機甲兵団J−PHOENIX  プロジェクトBT

10ターン








 

10ターン


アルサレア


 ヴァリムGではジェークがヴァリムDを落とすために本格的に動き出した。

 なぜそんなことが出来るのか?

 実はアルサレアD,E基地の司令官は、監督不行届ということでケイオウによって強制送還されていた。

 そして後任はケイオウが用意するよりは衝突が少ないという配慮から、ソフィアによって手配されていた。

 もっともまだ着任していなかった。

 その隙にジェークは独断でアルサレアDから、Jフェニックス2機を呼び寄せたり増援できたりした。

「明後日には、何とか戦力を用意出来そうだな」

 ジェークは既に奇襲中によって連絡の取れなくなった二人の身を案じつつも、自分がリーダーとして戦うことに興奮していた。



 ヴァリムJではソフィアが暗躍していた。

 なぜそんなことが出来るのか?

 ケイオウは先の戦闘からずっと仮死状態のままだった。

 時間にして、22時間が経過していた。

 その間にタケルはヴァリムKを落とす算段をしていた。

 そして作戦が決まったのでソフィアと見当していた。

「砂漠地帯を行軍するために、アント部隊が使ってる迷彩マントを取り寄せました」

「そうね、あとは関節のカバーを・・・・・・、良いにおいがするわね」

「そうですね、誰かが夜食でも作ってるんでしょうか?」

「う〜ん、たぶんケイオウが食いだめでも始めようとしてるんじゃないかしら?せっかくだから、一緒に頂きましょう」

「おいしいんですか?」

「行けば分かるわ」

 そして調理室についた二人を待っていたのは、30人分はあろうという料理の山だった。

「美味しそうなのは良いですけど、いくら何でも作りすぎですよ」

「な〜に、5〜60人分ぐらいはぺろりだよ」

「イヤ、物理的に入らないから」

 ソフィアはくすくす笑いなが言った。

「ホントに食べるわよ、彼はね。うん、おいしい」

「おいおい、俺が作ってるんだから少し待てよ。つまみ食いなんて聖女の名が泣くぞ」

「出来たてのものを一番美味しいうちに食べないのは、料理への冒涜です」

「あ、ホントに美味しいですね。でも、なんで料理が上手なんですか?」

「うちは家族が多い割に、料理がうまい奴が少ないんだよ。PFの腕は凄いんだがな」

 つまみ食いをされて悔しいのか、ソフィアの意見に賛同したのかケイオウも嵐のように食べ始めた。


 フードファイター?


 タケルはそんなことを思いながら、胸焼けに襲われた。

「ほんとに寝だめ、食いだめが出来るんですか?」

「まあな、それより次はどうする?」

「もう作戦は出来てますよ」

「そうか、頼もしくなったな」

 タケルは驚いて気恥ずかしくなった。

 そして、楽しい食事は過ぎていった。




 食器の後かたづけを手伝っていたソフィアが、タケルがいなくなったのを見計らって言った。

「あなたが寝てる間に少しいじらしてもらったわ、あなたのPF」

「なにをした?」

「ちょっと副座にしただけよ」

「Bエリアでそれは良いのか?」

「問題ないわよ、それより理由は聞かないの?」

「何となく、さっしがつくがな」

「クレア様が近々お帰りになるわ、そこで誰かさんのせいで全く出番がなかったクレア様が一度ぐらいオペレーターをしてから帰りたいそうよ」

「要するに、お目付役か」

「ご明察、でも程ほどににね」

「善処します」

 ケイオウは苦笑した。











 

ミラムーン


 この頃には既にゴールドがミラムーンの為にヴァリムに落ちたことが、全ての基地に知れ渡っていた。

 ミラムーンC基地では、カインが先走っていた。

「くそ、このままじゃ特佐を救出にいけねな。俺がアルサレアFを落としに行く、そうすれば特尉も下がってくるだろう。そこを狙ってお前らはヴァリムJを落としにいけ、その後は総攻撃で特佐を取り戻すぞ!!」

「「「おーーーーー!!」」」

 C基地は、見事なまとまりを見せていた。

 しかし、他の基地との連携はまるで取れていなかった。

 その証拠に、ミラムーンDはヴァリムKに向けて既に進軍一歩手前だった。

 ジークも思いっきり勇み足で、既に輸送機の中だった。

 指令系統が無くなったことが、ここに来て顕著にミラムーンの勢いを削りだした。










 

ヴァリム


 ミラムーンが浮き足だっている頃、ヴァリム側もようやく動きを見せていた。

 ヴァリムHからは防衛のため基地にいたヌエを、ヴァリムEに下げるように命令が来ていた。

 そしてイオスには、ケイオウ不在で手薄になったアルサレアFに進軍命令が来ていた。

「とうとう、来るべきものが来たか」

 イオスは、両手をがっちり組んで座って言った。

 神佐の命令は絶対だった。

 神佐は巧みに今回の戦場にいる兵を拘束するために、家族を人質に取っていた。

 イオスの場合は、たった一人の肉親である妹のカノンだった。

 イオスのお陰で戦場とは無縁のはずだったカノンも、神佐の企みにより全くの素人にもかかわらずオペレーターにされてしまっていた。

「お兄ちゃん、出撃するの怖くない?」

「こわいよ、でもみんな怖いんだよ。だから、大丈夫。それに、お前を残しては死ねないよ」

「ホントに?やだよ、ひとりぼっちはやだよ」

「大丈夫さ、やばくなったら逃げるからさ。カッコ悪いけどね」

「いいもん、かっこわるくてもいいもん!!あ、ごめんなさい」

「どうした?」

「怒られちゃった、またねお兄ちゃん」

「ああ」

 イオスは笑っていた。

 笑いながら、次があることを真剣に祈った。





 その頃ヴァリムKでは、進撃の準備でゴールド効果も虚しく緊張でいっぱいだった。

 ゴールドの自室には、シャドーが寝ていた。

 もちろん、死体ではなかった。

 ゴールドはシャドーをPFから引っ張り出す際に、当て身を入れて気絶させていた。

 うまく心臓を外してナイフを刺すためだった。

 実際にそんなことが出来るのか?

 それ自体は可能だが、実際は胸にナイフを刺して人を殺すことの方がむずかしのだ。

 なぜなら、心臓は肋骨で守られているからだ。

 逆に肋骨を避けて刺す医学知識があれば、心臓と気管の境目を狙って刺すことぐらい出来るのだ。

 ゴールドには、それをする腕も知識もあった。

 そして、シャドーを助けたゴールドは自室に彼をかくまっていた。

 盗聴器があるためにシャドーは紙に書いて会話をした。

{楽しそうだな、何か良いことでもあったのか}

{ばれてしまいましたか、ダメですね}

 ゴールドは、いつも以上に柔らかい微笑みをこぼしていた。

 シャドーは既にゴールドに対して色々詮索することを諦めていた。

 なぜなら、どこまでホントでどこまで嘘なのかまるで分からなかったからだ。

{医務室の方には、全て話しておきました。私たちが出て行ったら、大手を振るって出てきて大丈夫なように手配しておきました}

 シャドーはどう答えたものか分からず、ただ礼を言った。




 出撃前、神佐はゴールドに言った。

「ずいぶん、嬉しそうね。理由は何かしら?」

 神佐はゴールドがシャドーをかくまっていることは知っていた。

 ゴールドにはプライベートなど一切無かった。

 だがそんな神佐にも、なぜゴールドがこんなあからさまに嬉しそうな顔をしているのかが、全く分からなかった。

「さあ?私にも分からないわ。でもね、予感があるの。それは確信にもにているわ、運命が、時が私を欲しているの。ようやく動き出す、時を止めて、時を超えて、また私の時が動き出す。そんな予感が、私にはあるの。ふふ、そう考えると楽しくてたまらないの」

「そう、それは楽しそうね」

 神佐は笑顔を浮かべて去っていった。

「ふふ、あなたには分からないわ。確信とは、絶対の自信の中から生まれるもの。それは決して謀略や野心からは生まれない。それが分からないあなたには、永久に私の気持ちは味わえないわ」

 ゴールドはPFに乗り込みながらワザと口に出して言ったのだった。

 それを聞きながら、神佐はPFのパーツが入っているコンテナに背を預け言った。

「そろそろ潮時かもね、まあちょうど良い余興だったわね」

「・・・・・・・・・・」

 神佐はそう言ってPFに乗り込んだ。


 そしてこれから起こる大波乱を、誰も予想できずにいた。

 みんながみんな、予想外の出来事に翻弄され、そして悲しみに飲まれようとしていた。

 ただ一人を除いては。



















 

戦闘編


 アルサレアF基地にて巡回中のヒルツ

「あの人の予想は、悪い方にばかり当たるんだよな」

 ヒルツの目の前にはイオスのPFが立ちはだかっていた。

「く、基地までは戦闘はないと踏んでいたのに!!」

 しかし、ためらっている余裕は無かった。

 イオスはブーストサイファーを振り上げ、ヒルツのJファー量産型Dに突っ込んでいった。

「死んでくれ、それがダメなら逃げてくれーーー」

 それを聞いたヒルツは驚いた。

「面白いやつだな、あの人が好きそうな甘チャンだ」

 ブーストサイファーがJファーの首を狙って振り落とされた。

「舐めるな!」

 ヒルツはビックプレートで防御するどころか殴ってきた。

「な、うわーーー」

 型破りの攻撃だった。

 まあ、型破りすぎて威力もなかったが、次の瞬間フォースソードがイオスの機体を襲った。

 イオスはとっさにAAFミサイルを地面めがけて撃った。

 爆発の衝撃を利用して、強制回避したのだった。

「ヒュー、やってくれる」

 必殺の攻撃をかわされながらも、ヒルツの顔には余裕があった。

 一方イオスの顔からは滝のように汗が出ていた。

「くそ、うかつに近寄れない上に、盾まで持ってるなんて反則だ」

 そう言いながらもイオスはAAFミサイルで、距離を取りながら攻撃したがヒルツのガトリングで簡単に迎撃されてしまった。

 ものの数分で、AAFミサイルを撃ち尽くしてしまったイオスは意を決して接近戦に出た。

 しかし、今度は逆にヒルツが後退してガトリングで攻撃してきた。

「逃げるな!!俺と戦え!!」

 イオスの叫びも虚しく、彼のPFは徐々にダメージが蓄積していった。

「わるいな、これも戦場の習わしだ。俺は強くないから、手加減も情けもかけてやれないんだよ」

 そう言った途端、ヒルツはガトリングでの攻撃を止めるとフォースソードで斬りかかった。

 これが最後のチャンス、イオスは最後の力でブーストサイファーを振り上げヒルツに襲いかかった。

 そして、イオスは勝利を確信した。

 なぜなら、イオスのブーストサイファーの方がヒルツの機体より早く攻撃アクションを開始したからだった。

「もうお前は間に合わない、俺の勝ちだーーー!!」

 そして金属を捕える音と、絶望が襲ってきた。

 捕えたのは、PFではなかった。

 それはビックプレートだった。

 ヒルツは攻撃アクションをキャンセルして、盾を構えたのだった。

 そして次の瞬間、イオスの目に入ったのはフォースソードを自分に目掛けて振り下ろすヒルツのPFだった。


「ごめんカノン…お兄ちゃんもう…帰れそうにない……ごめ……」

 イオスは最後の言葉を言い切るまもなく、PFと運命を共にした。

 爆発したイオスのPFを見てヒルツは言った。

「なんで逃げなかったんだよ、人に逃げろとって言っておきながら。くそ、後味が悪いったらありゃしねえ」

 イオスの最後の言葉を聞いたヒルツは、やりきれない気持ちいっぱいのまま帰還した。



 その頃ヴァリムオペレーター室

「戦闘終了・・・、アルサレアFに進行失敗イオス伍長戦死」

 カノンはその報告をたまたま隣で聴いてしまった。

「うそ、うそですよね、ねえ、そうでしょう。お兄ちゃん、逃げちゃったんでしょ、かっこわるいね、うちのお兄ちゃん」

 チェリは、漆黒の瞳にカノンの姿を映そうともせずにイオスの最後の言葉を再生した。

 何も、優しさだとかそんな感情は一切無かった。

 ただ事務的に、そうしたのだった。

「ごめんカノン…お兄ちゃんもう…帰れそうにない……ごめ……」

 カノンはその場にぺたりと座り込むと叫んだ。

「お兄ちゃーーーーーん!!」

 そして、わんわん泣き出した。

 チェリは自分の次の仕事に移る前に、カノンに耳打ちした。

「仇が討ちたい?それを望むなら、クレイジーウインド、その名を覚えておきなさい」

 なんの感情もこもっていないチェリの言葉は、カノンの心に良く響いたのだった。

 チェリがなぜそんなことを言ったのか?

 簡単である、神佐の命令だった。

 神佐は、はなからこうなるように仕組んでいたのだ。

 憎しみにかられ使いやすい駒を作るために、チェリに命令したのだった。




 その頃カインがアルサレアFに到着していた。

「ついてるな、この調子なら落とせるかもな」

 カインは当初アルサレアFを落とす気はなかった。

 あくまで目的は、ヴァリムJにいるケイオウの目をアルサレアに向け直す為だった。

 カインは攻撃をJファーにワザと盾で防がせ、防御に気を取られている間に回り込みスマートガンを叩き込み続けていた。

「そらそら、右手がお留守だぞ!!」

 カインはノリノリだった。

「くそーー、早く帰ってきてくださいよヒルツ先任ーーー!!」

「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃ、じゃーーーん」

「うお!!」

 カインは背後からガトリングの直撃を受けた。

「くそ、調子に乗りすぎたか。まあ、いい」

 カインは笑いながら、ヒルツの方を向いた。

「な!!」

 既にヒルツのPFは、フォースソードを振り下ろし始めていた。

「調子にのってんじゃねーーー!!」

 ヒルツはとっくに切れていた。

 任された基地が攻撃されていたこともさることながら、先のイオスとの戦闘が未だに尾を引いていた。

 その差は大きかった。

 イヤ、むしろ心構えの差が、これからの結果の全てだった。

 一方のカインは適当にかき回して撤退しようとしていた。

 だがヒルツは絶対の使命感と憂さ晴らしをかねて殺す気だった。

「くそ、ダメージが大きい」

 流石に前のPFとの戦闘で無傷では無かった。

 そこに、フォースソードの直撃だ。

 機体は既に限界だった。

 一撃入れたら撤退するか

 カインはタイミングを見計らいレーザーソードを振るった。

「舐めるなーーー!!」

 ヒルツは見ていた。

 さっきカインがどう戦っていたのを見ていた。

 ヒルツは必ずカインが同じ手を打ってくると確信していた。

 なぜそれが分かったのか、理由は簡単だった。

 一度成功した手を人は簡単に手放せない、そういう生き物だと言うことを、ヒルツは身をもって知っていた。

 だから、ヒルツは盾を構えなかった。

 盾を構える代わりに、フォースソードを突き出した。

「おわわわーーーー!!」

 完全に虚をつかれたカインは叫ぶことしか出来なかった。

 カインはコクピットコアごとフォースソードで貫かれた。

「はあ、はあ、はあ、くそったれーーーー!!」

 左腕を切り落とされたPFの中でヒルツは叫んだ。

 彼の心は癒されなかった。

 しかし、彼の心には後悔はなかった。

 が、どうにも出来ないやるせなさと、不快感が残った。





 ちょうどその頃、神佐小隊がケイオウ達を捕えようとしていた。

「神佐、部隊を止めて」

「何事かしら?」

「アルサレア軍が見えたわ、奇襲攻撃をするならここからが良いわ」

 ミルクの目からビームを撃てば、地平線の先にいるケイオウ達を奇襲できた。

 ここで重要なのはハーメルンヴォイスシステムだ。

 この距離ではまだ届かない。

 もっと重要なのは、神佐とゴールドが考えていることだった。

 神佐はアルサレア軍を同士討ちさせようとしていた。

 ゴールドはそれを望んでいなかった、故にこのタイミングがベストだった。

 神佐はそれを知ってか知らずか、こう命令した。

「いいでしょう、それで行きましょう。ロキとヌエはアルサレアの後方を叩きなさい」

 ロキとヌエが1機ずつ出撃したのを見計らって、ゴールドが切り出した。

「神佐、あなたには本当に感謝しています。あなたのお陰で、良い感じに再会できますわ。それでは、さようなら」

 ゴールドは神佐にスイングソードを投げつけると同時に、チャージしていた目からビームを神佐小隊に向けてはなった。

「今はトドメは刺しません、ゆっくりといらしてくださいね」

 ゴールドはそう言うと、アルサレア軍に向かって飛んでいった。




その少し前

「シュキ、あなたはタケルをしっかりサポートするのよ。巧くできたら昇格だからね」

 昇進ではなく昇格、つまりもう少し長くオペレーターを出来るようになることを意味していた。

「はい、任せちゃってくださいよ」

 ソフィアの口車に面白いほど簡単に引っかかったシュキであった。

「じゃあ、クレア様に代わってくれる。それと、クレア様は不慣れですから恥をさらさないため、決してお声を誰にも聞かれないように。もちろん、録音もなしですからね」

「は〜い、わっかりました!!」

 大丈夫なのか?

 ケイオウのそんな顔に、ソフィアは笑って答えた。

「ちゃんと、布石は敷いてあるわ」

「あの、聞こえていますか?クレア・クラウゼンです」

 急にかけられたその声に、ケイオウは表情を一変させた。

 その滅多に見せぬ優しい顔を見たソフィアがやれやれとジェスチャーした。

「お久しぶりです」

「本当ですよ!!どうしてあなたは、いつも当たり前のように急にいなくなるのですか」

 おずおずした声が、一変して厳しいものに変わった。

「ずばり!!あなたが特尉にしてくださったお陰です」

「え!?」

「はは、冗談ですよ。でも、あなたとの約束がありますからどうかご容赦を」

「それは、分かっています。でも、帰ってきたのなら顔ぐらい見せてください。この頃はお父様ともお会いできずに寂しい思いをしているのですから」

 ソフィアはまだ知らなかった、グレン将軍が亡くなっていることを。

 それ故、ケイオウは表情を変えずに話題を変えた。

 それはどうでも良い世間話だった。

 ソフィアがいなければ、もう少し浮いた話も出たのかも知れなかったが、それでも二人は楽しかった。

「特尉、前方の彼方で爆発がありました。どうしますか?」

 無粋な言葉をかけたのはタケルだった。

 潮時、ケイオウはそう判断した。

 画面越しのケイオウが表情を変えたのを見たクレアの顔が赤くなった。

「お耳汚しは、これまでです。タケル、一旦停止だ」

「1機こっちに向かって来ますけど良いんですか?」

「向こうには神佐がいるんだ、同士討ちを覚悟しなきゃ下手につっこめんぞ」

「そうでした」

「やばくなったら迷わずお前は逃げろ、退路ぐらいは確保してあるんだろう?」

 やば!!忘れてた

 そう思ったタケルだったが、この状況でそれを言い出す勇気が彼にはなかった。

「了解しました」

「あの、わたし誰かと代わりましょうか?」

 クレアは自分が役立たずだということを知っていた、だから敢えて言ったのだった。

 そんな彼女にケイオウは滅多に見せない笑顔で言った。

「誰でも一緒ですよ、どうせ聞いちゃいませんからね。それよりも、あなたは笑っていてください。勝利の女神が笑っていれば、俺たちは決して負けませんから」

 よくもまあ、そんな歯の浮くようなことを言えるな

 誰に向けて言っているかよりも、そっちの方に感心しているタケルであった。

 その時、前方から一直線に向かってきたPFから通信が入った。

「お久しぶりね、ゼファー・ロンドゲイル。いえ、今は名無しのケイオウ特尉だったわね」

 その声と画面に現れた姿にケイオウは眩暈を覚えた。

「なるほどな、なにやらずいぶんと不明な点が見えてきたよ。まさか、まだ軍にいたとはな、驚いたよ」

 苦笑いのケイオウは、それでも嬉しそうだった。

「お知り合いですか?」

 会話からケイオウの知り合いの「女性」しかも笑顔を浮かべる相手であることを認識したクレアが割って入った。

「あなたがクレア・クラウゼン様かしら?」

「ええ、そうですけれど。あなたは?」

「私は以前ミラムーン軍で特佐をしていたゴールド・スレイブと申します」

 ソフィアはひと波乱ありそうだな、そう思うと頭が痛かった。

「あの、ミラムーンの特佐だった方が、うちの特尉になんのご用がおありですか?」

 クレアの声が固いのを確認したゴールドはぬけぬけと言った。

「クレア・クラウゼン!!あなたに宣戦布告します、私はケイオウを愛しています、だから勝負しましょう。アルサレアが特尉を失いたくなければ、これをお受けなさい」

 ゴールドはずいぶんと気を利かせていた。

 もっともそれに気づいたのはケイオウだけだった。

 クレアもソフィアもそれどころではなかったし、タケルに至ってはケイオウを愛していると、なぜクレアに宣戦布告するのかが理解できずにいた。

 タケルが朴念仁な訳ではない、朴念仁というならばケイオウの方がよっぽどひどかった。

 ではなぜ分からなかったのか、タケルは当たり前の常識を持っていたからだった。

「負けませんよ、負けませんから、絶対に負けませんから!!」

 怒りすら感じるその声を聞いたゴールドは、子供のように笑っていった。

「承りました。でも、いつまでもご自分が優勢だなんて思わないでいてくださいね。これでも、私は裸で何日も彼とベッドを共にしたのですから」

 その瞬間、ケイオウの首をソフィアが後ろから掴んだ。

 爪が当たっているためか、血が出ていた。

 クレアは泣きそうな顔でケイオウを見た。

「うそ、ですよね」

 放っておいたら泣くだろうな、そんな顔も見てみたいかも、なんて一瞬思ったらケイオウは思わず笑ってしまった。

「裸のゴールドとベッドを共にしたのは事実だが、・・が、俺はその時ミイラ男だったぞ」

 話してる途中、ソフィアの指が五寸釘よろしくヤバイくらいにめり込んだが、それも今は安全圏ぐらいまでゆるんだ。

 クレアとソフィアは「へ!?」って感じで固まっていた。

 イタズラをおもしろがるようなゴールドを見てケイオウが言った。

「クレア様、以前俺がミラムーンで失踪したときに、俺を助けてくれた女性の話を覚えておいでですか?その女性は彼女ですよ」

 ケイオウは笑っていた。

「そうなのですか?」

 コクリとうなずいたケイオウを見たクレアは、頭に昇った血が一気に下がった。

「は、はは、そ、そうだったんですか」

 それに気づかず、ゴールドはもう一押しした。

「ふふ、でも今はミイラ男じゃないからどうなるのかしらねえ?」

「大丈夫ですよ、信じていますから」

 ずいぶんと自信があるその声にゴールドは満足して言った。

「それでこそ、がんばりがいがありますわ。さて、宣戦布告もすんだことだしクレア・クラウゼンさん、お友達になりましょう!!」

 ケイオウは思わず吹き出した。

「ええ!?」

 今まで置いてきぼりだったソフィアとタケルも、目が点になった。

 何を考えてるんだ?が、ケイオウ以外の感想だった。

「流石だな、まあお前らしくて良いがな」

 ケイオウは大いに笑っていった。

「ふふ、そうでしょう」

 ゴールドも溢れんばかりの笑顔で言った。

「あの、わたしはどうしたらいいのでしょうか?」

 宣戦布告されたばかりというのもあったが、それ以上に身分が身分だけに「お友達になりましょう」そんなことを言われたことがなかった。

 だから、本当にどうして良いのかクレアには分からなかった。

「敵に回したらこれ以上恐ろしい奴はいない、だが味方にすればこれ以上頼もしい奴はいない。彼女は平たく言えば天才だ、いかなる状況においても君の役に立つだろうさ。まあ、打算を抜きにしても良い友になるだろうさ」

「あなたはどうして、宣戦布告をした相手の友達になりたいの?」

 ソフィアがゴールドに鋭い目つきで言った。

「簡単なことよ、いがみ合うより仲良くした方が良いじゃない」

 ソフィアはゴールドの答えに釈然としなかった。

「あの、こちらこそよろしくお願いしますね。ええっと、ゴールドとお呼びしても構いませんか?私のことはクレアと呼んでくださいね」

 ゴールドは笑顔で答えた。

「ええ、それで構いませんよ、クレア。さて、そろそろ戦争に話題を戻しますね。神佐がいますので、後ろのあなたは前に出ないでくださいね。後方からロキとヌエがやって来ますから、そちらを相手にしてください」

「俺は神佐を叩く」

「ええ、つゆ払いはお任せを」

「あの、くれぐれも無理はしないでくださいね」

「大丈夫ですよ、ヘルファイヤーにも耐える男に無理なんて存在しませんから」

 それもそうかな?よく分からなかったが、クレアは笑って答えた。


 どんどん話が進んでいく中、「私はヘルファイヤーに耐えられないわよーーーー!!(わよー、わよー)」とソフィアは心の中で叫びつつ、もの凄く不安でブルーになっていた。


「ケイオウ、私が言ったことを覚えていますか?」

「そうだったな、それに対してはこう答えよう。我が名はケイオウ、ケイオウ・ロンドゲイル」

 ケイオウは少しテレながら苦笑いをしたが、ゴールドはウルウルしながら今日最高の笑顔を浮かべた。

 ゴールドとケイオウが始めて会った時、ケイオウには名前はなかった。

 だから、ゴールドはケイオウをゼファー・ロンドゲイルと名付けた

 その後、ケイオウがケイオウを名乗るようになった時、ケイオウはロンドゲイルの名を感謝の意を込めて名乗るようにしたのだった。

「ありがとう。では約束に基づき、私が貴方を欲する限り、私は最強の盾となりましょう。そして貴方が私を欲する限り、私は最弱の剣となりましょう」

「ああ、任せた。タケル援護はない、死ぬなよ。ゴールド、俺に続け」

「大丈夫ですよ、そろそろ特尉のお守りも卒業しますよ」

 調子の良いこと言ってるタケルだったが、誰しも不安大だった。



 その頃神佐小隊はというと、

「いいわね、貴方の存在価値を私に見いだしなさい」

 神佐はそう言うと、中破したオードリーカスタムにリヴィアを乗せ、自分は彼女のPFに乗り込むとさっさと居なくなってしまった。

「こんな半壊したPFで、どうやってあの化け物共(特尉&特佐)を相手にしろってのよ」

 そう、リヴィアだけがこれから戦う相手にケイオウが居ることを知っていた。

「これ以降は通信は無しです。独自の判断で行動しなさい」

 これで死ななきゃ、私の運も大したものね



「後、3分で交戦に入ります」

「了解、私がお先に行きますね」

「行かせて良かったの?私はまだ信用が置けないのだけれど。それにハーメルンヴォイスシステムはどうするの?」

「ハーメルンヴォイスシステムは、セミオートコントロールにしか効かないんだよ。あれはOSに進入するウイルスだから、フルマニュアル操作の俺やゴールドには効かないよ。安心しろ、裏は取れてる。ゴールドのことは捨て置け、それより歯食いしばれ、手加減する気はないからな」

「ねえ、この機体には仕掛けはないでしょうね?なんだか、急に不安に成ってきたわ」

「特に違法改造はしてないさ、まあ奥の手と切り札はあるけどな」

 不安、そう思った時だった。

「ぐぅぅぅーー」

 ケイオウが神佐を見つけたのか、急加速をかけた。

「神佐覚悟ーーー!!」

 オードリーカスタムからレーザーピストルが放たれた。

「悪いけど、もう情報はいらないから死んでーーーー!!」

「そうこなくてはな」

 レーザーピストルは、ケイオウの機体をいつも通り避けて飛んでいった。

「全く、どうして当たらないのよ。こっちは実弾じゃないのよ」

 そう、実弾なら剣で弾道を反らすことが出来る。

 しかし、今はレーザーなのだ。

 弾道を変えることなど、物理的に不可能なはずだった。

 ソフィアも同じ疑問を持っていた。

 ケイオウはPFを止めた。

「どう見る?おかしくないか」

「確かにね、どうやって避けてたの?もしかして、奥の手」

「そうじゃない、相手が本物の神佐かどうかと聞いている?」

 あくまでクールなのね、ここが彼の強さの由縁かしら?

「今の段階じゃ分からないわ」

「そうか。さっきの質問だが、狙いが正確すぎるだよ。的確に急所だけを狙ってる、狙いが分かれば交すのは容易いさ」

 どんな反応速度してるのよ、レーザーピストルは現存する武器の中で2番目に早い弾速を誇るのよ。

 こっちが会話に花を咲かせている最中もレーザーピストルは容赦なく降り注いだが、既にケイオウは完全に読み切っていた。

「見極めてきてくれ、肩の対PFミサイルは任せた」

 これまで、ずっと接近を試みていたケイオウがいきなり距離を開けだした。

 ソフィアはここぞとばかりにミサイルを、オードリーカスタムに放った。

「今度はなに?」

 リヴィアはケイオウの急激な攻撃スタイルの変化に戸惑った。

 今までに、こんな攻撃を一度たりともしてきたことがなかったからだ。

「馬鹿にするな!!」

 レーザーピストルでミサイルを巧みに撃ち落としつつも、ケイオウが急に接近しないようにリヴィアは注意した。

「神佐は前に出て戦わない。だから強さに関しては確証がないけど、確かなことが一つあるわ。それは、あの機体の乗り手が私と互角のレベルだってこと」

「悩むだけ、時間の無駄だな。今度は俺が行く、歯食いしばってろ」

 ケイオウはWCSの制御を自分に戻すと、無軌道に撃ちまくった。

「爆煙に身を隠す気?そうは行かないわよ!!」

 リヴィアはミサイルを迎撃しつつ、爆煙の後方にさがりケイオウの出方をうかがった。

「見晴らしのいい砂漠で、私が見失うと思わないでね」

 爆煙が晴れだした途端、また無軌道なミサイルがリヴィアを襲った。

 爆煙に飲まれるものの、リヴィアは再び後方にさがりケイオウの出方をうかがった。

 そして、それが4回繰り返された。

「ええ〜い、馬鹿にしてるの?」

 何を考えているか分からなかった、だからといって今の行動を止めるつもりもなかった。

 弾切れは時間の問題だからだった。

「そう、もうじき違う動きがあるはず。そこを見極めれば、私の勝ちよ!!」

 そして、リヴィアの読みは見事に当たっていた。

 5回目のミサイル攻撃を、上昇して避けていたはずだった。

「そんな、そんはずは!!」

 ミサイルは前方から飛んできた、だから上空に回避したのだ。

 それなのに、回避直後に真下からミサイルが飛んできた。

 呆気にとられながらも、リヴィアはレーザーピストルにてそれを迎撃した。

「爆煙のせいで狙いが定まらなかったようね」

 リヴィアがそう思っていたその時だった。

 金属音がした。

 そして、もの凄い衝撃と共にGに襲われ砂漠に突っ込んだ。

 真下に注意が集中している間に、接近したケイオウが斬馬刀でたたき落としたのだった。

「がっは、あ、っうぅぅ」

 半壊していたオードリーカスタムは、沈黙するしかなかった。

「相も変わらず、もの凄いこと考えるわね」

「ふ、らしいだろ」

「ええ、恐ろしいほどにね」

 ケイオウが一体何をしたのか?

 ランダムにミサイルを撃ち砂漠の砂を巻き上げる、爆煙に隠したいのはケイオウのPFでも、ミサイルの軌道でもなかった。

 それは、トラップだった。

 トラップとは何か?

 それは、両肩に装備した対PFミサイルだった。

 爆煙に紛れてその片方を外し、砂漠の爆煙の中に密かにセットしたのだった。

 後はレーザーピストルの弾道からリヴィアの位置を目測し、彼女を巧く誘導したのだった。

 最後はリヴィアが罠の上に来たところを見計らって、ミサイルで対PFミサイルを撃てば良かった。

 ミサイルが、彼女に向かって飛んだのは偶然だったが、別に飛んで行かなくてもいっこうに困らなかった。

 たとえ大爆発したとしても、彼女の意識が一瞬でもそちらに向けば結果は変わらなかったからだった。

「さて、出てこいよ。ヴァリムのパイロットさんよ」

「注意しなさい。もう、残弾も一桁なんだから」

 ソフィアの注意を聞きながらも、ケイオウは目の前のPF以外の場所に意識を集中していた。

 どこ、とは明確に示せないが、視線を感じていた。

「大人しく出て行くから、攻撃しないで」

 リヴィアは両手を上げてPFから出てきた。

「リヴィア・ストール、なるほどね」

「知り合い?」

「ああ、前に一悶着あってね。クレア様も変形した顔なら拝んだことがある、ヴァリムの諜報員さ」

「なにそれ?」

 ソフィアの疑問には答えずにケイオウは言った。

「おい、神佐はどうした?」

 リヴィアはやれやれとジェスチャーしながら言った。

「とっくに逃げたわよ」

 ケイオウも、ソフィアもそれを聞いても、さして驚かなかった。

 そんなことだろうと、ソフィアは思っていた。

 ケイオウは、うざったい視線の相手が神佐だと言うことを確信した。




 その頃、ゴールドは逃げ帰るヌエの後ろ姿を見送っていた。

 砂漠戦に特化したロキ・デザートだったが、ノーマルサックによる攻撃の終了硬直を狙ったゴールドの前にあっさり轟沈したのだった。

 機体性能云々よりも、うでとセンスが違いすぎた。

「そこの貴方、逃げるものを背後から襲ったりしませんからお逃げなさい」

「し、しかし」

「大丈夫、神佐もじきに居なくなるわ。それとも私と戦って勝てると思いますか?」

「分かった、信じます」

 ものの10分とかからず、決着がついたのだった。

 その間もゴールドはケイオウの様子を遠巻きに見ていた。



 その頃タケルはというと

「くそ、機体性能に差がありすぎる」

 既に泣きが入っていた。

 今回は、作戦、退路の確保、PFの仕様その他全てをタケルが立てていた。

 しかし不慣れなためか、穴だらけだった。

 機体は砂漠に足を取られまともに攻撃をかわすこと出来なかった。

 それでも撃破されていないのは、今までに機体が沈黙するまで戦ってきた経験の成せるワザだった。

 ケイオウが手を貸さずに、窮地を経験してきたことがここで実を結んだのだった。

 とはいえ、タケルが砂漠用のOSを積んできていたら互角以上に戦えるほどに、タケルの経験値は高かった。

「アルサレア如きが、諦めて死ね!!」

 それでも、タケルはノーマルサックの攻撃が仕掛けにくいところにロキ・デザートを誘い込み、起死回生の一撃を狙っていたその時だった。

 紅の閃光がロキ・デザートをなぎ払った。

「な!!」

 何が起きたかタケルには分からなかった。

 だが、ケイオウの側に長くいたせいか、面の皮が厚くなっていた。

「見たかーーー!!次は、お前の番だぞ!!」

 思いっきりはったりだった。

 だが、ヌエのパイロットはタケル以上に新兵だった。

「クソ、覚えてやがれ!!」

 ベタなセリフだな、そんなことを思いながらタケルは第2波に備えて砂漠に身を隠した。

 遙か彼方から、後方支援したゴールドはその姿を見て笑った。





 タケルが何とか生き残ったその頃

「で、こっちは投降の意志を表示してるんだけど、貴方はどうするの?」

 リヴィアはパイロットスーツを脱いで、武器を持っていないことを示して見せた。

 別にケイオウを悩殺しようとか思ってはいなかった。

 ただ、生き残ることに彼女は賭けたのだった。

 そのための誠意だった。

 そして、リヴィアはケイオウが律儀な男だと言うことをよく知っていた。

「安心しろ、お前には借りがある。見逃してやるよ」

「借り?」

 リヴィアにはなんのことかまるで分からなかった。

 だが、生き残れるなら何でも良かった。



 リヴィアがケイオウのPFの手に乗ったその時だった。

「まったく、使えない駒ね」

 その声と共に、ケイオウのPFが斬り飛ばされた。

 ケイオウは、激突の瞬間しゃがんだまま上体を反らした。

 だが、交しきれずに吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされながらもケイオウは斬馬刀を砂漠に叩きつけ、その衝撃でバク宙をかまし見事に着地した。

 しかし、それすらも神佐は読んでいた。

 ケイオウはいきなり後ろから斬りつけられた。

 それと同時に、リヴィアが降りたオードリーカスタムが、上半身を起こしレーザーピストルを撃ってきた。

「やってくれる!!」

 ケイオウは瞬時にリヴィアをコクピットに押し込みながら、足下に対PFミサイルを撃ち込んだ。

 レーザーピストルは巻き上げられた爆煙で威力を殺したとはいえ、避けることは出来なかった。

 しかし、神佐のPFはケイオウ諸共爆発に巻き込まれ吹き飛んだ。

 くのいち、それもシノビザクラによる瞬間移動機か

 ケイオウは吹き飛びながらそれを確認した。

「切り札を切る。死にたくなかったら、リヴィアはソフィアの足下にしがみついてろ!!15秒でカタを付ける」

 そう言うとケイオウは武装を強制解除し、HMを発動した。

 紫の閃光を放ったケイオウの機体が、コブシで爆煙を引き裂いた。

 そして猛烈な速度で、起きあがって転移を開始した神佐の機体を右手で掴み、左手で思いっきり殴り飛ばした。

 その瞬間、左にはじき飛ばされた神佐の機体を追い抜いて、右のコブシをたたき込んだのだった。

 そして、今度は右側にふっとんだ神佐の機体を追い抜き、左のコブシを叩き込んだ。

 神佐の機体は左右に大きく弾かれながら崩壊していった。

 それが7回に達した時、ケイオウは既に両腕と頭のもげた神佐の機体を砂漠に叩きつけ、そのまま砂漠を舐めるように押しつけながら最大加速で、オードリーカスタムに激突させた。

 神佐の機体はオードリーカスタムを貫いて、遙か彼方の砂漠に突き刺さった。

「ジャスト15秒!!ふーーー、生きてるか二人とも?」

 返事がないことに焦ったケイオウが後ろを振り返った。

 ソフィアは真っ青になって、ぐったりしていた。

 かろうじて意識はあるものの、その目は明後日を見ていた。

 そしてリヴィアは、あられもないカッコのままコクピットルームの外壁と同化していた。

 ぴくぴく身体が痙攣しているので、死んではいないようだった。

 その時、HMが終了し発動硬直に入った。

「ふーーーーーーぅ、流石につかれたな」

 パイロットシートに背を預けてケイオウは伸びをした。

「お疲れ様です」

 タイミングを見計らったように、ゴールドが声をかけてきた。

「タケルは生きてるか?」

「ええ、ずいぶんと修羅場でしたけどね」

「はは、そうか。ここを頼む、俺は神佐をみてくる」

 そう言ってケイオウは、シートベルトに手をかけたときだった。

「ダメですよ、女性には優しくしなくてはね。最後まで責任を持ちましょうね。神佐の方は私が見に行きますから」

「ふう、相手が女性だから頼んだのがな」

「ふふ、免疫、付けた方が良いですよ。では」

 ゴールドはあっと言うまい神佐の元へ飛んでいった。

「秋の空・・・・、か」

 ゴールドが何を考えているのかさっぱりだったが、とりあえず振り返って現実を見ることにした。

 そこには、虚ろな瞳から涙をこぼしながらケイオウを睨み付ける視線があった。

「だ、だい、じょう、ぶ?」

 気押されたのか、ケイオウの声は途切れ途切れだった。

「う、そ、つきいー」

 肺がまだ機能を回復していないのか、むせこみながら叫んでいた。

 声になっていなかったが、ケイオウはその声に殺気を感じた。

「イヤ、ジャスト15秒でかたづけましたよ」

 ここが平らな場所だったらケイオウは正座をしていただろう。

「神速を積んできたでしょう、私を殺す気!!」

 ケイオウは力の限り頭を左右に振った。

「いや、積んでないよ。ただ、腕稼働率が400%だったり、移動速度が300%だったりするだけですよ」

「元から殺人的スピードの機動性能があるのに、さらに移動速度が300%ですって?やっぱり私を殺す気だったんですね」

 ソフィアの声は、とても柔らかかった。

 既に殺気を放つのを通り越して笑顔だった。

 ケイオウは過去に味わったことのない戦慄を感じていた。

 ソフィアは右腕をゆっくりと上げ始めた。

 ケイオウは、恐怖とは別のものを感じて反射的にソフィアの右脇を軽く叩いた。

「あぅぅ、う、う」

 ソフィアはゆっくりと自分を抱きしめようとしたが、ケイオウはその腕を捕まえた。

「動くな!!ゆっくりとシートに身体を預けろ、肋骨が折れている」

「なんか、急に痛くなってきたわ」

「緊張が解けたからだな、肌をさらすのがイヤでないのなら手当をするがどうする?」

「道具も、知識もなくて、何をするつもり?」

 流石にこの状況で、この男が邪なことを考えもしないだろう、どうするつもりなのだろう?

 そう思っているソフィアの目の前で、ケイオウがアルサレアのツナギの様なパイロットスーツの代わりに着ている、和服のように左右に開くタイプのパイロットスーツの胸をはだけた。

「ちょ、ちょっと〜〜」

 ソフィアは真っ赤になりながら、ケイオウから目が離せずにいた。

 上半身裸になったケイオウは、おもむろに腹部に爪を突き立てると腹を引き裂いた。

「っきゃぁぁーーー!!」

「あ」

 ケイオウはソフィアの叫び声を聞いて思い出した。

 外から見るとでっぱった腹には医療装備を隠し持っているのだが、ケイオウに近しいものしかそれを知らないと言うことを忘れていた。

 その上、装備の下は度重なるヘルファイヤーの影響でもの凄いケロイドになっていた。

 ぱっと見でなくても、バイオハザード状態だった。

 ケイオウは全身のヤケドを隠すため、いつも人工皮膚で作ったでアンダースーツのようなものを着込んでいたので、その事実を知るのは、ケイオウがヘルファイヤーを使って病院に担ぎ込まれるのを見たクレアと、ケイオウの養子のラムスとシェルぐらいだった。

 妙な勘違いが、いきなりの恐怖に変わりソフィアは嘔吐した。

「う・・・」

 しかし、あらかじめケイオウの機体に乗ることが分かっていたソフィアは、食事を抜いていたため吐き出すものがなかった。

 ケイオウは和服の袖から瞬時に鍼(はり:もちろん医療用)を引き抜くと、ソフィアの腕と手と喉に刺した。

「なに?」

 あまりの自体にソフィアは、泣きが入っていた。

「まずは動くな、吐き気止めと痛み止めのツボに鍼を刺した。一応大昔から続いている東洋医療だ。安心しろ、医師免許も持っているし、引きちぎった部分にはこれが入っていたんだよ」

 ソフィアは、ケイオウが手にしているものを見た。

 輸血用のパックやら、添え木代わりにする軟性の金属プレート、その他良く見知った医療装備だった。

「は、はじめに、言って、欲しかった」

 ソフィアは泣きながら、今さらながらに思った。

 この規格外人間は!!

「驚かして悪かったな、これを使うのは久しぶりだから忘れていたよ」

「そのもの凄いお腹は、嫌がらせですか?」

 ソフィアは勘違いしていた、内臓の動きまでもが顕著に見えるケロイドなど有りはしない、質の悪い冗談だと思ったのだ。

「は、ははぁ」

 痛恨だった。

 固まってしまったケイオウを見たソフィアが察した。

「もしかして、・・・・ごめんなさい」

「いいさ、事実を隠していたのは間違いないからな」

 事実を隠す、その言葉に反応して目覚めたリヴィアが二人を見た。

「いーーーや〜〜〜!!」

 グロテスクな腹をさらしたケイオウと、鍼でのど元を串刺し(誤りです、正確には食道に達しない深さ、1センチぐらい)にされたソフィアを見たリヴィアは、絶叫と共に気絶した。

「「あ!!」」

 タイミングが悪かったが、まあ、いいか、二人はそんなことを思っていた。

「で、どうする?手当てするか?じきにゴールドが戻ってくるからあいつに任せるか?」

「ふう、貴方と彼女の間に何があったか知らないけど、不用意に信用しすぎよ」

 明らかにケイオウはゴールドに対しては警戒が甘かった、否まるでなかった。

 それがソフィアには危うく見えた。

「心配は無用だよ。それより病人、どうする?熱が出る前に決めてくれ」

 そう言うとケイオウは、ソフィアに刺した鍼を抜いた。

「お願いするわ、他に信用置ける人が居ないから」

 苦笑いをしながらケイオウは目隠しをすると、両脇の下の肋骨に振動を加え骨折部位を確認すると、目隠ししたまま器用に治療を始めた。





 その頃、ヴァリムKでは、ポリタンの大部隊に襲われていた。

「ポリタン6機、カスタムPF1機どうします?」

「どうしますって、なあ」

「そうだよ、なあ」

 神佐から解放されたせいか、ヴァリム兵はゆるみまくっていた。

 そこに、大部隊に襲われて大いに浮き足立っていた。

「防衛するんだよ!!」

 胸に包帯を巻いて、上着を肩からかけたシャドーが叫んだ。

「何やってんだよ、ボンクラ共!!俺が指揮を執る。YAMABUSIは2機とも基地を離れ、基地に殺到したポリタン共を後ろから叩け、ミラムーン側は俺が守るからヴァリム側はヌエを回してくれ。基地は攻撃ではなく煙幕を張り視界をふさげ、YAMABUSIの攻撃を同士討ちに見せかけさせる。心理的にプレッシャーをかけて撤退を促す。分かったらさっさと散れ!!」

 死んだ人間が生きていた、そのことに驚いた一同はなし崩し的にシャドーの意見を受け容れてしまった。

「せっかく拾った命を、こんなことで失ってたまるか!!」

 シャドーはPFに乗り込むと、自分に言い聞かせるように叫んだ。



 その頃ミラムーン軍は、自分こそがゴールドを救出するという栄誉を手にしようと、皆血気盛んだった。

 そのせいで、作戦らしい作戦もなくごり押しが開始された。


 まあ、そうは言ってもジークの部隊は、かろうじてジークが指揮をとっていたせいか、部隊としての動きを見せていた。

 ジークはポリタン3機を楔のように突っ込ませて、少し距離を置いて基地に向かっていた。

 最後尾に居るのは別に臆病風に吹かれたわけではない。

 退路を確保するためだった。

 この次点では、ミラムーン軍はまだ神佐とゴールドがこの基地にいると思っていた。

 そして、自分たちが殺到すればゴールドは期を見て決起すると思っていた。

 ハーメルンヴォイスシステムのことまでは、誰も頭がいっていなかった。

 とにかく、ゴールドを逃がせばここで大敗しても立て直しが効くというのが、前線部隊の総意だった。

 よもや、今攻めた基地にゴールドが居ないとか、既にアルサレアに鞍替えしたなんてことは、誰一人思っていなかった。



「馬鹿みたいに突っ込んでんじゃねえ!!」

 シャドーは我先にと殺到するポリタン3機を上空から、スマートガンで迎撃した。

 攻撃されて始めて存在に気づいたポリタンが、ガトリングで応戦し始めた。

 次の瞬間、基地からは煙幕弾が盛大に放たれた。

 それを確認したシャドーは、射撃を止めるとポリタン達の上に落ちていった。

 両足で2機のポリタンを左右に蹴飛ばし、レーザーソードで残りの1機を切り捨てた。

 それに呼応するように、YAMABUSIがヒートパイルハンガーでポリタンをはじき飛ばした。

 弾かれたポリタンは、無事だったポリタンに激突した。

「どこ見てんだよ!!」

 ぶつかられたポリタンのパイロットは叫びながら、味方の識別反応のあるPFを見た。

 既に、スクラップになっていた。

 それだけではない、いつの間にか味方の識別反応が1つ消えて居るではないか、その上敵の識別反応が1つ増えていた。

 ミラムーンのパイロットは戦慄を覚えた。

「う、うわぁぁぁぁーーーーー!!」

 絶叫と共に撤退を始めたポリタンをYAMABUSIがトドメを刺しに向かったが、シャドーがたしなめた。

「馬鹿野郎!!逃げた奴を追ってる場合か、こっちは攻められてるんだぞ!!ヴァリム方面の援護が先だ!!」

 そう叫ぶと、シャドーは胸の痛みに耐えるながら再び天に舞った。

 YAMABUSIも興奮からようやく正気になったのか、大急ぎでシャドーを追った。

 このときYAMABUSIのパイロットは気づかなかった。

 敗走を開始したポリタン1機撃破するのに大した時間はかから無いことを。

 では、シャドーが戦闘の高揚感のために判断ミスをしたのか?

 否、判断ミスではない。

 ワザと殺さなかったのだった。

 無益に命を奪うことをよしとしない、そういった考えがあったわけでは決してない。

 ただ、ミラムーンのゴールドに命を助けられたことに思うところがあった彼が、何となくそうしたくなっただけだった。





 ミラムーン方面の戦いが、始まった少し後

 ヴァリム方面でも戦闘が始まった。

 先頭を走っていたポリタンがヌエと交戦を始めたが、両脇のポリタンは戦闘には参加せずに基地に向かった。

 ジークは基地から放たれた煙幕を警戒して、煙幕の有効範囲の端に待機した。

 下手に煙幕から出ていると、それだけで目立ってしまい的になる可能性があったからワザと煙幕に身を隠した。

 そして、煙幕の中に目を凝らしているときだった。

 急に漂っていた煙幕が流れた。

 何事かと思ったジークの目に映ったのは、YAMABUSIの背部バーニアの炎だった。

 瞬間的にジークは反応した。

 バーニアの炎目掛けてインブレイクスピアを突き出した。

 そして、相手を貫いた確かな手応えを感じた瞬間、スマートガンを連射した。

 だが、それが間違いだったことにジークは気づいていなかった。

 そもそも、ジークはどこにインブレイクスピアを突き立てたのかすら分かっていなかった。

 そう、インブレイクスピアが貫いたのはコクピットコアの真後ろにあった背部バーニアである。

 つまり、たった1撃目でYAMABUSIのパイロットを絶命させていた。

 ジークはそれに気づいていなかった。

 そして、ジークが放ったスマートガンはどうなったかというと、インブレイクスピアから崩れ落ちるように前のめりに倒れたYAMABUSIの上空を飛んでいった。

 そして、その弾は先行していたポリタンを襲ったのだった。

 期せずしてシャドーの思い通り、勘違いではなく本物の同士討ちが始まったのだった。

 先行していたポリタンは焦った。

 ジークが居るからこそ安心して、大胆に攻めていたのに攻撃があったからだった。

 そして、運命のイタズラはさらに続いた。

 ポリタンのパイロットの一人が、着弾した弾をスマートガンのものと識別できてしまったことだった。

 スマートガンはヌエの標準装備であり、まさかジークが自分たちに向かって撃ってくると思わなかった兵士達は、後方から少なくとも1機以上のヌエが伏兵に潜んでいると確信した。

「伏兵だ、撤退しろーーー!!」

 その声にパニックに陥っていたミラムーン軍は全員ちりぢりに撤退を開始した。

 ヌエのパイロットは、YAMABUSIかシャドーが来たせいで撤退したのだと思い安心した。

 煙幕が残っていなかったら、追撃でもするのだろうが今はそんな気分にはなれなかった。

 そして、煙幕が晴れたヌエが見たものは、コクピットコアを見事に貫かれたYAMABUSIだった。

「あの状況でこれほどのことが出来るものが居て、なぜ奴らは撤退していったんだ?」

 ヌエのパイロットは思わず声に出した。

 それほどこの状況は理解できないものだった。

 シャドーは自分の立てた策通りと主張したが、この疑問だけは誰にも解決できなかった。




撤退中のジーク部隊

「すまない、俺がYAMABUSIに気を取られていたせいでヌエの増援に気がつかなかった。すまん」

 ジークはがっくりと肩を落として謝った。

 皆必死だった、だからジークを攻めるもは誰一人いなかった。

 だが全員の胸には、何とも言えない喪失感だけが重くのしかかった。

 それなりの経験がある指揮官がいれば、レーダーを確認したり、ゴールドが行動を起こさない次点でおかしいと思い、疑問をぶつけ次の行動をどうするか考え、志気が低下するのを押さえるのだろうが、ジークを含め新兵の間にそれが出来るものは存在しなかった。




 ミラムーンが大敗を期して撤退を始めた頃、ケイオウ達は撤退すら出来ずにいた。

 夜のとばりがおりたころ、ケイオウ達はたき火を炊いて食事を取りながら砂漠に車座になっていた。

「HM使っても機体が崩壊しないのは、良いのか悪いのかわからんな」

 ケイオウがぼやいた。

 タケルと合流したケイオウが本部に退却を報告しようとしたとき、シュキの口からヴァリムI基地がミラムーンに落とされたと告げられたのだった。

「アルサレアも間抜け揃いね」

 ソフィアと違い骨折がなく、極度の全身打撲を負ったリヴィアが言った。

 こうまで馬鹿にされて反撃の一言でも言いたいところだが、今回の作戦を一任していたタケルにはそれを言い出すだけのものが無かった。

 そして、ケイオウはクレアとお目付有りとはいえ、話が出来ることに浮かれていてタケルの作戦について目を通してなかった。

 ソフィアもケイオウのPFに同乗して殺されないように、出撃寸前まであちこちチェックをしていたので作戦書に目を通していなかった。

 アルサレアの特尉も聖女も形無しだった。

「まあ、下着姿でふんぞり返ってる恥知らずはこの際おいといて、そろそろ活動限界です。動けなくなる前に補給をしましょう、どこに戻るにも砂漠をわたらなくてはなりませんから、足が無くなったらおしまいですよ、ね」

 恐ろしい程に爽やかな笑顔を称えたゴールドが言った。

「問題はどこで補給するかだな、どこかを奇襲するにしてもPFを隠し生身で攻めなくてはいけないし、下手に隠すと砂漠にうまっちまう危険がある。ふう、なかなかやっかいだな」

 これ以上最悪の状況は無いだろう、そんな状況にも関わらずケイオウは微笑を浮かべていた。

 それを見たゴールドが、嬉しそうに言った。

「大丈夫ですよ、補給の当てはちゃんとありますよ。私だって、伊達に神佐について戦場に出てませんから」

「ずいぶん用意が良いわね、それとも何か企んでるの?」

「それぐらい、乙女のたしなみですわ」

「はは、さすが!!」

 ケイオウは手を叩いて喜んだ。

 タケル、ソフィア、リヴィアがそれを見て驚いた。

 余りにも彼らしくない行動に皆、ついに壊れたか?など無礼なことを思った。

「さて、では善は急ぎましょう。っとその前に、リヴィアさんこれをどうぞ」

 そう言うと、ゴールドはパイロットスーツの上から来ていた漆黒のワンピースを脱いでリヴィアに手渡した。

「え?」

 あまりにそこにいることに馴染んでいたリヴィアが驚いた。

「流石に、貴方までお連れするいわれはありませんから。それとも、包帯下着姿でヴァリム軍の基地まで砂漠を歩きますか?」

 流石にそれは無理だろうな、殺されずに手当してもらったことに感謝しなくては。

 そう自分に言い聞かせると、リヴィアは漆黒のワンピースを着て砂漠を歩き出した。

「頭っから砂をかぶって服を汚せば、少しは熱を軽減できるぞ!!」

 リヴィアの後ろ姿に向かってケイオウがそう叫んだ。

「ソフィアさん、動きますけど大丈夫ですか?」

 ソフィアは既に熱を出しぐったりしながらうなずいた。

「タケルさん、彼女を副座に乗せてあげてください」

「あ、はい。分かりました」

 タケルがソフィアを運び出して二人っきりになったことを確認したゴールドが切り出した。

「これを」

 ゴールドの手には、髪の毛と白いものがあった。

「それだけか?」

「ええ、完全にバラバラで臓器すら判別不能でした」

「ふう、やりすぎたか。まあ、時間がなかったからな」

 そう言うと、ケイオウはゴールドの手から白いものを取り上げると、おもむろに腰に下げていた愛刀の虚空で切り裂いた。

 そして断片を見たケイオウはため息をついた。

「偽物、いや急速成長のクローンか?」

「おそらくは」

 丁度、そこにタケルが帰ってきた。

「どうしたんですか?」

 タケルがゴールドの手に握られているものを見て固まった。

 ゴールドの手には頭皮のついた髪の毛に、人の歯が握られていた。

 一瞬気が遠くなったが、平然としている二人を見てこんなことで気を失ってる場合じゃない、そう思って虚勢を張った。

「これはどういうこと出すか?」

「神佐がクローンだった証拠だよ」

「いったい、なぜ?」

「真っ二つになった歯の断片を見てください」

 見たが、だからどうなのだ?タケルに分かることはなかった。

「医学知識がないとわからんものなのかな、やはり」

「そのようですね」

 二人は薄く笑いながら、タケルを見た。

 タケルは居心地が悪かったが、興味深そうに二人を見た。

「断面をよく見ろ、表面に色素沈着がないだろ?普通は、食べ物や口内細菌の影響で何らかの色が付くんだよ。タバコなんか吸ってると顕著に見られるな」

 たしかに、淡い乳白色一色だった。

「でも、良く歯を磨いたり、マニキュア塗ったりすれば」

「歯が白くなるような歯磨き粉もあるけど、一度沈着した色素は断面を見れば簡単に分かりますわ。それに、マニキュアは塗ってあっても白いのは表面だけでその下は色が付いているのが普通です」

「は、はあ」

 ホントに分かってるのか?疑問に思ったが、話を続けることにいた。

「要するにだ、こんな色素沈着が全くない歯をしているということは、急速成長のクローンぐらいだ」

「まあ、何となく分かりました」

「話を戻すが、お前が会っていた神佐は、どう見る?」

「本物だと思います、少なくとも精神は」

「ふう、ど〜もきな臭いな」

「神佐の目的も完全には分かりませんでしたし、近々大きい動きがあるかも知れませんね」

 ケイオウはうなずいて、タケルを見た。

 そして、苦笑しながら言った。

「ゴールドとりあえず、案内を頼む」

「ええ、お任せあれ」

 タケルはケイオウの苦笑の意味が分かっていなかった。

 ただ、頼りないとか不安とか思われたのだと勘違いしていた。







 ケイオウ達がゴールドについて行ってる時、ヴァリムから1機の輸送機が飛び立っていた。

 輸送機にはカノンが乗っていた。

 あくまで目的はイオスのPFの残骸回収だった。

 カノンはそんな輸送機に淡い希望を持って乗っていた。

 未だにカノンはイオスが戦死したことを認められずにいた。

 しかし、現実は甘くなかった。

 機体は爆発により完全に崩壊していた、唯一回収できたのはブーストサイファー1本だけだった。

「現実はいつも過酷なもんだよ、お嬢ちゃん」

「ひどいよ、なんでお兄ちゃんが死ななきゃならないの、ねえ、なんで・・・」

「お前の兄さんは無駄に死んだんじゃない、お前の為に戦った。そして死んだ。全てはお前のためだった、残されたお前は何を考え、そしてどうする?」

 答えなんて無かった、ただカノンには現実が重かった。

 そして、カノンは輸送機から外の流れる景色を虚ろな瞳に映していた。

「お、にい、ちゃん、止めてーーー!!お兄ちゃんが生きてる!!」

 アルサレアとヴァリムの国境付近の砂漠地帯に何かが光ったのを見たカノンが叫んだ。

 本来ならば無視してしまうところだが、この輸送機の隊長は器がでかかった。

 カノンは輸送機が着陸すると、光に向けて飛び出した。

「お兄ちゃーーーーーん!!」

 砂漠の中には半分以上砂に埋もれた人の手が出ていた。

 その手にはナイフが握られていた。

 カノンはその手を握ると叫びながら砂を払った。

「あ、あぁぁ」

 小さな叫びと共にカノンは動かなくなった。

 カノンが掘りだした人は、イオスではなかった。

 埋まっていた人はショウだった。

 カノンは絶望した。

 しかし、ショウにとっては奇跡だった。

 過酷な現実から奇跡の生還を果たしたショウの目には、虚ろではかなげな少女が天使に見えた。











11〜12ターンへ続く
 


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