ヴァリム内乱編
〜〜〜動乱のヴァリム〜〜〜



 第3話 黒の統率者、動く






 将官を皆殺しにした武信
 高笑いしているかと思いきや、神妙な顔で畳の上に土足で立つ男と相対していた。

「始めに言っておく、オレは字が読めん
 お陰で貴様にたどり着くのに随分と骨が折れたぞ
 ついでに、手紙の内容はまだ解読してない
 だから聞いておこう
 一体何用でオレに手紙を出したんだ、ヴァリム大将殿?」


 ド〜〜〜〜ン!!


 よもや、字の読めない人間だったとは・・・
 武信は後ろによろけながら、顎をガクガクさせながらそれでも問う。

「非礼を詫びる前に一つ聞かせてくれまいか?
 お主、どうやって任務を遂行していたんだ?」

 ・・・何を今さら?
 お手上げしながら肩をすくめ、見下ろすように男は応える。

「想像力がないのか、貴様は?
 当然、口伝えに決まっているだろう
 ターゲットの写真を見て殺す、ただそれだけ
 シンプルだろう?」


 なるほど、シンプルだ。
 武信は渋い顔で納得を示す。
 シンプルすぎて交渉の余地が全くないほど馬鹿な男なのか、それとも違うのか?
 武信は自らの生死を賭けて交渉せざる負えなくなった。


「情報の真偽を確かめようとは思ったことは?」
「また質問か、そろそろ非礼を詫びたらどうだ?」
「ふむ、興味深さに負けてしまったようだ
 申し訳ないな、よもや字の読めないものがこのご時世にいるとは思わなんだ
 許されよ」

 武信は深々と頭を下げた。

「ふん、つまらん男だな・・
 ワザと読めない様な汚い字で書いた手紙を送った詫びはどうした?」

 !!
 字が読めない割にもの凄い洞察力だ。
 武信はパチパチパチと手を叩くと感服したと、再び頭を下げた。
 武信は真偽を追究し、真実のみを見つめてきた「漢」だとは判断し安堵を覚える。


「あの手紙には、貴殿のターゲットを横取りすると書いておいたのだ
 ただし、汚い字ではなく流れるような一筆書きで美しく書いたつもりだったのだよ
 将官キラー、ラスト・エンド・スティルバートン殿」
「将官キラーを呼びつけてなお大将になる「漢」はやはり違うな・・・
 勇敢と無謀を履き違えている
 く、く、く、短い人生だったな・・・
 さようならだ」

 ラストは指をパチンと鳴らす。

 破裂した空気の剣山に串刺しにされたかのような衝撃を全身に浴びて、武信は盛大に吹き飛んだ。
 並の人間ならこの一撃で即死だったろう。
 だが、武信は衝撃に身を任せつつ、猫のように丸まると一回転して受け身を取った。

「貴殿、ホントに人間か?」


 指パッチンで人が殺せる人間がいたら、それはもはや人ではない。
 では、なにか?
 改造人間?宇宙人?超能力者?・・・
 いや、この際なんでもいい。
 重要なのは、殺されないこと、そのためにも会話を続け活路を見いださねばならない。
 PFを持ち出したり、逃げた将官は何人もいたが、このサイズでPF並みの戦闘能力を持っているかも知れない化け物相手に、全ての抵抗は無意味だと武信は理解している。
 流血した顔に厳しい表情を浮かべた武信を相手に、ラストは顔のしわを深め辛辣な笑みで仁王立ちしていたが、不意にその場の空気が変わる。

 それは、覇気と怒気のせめぎ合う戦場のそれだった。

「戦鬼だよ、腕力だけでこの世の全てをねじ伏せる戦の鬼だ」

 !!
 身を起こそうとした武信の首根っこを押さえつけ、声の主は武信を正座させた。
 それでも武信は叫ぶ、声の主に逃げろと告げるために。

「ア・・ハト!!」
「ダイダロスか、まだ生きてたのか貴様
 全く、陛下もお心が広い・・・」

 !!!
 ・・・・ダイダロス???
 陛下???
 なにを・・、いや、なるほど、確かに人外という意味では同じ穴のむじなか・・・



 武信がなにやら得心する中、二人の会話は弾む。
 それはもう、火花が散るが如く。

「ふぅ、もう次のステージに移行されたというのにどうせまた話を聞いていなかったんだろうな、ラスト」

 アハト(=ダイダロス)は、やんちゃな悪ガキに確認でも取るかのように言う。

「手紙が来たから出向いたまでよ
 だが、そこな将官よりもお前の首の方が手土産にはいい
 イッチョ死んでみろ、そんでもってオレが4強の仲間入りだ!!」

 皮のグローブが引きちぎれるほど拳を強く握るラストに対しアハトは呆れながらため息をつく。

「阿呆が、甲乙付けられないほど実力が切迫しているから4強などと呼ばれているんだ
 オレを倒せた時点で、お前が最強だ
 もっとも、腕力で負けるマジシャンにすら敵わん貴様がオレに勝てるとは夢にも思えんが・・・」

 アハトは余裕の表情を浮かべるのに対しい、ラストは青ざめるように言う。

「それは大きな誤解だ、愚者(=ダイダロスのあだ名)

 マジシャンは知性派のくせに・・・、オレよりも腕力があった
 ぶっちゃけ、詐欺だあいつは・・・
 だが、貴様はそうではなかろう!!」

 思い出しても悪夢と、でかい体を震わせたかと思うとラストは、それを振り払うかのようにアハトに襲いかかる。



 一瞬、空気が揺れた。
 武信が認識できたのは、むせかえるような生臭い鮮血の匂いを鼻にした後だった。



「なにがあった?」

 正座していた武信が片膝立ちに姿勢を変えたときには、既に決着が付いているように見えた。
 だから、武信は周囲を見渡す。
 右手には、城壁はなく血に染まったかのような夕日が覗き、目の前には胸を石突きで撃ち抜かれ串刺しにされたラストが転がっている。
 目に見える速度で何かあったとしても、武信はそれを認められないんだろうな〜と失笑しながらアハトに言う。

「その辺にしておけ、アハト
 儂が生き残ることは何より肝要だが、そやつにも死んで貰っては困るで・・」


 !!!!!!!

 武信の言葉をかき消すようにラストが雄叫びを上げ立ち上がる。
 槍を引き抜き立ち上がったラストの胸からは大量の血が流れるかと思いきや、分厚い大胸筋に力を入れ傷口を筋力で塞いで見せた。
 何という生物だ!!
 憤死していてもおかしくない傷をものともせずに立ち上がるラストに、武信は驚愕に心が振るえる。
 だが、それを表に出している場合ではない、だからこそ武信は口を開く。

「ここは引かれるがよろしいかと進言しよう
 また、用があるのなら相まみえようぞ」

 引いてくれ、武信は心の中で叫ぶ。
 何の対策も無しに、不死身の化け物の前に立つのは精神が正常でいられなくなりかねない。
 想像を絶する存在を目の当たりにして武信はの頭は思考停止に陥ろうとしていた。

 そこにまた一人、別の声が響き渡る。

「不甲斐ないなラスト、愚者相手に土を付けるとは恥を知れ」
「出て来るなり言うじゃないか白姫妃(しろきひ)

 !!

「な、白騎士だと・・」
「俺をその名で呼ぶな、愚者!!」


 フッと表れたホワイト・アルバートは腰に下げた白亜色の剣を引き抜き、切っ先をアハトの眉間に突き立てる。


「かなうと思っているのか?」

 アハトはそれを気にも掛けず肩をすくめる。
 アルバートは前髪の一房を掴みそれに応える。

「少しは去勢以上の計算ができるようになったか?
 だが、オレの見立てではこのくらいだぞ」

 ダイダロスは自分の首に手刀を当てる。
 これはお互い全力で激突した場合、残るであろう肉体の欠片の量を示している。
 なにはともあれ、全力で激突すればお互い死に絶え残るのは人の欠片のみ。
 なんと不毛な話だろう。
 ワールドの3人はそう思う。
 なんのために命を賭けるか、一人は忠誠のため、一人は愛すべき家族のため、一人は奪われた人生の復讐をせんがため、なにはともあれこんなところで無駄に命を賭ける必然がない。

 だから、ダイダロスはアハトに還って言う。

「アレを見ろ
 で、見たら帰って下さい
 ムウの努力が無駄になっちゃいますから」

 ダイダロスは穴の開いた壁の向こうを見た。
 2機のPFがそこにはあった。
 !!
 シャングリラの代替機か・・・、全く父上もあきらめが悪い。
 興が削がれたアルバートに対し武信は、もう一つのPFに見とれ声をあげている。

「あれは、伊達帝(だてみかど)

 馬鹿な、まだ完成していないはず・・
 お主かアハト」

 武信が大いに驚く中、アルバートは気がそれたとラストを促し背を向けた。

 ふと、アルバートは思い出したかのように問う。

「何が起きるかわかっているのか?」
「さあ?
 何かのレプリカを作らせたつもりはないからな、何が起きても不思議じゃない
 が、好きにするさ
 自由の対価ぐらいは理解している」
「そうか、・・行くぞラスト
 紫夢羅の大将、その命預けておく
 短い一生だ、有意義に使うがいい」

 促されたラストは頭を掻きながらつぶやく。

「何ともしっくりしない終わり方だが、潔く諦めるのもシンプルで悪くない
 じゃあな」








 

 二人があっさり去ってしまい取り残された二人

「一体何が何やら、説明を願いたいものじゃなアハト」

 武信は後ろにひっくり返りながら大きく息を吐く。

「めんどいのでパス
 ああ、例の図面にあったあなたの機体作るの大変そうだったから知り合いに作らせておいた
 本体性能などは、予想値よりか向上してると思いますよ
 あと、マント(黒の鎧到)は当面ここに落ち着く分の家賃だとでも思って下さい
 ま、ろくでもない機体だけど好きにして下さいな
 ・・・・・あと、僕は自由にしますんでそのつもりで」

 アハトは業務報告?とばかり饒舌に語るとPFの見える風穴に腰掛ける。

「ただいまの一言も言えんのか、貴様は・・
 まったく、しょうもないのぉ〜」
「別に戻ってきたかったつもりもなければ・・・
 そもそも命の恩人に礼の一つもあってしかるべきでは?」

 ああいえば、こう言いよって・・・、まったく。

 この押し問答がなんとも心地よいと感じながら武信は今回の策を開けっぴろげる。

「儂はな、将官キラーにヴァリム離反を告げる気だった
 それを告げることで、ヴァリムを裏から支配しようとしていたであろう二人からターゲット認識を外させようと思っていたのだよ
 まあ、予想以上の難敵であったのでうまく行ったかわからんがな」


 ・・・・いい線はいっているか。
 武信の考えは悪くないとアハトは思う。
 だがしかし、もはやそんな時期は過ぎている。
 武信の描く未来に興味も関心もないアハトだったが、武信がどんな反応を見せるかとショッキングな事を告げてみる。


「来るべき時の為、確かにあの二人はヴァリムを制圧しやすいように動いていたさ
 けれども、それはもう意味のないことだ
 なぜなら、それを立案し手足たるラストやアルバートを派遣していた奴が飽きちゃったからな
 もう、ヴァリムなどどうでも良くなった
 だから、お前の策はとっくに破綻していたんだよ
 ついでに言えば、お前なんか生きていても死んでいてもどうでも良かった
 視界に入って邪魔なら死んでいただろうし、そうでなければ生かされていたかも知れない
 全部奴らの手の上だったってことだ
 滑稽かい?」


 まるで神の手の上でかけずり回っているようだと思いながら、武信は思う。
 画策し、強力すぎる手駒を操るものがいる。
 神ではないにしろ、ゲームプレイヤーが存在し、有能なはずの駒がここにある事実。

「そうさのぉ〜、理解不能と答えておこう
 お主達を束ねる者は、一体何をしたいんじゃ?」

 敢えて確信にせまる武信に、アハトは嘆息しながら答える。


「あいつは過去を知りたがっていた
 そして、過去を知ったからこそ興味を無くした
 ただそれだけのこと、そしてそれはよくあることだ
 成し遂げんとしていることは、意味があることかも知れないし
 今さら蒸し返しても・・・とうこと、迷惑極まりない事をしようとしていたんだよ
 ただ、ここにはそれをする必要がなかった、ただそれだけのことだ」


 過去の清算でもしたかったのか?だとしても、変だ。
 国を乗っ取ることで清算できる過去とは一体?
 武信は少し悩んだが、思考を止める。
 答えのでないことに時間を掛けている場合ではない。
 武信は勢いを付けて起き上がると手を叩き、顔やら手足の傷の治療を始めさせる。






 治療後
 武信は血に染まった城から出て、アハトが持ってきた伊達帝の肩に立って城を見ていた。

「良くも、悪くも、思いでの詰まった城
 故に・・・か、・・・」

 幼き日々を過ごした城、侵略者に奪われ、多くの愛すべき民の血を吸い、また侵略者まで食い潰した城、思い出深いがそれ故に存在を許せぬ城だ。

「屈辱の過去は、もういらぬ!!
 立て、地帝(つちみかど)!!」


 武信の背後、それまで影すらなかった場所に突如巨大な影が立ち上がる。
 全長500mを優に超えるそれは人型の影を持ち、夕日に焼かれたその姿は萌ゆる炎のように赤や橙に輝く。


「さらばだ、過去よ」

 武信は多く語らない。
 それは、もう過ぎ去ったことだから。
 それは、ここで終わりを告げるから。
 それは、振り返らないと決めたから。

 だから、武信は右手を振り下ろす。

 その動きに連動するかのように、背後に立ち上がった地帝が右手で城を叩きつぶした。
 バキバキと、ミシミシと、PFなど金属が砕けるような高い音とは違い、低い音を立てながら圧壊した。
 飛び散る木片や、土埃を眼下にしながら武信は深く息を吐く。


「さあ、新たな時代の幕開けぞ!!」

 武信は振り返りながらそう宣言しながら右拳を振り上げる。
 武信が腕を振り上げた瞬間、地帝がぶっ潰した城の跡地にうずくまると、地帝が変形を始める。
 そして、武信の眼下に居並ぶPFがオー!!と声を張り上げる中、武信の背後に一夜城ならぬ、巨大な要塞のような城が完成した。

「ふむ、わかっていても壮観だのぉ〜
 そうは思わんか、アハト?」


 ・・・・寂しがりやか、貴様は!!
 アハトはため息をつきながら応える。

「頭がいいとは思いますが、脚のある城より飛ぶ城(オーガルディラム)の方が役に立つとは思いませんか?」


 あまりの正論に武信は苦笑しながら言う。

「つまらんことを申すな、アハト
 城とはどっしり地面に根を下ろしているからこそ美しいのだ
 宙に浮く城など、○ピュタや天空城(上から見るとショートケーキ)ではあるまいし醍醐味に欠けるというもの」


 どこまでも、時代に逆行する奴だなぁ〜
 バカだと思う半面、このこだわりはある意味見習うべきなのかも知れないとアハトは呆れる。


「さあ、呆れてないで城の中を案内するぞ」
「組織のトップが、平の面倒見ないでくださいよ〜」
「ふむ、言っておらんかったか・・・
 お主は儂直属の側近じゃ、ついでに言えば案内は言う程のことはない
 なにせ、儂の私室の隣じゃ
 襖を開ければいつでも儂の顔が見えるぞ」



 アハトはいやそうな顔をしながらPF:ニルヴァーナを城に向けて歩み始める。

「ふふ、勝った!!
 いつまでも、からかわれるばかりだと思わぬ事だ
 は〜ははは!!」

 武信はPF:伊達帝に乗り込むとアハトの後を追うように脚を踏み出したときだった。

「・!!!!」


 上機嫌に釘でも刺すかのように、武信は衝撃を受けた。
 軽く一歩踏み出したはずなのに、伊達帝は格納庫の最奥の壁に激突していた。


「なに・・・!!!」

 何が起きた?状況を確認しようと、転がった伊達帝の腕で床を押して上体を起こそうとした途端、伊達帝は錐揉みしながらニルヴァーナをはねるように突っ込んだ。


「なにしてるんですか?」

 アハトがあまりに奇行に舌を巻いて心配した。

「わ、わからん、少し動こうとしたら急に激突したり・・」


 ・・?、あ!!
 しまった、ワールドの機体設定のままだった。
 ワールドの人間はほぼ例外なく、全員神速使いだ。
 だから、機体は常時神速が基本設定である。
 逆に、惑星Jの人間は常時神速に入っていることなど出来ない。

 だから、心と体が分離して、有り余るパワーが暴走してちょっとした動きですら大惨事になるのだ。
 その上、この機体は惑星Jの金属で出来ているので神速のパワーに負けてフレームが変形してしまうのだ。
 普段のアハトなら笑い飛ばして放っておくところだが、放っておいて死なれたり、機体を破壊されては敵わないとアハトは武信に動くなと言い放つと伊達帝の再設定に入る。


「なんなんだこの機体は?
 IFS(イメージフィードバックシステム)ではないし
 パワー制御も滅茶苦茶、モニターもなければ計器もほとんどない
 乗っておいて何だが、およそPFとは思えん」
「この機体は両方とも僕用に作られた機体ですから
 だから、網膜にダイレクトに映像を映すモニターシステムや
 自身の動きをトレースするモビルトレースシステムで動くようになってます
 まあ、IFSはノイズ除去しないと行けない関係上、動きに誤差が出たり微妙な力加減が苦手ですから慣れればこちらの方が滑らかな動きが素早くできますよ
 ま、パワー制御にはかなり問題があったみたいですがね」


 そういいながらアハトは武信の頭上から制御板を引き抜くと、システムの下で動いているBIOSに当たるものを手動で操作していく。

「多少凹んだ装甲板は初陣前に交換すれば済むとして・・・
 各関節は磁力伝達だから無傷か・・・
 ま、損害は思いの外なかったですね
 後はまあ、勝手に慣れろ
 ダメなら、優秀な弟に頼んで従来のコクピットに改装して貰え」

 アハトはそう言い残すと、伊達帝を定位置に固定するとさっさと自室に案内も受けずに向かってしまった。


「滅茶苦茶な機体かと思ったが、パワー制御ができればなるほど確かに滑らかな動きだ
 ・・・パワー制御もそうだが、関節の機工そのものが現行のPFとは違うようだな
 一度朱礼に見せたほうがいいな、これは」

 武信は早く機体に慣れようと、伊達帝で一つ舞を舞ってみたがまず関節の唸るような、きしむような音がしないこと、そして重心を下げたアンバランスな姿勢ですら武信の持つバランス感覚を繁栄して微妙な力加減を繁栄させる伊達帝に、大した物だと感心しつつこれを皆に繁栄できたならもっと戦力の増強と、生還率の向上を図れると胸躍らせた。








 

 数日後
 床机の間
 武信はフォルセア・エヴァ神佐と対面していた。

「とりあえず、おめでとうと言っておこうかしら紫夢羅・武信大将殿」

 フォルセア神佐は、パイロットスーツに身を包み畳の上に土足で腕組みをして立っている。

 一つ頷くと、紋付きを着け肘掛けに体重を預けながら胡座をかいている武信は、雷電に促す。
 どっちが格上だかわからない状況と、見下されているかのような構図をなんとかせよと言うものだ。
 そこで脇に控えていた雷電・震右エ門中将が畳には不釣り合いな椅子を用意し座るよう促す。
 フォルセア神佐はめんどくさそうに、警戒しつつ腰掛けると口を開く。


「報告は受けているわ、中将になるはずが将官キラーの乱入で大将、中将がバタバタ死んで生き残った中からの選出という話だったわね
 ・・・・なんとも幸運なことだな
 紫夢羅家のものからは誰も死人がでていない、本当に不思議なほど幸運だ
 よほど日頃の行いがよいのだろうな」

「少し違うな、儂は特に特別なことなどしておらんよ
 死んだ奴らの日頃の行いが悪すぎただけだろうさ」

 限りなく黒に近い、グレー?
 いやバカでもわかるほど、武信は黒である。
 だが、決定的な証拠がない。
 叩いて埃が立つぐらいなら苦労はないが、将官キラーがやってきたこと、将官キラーが仕事をしたと言い張っている以上この場で難癖を付くのはあまり意味がない。

 だから、ジャブ代わりに嫌みを言った後本題に移る。

「なるほど、確かに正論だ
 では、大将殿改めて聞こう
 あなたは大将となって何を成す?
 あなたの話では、日頃の行いが悪いと死ぬそうだが?」


 なんと・・・、猛禽類か貴様は・・・
 余りにも襲いかかろうという感情剥き出しのフォルセア神佐の表情に武信は思わず顔を背けて言う。


「まずは各将校が好き勝手やってくれた町の治安向上、鉱山の生産ラインの安定、食糧自給率の安定、各種のシステム、輸送経路の短縮化・・」

 パチン、パチン乾いた拍手をフォルセア神佐は贈る。


「まるで政治家ね、絵に描いたかのような立派な政策ありがとう
 でも、あなたはヴァリム軍大将なのよ」

 うんざりするフォルセア神佐にペラペラと手を振り、武信はしてやったりの顔で続ける。


「無論、軍事面も考えておるよ神佐
 まずは先の大規模戦闘で失ったPFと兵の増強
 そして、兵の練度も上げねばならんな
 どうだ、使えるところでも見せてやろうか?」


 
 イチイチ歯にものが詰まった男だな、以前はバカがバカを振りまいているだけの穀潰しだったが一皮むければスジばかりで食えたものではないとフォルセア神佐は思う。
 だから、是非ともお願いするわと促す。


「ヴァリム国内の対ヴァリム軍派のテロリストを掃討してやろう
 お主がするはずだった案件だが、手をこまねいているようだしな
 まあ、全てとは行かないが実践に勝る訓練もない
 激戦を強いているアルサレアや他国と戦う肩慣らしには丁度良かろう
 なに、少し流通経路やら、情報網を緩くしてくれれば誘い込んで一網打尽にして見せよう」


 フォルセア神佐には、武信の狙いがある程度読めた。
 一つは、武信が言ったとおりにすれば確かにかなりの功績だし、自分にとっても後から湧いてくるばかりで一向に成果の上がらない案件にある程度の成果が出るので美味しい話だ。

 だが、もう一方では武信が対ヴァリム軍派のテロリストを吸収して力を付け、ヴァリムの敵になる手助けをしてしまう可能性も捨てきれない。

 正直、現状では半々か、後者の方が有力だ。
 むろん、常に最悪のことを考えるフォルセア神佐としては後者の場合の手は既にうってあるのだが、疑問に思うこともある。

 後者であった場合、どれ程の意味があるのか?と言うことだ。
 テロリストが最新のPFや装備を持っているとは考えにくいし、パイロットにしても正規の訓練を受けていないのだ。
 何もかも使い物にならない足枷を取り込むことにどれ程の意味があるのか?と言う疑問が残る。

 たしかに、武信が統治している土地には豊富な鉄鋼、食料を生み出す肥沃な大地があり、植民地化していたことでそれを円滑に回す人員が不足しているのは事実だ。
 が、やはり素人には何をやらせても効率が悪い。
 だからこそ、フォルセア神佐には武信の考えが読めなかった。

 一体何を考えているのだろう?
 騙し合いは得意分野だが、相手が何を狙っているのかがわからなければそもそも騙し合いにならない。
 かといって、武信の申し出を蹴ると言うのも面白くない。
 なにが?と問われれば強いて言えばプライドである。

 不毛な話のように聞こえるかも知れないが、相手を手玉にとって良いようにこき使って切り捨てることに長けたフォルセア神佐に取ってはぞんざい大切なことである。
 それは、彼女を定義する上でのアイデンディティーなのだから。

 だから、フォルセア神佐は敢えて武信の策にはまる道を選んだ。
 どんな騙し合いにも必ず勝利してみせるという彼女のプライドを護る為にだ。

 そして、フォルセア神佐は武信が危険な存在であると認識している。
 だからこそ、一刻も早く叩きつぶせる大義名分が欲しいのだ。
 いくら神佐といえど、広範囲の領土を統治し、軍団を率いているものを潰すには大義名分がいる。

 暗殺と謀略を駆使してそれを成すことも出来なくはないが、それは内部に不信や損するものがいる場合である。
 自分に背くもの全てを問答無用で全て皆殺しにして見せた武信の周りに裏切り者を作るのは至難の業だし、時間を掛ければそれを逆手に取られかねない。

 だからこそ、裏切らせて力押しで叩きつぶすと言うシンプルな戦略を選択することにする。

「いいでしょう、お手並み拝見と行きましょう
 でも、私を失望させない事ね
 階級では超えられないことを私は出来る人間だと言うことを忘れない方がいいわ」


 武信は苦笑する。

「知って、いや覚えているかね?
 将官キラーが抹殺した将官よりも、君が処分した将官の数の方が多いことを?
 瞬間湯沸かし器のように一瞬で沸騰して、根こそぎ失脚、不慮の事故(もとい暗殺)

 その一人になる程、無知でも愚かでもないつもりだよ
 そもそも、君を敵に回すとして儂に利がないではないか、ん?
 何のために偉くなったのかのぉ〜、儂は」

 そう、そこがわからない。
 自分の領土であったものを取り返したぐらいで満足するような「漢」でないことは、考えるまでもなくわかる。
 だからこそ、このタイミングで堂々と裏切ろうとする仕草を見せることの意義がわからない。
 そう思いながらもフォルセア神佐は敢えてそれを追求せずに、その場を後にする。






 フォルセア神佐が退場した後

「ふう、馬鹿な騙し合いだ
 だが、あの出来損ないやはりなにもわかっておらんようだ」


 武信は膝をぺしぺし叩いて大爆笑する。


所詮はフォルセア・エヴァ・・
 なり損ないのリサイクルと言ったものでしょう
 本来備わっているべき基本性能すら欠如した出来損ないなどには、到底儂たちの思惑などわかりはしまいて

 そういう意味では、哀れで仕方ないですな」


 雷電の言葉に武信はウンウンと首を振る。

「仁を知らぬものに、人をまとめることは敵わぬ
 そんなことすらわからぬとは、本当に哀れだ
 いつまで同じ過ちを繰り返せばそれに気づくのだろうな
 それともガルスキーは、気づいているのかな?」


「押して計ることも無し、あれは妄執の権化故に・・・
 せめて、麒麟児様のような方が身近にあって薫陶を授けてくだされば違ったかも知れませぬな」



「違いない・・・
 そういえば、彼の御仁はフォルセア・エヴァにこだわっていたが・・
 それが違うと言うことに気づいたかな?

 
今度顔をつきあわせることがあれば、茶でもすすりながら語ってやるかの・・・」


 武信は遠い方を見ながら深く息を吐くと雷電に向き直り改めて言う。

「詔(みことのり)じゃ雷電
 真の家臣とは生きて責務をまっとうすることと知れ!!
 良いな」
「御意!!」

 武信は強く頷くと、皆にそれを伝えてまいれと言い放つ。

 雷電は颯爽と部屋を後にし、武信は誰もいない部屋で大の字に寝ころぶ。

「皆の悲願、必ず儂が叶えまする」

 武信は目頭から涙が流れるのを感じながらも、勢いをつけて立ち上がる。
 さあ、忙しくなる!!と頬を張るとその場を後にした。



 静まりかえった部屋、上座の正面の鴨居には王将の駒が鎮座していた。
 一部始終、親が子を見守るように、玉が王になれるかどうか見定めるかのように鎮座していた。〜と剣呑に言い放ち血なまぐさい、ただ空しさのの残る復讐劇の舞台を降りた。








第4話に続く




 



 あとがき
 忙しさにかまけ、気づいてみれば4ヶ月ぶりの更新・・・
 実は4/5を出来ていたのだが、投稿にたる行数が稼げずに何か来すか悩んでただけだったりします。<バカで〜す(笑)


 さて、今後の話と今回の問題?
  地帝:飛ばないではなく、正真正銘飛べない城に変形するオーガルディラムを出してみました。
  ぶっちゃけ、存在自体に疑問を覚える方も多いでしょうがアハトの一頃を覚えておいてください。頭はいいと思いますが〜〜って所だけで結構(笑)


 そして本題
  武信の事実上宣戦布告となる幕開け
 ぐちゃぐちゃの軍事政権に異議を唱え、プチ脅威となるのは自国内のテロ集団でしょう。
 全く戦力にならない一般人よりも、植民地化され束縛だけを受けたゲリラ集団の方が、情報戦で政治的にも戦局に介入できる敵対国よりも恐ろしいと思い、今回自国内の火種に使わせていただきました。
  彼らを引き入れるメリットに疑問を持たれるでしょうが、それは今後をお楽しみに・・・

 最後にフォルセア・エヴァ
  このストーリーの本官であり、それに続くすべての争いの元凶です。
 そういえば、彼の御仁はフォルセア・エヴァにこだわっていたが・・
 それが違うと言うことに気づいたかな?
 もう、ケイオウはそれに気づきましたが、一体何の事だと思いますか?
 そして、武信や雷電がそのことについてなぜ知っているのか?は次回以降、ガルスキー財団の話当たりで綴っていこうかと思います。


 色々問題を背負い込んだりしているので、なかなか書き進められませんがお楽しみにされる方大歓迎です(爆)

 この頃、どのくらい読者がいるのか気になる自分がいたり・・・


 


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