機甲兵団J-PHOENIX

<Twin Devils and Flame>





 

 人外……

 人ならざる者と呼ばれる者。

 強大な力を宿し、誰からも忌み嫌われる。


 そして、悲しみと苦しみに彩られた苦痛の生を送る…………





 

 Prologue 〜Inferno and Twin Devils〜








 

 アルサレア機甲兵団所属、キリ・フロートウェルト軍曹は作戦前にいつもそうしているようにコーヒーを飲みながら同じ部隊の隊員達と雑談をしていた。

 彼はグレン将軍に憧れて自分もエースになりたいと願い軍に入隊した、ごく普通の青年だった。

 しかし戦争に出るようになって半年。自分の実力がどれほどのものか自覚し、夢を諦め始めたそんな頃のことである。

「……インフェルノ? 知りませんねぇ…………それが何か?」

 彼の直属の上官であるルーク・スティンジウム少尉から出た聞きなれない言葉に興味を持ち、話を聞きたがる。

 ルーク・スティンジウム……普段あまり多くを話したがらないこの男は、特に他人のことをほとんど話さない。そのルークが珍しく他人のことを話すのだ、キリでなくてもどんなことか興味を持つだろう。

「……よく聞いておけ。こいつは今回の作戦に参加する傭兵の一人……いや一匹で、絶対に近寄ってはならないものだ」

 普段から硬い表情をしている彼だが、そのインフェルノのことを話す彼の顔はいつもよりさらに険しい。低く響く彼の声が場の空気をもう一回り重苦しくしていた。

「いいか、これは命令だ。奴には近づくな。特に作戦行動中は絶対にだ」

「……隊長にそこまで言わせるなんて、どんな奴なんです? そいつ」

 同じくルーク小隊に所属するネルロード・ルドマン――通称ネル――曹長が尋ねる。

「…………言っても信じないだろうが、そいつは人間じゃない。化物だ」

「「ばけもの〜?」」

 ルークから出た言葉に二人が変な声をあげる。二人の目が「何言ってるんだこの人は?」と雄弁に語っている。

 もっとも、化物なんて言葉を聞いたら二人でなくとも同じような顔をしただろう。鋼鉄の巨人が動くこのご時世、化物の存在を信じている人などいない。

「だから言ったろう。言っても信じないだろうが、と。とにかく信じようが信じまいが関係ない。奴には近づくな」

「はぁ、わかりました……。あっ隊長、そういえば僕達まだそいつの姿を知りません。見た目がわからないと『近づかないように』と言われても気をつけようがありませんよ?」

 キリがごく自然に出た疑問をしかしルークはあっさり否定した。

「そいつの姿を知らなくても問題ない。一目見ればすぐわかる。あれは、人間じゃない」

「はぁ…………」

 一応頷いては見せたがキリもネルも信じていなかった。

 それも当然だろう。いきなり『化物がいるから近づくな』などと言われてそう簡単に信じることができるはずない。最近は獣人だって人として認められているのだ。化物といわれてもピンと来ない。

 ルークはそんな二人の様子を見て渋い顔をし、何か言おうとしたところで作戦開始5分前を知らせるアラームが鳴る。

 すっかり冷めてしまったコーヒーを眺めて溜息をつき、キリは先に出て行った二人を追いかける。そのコーヒーはこれから会うものと対照的な色をしていた…………





 

 PFが並べられている整備ドッグにルーク小隊の面々が着いたときにはそれがいた。

 一言で言うとそれは白かった。真っ白だった。

 まず髪が白い。それも老人のような白髪ではなく、くすみの無い輝くような白銀の髪だった。

 次に服が白い。何を考えているのか上も下も白のみで統一されていて、他の色彩がまったく無かった。

 そしてその間から覗く、肌が、白かった。その白さは病的などという言葉では足りないほど白い。色が、無い。そんな白さだった。


 キリ達がそれを見ているとそれが振り返り、キリ達にその顔を見せた。


 整った顔立ちではある。中性的な顔立ちで、10人に聞けば10人全員が美形と評するだろう。

 しかし、キリとネルが見つめるのは顔ではなく眼。頭からつま先まで白で統一された中、唯一異彩を放つそれは、赤……目に痛いほどの白の中、一際目立つ、血のような……赤。

 キリとネルは理解した。ルーク隊長が『一目見ればすぐわかる』そう言った訳が。

 二人は眼を見た、それだけだった。だがそれだけにもかかわらず背筋に凍りつくような悪寒が走る。

 その目は、人の物と言うにはあまりに冷たすぎた。それは獣どころではない、まさに化物の目だった。




 

「今回はあんなのと一緒に出撃するんですか、気が乗らないなぁ……ネル先輩はどうです?」

 それから離れ、自分のJ−ファーに向かっているキリの口から出た第一声がそれだった。

「気が乗るわけないでしょ。でも軍人ってのは気分で仕事選べるモンじゃないのよ」

「ですよね……なんで上はあんなのを雇ったのかなぁ?」

「あんなのだからだ」

 突然聞こえてきた声のほうに振り向くと、そこにはルークがいた。

「あれは化物らしく並じゃない戦闘能力を持っている。人かどうかはともかく、力があるのは事実。そして力があるなら使う。おそらくそう考えたのだろう」

「怖いですねぇ、実際間近で戦う僕たちにとっては堪ったもんじゃないですよ」

「……キリ、私が最初になんと言ったか覚えているか?」

「えっ? えーと……『絶対に近づくな』でしたっけ。でも同じ作戦に参加する以上、近づくなって言われても無理な話ですよ?」

「それでもってことでしょ。できる限りでいいじゃない。あたしだってあんなやつの近くに居たくないしね」

「そういうことだ。作戦開始と同時に全速力で離れろ」

「わかりました。隊長はどうするんです?」

「私は作戦区域まで同行する。……これでもこの作戦の総指揮官だからな」

「やっぱあたしたちも同行しましょうか?」

 ルークのことを心配してネルが提言するが、ルークは苦笑を浮かべてそれを却下した。

「心配する気持ちはわからんでもないが大丈夫だ。あれを雇うのは初めてではない、対処の仕方はわかっている。さて、そろそろ自分のPFに搭乗しろ作戦開始まで時間が無いぞ」

「「了解」」

 大人しく自分の機体に向かって走る部下を見送ると、視線を左に走らせる。整備ドックの奥、そこには感情のこもらぬ目を向けてたたずむ化物がいる。

 ネルに言ったとおりそれを雇うのは初めてではない。確かに対処の仕方もわかっている。しかし、それでもルークはそれを恐れた。


 『インフェルノ』……悪魔の兵器ヘルファイアと同じく、『地獄の業火』の名を持つ化物を…………













 

 ――触れるもの全てを焼き払う地獄の業火『インフェルノ』――

 聖暦19年、PFが世に出回り始めた頃に起こった戦闘で彼はそう呼ばれるようになった。

 アルサレアだけでなくヴァリムもPFの開発に成功し、戦闘の一つ一つが大規模なものとなり、ことサーリットンでは大隊対大隊の戦闘がいまでも毎日のように行われている。

 彼はそんな大規模な戦闘にアルサレアに雇われた傭兵として参加した。

 彼の参加した作戦はヴァリムに奪われた領土を取り返すための侵攻作戦。目的は領土の奪還だが、することと言えば敵の撃滅。

 そんな作戦に彼を呼んだこと自体が間違いだったのだろう。

 拠点を守っていたPFはヌエが15機、ロキが5機。ヤシャがまだ開発されていない当時では紛れも無く一級の大部隊である。

 それに対してアルサレアの部隊はJファーが20機、Jファーカスタムが5機と彼の操るPFが1機。

 作戦を確実に成功させるため、相手よりさらに多数の大部隊であったが、この中で生き残ったものは片手でも余るほどだった。

 彼は戦闘開始と同時に単身敵軍の中に特攻し、敵を屠り始めたがそれを見兼ねて、一機のJファーが彼を助けようと近づき――――


 殺された。


 彼に、である。自軍の仲間であるにも関わらずに…………

 彼にしてみればただ邪魔だった、それだけなのかもしれない。

 だが彼の振るったカタナは寸分の狂いなくJファーのコクピットを貫いていた。

 当然のことながら、仲間を殺されて――それも自軍の者に――平気でいられるはずもなく、ヴァリムだけでなくアルサレアも彼に攻撃を仕掛け始めたのだが…………彼はその全ての攻撃を躱し、受け流し、近づくものに一切の例外なく制裁を与え、40近くのPFをたった一機で殺しつくした。

 戦闘が終わった後に残っていたものは、傷一つ付いていない彼のPFと恐怖に駆られて動けずにいたJファーが1機。運良く他の者に倒されたヌエの脱出ポットが一つ。他は脱出ポットの出てこないPFだったものが43機。

 この戦闘はアルサレアでは彼の存在を隠蔽し、苦戦の末に領土の奪還に成功したということになり、ヴァリムでは生き残ったヌエのパイロットが撤退し、やはり誰にも語る事無く彼の存在を隠蔽した。

 しかしその後似たようなことが相次ぎ、そのいずれの戦闘にも彼が参加していたことから彼はインフェルノと呼ばれ、この道の者から恐れられる存在となった。

 以上が彼、エン・エクスプロードが触れるもの全てを焼き払う地獄の業火『インフェルノ』と呼ばれるようになったいきさつである。









 

 国境付近の森の中にある建造物……それはヴァリム軍の中でも一部のものしか知らされていないその拠点。成されていることは部隊の設置ではなく一機のPFの製作だった。

 何故わざわざ国境付近でPFを造っているのか、そこを護衛している兵士は詳しく知らない。ただ彼等は命令に従ってそこの護衛をしているだけだ。

 配置についてもそうだ。そこを護衛するものは合計5人。PFを製作する場所の護衛としては少なすぎる上、バランスが悪い。

 5人の内約は士官学校で優秀な成績を収めていたとは言え、卒業したばかりで実戦経験のない新米が3人とロキが3機。残りは17歳という若さで実戦経験の豊富な少女が二人とシンザンが2機。

 大抵優秀な成績で卒業した者はこれからのエリートとして道を想像し、その初陣をどう飾るかと浮かれたりするものだが、この3人はそんなことを許されない状況にいた。

 同じ任務についている二人の少女はヴァリムだけでなくアルサレアでも有名な『双子の悪魔』……できることなら今すぐ帰還したいと皆が思っていた。











 

 ――狂言者の愚策……マンマシン計画の犠牲者『双子の悪魔』――

 ヴァリムのある研究所によって生み出されたバトルヒューマノイド。

 姉のユイ・キサラギは常に沈着冷静な戦闘判断を下す指揮官、妹のマイ・キサラギは恐怖心の無い戦闘マシーン。

 二人とも幼い頃より自由を奪われ、代わりに戦争の道具としての役割と戦闘技術を与えられた。

 徹底した管理、育成により凄まじい戦闘能力を誇るが、その代償として情というものに欠ける。

 ヴァリムにとってマイナスになると判断したために自軍の兵士を殺害したこともあるため、同じ部隊の者達は彼女達のことを敵よりも恐れる。

 それ故に彼女達は仲間にすら『悪魔』と呼ばれる…………









 

 『悪魔』と『化物』、二つの人外のものが出会う。

 それは運命などというロマンチックなものではなく、一人の人間の思惑によって。

 

 エン・エクスプロード

 ユイ・キサラギ

 マイ・キサラギ

 彼らが何故出会うように仕向けられたかは誰も知らない。

 

 だが時は動き出す。邂逅の刻に向かって確実に…………











 

第1話へ続く


 



 〜オリジナルキャラ紹介〜


 ○キリ・フロートウェルト
  年齢 17歳  性別 男  所属 アルサレア(軍曹)
  グレン将軍に憧れ軍に入隊した青年。
  エースを目指すがPFの操縦技術は中の中の中。見事なまでに平均的でエースへの道は程遠い。
  それに対して偵察任務など目立たない地味なことは得意でルーク小隊に配属される。

 ○ルーク・スティンジウム
  年齢 35歳  性別 男  所属 アルサレア(少尉)
  ルーク小隊の隊長。
  部下に優しく能力もあるため、上からも下からも好感の持たれる中間管理職。
  特技はあくまで情報操作であって戦闘ではないが、白兵戦であってもPF戦であっても並以上にこなす実力がある。

 ○ネルロード・ルドマン
  年齢 23歳  性別 女  所属 アルサレア(曹長)
  通称ネル。ルーク小隊中もっとも戦闘の得意な人物。
  生真面目な性格で筋の通らないものに対して容赦が無い。

 ○インフェルノ
  年齢 18歳  性別 男  所属 なし(傭兵)
  本名エン・エクスプロード。
  戦闘中に近づくものは敵味方関係なく破壊する危険人物。
  白銀の髪、白い肌、赤い眼を持つアルビノで幼い頃から迫害され続けた過去を持つ。


 〜設定〜

 ○ルーク小隊
  ルーク・スティンジウム、ネルロード・ルドマン、キリ・フロートウェルトの3人で構成される小隊。
  彼らの主な任務は偵察や情報操作で戦闘になるようなことはあまりない。
  だが、戦闘技術でも平均以上の実力があるため戦闘の危険性のある偵察任務に当てられる損な役回りの部隊。




 

 〜あとがき〜

 まず、読んでいただいてありがとうございます。
 この度初の小説なるものを書かせていただきましたコウといいます。

 投稿されている皆さんのSSを読んで無性に自分もSSが書きたくなって勢いでやってしまいました。
 ええ、そりゃもう勢いだけでやりました。プロットなど全く立てておりません!<威張って言うな。

 現在続きを作成中ですがそのプロットなるものを立てていないことを激しく後悔。この先どうしたらいいんだろうと悩みまくっております。
 そのくせ許可が頂ければ踊る風さんのケイオウとうちのエンを共演させてみたいな、などと思っている始末。駄目駄目だ、俺。

 さて、それではそろそろ続きの執筆に戻らせていただきますので、また次回に会いましょう。



 

 言い忘れましたがこの話は聖暦22年、BTの直前の話です。



 


 管理人より

 コウさんよりご投稿頂きました!

 さてさて、今回は紹介編という事ですが……色々期待できそうですね。

 因みにプロット立てなくても、人によっては勢いだけで書ける人もいます(爆)<普通の人には無理ですが
 


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