機甲兵団Jフェニックス外伝「虚空からの使者」

Scenario2 「響き渡る青い霹靂」










 

 Chapter0 奇襲:〜もうひとつの閃光。



 ――光あれ。
 ――世界は光に包まれた。



 闇――満天の星空は明るいが、闇に違いはない。

 突然、視界は白く包まれた。霧ではない、雪でもない、それは紛れもなく光。


 ――真夜中に夜が明ける。


 それに包まれる身体を駆け抜けるのは太陽の暖かさか――否、それは背筋の凍る冷たい戦慄。

 不思議と熱さは感じない、もう死んでいるのだろうか。


 目を閉じて、心の中で叫ぶ――光去ねと。
 幾度となく叫ぶも効果なく、それは瞼さえも突き抜ける。


 そして、大気を震わす轟音――何かが爆発したのだろうか。

 耳が痛い。――ただそれだけが感じられた。



 ――光去ね。
 ――世界は再び闇を取り戻した。


 目を焦がす白い痛みが引いてゆく。

 まだ――生きている。


 いつの間にかに立ち込め、辺りを覆うのは霧。

 闇は願いが聞き入れられたからか――否、――それは黒き絶望の始まりである。










 

 謎の閃光現象はアーマイル丘陵地と、ここファーレンのリテリア山脈中心部で起こった。

 それにより、平均高度3000mを誇った山脈の上半分が消滅し、そのオーバープレッシャーと高熱、舞い上がった砂塵によって一部の農業地帯に被害が出た。

 その直後、爆心地に最も近い西リテリアベースに駐留していたヴァリム軍司令部はテロを含めた全ての事態を想定。戒厳令を敷き、臨戦体制をとっていた。

 そして、爆発から1時間後、激しい電波障害の中、無人偵察部隊が進行した。

 だが、2時間経っても何の返信もなかったが、それは電波障害によるものとの認識によって放置され、その時点で事の真相に気付いた者は誰一人としていなかった。



 更に2時間後、爆心地中心部から北に向かって直径100m以上の光の帯が放射されたのが確認された。

 これは50km離れた基地からも視認が可能であった程であったと言われている。

 この事実から基地内は戒厳令の効果もなく騒然とし、司令官は全兵士を緊急出動させ、基地周辺10km圏内の哨戒を命じた。 

 そして―――



「ったく、何だったんだよあの爆発は、おちおち寝られもしないのかよ・・・ファーレンの過激派が核でも使いやがったか?」

「考えられん話でもない。しかし、さっきの光は一体何なんだ?・・・ちいっ、ファーレンの連中め、我々のお陰で他国からの侵攻から護られているという事を忘れているのか?」

 ヴァリムの兵士は驚く程余裕の表情をしていた。

 だが、それは建前だけで、実際は恐怖に怯えている自分に平静を装わせているだけであった。

 何故なら、ヴァリムは「力こそがすべて」の社会であり、殊に一般兵士に至っては如何に自分を強く見せるかだけに腐心するあまり横暴な振る舞いを行い、ファーレン国民から常に憎しみの対象とされていた。

 その悪循環の結果、この爆発の真相がテロであると容易に結びついたのであろう。

 しかし、人はいつの時代もその本質を容易に変えられるものではなかった。




「あ〜ぁ、どうせ奴等なんかにここを攻める度胸なんてねぇよ。・・・とっとと帰って寝ちまいてぇぜ、ファーレンじゃPFなんて来る訳ねぇからよ」

 二人一組の哨戒部隊のうちの一人が後ろを向いた瞬間。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 一筋の光が後ろからメインフレームを貫いた。その直径と収束度からおそらくパイロットは即死であろうと推測出来る。

「おいっ、どうした?はっ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

 今度はその光がまるで雨のように襲ってきた。そして二人目の機体は蜂の巣のようにされて倒れた。

 最早PFはその原形を辛うじて維持していただけに過ぎない状態になり、倒れた瞬間砂人形の用に完全にバラバラとなった。
 
 暗闇に、無慈悲に光る蒼い光条があった。

 だが、凄まじい速度で突入する蒼い機動兵器は既に基地から10km圏内に侵入しており、レーダーで確認されていた。

「緊急警報発令!緊急警報発令!謎の機動兵器が接近中。最終防衛ラインを突破し、基地接触までおよそ30秒。出撃中の機体は全機迎撃体制をとれ。繰り返す・・・」

 レーダーで辛うじて確認された機動兵器は戦闘機タイプ―――どう見ても人型ではなかったが、とは言え現状存在するどの兵器にも該当するものではなかった。

 そのまま基地へ突入すると思われた機動兵器は90度転針し、未だ基地に帰還していない哨戒部隊を内蔵する大量の光学兵器で次々と破壊していった。

 その頃基地では迎撃配備が完了し、後は目標が接触するのを待つばかりであった。



 一通り哨戒部隊を屠った機動兵器は基地中心部へ真っ直ぐ突入するのではなく、今度は急速に後退し、闇夜に消えていった。

「取り敢えず助かったか」

 ―――生き残っていた者達は安堵の表情を浮かべていた。

 しかし、その瞬間に末端部は直径200mにまで及んだであろう超高出力エネルギーキャノンを基地中心部周辺に放ち、CICを含む地上施設はほぼ壊滅、そして比較的性能の低いPFを一掃した。

 それを地下管制室で見ていた士官たちは驚愕した。

 如何に激しい電波障害によって遠距離レーダーが使えず発見と行動が遅れたとしても、たかが1機の機動兵器に大した反撃も出来ずに兵力の大半を一方的に減衰させられるとは常識からは考えられなかったからである。



「何なんだ一体・・・何機残った?」

 先刻の攻撃を生き残った赤いオニカスタムに搭乗する駐留部隊戦闘隊長であるケンリュウ=シドウ大佐が叫んだ。

 だが、迎撃に出ていた一般PFの殆んどが先程の砲撃で撃破されており、残ったのは士官用の比較的高性能なPFだけであった。

「くっ、これだけか・・・バケモノめ・・・」

 ケンリュウは唇を噛み、その表情は禍々しく引きつっていた。

 だが、その機動兵器は兵士達の戦慄をよそに突撃してきた。

 その時に機体は周辺の空気のイオン化によって蒼く輝き、さながら流星のようであった。

 その機動兵器は生き残っていたPFに光の雨を降らせながらマッハ4を遥かに超える速度で敵陣を飛び越え、すぐに反転して再度接近してきた。

「速い・・・っ・・・なんて速度で旋回しやがる!人間が乗っているとは思えない・・・まさか無人機なのか?それにしては人間的な動きをする・・・何者だ?」

 その動きは人間の限界反応を遥かに超えていた。

 だが、その戦闘行動はいかにも人間的で、機械とも言い切れなかった。

 そして、今度は人型に近い形態に変形した。

 人型と言っても既存のPFのような形ではなく、何とか五体があるという程度であり、何処となく猛禽類を思わせるフォルムであった。特に腕部は完全に光学兵器となっており、可動伸縮式の大型収束レールが装備されていた。

 これを見るだけでも中・遠距離戦闘用で、一撃が致命傷になるであろう事は容易に想像出来た。

 ケンリュウの鼓動は早まり、腕は震えていた。

 明らかにレベルの違う敵の出現に歴戦の勇士である彼でさえも焦りと恐怖から逃れられずにいた。

「これ以上はやらせん、やらせはせんぞぉぉぉぉぉぉぉ

 ケンリュウはそれを振り払うかのように両肩のレールキャノンを発射した。

 だが、その弾は着弾する事無く強力な蒼いエネルギーフィールドによって消滅した。

「なにっ?ちょこざいな。ならばっ、直接叩き潰すまで!!」

 遠距離戦は効果がないと見るやいなや、ケンリュウはレールガンを強制排除してクサナギを構え、ブースター最大出力で斬り掛かった。

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ、食らえぇい!!」

 だが、敵の圧倒的な瞬発力の前に難なくかわされ、その一撃は虚空を薙いだだけに留まった。

 そして機動兵器は急上昇し、今度はそのお礼と言わんばかりにビームの大雨を降らせた。

「なっ・・・しまった!」

 光の雨自体の攻撃力は大したものではなかった事は幸いであった。

 しかし、それによって攻撃範囲に存在した全てのPFが搭載する全ての武器は破壊されてしまっていた。


 ――正に広域武装解除攻撃と言うべきものである。


 機体の損傷は軽微も既に武器はなく、完全に追い詰められていた。

「くっ、武器が・・・・・・降伏が通じる相手ではないだろう・・・ならばっ、この命、華々しく散らすまで」

 ケンリュウは途中で撃破されても構わないように自爆装置のタイマーを10秒にセットした。
 それは自分の寿命をあと10秒にするという行為であり、彼の覚悟を表していた。


「これで・・・バケモノめ・・・くたばれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


 ケンリュウはHMを発動させ、死を覚悟して咆哮した。

 ブースター最大出力、両者の距離は一気に縮まっていく。

 そしてケンリュウの視界に映る敵に姿が次第に大きくなる。

 ――まだ動かない。

「この距離なら無事では済むまい・・・さらばだ・・・なっ!?

 左腕が伸び、真中から裂ける。

 それは粒子を加速させる二本のレール。

 ――そして、素早くオニカスタムを捕捉する。

 敵は音速を遥かに超えて接近するケンリュウのオニカスタムのメインフレームを腕部の大型メガビームレールキャノンと言えるものによって恐ろしいまでの正確さで風穴を開けて破壊した。

 コクピットごとメインフレームを撃ち抜かれたためにケンリュウは即死であったが、機体は惰性とケンリュウの気迫で前進し、ついには敵の眼前にまで接近した。

 だが、敵はまるで爆発しないのが解っていたかのようにその場に直立していた。

 そして、ケンリュウのオニカスタムはやはり爆発しなかった。



 その後にも謎の機動兵器に決定的な一撃を与える事は出来なかった。

 結果、西リテリア基地駐留軍は壊滅、基地は地下施設を残して地上建造物は全て消滅した。



 一夜明けて、敵の圧倒的な性能を脅威に感じたヴァリム軍上層部はレビ=プラウド中佐率いるフェンリル機動師団を派遣する事を決定した。



















 

 Chapter1 歓喜:〜占領地



 西リテリア基地は一夜にして消滅した。

 基地からの最後の通信は「あの機体は何処へ行った?・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」――であった。

 アーマイル丘陵地と、リテリア山脈での大爆発―――そして基地を壊滅させた機動兵器。

 最も説得力のある仮説は「アルサレアの新兵器」であったが、そうだとすれば状況は最悪である。

 何故なら基地を一機で壊滅させられる機体をアルサレアが保有している事になるからである。


 そして、今回レビ=プラウド中佐に課せられた任務は、未だ濃霧と電波障害に閉ざされ、正体不明の機動兵器によって廃墟となった西リテリア基地の調査と、謎の機動兵器の鹵獲であった。



 身長はあまり高くはないが、長い金髪と凛とした女性のような顔立ち、何よりも短気で過激な平和主義者―――ヴァリム強硬派によって無理矢理に危険度の高い戦地へ厄介払いされた形となったレビは普段なら強硬派の将軍の愚痴ばかり零している筈であったが、今回ばかりは違った。

 輸送機の中でも終始俯き、何かを考えていた。


「中佐、どうされました?いつもと様子が違いますが」

 それを見ていた副官のソウリュウ大尉は気になった挙句に聞いた。


 レビは上を向くのが億劫だったのか、俯いたままで深刻そうに呟いた。

「・・・何が起こったのかを考えていた・・・ケンリュウ大佐といえばヴァリム国内でも屈指のパイロットだ。それどころか1機で基地を丸ごと破壊したヤツはどんな野郎なのか・・・とな」

「そういえば中佐とケンリュウ大佐とは同期でしたね。やはり気になりますか」

「ああ・・・敵はかなりのパイロットにバケモノの機動兵器ときている・・・しかし、どう思う?2つの爆発と機動兵器・・・アルサレアのものと考えるのが妥当なのだろうが・・・どうも解せない」

「確かにそうですね・・・爆発はともかく、西リテリア基地程の規模を持つ基地を一機で壊滅させるなんて、普通じゃありません」

 ソウリュウは不安そうな面持ちで俯いた。

「どちらにしろ、これを契機に大きな戦争が始まりそうな予感がする。いつもとは違うぞ、各員にしっかり釘を刺しておけ。くれぐれも勝手な事をするなとな」

 その目には冷たさと共に緊張した鋭さが混じっており、ソウリュウは背筋に僅かな震えを覚えた。

「了解、各隊長にそう伝えておきます。それでは」

 ソウリュウは一礼して部屋から出て行った。


「さて、やはり考えても始まらなかったな・・・ファーレン首都のアルマサルト空港まで6時間・・・寝て待つとするか」

 レビは退屈な時間を圧縮するために士官室のベッドに入った。


「・・・考えても始まらんのに、やはり気になって眠れん。お前でも勝てぬ相手だったのか、ケンリュウ・・・見ていろ・・・私が必ず・・・」


 レビはその後一睡もする事無く目的地に到達した。








 

 そして、フェンリル機動師団総勢300余機は40機に及ぶVSST「Vertical(taking-off and landing)Super-Sonic Transport:垂直離着陸超音速輸送機」の大輸送船団によってアルマサルト空港に着陸した。

 如何に垂直離着陸可能とは言え、鮨詰めとなった滑走路は異様な光景であった。

 この300余機―――その内の約70%はPF、更にその半分は実験機下がりの無人機であるため、人員としては大した規模ではない。

 また、その兵隊は穏健派が多数を占めており、基本的に配置換えがあまり行われない。

 ヴァリムで多数派である強硬派の視点で悪く言えば「隔離、或いは吹き溜まり」とされているために、その装備状況も取分けて強力なものはさして存在してはいなかった。

 戦力規模に関しても今より更に制限或いは縮小の可能性があり、また常に管理だけではなく監視されているだけでなく非常に危険度の高い戦場を盥回しにされる事は悩みの種であった。


 ――そう、機動師団の「機動」とは特定の拠点を持たず戦略機動性を持たせた独立遊撃部隊を意味するものであり、それが危険な戦場を盥回しにされる際の正当性の根拠とされていたのである。

 ―――それは練度の高さで補うにしても、最近は質の悪い新兵が多く回される事が多くなり、各地で衝突が絶えなくなってきている事が更なる悩みの種であった。

 ―――ギルゲフ亡き後も強硬派による穏健派の切り崩しは未だ止まる事を知らずにいた。



 輸送機が減速し、飛行からホバリングに移行しようとしているのを身体で感じた。

「着いたか・・・やけに騒がしいな」

(何だ、この違和感は?)

 窓の下は賑やかな市場、活気がある。

 しかし、そこには何かしらの違和感があり、活気と言うよりはさながら御祭騒ぎのようであった。

 着陸しつつある機内、体が浮くような感覚を利用してレビは頭を掻きながらベッドを降り、室内にある内線に手を伸ばした。

「各員に通達。これより輸送機はここアルマサルトにて補給を受ける。作業時間はおよそ6時間だ。現在の時刻は0934時、よって1330時までの上陸を許可する。くれぐれも揉め事は起こすな、全て紳士的に行え。以上、解散」

 レビはそう通達し、すぐにソウリュウの手を引いた。

「我々も行くぞ。アルマサルトの市場はどれも一級品らしい」

 ソウリュウは呆れたような顔をした。

「つまり、ファーレンの女性は美人だから見に行こうって事ですね・・・良いんですか?今回は恋人のシオリ=セガワ大佐も居られる筈ですが・・・」

 次に呆れたのはレビである。

 どうやら意思の疎通は上手くいっていなかったようである。

「・・・何の事だ?私はこれから何日もマズいメシを食うのが嫌だから行くのだが・・・」

 ソウリュウは意外な顔をして言った。

「えっ?そうでしたか・・・しかし、それでは誰が輸送機に待機するのですか?」

 レビは少し考えてから何かを思いついたように、そして青ざめながら輸送機内のマイクを手に取った。

「・・・シオリ、聞こえるか。昼過ぎには戻る、留守を頼むぞ」

 ――短く喋る。

 直後にディスプレイのスイッチが入って黒髪の女性の顔が映り、スピーカーからレビの突然の通信に戸惑ったような声で答える声がした。

ええぇっ?そんな・・・何処に行かれるんですか?」

「アルマサルトの市場に行く、何か欲しい物はあるか?あれば買って来よう」

 レビは会話の主導権を持つために敢えて淡々と言い放った。

「戦闘指揮官自ら買い物ですか?それでは示しが付きません。誰か部下に行かせれば良いでしょうに!!」

 双方が強攻策に出ては話が進まないと瞬時に判断したレビは微笑みながら懐柔策に出た。

「行かせてくれないか・・・頼むよ」

 この懐柔策が功を奏したのであろうか、大きな溜息――セガワ大佐は呆れた顔で言い放った。

「は〜ぁあぁ・・・はいはい、行ってらっしゃい・・・お土産はいりませんからその分早く帰ってきて下さいよぉ。あっ、それよりここの兵隊たちが私の命令に従ってくれなかったらどうするんですかぁ!!」

 向こうからは僅かな肯定と最悪な程大きな否定が垣間見えたような気がした。

 しかし、どうにかしてこれを切り抜けなくては外には出られないのである。

 ――無視しようか、と、少し思ったが、代わりに頭の裏から言葉が浮かんできた。

「フェンリル機動師団長であるレリアル中将は今回の進軍には参加していないからな、次に偉いのは大佐である君だ。もっと自信を持て、君が優秀な指揮官である事は皆認めている。ただ君の出世の速さと私が取られた事を妬んでいるだけだ。案ずるな、すぐ戻る」

 レビはそう言い残して通信を切った。

 そして終始半ば呆れた顔をしているソウリュウを連れて行った。


 こんな風に上辺だけで生きれたら幸せなのだろうな―――と、もう片方の頭で考える。




 二人は私服に着替え、空港を出てアルマサルトの市街地に入った。

 だが、そこは何故か祭りのように歓喜に満ち溢れていた。

「中佐ぁ、あれじゃぁ大佐がかわいそうですよ。本当に買い物なら私が残ってお二人で行かれれば良かったんじゃないですか。それにいくらファーレンでも大佐より美人な方はそうはいませんよ」

「何だぁ?やけに肩を持つな・・・シオリに気でもあるのか?」

「はぐらかさないで下さい!」

 先程のセガワ大佐への態度が気に入らなかったのであろう、「あれは男のとる態度ではない」そう言わんばかりにソウリュウはレビに激しく詰め寄る。

 しかし、レビは動じない、むしろ当然であるかのような顔をしていた。

「ソウリュウ、お前は着陸する前に気付かなかったのか?何故この街でこんなお祭り騒ぎが起こっているのかを・・・」

「えっ?」

 突然の質問に何の事か解らないソウリュウは振り向いた。それを見てレビは溜息を吐いた。

「・・・やはり気付いていなかったか・・・おそらくこのお祭り騒ぎは駐留ヴァリム軍の壊滅を祝ったものだ。だから空港近くには人がいなかったのさ・・・先刻は言い忘れたのだが、街に出た兵士たちはおそらく制服のままだろう。何か問題が起こるかも知れん、それを防止するためにも行くんだ。・・・解っただろう?何故シオリを連れて来なかったのか。そして何故我々が私服に着替えたのかを」

 ソウリュウは「なるほど」という感嘆した顔で言った。

「・・・そうでしたか、まったくお恥ずかしい。しかしそれなら始めからそう言えば良かったのでは?」

「・・・解らんヤツだな。露骨にそんな事を言えば彼女は自分の監督の不行届きに責任を感じるだろう。彼女は完璧主義者のような所があるが、意外に傷つき易い。長い付き合いだからな、その位の事は解る。まぁ気にするな。あと100回も戦場に出れば一人前になるさ」

 ――この答は適当ではない。単に気付くのが遅かっただけである。

「100回も・・・しかも戦場にですか?」

(コイツは・・・・・・・)

 レビは心の中で苦笑した。

「・・・モノの例えだ。そのくらい聞き流せよ、真面目なヤツだな・・・」

 二人はそのまま歩いて市街中心部を越え、市場に向かった。



「やはりファーレンの市場は凄いですね。なんか・・・こう、活気が満ち溢れていると言うか・・・ヴァリムではこんなの見た事がありませんでしたから」

 そう言ったのはファーレンの市場に初めて来たソウリュウだった。

「あぁ、何か言ったか?・・・このコショウは・・・良い色をしている、ひとつ頂こう」

 まるで聞いていなかったレビはソウリュウに何も応える事無く香辛料を中心に次々に購入して行った。

 その時―――


「何で俺達には売れないんだって聞いてんだよ、ああっ?」

 何処かから怒鳴り声が響いてきた。「ああ・・・やってしまったか」と思ったレビは額を抑えながら声のした方向へ向かった。



 レビがそこに着いた頃には既に人だかりが形成され、接近が非常に困難であったが、ソウリュウが無理矢理道を作って接触した。

 当事者は2人の兵士と店主らしき人物である事は一目で解った。

 ――次第に怒りが込み上げてくる。


「貴様等ぁ、紳士的に行えとあれ程言っただろうが!!」

 レビは大声で怒鳴った。

「ちゅ、中佐?」

 いつも物静かな印象を醸し出していたレビの怒った姿は一般兵士には珍しく映ったのであろう。

 その一言だけで事態は収拾してしまった。

 しかし、ソウリュウの渾身の拳が当事者である兵達の頬に直撃した。

 彼の怒りは収拾などしてはいなかったのだ。

 そして壁にまで吹っ飛ばされた兵達は許しを請うような消沈した表情でソウリュウを見上げ、一方でソウリュウは自分より年上かも知れない兵達を冷たく、尊大な表情で見下していた。

「貴様等は一体何を聞いていた?まぁ良い、とにかく今は戻れ。後は任せろ」

 レビは当事者である2人の兵士をその場から遠ざけると、店の店主らしき者の前で頭を下げた。

「この度は我々の部下が大変申し訳ない事を致しました。お許し願いますか?」

 その謝罪の言葉を聴いた店主が腕を組みながら忌々しそうな顔でレビに吐いた。

「あんたが大将かい?謝らなくても良いから代わりに本国に言ってやってくれ。ファーレンにヴァリムの軍隊はいらない、早く出て行ってくれ。我々はもう搾取には耐えられないと!!」

 それを聞いた聴衆達も冷たい目付きで2人を見つめていた。

 それに段々気まずくなってきたレビは店主に言った。

「解りました。生きて帰れれば必ず伝えておきましょう。・・・失礼致しました」

 二人は肩身の狭い思いをしながら市場を後にし、その際にレビはソウリュウに言った。

「覚えておけ、これがファーレンの現状だ。国際的にはファーレンの独立を補助している事になっているが、実際は植民地を占領しているのと変わりはしない。本来なら力ある我々軍隊は他の者の命・財産を守る事だけに存在する筈なのだ。・・・彼らの顔を瞼に焼き付けておくんだ。そして、決して忘れるな」

 空港に帰還したレビはすぐさま街に出た兵士全員に帰還命令を発令した。



 上陸時間を3時間繰り上げて帰還させられた兵達から不満の顔が見られたが、レビにとってはそんな事はどうでも良かった。

 何故なら、最も怒りに満ちた表情をしていたのは彼自身であるからである。

 それに、そんなものは騒ぎを起こした張本人に向けさせれば良かったからである。

「全員揃ったな。残念な事態が起こりはしたが、それは良い。これより我々は旧西リテリアベースに向かう。ここから先はいつ目標と遭遇するか解らない、各自機体に搭乗して待機せよ。」



 アルマサルト空港を発進したフェンリル機動師団は廃墟と化した旧西リテリア基地へと向かった。

 これはレビが謎の機動兵器と交戦する9時間前の事であった。



















 

 Chapter2 廃墟:〜現れし流星 前編。



 ――高度3000m、アフターバーナーの曳光が3つ、闇夜を斬り裂いている。

 戦闘機スカイアロー。

 ヴァリム共和国の数少ない戦闘機の中で辛うじて主力戦闘機と言えるものである。

 ――目的は強行偵察であった。


 速度はミリタリーより更に減速、高度を下げる。

 上空からは殆ど見えなかったが、降下した事でいよいよその全貌が明らかになってきた。

「これが西リテリア基地か・・・」

「施設の損害状況は――残っているものがどれだけあるかを考えるのも辛いな」

 その表情は暗く沈んでいる。

 彼等が見ているのは廃墟となった西リテリア基地。瓦礫と廃墟が埋め尽くす死体すら残らない死の荒野。

 ――誰かしらの生存を示すものは何もない。


「隊長、あれは?」

 部下の一人が何かに気付き、指を指す。

「・・・あれは無事のようだな」

 ――補助滑走路である。

 それを見た隊長らしき男はその写真を撮影し、3機は再び闇の中へと消えていった。



 アルマサルト空港を出発して約7時間後の2300時、先行させた偵察部隊からの報告でメインベースの滑走路が完全に瓦礫の山と化していたとの報告からフェンリル機動師団は旧西リテリア基地より10km北の補助滑走路に着陸した。

「やはりメインの滑走路は使用不可だったようだな・・・」

 通常ならここはサーチライトで照らされた飛行場であったが、今は放棄され無人の廃屋が広がっていた。

 敵はいつ、何処から現れるかは解らない。

 レビは降下後に休む事無く無線から命令を発した。

「・・・第1、第2大隊発進、散開しろ。第3大隊は残って生存者を探しつつ管制室に入ってシステムを復旧。戦闘機部隊はそれまで待機。それ以外は3時間おきに出撃。第4、第5大隊は3時間後の発進に備えよ。第6大隊は6時間後の発進だ」


 だが、レビは「望みは薄い」事を悟っていた。

 何故ならこの補助滑走路はPFの登場によって次第に使用されなくなり、更に基地から離れているために輸送に使うのにも不自由するものであったために今では新兵の演習程度にしか利用されていないものであった。

 しかも、戦闘の起こった当時の事を考えればおそらく全員出撃・全員死亡。戦闘に使用されたCICはメインベース地上3階で、奇襲のため地下戦闘管制室や地下施設にどれだけの人間がいたかは解らなかった。


「セガワ大佐から第一次PF全機発進完了との報告が来ました」

 ソウリュウが不安を振り払うようなハッキリした声で報告してきた。

「そうか・・・各員に通達。西リテリア基地の捜索は明朝行う。その際に1から5大隊は0600時より出撃する。各自各個の待機時間には必ず休んでおけ」

 レビはマイクの電源を切ると、部屋を出て彼専用の雪風:ホワイトセラフ「ルシファー」のコクピットに乗り込んだ。

「・・・こんな物まで持ち出さねばならんとはな・・・謎の機動兵器、一体どんな奴だ?ケンリュウを殺ったような奴だからな。ふふっ、お前より強かったりしてな・・・」

 指でトリガーの付根を軽く撫でながら、レビは自分の相棒に話し続けていた。

 だが、その2人の会話を遮るようにソウリュウが話し掛けてきた。

「中佐?何をされているのです?」

「いや・・・」

 レビはむくりと起き上がり、ソウリュウを見下ろした。

「何だ、ソウリュウ?」

「補助管制塔の復旧が完了しました。これより内部地下施設への生存者捜索へ移るとの事です」

 レビは何かを考えるように顎先を摩った。

「そうか・・・私も出る。少し気になる事があってな。やはり何かしていないと気分が悪くなる」

 何かを悟ったようである。レビはコクピットハッチを閉めて発進態勢に入った。

「何処へ行かれるんです?中佐に何かあれば・・・」

 レビは機体に内蔵されているマイクからソウリュウの心配を鼻で笑って見せた。

「ははっ、私に何か起こすような相手なら全員で掛かっても同じだ。安心しろ、空中からメインベースを覗いて来るだけだ」

「しかしっ・・・」

「すまん、もう発進準備は出来ている。退避しないと火傷するぞ」

 退避せざるを得なくなったソウリュウは渋々格納庫を後にした。

 それを見送ると、後方の安全確認をしてから叫んだ。

「レビ=プラウド、ルシファー発進する!」

 飛行変形もカタパルトも無いとは言え、HDDバーニアによる凄まじい勢いでルシファーは飛び立ち、闇夜に消えていった。




 メインベースまでは10km程度のため、レビはすぐにメインベース上空に到達した。

 だが、そこにはファーレン最大のヴァリム軍基地は存在せず、あるのはメインベースを両断する幅300m長さ数キロに及ぶ巨大な楕円形の荒野、焼け焦げた鉄筋コンクリート、小さなクレーター群、そして大量のPFの残骸だけであった。

 その惨状を見て、それがたった一機の機動兵器によるものだと思い返す事で改めて今回の目標の恐ろしさを実感した。


「・・・これは凄いな。地上の建造物が何一つ残っていない。表面の変色から見て敵のメイン武器は光学兵器だな・・・しかし、この跡を見るとここまでの被害を与えた攻撃は1発だけという事になる・・・一体どんな奴だ?・・・しかし、地下施設への被害は小さそうだ、或いは生存者の可能性もあるな」

 レビ中佐は安堵のため息をついて下を見るとバラバラにされた赤いPFが転がっていた。

「・・・ケンリュウは確か赤いオニカスタムに乗っていた筈だ。何処だ、何処にある?」

 レビ中佐は思い出したかのように空中から地上に向かってサーチライトを当て、廃墟の中をくまなく捜索した。



 1時間程オニカスタムの捜索をしたが、闇夜のため視界が非常に狭く、PFに搭載されているサーチライトの範囲も狭いために夜間の捜索にも限界があった。

「・・・これだけ探しても見つからんか」

 その時、本陣に待機していたソウリュウから通信が入った。

「地下施設の捜索が完了しました。・・・やはり無人で生存者どころか死体さえ発見出来なかったようです」

「・・・やはりな。こちらは思ったより地下施設への被害が少ない。生存者がいる可能性があるが、闇夜のため視界が悪い。一度帰還する。それと、戦闘機部隊の出撃の必要はない。伝えておけ」

「了解しました」

 レビは通信を切ると溜息を吐きながら目を閉じてシートに深く凭れた。

「・・・確かここは新兵器の開発を行っていたらしいが・・・何を造っていた?あの爆発と機動兵器に関係があるのか・・・いや、だとしたらアーマイルの説明がつかない」


 レビは様々な思いを胸に本陣に帰還しようとしたその時・・・後方から強力なエネルギー反応を感知した。

「何だっ、ちいっ!」

 レビは訳も解らないままに、とにかくHDDバーニアの出力を最大にして回避行動に入ろうとした。

 だが、地上にいた謎の機動兵器はルシファーを完全に捕捉していた。



















 

 Chapter3 蒼光:〜現われし流星 後編。

 

 暗闇に蒼い光が、まるでこちらを見るように彩を与えていた。

 突然現れたのか最初から隠れていたのか、蒼い目をした謎の機動兵器に捕捉されたレビが回避行動をとったその瞬間、下から蒼い光の帯が機体後方をかすめるような形で発射させたが、HDDバーニアの最大出力のおかげで通常の機体ならば直撃であった筈の攻撃を辛うじて回避する事に成功した。

 しかし、敵はすかさず攻撃の第2波を用意していた。

「何だっ?・・・熱源反応、来る!」

 レビは素早く機体を反転・加速させて敵の方向へ接近し、上空を越えていった。

「とにかく今ヤツを本陣に行かせたら待機中の殆どの兵士がやられる。せめて臨戦態勢が整うまでの時間を稼がないと彼らの二の舞になるだろう・・・さぁ来たまえ、勿体無くも貴様の相手をしてやるのはこの私だ。遠慮しなくて良いぞ、ついて来い!!」

 しかし、そうは言っても通信の繋がらない相手に言っても無駄な事であった。

「ほう、私の誘いを断るつもりかね?・・・だったら無理矢理誘ってやるまでさ!!」

 レビは変形を解いてディバイドバスターライフルを構えた。

「この攻撃に耐えられるか・・・」

 レビ中佐はトリガーを引くと、縦軸5つの銃口から赤い光の壁が形成され、敵に直撃した。

 通常のPFなら容易に破壊する威力によって起こる激しい爆発煙の中、敵の機体は蒼いエネルギーフィールドと共に無傷でその姿を現した。

「・・・無傷か・・・くっ」

 敵は戦果確認を行うためにその場に静止していたルシファーに向かって全身に配置されている大量の砲門から光の雨を放った。

 その凄まじい数の極細ビームの雨は回避出来るレベルを遥かに超えていて、低密度ではあるが直径100m以上の光の円柱を形成した。

「バケモノめ・・・こちらが普通の雪風だったら終わっていた所だ・・・」

 レビ中佐専用の雪風「ルシファー」は特別にオートディフェンスフィールド発生装置を装備していたために如何に大量のビームとは言え一発の威力が非常に低い「武器破壊系」とも言える攻撃は全く通用しなかった。

 逆に言えばそれは特に今相手にしているような強力なものではなく、せいぜい武器破壊攻撃より少し強い程度のもの―――初期のPFが持つような火力の低い攻撃を防ぐ事くらいにしか使えないものでもあった。

 ―――だから焦るのである。

 変に攻撃が防げたりするから逆に不安になったりする。

 特に相手がメインベースに大穴を開けたと思ってまず間違いないからである。

「埒が行かんな・・・押しても駄目なら引いてみるか」

 レビはそのまま飛行変形し、本陣とは別の方向へ高速移動した。

 すると、今まで動かなかった敵がメインカメラを緑に光らせた瞬間に飛行変形してルシファーに追随してきた。

「ふふふっ、これからがデートの時間だ・・・さぁ来い、来れるものならついて来たまえ!」




 壮絶なドッグファイトが開始された。

 敵を引き付けるためとは言え、終始後ろをとられたままにするのは非常に危険な事であった。

(少し揺さぶってみるか?)

 レビはアタックウィング基部に無理矢理付けられている自律誘導兵器ミサイルオービットを発射した。

 しかし、敵は凄まじい速度で右に左に平行移動、時にはビームで迎撃するなどする事で、その全てを無効化した。

「・・・っつ!!何だあの動きは?この速度域であの動きではパイロットが保つ筈がない・・・無人機か!!」

 この時レビ中佐はマッハ3以上の速度で巡航していた。

 だが、マッハ3とは通常の人間の限界に近い領域である。

 それにもかかわらず敵はミサイルオービットの揺さぶりに対応していたのである。

「増援を呼べば通信を傍受されるな・・・それともバレてたりしてな・・・いや、それならば初めから偵察部隊を攻撃していた筈だ。・・・しかし、さっきの光は誰かしらに見られているだろう。それに、ソウリュウなら私が帰らない事からメインベースに向かう筈だ、そうすれば気付く。さっきの戦闘の跡に・・・・・・・・・しかし、なんて奴だ・・・もうマッハ3を遥かに超えている。それでもこれ程の回避が出来るとは・・・なんてパイロットだ、本当に人間か?」

 そう思った瞬間にレビは思わず笑ってしまった。

「ははっ、奴が人間かだって?それじゃぁ私も人間じゃないみたいじゃないか・・・」

 しかし、その笑いも長くは続かなかった。

 敵は蒼いビームマシンガンを連射してきたのである。

「この速度域でか?信じられん・・・オートディフェンスフィールドの出力を上げるか・・・」

 それによってルシファーは蒼い輝きを増した。

 その甲斐あってか、敵の武器はこちらのフィールドを貫通する事はなかった。



 互いに決め手が見つからないまま、ついに蒼い2つの光は遭遇地点より1000km以上南の山脈地帯に到達した。

 濃霧に覆われていた西リテリア基地周辺とは違い晴れ渡った星空は、惑星Jが多重恒星系である事もあり、驚く程明るかった。

「膠着状態か・・・都合は良かったのだが、そろそろ頃合だな」

 レビは飛行変形を解き、機体を素早く反転させる。

 アタックウィングを全弾発射して軽量化――身体に掛かるGを少しでも削るためである。

 そしてシールドにビームカタールを展開させながら突撃した。

 その常識外れの行動に対応し切れなかった敵は防御せざるを得なくなった。

 だが、相対する事で大きな運動エネルギーを付与していたその攻撃ですら敵のエネルギーフィールドを貫くには至らず、それどころか逆に弾き返されそうな感覚さえ受けた。

「うっ、嘘だろ?この相対速度でもか!!・・・幾ら何でもインチキ過ぎないか?」

 驚きつつも素早く距離をとるレビ、しかし敵は動じる事無く再び人型に変形した。

「さて、どうする・・・ここまで来ては増援など望めない。・・・とは言えここまでのバケモノだ、迎撃態勢が整っていたとしても現状は変わらないだろう・・・ここで倒すか最悪でも破損させて戻るかだな」

 そう考えている内に敵は腕部のレールを展開した。

 それは内軸から更に伸び、最終的には20m近くのレールとなった。

 顔からは先程までの余裕が一気に消失し、いよいよ焦り始めてきた感を受けた。

「くっ・・・行け、ライトニングフェザー!!」

 レビは先程放ったアタックウィングの羽根を囲むように展開し、全方向から強力なエネルギービームを放った。


 だが、それも敵のエネルギーフィールドを貫くには至らなかった。


「全く・・・我が部隊にスカウトしたい位だよ」

 レビはそう皮肉ると、こちらの加速が完了するまでフェザーオービットへエネルギーを供給し続けた。

 そして、フェザーオービットがその攻撃を止めた瞬間、敵は直径50mはあるであろう超高出力のエネルギービームを2本放った。

 夜空はまるで照明弾を使ったかのように眩しさで斬り裂かれた。

「・・・なんて奴だ、あれに当たると確実に死ぬな・・・」

 レビは目を大きく見開く。

 汗がこめかみから頬に伝う。

 だが、同時に気掛かりになる事があった。

「これでもまだ基地にあった跡より規模が小さい。まだ何か隠しているな・・・」

 互いの速度は互角。

 だが、敵は明らかに反則的な防御能力を持っている。

 レビはとにかく距離をとる事にした。



















 

 Chapter4 断空:〜響き渡る蒼い霹靂。


 今まで戦って明らかになった事、それは相手の機動性が凄まじい事、火力が圧倒的である事、そして何よりも防御力が反則的である事でだけあった。


 一度距離をとったレビではあったが、遠距離での回避と反撃の応酬は両者共に牽制にもならず、レビは意味もなく浪費されている状況に苛立ちを感じるようになっていた。

(そろそろ一度仕掛けて見るか)


 「自ら飛び込む方が良い、手を拱き待つよりは・・・」シェイクスピア「ハムレット」の一文であり、彼の座右の銘である。因みに彼自身その続きに「されど仕掛けどころは間違うな」という抑制の言葉を続けている。


 遠距離で撃ち合うのは好きではない。

 これはレビ本人の志向ではあるが、別に嫌いという訳ではない。

 単に相手が速ければ両者回避の応酬で結局泥沼の長期戦、その後にどちらかが痺れを切らして接近戦の幕切れ。

 その決着は接近した方が一方的に攻撃されるか、逆に近距離でロックが困難になった敵の攻撃をかわした後に一撃が決まるのか、或いは両者とも近接戦闘に移行して決着、もしかすれば疲労で更なる泥沼に嵌る可能性もあるのかも知れない。

 ―――どちらにしろ1対1の遠距離戦など勝敗が決定する要素は火力ではない、ましてや同速でない限りは疲労くらいしか条件が残らないのである。

 戦闘に特に条件的制約がないのなら、回避が前提となっている遠距離戦はあまり選択したいものではない。

 比較的安全な戦い方であるように見えても、デスマッチであれば長期戦は負ける要素を増やす事にもなる。

 自己を資源として見れば、これは戦力配分の点から見ても正当性のある理論であった。



 飛行変形したルシファーは緩くロール、次第に澄んだ星空と血の巡りが逆転する。

 そして角度を45度に、高速で上下を繰り返す。

 このまま何度か大回りの旋回を繰り返せばいずれ後ろを取る事が出来る筈である。


 火力が圧倒的である事は既に解っている。

 ――とは言え後ろを取る事が撃破に繋がるとは思えなかったが、少なくとも相対すれば勝ち目は薄い、そのためである。

 そして幾度目かの旋回、ついに敵が照準内に入る。

 すかさずトリガー、ミサイルオービットが2つの白線を闇に刻むように敵を追う。


 ――爆発はしない。

 ディスプレイには「Miss」の文字、同時に歯軋りの振動が伝わる。

 後方より蒼い光がルシファーを追い越した。

 ――敵は後方にいたのだ。


 元より期待していた訳ではない。

 仕掛けどころを間違った訳でもない。

 過信や驕りがあった訳でも、ましてや油断した訳でもない。

 ――ただ敵の機動性がこちらと互角であるという前提が間違っていた。


 確かに速度が近いのは認める事は出来た。

 しかし、急加速に急旋回――ルシファーは如何に推進力に優れた機体であっても歩行が困難な程に重量があるために――急加速はHDDバーニアによってクリアーされているが、旋回性能などは他の雪風から少々劣っているのが現状であった。

 単純な飛行ではなく空中での格闘戦では相手の方に圧倒的な分があったのである。


 単純な突撃では効果が薄いと判断したレビはもう一度距離をとり、思考時間を稼ぐ。

 ――攻略の糸口を掴むために。




 その後も距離をとって高機動の遠距離戦を行っていたが、互いの機動性は互角、メイン武器が光学系のため視認と銃口に向きからの回避が容易であり、互いに隙を与える事無く致命的な一撃を与える事は出来なかった。

「ふん、その程度か?」

 レビは敵のエネルギービームの帯をマルチブースターとHDDバーニア、アタックウィングのバーニアモードの連続使用で回避し続けていた。

 尤も、回避と言っても敵の銃口の向きの認識と腕部の可動限界を超える速度で適当に動いているだけである。

 その点敵の機動兵器の腕部稼動速度が並みであったのが救いであった。

 だが、敵の人間を遥かに越えた反応速度によって常に移動し続けないと追随される事や、同時にこちらの攻撃が決定的な一撃に至らない事に焦りを感じていた。

 しかし、敵の火力は回避こそ出来ても直撃はこちらのフィールドを以ってしても致命傷となるため近接戦闘は危険であったために避けていた。


「・・・さすがにこのままではキツイな・・・」

 常に動き続けないと死ぬという現実のプレッシャー・・・精神的な圧迫感からであろうか、とうとう疲労が表面化してきたのであった。

「この調子では長くは保たないかも知れん・・・イチかバチかで接近戦に持ち込んでみるか・・・」

 そう思った瞬間、敵は急速に後退して距離をとった。

 そして、今度は敵のメインカメラが紅く光り、巨大な銃のような形態に変形した。

 ―――次に痺れを切らせたのは向こうであったようだ。

 ―――最早そんな事はどうでも良かった。例え相手が痺れを切らそうが、それが有効な攻撃であればこちらは確実に撃破される事になるのだから。



「くっ、やはり切り札を残していたか・・・ええぃ!!

 レビはルシファーを再び飛行変形させると最大出力でその場から離れた。

 彼の意識は「チャージにどれだけの時間が掛かるか」ただそれだけに集中していた。

ぐううううぅぅぅぅぅっ・・・どれだけ離れたか?」

 敵はチャージを始めて5秒後、確認のためにレビが横を見た。

 いつの間にか天高く上昇していた敵はルシファーと同じ速度で追尾、距離は全く縮まってはいなかった。

 さぞ狙い易い事だろう、忌々しくも敵はこちらに銃口を合わせていた。

「バカなっ!この速度で補足した?」

 レビからは冷汗が流れていた、この距離では逃げられない事を身体は既に認識しているかのように。

 そして、視界全てがシアン色の光に包まれた。



 ―――諦め切れる筈がない。

「バケモノめ!うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ・・・」


 決死の回避―――レビが人間の限界以上の速度域で180度の急旋回・急加速を行った甲斐があって僅かに光に包まれたもののオートディフェンスフィールドのおかげで一瞬の生存時間が生じたために機体は消滅には至らなかったが、もとより黒い機体ではあったそれが更に無残に焼け焦げた色を重ね、最も長く照射されていた両足は既に機能しなくなっていた。

 そして、レビが後ろを振り返って見ると、敵の放った闇夜を斬り裂く閃光は森林に幅200m以上の荒野を十数キロ以上に渡って作り上げていた。


「はぁはぁ・・・っ、なんて奴だ・・・だが、あれだけの攻撃だ、奴は直ぐには動けまい・・・今だっ!!

 ――口内に鉄の味がする、そんな事を気にしてはいられない。あれを落とさねばならない、ただその一点のみ。

 レビは素早く反転し、敵の方向へ突撃した。

 まさか回避されるとは思っていなかったのだろうか、敵は沈黙しそのまま降下していった。

「行けっ、ライトニングフェザー!!」

 レビは動けない敵のエネルギーフィールドにオールレンジからの一点集中攻撃を掛け、更に速度を上げてディバイドバスターライフルをブレードモードにし、左腕アーマードガントレットからビームマシンガンを連射しながらシールドブースターからビームカタールを展開した。
 正に完全な一点突破の態勢である。

 ビームマシンガンは牽制用、ビームカタールシールドビースターは加速とフィールド突破用、そしてディバイドバスターブレードは本命である。

 ようやく訪れた最大の勝機に、レビの掌には汗が滲んでいた。

「功を焦った君が悪かったのだよ。そろそろお別れだ・・・さようならぁ!!

 レビの咆哮と共に繰り出された攻撃は先程の攻撃によるエネルギー消費とライトニングフェザー一点攻撃によって出力が弱まった蒼いエネルギーフィールドをビームカタールで貫通し、間髪を入れずPFで言うコクピットの部分にディバイドバスターブレードを右腕アーマードガントレットのハイパービームブレードと共に突き刺した。刃の部分は装甲を貫通し、メインフレームは串刺しになった。これによって戦闘開始より初めて直接的な手応えのあるダメージを与える事が出来た。

 しかし、誤算があった。

「こいつ、コクピットを破壊されて何故平気なんだ?・・・別の場所にコクピットがあるのか?しかも装甲自体にも耐エネルギーコーティングをしてやがる・・・ちいっ!」

 レビが吐いた通りに敵の装甲は厚く、突き立てたブレード部分以外には大した傷さえ付いていなかった。

 そして、敵のエネルギーフィールドの出力が回復した。

 すかさずレビは後退しつつビームマシンガンを連射した。

 しかし、追撃すると思われた敵は攻撃してこなかった。

 その瞬間にレビは言い知れない違和感を感じた。

「これだけのエネルギーフィールドを持ちながらなぜ攻撃しない・・・そうか、敵はフィールドの強力さ故に展開しながらではビームが使えないのか・・・だが、あの装甲では大した効果は望めないな・・・どうする・・・せめて腕の武器だけでも破壊出来れば・・・」

 レビ中佐はそれを証明するために射撃を止めた。

 すると、その瞬間にだけ敵は攻撃してきた。

「やはり敵は自分のエネルギーフィールドが強過ぎて同時に使用出来ないか・・・ならばっ!!」

 ルシファーは上空へと飛翔、残ったミサイルオービットを全弾発射。

 この程度の攻撃が通用する筈が無い。

 やはりミサイルの半分がエネルギーフィールドによって消滅させられた。


 だが、残った半分のミサイルをそのまま下に落下した――いや、落下させたのだ。

 しかし、それは熱と煙によって欺瞞されているため、こちらからでさえ完全に把握出来なかった。

 そして、敵は不発のミサイルオービットに気付かないまま再びエネルギーをチャージし始めた。

「・・・まだだっ・・・まだ・・・」

 敵のチャージが完了し、発射しようとした瞬間―――

「まだ・・・・・・・・・そこだっ、行けぇい!!

 敵がビームを発射するためにエネルギーフィールドを一瞬消滅させたその瞬間だけを狙って不発だった筈のミサイルオービットが活動を再開させた。

 そしてその内の半分が右腕のレールを、もう半分が先程穿った胸部に命中した。

 しかし、左腕から発射されたビームは衝撃で僅かに照準がぶれて直撃を免れたもののミサイルの操縦に集中していたために回避が十分でなかったルシファーの右足全てと左足の膝下を消滅させた。


 コクピットに出来れば聞きたくなかった不愉快な音と振動が響き渡った。

「ぐぅぅぅっ、もらったか・・・しかしっ、実弾なら装甲のコーティングは役に立つまい・・・どうだっ!!」

 流石に敵は外傷こそ大した事の無いものの、胸部内部からの爆発によって内部機関に深刻なダメージを受けたのは間違い無かった。

 やはりそれでも外傷が大した事がないので油断は出来ない。

 ルシファーは空中を旋回しながらその戦果を確認する。

 先程のように騙し討ちに遭う事は避けたかったからだ。

「はぁ、はぁ・・・立つなよ・・・これで立ちやがったら本物のバケモノだな・・・」


 ――動く気配は無かった。


 そして顔中に広がる安堵の表情。


「はぁ、はぁ、っはぁ・・・一度帰るか・・・ルシファー、この座標をマーカー表示しておけ」

 レビはコンピューターに座標を記録させると、最後の確認のためにディバイドバスターライフルで敵の胸部と頭部に止めを刺した。完全な撃破である。

「パイロットがいるとすればこれで安心だろう・・・」

 レビは敵の残骸に一瞥すると、変形後のバランスを悪くする左足を強制排除、飛行変形させて速やかに本陣を目指した。


 そして30分後―――

「そろそろ通信圏内か・・・こちらルシファー・・・聞こえるか。目標らしき機動兵器を撃破した。座標を送るから戦闘機部隊を召集しておいてくれ・・・」


 ルシファーは再び加速し、闇夜の中へとその姿を消して行った。



















 

 Chapter5 疑惑:〜消えた機動兵器。



 ルシファーは中破するも、謎の機動兵器を辛うじて撃破出来た。

 そして、激動の夜が明けて本陣に帰還したレビ。

 滑走路に降り立った彼を出迎えたのはセガワ大佐であった。

 彼女は泣きそうな顔でレビの肩を掴んだ。

何処へ行ってたんですかぁ!あなたにもしもの事があったら・・・私・・・

 彼女はそのまま泣き崩れてしまった。

 しかし、幾ら考えても気の利いた言葉は見つからなかった。

「敵がいた・・・おそらく西リテリア基地を襲った奴だ・・・私は指揮官としてではなく一人の人間として皆の中から一人も死んで欲しくはなかった・・・だから一人で敵を引き付けた・・・独り善がりで自分勝手な判断だと言う事は解っているし、君にはすまないと思っている。だが、あのままでは例え勝てたとしても部隊は壊滅寸前になってかも知れない。実際戦ってみて痛感した。確かに行動は機械と言うより人間のようであったが、通常の人間に耐えられるような動きではなかった・・・あの訳の解らないバケモノに勝てたのが今でも不思議なくらいだったんだ・・・」

 そう言って彼なりに彼女を慰めたつもりではあったが、その声が彼女に届いていたかは疑問であった。

「まぁ気にするな、あんなバケモノを相手にする事なんか一生にそう有る事ではないだろうし、実際に敵を撃破して私はここにいる。それは事実なんだから悲しむ事は無い。それに、君が泣く姿を見たくは・・・あるかもしれないかな・・・と、とにかく兵が見ている。今は職務に戻ろう、話の続きは夜にでもしようじゃないか」

 そう言い残してレビは輸送機の中に入っていった。

「・・・ばか・・・・・・・」

 彼女の頬には一筋の涙が流れていた・・・



 レビはルシファーの修理のためにメインベース調査への出撃が出来ず、代わりに戦闘機部隊のブリーフィングに参加していた。

 レビは指揮官であり唯一の交戦者として前方のスクリーンに映るファーレン全体の地図にレーザーポインターを当て、端的に飛行計画を述べた。

「ここからおよそ1000kmの地点にある山脈地帯に敵の残骸が残っている筈だ。よって、輸送機をひとつ回す。機体は必ず回収する事。戦闘機部隊は先行偵察と輸送機の護衛に就いてくれ。仮に昨日私が戦った機動兵器が1機ではなかった場合、今回のミッションはかなりの危険が伴うだろうが、遭遇地点からこれだけ離れていれば可能性は低いだろうと思われる。詳しい情報は戦闘機の中に入れてある、時間を空けたくないので移動中に確認してくれ。・・・以上だ」

 出撃前のミーティングは一刻を争う事態のため1分程度と異例の短さで終了し、夜から準備していた戦闘機部隊はすぐさま発進した。

 レビはパイロット達が出撃して閑散とした部屋の椅子に凭れてため息を吐いた。

「ふぅー・・・奴等が帰ってきたら・・・もしパイロットが生きていればパイロットに、死んでいたらあの機動兵器にどんな拷問を掛けてやるかな・・・」

 暫く考えるも、戦闘の疲れからか彼はそのまま眠ってしまった。


 ――まどろむ事も夢を見る事もない深い眠り、それがレビの疲労を表していた。




「中佐・・・中佐・・・起きて下さい。中佐!」

 気付かないうちに眠ってしまったレビは突然ソウリュウに起こされた。

「・・・すまん・・・2時間か・・・状況はどうか」

「戦闘機部隊は出撃、もうすぐ定時連絡の時間です。そしてメインベース調査隊は先程出撃しました」

「そうか・・・我々も行こう。ルシファーは出せるか?」

「いえ、損傷部分は予備のパーツを取り付ける事で直ぐに解決しましたが、全体的な電気系統の再調整の必要があるので今すぐには無理との事です」

 PFのカスタマイズシステムは戦闘の汎用性だけではなく、その修理の面でのメリットが大きかった。

 何故なら、メインフレーム以外の部位には如何なる損傷があったとしても基本的にはそのパーツを取り替えるだけで極めて短時間で修理が終了するからである。

 レビは謎の機動兵器が放った巨大な光柱の直撃を受けたシーンを脳裏に浮かべた。

「確かに一瞬だったとは言え直撃だったからな。・・・内部が熱でやられていても仕方がないか・・・」

 レビはため息を吐いた。

「解った、私は車で行こう。シオリはまだ出ていないな」

「セガワ大佐ならまだ指揮官室に居られると思いますが」

「そうか・・・ドライブに行ってくるとするか」

 レビはそのまま部屋から出た。



 レビは指揮官室の前に立ちドアを叩いた。

「シオリ、いるか?」

「ドアなら開いてますよ〜」

 レビはセガワ大佐が落ち込んでいると思っていたが、意外に素っ気無い返事をされた事に驚いていた。

「あれっ・・・意外に大丈夫そうだな」

「ええ、後で普通に考えたら誰も死んでないんですもの、悲しむ理由がありませんよ」

 それが彼女の本心かはレビにも解らなかったが、とにかく彼は彼女の言葉を信じる事にした。

「・・・そうか、これからメインベースを調査するんだが、・・・車で一緒に行かないか?」

 セガワ大佐には思い掛けない提案だったのだろうが、彼女の顔が少し暗くなった。

「誰がここに残るんですか?・・・ソウリュウ大尉では階級に問題がありますよ」

 いきなりの正論に言葉が詰まるレビであったが、その時沈黙を破るように息切れしながら走ってきたソウリュウがドアをノックもせずに開けてきた。

「大変です、戦闘機部隊からの通信では敵の残骸が発見出来なかったそうです!!」

(何だって?)

 レビは目を見開いた。

「何だと?何処を探しているのだ?その辺は敵の攻撃で森が広範囲に渡って消滅しているんだぞ!!」

「それが、残骸の跡や破片は発見出来たらしいのですが、本体は見つからないとの事です・・・」

 心臓の鼓動が脳にまで伝わってきているのが自覚出来ている。

 レビは驚きのあまり目を閉じる事を忘れていた。

 だが、すぐに我に返って言った。

「回収されていたとでも言うのか・・・1000km以上も離してやったのは敵に対しても完全に予定外だった筈だ・・・ソウリュウ、奴はまた来るぞ。メインベース地下を我々の本陣とする、全員に移動の用意をさせておけ」

「りょっ、了解!」

 そして、ソウリュウが通信室へ向かった後、レビは切り返してセガワ大佐に言った。

「これで行く理由になったな・・・行こう」

「その切り替え方を見習いたいものです・・・少し待ってて下さい。用意しますから・・・」

「解った、下の格納庫の所で待っている」

 そう言ってレビは部屋を出て行った。



 格納庫の前でレビは機動兵器消滅の納得出来る理由を探していた。

「コクピットは頭部でも胸部でもなかったのか?それとも近くに敵の基地でもあったのか?まさか完全に無人機だったのか・・・いや、敵の行動には人間的部分が多過ぎる・・・・・・答はこの中には無いだろう・・・だったら何だと言うのだ・・・」

 考えても納得出来る回答など出はしない。

 確実に仕留めた、更に止めを刺す事で念を押したのだ、どうしてもあの状態から動けるとは思えなかったからである。

「どうしたんですか?」

 ハッと思考が完全に途切れた。

 顔を上げる。

 移動の用意を終えたセガワ大佐であった。

「いや、考え事をな・・・あの機動兵器が消えた謎が解けんのだ」

 ――ふたつの大爆発、謎の機動兵器、そしてその消失。

 顔は普段通りだが、その内面は混乱の極地に達していた。


 レビはまだ報告書を書いてはいない。

 書くにしても書く内容自体が不可解な点が多過ぎるからだ。

 実際に戦った自分でも相手がただ強い事しか解らなかったくらいである。


 ――何を報告すれば良いってんだ!!


「そんなに深く考えなくても良いのではありませんか?私が敵ならあなたを倒すためにもう一度攻めますからその時に回収しましょう。そうすれば何もかもがハッキリしますから」

 直に接触していないからこその冷静な観点。

 レビは目からウロコの表情になった。

「はっはっはっ・・・まったくその通りだよ・・・考えて解るような答えなら初めから解っているのと同じだからな・・・スッキリしたよ、ありがとう」

 「スッキリした」それは一時的なものでしかなく、実際には何の謎も解けてはいない。

 しかし、それは「考えても解らない事はどれだけ考えても解らない」という彼女からのオルタナティブであった。

(今は頭の片隅に置くに留めよう)

 心の中で呟き、レビはセガワ大佐を助手席へとエスコートした。

「本来ならこのままドライブにでも・・・と考えていたところだったのだが、状況が変わった。すぐに設営の準備だな・・・やるべき事をやっておかないと、奴がいつ現れるか解らないからな」

 レビはメインベース跡に向かって車を走らせた。




 補助滑走路からメインベースはそう離れている訳でもなく、結局大して話もしないうちに旧西リテリア基地のメインベース跡に到着した。

「ここがそうか・・・改めて下から見ると凄いものだな・・・」

 下から見たメインベース跡は上から見るものとは違った迫力があった。

 過去に存在した地上にそびえるビルはなく、全て瓦礫の山と焼けた焦げ臭いになっていたのであった。


 ――空から轟音がする。

 上を見れば一機のPF、コーディネート・ゼロカスタム――「ヴァリム機甲兵団新機軸標準型PF コーディネート・ゼロ」の士官用カスタム機である。

 それはブースターを吹かしながら減速し、地上でその膝を着いた。

 そこから褐色の巨人――その実力と貫禄はグリュウにも引けを取らないと言われるメインベース調査部隊隊長であるドゥリゲス=ウェザーフォード大尉がPFから降りてきた。

 彼は教科書通りの完璧な敬礼をする。

「これからメインベース地下施設に入ります。・・・中佐はそのまま入られると危険ですが、どうされますか?」

 レビはこの男に絶対の信頼を寄せていた。

 彼は多くを語るタイプではないが、的確にものを言う。

 穏健派でなければ確実に佐官クラスの地位にいたであろう。

 戦争とは皮肉なものである。

「そうだな・・・おそらく中は安全だろうが、生存者がいたら報告してくれ。その後で中に入る。とにかくだ、日のあるうちに設営を完了したい。急いでくれ」


 仮に蒼い機動兵器がアルサレアのものであったなら、例え当時敵機体が一機しか確認出来なかったとしても、それを全面的に信用する訳にはいかない。

 むしろそれは陽動としてであり、実際には中にアルサレアの部隊が待ち伏せしているかも知れなかった。

 しかし、その仮説はフェンリル機動師団という外の絶対包囲と、いてもせいぜい中隊程度という内の篭城――最早リスクに対する相手のリターンの吊り合いが取れない状態であるため、脅威という観点では数に入らない状態であった。


 それでも保険は掛ける必要があった。

 それがドゥリゲスとコーディネート・ゼロカスタムなのである。

 この機体は見た目こそ標準型のコーディネート・ゼロと変わらないが、元々優秀な機体を更に基本性能から改良すべく新型パーツで構成し直したもので、「空の雪風、陸のゼロカスタム」と並び称される陸戦・対拠点侵入に秀いた超高性能機である。

「了解・・・ドゥリゲス中隊、突入します」

 その声と同時に空から8機のコーディネート・ゼロが現れた。

 ――ドゥリゲス中隊である。

 彼らは地下施設へと続くハッチを抉じ開けて進入していった。



 最後のコーディネート・ゼロが進入したのを見送ると、レビは踵を返した。

「さて、こちらはこちらで楽しむとしましょう。シオリ、後でな」

「解ったわ。で、どこへ行くの?」

「格納庫。そろそろ調整の連絡が来そうな気配がするのでな、先に行ってくるよ」

「がんばってね・・・」

 レビはセガワ大佐と別れて修理中のルシファーの格納庫へ向かった。


 改造した輸送機の修理用仮設格納庫の中は静かで、人がいるのかどうかはこの状態では解らない。

 ただ、ルシファーのコクピットハッチが開いている事から機体自体の修理は完了し、残りはコクピット回りの調整だけだという事が解る。

 ――取り敢えず叫んでみる。

「修理状況はどうか?」

 するとコクピット周りの調整をしていた整備班の班長が出てきた。

「中佐ですか・・・機体の修理は終わっています。後はコクピット周りの調整だけですが、ご自分でなされますか?」


 ――別に自分の機体を他人に触らせたくないと思っている訳ではない。

 そもそもパイロットは調整は出来ても修理は出来ない。

 自分一人で飛んでいる訳でもないのにそんな事を言うのは傲慢だ。

 ――少なくともレビはそう思っていた。


「そのために来たんだ・・・やはり細かいクセの調整は自分でしないとな・・・すまないな、ゆっくり休んでくれ」

「了解。それではお先に失礼します」

 そう言って修理班長は格納庫を去った。

「・・・さてと・・・」

 レビはシートの角度、左右の筋力差をフィードバックした操縦桿のグリップとレスポンスの硬さなど一通り調整したところで、ふと思い立った。

「前の戦闘のデーターは確か残っていた筈だな・・・」

 ――やはり気になる。

 戦闘中には銃口の位置にばかり目が行っていたために落ち着いて全体を見る時間がなかったからである。

 レビはデータードライブのボタンを押して「戦闘記録の閲覧」を選択した。

 そこには先刻の戦闘に撮影されたメインカメラからの映像が残っており、レビはそれをコクピット前面に投影させた。


 人型形態――飛行形態――砲撃形態。

 どれを見てもデザイン的にアルサレアの匂いはしない。

 むしろヴァリムに近い部分が多い。

 そもそも変形システムに関してはヴァリムの方が上を行っている、そう簡単に三段変形など出来はしない事くらい明白である。


 ――目を大きく見開く。

 気になる部分があった。


 巻戻し、もう一度目を凝らして見直す。

「・・・PFと比べる事はナンセンスだが、改めて見るとコクピットハッチらしきものが見つからないな・・・やはり無人機なのか?しかし、この形・・・コンセプトはまるで『イザナミ』の様だな・・・」

 イザナミとは、双子の悪魔の片割れ、ユイ=キサラギ専用に開発された中・遠距離戦闘を主体とし、マイ=キサラギ専用の中・近距離戦闘用PF『イザナギ』のサポートを行う高機動機体である。

 だが、謎の機動兵器とは違い、合計3つの完全変形形態を持たない。

 レビはまた答の出ない悪循環に陥ろうとした瞬間、メインベース地下施設の調査へ行っていたドゥリゲスから通信が入った。

「地下施設の確保が完了しました。尚、生存者は多数。地下実験施設下層部の職員は全員が生存しています」


 ――希望の種はまだ刈り取られてはいなかった。



















 

 Chapter6 設罠:〜監獄を作る。


「地下施設の確保が完了しました。尚、生存者は多数。地下実験施設下層部の職員は全員が生存しています」

 ――生存者の確認。

 地上施設はほぼ壊滅しているが、主な破壊が横からの力によるものであり、地下施設の被害状況が見られなかったために予想されていた結果だったとは言え、生存者の情報を聞いたレビはすかさずドゥリゲスに返信した。

「そうか、今すぐ行く」

 すぐにレビは喜びを禁じ得ないままにセガワ大佐に連絡した。

「シオリ、生存者がいたぞ。君も来てくれ」

 通信機を置く、震えた手を握る、まだ興奮が冷めやらない。

 コクピットから飛び降りてそのまま走って外に出た。



 互いに息を切らす2人がハッチの前で合流すると、まるで計ったかのようにソウリュウがそこに待っていた。こちらは息を切らしてはいない。

「報告を聞いてからお待ちしておりました、行きましょう」

 ソウリュウは車に2人を乗せると地下へ向かう通路を一気に下った。

 その通路は戦闘用PFよりも大型の作業用PFサイズのものであり、人間が通るにはあまりに不自然な程の空間であった。

「不思議な感じだな。長くて広い通路・・・縦空間は・・・50mはあるか。この強固な隔壁も・・・ソウリュウ、ここは何の施設だったんだ?」

「確か、内部の職員によると宇宙用の大型PFを製作、実験していたようです」

「それは完成しているのですか?」

「いいえ、PFは・・・外骨格が完成してはいたようですが・・・」

「それでは戦力としては期待出来ないな・・・」

 宇宙用の大型PF、その言葉を聞いた瞬間に明るくなった表情も、今は少し萎んでいる。

 何とか利用出来ないものか。

 例え使えそうになくとも、その観点――冗長性は手放せるものではない。



 3人は施設の最下層と思われる区画に到着した。

 その地下とは思えない程広大な、幅2〜3km、高さ数百mの空間には100人はいるであろう多くの生存者がいた。

「おぉぉぉぉぉ、これで我々は助かったぞぉ・・・思えばここを閉鎖してから今日まで辛い日々でした。はぁぁぁぁっ、本当によかった・・・」

 ヨレヨレの白衣に無精髭・・・その風貌はいかにもこの施設の開発主任らしき人物がそう言った。

 しかし、一方でその歓喜の表情に水を差すような事を言わなければならないレビは申し訳なさそうな顔をしていた。

「それが・・・敵は撃退したものの残骸が回収出来なかった・・・おそらくまた来るだろう・・・貴官等は先に脱出して下さい。我々にはアレを破壊する義務がありますから」

 神妙な顔をする。

 回りの研究者達も口を紡ぐ。

「ところで、ここに何か戦力になる物はありませんか・・・例えばトラップのような物とか・・・」

 レビは続ける。

 すると、さっきの開発主任らしき人物が残念そうに下を向いたまま言った。

 その顔は如何にも残念そうな表情である。

「残念ながらここにそんな物はありません・・・あるといえばこの施設全体を真空に出来る程巨大なコンデンサーと、せいぜい特殊実験中の仮設PFがあるくらいです・・・お役に立てますか?」

 「こんなものしかありません」そういう表情であったが、その言葉を聞いた瞬間、レビとセガワ大佐が閃いた。


「真空・・・そうか!」

「あっ、良い事考えた」


 2人は「真空」「部屋に比べて狭い廊下」「強固な隔壁よって完全に隔てる事が出来る広い部屋」をキーワードに同じ事を考えていた。

「ソウリュウ・・・もう全部隊はここに集結しているな?」

 その顔は興奮している。握る拳も力がこもっている。

「はい、それがどうしたんですか?」

 ソウリュウには解らない。

「良い方法を思いついた。『気体冷却の原理』・・・シオリも同じだろう?」

 セガワ大佐はニヤリとしながら首を縦に振る。

 既に彼女の中では完全なプランが出来ているのだろう。

『この作戦には自信があるので任せてくれませんか』

 セガワ大佐はこの作戦を今までの自分の評価を変えさせる一つの契機にしようと考えている。

 だからこそ無理をしてでもリーダーシップをとる必要があった。

 過程だけ追って見れば所詮は点数稼ぎであるような外観しかとってはいないが、その重要性は重々承知しているつもりである――レビにはその表情だけでその言わんとしている事が理解出来た。

 一方彼女は「レビと同じ事を考えていた」という根拠のない自信からか、それとも本当に自信があったのか、レビに向かって微笑みながら言った。

「ええ・・・さあ、敵はいつ現れるか解りません。ソウリュウ大尉、動ける部隊は今のうちに中に入ってもらって下さい」

 レビはセガワ大佐の事を良く理解はしていたが、それでもなお突然指揮を始めた彼女の豹変に驚きを隠せなかった

「どうした?・・・さっきと性格変わっていないか?」

 セガワ大佐はその言葉に対して頬を赤らめて恥ずかしそうに答えた。

「たまには私も指揮しないと・・・ね。いつまでもあなたにばかり頼っているから兵たちが私に付いて来ないのでしょうし、階級が飾りじゃない事を証明しないと・・・」

 セガワ大佐の恥ずかしそうな顔が伝染したのであろうか、レビも照れくさそうに下を向きながら答えた。

「そうだな、今回は任せるよ。どうせ考えてる事は同じだろうしな」


 ――それは思考の共有を思わせる。確かな一体感は錯覚ではないような外観を纏っている。


 一瞬の間ではあったが、そこには確かに2人だけの時間が存在していた。





 2時間後、出撃していた戦闘機部隊を含む全ての部隊長を召集して作戦会議が開かれた。

 だが、いつもと違い壇上に上がり前方のスクリーンに映る施設および基地周辺全体図に対して説明しているのはレビではなくセガワ大佐であった。

「まずはこの映像を見て下さい。これは昨日撮影された謎の機体の映像です」

 流されたのはルシファーが謎の機動兵器と交戦していた時の映像。

 凄まじい速度、脅威の運動性、そして破滅的な閃光。

 ――周囲がざわめく。心境は「何だこれは?」或いは「あり得ない」だろうか。

 そしてその撃破のシーンが映し出されれば「よくあんなのに勝てたな」「やっぱりウチの方がバケモノだな」感心したような顔をした。

(ここで士気を上げるのも必要だけど、もういいかな?)

 再びスクリーンには基地周辺の全体図が映された。

 画面は基地内部の輸送用通路が幾重もの正四角柱の螺旋を描くような立体映像が緑系の色で表示されていた。

「それでは作戦内容の説明をします」

 ――その声には少し緊張があった。


「今回の作戦の目的は敵機動兵器の捕獲。最悪の場合は破壊です。よって、作戦を『基地内部への誘導』『目標地点への誘導』『目標地点到達後の捕獲』の3つに分け、それぞれ最初から1・2・3シークェンスとします。
 まず第1シークェンスに参加するのは戦闘機部隊10名、そしてここにいる各部隊隊長のみで構成される20名の精鋭部隊です。第2シークェンスと第3シークェンスはそれぞれ1人だけです。内訳は第2シークェンスにレビ中佐、第3シークェンスにソウリュウ大尉です。尚、レビ中佐は第1シークェンスから戦闘に参加してもらいます。
 それ以外の兵士たちは戦車を含む、有るだけの武器を全て床と天井に装着する事と、各所にある液体窒素パイプ全てに爆弾を仕掛けてもらいます」

 立体映像の各所が赤く光る。液体窒素パイプがある部分である。

 ――ここに爆弾を仕掛けろ、という事である。


 先程の映像が右下に移動し、中心には次の映像が表示された。

 謎の機動兵器が防御する瞬間から破壊されるまで、である。

 そして、通路のいたるところに蒼い点が映し出された。

「レビ中佐からの情報では敵は強力なエネルギーフィールドを持っていますが、その強力さ故に展開中は攻撃出来ないと言う弱点が有ります。それを盾にとれば敵の攻撃を封じる事が出来ますし、フィールドを消失させれば一方的に全部隊分の一斉攻撃を加える事が出来ます。よって立ち止まって強力な光学兵器による破壊は考えられません。
 一応ルートは直線ではないため一度で全ての武器が破壊される事もありません。また、その事態になった場合は、蒼い点で表示されている全ての隔壁を下ろしてから液体窒素のパイプを誘導爆弾で破壊すれば良いのです。その場合はこの施設に被害が出ますが、それでも目的は達成させるものとします。
 あと、レビ中佐が誘導してきた機動兵器が通過した隔壁は逐次閉鎖していきます。・・・ここまでの時点で何か質問は?」

 セガワ大佐はいつもの彼女から想像も出来ない程の終始他を圧倒するような強い口調で言った。そして室内はその勢いに押されて何も質問出来ないような雰囲気が広がっていた。

 だが、その雰囲気を取り払うかのように果敢にも質問を行った男がいた。

 先程のドゥリゲスであった。

「第1シークェンスの配置について詳しい説明を、また人数が少ないのは何故ですか?」

 セガワ大佐は指揮に慣れていないために「あっ、言い忘れた」と思ってしまったが、さもこれから言うように繕って言った。

「後で個別に説明しようと思っていたのですが、先に説明しましょう。
 第1シークェンスは入口から約10kmの地点にある森林で待機。戦闘機部隊は基地周辺の哨戒に当たってもらいます。そして、敵と遭遇した場合は戦闘機部隊が囮になる形で後退します。人数は多くても死傷者が増えるだけですし、少な過ぎたら今度は敵がこちらを地上から一方的に攻撃してしまう可能性があるからです。
 それからレビ中佐を中心に敵を引き付けながら地下施設内部に突入、その後は各自指定された脱出ルートに移動。レビ中佐はそのまま援護射撃の中を突破しつつ第3シークェンスに繋ぎます」


 ドゥリゲスは理解していたが、敵の性能が未知数の状態で突飛な戦術を執る事に抵抗があった。

 それはその突飛さ故に僅かな失敗や予期せぬ事を全てカバーする事が出来るか解らないからである。

「・・・そうですか。重ねて質問しますが、第3シークェンスの役割が不明です。その詳しい説明をお願いします」

 セガワ大佐は髪をかきあげながらスクリーンの画面を切り替え、施設内部全体図を拡大した。

「第3シークェンスはソウリュウ大尉だけです。大尉にはレビ中佐が誘導してきた敵機動兵器を捕獲してもらいます。
 捕獲に関してですが、まず作戦開始の発令から目標地点の区画の気圧を限界まで上げておき、それまでの直通ルート以外の隔壁を閉めて一本道にします。そして、目標地点、それに至る道筋、そしてレビ中佐の逃げ道以外の部屋、廊下に至るまで全て真空にします。幸いこの地下施設には作戦に使用する部屋以外にも同規模の部屋が10個以上存在しています。
 上手く誘導できたら中佐の退避後にその逆の隔壁を破壊。すると部屋の空気が急激に薄くなり、『ジュール・トムソン効果』によって水素以外の機体の温度が下がるという算段です。
 尚、その気温下…シミュレーション上は零下150度以下まで下がりますから、その状況では実験PF以外はジェネレーターの温度が下がり過ぎて反応が起こらず、活動不可になります。そして動けない敵を直接捕獲します」

 ジュール・トムソン効果とは、ジュールとケルヴィンが協力して1861年に完成させた理論で、圧縮させた空気を気孔から噴出させて急激に膨張させた時にその温度が上昇ないし下がる現象であり、液体空気、液体ヘリウムを製造する時に使われる。

 ――水素以外の気体は膨張する事でその温度を下げる。今回のはそれを利用した作戦である。

 ――完璧な作戦だ。もちろん上手く誘いに乗せられればの話であるという制限付きではあるが。


「・・・しかし、敵のエネルギーフィールドは熱を遮るように冷気も遮る事が出来るとは考えられませんか?」

 あまりの突飛な意見にセガワ大佐は言葉を詰まらせ、その救済をレビに求めた。

「レビ中佐、敵のエネルギーフィールドはどんな感じであったか意見をお願いします」

 質問はそのままの状態でレビに振られた。

 それは彼女からの救援信号、無碍にする訳にも行かなかったというのが正直なところである。

 レビは立ち上がる。

「その質問には私から答えよう。
 断言は出来ないが、おそらく敵のエネルギーフィールドは強力な『全方位ビームシールド』と特殊な磁場とそれによる反慣性ないしは反引力・・・そうだな、『リニアシールド』と言えるものだろう。
 ビームは磁場で防げる。蒼いフィールドは質量を持つ既存のビームフィールドのようだった。また、直接攻撃した時に向こうから押されるような感じを受けた。ちょうど磁石の同じ極を付けた時のように。
 そう考えればレーザーならフィールドを貫通出来る事になるが・・・まぁ、敵の装甲の耐エネルギーコーティングが並みのPF程度なら問題は無かっただろうが、アレを相手にしてはレーザーマシンガン程度ではおそらく通用しないだろう。
 だからと言ってバスターランチャーではチャージ中にやられて終わりになる。PF携行用の小型THELキャノンは前回の使用でエネルギーシステムの欠点が発見されたために回収・・・話は逸れたが結局のところ、物理法則を無視したような万能なフィールドなど作れはしない。幾つかの防御手段を信じられない出力でではあるが、同時に使っているだけだ。よって熱は通すだろうと考えられる。
 仮にそんなものがあってみろ、それこそ奴は恒星の中にでも入って見せてくれるぞ」

 ドゥリゲスは口元で自分を笑った。

 ――よくこんな馬鹿な事を考えたものだ。

「なるほど・・・勝負は敵がその時点で凍りつくかどうかに掛かっていると言う訳ですね。もし凍らなかったらどうされますか?」

 慎重派のドゥリゲスの、彼にはそんなつもりは無いのだが、新任教師への苛めのようにしか見えない執拗な質問に「今度は答えられるぞ」という「したり顔」を隠しつつ毒を混じえて彼女は答えた。

「そのために実験用のPFがあるのです。武器は液体窒素のホース1本。一応機体も宇宙用ですから超低温下の環境でも使用可能です。それに、まともに戦って被害の出ないような相手でもありません。それとも私の作戦には参加したくないとおっしゃるのでしたら代案をお願いします。ドゥリゲス大尉」

 尤も、如何なる敵も過小評価する事の無い慎重派のドゥリゲスにも代案がある訳でもなかったが、未知のレスポンスを持つ敵と対峙するのにただひとつの不安要素も無く出撃したいという慎重な彼の性格が仇となった結果であった。

 一方でレビはセガワ大佐の浮足立った言動を心配する素振りを見せていた。


「・・・代案はありません。その作戦を支持します」

「他に質問は・・・それではこれよりこの作戦を『真空の監獄作戦』と呼称します。各員作業にかかって下さい」

 ここに集まった全ての人間はセガワ大佐の豹変に誰一人として驚愕しなかった者は存在しなかった。


 この頃、ヴァリム本国からある部隊が西リテリアベースへ向かって派遣されていた。

 しかし、それを知る者は当然存在しなかった。





 

 いつ敵の襲撃があるか解らない。

 地上の惨状を目の当たりにした兵士たちの危機感は頂点に達し。

 作業は連日徹夜で行われた。

 そして3日後、総延長15kmに及ぶ地下施設の「茨の道」が完成し、実験用のPFも装甲を中心に戦闘に耐え得るように改修された。


 第1シークェンスから敵の陽動作戦に参加するレビは何の前触れもなく唐突にソウリュウに言った。

「ソウリュウ・・・貴様、ルシファーに乗るか?」

「なっ・・・藪から棒とはこの事ですね。どうしてですか?」

「いや・・・あの敵は私自身でケリをつけたいんだ」

「残念ながら私には曲がりくねったこの回廊を雪風で飛ぶだけの技量はありません」

「そうか・・・すまんな。だが、気を付けろ・・・あのバケモノは一筋縄では行かなさそうだぞ」

「そうですか・・・それでは任して下さいとは言えませんね。努力します」

 彼等はいつ来るか・・・いや、来るかさえも解らない敵を待つために出撃準備に入った。



















 

 Chapter7−1 再侵:〜退屈という名の苦痛。



 地下施設最深部のロッカールームにて数名の若い兵士が指揮官の不在を良い事に話をしていた。

「今回の作戦はどう思うよ?」

「謎の機動兵器ってか?ありゃもう来ないんじゃないのか?」

「そうじゃねぇ、セガワ大佐の事だよ」

「確かにあのネーチャンは美人だが、コネでここまで出世したんだろう?作戦に関してはどうなんだろうな」

「どっちにしろ、いつまでもこんな環境で待機、待機って・・・嫌になって来るぜ」

「そうだなぁ・・・偵察って言ったら外に出してもらえるかな?」

「武器はどうするんだ?」

「ちょっとくらい無くなっても変わらねぇよ」

「止めとけよ。見つかったらヤバい。せめて許可とってからにしろ」

「へいへい、今は止しておくよ・・・」

 最近は穏健派部隊の切り崩しのために質の悪い新兵を優先的に回されていた。

 中には強硬派の内通者を忍ばせる例も存在していたが、これはそれに該当してはいない。

 所詮は機動師団だからである。



 迎撃準備が整ってから2日後、敵は未だその姿を見せてはいなかった。

 普段なら「何も起こらない事」は幸せな事なのであるが、区画の殆どが真空状態のため、居住区以外では移動する事もままならず、加えて数百人の兵員を十分に待機させるスペースには限界があった。

 そして娯楽がある訳でも、いつ作戦が終了するかも解る事もないその状況下で待機し続ける事は苦痛であると思う者も次第に少なくはなくなってきた。


 セガワ大佐は険悪さを帯び始めた部隊の雰囲気に危機感を覚えていた。

 敵が来るという作戦の前提が間違っていたのだろうか。

 尤も、本国に穏健派の味方は少ない。

 敵が出て来なくてもそれが回収出来ていない以上は敵前逃亡と同じである。


 ――今は待つしかない。

 そう考えて自分を安心させようと試みる。

 ――どちらにしろ自分が言い出した作戦が潰れては面目も潰れてしまう。

 最早二度と指揮官になれない程にまで落ち込んでしまう事だろう。


 しかしながら、する事はしなくてはならない。

 この作戦はフェンリル機動師団の総力を結集した文字通りの「総力戦」である。

 今の雰囲気では作戦の遂行に支障が出るかも知れなかった。

 ――何とかしなければならない。


「どうも最近待機中の兵士からの不満が多くなって来ているようです。どうしますか?」

 屋外に設営されたタコツボの中に待機中であったレビに力のない声で通信して来たのは本作戦立案者とされているセガワ大佐であった。

「そうだな・・・こちらは外だからまだ良いが、何の娯楽もない中での待機は若い兵士にはキツいだろうな」

「・・・やはり来ないんでしょうか?・・・だったら・・・私・・・」

「そんな声で喋るなよ・・・先に奴が来るって言い出したのは私なのだから・・・仕方ない。士気が下がるのも考えものだが、ストでも起こったら事だからな。・・・2個小隊ずつ偵察に出そう」

 レビ中佐は渋々その決断を下した。



「ウヒョウ♪外だぜぇ、これより偵察に出撃します」

「偵察の時間は2時間。定時連絡と作戦時間は厳守だ」

「了解っ♪」

 危険と言う言葉を幾つ並べても足りないくらい危険な偵察に出るというのに若い兵士達の声は地底から出られた開放感からか、意気揚々としていた。

 だが、隊長クラスは全て屋外に待機しているため偵察に出撃するのは若い兵士たちだけであった。

 それでも敵はいつ来るか解らないため隊長クラスの兵士を同行させる訳には行かなかった。



 1時間後、偵察に出た10名の若い兵士たちは――

「おいっ、久し振りの外だぜっ、外。このままここにいようかなぁ・・・」

「おいおい、そりゃぁ〜マズいぜ」

 彼等の偵察は何処までも明るく、それはさながら小学生のピクニックのようにも見えた。

 だが、彼らは偵察の本来の意味を忘れ、PFを降りてその場に寝込んでいた。

「だいたいよぉ、PFでもねぇのに5日や6日で大破した機体が直るのか?」

「しらねぇよ。でもよ、レビ中佐の慌てぶりを見れば敵さんは相当やばかったみたいだな」

「・・・だろうな」

「でもよ、ここで俺達が倒しちまえば英雄だぜっ」

「ムリムリ、お前じゃぁな」

「んっ?」

「どうした、敵か?」

「いや、向こうの空で何か光ったと思ったのだが、気のせいかなぁ?」

「おいおい、戦闘機部隊だって哨戒してんだぜぇ、・・・それじゃぁ俺たちもまずいな」

「はははははははははっ、ちげぇねぇ」

 相手の実力も測れぬまま明るい未来を夢想する彼らは後に待ち受ける死を、この地でその短い人生を終える事になるとはこの時点では知る由は無かった。




 一方、屋外で待機していた各部隊隊長のみで構成される精鋭部隊にも若い兵士程ではないが、慣れと退屈から来る集中力の低下という『毒』が蔓延しつつあった。

「まさかPFでタコツボを掘るとは思わなかったぞ・・・それよりこれに意味あるのか?」

「知りませんよ。でも、遮蔽物も何も無い所で陽動戦を仕掛けるってのは無謀ですからねぇ・・・」

「そうじゃねぇよ。メインベースをブチ抜いたバケモノなんかにこんな物が意味あるのかって事だ」

 一人が声を荒くする。

「そこまでにしておけ・・・」

 話を遮るように怒りを顕わしたセリフを吐き捨てるのはレビであった。

「だいたいだな、このタコツボは戦闘の主旨を考えれば・・・」

 だが、レビが続きを言おうとした瞬間に戦闘機部隊の、それに続いて偵察部隊の通信が割り込んできた。

「こちら戦闘機部隊。未確認の識別反応を確認、北におよそ15km」

「うわぁぁぁぁぁ、なんだっ、来るなよぉ・・・ひぇぇぇぇぇぇぇぇっ・・・ぶちっ」

 通信してきた者はおそらく通信しようとして繋いだのではなかったのであろう。何かを言うという訳ではなく、恐怖に慄く叫びだけでその通信は途中で途切れてしまった。


 心の中で連呼する。

 ――奴が来た。


「・・・くそっ、何と言う事だ。奴が来たぞっ、『真空の監獄作戦』発動。無駄死にはするな、行くぞっ、各員私に続け!!」

(リターンマッチだ、今度こそケリをつけてやる)


 ――フェンリル機動師団の総力を結集した『総力戦』が開始された。



















 

 Chapter7−2 陽動:〜我、誘うは真空の監獄。



 ついに謎の機動兵器はその姿を現した。

 その知らせをタコツボの中で聞いたレビは叫んだ。

「奴が来たぞっ、『真空の監獄作戦』発動。無駄死にはするな、行くぞっ、各員私に続け!!」

 精鋭20機のPF部隊は先程の報告の場所にブースター最大出力で急行した。



 レーダーに反応、素早く散開。

 敵はその猛禽類のようなフォルムをガラクタの残骸の上に立てていた。

 既に形を留めてはいなかったが、それは確かにPFの残骸であり、紅い液体がコクピットと思われる部位から流れていた。

「ちいっ、こんな時に限って」

 レビは自分の所為で彼らが無駄死にしたと思うと胸が切り裂かれる思いであった。

 だが、良く見ると敵の機体は腕部の修復はされてはいたものの、おかしな事に胸部の傷の修理は完全ではなかった。


 ――ここで疑問が生まれた。

「何故不完全な修理のまま出撃してきたのだ?通常の神経なら完全に修理して、最低でも致命傷になった胸部を先に修理する筈だ。基地があったとは考えられないという事か・・・まさかっ、自律金属細胞・・・ナノマシンで構成されているのか!!

 レビは後悔した。

 あの時に完全に破壊しておけば少なくとも復活はしなかっただろう。

 だが、それは結果論でしかなく、そもそも止めまで刺しておいて相手が死んでいなかったなどとは思いもよらなかった。

 最早意味のない後悔である。



「中佐、先ずは我々が囮になります、援護してください」

 レビの不安要素を振り払うようにそう言ったのは戦闘機部隊の面々であった。

 5対10機の編隊が3・4・3に分かれて各々接近。

 銀の鳥を彷彿させる彼等の最新鋭航空支配戦闘機「スカイ・アロー」は何よりも速く、そして軽快に飛ぶために設計されたものである。

 キャノピはなく、操縦席というべきものは外からは見えず、コクピットが内部に埋め込まれ、パイロットは深くリクライニングして上部にある画面を見て操縦する格好となっている。

 これによって空気抵抗を極限まで減らし、尚且つGへの対抗力を上げている。

 また、PF全盛のこの時代に於いて少なくとも制空戦闘型PFよりも空戦能力は高く、例え航空支配型PFであっても――戦えば勝てるかも知れないが、性能上ではこちらの方が機動性、格闘能力の両立が図れる分拡張性は上である。

 何故ならPFの飛行変形は戦闘機を相手にするためのものではなく、やはり対PF戦を想定したものである。

 そのため最大速度か運動能力のどちらかに重点を置く事しか出来ない。

 万一両方を追求すれば機体の大型化に伴う重量の増加によって結局性能が下がってしまうからである。


 ――そもそも人型であるPFが如何なる変形しようが戦闘機のような空力性能を得る事は戦闘機からPFを作らねば不可能である。

 ――カスタマイズという汎用性を考えればそんな事はナンセンスである事もここで付け加えよう。

 多くの者は認めてはいないが、やはり空戦になればPFよりも飛ぶためだけに設計されている戦闘機の方が遥かに強力な兵器である。


 フェンリル機動師団長レリアル=アロンソ中将はこう言っている――この戦闘機はPFがその他既存の兵力のサポート無しには真の力を発揮出来ないと言う事を証明している、と。

 ヴァリム軍師団の殆どがPFだけで構成される機甲師団であるのに対し、この師団がフェンリル機動師団と呼ばれるもうひとつの所以である。


 上空からロール45度で弧を描くように一瞬の斜め上軌道から下へとパワーダイブ。

 彼等10機の戦闘機はマッハ3を遥かに超える速度で敵の前まで飛ぶ。

 敵からは蒼い光が撒き散らされる。第一の犠牲者は中心編隊の一番機、避け切れずに黒煙を吐く。

 コクピット強制排除――戦闘機のコクピットはPFのように強固な外殻で守られてはいない。

 そのコクピットでさえも敵の標的になった。直撃、消滅――パイロットも。

 残りの機体は寸前でミサイル発射、旋回。

 PF部隊は対空迎撃に火力を集中させている敵に向かって激しい集中砲火。


 だが、敵は学習していた。

 信じられない事に驚異的な精度で着弾の瞬間だけにエネルギーフィールドを展開し、決して戦闘機に対する攻撃を弱めようとはしなかった。

 PF部隊に対する冷酷なまでの無視、敵にとっては戦闘機部隊の方がPF精鋭部隊よりも脅威であると判断したのだ。

「バカなっ!信じられん・・・こんな芸当が出来るとは・・・ちいっ!!」

 これでは例え回廊に誘い込めても作戦が成功するかが怪しくなってくる。

 レビはどうにかして戦闘機部隊の援護をしようとディバイドバスターライフルとアタックウィングを放った。

 最早彼にとってエネルギーフィールドの突破など眼中には無かった。

 作戦目的の観点からでもあったが、とにかく攻撃し続ける事で敵の攻撃を押さえつけ、少しでも被害を少なくする事が優先させたのである。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 だが、その甲斐も無く、1機、また1機と戦闘機が撃墜され、中には脱出どころか消滅する機体さえあった。

 ――当事者に最早死の感覚などなかったのだろう。

 そんな中、ついに4人の兵士がキレた。

「てめえぇぇぇぇぇ、俺たちを無視するんじゃぁねぇ!行くぞ、『ダイアモンド・サーカス』死にやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「やめろっ、行くなっ、戻れっ!!作戦はっ・・・」

「ソウリュウに・・・あんな若造に手柄を渡すものか!!」

「中佐はいつからそんなに臆病になった?うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 レビの制止を振り切った4機のコーディネート・ゼロカスタムは菱形のフォーメーションをとり、前衛の3機がハイパーアサルトライフルを連射しながら同時に左右と斜め前に飛び出した瞬間に後衛の1機が垂直上昇しながらアサルトライフルを連射。全員が4方向に配置、正方形を形成すると、縦軸の2機が右回りに、横軸の2機が左回りに旋回し、アサルトライフルを浴びせる。

 普段ならアルサレアのエース機すら葬り去れる強力なコンビネーションではあったが、それでも敵の強力なエネルギーフィールドの前に効果的な一撃を与える事は出来なかった。

 冷静さを欠いた4人はその意味を深く理解してはいなかった。


「信じられんな・・・だがっ、これで決めるぞ、フィナーレだっ!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ、くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「見える・・・そこだぁぁぁぁぁぁ!!」

「・・・もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 4機のコーディネート・ゼロカスタムは全て左回りに旋回しながらハイパーアサルトライフルを浴びせ、計ったように同時に旋回しながら弧を描いてクサナギを振りかざした。

 だが、斬り掛かった瞬間、敵は信じられない速度で垂直に上昇した。

「な・・・にぃ?」

 空振り、追撃のために敵を探す。

 ――すかさず上を向き、そして硬直する。

 その圧倒的な速度に狼狽する4人を尻目に敵は右腕のレールを展開した。



「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 レビの叫びも空しく、敵は強力なエネルギーキャノンを大地に向かって鉛直に放ち、直撃したPFの消滅を確認すると、そのまま地上にいた数機に向かってそのビームを薙ぎ払った。

 レビを含む全ての兵士たちは敵の性能を甘く見ていた。

 確かにレビ以外は直接交戦した訳ではないため想像し難い面もあったのかもしれない。

 だが、レビ自身も弾幕さえ張っていれば敵は攻撃出来ないという固定観念に囚われていたために兵士達もメインベースの惨状を目の当たりにしつつも敵の性能に対して目測を誤っていた所があった。

 加えて退屈な待機によって緩慢化した神経ではそれを修正する事も出来なかったのだろう。


「やめろ、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 敵にしてみれば勝手な言い分なのだが、彼等はレビにとってはかなり近しい存在なのである。

 如何に百戦錬磨と言えども近しい者の死を、そしてそれが自分の不甲斐なさによって起こったという現実を安易に受け入られる程に彼は完成された兵士ではなかった。

 そのため彼は叫び続けた。

 だが、敵はそれを知っているかのように次々に味方のPFを破壊しつつもレビだけは狙わなかった。


「うわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ・・・殺してやる、殺してやる・・・ブッ殺してやる!!」

 レビが我を忘れて突撃した。

 だが、敵は「お前以外を殺してからお前を殺す」と言わんばかりに彼を頑なに無視し続けて屠り続けた。

「くそっ・・・クソッ・・・クソッ、クソッ、クソッ、キサマァァァァァァァッ、逃げるんじゃぁねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!


 最早彼にいつもの余裕は無かった。

 彼の中にあるのは無意識の内に敵を甘く見ていたという自分の不甲斐なさへの怒り・絶望、そして相手への殺意だけであり、完全にその悪循環に陥ってしまった。

 そう、彼の頭の中には作戦の内容など存在してはいない。

 ただ目の前の敵を破壊するだけの修羅と化していた。




 だが、その時、セガワ大佐から通信が入った。

「レビさん・・・しっかりして下さい。あなたがここでやられては作戦が成功しません。そしたら・・・そうしたら私たち全員はどうなるのですかっ!!


 ――その声は心に重く響いた。


 彼女は泣いていた。

 そしてレビは彼女の気迫の籠る言葉に気付いた。

 それを聞いた事は過去に何度あったか・・・勿論最近にもあったが、それは彼の意識を回復させるには十分であった。


「はぁはぁ・・・っ、そうだった・・・私は・・・・・・くっ、私がしっかりしていればこんな事には・・・味方は殆んど残っていないが幾つかは脱出装置が作動している・・・これより作戦を第2シークェンスに移行させる。心配掛けたな、私は大丈夫だ。もうこんな事は繰り返さない。誰に繰り返してくれと頼まれても繰り返すものかよ!!」


 正気を取り戻したレビは決意を固め、そのまま基地へ向かって飛び立った。



















 

 Chapter8 臨界:〜絶対零度の攻防戦。



 陽動部隊は壊滅。破壊された機体の内幾つかは脱出装置が作動しているが、果たして何人が生き残っているのか、現時点では確認する術のないレビは不安に包まれた。

 だが、彼は急ぐ。

 その不安を振り払うように。



 敵は高機動形態に変形、レビのルシファーを追いかけていた。

 その速度はマッハ4を超えており、たかだか15kmの距離など一瞬の事であった。

「さぁ来い、来やがれ・・・そのままなぁぁぁぁぁ!!

 レビは減速する事無く地下施設への入口に突入した。

 だが、その瞬間、ルシファーに凄まじい圧迫感が生じ、機体が一気に減速した。

 この時ルシファーの突入によって基地内部の「茨の道」の気圧は通常の2倍以上に圧縮されていた。

 そして、ルシファーが減速した事を確認した敵は後方から腕部レールビームキャノンを放った。

 一瞬の出来事であったためにエネルギーチャージされていなかったとは言え、それによって敵の放った閃光によって入口周辺から2キロの所までの武装が破壊された。

 尤も、レビが気付いた頃には敵も突入した後のために、彼は誤算を顧みずこのまま作戦区画へ行くしかない状況に至った。

「しまった!このままでは後ろから狙い撃ちにされる。ならばっ!!」

 レビはルシファーの飛行変形を解き、機体を素早く反転させる。凄まじいGが身体を押し付けるが、それに勝る気迫でトリガーを握り、ミサイルオービットとディバイドバスターライフルを放った。

 これらの攻撃はエネルギーフィールド無しでは致命傷になる威力であるが、回避するに十分なスペースも無いため敵は防御せざるを得なかった。

 敵が怯んだその瞬間にルシファーは急減速・急加速し、敵の背後に回った。

「取り付いてさえしまえば・・・こいつはどぉぉぉぉだぁぁぁぁぁぁ、うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 レビはルシファーを敵と接触させ、そのまま壁に押し付けた。

 敵はエネルギーフィールドを張っていたものの、あまりに物理的な接触のためにその甲斐も無く装甲表面は壁に削られ徐々に減耗していった。

 だが、既にこの時の速度は時速数百kmまで減速しており、長期戦は必死であった。



 一つ目の直角カーブを曲がると、先程の砲撃での破損を免れた武器が装着されているゾーンがあったが、敵と機体とがあまりに密着しているために撃つ事が出来ない。

 今度は敵が急加速してルシファーを振り解き、飛行変形を解除、一瞬で反転して光の雨を放った。

 ここで強力な火器を使用すれば自身も生き埋めになる事を察知していたのであろうか。

 しかし、そんなものがルシファーに通用しない事は過去に証明されていた。

 至近距離でビームを受けているルシファーのコクピット内は断続的に放たれる閃光で蒼く輝いていた。

「ちいっ、目がチカチカする・・・小賢しいマネを・・・ふん、そんなものがこのルシファーに通用しない事を忘れているのかぁ!!」

 レビはディバイドバスターライフルをブレードモードにし、ビームカタールとの2刀流にした。

「このまま地獄まで運んで行ってやる。料金は・・・貴様の命でなぁぁぁぁぁぁっ!!

 レビは2つのブレードで敵を斬り刻む。

 それは決して貫通はしなかったが、敵背後からの援護射撃の存在もあり、敵にとっては一瞬たりともフィールドを消滅させる訳には行かなかった。

「なんだよ、さっきに比べるとやけに素直じゃないか・・・行けぇぇぇぇぇぇぇっ」

 咆哮し、身を乗り出したレビはブレードをエネルギーフィールドに押し付けながらスロットルを全開にした。



 その後3つの直角コーナーを曲がり、ついに目的地点へあと1kmと迫った。

 依然敵は強力なエネルギーフィールドによって防御するだけであった。

 だが、レビは気掛かりになる事があった。

 それは、あの広大な区画に入った瞬間に如何にして脱出までの時間を稼ぐかである。

 確かにソウリュウはいるが、改修されたとは言え実験PFは敵の機動性や火力にいつまでも対応できるような代物ではなかった。

 レビは前方の最終隔壁の開放を確認すると機体を離し、更に加速して敵を追い抜かした。

 そして、敵もそれに追従して加速し、ついに2機は目的地の作戦区画に到達した。

 レビはそのままの速度で旋回したが、真っ直ぐ退避区画に突入する事はせず、一勝負つける覚悟で敵に向かってディバイドバスターブレードで斬りかかった。

 勿論それが意味のない行動である事は彼自身にも解っていた。

 だが、彼の中の「何か」がそうさせずにはいられなかったのだろう。


 レビはビームカタールシールドブースターのエネルギーを全て推進に回す。

 同時に全ての移動補助装備の出力を全開にした。

 急制動、敵の方向へと狙いを定めて急加速――自らは弾丸と化した。


「ガラクタがぁぁぁぁぁっ、他人に迷惑を掛けるんじゃぁねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 ルシファーは敵に比べて軽量ではあったが、その圧倒的な速度と運動エネルギーによって激しいぶつかり合いに勝利し、敵を吹き飛ばした。

(今しかない!!)

「ソウリュウ、第3シークェンスだ!!後は・・・頼む」

 そして敵が壁にめり込んだ隙に彼は反転し、退避区画の方向へと向かった。

 敵はレビを後ろから狙い撃とうとした。

 だが、敵は何かに気付いたようにそれを止めた。

 その隙にレビが退避区画に到達し、隔壁が閉まったその瞬間。

 凄まじい爆音と共に反対側の隔壁が開き、そこから大量の空気が一気に抜け出した。



 室内の気温は一瞬で零下150度にまで低下し、全てのものが凍りつく極寒の空間に変わった。

 また、急激な気圧の低下により敵のメインカメラは破裂、同時に全ての視覚的センサー類は使えなくなっただろう。

 しかし、こちらの監視カメラは元より真空対策が施された物であり、レンズが結露したものの視認には問題無かった。

 その瞬間を間近で見た者は今まで何人いたのだろうか?

 あまりの光景にソウリュウは見とれてしまった。

「これがジュール・トムソン効果か・・・」

 しかし、一瞬で凍りつくと思われた敵は信じられない事に冷却機能を作動させない事によって発する熱量で辛うじて活動を保っていた。

 だが、ジェネレーターに障害が出たのか、敵のエネルギーフィールドが安定性を失い、更にメイン武器である腕部のレールは凍りつき、殆ど戦闘能力は存在していなかった。

「凍らない?予想していたとは言え・・・驚異の判断能力だな・・・だが、ここで終わり・・・なにっ?」

 ソウリュウは手に持っていた液体窒素のホースを構えた。

 だが、敵は武器が使えないと知って体当たりをかけて来た。

 その速度は飛行変形していないとは言え通常のPFを遥かに超えるものであったため、その衝撃はコクピットを貫き、不覚にもその際に液体窒素のホースを放してしまったソウリュウ諸共機体を一瞬で1km先の壁まで押し付けた。

「うぐっ・・・まだ動けるか・・・ちいっ!」

 ソウリュウは敵との接触部分を殴りつけた。

 その瞬間に機体が半回転し、敵を受け流した。

 今度は再び壁にめり込んだ敵の背後から腕部に装備されている専用パイルバンカーで不安定なフィールドごと敵を吹き飛ばし、液体窒素のホースへと手を伸ばした。

 この時の気温は既に零下120度まで上昇しており、このペースで行けば常温まで回復するのにはそう時間が掛からない。

 正に一刻を争う事態であった。



















 

 Chapter9 捕獲:〜零下の熱戦、決着。



 時間がない。

 ソウリュウは先程落としてしまった液体窒素のホースを取るべくバーニア全開で向かった。

 ――誤算があった。

 バーニアの炎が敵の氷を融かし、部屋を暖めた。


 戦闘経験の少なさからくるその焦りが故の軽率な行動によって敵腕部の氷が融解し、それに乗じて敵は腕部のレールを展開した。

 そのエネルギーチャージから発する熱は区画全体とは行かずとも瞬く間に周辺の気温を上昇させ、PFの活動限界である零下80度を上回った。

「気温が上昇している?・・・くそっ!」

 ソウリュウは液体窒素のホースを手に取った。

 その瞬間にすぐ横を強力な光の帯が横切った。

「なにっ?」

 幸運にも敵の視覚と言える部位はジュール・トムソン効果の発動と同時に破損しており、そのビームはソウリュウに直撃する事は無かった。

 そして、そのビームは先程レビが退避した区画への隔壁を吹き飛ばした。



 一方、その状況を地下戦闘管制室で見ていたセガワ大佐は焦りつつも万一のために待機していたレビに再出撃を要請した。

「ソウリュウ大尉が危険です。援護してあげて下さい!!既に気温は・・・」

 それだけを聞いてレビは危険な空間へと再び飛び出して行った。


 レビは長い回廊を猛スピードで巡航していた。

「まったく・・・なんて奴だ・・・ソウリュウ・・・私が行くまで持ちこたえていろよ・・・」

 レビは例え僅かでも早く到着するために狭い回廊にもかかわらずHDDバーニアを最大出力にした。



 その頃、敵は視覚を完全に抑えられているため、高速で旋回しながらビームで部屋中を薙ぎ払っていた。

 しかし、液体窒素をかけるには敵の移動が速過ぎ、加えてその強力なエネルギービームのために接近する事も困難であった。

「膠着状態か・・・それでも時間が経てばこっちが圧倒的に不利になる・・・どうする・・・考えろ・・・考えるんだっ、時間はもう無い!!」

 ソウリュウはこの状況で既に戦意が減退していた。

 だが、その膠着状態を破るようにもうひとつの存在が現れた。

「生きているか、ソウリュウ!!」

「中佐っ!!」

 レビは敵のうろたえ弾を素早く避けながらソウリュウの下に駆け寄った。

「ソウリュウ、奴は目が見えないらしいな・・・おそらく囮になっても無駄だろう・・・私が奴を液体窒素で凍らす、貴様は奴を直接押さえろ。その機体なら低温でもコクピットは大丈夫だろう」

 あまりに打算的、果たして自分は本当に大丈夫なのだろうか?

 そんな事を考える事も無くそのプランに賛成するソウリュウ。

 最早彼の瞳には諦めの表情など微塵も無く、あるのは決意と自信に満ちた熱き炎だけであった。

「奴は今、機械のクセに混乱してやがる」

「んっ!なぜ機械だと?」

 今のソウリュウにはレビの言葉にも反応出来るだけの余裕を持っていた。

 それに安心したようにレビが言った。

「いや、別に確信があると言う訳ではない。ただ、今まで戦ってみて何となくそんな感じがするだけだ。・・・さっきと違ってえらく余裕があるな・・・よし、行けぇぇぇぇぇぇっ、ソウリュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ

「了解・・・うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ソウリュウはレビの掛け声と共に敵に向って一気に突撃した。

 稀に直撃するビームによって装甲表面が損傷するも、この時のために強力な耐エネルギーコーティングを施した機体はビームの多くを弾き返し、最早敵はその動きを止める事は出来なかった。

「ここまで来たら・・・とったっ!!」

 機体の損傷は接近するごとに増大していくも、速度を得たソウリュウは機体を敵にぶつけて壁に叩き付ける。

 そして素早く回り込み、ついに彼は敵を背中から押さえつける事に成功した。

 彼はすかさず旋回し、レビから正面にあたる絶好の位置で静止した。


「中佐ぁぁぁぁあああああっ・・・今ですっ!!!」

「でかしたぁぁぁぁぁっ!これでえぇぇぇぇぇぇラストォォォォォォォォォッ!!!」


 レビはバーニア全開で接近し、敵に向かってソウリュウ諸共液体窒素を惜しみなく浴びせた。

 巨大な氷のレリーフが完成した。

 流石に敵もこれには堪らず熱を発しても無駄であり、完全に凍りついた。

「全く・・・気温の割には熱い戦いだったな・・・おいっ、ソウリュウ・・・生きてるか?」

はぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・寒いぃ・・・

 ソウリュウは情けないような声で返信してきた。

 だが、それは勝利したために気が抜けたのではない。

 いくら実験用の特殊な機体とは言え液体窒素を浴びせられてバイロットに何の影響もないと言う事は無かったからである。

「おいおい、折角勝ったんだからそんなもので死ぬなよ・・・とりあえず作戦終了だ。
 ・・・司令部、敵は現状では沈黙している。今のうちに最下層のケイジに繋いでおいてくれ。くれぐれも慎重にな、本来なら液体窒素のプールにでも泳がせておきたい所だが、パイロットがいたら話が聞けなくなるからな。まぁ最悪でも脳さえ残っていれば話は聞き出せそうだが、面倒だ。
 あと、格納庫には暖房を入れておいてくれ。モタモタしてるとソウリュウが死んじまう」

 レビは笑いながら通信を切ると、今度は真剣な顔で凍りついた機動兵器を見た。

「捕獲を第1目標にはしているが・・・今後の事を考えるとやはり破壊するべきか・・・」

 レビは敵をこの場で破壊しようとしたが、氷を溶かすと再び暴れだす危険性があったため、とりあえず格納庫へ向った。






 レビはコクピットを降りた。

 ――暑い。

 そこには、暖房の入った空間が広がっており、しみじみしながら振り返った。

「全く生き返るよ・・・なぁソウリュウ・・・?」


 だが、その気分をブチ壊しにされた。

 レビが実験PFの方向を向いた時、ソウリュウは辛うじて意識を保っていたものの顔は鮮紅色を通り越して暗紫色に変色し、自力では立てず整備兵に抱えられるようにコクピットから運び出されていた。

「凍傷寸前か或いは・・・しかし、戦闘機部隊、精鋭部隊合わせて18人が戦死・・・死亡率は60%・・・代償はあまりに大きかったな・・・」

 この犠牲者達はほぼ指揮官クラスの面々であり、それは指揮系統の壊滅を意味していた。

 ――仲間達の死、もう同規模の戦力は戻らないだろう。

 レビは歯を食い縛りながら運び出されたソウリュウを追うように格納庫から出て行った。


「ソウリュウ・・・大丈夫か?」

 レビは ソウリュウの横たわるベッドに手を添える。

 尤も、ソウリュウの意識は保たれており、生死の境を彷徨っている訳でもないため、そこまで心配したような素振りはしていなかった。

「ははは・・・液体窒素のシャワーは・・・いい湯加減でしたよ・・・」

 ソウリュウは笑って見せる。レビはそれに安堵の溜息を吐く。

 ――まだするべき事がある。

「何だよ、まだまだ大丈夫じゃないか・・・安心したよ。それじゃぁ私はさっきのバケモノを尋問してきてやるさ」

「あのバケモノがなんて言うか楽しみですね・・・ははははは・・・」

「そこまで期待されるとついついその期待に応えたくなる。損な性分だな・・・」

「それが中佐の良いところですよ・・・それでは期待しています」

「ああ、そう言えば貴様はまだ行った事が無かったと思うが、ウチの看護班は親切だぞ、覚悟しておけ」

「?・・・はっ、はぁ・・・」(親切なのに何で覚悟しなければならないんだ?・・・)

 その時ソウリュウは何の事かサッパリ解らなかったが、これから彼は荒くれ者の軍医と衛生兵の熱烈な歓迎を受けるのであった。




 

 謎の機動兵器を拘束したケイジへ向かう廊下の中、レビは再び歯を食い縛りながら考えていた。

 仲間を18人も殺した敵をどのように拷問するかを。

(バケモノを動かしていたのは人か機械か、はっきりさせてやる。・・・ふふふ、待ってろよバケモノめ、血祭りにしてやる)

 考えれば考える程に足が速くなっていき、最終的にはかなりの早歩きになっていた。

 そしてケイジの監視室へと入る。

 監視室はケイジより数メートル上から迫り出す形状で、全体を見渡せる。

 見晴らしは良かった。

 彼は上から今まさに拘束されたばかりの機動兵器を見下ろしていた。

(今入ったばかりか・・・ソウリュウでさえあの状態ではパイロットがいるとすれば生きてはいまいな・・・)

 レビが椅子に凭れ掛った時にドアが開き、セガワ大佐が入ってきた。

 その顔には笑みはない。

「よかったぁ・・・大丈夫みたいですね・・・でも、他の人は・・・」

 僅かに口元が喜んだのも束の間、セガワ大佐は下を向き、その小さな拳を握り締めていた。
 そんな彼女を見たレビは彼女の両肩にそっと手を置いて言い聞かせようとしたのだが、何故か目を合わせる事が出来なかった。

「悲しむな・・・人はいつかは死ぬ。人は死ぬからこそ生きる事は尊いんだ。我々はその死んだ者たちのために彼らが生きている時に出来なかった事をしてやれば良い。・・・そう言う私自身もなかなか割り切る事は出来ない・・・いや、心のどこかでそう割り切るのを拒否しているのかもしれないがな。だが、彼らのおかげであんなバケモノをこれだけの被害で捕獲出来た・・・それだけでも・・・くっ・・・」

 ――これでは仲間達の死を肯定的に受け取っているようにしか見えない。

 心ではそう思っていないにしろ、レビは自分自身の言葉に嫌悪する。

 レビはこれまでセガワ大佐の前では頑なに自分の弱さを見せないようにしてきたが、今回ばかりはそんな事にまで気が回らず、堤防が決壊するように今まで抑えていた感情が一気に溢れ出した。

 頬に伝う熱。

 彼女を慰める前に自分が先にその場に泣き崩れてしまった。

「レビさん・・・」

 やはり近しい者たちの死は彼らの心の上に大きく圧し掛かっていた。

 しかし、立ち止まる事は死んだ彼らに申し訳が立たない。

 そう思う事で少しでも気を軽くしようとするのであった。



















 

 Chapter10 接近:〜謎の訪問者。



 涙は目を洗う体液――だが、悲しみの涙を流すものは人間だけである。

 二人は泣き崩れていた。

 それは幾多の修羅場を潜り抜けて、幾多の仲間達の屍を踏み越えてきた彼等の人間性を表すものであった。

 その声を聞いた者はいなかったが、それは部屋中に反響し、圧倒的な声量は徐々にではあるが二人を強制的に現実へと引き戻した。

「はぁ〜っ・・・少しはスッキリしたかな・・・シオリはどうだ?」

 その問いに答えようと、そして余計な心配をかけないために深呼吸をし、元気な風に装った声でセガワ大佐は答えた。

「・・・こっちはまだまだかな」

 ふと窓を見下ろす。

 悲しみの根源、多くの仲間を殺した憎むべき敵。

 ――今は見るだけで気分が悪くなる。視野からだけでも逸らしたい。

「・・・・・・・・・あの機動兵器はどうするの?」

「当然破壊する。・・・んっ?」

 レビは無線のランプが点灯しているのに気が付いた。

 慌ててスイッチを入れると聞き慣れた声が入ってきた。

「・・・え・・・・・・か・・・聞こえますか。こちらドゥリゲス=ウェザーフォード大尉。聞こえますか・・・」

 意外な反応に今までの悲しみを吹き飛ばされたのか、嬉々とした声でレビ中佐は返信した。

「ドゥリゲスか、生きていたか!!よかった・・・で、どうした」

「中佐・・・それでは作戦は成功した訳ですか・・・。今我々は生存者を連れて補助滑走路の所にいます。出来れば輸送機を2機ほど回して下さい。あと、メインベースに向かっているガルスキー財団のVIP用航空機と輸送機2機がレーダーで確認されています。おそらくそちらへ向かうのでしょう。ですから我々の出迎えはしない方が良いと考えられます」

 こんな戦場にVIPが来る――タイミングから考えても妙な話である。

 ――今は考えないでおこう、他に優先するべき事がある。

「そうか・・・なんにせよ生きていてくれて良かった。以上だ」

 レビは無線を切ると、セガワ大佐の肩を抱くように抱え上げた。

「シオリ、もうすぐガルスキー財団のVIPが来るらしいからな、一応しっかりしておかないと示しがつかない。それに、やはり何かをしないと辛いからな」

 その言葉に応えるためにセガワ大佐は指で涙を拭い、自らの力で立ち上がった。

「そうですね・・・いつまでも悲しんでいたら死んでいった皆さんまで悲しくなっていきますからね・・・とりあえずVIP用の航空機が来るまであの機動兵器を解体しておきましょう。解体さえしてしまえば別に凍らさなくてもよいでしょうし」

「そうだな・・・」

 レビは下へと繋ぐ拡声器を手に取ると、下で作業していた作業班に対して声を張り上げた。

「おーい、聞こえるか?・・・・・・・・・(聞こえるようだな・・・)・・・貴様等はその機動兵器を解体してくれ。くれぐれも慎重にな。一応の用心のために機体の各所に有るだけのリモコン式爆弾でも詰め込んでやれ、一瞬では見つからないような所にもな。・・・そうだな、まずはその腕を外してくれ。それさえ無かったらルシファーだけでも止められるからな。あと、パイロットがいた場合は取り押さえろ。暴れるようなら両手両足をブチ抜く事も容認しよう。生きていて話す事さえ出来ればどんな状態でも構わん。ただし、殺すなよ・・・

 レビは身の毛も弥立つような冷たい声で命令した。

 もしパイロットがこの声を聞いていたら抵抗する気は完全に失せたであろう。

 だが、仮にパイロットが無抵抗だとしても彼は自分を抑えて尋問に留めようとは微塵も思っていなかっただろう。



 ――そもそも捕獲作戦で捕らえられた兵士は捕虜とはされないのだ。待っているのは良くて拷問、悪ければ処刑である。

 ――捕虜は情報さえ引き出せるまでになっていればどのようになっていようが知った事ではない。捕虜の待遇に関する条約――ジェネーブ条約は地球時代の頃からのものが何度も更新され、一応形としては今も存在はしているが、所詮は外観を纏うだけで形骸化している。

 捕虜の待遇の悪さは人道的な立場から国際的地位を危うくする要因にはなっている。

 しかし、ヴァリムは特に他国に対して協調的立場を強調する必要はない。

 武力で他を押さえ込む帝国主義であるからだ。

 それも経済力と相互依存ではなく、完全な力であるだけに性質が悪い。

 戦争犯罪など勝てば問題にならず、勝つためには捕虜から情報を引き出す事は重要な問題になってくる。

 要は勝てば敗者を裁く事が出来るのだ。


 もちろんレビはそこまで冷酷な人間ではなかったが、少なくとも仲間を殺しまくった相手を、捕まえたからといってマトモな待遇に抑える事などは理不尽且つナンセンスであるとして絶対に出来ないタイプの人間ではあった。

 きっと怒りに任せて私刑に処するだろう。


 戦略か感情か、始まりは違うにしても過程と結果は同じである。


(バケモノめ・・・身包みと一緒に化けの皮を剥いでやる・・・ぐっ・・・)

 レビはいきなり息を詰まらせた。

「?・・・何がそんなに面白いの?」

「いやいや・・・バケモノの化けの皮を剥ぐってな・・・」

 このギャグはレビには大ウケだったのに対し、セガワ大佐は彼を冷ややかな視線で見ていた。

「・・・面白くない・・・でも狙って作った訳ではなさそうですから許します。とりあえずドゥリゲス大尉が輸送機を発見したと言う事はもうすぐ到着すると考える方が自然ですね。上の管制室へ行きましょう」

 2人は監視室を後にし、上の地下戦闘管制室へと向かった。



 地下三階――これより下の階は研究階層で、ここは主に戦闘時に於ける指揮系統の中枢になる部分である。

 しかし、メインベースが破壊された当時の状況では、殆どの士官が地上施設にいたため、ここで難を逃れた者はそう多くなかった。

 どんな状況にせよ、まさか敵が攻めてくるとは思っていなかった――こちらからではそう判断せざるを得ない。

 レビは地下戦闘管制室のドアを開けた。

 だが、廊下の明るさとあまりに対照的な室内の暗さのため、当初彼の目に映ったのは計器類の放つ光だけであった。

「んっ・・・なんて暗さだ、何も見えんな・・・」

 地下戦闘管制室は過去に存在した地上三階のオフィスのようなCICとは違って窓は無く、その割には何故か照明が薄暗いという無骨で無機質な部屋であり、唯一ドア横に存在する観葉植物が彩りを加えているだけであった。

「・・・こんな所で指揮していたのか・・・これでは逆に息が詰まりそうだな」

 ようやく目の慣れたレビが地下戦闘管制室の全貌を見渡して思った事がそれであった。

 レビは「まぁ地下だからしょうがないか・・・」と思う事で無理矢理に納得すると、ようやく使えるようになった衛星からのレーダー情報を受信しているのだろうと思われる計器を操作する女性オペレーターの方へ向かった。

「こちらにヴァリムからの3つの航空機が来ていると思うのだが、何か解ったか?」

 女性は一瞬振り向き、手際良くコンソールのボタンを弾く。

 ――表れたのはヴァリム・ファーレンの地図と西リテリア基地の位置、そしてこちらへ向かう3つの光点であった。

 速度はマッハ1.7、既にこちらの輸送機よりも速い。

「はい、向こうからこちらに向かって味方の識別信号が発信されています。機種は最新鋭のVSSTホーク級2機とVSSAV、クイーン・オブ・フェアリー。双方共に垂直離着陸可能な機体ですからこちらへ直接降下するとの事です」

 VSSTとはVertical(taking-off and landing)Super-Sonic Transport:垂直離着陸超音速輸送機で、VSSAVとは、Vertical(taking-off and landing)Super-Sonic Aircraft for Very(important person):VIP専用垂直離着陸超音速航空機の略称であり、共に垂直離着陸可能な超音速輸送機・航空機などの総称であるVSS’sと呼称される事もある。

「クイーン・オブ・フェアリーには誰が乗っている?」

 クイーン・オブ・フェアリーとは、ヴァリム国内でもガルスキー財団幹部やヴァリム軍将官クラスしか搭乗する事を許されない超音速航空機である。武装は強力の一言に尽き、それとは対照的に内装は豪華絢爛で、特にVIPルームは球体を水の中に入れたような構造で、機体が如何なる角度になってもその部屋は地面との平行を保ち続け、そして如何なる状況においても乗客に快適な空の旅を確約すると言われている。

「それが、ついさっきの通信では軍機につき傍受される危険性があるため言えないとの事です」

 レビは顔を顰める。

「妙だな・・・正体不明のVSS’sか・・・クイーン・オブ・フェアリー、佐官クラスでも乗る事は出来ない代物だ。一体誰が乗っている事やら・・・それよりも後ろの輸送機が気になるな・・・ホーク級なんて代物はまだ実践配備はされていない。仮に試作機だとしてもそこらの軍隊が持ち出せる物ではないからな・・・と言う事はガルスキー財団の幹部クラス、それもかなり中心に近い者と考える方が自然か・・・」


 VSSTホーク級とは、既に配備されている4種類のVSST、小型最高速タイプのスワロウ級、その速度と引き換えに戦闘能力を強化したクロウ級、その中型であるレイヴン級、そしてフェンリル機動師団が使用する大型でPF搭載量を重視したイーグル級に加えられる予定の5種類目の最新鋭大型VSSTである。

 この輸送機1機で10機(最大15機)ものPFを搭載可能で、積載量を重視しながらも火力は高く、スワロウ級には及ばなくともクロウ級並みの速度・運動性能を実現している最強のVSSTとして時期主力の地位を期待されているものである。


 レビが顎を弄びながら考えていたが、セガワ大佐は「何故そんな事で悩むのか?」と言った顔で尋ねてきた。

「何か考えることがあるんですか?何かマズい事でもあるとは思えませんが・・・」

「いや、今更来ても仕方が無いと言う事だ。それともこちらが勝つとは思っていなかったか・・・いや、違うな・・・増援にしては数が少な過ぎる・・・」

 無意識に足踏み、そして歩を進め、思考もそれと同じようにぐるぐると円を描く。

 レビは延々と自問自答を繰り返したが、結局辿り着いたのは以前と同じで「あのクイーン・オブ・フェアリーに乗っているVIPとやらに合えば全て解る」という事であった。

「あの3機はあとどのくらいで到着する?」

「この速度を維持するのであればおよそ20分後です」

「そうか・・・正装に着替えないとな・・・面倒だが行こう、シオリ」

 一応VIPが来るらしいので、外見だけでも歓迎するようにしないとならなかった。

 個人的にはガルスキー財団の連中などを出迎える事も歓迎する気も更々ないのだが、何もない所でこれ以上噛み付いては反乱分子として穏健派の発言力を削ぐ口実を与え、戦力を制限される可能性がある。

 それでは本当に噛み付かねばならない場所で力を発揮する事が出来なくなる。

 ここは何よりも普通に振舞わなければならない。

 戦略的視野を持つレビにとってこの決断は勇気のいるものであったが、その腸は煮えくり返っていた。

 ――実際はどのくらい保つか解らない。正に爆弾を抱えたような心境である。

 レビはその不快感を滲ませたように「この程度の事ならわざわざここまで来なくとも通信だけで十分だったな」と訝しげな表情をしながら地下戦闘管制室を後にした。




 レビにとって正装を着る事は楽しみのひとつではあったのだが、今回に関してのみに言えば突然の訪問に加え、相手が誰か解らないという不信感からか非常に気だるさを感じていた。

「ふふふっ、この中佐の階級章・・・もう何年付けているのかな・・・」

 レビは訪問者が誰であるかを考える事を止め、数年間付け続けている中佐の階級章を見てその授賞式を思い出し、何とも言えない懐かしさを感じていた。

 しかし、過去を懐かしむあまり別の感情が噴き出していた。

「・・・・・・だったら何で未だ中佐のままなのだっ、あれだけの戦果を挙げてきたのだ、アルサレアのグレンリーダーでさえ今は元帥だ、どう考えても奴より私の方が強いぞ。はぁ〜っ、待遇が悪くて給料も悪い・・・まったく、ここでは出世が望めないな・・・くそっ」

 レビは拝借していたロッカーを乱暴に閉めると、部屋の外で待っていたセガワ大佐と外に出た。



 2人が着ているのは同じ服装。

 レビはヴァリムでは標準的なもので、真白なスーツと言うよりブレザーに近いようなものであったが、それは何故か女性であるセガワ大佐も同じであった。

 女性の服装は威厳がありそうに見えない。

 以前からそう思っていた彼女が無理に作らせたのである。


 二人は外に出て日の光を一身に受けた。

 久方振りの外気である。

 ――これでガルスキーの奴等が来なければ最高だったろうにと、レビは思う。

「うーーーんっ、外っていいねぇーーっ」

 空気が美味い。

 ついついセガワ大佐は体を伸ばしてみた。

 ここ最近地下での生活が長かった彼女にとって外の空気は久方振りに接するものであった。

 このまま寝転んでいたかったが、礼装が汚れるので出来なかった。

「そうだな・・・そろそろ予定降下時刻だな・・・あれか」

 レビが微笑みながら西空を見ると、光る3つの飛行体が見えた。

 クイーン・オブ・フェアリーとホーク級である。

「クイーン・オブ・フェアリー・・・真っ白だな・・・見た事のないタイプだ・・・誰が乗っている?それにホーク級・・・機体を見るのは初めてだな・・・何を積んでいるのやら、まぁルシファーに勝てる奴はいないだろうがな」

 レビは「訳の解らない事言いやがったら全員ぶっ殺してやる」と、半ば楽しみな感覚を覚えながら勢い付きながら3つの航空機を待っていた。



















 

 Chapter11 陰謀:〜機動兵器の後始末。



 接近していた3つの飛行体は速度を落とし、2人の上空で停止した。下から見ると威嚇的で迫力がある。

 それらはジェットを鉛直に噴出しながら徐々に垂直降下していった。

 砂煙が上がり、下の二人は目を瞑る。

 ――嫌がらせか、レビは思った。

「純白のクイーン・オブ・フェアリー・・・スノーホワイト・・・『白雪姫』だと?ふんっ、どうせ乗っているのはオオカミだろう?」

 だからこういう発言も出る。

「・・・・・・オオカミは赤ずきん、白雪姫は悪い魔法使いですよ」

 レビの勘違いした発言に呆れたような顔で突っ込むのはセガワ大佐であった

 そして、3機が完全に着陸した直後に2つのホーク級のうち1機から5機の純白の機動兵器が出現し、クイーン・オブ・フェアリーを囲むように展開した。

 ――この機体は資料でしか見た事がない。実際に見るのは初めてのものだ。

「・・・量産型タナトスだと?・・・白い制服か・・・道理でスノーホワイトか。どうやら奴等は再就職が決まったようだな」

 『白い制服』とは過去に「キルゲフ親衛隊」と呼ばれていた集団で、MM計画によって作られた感情の無い完成された兵士だと言われていたが、おそらく主人であるギルゲフの失脚によって今回クイーン・オブ・フェアリーでやって来た人物の下で再調整されたのであろう。

 量産型タナトスが展開し終わるとクイーン・オブ・フェアリーのドアが開き、先ずは白い制服を着た男が3人出てきた。

 3人は一糸乱れぬ完璧な敬礼する。

 直ぐにタラップを下る一人の男が見えた。年齢は50歳前後、長身、銀髪の角刈り、色白に碧眼、髭は無く、いかにも古強者を思わせる体格に風貌。この機体に乗っている事からおそらく将官クラスだろうと思われるが、この男はレビでさえ見た事の無い男であった。

「レビ中佐か、出迎えご苦労。先刻の報告によるとどうやら謎の機動兵器は捕獲したようだな・・・失礼、私はガルスキー財団特務軍事部所属のクリストファー=ガルスク、階級は准将だ。我々の詳細は話せないが、察しの良い貴様なら『ジャニター』とでも言えば容易に想像出来るだろう」

 ジャニターとは、管理人・門番を意味するガルスキー財団の特務機関とされている謎の組織であり、ガルスキー財団幹部クラスでもその実体を知る者は少ないと言われている。

 また、フォルセア神佐と関係があるとされる組織の末端、或いは過去に存在していた超国家的組織『管理者』に直接関係する組織ないし、その番犬・実動部隊ではないかと言う噂もある。


 益々意味が解らなくなる。

 そんな奴等がタナトスまで連れて何しに来たのだろう。

 レビは手の上で踊らされているような感覚を受けた。

「そのジャニターがこんな辺境まで来て謎の機動兵器の見物ですか・・・白い制服まで連れて・・・」

 ガルクスはレビの喧嘩腰とも言える口調をいなすような口調で言い放った。

「ふふふ・・・そういう事だ・・・邪魔するぞ」

 一瞥し、歩を進める。

 ――相手にされていない。

 それだけを言ってまるで自分の庭のように施設へと入っていくガルクスをレビは訝しく、そして忌々しく思っていた。



 出てきた3人の親衛隊の内1人をクイーン・オブ・フェアリーの門番として待機させる。

 ――完全に信用されていない、むしろ警戒されている証拠である。

 残りの2人を引き連れたガルクスとレビ、そしてセガワ大佐は最下層への直通エレベーターに乗っていた。

 エレベーターの内部は比較的広く、スペースには余裕があったが、その気まずさと息苦しさは広さを全く感じさせないものであった。

 レビはさり気なく身構える。

 ガルクスが尊大なのは階級が高いからだという事で相手にする必要はない。

 むしろ気になるのはガルクスよりも親衛隊の方である。

 彼等の目は焦点が合ってはいない。

 目を合わせても無反応、狂気すら感じる。


 そして最下層に到着、セガワ大佐はガルクスをケイジ監視室へと案内する。

 少し緊張しているようだ。

 鹵獲した機動兵器は右腕だけ何とか解体出来たといったところであるが、全体像を見るには差し支えない。

 最下層のケイジ監視室にて何かを確認するかのような口調と視線で機動兵器を見下ろしているガルクス准将が満足そうに口を開いた。

「ほう・・・これがそうか・・・確かにな・・・。・・・この機動兵器は我々が西ファーレン基地へと持って行く。これは命令だ!!」

 何言ってやがる!!

 ――レビもセガワ大佐も一瞬固まる。

「なっ・・・どういう事だ?」

「・・・そういう事だよ・・・セガワ大佐と言ったかな?全作業員に通達したまえ」

 ガルクスはレビを無視するように会話を進めていった。

 そしてレビの方へ振り返って言い捨てた。

「どうせここでは大した分析も出来ないだろう?」

「そうとは限らん・・・ここではPFの実験をやっていたようだ。施設には困っている訳ではない」

 レビからは無意識に反抗した言葉が吐かれる。

「だが研究員はいない・・・違うか?」

 図星を突かれた。

 狂犬のような表情でガルクスを睨み付ける。

「ならば解体が先だ。別に異存は無い筈だ」

「勝手にしたまえ・・・」

 ガルクスは「何をどうしようと持ち出せればこっちのものだ」という表情を残して部屋から出て行った。


 ――何を考えている。

 先行きは不透明どころではない、完全な闇だ。


「気に入らんヤツだ・・・ここが戦場なら真っ先にブッ殺していたところだ・・・」

「とりあえず解体して良いって事ですから・・・ねっ」

 レビは宥められるが、あまり効果はない。

「奴等はあの機体を甘く見ているのか?頭と胸をブチ抜いても5・6日で自己再生するバケモノだぞ・・・量産型タナトス程度の火力でどうなるものではない・・・まぁいい」

 決定事項なら論ずるだけ無駄である。

 ここでどういう状況に陥ろうと、難儀を背負うのは奴だ。

 レビは諦めたようにシートに凭れ掛った。



 そして解体作業は一日中行われ、翌朝にその解体された機動兵器をホーク級へと積み込んだ。

 結局パイロットどころかコクピットさえも発見出来なかった。

 完全な無人機である。

 ――レビはそう報告を受けた。


 唇に鉄の味がした。



「ほう・・・ホーク級の1機は空か・・・用意の良いヤツだ」

 レビがうなずく。

 もちろん関心などしてはいない。

 その後ろからは嫌な男がやって来た。

 ガルクスである。

「見送りご苦労・・・と言いたいところだが、貴様らには同行してもらう」

「ふん、まさかクイーン・オブ・フェアリーにでも乗せてくれる訳でもあるまい」

「乗りたいかね?」

 ガルクスが尊大な表情で吐き捨てた台詞に腹を立てつつも生身では白い制服相手に立ち回る事が出来る筈も無いので何とか抑えようとしたが、おそらく邪魔者さえいなければこの瞬間にガルクスは殺されていただろう。

 レビは今でこそ丸い性格ではあるが、一度敵と認識した相手には容赦する事の有り得ない残酷で冷酷、好戦的な側面を持つ人物でもあった。

「くっ・・・我々は万が一輸送中に機動兵器が起動した時の事を考えて待機しなければならないので遠慮します・・・失礼します」

 今まで散々暴言を吐いておいて、今更言葉に気を使う自分の態度がおかしかったが、いらぬ所で挑発するガルクスの態度にはムカつき加減が際立ってきた。

 レビは屈辱に歪む表情を悟られないように振り返り、そのまま輸送機に格納されているルシファーのコクピットへと向かった。


 レビの輸送機はVSSTイーグル級、VSSAVクイーン・オブ・フェアリーやVSSTホーク級より速度が遅いため撤退準備の出来ていない部隊の殆んどを置いて西ファーレン基地へと先行した。



 輸送機――正確には更にルシファーの中、敵の恐ろしさを痛感していたレビは常に緊張した表情で、送られてくるホーク級の映像に目を光らせていた。

「さすがに5体をバラバラにしてやれば抵抗は出来ないだろう・・・」

 その時レビは邪悪な考えを思いついた。

「確か機体には爆弾が仕掛けられていたな・・・動くと仮定して、その前にここで爆発させてやろうか・・・」

 レビは爆破装置のスイッチを手に取ったが、すぐに放した。

「ふん、どうせホーク級の中にまで電波は届くまい・・・」

 この時代の輸送機はあらゆる電波を遮る装甲を採用していた。それは電波系兵器の高度化によって外部から輸送機のシステムを直接支配して積荷を奪うという方法の略奪行為が過去にミラムーンで起こった事に由来している。


 その時、クイーン・オブ・フェアリーとホーク級が速度を上げた。

 それはレビの乗るイーグル級より遥かに速い速度で――徐々にどころではない、一気に引き離される。

「どういう事だ?何故速度を上げる?」

「我々が着いてから作業をしたのでは効率が悪い。それだけだ」

 ガルスクはレビを切り捨てるような言葉で払い退けた。そして二機はその機体を空の彼方へと消していった。

「なんて速度だ・・・もう見えなくなったとは・・・何も無ければ良いが・・・」

 だが、レビの心配は杞憂に終わり、結局敵は起動する事無く西ファーレン基地へと到着した。



















 

 Chapter12 別離:〜ルシファー撃墜。



 何となく快適な――敵の襲撃がない、護衛目標もない、やはり気楽である、その程度の快適さしか感じなかった空の旅は終わりを迎えた。

 輸送機の速度が落ちる、到着だ。

 眼下に広がるのは大都市、直下には空港である。

 西ファーレン基地――それはヴァリムとの国境付近に存在するファーレンで2番目の規模を誇る巨大基地であるが、最も大きい西リテリア基地の殆どは地下実験施設であるため、基地としての大きさは最大のものであった。また、地上の半分は市街地となっているため、ここにも広大な地下施設が存在する事は見た目では想像も出来なかった。


 先行したクイーン・オブ・フェアリーとホーク級は既に滑走路内にあった。

 その周りに人影はない。既に搬出作業は終了しているという事が解る。

 レビの眉間が震える。

 ――イライラする。

 謎の機動兵器云々ではなくガルクスの事で、である。


 謎の機動兵器は一体どうなっているのか。

 一応解体はしてあるが、以前には完全に破壊したと思っていたそれが数日で復活した例がある。

 ホーク級の中で合体していたのではないのか――そういう不安があった。
 
 それが杞憂であった事に一応安心はするが、イライラの元は未だ健在であった。
 

 
 そして基地南東部にある幅200m×200m、高さ30mのドックにそれはあった。

 レビとセガワ大佐が西ファーレン基地へ入って見たものは意外な光景だった。

「なっ・・・どういう事だ?」

 ――絶句する。

 そのドックは入口から一段下がっており、入った瞬間に全体を見渡す事が出来た。

 その状況にレビは横で腕を組んでいたガルクスに食って掛かった。

 そこでは西リテリア基地にて解体した筈の機動兵器が復元されていた。

 御丁寧に仕掛けた爆弾は解除されていた。

 ――それで全部かどうかは解らないが。

 それに答えるガルクスの口は僅かに引き攣っている。

 嘲笑だ、レビにはそう映った。

「簡単な事だよ・・・この機動兵器はパーツ単位では電源が入らないように細工がされているらしい・・・近くで見るかね?」

 それは本当であった。

 この時代の機動兵器、特にPFに関してはカスタマイズシステムの代償として容易に転用される危険性があった。

 そのためメインフレームでプロテクトした情報がなければ例えパーツにジェネレーターが存在しても電源が入らないようにプログラムされていた。

 機体の再構築は鹵獲した機体からデーターを抜き出すには不可欠な過程である。

 ――それは同時に同系統の技術を持つ組織の存在ないしPF開発技術が使われている事を証明していた。


 3人は機体へと近付く。

 下に降りて見たものは、復元された機動兵器の胸部装甲を外すところであった。

 胸部の装甲が外される。

 次にあったのは吸収材、それも取り外す。

 その中にあったのは大量の回路、駆動部、そして中心部に15cm四方の立方半導体:キューブがあるだけであった。

「なっ・・・これは!!」

 その立方半導体の放熱板には英字体で「CERES」の文字と「Y・K」のイニシャルが刻まれていた。

 後者の意味は現時点で不明であったが、おそらく前者の意味は「豊穣の女神」その事から機動兵器の名称と思われる。


 ――レビは異星人の兵器であって欲しいと思っていた。

 同じ戦争をするにも人間同士で戦う訳ではない、罪悪感も薄れる。

 だが、間違いなくこれは人間が作ったものである。

 では誰が造ったのか――解らない。

 ただ、これが戦乱の火種になる事は間違いがなかった。


「機体名がセレスだと?・・・こんなものが・・・くっ・・・」

 ――目眩がする。

 途端に血流が逆流しているような感覚を受ける。

 レビは如何に解っていたとは言え仲間を殺した敵の正体が「ただの立方半導体」であったという無機質な事実に、そしてその現物を見た事のインパクトに耐え切れずに一人ケイジを後にした。

 ――ここにいては息が詰まる。

 早鐘のように響く鼓動は息苦しさに変わっていた。



 同じフロアにある薄暗い士官室にひとり佇むレビは物言わぬロッカーに対してその拳を振るっていた。

「あんなものが・・・あんなものが・・・くそっ・・・ただの機械にあんな芸当が出来たと言うのか・・・うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ――あんな芸当、それはあたかも人間が乗っているように思わせる動き。

 あんなものがあれば、いよいよ人は戦場から姿を消す事になるだろう。

 ――そんな事はレビにはどうでも良い事であった。

 ただ、人と戦って死ぬなら「戦死」として納得は出来ただろう。

 しかし、機械に殺されたのは何と考えれば良いか。

 怒りはどこにぶつければ良い、あまつさえ正体も解らない機械相手にぶつけたところで何の意味があるのだろうか。

 ――混乱する。

 感覚はもう何もない。

 その拳は赤く滴り、ロッカーは表面を複雑に歪めていた。


 だが、レビの怒りは収まらない。

 それどころかそれは更に増大するだけであった。


「ええいっ、くそおおおおおぉぉぉぉっ」

 レビはそのロッカーが誰の物かなどお構いなしに蹴り飛ばした。

 その威力は強烈で、空とは言え金属製のロッカーを2m以上吹っ飛ばした。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 これ以上殴る物がなくなったからか、ようやく一段落する事になったものの、手当てもせずに再びドックへと向かった。

 ――ここまで来て立ち止まってはいられない。とことんまでやってやる。

 その正体を暴いてやる。

 正体は何か、誰が造ったのか――解り次第叩き潰してやる。



 そこには先刻の間にコードで繋がれた機動兵器:セレスが立っていた。

 そして、立方半導体には直接大型の計器が繋がれていた。

 おそらく内部の情報を吸い出そうとするのであろう。

 セガワ大佐はレビに気付く事無くその計器を起動させた。

 計器は「ウィィィィィン」というある意味心地よい排熱音を響かせて活動し始めたが、すぐに警報がドック内に鳴り響いた。

「何が起こった?」

 レビはセガワ大佐のもとに駆け寄る。

 しかし、当人も意味不明である状況に答える事など出来ず、ただ首を横に振るだけであった。

「なんて事だ・・・このキューブの容量だけでこの装置の最大許容量を超えている!?」

 その異常な事態に、同じく計器を見ていた研究員が叫んだ。

「バカなっ!!ここまでの技術は惑星Jには無いぞ・・・いや、しかし・・・まさか!?」

 そのまさかである。

 惑星Jにはここまでの立方半導体を作る技術は存在していなかった。

 しかし、先程の英字体を見て解るようにこれを作ったのは明らかに人間である。

 もちろん考えられない事は無かった。

 今でこそ大型空間転移装置があるが、それ以前の惑星J移民時には地球と十数年分の技術格差が存在していた。

 その頃の技術格差は多岐に渡り、特に電子機器やエネルギーシステムの面では惑星Jへの技術輸出が「地球連合の管理が行き届き難い」という理由で厳しく制限されていた事もあって未だに埋まってはいなかった。

「地球が作ったとでも言うのか・・・どうやって・・・」

 レビは振り返ると、そう驚いた顔もしていない、「むしろ当然だ」と言わんばかりの顔で立っていたガルクス准将に向かって襲い掛かった。

「貴様等はっ・・・一体コイツの何を何処まで知っているっ!!」

「ふん、それが将官に対する口の聞き方かね?」

 しかし、当のガルクス准将は全く余裕で歯牙にも止めておらず、警護に就いていた白い制服達に「手を出すな」というサインまで出していた。

「そうですよ中佐っ、こんな事して何になるんですかぁ?」

 セガワ大佐がレビを静めるように間に入った。しかし、レビの怒りは収まらない。

「うるさいっ!将官だからどうした?なんならそこにいる人形でも使って俺を殺してみろよ・・・言っておくが、人形が俺を殺すまでにお前を殺す事だって出来るんだ・・・目的は何だ!!」

 レビの腕に更に力が入る。最早首は完全に絞められており、ガルクスは辛うじて息が出来るくらいであった。

「くっ・・・貴様・・・こんな事をして・・・ただでは・・・」

「貴様とて相手が本気かどうかが解らない訳でもないだろう・・・目的は何だっ、答えろっ!!」

 レビはガルクスを壁の方へ投げるように押し出し、解放した。

「中佐っ、どうしたんですかっ!こんな事までして・・・」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・こんな所で腹の探り合いはしたくない・・・それだけだ」

 おそらくレビは友人達の死を引き摺っているのであろう。

 怒りに身を任せた短絡的な行動は今までの彼からは到底考えられない事であった。

 その時、ガルクス准将がその口を開いた。

「いいだろう・・・我々の目的は貴様らが失敗した時の保険だ。・・・いや、貴様らは勝てない事を、データーを採る事を、そして死ぬ事を前提に厄介払いされたようなものだ。特にレビ中佐、貴様はな。・・・そしてその後にこれを我々が回収する手筈だったのだが、貴様が作戦を成功させたお陰でこうなった」

「なぜここまでする・・・これは一体何なんだ!?」

「簡単な事だ・・・これは惑星Jで建造されたものではない・・・だが、それさえ言わなければただの仮説にしかならないだろう?・・・まぁいい・・・とにかく我々はこの機動兵器を・・・」

 繋がれていたセレスはその会話を斬り裂くように轟音を立てて再起動し始めた。


「なにっ?きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 凄まじい振動と爆風にセガワ大佐が壁の方へ吹き飛ばされた。

 そして、繋がれたコードを介して声のようなものがスピーカーからドック中に響き渡った。

「ド・・・ドコダ・・・『アレス』ハ・・・ドコダ・・・・・・ドコニイル」

 開かれていた胸部装甲が全て閉じられる。

「アレスだと?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 レビは暴れだしたセレスのアイドリングの爆風によって外まで吹き飛ばされた。

 最早突発的な事態に訳が解らなくなった。

 しかし、そこから先の事は鮮明に記憶される事となった。




 活動を再開したセレスはブースターを噴出し、爆風によってドック破壊した。

 そして上昇し、南西方向へ移動を開始した。

 しかし、感覚器の回復が完全ではないのであろう、その速度は以前に比べてかなり遅かった。

 しかし、破壊されたドックの中には多くの人間が、何よりセガワ大佐がいたのであった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ・・・シオリィィィィィィィィィッ!!」


 レビは敵を追わずにドックの中へと走った。






 ドックの中は一変して修羅場へと変貌していた。

 だが、幸運にも床は地上より一段下がっていたために多くの人間が生存してはいた。

 しかし、セガワ大佐は先程までいた位置には見つからなかった。

 おそらく先の爆風で再度吹き飛ばされたのであろう。

 レビは探し続けた。

 崩れた瓦礫を素手で除ける。

 鋭利部分が指を裂き、血が流れる。


 やっと見つけた。

 だが、発見したのは以前の美しい彼女ではなかった。

 瓦礫によって右手足が完全に潰されており、胴体は大した外傷は無いものの、内臓破裂は必至。出血も酷く、肉体的には長くは保たない。

 そして何よりも頭部の裂傷が酷い。中からは白いものが覗かせている。

 レビは頭蓋と思いたかったが、おそらく硬膜だろう。一つ間違えれば頭部は完全に割れていたかも知れない。

 幸いにも脳に致命的な破壊は認められないようで、何かを言っているようであった。

「シオリッ、大丈夫か?私が解るかっ!!」

「はははっ、レビさん・・・私がいなくても歯は毎日磨かないといけませんよ・・・」

 最早彼女に意識は無かったのであろう。彼女の目は何も見てはいなかった。

 そう、彼女の言葉は死を目前にした脳が無意識のうちに残そうとした言葉でしかなかったのだ。

 そして、彼女の声はそこで途切れた。

「うっ・・・嘘だろ?こんな・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!


 ――血の気が一気に失せるのが解る。

 足元がふらつき、意識が飛びそうになる。

 レビはその場に崩れ落ちた。


「なんて・・・事だ・・・くそっ・・・くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 レビは地面を殴り続けた。先程から傷ついていた拳は血を止めどなく流し続けていた。

 頭の中には先程の「何に対して怒りをぶつければ良い」という言葉がよぎった。



 彼は再び立ち上がり、その悲しみと絶望のベクトルをセレスに向けた。

「今度こそ殺してやる。死ぬまで殺してやる・・・」

 レビは近くにいた辛うじて無傷な研究員を引き摺り出すと、セガワ大佐を任せてセレスを追った。

 最早彼の顔は怒りと殺意に歪んでいたが、激しい表情に対してその瞳は焦点が合っておらず、生きる屍のようであった。

 彼は近くにあった自分の輸送機の格納庫へと走った。

 奴を追う唯一の武器、最強の雪風「ルシファー」これがなければ敵を討つ事は出来ない。

 レビは急いでルシファーに搭乗し、発進の合図も出さずに発進した。

 周囲に轟音が轟く。

 敵はまだそう離れてはいない、ミリタリー出力でも十分追い付く距離だ。

 それにも拘らず彼はバーニアの出力を最大にして追撃した。



 発進から僅か数秒、最大出力で飛行しているレビは移動を続けるセレスを完全に捕捉していた。

「見つけたぞ・・・ガラクタめ・・・今度こそ完全に殺してやる・・・」

 この時点でレビは正常な判断力を完全に失くしていた。

 何故なら過去の戦闘においてセレスのエネルギーフィールドはPFの攻撃によって貫通した事はない。

 それだけではなく、如何にセレスの速度が遅いとは言え、それは「以前に比べて」でしかなく、実戦待機していた陸戦用PFでは追う事は到底不可能であった。

 更にルシファー以外のPFでは高高度を飛行するセレスに対しての対空戦にも限界があった。
 加えるなら唯一戦力になったであろう量産型タナトスは指揮官であるガルクス准将が命令を発していないせいか、発進していなかった。

 そう、彼らには自己の判断で行動するという判断は「そう命令されない限り」あり得ないのである。

 つまり理性的に考えればこの戦闘自体が無理・無茶・無謀を通り越して無意味なものである事は明白であり、仮にここでレビが戦死した場合、それは無駄死にであったと判断されても仕方がないような状況であった。


「殺してやる・・・殺してやる・・・ブッ殺してやるっ!!

 レビはディバイドバスターライフルを放った。

 だが、強力なエネルギーフィールドによって完全に防がれる事は当然であった。

 そしてセレスは反撃に出た。視覚が完全でないため光の雨を放ち続けた。

 しかし、これもオートディフェンスフィールドを貫通するに足りない事は証明されていた。

 またもや膠着状態に縺れ込むと思われた瞬間、突然発射されたエネルギーレールキャノンによってルシファーの右膝下を消滅させられた。

 しかし、それにいちいち驚いていられる程の余裕は彼には無かった。

 最早彼は何も考えてはいなかった。

 彼は再び戦場の修羅へと立ち戻ってしまったのである。 

「てめぇぇぇぇぇぇ・・・やってくれんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ルシファーの背部に装備されていたミサイルオービットが高速で移動するセレスを正確に追尾する。

 しかし、敵も学習しており、自らミサイルに飛び込むような形でエネルギーフィールドによってミサイルを全て破壊した。

「クソがぁぁぁぁぁっ・・・賢しいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ルシファーはその爆煙を斬り裂くようにアタックウィングを全方向から一点射撃し、シールドブースターのエネルギーを全て推進にまわし、ディバイドバスターライフルをブレードモードにした。

 そして、煙幕の上からシールドの腹をエネルギーフィールドに当て、ディバイドバスターブレードを突き刺した。

 だが、貫通には至らない。

 しかし、レビは残っているエネルギー全てをブレードに注ぎ込み、超巨大なビームブレードを形成した。

 その出力は凄まじく、既に銃身が融け始めていた。

「死ね、死ね、死ね・・・死にやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 斬ると言うよりは叩き潰すという形容が適当である。

 ついにレビはセレスのエネルギーフィールドを貫通し、フィールドごと敵の胸部を一閃、深い傷を負わせた。

 しかし、その代償は大きく、ディバイドバスターライフルは消滅、右腕の肘より先も関節の部分から根こそぎ削げ落ちていた。

 素早くレビはパワーダイブ、距離をとる。

 実際には機体はエネルギー切れによって自由落下を始めていた。

 だが、レビは確かな手応えに満足する事無く落下中でさえ追撃するが、セレスは胸部に深手を負ったとは言え、その戦闘能力は未だ健在であった。


 そして、追撃は再びエネルギーフィールドによって防がれてしまった。

 だが、唯一セレスのエネルギーフィールドを貫通出来た、その意味では最強の武器を失ってしまったルシファーに残された手段はそう多くはなかった。

「しぶといんだよっ、ガラクタの分際でぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 レビは怒り狂った。

 だが、前回のように彼を止めてくれる人はいない。

 その暴走はどちらかが倒れるまで続く事は誰の目にも明らかであった。

「こいつで・・・こいつでどうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 レビはルシファーを飛行変形させた。

 通常の攻撃で貫通出来ないのなら『切り札』・・・そう、最高速度での突撃を使うしかなかった。

 しかし、敵はそれを恐れるかのようにルシファーに向かって攻撃を仕掛けてきた。


「てめぇぇぇぇぇぇっ・・・ガラクタのクセに・・・粋がるんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 推進機構は常に最大出力にされていた。その速度はマッハ5以上に達しており、この速度域での旋回は人間にもそうであるが、ダメージを隠せない機体にも限界であった。

 既に機体の各所には障害が発生しており、その速度ではいつ空中分解してもおかしくない状態であったため、機体は空気のイオン化による蒼い光を飛び越えて赤熱化し、コクピット内部が赤く照らされた。

「キケン・・・キケン・・・コレイジョウノソクドデハジンタイニキケンデス・・・」

 コクピット内部に聞き慣れない警告メッセージが響き渡った。

 しかし、そんなもので現実に戻る程暴走が浅い彼ではなかった。

「うるさいっ、黙りやがれっ!!」

「コノソクドデノセンカイハ、コウゾウタイノゲンカイヲコエマス、ゲンソクシテクダサイ・・・」

「ガタガタうるせぇぇぇぇぇぇっ!!黙れって言ってんだよっ!!!」

 レビは無機質な警告メッセージに対して明らかな不快感を示していた。

 彼はその怒りのあまり計器類を蹴り飛ばし、警告を発するスピーカーを殴り壊した。

 静かになったところでレビはジェネレーターのリミッターを外し、『オーバーロードモード』を起動させた。


 オーバーロードモードとは、ジェネレーター出力の限界を外す、言うなれば「安全装置の解除」ようなものである。

 これによってジェネレーターの回復は通常の2倍を超えるものとなり(その分最大EPが下がる)、ブースターを使いながらでもエネルギーが回復する程にまでなる。

 しかし、その圧倒的な出力を使い切れなければジェネレーター内のエネルギー内圧が高まり、最終的には自らの過剰エネルギーで自爆する危険性のある最後の手段。

 そして、危険度の高さからその状態でのHMは『ファイナルハイパーモード』と呼ばれていた。


 『ファイナルハイパーモード』とは、通常のHMとは違い、機体のバランスを崩す事によって発動する危険機体とHMの併用+αというPF最強最悪の状態である。

 ただし、その発動時間は特殊で、概ねの場合はエネルギー切れではなく、反対にジェネレーターが焼き付くかエネルギー超過で自爆するまで持続される。

 その性能も通常のHMとは段違いで、移動速度・攻撃力・防御力などのパラメーターを含む全ての性能が「特殊補正」にまで上昇する。

 しかし一方で常にエネルギーを消費しなければ自爆する危険性があるため、機体によってはその回復量に圧倒されて発動と同時に自爆する例もあったため、一般的にファイナルハイパーモード自体は自爆手段としてしか認識されていなかった。

 そもそもルシファーは積載量・EN消費一致という危険機体一歩手前の危ういバランスの上に立っている綱渡りPFである。

 それは辛うじてディバイドバスターライフルのエナジーセーブシステム(余剰出力を掌からテール部分のカートリッジに積み立てるシステムで、これを装備するとエネルギー系武器の威力と連射性能が大幅に上昇し、使用時のエネルギー消費が下がるが、エネルギーの回復が遅くなる)やHDDバーニアをはじめとする過剰とも言える推進機構によって保たれており、オーバーロードモードでその奇跡的なバランスを崩すこと自体が機体にどのような影響を与えるかは未知数で、過去に行われた機体性能実験ではテストパイロット全員が死亡していた。

 当然ではあるが彼自身もこれを使用した経験はなかった。




 オーバーロードモードの発動により名実共に危険機体となったルシファー。

 それはバーニアの火が紅く変色した事から容易に想像出来た。

 そして、ルシファーのHMカラーは紫。

 そのファイナルハイパーモードは紅い炎と重なり、赤紫に輝くその外見は正に冥王そのものであった。

「ファイナルハイパーモード発動っ!!いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 ルシファーは更に加速する。

 今までの限界を遥かに超えた速度で飛行する機体に押し付けられるレビは顔を歪める。

 そしてセレスの攻撃によって展開されるオートディフェンスフィールドは輝きを増し、機体自体を巨大な砲弾とした。

 この時既に速度はマッハ6に達しており、如何にレビと言えども限界にきていた。

 しかし、彼には何の感覚も無かった。

 有るのはただひとつ、目の前の敵を殺す事。

 それだけであった。


 セレスはミサイルよりも速いPFの突撃を辛うじて回避すると、その速度故に大きく旋回せざるを得ないルシファーに向かって両腕のエネルギーレールキャノンを構えた。

 しかし、怒り狂うレビはそんな事に構う素振りは無かった。

 そしてこちらに向かうレビにそのシアン色の光条を放ち、凄まじい光の槍が彼の視界全てを照らしていった。

 だが、ファイナルハイパーモードを発動しているルシファーには完全には通用せず、光の柱をあたかも水柱を斬り裂くように突き進む。

 そして辛うじて大破するまでに敵に接近する事に成功した。

 だが、砲撃によって主翼が破損したためにバランスを欠き、軽い旋回に高度の低下が機体を直撃コースから外し、その決定的なチャンスを活かす事が出来ずにその片膝下を斬り裂いただけに留まった。


 その結果を受けてすぐさま反転しようとした瞬間。

「ぐふっ・・・・・・」

  口から吐き出されたのは赤黒い液体であった。

 おそらく肝臓、そして胃からの出血であろう。

「つっ・・・ちいっ!!こんなもので・・・くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ルシファーは180度ターンを敢行、シートに身体と全身の血液が押し込まれる。

 血の気が一気に引き、目を開けていられない。

 その瞬間、ブラックアウト――レビの意識が一瞬途切れた。

 現在の速度はマッハ6.5、流石の彼にも限界があった。



 彼が意識を取り戻した時にはルシファーは敵から離れていた。

 どうやら旋回する事が出来なかったらしい。

 ――全てが無音に包まれた世界に音声が蘇る。

 凄まじい破裂音がコクピットに伝わる。

 音ではない、振動だ。

 レビがその方向を向くと、ルシファーの左腕がない。

 再び破裂音。

 もう片方を向くと右腕がなくなっていた。

 おそらく空気抵抗に耐えられなかったのだろう。

 バランスを崩したルシファーはそのまま墜落し、猛スピードで地面を削っていった。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 その瞬間にコクピット内は赤いゲル状の液体で満たされた。

 ロイヤルセーブシステムの発動である。


 ロイヤルセーブシステムとは上級仕官用の搭乗するPF用に開発されたもので、パイロットが瀕死の重傷を負った時、ないし重傷を負う可能性があるとOSが判断したときに自動発動する。

 これにはパイロットを瞬間的に冷凍保存し、その肉体を保存するものや、脳死に至る可能性がある場合はコクピットを特殊な液体で満たし、直接酸素を補給させるなどの数種類のヴァリエーションが存在し、状況に応じてOSが自動で判断して発動するというものである。

 この場合に発動したのはパイロットの肉体が健全であるとの判断から完全に窒息しない程に酸素を豊富に含んだ対衝撃用の多層(肉厚な風船のようなイメージ)ゲル状液体でコクピットを満たして衝撃を吸収するものである。

 同時にコクピットはPFから強制的に分離されて減速、地上に落下する。



 レビはロイヤルセーブシステムの発動によって致命的なダメージを負う事がなかった。

 だが、マッハ6.5で地面に不時着した形となったルシファーはそう簡単に止まらなかった。
 幸いな事は機体の破損によって全体重量が軽くなっていた事と、速度は速くとも高度が低くかったために胴体着陸の態勢をとったため四肢がバラバラにはなったにしろパーツ毎の原型は辛うじて留めていた。

 それでもメインフレーム内の中枢コンピューターの破損状況が危惧される。

 セレスとの戦闘データーはこの中にしか存在していないものが多い。


 そして、減速しつつも奇跡的に先程の西ファーレン基地近郊、南西5kmにて静止した。




 全てが終わった。セレスは既に逃亡。ルシファーがこの状態では追跡する事もままならない。

 彼の視界は次第に暗くなっていった。そして、心も・・・


「シオリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」


 レビは叫んだ。

 だが、その悲痛な声は天空を貫くも、彼女の胸に届く事はなかった。








 

Panzer Frame Corps J-Phoenix Anecdote.「Mechanized weapon from Nothingness」
Scenario2 "A Blue clap of thunder is to peal in the sky”.
END.


to be continued・・・Scenario3"Desire dashes it to the universe".


 



 まずはこの作品の発表の機会を与えてくださったタングラム氏に感謝。
 このサイトがなければこの作品をリメイクする事もなく、ましてや発表する事もなかったでしょう。
 ――再度感謝の意を表したいと思います。


 どうもこんにちは、レビです。昨日で20歳になりました。これからもよろしくお願いします。
 それはそうと、続きがかなり遅くなって申し訳ございません。しかしながらその甲斐あって、これだけでWordにして73ページと、以前掲載されたものに比べて20ページは加筆修正されているので、初めて読む方も電撃オンラインから読んでくださっている方も改めて読み比べてみてやってください。

 あと、「虚空からの使者」個人的公式設定集と裏設定集に関してはもう少し待って下さい。
 質問等があればどんどん出してやってください、自分でも気付かなかった新たな設定を模索する事にもなりますので、むしろこちらからお願いします。


 そして、今少しずつ形になってきている「Jインフィニティー開発秘話『もうひとつのシリウス』」も、いつか発表できるようにしてみたいですね。
 一応はJファーが開発された「Project Sirius」の裏に隠されたもうひとつの開発計画、冗長性の産物である無人戦闘機の開発に身を投じ、挫折を味わった一人の科学者。それを発端にしてアルサレアとヴァリムのPF開発に於ける共通点の謎を明らかにするミッシングリンク。
 何故タナトスは基となったJインフィニティーよりも先に完成したのか、何故ヴァリムの方が先に変形機構を持つPFの開発を可能にしたのか、そういう疑問を一気に解消する裏設定小説のつもりです。

 ――出来るかどうかはランナー次第ですが、頑張りたいと思います。


 でわでわ、御機嫌よう。

 


 管理人より

 レビさんよりシナリオ2をご投稿いただきました!!

 今回はヴァリム側の話でしたね。しかし、何処も彼処も陰謀だらけ(^^;)

 それでは次回も楽しみにしてます!

 しかし、僕と同じ学年だったとは(ちょっと驚き)
 


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