*1「僕」


 「僕」は右足に軽く力を込め、足を前に踏み出そうとする。
足を入れたブーツは固定されているのだから実際には足は動かないのだが、筋肉の動きと脳の電気信号を読み取り、
僕を乗せた「サーヴィランス」は右足をゆっくりと踏み出す。

 機体に内臓された学習型AI(人工知能)の働きによって、全身の動きでバランスをとり、
人間に近い歩行を行うのだ。続いて左足、再び右足と、交互に力を込めて足を動かす。

 慣れないとすぐに足が引きつってしまいそうだが、僕はサーヴィランスを動かす訓練を受けている。
動かせるようになってしまえば、思ったより簡単なものだった。

 数歩歩いたところで、前方のモニターに赤のラインで大きな四角(ボックス・マーカー)が刻まれる。
機体に付いたセンサーが、前方に現れた障害物が特定の目標だと識別したのだ。
 赤のマーカーは長距離、緑なら中距離、黄色なら近距離で、近づくほど色は黄色く、そして四角は小さくなる。
そのまま機体を歩かせ続け、表示マーカーが黄色くなるまで近づくと、障害物が扉であることがわかった。

 手を伸ばせば届くだろう。僕は、淡く輝くボーリングの玉のようなもの―――「操作球」に手を差し込んでいる。
三つの間接で区切られた支柱に支えられたこれが、サーヴィランスの上半身の駆動に使われる。
腕を動かすと、操作球は何の抵抗も無く動いた。

 そのまま右手を前に突き出すと、サーヴィランスも同じように右手を前へと差し出した。
開きかけている金属製の扉を掴むように、操作球の中で指を動かす。
玉に開いた五つの穴に指を通し、その中での指の動きは、そのまま増幅されてサーヴィランスの指の動きになる。
扉をゆっくりと掴んだサーヴィランスは、僕が右腕をなぎ払うように振るうと、その通りの動きでスライド式の扉を
轟音とともに横に引き壊した。破壊した扉の向こう側から、砂漠の砂が舞い込んでくる。

 「―――もう少し、練習が必要かな」
 そんなことを呟いてみる。本当は、普通に扉を開けるつもりだったからだ。

 まあいいか、と考えながら、再び足に力を込め、機体を歩かせる。
扉の向こう側は、青い炎の光が微かに照り返すばかりの、暗い砂の海だった。






 *2「メイル・アストル」


 ―――ジャック・イリーガル―――

それが、この少年の名前。
そして、三日前に喪った「彼」の名前。

 その名前を聞いて、一瞬、胸が痛む。
それでも、あたしは、逡巡を顔には出さないでおく。

 「―――そう、ジャック……ね」

 言葉に詰まりそうになったが、喉に力を込めて言葉を続ける。

 「―――ジャック。ここはアルサレア軍、サーリットン局地戦機開発実験部隊基地よ。
―――言ってること、分かる?」

 適当に分かり易く説明することに慣れていないので、とりあえず地名と基地名を述べてみた。
ジャックは、よく分からないといった風な表情で、ベッドからこちらを見上げている。

 「えーと……とりあえず、食事を終えたら管制室まで来て貰うわ。ケイ、案内よろしくね」

 ……やっぱり、説明というのは難しい。
途中でケイの方へ向き直り、二人の少年少女に告げる。
ケイは無言で頷き返した。

 「アームス、次の任務の説明も兼ねて準備するから、先に行っててくれる?」

 ケイが頷くのを確認してから、アームスに話しかける。
おう、と軽く返して、アームスはいつも通りの軽い足取りで部屋から退出した。

 「それじゃ、また後でね。―――ジャック」

 何度言っても違和感を覚える名前を口にして、あたしも医務室から退出する。何となく、居辛かった。






 *3「ぼく」=「ジャック・イリーガル」


 メイルと名乗る女性とアームスが部屋を出てから、「ぼく」は色々と思考を巡らせてみる。
今いる建物は、「アルサレア軍」基地の一つらしい。
そして場所は、サーリットン。
どちらも名前は聞いたことがあった。「アルサレア」というのはぼく達が住む大陸の三大勢力の一つ。
サーリットンは、戦時中の激戦区の一つで、ぼくの「家」が建っていた場所の地名だ。

 ―――ということは、ぼくはあの怪物から、さほど遠くへは逃げられなかったようだ。

 なのに、何故生きている?

 ……見逃してくれたのか…それとも、死んだと思って追撃しなかったのか―――。

 考えても仕方ないので、今はあのメイルとアームスに、色々と聞いてみる必要がある。
目の前の少女―――ケイは、多分何も知らないだろうし、あの二人はおそらくパイロット、そうでなくても随伴歩兵あたりのはずだ。
あの二人の内どちらかが、ぼくを砂漠で拾ってくれたのかもしれないし、そうなら、せめて礼の一つは言わなくてはならない。

 そう考え付き、ぼくは盆に載ったスプーンとスープの入った碗を手に取る。
何よりもまず体が資本だ。食事を摂らなければ、身体が保たなくなってしまう。

 ぼくが食事を摂り始めると、ケイも炊いた穀物の入った碗とスプーンを手に取り、食事を始める。
そのまま、二人とも終始無言で、黙々と食べ続けた。






 *4「アームス・ブランク」


 「―――輸送任務?」

 少々訝しげに、「俺」は姉御―――メイルの言葉を反芻する。

 「そう。それも、空輸任務」

 補足して、メイルは再び告げる。

 「輸送対象は、こっちで回収したヴァリムとミラムーンの機体と、そのブラックボックス。それと、ジャックの機体よ。
輸送機は、ミラムーンの有人輸送機が一機と、無人機が二機。それと、あたし達の機体を運搬するアルサレアの有人輸送機が一機ね」
 姉御は淡々と続ける。どうやら、既に他国の基地と協議を重ねていたらしい。

 一つ、腑に落ちない部分があったので、尋ねる。

 「あちらさんの機体を引き渡すのは納得いくけどよ、何でウチのJ−ファーカスタムまであっちに送るんだ?」

 だが、姉御はあっさりと切り返した。

 「ジャックの機体はヴァリム―――ジャポネクル製の新型フレームとOSを内臓しているらしいのよ。
だから外見は直せても、中身まではこっちじゃどうしようもないからあっちで直してもらうらしいわ」

 何で予備部品くらい回して貰えないのか気にかかったが、ふうん、と曖昧に返事だけして、細かい追求はしなかった。
姉御もあまり詳しくないみたいだったし、「新型」という言葉以外、興味もあまり沸かなかった。

 それよりも、姉御がジャックの機体から回収したディスクの方が気がかりだった。

 「なぁ、姉御―――それ、何が映ってたんだ?」

 「見れば分かるわよ」

 素っ気無く返される。つれない。

 「それより、あんた、PFで空中戦出来る?」

 今までぶっきらぼうに話していたメイルはいつになく真剣な口調で質問を返す。

 「当たり前だろ?何のために訓練校出たと思ってんだ」

 あまりにも当然過ぎる質問に苦笑しながら、俺は答えた。
ちなみに「PF」というのはパンツァー・フレーム(Panzer-Frame)の略称のことで、この呼び方で大体通っている。

 「そう、なら結構。次はあんたとマリアにも出てもらうから、機体のセッティングしておいてね。
基本フレームはJ−ファーF型。飛行補助ウイングを含めた武装、四肢パーツは、基地にある装備で自由にして構わないから」

 「……イエス・マム」

 軍隊用語で「了解致しました、上官殿」という意味の言葉を呟き、そこで会話を終わらせた。
普段のなげやりに仕事をしている姉御とは思えないほど、今の言動と冷めた口調は「真面目な軍人」そのものだったからだ。

 やはり、隊長という役職は大変なのだろうと、心の中で同情する。

 暫くして、自動ドアの開閉音とともに、場違いな雰囲気をまとった子供が二人、現れた。






 *5「僕」


 「僕」は、指を揃えて地面に向けて突き立てる。
「サーヴィランス」は僕の動きを増幅し、位相を揃えた指先を砂漠に突き立て、穴を穿つ。
穴は全部で134。僕と「彼」の分を除いた家の住人全て分だ。
燃え盛る蒼い炎から死体を一人一人巨大な指でつまみ出し、埋葬していく。

 ―――ふと、死体が足りないことに気付いた。
生き延びた少年と、僕だけではない、殺されたはずの人間―――四脚戦車のパイロットだったと思しき者の
死体が、何処にも存在しなかった。

 あの記録映像では鮮明には分からなかったが、確か戦車は脚を押し潰された後、パイロットの居る砲主席を
怪物の頭で叩き潰されたはずだ。

 直前に運良く脱出したのだろうか、とも思ったが、死体がアルサレアかヴァリムの調査隊に回収されたのだろうとも解釈できる。
好意的に考えても、生き延びるのは不可能であろうから。

 そして、子供の遺体は予想通り12人分。その内訳は計ったかのように男子6人、女子6人。
その内身元不明―――顔や骨格の原型を留めていない遺体は男子2人、女子1人だった。
逃げ出した子供は男子だったから、これで3人までに絞られる。

 後は、アルサレアかヴァリムで身元不明の子供が保護されたという情報を聞きつけて向かえば出会えるだろう。

 彼と出会える日を心待ちにしながら、遺体を全て埋葬し終える。
次は、依頼元に報告かな―――。











 第八話へ



 





あとがき

*内容について
前回よりあまり進んでない気がします。
もっと話を端折る技術を学ばないと長編をまとめるのは難しいですね…。
次回は二度目の戦闘場面を入れる予定です。

*人物について
(故)ジャック・イリーガル 21歳 男性
髪色:黒 瞳:黒
主人公の名前の元となった、ジャック本人。
士官学校を一年留年の後、メイルと同期として卒業し、実験部隊に配属される。
PF操縦技術は主席クラスだったが、一般教養に欠けたために留年している。
が、決して非常識な人間というわけではない。
それ以外にも、「ある理由」から、わざと留年したのではないかと囁かれている。
階級は中尉、階級章は緑の襟章に「/」型の金線が二本入っています。

マリア(本名マリア・ケッツァー) 16歳 女性
10話にて登場予定。例のネコ型(?)PFの名前じゃありません。


*機体について
JN−JF03CX J−ファーカスタム・ジャック機「J-farCustom」
第一話より続き
アルサレア製PF、J−ファーカスタムにジャポネクル製の新型内装フレームと
ヴァリム特殊能力研究所謹製のOSが組み込まれている。
フレームはアルサレア戦役時代の実験機「ブラフォード」系機体の流れを組み、
戦役中にはヴァリム製の外装を纏う予定だったが、シェイプアップ後に現在の外装を施している。
OS開発は当時研究員であったマルコ・ニナリッチと、同時期に居たという科学者達。
開発は一時中断されるも、後に「ブラフォード」開発チームの手によって試作機として完成する。

OSの中枢システムはBURMシステムの根源となる「ブラックボックス」に内臓されており、
これを載せ代えることで多機種にも容易にOSを移植できる。
新型機と言われているが、数値上では、反応速度と装甲以外では一般機をはるかに下回る性能で、
今までの間実用に耐えたのは、ひとえにパイロットの腕によるもの。
さらに、機体自体の開発時期はアルサレア戦役時で、公開された時期が遅かった故に「新型」扱いとされている。


*どうでもいいですが、フ○メタル・パ○ック等によりますと「サー」は男性上官、「マム」は女性上官を表すそうです。
通常は男性も女性も区別なく「サー」と呼ぶのが通例らしいですが。
次回も、「僕」の話は続きます。



 


 管理人より

 鵺さんより第七話をご投稿頂きました。

 さて、いきなり入った任務……何かが襲撃してきそうな感じではありますね。

 次回は説明でしょうか……どんな事になるのか気になりますw
 


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