機甲兵団J−PHOENIX  プロジェクトBT

11〜12ターン







 

11ターン


アルサレア


 ヴァリムG基地では、ヴァリムDに進軍を開始しようとしていた。

「Jフェニックス2機が上空から奇襲、Jファーは正面突破。俺は裏手から奇襲をかける。とにかく、短期決戦で勝負を付ける。全員死ぬなよ」

 ジェークはとにかく奇襲で攪乱すれば、数で勝る自分たちが負けると思っていなかった。

 その頃、ヴァリムDではニコラスがタバコを吹かしながらアルサレアの動きを見てあざ笑った。

「実に陳腐な策だのお」

 ニコラスはアルサレア軍の後方にヌエを配置した。

 自分を囮にして奇襲をかけるつもりではない。

 自分一人で守りきろうとしていた。

 どうしてそんな無謀なことを考えたかというと、ニコラスは自らの腕に異常な自信があった。

 どれくらいかというと、グリュウ並みだと自負していた。



「どうする、一気に行くか?」

 上空から奇襲をかけようとしていたJフェニックスのパイロットがジェークに聞いた。

 基地の入り口にはニコラスのオニカスタムが仁王立ちしていた。

「よほど自信があるようだな、下手に奇襲で戦力を分散するぐらいなら一気に畳みかけよう」

「了解!!」

 Jフェニックス2機は急降下しながらオニカスタムに襲いかかった。

 ニコラスはショットガンをまき散らすと、それを回避しようとしたJフェニックスにMLRSをたたき込んだ。

「はーはっは!!もろい、もろいぞーーー!!」

 一瞬でウイングを破壊されたことによって、Jフェニックス2機はその最大の利点を失った。

 ジェークはそれを見て愕然とした。

 そして、ジェークは判断せざる終えなかった。

「情報ではヌエが後2機いるはずだ、体勢を立て直す余裕はない。撤退しろ、俺が時間を稼ぐ。おおおーーーー!!」

「一人で無茶だ!!」

「よせ、俺たちが逃げなきゃあいつが犠牲になっちまう」

「ふ、ふはははーーーー、後ろにはヌエがいる。逃げ場はないぞ!!」

「アルサレアを舐めるなーーー!!」

 後方からぞろぞろと出てきたヌエを、Jファーのパイロットはレーザーソードを振り回し突破していった。

「とりあえず、強行突破だ」

 Jフェニックス2機もそれに続いた。

「まったく、クズ共が!!まあいい、この威勢の良いので我慢するか」

「簡単にやれるとおもうなーーーー!!」

 ジェークはショットガンをかいくぐりながら、ビル群を盾にニコラスから逃げていた。

「こざかしい真似を!!おい、クズ共!!奴を囲い込め」

 ヌエがジェークを取り囲みに来た。

「これを待ってたんだよ、これを!!」

 悠々と接近してくるニコラスを尻目に、ジェークは不用意に接近してくるヌエを物陰に隠れて切り倒した。

「ザコが!!」

 ジェークはJファーがヌエを簡単に突破したのを見て、凄いのはオニのパイロットだけと判断した。

 ジェークはヌエを1機かたづけると、ヌエをニコラスに向けて投げつけた。

「阿呆が、俺がそんな奴見捨てないと思ったか?」

 そう言うとニコラスはMLRSをヌエに向けて撃ちはなった。

「それを待ってたんだよ!!」

 ジェ−クはヌエに向かって打ち出した途端のミサイルをガトリングで迎撃した。

「なにぃぃぃーーー」

 発射と同時に肩でミサイルがゼロ距離爆発した。

 ジェークはその爆発音を背に聞きながら、大急ぎで撤退した。

「くそ、思いの外やっかいだな」

 ジェークは焦り始めた。

 奇襲が始まる前に、ここを落とせる自信が揺らぎそうだった。

「っくそーーーーーーーーーー!!」





 ジェークが進軍を始めた頃、ケイオウ達はミラムーンCとヴァリムJのルートから少し離れた森林地帯に足を踏み入れていた。

「あの〜、まだですか秘密基地って」

 既に活動限界に達して動けなくなったPFを残し、既に3時間も足場の悪い森林地帯を歩いていた。

「あ、見えましたよ。ほら、あそこです!!」

 ゴールドは木の上を指さした。

「・・・・・・・、ホントに秘密基地だな」

 タケルの目に入ったのは、巨木の上の方に作られたやぐらのような小屋だった。

「言った通りでしょう」

 にっこり笑いながら言うゴールドを見て、タケルは頭が痛くなった。

「とりあえず中に入りましょう、ソフィアさんも休ませなくてはね」

 そう言うとゴールドは目の前の細い木を踏み台にして飛び上がった。

そして、向かい側の木に着地しつつ、木がきしみながらゴールドを押し返す力を利用して、ゴールドは他の木に飛び上がった。

 それを5回繰り返すと、ゴールドは秘密基地にたどり着いた。

 その姿を見たタケルは、呆然としながら言った。

「綺麗だ」

「皆さんも早く上がってきてくださいね」

 その声で、タケルは現実に戻った。

「俺たちが貴方みたいに登れるわけ無いじゃないですか、縄ばしごとかって」

「ありません」

 タケルが言い切る前にゴールドはぴしゃっと言った。

 ケイオウは微笑を称えながら、胸に負担をかけないためにお姫様抱っこされたソフィアに言った。

「飛ぶから、落ちないようにな。タケル、がんばれよ」

 そう言った途端ケイオウは深くしゃがむと、垂直にジャンプした。

 タケルの背を軽く飛び越したケイオウは、近くの幹に足を引っかけ、たった3回のジャンプでゴールドの横に降りたった。

「どんな人間だよ、あんたら」

「はは、お前も自分の意志で火事場のバカ力が出せれば良かったのにな」

 ケイオウは、さも当たり前という顔で言ってのけた。

 そして、3人は中に消えていった。

「薄情者ーーー!!」

 タケルは意地でも上に登ってやろうと意気込んだが、百日紅(さるすべり)のような巨木だったために飛びついたところから、いつまでも登れずズルズルと滑り落ちていた。

「お手伝いしましょうか?」

 必死だったタケルの後ろから声がかけられた。

「ううううわーーーーーー!!」

 真後ろの女性を見てタケルは叫んだ。

 決して恐ろしい顔をしているわけではない、どちらかというと可愛らしい顔をしていた。

 プロポーションだって、かなり良かった。

 では何に驚いたのか?

 声をかけた来た女性はかなり大きかった。

 その時、叫び声を聞いた二人が出てきた。

「どうし・・、あら、ソナタ」

「はい、お待たせしました」

「早く上がっていらっしゃい、そこの彼も一緒にね」

「ええ、わかりました」

 そう言うとソナタと呼ばれた女性は、タケルの首根っこを片手で掴むと上に向かって放り投げた。

「う、うそだーーーーーーー!!」

 重力に反抗するがごとくタケルは宙を舞い、最高点に到達するとすぐにゴールドの足下に転がった。

 そのすぐ後に、ソナタもケイオウよろしく垂直にジャンプで登ってきた。

 タケルは頭がおかしくなったのかと思った。

「まっとうな人としては、大したものだな」

「・・・・、お、驚かないんですか?」

「なにに?」

 そう言った途端ケイオウは抱きしめられた。

「ぐえぇ」

 もの凄い力で抱きしめられたケイオウの足は宙に浮いていた。

「ソナタ、はしたないですよ」

「ああ、ごめんなさい。つい」

 ソナタに離されたケイオウは、そのまま崩れ落ちた。

「特尉?」

「大丈夫だ、ちょっと、油断した」

 ケイオウはよろよろとソナタの隣に立った。

 しかし、ケイオウの頭はソナタの肩までも届いていなかった。

「あの、本当に大丈夫ですか?」

 心配したソナタに、ゴールドが言った。

「ふふ、良かったですねソナタ、やっと二人目ね」

「はい!!」

 ソナタは感動に胸を振るわせていた。

 ちなみにケイオウの身長は書類上167センチだった。

 ホントは166.5センチと、少しさばを読んでいた。

 まあ、大きい方ではないが小さい方でもなかった。

 ちなみに、タケルは177センチ、ソフィアは163センチ、ゴールドは170センチだった。

 そしてケイオウの頭すら肩の下にあるソナタの身長は、書類上は245センチだっった。

 本当は248センチだった。

 珍しいサバの読み方だった。

 そして、ソナタは身体能力は身長並みに飛び抜けていた。

 単純なパワーは、リミッターを外したケイオウのそれに充分匹敵した。

 それ故、ケイオウを抱きしめ落とすことも出来そうだった。

 ジーンという感動の音が聞こえそうなソナタを横目に、ゴールドはケイオウを自分の胸に抱き寄せた。

「ケイオウ、貴方もお休みなさい。ここなら、安全ですから」

「・・・ふう、ソフィア、ゴールド、後を頼む」

 ケイオウはそう言うと、そのまま崩れ落ちるようにゴールドにもたれかかった。

「嘘でしょ!!だって、この前眠ったばかりなのよ。不眠不休で5日は戦い続けられる人が、どうして?」

 ソフィアが大いに驚いた。

「貴方のせいですよ、気づいていません出したか?」

「え!?」

「彼は命を燃やして戦うタイプの戦士です。なのに、貴方に気を使って中途半端な戦い方をしていた反動が来たんですよ」

「それって、どういう意味よ」

「攻撃を見切っている相手に、ワザワザトラップを仕掛ける必要は無いでしょう?それに剣鐘を命として、両手の斬馬刀に絶対の自信がある彼が、武装を捨てて殴りかかるなんておかしいでしょう?それを紐解けば分かるでしょう」

 ソフィアはうつむいた。

「気にしなくても良いわ、彼が命を消費して戦うことを咎める気はないから」

「貴方は彼がそれを続けてしまっても良いの?私から見ても彼は長くないわ」

「ふふ、止めたら彼は命を絶つわ。そう言う人ですもの、だからいいの」

「あなた、彼が好きなんじゃないの?」

「好きよ、私が惚れたのは彼のそういう生きる姿勢なの。だから、彼が彼で無くなったら私が彼を殺してあげるの。でもね、彼が彼らしく生きてる間は、私が彼の盾になって彼を生かし続けるの」

 イタズラっぽく笑うゴールドをソフィアは理解できなかった。

「よく分からないわ、貴方は彼を自分のものにしたくないの?」

「ふう、私の望みは彼と一緒になることじゃないわ。彼の左で彼の視線に入っていればいいの、そしていつでも私を意識してくれればいいの。もちろん独占出来ればいうこと無いけど、それじゃ面白くないわ。彼は誰かの願いの為に戦って死ぬの、私はそれを遅らせることに全力を賭ける。だから彼が誰かを守って命を落としても私は何も咎めはしないわ。まあ、私を守って死のうものなら、生き返してでもこの手で殺してあげるけどね」

 タケルもソフィアも唖然とした。

 初めは美人で気だてがいいゴールドに好かれるケイオウに嫉妬したタケルだったが、今は同情したくなった。

「ふふ、とんでもない人ね。でもお似合いよ貴方、ケイオウに似ているもの」

 それを聞いたゴールドは、枝毛でも探すように髪の毛を掴んで言った。

「私が彼に似てるんじゃないわ、彼が私に似てるのよ。これとかね」

 確かに、ケイオウと同じ漆黒の艶のある長髪の毛だった。

「ま、まさか、ケイオウの肉親なの?」

「さあ?ただ、私もケイオウも記憶がないから分からないわ」

「確かめなかったの?貴方なら簡単に出来るでしょう」

「あまり意味がないわ、例え兄弟でも親子でも好きになったら他はどうでも良いわ」

「「・・・・・」」

 言葉もなく固まっている二人にソナタが言った。

 「とりあえず、お夕飯にしましょう。こう見えても料理は得意なんですよ」

 確かに良いにおいがしてきた。

 そして、食事がすんだ頃タケルが言った。

「あの、貴方は何者なんですか?」

 余りにもインパクトが強すぎる者のせいで存在感が薄くなっていたソナタに言った。

「ああ!!申し遅れました、私ソナタと申します。ミラムーン軍のオペレーターです。ホントはPFに乗りたかったのですが、私が乗れるPFが無かったのでオペレーターしてます。でも、一応何でもこなせますよ」

 食後のお茶を入れながらそういったソナタに、ソフィアは銃口を向けた。

「警戒しなくて良いわ、彼女も私と同じ脱走兵としてアルサレアに行くつもりだから。それに、彼女は有能よ。私みたいに天才ではないけれど、その代わりいかなる努力も惜しまない努力家なの、十分にアルサレアの為になるわ」

 ソフィアは警戒を解かずに言った。

「貴方がアルサレアに来る目的は何?」

「自分にとって大切なものを守るため!!私の良き理解者であり、大親友と一緒にいたい、ただそれだけ。PS,私を見て驚かなかった彼にも興味がありますね。どうぞ」

 ソナタはまるで銃口など目に入っていない様な素振りで、紅茶を配りだした。

 ソフィアは銃口を下げると聞いた。

「自分が何をしようとしているか理解してるの?」

「ええ、破壊なす聖女ゴールド・スレイブは私の憧れですから、彼女みたいに馴れるなら困難など気にするものではありませんよ。ああ、貴方のような厳しさの中に本当の優しさを秘めた人も、私好きですよ。でも、ゴールドのように誰にでも自然に優しく接するようになりたいんです。私は大きいと言うだけで、みんなから避けられますから」

 強いまなざしの中にも、少しだけ陰りが見えた。

 確かに、ケイオウとの身長差約80センチ、普通は逃げるよな。

 そう思ったらタケルは胸が痛かった。

 ソナタは何も悪いこともしていないし、みんなに好かれようとこんなにもうまい飯が作れるように努力もしているのに、派手に驚いて傷つけてしまった。

 タケルは、自分がなんだかひどくちっぽけに見えた。

「ふーーー、どうして彼の周りにはこう、変わった人達が集まるのかしらねえ」

「全ては運命のままに」

「私はその言葉嫌いよ、運命で殺されてはかなわないもの」

「気に入らなければ、実力で覆すがいい!!
 実力がないのなら努力すればいい、何もしないくせにイッチョ前の口をきくな、
 出来るだけの実力を付けずに諦めた奴が偉そうにほざくな、
 ただ出来るまでやっていないだけだろう」


 まるで勝ち誇るかのようにゴールドは言って見せた。

「言うじゃない、ホントに彼みたいね」

「みたいじゃなく、これは本人のセリフよ」

 タケルとソフィアは納得した顔で笑った。

「あの〜、明日は早いですし今日はもう寝ましょう」

「そうね、ではお休みなさい」

 ゴールドはケイオウを抱えると部屋の隅で、ケイオウに膝枕をさせ横になった。

 普通逆だろ!!タケルは突っ込もうとして止めた。

 それよりも、どこで寝るかが先だった。

 二つあるベッドは、ソフィアとソナタに譲らないわけにはいかなかった。

 は〜あ、こんな美人(クセがかなり強いが)が沢山いるのに、なんでこんな切ない思いしてんだろ?

 タケルは最後の四隅に背を預けしみじみ思った。




 翌日、まだ日も上がらない内にケイオウは起き出し、PFが置いてある場所に行った。

 そこにはソナタが持ってきた特佐専用の、PF整備可能なハンガーを搭載した輸送機があった。

「あら、早かったわね。やはり、自分の機体は自分で面倒見たいの?」

 既に自分のPFの補給と整備を終えたゴールドが言った。

「どうも、自分でやらんと落ち着かなくてな」

「いつか、私に任せて欲しいものですね」

「そうだな、そんな日が早く来ると良いな」

 何を意味するものでもなかったそのセリフは、ゴールドの胸に染みいっていた。

「貴方がそれを望めば、それは以外と早いかも知れませんよ」

 ゴールドはホクホク顔でタケルの機体を整備しているソナタの元へ歩いていった。

 ちなみにソフィアは骨折のため寝ていた。

 タケルに至っては体力、精神力共に使い切っていて泥のように寝ていた。

 そしていい臭いで目を覚ました二人の前には、帰り道でケイオウが刀で切ったウサギや、ゴールドが槍で取った魚や、ソナタにとってこぶし大の石でポクっと殴り倒したりして取った猪が、盛大に食卓をにぎわかしていた。

 そして、豪華な朝食はソフィアとタケルが胸焼けする中、ケイオウとソナタの胃袋へと消えていった。


 その後、補給を終えたケイオウ達はヴァリムIに撤退した。











 

ミラムーン


 まさか、まだゴールドが自国の領内にいるなんて夢にも思わなかったミラムーン兵達は、完全に指揮系統が麻痺していた。

 彼らはゴールドの行方を探すことに奔走し、戦闘からは距離を開けることにした。

 現在指揮をとっているのは、ディックだった。

 ディックは情報からゴールドがいそうなところを徹底的に巡回させた。

 ディックの読みはこうだ。

 神佐小隊がケイオウ小隊と激突の際にゴールドは戦線離脱、ヴァリムJはアルサレアに落とされていたから逃走経路はミラムーンDだと予測された。


 それとは別の目的でミラムーンCが動いていた。

 目的はカインの敵討ちだった。

 しかし、所詮は新兵。

 結果はお粗末なものだった。

 1日に2機も有能な乗り手が乗るPFを落とす腕前を持つヒルツに、あっさりあしらわれたあげくお情けで見逃してもらった始末だった。

 まあ、それでも敵討ちしようと思われるだけカインは幸せだった。

 ヴァリムは完全に使い捨てにされていたのだから。











 

ヴァリム


 しかし、ヴァリムであっても肉親はそうではなかった。

 カノンがショウの看病を甲斐甲斐しくしたお陰で、ショウは大回復を見せた。

「お兄さん、もう動いて平気なの?」

「あ、ああ」

 ショウは柔術の経験者であり、並の兵士とは体力も精神力も桁はずれて高かった。

 それ故、3日目にして起きあがれるまでに体力を回復していた。

 それまでの間だカノンがすっと世話をしていた。

 ショウにとって天使だった少女は、ショウを実兄の代わりにすがる、儚い少女に変わっていた。

 だがこれでいい、そうショウは思っていた。

 下手に怒りや憎悪にかられ、兵士に志願でもすれば神佐の思うつぼであり、カノンの命など昼間の線香花火ほどの輝きもなく散ってしまうだろう。

 期を待つ、いつかちゃんと現実を受け入れられるときが来る。

 その時が来るまでは、助けてもらった礼をするのもいい。

 そう思ったショウは、不慣れな兄役を引き受けることにした。

「もう俺は大丈夫だ、それよりお前も休め。顔色が悪いぞ」

「あははは、大丈夫だよ。それより、はいこれ」

 カノンは黒光りする緑色の、本人曰く野菜スープを差し出した。

 なんでも凄く身体に良いらしい。

 その効果は身をもって知ったが、味は効果以上に凄かった。

 どんな味かというと、苦い、渋い、辛い、いつまでも口の中に砂糖が溶け続けているように甘い、という味だった。

 簡単に言うと、野菜も入ってる漢方薬のごったに、だった。

「まだお腹は減っていないから、あ、あとで食べるよ。お前こそ遠慮しないでいっぱい食べて寝なさい」

「う〜ん、そうするね」

 カノンはそういうと、それを美味しそうに平然と平らげた。

 ショウは思った。

 俺の味覚の方がまともなはずだ、死にそうになったとはいえこれだけは引けない。

 そう強く思うと、ショウはPFの格納庫に向かった。

 新しい機体を組むためだった。

 既に神佐の名を語るものから命令書が届いていた。

 命令がある以上、戦わなくてはならない。

 戦場に私情は挟まない

 それは、自分を生かし続ける術だった。

 だからショウはカノンに何も告げず出撃した。

 もっとも、巧く行けば疲れて深い眠りについたカノンが起きる前には帰れる予定だった。


「今度は火山地帯か、いくら瞬間移動できいるとは言え、・・・・熱いな」

 ショウはその暑さに、砂漠地帯で死にそうになったのを思い出していた。

 背筋が凍るようなイヤな感じを勘違いしている時だった。

 いきなりもの凄い衝撃を受け吹っ飛んだ。

「ぐぅ」

 はじき飛ばされた途端、瞬間移動を発動したが不発した。

 ショウはPFが倒れる前に、冷静になっていた。

 そして、倒れるとすぐに自分に何があったかを理解すると、溶岩に飛び込んだ。

 正確には、溶岩付近の小さな足場に飛び乗ってPFのパワーをオフにした。

 ショウのPFはステルス仕様だったためレーダーからロストされ、あたかも溶岩に落ちたように見せかけるためだった。

 何が起きたのか?

 丁度ショウは巡回中のJファー量産型Dの真ん前に瞬間移動してしまったのだ。

 それに気づかす物思いにふけっていたショウは、思いっきり背後から斬りつけられたのだった。

 溶岩の放射熱に焼かれながら、ショウは様子をうかがった。

 ガトリングで威嚇しているようだが、明後日の方向だった。

 ここで隙をついて倒すことも出来なくはなかったが、時間がかかる。

 その間に応援を呼ばれたら、この機体では耐えられないだろう。

 そう思ったショウは結局Jファー量産型Dをやり過ごすことにした。

 ただ、そう何もかもうまくいくわけでもなかった。

 Jファー量産型Dのパイロットが活動限界いっぱいまで粘ってくれたお陰で、機体の精密パーツが焼き付いていた。

「くそ、今度は洒落にならんかも」

 ショウは冷静だったが、状況は洒落にならなかった。

 なぜなら、機体は既に再起動不能になっていた上に、今度はPFのハッチが熱膨張により変形したため外に出られなかった。

 ショウは鉄の棺桶に入ったまま、火葬され始めていた。

 その上、ショウのPFはレーダーにも映らない状況だった。

「さて、どうするかな」

 自分に出来ることが思いつかなかったショウは、がらにもなく祈った。

 瞼を閉じたその時、カノンの顔が浮かんだ。

「ああ、こんなにも俺の中で大きな存在になっていたのか」

 ショウは以前こんなことを言われたのを思い出していた。

 目を閉じて最初に浮かび上がってくるものが、今一番大切なものだ。

 それを思い出してショウは笑った。

 そして、意識を失った。



















 

12ターン


アルサレア


 ヴァリムIに到着したケイオウにフェンナから通信が入った。

「ケイオウ特尉、帰還したばかりで申し訳ありませんが、クレア・クラウゼンをBエリアからアルサレア要塞まで帰還の護衛をしてください」

「ずいぶん急だな、まあそれはそれで名誉なことだから依存はないが。だが、俺がいなくなった後任はどうする?恥ずかしい話だが、俺は神佐を討ち漏らした。どこかで影を潜めて、必ずまた動くだろう」

「本来はソフィアさんがロイヤルガードとして護衛について頂くはずでしたが、負傷なさったので特尉にお願いしたいと姉さんのご氏名です。後任は選出中ですが、たぶんとんぼ返りになるのではないかと。ところで、特尉は姉さんからご氏名を受けるような間柄なのですか?」

 フェンナの声色からは、からかうような感じがした。

「恐れ多い話だな、ただ単に俺がここで一番階級が上だからだろう。ふふ、深読みばかりしていると、欺瞞に駆られ足下をすくわれますよフェンナ」

 以前からかった報復をしてくるフェンナを、ケイオウは軽くかわし反撃した。

 もっとも、周りはフェンナを呼び捨てにしていることの方に驚いていて、それどころではなかった。

 ケイオウはいちオペレーターのフェンナに話すときはいつも呼び捨てだった。

「ご心配なく、貴方こそ余裕を見せてばかりいると足下をすくわれるわよ」

 会話が雑談めいてきたところを見計らってゴールドがケイオウを呼んだ。

「ケイオウ!!」

 表情はいつも通り穏やかな笑みを浮かべていたが、右手を複雑に動かしていた。

 それを見たケイオウは、複雑な顔をした。

「それは良いが、・・・・・ふう。俺も行こう」

 大型スクリーンから通信しているフェンナが聞いた。

「あの〜、そちらの方は?それと、どうかしましたか?」

 見知らぬ女性に興味が沸いたのかフェンナが語りかけた。

「こいつは俺の直属の部下だ、この前までミラムーンで特佐をやっていたゴールド・スレイブだ」

「ええ!!って、どうしてミラムーンの特佐が貴方の直属なんですか、誰が許可をしたんですか?」

「詳しいことは、クレア様に聞いてください。一応正式な辞令書も時期に届くはずです」

「そんなむちゃくちゃな、そもそもどうやって部下にしたんですか?」

 フェンナは暴走気味にまくし立てた。

 タケルを除く基地にいた兵士達は、またどこぞで拾ってきたケイオウの養子だと思っていたので声も出なかった。

「お初にお目にかかります、フェンナ・クラウゼン様。私、ついこの間クレア様とお友達になりましたの、それを期にアルサレアにつこうと思いまして、ミラムーン軍を辞めて参りました」

「ご丁寧にどうも、って特尉いくら何でも怪しいですよ。どうしたんです、貴方らしくもない」

「はは、なにやらやたら同じことを言われるな」

 苦笑いいっぱいのケイオウが、ゴールドに目配せした。

「あ、ちなみに私、ケイオウの内縁の妻ですので、ケイオウがアルサレアに忠誠を立てる以上私もそれに従います」

「と、と、特尉!!ど、ど、ど、どういうことですかーーーー!!」

 フェンナは大爆発した。

 ケイオウは自分の長い髪をすくいながら、ゴールドに合図した。

 その途端基地内部から緊急警報が鳴り出した。

 基地の管制官から緊急警報が報告された。

「ヴァリム軍とおぼしきPFの大部隊を確認しました。総数30機ヴァリムB基地からこちらに向けて進軍を開始致しました」

 その場にいたケイオウとゴールド以外がざわめきたった。

「ふうーーー、フェンナ!!馬鹿話は後だ、悪いがクレア様にお待たせすると伝えてくれ。Bエリア最後を飾りに行ってくる、タケル死にたくなかったらついてこい」

「普通逆なんでしょうけど、特尉がいる時だけは合ってるんでしょうね。お供しますよ」

 タケルに迷いはなかった。

 ただ、何となく生きて帰れる確信があった。

「もちろん、私もお供しますよ。アルサレアに忠誠を見せるには丁度良い機会ですしね」

「そういう訳だ、ついでにヴァリムEを落としてくる。そうだ、ミラムーンからオペレーターも一人連れてきたんだ、実戦で使えるか試したいから傍観していてくれ、頼む」

「ホントに、貴方らしいですね。分かりました、全てケイオウ特尉に一任します。その代わり、後で色々聞きたいことがありますから、姉さんを連れて帰る前に私のところに来てくださいね」

「了解、みんなは平常業務を続けてくれ。ソナタ、オペレーターは任せるバトルタイムは無制限、出来るな?タケル、ゴールド出るぞ!!」

「お任せください、せっかくだから輸送機から実況中継しますね」

 姿が見えないソナタはずっと輸送機にいた。

 ここにいなのはみんなから怖がられるのが、怖かったからだった。

 そして、ケイオウ達はヴァリムEに向かって出撃した。




 丁度その時ヴァリムGでは、焦りに焦っていたジェークが再び進軍を開始していた。

 今度は奇襲をかけ油断なく慎重に落とす手はずだった。

 しかし、ジェークは馴れない隊長役だったせいか他の兵士を見る余裕がなかった。

 強敵にやられたばかりなのに、またその相手に立ち向かうことがどれほど勇気がいることであるか、ジェークは理解していなかった。

 もっとも、ジェーク自体が焦りに我を失っていたため、そんな余裕がなかった。



 時同じくしてハクトとマガミも奇襲を開始しようとしていた。

「ここまでは何事もなかったな」

「ええ、そうですね」

 一緒に戦って欲しい、ハクトの内心はそうだった。

 しかし、マガミの攻撃先はヴァリムAである。

 ここで時間を食っている場合ではなかった。

 それを察したのかマガミが言った。

「大丈夫だ、お前なら出来るさ。お前が一番戦闘中に冷静でいられるのだからな、自信を持てお前は強い」

「はは、そうですね。ありがとう、マガミ。貴方もとっても強いですよ、必ずヴァリムAを落としてくださいね。では、いきます。御武運を!!」

「御武運を!!」

 雪原を雪煙を上げながら突き進むハクトを見送りながら、マガミは思った。

 チキンハートが大それたことをするようになったものだと、そして恋人のルカが今の自分をみたらなんと言うだろうと思ったら笑みが浮かんだ。











 

ヴァリム


 ショウが再び目を覚ましたのは気を失ってから13時間後だった。

 ちなみにショウは、意識を失ってから1時間後に遊軍のロキに救助されていた。

 どうやって場所を特定できたのか?

 オペレーターがずっとショウの機体をトレースしていたお陰で、最後にショウの機体があった場所を中心として捜索を開始したところあっけなく発見されたのだった。

「ここは?」

 ゆっくりと右手を顔にかぶせながらショウはつぶやいた。

「お兄さんの部屋ですよ」

 怒りとも、悲しみとも、喜びとも取れるその声にショウはハッとして起きあがった。

「カノン!!」

 カノンは声の通りの顔をしていた。

「心配、したんだからね。とっても、心配したんだよ」

 カノンの言葉が胸に突き刺さり、どうしようもないほどに痛かった。

「すまん、だが俺は・むぐ」

 カノンは膝の上にあった特製薬膳スープを、ショウの口にスプーンに取って突っ込んだ。

「特製薬膳スープだから残さず飲んでね」

 以前の苦い、渋い、辛い、いつまでも口の中で砂糖が溶け続けているように甘い、という味だったものがただの野菜スープであるならば、この特製薬膳スープのお味はもちろんその比ではなかった。

 オレンジの代わりに、黄色い絵の具を溶かした溶液に、酸っぱさの代わりに硫酸を使ってすっぱ痛さをかもしだし、甘みは野菜スープのままだった上に、それをベースに裏ごしした肉やら、野菜やら、魚やらを生のままつけ込んでみましたみたいな生臭さがあり、それを隠すように猛烈なハーブの臭いがしていた。

 ちなみに隠し味は、胃薬と、うがい薬だとショウは確信した。

 味も臭いも効能もこの世のものではなかった。

 当然のように、突っ込まれたスプーンをくわえたまま気絶した。

 カノンは疲れているのだろうと思い、固形物ゼロの特製薬膳スープをショウの口に流し込み、満足してショウの部屋を出て行った。

 カノンが去った部屋でショウがベットの上から転げ落ちるほどに、ドッカンドッカン痙攣していたことをカノンは知らなかった。

 しかし、不思議なことにショウは翌日生まれ変わったかのように体調が良かった。

 その上、昨日飲んだ特製薬膳スープの記憶は綺麗さっぱり忘れ去られていた。


 たぶん、本当に生まれ変わったのかも知れない。

 そう両隣の部屋の兵士が思っていることを二人は知らなかった。





 ヴァリムEに向かっていったケイオウ達は戦闘の準備を始めていた。

 しかし、大部隊を攻撃するため準備ではなかった。

 その証拠にケイオウは両肩のヘルファイヤーを外してウイングに換装していた。

「あの、一体何をしてるんですか?」

 タケルはまだ分かっていなかった。

「ごめんなさいね、30機のPFが攻めてきたというのは全部嘘です」

「は、はあ!?」

 すっとんきょんな顔でタケルはケイオウを見た。

 特尉は知っていたのですか?そんな視線だった。

「彼もソナタも共犯です。このまま私たちがアルサレアにいるためには、それなりの土台が必要でしたから口実を捏造しちゃいました」

 可愛らしい顔で、大胆なことを悪びれ図もせずに言ってのけたゴールドをみてタケルは唖然とした。

「じゃあ、一体どのぐらいの戦力があるんですかヴァリムEには?」

「ヌエが1機だけだ」

「・・・・・・・・」

 命を捨てる覚悟までしてついてきた俺って一体?

 タケルは声も出なかったが、そこで疑問が出来た。

「じゃあ、なんで俺を連れてきたんですか?いない方が都合良いじゃないですか」

「それはですね、この戦いが茶番にならないようにするためです」

 ???

 真実を語っている次点で十分に茶番になってる気がするぞ。
タケルは分かっていなかった、このメンツ構成の意味が

「要するにだ、お前を英雄に仕立ててみようと思ってな。俺的にだが」

「は、はあ。・・・・・・・って!!特尉の英雄って生き残った・」

「ご明察!!生け贄になってもらう。な〜に、ヴァリムEをお前一人で落としてもらうだけだよ。手練れがいるらしいが、運があれば死なないだろうさ」

「お二人は、どうするつもりですか?」

「このあたりで降下して、派手にドンパチしながらヴァリムEを目指します。演出はソナタに任せてあるので、私たちが30機を蹴散らす様子がアルサレア側に流れるようになっていますから、こちら側の心配は結構ですよ」

「お前は先にヴァリムEを落としに行って、後方から支援するというシナリオだ。生きていればの話だがな」

「っく、お、俺が、裏切らない保証はないですよ」

「「信頼している!!」」

 二人が見事にハモった。

 こうまで言われてやらねば男がすたる。

 ケイオウに汚染され始めているタケルの思考はそう答えを出した。


 しかし心の奥底では、

 この策士共め、いつか覚えてろよ〜〜〜!!

 なんて思いも確実にあった。


「分かりました、必ず生きてお会いしましょう」

 タケルはそういうと自分のPFを調整しにぶっ飛んでいった。

「独り立ちのテストには、相手が強いんじゃないの?」

「な〜に、部隊を率いるには経験不足だが、イッチョ前に戦えるようになってきているのは事実さ。絶対に生きてまた会えるさ」

「そうだと良いわね」

「絶対だ、それに俺たちが無傷でも誰も疑わないだろうが、タケルまで無傷だと疑われる。そう言ったのはお前だぞ」

「そうだったわね。まあ彼の実力なら辛勝でも御の字だから丁度良いのは確かだけど、少し利用するには罪悪感があるわね」

「なに、礼なら生きてさえいればいくらでも出来るさ」

「そうね、彼用のPFでもプレゼントしようかしら」

 二人の思惑など知らないタケルは、決意を胸に二人の降下を見送った。

 そして、爆音を聞きながら幼馴染みの顔を思い浮かべて笑った。

 怒った幼馴染みの顔しか思い浮かばなかったからだ。

「しょうがないだろ、こうなっちまったんだから」

 それでもタケルの顔は笑っていた。

 


 ケイオウ達が茶番を始めた頃進軍したジェーク小隊はヴァリムDを攻撃していた。

 手はず通りJフェニックス2機が上空からニコラスのオニカスタムをマシンガンで撃ち、ジェークが果敢に接近戦を挑み動きを制限していた。

 Jファーは経験不足か、手を出さない方がやりやすいと言うことでこの前倒し損ねたヌエとやり合っていた。

「ええ〜い、うっとうしいだけで手応えがないわ!!」

 確かに、致命的な攻撃がなく消極的な戦い方だった。

 だが、このまま続ければ必ず勝てるであろうという自信があった。

 ニコラスはこの前の戦闘での失敗を恐れてか、MLRSを使ってこなかった。

 誰の目にも勝利が確信できたその時だった。

 Jフェニックスが撃墜された。

「伏兵だと!!」

 一瞬の隙だったが、ニコラスがそれを見逃すはずもなくジェークはシラギクの一撃を受けた。

「がーーーはは、ちんくしゃどもめ、これが戦いだ!!」

 形勢は一気に逆転した。

 既にジェークの部隊は完全に統率を失い、勝手に撤退を始めた。

 先の惨敗の記憶が彼らをそうさせたのだった。

 ジェークにそれを考える余裕があれば、何かしていれば違ったのかも知れないが、所詮人の上に立つことを認められぬ伍長だった。

「う、うわわわっーーーーーー」

 あまりの状況に、ジェークも立ち向かうことなど考えられずにただ逃げ出した。

 ジェークは恐れた。

 ただ単に死ぬことにではなく、一人で死ぬことを恐れた。

 そこには焦りから気丈にふるまう青年はいなかった。

 そこにいるのは、弱い人間だった。

 元々孤独な戦場で戦うことなど出来ない人間が、友のために強がっていただけだった。

 死よりも孤独を恐れたその男は、自分と向き合うことを避けていた。

 いや、自分と向き合うことすら恐れていた。

 そのツケが今頃回っていたのだった。

 

 ジェークが人生の岐路に立たされてる頃、ハクトも奇襲が見つかりやばかった。

 しかし、始めこそ攻撃を食らっていたものの基本的にはヌエのパイロットは格下だった。

「どこを狙っているのやら、射撃のお手本を見せてあげますよ」

 両肩のガトリングが火を噴いた。

 その弾は白煙の先にいるヌエに吸い込まれるようにヒットした。

 ものの数分でカタがついたのだった。

「ふー、あっけない。これじゃあ奇襲に使ったルートの方が手応えがありますよ」

 強敵はいなかった、だから簡単な進行だったかというとまるでそんなことはなかった。

 だが、済んでしまえばそれまでのことだった。

 ハクトは基地を占領すると、ジェークにその旨を伝えたのだった。

 タイミングが最悪であることも気づかずに。

 

 ハクトが大ポカをしている頃、ヴァリムE 上空からタケルは急降下特攻を駆けた。

 降下直後からヌエとの激しい撃ち合いが開始された。

 降下中のタケルは、降下しながらとは思えないほどの命中率を誇ったが、障害物のないタケルの方が被弾率が高かった。

「くそ、マジで手強いぞこりゃ」

 それでもタケルには愚痴を言う余裕があった。

 タケルはブーストで緩急を付けながらヌエに接近を試みるものの、ミチザネの射程に入る前にことごとく回避された。

 そんなイタチごっこのお陰で、ずいぶんダメージが蓄積されていった。

 タケルは仕方なく切る札を切ることにいた。


「強くなりたかったら余裕を持て、どんなに悲しくても、どんなに辛くても笑って見せろ!!」


 そういって苦笑いを浮かべたケイオウの顔を思い出した。

 その時タケルは聞いていた。

 どうやったら絶望的な状況で笑えるのかと。

 ケイオウは言った。

「切り札をもて、それをちらつかせるだけで状況がひっくり返る位の奴をな。そしてそれを使うな、使いたかったら奥の手を使え。見せる力と使う力は同じ必要はない」

 ケイオウはそう言っていた。

 ケイオウの切り札は間違いなくヘルファイヤーであり、使う奥の手はHM「神速」だった。

 タケルも必死に頭を使った。

 しかし、世の中そんなに甘くなかった。

 結果切り札はコールドゼリーにし、奥の手は無かった。

 強いて言えば左腕の剣豪だろうか?

 まあ、この状況ではどうでもいい話だ。

 そしてタケルはイタチごっこを再開した。

 ただし、今度はコールドゼリーをトラップに残してだった。

「馬鹿か、見え見えなんだよ。素人が頭使うな!!」

 今まで沈黙していたヌエのパイロットが始めて話した。

 タケルはヌエが移動しそうな場所にコールドゼリーをばらまきまくった。

 ヌエのパイロットはジャンプで移動の際にその配置を全て確認した。

 トラップの基本は、見えない場所に仕掛けて追い込むだ。

 だが、見える場所にトラップがあり、逃げ場(誘導先)が無かった。

 そこでヌエのパイロットは、逆にタケルを追い込んだ。

 タケルは逆に自分のトラップに追い込まれてしまった。

 「策士策におぼれるか?笑わせるねえ」

 ヌエのパイロットがビルの上から王手とばかりにスマートガンを向けてきた。

「どっちがだよ。知ってるかい、有能な狩人は獲物を追い込んだりしないんだよ。獲物を誘い込むもんだ、覚えとけ!!」

 タケルが叫んだ途端、ヌエが立っていたビルが崩壊した。

 それと同時にタケルがジャンプしようとしたが、ヌエからのスマートガンによりタケルの足場も崩された。

「「くっそーーー!!」」

 二人は、同時に策に溺れていった。

 タケルの策は、コールドゼリーをワザと見えるように配置しヌエを高台に移動させ、足場のビル内部に密かに放ったコールドゼリーによって倒壊させ、動きを封じたところに必殺の一撃を入れる予定だった。

 ヌエのパイロットの策は、タケルのトラップを逆手にとって追い込み、足場を破壊して動かない的にするつもりだった。

 そして、二人はどうなったかというと、瓦礫が関節に入り込み動けなくなっていた。

 これが世にいうドロー(引き分け)だった。

 結局、その後40分間二人は生き埋めになった。

 瓦礫の山しかなく、タケルの姿を確認できないケイオウが言った。

「しくったか?」

 彼らしくない焦りと、怒りの声だった。

「いえ、PFが二機瓦礫に埋まってるみたい」

 ゴールドの一言に救われたケイオウは、斬馬刀をシャベルに見立てて2機のPFを掘り出した。

「お疲れ、良く生きていたな褒めてやるよ」

 助けられたこと、生き残れたこと、褒められたこと、どれも嬉しくて仕方がなかったタケルの口から出た言葉は

「特尉の部隊は決して死なないんでしょ、ちゃんとジンクス守りましたからね。なんかご褒美が欲しいです」

 だった。

 言いたいことはそれではなかったが、照れくさかった。

「俺たちが叶えられる程度の望みなら、叶えてやるさ」

「じゃあ、休暇が欲しいです」

「了解した、一緒にアルサレア要塞に帰還するとしよう」

 タケルは疲れたのか、そう言うとそのまま眠りに落ちた。


 その頃、ヌエのコクピットが開かれていた。

「なぜ、なぜ俺を殺さない?」

 ヌエのパイロットは片膝をついて祈るゴールドに銃口を向けながら言った。

「貴方が私を殺さないのと同じですよ。無益に殺したくはないし、殺すことが怖いから、だから殺さないの」

「信用できねえな」

「では、こんなのは如何でしょう?アルサレアの特尉と、ミラムーンの特佐が手を結んだ。その情報をヴァリムに持ち帰らせるため」

 ヌエのパイロットは軽く笑うと銃口を下げ、走り去っていった。

 

 2時間後、タケルは急激に意識を呼び戻された。

「愛しい人よ、あなたを置いていく私を忘れないで。置いて行かれた私よ、愛すべき人を見失わないで。思いは時を超えて、zケ千万の場所を越えて再び巡り会う。奏でよう、歌を、その思いを乗せて、舞い上がれ、ときめきよ、煌めく明日を信じるならば、思いを胸に、歩み出そう、そう、思いは何よりも自由なのだから・・・」

 陳腐な歌だ。

 なんの歌だったかも忘れた。

 だが、恥ずかしいセリフが逆に強い印象を与える。

 タケルは跳ね起きた。

 思い出したのだ、この曲を聞いたのが何時だったかを。

 そう、重要なのは誰が歌っていたかとか、どんな内容の歌であったとかではなかった。

 大切なのは、何時聞いたかだった。

「あの、ゴールドさんどこでその歌を聴いたんですか?」

 タケルは興奮のあまりゴールドの両肩をがっちり握り前後に振った。

 カックンカックンなりながらゴールドは微笑を称えながら言った。

「この曲は私が作った歌なの、何時作ったかは覚えていないの。記憶を失う前であることは確かなのだけどね」

 タケルは愕然とした、淡い希望が打ち砕かれたようにうつむいてしまった。

「そ、そうですか」

 タケルは居心地が悪いのか、そのまま部屋から出て行った。

 出て行った部屋の先からも、さっきの曲を歌うものがいた。
歌っていたのはケイオウだった。

 しかし、今度はタケルは動かなかった。

 単なる勘違いか、たまたま同じ曲がこの星で作られたのだと思った。

 イヤ、そう思うことにしたのだ。

 これ以上、希望を打ち砕かれたくなかったからだ。

 だが、タケルは確かめるべきだった。

 ケイオウ、タケル、ゴールド以外にその曲を知るものがいないことを、そしてなぜ二人がその曲を知っているのかを確かめるべきだった。




 その頃、ヴァリムAでは神佐が帰還準備を始めていた。

 大した収穫が得られなかったことに落胆しながら。

 そこにヴァリムEから逃げてきた兵士からの報告を受けたのだった。

 神佐にとっては、どうでもいい話だった。

 話を終えた兵士は顔を上げた瞬間射殺された。

「ふう、ホントに使えないものばかりだわ。まあ、データーを取れただけでも良しと思うしかないわね」

 神佐の目的は、特尉と特佐の本当の実力を知ること、自分にとってどっちつかず(使えるか否か)の兵士の判別、そして特尉がおおっぴらに活躍しているために捕まえにくくなった、グレン小隊の尻尾を掴むための時間稼ぎだった。

 結局のところ、神佐にとっては大筋予定通りだった。

 そして、神佐はヴァリム本国に帰還した。











 

ミラムーン


 ミラムーンCからはカインの弔い合戦が飽きもせずに繰り返されていたが、攻撃自体が単調なものであったため、結局いかんともしがたい実力は埋まらず簡単にあしらわれたのだった。

 そして、ディックは軍の強化に奔走しつつゴールドを探しまくっていた。

 しかし、その努力も数時間後には水泡に帰したのだった。



 ケイオウ達がヴァリムEを落とした後、ゴールドは正式にミラムーン軍を辞任し、アルサレア軍に入隊する旨を伝えた。

 ついでにソナタがそれに同伴することも付け加えた。

 ミラムーン内部では、ゴールドがミラムーンを裏切ったというような話題は全く出なかった。

 どちらかというと、ケイオウが脅迫しただの、純血を奪っただの、一時的にミラムーンのためにアルサレアに付くだの、ミラムーンとアルサレアの二国の橋渡しをするだの、いい加減な噂が流れまくった。

 最終的には、公式ファンクラブが発表したゴールドの音声データによって決着が付いた。

 内容は、アルサレアにあるケイオウ特尉という、魔剣の鞘になりに行きます、というものだった。

 結局ミラムーン内部では、万人のためにその身を差しだした聖女、というような感じで話がまとまったのだった。

 公式ファンクラブはどうなったかというと、ナンバー2(ゴールド自身)がたまに送ってくる情報を鵜呑みにする形で維持されたのだった。











フィナーレ
 


[感想掲示板へ] [目次へ] [投稿部屋へ] [踊る風さんの部屋へ]