第1話 崩壊の序
小型のPF輸送シャトルの中
「機嫌良さそうだねクラウディア」
クラウディアは昨日紫夢羅・武信との交渉を終え、ロシュタット家とサーカム家にPF2000機の代金を貰いに行くというイヤ〜なお使いを頼まれた割に、鼻歌交じりに文字通り爪を研いでいた。
そんな仕草がセーラにはまさに、これから獲物を狩りに行くそんな仕草に見える。
「そうね〜、楽しみよ
私の腕一つで・・・、また大きな戦争を起こせるのだから」
クラウディアはうっとりとした微笑を讃えている。
「最高にうまくいって紫夢羅軍が抱えるPFは4000弱
まあ、兵の質を考えなければ超戦力だね・・・
でも、何か事を起こすには心許ないわね
それに、維持コストだってバカにならないし短期決戦をするとして一体何を考えてるんだろう?」
武信とのやり取りを聞いたセーラは、武信が何か画策していることはわかるが、戦争を引き起こすには弱いと思った。
「4000弱、それは少なく見込んだ値だわ
もっと、色々隠してるわよあれは・・・
それにね、オーガルディラムクラスの図面寄こしたり、急激な軍事増強は誰の目にも耳にも届くもの
今までバカを演じていたものが豹変すれば、神佐も動くし、偉くなれば将官キラーも来ちゃう
それがわからない類のものではなかったわ
だから、大なり小なり戦争が起きる可能性は高いわ
後は、その規模をどれだけ拡大させられるかが腕の見せ所ね」
クラウディアはそういいながら、ロシュタット家とサーカム家の現状レポートを目に通す。
「先にサーカム家に行った方がいいわね
ヴァリムのお荷物には、この期に没落と言わず消滅していただこうかしら」
クラウディアは主要人物の写真にデコピンをしながら告げる。
「おやおや〜、久しぶりにトドメ刺しちゃうのかしら?」
骨の髄までしゃぶって捨てる。
価値のないものに対するクラウディアの営業方針は徹底している。
そして、しゃぶり尽くすとき決まってターゲットにデコピンするのが常であった。
「そんな所ね、軍が腐ってるのはいいのだけど
たまには雑草を刈らないと私達にまで汚れがつくもの」
ガルスキー財団にまでいらない汚職や不正が蔓延するようになるほどの汚れは見過ごせないわよねと、クラウディアは困った顔をする。
「それは困っちゃうわね
いいわ、私からその辺は手を回しておくとしましょう
2〜3人使えそうなのに心当たりがあるから」
どこにでもいるんだよね〜っとばかりセーラが応えると、ホント困っちゃうとばかりクラウディアが肩をすくめる。
二人はクスクス笑いながら話を続ける。
「とりあえず、護衛はサーカム家まででいいわ
ロシュタット家はなかなか商売のしがいがありそうだから腕が鳴るわ」
クラウディアは異質な家族構成や、事業展開を見ながらサーカム家に足を運んでいる内にロシュタット家の再調査をしなければ行けないと、ガルスキー財団の調査部:スィランスに連絡を入れる。
スィランスは素早く確かな情報を厳選して届けるだけでなく、得た情報を秘匿化し、円滑に商売を進められるようにできるところが特徴であった。
ただし、そこにオーダーを出せるようになるには随分と時間と労力、コネが掛かった。
お金で解決できない数少ない部署、というのも信頼できるところなのかも知れないとクラウディアは苦労を思い出しながら苦笑する。
翌日・サーカム家
「うご、あ、あぅ、あぁぁぁ〜」
女は悲鳴にも似たあえぎ声を上げて、イスから転げ落ちる。
「つまんね〜メスだな、もっといい声で啼けよ」
ラルトバルト・サーカムは、自分の腰の上で暴れていた女性を侮蔑すると唾を吐いた。
「はっはは、お前は女よりこっちの方が良さそうだな」
ヴァリス・ルクスはそういうと酒とお菓子を差し出した。
「ふん、退屈だ!!」
ラルトバルトはグビグビと酒を煽ると、酒瓶を投げ捨て当たり散らす。
「そんなにつまらなけりゃ、兄貴も一口やりゃいいのに、ひゃはぁ!!」
ノザード・サーカムはそういうと、虚ろな瞳にお菓子を写しバリバリとそれを貪る。
次の瞬間、糸の切れた操り人形の様に硬い床に転がると、声にならない意味不明の嗚咽を漏らしながらモゾモゾとのたうつ。
「ノザード、あまりやり過ぎると死んじまうぞ」
ヴァリスは、心配する風でもなく必死に腰を振りながら笑う。
「ごぉっっがぁぁ〜〜〜!!!!」
獅子に似た姿に対し、その巨躯は1トンを超える農耕馬なみの猛獣が吼えた。
その背に乗るクラルリッヒ・サーカムは、猛獣の頭を撫でながらラルトバルトの上で喘いでいた女を見下ろす。
「なあ、もう喰っちゃってもいいだろうラル兄、ヴァリス」
クラルリッヒは、生肉をくちゃくちゃさせながら興奮に目を血走らせる。
「好きにしろ、いや部屋が汚れるから庭でしろ
垂れ流された糞尿で絨毯からウジが湧くのは鬱陶しくて叶わねえ!!」
ラルトバルトは胸に仕込んであったナイフで足下に転がった女性の右腕を差す。
「きゃぁ〜〜〜〜!!!!!!!!」
絶叫!!
血飛沫を上げる腕を押さえながら自分を刺した男を見る女に、ラルトバルトは一瞥・・・
「なんだ、まだいたのか?
早く逃げないと喰い殺されるぞ、サリーちゃんに」
思考回路の停止した女の耳にも、生臭い吐息と恐怖が肉薄するのが理解できた。
瞬間!!
ナイフを引き抜かれ血飛沫を上げる腕の感覚が無くなり、女の体は宙に浮かぶ。
次ぎの瞬間・・・・、数秒前まで女だったものは部屋の入り口の柱に頭をぶつけただの肉の塊になった。
脱力した死体からは、大量の血や脳症、糞尿までが垂れ流しになる。
「馬鹿野郎!!何聞いてやがる!!」
ラルトバルトは全く容赦せずにクラルリッヒに向かってナイフを投げる。
ベシッ!!
ナイフはサリーちゃんと呼ばれた巨躯の猛獣の尻尾にあえなく撃ち落とされる。
「わり〜、でもよくあることだから勘弁しろよ
それに、いい感じに絨毯に血が染みこんでるだろう、なぁ〜」
全く反省の色を魅せないクラルリッヒの返答に、ラルトバルトが再びナイフを抜いたその時だった。
死体となった女を貪るサリーちゃんの頭を押しのけるように扉が勢いよく開いた。
紫煙のむせこむような異臭漂うその部屋に、光と清涼な空気が流れ込む。
もっとも、それは中にいたものにする例えであり、外から来たものにすれば・・・
よくて酒池肉林、悪く言えば悪意と、腐敗と、異臭と、麻薬煙の漂う地獄の入り口を垣間見るような錯覚に苛まれる。
サーカム家・大広間
景気よく入ってきたクラウディアは、思わず口にハンカチを当てる。
本当は、ガスマスクをして火炎放射器で全てを灰燼に帰したかったのを思いとどめながら。
そして、人の血を吸ってブヨブヨになった鉄錆色の絨毯を闊歩すると、上半身裸のサーカム家当主ラルトバルト・サーカムに薄い笑みと共に頭を下げる。
「初めましてラルトバルト准将閣下、私はガルスキー財団兵器販売部のクラウディア・バリシュードラと申します」
ッタン!!
クラウディアが右足を引いた瞬間に、さっき抜いて投げ損なったナイフがそこに刺さった。
「呼んだ憶えもなけりゃ、オレ様に用があるともおもえねぇ〜な、このメスブタ〜」
けっけっけ、と笑いながらラルトバルトがクラウディアの顎の下にナイフをあてがい顔を上げさせる。
ああ、いっそこの場で皆殺しにしてしまいたい!!
クラウディアは顔を上げさせられながら、下半身丸出しのヴァリスにスカートをたくし上げられていた。
それでも平静を予想おいながらクラウディア告げる。
「ルキア・サーカムさんが、私とお取引のある紫夢羅少将のところで一悶着あり、少将に多大な不利益をもたらしましたの
そこで、その賠償にキジョ1000機を要求しておられます
ご理解い・・」
そこまで言ってクラウディアは顔を傾け微笑む。
そのタイミングでラルトバルトが吐いたつばはかわされ、真後ろにいたヴァリスの顔に直撃した。
「うぉ、きたねえ!!」
「うっせ、だまれヴァリス
迷惑を掛けたのはルキアだ、煮るなり焼くなり廻すなり好きにしろ
サーカム家は関係ない!!以上だ」
ガキの理論だわね、少将に迷惑掛けておいてこの程度のいい訳が通るわけ無いことぐらい気づきなさいよ。
クラウディアは無駄と思いながら説得しようとしたときだった。
顔に付いた唾をクラウディアのポニーテールになすりつけながらヴァリスが問う。
「ルキアってだれだ?
まさか、妹なんかいんのかよ」
「ああ、親父に似てできた軍人だよ
ただ、影の薄いところまで似ちまったんでうだつが上がらない、くそ生意気な女だ」
忌々しそうにそう言うラルトバルトに対し、ヴァリスは醜悪な顔を強調させながらクラウディアのポニーテールを引っ張り耳元に囁く。
「いらないんだったら俺が買ってもいいよな、そのルキアちゃん」
「好きにしろ、物好きな奴だ」
「よ〜し、話は決まった
おい女、キジョ1000機だな支払いはオレがしてやる
ルキアちゃんを無事生きてここに連れてこい、それがサインの条件だ
できるな?」
その声に、クラウディアはとろけそうな笑顔を讃えながらヴァリスが掴む手を払いのけ、居住まいを正すと契約書にを突きつけながら言う。
「簡単ですわ、サインさえ頂ければ明日にでもお届けに伺いましてよ」
話がわかるじゃねぇかとばかり、ヴァリスは一気に契約書にサインする。
全くもって契約内容に目を通さず、キジョ2000機購入の契約書にサインしてしまった。
そして、サイン終了後踵を返そうとしたクラウディアにヴァリスはお菓子を勧める。
「よい商売ができたんだ、酒の乾杯と行きたいがまあ喰っていけ
珍しい菓子だぞ」
そりゃ〜、麻薬の詰まったお菓子なんてそうそうお目に掛かれないわよ。
クラウディアは一つ取って口に入れると、俯く動作で胸の谷間に吐き捨てながらハンドバックから小瓶を出す。
「まあまあのお味ですわね、こういうのがお好きでしたらこちらをお勧めいたしますわ」
麻薬に酔わないクラウディアをいぶかしながらヴァリスは小瓶の中身を煽る。
その途端にヴァリスは先ほどから転がっているノザードよろしく、床に転がってしまった。
「気に入られたようで何よりですわ
後ほど、1ケース程サービスさせていただきますわ」
クラウディアは頭を下げるとその場を去るとする。
「クラルリッヒ!!
その女も餌にしていいぞ!!」
自分を無視しして話が進む現状に業を煮やしたのか、サリーちゃんをけしかけさせる。
始めからそう出ていただけれ、我慢もしませんでしたのに!!
クラウディアは今さらと思いながら、サリーちゃんの大口に麻薬の小瓶を投げ込むと同時、一気に大広間を駆け抜ける。
後ろからは汚い罵声が飛び交うが、追っては来なかった。
・・・ホント、どうしようもないわね貴族軍人って奴は。
自分ではなにもせずとも、ただ貴族に生まれたと言うだけで上級軍人になれるだけに際限なく腐っていった底辺を見たクラウディアは、武信を使ういい時期なのかも知れないと思い微笑する。
その後、セーラの待つシャトルにて
「クラウディア〜〜、なんか臭い!!」
セーラは鼻を摘み、手をパタパタしながら涙目でいう。
「わかってるわよ!!
ああ、もう!!
ほんっと、やってられないわよ!!」
クラウディアは機内備え付けのナイフを抜くと、服を切り裂き裸になるとそれ燃やしといてといいながらシャワー室に駆け込む。
ザンザンとシャワー室で大いに水をかぶるクラウディアの様子を見て、セーラは洋服の破片をホントに燃やしながらご愁傷様と手を合わせる。
30分後
「ふ〜、いいお湯だった」
クラウディアは薔薇の匂いをさせながらトテトテとやってくるとセーラのアイスミルクティーを一気に飲み見干す。
「ああ、しあわせ〜〜〜」
「うわ〜、傍若無人ここに極まりだね」
「いわないでよ、もう最低の取引だったんだから
・・・ああもう、思い出しても腹が立つ!!」
クラウディアは指をワキワキさせながら眉をひそめる。
「思い出しちゃったんなら聞くんだけど、なんで2000機定価でお買い上げなの?」
盗聴中では1000機の契約だったはずなのに?
「ああ、頭に来たんで書き損じの契約書にサインさせてやったわ
ホラ、合計で2000機だったじゃない」
クラウディアはさも面白そうに、満面の笑みを浮かべながら目だけは笑っていなかった。
破綻させてやろうと画策してたときに書いた契約書だったのね。
ま、契約した方も大した輸送機メーカーだったみたいだけど、これで倒産かよくて吸収合併ってところかしら?
なんにせよ終わってみればいい商談ね。
セーラは思わず噴き出し、更に問う。
「で、納入はどうするの?」
「ロシュタット家の出方次第だけど、2000機は確保できたことだし
いよいよヴァリムには潰れて貰おうかと、その為の余剰戦力にしておこうと思ってるわ」
・・・・
「そっか、そうだね頃合いかも
アルサレア戦役以降、内戦やら、宗教戦争とかも起き始めてるし・・・
だと、紫夢羅家はいい口火になるね
ふむふむ、簡単に燃え尽きないように私も少し動かなきゃね」
「そうね、お願いするわ
でも、先走りはダメ
神佐の目にとまったら株が下がるわ、まずはギルゲフ閣下に進言するのが先
それと同時に事を起こしましょう」
「ん、了解!!
さ〜って、私もお仕事しましょうかね
他には何かある?」
セーラは伸びをすると、ヴァリム軍に働きかけようと出て行く仕草を取る。
「今は特に、ややこしい状況にしたくないから目立たないでね」
「ほいほ〜い」
わかってるって、そういいながらセーラは物音一つたてずに出て行った。
「さて、ロシュタット家と交渉が終わり次第・・・・
ヴァリムを潰す物語を書かないと、ふふ作家の気分ってこんな感じかしら?」
クラウディアは自分の思い描くとおりに世界が壊れ復興していく様を想像し、胸が弾む感触をそう比喩した。
実際は誰にもわからないが、一度動き出せば後戻りは叶わず、結果がどうあれ多くの人が死ぬ。
クラウディアは、その全てを承知しながらヴァリム崩壊の手順を箇条書きにしていった。
腐敗した政治、汚職まみれの軍統括部、商売のパワーバランスが崩壊した企業、本来成立しない社会を無理矢理立たせているのは、圧倒的な軍事力と、略奪した富、そしてどこまでも被害に遭う征服された者達がいるからである。
だが、これは勝っているからこそ成り立つのであり、勝てなかったり、負け始めるとすぐさま復旧しがたいほどもろい。
紫夢羅家が今動くのは、このパワーバランスが限界に来ていると悟ったから。
革命を起こしても、それを阻止したり、力押しで封じ込める力がないと悟ったから。
だからこそ、クラウディアも動くのである。
ヴァリムが傾くなり、崩壊するなりすれば、腐った寄生虫はことごとく排除され、新たなる変革に耐えうる者達が新しい時代、富、技術を生む。
「戦争によってしか、人類は発展できない」これが心理かどうかは別にしても、劇的な戦争が人を発展させることは間違いない。
クラウディアも、大いにギルゲフの意見に賛同するモノである。
だからこそクラウディアは戦争を起こし例えヴァリムを犠牲にしても人類発展を優先する計画書を作るのだった。
翌日の昼過ぎロシュタット家
クラウディアがロシュタット家に着くと、すぐさま使用人に案内されて応接間に通された。
昨日とは打って変わって素敵な対応である。
甘い香りが、廊下の両端に作られた温泉の流れる川からこぼれ、清涼感と共に室温・湿気管理をこなしているところなど、貴族らしい贅沢さや優美さを感じるのだった。
そこで紅茶を片手に調度品に目を配らせているうちに一人の女性がやってきた。
「お待たせしました、父は戦地、母は事業先にいて不在ですので私、アルティリス・ロシュタットが相手を務めさせていただきますね」
アルティリスはそういいながら、クラウディアの正面居座ると握手した。
日焼けした肌に、燃えるような瞳と金髪はアルティリスを印象づけるのに申し分なかったが、それでも足りないとばかりに胸元からおへそにかけて大胆すぎるほどの切れ込みの入ったドレスは、その豊満な胸に相手をさぞ釘付けにすることだろう。
もっとも、それはあくまで男性相手の話であり、胸の大きさにも自信のあるクラウディアには僅かな嫉妬を抱かせた。
ただ、何とも爽快な笑顔と柔らかい対応にその程度の感情は全て拭き飛ばされてしまっていた。
「ダン・ロシュタット様のご家族の方であれば、本日はどなたでも構いませんわ」
「まあ、今日はダンちゃんの関係でいらしたの?
ふふ、お父様にPFの購入を依頼されてきたらどうしようかと思ってしまいましたわ」
綿飴でも溶かしたようなふわふわな面に、コロコロよく笑う前評判だけなら、9割の人間がこれで落ちるとクラウディアは心の中で失笑した。
「はい、左様でございます
もっとも、私どもはガルスキー財団の者ですのでやはりPFをご購入という話になしますが・・・」
クラウディアはそう前置きした後、ダンが軍監を名乗り、紫夢羅軍に被害を出したこと、本人は自覚していないが捕虜になっていること、その賠償にラセツ1000機を紫夢羅・武信が要求していることを告げた。
「まあまあ〜、ダンちゃんてばヤンチャさんなんだから〜〜」
おいたはめ〜よ!!と、事態が飲み込めていないかのようにアルティリスはコロコロ笑いながら、赤い瞳に火を灯す。
「PFは軍と、ロシュタット家で負担いたしますが500機が揃えられる限度ですわ
人員については私兵、傭兵合わせて500人を近日中に用意いたしましょう
契約は以上で間違いございませんか?」
表情に一辺の曇りはない。
だが、雰囲気だけがガラリと変わったアルティリス。
しかし、それは商売人のそれとも、獲物を狩る捕食者のそれとも違っていた。
そこに映ったモノは・・・
愛する家族に向けられた無償の愛
もっと言えば、母性愛とも言うべき心配と不安だった。
まるで、幼稚園児の息子が誘拐された母親のような雰囲気を醸し出していた。
とてつもない衝撃、まさにその一言に尽きるほど予想外の反応にクラウディアは息を呑む。
そして、一拍おいたのちクラウディアは応える。
「はい、結構です
では、こちらにサインをお願いします」
アルティリスは書類に目を通し告げる。
「これでダンちゃんは無事に帰ってこれるのかしら?
それとも・・・」
やりにくいな〜、今にも泣き出しそうなその表情にクラウディアが先に折れた。
本当なら1000機出すならと、押すのが商売、弱みにつけ込んでこそ商売かと思ったが、ここは敢えて引き得意先を増やすのもいいと判断した。
完全に没落して腐ってしまったサーカム家と違い、裏で後を引いているモノがいるとはいえロシュタット家の当主であるダンの実父ヴォーンバルト・ロシュタットは、軍の少将にして「冠翼の道標(しるべ)」などと大仰な二つ名まであるぐらいだ。
ヴァリム崩壊の時には、是非とも大量のPFを購入させ軍の財政を一気に悪化させて貰う呼び水になって貰わなくては、とクラウディアは思っていた。
だから、告げる。
「紫夢羅の少将は、なかなかできた策略家のように見受けられました
ご自分の提示した条件を飲むのであれば、無傷で、何事もなかったの如くダンさんをお返しされるはずですわ」
ぱわぁ〜〜〜
効果音でも聞こえてきそうなほど破顔したアルティリスは一気にサインすると、なぜか今頃になって真面目な顔で質問してくる。
「ところで、紫夢羅の少将様は随分兵力増強を行うようですけど・・・
一体何と・・・、いえどこと戦争をするつもりなのかしら?」
これでもかと言うぐらいストレートにアルティリスは核心を突く。
だが、クラウディアは動じない、まったく。
それこそ、こういうアルティリスを予想してきていたのだから。
「さあ、もし事を構えるのであればアルサレアが打倒ではないでしょうか?
特尉に飲まされた苦湯のリベンジとか・・・
もっとも、特尉との戦闘でかなり兵もPFも失いましたのでその補強が目当てだと思っておりましたわ、私は」
タヌキを決め込むクラウディアにアルティリスは破顔して人差し指を立てる。
「先ほどの契約を破棄し、PF1000機を4割引で購入いたしましょう
今後のお取引のことも考えてご返答いただけると嬉しいですわ」
アルティリスは指をクロスし、指越しにクラウディアの一挙手一投足を観察する。
PFは定価のうち5割は原価で、1割は宣伝費、4割が接待費、とみれば大雑把だが相違ない。
4割引で売っても儲けは出る。
が、定価で売りさばく方が利益率は遙かにいい。
せめて2割引ならいい客だが、4割では足元を見られるにも程がある。
では、ここまで強く出られる理由はなんだ?
色々思い浮かぶが、どれも決めてにかけた。
だからクラウディアは応えず、微笑む。
この笑顔も、相手が相手なら一撃必殺のとろけるようなあま〜い笑顔だった。
「父からレジスタンスが活性化していると聞き及んでおりますわ
ですから、我が家と母の経営するリゾート地に護衛用のPF500機を置きたいのです
あなたほどの人なら、こちらの台所事情もご存じでしょう?」
父はヴァリム将校、母はヴァリムでも有名なリゾートセレブ、一体どんな台所事情なのかしら?
それこそ、金は掃いて捨てるほどあるし、PF500機ぐらいガード会社に頼めばパイロット付きでも1/100以下の料金で用意出来る。
それこそ、商売人をバカにしていると言い返したくなるほどだ。
だからPF500機というのは、ストレートに自分の武力増強が目当てであり、異例な程大量にPFを買うのだからまけろと買いたたいているの他ならないとクラウディアは思った。
だから、それを踏まえてクラウディアは微笑む。
「自衛にしては配備するPFの数が多すぎはしませんか?
それもラセツ500機と言えば維持するだけでもかなりの額ですわ
500機を定価で、100機をプレゼントで如何でしょう?」
100機でも多すぎますわ、といわんがばかりにクラウディアは告げる。
と、そこからアルティリスとクラウディアの笑顔による無言の交渉が始まる。
沈黙開始より5分後
がちゃ
「姉様ぁ〜・・・、ぁ!」
沈黙を破ったのは次女のシャトナ・ロシュタットだった。
アルティリス、シャトナはダンの腹違いの兄弟、もっと言えば母ヴィトリルの連れ子なので、一目見て同じ兄弟に見えない。
そして、似ていないのは外見のみならず行動もだった。
クラウディアを見つけたシャトナは、入ってくるなりスケッチブックで顔を隠し、大きいソファーの後ろに隠れつつアルティリスの袖を引っ張り何かしらしゃべり出した。
「ごめんなさいね、この子は人見知りが激しい上に、寂しがりやなの
さあ、シャトナご挨拶は?」
アルティリスに促されるシャトナだが、ソファーの下でこちらに背を向け挨拶する気配も見せない。
クラウディアはヤレヤレと先に自己紹介をしたが、反応は何一つ返ってこなかった。
「シャ〜ト〜ナ、ダメでしょうご挨拶は?」
まさに子供をあやすかのようにアルティリスは言うが、シャトナはスケッチブックのページを破いてそのページの裏に名前を書いて姉に手渡すので精一杯と瞳が多くを語っていた。
アルティリスはシャトナの髪を手櫛ですくと、それをクラウディアに渡す。
クラウディアも苦笑しながら、それを見て眉をひそめる。
私が乗ってきた高速シャトルのイラスト?
ただ、細部や翼の形状が違っているほか、もの凄く字が汚いので3割ぐらいしか解読できないが、シャトルそのものの構造改良点が書き込んであった。
クラウディアもPFのみならず輸送機やその他、人が動かすモノ全般の知識は持っているつもりだったが、この書き込みが果たして役に立つ改良なのか、それともただのデコレーションなのか判別が付かなかった。
それ程、このスケッチは独創性に長けていた。
クラウディアが難しい顔をしながら眺めるそれにアルティリスは言う。
「シャトナは建築や設計に優れていますの
先の私の条件を飲んでいただけるのでしたらもう2〜3枚、シャトナが書いたスケッチをお分けしてもかまいませんわよ
ただし、構造に疎いPFの図面ではなく、航空機や自動車、輸送車、電車など限定になりますが」
美味しいかどうかわからない餌をつり下げられクラウディアは困惑する。
せめてこれ一つでも使い物になるか確かめられればというクラウディアの様子を見て、アルティリスは提案する。
「長く話し込んでしまいましたわね
なんにせよ、PF500機の購入は確定、私は兵士集めの手配をしてきますのでその旨、紫夢羅の少将様にお伝え下さい」
そういうと、アルティリスはシャトナを連れて退出してしまう。
珍しく振り回されてるわね・・・
クラウディアは嘆息しながらガルスキー財団の技術部にスケッチの内容の真偽を確認する。
一方、武信に取引はうまく行きPF1500機、兵士500人が近日中に届く旨を伝えた。
それから30分後
ガルスキー財団からスケッチの内容は全て確認できたわけではないが、空力の安定性向上と、燃費の向上、最大加速時間の持続ができることが判明したと連絡があった。
むろん、これはあくまで理論上であったが、現実にもそれができねばこんな回答は帰ってこない。
つまり十分に交渉材料となるモノだった。
その後、クラウディアはアルティリスと、ただの一度も目を合わせないシャトナと夕食を共にし、PF1000機を3割5分で販売、スケッチ10枚を手見上げにその日会食を円満に仕上げた。
シャトル内部
「おつかれ〜、随分手こずったね〜」
セーラは破顔して疲れを見せるクラウディアをねぎらう。
「まあね、なかなかない類の交渉だったから少し疲れたわ
でも、充分元は取れるでしょう
あなたこそ首尾は?」
スケッチを見ながら微笑するクラウディアは、セーラの複雑な表情を見て思わず問う。
「フォルセア神佐が動いてるみたい、それは確認待ち
あと、神佐の息が掛かってるかどうかわからないけど・・
東方方面軍で少将になったデーモン弧光(ここう)閣下が数日中にこっちに戻ってくるって
で、その人がサーカム家とロシュタット家に興味を持っているみたいだったから情報を流しといたわ
たぶん、サーカム家はこれでおしまいでしょう
東方戦線は、勝ってはいるけど激戦続きで軍隊の本当の形を維持している半面、腐敗した高官に現場の怒りをぶつけたくて仕方がないはずだからね
しかし、大隊連れての帰還らしいけどおかしいのよね〜」
セーラは思考を隠さず口にする。
だから、クラウディアはなぜ?と問う。
「デーモン弧光閣下は、新しい物好きで部隊のPFにも最新兵器、もといテストウェポンやプロトタイプPFなんかが配備されてるんだけど
パイロットの質がいいのか、実用されなかった兵器にしろ、それを使ったパイロットの死亡数がほとんどいないの
だからね〜、一体何しに来たんだろうって思うのよ
サーカム家みたいに腐った奴らは鬱憤晴らしって感じだろうけど、ロシュタット家は昔はともかくこの頃はかなりまともだし、恨みじゃないよね
だとしたら、神佐の企てかな?
よもや、新兵器取りに来たって話にしてはむしろ大所帯過ぎるし・・・
ああ〜、わかんないわね」
大部隊で帰還な以上、相手が大勢力なのか、もしくは・・・
反ヴァリムのレジンスタンスを一掃するためにやって来たのかも知れない。
アルティリスの話では、将校の関係先にテロなりなんなりやってそうな口ぶりだったし。
しかし、どれも確証がない。
クラウディアは、再びガルスキー財団の調査部:スィランスに詳細を調べるように指示する。
クラウディアはその旨を伝えると、泥のように眠ってしまった。
「おつかれさま〜」
セーラは毛布を掛けてやると、報道されていないテロについての場所と、規模、声明などを調べ始めた。
そして、妙なことに気づく。
テロは頻発しているが、同じ組織からの複数のテロはほとんど行われていなかった。
それどころか、場所はランダムに等しく、手口に一貫性がないことから、同一組織が名を変えたのではなく、どのテロも一発屋でその後忽然とその存在が消滅しているようだった。
ちなみに、不手際極まりないことに相当チンケなグループを除き検挙・壊滅したという報告は上がってきていない。
なに、これ?
不可解、途方もなく怪しいが、それ以上どうにも踏み込めないといった様子だった。
「どうやら私達だけじゃなく、他にも何か大きな事を画策してる人がいるみたいね」
相手にもよるけど、歴史が大きく動くわねこれは・・・
今は嵐の前の静けさ・・・、今のうちに備えとかないと私達も危ういかも知れないわね。
セーラは息を呑むと、ブラックマーケットに連絡を取るのだった。
第2話に続く
後書き
新章始まりました〜〜〜
この章は、IFと言ってわかるかどうか定かではありませんが、その序盤編という内容になっております。
なお、メインは紫夢羅軍VS泥門・弧光(デーモン弧光閣下)軍という感じで、ヴァリム国から紫夢羅家が離反するストーリー展開になりますが、中盤まではダン・ルキアのパワーアップ計画をメインルートに、他暗躍する色々な人達みたいな感じで書いていければと思っております。
特に、今回はガルスキー財団が軍事介入に等しい動きを見せる予定です。
なお、ロシュタット家・サーカム家両家は勝手に貴族軍人、爵位に基づき軍位を得ることができる一族と勝手に設定してあります。
また、出てくるキャラクターはオリジナルであり、オフィシャルとは何ら関係ありません。
<いつも道理ですが!!
PS
ヴァリムストーリーなので、アルサレア陣営一切出てきません。
今回はうちのメインを出さず、理不尽なストーリー展開ができないようにしてみました。
キャラ紹介!!
サーカム家
長男ラルトバルト
ナイフ使い、残忍で好色、父親は立派な貴族軍人であったがアルサレア戦役で戦死
ラルトバルトは跡を継ぐ形で准将になったが、PFにも乗れなければ作戦指揮もできない権力があってもそれを全く活かせないダメ人間
自分本位で、プライドが高く、短気で手のつけられない人間のため、既に軍からは忘れ去られてしまっている。
でも、一応准将としての給料は貰っているが、仕事はなにもしていないヴァリム軍の正真正銘お荷物
次男ノザード
爆弾魔でジャンキー、一応ヴァリム軍大尉であるがラリって基地を吹き飛ばした過去があり、降格され無期限自宅謹慎中、やはり給料だけ貰ってるお荷物
三男クラルリッヒ
階級は少佐、獣マニアで猛獣(サリーちゃん)を他人にけしかけるのが好きで、捕虜をサリーちゃんの餌にしたことにより、無期限自宅謹慎中、やはり給料だけ貰ってるお荷物
長女ルキア
ダメな兄貴と違い、なんでもそつなくこなすが地味な父親の遺伝子をふんだんに次いだ唯一まともな人。
ただし、才能があった上に、父親の愛情を一身に受けたために兄たちから疎まれていて、家柄の支援がなくヴァリム軍には普通入隊。
戦績は立派だが地味〜な存在のために階級は中尉と3兄弟に追いつけもしない。
サーカム家関係者
ヴァリス・ルクス
ラルトバルトの悪友にして、ヴァリム軍お抱えの輸送機メーカーの3代目で、ボンボン
家庭をないがしろにされてきたせいで、愛を知らず、権力に物をいわせやりたい放題
女遊びと、麻薬にハマリ、資産をひたすら食い潰している穀潰しで、権力と金はあるが、人望や才覚がないのでサーカム家を自分の後ろ盾にしようと取り入ったが、悪い遊びを教えすぎたためにサーカム家をより堕落・崩壊させてしまった張本人。本人はそのことに気づいていないほどの大馬鹿者。
ロシュタット家
長女アルティリス:愛称アリス
現ロシュタット家の事実上当主(裏):美貌、知性、品格、商才、戦術家と色んな面に秀でた才女。
ダンとは異父兄弟のため血縁がないのをいいことに、色んなアプローチをする困った姉
野生全開で、後先考えずに突っ込むところが母性をくすぐられるらしい
金髪・赤眼・子供のようにコロコロ笑う穏和な雰囲気と、過激なまでのナイスバディーとほぼ完全無欠お姉ちゃん。なお、ダンの呼称はダンちゃん。
次女シャトナ
ダンと同い年だが2ヶ月生まれが遅いので妹。ダンにくっついて軍に入隊するが人見知りの激しさから意思疎通に問題ありと除隊。その後、ヴィトリルの跡を継ぐためにリゾート経営を学んでいるうちに建築・設計の才に目覚め、アトラクションやホテルの図面を引いたり、車や電車など日常交通手段など図面引き(カスタム)をして日々を過ごす。
かなりの甘えん坊で、常にアルティリスやダンにくっついている。また、人見知りが激しすぎるせいか他人と接する機会がなさ過ぎて精神年齢が幼く、仕事でも自室に籠もりっぱなしで生活の全てをメイドにさせているので一般常識が欠落している。<服を自分で着替えられないぐらいなんにもできない。設計士の才能のみ発達した小学生もしくは幼稚園児と言った感じ
ヴィトリルは放任主義なので、甘えられず懐いていない。
長男ダン
実母に似て熱血・物事をよく考えず猪突猛進、バカかと思いきや深い思考もできるが、一旦動き出すと思考が押し流されるタイプ。目的のために手段を選ばず、手段のために目的を忘れるタイプ。
ただし、頭に血が昇っても正々堂々正面突破を信条とし、不意打ち、だまし討ちを嫌う。
アリスとシャトナにべったり付きまとわられる事に我慢ならず、家出同然に軍に入隊したため一般兵と同じ扱いとして昇進してきた。
母親の遺伝子か、一切びびらずガンガン力押しする戦闘スタイルで頭角を現すが、天狗になったところをルキアに鼻を折られチームワークの大切さを学び、グリュウの元で鍛えられエースパイロットへの道を歩んでいたが、グリュウ死亡後は色んなものを背負い込み成長が停滞気味。
母親ヴィトリル
温泉リゾートを経営していた富豪の妻をしていたが、不慮の事故(暗殺)により夫を亡くしヴォーンバルトの元に嫁いできた。
たんに金持ち生活に飽きた為に、元夫を暗殺し刺激を求めて没落気味の貴族軍人の家に入ったが、軍事関係のパワーバランスに翻弄され充実する毎日ながらも大した結果を残せずアルティリスとシャトナを出産。現在は実家とは別居しながら、自分のリゾートで産後のたるんだ体をシェイプアップすることに熱意を傾け、身勝手に生きている。
ヴァリムでは有名なセレブで、貴族の中でも一目置かれる存在で、発言力もかなり大きく扱いに困る人物でもある。
親父ヴォーンバルト
貴族軍人で准将を務めていたが、果てしなく才能がなく軍のお荷物だったがヴィトリルと結婚後、ようやく人並みになり10才になったアルティリスの助言を実行し出すと急激に名軍師と扱われるようになり、現在ヴァリム軍少将にまで上り詰めた。
基本的に我が弱く、突出した能力もない凡骨だが人の言うことに耳を貸せる人物だった為、裏に立つものによって能力がコロコロ変わる。
現在は、アルティリスに軍務を丸投げしているので全く頭が上がらないが、お気楽な性格なので全く気にしていない。
また、体面を気にする小心者なので口を開かなければ、かなり立派な人物に見えるため「冠翼の道標(しるべ)」と呼ばれている。
ガルスキー財団
クラウディア・バリシュードラ
ピンクに近いパープルブロンドのポニーテールに、深いブルーアイズが特徴の女性
ガルスキー財団では兵器販売を手がける敏腕販売員
とろけるような甘い微笑でかなりのヴァリム軍将官を手玉に取る。
徹底的にしゃぶり尽くして、利用価値がなくなると笑顔で見捨てる悪魔のような魔女
セーラ・バルキサス
蒼のツインテールに赤の瞳が特徴のヴァリム軍人
役職は軍監、頭が切れる上に優秀なパイロットと才色兼備だが、恋には盲目で、その上人の道を踏み外した外道でもないというおよそガルスキー財団の者としては微妙な人。
クラウディアの無二の親友であり、仕事上でも替えの効かないパートナーでもある。
デーモン弧光閣下は次回以降出てくるので、キャラ紹介はその時に。