ヴァリム内乱編
〜〜〜動乱のヴァリム〜〜〜



 第9話 神の拳と、押し寄せる戦果と・・・






 魔王軍基地から5km先

「さて、そろそろ行こうかダーリン」

 ベロニカがPFのサイドビューに写るギーグに言う。

「うむ、今日もまた私にふさわしい舞台を頼むよダーリン」

 腕組みをとくとギーグはスティックを掴む。

「任せてもらおう、最高のショーの開演だ!!」

 ベロニカのガンゲリオンMk3は、ギーグのJナックル2にジョイントされたまま浮き上がると、追加装甲を展開しミサイルを吐き出す。

 ギーグはミサイルの反動をものともせず、ガンゲリオンMk3を後ろから押すとそのまま基地に向かって一直線に最大加速する。

 当然、基地からも迎撃ミサイルやらレーザー砲がバカスカ飛んでくる。
 が、ベロニカはそれを問答無用のミサイルの嵐で押し返す!!

 ミサイルの雨は空中で空気を裂く甲高い音と、ミサイル同士の爆散する轟音で鼓膜がどうにかなりそうなビートを奏でる。
 オーケストラも真っ青な爆音が腹を打つ。
 その重低音に体をシビレさせながら、ベロニカはガンゲリオンMk3の追加装甲兼、MLRSそのモノをパージして行く。
 そして、パージしたそばから新たな追加装甲を展開し、ミサイルを容赦なく全力でぶっ放す。

 拠点基地の防衛能力に匹敵する射撃力を誇るガンゲリオンMk3だが、それは多大なる犠牲の上に成り立っている。
 その一番のデメリットは、機動力の消失である。

 機体重量がかさみすぎて、歩行もブースト移動も全く出来ない。
 PFと言うよりか、超過重砲座という方が相違ない存在である。

 そして、その最大のデメリットを補うのがギーグのJナックル2である。

 この機体は純然たるパンチャーであり、ガンゲリオンMk3を運ぶために純然たるパンチャーの機動性能を効率よく運用出来るように専用ジョイントを開発し、ガンゲリオンMk3の追加ブースターとなっている。

 なお、合体している間はガンゲリオンMk3の視界をギーグは得る事が出来るので、ギーグが機動を誤る事はない。
 もっとも、弾切れでも起さない限りあらゆる障害物はないに等しい。






 

 魔王軍基地防衛機能35%ダウン

「破滅をばらまけ、ドゥーム!!」

 レオンの言葉に整備用ジョイントを解除したドゥームが歩き出す。

「露払いはこっちでするから出番ないかもよ」

 イオンはそう言うとドゥームの背中に搭載されたスーパーバーニア兼ハイブリットキャノン:レインボーを分離・発進させる。
 武装の分類はフローターウイングだが、副座方のGFでは機体制動と火器管制が分かれているので7基のレインボーはすべてイオンによるフルマニュアル制御されている。

「出番は、自分で作るよ」

 レオンはそう言うと、レインボーを追いかけるように飛び出す。
 ハンガーを出たとたん、まさに戦場といった風景が目に映る。

「やられたい放題か、あたしらは」

 なんかむかつく・・
 レオンはミサイルの飛んでくる方に大ジャンプする。

 飛んでくるミサイルは両肩のシールドに搭載されたカウンタージャマーではじき返しながら、ギーグ達に一気に肉薄する。






 

 ドゥームが出てきた直後

「PFどころか、GFとは参ったね」

 予想外の大物が出てきたとベロニカは、ギーグにウインクする。

「基地防衛力を優先して排除しておいてくれないか、ダーリン?」

「そのつもりだよ、脱出用にばらまいたものを今使うのもしゃくだけど・・・
 最初からクライマックスだ、ぞろぞろ出てこられる前に撤退しよう
 回収は任せるよ」

 ガチン!!
 ベロニカの言葉にギーグはうなずくと、機体をつなぎ止めていたジョイントをパージする。

「では、行ってくるよ」

「ああ、最高の舞台を楽しませておくれ」

 ギーグは親指を立てて白い歯を見せて笑う。






 

 一人突撃するギーグ

「新型のGFか・・・、ふむゼクルヴより歯ごたえがあるといいな」

 ギーグのJナックルは、音速超過でイオンのレインボーを瞬時に追い抜くとレオンの操るドゥームに肉薄する。

「アンノウンって、やっぱりPFなんだ、早いだけじゃないといいな〜〜〜」

 まずは小手調べとばかりジャイアント・カイザーナックルを放つ。

「デカイだけだな、つまらんぞ!!」

 ギーグは向かってくる巨大な拳など眼中にないとばかり、左拳でジャイアント・カイザーナックルを殴りつける。
 まるで崩れた発泡スチロールの塊を吹き崩すかのようにジャイアント・カイザーナックルが、何事もなかったのように吹き飛んだ。

「あ、やばいかも・・」

 レオンは危機感知すると即座に残像を投影しながら瞬間転移するソリッド・ミラージュを発動する。

 が、それすら間に合わせない。
 瞬間転移が始まる刹那ギーグは右拳と繰り出す。






 

 転移直後のドゥーム

「オイオイ、冗談じゃないぞ!!
 もの凄いの来た〜〜〜〜〜〜〜!!!!

 レオンはキャーキャー歓喜の叫びをあげる。

 ギーグの頭上に出現したドゥームには左腕がなかった。

 ジャイアント・カイザーナックル同様、左腕は瞬時に肩関節のジョイントからもげるヒマもなく吹き飛んでいた。

 理解不能な攻撃力だ!!

 それも、特殊な新兵器などではない。

 ただ、ただ、ただ、とてつもない拳!!


 何の捻りの一つもないそれだけである。

 だが、それこそが最強にして唯一の武器であるとレオンは認識する。

 燃える話である。
 拳での語り合いのが嫌いじゃないレオンは、大いに鼓舞され奮い立つ。

 なにせ、吹けば飛びそうなPFが相手である。

 ジャイアント・カイザーナックルはGFの腕力を増強した拳を射出する兵器である。

 掠っただけでも致命傷!!

 対するこちらも、瞬時にGFの腕を吹き飛ばす破壊力をボディーに喰らおうものなら、即死は免れない!!

 チリチリとした焼けた鉄板の上で戦うかのような錯覚をレオンが感じたときだった。


 ドゥームの腰部に収納されたクラスターミサイルとレーザーショットガンが展開される。

「閣下から生け捕りにするよう言われてるでしょ、殴り伏せたいのなら生け捕りにしてからにしなさい!!」

 愛機であるドゥームの左腕をもがれたことに静かな怒りを讃えるイオンが眼下にいるギーグを襲う。






 

 一方ギーグ

「立体映像か・・、しかし辛うじて手応えはあった」

 逃げるのか、距離を置くのかギーグが思案を始めると同時Jナックルの頭上が陰る。

「上か、やっかいだな」

 的は大きい、だから攻撃を当てるのは難しくない。

 だが、瞬間転移はいただけない。
 折角詰めた間合いを広げられる上に、GFは例外なく大型ミサイルなどの高性能ミサイルなどの遠距離兵器を搭載しているからである。

 ヘルファイヤーの2倍近い攻撃力を持つJナックルだが、機体防御力が1000しかなく、HPも外部、内部合わせても1000しかない。
 攻撃力と旋回、機動性能にのみ特化したこの機体は、
 その他の全てが犠牲になっている。

 故に、射撃兵器が豊富な敵とは相性がすこぶる悪い。

 だが、苦手とか、手も足もでないと言うことはない。
 もしそうなら、こんな即死確定機体に乗っていて未だに生きているのはおかしいからだ。
 そして、この圧倒的不利な状況をギーグは一発でひっくり返す!!

「おおおおーーーー、砕け散れーーーー!!!」


 ギーグは頭上からの攻撃が始まる瞬間に、地面に向かい加速すると右腕で舗装処理された大地を殴り伏せる。BR>
 あまりの衝撃に、爆薬もなしに地面のタールが液状化し、霧になると巻き上げられた石の起こす静電気で粉塵爆発のように土砂の隆起と大爆発を起こす。






 

 イオン

「もの凄く戦い馴れているわね!!」

 クラスターミサイルはギーグに届く前に、巻き上がったガレキに衝突し爆発の壁となり、レーザーショットガンは煙で減衰して無効化されてしまう。

 イオンは基地防衛施設をミサイル攻撃するベロニカを攻撃するために先行させたレインボー3基を反転させる。

 そして、爆炎から飛び出すギーグの機動軸線上を潰すように大出力重粒子砲を3連発する。

 全ての回避ルートを潰したイオンは、残り4基のレインボーでベロニカをロックした時だった。


 おかしい・・
 ギーグの機体の爆発音が聞こえない?!


 イオンの疑問に答えるようにドゥームには強烈なGが発生する。
 それはレオンがドゥームに緊急回避運動をとらっせている証である。


「想像を超えてるかも、そう思わないイオン?」


 ドゥームはGFにしては極端に機動性のがいい。
 だが、その巨体故に高速PFには機動性能では敵わない。
 もちろん、それを考慮して大出力バーニア・レインボー7基が用意されている。

 本来、レインボーがあればGFの巨体ですら音速を突破して空を飛ぶ・・・
 もとい、強制的に音速超過の世界に引きずり込まれるのだが、レインボーがないと亜音速どころか、航空機並の速度ですら飛べないのである。

 だからレオンは必死に弾丸をばらまきながら回避運動をしている。
 だが、誘導性の高いミサイルも、大型ガトリングガンもかすりもしない。

 ロックしているにもかかわらず、当たるかどうかの瞬間にあり得ない機動を見せると攻撃をかわしながら肉薄するのである。

 こうなるとレオンはジリ貧である。
 何せ、ソリッド・ミラージュを発動して逃げることは出来るが、転移途中でもギーグの拳はドゥームに確かなダメージを負わせることが出来るのだ。

 そして、当たり所が悪ければ即死である。

 攻撃力という名の条件は同じはずなのに、機動性が圧倒的に違うという差が埋めようのない差として顕著に顕現する。


 そして、レオンは右手を犠牲にして再びソリッド・ミラージュでジャンプする。
 転移先は、イオンが引き戻した3基のレインボーの元だ。






 

 ベロニカ

 ドゥームがレインボー3基と合体して飛行戦闘が可能となっている頃

「こんなものかね、いくらヴァリム国内とはいえ油断が過ぎるというものだよ」

 ベロニカはたった一人で基地防衛機能を完全に沈黙させてしまった。

 そして、自分にロックを掛けようとするレインボーをキッと睨み付ける。

 こちらはギーグと真反対の機体。
 基地防衛機能を沈黙させる火力はあるが機動性能は皆無、丁度ギーグとレオンの立場を逆にした状態のベロニカとイオンであった。

 だが、ベロニカだって全く動けないことを始めからわかっていて戦場に出ているのだ。
 動けないならば、動かなくても出来る戦い方の用意ぐらいはちゃんとしている。

「ダーリン、そろそろフィナーレといこう
 これ以上粘ると、撤退出来なくなる」

「了解だ!!
 クリステル嬢が出てくるまで待ちたかったが、致し方あるまい!!」

 ギーグの沈痛な顔に済まないと詫びながら、ベロニカはHMを起動する。

「ガンブレイズ・バーサーカー起動、ファイヤーーーーーー!!!!


 ベロニカのガンゲリオンの超過重ミサイルランチャーの発射口がフルオープンされると同時、12本の隠しアームがトライ・ガトリング・グレネードランチャーを全方位無差別にぶちまける。

 まさにバーカーサー(馬ー鹿ーさー)という感じで、手当たり次第眼に映る全てのものを破壊するといった感じでミサイルと実弾をぶちまける。

 敵味方問答無用で戦果に飲み込むことから、「押し寄せる戦火」と敵味方から恐れられるベロニカらしい戦い方だ。

 だが、この攻撃は機動性能ゼロのガンゲリオンが生存確率を上げる方法としては、かなり有効な方法である。

 HMが切れる(=弾切れ)頃には、自分を襲う脅威など存在しなくなる。
 とても理にかなった戦い方と言える。
 なにせ、あらゆるものを破壊し尽くすのだ。

 自分を襲う全てのものを先手必勝で破壊し尽くす。

 攻撃こそが最大の防御!!

 これこそが、全く動けないベロニカの戦い方である。

 無論、オチがないわけではない。
 最大の対処法はヘルファイヤークラスの大規模な爆風と爆発でガンゲリオンごと薙ぎ払ってしまう方法だ。
 もっとも、敵味方お構いなしのヘルファイヤーを戦場でポコポコ使用できない以上、それはあり得ないに等しい。

 後は、大口径のバスターランチャーなどで無理矢理薙ぎ払う方法があるが、バスターランチャーでは、チャージ中にミサイルの餌食になってしまうのでこれもあまり現実的ではない。

 もっとも現実的なものは、超長距離からのバスターランチャーでの攻撃か、同じく超長距離狙撃である。
 が、今はそんな無い物ねだりをさせるヒマすら与えない。

 戦艦クラスの防御力を持つレインボーも、視界全てミサイルか、弾丸というこの状況に各種兵器はことごとく使用不能になり、ビームに対しても沈黙こそしないがまるで役に立たないと言って過言ではない状態になってしまう。






 

 イオン、レオン

「油断しすぎていた気はするけど、大失態だね」

 たはは、と力なくレオンは笑う。

「本当に顔向けできないわね・・」

 イオンも思わず失笑してしまう。

 そして、二人は意を決して切り札に手をかける。


「「リミッター解じょ・・」」

「はいはい、そこまで!!」


「「閣下?!」」


 いつの間にか、イオンとレオンの乗るドゥームの背後には、弧光の乗るドゥームが出現していた。






 

 ギーグがドゥームと交戦する少し前
 クリステルはPF:アマダスの中で起動シークエンスを急いで立ち上げる。

「ああもう、何でこんなにチェック項目があるんですの?
 もう少し、OSを勉強しておくんでしたわ
 そうすれば、項目を飛ばせましたのに・・・」

 クリステルが焦りを露わにする中、アマダスの前に弧光が到達した。

 しかし、弧光はコクピットハッチを力ずくで開こうとするでもなく、その場でうずくまっている。
 鉄仮面の下の顔面が焼けるように痛む上に、脂汗が引かない程の腹痛に襲われていた。

 少々なら毒を飲んでも腹をこわすこともない弧光にとって、この状況は異常事態以外の何ものでもなかった。

 な、何が起こっているのかしら?
 理解不能な異常事態に、人体改造の副作用を危惧せずにはいられなかった


 そして、弧光はタラップからよろよろと足を踏み外して落下する。

 呆気ないわね、人の命なんて・・・


 これから走馬燈でも見ようと思ったときだった。
 顔も腹も全く痛くなくなった。
 それどころか、圧倒的なまでの倦怠感すらもまるで幻のように消えていた。

「一体何だったのかしら?」

 弧光はつぶやきながら、猫のように空中で身体を捻ると両手足を開いてふわっと着地してみせる。

 そして、身体を動かしてみる。

「問題はないようね・・・」

 問題こそはないが、言いしれぬ恐怖は拭いきれない。

 だが、それについて考えるのは後にしないと・・・
 今は奪取されようとするアマダスを押さえるのが先だ。

 誰が攻めてきたのか知らないが、RF(レボリューション・フレーム)を奪われるわけにはいかない。
 弧光は一気に階段を駆け上がるとアマダスに肉薄する。

 そして気づく。
 アマダスに近づく程に体調が悪くなることに・・・
 そして、アマダスから距離を取ると逆に楽になることを・・・

 弧光は、そんな馬鹿なことが?と思わず笑ってしまう想像を笑い飛ばしながら接触回線でクリステルに話しかける。

「勇敢なあなた、一体何が望みなのかしら?」

 実力行使は容易いが、新品の機体をお釈迦にするのも、傷つけるのも今は避けたいと弧光は妥協案を出した。


 と言うか、言いしれぬ恐怖にクリステルを追い詰めることは危険と本能が叫んでいた。


「この機体は私のもの、取られたものを取り返しに来ただけですわ」

「あら、あら、それは初耳ね
 この機体は、私が建造させたものなのよ
 この機体があなたのものだという証拠でもあるのかしら?」

 いい傾向だ、話の通じない相手では苦戦するが、意思疎通が出来るのなら話術で陥落できると弧光は安堵した。
 が、不幸を呼ぶ女はそれを良しとさせない。

「ありますわ
 外見は随分いじられたようですけど、内部骨格と封印兵装にメインパイロットの私にしか解除できないコードがまだ生きてありますもの
 もし、この機体が私のものでないというのなら、私にしか使えないものがあるのはおかしくなくて?

 確かに、それはおかしい・・・

 手違いがあった?
 いや、この機体はRFとして完成している。

 と言うことは、アルサレアからベースとなる機体を奪取して組み上げていると言うことかしら?
 なら、なぜそんな無駄なことをしたのかしら?
 ワザワザこんな問題が起こるようなことをせず、自作すればいいものを・・・

 そこで弧光ははたと気づく。
 ヴァリムの技術者だけでは、この機体を作り上げられないという事実があるのではという事が浮かび上がってきた。

 弧光、ダン、ルキアのRFの完成が遅れているのは、内部骨格の技術開発が間に合っていない為で、その時間稼ぎに優秀だが非常にアンバランスなこの機体を組み上げ寄こしたのではないかという答えを弧光は連想した。

 そして、嘆息する。
 
 今この機体を失った場合、RF計画が大幅に遅延する・・・
 最悪、頓挫する可能性があるわね。


 遅れている今ですら、許容範囲リミットだった弧光としては出来るだけ穏便にアマダスを取り返さなくてはならなくなった。

 

 そして、弧光は妥協案に打って出る。

「あなたの言い分は認めましょう
 でも、内部骨格があなたの機体でも、外部骨格などは私の作らせた機体
 機体の権利はフィフティー、フィフティーだと思わないかしら?」

「勝手に持って行ってか、頼んでもないのに改造しておいて権利を主張するのはいかがなモノかしら?
 私、自分の所有物に関しては傷つけられるのも、奪われるのも許せない質でしてよ」


 クリステルの機嫌が眼に見えて悪くなった途端、弧光は全身から脂汗を噴き出し立っていられなくなった。
 
 嫌な確信だこと・・・


 先ほど予想した通り、クリステルが原因で自分の体調不良が起こっていることに確信を得た弧光は大胆な妥協案を打ち出す。


「いいでしょう、確かにあなたの権利が強いのは認めましょう
 だから、この機体は差し上げますわ
 ただし、この機体はテスト機として建造したもの
 機体を差し上げる代わりに、機体の実践データを取らせて頂戴
 もちろん、テストパイロットはあなた
 この基地にいる間はVIP待遇を約束するわ
 外で暴れているあなたのお連れさんも、同じ条件を提示させていただくわ
 どうかしら?」

「何を持ってそれを信用したらいいのかしら?
 私はただ、ただ、被害者を主張しますわ」

 こう言っているクリステルは、何を言われても信用しないと言っている。 だから弧光は逆に問う。

「あなたが信用できると言うことを私はするわよ、それでどう?」

 自分で信用するに値する行動を提示させる。

 これが一番簡単な選択肢だった。
 もっとも、何をしても信用しないと言われればそれまでだった。

 だが、クリステルは一秒でもこの会話を長引かせたかった。
 なぜなら、まだまだアマダスが起動するまでに時間がかかりそうだったからだ。
 何とも緩慢な話だが、新品の機体とは得てしてそういうものだった。


「いいでしょう・・・、と言いたいところですけれど
 まずはあなたの本音が知りたいわ
 これだけの好条件を出す理由がわかりませんもの」


 そもそも、この好条件を出せる程の人物が話し相手なのかすら確証が持てないクリステルには、当然の疑問だった。

 なにせ、まだアマダスは起動していないので機体のカメラも沈黙したままで、外がどんな状態かもわからない。

 コクピットを開けたら自動小銃が囲っていたなんて事も充分あり得る。

 だから、時間稼ぎを込みで疑問は全て問いかけるに限る。


「そうね、あなた達に興味が沸いたと言うことが一つ
 ああ、外で暴れてる無茶な人達込みよ
 だって、この場は上手く逃げおおせても私はしつこいから絶対逃がさないわ
 この基地にはPFは20機ぐらいしかいないけど、GFは60機以上配備されてるわ
 GFの転移距離を計算した上で、補給も無しでどれだけ逃げ切れるのかその算段にも興味があるわ
 そして、ここからが本音ね

 その機体はPFではないわ、私の作らせた第3世代PF発展型RFよ
 それも、現在動く唯一の機体
 壊されるのも困るし、何よりもデータが取れないのが困るの

 もし、万が一その機体を自在に扱えるのなら、そんな凄腕パイロットならいくら詰んでも欲しいわ
 その可能性があるのなら、あらゆる条件を飲む価値があるわ
 なにせ、その機体に乗ったテストパイロットは全員死ぬか、重体か、どちらにしろ機体に振り回されるだけでまっとうにデータ取りが出来ず、OSを多少改善しただけでロールアウトされたのですから・・・

 元あなたの機体なら、その暴走機を乗りこなしてデータを取らせて頂戴な
 乗りこなせない機体など、データが集まれば無用の長物、あなたに差し上げるのに何の躊躇もないわ
 どう、納得してくれたかしら?」


 確かに、この機体は専用のシステムのせいで従来のPFと違い極端に扱いずらい。
 死人がでる程ではないにしても、重傷、重体もあり得ないとは思わない。

 そういう意味では、弧光の言葉に嘘や打算はない様に見受けられる。

 クリステルは困惑する。
 明確な判断基準が無いこの場合、正しい判断は絶対に何があっても信用しないが正しい回答だが、現状そうは行かないだろうと言うことだけは理解できる。
 そして、自分には本当は選択肢すらないと言うことも・・・

 クリステルは混乱する中、あろう事かめんどくさくなってきてつい口を滑らす。


「私一人の問題でもないことですし、外にいる二人が先ほどの条件を飲むのであれば私も先の条件で傭兵として雇われることに致しましょう」

「マーヴェラス!!

 いい心がけだわ、ではそうしましょう
 私は外の二人を説得に行きますが、あなたはここに居て頂戴
 もっとも、起動させたとしてそのじゃじゃ馬で逃げおおせられるとも思えないけど・・・」

 弧光はうまく行ったと、小躍りした気分で自身のGF:ドゥームに搭乗すると出撃する。






 

 ギーグVS弧光

「お聞きなさい、私はこの基地の司令官ヴァリム軍少将:弧光・泥門(ここう・でいもん)
 身内からはアークデーモンなんて呼ばれているわ」

 突然出現したGFの声にギーグは動きを止める。

 攻撃してこないからと言うのもあるが、ギーグは警戒する相手であると認識したからだ。

「貴方たちのお連れと交渉したわ
 でも、信用してもらえなくて困っているの
 で、貴方たち二人と交渉して和解するのなら信用するという話になったわ」

 弧光はそう言うと、ドゥームを地面に着地しながら交渉条件を告げる。


「さて、熱く話し合いましょうよ
 神の拳:ギーグ・ツフォルスエンド」


 そう言うと弧光は地面に生身で降り立つと小指を立てて掛かってこいとアピール、それに答えるようにギーグも生身でPFから降りると弧光に向かって突撃する。


「「おおおおおーーーー!!」」


 ギーグのストレートが弧光の顔面に当たるか否かの所で、弧光は短い手足ではリーチ的に届かないと判断するやいなや、肉薄するギーグの肘めがけてアッパーを入れる。
 体躯を裏切る身体能力を発揮する弧光の拳で、ギーグは上半身をのけぞらせる。

 次の瞬間、弧光はがら空きの懐に飛び込むと、みぞおちを打ち抜くような拳を突き出す。

 対してギーグはのけぞったままの勢いで両足のみでブリッジすると、頭上に飛び込んできた弧光の心臓めがけて拳を打ち込む。

 体躯の割に重い弧光の体が、ぬいぐるみのように天高く打ち上げられる。

 左肘を押さえるギーグと、右胸を押さえうずくまる弧光は薄気味悪いほど大声で笑い合う。
 そして、ひとしり笑い合うと今度は足を止めてひたすら殴り合う。




 10分後
 ベロニカがガンゲリオンから降りて生身で未だ殴り合う二人の元にやってきた。
 もうしらけたとばかりに傍観を決め込むイオンと、一人興奮して観戦するレオンがベロニカに気づく。

「閣下からの和解案を飲まれるという事でよろしいですか?」

「ああ、かまわないよ」

「それは幸いですわ、ギーグ様も了解して下さると良いのですが・・」

 イオンは血まみれで殴り合う二人を見て言いよどむ。

「あれだけ大層楽しそうに話しているんだ、今更Noとはいわないよ」

「え?!」

 何を言ってるの?と言う顔のイオンにレオンが「そうだよね〜」とベロニカに同意する。

 なぜレオンに分かって私に分からないのよ!!
 と、イオンは憤慨する。

 ベロニカは苦笑すると、肩をすくめて言う。

「肉体言語というものをご存じかな、もしくはパワフル語でもかまわないけど・・」

 くそ熱っ苦しい野郎共の、言語を介さないで意思疎通を可能とするアレ?と、イオンは理解するとうなだれる。


「とりあえず、勝手ながら今回の戦闘は水に流して当面お世話になる
 私はベロニカ・アイゼンベルク、咆哮の射手・・いやこちらでは「押し寄せる戦火」の方が分かりやすかったかな
 ギーグ、それとクリステル嬢共々にお世話になるよ、よろしく頼みます」


 ベロニカはタールが溶けて蒸し暑い上に、土埃がひどい戦場に咲いた花のような爽快な笑顔で握手を求める。

 貴族にも似た物腰にイオンはスカートの裾を持って頭を垂れる。
 握手には答えず態度で示すのは、メイドのたしなみであるといわんがばかりに・・・

 そんなやりとりに気づいたギーグと弧光は、いきなり大声で笑い出すと血まみれの体を震わせ「友よ!」

 と叫んで抱き合う。






 

 もうとっくに起動していたアマダスのコクピットからそれを見ていたクリステルは、嘆息していた。
 正直、どうしたものかと思っていたところだった。
 なにせ、かなり行き当たりばったりだったのでヴァリム脱出までの詳細は練れていなかったからだ。
 と、外から通信が入る。

「いい加減出てきたら?
 色々あったけど、人的被害もなかった事だし、うちの変態は大歓迎のようだし
 全部水に流すわ、アルサレアの人」

 話しかけてきたのは、復活したダンの介抱をしていたルキアだった。
 クリステルはばつが悪そうな顔をするかと思いきや、不遜な顔つきで出てくるとルキアに手を伸ばして言う。

「短い間でしょうけれど、よろしくお願いしますわ」
「ええ、こちらこそ・・」

 互いに力が入るものの二人はにこやかに握手を交わすのだった・・・










第10話に続く


 



 後書き

 もっと早く仕上がるかと思いきや、思いの外時間が取れなかった・・・(泣)

 懐かしい面々を出してきた今回は、丸ごと次回への布石です。
 まあ、勇者の家庭教師よろしくダンとルキアの専属トレーナーと、弧光の変態矯正者という立ち位置が今回の3人の役職でしょう。

 次回が何時になるか、正直自身ありませんが今後もご期待下さい。

 


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