第12話 何のための強さ、何が為の強さ
シュミレーター開始から2時間後・・・
「それでは、反省会といきましょうか、まずは誰からにする?」
「私と、イヴァンはほぼ理想値に達していると自負するが何か意見は?」
弧光の言葉に、すっと手を上げたガイウスがそう言うとそこにいた者達は顔を見合わせる。
「シュミレーションを見せて貰ったけど、全くもってダンが咬ませ犬になっているだけで荒さはなかったわね
そもそも、あなたの機体を乗りこなせる人なんて他にはいないでしょうし現状で完成と言って問題ないと思うわ
そんな感じでいいかしら?」
ガイウスはあらゆる攻撃を瞬間停止と超加速で避けきり、的確に相手を一撃で粉砕した。
あまりに極端すぎる機体とはいえ、ハマリさえすれば最強と言って差し支えのないレベルに達していたので、誰も異存がなかった。
それを確認した弧光は、イヴァンの方に向き直り言う。
「あなたの超火力は認めるわ
そして、要塞さながらの防御力もね
ただ、やっぱり移動手段は確保するべきだと思うわ
常にガイウスと行動を共に出来る保証はないのですから
何か移動用のバックパックなどを考えては如何?」
腕を組んでいたイヴァンは弧光に向き直るという。
「一応、そのアイディアもあるんだよ
もっとも、予算がかなりかさむので実践しようとは思わなかったのだがね」
「あら、どのくらいかかるって言うのかしら?」
「装備にも依るが、GF2機分ぐらいかな」
「あら、安いじゃない
アイディアがあるのなら、早くそれを形にしてお作りなさい
お金に糸目は付けないわよ」
弧光はどれ程かと思っていたが、たいしたことないと言ってのけた。
PFに比べれば、GFは制作費だけでも10倍以上の費用がかかる。
武器弾薬も、巨大化する分威力はすごいがやはり制作費も半端ではない。
一介のPFパイロットがアルサレア軍に申請しても、承認されることのない額だ。
その上、イヴァンは全て実弾を使用しているので、戦闘毎の消耗品費がかなり異常なのだ。
ほぼ消耗品無しのガイウスと足して2で割っても文句を言われる額だ。
それ故、移動手段用のバックパックを用意すると成れば自腹を切る必要があった。
そして、個人でGF2機分の費用など捻出できるはずがないので、今まで断念していたのだった。
「まあ、そう言うのであれば設計図を書き直して制作させて貰うとするよ
感謝する」
「ちなみに、どんなものが出来るのかしら?」
「重量が重量だからね、トライクユニットを予定しているよ」
「トライク(三輪)?
想像するに巨大なものになりそうだけれど、それで平気なのかしら?」
「それは出来てのお楽しみというところで頼む」
「そうね、楽しみにしているわ
さて、次はセシリアにしましょうか」
「言われるまでもなく、攻撃力不足ですわ
想像以上にパワーもスピードもありますし、超流動滑走も想像以上に機能してますわ
あとは、それを活かせる戦い方の模索を残すだけですわ」
「で、解決法は見つかって?」
「ええ、重力ジェネレーターのお陰でエネルギーを気にしなくていい状況ですし、バトルスタイルを大幅に変えることになりますがかなり万能な強さを得られると思いますわ
もっとも、どこまで実現可能なのかイヴァンさんに相談の上で問うことですけど・・・
後で相談に乗ってくださいましね」
「ええ、かまいませんよセシリア嬢」
セシリアは大きく頷き足を組むと深くイスに腰掛ける。
まったく、セシリアは強くなることに貪欲ね〜、頼もしいことこの上ないわ。
「さて、今度は私達の話に移りましょうか
まずは私について何かあるかしら?」
弧光が周りを見渡すと、椅子に座ったまま憮然とセシリアが口を開く。
「一つ言わせていただきますわ
あなた、攻撃のほとんどがチャージ系の攻撃なのを何とかなさい
並大抵の相手なら10機20機千切って投げればいいのでしょうけど
エース級の相手が二人もいれば手が出なくなりましてよ」
・・・なかなかどうして、恐ろしく洞察力がある子ね。
「そうね、出力を高く設定しているせいもあるけど確かに連射にはむかない機体だわね
もう少し動けるようにしなければね
イオン、レオン何か対策はあるかしら?」
イオンとレオンは顔を見合わせると頷く。
「威力を下げて速射力を取るか、全ての武器に並列チャージを優先チャージに切り替えると言うのが簡単な解決策かと」
「そんなの閣下らしくないんじゃない
どうせなら、GCUの出力上げてジェネレーター増設した方がチャージ時間も減っていいんじゃない?」
「どこに増設するの、そんな馬鹿でかいものを?」
「・・・・そこは無理が通れば道理が引っ込むって」
「無理から始まってるわよ」
「好みとしては増設派ね、私は
メカニックにオーダーだしときなさい」
「承知いたしました」
イオンは強く頷く中、レオンは右手を握りガッツポーズをしている。
「次は、ルキアちゃんににしましょうか、どうかしら?」
「武装は使いこなしきれていないけれど、それは馴れればいいだけかしら
ただ、どうしても機体が重いわ
パワーがある機体ではあるけど、それ以上に武装が重すぎるわね
追加アーマーも大きすぎて小刻みに動けないわ
バランスをもっと調整するか、追加アーマーのデザインを何とかしないと攻撃するだけならいざ知らず、接近を許したとき一気に畳みかけられて体勢を立て直すヒマもなく最悪やられるね」
「やっぱり、GF用の大型兵器を持ち歩くのは厳しいかしらね〜
旨く運用できれば攻撃の幅が広がるんだけれどね〜」
「ならば、ルキア嬢の分もトライクユニットを制作するのはどうだろう?
パワードアーマーをオミットして、トライクユニットにGF装備を搭載すれば機動力確保と、装備重量の軽減が出来る
ただし、重量がかさむので飛行運用は難しい
すぐに実用するとなると、飛行能力を諦めて貰うことになる
さて、どうだろう?」
「そうね、レーディッヒ・シュライは威力はもの凄いけど、むしろすごすぎて中距離以上のレンジでしか使えないし、いざとなればトライクユニットごとパージして身軽に戦える方が理想的かしらね」
ルキアはウンウン頷く。
「運用効率を考えると飛行能力はどうしても欲しいわね
何が問題なのかしら?」
「一つは圧倒的な重量、一つは飛行に向かない形状、もう一つはエネルギーと推進剤
無理矢理飛ばすことは出来ても、かなり運用効率が悪くなる」
「形状はともかく、重量は機体のGCUで補えないかしら?
その分のエネルギーは、トライクユニットにジェネレーターを搭載して補うというのはどうかしら?」
・・・・・・・・・
「検討の余地はあるね
ただ、設計図を書いてみないと何とも言えないし、全てクリアになったとしても活動時間が短くなるリスクは残る
私の機体はエネルギーを使わない武装が多いから影響はないが、エネルギー消耗の激しいルキア嬢の機体では戦い方を考えないと弾切れする前に活動限界になるだろうね」
「リスクは絶対に残るという事ね、どうかしらルキアちゃん?」
「どのくらいリスクが出るのかわからない状態じゃ何とも言えないわ
でも、メリットがデメリットを上回るのなら私はトライしてみたいと思う」
「いい答えね、イヴァンよろしく頼めるかしら?」
「ああ、どんなものが出来るか楽しみだ
ただ、開発費は先ほどの比ではないことだけは忘れないでください」
「費用は気にしなくていいわ
ヴァリム将校は自分の部隊用にオーガルディラムを1艦保有できるぐらいは好きに出来る権力がるのだから
私は特にGF専門部隊を運用している関係上、動かせる額はあなた達が思っている額よりゼロが一つ二つ多いわ」
一体ヴァリムはどれだけ潤沢な金があるんだ?
そう思う半面、これだけの資金力がある国がアルサレアに勝てないというのはアルサレアがすごいのか、ヴァリムが無能なのかという疑問をもたらした。
一同が惚ける中、弧光は続ける。
「さて、最後に問題点が多いダンについてみんなの意見を聞きましょうか
その前にダン、反省点や改善点はあるかしら?」
弧光がダンを見る目が冷たい。
なぜなら、2時間のシュミレーションでダンはかなり条件をいじったり、気体を交換したりかなり無茶苦茶やったが、ただの一度も勝てないどころか軽く1000回以上敗北し続けたのだ。
実力差がある以上、勝てないのはまだいい。
1000回以上負けまくるのも、この際目をつむろう。
だが、負けた後その敗北理由を次の戦いに活かせていない。
まるで成長が見られない事に弧光は怒りを覚えていた。
「・・・・・」
ダンは黙して語らない。
ひねくれているわけではないが、ダンは何も語ろうとしない。
「まあ、いいでしょう
自身のふがいなさは良くわかっているでしょうから・・
ガイウス、彼をどう見る?」
「平たく言えば感動的なバカだな、全くもって救いようがない程のバカだ
それは感動を通り越して驚愕に値する程だ」
・・・・怒!!
耐えろ、敗者がいい訳などみっともねぇ・・・
ダンは腕を組みながら、両手で両腕をきつく押さえる。
そんなダンを放っておいてガイウスは話を続ける。
「私が思うに、彼は自分を理解していなすぎる
自身が無謀と勇敢を履き違えていることをまず理解し、そのあまりの不器用さを認識するべきだ」
「てめぇ、生身でまで俺に勝てると思うな!!」
あっと言う間にキレたダンはテーブルを蹴るとガイウスに殴りかかる。
が、ハエでもたたき落とすかのように振られた弧光のムチにてダンは壁に打ち据えられた。
「っがっは!!
げぇ・・」
「あなたって人は、ホント見苦しいですわね」
むせながらも起き上がろうとしたダンの頭をセシリアはヒールの踵で踏みつけると地面にキスさせた。
さながら、土下座のように・・
「折角彼があなたを褒めているに、恩を仇で返すなど・・
正気を疑いますわ」
セシリアはヤレヤレとジェスチャーする。
「あ〜、どこにそんな
い、いた、痛い、マジで刺さる!!」
ダンは反論するヒマもなくタップする。
「言ったではありませんか、無謀と勇敢を履き違えてと、本来は履き違えるものは勇敢と無謀ですわ
あなたの向こう見ずは、驚嘆に当たると褒めているのですわ
同じ相手に、優に1000回負けてなお腐らず挑み続けるなど正気を疑いますわ
わたくしだったなら、どうやって勝つかを考え、対策を練るだけで1000回戦うこともないでしょうし、1000回負ける前に1度や2度は諦めてしまうでしょう
もう、何をしても敵わないと
・・・でも、やっぱり最後は立ち向かうかも知れませんわね
負けたままになどしておけないと、例え負けるとわかっていても・・」
「褒められた気がしねぇぞ
が、大人しく話を聞くからこの足をどけろ」
「そう、最初から素直になりなさいな
あなたが一番弱いのですから、学ぶことこそあなたに取って必要なことですわ」
イチイチムカツク女だな・・
ダンが怒りを剥き出しにしてセシリアを睨んだ瞬間、ダンの両足から力が抜けるとダンはひざまずき目の前のテーブルの角に頭をぶつけた。
ゴッ!!
何とも言えない音が響く中、セシリアは高笑いしながら天罰とダンを罵った。
最悪だこの女!!
ダンはフラフラしながら、椅子に座ると突っ伏した。
「話を戻しても言いかね、ダン」
ダンは手をヒラヒラしながらそれに応える。
ダンの失礼な態度をお構いなくガイウスは話を続ける。
「では続けよう
まずは相手からモロバレの攻撃パターン、便利な全方位バリア、射撃兵器・・
これら優秀な兵器に頼らない戦い方の構築が必要だ
今の彼に出来ることは、がむしゃらに相手を殴りに行くことだけだ
どんな妙な体勢からでも的確に殴りつけようとするそれには才能を感じる
だが、他があまりにも疎かすぎる
モーションがばれていた当たらない先制攻撃、命中精度が酷すぎる射撃、その場しのぎにしか成っていないバリア、次ぎに続かないばかりかむしろそれがあるからこそカウンターを受けてしまう
それらは一見優秀な装備だが、多すぎる選択肢に彼の持ち味が影を薄めていると言っても過言ではない
乱暴な意見ではあるが、足を引っ張る兵装のオミット
選択肢を減らし、出来ることのみを特化して鍛えることで一流を目指すべきだと進言しよう」
言いたい放題言われるダンは顔を上げると一言叫ぶ。
「ようはテメェと同じになれって事か!!
ふざけんな!!
パンチャーはテメェ以外はクズだとでも言いたいのか!!
持論を押しつけるのも大概にしやがれ!!」
ダンの言葉にガイウスはヤレヤレと首を振ると言う。
「敢えて言おう、クズであると
一撃必殺!!
それは小細工も全てど返しした最強必勝法だと私は思っている
ただ、それは私の場合だ
例えば、私より貧弱かつ身長の高い君には対G能力では私には勝てない
背が低いモノの方が、どうしても下肢と心臓の距離的に埋められない対G適性を生み出してしまう
この才能とも言える利点は努力ではどうにもならない
だから、私と同じ条件で同じ戦い方をしないものはクズであると言おう
だがな、君に私と同じ戦い方は出来ない
君には埋められない才能の差があるからだ
理解したまえ、私の戦い方だけが一撃必殺を生む戦い方でないと言うことを
もちろん、全てを圧倒し一撃で相手を屠る以上かなりのリスクを伴う戦い方を要求されることを覚悟して貰わねば成らんがね」
「ねぇ、そのリスクってのはサドンデスってこと?」
「私程ウルトラリスクを背負えとは言わない
が、命がけでないとは言わないし、保証もしない
一撃なら辛うじて喰らっても死なない
かも知れないというレベルだと思ってくれれば差し支えない
もちろん、避けきれなかったという意味での一撃だ
直撃なら即死と言うことはいうまでもない」
ウルトラリスクが掠っても致命傷なら、ハイリスクは掠るのOK(1発限定)・・・
この人のリスクはどれだけサドンデスなのだろう?
ルキアとダンはガイウスの神経を疑わずにはいられなかった。
「なかなか、難しい所ね
強くなって貰いたいと、私も心から思っているけど・・
死なれては元も子もないわ
RF(レボリューションフレーム)も、強さの追求よりもパイロットの生存を考えて採用した規格よ
もう少し、ダンには武装になれて貰うことにしましょう
使いこなせないものは除外、改造をすればいいわ
如何かしらガイウス?」
「生き方を決めるのは自分自身だ
だから、私は進めることはあっても強制をするつもりはない」
「なら、自分の戦い方を追求させて貰うぜ」
ダンはそう言うとその場を後にした。
「反抗期かしら?
まあいいわ、お腹も空いた頃でしょうし昼食にしましょう
午後は各自自由にしましょう
設計に忙しい方も多いでしょうから」
ガイウス達は頷くと食事を取りに部屋に戻っていった。
「あなたは昼取らないのルキアちゃん」
「ねえ、ダン本当に今より強くなれるのかしら?
今だってかなり強いと思うわ」
「なら、今のあなたをコテンパンに出来てダンは?」
!!
「それは機体性能や武装の差が・・」
「そんないい訳をして生き残れるなら、見逃すけど
まず確実に死ぬでしょうね
同格や、格下なら機体性能でカバーできるけど・・
格上と戦うなら覚悟がいるわよ
何が何でもという、ね
今のダンに足りないものはそれよ、成し遂げたい何かがないと必死になれない
それが壁と言えばそうだけど、案外限界なのかも知れない」
「酷い言いようね、でも心配ないわ
勝ちたい相手がいるもの、超えたい、超えなきゃいけない目標も・・
後は時間だけが足りないのかも知れないわね・・」
その時間は私が稼ぐしかないか・・・
ルキアはそう決心すると、お腹空いたと言いながらその場を後にした。
「よろしかったのですか?」
イオンの言葉に、含み笑いしながら弧光は言う。
「いいものを作るのには時間と手間がかかるものよ
それよりも、あんた達はダンの機体の改修を急ぎなさい」
「は〜い、私も使いこなせない武器はいらないと思ってたんでもうアイディアあるんですよ
お昼返上でデータ打ち込みますね〜」
レオンはノリノリでシュミレーションのプログラムを書き始めた。
期待してるわよと言い残し、弧光も昼を食べに出て行ってしまった。
「どう思う?」
レオンの言葉にイオンは、むしろ好都合かも知れないと返しすのだった。
食後
「イオンさん、わたくしお風呂を頂いた後イヴァンのところで機体のオーダーをしに行きますので、午後はシュミレーターには参加しませんわ
そう、皆さんにお伝えしていただけるかしら?」
ルキアを待たず食事を始めたセシリアはそう言うと、バスルームに向かって歩き出した。
「承知いたしました
お風呂上がりに何かお飲み物を用意いたしましょう
リクエストは何か御座いますか?」
イオンの言葉にふと足を止めるセシリアは、一瞬逡巡するとはにかむ仕草で言う。
「牛乳がいいわ、もちろんビ・・」
「ビンのもので御座いますね、承知いたしました」
委細承知とばかりイオンは、左足を引き、左手を胸に、右手でスカートの裾を摘むとふわりとした動作で頭を垂れる。
なかなか堂に入った仕草ですわねぇ〜
悪くないですわ、などと邪推しながらジャグジー目指して自分もゆっくりとした大きい動作で優雅に歩み出した。
・・・思考は庶民ぽいのに、あの優雅さは明らかに不自然だわ?
もう少し調べてみた方がいいのかも知れないわね。
イオンは表情一つ変えることなく、そう思いながらその場を後にした。
30分後バスルーム
「う〜ん、気持ちいいですわ〜〜〜」
セシリアはブクブクいうジャグジーに身を委ね、染めたばかりの髪の毛を湯船で遊ばせていた時だった。
「あなた、そこで何をしてるの?」
ルキアが拳銃片手にバスルームに入ってきた。
「きゃーーーーーーー!!!!!!!!」
絹を切り裂く音を通り越して、ワイングラスが砕けるぐらいの悲鳴にルキアは思わず引き金を引いてしまう。
ぱっん!
あ!
ルキアがしまったと思った瞬間に下腹部に嫌な温もりを感じた。
ルキアは恐る恐る左手で下腹部に触れると、ヌルッとする暖かさを感じた。
それが何かを頭が理解すると同時、灼熱感が身体を走る。
「あああ・・・」
ルキアは歯を食いしばって叫び声を押さえるが、苦痛で顔が歪むのを隠しきれずにいた。
と、盛大に叫んだセシリアが湯船に身体を沈め銃撃から身を守るように叫ぶ。
「いきなりなにしますの!!
発砲される程、嫌われた覚えがないのですけど
違って?」
・・・え?
「あなた、セシリア?」
「ええ、わたくしはセシリア・ビシュレですわ
クリステル・ミライザと言った方がわかりやすいかしら?」
「何で、髪の毛の色が違うのよ」
「偽名だけではもしもと言うことがあるから染めましたのですが・・
あなた!!
勘違いした上に確認も取らずに発砲したんですの?」
いくら何でも見境なさ過ぎましてよ、と叫ぼうとした時だった。
ルキアが助けて・・と力なく泣いた。
ルキアが跳弾により自分で撃った銃弾で自傷していることを知らないセシリアは何事かと顔を覗かせた時だった。
湯船から顔を出したセシリアとルキアの視線が交差した。
「あ!
あ、あああ・・・」
ちゃぽん
セシリアは瞬時に湯船に隠れてしまった。
セシリアは対人恐怖症である。
尊大かつ、傲慢な態度は人を遠ざけるためのポーズである。
ほとんどの人が、地だと思っているが・・・
そして、本来まともに人と会話すら出来ない対人恐怖症を緩和しているのがサングラスなのだ
が、風呂場でサングラスを掛ける程セシリアは物好きでも、用心深くもなかった。
そう、サングラスがないと言うだけでルキアは今見捨てられそうになっていた。
一方、ルキアは弾丸が当たった腹部だけでなく、口からもむせこむように吐血し急性出血多量で血の気の失せた顔で痙攣していた。
「あ、あのルキアさん?
そばにサングラスがあると思いますの?
お助けしますから、それをこちらに取ってくださいません?」
・・・・・反応がない、ただの屍のようだ。
屍?!
何の反応もなくなったことに気づいたセシリアがそっと覗き込むと、ルキアがビクッと一度身体を踊らせるが、その後全く動かなくなった。
「い、一大事ですわ・・・よね?」
セシリアは恐る恐るバスタブから出ると、脱衣所にあるサングラスを掛けると大声でイオンを呼んだ。
そして、必死にセシリアはルキアの応急処置に入る。
「いい加減になさいまし、わたくしの目の前で始めて人が死ぬ栄誉を賜るつもりですの?
あなた、何様のつもりですの!!」
圧迫止血をしながらセシリアは思い出す。
それはセシリアが対人恐怖症になった切っ掛けだった。
大昔、まだ4〜5歳の頃である。
彼女の身の回りには、研究に没頭するあまりに日に一度すら顔を合わせない父と、その助手の女性ゼノフォビア・ビシュレ以外に人の気配のしない人里離れた山奥に住んでいた。
たった三人しかいないその家には、笑顔も会話と言えるものもほとんど存在しなかった。
だから、それが普通だと思った。
いや、そう思わないわけにはいかなかった。
ゼノフォビアは料理は美味しかったが、子供のご機嫌取りをするような女性ではなく、必要なことを最小限の労力で行い、無駄を嫌う人物であった。
それ故、幼少期のセシリアはいつも孤独だった。
そんな時だった。
戦火に追われた20人ぐらいの難民達が、セシリア達のいる山奥に迷い込んできた。
セシリアは同じくらいの子供の姿に嬉しくなり、彼らの前に姿を現した時だった。
20人もの人達が、小さなうめき声を上げながらバタバタと倒れ始めた。
まるでこの世の地獄のようだった。
それでもセシリアは彼らを助けようと、嫌がるゼノフォビアの手を引いて連れてきた。
だが、舞い戻った時には復活していた彼らは、セシリアの姿を見るとまたバタバタとうめき声を上げながら倒れだした。
最悪の嫌がらせとしかいいようのない状況に、混乱しきったセシリアは次の瞬間手を引いてきたゼノフォビアに突き飛ばされた。
自分を生け贄にするかのようにそこに置き去りにされたセシリアは壊れたように笑いながら自室にまでとぼとぼ歩いて帰ると、そのままベットの中で小さくなりずっと、ずっと泣き続けた。
涙も枯れた頃にはセシリアの中には、対人恐怖症が刻まれてしまっていた。
その後、父親のヘンリー・ベクレルに魔法のグラサンを貰い、レンズ越しなら人がバタバタ倒れる現象が起こらなくなり、対人恐怖症は一時的に収束したセシリアは倒れた人を救うべくアルサレアに渡り看護婦になるのだった。
セシリアの叫びにイオンがやって来てから1時間半後
オペ室から出てきたイオンにダンと弧光、セシリアが詰め寄る。
「銃弾は貫通していましたが、奇跡的な確率で内臓を避けていましたので傷口を縫うだけで処置は終わりましたわ」
それを聞いて安心したダンは処置台で眠っているルキアに駆け寄り手を握る。
良かった、無事で!!そう叫びながら、ダンは涙を流す。
「ま、無事なようで何よりだわ
あなたも気を落とさなくて良いわよセシリア」
「自分のミスで死にかけた人のことなど知りませんわ・・
湯冷めしてしまいましたわ
今度はゆっくりお風呂を楽しむことにしますわ
誰も入ってこないように御願いしますわよ、イオンさん」
「ええ、承知いたしました
もう一度、牛乳も冷やしてご用意しておきますわ」
御願いするわと言い残してセシリアは走ってお風呂に向かう。
ダッシュするセシリアの頬には、安堵によるゆるんだ涙腺から大粒の涙がボロボロと垂れ流しになっていた。
「あらあら、全く可愛いらしい子ね〜
で、実のところどうなの?」
人払いが出来たその場においてなお、イオンは言い及ぶと号泣するダンを横目に場所を移そうと目配せする。
弧光はそれに応じようとして、首を横に振った。
「ダンにも話しましょう
こう言ってはなんだけどいいタイミングよ
ルキアちゃんは無事なんでしょう?」
弧光は一番重要だとばかり確認を取る。
「肉体的なレベルだけなら、間違いなく
ですが、脳や、精神までは保証しかねます
急激にウイルス進化が促進されたようですので、事例のないことですし状況が把握しきれません」
「最悪、死ぬのかしら?」
弧光が静かに確認を取る。
壁の塗装が剥がれ落ちそうな怒気が周辺を満たす中、イオンがゆっくり口を開く。
「生命維持には問題ありませんが、植物人間になる可能性は捨てきれません」
「どういう事だそりゃ!!」
弧光の殺気に気づいたダンがイオンの言葉に反応した。
「声をあらがえないで頂戴、ルキアちゃんのためにも」
「っぐ!」
弧光はダンをなだめると自室に促した。
独房にてルキアの現状を聞いたダン
「何で、何でルキアがそんな人体実験みたいな真似しなきゃなんねぇんだよ!!」
ダンは弧光の胸ぐらを掴んで壁に押しつけた。
「強く成らねばならなかったからよ」
「一体どこにそこまでしなけりゃならない必要があるんだ!!」
「・・私がやったんだけど、彼女今天涯孤独なのよ
もう、何の後ろ盾もない
地位も、家も、なにもない
そんなあの子の心のよりどころって何なんでしょうね?」
ダンは壁に押しつけた弧光を降ろすと俯く。
「俺なのか?」
「そうよ、彼女はあなたを守れるぐらい強くなりたかったの
家庭関係最悪でも、家のためにがんばれた
でも、それすらなくなって後は愛しか残らなかったんでしょう
それがどんなリスキーなことであっても、失いたくなかったものがあなたよ」
ごん!!
ダンは壁を殴りつけた。
俺は、俺の強さは誰のためのものだ?
俺は、あいつを・・
ルキアを守っているつもりだけだったのか?
俺は、何をしていたんだ・・・
「ダン、お聞きなさい
あなたが今するべき事は覚悟を決めることよ
覚悟さえ決まれば、後はもうやるべき事をするのに何の迷いも恐れもない
恐ろしい程に、達成すべき目的を突破できると私は信じているわ」
・・・・・・
「何で、お前はそんなに俺に期待するんだ?」
「あなたは裏切らない
このクソみたいな軍部の中、あなたはバカみたいに我を貫く代わりにね
能力や才能はある程度技術や経験で補えるけど
信用はお金でも買えないし、信頼できる人は得難いの
あなたは私の信頼に応えられると信じているわ
そして、信頼するからこそあなたに無茶をさせるわ
後は、あなたが応えるのを持つだけだわ」
あなたはいつ応えてくれるのかしら?
鉄仮面の下から弧光はそう問いかけている。
「あと少しだけ待てよ
俺はあいつが無茶をしないで済む強さと、あいつを守れるための強さを手にするから
もう、誰かの背中を追うのも、気にくわない奴を倒すことに固執するのも止めだ
ただ、失いたくないものを失わずに済む力のみをこの手に掴む
少し待ってろ、すぐに強くなってやるから
必ずだ!!」
ダンは振り返らない。
強さに憧れていた自分を捨て、強くあらねばならない自分に変わる覚悟を決めたから・・・
第13話に続く
後書き
今回はPFの開発構想をそのまま書いてみたり・・・
ダンをここぞとばかり落としてみました。
何というか、一番ヘタレなダンを書いたのは多分俺だろうな〜(苦笑)
失って始めてわかる大切なもの、健康だったり、家族だったり・・・
ダンは中途半端な強さがイメージの根底にあった。
なぜなら、何のために戦っているのかがよくわからない。
グリュウに憧れたり、毎度ボコられるコバルトリーダーにライバル心を燃やしたりはしていたが、目先の事ばかりで何かを成し遂げようという気構えが伺えなかった。
なので、今回ルキアのフォルセア・エヴァ化を契機にダンを変えようという伏線でやって来ました。
次回は、ダン覚醒編と行こうかと思います。
激変したダンを書けると良いなと思っています。
急にクオリティーが良くなったりはしないが、書けるレベルで頑張っていますので感想をいただけると嬉しいです!!