―ただそこには残骸があった
 そこに立っているものは一人
 黒き剣帝はそこで何を思ったのか
 それは知る由もない
 ただ事実はその光景が伝説になったということだけ
―異界の伝説より抜粋


―ミラムーン・輸送機

 機内に複数の人影が見える

 輸送機の中の地図を広げたテーブルの周りにその全員が集まっている

 その中の一人が問う

「どこから攻めますか」

 そう問われた女性はその黒い髪を弄びながら答える

「目標地点が優秀な防空設備を誇るって事は知っているわね?」

「「「はい」」」

 三人の一般兵は一斉にそう答える

 その様子を彼女―――クロノ・O・クルクスはうん、と確認して改めて地図に目を落とす

「そこを突かしてもらう」

 その答えに一般兵は真意を掴みかねる

 普通ならばこういった基地は地上から攻め落とすのがセオリーである

 わざわざ銃の目の前に飛び出す馬鹿はいないからである

 しかし、目の前の女性はそれをしないという響きを持って答えた

 明らかに場慣れしていない一般兵達の様子を片目に見てクロノは説明する

 場慣れしていれば、ある程度真意はつかめたであろうが、それはまず選ばない選択肢だ

「防空設備の整った場所からはわざわざ攻めたりしない」

 それはわかっている一般兵

 それが常識と教えられてきたからだ

 だが、今回やろうとしているのは奇襲、常識外の行動で不意をつく行動だ

「敵もそれがわかっているから地上の警戒のほうに重点を置いている」

 そして、一拍置き

「逆を言えば、上空に対する警戒は普通以下」

 更に言えば、絶対的な防空兵器に囲まれているという状態から生まれてくる慢心が少なからずある

 そこまでわかっていれば後は簡単

 不意をつくためには

「……というわけで、ここから攻めるわ」

 と輸送機の床を指差しながらクロノは言い切った

 つまり、上空から奇襲をかけると

 その言葉に思考が止まること数秒

 解凍し、その言葉の意味を掴むのにまた数秒

 言葉の意味を理解したミラムーン一般兵は呆然として

「正気ですか?」

 と聞いた

 なんとなく大声で戸惑うことがはばかられたので小さな声で恐る恐ると聞いた

 それにクロノは平然と

「当然じゃない。そういうところに油断は生まれるものだし、何よりそうじゃないと奇襲とは言わないでしょう」

 悠然と笑みをたたえそう言い切った

 それを聞いたミラムーン一般兵は

(何かが違う、絶対に何かが違う!!)

 と強く思っていたが口には出さなかった

 そんな彼らの思っていることなどお見通しなクロノはそんな彼らの様子を無視

 答えようにもどうしようもないし

 言っても理解できないだろうし

 そうしてクロノは溜息を一つつき、呆れを交えた穏やかな笑みをつくり

「大丈夫よ、相手の防空兵器の射程外から降下開始するから」

 と言った瞬間一般兵は微妙な表情になった

 クロノにはその表情が何を意味しているのかよーくわかった

 まぁ以前から傍から見て無茶苦茶な作戦ばっか立てて遂行してきた身だわかるだろう

 そう、あれは内心

(あー良かった、巻き込まれずに済む)

 と思っている顔だ

 大体予測していたことなのでどうでも良かったりする

 そこまで言ってクロノは用件が済んだとして、格納庫へ赴く

 今回の作戦に実際に参加するのはクロノただ一人である

 理由は色々あるが、主な理由としてあげるのなら奇襲は一人のほうがやりやすいとどっかの誰かさんが言ったからである

 そうして彼女は新たなる相棒の前に立つ

 その姿を見上げ、自信に満ちた不敵な笑みを浮かべる

「さて、初舞台だが華麗に舞うとするか。ねぇヴァンブレイス」

 ここにいるのはクロノ・O・クルクス

 異界にてもっとも恐れられ、頼られ、甘く見られていた一人の剣帝

 そう、戦場にいるもの―――何も考えずに戦争に身を投じるものにとって出会ってはいけないもの

 それが、彼女だ
 


 そうして血塗れの暴君は帰る、全てが自己責任と連帯責任で許可される地獄へと





 

異説機甲兵団J-PHOENIX
 戦場を駆ける風

Chapter1「吹き荒ぶ嵐〜The storm ruin tha calm breaker〜」
third-2「憎しみという鎖・中編〜Chain of Hatred〜」






 

―ヴァリム軍基地・上空

 雲海の更に彼方、ひとつの輸送機が飛んでいる

 下に存在する基地の防空設備の射程距離よりちょっと離れた高度を保ちながらとある時刻を待っている

 その機内の格納庫にひとつの機体が出番を待っている

 そのシルエットはアルサレアのPF、J−ファーに似ているが細部が違っていた

 至る箇所の装甲が簡略化され、脚部にいろいろな機能が追加されていた

 総合能力こそ元になった機体に及ばないが、機動性能という観点から見れば恐ろしく性能が上がった機体

 空間戦闘に特化したクロノと合わせれば化け物と呼んでも差し支えはないだろう

 …ぶっちゃけ後の第二世代PFに乗っただけの雑兵ぐらいなら軽くあしらえる

 名を「ヴァンブレイス(篭手)」と呼ぶ

 そう、クロノという剣を守るため、この場合は余計な力を発揮させないようストッパーとして作られた機体である

 その中でクロノは目を閉じて時を待つ

 何の感慨も起こすことなく、何も考えることなくただ時を待つ

 そうして作戦開始時刻が訪れる

 すなわち、ヴァンブレイスという相対するものに対して恐怖を刻み込む魔剣が解き放たれる

「さぁ、相対するものすべてに恐怖とともに絶対的な差と戦場に立つことの愚かさを刻み込もうか、『新たなる相棒』」

 今、ここにいるのは

 全ての人々の笑顔とその1人が1人としていられる世界を目指して駆け抜け、深い悲しみの果て、心に取り返しようのない傷をつけながらもその先へと歩み続け全てを無へと帰したクロノ・O・クルクスではなく

 共に在る戦友を、戦えない弱者を守る、影もなく敵を葬り去る狂った槍「無影凶槍」でもなく

 全てを終わらせるため、全てを薙ぎ払う決意とすべての業を背負う覚悟を決めた血塗れの暴君でもなく

 戦場にいることの愚かさを絶望と共に刻み込む漆黒の剣帝である

 では始めよう、愚かしくも美しい一時の惨劇を

 クロノは格納庫から降下し、作戦は始まる

 作戦と言えない作戦が今、始まる

 

―ヴァリム軍・前線基地司令部

 ミラムーンとの国境近くの丘陵地帯に建てられた前線基地

 その基地の通称を「バイト」と言った

 つまり、『変な行動を起こしたらすぐさま噛み付くぞ』と遠まわしに言っているらしい

 その証拠にこの基地内にはこの時期まだ珍しい純ヴァリム製PF『ヌエ』の影が四機も見られるのだから

 しかし、そんな状況とは裏腹にこの基地の司令官は悩んでいた

 確かにこの基地のことが表に出てから何度か攻め入ってきたミラムーンを撃退してきた

 そう、それは確かだ

 けれど、それが今の状況を生み出していることも確かだ

 ちょっとした所では済まされないレベルの気の緩み、それが連日の連勝によって生み出されていた

 どうせ、次に攻めいれられたとしてもこの程度だしという空気がそこらじゅうに満たされている

 確かに相手が正規軍の雑兵レベルならそうなるであろう

 けれど相手だってそこまで馬鹿ではないだろう

 あの腹黒大将のことだから下手するとここまで読んでいたのかもしれない

 そう、ここまでこの基地の規律が緩むこのときまで

 ここでもし、奇襲なり、正面なり、少数精鋭の部隊に攻められたら……

 と司令官が考えていたら、基地内を最近聞きなれた警報が駆け巡る

 この警報の意味するのは

「司令官!!」

 その意味を司令官が読み取るのとオペレーターの報告が重なった

「敵機襲来!!敵機の侵攻方角は……」

 一瞬の空白の後

「真上、この基地の上空よりの侵攻です!!」

 そうして司令室は喧騒に包まれる

 だが、ただ一人を除いて地上までたどり着くとは考えていなかった

 この基地が落とされるとは誰も思っていなかった

 

―基地・上空

 一機のPFが頭を下にしながら降下している

 言うまでもないが、クロノとヴァンブレイスである

 今のところ自由落下に任せている

 全身に姿勢制御バーニアをつけたりとか、三次元推力変更ノズル型のブースターに換装するなど色々手を加えた機動関係だが、推力が有限であることには代わりはない

 だから、ここで推力を浪費するようなことはやりたくないという状況であった

 唯でさえこの機体は今回の作戦と相性が悪いというのに

 基地の上空を降下しながらクロノは簡単にここに来るまでを振り返る

 もうすでに敵のレーダー範囲には入ったが防空兵器の射程まではもう少しある

 ならば寸前まで平静を保っておくことが必定

 だからいつもの通りに回想する

 

〜回想・今朝方、愚か者の宴にて〜

 早朝の酒場は本当に静かである

 たとえ、深夜にどんなに賑わっていたとしても翌日の朝には過ぎ去った嵐となる

 そんな人気のない酒場の中に三つの人影が見える

 一人は黒い長髪をリボンで束ねた紅い眼を持つ女性

 他に水色の短髪の女性と先の女性と同じく長い黒髪を持っているがそれを三つ編みにした金の眼を持った女性

 全員ひとつのテーブルに集まり、卓上に広げた紙―――先日クロノがソフィアに頼んだものに視線を落としている

 その規模をいったん説明したソフィアがひとつ息をつき、クロノへと視線を向ける

 その視線を受けたクロノは数秒目を閉じ、黙考する

 してもしなくても結局同じ結論にはなるであろうが、過程が微妙に異なる

 そうして口を開く

「やっぱり上空からの奇襲にする」

 そう今までに決めていた通りの答えにミストとソフィアは顔を見合わせ

(だから言ったでしょう、こういう奴だって)

(成る程……まぁ私も同じ事やったでしょうけど)

 と視線だけで会話をする

 クロノはそんな視線を無視する

 そこへ、ソフィアがふと思った疑問を投げかける

「で、完成したの?例の」

 その言葉を聞いてクロノは答える

「まぁ一応納得行く形にはなったわ」

 その言葉を聞いてミストが簡単に仕様書を読む

「型式番号CCH-02R、識別名称『ヴァンブレイス』、最大出力は現行のアルサレア製J−ファーと同等。腕部出力や装甲こそ劣れど加速能力や最大速度、つまり総合機動力で圧倒する」

 そこでいったん切る

 そこへ簡単にソフィアが感想を言う

「見事に癖がついたねー」

 万能機体を一晩でここまで特化機体にするとは、クロノ恐るべし

 クロノは微笑みながら言う

「基本性能をそこまでいじるのは簡単だわ。でも、それだけじゃないんだよね」

 ヴァンブレイスに秘められた能力とは……

〜回想・了〜

 

 とか考えているうちにどうやら対空砲火の射程に入ったようである

 真下、頭を下にしているクロノからすれば真上からミサイルの群れが襲ってきた

 あたり一面に広がったミサイルの雲を見つめてクロノは呟く

「さすがに、対空戦PF用の防空設備はつけていないようね」

 そう、目の前にあるのはミサイルの面

 だが、広範囲に広がった面に対してその深さは薄い

 初撃さえ抜けてしまえば如何にでもなる内容

 PFが登場してから今まで上空から襲撃したという実例はなくはない

 でも基本的に従来のPFは、名が示すとおりに戦車という役割のほうが重要であった

 だから、地上での走破性などに重点を置いた設計であって空中での機動性能はかなり低かった

 最近、ウィングパーツという空中での機動性能を上げる目的の武装が開発されているが、それでも空中での性能は劣悪だった

 故に今までの航空機に対するように面で対抗しても十分だった

 それで十分に損傷を与えられたからである

 でも、この機体は根本的に違う

 最初から空間戦闘を目的として組み上げられた機体である

 その機動力は既存の機体と比べることもできない

 二次元を基準とした戦闘システムと三次元での戦闘に最適化した戦闘システム
 
 その空間の使い方は全く違う

 たとえば、この機体に設置してある機体制御用バーニアは既存の機体と比べ、とてつもなく多い

 何故かは空間を三次元に使うためである

 三次元は前後左右だけでなく、上下という概念も加わる

 故に敵のほうへと一秒でも早く対応するためにこういうものがつまれているのだ

 まぁ、主に宇宙空間で使う機能だが、使い方を変えれば地上での加速にも使える

 特に部分的な加速で

 話がそれたが、もうひとつ航空機とPFでは根本的に耐久力に差がある

 数発もらえばさすがに厳しい内容でも、急所さえ免れれば何とかできる

 つまり、この基地の防空設備は本来の数分の一しか効能を発揮できないということである

 そんなこんなで全三陣のミサイル群の第一波が目前に迫っているこの状況でもクロノは一切動じなかった

 意味が薄くとも、防空設備はあるだけでも、放つだけでも意外と効果があるのだが、クロノにはそういったものは意味を成さなかった

 どうせ強硬突破するし

 目の前のミサイル群を見つめ、ヴァンブレイスの槍剣を握りなおし、一気にブーストを掛ける

 強硬突破に必要なのは、速度と度胸と判断力である

 最短ルートを導き出し、それを邪魔する一発を見据える

 そのミサイルの脇を掠め突破、同時に右手に持った槍剣で腰より下の位置で斬り裂く

 一瞬の後、爆発

 その爆風の煽りすらも加速に変えるかのようにひたすらに地上を目指す 

 二陣目のミサイル群が見える

 これも先ほどと同じように処理する

 三陣目は二陣目のすぐ後だったようで間隔が短い

 けれど、それに臆することなく二陣目のミサイルの誘爆を背に突破を試みる

 多少今までのより誘導力が強いようだが、それすらも意に介することなく突破する

 三段構えのミサイル群を突破したクロノの目の前に対地誘導弾迎撃用のミサイルが現れた

『数秒後、もしくは近くに何か物体があった際に爆発する特殊な時限信管を搭載した型だったはず』とクロノは記憶をひっくり返す

 更に対地誘導弾迎撃用だから、誘爆しやすいように爆風の威力はともかく、範囲は広い

 そこまで考えたクロノは機体を反転、頭を上にした状態で、左腕を下に向ける

 簡単に狙いを定めた後、バシュッという音がして大量のアルミ片が指向性を持って発射された

 チャフディスペンサーといわれるもっとも一般的な対誘導弾兵器である

 大量のアルミ片を機体と誤認させ、爆発を誘発させる兵器だ

 もちろん時限信管だけだったら意味はないが、接近信管の特徴も併せ持つこのタイプには有効だった

 眼下で大量の爆発が誘発され、最短ルートが照らし出される

 爆発を収まるのもまたないままに一気に反転、駆け抜ける

 奇襲に重要なのは判断力と度胸、そして速度

 ほとんど強硬突破と変わりはない

 両方とも一瞬の逡巡が全てを分ける

 多少厚い雲を抜けた先に広がる倉庫やら対空機関銃やらレーダーを備えた基地施設が見える

 その中ではすでに戦車隊やPF隊が展開を終えている状態だった

 奇襲で地上に降り立ってからでは遅すぎるので、妥当といえば妥当であろう

 その中で砲塔があり、対空能力を持った種類の戦車やPFが周りのなけなしの対空機関銃と共にこちらを狙っている

 それらが有効射程に入ったのか一斉に火を吹く

 そんな状況でもクロノは一切動じない

 その全ての弾道を予測、回避行動に移る

 左寄りから来た弾を身体を開くことで回避、その後から無数の弾

 それらをAMBACを併用して避けきる

 AMBAC……能動的質量運動による重心移動と姿勢制御用バーニアによるまさしく非常識な機動

 あるいは身体を開き、あるいは回転し、あるいは反転することで的を絞らせない

 基地の兵は若干恐怖を覚えながらもそれでも引き金を絞る

 願わくばこの光景が夢でありますようにと

 そんな願いなど聞き届けられるわけもなく、クロノは降下を続ける

 PF隊の展開の仕方は一機を中心として三角を描いている

 四機の陣形でいえば妥当ではあろう

 そう、妥当故に攻め方も思いつける状態であるのならば意外とあるのである

 クロノは機体を三角形の辺の中心近くに動かす

 当然常軌を逸した軌道でだ

 中心の機体は対応できるわけもなく、その軌道を見て一瞬固まる

 そう、一瞬固まった

 それで十分だった

「終わりね……」

 クロノは呟き、中心の機体へと反転し、頭を上にした状態で槍剣を左肩に振りかぶる

 その動きを見て、周りは一瞬呆気に取られる

冥龍地轟破斬(めいりゅうちごうはざん)

 そうクロノは宣告し、落下ベクトル、位置エネルギーと運動エネルギーの合力、重力加速度全てを束ねた一撃を放つ

 振り下ろす軌道に姿勢制御バーニアで更に加速をかける

 ドガン

 破砕音を立てて振り下ろされた槍剣は地上に爆発したような跡をつけ、地についていた

 目の前のPFは本体を斜めに斬られていた

 ヴァンブレイスは振り下ろした体制で座っていた

 周りは現実のようで夢であるかのような光景に言葉を失っていた

 それは司令室も一緒だった

 周りの兵に空白ができたことを見たクロノはそれに追い討ちをかける

 目の前の崩れ落ちようとしている機体を見据える

 右足に仕込んだスパイクを展開、地を噛む

 右手で槍剣を握り、身体を起こしながらバーニアで右旋回

 回転で得た遠心力を乗せて崩れ落ちそうな目の前の機体の首を斬り飛ばす

 慣性のままに首がある程度の距離を飛んで、数回転して止まる

 その光景がヴァリム兵の空白を更に強くした

 この中でいち早く回復したのはさすがというべきか、司令官だった

 この状況を理解した彼の行動は早かった

 席にある通信端末をオンラインにし、全周波で呼びかける

 目の前の最悪の選択肢を消すために

『全ぐ……』

 けど哀しいかな、彼が呼びかけるより早く行動を起こしたものがいた

 同じく全周波数で宣言する

『我が名はクロノ・O・クルクス。貴様らに絶望を刻むものだ!!』

 拡声器越しとはいえ、かなりの音量を伴った名乗りが戦場に響く

 名乗りは『戦略』的には意味を成さない

 けれど基地攻略戦というのはあくまで単体では『戦術』レベルの戦闘だ

 名乗りは戦術的にはかなりの効果がある

 それを知っている司令官はとにかく命令を出そうとした

 けれど、今主導権を握っているのはあくまでクロノだ

 この司令官とクロノでは支配力が比べ物にならない差がある

 そして次にクロノが取った行動は

『まぁ、あんな雑魚どもを倒していい気になっている腰抜けどもに何を言っても無駄か。いや』

 そこで一端きり、わざと勿体つけて、嘲りの色を前面に出して言う

『基地に篭っているだけの引き篭もりだったけ、あんたら。ああ、命令に従うだけのただの犬ってのも言いえて妙ね』

 周りがその意味を取り込むまで数秒かかった

 そうして意味がわかってきたところで止めの一言を冷笑と共に浴びせる

 その裏に意図とは違う、本当にクロノが見てきたものを込めて

『ってか人を殺すことが怖いの?根性なしさん?』

 その裏の意味を解することなく周りの人々は一瞬で沸騰する

『本当にそうかどうか……手前自身で確かめやがれっ!!!』

 その様子を見て、司令官はやられたっ、と頭に手を置きながら思う

 最初の名乗りで注意を向けると同時に戦意を一瞬消し、この場の勢を引き込む

 加えて、恐怖により単純な思考ベクトルに固定される

 そしてあからさまな挑発で怒りへと転換させ、攻撃以外に思考が行かないようにする

 けれど、無意識下で最初の名乗りが刷り込まれているから意識との背反を多少だが起こす

 これでこの作戦の趨勢は決まった

 さて、どうするべきかと司令官は考えるが、そこまで時間は残されていなかった

 今すぐだったら本当に最悪の選択肢を消せたはずなのに……

 

 挑発に見事乗らせたクロノは戦車砲の射線から逃れることを念頭において辺りを見回す

 ぶっちゃけ姿勢制御バーニアやらホバー機能をつけ、そのうえ装甲をかなり削ったこの機体は耐久力に劣る

 加えてブロック化することによりPFの誘爆率はかなり低いはずなのだが、各所に仕込んだ推進剤とホバー機能が異常燃焼を起こしやすいので結構誘爆の危険性は高かったりする

 なので、戦車砲の直撃をもらうことは絶対に避けねばならない

 なのにめちゃくちゃ条件は悪いのだ

 ヴァンブレイスの最大の武器はその機動力と空間を最大限に利用した動き

 その二つが基地内という状況で最大効果を発揮できない

 そんな悪条件をクロノは甘受していた。その程度は簡単に弾き返せるから

 周りのPFのうち二機は射撃の構えで、残りの一機がレーザーソードを構え突撃している

 その状況を見たクロノは右足のスパイクを展開、同時にグリップ圧を最大まで押し上げる

 十分に地を噛んだことを確認するまでもなく、踏み切ると同時にフルブースト

 十分な踏み切りとフルブーストに押され、一歩で懐に入る

 左足で着地と同時に先ほどの右足と同じ要領でグリップ圧を最大化

 右腕の槍剣の狙いをコクピットに定め

『さようなら、まぁ、二度と会うことはないでしょうけど』

 と呟き、機体全ての運動量を切っ先に集中させ、貫く

『がぁghjlらg……』

 形容しがたい呻き声を上げて一人崩れる

 ヌエの後ろから生えている槍剣の先にオイル以外に何か赤いものがついていた

 クロノは自分のもたらした結果を受け止め、しばし黙祷しながら想う

(免罪などいらない、償いもどうでもいい、けど、貴方の死を私は絶対に忘れない)

 免罪も償いも私の生き様でどうとでもとればいい

 どうしようが私が貫きたい生き方は一つだけだ

 だから、ここまで血に塗れた道を歩いてきたのだが、それでも彼女は歩くことをやめない

 

 その光景を見ていたヴァリム兵は一瞬言葉を失う

 こう、わかりやすい形で人が死ぬ光景を見たことがなかったから

 ……戦争なのに

 あいつは気のいい奴だった

 この後飲みに行く約束をしていた

 故郷で待たせている人もいた

 でも死んだ

 ナゼ、シンダ?

 メノマエノヤツガツラヌイタカラ?

 コノケイヨウシヅライオモイドウシテヤロウ

 アア、コタエハキマッテイル

 ヤルコトハヒトツ

 ソウ

『…き……さ……ま…』

 震える声で一人が呟く

 何に震えているかはわからない

 ただ、言えることは一つ、この基地の兵の思いは一つ

『殺す……絶対に殺してやる』

 全員が狂気に駆られ、クロノ目指して一斉に攻撃する

 その様子を見るまでもなく殺気で感じ取っていたクロノは目をつぶりながら冷笑する

 今私がどういう状況か見なさいと心の中だけで言って

 右腕を敵の前面にかざした

 そう、

『まっ、せいぜい復讐でも気取って仲間の機体だったものでも攻撃してなさいな』

 『先ほど串刺しにしたPF』を前面にかざした

 槍剣を引き抜き、多少身をかがめて『たて』を有効利用する

 敵はWCSに導かれるままに『仲間だったもの』を撃ち抜いていく

 さすがにPFだけあって直撃しても表面の装甲が徐々に削り取られていくだけで貫通しない

『貴様、それでも人間かっ!!』

 そういう侮蔑の言葉がかかるがクロノは一切気にしない

 そうこうしている内に戦車砲が直撃した

 結構やばいところに当たったみたいである

 機体の各所に電流が走り、爆発の兆候を見せる

 それを見たクロノはその機体を敵に向かって蹴りだす

 ある程度敵のところまで行き、そのまま崩れ落ちるように機体が揺れ、爆発

 その余波を確認するまでもなく、クロノは次なる標的をめがけて駆ける

 次なる目標は……

『厄介なんでね、潰させてもらうよ、戦車』

 そう、戦車隊である

 そのまま戦車のほうへ突っ込み、一体のキャタピラを弾き飛ばし、砲身を刈る

 戦車の狙いが一斉にこちらを向く

 それが狙い

 クロノはそこまで見て取ると、脚部のホバー機能を起動

 地上より一時的に切り離された機体はブースターの推進を殺すことなく伝える

 それで次の標的に近づいたところでブースターを切る

 慣性のままに流されていく機体

 狙うことは難しいが、やれないことは無いと戦車隊は狙いをつける

 そのタイミングで、クロノはホバーを切り、グリップを限りなくゼロに近づける

 摩擦はゼロじゃないので徐々に減速しながら動く

 でも、表面上は殆ど変わらないので、戦車隊はホバーのときと同じように機体を追った

 そうして、標的に近づいたところで一気にグリップ圧を上げる

 同時に発射していた戦車砲は全て虚しく空を切り、他の基地施設に着弾、爆発、炎上する

 クロノは手近な戦車を砲身ごと踏み潰す

 踏み潰した反動で、戦車はある程度空を飛び、炎上する

 それをクロノは何の感慨も無く見つめ周りの戦車へと向かう

 無論PFからの援護射撃が降ってきているが、どれも普通の基準を超えることはないので空気を吸うように自然に避けている

 攻撃が当たらないことであせっている戦車隊の攻撃を捌きながら、踏み潰し、薙ぎ払い、蹂躙する

 クロノはただ想う

 『別に戦友の死を嘆くのはかまわないけど、だからって焦ったり怒りに身を任せたりしているうちは何もできないわよ』と

 そう、仇をとることさえも

 戦車隊が全滅するのに二分とかからなかった

 ここまで爆風の余波以外はまともな傷を負っていないヴァンブレイス

 その様は血に餓えた修羅にも、全てを哀しむ聖者にも見えた

 コクピット内にけたたましいアラームが鳴り、クロノに危険を知らせる

 十字砲火の態勢で正面と左方向にヴァリム兵が居る

『合わせろっ』

『わかっている』

 そう交互に言葉を交わし、目の前の敵に銃を向けて引き金を砕かんばかりに引き絞る

 敵のマズルフラッシュを確認するまでもなく、前兆で判断したクロノは迷わず目の前の機体へと剣を向ける

 今の状況を想い、クロノは一人回想する

 以前師と問答したときのことを

『世界の真理?…そうねぇ、あえて言えば『輪』かしら』

 銃を狂ったように撃ち続ける目の前の機体に向けてフルブースト

『時は流れ、風は駆け、命は巡り、魂は回り、どんな思いも言葉も巡りに巡って鎖になり、人を縛る』

 クロスオーバーステップを使いジグザグに迫る

『そう、それは世界という単位で見ても例外はない』

 二つの射線が途切れる、一つは弾倉の交換を行い、一つはレーザーブレードを構える/射線が途切れたことを確認するまでもなくクロノは懐へ飛び込む

『だから、真理に意味はないの。ただ世界は回るだけ。意味も、思惑もなくクルクルカラカラと』

 左足前の態勢で両足のグリップを最大まで押し上げ、最大まで引き絞った力を解放する

『それこそ風車のようにね』

 それは構えたレーザーブレードごと目の前のヌエを胴から両断した

 ワイドインパルス……簡単に言えばアキュートインパルスの薙ぎ払い版ではあるが、それゆえ破ることは難しいクロノの基本戦技

 目の前の機体に訪れた結末を見ながらクロノは一人自嘲する

『結局私は連鎖を生み出せても、断ち切ることはできない、か』

 本当つくづく愚かな存在だ、あの頃から本当に変わってないわね、我ながら

 そう、自嘲しているとロックオンアラートが鳴り響いた

 アラートが指し示す方向を向くと、今まさに銃を向き終えたヌエが一機存在していた

『もらったーーー!!!』

 と、まるで自分が勝ったような言い方までする

 確かに普通のパイロットなら、ここで終わったかもしれない

 敵を撃破した後には大きな隙ができるからだ

 けれど、クロノは普通ではない

 クロノはそれを一瞥した後、唇を持ち上げ、鼻で笑い、冷笑した

『WCSというものに頼って殺したつもりか』

 情けないと心の中だけで吐き捨てる

『WCSの弱点というものを教えてあげるわ』

 その顔には一切感情が浮かんでいなかった……

 彼女の言葉はどこまでも冷たく、どこまでも優しかった……






 

third-2[Chain of Hatred] end

next[Recuring Nightmare]






 



後書き〜Chain of Hatred(憎しみという鎖)〜

 ミスト(以下ミ)「どうも、ここまで読んでください有難う御座います」

 作者(以下時)「どうもー遅くなりました」

 ミ「本当、遅かったわね、二ヶ月以上たっているけど」

 時「色々と事情があったんだよ」

 ミ「あー学生の夏休み前のお約束イベントか、でもさ、やる期間あったはずでしょ?」

 時「…………」

 ミ「何をやっていたのかしら?」

 時「……これに関係ない、一次創作のプロットとか、まぁ色々と」

 ミ「まずこれを進めろってーの(呆)」

 時「それは置いておいて、それではこの辺で」

 ミ「……逃げたな」

―簡易設定

 ヴァンブレイス
 ―一話目で捕まえたJ−ファーを弄り回して作った趣味全開の機体。姿形は原型が残っているが、能力は原型の欠片すらない。
  型式番号は『CCH-02R』、ミラムーンの識別番号は『MPF-000』。この機体の改修版が制式採用となったあとは『ヴァンブレイス・ゼロ』と名称が変更される。

 槍剣
 ―ヴァンブレイスの紙面上での制式装備その1。形状は槍と同じ長さで、半分より先が剣と同じ形で、ナックルガードがついているといえばわかりやすいか。とりあえず、とてつもなく硬い。

 ウィング
 ―本文でついているとは一切触れいてはいないが、ついているヴァンブレイスの制式装備その2。J−フェニックスのようにこの装備の真価を発揮することはできない。ただの補助装備。

 バックラー
 ―同じく本文中ではそこまで詳しく描写していないが、制式装備その3。小さい円形の受け流すことを目的とした小型の盾。腕につけるタイプのため、両手持ちの武器も装備可能。

 チャフディスペンサー
 ―今回つけておいた装備。戦闘機とかのそれと同じ能力。使い方が微妙に違うのはご愛嬌。

 ホバー機能
 ―ヴァンブレイスの新機能。文字通り、脚部についている機体を浮かすための装置。機体を浮かした状態での機動は想像を絶する。
  どういうものか詳しく想像したいのなら、ド○を想像すればいい。

 グリップ圧調整機能
 ―文字通りの機能。これとホバー機能の併用で恐ろしい回避性能を誇る。ぶっちゃけ戦場でわざわざ足元を見て、浮いているかどうかいちいち確認する奴はいない。

 姿勢制御用バーニア
 ―全身の至る箇所についている姿勢を安定させるための推進機能。これの所為でこの機体の誘爆率と異常燃焼率は高い。
  後、本文中のような機動をした場合、普通の人間の生死は保証できない、というより確実に死ぬ。

 ヌエ
 ―本編で主人公に一山いくらでのされる運命にある雑魚機体。この作品の時点では初期ロットに近いナンバーなので本編より低級な能力を有する。

 ミラムーン一般兵の皆様方
 ―初期ロットに近いJ−ファーでがんばっている職業軍人らしき役職にある人々。戦争の当事者でないため、危機感もなきゃ緊張感にも欠ける。本編やBTでも思ったけど、口だけはえらそうなのや、英雄に憧れているだけの人ばっかで本当に国防なんてできるのだろうか?激しく不安である。

 対空兵器の数々
 ―かなり作者の偏った見解が含まれます。信じないようにしてください。特に理念あたり。

 クロノの戦い方
 ―孫子の戦い方をベースにしているため、正と奇を使い分け、実と虚を確実に見分け、場の勢を一気に制圧するような策を一瞬で練り上げる。
  これは大軍戦でも同様。今回は主に奇を使い、相手を混乱させて、場を制圧した。

 クロノの師匠
 ―次元の狭間に居るとされる本当の意味で全てを知るもの。性格はクロノに輪をかけたようなもので、強さは素でクロノの数倍はある、クロノを化け物にした張本人。
  たまーにクロノの回想に出没する程度で、根幹には関係しても本筋には一切関係しない。そういう存在。




 


 管理人より

 時の妄執さんよりご投稿頂きました!

 なるほど、直上からでしたか〜

 まぁ、所詮戦争ですから……ね。



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