き出すのは困難であった。

「・・・記録は完了したが、実際このデーターが使えるのは解らん。とにかく増援にこの研究所を任せて我々は戻ろう」

「了解だが・・・大丈夫か?増援が途中でオービタルストライカーに止められる可能性があるかも知れん」

 グレンリーダーは腕を組み俯く。

「J’s Moonから輸送機を狙撃するような兵器はない。我々も知らない武器を隠している可能性がない訳でもないが・・・。それに、カーリー教授は我々を全滅させなかった。最後に言ったセリフ・・・おそらく我々を味方にしたいのだろう。脱出するという事は研究所自体に価値はないと言う事だ。我々よりも研究所に価値があるのならば、その場で我々を殺せば良いのだからな」

 それは楽観的な観測であった。
 グレンリーダーも半信半疑であったが、一方でそれは実に合理的な観測でもあった。

 ハルカゼもそれに納得した。


「なるほどな・・・地上に出よう」

 2人はアイリに続いて地上を目指した。







 

 2人が地上に出た。そこには首を長くしていたキースがバツの悪そうな顔で出迎えていた。

「ったく・・・いきなり電波通じねぇんだからよぉ・・・で、お宝は見つかったのかよ?」

「いや、見つかったのは謎だけだ。とにかく増援が数時間で来る筈だろう。それが着き次第我々はアルサレア要塞に帰還する」







 

 数時間後。空には輸送機が連なっていた。
 心配されていた宇宙からの迎撃も杞憂に終わったようである。

 国境線に於けるヴァリムとの均衡を保つために比較的近い基地からの増援ではなく、到着したのはアルサレア要塞周辺に配備されていたPFがかき集められたような混成守備隊。

 例え破壊されていようとも、そこはミラムーン材質研究所。
 ヴァリムにとっては喉から手が出るような宝の山である。
 ましてやシステム自体が生きているとあっては尚更の事、多くの主部隊を必要とするのである。

 しかし、最も欲していた電子戦闘部隊はキールに率いられていたものであった。
 彼のように優秀な男が指揮官ならば、例え一個大隊が来たとしても安心だ。

「前回のアーマイルの戦闘以来だな、大尉」

「今度はそちらが指揮官の番だな」

 ハルカゼも茶化す。

「これは、ご苦労様であります」

 キールは教科書のような敬礼をする。
 優秀な兵士ほど、敬礼も完璧だ。

「これからは我々が調査致します。お疲れ様でした。あと、現在アルサレア要塞は我々が出払ったために外堀が埋められたような状態です。内堀はまだ埋まってはいませんが、すぐに戻っていただけますか」

 グレンリーダーは同じ、それも「理不尽なまでの死線」を越えた仲間であるキールへこそばゆそうな苦笑を返すと、機体を輸送機へ積み込み、アルサレア要塞へと帰還した。








 

 音信不通となったミラムーン材質研究所。
 誰もがその理由をヴァリムの強襲と考えていた。
 しかし、現れたのはミラムーン所属の軌道戦略強襲用SPFオービタルストライカーと『紅い機動兵器=アレス』、それを駆るカーリー=レドウィン教授。

 それはミラムーンの裏切りなのか、それとも別の何かが蠢いているのか。

 そして『Project Cyber GenerationU』とは――人と機械の完全な融合とは一体何を指すのか。
 新たな点と点が現れ、謎が謎を呼び、行く河の流れのように変わり続ける事態に彼らはただ流されるだけしか出来ないのか。



 彼らの前に闇が大きく覆い被さり、全員が言い知れぬ不安を感じていた。








 Chapter7へ続く


 



 ついにシナリオ3も第6話にして盛り上がりを見せてまいりました。ここを契機にストーリーの方もおかしな方向へ一気に加速していきます。

 それにしても、カーリーはどうなったんだ!!第二次サイバージェネレーション計画って一体何なんだ!!ミラムーンはまた裏切るのか!!

 謎が謎を呼ぶ展開は一体どのよな運命に収束していくのだろうか。ああ、俺っちには予測不能!!(笑)

 そして――FC時代に読んだ方は知っておいでですが、次回はシナリオ3の最終話にしてアルサレア側の第T部(アルサレアがシナリオ1・3、ヴァリムがシナリオ2・4)の総決算となる一話で、20ページという変態的な長さになっております。どうでもいい話ですが、FC史上初の「一度の書き込みで全部入りきらなかった書き込み」となった懐かしくも記念すべき(?)話です。

 今度アルサレア要塞に現れたのは、何と「黒い機動兵器(核爆)」――実際の話、総決算とか言いつつ話はどんどんややこしくなって行くだけなんですがね(汗) 特にこれ以降はいよいよと言わんばかりに規模のインフレーションを起こし始めますよ。最後までに纏まりゃいいけど・・・

 最後に、今書いてる「Feint Operators」って短編やけど、本格始動はシナリオ3終了時よりという事で、そっちの方もよろしゅう!!



 それでは、Jフェニックスを新感覚でお届けする戦略小説「虚空からの使者」も、宜しくお願いします。

 次回も楽しみに、そしてご声援お願いします。あと、感想も m(><)m

 でわでわ〜

 


 管理人より

 レビさんよりチャプター6をご投稿頂きました!!

 う〜ん、本当に何処で作られたんでしょうね、あの二機は(爆)

 しかし……一体何がしたいんだろう?<カーリー
 


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