機甲兵団Jフェニックス 〜ある一人の男の物語〜

第一章 遭遇








 

 フィアッツア大陸。

 この大陸ではヴァリム軍の侵略戦争が続いており、日々、戦争の終結を願いながら多くの人々が死んで行き、戦争の終結を願いながら多くの人々が戦いに身を投じて行く。

 戦禍の火は未だ消えることも無く燃え続けている。

 一部の権力者の望むままに。




 ヴァリム、アルサレア二国間の争いも終わりの見えないまま未だに続いている。

 アルサレア戦役、Gエリアの攻防戦と、ともにアルサレア側の勝利に終わったが、ヴァリム軍は国力を活かし、圧倒的な兵力をつぎ込み戦線を何とか維持し両国間は未だ膠着状態が続いていた。














 

−ヴァリム国内某所−

 フォルセア=エヴァ神佐。

 各国の情報機関にコネがあり、あちらこちらで暗躍している人物である。

 その「神佐」と言う特殊な階級からも分かるとおり軍隊内でも特別な立場におり、軍属ながらもかなりの個人的な自由が利く。

 一時期は戦死との噂もあったがなぜか生きているのが実情である。

 彼女には他にも様々な特権が与えられており、彼女が専属の特殊工作部隊を持っている事もその一つである。

 神佐本人の事も部隊の事も謎が多くその詳細は不明な点が多い。


 神佐は質素なつくりの薄暗い窓のない部屋に居た。

 中央には会議に使う様な大きな机がありその周りに椅子が並んでいた。

 その椅子の一つに腰掛けながら工作員からのレポートに目を通している。

(ふふっ、ユイは面白いものを作ってくれたわね)

 フォルセアはそのレポートを見ながら思う。

「失礼します神佐、ハロルド=エイカー博士をお連れしました」

 部屋に一人の男が入って来て声を掛けて来た。

「ご苦労」

 フォルセアは目をその男に移して一言そう言うと、再びレポートに目を戻す。

「特別室でお待ちしています」

「分かった。今行くわ」

 フォルセアは席を立ちその部屋を後にし、特別室へ向った。

「例の計画は?」

「滞りなく」

 特別室へ向いながら神佐はその男に尋ねた。

「頼んだわよ」

 神佐と男は廊下の分かれ道で別々の道に分かれる。


 一人特別室へと行く神佐。

(さて、今回はどんな楽しいドラマが見れるかしらね)















 

−サーリットン戦線−

 サーリットン戦線、アルサレアとヴァリム、二国間の衝突の激しい激戦区の一つだ。

 一進一退の激しい地域だが、今日はヴァリム軍が最前線を少し北に押し上げていた。

 その最戦線から遠く離れた砂漠の真ん中、乾ききった熱い砂の大地にあるのはPFの残骸と砂だけのように見えるが、そのPFはそこにいた。

 時折強く吹く風が砂を巻き上げ砂雑じりの風の中にその輪郭を現すことがあるが、よほど注意をして見たとしてもそれに気づくことはほとんど無いだろう。

 なぜなら姿が消えているのだから当然だ。

 その見えないPFのコックピットに座っているのは二人の少女。



「姉貴、これでいいのか」

 複座型コックピットの前の座席に座っているポニーテールの少女が後ろの席の少女に尋ねる。

「そう、そのスイッチを押して」

「よし、新型だからな。丁寧に扱ってやらないとな」

 言われたスイッチをその少女はまるでプレゼントの箱でも開けるかのように期待と好奇心で満ちた目をしながら押す。

 新型PFドゥルガー、タルカスをベースにシンザン開発で得た技術を流用しタルカス系の積載量、シンザン系の機動力と隠密性を両立。

 複座型を採用しパイロットの操縦における負担を軽減、開発中のサポートAIの搭載により単座での操縦も可能になる予定の重火器武装の重量級PFである。

 新型兵器を多数搭載しており重量が増してしまったために低くなった歩行速度をブースターにヴァハGを改良し、出力をさらに向上させたヴァハGXを採用することにより補っている。

「早く、アルサレアの奴らを驚かせてやりたいよな、姉貴」

「マイ、少し黙ってなさい」

 子供が新しい玩具を与えられて喜ぶ様にはしゃいでるマイ。

 彼女とは対象的に冷静な顔でキーボードを使って凄まじい速度でデータを入力する後部座席に座っている冷たい印象の少女。

「わかったよ、黙ってるよ。ユイ姉」

 マイは頬を膨らませながら投げやりに答えた。




 ユイ、マイ。

 この名を聞いてヴァリム、アルサレア、両国の軍隊内で真っ先に思いつく言葉


 ・・・双子の悪魔・・・


 そう、彼女たちこそ、その外見と年齢からはとても想像つかないが二人合わせて総撃破数千機を越える、言わずと知れた双子の悪魔である。

 かの有名な黒夜叉ことグリュウ=アインソードを除けばヴァリム国内にこれだけの戦果をあげた者は他にいないだろう。

 マイが黙り、コックピット内に電子音とキーボードを打ち込む音だけが響く。

 しばらくの沈黙の後・・・、ユイの手が止まった。

「姉貴、終わったのか?」

 待ってましたとばかりにマイが後ろを振り向きながら言った。

「まだよ、入力速度に画面が追いつかなくなったの、しばらく待たないといけないわね」

「ちぇ、まだかよ。データの修正なんか後でやりゃ良いのに」

 マイは前を向きなおり、腕を組み不満そうな顔をする。

「そうはいかないでしょマイ、これが終わらないと次の段階に進めないのよ」

「さっきからずっとやってるじゃないかよ」

「まだ五分二十一秒しかたってないわよ。忘れたの、今回の任務はサポートAIを完成させるためのデータ収集だって事を、あと四分三十九秒で終わるわ、待ってなさい。」

 そう言うとユイは再びキーボードに入力を始めた。

 今回、彼女たちに与えられた任務は複座型のドゥルガーを単座でも行動可能にするためのサポートAIを完成させるためのデータ収集。

 現在のままでは火気管制システムが複雑すぎて単座での運用が不可能なためサポートAIの開発進められることになった。

 複座型でも並みの人間ではシステム制御が手に余るためサポートAIの開発はこの機体を実用段階まで持っていくために欠かせない工程なのだ。

 暇をもてあましているマイはしばらく足をバタつかせたりして落ち着かない様子だったが。

「マイ」

 一言ユイに言われると、これ以上は後が怖いと判断したのかマイはおとなしく座って待つようになった。





 

 ぴったり四分三十九秒後。

「マイ、終わったわよ」

「よっしゃ、で、どうするんだ」

 ユイの言葉に満面の笑みを浮かべて答えるマイ。

「広域レーダーに反応無し・・・、マイ、光学迷彩の機能を切って」

「はいよ。」

 マイは元気の良い返事とともに光学迷彩機能をカットする。

 すると、何も無かった砂漠の真ん中に突如として夜の闇の様に真っ黒なカラーリングのPFが現れた。

 光学迷彩によって機体表面を周囲の色と同化させカメレオンの様に景色に溶け込んでいたのだ。

「で、今度は何をするんだ」

「試作型レーザーライフルのテスト」

「待ってました。やっと戦えるんだな」

「まだよ。テストって言ったでしょ。南の岩場にターゲットを仕掛けておいたからそこでテストを行うのよ」

「ああ、もう、じれったいな。何時になったら、実戦でこいつを使えるんだよ」

 マイは頭をかきむしり足を踏みながら言い、それにユイが冷静に答える。

「サポートAIの完成を急がないといけないからまだ当分先ね。予定ではあと一ヶ月よ」

「一ヶ月?そんなに先なのかよ」

 マイは溜め息をつき肩を落としがっかりした。

「でも、マイがぼやかないで素直に協力してくれたら、もっと早く終わるわよ」

「ホントか!よし、任しといてくれ」

 今度はユイの言葉に瞳を輝かせて大喜びするマイ。

「じゃあ、さっそく南の岩場に移動してくれる」

「南の岩場だな。超特急で行くぜ!」

「超特急? なにそれ」

「ものの例えだよ」

「特急というのは電車の運行の種類だし、超というのは・・・」

「だぁぁぁ、もう良い、とにかく移動するからな」

 マイがユイの言葉をさえぎりPFを移動させようとする。


 だが・・・。

「待ちなさい、マイどうでも良くないわ。こういう言葉の問題ははっきりさせておかないと」

「わかったよ、姉貴。移動しながら聞くからそれで良いだろ」

 だが、ユイがそうはさせてくれない。

「駄目よ。貴方は何かやりながらではしっかり理解ができないでしょ」

「おいおい、姉貴。予定時刻に間に合わなくなっちまうよ」

「・・・・・・そうね。移動しながらで良いわ」

 少し不満があるのかしばらくの沈黙の後ユイが答えた。

「じゃあ、移動するぜ」

 マイは移動を開始するためにPFを動かす、PFを動かしながら彼女はふと思う。

(なんか、姉貴はよく説教するようになったよな、だいたいあの日から少しおかしいんだよ。・・・グリュウのおっさんがいなくなったあの日から・・・。)

「マイ、・・・マイ、聞いてるのマイ」

「あ、悪りぃ、悪りぃ、なんだっけ?」

「ほら、言ったとおりじゃない。大体マイは・・・」

 それから、マイは目標地点につくまで延々と話を聞かされるのであった。













 

−同時刻  上空−

 ミラムーン航空の一機のPF輸送機が飛んでいた。

 ミラムーン航空とはミラムーンの首都に本社を置く民間の輸送会社で主にPFの部品の輸送を行っている軍事企業の下請会社である。

 近年、PFの需要が高まるのに伴って軍需産業の恩恵に与って業績を伸ばしている。

 民間の輸送機がこんな戦場の上空をしかも低空で飛んでいるとは普通ではありえない事であった。

 しかし、実際に飛んでいる。

 一体何があったのであろうか。

 そのコックピット内では緊迫した空気が張り詰めていた。



「動くなよ」

 操縦席に座っている一人の男に横から銃を突きつけている男が言う。

 銃を突きつけている男の名はルロイ=レオミル。

「先輩、何を考えているんですか? こんな事をしてどうするんですか?」

 銃を突きつけられ額に冷や汗を掻き恐怖で声が震えている男。

 彼の名前はレイド=グットハント。

 レイドとルロイはともにミラムーン航空のパイロットで、ルロイの方が一年先輩にあたる。

 レイドは入社した当時からルロイの事を先輩と呼び二人で酒を飲んだり、街で軟派したり何処にでもいる仲の良い先輩後輩の関係だった。

 そう、今まではそうだった・・・ほんのちょっと前までは。

 今は二人とも操縦桿を握っていないがオートパイロットで飛んでいるので問題はなかった。

「お前には何の恨みも無いんだがな。まあ、運が無かったと諦めてくれ。せめて楽に殺してやるよ」

 そう言うとルロイは銃口をレイドのこめかみへと移した。

 冷たい銃口が不幸な男のこめかみに当たる。

「せ、先輩?」

 レイドは懇願するような眼つきで横目にルロイを見る。

 ルロイの顔には何の憂いも迷いも無かった。

 ただ当たり前の様にこちらを警戒した目で見ているだけだ。

(俺はこんなところで死ぬのか・・・長いようで短い人生だったな・・・)

 生まれて初めて銃を突きつけられ、レイドは暗い表情で落ち込みながら思っていた。

「おいおい、そんな顔をするなよ。殺し難くなるじゃないか」

 ルロイはそう言ったがその言葉には殺す事へのためらいなど微塵も感じられなかった。

「さて、お喋りはここまでだ」












 

−サーリットン戦線−

「マイ、止まって」

 ユイが不意に声をかけてきたのでマイはあわてて機体を停止させた。

「どうしたんだよ」

「テスト予定地点にアルサレアの機体がいるわ」

 ユイの言った通り、ドゥルガーの広域レーダーの端っこにアルサレアの機体の反応が二つあった。

 ドゥルガーの搭載されている広域レーダーは新型のもので、現在のどのPFに搭載されているレーダーよりも高い性能を誇っていた。

 それもドゥルガーに搭載されている兵器の大半が長距離の射程を有した射撃兵器だからだ。

 それらを最大限に活かす為にこの新型レーダーも一緒に開発されたのである。

「どうするんだ」

「ちょうどいいから、多弾頭ミサイルのデータ収集に協力してもらいましょ」

「アレはつまらないから嫌だよ。どうせなら白兵戦のデータを取らないか?」

「いきなり白兵戦のデータを取るのは不味いわ。まずは、動作確認の済んでいる多弾頭ミサイルが先よ」

 ユイはマイにそう答えた。

 まだ試作段階であるドゥルガーは実際における各武装のテストを多弾頭ミサイルしか行っていなかった。

 しかも各機体構成パーツを組み合わせたばかりなので理論的な限界の数値は解っていても実際に使用した際にはどうなるかまだわからない。

 そのため機体に負荷の大きい白兵戦をするのは得策とは言えない。

 それくらいの事はマイにもわかっているはずなのだが、新しい機体に乗って浮かれていてそのことを忘れている様である。

 しかし、同時にユイは白兵戦でも自分の作ったドゥルガーがすでに十分戦えるだけの自信をもっていたのだが、今回は安全策を選ぶ事にした。

「まずは敵を確認しましょ。マイ、光学迷彩オン」

「光学迷彩オン」

 マイは復唱すると光学迷彩の機能を作動させる。

 周囲の風景に黒いドゥルガーが機体表面の色を変化させて溶け込んで行く。

 周囲の色と完全に同化すると、マイは機体を敵機のレーダー範囲外にある見晴らしの良い砂丘の上に移動させる。







 

 運悪く双子の悪魔に発見されてしまった機体は、アルサレア軍のお荷物と言われるリップス小隊のピンクのJフェニックスであった。

 リップス小隊、この女性四人で構成される小隊の名をアルサレア軍隊内で知らないものはいない

 ただし、有名なのは功績を挙げているからではなく、悪い意味で有名なのだ。

 アルサレアの兵士たちが彼女達について尋ねられれば口々にこう答えるであろう。

 疫病神、ストーカー、等など。

 とにかく色々と悪い噂の尽きない小隊だが何故か解散はさせられていない。

 これもアルサレアの七不思議の一つであろう。



 彼女たちは何故かサーリットン戦線のヴァリム領内にいた。

 それはと言うのもグレンリーダーを探しているうちに迷ってしまったのだ。

 現在、サーリットン戦線ではグレンリーダーの直接の指揮の下、大規模な攻勢に打って出る作戦を実行中である。

 本来ならリップス小隊の面々も参加するはずなのだが、どこかで通達が止められたらしく、何時もの儀式とやらをしていた彼女達は出遅れたのである。

「ほら、みんな急げ!」

「痛った〜い、転んで擦りむいちゃったよ」

「早く来ないと罰金だよ」

「早く、早く」

 といった具合でグレンリーダーを捜し求めて戦場を駆け回ることを日課としている彼女達は、あわてて愛機であるピンクのJフェニックスに乗って出撃した。

 しかし、最前線で指揮を執っているグレンリーダーに追いつくのには時間がかかると判断した彼女たちは近道をしよう、などという無謀な作戦を思いつき実行した。

 何故、無謀かと言うと、グレンリーダーのいる最前線に最も早く行くにはヴァリム領内を突破しなければならないのだ。

 普通ならばまず思いつく事の無い作戦。恋する乙女はこうも恐ろしいものなのか・・・。

 結局、彼女達は警戒任務に当たっていたロキ・デザートを三機、奇跡的に撃破し戦線を突破しヴァリム領内に侵入することができた。

 ところがその際にナビゲーションシステムが故障してしまい、彼女達は恋する乙女の勘だけを頼りにヴァリム領内を彷徨っているのであった。

 彼女たちは気付いていない、双子の悪魔に発見された事を・・・。







 

「望遠カメラを最大望遠・・・見えたわ」

 ユイは砂丘の上にドゥルガーが移動し終わると、望遠カメラを拡大して敵機の姿を確認する。

 その映像はモニターの端っこに映し出された。

「この機体は何だろうな、姉貴」

「ピンクの・・・Jフェニックスね」

「ああ、Jフェニックスだな」

 マイも映像を確認する。

「Jフェニックスが相手なら良いデータが取れそうだし、テストには最適ね」

 Jフェニックスはアルサレアの機体の中でもかなりの高機動の機体で一部のエースパイロットに配給されている機体だ。

 それなりに敵機のパイロットは腕も立つのだろう。

 ユイはそう予想を立てた。

「それじゃあ、行きますか」

 マイはWCSを起動させ敵機をロックする。







 

 その頃、リップスの面々は機体から降りて大きな岩の影で口論の真っ最中であった。

 Jフェニックスはアイドリング状態のままほったらかしである。

「大体、誰が言い出したんだ!」

 やや色黒の肌をした元従軍看護婦のセリナ=バーミントが大きな声で怒鳴っていた。

「もう暑苦しいな・・・少しは小さな声で喋ってよ」

 メガネを掛けた大のメカ好きのリサ=イワサキ。

「ううう、おい兄ちゃんに会いたいよ〜」

 一人ぼやく縦ロールのイズミ=ウッドビレッジ。

「ねえ、水がもうなくなっちゃったよ

 空になった水筒を覗きこんでいるまだ小さい少女プリス=ピーピアス。


 水筒が空・・・・ここは砂漠・・・水がない=死。


『全部、飲む奴があるか〜〜!』


 三人の悲痛な叫びが重なり合いプリスに襲いかかる。

「えええ、だって水を飲んで良いって言ったじゃん」

「信じられん。水を全部飲むとは・・・」

「これからどうするのよ〜」

「もう嫌だ、お家に帰りた〜い」

「ともかくだ・・・勘を信じて進むのみ!! 私は北に行こうと思う」

「プリスは南」

「私は東」

「えっとね、西かな」


「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」


『みんなバラバラじゃないか〜〜〜!』


 今度は四人の叫びがこだました。




 その時であった。

「何か音がしない?」

「・・・・何だろうな?」

「ミサイルに似てるね」

「ヒューンとか言っているね」

 次の瞬間、彼女達の機体にユイ達のドゥルガーの攻撃が直撃し爆発。

 彼女たちは・・・

『何が起こったんだ〜〜〜』

 爆風に巻き込まれて姿を消していた













 

「・・・直撃ね」

「・・・直撃だな」

 ユイとマイは少し拍子抜けしていた。

 多弾頭ミサイルを狙って撃ったものの多少は当たると思っていたが・・・何の回避行動もせずにピンクのJフェニックスは全弾直撃したのだ。


「あのミサイルはステルスではないわよね・・・」

「ああ、普通は気付くよな・・・」

 普通は気が付くはずだった。

 通常のミサイルでもしっかりレーダーには映るのだ。

 ましてや大型で分裂するまでは弾速の遅い多弾頭ミサイルだ、気付かないわけが無い。

 普通のJフェニックスに普通のパイロットが乗っていれば、まず間違いなく気が付いて回避行動をとるはずなのだ。

 ましてやJフェニックスである、エースパイロットが乗っているはずなのだが・・・。

 一般的なデータで判断するユイには回避行動もしないピンクの機体の行動は信じられなかった。

 そのためユイがステルスではと思わず言ってしまったのだろう。

「機体が故障していたのかしら?」

「多分な」

 とりあえず二人はそれで納得した。

「まあ、良いわ。データは取れたし、次の段階に進みましょう」

「ああ、試作型レーザーライフルだったよな」

「そうよ。前方の岩場にターゲットが仕掛けてあるからそれを撃破して、今、起動するわ」

 ユイが起動コマンドを入力して無線で飛ばす。

 すると、レーダーに複数のターゲットが映し出される。



 その時、機体後方にレーダー反応があった。

「民間機?何でこんな所を低空で飛んでいるの」

 ユイは目を疑った、何故民間機がこんな戦場を低空で飛んでいるのか。

 あれでは撃墜してくれと言っているようなものだ。

「何処の輸送機だ」

「ミラムーン航空のPF用輸送機ね」

 ドゥルガーの上を民間機が通り越して行く、その形状から二人はPFの輸送機と判断した。

 輸送機はそのまま真っ直ぐレーザーライフルのテスト予定地の方へと飛んで行く。

「あのまま行ったら落ちるわね」

「どうしてだ?」

「見ていれば分かるわ」

 ユイはマイの問いに答えると沈黙した。













 

−テスト予定地点上空−

「さて、お喋りはここまでだ」

 ルロイのその言葉に銃をこめかみに突きつけられているレイドは覚悟を決めた。

 レイドが覚悟を決めたその時、輸送機のコックピット内に警告音が鳴り響く、ロックオンされたときになる警告音だ。

「何だ、何が起こったんだ」

 ルロイがその言葉を発するとほぼ同時に、輸送機の機体が爆発音と共に大きく揺れた。

 その大きな衝撃で立っていたルロイは倒れてしまい銃を手放してしまったが、座席に座ってシートベルトを装着したままであったレイドは何とか衝撃に耐える事が出来た。

 しかし、機体はバランスを崩してしまっていた。

(機体を立て直さなければ)

 レイドはすぐに操縦桿を握って機体を立て直すべく手を伸そうとする。

(待てよ、これ位ならコンピューターが勝手に立て直してくれる)

 レイドが横に目をやるとルロイは倒れていた。

(逃げるチャンスだ。逃げなきゃ、逃げなきゃ)

 そう思うと同時にレイドは本能的に行動していた。

 シートベルトを外し機体の揺れる中を四つん這いになりながらあわててコックピットから出て行った。

 一瞬、銃を奪おうとも思ったが思った時にはすでに外に出ていた。

 後は外に脱出するだけ。

 しかし、何とか窮地から脱出した喜びと、今までの恐怖によりあふれ出す感情の波に呑まれ混乱しているレイドはどこをどう逃げているのかわからない。

 いつも使い慣れた狭い輸送機の中のはずなのにまるで迷路を彷徨っている様だった。

 ただ闇雲に逃げ回る事しか出来なかった。



 気が付くと何故かPF格納庫にいた。

 いつの間にか輸送機も安定している。

「レイド――!!」

 ルロイの叫び声が聞こえた。

 すぐにルロイが来る。

 そう思ったレイドは隠れられる場所を探した。

 最初に目に付いた場所は、シートに覆われているPFの影だった。

 あたふたとそこに入り込む。


 扉を激しく開ける音がする。

 ルロイが格納庫に入ってきた。

 そう思いレイドは再び隠れる場所を求めた。

 今、PFの足元に立っている。

 PFの足元!レイドは上を見上げた。

 PFはJフェニックスだと見て取れた。

 赤いカラーリングだ。

 良く見るとコックピットにハッチが開いている。

(PFのコックピットの中なら外から開けられない様にすれば安全だ。それにPFで逃げるのも良い。会社の倉庫でPFを重機の代わりに使ったことがあるし、基本的な操作なら分かる)

 レイドはすぐにコックピットを目指して登り始める。

 PFのコックピットに着き、真新しいビニールを被っているシートに座るとすぐにハッチを閉じる。

 コックピット内が真っ暗になってしまい、あわてて手探りでメインスイッチを探し出そうとした。

 レイドが手当たり次第に色々なスイッチを押していると、たまたま運良くメインスイッチを入れる事が出来た。

 モニターの画面が点きコックピット内が明るくなる。

『おはようございます。私はエルン。お名前をどうぞ』

 レイドは不意にコンピューターに声を掛けられたのでビックリしてしまった。

『お名前をどうぞ』

 レイドが黙っていると自分の事をエルンと言うコンピューターがもう一度尋ねてきた。

「あ、え〜と、レイドだ。レイド=グットハント」

 コンピューターに向って喋っている自分が変な気がした。

『初めましてレイド様。搭乗予定パイロットが未登録ですが登録しますか?』

「登録でもなんでもして良いから、少し黙っていてくれ」

『了解しました。搭乗者固定システムはどうしますか?』

「ああ、それもやってくれ。え〜と、どうやって動かすんだったかな?」

 レイドは操縦方法を思い出そうと必死でエルンの質問には適当に答えていた。

『マニュアルをご覧になります。それとも自動制御で動かしますか?』

「マニュアル? ああ、マニュアルか・・・今、自動制御って言わなかったか?」

 レイドは聞き違いかと思った。

 PFが自動制御で動く、そんなものがあるのだろうか。

『肯定、自動制御と発言しました。自動制御で動かすのですか?』

「勝手に動くって事だよな。俺の言った通りに動くのか?」

『肯定、その通りです。レイド様の指示に従って行動いたします』


 レイドは喜んだ。

 こんな嬉しい事は無い。

 指示を出せば動いてくれるのだ。

(これで脱出できる)

 レイドは心の底から喜んだ。

『シートベルトをお締め下さい』

 レイドはエルンの指示に従ってすぐにシートベルトを締めた。

『当機を覆っているシートを外してください』

「そんなもの自分でとってくれ」

 レイドはこんな指示まで与えなければならないのかと思い、少し面倒くさいと感じた。

『了解、自力で除去します』

 エルンはJフェニックスの右腕を動かしてシートを剥ぎ取った。

 PFの足元にいたルロイは突然上から降って来たシートにビックリしたが、大きなPFに覆っていたシートを避けることなどできるはずも無く、シートの下でもがく事になってしまった。

 動き出したPFが人の手に負えるわけも無く、やっとの事でルロイがシートから抜け出すとPFの運搬口からちょうど赤いJフェニックスが飛び出すところであった。

「レイド――!」

 ルロイの虚しい叫びが吹き込む風でかき消された。















 

 輸送機が煙を上げて岩場の影に消えて行く。

「・・・姉貴、なんでミサイルが仕掛けてあるんだ」

 先ほど上空を通過した輸送機がマイ達のレーザーライフルのテストを行う予定地点の上空で下から発射されたミサイルに迎撃されたのだ。

「あのまま行けば落ちると言ったでしょ。マイとドゥルガーの緊急回避能力を試すために仕掛けておいたのよ。あの輸送機も運が無かったわね。でも、火薬の量は少ないから致命傷にはなっていないはずよ」

 マイは姉のやる事に恐れ入った。

 まさか自分の能力をこんな形で試そうとするとは想像もしなかった。

「さて、色々遭ったけどテストを開始しましょう・・・んっ、ちょっと待って」

「どうした?」

「レーダーに反応、所属不明PF1」

「さっきの輸送機にPFを積んでたのかな?」

 マイは実戦ができるのではないかと喜んでいるらしく顔から笑みがこぼれていた。

「おそらくその通りね。・・・テストも兼ねて撃破しましょ」

「良いのか?」

 いつもなら素直に喜んで攻撃を開始するマイだが、ユイのいつに無く好戦的な答えに思わず聞き返してしまった。

「ええ、その代わり確実に撃破するのよ」

 ユイはまだこの機体の存在を知られるのは早すぎると思っていた。

 しかし、所属不明とはいえミラムーンかアルサレアの機体であろうことは容易に予想が付いた。

 ミラムーンの開発したPF、だとしたら非常に興味があった。

 アルサレアの新型PF、だとしたら捕獲するのも手だ。

 万が一の場合は撃破すれば良い。

 それに並みのパイロットに自分たち双子の悪魔が負けることなど到底想像出来ない、そういう自信もあった。

 マイも戦いたくて仕方が無い様だし、マイに撃破といったのは彼女に全力でやらせるためだ。

 それに、ドゥルガーも理論値では実戦はもう十分可能であるし、ユイが自分で開発、設計した機体である。

 普通に考えたら負ける要素など何も無い。

 先ほどは白兵戦を回避したが、白兵戦を好むマイに自由にやれということは白兵戦をする事と同意義である。

 先ほどの多弾頭ミサイルのデータの満足の行く結果、自分たちの実力に対する絶対の自信、それにあの男の気になる行方。

 それらが冷静に正確無比な判断を下す様に作られた、彼女の判断をほんの少し狂わせたのかもしれない。

「よし、任せといてくれ姉貴」

 マイはわくわくしながら敵機に向かってドゥルガーを大空へ飛翔させた。










 

 エルンも敵機を捕捉していた。

『レーダーに反応、前方500の地点に所属不明PF1機、指示を下さい』

「おい、冗談だろ」

『否定、冗談ではありません。私に冗談を言うプログラムは組み込まれていません。プログラムを作成しますか?』

「真に受けるなよ。プログラムは作らないで良い。」

『了解しました。所属不明機に対する指示を下さい』

「所属不明機ということは、識別信号を出していないんだな?」

『肯定、その通りです』

「ヴァリム軍の確率が高いな」

『肯定、その通りです。99%の確率でヴァリム軍と思われます。指示はお早めにお願いします』

「今考えるから、少し待ってろ」

『了解しました。待機します』

 レイドは焦っていた。

 輸送機から何とか脱出できたと思ったら今度は所属不明のPF、しかも今居る所は激戦区として名高いサーリットン戦線。

 ただの民間輸送会社の輸送機のパイロットがなぜこんな事に・・・。

 そう思っていられる時間はもう終わりだった。

『警告、敵WCSによる当機のロックオンを確認。5秒以内に指示を願います』

『5』

「待ってくれ」

 敵がロックオンして来た、その言葉を聞いただけでレイドの頭は混乱してしまった。

 敵がロックオンしてきたつまり敵意を持っているという事、攻撃をするという意思の現われだ。

(どうしたら良いんだ、どうしたら良いんだ、どうしたら良いんだ)

 しかし頭の中でひたすら同じ言葉を繰り返すだけで、考えがまとまらない。

 いや、考えている時間など彼にはほとんど残されていない。

『4』

「待てよ」

 焦るレイドを無視して何の温かみも無い無機質な声で冷たくカウントして行くエルン。

(どうなるんだ?敵にやられたらどうなるんだ?死ぬのか?嫌だ、死にたくない、死にたくない。そうだ、逃げれば良いんだ、逃げよう、俺は戦ったことなんかないんだ。勝てるわけがない、逃げよう、逃げよう。命令しなきゃ、逃げるように指示をしないと)

 目の前に近づいてくる未知の恐怖に、初めて体験する死を臭わせる雰囲気に混乱しながらも、なんとか出した答えをエルンに命令しようとする。

 逃げろと。



「に・・・」

『3、敵機急速接近、これ以上は危険です。指示が無いため、独断で迎撃を開始します』

 だがその言葉を言い終える前に無情にもエルンは自分で決断を下してしまった。

「う、うそだろ」

 その言葉を最後にレイドの頭の中は恐怖でいっぱいになり思考が停止した。

 迎撃をせずに逃げろ。

 そう言うだけで逃げられたが、恐怖で凍りついてしまったレイドの口からその言葉が出ることはなかった。

『戦闘モード起動、迎撃を開始します』

 レイドにとって死刑宣告に等しい言葉をもう一度言うとさっそく次世代型人工知能エルンは行動に出た。










 

 黒い悪魔は上空からレイドの搭乗するPFに近づいて行く。

「敵機目視で確認、Jフェニックスタイプ、武装はカタールとマシンガン」

 ユイは前方に見える所属不明機をそう判断した。

「なんでもかまわねえよ、さっさと片付けるか」

「マイ、油断しては駄目よ」

「わかってるさ姉貴。一気に行くぜ」

 そう言うとマイは腰に搭載されている折畳み式のブーストサイファを左手に装備し、ターゲットに向けて獲物を狩る鷹のごとく急降下した。










 

『敵機メインカメラで確認、形状は既存のPFに該当するものがありません。未確認の新型と思われます』

 冷静に敵機を分析するエルンだが、恐怖に打ちひしがれ体を震わせて怯えるレイドには聞こえていなかった。

『迎撃開始』

 エルンは迎撃を開始し、急降下してくる敵機に向かって地を蹴り正面から突撃して行った。


 未だかつて経験したことの無いすさまじい圧力がレイドを襲う。


 ――それがレイドの恐怖を倍加させる。


 目の前のモニターの景色が凄まじい速度で過ぎ去っていき、黒いPFがどんどん大きくなって目の前に迫ってくる。


 ――それがレイドの恐怖を肥大化させる。


 赤いカラーリングのJフェニックスと黒い悪魔のPFが空中で交差する瞬間、カタールと鎌が激しくぶつかり合い火花と甲高い金属音を発生させる。


 ――それがレイドの恐怖を完全なものにする。






 

 恐怖、キョウフ、きょうふ、kyouhu、キョうフ。


 ありとあらゆる物が新たな恐怖を呼び、レイドの恐怖をより大きく育てて行く。

 次の瞬間、エルンは機体を急停止させ、並みのPFをはるかに陵駕する速度で急速旋回させた。

 ほんの数秒前にすれ違った敵に再び突撃を仕掛けるためだ。

 その時、レイドはシートに頭をぶつけてしまい脳に衝撃を受け恐怖も何もかも吹き飛んだ。

 さっきの様に景色が凄まじい速度で流れて行き、黒いPFが大きくなって来る。

 だがレイドは恐怖も何も感じていなかった。ただ呆然と目の前で繰り広げられる戦いを見ていた。

(あれ、なんだ、どうしたんだ。何かが起こっていた様な気がしたんだが・・・なんでこんな所に座っているんだ。なんか、体が軽いな。酒は飲んでないと思ったんだけど・・・ま、どうでも良いか。なんか気分が良いな。そういえばなんか大事なことを忘れてるような気がするけど・・・なんだったかな?)










 

 赤いカラーリングのJフェニックスと双子の乗るドゥルガーのカタールと鎌が空中で激しくぶつかり合う、その瞬間。

 マイは背筋にゾクッとする寒気を感じる。

 恐怖と呼ばれる、戦慄と呼ばれる物だ。

 マイはこの感覚が堪らなく好きだった

 その寒気が背骨を伝わって頭まで達する間にいつの間にか、歓喜に変わっているからだ。

(面白い、こいつは面白い。なかなか楽しませてくれそうだ)

 マイの顔は少し笑っていた。



 ユイは背筋にゾクッとする寒気を感じる。

 恐怖と呼ばれる、戦慄と呼ばれる物だ。

 ユイはこの感覚が嫌いだった

 この感覚は危険だから、この感覚はユイの本能から発せられている警告だと解かっているからだ。

(嫌な感覚、判断を誤ったかしら、それにしても妙ね。これほどのパイロットなのに覇気を感じられない。今のうちに消すか・・・それとも)

 ユイの表情は少しも変化していなかった。



 マイはドゥルガーを旋回させつつ、真下に向かってブースターを噴射し地面への着地のショックを和らげながら着地した。

 そして、敵機を再びWCSのサイト内に入れる。

 その時、マイとユイは自分の目を疑った。

 先ほどすれ違った敵機がすでに反転を追え、こちらの予想を遙かに上回る速度でかなりの距離を詰めて、左手に手にしたマシンガンを撃とうとしている所だったからだ。

「バックステップ」

 すぐにユイの指示が飛ぶ。

 マイは言われるのとほぼ同時に機体をバックステップさせる。

 その直後、今までいたところにマシンガンの弾が砂を飛び散らせ着弾する。


 恐ろしく正確な狙いだ。


 ドゥルガーのバックステップの動作が終了して地面に着地すると同時に大きく砂を飛び散らせ、先ほど弾が着弾したところに赤いJフェニックスが着地した。

 両者の間、その距離は三歩ほど、一瞬、時間が止まったかのごとく動きが止まり静寂が訪れる。その静寂を破りエルンの動かす赤いPFが先に動いた。

 三歩の距離を一気に詰め寄り右手に装備したカタールで稲妻のごとき突きを繰り出す。

 次の攻撃や防御をまったく考えていない捨身とも思える様な突きだ。

 それをマイはドゥルガーの左足を下げ右半身になる事によって紙一重で避けるとすぐに反撃に転じる。

 ドゥルガーの右足を上げ動きが一瞬止まっているJフェニックスの左膝を撃ち抜くべく膝を正面から蹴る。

 人間の体を模して作られている二足歩行の機動兵器であるPFは人間と同様、正面からの膝関節への攻撃に弱くなっている。

 膝関節が破壊されてしまうとPFの動きは大きく制限されてしまう、膝関節の破壊を狙うのは効果的な攻撃なのだ。

 しかも高機動戦闘を得意とするPFならば尚更である。

 マイは絶対に避けることはできないと自信があった。

 攻撃した直後はたとえどんな人間でも一瞬死角ができる。

 その隙を逃さず絶妙のタイミングで攻撃をしたからだ。

 接近戦ではあらかじめ敵の攻撃を的確に予測していなければ避ける事は難しい、ましてやこんな動きの大きい攻撃だ、隙は非常に大きく硬直時間も長い。

(こいつは動きは速いがやることはまるで素人だ)

 マイはそう感じていた。




 そしてそれは半分は合っていたが、半分は間違っていた。

 エルンはJフェニックスの全身に搭載されている各所のセンサー、カメラ類や全ての機能を最大限に活用してマイの攻撃を的確に捉えた。

 ドゥルガーの右足が空をきる。

 先ほどマイが避けたように左足を下げ半身になって避けたのだ。

 的を外した右足が地面に着くよりも前にマイとユイの搭乗する機体に衝撃が襲う、赤い機体が右肩でタックルして来たからだ。

(ちっ、なんて奴だ。接近戦じゃあ楽に勝たせてくれないか・・・、ちょっと、つまらねけど確実にいくか、新型を壊したんじゃ姉貴に何言われるかわからねえからな)

 マイは接近戦で敵を倒すことを好み、遠くから一方的に攻撃して倒す方法は嫌いなのだが、負けるのはもっと嫌いだった。

 片足だけで立っていたドゥルガーは、機体のバランスを崩し後ろに倒れそうになる。

 マイはすかさずブースターに火を入れ上空へ全速力で逃げ、距離をとろうと一気に上昇する。

 猛スピードで急激にPFを上昇させることは、脳への酸素供給が不足して失神してしまうブラックアウトを起こす可能性が高く危険な行為だが、マンマシーン計画で生み出された彼女達は並の人間よりも限界に余裕がある。

 それに彼女達はどれくらいの速度が自分たちにとっての限界かよく知っていた。

 このJフェニックスが接近戦では楽に勝たせてくれることは無く、接近戦は不利と判断したマイは、距離をとって射撃戦で勝負を決めようと思っていた。

 いったん距離を開けてしまえば高機動型のPFに遅れをとらないスピードを有するドゥルガーとの距離を詰めるのでは容易ではない。

 まして、マシンガン程度の火力ではドゥルガーの装甲を貫くことはできない。

 しかもドゥルガーは遠距離戦で圧倒的な火力で敵を倒すことを得意とするPFである。

 ユイも反対はしない。

 自分もそれが最良と判断しているし、一対一の勝負における瞬間的な判断力と行動力ではマイの方が勝っていることをユイは良くわかっているからだ。

 マイは敵機との距離を取りながらWCSで敵をロックする。

 ユイはWCSの誤差を手動で調整する。

 今、ドゥルガーに搭載されている兵器で高機動型の敵に対して有効なものは多弾頭ミサイル、これを最も効果的に使用するためにはある程度の距離が必要だ。

 近くで撃てない事もないが自分も巻き込まれる可能性が非常に高い。

 いや、ほぼ確実に巻き込まれる。




 多弾頭ミサイルの最有効距離まであと少しという時だった。

 赤いJフェニックスが信じられないような動きをした、ドゥルガーとの距離を詰めようと飛んだのである。

 この行動自体は普通のことだが、そのスピードが尋常ではなかった。

 先ほどマイが急上昇した速度よりも速く、ぐんぐんと赤いPFが大きくなって来る。

 あきらかにオーバースピードだった。

 人間の限界も普通のJフェニックスの限界も超えたスピードで迫る。

 流石の双子の悪魔もこれには驚愕した。

「おいっ」

マイは思わず一言そういった。

(なんなの、このパイロットは命が惜しくないの)

 ユイはそう思った。


 ユイがそう思うのも当然である。

 あんな速度で急加速してはユイやマイならまだ耐えられるかもしれないが、普通の人間では確実にブラックアウトを起こして失神してしまう。

 戦闘中に意識不明になることはほぼ確実に死ぬことを意味する。

 彼女たち二人が一度だけ敗北した、あのアルサレアの救世主グレンリーダーでさえこんな無茶苦茶なスピードは出さない。いや、出せない。

 マイは限界ぎりぎりまで速度を増し距離を空けようとする。

 しかし、赤いJフェニックスは更に加速しそのまま一気距離を詰めカタールを振りかぶる。









 

 レイドは意識がまだはっきりしていなかったが、そのことが彼に幸いしていた。

 もし彼の意識がはっきりしていたら耐えがたい苦痛と恐怖を味わっていたことだろう。

 タックルをした時の振動はなんとなく感じていた。

(ん、何だ今のは、あの黒いのは何だ。あ、消えた。何か思い出せそうだぞ。え〜と・・・)

 レイドがそう思った直後、エルンはドゥルガーを追って急上昇した。

 レイドの体に今まで以上の圧力が加わり、レイドの体をシートに押付ける。

(苦しい、何で息苦しんだ。なんだ、何の音だ、耳鳴りか?あ、なんか暗くなってきた。思いだした、思い出したぞ。まずい、まずいぞ。これはブラッ・・・・・前・・・だ。や・い、意・・・・・来・・)

 レイドの視覚は暗くなって行き、そして意識は闇の中へと沈んでいった。









 

 すぐ目の前に迫ってきた赤いJフェニックスがカタールを振り上げ、マイはブーストサァイフを構え後退を止め敵機に向かって前進した。

 両者の機体が同時にそれぞれの武器で相手を斬りつけようとする。

 再びカタールと鎌が激しくぶつかり合う、武器と武器が接触したその時、二つの武器は同時に折れた。

 折畳み式ブーストサァイフが折れた。

 そう思った瞬間、いや、思う事もなく本能的にマイは機体を動かしていた。

 その場で機体を前方に一回転させJフェニックスにドゥルガーの右足の踵を落とす。

 その踵が赤いJフェニックスの肩を直撃、そのまま機体バランスを崩し地面に向かって落ちて行った。

「どうだ、ざまあ見やがれ」

 マイは思わず叫んでいた。

「オフェット射出」

 ユイが指示を出す。

 マイはすぐに3機のオフェットを射出する。

 オフェットとはオフェンスビットの略で、小型の自立機動兵器で敵機を自動的に追尾して攻撃する兵器である。

 ちなみにビットとはユイが古典SF文学小説を参考に考えた。

 ユイがすばやくオフェットへの指示を打ち込む。

 本来は指示を与えないでも良いのだがドゥルガーのサポートAIが未完成のため、ユイは命令を直接入力する必要があったからだ。


「行け」


 ユイの指示を受け取ったオフェットは先ほど落ちていった敵機へと向かって行く。

「よし、一気に決めてやるぜ」

 追撃するため動き出そうとするマイ。

「待ちなさい、マイ」

 ユイがそれを止める。

「何でだよ姉貴」

「撤退よ、これ以上は危険すぎるわ」

 マイは不満だったが、ユイが言うことも解からなくもなかった確かに危険な相手だ。

 それに撤退するにしても今を逃したらチャンスがもう無いかもしれない。

 しかも、敵機のスピードの方があきらかに上だ。

 それに試作機をこんな所で失うわけには行かない。

「わかった。ここは引くよ」

 マイは不満だったがしぶしぶ納得した。

 マイは外部スピーカーのスイッチを入れると。


「赤いPFパイロット、次にあった時は覚えてろよ!」


 聞こえているか聞こえていないかは解からないが捨て台詞を残して全速力で撤退した。









 

 マイの放った踵落としに直撃してしまったJフェニックスはまっ逆さまに地面に向って落下して行く。

 エルンは素早く地面に向かって逆噴射をして機体の落下を防ごうとする。

 何とか機体を立て直した時、上空からオフェットが追撃してきた。

『詳細不明機動兵器接近、指示を願います』

 指示を求めるエルン。

 だがレイドは気を失っていて答えられるはずもない。

『危険と判断、迎撃します』

 エルンはそう言うと同時に、指示がないので自分で判断し迎撃を開始。

 素早くオフェットの軌道を読みマシンガンを打つ。

 その弾数3発。

 3発の弾はそれぞれこちらに向ってくる3機のオフェットに寸分たがわず正確に命中し撃墜した。

『敵新型PFのレーダー圏外への撤退を確認。周囲の敵影なし。戦闘モード解除。次の指示を願います』

 コックピットにエルンの声だけが響く。

『指示を願います』

 しばらく間を空けてもう一度エルンは指示を求めた。だが当然答えはない。

『パイロットの応答なし。パイロットの状況確認、確認中・・・・・・』

 しばしの沈黙。

『確認終了。パイロットの状態、意識不明。呼吸、心音、正常レベル。生命の危険、なし。結果、ブラックアウトによる一時的な意識不明状態。覚醒予想時間五十秒。それまで待機します』

 戦闘の終わった戦場で砂漠の真ん中に赤いJフェニックスが一機、静かにたたずんでいた。












 

 レイドは唐突に目を覚ました。

 目を見開いて辺りを見回す。

 最初に戦いはどうなったのか、自分は生きているのか、そんな疑問が浮かんだ。

 次に、ほんの少し前までの恐怖が蘇えってきた。

 レイドは蘇えって来た恐怖に体を震わせた。

『御気分はいかがですか』

 エルンがレイドに声をかけて来た。

 理由はよく分からないがレイドはその声に無性に腹が立った。

「おい、ふざけるな!」

『否定、おっしゃっている意味がよく分かりません』

 口から自然に言葉が出ていた。

 その言葉を言った後に気絶する寸前の記憶がその感覚とともに鮮明に蘇えって来た。

 レイドはブラックアウトを起こして気絶したことを思い出し、自分の知識と照らし合わせて見て改めて恐ろしくなった。

 ブラックアウト―起こる原因となるものは色々あるが、脳への酸素供給が不足して起こる気絶のことを言う。

 自然に呼吸できる環境に戻れば数十秒で意識を回復するが、脳はしばらく酸素が供給されずにいると細胞が死んでしまい、後遺症が残る恐れがある。

「どれくらい気を失っていたんだ」

『五十一秒です』

 レイドはあわてて自分がどれくらい気絶していたか聞いた。

 そして、その答えを聞いて少し安心した。

 レイドの知識では一分が後遺症の残る境目だからだった。

「敵はどうしたんだ」

『敵機は撤退しました。詳しい交戦記録をご覧になりますか?』

「いや、必要ない」

『了解しました』

 レイドはやっと落ち着くことが出来た。

『今後はどうしますか?』

「どうするって言ったってな・・・とりあえずお前をアルサレアまで持っていかないとな」

 レイドはエルンをアルサレアまで輸送する途中だったのだが、不幸にも色々な問題に巻き込まれてしまったのだった。

『了解しました。では近くのアルサレアの基地に向います』

「ちょっと待て、このまま基地に向ったら、敵と間違われないか?」

『肯定、おそらく間違われるでしょう』

「間違われるでしょう。なんて簡単に言うなよな、何か手は無いのか」

『アルサレア領内まで移動した後、救難信号を出してはいかがでしょうか?』

 レイドはエルンの提案を聞いてしばらく考えると。

「その手で行こう」

 レイドは賛成した。

『了解しました。では、移動開始します』



 しかし、エルンはすぐに移動を開始しなかった。

「どうしたんだ?」

 レイドは気になって尋ねた。

『人間と思われる生命反応が四つあります。モニターに拡大します。』

 エルンはそう言うとモニターに拡大した画像を映し出す。

 すると、遠くで手を振っている砂まみれの数人の人影見えた。

 リップス小隊の四人である。

「・・・・こんな砂漠に人が」













 

−ヴァリム軍サーリットン戦線前戦基地 PF格納庫−

 ここはサーリットン戦線の中でも最前線にある激戦区の中の激戦区に最も近い基地である。

 その基地のPF格納庫、整備員たちが忙しく働き、威勢のいい声や油のにおいが充満している空間だ。

 その一画、ユイとマイは傷ついたドゥルガーを見上げていた。

「なかなか強かったわね」

「そうだな」

 ユイの問いかけにマイは無愛想に答える。

「まだ、不満なの」

 ユイはマイの方を向いて聞いた。

 この基地に戻るまでずっとマイは文句を言いっぱなしだった。

 なぜなら、マイは撤退したことが不満だったからだ。

 彼女はもっと戦いを楽しみたかった。

 戦いの中でのみ感じられるあの独特の雰囲気をもっと長く楽しんでいたかったのだ。



「・・・なんかあの機体さ、変じゃなかったか?」

 マイは黒いPFを見上げながらユイの問いに答える。

「確かに変だったわね」

 彼女達はあのPFは何か変だと思っていた。

 普通の動きではない、人間のするような動きとは感じなかった。

 そう感じていた。



 しばらく二人は機体を静かに見上げていた。

「姉貴、先に寝るよ。なんか疲れたよ」

「そう、そうしなさい。明日からはまた忙しくなるわ」

「んっ、じゃあ、おやすみ」

 マイはそう言うとあくびをしながら私室へと歩いて行った。

 流石に疲れたのだろう。

 慣れない新型の機体で常識外れのスピードを有し、しかも一流の腕を持ったとても人間とは思えない様な無茶をするパイロットの操るJフェニックスと戦ったのだから。

 ユイはそう思った。

「キサラギ中尉、ドゥルガーの修理はどうしますか?急ぎましょうか?」

 ユイが一人でドゥルガーを見上げていると一人の整備員が声をかけてきた。

 彼の名前はリック=ボールディングと言う年齢は24歳、メカ好きのいたって平凡な青年だ。

 ユイに整備の腕を見込まれドゥルガーの整備を任されている。

「明日の朝までには終わらせといて、何かあったら電算室にいるから声をかけて」

「了解いたしました」

「後はよろしく」

 そう言うとユイはドゥルガーの戦闘データの入ったディスクを持ってその場を後にして電算室へ歩き出した。

「キサラギ中尉」

 後ろからリックが声をかけてくる。

「何?」

 ユイが振り向きながら答える。

「その、お疲れの様ですから無理をなされず少し休まれてはいかがです?」

「そんなことは無いわ。ありがとう」

 ユイは表情を少しも変えず礼を言うと電算室に歩いていった。



 歩きながらユイはグリュウのことを思い出していた。

(そういえば、よく大尉に“無理をするな”と言われたわね)

 ユイは誰もいない静かな廊下を一人、歩いて行った。














  第二話に続く


 



−キャラの紹介−

オリジナルキャラの紹介をします。


・レイド=グットハント
 年齢27歳、ミラムーン航空の輸送機パイロット。
 たまたまエルンを搭載したJフェニックスに乗ってしまい。面倒な事に巻き込まれて行く。
 一応は主役です。


・ルロイ=レオミル
 年齢30歳、表向きはミラムーン航空の輸送機パイロット。
 その実はヴァリム軍の工作員でフォルセアの配下に当たる。


・リック=ボールディング
 ヴァリム軍の整備員、年齢24歳、腕はなかなかでユイからドゥルガーの整備を任されている。


・次世代型人工知能エルン
 無茶苦茶な奴です。
 人間の事などお構いなしですが機体性能を200%は軽く引き出してくれます。 








 

−後書き−

 バーニィです。

 この話はJフェニベースの作品です。
 表現方法などで妙な所が多数ありますが・・・あまり気にしないで下さいね。想像の産物です。
 あと、今作が私の書いたJフェニックスの小説の初めての話なので問題は多いと思います。

 話としては後4、5話で完結の予定です。それまでどうか気長におつきあい下さいませ。

 双子が変だ・・・なんて声も聞こえてきそうですが、私の中ではあんな感じの人間だと捉えております。


 


 管理人より

 バーニィさんからご投稿頂きました!

 さてさて、不運なレイド君はこれからどうなっていくのでしょう?(爆)

 人工知能に振り回され、次はリップスですからね……(苦笑)

 


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