第1話 ヴァリムを襲う白うさぎ
ヴァリム軍:オーランド要塞
ヴァリム領土の中でも北東に位置する場所にある要塞、以前は隣国の国境線に立てられた堅牢なる要塞だったが、すでにそこは国境ではなくもう大して存在する意味もなくなった要塞だった。
存在は意味のないその要塞だったが、国境線になっていた大地の裂け目と目を疑う深い谷に三方をふさがれたその場所は陸の孤島ともいえる場所にそびえ立っていた。
そんな要塞の司令室に客が現れた。
「アフリード、大変だ」
「騒々しいな、どうした?」
「食堂でテロだ」
「また、誰かがゴキブリでも鍋に突っ込んだのか?」
回転するイスの背もたれに体重を預けつつ司令官は足を放り出したままくるくる回りながら答える。
「いや、鍋に入れられたのは毒だ
遅効性の神経毒だそうだ」
バン!!
司令官は豪奢なデスクをぶった炊くと、イスの回転を止めて真顔で聞く。
「詳しく話せラフィン」
「ああ、食堂につまみ食いに行ったやつがたまたま見知らぬ女が鍋に何かつっこんでるのを見つけて締め上げてゲロさせたらしい
念のためにそこらにいた猫に食わせてみたら、酔っぱらったみたに千鳥足になったあげく痙攣を起こしながら泡吹いてくたばったよ」
「ふ〜、今更ヴァリム軍が俺ら白うさぎを根絶やしに来るとは考えにくいな・・・
その女何者だ?」
「そういえば聞きそびれたな・・
まだ正気を保ってるだろうか?」
「まわしてんのか?
考えなくムチャしやがって、行くぞ案内しろ!!」
この要塞ではすることがない。
内陸の要塞の守備隊といえば聞こえはいいが、あまりに内陸過ぎて攻められる可能性は皆無である。
大半の兵士たちは無能な愚連隊であり、まともな兵士でさえアルサレア戦役の敗走者といろんな意味でヴァリム軍の屑共が集められた収容所であり、当然統率はほとんどとれていない。
娯楽は喧嘩と飯の取り合い、後は希にある軍事演習でPFに乗っての模擬戦ぐらいである。
本来ならこの規模の基地ならシュミレーターが相当数あるのだが、喧嘩の種になるだけで有意義な使われ方がされていなかったために壊れたまま修理されていないのが現状であった。
全く持ってダメダメなオオカミの群れに、テロリストの女が飛び込んだのだ。
今頃尋問という名のレイプと拷問で正気を保っているかどうか怪しい。
というか、生きているかどうかも怪しかった。
そして、食堂に司令官が到着する。
「屑共、そこまでだ!!」
10数人の男の群れの中に、血と涙と精液でドロドロになった幼さの残る女が四肢を投げ出して転がっていた。
階段の上からアフリードに睨まれた隊員たちは、ばつが悪そうな顔をするモノもいれば、混ざります?とニヤニヤするモノもいた。
アフリードは軍帽の上から頭をかきむしると、汚い雑巾が浸かったままのバケツの水をそいつらにぶっかける。
「何も考えずにお楽しみしてんじゃねぇ!!
ったぁく、手足があるだけましか・・
ラフィン!!
きれいに洗ったらオレの部屋に連れてこい
テメエらはここの掃除だ
たく、むせ返る臭さだな
後で飯がうまく食えるようにしてなかったら、飯抜きだ!!」
やりたい放題やってた連中が冷やかし半分でブーイングを入れるが、すっきりした顔のもの達がモップをとり掃除を始めるのを確認してからアフリードはその場を後にした。
30分後 司令室
司令官アフリードの前にはオーランド要塞の主要メンバー、副司令ラフィン、攻撃隊長エステル、守備隊長ビルフォード、長距離支援砲手長シャロンと、馬鹿なテロリストがいた。
「さて、質問だお嬢さん
俺たちは自己紹介したんだ、今度はキミが何者で何しにきたのか教えてくれないか?」
アフリードは強姦魔の大将とは思えないほど紳士的だったのに安心したのか、少女は口を開く。
「私はリーリエ、赤壁の歌って踊れる小間使い?
ここにはね、要塞をもらいに来たの」
幼いせいかポロポロ隠しもせずに何でもしゃべるいろんな意味で危ない小娘だった。
「赤壁ってことはお嬢さん、キミは赤壁の暴牛ってことかい?」
アフリードは近場で暴れる赤壁を名乗るテロリストもどきの暴走族の名を上げる。
「ううん、私は轟鬼だよ」
なんだと!!
赤壁の轟鬼とは、ヴァリム軍に滅ぼされ故郷を追われたもの達が作ったテロ組織である。
それもいくつかの小規模テロ組織を吸収しながら勢力を拡大してきたテロ組織であり、中規模クラスのヴァリム軍基地を襲っては物資やPFを奪取するなどして勢力を拡大していて、軍でも手を焼いている本物のテロ組織である。
そしてリーリエの話が本当だとするなら、今度のターゲットはこの要塞と言うことになる。
はっきり言ってリーリエの話には、何の信憑性もないが・・
この余裕は不気味に写った。
「赤壁もずいぶん大雑把に攻めてくるね〜
俺たちそんなに弱くないよ、お嬢ちゃん」
ふぁ〜〜〜
先ほどまでレイプにあっていたとは思えないほどまったりしているリーリエは、風呂上がりでホクホクした体を丸めて眠そうにあくびをしながら言う。
「ここには来ないよ〜
ここはリーリエの独断で着たから・・」
今にも意識が落ちそうなリーリエを揺さぶりながら、アフリードはさらに訪ねる。
「キミは何のためにそんなことをする?」
「リーリエは聞いたの、補給線の確保が大事だって・・
だから、ここを落として新しい補給基地にしたかったの・・」
そこまで言ってリーリエは完全に落ちた。
揺さぶったぐらいじゃ起きないリーリエを見下ろす5人
「・・・どう見る?」
アフリードの困惑にエステルが答える。
「毒自体は早々出回るようなものじゃなかったことをみるに、赤壁のメンバーなのかもしれないわね
ただ、本体が来るとか来ないとかは正直わからないけど・・」
どう思う?ラフィンを見るエステルの流し目はそう熱く語る。
「オレも前半は賛成だな
そして、高い確率で赤壁がここに来るだろう
主力が来るかはわからないが、この要塞にはランドバースト(超大口径超長距離リニアカノン)がある
攻める場所が無くなったからこそ無用の長物だが、国内に向けてぶっ放すことを考えればこれほど最悪な兵器はない
それこそ、電力次第でオーガルディラムを一撃で轟沈できる兵器などヴァリムにも数える程しかないからな」
「でも、アレはそう簡単に使えないわ
旧式でWCSもほとんど機能してないから、ほとんどマニアルで撃つことになるから・・
私だって命中率30%行くか行かないかよ
はっきり言って実用性ゼロじゃない?」
砲撃手のシャロンはリアルな数字を告げるが、ビルフォードの感想は違っていた。
「いや、当たるかどうかではなく反撃もできないほどの距離から一方的に攻撃されるという事実があるだけで十分驚異だ
その上、当たれば一撃必殺
防ぐ手だてがないということは、俺たちみたいなのにしては戦術級兵器といえるだろう」
「使うまでもなく驚異と言うことか・・・
一発ぶちかましてみてぇ〜な〜〜」
「アフリード、真剣な顔で言われると洒落にならないわよ」
エステルの突っ込みに対し、アフリードは表情を変えずに黙りこくる。
一同がまさかと思う中、アフリードはデスクに腰掛けると真顔で言う。
「まじめな話、どうだ?
赤壁に合流しないか?」
「は?」
「ええ!!」
「む?」
「へっ?」
間抜け顔を浮かべる4人にアフリードはまじめに言う。
「正直な話、アルサレア戦役で人食いウサギ兵団は完全壊滅した
過去の栄光などとっくに忘れ去られ、敵もいない内陸の要塞勤務・・
平和かつ安全で何よりだが、腕は落ちるし生き甲斐もない
生きてるか死んでるかわからん毎日を生きるぐらいなら、戦争屋としてオレは戦場で生きて死にたい
恋人同士のラフィンにエステル、ビルフォードにシャロンお前達に一緒に死んでくれと言うのは、正直身勝手だと思うが・・
だが、このままヴァリムに飼い殺されるくらいなら・・」
そこまで言ってアフリードは目を落とす。
本当になんて身勝手なのだろうな、オレはと思いとどめたのだ。
アフリード達は以前は5色に色分けされた中隊を持つ人食いウサギ兵団の白を任された人食い白うさぎと呼ばれ、ヴァリムでも一目置かれる存在だった。
多くの戦場で名を馳せ地位も名誉のそれなりにあったが、アルサレア戦役でキースとアイリ率いる中隊と交戦しその連係攻撃に部隊は一気に壊滅寸前まで大ダメージを受けて命からがら逃げ帰ってきた。
そして、戦場も地獄なら、その後の彼らの待遇も地獄だった。
無能なヴァリム将校にいわれのない作戦ミスの発端とされ軍事法廷に立たされ、抵抗するも敵前逃亡の汚名を着せられ降格処分の上、地方に飛ばされた。
罪自体は、責任のなすりあいがそこかしこでされていた分大雑把に決められたので、比較的軽い処分ですんだが、一度つけられた無能のレッテルを返上できない場所に飛ばされたことで事態は絶望的になっていた。
ラフィン達もそれは自覚していた。
だから、ラフィンはエステルの手を握りながら言う。
「お前が拾った命だ、好きに使え」
「そうよ、アナタが拾ってくれなければ私たちは植民地の戦奴として使い捨てられていたわ」
ラフィンとエステルの言葉に、ビルフォードとシャロンも言葉を続ける。
「今更水くさいぞアフリード
生きるも死ぬも俺たちは一蓮托生、だろ?
最後までつきあわせろ、お前をここで見捨てたら一生後悔する
そんな生き方は、例えシャロンと一緒になってもオレは笑えなくなる
そうは思わないか?」
「私もビルフォードと共にありたい
それが例え最悪の結果になってもだ
私も二人に拾われた身、この命好きに使ってもらってかまわない
ただ、好きな人と共にあれないなら死んだ方がましだ
そう思ってるところだけは考慮してほしい」
アフリードはあきれながら頷き、決意を述べる。
「分かった
おまえ達の命、もらい受ける」
「ああ」
「ええ」
「何を今更」
「信頼してるよ」
アフリードを強くうなずくと切り出す。
「さて、そこにいるリーリエ君に頼めば赤壁とコンタクトは取れるだろう
話し合いがうまくいくかはまあ置いといて、この要塞をどうするかが一番の問題だ」
「俺たち白ウサギを除けば、ここの勢力は黒ウサギ、青ウサギ、赤ウサギ、黄ウサギだが、実質何とかするのは黒ウサギと赤ウサギだな」
青ウサギ、黄ウサギは先のアルサレア戦役で完全壊滅し今いるのは元輜重隊であり、リペアラーやら、飯炊き、金庫番など非戦闘員しかいない。
だから、驚異なのはアルサレア戦役を生き残ってきた歴戦の戦士を保有する黒ウサギと赤ウサギだった。
「赤ウサギに関しては、話し合い、交渉決裂、デストロイで良いんじゃないかしら?
まあ、どっちかと言えばインテリ系だしもしかしたら乗ってくるかもしれないしね」
赤ウサギは人食いウサギ兵団の中では、力押しではなく戦術に頼る知性派が多い。
その分、理論的に不利となると無様に玉砕覚悟の特攻などせず白旗を揚げるチキンタイプが多い。
まあ、その性格のおかげで生存率は高いが、勝てる戦いしかしないせいか基本的にへっぽこが多いので多少数が多くても、歴戦の戦士である白ウサギなら勝てるとエステルは言い切る。
「まあ、確かにあいつらには負ける気がしないな・・
となると、黒ウサギか・・
やっぱり奇襲で一気に叩きつぶすしかないかな?」
黒ウサギは、さっきリーリエを回していた粗暴かつ、野性味たっぷりの嫌われ者集団である。
とはいえ、力こそすべてという理念のヴァリムにおいて彼らが正義なのは言うまでもない。
まあ、勝っているとき限定の話であり、今現在は守備隊の最大戦力ではあるが、ヴァリム高官の受けが良くないので要塞内部での要職には誰一人抜擢されていなかった。
ちなみに、青ウサギは航空部隊で偵察や奇襲専門部隊、黄ウサギは砲撃支援部隊、白ウサギは少数精鋭の外人部隊(ヴァリム植民地からのエリート混合部隊)である。
そして、アフリード達がどう夜襲をかけるか話を詰めていたときだった。
不意に司令官室のドアがノックもなく開いた。
「ぅおおおおーーーー」
次の瞬間、ビルフォードが何か小さい影を掴んで床に叩き伏せると、司令官室に引きずり込む。
シャロンとエステルが拳銃を構える中、ビルフォードの下には小さな体があった。
見た事のない顔立ちにアフリードは声をかける。
「ビルフォード、たぶん赤壁のメンバーだと思う」
「む、そうか
手荒に扱ってすまなかったな坊主」
幼い少年を逃がさないレベルで力を抜くと、ビルフォードは少年を立たせる。
銃口はまだおろされていないその状況にもかかわらず、少年はリーリエを見て安堵する。
そして、なぜ?と問う。
なぜ、テロ組織の赤壁のメンバーだと認識してこの待遇なのかという問いだとアフリードは思った。
「私はアフリード、このオーランド要塞の司令官だ
彼女から赤壁についていくつか聞いていてね
ここにいる5人は赤壁に入隊を望んでいる
手土産代わりに、この要塞を進呈しようと思っている
さてどうだろう?」
生真面目なアフリードはそう言いながら、少年のぼろいシャツからこぼれる胸のふくらみを見つける。
「すまない、レディーに対して扱いが成っていなかったね」
アフリードは軍服の上着を脱ぐと彼女にはおらせた。
と、そこで初めて彼ではない少女が口を開く。
「そのきざったらしい紳士っぷりで助かったんだ・・
世の中、どう転ぶか分からないもんだね、おに〜さん」
助かった?
アフリード達が疑問に思う中、ラフィンは違う疑問を口にした。
「キミはどうやってここに来た?
身体能力はともかく、ビルフォードに組み伏せられるものがここまで簡単に来られるとは思えん」
薄く、ニヤッと少女はラフィンに笑いかける。
「リーリエが捕まってそれを拷問だか、レイプだかしたでしょ?
私たちは虐待やレイプ目的に娼館に売られた戦災孤児だったんだよ
私が、私を犯したヴァリムの糞を道ずれに死ねる薬を作るまではね」
ぞっとする凄惨な笑みに吐き気を催すエステルは思わず口元をふさぐ。
だが、アフリードは淡々と聞く。
「だが、キミは生きている
赤壁に助けられたのかい?」
少女はゆっくり首を左右に振りながらリーリエを見る。
「リーリエのバカが、ジュースと間違えて毒を飲んじまった
何の因果か、リーリエには毒が効かない特異体質だったみたい
でも、あの子を犯す馬鹿共はみんな死んだよ
リーリエの中で毒が変異したらしい
あの子の体液は人を殺せる猛毒になった、ある程度薄まると無毒だけど
揮発して広がりそれを吸ったものをことごとくを殺すの
どう、私がどうやってここに来たか分かった?」
つまり、リーリエをオモチャにしていた黒ウサギは全滅、他にもかなりの被害が出ているのだろうな・・
「一つ聞こう
キミや彼女を介護してしばらくずっと一緒にいた私はなぜ死なないんだ?」
それともその話は嘘か?
ラフィンの当然の疑問に少女は頭をかきながらいう。
「毒が変異してるんだよ、純粋なヴァリム人からバタバタ死ぬようにね
逆にヴァリム人以外にはほとんど無毒
ヴァリム人の混血とかでも、死に至るほどの毒性は発揮されない
嘔吐や下痢、めまい、希に神経症状が出ることがあるけどね
あんたはヴァリム人じゃないだろ、だから平気なんだよ
そう言う意味で、私はあんた達を信用してるよ」
便利な毒?と言うよりも、とんでもない子供が攻めてきたなと言う感想を持つ中、アフリードが基本に返る。
「レディ、名前と所属を教えていただけるかな?
そして、私たちの目的は先の通りだ、君たちの意見を聞きたい」
・・・なんなんだこいつ?
衝撃の事実を聞いても全く動じないマイペースさを発揮するヴァリム人に驚嘆しながらも少女は答える。
「赤壁所属:女義賊ユニだよ
潜入、スパイ工作から生活物資の横流しまで手広くやってる
ああ、あと毒薬から医療品まで殺したり活かしたりする薬の知識が豊富な薬剤師?も兼任中だけど・・、この頃はリーリエのお守りが主任務に成りつつあるかもね」
・・・よく分からないな?
組織だった行動をこの子も取っていないのか?
もう少し階級なり、なんなり組織的なものを期待したアフリードだったが擦りもしない。
まさに、そこに要塞があるからフラッと落としに来ましたといわんがばかりだ。
「今回は君たち二人の行動なのかね
誰かの命令だったりとか、我々を受け入れるかどうかの判断をつけられるものはいないのかい?」
アフリードは観念してぶっちゃけて聞いた。
「今回は完全にリーリエの思いつきだから、この辺にいる赤壁は私で打ち止め
入団希望なら姉御に話をつけたげるよ、姉御は赤壁のナンバー2だからスパッと決めてくれると思うよ
ただ、基本的にどこの赤壁もヴァリム人を恨んでる
アンタと、でかいアンタは覚悟した方が良いよ
恨まれているという事を忘れて油断した瞬間死んでるかもしれないから
それを承知で入団を希望するの?」
ユニの話をよそにビルフォードはやれやれとジェスチャーしながら言う。
「要塞内部はバタバタ死人が出てパニックになってやがる」
アフリードはビルフォードを見る。
現状確認していたビルフォードが、アフリードの視線に気づいて苦笑混じりに言う。
「いままで、シャロンが味わってきたものを今度は俺らが味わうだけだろ?
ヴァリムを裏切ると決めた以上、立場が変わるのは承知の上だよ」
「私は、おまえが身内に殺されるのは嫌だぞ」
ひしっとシャロンがビルフォードの腕にしがみつく。
その大きな手でシャロンをなでながらビルフォードは言う。
「みんなの盾をやってきたオレだ
そう簡単にくたばるか、撃たれるのも、刺されるのも、慣れたもんさ」
「満場一致で入隊を希望できるようだ、取り次ぎを頼めるかレディ・ユニ?」
「ユニでイイよ気持ち悪い」
ユニは首筋やら胸をかきむしると、司令室備え付きの通信機をいじり出す。
ちゃんと秘匿回線を選ぶ当たりそつがない。
「ねえ、さっきどこの赤壁もとか言ってたけど
あなたはどこの赤壁所属なの?」
エステルのとまどう声にユニは笑いながら言う。
「何にも分かってない、もしかして?
赤壁ってのはアンチヴァリムのテロ組織が、冠として名乗ってるだけ
赤壁は血を滴らせたヴァリム人の死体で国境を示す壁を作るって意味の言葉だよ
要するに、ヴァリムに滅ぼされた国の人間すべてが赤壁を名乗る事ができるわけ
ただ、誰かが統一して組織だった動きをする集団じゃなく、いろいろ仕込んで動くやつから、リーリエみたくフィーリングで後先考えずに特攻する奴らまで様々いるさ」
エステルがユニの言葉に不安を覚えアフリードを見る。
アフリードは手で押さえて紡ぐ。
「つまり、頭がないからどこを潰しても絶えない組織って訳か」
ユニは少し驚く顔をする。
「ご明察
でも、情報や物資はいろんな赤壁に供給できるような体制になってる
大がかりに動くときなんかは、どうしても必要な事だからね
そして、その統括をしてるのがうちの大将
一番はじめに赤壁を名乗った・・、赤壁の轟鬼って名前くらい聞いた事ある?」
「ああ、ある
深紅に塗られた長大な壁を押して突き進むと言うあれだろ
それを見た奴らが赤壁と名付けたのかと思っていたよ」
「あはは、初めはただの黒い鉄板だったんだよ
PF奪ったけどすぐに弾がなくなって、仕方がないからシールド構えて体当たり
意外とうまくいくんで盾が段々大きくなっていって今じゃ縦幅50m横幅250m厚み10mのまさに壁に成っちゃってるけどね」
「良くそんな巨大なものをPFで動かせるな」
「かなりいじってるよ、というかもう人型の重機?
PF単体としての戦闘能力はヌエとどっこいだからね
赤壁がなきゃ、甲羅のない亀だよ」
「そんな機体で良くやられないな?」
ビルフォードのごもっともな疑問にユニは笑う。
「時速360km、秒速100mで迫り来る壁にアンタはどうする事が出来る?
PFを押し潰しても気にもとめない壁に、実弾なんて蚊の一刺しも効かないし、光学兵器だって壁表面のコロイドミラージュで攪乱して無力化しちゃう
ドゥークスSのおかげでステルス性が高い上に、気づいたら迫り来る赤壁に問答無用でぺちゃんこにされる
出来る事は逃げるだけ
ま、逃げた瞬間後ろから掃討攻撃されて全滅・・
もちろん、伏兵に会った事も結構あるけど赤壁はそれそのモノが難攻不落な城でもあるからね容易には陥落できないさ
ま、形状は見てのお楽しみだけどね・・
あ、つながった
ヤホ〜、レニー姉〜」
テンション上げてるユニをたしなめるようにレニーは答える。
「もう要塞落としたの、早いわね」
「ううん、大打撃を加えて今パニックになってるところ
それよりも入隊希望者が話をしたいって言ってるけど、どうする?
ちなみにヴァリム2、その他3人だけど」
「いつも通りヴァリムは殺して、他は引き入れる
どうしたの、珍しいじゃないユニ」
身も蓋もない決断にユニはだよね〜と同意しつつ言う。
「リーリエは嫌いじゃないみたいだよこのヴァリムの二人
入隊の交換条件に要塞明け渡すとか言ってるから、できるかどうかテストしてみてもいいんじゃないかな?」
同じヴァリム人同士でつぶし合いさせるのも悪くないかとレニーが思う中、新しい声が割り込んでくる。
「ユニ、彼らはなぜヴァリムを裏切るのか聞いたのか?」
「ああ、そういえば聞いてなかった」
これはユニの油断ではない。
ヴァリム人が赤壁に入隊希望など滅多にもないからだ。
何せ、ヴァリム人なら誰でも問答無用に殺して壁を作ろうとする連中に取り入ろうなど正気の沙汰ではなく、赤壁に入ろうとするのは植民地化され支配されるもの達ばかりだからだ。
本当はもっとしっかり調べるべきなのだろうが、そのいい加減さが統率されないテロ集団のある意味いいところなのかもしれない。
アフリードは洩れる声を聞いて代わってくれとユニに詰め寄ると、ユニから受話器を受け取る。
「私はオーランド要塞司令官アフリード・・」
・・以下略・・
アフリードは今の境遇と、それを作り出したヴァリムの根源思考「力こそすべてという理念」に恐怖と怒りを覚えていると力説する。
虐げると言うことが、虐げられると言うことがどういう事であるかを理解したからこそ、この体制に一矢報いる覚悟を決めたことを伝える。
合格だな・・
「貴公の決断に敬意を表そう
ミンツ、私はこの者達を迎え入れることに賛同するぞ
もちろん、初志貫徹オーランド要塞を彼らだけで陥落させ私たちに献上できたならばだが・・
さあ、ミンツ決断するのはお前だ
勇気には決断で答えるのが世の習わしだぞ」
受話器の相手はわざと皆に聞こえるようにふれ渡らせている。
それをアフリードは快く思いながら思う、ミンツというのが大将で彼の決断が自分たちの行く末を決めるのかと・・
赤壁の轟鬼
「皆はどう思う?
オレは例えヴァリムでも、有能なモノなら引き入れることもやぶさかではないと思っている」
ナンバー1のミンツは、トレードマークのむさっくるしさを増長させているヒゲをいじりながら皆に問う。
「アンタは華臣(かおん)の意見だから首を縦に振ってるだけでしょ」
ミンツは今アフリードと話した華臣にぞっこんで、赤壁のナンバー3に徴用していた。
本来なら波風たつ采配だったが、そのあまりの優秀さや、男気ある器質に皆が一目置いているので思いの程問題なく短期間でナンバー3の座に彼女はいた。
だが、一人それを快く思わないモノもいる。
それがナンバー2のレニーだった。
今では参謀役にもかかわらず、戦闘も、戦略も、女性としても華臣に勝てないレニーは華臣のことを好きになれなかった。
だが、嫌っても、反目しあってもいなかった。
華臣はすでに既婚者であり、レニーとミンツの仲を取り持つことに影ながら尽力したり、他の主要メンバーなどの面倒見がよく、組織そのモノが行き当たりばっかりだった赤壁の轟鬼を財政難から救い、他の赤壁との交流を深め、バラバラに行動している赤壁同士がうまい具合に連携をとれるように仕組んだりなど、有能すぎる指揮官ぶりを発揮していたからだ。
救世主のような華臣に嫉妬する気持ちと、赤壁の轟鬼を支配されるのではないかという危機感が拭えないレニーは、慎重に考えなさいとミンツをたしなめたのだ。
「まあ、そうつんけんするなレニー
確かにヴァリムを身内に入れるのは気にくわないが、戦力強化は今後必須課題だ
要塞司令官なら我々の強化にも一役買うかもしれないし、それ相応に強いかもしれない
未知数なモノを切り捨てるよりかは、利用する方向で検討するのもいいのではないか?」
赤壁の轟鬼、実働最大戦力ことナンバー4:サムソンの意見にレニーは渋い顔をする。
そこにナンバー6:ラケルが追撃する。
「アタシも興味あるな
ヴァリム人の司令官に、ヴァリム人以外のメンバー3人ってのがね
ヴァリムの人種差別はすごいのに、入隊希望の5人はそれがないみたいだし、ある意味華臣がよく言う共存できる貴重な人なんじゃないかな?
歩み寄れる人まで拒絶したら、戦いも、支配も望まないヴァリム人すべてを根絶やさなきゃならなくなる
祖国を奪われ、すべてを奪われた私たちがそれをするの?
ヴァリム人に赤壁を名乗らせるつもり?」
例えヴァリム人でもラケルは絶対に殺さない。
奪うことに強烈な嫌悪感を抱くラケルは、ヴァリム人とも共存出来ると説く華臣をすごくかっていた。
ここでレニーは孤立する感じとなるが、祖国や、家族を奪われているもの達は物言わぬ視線を送り続けている。
正論と理性の掛け合いに言葉を詰まらせるミンツに、華臣は助け船を出す。
「では、こうしようじゃないか
まず彼らが出した提案通り、彼らの手で要塞を掌握できるかお手並み拝見
その手段、技量を持って判断材料にしよう
その上でなお、ヴァリム人を認められないというのなら・・」
皆の視線を一心に集める中、華臣は勝ち誇る顔で告げる。
「彼らは、私の郎君(ろうくん)の兵士として身柄を預かろう
私の一存で事に当たるが、まあ我が郎君は寛大だ
問題なかろう、いかがか?」
華臣はレニーを見定め言っていた。
「そうね、とりあえずそれでいいわ」
これ以上は今のところ落としどころも無いだろうとレニーは納得した。
そして、それを赤壁の轟鬼の総意としてミンツはアフリードに伝えた。
その話に困惑を覚えるアフリード達だったが、パニックが収まってしまってはオーランド要塞の掌握が困難になると、それを承諾し動き出すのだった。
第2話に続く
後書き
何の前触れもなく新章突入!!<すまん!!
さて、今回はダン達すら出てくることなく、完全オリキャラのみの話になってしまった。
まあ、早ければ2話3話でダン達が出てくる予定。
この章は、次の章でのヴァリム内乱勃発の導火線みたいな話にしていこうと思ってる。
テーマは奪うモノと奪われるモノ、許さないモノと許すモノというのが一応ある。
どうなるかは、こうご期待!!
なお、この章にはある法則(ルール?)が反映される予定です。