アーマイル丘陵地に突如として現れた謎の機動兵器は、その圧倒的な戦闘力によって調査に向かっていたアルサレア・ミラムーン合同調査隊を危機に陥れるが、グレンリーダーとケイオウ特尉の活躍によって撃破され、その日の内に捕獲された機動兵器はミラムーン材質研究所に輸送された。
そこでは謎の機動兵器の徹底した解剖が行われていた。
あれは一体何なのか――当初から誰もがその正体に注目していた。
――あれは無人機である。
それは判明した。予想通りの事であった。
しかし、その後は解析作業が思うように進まないとの報告ばかりが寄せられただけであった。
ミラムーン軍首脳部は一週間後に調査団を派遣する事を決定した。進まない作業に梃入れをするためである。
しかし、緊急事態とは何故次から次へとこんなにまで立て続けに起こるものなのかと運命を呪いたくなるような事態が起こった。
昨日からミラムーンの材質研究所は音信不通となっていたのである。
――とは言え、機動兵器がそこに運ばれていた事を知る者は将官クラスを見ても非常に少数である。
そこから情報が漏れたとは考え難い。また、少なくとも政権は前ミラムーン大統領ベルドリッチ失脚以後には親アルサレアに転じており、ヴァリムへの出入国が厳しく制限されていた。物理的手段を用いる事は非常に困難なのが現状である。
そのため、それでもなお厳重な警備を掻い潜って研究員がヴァリムに亡命したとは考えられなかった。
通信機の故障と思いたい、或いはどうせならヴァリムのテロの方がまだマシだ。それが本音である。
――知る者は誰もが戦慄を覚えた。
『紅い機動兵器』
――あれが動き出した――そうでない事を切に願った。
一方ミラムーン軍首脳部は揺れていた。杞憂ではなかった場合、自国のPFでは全く歯が立たない事が明白であったからである。
ミラムーンは高度な技術力を保有してはいるが、PFの完成品を一から造る事に関してはアルサレアとヴァリムの二大国から大きく離されている。
それはやはりアルサレアのPFあっての技術力でしかない。
その中で唯一使い物になるとすれば軌道エレベーターを静止軌道から見下ろす戦略軌道要塞「人工衛星J’s Moon」――そこに配備されている軌道強襲型SPFオービタルストライカーだけである。様々な曰く付きではあるが、一応はアルサレアとの共同開発によって誕生したインフィニティーシリーズの量産型、という位置合いである。
尤も、これは『この機体は軌道エレベーターだけを防衛するものではなく、アルサレア、そしてGエリアをも睨む重要なものである』だからこそ造ったのはミラムーンではあるものの、今やこれを使うにはアルサレアの承認が必要になっている。
むしろ、ここでこの機体を使って良いのかという論点もある。これは二次的な理由ではあるが『紅い機動兵器』の戦闘力は未知のものであった。部隊を派遣しても倒せるかどうか――例え倒せても相手が相手である、無傷では済まない。
先程の通り一番の理由はオービタルストライカーは両国の領宙を守護する対宙防衛力の要である事にある。例え相手が強力な敵であろうとも本来想定されている敵であるヴァリム宇宙軍の存在もあり無闇に戦力を割くべきではないとの判断である。
ならばどうするか。
―――外的要因に求めるしかない。
ミラムーンの行動は早かった。内的な焦燥感がそうさせたのではないのだろうか。
ほんの数時間後には、アルサレア軍精鋭部隊の筆頭であるグレン中隊。更にその中から適性、任務の性質に合わせて選抜されるスペシャルタスクフォース、正式名称グレン中隊αユニット。
一般にはグレン小隊と、過去の伝説に因んで呼ばれている――纏めれば「各作戦において選抜される特務部隊」――そこに派遣要請が来たのである。
アルサレア軍参謀本部ではテロやヴァリムの強襲、そして『紅い機動兵器』の暴走も含めた最悪の状況を想定し、グレン小隊を再召集したのは翌日――『紅い機動兵器』が運び込まれてから19日後の事であった。
Chapter1 闇霧:〜疑惑の出撃。
ここはアルサレア要塞――アルサレア軍の総本山である超巨大要塞である。
広大な土地の四方を断崖絶壁が取り囲み、それを縫うようにある路はPFの大部隊が通るには細く、地上軍だけでなく巡航ミサイルなどの侵攻をも困難にしている。
地上施設だけでもひとつの街くらいはあるが、その殆どは滑走路に管制施設、レーダーに対地・対空・対宙防衛施設程度のものであり、格納庫を含め本体は地下にある。
地上滑走路のアスファルトの下は土ではなく、そのまま鉄筋コンクリートに鉛を仕込んだ多層構造の耐熱・対衝撃の対核外殻。
核兵器も立て続けに数発落とされたくらいでは、反撃するだけの余力はある。
何故なら最深部には巨大な発電施設や戦略コンピューターが鎮守しているからである。最早これらなくしてアルサレアに戦争は出来ない、何としてでも死守しなくてはならないのである。
今やアルサレアにしてもヴァリムにしても戦略を策定するのにコンピューターの存在は不可欠になっている。頭で考えるのでは遅いし限界がある。いや、むしろコンピューターの客観的な意見を聞く方が責任の所在を曖昧に出来るから好まれたのかも知れない。
どちらにしろ、従来に比べて戦争の戦略機動性、効率性は格段に向上している。
一方で敵もそれに対抗するために戦略策定にコンピューターを導入すれば当然反抗の効率性も高くなるので向こうにしてみれば戦争の効率性を下げるものでしかない。
だから一進一退が続いているのである。
そして、だからこそ最大拠点の中枢コンピューターを破壊すれば戦争は終わるのであるからして、最大の目的であり脅威なのである。
技術の進歩は戦争の常識を一変させた。地上施設など目に見えるものは簡単に破壊される時代である。軍事施設の大半が地下に移行するなどは極めて必然的な事である。
――ここはその最たるものであると言える。
ここは対核装甲に覆われた最深部である発電区画の一歩手前、戦略コンピューターのある地下8階の参謀本部。
当然ではあるが地下に窓など存在しない。そのあまりにも人工的で無機質な空間は昼か夜かを解らなくさせ、自分が生きている事を怪しくさせてしまう。
また、廊下には時計があり、辛うじて今が1400時である事は解るが、同時に「この時計、本当に時間が合っていのだろうか?」という気にさせてしまう事は人間の性なのであろう。
グレン中隊から選抜されたスペシャルタスクフォース「αユニット」――キース、アイリ、サリア、ハルカゼ、デンソンの『グレン小隊』5人が顔を揃えた。
尚、前回の戦闘で部隊が壊滅し、殆どの兵士を長期入院、或いは自主退役させる事になったハルカゼとデンソンは例外的にではあるが、この度正式にキース中隊に組み込まれていた。
しかし、肝心のグレンリーダーはそこ現れてはいなかった。
これだけか、という表情は僅かな驚きを内包しつつもいつになく暗いものであった。
グレン小隊とは言っても既にサリア以外が部隊を率いる隊長達である。
過去のグレン小隊とは違い現在のグレン小隊はひとつの小隊ではなくグレンリーダーを頂点とするアイリ(アイリ中隊の副官がサリア)・キースの2個中隊――グレン中隊のうち、その隊長及び選抜された兵士で構成されている主に突撃や強襲を任務とする精鋭部隊の事で、今回の場合は戦闘力を上から順に選抜した結果として隊長クラスのみで構成されたものであった。
そもそも各中隊には10機のPFが配備されており、それぞれ射撃、格闘、突撃などに特化した癖を持つもので全体的なバランスをとっている状態にある。
――それを組み替える必要性はアルサレア特有の事情によるものに起因する。
アルサレアの総生産力、即ち国力は例えミラムーンを足したとしてもヴァリムに大きく劣っている。ヴァリムは豊富な資源を背景にした重化学コンビナートを前身としているだけに技術でカバーするに困難な程、やはりその差は見た目以上に歴然としているものがあるからである。
それに比例して総戦力にも問題がある。国力の差は戦力差に正比例するため影響が大きく表れるのである。
今は戦況を保っていても底をつくのはアルサレアの方が遥かに早い。同程度の機体で戦えば練度の差はあれども疲弊は免れない。それは遠からぬ未来、或いは既に起こった未来の「負け」を意味すると考えても良いだろう。幸い技術面ではアルサレアに利がある。だからこそ数が少なくとも万能で強力な機体と練度を以って戦況を僅かに有利としているのである。
しかし、ヴァリムの強力な空戦型PFクエイクサンダーやホワイトセラフ、量産型PFコーディネート・ゼロの投入によって巻き返しを受けている状態にあった。そこで必要を迫られたのは各戦術、そしてそこから構成される戦略を出来得る限り短期戦に持ち込むための突破力の強い部隊である。
そこに万能型の機体は殆ど存在していない。最早どこかに圧倒的な長所がなければ数には勝てないのである。幸いにもその長所は他の短所を補う事が出来た。だから大規模な戦闘ではチームとして連携する事で長所だけを活かし短所を殺した戦いで無敵の強さを誇っていたが、希にではあるが今回のように少数精鋭の突撃隊を組織する場面がある。その場合には部隊は一度解散し、適正に合わせて再編成される。これは攻撃の密度を高めるためである。
とは言え、そういった理由で過去にグレン小隊が結成されたのは第6次カントランド会戦の時の一度だけで、格闘型PFを率いたアイリが地上から突撃、それをキース率いる遠距離型PFが支援、そこで敵を釘付けにした隙にサリア率いる空戦型PFが敵移動型司令部を強襲するという波状攻撃を敢行、完遂させている。
尤も、今回の再結成の理由は少し違っていた。敵は強力とは言え1機である。誤射の可能性があるからして攻撃の密度を上げるにも限界があるのだ。
すでに配布された資料にはそういう旨が書かれている――それにしてもな、ハルカゼは思った。敵の戦闘能力を身を以って体験した彼ではあったが、「誤射の可能性がある」というのは言い過ぎだ、グレン中隊全機出撃ならばあり得るかも知れない話だが、それにしてもこの戦力で紅い機動兵器を止めに行かねばならないのであれば心細いものであると不安にもなった。
「なんだぁぁぁっ?あのバケモノが奪われたって?」
どこまでも静かな会議室。部屋にある時計はデジタルのため秒針の音さえも聞こえない無音に限りなく近い空間。その静寂を引き裂いたのはハルカゼであった。正しい情報は未だ伝わっていない。その不安と苛立ちから彼は机を殴りつけた。
「・・・・・・・・・・・・・」
一方、デンソンは自分が何故ここにいるのかが解らずにただ黙っているだけだった。
「まぁまぁ少佐・・・苛立ったって何も出ないッスよ」
キースがなだめるようにスマイルを飛ばす。しかし、それは逆効果のように思えた。ハルカゼの顔が見る見る強張る。
「よくそんな事が言えるな・・・一度でも戦ってみろ、二度とそんな事が言えなくなるぞ」
ハルカゼはキースを睨み付けた。普段の陽気な彼からは想像も出来ない鬼の形相であった。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・すまん、取り乱した」
過去の戦闘で採取されたデーターを見ていたとは言え実際に戦っていない事はキースにとってもそれは痛い程解っていた。それに気付いたハルカゼもこれ以上その話をする事は無かった。
再び室内が沈黙に包まれる。そして――
唐突にドアが開く。サリアの肩がビクッと震えた。これは耐火を兼ねた防音扉なので足音は響かない。
「すまない、遅くなった。だが、その甲斐あって最新の情報が手に入ったんでな」
再び静寂を破って入ってきたのはグレンリーダーであった。
彼は慌てた様子でディスクをドライバーに入れると、正面のディスプレイにミラムーンの衛星写真が映し出された。
よく見ると、その日付は今日の正午となっている。グレンリーダーが約束を破る時はいつも納得出来る理由があり、理由を聞くと納得してしまいそうな気がするのは彼の役得である。
右下隅にあるのは今から一ヶ月以内のミラムーン材質研究所からの外出者のリストであるが、その数はゼロであった。
「よく聞いてくれ、昨日からミラムーン材質研究所からの連絡が途絶えている。知っての通りそこには先日アーマイルにて捕獲した機動兵器が分析されている最中だ。しかし、衛星から厳しく監視した結果、ヴァリムがそこに部隊を派遣した形跡は皆無。それは研究所自体に戦闘の跡どころか破損すら見当たらなかったために空間転移による強襲を含めてさえ否定される」
部隊の旗印である自分の動揺した姿は見せられないという思いなのか、グレンリーダーは実に淡々と現状を述べた。
「つまり原因は不明って事だな?」
先程から機嫌の悪かったハルカゼが気難しく話に入る。
「残念ながらな・・・で、とりあえずと言っては何だが、我々が偵察部隊として現地へ向かう。それに関してだが、仮にあの機動兵器が動いていた場合、通常の兵士が向かったところで何も解決しそうに無い。そこで集まって貰ったと言う事だ」
「その・・・何て言うかな・・・そんなにヤバい相手なら巡航ミサイルで殺っちまえないのか?」
キースが話に入る。だが、彼にとっては自信のあった案なのだがグレンリーダーの顔には笑みは無かった。
「・・・その案も考えたが、ミラムーン側に打診したところ『少しでもデーターが残っているならそれを自分から無に帰す事は出来ない』との事だ」
「勝手な言い分ですね・・・それで自分たちは何もしないで私達に行けって言うんですか !?」
ミラムーンのそれはあまりにも勝手な言い分である事は明白であり、アイリがそれに突っ掛かっていった。しかし、それは既に決定事項であり、グレンリーダーにそう言ったところでどう変わるでもないという事は彼女にも解っていた。
勿論それに対して不快な感情を持たない者などこの部屋にはおらず、所詮それは暗黙のうちの確認事項にしかならなかった。
――だから、我々が行く事で犠牲が減れば良いじゃないか、そう自分を慰める。
「確かに勝手な言い分だ。しかし、先の交戦ではミラムーン兵は殆んど何もする事が出来ないまま撃破された者が大半だ。それに、そのデーターは我々にとっても価値のあるものだ。もっとも、楽観的ではあるがあの機動兵器が動き出した確たる証拠も無い。もしかしたらただの通信機の故障かも知れんしな」
「・・・とにかくっ、俺達はミラムーンに出撃って事で、グレン小隊はともかく俺とデンソンはヤツと戦ってまともに動ける数少ない兵士って事だな。・・・それは良いんだ。問題はヤツが動いていた場合にどうやって倒すかだ。まさか今回も誰かが自爆するんじゃないだろうな?」
横道に逸れていた話を無理矢理に戻してまとめるのはハルカゼであった。そしてグレンリーダーはそれを思い出したかのように溜飲を下げた。
「すまない、話を戻そう。そこの二人は実際に戦ったから解るだろうが、あの敵の防御力は異常だ。少々の攻撃では強力なエネルギーフィールドを貫通する事も出来ないだろう。それでだ、ミラムーンからの情報は当てに出来ないが、以前の戦闘で採取したデーターから敵機体のスペックの予想を行った。尤も、これは予測の範囲内であるため必ずしも信用出来るとは限らない。だが、一応の目安にはなるだろう」
グレンリーダーはそう言い残し、パネルの端末を弄り始めた。その2秒後、ディスプレイに謎の機動兵器の三面図と記録された戦闘時の映像、それによって算出された予想スペックが次々に表示された。
数字は速度・旋回性能・防御能力などの各項目毎にふたつあり、左にあるのはJUフェニックスのスペック、全てを100としている。右にあるのは謎の機動兵器の予想数値、それは全ての面でJUフェニックスを上回っていた。取分け攻撃能力など、速度に関係する項目以外の殆どが200を、特に防御能力は500を超えていた。
謎の機動兵器と直接交戦していないメンバーはその予想スペックと圧倒的な戦闘能力を見た瞬間に我が目を疑った。
「じょ、冗談だろ?防御能力500なんて戦艦の装甲と殆ど変わらないじゃないか。それでいて瞬間機動性150なんて数値・・・速いってモンじゃないじゃねぇか!!」
「今でも信じられない・・・隊長のライトニングフェニックスとハルカゼ少佐の突撃を同時に防ぐなんて・・・」
「これってホントなんですかぁ?」
三人がそれぞれの特色ある反応を見せた。しかし、唯一サリアの発言だけはその趣旨から外れていたものであった。
「残念ながらこれは敵の動きから算出されたデーターの上限値だ。この時点でも実戦配備されている既存のPFを全て上回っていると言って良いだろう。考えたくない話だがこの数値が最高値である保障すら何処にも無いがな・・・」
またもや沈黙に覆われる室内を斬り裂くのはハルカゼ。最早彼の位置は切り込みで決まったようなものである。
「打開策になっていないな。数値を見ても戦闘に影響するとは思えない。むしろ士気が下がるだけだ」
ハルカゼの厳しい指摘にグレンリーダーは静かに答えた。
「・・・Jインフィニティーを使う」
Jインフィニティーとは、最新鋭の第4世代全域完全殲滅用PFであるものだが、高性能化に邁進するあまりその全長は20mを超えるカスタマイズ規格外の機体である。
「Jインフィニティーって・・・あのJインフィニティーですかぁ?」
サリアがなんとも間の抜けた質問をするが、真剣な面持ちのグレンリーダーは「ああ」とも言わず、ただ顔を縦に振るだけであった。
「そんな新型・・・実戦で使えるのか?」
「その辺は安心して欲しい。この表にJインフィニティーのスペックを重ねると・・・」
JUフェニックスの右にJインフィニティーのスペックが表示される。
概ねの数値は200前後。機動性が95と少々低い程度であるが、それでも航空支配型PFと同等である事には違いない。
グレンリーダーは顔を上げた。
「一応JUフェニックスとは機動性以外の点で上回っており、スペック上あの機動兵器に最も対抗出来る機体と言える。また、右腕と一体化しているエネルギーバスターキャノンの最大攻撃力は前回のケイオウ特尉の突撃から自爆までに至る一連の総攻撃力の2倍以上に相当する。これなら何とか出来そうだと思わないか?」
――ああ、なるほどな。誤射の可能性があるのはこれの事だな。小さく納得、ハルカゼの口元がニヤリと歪んだ。
「確かに打開策になりそうだ。しかし、油断出来るとは思わない方が良いな」
「当然だ。よし、全員出撃。ブリーフィングは移動中に行う、格納庫へ行こう」
グレン小隊は人工的な光で明るい地下から日の当たる外へと向かっていった。
だが、幾ら考えても皆の頭の中から「何故こんな事態になった?」そして「一体何が起こっているのか?」という疑問は解消される事は無かった。
アルサレア要塞の格納庫は戦闘中には地下に収納されており、機体はエレベーターによって地上に出されるのだが、輸送機に搭載する際には地上の補助格納庫に一時的に格納される。
そこに立っているのは6つの機動兵器であった。ハルカゼですら実際に見た事のない最新の機体ばかりに、やはり驚きを隠せない。少し観察してみる事にした。
右からデンソンに新たに与えられた量産型Jアサルト、突破力に重点が置かれた機体である。これは概ね前回破壊されたのと同じ量産型Jアサルトではあるが、後期生産型のため肩部と脚部に増加装甲やブースターの増設など形状に多少の変更がなされている。その点ではむしろハルカゼが使っていたJアサルトに近い。
次の機体、先日与えられたJアサルトカスタム。これは俺のものだ。こうやって見比べ、眺めてみるとやはり今までのJアサルトとは全然違う、まるで別機体ようにすら見える。
前回破壊されたものは最初にロールアウトされたJアサルトに他機種に用いられている技術の流用を行う事で段階的に改良されていたものであったが、この際にメインフレーム以外を予てから存在していた改良案の試作型を実装させた、言うなれば「Jアサルト改改」という代物である。
その改良コンセプトとは「更なる速度にて敵陣に切り込み、強力な先制攻撃を行う」つまり『生き残る特攻機』として火力を落とさず速度を上げる事に重点を置いた設計になっている。
そのため重量バランスの関係で背部ハイパーバーニアを一つに減らしながらも両肩部から後ろに向かって巨大なバーニアユニットを設置する事で計三台、総推力は66%向上している。
また、特に脚部は増加した重量を支えるため更に強靭な造りとなっている。やはり外見は愚鈍そうだが、実際にはJアサルトよりも速いのである。
アイリのJスラッシャー、高速格闘戦に特化した機体である。背部のハイパーバーニアと腰部のHDDバーニアは速度を、肩部のオーバードドライブユニットはそれを破壊の力に変換する。
機体左に固定されているのは両手持ちの巨大な実体剣「斬貫刀」――ミネの部分はブースターが敷き詰められている。見たところ射撃武器は装備していないようだが、並みのパイロットではこの機体を捉える事は出来ない、どこかで整備兵がそう自慢しているのをハルカゼは聞いた事があった。
サリアのJフェニックス・サリアカスタム、特化機体ばかりのグレン中隊には珍しく万能型の機体である。フレームは旧式のJフェニックスではあるが、装甲は最新の無重力合金ゼロ・マテリアル製であるため防御力に問題はない。
また、ハイパーバーニアにアタックウィング、ディバイドビームライフルなどの装備はJUフェニックスと共通のものを装備しているため実質性能を見た目よりも遥かに強力なものにしている。
しかし、何故今更Jフェニックスなのだと疑問になるが、サリア曰く秘密らしい。
キースのJブレイカー。背部に両手持ちの戦術高エネルギーレーザーキャノン「メガバスターランチャー」を装備、遠距離射撃に特化した機体である。背部のバスターランチャーだけでも攻撃力の高さを十分に見せ付ける威嚇的な機体だが、ましてやアルサレア最強のスナイパーであるキースに狙われるのであれば正直逃げられそうにないとハルカゼは思った。
最後にグレンリーダーのJインフィニティー、詳細は良く解らないが、おそらくアルサレア最強の機動兵器であると言える。
機体は通常のPFより一回り強大きい、武装もそうである。右腕と一体化しているエネルギーバスタービームキャノンの全高はPF一機分はあり、そうでなくとも全身之武器の固まりである、相対すれば逃げるどころか生き残る事も出来なさそうだ。
なるほど確かに全域完全殲滅用だ、小規模な拠点ならひとたまりもないなと思える。
感心しながら更によく見ると機体データーと少し違うような気がした。本来なら背部に使い捨ての小型攻撃衛星エナジーレインを収納したコンテナがあるのだが、そこにはコンテナから僅かに顔を覗かせている筈の小型の衛星はなかった。
あれは射程、威力共に申し分のない強力なものだが、戦闘領域に高度制限がある場合にはもちろん、敵が少数の場合や護衛目標がある場合、そして敵がどこにいるかが解らない場合などでは十分に効力を発揮しないものである。
それならば使えそうにない可能性があるものを外して軽量化し、コンテナ底部のブースターユニットの効果だけに期待したのであろう。
尚、このJインフィニティーは試作型の2号機であり、プロトタイプがもう1機あるという噂である。他にもこの機体には噂が多い。
開発経緯にも非常に複雑なものがあるらしく、後にインフィニティーシリーズと呼ばれる機体系統の第一号はヴァリム製のタナトスであった。設計はアルサレアのものであるにも拘らず――である。
つまり曰く付きなのだ。
これだけ並ぶと何かしら毅然とした雰囲気になるような気がしてならない。特にJインフィニティー――おそらく殆どの者は見るのは初めてであろう。その威厳に満ちた白い機神は何も語らないが、ここにいる全員へ確実に圧迫感を与えている。
「さて、各員搭乗してくれ」
グレンリーダーのその声と同時に他の5人が搭乗する。そしてシステム・ノーマルモードでアイドリング状態。ハルカゼはグレンリーダーに通信を繋いだ。
「・・・今回の・・・どう見る?」
不安と言えるのか?と言うと、間違いなく「Yes」である。それは口には出さずとも全員がそう思っている。交戦した者は確定した恐怖、そうでない者は漠然とした不安。これだけは幾ら鍛えてもそう改善出来るものではない。だから彼らは改善ではなく麻痺させる事によってそれを考えないようにしているのだが、この場合はそれがあまりに先行し過ぎているために装うに限界があった。
「常に最大の敵を想定しているが・・・そうならない事を祈るだけだ。正直、これに乗っていても不安は拭い切れていない。・・・それよりもデンソン少尉は大丈夫か?さっきから一言も言葉を発していないようだが・・・」
「そうだな・・・気後れしているんじゃないのか?試験の結果は優秀でも実戦経験はまだ少ない。それに、ヤツを相手にするかも知れんのだ。はっきり言って不安にもなるさ・・・まぁ、それは本人に聞いてみれば解るさ」
「すまない・・・今は私が隊長なのにな・・・」
「なに・・・この中では一番付き合いが長いからな・・・」
ハルカゼはなぜか通信チャンネルのスイッチを「ALL」にした。普通なら二人だけで話すような内容である。しかし、理由があった。
「デンソンよぉ、調子が悪そうじゃないか・・・どうした?」
「・・・・・・少佐・・・・・・少佐は怖くないんですか?・・・こんな事・・・本当は言う事じゃないんでしょうが、自分は正直・・・怖いです・・・。もともと自分は新兵みたいなものです。そんな自分が・・・それがこんな新型に乗って・・・グレン小隊に選ばれて・・・」
「デンソン・・・俺だって怖いさ。今まで戦ってきてここまで怖くなった事は無い。その怖さ、恐れは誰にだってある。人は機械じゃないからな・・・ある程度は麻痺させる事は出来るが、逃げ出したくなるような事もある。問題は、ここで俺達が恐怖に任せてそれを放棄したらどうなるかだ。別に自己犠牲が素晴らしいとかそういう事ではない。何て言うかな・・・その・・・良い言葉が見つからんが、そういう事だ」
「・・・少佐・・・」
ハルカゼは答えになっているかどうかが微妙な言葉を詰まらせていたが、間違いなくその心はデンソンだけでなく他のグレン小隊員の心に達していた。
しかし、繰り返すようだが、この事件が起こった理由についての情報はない。だが、考えて解るような問題でもなかった。結局のところ「行って見るまで解らない」そう考えざるを得ないのが現状であった。
「さて、積もる話は後にして、まずは輸送機に載せちまうか」
折角の良い雰囲気をブチ壊すのはキースであった。ハルカゼの位置が決まったように彼の位置もまた決まったようである。
「キ〜〜〜ィスぅ、せっかく良い話だったのに台無しじゃないの!!」
それを聞いたデンソンは顔を赤くした。
「ええっ・・・聞いてたんですか・・・」
「聞いてたんですぅ」
「はははははっ、そうだデンソン。俺達が相手にするのはただの相手じゃない。皆怖いんだ。自分だけが怖いんじゃないって事さ。変に気遅れたりしない事だな」
部下の心理を見抜き、単に鼓舞するだけでなく場合によっては自分の弱さを見せる事によって士気を上げる。結局はハルカゼの目論見通りであった。
その間のグレンリーダーは一人、確かにハルカゼの話は聞いていたものの、やはり考えが頭を離れなかった。この事件の理由、意味――そして、未だ確証がある訳でもなく漠然としているだけであるが、その裏に蠢くものを感じていた。
そしてグレン小隊は輸送機2機に分乗し、ミラムーン南西部の材質研究所へと向かうのであった。
Chapter2 伏兵:〜戦略機動強襲(前編)
ミラムーン材質研究所――ミラムーンの南西部の山脈地帯に存在するこの研究所は、PF関連技術の粋を集めるミラムーン最高の研究所である。
当然侵攻に対して特に高い防御力を必要とするため、鉱山跡を利用して山の下に研究所を建設する――つまり研究所が山頂の地下500mいう無茶な状態で存在しているが、その岩盤のおかげで戦術核ミサイル程度の攻撃にも耐えうる強固な防御能力を持っている。
更に内部通路は比較的狭く、一度に大量の兵力を投入しても1対1で戦わせざるを得ない。技術を奪うために完全に制圧する気で攻め込むならば、この研究所の攻略難度はアルサレア要塞を遥かに凌いでいるのである。
方法があるとすれば戦略核ミサイル数発を同時に使用するくらいで、基本的に無傷での制圧は不可能と言われているのであるが、そこへの連絡がつかなくなっている。
「ヤツがやったに違いない・・・」
「だが、どうする・・・」
輸送機で待機するグレン小隊の誰もがそう考えていた。
ミラムーン材質研究所へ直接降下しても入口はない。それは遠く離れた別の場所に存在するのだが、テロも含めた機密保持のため、何よりも紅い機動兵器に輸送機を狙われて全滅する危険性があったため、入口から更に100km離れた地点に輸送機を着陸させた。
6つのPFが輸送機から発進すると、グレンリーダーから全員に向かって通信が入った。
「みんな聞いてくれ。ここからおよそ100km西にある森林にミラムーン材質研究所への入口がある。問題は研究所内部に敵がいた場合に一度に進行すると全滅する危険性がある。それは森林内でも同じだ。よって3人ずつの小隊に分ける。アイリ、サリアはこちらに、キース以下は我々の左翼にまわってくれ。各小隊の距離は5km。・・・出撃だ」
「その前にしっつも〜ん!!輸送機はどうなるんだ?」
「輸送機はこれからアルサレアに帰還する。合流時刻は作戦の進捗状況に合わせて更新するが、何もなければ明後日の正午には確実に輸送機が来る事になる、場所はここだ・・・他にないか?」
グレンリーダーは確認するが、会話など移動中に出来るため、いちいち時間を使う必要もない事などキース以外の誰もが解っていた。
「ないようだな・・・キース小隊は左翼に・・・全機、出撃だ!」
「了解っ!!キース小隊は左翼に展開するぜぃっ!!」
キース小隊は例外的とは言え元々キース中隊の面々である。
キースの階級は少佐、ハルカゼと同じである。しかし年齢はハルカゼの方が上であったのだが、「新参者が隊長になるのは変じゃないか?」という事で副長になる事も辞退していた。
一方、グレンリーダー率いる小隊はアイリとサリア。アイリとサリアも元はアイリ中隊のメンバーである。
しかし、グレンリーダーはそんな単純な考えで部隊を分けるような男ではない。
キース小隊の3人の機体はJブレイカーとJアサルト。Jブレイカーは多少の格闘能力は有しているものの、やはり基本はメガバスターランチャーによる遠距離攻撃で、その死角を補完するためには強力な格闘能力を有した機体が必要になってくる。遠距離攻撃型への支援とは主に敵を釘付けにするものであるが、同時に攻撃の基点となるその機体の防衛も範疇に入っている。その二重の意味での支援は同じ機体ないし似通ったコンセプトやスペックを持つ機体程容易となる。
その意味でグレンリーダーは特殊なJインフィニティーに搭乗している。
本来Jインフィニティーは強力な殲滅兵器を持つ機動兵器のため常に友軍誤射の危険性があるものである。当然組織戦闘には向かないのであるが、数少ない例外のひとつとして僚機がアイリのJスラッシャーやサリアのJフェニックス・サリアカスタムのようにマッハ2以上で移動可能な超高機動型のPFである場合や、絶対的に少数での進行の際にはあまり該当しない。唯一最大出力モードでの射撃がネックとなっている事を除けば―――である。
つまりグレンリーダーはその場のPFの特化部分のシナジー効果に応じて部隊を振り分けた結果がたまたま全員同じ部隊であっただけである。
キース小隊は斜めに左方向にブーストで飛翔、アイリとサリアはグレンリーダーを頂点に三角形の布陣で進行を開始する。
Jインフィニティーはエネルギーバスタービームキャノンを重々しそうに抱えて歩く。結構な速さであった。
戦闘の跡はないとは言え、ヴァリムの部隊が存在しないとは言い切れなかった。グレンリーダー達は機密保持のために敢えて入口とは離れた地点に降下したのだが、敵にしてみれば難攻不落の研究所より、そこから搬出される完成機を狙う方が遥かに利口である。そのために隠れている部隊があるのかも知れなかった。
確かに監視衛星の精度は凄まじいものがあり、地上の空き缶の銘柄まで見えるとの事であるが、機体を部品単位まで解体すれば持ち込む事は可能で、それはアルサレア、ヴァリム両国の奇襲作戦の成果が証明していた。それも、特に森林などを経由した場合は尚更である。
各小隊はレーダーをロングレンジに切り替え、常に周囲をチェックながら進行を続けていた。
「隊長・・・私達だけで大丈夫でしょうか・・・」
不安でいっぱいのアイリが堪らずにグレンリーダーに言った。
「今日は珍しく元気がないな・・・大丈夫だ、今回にはコレがある」
「そうですね・・・隊長にはソレがありますからね!!」
アイリは明るく笑って見せた
(・・・アイリ先輩・・・また無理してますぅ)
サリアはそれに気付いていた。
いつものように戻ったように思えるのは外面だけで、やはり内面の不安は拭い切れない。そんな事はサリアでも解っていたし、グレンリーダーはそれで良いと思っていた。
殊に戦闘に対して不安や恐怖を知らなくなった瞬間に人は生きた殺人マシーンとなる。
グレンリーダーはあの双子と初めて出会った場面を思い出した。
その日は朝から雲ひとつない快晴であった。既に日が暮れ、闇に包まれていたが、その星空は地上を柔らかな光で照らしていた。まだ、後にアルサレア戦役と言われた大戦争が終結さえしていなかった頃の話である。当時はまだ4人しかいなかったグレン小隊は輸送車輌の護衛任務に就いていた。
周囲は切り立った絶壁。抉られた溝の底のような道――とは言え全く舗装されてはいないそれは正確には道とは言えないのかも知れない。それでも護るには適している、贅沢は言わない。
合流地点に到達。ミラムーン側の護衛部隊が見えた。見たところ10機以上いる、輸送規模が小さい割には結構な数だ。余程重要な物資が積まれていると見える。
やれやれ、今回も無事に任務完了かと一息吐く。最近はヴァリム軍による輸送部隊の襲撃が多発していたため、輸送ルート上には常に緊張感が満ちていた。
ミラムーン護衛部隊との引継ぎの時間。事務仕事ではあるが、数少ない安らぎの時間である。他のメンバーからの談笑が岩肌を反響する。
引継終了。グレン小隊は輸送機との合流を果たすためにその場に待機、ミラムーンの護衛部隊が闇夜に消えていった。
それからほんの数分後の事である、凄まじい爆発音と振動で絶壁が低く鳴り響いた。
油断した、グレンリーダーは憤る。無意識の瞬間にブースト全開、機体が星空を舞う。
空中から地上を見下ろす。
―――悪魔が戦場を駆けていた。死神の鎌を持っている。
地上が明るく照らされているのは星空の所為だけではない。幾つもの炎が松明のように地表を焦がしていた。炎を上げている松明はPFだ、これでもかと言うようにバラバラに斬り裂かれ、完全に破壊されている。その間を縫うように紅い機体が今も獲物を屠ろうと地を駆ける。殺意を前面に押し出した荒い機動だ。
一方、対照的に原形を残している状態のものが半分ある。メインフレームには大穴が空いている。機体だけではない、パイロットにも致命傷だ。
やったのは黒い色。――が、黒夜叉ではない。彼は積極的にコクピットを狙うような真似はしない。
黒い機体は紅い機体に比べて的確で冷静な機動をする。ミラムーン護衛部隊の放つ弾丸はまるで自らが目標を外しているかのように命中すらしない。そして迫り来る弾丸の嵐に臆する事なく突撃を掛け続け、パイロットの生死などに構う事なく無慈悲にコクピットを貫いていく。貫かれたそれは爆音を響かせて黒煙と炎を吐き出す。それでもパイロットは焼死ではない、第一撃の時点での即死である。こればかりは確認せずとも既に解った。
そして次、次、次にと、それが効率的とでも言わんばかりに鋼鉄の棺を作り出す。葬祭型式は火葬。決して爆散させていない。敵を徹底的に破壊し尽す事すらも煩わしいと言うが如くである。
機体を急降下。グレンリーダーは目標を捕捉。
ようやく敵の全体像が見えてきた。上からでは動くものとそうでないものが一目見て解ったが、動いているのは見た事のない機体である。ミラムーンのものではない、ともすればヴァリムのものである。
眼下で繰り広げられているのは戦闘ではない。動かない目標を一方的に破壊している虐殺のようにしか見えなかった。――いや、圧倒的な実力差がそう見させているのである。乗っているのは人間なのだろうか、人間の造ったものなのかどうかが怪しく思えた。
敵のパイロットは相当の凄腕だ、的確に人間だけを殺している。それはそうだ、パイロットがいなければPFなど鉄屑に過ぎない。
通信を傍受、グレンリーダーは愕然とする。声の主は若い女のもの、それだけならまだ良かった。そこにはまだ幼さすら残っていた。年端も行かない少女である事は明らかだ。そんな彼女達が何の躊躇いもなく人を殺している。一人は機械のように無機質に、もう一人は楽しんでいるように。
――嫌なものだ、グレンリーダーは思った。溜息よりも深い息を吐く。
戦争はマクロで見れば外交の延長である。
しかし、ミクロで見れば如何に効率良く相手の人権を蹂躙するかになってしまう。
相手の人権を破壊するにはまず自分の人権を破壊しなければならない。例え受動的にせよ、それは人の理性を狂わす結果になる。
それが本能の顕彰化によるものかは解らないが、アリストテレスは人間を「社会的動物」と定義した。
その意味では少なくとも人間でいる事を辞めてしまう事と同議になるのではないのだろうか。
一方、キース達は出撃の際の明るさとは裏腹に誰も何も喋らなかった。
輸送機から出撃して既に80km――単純計算でミラムーン材質研究所の入口まで20km。起動しているか否かは別として、紅い機動兵器と対面するまであと少しとなった。
誰もが周囲の敵を警戒していたその時、キースの耳元で「ピキュィィィィィィン」という何とも耳障りな警報音が鳴り響いた。
接近警報。
奴が来たのか、キースは反射的に前方を見上げる。別段変わった事はない。それから恐る恐るレーダーを確認する。しかし、意外な事に反応は衛星軌道からであった。
「成層圏?識別信号はミラムーン・・・援軍か?」
溜息が漏れる。最も索敵範囲が広いJブレイカーに搭乗するキースが呟いた。
大気圏を単体で降下出来る機体はそう多くない。答はミラムーンの軌道強襲用SPFオービタルストライカーで、単体で降下している事からそのA型と思われる。
この状況においてこの存在が援軍に結びつくのは極めて容易な事であった。
しかし、オービタルストライカーはJインフィニティーと同じインフィニティー系PFだが、組織戦闘を前提に設計された戦略強襲型である。また、ミラムーンは自国の軍を出すとは報告しておらず、作戦スケジュール上にもミラムーンからの援軍という項目が記載されていなかったためにJブレイカー内の警報が鳴ったのである。
更にそんなものが単機で降下するとは到底考えられなかったが、ミラムーンが敵だというような事を頭の隅でも思っていない彼はそれに気付く事はなかった。
一瞬遅れて全員の耳元に警報音が鳴り響いた。
「っ、何だ!!」
グレンリーダーが反応した方向を向くと、蒼い空に大きく光る一筋の光がこちらへ向かっていた。
「隊長、あれって味方なんですかぁ?」
援軍の話など聞いていなかったサリアがグレンリーダーに確認するが、その事を知っていると期待したグレンリーダーの表情は固まっていた。
異変を感じたアイリが二人の会話に割り込んだ。
「隊長、どうしたんですか!」
「・・・バカな、何の報告もなかったぞ!!各機に通達、あのオービタルストライカーを警戒しろ。但し、攻撃を許可するか相手が攻撃してくるまでは手を出すな!」
それを聞いたハルカゼとデンソンが同時に叫ぶ。
「はぁ?どういう事だ!!」
「あれって味方じゃないんですか?」
「解らん、ただ、事前の打ち合わせもなしにこのタイミングでの援軍は有り得ない。しかも1機だけだ。不可解過ぎる」
「だったらここで打ち落としちまおうよ」
キースが余裕のない顔で具申する。しかし、グレンリーダーは顔を縦には振らなかった。
「待てっ、不可解だが完全に敵と決まった訳ではない。とにかく散開っ、まずはそれからだ」
地上でゴタゴタが続いている間にもオービタルストライカーは降下を続け、遂には高度150mの位置で静止し、大気圏突入さえも可能とするシールドウィングに包まれた白い姿を露にした。
攻撃してこない――どうやら味方であるようだ、とキースは溜息を吐いた。しかし、グレンリーダーは無人機とは言え未だ通信のひとつも遣さないオービタルストライカーに不信感を持っていた。
それに気付いてはいなかったのであろうが、“どうやら信じなかったようだな、御褒美だ”と言わんばかりに両腕のハイパービームベイオネットをバスターモードに、そこから光の帯を発射して周囲の森林を薙ぎ払った。
「うっ、撃ってきたぁ?」
「騙し討ちだと?ちいっ!!」
先程からオービタルストライカーを味方だと信じていたハルカゼとデンソンは頭の中が白くなり、それぞれに驚愕と怒りにも似た感情を覚えた。
「くっ、各機に通達。散開しつつオービタルストライカーを破壊。キースは全速でこの場を離れて援軍を警戒しろ・・・行くぞっ!!」
敵はオービタルストライカー――Jインフィニティーのスペックダウン機だが、その性能は現主力の第2世代PFの比ではなく、1機とは言え第3世代PFでも簡単に墜とせるようなものではなかった。
結局、移動中なら大した敵は出てこない。誰もがこの時間が続く事を祈っていたが、その祈りは意外な敵の出現に脆くも崩れ去ってしまったのであった。
Chapter3 蠢動:〜戦略機動強襲(後編)
ミラムーン宇宙軍軌道強襲用SPFオービタルストライカー。アルサレア軍にすら存在しないJインフィニティーの量産型、事実上ミラムーン最強の機動兵器である。
軌道強襲とは、敵戦力のない衛星軌道上から任意の場所に降下する事によって、迅速かつ高度な展開を可能とした「戦略的」な用途を内包するものである。また、この機体は宇宙空間での運用も視野に入れて開発されたため、ミラムーンでは特別にSPF:Strategy Panzea Frameと分類されている。
何故こんなものがミラムーンに存在するかには理由があった。
Jインフィニティーはミラムーンの協力の下で建造が進められていたが、技術的水準の未到達が原因で設計が完了した時点で凍結されていた。そしてその時期にミラムーンの何者かが、或いは国家が先導してその設計を自国兵器に流用したのではないかと言われており、結果誕生したのがこのオービタルストライカーであるとされている。
尚、余談ではあるが、これには用途に応じて2タイプに分類される。ひとつは主に無人機で構成され、背部シールドウィングで機体を保護しながら単独で直接大気圏に突入、その後に拠点対空迎撃網を破壊、或いは撹乱する先制強襲用のA型。そしてA型展開後に集団で降下、重火器を用いて強力な打撃を与える拠点制圧用のB型に分類され、それぞれ別々にアレンジされている。
明確な役割分担によって攻撃に幅を持たせるのが主な理由ではあるが、実際には偽装も兼ねていた。尤も、その目論見はあっけなく崩れ去ってしまうのではあるが。
しかし、流用が発覚した後のアルサレアの反応は意外なものであった。秘密裏にJインフィニティーの設計を基に造ってしまったものを高度な政治的取引で半ば追認的に正当化させたのである。それは強力な機動兵器による制宙権の確保はアルサレアにとっても悪い話ではなかったという事である。
その一方で、それをきっかけにミラムーンはアルサレアに尻尾を掴まれているような状況にあると言っても過言ではないのだろう。今回は許してやるが――と、いうようにインフィニティーシリーズは開発経緯だけを取ってみても、やはりどれも因果な機体であり、今回のグレン小隊に対する機動強襲はその皮肉にさえ見えた。
突如降下してきたオービタルストライカーA型は援軍ではなかった。
しかし、一時的とは言えヴァリムに接近していたミラムーンであったが、現在の大統領は親アルサレア派である。
だが、少なくとも現状においてそんな事は事態の何の解明にも繋がらない。わざわざ調査に向かわせておきながら、その調査部隊に攻撃を加える事の意味が全く不明であった。
つまりそこには「何者」かの「何らかの意思」が存在する事を意味していた。
オービタルストライカーは6機のPFの内、最も撃破し易そうなJブレイカーにハイパービームベイオネットの狙いを定めた。正しい判断である。
如何にオービタルストライカーの性能がPFに比べて圧倒的であったとしても、大気圏突入の代償にA型の武装は中・近距離主体のハイパービームベイオネットのみでしかなかった。
その意味では体良く頭数を減らすにあたって強力な武装を持つが比較的機動性の低い遠距離攻撃型の機体を優先して攻撃するのは当然である。
反対解釈をすれば、そもそも、ここにいる面々は全てアルサレアでも指折りの精鋭ばかりである。それに単機で挑む時点で全機撃破など期待していないだろう。
おそらく時間稼ぎ、グレンリーダーは直感で感じていた。
こちらがいくら思索を巡らそうとも、相手はオービタルストライカーA型――無人機である。攻撃を待ってはくれない。向けられた銃口を中心にキースの視界が蛍光ピンクに明るくなる。すかさず回避運動、上昇する。中距離射撃戦で頭を押さえられれば不利になる。
こちらの動きが半歩早かった。放たれた光速の弾丸は機体の足元を掠める事なく通過した。回避成功。
敵も上昇、距離をとるにも相手の方が空中戦に向いている。相対距離は変わらない。上を取られてはいるが、それでも地上で避けるよりかは幾分かマシである。
更に攻撃を受ける。両腕からの連射だ。射撃が的確過ぎるために回避スペースには余裕がある。ブースト全開で全弾を回避。
「何だってんだよっ・・・くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
射撃の初弾は相手の逃げ道を塞ぐのが基本である。だからこそ回避方法も熟知していなければならない。キースはスナイパーである。正確な射撃だけでは優秀なスナイパーとは言えない。所詮は無人機だ、正直過ぎる。
集中的に攻撃されているキースは悪夢のような光の嵐を何とか回避し続けていた。彼にとってそれは難しい事ではなかったが、今まで戦った事のない、むしろ戦う事はないだろうと考えていたオービタルストライカーの軌道強襲に少なからず動揺を、そして焦りを生じさせていた。
「させるかっ!!」
「キースっ、今助けるわっ!!」
ハルカゼとアイリがブレードを片手に後ろから斬り掛かる。
キースに集中して狙いを定めていた敵は簡単に2人をその懐に入れてしまいコクピット辺りに致命的な斬撃を受け「ズシャァァッ」という音と共に崩れ落ちた。あっけない幕切れである。
「・・・ふん、この程度か・・・あの機動兵器に比べれば遥かにマシな相手だったな」
「なんか拍子抜け・・・」
「いやーっ、助かったよ、面目ねぇ・・・」
「ほんとうに面目ありませんですよねぇ・・・」
「・・・サリアって、なんか最近俺っちに冷たくないか・・・?」
簡単に撃破出来た事は喜ばしい事なのだが、表情はさして明るくはなかった。突然の意味の解らない展開に困惑せざるを得なかったからである。
「さて、俺っちも大丈夫な事だし、先に行こう・・・・・・げっ!!6時方向、また来やがった、敵影4!!隊長っ、ここからでは大気圏に突入している瞬間でないと撃破出来ない。チャージとロック時間の関係で最低1機は残るだろうから警戒しておいてくれ・・・おっと隊長は撃たなくてもいいぜ、切り札は切らないから切り札なんだからな!もしそれが奴らの目的だとしたら、いきなり奥の手を見せる訳にも・・・いかないでしょっ!!」
キースはエネルギーバスタービームキャノンを構えようとしたグレンリーダーを止めた。
確かに切り札をベストな状態で温存しようとした彼の選択は正しい。実際にJインフィニティーの実戦運用は初めての事である。加えて切り札のエネルギーバスタービームキャノンは一応試射試験はクリアーしているものの、それは最大出力ではなく、それでもなお一度撃つ毎に2分の冷却時間を要していた。
つまり、囮部隊にエネルギーバスタービームキャノンを撃たせる事によってJインフィニティーのエネルギーバスタービームキャノンを破損ないし沈黙させ、その後に本体を送り込んでくる可能性もあるのである。
仮にそれが向こうの思惑であった場合、僅かな抑止力としてのJインフィニティーの存在は必要である。
その間にもオービタルストライカーは降下を続けている。
オービタルストライカーA型は背部に強力な耐熱防御を誇るシールドウィングを装備しているからこそ大気圏突入が可能なのである。
それは一応大気との摩擦熱と、降下中であっても、ある程度の対空迎撃に耐えられる装甲は持っているものの、やはり突入中にまでメガバスターランチャーなどの高出力長距離精密射撃を防ぐ事は想定されていない。これ以上の装甲増加に伴う重量増加は大気圏内での飛行に差し支えるからである。
尤も、完全に降下してしまえばレーザーマシンガン程度の威力ではどうにもならないような耐熱防御力を発揮する。つまり、相手が攻撃も防御も出来ない降下中というタイミングでのメガバスターランチャー超長距離精密射撃で敵のシールドウィングの耐熱限界を突破し、そのオーバーヒートを以ってシールドウィングを破壊する事で耐熱防御が大幅に低下した機体は突入時の摩擦熱に耐え切れず爆発するという算段である。
しかし、繰り返すようだがオービタルストライカーは組織戦闘を前提として設計されているため1機だけではどうにかなったとしても複数で現われた場合には手がつけられなくなる可能性がある。そのため、キースに残された時間は僅かなものであった。
ここでひとつの疑問が生まれる。それはオービタルストライカーを少しずつ降下させているという事である。
一気に降下させた方が遥かに効率は良い筈である。しかし、第1波は1機だけであった。その状況では相手にこちらを殲滅する気がないと考えるのが自然であるが、そう考えれば目的は時間稼ぎになる。
しかし、それは解っていても何に対して時間を稼いでいるのかが全く不明であった。
Jブレイカーはその場に右膝をつくと背部右に搭載されているメガバスターランチャーを背中から腕の下を通して前に引き出し、右腕と一体化させた。
「え〜っと、スナイパーモードっと・・・」
キースはスティックの左にある「W Lock-on」と表記されたボタンを押す。文字と数字の羅列がサブディスプレイに溢れる。人工衛星とのデータリンク開始。ロードには少し時間が掛かる。
――ロード完了。コクピット内ではキースの目前に専用の超高性能照準器が現われ、レーダーはスーパーサーチに移行、レーダーレンジは人工衛星の支援を受けて更に広がり、電子的にではあるが遥か彼方のオービタルストライカーを驚く程鮮明に捉えた。
――このくらいは当然である。Jブレイカーは長距離支援ではなく長距離精密射撃に特化した、そのためだけの機体と言っても過言ではない。
しかし、光点も辛うじて視認出来る程度ではあっても、それは大気圏内での最大射程距離に僅かに入る程度、命中精度が保障されている有効射程距離どころかロックオン可能距離でさえ遥かに越えている。高度差はもちろんの事、距離があり過ぎた。相対的に迎撃可能時間は更に短くなる。ロックオンするまでにあまり余裕はない。
全機を迎撃するに必要な所要時間を実際に迎撃出来る時間から引いた数値は最初の時点で既にマイナスを示している。全機破壊は不可能。しかもこれは最高数値のため更に悪化する事はあってもこれ以上改善の余地はない。
まだか、まだか、とキースの緊張感が高まる。
ようやく目標がロックオン可能距離内に入る。目標を捕捉。HUD(ヘッドアップディスプレイ)に映る4つの光点にそれぞれ黄色のカーソルが追加され、その内1つにロックオン開始を表す風車のような回転カーソルが追加された。色は黄色、少し見難くなる。
続いて自動追尾開始、メガバスターランチャーの銃口が初めは大きく、そして徐々に小さく敵を追う。
HUD内には僅かな誤差をも修正するべくして目標を中心に上と斜め下左右から三角形を形成するように三角形のカーソルが3つ追加された。それが中心に向かって接近しているのは人工衛星との相互リンクによる三次元空間認識によってXYZの3軸から目標を空間的に把握している事を表している。
三角形のカーソルが近付くごとにカーソルの回転が速まっていく。その回転速度は情報処理速度と比例関係にある。初めは遅いが、精密さが必要とされるに従って徐々に速度が上がっていく。止まるのは全てのカーソルが重なってロックオンが完了した時である。そうなれば弾速は光速、外す事はない。
コクピット内に電子音が響き渡る。長距離精密射撃は銃身の一ミリの誤差ですら容認出来ない。そのため完全にロックオンするには時間を要した。
「カモン、カモン、カモン・・・1機っ、もらったっ!!」
カーソルの回転数と比例して電子音は徐々に早くなる。心臓の鼓動もそれに合わせて早鐘を打つ。
全てのカーソルが光点に重なる。ロックオン完了、カーソルが赤くなる。射撃可能。
キースはトリガーを引く。その瞬間、Jブレイカーの周りの空気がシアン色の光で満たされ、灼かれていった。その機体の放った一筋の光条は恐ろしい程の精度で降下中の光点へと吸い込まれ、その光点を大きく輝かせた。手応えあり。
「よしっ、まず1機・・・次っ!!」
キースは幸先良いその結果にコンマ数秒間満足すると、すかさず次の目標に狙いを定めた。
二機目は既に有効射程距離に入っている。敵が近ければ近い程誤差が容認されるためロックオンは早いが、既に迎撃可能時間は殆どなくなっている状態にある。それに反比例して焦燥感は更に高まる。このままでは次の迎撃さえも危うい。
「冷却には時間が掛かるが・・・そんな事知ったこっちゃねぇ!!」
ロックオン完了、メガバスターランチャーは再びシアン色の光を吐き出した。
スナイパーモードの光は見た目こそ普通のバスターランチャーと変わらないが、その威力は数倍――ファイナルハイパーモードとの併用では数十倍にまでの違いがある。当然そこまでの出力で銃身が無事で済む筈はなく、出力と冷却時間は正比例する。
問題は、冷却を必要としながらも連射自体は可能だという事である。事実、Jブレイカーのメガバスターランチャーの銃口付近は撃ち終わった後でも広く陽炎を纏い、その熱量の凄まじさを物語っていた。
「ふ〜っ・・・これで半分、せめてもう1機・・・」
ロックオン動作は自動で行われる。その僅かな時間にキースは安堵の溜息を吐く。
Jブレイカーは再びメガバスターランチャーを空に向かって構えた。冷却時間のない連続発射によって銃口は既に赤熱化し、次の発射を以って銃身が曲がり使用不能になる可能性さえあった。そんな事に構ってはいられない。
「ちょっと連続発射だったかな〜っと・・・保ってくれよ・・・」
メガバスターランチャーはバスターランチャーの後継武器で、THEL(戦術高エネルギーレーザー)キャノンに分類される極めて強力なものである。しかし、メガバスターランチャーは従来のバスターランチャーとは明らかにケタの違う攻撃力を持っているが、その反面、冷却に時間を要するため連射には向かない。
しかし、状況が状況のため手段を選んではいられなかった。
ここでメガバスターランチャーを温存したとしてもオービタルストライカーに接近戦へと持ち込まれては本末転倒である。確かに『紅い機動兵器』を相手にする時への不安は残るが、ここでメガバスターランチャーを犠牲にする事で全体的な戦力、特にJインフィニティーの温存が出来れば、それは到達である。
これは組織戦闘としてはごく当たり前の選択であると言える。
キースは照準器を凝視していたが、あってはならないものを確認した。体温の上昇を覆す寒気が通り過ぎる。
「んんっ・・・何だ?・・・ノイズが・・・隊長っ!!」
「どうした!!」
「なんかノイズが入るんだ・・・くっそぉぉぉぉぉっ、狙いが定まらない!!」
HUD内には砂嵐が現れている。情報処理が難航しているのか、回転カーソルの回転速度が上がらない。射撃不可。キースの焦りは頂点に達している。既に敵の降下完了まで時間はない。
「ノイズですかぁ?こっちには何も入ってませんよぉ」
「故障かっ・・・とにかく、ここで温存しても結果は変わらないだろう・・・構わん、撃てっ!!」
「・・・くっ」
オービタルストライカー2機に囲まれた場合にJブレイカーは確実に撃破される危険性があった。遠距離重視の自機が一番狙われ易いというのは既に解り切っている。
尤も、人工衛星の支援による精密なロックオンが出来ていないだけで通常のロックオンは可能である。命中の可能性が全くない訳ではなかった。
キースはそれに賭けるように完全に回転カーソルが止まるまでもなくトリガーを引く。
周囲がシアン色に満たされ、三度目の光条が敵へと向かって伸びる。――が、僅かに空を薙ぐ。直撃弾なし、命中せず。賭けには負けた。
「外したか?・・・いやっ、まだまだだっ!!」
キースは右手で照準器を外し、左手でスーパーサーチを解除、途端に砂嵐が消え去った。そして目視を頼りに銃身を微調整、敵を追尾するが、僅かに逸れて目標周囲に円を描くような格好になった。機械でさえ時間が掛かる作業を人間でしようというのだ、完全に捉えるには更に多くの時間が必要であった。
それでもしなければならない、最後まで足掻く。キースは敵を追い続けた。その間も銃口からは光が止めどなく溢れる。そこから生み出された熱量で銃口部は僅かに融解、銃身は僅かに曲がり始め、それがやがて命中の妨げに拍車を掛けた。
そして―――
「やべっ!!」
突如としてコクピット内の照明、機器類の光など、光という光全てが消灯し、完全な暗闇となった。
オーバーヒートどころではない、無理をして撃ち続けた結果の完全なエネルギー切れである。機体の冷却を含め回復までには時間が掛かる。
ここまで超高出力のレーザーを3度も連続で放ち続けた機体は否応なく機能を停止せざるを得なかった。
「こちらキース・・・機体停止・・・俺ってカッコ悪いぃ・・・出来れば護って欲しいな・・・」
通信の終わりに溜息が漏れた。
この時彼らはそのノイズの本当の原因について気づく者は誰もなく、ノイズの発生がJブレイカー以外に出ていない事から誰もが単なる故障と考えていた。
キースが戦闘から脱落するも、その精密射撃を免れた2機が大気圏を突破し、こちらに向かっていた。
「出来れば温存したかったのだが・・・」
グレンリーダーはエネルギーバスタービームキャノンを構えた。しかし、それをハルカゼも止めようとした。
「待てっ、ここでそれを使うのは得策ではない。おそらく上のヤツは突入を完了している筈だ。この距離だ、もしかしたらそのキャノンを回避する事が出来るかも知れない。さっきのノイズの原因が何かは解らんが、撃った後のチャージ中にでもヤツが出てきたら我々は全滅するかも知れん。とにかくたかが2機だ。Jインフィニティーは温存して接近戦でカタを付けよう」
正論であった。確かに正しい。
しかし、グレンリーダーは自分が今回の作戦の切り札だという事を忘れていた訳ではない。これは、自分を犠牲にしてでも全員を助ける事への覚悟の表れであり、作戦の成功のために仲間を犠牲にする事など彼の頭の片隅にも存在していない事の証明でもあった。
「・・・すまない・・・Jブレイカーを連れて前進する」
グレンリーダーはエネルギー切れを起こしたJブレイカーをその巨大な腕部で抱えあげる。右腕のエネルギーバスタービームキャノンが重々しい。
2機はオービタルストライカーとの反対方向――研究所の方向へ向かった。
4機のPFが待ち構える中、ついに2機のオービタルストライカーが降下した。組織戦闘を前提に製作されたこの機体の撃破は1機で相手にする事よりも遥かに困難な事だろう。
そして、皆気付いていなかった。キースのJブレイカーに起こったノイズの原因を。
そして、その答えとなる未だかつてない現象が惑星Jに起ころうとしていた。
Chapter4 紅光:〜復活の機動兵器
降下した2機のオービタルストライカーはその姿をグレン小隊の前に現した。
羽のような背部シールドを持つその白い天使を思わせる美しい外見をこうも禍々しく感じたのは彼らにとって初めての事だろう。
先程の相手は容易に撃破出来たとは言え、そもそも油断できる相手である筈もなく、ひとつ間違えば一瞬で命を失う事になるかも知れない。極度の緊張に晒されている全員がそれを肌で感じていた。
2機のオービタルストライカーは離脱したJブレイカーとJインフィニティーを除くPF4機を縦から囲むように空中で左右に別れた。
1機目の行動に疑問が残るが、基本的にオービタルストライカーA型は地上に降り立つ事はない。オービタルストライカーA型の持ち味は機動性である。それが空中で最高の効力を発揮する事はメイン移動が飛行であるインフィニティー系の特徴でもあった。
そして双方はグレン小隊を中心に半径2km程離れた空中を高速で旋回しながら地上にいるPFにハイパービームベイオネットの強力なビーム射撃を仕掛けてくる。
「あの機体・・・速いっ!!」
アイリは叫ぶ。スペックダウンしているとは言え、この状況ではJインフィニティー2機を相手にしているのと変わらない。
皆、一応に回避はするものの敵の速度は速く、サリア以外のPF――アイリは近距離格闘装備を、他の2人は中〜近距離実弾兵装を主体としているだけになかなか踏み出すタイミングがとれないでいる。
囲まれている状態では分が悪過ぎる。回避し続けているとは言え一撃でも直撃すれば無事では済まない。しかし、このまま手を拱いていれば徐々に削られ、いずれ直撃する事となるだろう。そんな事は解っている。まずは基点を作らなければ――アイリは唇を噛み締める。
「くっ・・・・・・囲まれては・・・アタシとサリアは西、少佐とデンソン少尉は北方向に散開。各個撃破されないように気を付けてっ!!」
アイリは指示を飛ばす。もっとも、この時点で戦術全ての見通しがあった訳ではない。ただ、囲まれて一方的に攻撃されているという現状を打開する事から始めなければならなかったからである。
そもそも作戦、戦術は全て図形を書く事と同じである。その完成形を如何なる立体に仮定するとしても必要になるのが起点である。そして線を引く事で基礎を作り、そこから発展、展開させるものである。
囲まれた4機のうち3機が飛び立つ。しかし、そこにひとつ残ったのは・・・いや、明らかに出遅れたのはデンソンの量産型Jアサルトであった。
「デンソンッ、何やってる、早く来いっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
デンソンからは何も返答がなかった。しかし、彼の中ではその一瞬の間に心境の劇的な変化があった。
空気中に電流が走っているかのような緊迫した空間。頭の中が痺れるような印象を受け、一瞬が無限のように感じる。何も考えられない。考えても思考が纏まらない。
この状態で頼れるのは思考ではなく心。そして経験。後はそこから一歩踏み出す勇気だけである。しかし、デンソンは躊躇していた。
相手はただ1機中心に直立しているデンソンの量産型Jアサルトを何かしらの作戦と判断、脅威として認識していたため現実には一瞬の事であるが膠着していた。それがデンソンの契機となった。
視界が一瞬白くなった。そして何事もなかったかのように不思議な感覚はすぐに消えたが、何か違和感がする。視界が何かと重なって二重にすら見える。
目の前のオービタルストライカーがみるみる紅く塗られていく。重なって見えたのは紅い機動兵器。
敵はこちらを睨むように見ている。そして襲い掛かってくる。これはあの時の再現だ。
振り下ろされる巨大な爪、自分が死んだような感覚がする時もあるのだろうとデンソンは思った。だが、それは間違いだった。痛みは感じない。自分はまだ死んではいなかった。
混乱する。混乱しても確かに頭の中で心の叫びが聞こえる。「死にたくない、死にたくない」と、心が何度も叫んでいる。
その度に紅い機動兵器は何度もその爪を振り下ろす。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
腕が震え、喉が灼けるように痛いのだが、それすらも気にならなくなっていた。それでも自分の叫びを聞いて自分が生きている事が確認出来た。何度も振り下ろされる爪にはもう麻痺しつつあった自分に気付いた。
そして、思考には徐々にではあるが余裕が生まれつつあった。
しかしながら思考力が戻ればそれは地獄のようなものである、自分が死の危機に直面しているというのを頭で理解させられるのであるからだ。
その恐怖と戦うのは並大抵のものではない。それでも『どうせ死ぬくらいなら』頭の片隅でそう開き直っている自分がいて、その意識が徐々に勢力を拡大している事を感じ始めていた。
(逃げ出したい・・・相手はオービタルストライカー・・・まともに戦ってどうにかなるような相手じゃない。・・・いや、ここにいるのはグレン小隊・・・現に1機を一瞬で撃破したじゃないか・・・俺だって・・・俺は逃げない・・・絶対に逃げない!!)
デンソンは心の中で叫んでいた。何かが弾けたようであった。それは声にこそ出てはいなかったが、これからオービタルストライカーに向かって格闘戦を挑む姿は今までの彼からは誰も想像も出来なかった。
誰が見ても極度の緊張で錯乱したようにしか見えないだろう。事実彼の思考はここで切れており、ここから先の事は考えて行動した事ではない。
つまり一般的に「キレる」と言われる状態であるが、これが今後の彼に与えた影響は大きかった。
デンソンの量産型Jアサルトは突然狂ったかのようにオービタルストライカーに向かって右腕のガトリングガンを乱射し始めた。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
凄まじい量の薬莢が足元に飛び出していった。オービタルストライカーは向けられた銃口が吐き出した弾丸を僅かに体制を捻って回避、そしてハイパービームベイオネットをバスターモードにする。発射。
視界が急に眩しい光に満たされた。その直後、チリチリと嫌な音がした。振動から何かが灼けたような感覚を覚えた。その時既に量産型Jアサルトの右腕が消滅していたが、デンソンは少しも気に留めてもいなかった。
「うっ・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
この叫びは恐怖に慄いたからではない。そして叫びと共に倒れ伏したのではない。それは敵へと向けられた攻撃の意思表示。
彼は倒れそうになっていた機体の足をブースト全開で踏ん張り、反動で飛翔。同時に残った左腕のアーマードガントレット、ビームブレードを展開、敵に突撃する。
機体は蒼い光を纏っていた。オーバードドライブユニットの起動である。これは彼が任意展開したものではない。もちろん任意展開も可能なのであるが、この機体はデンソンのために格闘武器を装備した状態で速度が一定以上になった時点で自動展開されるように設定されていた。
オービタルストライカーはデンソンの量産型Jアサルトを迎え撃つようにその場に静止し、右腕のハイパービームベイオネットをブレードモードにしながらもう一方からビーム砲を放つ。
デンソンはそれを辛うじて回避――いや、ただ機体を左右に振っていると言った方が正しいのかも知れない。しかし、全く洗練されておらず無駄の多い・・・良く言えばタイミングの予想が難しい動きで直撃だけを回避していた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その咆哮と共にブレードを振り下ろした。しかし、待ち構えていた敵は右腕のブレードでそれを受け止める。
双方の機体は空中で激突し、双方のブレードは互いに斬り結ぶ。
しかし、本体重量が軽くとも運動エネルギーで圧倒的に上回る量産型Jアサルトは、ふた回りは大きいオービタルストライカー右腕のブレードを弾き飛ばす。
「ガキャァァァン」
――金属のぶつかり合う凄まじい音が空をこだまする。
しかし、その音の主は量産型Jアサルトではなかった。
オービタルストライカーは量産型Jアサルトのブレードによって右腕が弾かれ、更にその後のオーバードドライブによる本体突撃によって押し潰される形となった右腕は無残に引き千切られ、完全に吹き飛ばされたのであった。
しかし、量産型Jアサルトが突撃を終え、オービタルストライカーとすれ違った瞬間に敵は素早く反転、生きていた左腕ハイパービームベイオネットからビーム砲を発射、量産型Jアサルトのメインフレーム下部を撃ち抜いた。パイロットのダメージに左右される事のない無人機ならではの的確で安定した攻撃である。
「のわぁぁぁぁっ!!」
凄まじい衝撃がコクピットを伝い脳を揺らす。彼の思考は既に途切れていたが、これで彼の意識は完全に途切れた。
幸運な事にその衝撃でメインフレーム下部に2発ずつ内蔵されていたミサイルに誘爆、機体は大きく吹き飛ばされた。そのため、その瞬間にとどめの攻撃である数発のビーム砲を受けて爆散する事は免れたのであったが、メインフレーム直撃――正確には腰部にあたるのであるが、ジェネレーターやブースターなど駆動系の中枢を破壊されれば、PFは完全に機能を停止する。
最早量産型Jアサルトに姿勢を制御する能力は残ってはいなかった。余程の衝撃だったのであろう、脱出装置が故障しているのであろう、コクピット強制排除がなされていない。そして、それが作動する事もないまま巨大な金属の塊となったそのまま地面に叩きつけられ、地面を削る。
尤も、Jアサルトのメインフレームは内蔵武器の関係で比較的上部に存在するため、デンソンは最低でも爆死はしていないと考えられるが、脱出装置が故障するような凄まじい衝撃では緊急的生命維持装置であるロイヤルセーブシステムさえ作動せずに圧死している事は十分に考えられた。
どちらにしろ、少なくとも無傷である事は確実に考えられない。
オービタルストライカーはデンソンの量産型Jアサルトが墜落した方向を見ていた。そして左腕を前にかざして次こそ止めを狙っていた。
「デンソン・・・やるじゃねぇか・・・うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ハルカゼは「よそ見」をしているオービタルストライカーに向かって最大出力で向かっていった。
そしてもう一方アイリは自機前方をこれから通り過ぎようとしている「もう1機」に狙いを定めた。
「サリア、援護してっ!!」
「ハイですぅ」
1機だけ突出しても勝てない――突然の援護要請であったが、2人は長い付き合いである。その程度の事に僅かな思考も必要としない。言うなれば2人のそれはさながら反射と言えるようなものである。
サリアのJフェニックスカスタムが急速上昇、下に見えるオービタルストライカーにディバイドビームライフルを放った。横軸七連の蛍光ピンクの光の帯が目標に向かって伸びる。
しかし、敵は難なくそれを回避する。所詮はバレバレの攻撃である。
しかし、サリアは撃ち続ける。2回、3回――掠る事さえないが、5発目の攻撃は遂に目標を完全に捉えた――が、直撃するも天使の羽がその体を翼蔽するように背部シールドウィングで完全に防がれている。ディバイドビームライフルの照射時間は1発につき約3秒。数発叩き込めば或いは、しかしこの攻撃では火力不足、確実に貫通する事はない。
だが、その光の帯を纏うかのように突撃するひとつの蒼い光が見えた。それはオーバードドライブ展開時の蒼い光を機体中に湛えたアイリのJスラッシャー、そして前方にその刃を光らす超重実体剣――ブーストブレード「斬貫刀」であった。
それはビームの光に欺瞞されて肉眼はおろかメインカメラからでも見る事は出来ないだろう。
「Rocket Dive・・・Ready GO!! ふたつめ、いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
Jスラッシャーは斬貫刀を使用する事を前提に瞬間加速性能を限界まで高めた機体である。
背部ハイパーバーニアに腰部HDDバーニア、機体各所に装備されているブースター、そこから瞬間的に捻り出される速度はマッハ2超。飛行変形の出来ない機体では最高クラスの速度である。
そして、それは最早一般の兵士には視覚認識不可能なレベルである。
しかし、彼女は違った。超高速時の視覚認識能力の限界が明らかに高い。一言で言えば頭の回転が速いのだが、それだけでなく彼女は超高速時でも視野狭窄や視力低下の影響が少なく敵を見失う事がないため、隼のように敵を屠る事が可能なのである。
これらの能力はアルサレア軍の中でもトップクラスであり、彼女が『ロケットアイリ』と呼ばれる所以でもある。
空気を裂く音が咆哮のように聞こえる。しかし、既に音源はそこに存在しない。機体はブースト点火とほぼ同時に最高速度に達するために客観的には消えたようにしか見えないからである。
背部ハイパーバーニアに腰部HDDバーニア、左腕のシールドブースター、そして斬貫刀――機体本体、武器に至る全ての推進機構の全ての出力を開放した一撃を見切る事は出来ない。仮に出来たとしてもこの距離での回避は不可能である。
「ズヴァシャァァァァッ・・・」
小爆発を思わせる程の火花を散らし、遅れてJスラッシャーの装備するブーストブレード「斬貫刀」の特徴的な斬撃音が空に響く。
アイリと合間見えたオービタルストライカーは斬貫刀の名の通り「斬り貫かれた」。
その断面は斬り裂かれたというような生易しいものではなく、速度と、それに裏付けられた重さで拉げ、叩き潰されていた。
そして横一閃に両断されたオービタルストライカー「だったもの」が運動エネルギーをその身に一身に受け、勢い余って地上の森を暴れ回り、一直線に薙ぎ倒された木々が衝撃の凄まじさを物語る。
おそらくパイロットが乗っていた場合は圧死していたであろう。
「はぁ、はぁ・・・これでまたひとつ・・・ナイスサリア!!」
アイリが親指を立てながら年齢不相応な笑顔をする。まだまだ若い。
「やれやれですぅ・・・」
時間にすると一瞬の出来事であったが、戦闘というものは肉体が直接疲労する事もあるが、多くの場合は極度の緊張、感覚の瞬間最大集中によって精神的に疲れるのである。
一方、逆方向へ飛んだハルカゼは手負いのオービタルストライカーとビームブレードで激しく斬り結び、鍔迫り合いを繰り返していた。
それでもやはりオービタルストライカーはパワーでJアサルトを遥かに上回っている。このまま接近戦を続ける訳にはいかない。
「やけに剣道が御上手じゃないか・・・あぁ?ミラムーンの落ち武者さんがよぉぉぉっ!!」
パワーでは勝てはしない。どうにかして相手のパワーを利用しなければ隙を作る事もままならなかった。
Jアサルトが小回りを利かせた圧倒的な剣捌きによってハイパービームベイオネットの大振り誘い、素早く回避する。空振りしたブレードを横目に確認すると、その瞬間にビームブレードを振り下ろす。隙を見せた方が悪い。
しかし、決まるかに思えたその一撃はオービタルストライカーの天使の羽のような背部シールドウィングによってそれを受け止められた。
「くっ・・・カッコつけるんじゃねぇよ!!」
ハルカゼは急加速してオービタルストライカーを押す。それは僅かに敵を後ろに押しやっただけで、機体の大きさや重量を考えれば全く意味の解らない行動である。しかし、敵も負けじと加速した瞬間に彼は急制動を掛け、木の葉が風に流されるかのように機体を半回転、オービタルストライカーの背後をとった。狙い通り、所詮は無人機である。
「バカが・・・押すだけが戦闘じゃないんだよ!!」
Jアサルトはビームブレードで無防備状態の背中を一閃、素早くブーストを発動して相対速度を合わせる。出来得るだけ長く深く斬撃を加えるためである。
ようやくメインフレームに大穴が開いた。串刺し状態である。ハルカゼはこれでもかと言わんばかりの力でブレードを振り抜いて敵を投げ飛ばす。そして、そのまま吹っ飛んだ敵に向かって後ろからガトリングガンを見舞った。
「そらそらそらそらそらっ、早く逃げないと蜂の巣になっちゃうよぉ・・・はははっははっははははははははっははははははは!!」
オービタルストライカーA型の背部シールドウィングは耐熱特化仕様のため、熱系攻撃の効果は非常に低いが、実弾攻撃に関しては僅かに劣っており、PFのシールドより少々高い程度の実弾防御力しかなかった。もちろんその「少々」が致命的なネックと言う訳ではなく、ヘルファイヤの一撃くらいは耐える事が可能であった。
そもそもPFとは規格外の大型機である、同じように比べてはならない。しかしながら、数少ない対処法の中で実弾攻撃によるシールドの破壊が現状最も効果のある手段ではあった。
シールドウィングを貫かれ、加護を失った天使のように次第に原型を崩してゆくオービタルストライカーを見て、ハルカゼは唇が吊り上がるのを堪えられなかった。
その形相は笑顔でありつつもどこか狂気染みたものすらであった。
しかし、先程キースに起こった異変が今度は全員に起こった。
「はははははははっ・・・何だ・・・ノイズだと?」
ハルカゼの思考がニュートラルに戻った。
「何これ・・・レーダーが何にも映・・・ない・・・」
「私だけじゃなかったんですかぁ!?」
どうやらレーダーだけでなく通信障害も出てきているようである。
その異変はそれだけでは収まらなかった。HUDにすら砂嵐が目立つようになってきていた。
「くうぅぅぅっ・・・何も見えん・・・『擬似映像』システムを解除!デフォルトルートで映せ!!」
擬似映像システム“デフォルメルート”とは、メインカメラに映った情報を直接コクピットに投影するデフォルトルートではなく、それを一度3D処理を行ってから投影するものである。
これによってパイロットは戦場で人間の死体などの悲惨な光景や、ビームなどの光学兵器による眩惑を多少ではあるがカットする事が出来るため、極めてゲームをしているように錯覚させる事でリラックスさせる事を目的にPFへの採用が決まったものである。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・焦らせやがって・・・ふん、最初のガラクタと仲良く死んでやがれ!!」
吹っ飛んだオービタルストライカーは最初に現れたオービタルストライカーだったものの隣に伏していた。
「お見事です、少佐」
アイリがまたもや年齢不相応な笑顔で称える。
「そっちだって1機やったじゃないか・・・さて、グレンリーダーはどうなったかな?」
ハルカゼは戦果報告を行うためにグレンリーダーに通信を繋いだ。凄まじいノイズではあるが、何とか聞こえるくらいにはなっていた
「・・・グレン・・・ダー、聞え・・・か、こちらハルカゼ・・・敵機の殲滅を完了。尚、デンソン・・・が撃破された・・・・・・これより救援に向・・・・・・ます」
「・・・そうか、早かったな、流・・・・・・こちらはキースが回復した。こ・・・・・・待機する」
グレンリーダーが短い通信を終えると、ハルカゼはオービタルストライカーの撃破を『目視』で確認、撃破されたデンソンの下へ急いだ。
デンソンの量産型Jアサルトは右腕と腰から下を失った無残な姿で横たわっていた。幸いコクピットに直撃している訳ではなかったため、「確実に死んでいる」という保証はなかった。
「デンソンっ!!・・・生きてるか!!」
ハルカゼは熱で癒着しかけているコクピットハッチを無理やり抉じ開けた。中はロイヤルセーブシステムの発動によって巨大なゴム鞠のようなもので包まれており、意識はなかったとは言え生存はしているようであった。
やれやれと、ハルカゼは呟いた。コクピットが強制排除されなかった事からロイヤルセーブシステムも故障していた可能性が考えられたからである。それが杞憂であって良かった、これが正直な気持ちである。
取り敢えずハルカゼはコクピットから出て、ゴム鞠を掻き分けてデンソンをコクピットから引き摺り出した。
(外傷・・・ないな・・・心拍数あり・・・流石にアバラが2・3本折れているな・・・まぁ1週間もすれば完治する程度だ)
簡易的なバイタルチェックである。一応生きているのでそのまま彼をJアサルトのコクピットに乗せて飛び立ったが、横目にはしっかりと量産型Jアサルトを捉えていた。
やはり、例え破棄するに十分な程に破壊されていようとも、僅かでも原形を留めている機体をそのまま残していく事に言い表せぬ具合の悪さを感じた。
「このまま置いておくのも具合が悪いな・・・」
ハルカゼは背部に装備していたキャノン砲を構え、そして量産型Jアサルトのコクピットを狙って撃った。一瞬機体各所に走る亀裂が光を湛えた。
周囲に爆散音が轟く。これによって既に大破しかけていた量産型Jアサルトは完全にバラバラになった。そして、ハルカゼの胸は愛着のあるであろう愛機を失った時にも似た何とも言えない寂しさに包まれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すまんな・・・・・・・・・」
そのまま爆散した機体を振り返る事なくアイリ達の方向へと向かった。
ハルカゼがデンソンを回収していた頃、アイリ達は既にグレンリーダー達と合流しており、何とかJインフィニティーを無傷で温存出来た事は大きな到達であった。
「全くキースは!!ちゃんともう1機墜としなさいよぉ!!」
「ホントですぅ・・・苦労したんですよぉ・・・全く、面目ないですよねぇ」
「悪かったな(笑)!!」
厳しいツッコミに苦笑するキース。そこには緊張を解かれた者の明るいやり取りがあった。
「すなないな、しかし、デンソン少尉は大丈夫か?」
「なんとかな、まだ意識は戻っていないが、コイツ・・・変わったぜ」
「そうか・・・しかし、このノイズは・・・確かこの1週間は恒星極大期だったが、今までこんな事はなかった。一体何が起こっているんだ?」
「やはりオペレータールームには通じんだろうな」
ハルカゼがふと後ろ、アルサレアの方向に振り返った時。
「・・・光?・・・・・・・・・隊長、また来たぞ。敵影1!!」
「何っ!!」
全てのPFが振り返った瞬間、今度は研究所側から凄まじく大きな爆発音がした。空気を揺らした衝撃がコクピットにまで伝わる。まるで地震だ。
「ぐぅぅぅぅぅっ・・・今度は何だ!!」
ハルカゼがまたもや振り向いた。しかし、彼はその瞬間に「最も見たくなかったもの」を見る事になったのであった。
「お・・・おい・・・あれは・・・・・・・・・」
屈強な筈のハルカゼの声が震えている。
それだけではない。
この周囲を包む空気自体が震え、悲鳴をあげていた。
「どうした!!」
グレンリーダーも振り向く。
「あれはっ!!」
そこには危険機体を思わせるような禍々しくも鮮血のように美しい「紅い光」が昼間にもかかわらず空に彩を与えていた。
管理人より
レビさんより第3話のChapter1〜4をご投稿頂きました!
流石、無茶苦茶なスペックですね、アレスは(爆)
そして続く・・・・