先書き
ちょっと今回クロノさんが黒くなります
そこまで描写は酷くはありませんが黒い主人公が苦手な方は回れ右してください
―十の力には百の暴力で、千の勇気には万の恐怖で、幾千の希望には無限の絶望で相対する。
その姿は全ての希望の灯火を喰らう夢魔のごとし。
彼の者が通った後に残るは希望を奪われた生ける屍のみ。
そう、醒めることの無い悪夢に襲われた屍のみがそこに残る。
―異界のとある伝説より抜粋
クロノが契約してから大体一週間ぐらいが経った頃
戦場である噂が流れるようになった
なんでもそれを見たものはまともな状態で帰って来れないという
それを兵士たちはこう呼んだ、戦場に現れる幽霊、Ghostと
その正体については色々な推論が生まれたが、全てに信憑性がなく闇に消えていった
ごく少数の人物を除いて
―アルサレア軍本部
アルサレア軍、元帥執務室
アルサレア軍のもう一つの心臓ともいえるその場所に二つの人影があった
その二人の視線の先には一つの映像が映っていた
―その映像は遠方からの長距離撮影であるためかなりぼやけている
時々、ザザッとノイズが走る
そんな中に紅い色のJ−ファーとUnknownが映っていた―
「どう思う……」
と、片方の影は囁く
―そのとき映像は無数の残骸と少数のJ−ファーとUnknownを映し出していた―
もう一つの影はそれを見ながら溜息を一つつき
「どう思うといわれてもな……」
そう呟いてから映像へと視線を戻す
―そこには後一機となったJ−ファーの姿と無傷のUnknownが映っていた
J−ファーのほうがUnknownへと斬りかかるが、Unknownが半身ずらして回避、同時に右腕を引いて狙いをつける
次の瞬間にはUnknownが右腕の突撃槍のようなものを頭部へと突き刺し、頭部が爆散
J−ファーの機能を停止させた
そうしてUnknownが周りを眺め―
そこで映像が途切れた
そこまで見て
「圧倒的過ぎるとしか思いつかないのだが」
正直な感想を男は漏らした
機体性能はともかく、搭乗者の技術が圧倒的に違いすぎる
錬度が低いとはいえ八機のPFを損傷一つなくあしらったその技術はとても普通のもののそれとは思えない
PFは此処においては最新鋭の兵器だ
それを凌駕するあの機体と搭乗者の技術は何なのか
そこまで考えてとある一つの仮説が成り立つ
そう、それは……
「あの機体……件の件の機体と関連があるのであろう」
ともう一人の影が言った
件の件…それはつい数週間前の出来事
ミラムーンに現れたという未確認の物体の確認の際感知された機体
そのとき派遣したルロイが撮った唯一の報酬
それを直接見たルロイが言う「何をしても絶対に勝てない」機体
それと深く関連があるのではないのか
と、影はそう言う
そうなると一つの最悪が思い浮かぶ
そのUnknownがミラムーンに手を貸すという
そしてその技術がいまいち信用しきれないミラムーンに渡ったとしたら
とそこまで考えていったん考えを棄却する
本当にそうだったとしたらミラムーン上層部がもっと強気の姿勢で、というより脅迫に出ているであろう
だから……
「この件はこれで終わりにしておくか」
「ああ、考えても答えは出ぬだろうし、何よりそれ以外に片付けねばならない案件など掃いて捨てるほど存在する」
と、半分投げやりな感じで二人の男は締めくくった
まぁ実際その張本人クロノさんは情報公開の是非の判断にかけては超一流だ
伊達に黒騎士団の団長ではないし、危険物質ばっかり作っちゃいない
力ずくで盗もうとする奴らにはお仕置きするし
ええ、そりゃもうトラウマになるくらい
そこら辺は置いておいて
二つの影はこの件に関しては暗部の調査に任せる―――といっても今に至るまで数回失敗しているけれど
ことにしておき、他の案件の処理に回る
「さて、この後どのように立ち回るとするか。ゴルビー」
「まずは生還率の上昇から手をつけるとしようか、グレン元帥殿」
そうしてアルサレアの二本の柱は民を生き延びさせるための方策を考える
自らが血塗られた道を歩み
その先にある平和な世界を次の世代に託すため
そう、アルサレアだのヴァリムだのミラムーンという枠にとらわれない世界を託すために……
―ミラムーン・ウェスペル
クロノがこの世界に降り立ってから数週間が経った
その間此処ウェスペルでクロノが工房で色々悪戯した以外に何も大きなことは起こっていない
そう、それ以外は此処では何も―――(Extra Chapter「侵入者撃退法」参照)
そしていつものようにクロノは「愚か者の宴」に入り浸っている
理由は簡単、酒を飲むためだ
そんな風に酒を飲んでいるとき、皿洗いをしていたソフィアがそうそうと言い話を切り出す
「そういえば今軍の間である噂が立っているのよ」
両軍の間で、しかも傭兵までもが気にしだしている噂
その言葉に多少の興味と大幅な嫌な予感を覚えたクロノは顔を引きつらせながら続きを聞く
「何でも、ばかげた速さで動く上に……」
そういうソフィアの目は細められていた
ついでに唇の端が若干釣りあがっている
まるでおもちゃを見つけた猫のように
そう、あれはわかっててあえて反応を楽しむときの手口だ
そこまで読んでクロノは掌を額に押し付けてわざとらしく溜息をついた
そんなものはお構いなくソフィアの話は続く
そもそもその反応を見るためにわざわざ話を切り出したんだし
「……敵味方問わず殺していくんだってさ、しかも傷一つもらわず」
そこまで聞いてクロノは思い出す
なんて自分が言われてたかをかなりあやふやな記憶を探って
「…………そんでついた綽名が……」
「Ghost、幽霊ってわけね」
いかにも楽しげな声が答えをつむいだ
その声に気付いて振り向いたらそこには義体に入ったいかにも楽しそうな表情のミストが立っていた
その姿を認めてクロノは更にうなだれ
「……ああ……だか……きん…んか……るば……」
と何かものすごい勢いで呟いているが無視
ソフィアはいたって普通に
「いらっしゃい、何か面白い話でもあった?」
「特にないわね」
ミストはそうつまらなさげに答え、クロノの隣に座る
そこでクロノが再起動して
「やっぱ、ベリアルって目立つかしら」
とのたまいました
ミストとソフィアはどちらからともなく顔を見合わせ
「「あったり前でしょ」」
と言い切った
まぁ当たり前のことなんだけど
クロノは右手で頭をかきながらしばし考えている
そこにふと何かを思いついたのかソフィアが口を挟む
「そういえばあんた、サーリットンで何やっていたのここ最近」
その言葉にクロノはいったん考えを中断させて
いたってまじめにこう言った
「普通に屑鉄拾い。後は喧嘩売ってきた野郎から戦利品を分捕ってたけど」
……普通ジャンク拾いでは追剥まがいの行為はしません
〜回想・数日前 サーリットン中央部外れ〜
サーリットン戦線・・・
それは惑星Jの二大国家間の戦争の激戦区であり、一番多くの命が飲み込まれていく場所である
両方の兵士が自らの信念を賭けて弱者を淘汰する地獄
今日も伝説が生まれ、消滅し、英雄譚となりて憎しみの輪を広げていく
そんな地獄のとある場所
そこでは赤い色をしたJ-ファー八機の残骸の上に
ベリアルが立っている
悠然とたたずみながらも天を仰ぐさまはなぜか哀愁を感じさせる
どこからどう見ても弱いものいじめにしか見えない風景である
何でそんなことになったか
理由は簡単
身の程知らずで何も知ろうとしない愚か者がクロノさんに喧嘩を売っただけである
時間を少し遡ろう
まず何でこうなったかを振り返ろう
ただクロノは屑鉄拾いをしていた
それを偶々見つけた奴らがいた
ただそれだけ
『そこのUnknown、所属はどこだっ!!』
『そんな大声で言わなくても聞こえてるわよ……えっとミラムーンの一ジャンク屋ですが?あっ登録証はこれです』
『なにぃ、ジャンク屋ぁ?!ジャンク屋ごときがこんな場所にくるわけないだろう』
『実際目の前にいるだろうがぼけ……ちょっと迷っちゃって気づいたら此処に』
『さては、ヴァリムの特殊部隊のものだな』
『いやっ、だからジャン『もういい問答無用』』
『我々の目の前に姿をさらしたことを後悔しながら散るがいい、卑怯者め!!』
『人の話ぐらい聞けや、ったく』
『ヴァリムめ、ミラムーンを騙るとは恥を知れっ』
『…………システムオンライン……』
『何だ?今更怖くなったのか?返事ぐらいしたらどうだ?』
『ひとつ言っておくわ』
『あ?』
『此処は戦場よ』
『は?何をそ『じゃ、行くわよ』』
『え?』
とまぁこんな感じで一方的に喧嘩を売られて買っちゃったそうな
ちなみにクロノさんは基本的に喧嘩は高額買取です
相手のほうはLED LIONとか言う特務隊という名目の下集められた問題児の集団
簡単に言えば血の気が多いのか、自分の力を過信しているのか知らないがすぐ命令違反をするというはた迷惑な奴らを集めた所謂左遷先
故に勝手な行動しか取らないので都合よく消去するためサーリットンの前線に送られている
今回も勝手に行動している最中酒代のため屑鉄拾いをしているクロノを見つけ
どうでも良いから退屈しのぎに喧嘩を吹っかけたというしだいである
ちょっと間違えば国際問題になりかねないが気にしない
まぁ戦場という特殊空間が彼らにどういう影響を与えたかについては深く言及しなくて良いだろう、今回は
何故かって?簡単簡単、それはね、クロノに喧嘩を吹っかけたからだよ
クロノに喧嘩を売ることが如何に愚かなことかは少し気配を読める奴ならばわかったであろうに
そう、途中から出ていた黒い何かに気付けたなら
さぁ弱いもの虐めを始めよう
『喧嘩を吹っかけたんだからどうなるかぐらいはわかっているわよね』
といいながらクロノは目の前に展開している八機のPFを見遣る
操縦に慣れていない、というよりは戦闘自体慣れていないのが良くわかる陣形
機体同士の間がばらばらな上、相互支援という言葉すら入っていないような攻撃の仕方
……因みに上の問答の中の問答無用ぐらいからサブマシンガンを放っていたりする
ぶっちゃけ一発もかすっていないけど
そんな彼らを見ながらクロノは分析する
標準型のJ-ファー八機
パイロットの錬度は決して高いとは言えない
ただ自分は他者よりも強いんだということを見せ付けたい餓鬼と同レベルな感じ
本気……喧嘩売ってきた時点で開放
ならば成すことはひとつ、絶望とは何か刻み込んでやる……
そう考えている間にもがんがん敵さんは弾を撃ってくる
WCSはあくまで照準補助である
それも固定標的に対する補助
そんな固定標的に当てるための弾なんかにクロノは当たらない
少なくともこの程度の弾幕では、足止めにすらならない
なので考えている片手間に避けていたりする
クロノは更に分析を続ける
必要なくともすることに意義があるのでそれを為す
『さて』
そうクロノが呟いた
どうやらすべての分析を終えたようである
ここまで大体一分、かなり手を抜いていることがわかる時間である
くどいようだがここは戦場である
一分一秒同じ状況である保証はどこにもない
だから通常クロノクラスだと十秒ぐらいで大体の状況を掴む
簡単に言えば遊んでいた
まぁ彼女にとっては暇つぶしの一環だし、本気を出してまで戦う相手ではない
……相手は状況把握すらしようとしないが
クロノは相手のほうを見る
そうして最初のターゲットを定める
WCSの起動は必要はない
ここは開けた砂漠、機動を妨げるものは何もない
ならば、後は駆け抜けるのみ
クロノは右腕に装備されているガントレットと突撃槍が一体化した武装『ランスガントレット』を構える
そうして目の前にいる機体に向けて突撃した
目の前の敵は当然迎撃しようとサブマシンガンを乱射する
そんな追い詰められた乱れた射撃などは当たらない
そうしていとも簡単に槍は頭部へ吸い込まれ、爆発
LED LIONとかいう奴らは自身の能力を高いものだと思っていた
まぁ他に比べて贔屓目を抜かしても決して劣るものではない
それがまるで赤子の手を捻るようにあっさりやられたのだ
ここまで来てやっと気付く、『ああ、相手は異常だったんだな』と
だが、もう遅い
狩猟者に狙われて諦めた動物は狩られるのみ
そんな相手の心理の推移を知ってか知らずかクロノは唇の端を持ち上げこう言い放った
『さて、少しは楽しませてよ、殺しはしないから』
それが口火となったのか相手はいっせいに動き出した
恐怖からか逃げようとするもの
銃を向けるもの
そんなことを意に介さずクロノは次の標的を定める
その顔からは笑みは消えていた
今現在の状況は奥に逃げようとするもの二機
銃を向けるものが三機
呆然としてどうしたいのかわからないものが二機
まず狙うは逃げようとするもの
そう考えた瞬間クロノは動いていた
ベリアルの身体は沈み、力を蓄える
目に入るすべての射線を計算、当たらないラインを採る
そこをめがけてフルブースト
全てかすりもせずやり過ごす、と同時にランスを構え、逃げようとした機体に突き刺す
機能停止を確認する前にベリアルのロックオンアラートが鳴る
左に二つ、右に一つ
逃げようとする奴は右斜め後ろ、どうやら追い越していたみたいである
左右の機体で若干機動が早いのは右の機体と判断したクロノは左腕のクローアンカーをその機体に向ける
巧みに斜線を外し、右旋回をしながらアンカーを放つ
アンカーは頭部のシステム中枢部に着弾、構造上もろかったのか一撃で破壊、機能を停止
それを確認するまでもなくクロノは次の行動に移る
アンカーを打ち込んだ機体の先にいる逃げようとしていた機体に狙いをつける
別段狙い済ました一撃は来ないのでさらりと流しながら動きを観察
足場をばれない程度にずらしながら、逃げようとしている機体にアンカーを打ち込む
これで状況はまだこちらに銃口を向けている機体が二つ
呆然から恐怖へと理解を進められたのか進まされたのか銃口を向けようとしているのが二つ
無傷で悠然とたたずむベリアル
……どこからどう見ても虐めなのは秘密だ
不意にベリアルの体が沈み、跳躍する
その動きについてゆけたのは少ない
そうして上空からアンカーが降ってきて銃を向けようとした機体が一機落ちる
それに巻き取られるように降ってきたベリアルが着地と同時に一機貫く
……残るは二機
まだオートでとにかく連射をしているようだが、意図のない弾幕はあってないようなものだ
そんな彼らをせせら笑うかのように片方の懐に入り込み、左の腰に搭載しておいた片手剣で胴を薙ぐ
その片割れはようやく弾を撃ち尽くしたのか、サブマシンガンを捨てレーザーソードを構える
クロノはその姿を見ながら右手のランスガントレットを握りなおす
何かを叫びながら相手は斬りつけてくるが
クロノは半身ずらして回避、同時に右腕を引いて狙いをつける
『じゃあね、暇つぶしにもならなかったわ』
そう呟きその槍を相手の頭に繰り出す
そして回想の頭の風景へ
『それにしても』
そうクロノは呟きながら辺りを見回す
『本当にここ最前線?』
クロノにとってみれば最前線の癖に妙に錬度が低く感じられたらしい
……クロノにとってみればどれも雑兵は同じようなものだが
といってもクロノにとっての強さとこの戦場にいた兵士の考える強さがそもそも違っていたのだが
まぁそれは置いておこう
遠くから望遠カメラでしっかり撮影されていたことに気付かなかったことも
『全く、暇つぶしにもならなかったわ』
そういいながら彼女は事後処理をする
何をするかというと、撃破された機体のブラックボックスをいじるだけだが
手近な機体の通信網に繋いでそこからブラックボックスに介入
その通信網から更に隣の機体に繋ぐといった作業を進める
大体五分後にはすべての始末が完了していた
それを確認した後、『折角だし、戦利品ぐらいはもらっていきましょう』とか呟いて使えそうなパーツを剥ぎ取る
その作業の途中、また何かが近づいてきた
クロノは面倒に思いながらもそちらに対応できるよう、振り向き一応構える
だが、来たのはクロノの想像を絶する人物であった
視界の向こうに何か紫色の物体が見える
クロノは自身の記憶を掘り返し、それは最近ヴァリムがいろんなところで試験を行っている兵器と思い出す
数回その機体と戦ったが性能はJ-ファーに毛が生えた程度だった
まぁ少なくとも企画のJ-ファーよりは強いであろう
何故なら、わざわざ相手より性能の低い機体を設計する技術者はまずいない
でも嫌な予感が拭えない、とクロノは思う
……その想像は大当たりだったりする
ある程度近づいてきた機体たちは一斉に飛び上がり
相互援護距離を越えて展開しようとする
(ああ、また阿呆どもか)
そうクロノは決め付ける
いや、それ以外あってはならない
何の意図もなしに戦闘のプロたる軍人が相互援護距離を無視するなど、あってはならないことだ
……先ほどの馬鹿どもも一応相互援護距離は保ってました、援護してなかったけど
『ヒャーハハハ!!
獲物だぁ!!狩りだぁ!!殺すぅ!!イヒヒヒヒ』
想像以上に濃い人物が降ってきたことにクロノは頭を抱えながら
(この分だと残りの奴らもまともじゃないわね、ったく)
とそんなことを考えていた
そう、クロノの相手はヴァリムが誇る変人……もとい、後のタルカス三人衆だった
そうしているうちに残る奴らも降ってきた
『この前までの奴らはいまいち物足りなかったけど、そこの正体不明は楽しませてくれるかしら』
そう言っているのを完全に無視しているクロノは足場を確認した
ベリアルを一応砂漠対応にしたとはいえ、足元のグリップという面ではいまいち不安が残る
で、高密度の砂は機体重量を完全に吸収し、十分なグリップを残してくれる
ここまでグリップが取れるのなら十分に戦える
と、クロノはそこまで確認するのに五秒とかかっていなかった
そうして前方に降ってくるヴァリムの機体―――ヌエを見据える
前方の機体の乗り手はいまだに目の前の機体の異常さに気付かないまま
……いや、そんなことは関係なく、ただ戦闘準備がいまだに出来ていないだけである
クロノは常に戦闘態勢だというのに
『ふっふっふっ、アンノウンよ、一騎当千の…』
といっているのを無視してクロノはベリアルの身体を沈み込ませ、力を蓄える
それらが臨界まで来たところで左脚で一気に踏み切り、フルブースト
ある程度制限をかけているとはいえ、Jの世界に直して最高速25ぐらいで一気に迫り、右腕のランスの狙いを定め
限界まで絞った腰の回転、腕の回転、肩の回転、すべてを一点に集中させて槍を繰り出す
そうして彼女は小さく呟く
『……アキュートインパルス……』
目の前の機体はベリアルに貫かれた
アキュートインパルス……
それは、クロノが有する技のひとつで、高速機動からの刺突
正確に言えば機体の運動を槍の先端に全て集約させて、全てを貫くという必殺
簡単に言えばただ速く突いているだけの技
単純ゆえに破れない、クロノの槍の戦技の中で基礎的なものであり、一つの到達点
目の前の機体はベリアルに貫かれたと同時に胴に片手剣を突き立てられていた
そうして機能停止
そうしてクロノは残る機体を見渡し
『で、まだやるの』
以下省略、書くスペースがもったいない
〜十秒後〜
紫色のヌエの残骸が三つ
それらのブラックボックスの処理とパイロットに簡単な後催眠健忘をかけたクロノは戦利品をどこかにおいてあった籠に詰めた後
どこかに飛び去っていった
クロノはその機体の中で嘆息しながら一言
『今度はもっとましなのが来ますように』
〜回想終了〜
うん、それ以外はしていないはずだ
とクロノは結論付ける
確かにそうだが、なんと言うか、その
「色々間違っているわよね」
とクロノから事の顛末を聞いていたミストは言う
「うん、何かが決定的に間違っていると思う」
更にミストから聞いていたソフィアは重ねる
しかもその戦利品の全てが酒関係の代金へと消え去る
うん、やっぱり何かが違う
まぁそれは置いておいて
そういえば、とミストは言いながら
「こんなものが届いていたけど」
言いながら手にしていた書類をクロノへ渡す
それは
「大将からの仕事の依頼らしいわ」
「もっと早く渡せ!!」
とすぐ突っ込んでからクロノは書類を手にとり目を通す
依頼内容は要約すると
「ヴァリムのヌエだとかの言う機体の情報収集か……」
しかも堅牢な基地を攻め落とすというおまけ付き
けれど高い報酬
まぁ普通の傭兵ならば迷うところだろうが
「面倒くさいし……「何でも成功報酬は清酒『夜叉殺し』だってさ」…OKこの依頼受けましょう」
……クロノさんらしいといえばそれまでだけど
ソフィアはそのやり取りを眺めながら書類を脇から覗き込む
そこに書いてある地名を見て一言
「さっすが腹黒大将、やることが違うわね」
そこに書いてあるのは強力な防空設備を誇るミラムーン近くのヴァリム軍施設だった
軍がここ最近いまいち攻めあぐねている施設でもある
つまり、そこをわざわざサーリットンでもごくたまに見かけるレベルの機体を捕獲せよという理由で攻めろというのは
「まぁこの程度の利用ならいいけどね」
とクロノは言いすぐさま考える、基地の攻め方を
ある程度考えた後、ソフィアにこう依頼した
「明日の朝までにこの基地の防空設備についての詳細情報をお願いできるかしら」
「大丈夫よ、そのぐらい。ある意味暇だったし」
……ここ最近情報屋としての仕事が少なかったらしい
そこにミストが一言
「まさかだけど、それを……「ベリアルではやらないから安心して」……ならいいわ」
そこまで聞いてクロノはまた思考に沈む
ベリアルでやるといくらなんでも問題がありすぎる
ならばどうするか
答えは簡単
この惑星の兵器ならばそこまで目立たない
そして材料なら捌ききれなかったので十二分にある
ならば後は設計図を引くだけ
次々にクロノの頭の中で線が引かれ、やがてひとつの形となる
「……ヴァンブレイス」
唐突にそんなことを呟いたクロノをソフィアとミストが訝しげに見る
そしてクロノは席を立ち
「ちょっとこれからひとつ機体組み上げるわ」
そういって立ち去っていった
そうして呆然と取り残される二人の凡人
かくも天才と俗に言われる人物と普通の人たちの認識には差があるのか
それは別の話
ソフィアが今の流れから来た疑問をぶつける
「あの一瞬で機体の設計図を引けるものなの?」
「あいつは引けるらしいわ」
そう、やや呆れながらミストは答える
で後もうひとつ、普通ならしないだろう事を聞く
「あいつ……まさかだけど、ぶっつけ本番で機体動かす気?」
「ええ、そうね。あの言い方からだと」
ミストはいつものことといった風に答える
確かに異界時代、それでいろいろな激戦を潜り抜けてきた人だし
でもねぇ
「普通基地攻めるのに試運転もせずに行く奴がいる?」
基地といった相手のほうが絶対的に有利な場所にこちらが把握していない機体で攻める奴がいるのか
その言葉にミストは半分諦めたような境地で
「居たじゃない。あれはいつもそうよ、新しい機体を思いつくと」
ああ、おかげでオリジナル共々冷や冷やさせられましたよ
とやさぐれ気味にミストは言う
ソフィアはちょっと疑問に思い聞く
「そんな調子で本当に大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫よ」
一寸のためらいもなくミストは言い切った
何でそこまで言い切れるのかまだ付き合いの浅いソフィアは疑問に思う
確かに強いし、かなり異質な存在とは思うが
ミストはだって、と言い
「強さの次元が違うもの、あいつとそれ以外の有象無象どもの差はそれぐらい絶望的よ」
当然操縦技術という面以外でもね
ソフィアはその言葉を聞いて大体想像できた
あの在り方とかから見てきた地獄が根本的に違うのだと、質も量も
「あいつの全力って想像できないわ」
そう、ソフィアがもらす
その言葉を聴いてミストは続ける
「奇遇ね、私も想像できないわ」
無論、といって彼女はいったん口を休め水を含んだ後
「多分それはクロノにとっても同じでしょう」
そう、彼女が今まで全力で戦ったのは2回しかないのだから
それでも一切底は見えなかった
だから彼女自身もわからないのだ、自分の限界がどこにあるのかということを
だからあの悲劇にいたったのだが
「それはどうでも良いけどね」
「確かに」
そうソフィアは頷いて自分の仕事に戻る、情報屋としての
軍事施設へのハッキングは一度や二度でないため手馴れている
その様子を見ながらミストは物思いにふける
いつからクロノが心から笑わなくなったのか、それを取り戻すのはいつのことになるのかということを
ソフィアは情報収集している最中に一言ミストに聞く
「で、あいつ、まさかだけど」
そう半ば呆れと言うのかなんと言うのか言葉に出来ない表情で呟くソフィアを見てミストは言う
「多分貴方が想像しているところから突入するわよ」
その夜、クロノの工房からはずっと作業音が続いていた
「あーーもーーー、納得いく形にならないわね、今度はこれを組み込んで」
「……いったいこの機動性能のどこに不満があるのやら」
そう嘆息しながら見守るセイジの姿が確認されたとか
……機動性能以外は軒並み元から落ちているけど
そうして夜は更けていく
―ミラムーン・輸送機
……次の日
「……で、ここから攻めるわ」
その言葉に今回の作戦に同行するミラムーン一般兵は呆然として
「正気ですか?」
と聞いた
それにクロノは平然と
「当然じゃない。そういうところに油断は生まれるものだし、何よりそうじゃないと奇襲とは言わないでしょう」
悠然と笑みをたたえそう言い切った
それを聞いたミラムーン一般兵は
(何かが違う、絶対に何かが違う!!)
と強く思っていたが口には出さなかった
……さて、一体クロノはどこから攻めるのであろうか
そして、新たなる武具ヴァンブレイスとはどのような機体であろうか
ただひとついえるのはクロノにとって改造とは性能向上でなくて、クセをつけることである
そうして血塗れの暴君は帰る、全てが自己責任と連帯責任で許可される地獄へと
third-1[Lost Legend weapon replica] end
後書き〜Lost Legend weapon replica(過去の遺物の模造品)〜
ミスト(以下ミ)「ここまで読んでくれてどうもありがとうございます、氷結の姫君ことミストです」
作者(以下時)「どうもー、かなり遅れましたが三話前編です」
ミ「いくらなんでも遅すぎだと思うけど」
時「仕方ないだろう、色々ごたごたあったんだから」
ミ「……本当に」
時「……本当に」
ミ「実際は?」
時「…表舞台のほうのネタやら、一次創作のネタやら大学の講義やらで忙しかった」
ミ「まぁいいや、で、この後どうするの」
時「一応、展開上はこちらがなきゃ向こうも創れないし、こちらの話を進めるつもりだけど」
ミ「当然私の出番、表にもあるわよね」
時「うんにゃ、完全脇役」
ミ「本当に」
時「これは確定事項だし」
ミ「ソフィアは出るのに?」
時「むしろ彼女はそちらのほうがメインだし」
ミ「ああ、そうですか(得物を構える)」
時「というわけで次回、なるべく早く作りますので、さようならーー」
ミ「……逃げたか、まぁいい、というわけで次回もよろしくお願いします」
―簡易設定
人物
ツェレンコフ・ゴルビー
―色々と疑惑の絶えない人。とりあえずこの裏舞台では真面目な面のみが出る予定だが、表舞台の主人公の設定の所為で結局疑惑からは逃れられない人。
本編の言動を踏まえて彼らが戦う理由はアルサレアの発展のためと戦争の先にある平和な世界を次の世代に託すためとした。よってあまり突っ込まないで。
グレン・クラウゼン
―本編ですべての発端となった人。または本編で一切見せ場がなく散った人。
後任をグレンリーダーに任せたりなど人を見る目があったらしい。一応アルサレアの上層部はこの人が死んだと公表された後も暴走らしい暴走を見せてないし。
ミラムーン一般兵
―クロノさんの外見にころっとだまされた人。噂でものすごく優しくていい人と見ていたがその後の作戦会議でその虚像を木っ端微塵に砕かれる。
語句
異界の伝説
―クロノさんの戦い方を端的にあらわしたもの
Ghost
―米語で幽霊という意味。戦場で突然現れて、敵味方問わず被害を与えていくところから戦場に現れる幽霊だといわれていってそうつけられた
でもどちらかと言うとNightmare(悪夢)のほうがあっている気がしないでもないが、後の布石のため
LED LION
―本文中にもあるとおり左遷先。クロノにとっては一山幾ら?レベル。
変態三人衆
―本編で言うところのタルカス三人衆(名前は覚える価値がないから忘れた)。何故これが存在していたのかいまだに理解できない。
けれどこいつらの存在なしにヴェタールが完成しなかったかと思うと……なんかやりきれない。
腹黒大将
―クサナギに対するソフィアの呼び方。表面は人のいい単なる中年だが色々裏で画策しているクサナギを揶揄したもの。
ぶっちゃけ黒さのレベルではクロノやソフィアには勝てない。
清酒『夜叉殺し』
―ミラムーンやアルサレアで飲まれている清酒。元ネタは言わずもがな。
ベリアル
―正式な型式番号で言うとCCH-02C/LLW-HMBF:Belial ベリアル2ndが正解。
最初のベリアルがミストに壊された後、再現する際に色々新規の技術を盛り込んで作った改修型。
武装は槍と篭手が一体化した腕に固定するタイプの『ランスガントレット』とクロー型のアンカーを打ち込む『クローアンカー』の二種。
背中に光波射出型ブースター『フォトンドライヴ』を装備。
それ以外は補助兵装に過ぎない。……もっともそれらが一番凶悪なんだけど。
ヴァンブレイス
―次回出てくるJ-ファーのカスタム機。
機動性能だけを取れば元より大幅に向上している。
書類上の強さはもとより劣っている。書類上の企画された強さの上では。
管理人より
時の妄執さんよりご投稿頂きました!
追いはぎと言うよりは慰謝料を分捕ったという感じでしょうか?(マテ)
ま、戦場なら何でもありですからね。問題無いでしょう(苦笑)