第9章のお話
前編
コップの中の水が床にこぼされた途端に凍り付くような、そんな極寒の中にコバルト小隊はやって来ていた。
別にバカンスにやって来たわけではない。
そう、ベリウムの身柄確保のためにリベル諸島へ行くためにここに来ていた。
しかし、コバルト小隊の前にはヴァリムの猛牛が立ちはだかっていた。
現在コバルト小隊は、大氷原の左下にやって来ていた。
「コバルトリーダー、この先どう攻めましょうか?」
椅子の背もたれに胸を預け、垂れているコバルトリーダーにジータが言った。
「あ〜、まあ隊を二つに分けてガンガン行こうか」
「あの、そう言うことではなくて、もっと具体的に指示を出してくださいよ」
やる気にないコバルトリーダーの相手をしているジータに、ギブソンが言った。
「若いうちの苦労は、買ってでもするもんだゾイ」
「いや、でもですね。ってコバルトリーダーどこへ」
「ハンガー」
コバルトリーダーの後を追おうとしたジータにアイリが言った。
「止めときなさいよ、こうなった原因はあなた達にあるんだから、機嫌が直るまでほっときなさいよ」
「確かにそうですが、このままでは・・・・」
言いながらリンナは顔を伏せた。
「大丈夫だよリンナちゃん、なにやらやっこさん企んでるみたいだし、準備が出来たら機嫌も良くなるさ」
キースの言葉にリンナは、ため息をつきながら言った。
「今度は一体何を企んでいるのですか?」
「考えるだけ無駄でしょうね、常に人の裏をかくことを生き甲斐にしているようですから」
チェンナもヤレヤレとジェスチャーをした。
一体全体どうしてこんな雲行きの怪しい状況になったのか?
それはコバルトリーダーの装備と、リンナの告白に対する答え方に問題があった。
コバルトリーダーはPFの装備として、こよなく斬馬刀と、ヘルファイヤーを愛していた。
前者はともかく、後者は物騒すぎたった。
コバルトリーダーはリンナに告白された際に、ヘルファイヤーによって自分は全身ケロイド状態になっており、長く生きられないそう言ってリンナを振ったのである。
もっとも、全身ケロイドになっているのは事実だったが、それはコバルトリーダーになる前からであり、その状態にもかかわらず彼は何度もヘルファイヤーの餌食になっていた。
平たく言うと、全身ケロイド状態などコバルトリーダーにとっては、かすり傷ぐらいにしか意味を成さないのだった。
しかし、それこそが今の状況の発端だった。
リンナはふられたにもかかわらずコバルトリーダーの身を案じて、コバルトリーダーが戦場に出るのをことごとく難癖を付けて阻止していた。
もちろん、リンナ以外のメンバーもそれに荷担していたのは言うまでもない。
まあ、それでもコバルトリーダーはちょくちょく出撃した。
なぜなら、コバルト小隊は人材不足なのだ。
ちなみにコバルトリーダーが出撃する時は、リンナが常に両機についてきていた。
そう、リンナは諦めていなかったのだ。
とはいえ、コバルト小隊はよほどの状況にならない限りコバルトリーダーとギブソンを温存することになった。
そして、コバルトリーダーは隊員からご隠居扱いされることに飽き飽きしていた。
そのせいで、コバルトリーダーは機嫌が悪かった。
「で、これからどうする?ホントに適当に進むわけにはいくまい」
「ねえねえ、マコッちゃんにいい考えが・・」
ムラキの意見にマコトが口を開いたが、あっさりアイリに切り捨てられた。
「あたしと、キースが部隊を率いてガッツン、ガッツン進行すればいいわ」
「今度はワシも出番があるんだろうな」
いつの間にかアイリの背後に這い寄っていたギブソンがボソっと言った。
「うわわぁぁぁーーー、ああああ、あんたいつからそこに」
「は〜〜〜、ここの守りと、いざってときの助っ人、それから2小隊の配分。さて、どうすっかな〜〜〜」
派手に横っ飛びをするアイリを見ながら、キースはため息ながらに言った。
「やっぱ最後はこれでしょ」
オスコットは、コップに割り箸を突っ込んで持ってきた。
「まあ、これが一番後腐れがないですね」
そしてくじ引きは行われた。
結果
居残り組は、オスコット
助っ人、コバルトリーダー、キース、ムラキ
A小隊、ギブソン、マコト、チェンナ
B小隊、アイリ、ジータ、リンナ
となりました。
(なおこのお話にランブルは出てきません、理由は同作者の「戦士の覚悟と、戦場の希望」をお読みください)
1時間後
「それではコバルトリーダー行って参ります」
「儂らも行って来るゾイ」
「機嫌いいな、おっさん。まあいい、とっとといきな」
「ほ〜ら、さっさと行かないと同士討ちになるぞ」
コバルトリーダーはしっしとばかりに手を振り、リンナとギブソンを追っ払った。
ちなみにA小隊はコバルトリーダーのいる基地から北上し、B小隊は東に進路を取って進行した。
3時間後 キブソン小隊
「もうじき、ヴァリムの基地じゃゾイ!!しっかり気合い入れるんだゾイ」
ギブソンは久しぶりの戦闘に意気揚々だったが、彼の気合いは酷くもすぐに報われることはなかった。
ジャマをしたのはマコトだった。
「ねえねえおっちゃん、PFの性能を上げる新しいシステムがあるんだけど使ってみない?」
「ちょっと、マコト!!またいい加減なものを」
チェンナはマコトをたしなめようとしたが、機嫌がいいギブソンは思わずそれに乗ってしまった。
「そう人を疑うもんではないゾイ!!どうすればいいんだ?」
「おっしゃー!!任せて、いっくよ〜」
ポチッ!!
マコトは何かのスイッチを押した。
その途端に、3機のPFが黒い光をあげた。
否、黒い煙を上げた。
「マコトーーーーー!!!!!」
いわんこっちゃない、そう思いながらも何で自分の機体からも煙が上がるのか理解できずにいた。
「あ、あれ〜〜」
「どうなっとるんだ?」
「ちょっと、一体何をしたのよマコト」
「局地用にOS書き変えただけだよ」
「なんでよりにもよってOSなのよ〜〜〜」
チェンナはコクピットで身体を二つに折ってうなだれた。
「とにかく、早く元に戻すんじゃ」
「ああ、うん」
「マコト、何もしないで!!」
マコトはまた何かのスイッチを押した。
「「「わわわぁぁぁぁーーーーーー!!!」」」
その途端、3機のPFはフルスピードで後ろ向きに走り出した。
そして、左手にある崖に勢いよく落ちていった。
その状況をトレースしていたクランが叫んだ。
「キブソン小隊ロスト!!そんな、敵影も何のに!!こちらクラン、キブソン小隊応答願います!!こちら・・」
「場所は!!」
コバルトリーダーの声に即座に反応したクランは、座標を確認すると同時にコバルトリーダーの出撃準備をハンガーに伝えた。
その頃 アイリ小隊
「偵察ご苦労!!」
女の子をこき使う気?そう凄んだアイリと、リンナに負けたジータがこれから落とす予定の基地の様子見から帰ってきた。
「で、どうでしたか?」
始めは脅迫まがいの命令にカチンと来たジータだったが、女性に詰め寄られるのは悪い気はしなかったせいか、ジータは上機嫌だった。
まあ二人は、ただ単に情報を知りたかっただけなのだが。
「詳しいことまでは分かりませんが、熱源反応はありませんでした」
「じゃ、一旦戦力を後退させて総力戦の構えかな」
「そうでしょうね、ベリウムもそろそろ底が見えてきましたね」
「長かったですね」
「・・・・・、ちょっと!!なに感慨にふけってるのよ、まだツラすら拝んでないのよ!!それに、ベリウムみたいな小物捕まえても大した手柄にならないんだから」
「「そうなんですか!?」」
「あのねぇ〜、ベリウムなんてはっきり言ってどうでも良いの!!問題は、あのバカがGエリアを荒らしてることだけが重要なの!!もし、たとえば変態三人衆が荒らしてたって私たちは狩り出されるわよ」
「変態三人衆?」
「あ〜〜〜、もう、変なの思い出させないでよ!!」
言い出したのはアイリさんじゃないか
思ってもキースのように口に出せないジータであった。
もちろん、その方が賢明なのだが。
「まあ、とにかくコバルトリーダーの手を煩わせないようにとっとと落としに行きましょう、アイリさん」
「うっしゃあ!!行くわよ、リンナ、ジータ!!」
「参ります!!」
「了解しました!!」
その30分後には、アイリ小隊は見事に目的のヴァリム基地を制圧したのだった。
アイリ小隊が基地を制圧するちょっと前
「ふぅ〜、出番は欲しいのだがもう少しタイミングを考えて欲しかったな」
「顔、にやけてるぜ戦友!!」
コバルトリーダーとキースは、ギブソン小隊救出のためにPFに乗り込みながら会話をしていた。
「でもいいんですか、隊長」
ムラキは助っ人が誰もいなくなってしまう事を不安に思った。
「大丈夫さ、リンナが暴走する前にアイリが暴走するだろうからな」
「だから、自分はそれを・・」
「だ〜か〜ら、心配ないって!!あいつが暴走したら双子の悪魔だって迂闊には攻めてこない程やばいんだからさ」
「はぁ?」
ムラキは未だに、アイリとキースの強さの真髄を見極めていなかった。
もっとも、それはジータやリンナ、果てはオスコットでさえも確実とは言えるものではなかった。
まだまだ新入りのマコトや、チェンナなどに至っては、凄い人がいるんだなぐらいの認識だった。
別に二人が手を抜いて戦っているわけではないのだが、強いて言えば本気の本気を出す程の状況に未だ陥っていないことが原因だった。
「オスコット、もしもの為にアレを用意しておいてくれ」
「アイアイ・サー!!」
オスコットは敬礼のマネをしながら言った。
「ようやく出番か」
笑みを浮かべて言うキースにムラキが聞いた。
「なんのですか?」
「しらん、でもいいモンだろ。そのうち分かるさ」
「コバルトリーダーでる!!」
二人がそうこうしている内に、コバルトリーダーはとっとと出撃してしまった。
「隊長!!」
「あわてなさんな、長距離支援可能な武装に換装してから出撃するぞ!!どうせ俺達の機体じゃ追いつけないんだからさ」
「りょ、了解しました」
ムラキだって久しぶりに出撃だった。
少しは活躍だってしたい。
ジータが活躍した自慢話を聞いてストレスが溜まっていた頃だった。
しかし、このメンツでは今回も見せ場無しかと諦めかけていた。
だが、長距離支援なら出番があるかも、ムラキは淡い希望を抱いていた。
もっとも、淡い希望は泡となって消えるさだめだということを、ムラキはこの頃気づいていなかった。
「キースでるぜ!!」
「ムラキ出ます!!」
キースとムラキが出撃した頃 キブソン小隊
「ううう、さむい〜〜〜!!おなかすいた〜〜〜!!」
完全に動かなくなった機体の中、マコトは叫んでいた。
落下の衝撃にもPFは何とか耐えるものの、内部パーツの故障によりエアコンを残してPFは完全に沈黙していた。
しかし、多少落ち方に差があったのかマコトの機体は冷房だけが使用可能になっていた。
否、強制的に冷房が作動していた。
ちなみにコクピット温度7℃までさがっていた。
まあ外は氷点下60℃ぐらいだし、パイロットスーツもあって、まだまだ凍死にはほど遠い状況だったが、それでもマコトはとにかく文句を言いたいのである。
チェンナはあがくのに諦めたのか、右手の拳を胸に当てて何かに祈っていた。
ちなみにギブソンは、40℃のコクピットの中で蒸されていた。
「熱い、熱いゾイ、脱水で枯れそうだゾイ」
脂汗を盛大にかきながらギブソンはふ〜ふ〜言っていた。
ちなみにチェンナの機体はエアコンが正常に稼働しているため、コクピット温度は23℃だった。
それから1時間後
コバルトリーダーはキブソン小隊を発見した。
「一体なにがあったんだ?」
キブソン小隊は綺麗に、クレパスの間に挟まり手足が氷に飲まれていた。
コクピット周りだけがエアコンの為か、奇跡的に凍り付いていなかった。
もっとも、マコトの機体はかなりギリギリ凍っていないレベルだったが。
「お〜い、生きてるか?」
返答がないのにイヤな予感がしたコバルトリーダーだったが、念のため接触通信を試みにクレパスを削りながらギブソン機に近づいていった。
「おっさん、生きてるか?」
「おお、おんしかもちろん生き取るゾイ」
「何があったんだ?」
ギブソンはマコトを弁護しながら、経緯をコバルトリーダーに話した。
「なにも、よりにもよってOSいじらなくても」
「おんしなら直せないか?」
「俺の機体はフルマニュアルだからな、機体制御用のOSなんて積んでないぞ」
「そうか、とりあえずそう言うわけだから3機ともうごけんのだ、すまんが・・」
「分かっている、少し待て他の二人の状況も確認したい」
コバルトリーダーはやっかいそうなマコトを避け、先にチェンナの機体にアクセスした。
「怪我はないか?」
「はい、無事ですコバルトリーダー。それよりも、後でマコトを教育したいのですが許可を」
「ははは、まあ死なない程度にな。それより、お前はコクピット温度がまともに維持されているようだな」
「あ、はい。快適とは言いかねますがそれなりです」
コバルトリーダーは腕組みすると、チェンナの機体にハッキングをかけた。
直せる範囲のものならいじってみようと思ったのだ。
「直せそうですか?」
「だめだ、OS同士が干渉しあってるせいで姿勢制御がめちゃくちゃになってる。その上、レーダーとWCSがお亡くなりになっていやがる」
「つまり・・・・」
「ゴミだな、特大の・・・」
コバルトリーダーは、チェンナが叫ぶ前にアクセスを切った。
どうせ、マコト〜〜〜〜〜!!!!!とか今頃叫んでいるのだろうな、そう思いながら。
そして、諸悪の元凶であるマコトはというと、流石に大人しくなっていた。
「大丈夫か?」
「ぼく、このまま凍っちゃうの?」
声の様子からヤバイことを悟ったコバルトリーダーは、マコトの機体のコクピットを斬馬刀でこじ開けた。
マコトは顔面蒼白で凍えていた。
即座にマコトを自分のPFに引き込むと、コバルトリーダーはギブソンの元に行った。
「ギブソン、悪いレディーファーストだ」
「仕方あるまい、隊長はワシだしな」
ジータなら状況が理解できても渋りたくなる状況だが、ギブソンはそこは大人である。
あっさり待ちぼうけに同意すると言った。
「無理すれば、チェンナも連れて行けるじゃろ。こんなところに残すのはかわいそうだ、連れて行ってやってくれ」
「・・・・了解!!すまん、すぐに戻る」
極寒の中、鋼の棺に一人閉じこめられ、言葉を交す相手もいない孤独、これは想像以上の地獄だった。
いくらこの後助けが来ると分かっていても、ヴァリム軍が来ない保証もない中でギブソンのした選択は「漢」であった。
コバルトリーダーは、マコトを膝の上に乗せ、チェンナをシートの後ろの隙間に立たせるとその場を後にしたが、この後マコトとチェンナはギブソン並の地獄を経験することになることを、このときまだ知らなかった。
その頃、アイリ小隊
「ちょっと、どういうこと?」
さっそく落とした基地から拠点に連絡を入れたアイリは、ギブソン小隊消失を聞き興奮していた。
「それでコバルトリーダーはどうなさるおつもり・・」
「そりゃ〜もう、神速で救助に行っちゃいましたよ」
詰め寄るリンナのアップにもめげずシュキはお気楽に言った。
「ああ〜〜〜」
少しでも無理するのを防ごうと躍起になっていたリンナだったが、思わぬところで思惑がずれたことに落胆した。
そしてリンナは、こんなことになるなら自分もギブソン小隊に入っていれば良かったと後悔した。
「原因はなに?いくら何でも、あのおっさんがそう簡単にやられるはずがないんだけど」
「わかりませんよ〜、敵影もミサイルも何もないのにいきなり反応がロストしちゃったんですから」
「ヴァリムの新兵器かなんかですかね?」
ジータの顔に冷や汗が滲んだ。
「あたし達への指示はある?」
「いえ、特にそう言うのはありませんでした」
床に座り込んでるリンナを見下ろしながら、腕を組んだアイリはジータを見て言った。
「後退してる余裕はないわね」
「でも、今は戦力を分散させない方がいいのでは?もし、新兵器だったら」
「新兵器だとしても、どこにでも配備してあるわけではないと思うのよ、私わね。いまは、出来るだけ引っかき回してとにかくコバルトリーダーと合流する方が先決よ」
コバルトリーダーと合流、その言葉はリンナの瞳に火を付けた。
「そうですよね!!」
ああ、俺もそんな風に想ってもらいたいかも
リンナの反応を見たジータは、なんだか無性に疲れた。
「シュキ、オスコットさんを大至急でこっちに呼んでもらえる」
「ええっと、ここに誰もいなくなっちゃうんですけど〜〜〜いいんですか?」
「いいわよ、なんなら後方に待機させてある部隊を応援に呼んでもいいわよ。私たちは3機共に今すぐ進軍するから、急いで出るようにオスコットさんに伝えてね、そいじゃ!!」
アイリはそう言うと通信を切った。
「いきなり進軍ですか?」
いま基地を攻め落としたばかりなのに、ジータは流石に無茶だと思った。
だが、電撃作戦はコバルトリーダーの十八番だったし、別に無理だとは思っていない自分に少しあきれてもいた。
「包囲殲滅戦ですね」
「そう、リンナとジータは北東の基地を制圧しに行って、今ならまだ無人だろうから。私は東の基地を落としちゃうから」
「ちょっと、いくら何でも無茶ですよ!!」
「そうですよ、ラセツが20機もいるんですよ!!返り討ちに会ってしまいますよ」
「何いってんのよ、そのためのあんた達でしょうが」
「「はあ?」」
「ん、もう、私が引っかき回してる内にあんた達のどちらかが挟撃すんのよ!!しっかりしてよね」
「ああ、その手があったかって、間に合わなかったらどうするんですか!!」
「そうですよ、ラセツ20機ですよ!!一気に押し切られちゃいますよ!!」
「大丈夫よ、そのためにオスコットさんを呼んだんだから」
二人の心配をよそに、アイリはいけしゃあしゃあと言ってのけた。
「とにかく時間がないんだから、さっさとお行き!!ジータは占領した基地で待機、リンナは挟撃よろしくね。私もじきに出るから、さっさと助けに来てね」
アイリはそう言うと、ハンガーに向かって歩き出した。
もう何を言っても無駄、そう判断したリンナとジータは顔を見合わせるとうなずき、すぐさま出撃していった。
ちなみにアイリが出撃したのは、二人が出た20分後だった。
その頃 コバルトリーダー達
「はぁ〜〜〜、まあある意味予想通りだな」
一路帰還しようとしたコバルトリーダーだったが、レーダーにはPFを意味する光点が20個堂々と自己主張していた。
「クラン、識別とキース達との距離は?」
「敵PFはカルラ、キースさん達との距離は時間にして8分、作戦指揮をしましょうか?」
「いらん、キース達にはギブソンの救助を優先させろ、カルラは俺がなぎ払う」
「了解致しました、それとアイリさんの要請でオスコットさんが出撃しましたが、よろしかったでしょうか?」
「了解、許容範囲以内だ問題ない」
「はい、では御武運を!!」
コバルトリーダーは、クランにうなずくと通信を切った。
「チェンナ、マコトを頼む」
チェンナはうなずくと、マコトを座席後部の隙間に引き込んだ。
「あの、大丈夫ですか?その、空中戦ではいつものように戦えないかと」
「覚悟しろ!!以前、一度だけ副座に人を乗せたことがあったが、その者は肋骨を二桁持って行かれたぞ」
コバルトリーダーはそう言いながらチェンナに微笑んだ。
「ちょ、お願いですから手加減してください。こっちは副座ですらないのですから」
普段冷静とは言い難いなりに、礼儀はわきまえているチェンナだったが流石に気が動転してきた。
まあ、今の戯れ言が真実か否かは嫌が応にもすぐに体験するのだが、いまは狼狽しかできないチェンナだった。
「さて、行きますか」
コバルトリーダーは雲の上まで一気に上昇して行った。
「いい風だ、久しぶりに舞いたくなる」
コバルトリーダーはそう言うと、雲に隠れて編隊を組んでいたカルラにパワーダイブを敢行した。
カルラも待っていましたとばかりに、照明弾代わりのグリーン・コロナを打ち出すと、コバルトリーダーに向かって兵器破壊属性のスマートガンを撃ちはなった。
そこまでは良かった、誰でもそれが正しい行為だと思う。
しかし、相手は奇行のコバルトリーダーだった。
コバルトリーダーはグリーン・コロナ目掛けて思いっきりパワーダイブを敢行したのだった。
そして、ダメージをものともせずに隊長機を含めた4機を降下と同時に仕留めて見せた。
コバルトリーダーが4機を撃破すると同時に雲の下に逃げていった姿を見たヴァリム軍は、残りの8機が雲の上からスマートガンで砲撃し、残りの8機をコバルトリーダーの居場所を示す探査部隊に振り分けしたのだった。
なぜ、接近戦に持ち込まないのか?
なぜ、総攻撃しないのか?
その理由は簡単だ。
相手が躊躇無くヘルファイヤーを使う相手だと言うことを、ヴァリム兵は理解しているからだ。
故に、コバルトリーダー攻略には条件が付く。
それは、ヘルファイヤーを発射させるか、破壊するかだった。
それをクリアーしなければ、200%コバルトリーダーには勝てないことは分かっていた。
しかし、逆に言えばコバルトリーダー自身もそのことを知っていた。
使わざるも究極の威力を誇る兵器、その名はヘルファイヤーといったところだった。
「ふ、分かっていない。レーダーがいかにいいかげんかを分からせてやろう」
コバルトリーダーはそう言うと、両手、もしくは片手で口を押さえている後ろの二人をさらに追い込むべく、コマのように激しく回転し始めた。
まるで斬馬刀という名の翼持つ極小の台風とかしたコバルトリーダーは、雲の上に向かって踊り出した。
普通は逆である。
普通は雲に隠れ砲撃をかいくぐるのだが、コバルトリーダーは雲の上にいるカルラの真下から台風よろしくといわんがばかりの高速回転そのままに、真上にいたカルラを突き上げると同時に横を通り過ぎ様に輪切りにした。
コバルトリーダーの後ろにいる二人同様に叫び声一つあげずにいたカルラを屠ったコバルトリーダーは、そのままの回転を維持しながら手近なカルラ2機に襲いかかった。
襲われたカルラは後退しながら、それでもスマートガンを乱射した。
しかし、スマートガンはコバルトリーダーの機体を避けて飛んでいった。
否、コバルトリーダーは斬馬刀の刀身でスマートガンの弾をなでることで、その弾道を操っていた。
「俺にこんなちゃちな射撃が当たると思うなーーー!!!!!」
コバルトリーダーは叫ぶと同時にカルラ2機を撃破した。
その間にも、雲の上のカルラはスマートガンを撃ち、雲の下のカルラはグリーン・コロナを撃ちながら上昇していた。
ただし、全機距離を空け全滅に備えていた。
コバルトリーダーは回転を止めて、ヴァリム軍の動向を見て言った。
もちろん、飛んでくるスマートガンは相変わらず斬馬刀によって軌道は変えられていた。
「なぜ分からない?勝てない相手なら逃げればいい、それが出来ないのなら命を賭ければいい。中途半端が一番無様に死ぬのが、なぜをからん?」
面白みのない相手に、コバルトリーダーは巡航速度を利用して撤退でもしようと考えたその時だった。
コバルトリーダーの顔に、異臭を放つなま暖かいものが襲った。
マコトがあまりに無茶な運動に耐えかねて、非常食を吐き出したのだった。
チェンナも状況は同じだったが、その光景を見た途端に吐き気は収まった。
チェンナは焦った。
未だに多対一のこの状況下で、右顔半面にこびりついた昼飯がいかに戦闘の妨げになるかということを知って。
そして、チェンナがコバルトリーダーの顔を拭こうと身を振りだしたその時だった。
チェンナは我が目を疑った。
コバルトリーダーは、両目を閉じた状態でスマートガンの弾丸を当たり前のようにいなしていた。
そして、閉じられた両目からは涙が流れていた。
表情は何とも形容しがたい程、悲痛だった。
「チェンナ、危ないからさがっていろ」
コバルトリーダーは顔も向けずにそう言うと、機体を上昇させ始めた。
今度の狙いもパワーダイブ、ヴァリム軍はそう判断すると上下のPFの距離も空けはじめた。
「頃合いだな、終わりにしよう」
コバルトリーダーはカルラの円陣のど真ん中にパワーダイブを敢行した。
もちろん、バカの一つ覚えのようにスマートガンで攻撃されることを見越してである。
コバルトリーダーは雲に突っ込むと同時にヘルファイヤーを射出した。
そのままコバルトリーダーは大地に向かって一直線に突っ込んでいった。
ヴァリム兵は、コバルトリーダーが逃走を開始したと勘違いしたその時だった。
その時、世界が閃光に塗りつぶされた。
「ふ〜〜〜、あっけない」
「な、な、なんて事するんですかーーー!!!!」
違う世界に行ってるマコトの代わりにチェンナが叫んだ。
それにコバルトリーダーは反応せずにいった。
「ほう、3機残ったか。なかなかだが、果たして生き残れるかな?」
コバルトリーダーは顔をぬぐいながら言った。
コバルトリーダーの言葉の意味を理解できないチェンナが?を浮かべている頃、頭上で爆発が起きた。
「ええ?!」
「狩人は獲物を罠に追い込んだりはしない、狩人は獲物を誘い込むもんさ」
「あの、コバルトリーダー?」
また、頭上で爆発が連続して起きた。
「この距離だ、キースとギブソンが好き放題やってるんだろ」
「あの、いくら何でもギブソンさんを救助したところからかなり距離がありますよ。こんなピンポイント射撃は不可能なんじゃ?」
「キースは距離を選びはしないさ、おっさんだって長距離射撃なら例え的が動いていようとも、誤差1cmあるかどうかも疑わしいな」
「そんな神業、信じられません」
「あと5分、5分後には嫌でも信じられるさ」
「はあ」
まさかそんなことは、そう思うチェンナだったがホントに5分といわず4分後には3機のカルラは撃破されていた。
「言った通りになったろう?」
「はい、でも未だに見ても信じられません」
「はは、そうだろうな」
コバルトリーダーは笑いながら、レーダーを指さした。
「ホントに人間業ではありませんね、一発も外れません出したよ」
「あれが歴戦の乗り手って奴だよ」
コバルトリーダーは笑いながら通信回線を開いた。
「わりぃ、おそくなったな」
「な〜に、気にしちゃいないさ」
キースとコバルトリーダーが和んでいるところに、ギブソンの陽気な声が入ってきた。
「見たか!!ワシが本気を出せばこんなもんだゾイ!!がぁ〜はははは」
「ホントに凄かったんですね、お二人とも」
チェンナは小さくなりながら顔を赤らめた。
キースもギブソンもそこいらにいる射撃専門のPF乗りと比べ、特に腕がいいとはチェンナは思っていなかった。
どんな場面でもそつなくこなす二人、チェンナのというかコバルト小隊の大半が思っていたイメージが脆くも崩れ去った瞬間だった。
が、気絶していたマコトだけは機会を逃したためか、当分その事実に気づくことが出来なかった。
ちなみに、キブソンが乗っているPFはムラキのものだ。
コバルト小隊に3人しかいない射撃専門の最後の一人のムラキだったが、レーダー範囲ギリギリの長距離ピンポイント射撃なんて芸当は彼には出来なかった。
故に、ギブソンを助けた時にムラキは機体から放り出されたのだった。
まあ、ギブソンと二人乗り出来なかったという事実もあるのだが。
「いいのいいの、凄い人に見られるのは肩凝るから今まで通りでいいよチェンナちゃん」
「欲がないのぉ、ワシはもう少し出番が欲しいゾイ」
「はは、まあなるようになるさ」
「それはいいとして、この後どうする?攻めるか?」
その言葉に、コバルトリーダーは恐る恐る背後を振り返った。
そして、無言でコバルトリーダーは前を向くと言った。
「3機もお釈迦になってるんだ、一旦引こう」
「了解、この3機は破壊するしかないか」
その言葉にチェンナは喪失感を覚えた。
「頼む、とりあえず撤退する」
「了解、俺達も破壊してから戻る」
コバルトリーダーが戦闘してる頃
リンナとジータは吹雪の中行軍していた。
「アイリさん、大丈夫でしょうか?」
「分かりませんよ、でもアイリさんの場合挟撃なんか待たずにガンガン攻めていきそうですよね」
「心配です」
視界の悪いせいか旨く行軍出来ない二人はただ心配しかできなかった。
その頃アイリはというと
ジータ達のいた山を隔てた場所では吹雪が吹いていなかったためか、思惑通りにガッツンガッツン進軍していた。
アイリはギブソンと違って出撃の常連だったが、コバルトリーダーに出しゃばらず仲間のレベルアップを促すように、そう言われていたのでいつも手を抜いて戦ったいたが今回はフルパワーでストレス解消してやろうと思っていた。
故に、ラセツ20機はかなりいい相手だった。
少しでも手を抜くと、帰還すら怪しくなる相手なら例えリンナ達が挟撃に現れた時のいいいい訳になる、アイリはそんなことすら考えていた。
「お、見えてきた!!さ〜て、いくわよ〜〜」
アイリは基地が見えた途端に、フルブーストで基地に特攻を駆けた。
「ストレス解消〜〜〜〜!!!!!」
とんでもないことを叫びながら突っ込んで来るアイリに、ヴァリム軍基地の司令官は言った。
「アルサレアのバカめ、たった一人で何が出来る。隊長機に包囲殲滅するように伝えろ」
そう言ったが、通信兵の言葉は
「出来ません!!真っ先に撃破されました!!」
と切り返した。
「な!!ええ〜〜〜ぃ、なんたる使えんやつだ!!ならば、新兵以外なら誰でもいい包囲殲滅するようにつたえんか!!」
左右のこめかみに青筋立てて怒鳴る司令官に、通信兵はまたも言った。
「できません!!8機全て撃破されました!!」
「な!!なんだと〜〜〜!!かくなる上は、誰でもいい包囲せん・・」
司令官がそう言い終わらない内に、通信兵が告げた。
「できません!!我がPF部隊は全滅しました!!」
プチ!!
そんな音が聞こえたよな気がした。
そのすぐ後に、通信兵の後ろにいた司令官が膝から崩れるように倒れた。
一体何があったのか?
「ちょっと〜、展開するのが遅いんじゃないの?それとも瞬間移動によほど自信がるとかかな〜っと!!」
ハイになってるアイリは口数が多くなっているのにも気づかずに、先頭にいたラセツ諸共アサシンファングで5機のラセツを張り倒していった。
そして、敵のまっただかで停止したアイリはAAFミサイル改を発射すると同時に飛び上がると、持っていたサブマシンガンでミサイルを破壊して見せた。
ミサイルの爆風で吹き飛ばされたのはラセツ3機とアイリ機自体だったが、アイリは爆風に吹き飛ばされながらサブマシンガンを放り投げた。
そして、空中で腰をひねり着地と同時に、アイリを包囲しようとして振り返っていたラセツの集団に向かってムーンサルトを敢行したのだった。
この一撃で、もう8機のラセツを撃破したのだったが、この時ヴァリム司令官は「ならば」と言っていた。
戦闘開始から何分もたたない内に、13機のラセツを失い新兵のみとなったPF部隊は蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げていった。
が、統率の取れた撤退ならいざ知らず、ただの脱走だったため、仲間を押しのけたりと散々だったため残りの7機も一瞬で撃破されたのだった。
「ああ〜〜〜もう!!もう少しはマシな奴はいないのか〜〜〜〜!!!!!」
どうやらアイリにとっては、この程度の輩ではストレス解消にもならなかったようだ。
この後、1時間で基地を制圧したアイリだったがリンナにそのことを伝え忘れたために、3時間後に挟撃(リンナ自身は救出と思っていた)にやって来たリンナはその惨状を見て気絶した。
ここにも元グレン特務小隊の本当の実力に舌を巻く者がいたのだった。
余談だが、アイリが一人でラセツ20機を撃破した報告を受けたジータもまた脱力のためコンソールに頭をぶつけ、額にたんこぶを作ったという。
帰還したコバルトリーダー部隊
「お帰りなさい」
クランの出迎えに苦笑いしたコバルトリーダーは片手を挙げてそれに答えると、クランを避けるようにして奥へと消えていった。
「コバルトリーダー?」
クランがコバルトリーダーの行方を追おうとして振り返るったその時、クランの鼻が異臭を嗅ぎ取った。
「え、なに?」
クランが混乱してる中、色々な意味で一杯一杯になったチェンナが、それすらもあふれてしまったマコトを抱きかかえて降りてきた。
「ああ、そういう事ね」
二人を見たクランはコバルトリーダーの行動と、異臭の疑問を解決すると二人に駆け寄った。
コバルトリーダーに遅れること、1時間後にキース達も帰ってきた。
シャワーを浴び、一着しかない特注のパイロットスーツを洗濯したコバルトリーダーがそれを自室に干そうと廊下を歩いている時、チェンナが駆け寄ってきて不意に頭を下げた。
「今日はありがとうございました、それから申し訳ありませんでした!!」
コバルトリーダーは空いてる手で、チェンナの肩に手を置くと言った。
「俺は隊長だ、礼を言われる程のことはしていない、だから気にしなくていい。それから、なぜ謝る?」
「それは、・・・・・隊長がお辛そうだったから」
「死人は何も感じはしない、辛いことなど有りはしないさ」
コバルトリーダーは未だに顔を上げようとしないチェンナの横を通り過ぎようとした。
「嘘です!!辛くないのなら、どうしてあんな顔をするんですか!!どうして、涙なんて流すんですか!!」
チェンナは悔しかった。
自分は必死になって戦うことしかできなかったからだ。
コバルトリーダーが、どんなにとんでもない男で、どんな信念を持って戦っているかは知っているつもりだった。
しかし、それはあくまで理想だと思っていた。
チェンナは、悲しむのも、辛いのも、戦闘が始まる前と終わった後に考えるものだと思っていた。
しかし、自らを死人と言ったその男は、そうではなかった。
それがどうにも悔しかった。
悔しいという表現は正しくないのかも知れない、でもチェンナは言い表せない感情としてそれを当てはめていた。
「記憶にないが思い当たるとしたら、辛そうだったのはマコトの昼飯のせいだろうな。涙を流したのも」
嘘か真か、どっちにも取れる顔でコバルトリーダーは言った。
「どうして、どうして、そう・きゃん!!」
チェンナは音もなく背後から忍び寄ったキースに、脇をくすぐられたのだった。
驚いたチェンナは自分を抱きしめると、うずくまった。
キースはその隙にコバルトリーダーにあっちに行けと合図した。
相手がキースと分かったチェンナは、鬼の形相でキースを睨んで言った。
「何するんですか、今まじめな話をしていたんですよ!!」
それまでニヤケ顔だったキースは、マジな顔で切り返した。
「だからだよ」
キースの真面目な顔を始めて見たチェンナは、その気迫にたじろいだ。
「なあ、あいつをこれ以上追いつめないでやってくれよ
あいつは、死人と生者の狭間で、色々な葛藤と常に戦ってるんだからさ」
チェンナはペタンと尻餅をついた。
体中の血の気が引いた様に顔色を悪くしながら。
「あ、ああ、わたし、そんな、そんなつもりじゃ」
キースはチェンナに目線を併せるべくしゃがみ込むと言った。
「わ〜ってるって、元はあいつが原因なんだから気に病まなくていいさ」
「でも、わたし・・・気づかずにあんな軽はずみなこと・・・・」
顔をうなだれたチェンナを見てキースはヤレヤレと思った。
「リンナちゃんには言わないか?」
キースは口の前に指を立てていった。
チェンナは、なんだかよく分からなかった首を縦に振った。
「じつはな、あいつには女がいる」
キースはチェンナの口を叫ばれる前に押さえた。
「む〜〜〜〜!!」
「まあ、彼女の片思いなのだがやっこさんもまんざらじゃないんだ」
「それが本当なら、口が裂けてもリンナには言えませんね」
「だろ、で重要なのはここからだ」
チェンナはゴクリと喉を鳴らした。
「その彼女は、あいつをふってるときたもんだ」
「は、はあ?」
キースはチェンナの反応をみて、さも面白そうに笑った。
「か、からかってるんですか?」
「違うって、あいつが彼女にふられた時こう言われたんだよ
『私を置いて死んでしまったあなたなどに、私はなんの興味もありません
わたしが愛したのは例え愛してくれなくとも私を必要としてくれたあなたです
覚悟しなさい!!
私は是が非にでもあなたを生き返して見せますわ
そして、今度こそ私を選ばせて見せますから』
そういってどっかに消えちまったのさ」
「なんか、とんでもない人ですね」
「まあ、あの男にあの女ありって感じの人だが、問題はそんなとこじゃない」
イマイチのわかっていないチェンナの反応を見たキースが言った。
「彼女は死人の生き返し方を知っているってことだ、ついでにそれをあいつに強制しようとしてるって事だ。分かるかそれがいかにヤバイ事か?」
急にそんなことを言われても、チェンナにはさっぱりだった。
「あの、どこがどう問題なんですか?」
自分の軽はずみな行動と、今の話とのつじつまが合わずパニックになり出したチェンナの精一杯のセリフだった。
「生き返らないはずの死人を生き返すことが、いかにあいつの負担になると思う?
あいつはこれから確実にその試練を強制的に受けさせられる
それに比べれば君の些細な言葉なんか大したことが無いって言ってるのさ
だから気にする必要はないさ」
「ああ」
ようやく話のつじつまがついた、そう思ったチェンナは思わずもらした。
「でも、それならなんで・・」
「たぶん、今のままじゃ耐えられない
今のあいつは引っ張りすぎて切れ目が入った糸みたいな状態なんだよ
だから、俺がフォローを入れてるんだよ」
キースは笑顔で言うと立ち上がった。
「今の話、内緒だからな」
立ち去ろうとしたキースをチェンナが呼び止めた。
「あの、コバルトリーダーに何かお礼をしたいのですが、何がいいでしょうか?」
詫びを入れるのは、キースにもコバルトリーダーにも失礼だと思ったチェンナは、助けてもらった事を立て前に何かお礼をしたくなった。
「ん〜〜〜、わかった後で連絡するから待ってな」
キースは振り返らずに、手を振って歩いていった。
チェンナはこの時知らなかった、キースの顔に邪な笑顔が張り付いてることを。
キースとチェンナがそうこうやってる頃
ギブソンはとりあえずサブに置いてあったJポールヴェアを自分用にカスタマイズしていた。
それどころか、OSのバックアップと書き換えの際の衝突を防ぐセキュリティーまで用意する周到さだった。
流石に懲りたようだった。
当然だがソフト関係をいじっているのはギブソンではなくムラキだった。
ちなみに、マコトは未だに立ち直れていなかった。
時同じくしてアイリとリンナ
「そらそら、また右手が遊んでるわよ!!」
アイリのでたらめな強さをイマイチ信じられなかったリンナは、模擬戦と称して死合をしていた。
「ズァァァーーー!!キエィィィーーー!!」
しかし、リンナの気迫こもる絶叫もアイリにはまるで効いていなかった。
以前よりも格段に成長したリンナだったが、それでもその動きはアイリの予想を上回るものではなかった。
予想のつく動きならば、接近戦特化のアイリはおろか射戦撃特化のキースでさえも避けるだけなら、そこまで苦労はしなかった。
リンナは苛立ちながらも、ようやくアイリの凄さを肌で感じ取っていたのだった。
リンナが必死になっている頃
ジータも必死だった!!
ヴァリム軍が進軍してきたのである。
ヴァリム軍はワザと無人基地にアルサレア軍を誘い込み、挟み撃ちにするつもりだった。
しかし、思わぬアイリの活躍でそれを不意にしてしまっていた。
が、アイリが報告を忘れたためにジータ一人が基地を防衛していることに気づいたヴァリム軍は、ここぞというタイミングで進軍してきたのだ。
その数、オニ10機だった。
始めに断っておくが、1機でラセツ20機を沈めるなどという所行はもはや人間業ではないのである。
ヘルファイヤーを使えば出来ないこともないかも知れないが、それを使うまでのリスクを考えるとどうにも分が悪い賭だった。
「くそ、どうしてこんな時に限って通信機が故障してるんだ?」
別に通信機は故障したのではなかった。
すでに意図的に破壊されていたのだが、それは分解して見なければ分からないレベル(内部配線が1本切れていた)だったことにジータは気づかなかった。
ヴァリム軍は挟み撃ちの最中に援軍を呼ばれないように、遠隔操作で誰にも気づかれないように配線を切断したのだった。
「しかたないか、爆煙が上がればアイリさん達も気づいてくれるかも知れないし、何とか追い返してみるか」
ジータも今までの戦闘で大きくレベルアップしていた。
だが、ここでの正しい判断は無駄に機体を傷つけるよりも、例え基地を捨ててでもアイリのいる基地まで撤退することだった。
ヴァリム軍のオニ部隊は、前衛に4機、中衛2機、後衛に4機の布陣でゆっくり向かってきた。
ジータはヴァリム軍がどう戦おうとしているかを理解できた。
しかし、それに対して打開策を見いだせなかった。
そうこうしている内に、後衛のオニがレールガンで撃ってきた。
「仕方ないか!!」
ジータは基地そのものを盾とするために、基地の下の円柱の連なる土台部分に逃げ込んだ。
この基地は、地表の冷気から基地を守るために円柱の土台の上に作られていた。
「とりあえず、蜂の巣は何とか出来たが」
ジータは剣技には自信があったが、オペレーターからも指示のない戦いは初めてだった。
それ故に、自分を飛んで逃げられない場所に追い込んでいることに気づかなかった。
唯一の救いは、基地の防衛システムがいまだに稼働していることだった。
ジータはレーダーに目をやった。
2機が既に基地に潜入して好き勝手やっており、ジータの周りには柱を盾にしながら4機のオニが徐々に近づいてきていた。
残り4機のオニは狙撃しやすい場所で待機していた。
「突破口を開いて撤退するしかないのか?」
あまりの状況の悪さに、ジータは口に出した。
口に出すことで、自分に言い聞かせようとしていたのだった。
そして、ジータは撤退する覚悟を決めると脱出ルートを探した。
ルートは二つ、どちらも難易度的には大した差がなかった。
どちらにしようか、そう考えた時ある光景をジータは思い出した。
この島に渡ってくる時に輸送機でギブソンとした将棋のワンシーンだった。
問題は、結果でも過程でもなかった。
ここで重要なのは外野のコメントだった。
「守ってばかりいると、いつの間にか手が出なくなるぞ」
ムラキの言ったとおり、まさに手が出なくなっていた。
「王将の前に飛車、想像をしない手こそ次を切り開く原動力と知れ!!
所詮王将など1歩しかうごけんのだ、その気になれば歩が2枚もあれば落とすことは容易い」
こんな事を言うのはもちろんコバルトリーダーだ。
「追えば逃げるが道理、相手を誘い込むのです」
コバルトリーダーのセリフが伝染し始めているのは、リンナだった。
「安易に結果を求めることは、敗北と知れ!!王手じゃ」
そして、ギブソンの最後のセリフ
お分かりの通りジータの負けでした。
「どのルートも選んじゃダメだ、追い込まれても、誘い込まれても負ける。逆転の発想だ!!そうだ、これなら行けるかも」
ジータは思い立ったら吉日とばかりに、自分の背後にある壁に斬馬刀を突き立てた。
否、それは壁ではなかった。
土台とその上にある基地とを結ぶ坂だった。
「おおおおおおーーーー、壊れろーーー!!!!」
包囲して罠まではったヴァリム軍であったが、ジータの突飛な行動に一瞬間をおくと全機役割を忘れ殺到した。
なぜ全機が動いたかというと、今ジータがいる場所こそ唯一どの機体からも攻撃できない場所だったからだ。
そして一番手近にいたオニ2機がジータにシラギクの一撃を加えようとした瞬間それは起こった。
「かかった!!CBブースト・オン!!!!」
ジータの機体が一刀両断を放つと、坂だったものが砕け散った。
見事と言わずにはいられないタイミングで、左右から襲いかかったオニはその瓦礫の下敷きになった。
ジータはそれを見逃さず、オニの頭部のみを破壊するとすぐに上空に飛び上がった。
しかし、流石に何もかも上手く言うものではなかった。
土台の上の基地にはオニが2機ジータを待ちかまえていたのだった。
「うわぁぁぁ〜〜〜」
ジータはレールキャノン2発の直撃を受けて前方の雪原にたたき落とされた。
ジータが修羅場になっている頃
「出来たーーーーー!!!!!」
子供のように大はしゃぎをしているのは、マコトではなくコバルトリーダーだった。
パチパチパチパチ
「お疲れさん」
拍手を送ったのはキースだった。
「相変わらず、いいタイミングで姿をみせるな」
「まあね、で、またもの凄いのを作ったな」
「ふふ、試運転もかねて振り回すから感想をくれ」
コバルトリーダーはそういうと、出来たばかりの刀身が斬馬刀の2倍はあろうかという大剣を片手で横一文字に振り払うと、今度は両手で振り下ろして見せた。
ただし、地面にはつけずに中段で見事に寸止めして見せた。
「キース、耳塞いでろ!!」
キースが耳を塞いだ瞬間、室内にもの凄い轟音が響き渡った。
そして、その瞬間コバルトリーダーの機体が瞬間移動したように見えた。
キースが唖然としてる中、コバルトリーダーが降りてきた。
「どうだい、いい出来だろ」
「もはや、アレは剣じゃないな。剣の形をしたヘルファイヤーか何かだな」
コバルトリーダーが使う時のみ、ヘルファイヤーは兵器という枠から抜け出して、天変地異発生装置と呼ばれる。
少なくとも、キースはそう思っていた。
そして、新しい剣もそういうたぐいのものだと認識した。
「一体全体何がなんだか分からないが、とりあえずお疲れさん」
キースはそういうとコバルトリーダーに紙コップを指しだし、ビールをついだ。
「おい、おれは・・」
「わ〜ってるって、いいじゃねえか今日はもう何もないだろうし」
コバルトリーダーは少し考えると
「たまにはいいか、後は任せた。乾杯!!」
「任された、乾杯!!」
キースとコバルトリーダーは一気にコップの中身をあけた。
いい飲みっぷりだった。
その直後、コバルトリーダーは頭を押さえて低くうめきながら倒れた。
「は〜い出番だよ、チェンナちゃん!!」
二人の様子をうかがっていたチェンナが、キースに何か言いたげに出てきた。
「別に何か盛ったりはしてないさ、見てたろ缶ビールを目の前で開けて同じものを一気飲みしたの」
「でも、コバルトリーダーだけが倒れるなんて」
「不死身の秘密さ、極端に新陳代謝がいいんだよこいつはさ
それ故、口に入れたものはあっという間にエネルギーにかわっちまう
だから、あんな身体になっても生きてられるんだとさ
もっとも、アルコールはエネルギーになる前に脳についちまうからその場で二日酔いになっちまうって難儀な身体だそうだ
詳しくは本人に聞いてくれ」
キースは笑って言った。
「どうして、それを知っていながらお酒なんて飲ませるんですか!!」
チェンナのもっともな言い分にキースが言った。
「勧めはしたが、飲んだのはコバルトリーダーだぞ。それに、俺らはそういう間柄なのさ」
「どんな間柄なんですか?」
「昔約束したんだ、俺を止めてくれってさ」
「止める?」
「あいつはとにかく無茶苦茶だ、はっきり言って粋すぎてる
だから、止めなくっちゃいけないんだよ
そうしないと、何も見えなくなっちまう
そして行き着くところは、どこだかしらねえがろくでもないところだろうよ
あいつは言ったんだ
俺の友になってくれたお前の言葉に常に耳を貸そう
そして出来うる限りその言葉に応えよう
そう言いやがった
だから、あいつが崩壊したり、暴走しないように暗躍するのさ」
少し恥ずかしそうにキースは言った。
「うらやましいです、とっても」
チェンナは包み隠さず、自分が自然にそういえたことに少し驚いた。
「さて、お礼だが朝まで二人でベッドインでどうかな?そしてコバルトリーダーが目を覚ましたら、責任と・・ガハッ!!」
チェンナは顔を赤らめながら無言でストレートをお見舞いした。
「どうしてそこで落とすんですか!!」
額を押さえながらキースは立ち上がると
「いや〜、こういう雰囲気苦手でさ。まあ、冗談はおいといてお礼の件だが」
キースがそう切り出すと、チェンナは無言で拳を握り始めた。
「あ〜、いいかな?」
「どうぞ」
「真面目な話だから最後まで聞けよ、いいな」
「分かりました」
チェンナの疑わしい視線に射抜かれながらキースは口を開いた。
「コバルトリーダーは悪夢に襲われるんだ、寝てる時はほぼ常にな。だから、あいつは共同の寝室では絶対寝ないんだ。発狂でもしてるんじゃないかってぐらい、苦しがってるからな」
「それって、本当ですか?」
「残念ながらマジだ、でも例外もある。誰かが手当てしてる時は、そこまでひどくなりはしない」
「つまり、私に手当てしろと?でも、怪我もしていないのに手当だなんて」
「わかってないな、手当ってのは、文字通り手を当てることだよ。手を握ってやるだけでも十分に効果があるんだよ」
「そんなものですか?」
「理屈はわからんが、孤独があいつに悪夢を見せてるんじゃないかと俺は思う。そこでだ、チェンナちゃんはあいつが起きるまで膝枕しててあげてくれ」
「ひ、膝枕!!どうしてそうなるんですか!!」
キースはしたり顔で言った。
「膝枕してれば、襲われる心配ないじゃん」
「お、お、お、おそわれる!!」
「手繋いでたら、ベッドの中に引き込まれるかもよ。あいつ寝相そこまで良くないし、場合によっては手を握りつぶされるかも知れないぞ、ちなみにあいつの握力左は96キロあるぞ」
チェンナは真っ赤な顔で口走った。
「なんですか、左はって」
そんなこと聞きたいんじゃないのに!!
「右は教えてくれなかった」
キースは今にも笑い出しそうな顔で言った。
「で、でも、私これでも鍛えてるんですよ。私の膝枕なんて気持ちよくないですよ」
だんだん暴走し始めたチェンナにキースがとどめを刺した。
「それはあいつが決めることだよ
まあチェンナちゃんが嫌なら、こいつはその場酔いが収まった途端に悪夢に襲われる訳だな、ああ不憫よのぉ戦友」
芝居がかったキースのもの言いに理不尽さを隠しきれないチェンナであったが、もはや覚悟を決めるしかない、そう思ったチェンナは、キースのアイディアに乗らざるをえなかった。
「分かりました、膝枕させて頂きます」
「よかったないい部下を持って」
キースはニヤリとして叫んだ。
「しまった〜〜!!」
「今度は何ですか!?」
「あの武器の名前聞き忘れた!!」
チェンナは無言で右腕を挙げてみたが、なにやらバカらしく感じてその手を振り出さなかった。
それを見たキースは、少し寂しそうな顔をしてその場を去った。
コバルトリーダーがチェンナの膝枕で健やかにその場酔いでうなされてる頃
ジータは絶体絶命の中、気を失っていた。
空に飛び上がったジータを襲ったレールキャノンの1発が、コクピットルームの真後ろに直撃した衝撃と、雪原に叩きつけられたのが原因だった。
そして、ヴァリム軍のオニが土台の部分から出てこようとしたその時、ジータ目掛けて緑色の閃光が走った。
そして、その閃光はジータのすぐ近くの氷を溶かすと、基地の土台部分にあった円柱諸共オニをなぎ払った。
その直後、土台を破壊された基地は自重を支えられずに一気に崩壊した。
土台諸共なぎ払われたオニは、奪い返す予定の基地に押しつぶされ、基地部分にいたオニは反応が遅れたため崩壊に伴う地震(?)と基地の建物の瓦礫に飲み込まれた。
「ふ〜〜〜、なんとかうまくいったようだな」
おっきく息を吐くと、オスコットはタバコに火を付けジータの元へ向かった。
10分後
「お〜い、生きてるかい?」
ジータはガンガンする頭を押さえながら、バストアップされたオスコットの姿を認めて正気に返った。
「なんであなたがここに!?」
「いや〜、なんか人肌寂しくなって世間話でもしようかと思って来てみたらね」
「は!!そうだ、オニがまだいるんです。オスコットさん気をつけて!!」
ジータは機体を立て直すと、眼前の光景に我が目を疑った。
「基地が・・・・・、なに?」
「ああ、どうせ明日には廃棄するからと思って丸ごと罠に使わせてもらったよ」
タバコの煙でドーナッツを作りながら、オスコットは眼鏡を拭きながら言った。
「な、な、な、なんて事をするんですか!!」
「ぐちゃぐちゃいいなさんな、あんな基地よりお前さんの命の方が比べるまでもなく重要だと、コバルトリーダーでなくても分かることだろ、違うかルーキー?」
「僕のために基地を犠牲に?」
言いながらジータは感動した。
「まあ、そんなとこだ。で、これからどうしようかね基地無くなっちゃったわけだし」
しかし、オスコットの言葉は感動に酔ったジータには届かなかった。
「あ〜、やれやれ。とりあえず、使えそうなモン見つけて夜明けを待ちますか」
基地が崩壊したことにより侵略意義を失ったここに、ヴァリム軍が攻めてくる可能性は限りなく低いであろう。
例え攻めてきたとしても守るものがないのだから逃げればいい、もしくは気の早いアイリのことである、朝一に合流して進軍するだろうからそれまで耐えてみるのもいいかも知れない。
オスコットはそう思っていた。
中編へ続く