機甲兵団Jフェニックス 〜ある一人の男の物語〜

第二章 攻防








 

 真夜中、砂漠の夜は昼とはまったく正反対の姿を見せる。

 赤く干からびた砂は月明かりを受け青く静かな海底を思わせる姿に変わり、燃える灼熱の炎のような空気は凛とした冷たい空気へと変わる。

 だが、最前線の基地は昼間と変わらず人々は忙しく働き休む間もない。

 そんな中ユイは一人電算室でモニターに向かい黙々とデータの修正を行っていた。

 昼間の戦闘で得たデータを見直しドゥルガーのサポートAIに組み込むためだ。

 双子の妹であるマイはすでに眠りについている。


 ユイは疲れを知らない。

 そんな事は無い。

 彼女は寝る間を惜しんでまでもドゥルガーを早く完成させようとしているのだ。

 何故そこまでするのか、何が彼女を駆り立てるのか、それは彼女すらまだ気付いていない。

 しかし、いつか気が付くであろう。

 電算室の入り口の扉が開き、滞留していた空気が流れ出る。

 ユイは入ってきた人物に気付かないのかモニターに向っている。

 

「空気の悪い部屋ね」

 その人物はそう言った。

 電力節約の為に夜間は一時的に使用頻度の少ない一部の空調設備を停止しているのだ。

 ユイが後ろを振り返って見ると意外な人物が立っていた。

「!・・・フォルセア=エヴァ神佐」

 ユイは席を立ち敬礼をする。

 ユイの階級は中尉、フォルセアの階級は神佐と言う特殊なものだが大佐とほぼ同等の階級だ。

 神佐はユイにとって個人的には好きになれない人物なのだが一応敬礼はせねばならない、それが規則なのだから。

 ユイはマイがいたら嫌な顔をするだろう、と思ったと同時に、なぜ諜報部所属の神佐がこんな最前線の基地に、と言う疑問が浮かんだ。

「キサラギ中尉、あなたに少し聞きたい事があるの、良いかしら?」

「はい、なんでしょうか」

ユイは相変わらず無表情のまま答える。

「相変わらず無表情なのね・・・」

「・・・なんでしたら・・・笑いましょうか?」

 若干の間をおいてユイが答える。

 その答えを聞いた神佐は目を細めてユイを見る。

「ふふっ・・・冗談くらいは言えるようになったみたいね」

 フォルセアは細く微笑む。

 ユイは別に冗談で言ったつもりはなく真面目に訊いたのだが、神佐には冗談に聞こえたらしい。
 ユイは神佐のこういう所が嫌いなのだなと思った。


「神佐、そんな事を言いに来たのですか?」

「もちろん違うわよ。あなたは今日、戦場で赤いJフェニックスに遭遇したそうね」

「はい、戦闘報告書は研究所の方に提出しましたからそれをご覧になられては?」

 ユイとマイはキサラギ研究所への戦闘結果の報告を義務付けられていた。

 二人はキサラギ研究所によって生み出されたバトルヒューマノイドである。

 バトルヒューマノイドとは遺伝子操作などを駆使してより戦闘に適した人間として人工的に創りだされた人間で、二人は数少ない成功例でもある。

 基本的に研究所のデータベースのアクセスは一般将校には出来ないのだがフォルセアは神佐である。それくらいのアクセス権限は有している。

 それどころか神佐の権限を使えばヴァリム軍内で調べられない事など無いといっても良い。

 ユイはそんな神佐がわざわざこんなところまで直接訊きにくる事が腑に落ちなかった。


「中尉に直接聞きたかったのよ。どんな感じのする相手だったかしら?」

「動きの速いPFでパイロットもそれなりの腕を持っていたようです」

「それだけ?」

「それだけです。あの赤いJフェニックスは何かあるのですか?」

「それはあなたが知る必要がないわ」

 ユイは神佐の答えに何かあるような気がしたが、これ以上の詮索は無用と判断した。

「他に何か質問がありますか?」

「いえ、もう良いわ。邪魔して悪かったわね」

 そう言うと神佐はユイに背中を向け。

「ドゥルガーは良い機体ね。期待しているわよ、ユイ」

 それだけ言うと神佐は独特の不敵な笑みを浮かべながら電算室を後にした。


 不気味なフォルセアの立ち去った電算室でユイは一人考える。

(神佐が期待している?・・・わざわざそんな事を言いに来たの・・・ただドゥルガーを見に来ただけ?・・・いや、あの女はまた何かを企んでいるに違いない・・・また私たちを利用しようというの?・・・今度はそうやすやすと利用されるわけには行かない・・・もうあの時のような事には・・・・いずれにしても警戒の必要があるわね)

 ユイは再びモニターに向い仕事を再開した。








 

 明け方、砂漠の夜明け、また再び戦闘の幕開けでもある。

 しかし戦闘が始まるとは思えないほどの静けさと心地の良い風が吹いている。

 ユイはデータの修正を終え宿舎に帰って仮眠を取るつもりで歩いていた。

 まだ辺りは暗く視界はあまり無い。彼女は何かが駆け寄ってくる足音を聞いたので、辺りを見回したが人影は無い。

(何・・・)

 しかし、足音は確実に近寄ってくる。

 その音が近づくにつれ人間のものではない事が判ってきた。

(動物?・・・どうしてこんな所に?)

 その動物がユイの足元まで駆け寄ってきた。

 それは・・・。




「犬?」


 犬だった。

 砂漠の前線基地になぜ犬が。

 犬は何かを求めているのか尻尾を振ってこちらをじっと見つめている。

 ユイはどうすればわからず困ってしまった。

(何で犬なの?・・・まさか!・・フォルセアの刺客・・・・そんなわけ無いか)

 唐突にまったく不可解な犬の登場に困惑しつつもユイの表情は何一つ変わってはいなかった。

 とりあえず頭でも撫でて見ようと思ったユイは膝を着き、犬の頭にそっと手を伸ばす。

(そういえば・・・私、犬を飼っていた事があるような気がする・・・その犬はどうしたんだっけ?)


 ユイの伸ばした手を犬がなめた。

 その瞬間ユイは昔飼っていた犬を自分がどうしたのか思い出した。

 伸ばした手を戻し地面を見るユイ。


「マイケル!・・・何処行ったんだマイケル!」

 遠くの方から飼い主らしき人物が犬の事を呼ぶ、その声を聞いた犬はひと吠えする。

 ユイが顔を上げると遠くに人影が見えた。その人影はマイケルと呼ぶ犬を見つけたらしく駆け寄って来る。

「マイケル、こんな所にいたのか」

 犬は後ろを振り返って自分の飼い主の方を見ながら尻尾を振っている。

「あなたが捕まえてくれたんですね。・・・あ!・・キサラギ中尉、し、失礼しました」

 飼い主、リック=ボールディングは自分が話しかけた人物がユイだと知ってあわてて敬礼をした。

 リックはユイがドゥルガーの整備を任せている人物だ。

「リック、ドゥルガーの修理は終わったの?」

「はい、新品同様にいたしました」

「そう、それでこの犬はあなたの犬?」

「いえ、私の友人の犬です」

 なにやら堅苦しい雰囲気に犬は首をかしげる。

「その友人は?」

「昨日、戦死しました」

 リックの顔に暗い影が生まれる。

「・・・そうなの、悪い事訊いたわね。それであなたが面倒を見ているのね」

 悪い事を聞いたわね、ユイは自分で言って見て驚いていた。

(どこからこんなこと言葉が出てきたの?)

「はい、散歩の途中で逃げられまして」

 と、リック。

「どうして犬なんか飼うのかしらね。非常食にでもするのかしら?」

「まあ・・・非常食にもなるとは思いますが・・」

 リックは答えに詰まってしまう。


「私もね・・・」

(何を言っているの?)

「私も昔・・・犬を飼っていた事があるのよ」

(思い出したくも無いのに・・・)

「そうなんですか、その犬はどうしたんですか?」

 と、尋ねるリック。

(ほら、やっぱり訊いて来た)

「・・・殺したわ。・・・私が殺したの」

(何でこんな事を話しているのかしら?)

「・・・」

リックはなんと言ったら良いのか分からず言葉に詰まってしまった。

「その犬は大切にね」

ユイはリックと犬に背を向けて朝日を背中に浴びながら宿舎へと歩いて行った。

(中尉って変わってるよな・・・)

リックはユイの背中を見て思った。




















 

−アルサレア領内 サーリットン戦線後方第三基地−


 レイドが目を覚ますと最初に見慣れない天井が目に入った。

 次に感じたのは真新しいシーツの匂いだ。

 頭は寝ぼけていてハッキリとしない。

(今何時だ・・・)

 レイドが周りを見ましたが時計は無かった。

 ふと、手に時計を着けたまま寝ていたことに気が付いて時計を見る。


 8時13分


「やば・・遅刻だ」

 まだ寝ぼけているレイドは仕事に行く仕度をしようとしたが、すぐに自分の部屋でないことに気が付き動きを止める。

(そう言えば・・・あの後どうしたんだ? アルサレア領内に入って・・無線のチャンネルを途中で拾った女の子に教えて貰ったチャンネルに合わせて・・・・アルサレアの近くの基地に連絡して・・・・その後は・・・・・PFのコックピットから降りたら急に眠くなって・・その後の記憶がないな・・)


 レイドは一人、ベッドに座り昨日の出来事を思い出し夢でないことを改めて実感した。

「信じられないよな・・・昨日は普通に出勤して予定通り輸送機で荷物を輸送していたら・・・先輩が・・・先輩が・・・夢じゃ・・・・無いよな」

 しばらく座り込んでいたが、頭が目覚めてきて冷静になってくると何故自分がこの殺風景な部屋で寝ていたのか、どうしてコックピットから降りてからの記憶がないのか疑問が浮かんできた。

 そこで彼はまずは部屋から出てみようと思いドアの前に立った。

(・・・・開かないな)

 このドアは自動ドアでドアノブの類は全く付いていない。

 直ぐ横の液晶パネルに目をやると・・・

<LOCK>

 と表示されている。

(俺をここから出さない気か・・・)

 レイドがそう思っていると突然目の前のドアが開く、そのドアの前には金髪の女性が立っていた。

 その女性はまさか人が向こう側に立っているとは思わなかったらしく、目を大きく見開いて驚いていた。

 レイドもドアが開いて驚きはしたがその女性を見てさらに驚いた。

 いや、驚いたという表現は適切ではない。

 ハートに直球ストライク・・・・いわゆる一目惚れというやつである。

 一目惚れと言う物は時と場所を選ばないらしい。

 二人とも突然のことでしばらくそのままで絶句していたが金髪の女性が先に口を開いた。

「レイド=グットハントさん、ですね?」

「あ・・・はい」

 レイドはまだ惚けていた。

「私はミオ=ポーティミング。基地指令がお呼びです。ご同行願いますか?」

「あの・・えっと・・・・・・はい」

 先ほどまでの緊張感も疑問も不安も何もかもがレイドの頭から無くなっていた。

「仕度はよろしいので?」

「良いですよ・・」

 何時になく丁寧な言葉使いのレイド。

 レイドはミオの後について行き会議室らしき部屋に案内された。



「レイド=グットハントさんをお連れしました」

 会議室前の扉脇に付いているインターフォンでミオが中に向かって声を掛けると、返事が直ぐ返ってきた。

 ドアが開くと部屋の中央に長い机がありその周りに椅子が並べられているのが目に入った。

 さらに一番奥には一人の男が座っているのが見える。

(あのおっさんが俺を閉じこめたのか・・・)

「レイド君、座りたまえ」

 声を掛けてきた男の言葉遣いにレイドは何か嫌な予感を感じていた。

「ミオ君は下がってよし」

 ミオは一礼すると部屋を出て行った。

「で・・・・一体何のようですか?」

 手近な椅子に座るとレイドが最初に口を開いた。

 最初に喋って会話の主導権を握りたいと思ったからだ。

「レイド=グットハント、年齢27歳、ミラムーン航空の輸送機パイロット、勤続8年目、勤務態度はいたって真面目、まちがいないかね?」

「俺が聞いているんです」

「そうだったな・・・君の立場は非常に微妙な立場でね・・・・・少々長いが聞くかね?」

「はい」

「簡単に話すが、君の持ってきた機体は我がアルサレアとミラムーンが極秘で合同開発していた機体なのだが、ミラムーン側が裏切ってね・・・・ヴァリムに機体を売り渡そうとしていたのだよ。君の元同僚・・・なんて言ったかな」

「ルロイ=レオミル」

 ルロイが頭に突きつけられた銃口の冷たさがレイドの頭を過ぎる。

「そうそう、ルロイ=レオミル・・・彼はヴァリムの工作員だったのだよ。君を殺してそのまま輸送機ごとヴァリムに届けるつもりだった様だが、君のおかげでその最悪の事態は避けられたわけだ。その点は感謝しているよ」

「それで、俺はこの後どうなるのですか? ミラムーンには返してもらえるんでしょ」

「いやいや、そうは行かないのだよ。君は公には輸送機が墜落して事故死したことになっていてね・・・・そこにいる君はそうだね。ゾンビか幽霊といった所かな」

「ふざけるな!!」

 レイドが勢いよく立ちながら怒鳴りつけた。

「ふざけてなんかいないよ・・・大まじめさ。今そこいる君は墓穴から一時的に出てきた死人。また、暗い穴蔵に戻るも良し、我々の言う通りにして日の光の元を再び歩くも良し・・・・君は自由に選ぶことが出来るのだよ」

「俺に何をしろと?」

「簡単だよ・・・あの機体の専属パイロットになってもらう」

「俺が?」

「そうだ・・・と言うよりも君しか動かせなくてね。搭乗パイロットの固定を命じたのだろ?」

「・・・いや、記憶にない」

「そうは言うがね・・・・エルンがそう言っているのだよ。最初に君が乗った時にそう命じられたとね」

 レイドは言われてみればそんな気もしたが・・・

「あの時は気が動転していたんだ。自分が何を言ったかなんて覚えてない」

「あの、エルンと言う代物はわがままでね・・・・一度、決めた事は曲げてくれないんだよ。あれを作り出した博士がそうプログラムしたらしくてね・・・我々が使おうとしても機体を動かしてくれないんだ」

「・・・別に俺は必要ないんじゃないか? 博士とやらを捕まえればいいじゃないか」

「そう思うだろうね。だが、博士は既にヴァリムに押さえられているのだよ。それに、確かに君は必要ない。あの機体は保管しておけばいいのだからな・・・・その場合、君は本当に死ぬことになるがな。まだ死にたくはないだろう?」

「・・・・」

「君は今ではエルンを動かす為に必要な鍵なんだ。エルンは君と博士の言うことしか聞かないからね」

「俺に選択権はないわけだな・・・」

「そんな事はない。生きるか死ぬか選べると言ったろ?」

「・・・・」

「どうする?」

「少し・・時間をくれないか」

「良いだろう。今日一日ゆっくりと考えると良い。重大な決断だからな・・・」

 レイドが部屋から出て行こうとすると。

「私の名前を言ってなかったな、私の名はチャップ=モンデルだ。よろしくなレイド君」

 会議室を出るとミオが立っていた。

「レイドさん、基地を案内する様に言われています。どうぞ」

そう言うとミオは笑顔を作った。思わず見とれてしまう様な笑顔であるが。

(ミオさんは・・・・監視役なのか?)

 あんな話を聞かされてからでは全てが疑わしく思えてくる。

 それからレイドは基地を案内され部屋へと戻ってきたがどこをどう回ったかなどは覚えておらず気が付いたらベッドに座っていた。

(どうするかな・・・・生きるか、死ぬか・・・昨日、銃を突きつけられた時に俺はもう死んでいたんだな・・・だったら)

 気が付くといつの間にか夜が明けていた・・・・そして、レイドは条件を呑む事に心を決めていた。

















 

−サーリットン戦線 ヴァリム軍最前線本拠地−


 砂漠戦は一進一退の激しいものである。

 このサーリットン戦線も例外ではない。

 最近はアルサレアに押され気味のヴァリムが戦線を下げているのだが、ユイとマイの駐屯するこの基地は、双子の悪魔と言われるほどの実力の持ち主である彼女達のおかげで何とか保っているのである・・・・とは言っても彼女達が強すぎるためにこの基地だけが周囲から取り残される形となっており、日増しに敵の攻撃が激しくなっていくばかりであった。

 そんな中でアルサレアの大規模な攻撃の情報が入ったのである。

「これが無人偵察機で撮った写真だ」

 ユイの前に一枚の航空写真が差し出された。

 ここはヴァリム軍基地内にある作戦会議室。

 時刻は朝の八時ぐらいであろうか、この部屋ではアルサレアの攻撃をどう防ぐか会議中である。

 会議室の中には基地の司令官とユイ、それに各小隊の隊長がこの場にいる。

 何時もユイ行動を共にしている事が多いマイの姿はこの場になかった。

「・・・かなりの大部隊ですね。一個大隊ぐらいでしょうか?」

「ああ、これと同規模の隊が後二つ確認されている」

「一個大隊だけなら私とマイでなんとが出来ますが・・・」

 そう言った後、ユイは昨日神佐にあったことを思い出した。

「神佐の力を借りる事は不可能でしょうか?」

「頼んでみたが無理だそうだ・・・ハーメルンヴォイスシステム・・・あれがあれば楽なのだがな」

「無い物に頼っても仕方がありません。他の手を考えましょう」

「正直、君ら双子が居なければ一個大隊でもこの基地は落ちているだろうからな・・しかも今回はグレンリーダーも自ら出撃するらしい」

「グレンリーダーが・・・・」

「そうだ、グレンリーダーの実力とその影響力は計り知れない。君達二人にはグレンリーダーの迎撃を担当して欲しいのだが、問題はどこの地域に出没するかだな・・・」

「そうですね」

「時間稼ぎは格納庫にあるスクラップ寸前のゼクルヴ3体で持たす事が出来るが、今回はグレンリーダーだけでなく、コバルトリーダーも出撃するらしいのだよ」

「随分と念の入った事ですね」

「悔しいが、あの二人相手ではゼクルヴなど物の数に入らないからな」

「ならば我々に出来る事はあまりありませんね・・・戦線をなるべく維持しながら援軍を待つか、私とマイで奇襲を掛け、グレンリーダーを討つ」

「援軍は来ない・・・」

 援軍は来ない・・この言葉を聞いてもユイの表情は全く変化しない。

「ならば奇襲ですね」

「可能なのか?」

「不可能ではありません」

 三個大隊に奇襲を掛けその中から敵の司令官、つまりグレンリーダー素早く見つけて殲滅。

 普通の人間ならば討つ事は不可能。

 グレンリーダーの所にたどり着く前に撃破されるのが関の山である。

 ユイとマイ、この二人ならばグレンリーダーの所までたどり着けるだろうがグレンリーダーが厄介なのである。

 彼はそのカリスマ性だけではなくそのPF操縦技術も並ならぬ物があり、彼一人で戦局を覆すだけの実力を持ち合わせているのである。


「必要な物は?」

 司令官は成功の少ない確率であろうと思っていながらも、ユイとマイの二人に頼るしか考えが浮かばなかった。

 実は彼は後方に援軍を要請してはいたがつい先ほど冷たく断られたばかりだからだ。

 いわばこの基地は捨て駒にされたわけである。

 捨て駒にされた事実で基地指令はすっかり参っていたが、ユイにしてみればそれはいつもの事であったし、どうせそんな事であろうと最初からわかっていた。

 双子が表立って戦線に立つ場所は決まって使い捨てにされアルサレアの戦力を削るためにだけ存在している様な場所なのだ。

「必要な物はこの基地にある試作型の長距離瞬間転移装置が二つ・・・後は私たちのシンザンがあれば十分です」

 長距離瞬間転移装置、従来の瞬間転移よりも長距離の瞬間転移をするための装置で随分と前から開発は進められていたが未だに試作段階である。

 だが、アルサレアでは既に実用段階に入っているらしい。

「そうか・・・直ぐに手配する」

「それと、私たちの行動を開始するのは戦闘が始まってからになります。それまでにグレンリーダーの位置に関して出来るだけ情報を集めておいて下さい」

「わかった。この基地の命運は君達に掛かっている・・・・頼んだぞ」

「では私は準備に掛かりますので失礼します」

 ユイは一礼すると部屋を後にした。

(この基地も終わりね)


















 

−アルサレア領内 サーリットン戦線第三基地−


 レイドの部屋のインターフォンが鳴る。

 結局レイドは一睡もする事が出来なかったが、答えは一応出せていた。

「レイドさん、起きていますか?」

「起きてますよ・・・・どうぞ」

 ドアが開きミオが入ってくる。

「指令がお呼びです」

「ああ、今行きますよ」

 ミオがレイドの顔を見ると心配そうな顔をする。

 レイドはその様子を見て自分はそんなに酷い顔をしているかと思った。

「大丈夫ですか?」

「・・・昨日は寝付けなかったんでね。さて、行きましょうか」

 昨日と同じようにミオの後を付いていき会議室へと向かう。

 途中でレイドは基地が昨日よりも静かな事に気が付いた。

「何かあったんですか?」

 前を歩いているミオに聞いて見た。

 ミオは髪をなびかせながら振り向いてレイドの方を一度見てから前をむき直してこう言った。

「申し訳ありませんが、機密事項なので軍関係者ではない。レイドさんにはお教えできません」

(当然だな・・・)

 とレイドは思った。

 会議室の前につきレイドが部屋に通される。

 昨日と同じ席にチャップ=モンデルが座っていて、昨日と同じく嫌な感じがする。

 レイドはチャップを睨み付けながら席に着いた。

「酷い顔だな・・寝れなかったのか?」

「お陰様でね・・・・」

「まあいい、決心は付いたかね?」

「ああ、引き受ける事にしたよ・・・死ぬのはごめんだからな」

「それがいい、生きていればいい事もあるさ」

「あると良いけどな」

「では、儀式を始めるか・・」

「儀式?」

「簡単な事だよ。ちょっと待っていてくれ」

 そう言うとチャップは近くにあった内線電話を手に取りどこかに連絡をし、二言三言話したかと思うと受話器を置いた。

「なあ、チャップさん・・・」

「なにかね?」

 チャップの顔にはレイドが承諾した事が嬉しかったのかうっすらと笑みが浮かんでいた。

「ミオさんは・・あんたらとグルなのか?」

「彼女が気に入ったのかね?」

「・・・・」

「まあいい、彼女はただの普通の部下だよ。この件に関しての関係者は最小限に抑えてある・・・・こちらにも色々と事情があってね。ああ、来た様だ」

「失礼します」

 白衣を着た男が部屋に入って来た。年の頃は34、5と言った所であろう。

 その男がレイドの横に歩いてきて一本の薬瓶を置いた。

「これは?」

 レイドが白衣の男を見た後チャップに聞いた。

「特殊な毒だ・・・君の為にある様なものだよ」

「それは、光栄だな」

 レイドは精一杯の皮肉を込めた。

「ところでこの人は?」

「彼はヨズマ=ケーピー。レイド君、君の専属の医者だよ」

「別に医者は必要ないんじゃないか?」

「これから必要になるのだよ」

 レイドの横に立っていた白衣の男が声を掛けてきた。

「よろしく・・レイド君」

 人を見下した様な冷たい目をした男、それがレイドのヨズマに対する第一印象だった。

「ああ、よろしくな」

「では、レイド君その薬を飲んでくれるかな?」

「わかった」

 レイドが薬瓶を手に取りふたを開けると妙な匂いがした。

「酷い匂いだな・・・」

「さあ、飲んでくれ」

 レイドが一気に薬瓶の中身の液体を飲み干すと、口の中には苦虫を潰した様な嫌な味が残る。

 すると、急にレイドの視界がぼやけてきた。

「何だ・・・どういう事だ・・・」

 レイドは席を立ちヨズマの襟首を掴もうとしたが足が言う通りに動かず椅子の脚につまずいて手は虚しく空を切り床に倒れてしまった。

 徐々にレイドの意識が遠退いていき・・・・

 やがて全てが暗い淵へと沈んでいった。



















 

−サーリットン戦線 ヴァリム軍最前線本拠地−


 マイはPF格納庫の隅に積まれている箱の上に腰掛け、忙しく働く整備員達の姿をつまらなそうに眺めながらユイが来るのを一人待っていた。

 マイのすぐ隣には小さな鞄が置いてある。

 その鞄にはユイが荷物をまとめておけと言っていたので言われた通りに必要最低限の物だけをまとめて入れてある。

 ユイがマイと同じ様な鞄を持って歩いて来た。

 その手には一本の刀が握られている。

 グリュウ=アインソード。かつて黒夜叉と恐れられた男が持っていた不知火という刀で、現在ではユイがグリュウから譲り受け所有している。

 ユイの姿が見えるとマイは駆け寄っていき、声を掛けた。

「遅いぞ、姉貴」

「マイ、仕度は?」

 マイの言葉はユイにあっさりと聞き流された。

「ああ、済ませたよ」

「頼んでおいた事は?」

「ちゃんと調べた」

「どうだった?」

「ここで言って良いのか?」

 マイは周りの忙しく働く整備員達を見回した後、再び目の前のユイの顔に視線を戻す。

 ユイの顔はマイの答えを待っていた。

「それでどうだったの?」

「姉貴の言った通り爆弾が三つあったよ」

「威力は?」

「どれもこの基地が一発で壊滅するくらいだな。後、言われた通りに細工しておいたぞ。これでいつでも起爆できる」

 そう言うとマイはポケットから起爆装置を取り出してユイに手渡した。

「指示通りにフォルセアの入力はキャンセルしておいたから、直ぐにばれるけどな」

「大丈夫よ。フォルセアはもうこの基地にいないみたいだから」

「ところで、今回の作戦は?」

「敵に切り込んで司令官を倒す」

「グレンリーダーだろ?」

「そうよ」

 今回の敵の中にグレンリーダーいるとは聞いていたが、ユイの言葉を聞くまでは半信半疑であった。ユイの言葉を聞きき存在を確信したマイの顔には笑顔が浮かんでいた。

「本格的な戦闘が始まるまでは待機よ」

「久々に血が騒ぐな」

 強敵グレンリーダーいると聞いただけで浮かれるマイは足取りも軽やかに自分の愛機であるマイ専用シンザン<イシュタル>の前に立ち、目を輝かせる。

「早く、戦闘が始まらねえかな」

 そんな、マイの浮かれる姿をユイは静かな眼で見つめていた。


















 

−アルサレア領内 サーリットン戦線第三基地−


 レイドの意識が戻るとまたあの天井が見えた。

(またか・・・・)

 レイドは頭痛のする頭を抱えながら起きあがり、ハッキリとしない頭を覚まそうと思い洗面所へと移動。

 その途中で痛む頭に手をやると右のこめかみの辺りに違和感があった。

 指に冷たい感じが伝わる。

(ん!・・何だこれは?)

 鏡の前に立ったレイドが違和感のあった、右のこめかみを見てみると丸い形をした金属の物体がそこに埋め込まれていた。

(おい・・・おいおい・・・なんだよこれは?)

 指で軽く突っつくと頭に振動が伝わる。

(まさか・・・改造手術までされるとは思わなかったな・・・何馬力だろな)

 レイドは以外にもこの事態に動揺していない自分に自分で驚いた。

(短い間に色々あったからな・・・)

 部屋のドアが開き誰かが入ってきた。

「レイド君、起きたかい?」

 レイドが洗面所から顔を静かに出すと白衣を着たヨズマが立っていた。

「調子はどうだ?」

「良いわけないだろ・・・こんな変なもの付けられたんだから」

 レイドは右のこめかみを指さしながら言った。

「それは、君とエルンをつなぐ重要なものなんだ」

「重要な物?」

「少し説明しよう。エルンにはパイロットの脳波を感じて言葉での指令よりも早く動く装置が積んであるのだがパイロットの脳波の送信に問題があってね・・・その問題というのは人間の脳を少々いじらなければならないのだよ。普通の人間では色々と問題があるからね。人間でありながら軍の所有物である君に協力してもらった。」

「人間でありながら軍の所有物ね・・・・」

「まあ、一応は人間の様に振る舞っていてくれていいがね。あと、この薬を飲んでもらえるかな?」

「何の薬だ?」

「毒の中和剤さ、これを定期的に呑まないと君は死ぬ」

 レイドはヨズマの差し出した薬を黙って受け取り水も飲まずに薬を飲んだ

「薬はコップ一杯の水と一緒に飲まないと駄目だよ」

「次からな」

「君は今後しばらくPF訓練所出たての兵士と同じ扱いでこの基地にいてもらう。それから毎朝、私の所に薬を受け取りに来てくれよ。君は金がかかっているのだから死んでもらっては困る」

 これからがレイドにとって苦難の日々の始まりであった。




















 

−サーリットン戦線 ヴァリム軍最前線本拠地−


『姉貴、戦闘はまだかな〜?』

「少しは落ち着きなさい、マイ」

 PF格納庫に納められている専用PFのコックピット内で彼女達は待機していた。

 暇をもてあましているマイがユイに頻繁に通信を入れてきている。

『姉貴〜、もう出撃しちまおうぜ、戦いたくて仕方がねえよ』

「後少しよ。待ちなさい。今でたら私達だけで敵の全勢力を相手にする事になるのよ」

『それも良いな〜、片っ端から倒してやれる』

「馬鹿な事言ってるんじゃないの。わざわざ可能性の低い作戦をする必要はないでしょ」

『でもよ〜』

「でも何?」

 ユイが何時もよりも言葉に研ぎ澄まされた刃物のような冷たさを込める。

『・・・もう良いよ』

 マイはふてくされて通信を切った。

(あの子も少しは落ち着いてくれれば良いのだけど・・・)

 しばらく静かに待っていると基地内に警戒警報が鳴り響いた。

『アルサレア軍の行動を感知。各員は作戦通りに行動されたし、陽動部隊展開開始。第三次防衛ラインの敵を作戦ポイントαに誘導』

 ユイは通信機のスイッチを入れマイに通信を入れる。

「マイ、お待たせ行動開始よ」

『ああ、いよいよだな』

「先に出るわよ」

 ユイはそう言うと彼女の専用シンザン<イナンナ>を格納庫から外へと移動させる。

 今回、彼女たち二人の機体の腰部分に追加ブースターと燃料パックが装着されていた。

 PFのブースターはジュネレーターのエネルギーを消費して使用している。

 この追加ブースターはPFのジュネレーターエネルギーを使わずに、一緒に装備されている燃料パックからエネルギー供給を受けているので、通常のブースターよりも滞空時間が大幅に伸ばせるのである。

 共通点はそれだけで武装は二人とも違うものを装備している。

 マイのイシュタルには手にVシールドとブーストサァイフ、肩にキャノンとツインスネイク。

 ユイのイナンナには手にヤミフブキ、肩に十文字大手裏剣と鞘に収められた両手持ちの大刀キクイチモンジ、グリュウ専用PFの武器になるはずであったカタナである。

『姉貴』

「なに」

『グレンリーダーは本当にいるのかな?』

「居るはずよ」

『なら良いんだけどな』

「ユイ・キサラギ、イナンナ出撃」

 ユイは大空に向かって機体を高く飛翔させ、続けてマイも同じように機体を飛ばす。

 二機の姿は直ぐに大空へと消えた。













 

−アルサレア陣営 後方−


 JキャノンやJブラスターで構成されている支援砲撃部隊。

 そのPFの数20機、部隊を率いているのはランブル=クリスティーン。

 Gエリアにおいてコバルト小隊に配属され勝利へと導いた功労者の一人である。

 彼はスタンドプレーばかりで軍隊内でもはみ出しものであったが、Gエリアの戦いが終結した後は牙も丸くなり周囲との協調性も取れてきていた。

『ランブル隊長、支援要請です』

『了解、全機に次ぐこれより支援砲撃を行う。前線の部隊は開始後退せよ』

 各機体に装備された長距離支援砲撃用のキャノンとバズーカが一斉に火を噴き、空に向かって弧を描き着弾点に激しい火花と砂埃を巻き起こす。


 それを遙か上空で見ていた双子の悪魔。

「なかなか良い砲撃ね」

『砲撃なんかつまらねえだろうにな』

「そうでもないわよ。非常に有効な手よ」

『あたいは好きになれないね』

「あの部隊を先に叩くわよ」

『グレンリーダーは?』

「後回し、行くわよ」

 ユイは地上の支援砲撃部隊に向かって急降下を開始した。

『おい待てよ。姉貴』

 マイが出遅れて急降下を開始。

 ユイの耳には風を切る音がユイの目には大きくなってゆく地面と敵機が感じられていた。

 途中でユイは右肩に付けられている十文字大手裏剣を3枚投擲。

 しかし、移動速度の遅い大手裏剣はユイの後を追う形で付いてくる。

 敵も当然気が付いたが上を向いた瞬間にユイが敵集団の中央に着地。

 あわてて着地したユイに照準を会わせようと思ったが・・・・

(甘いわね・・・)

 彼女の周囲の機体に先ほど彼女が投擲した大手裏剣が真上から突き刺さる。

 さらに敵討ちとばかりに射撃を開始する敵機体が多数。

 だが、ユイは瞬間転移で既にその場から消え部隊の端に転移している。

 もちろんユイに向かって撃った弾が目標を見失い向こう側にいた味方機にことごとく命中する。

(馬鹿ばっか・・)

 これはユイの読み通りだ。

 取り乱した敵機が同士討ちを開始する。

 突然の事で混乱しているのだろうが、冷静さに欠いた愚かしい行動にユイの目には映った。

『射撃を止めろ! 全機散開! 同士討ちを避けるんだ!』

 ランブルが味方機向かって指示を出すが混乱状態にある部隊に指示が行き渡らない。

 ユイがシンザンレッグでジャンプ。

 再び上空に飛び左手のヤミフブキで地上に群がる敵機に小型の手裏剣を打ち付けて行く。

 上空のユイに注意が向いたと同時に死角を付いてマイの機体が地上に降り立つ。

『ショータイムだぁ!!』

 ユイの耳にマイの声が聞こえてくる。

「マイ・・・静かに戦いなさい」

『喋ったって良いじゃねえか・・・』

 と二人は会話しつつも既に15機もの敵を撃破していた。

 周囲一帯にはPFの残骸が積まれて行く。

 マイは地上で鎌を振るいユイは空中からマイを援護する形で手裏剣の雨を降らす。

 アルサレアのPFは為すすべもなく次々と倒れていった。

 そんな中、ランブルが狙いすました。バズーカを空中のユイに向かって放つ。

 狙撃が得意であるランブルであったが、PFに装備していた武装が支援砲撃用の武装であったのが災いした。

 弾速が遅く弾の大きさも大きいので並のパイロットならば難なく相手に命中したであろうが相手があのユイである。

 ユイは正確な攻撃が下から来た事を感知すると機体をその場で縦方向に回転。

 あっさりと回避。

 たった今、攻撃をしてきたランブルに向かって攻撃を開始した。

 PFとて永遠に飛んでいられるわけではない。上空から滑空しながら、ランブル機にヤミフブキで攻撃する。

 ランブルはその針の穴を通すほどの正確な攻撃に回避に専念するしかなかった。

 しかし、回避に専念してもなお避けきれるものではなく機体の外装が次々に削られていくだけであった。

『姉貴、後はそいつだけだぜ』

「マイ、決めて頂戴」

 ユイの耳にマイの声が聞こえてきた。瞬く間にランブルを残し全てのPFがただの鉄屑と化していた。

 ランブルは回避に専念しながらも反撃の機会を狙う。

 先ほどまで攻撃を仕掛けていたユイの機体が姿を消す。

 瞬間転移だ。

 ランブルはこれをチャンスと見て機体をジャンプさせる。

 瞬間転移は出現位置を入力してマニュアルによって使う事も出来るが、戦闘中に使う場合はロックしていた敵の背後やその周囲に機体の姿を現すオートの方を普通は使う。戦闘中に入力している余裕がないからである。

 そのため冷静に見極めればむしろチャンスになることもある。

 なぜなら転移後は一瞬だが機体の動きが止まるからだ。

 ランブルは敵機を捕捉しやすくするために機体を上昇させたのだ。

 ユイの機体が現れる。

 ここまではランブルの読み通りである。

 ユイがレーダーに目をやるとランブルの機体が真上にいる事を示している。

 と同時にランブルの背後にマイの機体が転移。

『あたしの事を忘れんなよ』

 ユイにマイが敵機に向けていった言葉が聞こえてきた。

 そして、ランブル機の反応が消える。

 二人の舞い降りた悪魔により支援部隊はほんの数分で全滅。

 双子は再び次の獲物を求め大空へ飛んだ。















 

−アルサレア仮設通信施設−


 ここは最前線から少し離れた仮設施設。オペレーターの面々がいそいそと情報のやりとりに追われていた。

 その中にはかつてコバルト小隊に配属されていた、クラン=ネルモアとシュキ=オールティーの姿もあった。

「こちらオペレータールーム。ポイントCにおいて進行の遅れあり。E小隊は増援に向かわれたし」

「あああああああ! クラァ〜〜ン大変だよ!! ランブルさんの支援部隊が全滅した!!!」

 突然クランに向かってシュキが叫び声を上げた。

 しかも・・・PF各機への回線はONのままで・・・・

 すかさずクランが手元にあった消しゴムを振り向きもせずシュキに向けて投げつける。

「ぎゃうっ!」

 見事、額に直撃。

「シュキ10分間休憩!!」

 クランがシュキに言い渡す。

 十分間頭を冷やせと言う事だ。

「こちらオペレータールームのクランです。シュキに変わりL小隊のオペレーターを務めます。引き続きの健闘を祈ります」

 クランがシュキのフォローをするのは作戦が始まってからこれで7回目であった。

 シュキはがっくりと肩を落としオペレータールームを出て行った。


















 

−ヴァリム軍第二次防衛ライン付近−


 ヴァリムの基地を中心にもっと遠い第三次防衛ライン。

 それよりも一つ基地に近い第二次防衛ライン、現状ではもっとも両者の激突の激しい場所である。

 アルサレア軍は侵攻作戦予定時間よりも大幅に遅れていた。

 戦力差で圧倒的に劣るヴァリム軍が大量の罠を仕掛けていたのも要因の一つであるが、双子の悪魔によって支援砲撃部隊を尽く全滅させられてしまったのが一番大きい原因だ。

 そして、この激戦状態の戦場の中にグレンリーダー専用機のJフェニックスの姿が見て取れた。
 その脇にはオレンジが基調のアイリ機と青が基調のキース機が付き添って戦っていた。

 頻繁に転移を繰り返しあからさまに時間稼ぎが目当てのゼクルヴとアリのような大群のヌエに思いのほか手間取っていたのである。


 そんな中ユイとマイにグレンリーダーの正確な位置の情報が送られてきた。

 送られてきた位置の上空に到着した彼女たちはその戦域で戦っているヌエとゼクルヴに撤退を命じると、腰に装着された追加ブースターを外すと一気に急降下。

 狩りを開始した。



 グレンリーダー専用Jフェニックス<ブレイブ>、武装は、フォースソードにマシンガンといたってシンプルだが背中に装備されたウイングは秘密の機能が付いていた。

 ガードウイングと言い展開すると自動的に機体の周囲を飛び交いミサイルや弾丸からある程度護ってくれるのだ。

 いまやアルサレアの象徴とも言えるこのJフェニックスのコックピットに座っているのはグレンリーダーではなく、コバルトリーダーと呼ばれるノートン=ロウであった。

 アイリ専用機にはジータが、キース専用機にはオスコットがそれぞれ載っていた。

 彼らと交戦中であったヌエやゼクルヴが突然引き上げた。

『隊長・・・どう言う事ですかね?』

「・・・わからない・・だが油断は出来ないな」

 ジータの通信にノートンが答える。

 今までちょこまかと逃げながら戦っていたヌエとゼクルヴが一斉に引き上げる・・・こんな事は殆どあり得ない話だ。

『隊長さん、上空からこっちに急速接近してくる敵がいるよ。警戒しな』

 この中で一番レーダーレンジが優れているオスコットの機体に敵影が、双子の悪魔の影が映った。

「こっちでも確認した。機体識別・・・双子の悪魔か、ラビット1からスネーク1へ小鳥がかごに入りました。行動開始お願いします」

 ノートンが敬語でどこかに連絡を入れる。

『こちらスネーク1、了解した』

 アルサレアの伝説の英雄グレンリーダーだ。

 ノートンはグレンリーダーから今回の作戦で囮の大役を任されたのであった。

 しかし、ただの囮ではない。

 グレンリーダーの専用機に乗っての囮任務である。

 双子の悪魔が戦場に出ると予想したグレンリーダーは彼女達の行動を予測して裏をかいたわけだ。

『呑気に喋っている暇はないよ。隊長さぁん』

 オスコットのその言葉と同時に双子の悪魔、偽グレン小隊双方が動き出した。



 ユイの目に三機のPFが映る。

 どれもグレン小隊の機体だ。

 今回の作戦に限り再結成でもしたのだろうか・・・。

「マイ、脇を片づけるわよ」

『あいよ!』

 二機のシンザンが忽然と姿を消した。



 ノートンの視界から迫ってきた二機のシンザンが瞬間転移で消える。

 現れる場所はどこか・・・・全員が神経を研ぎ澄ませる。

 ・
 ・
 ・

 現れた。

 オスコット、ジータの背後だ。

 ジータは機体を素早く反転。

 アイリから借りた、格闘専用にセッティングされた機体の右手に付けられたスパークフックを背後に現れたマイの機体に放つ。

 マイは左手のVシールドを差し出し防御しようとする。

 通常ではタックル系兵器に分類されるスパークフックはシールドでは防御できない。

 だだし、それは正面から受けられないという事だけである。

 マイの機体はVシールドの表面にスパークフックを滑らせる様に受け流しつつジータの背後に回り込む。

 瞬間転移後の隙をついたはずのジータが逆にスパークフックを受け流された事により、大きな隙が生まれてしまった。

 ジータは背中に研ぎ澄まされた冷たい刃の様な殺気を感じた。

(ま・・・まずい)

 次の瞬間、ジータは脱出ポッドの中にいた。

(・・・・あとでアイリさんに殺されるな)

 ジータはアイリの言っていた言葉を思い出した。

“ジータ君!! 機体を壊したら八つ当たりしてやるからね”



 ユイの目には三機のPFが映っていたが瞬間転移を開始すると、モニターが一瞬暗くなり次の瞬間にはオスコット機の背中が見えていた。

 だが機体は直ぐには動かない。

 オスコットの機体が反転しサーマルプラズマライフルの銃口が目の前に迫る。

 だが、PFの空いている右手でオスコットがトリガーを引くよりも速く、左から右に銃口を払いつつ銃身を掴み取り、右手を引きながら右足を下げ左足を軸に回転させ、オスコット機のバランスを崩し、足をかけ地面に倒す。

「さようなら」

 その無防備な背中にヤミフブキを大量に撃ち込み止めを刺す。



 ノートンの耳にオスコットの叫びが聞こえてきた。

『なんなんだこいつら、Gエリアとはまるで動きが違うじゃねえか』

 ジータ、オスコットの機体の反応がほぼ同時に消える。

 ノートンがガードウイングを起動させるとユイ機に向かって機体を走らせた。



 ユイは見慣れない光景を目にした。

 Jフェニックスの両肩に装備されていたウイングが分解したかと思うと機体の周囲を回り始めたのだ。

 そのJフェニックスがこちらに向かってくる。

 初めて見る兵器を目の当たりにしてユイは慎重に行動を開始した。

 機体を後退さてJフェニックスとの距離を保ちつつ十文字大手裏剣を投げつける。

 その間マイは背中を向けた敵機に向かって肩のキャノンを発射。

 弾速の速いキャノンの弾がJフェニックスの後ろから直撃・・・のはずだが周囲に展開した板がキャノンの弾を防ぐ。

 続いて遅れ来た十文字大手裏剣も板によって阻まれた。

 逆にノートンのJフェニックスは手にしたサブマシンガンでユイに攻撃を仕掛けてくる。

 板が邪魔で接近戦は仕掛けられない。

 十文字大手裏剣もキャノンも防がれるとなれば。

「マイ、同時に仕掛けるわよ」

『了解、姉貴』

 板の迎撃可能数を上回る数の弾を撃ち込む。

 凄まじい射撃戦が添展開された。

 ユイもマイもありったけの射撃兵器を撃ち込む。

 ノートンのブレイブに搭載されたガードウイングがそれらを打ち落としていくが一度に迎撃できるのはせいぜい3〜4発。

 残りは機体を動かし巧みに避けて行く。

 ノートンはマシンガンで攻撃するがほとんど命中しない。

 両者共に機体へのダメージはなく弾数だけが減っていった。


(おかしい・・・何か変だわ。戦い方がグレンリーダーらしくない・・・・射撃重視のこの戦い方はまるで・・コバルトリーダー・・・それにこんな戦い方では・・・・)

『緊急事態発生、基地の周囲に奇襲部隊出現。全機防衛に当たれ』

 基地からの緊急事態を知らせる通信がユイの耳に入る。

(そう・・・時間稼ぎが目的だったのね)

 ユイはそう思ったら直ぐに行動に出る。

 機体を上昇させ長距離瞬間転移のシステムを起動させる。

「マイ、後は任せるわ。暴れるだけ暴れたらポイントWで落ち合いましょう」

『えっ? 何だって?』

 マイはサブマシンガンの攻撃を避けている真っ最中であった。

「後は任せると言ったのよ」

 そう言うとユイは長距離瞬間転移を開始。

 モニターに映る外の景色が消え真っ暗になった。

『おい! ちょっと待てよ。あ・・・』

 マイからの通信が途中で途絶え、モニターが再び外の景色を移すと足元には攻撃を受けている基地が見えた。


 ユイは基地へと降下しながら通信を入れる。

「こちら、ユイ=キサラギ。ドゥルガーの準備をしておいて」

『ユイ中尉、中尉の命令でドゥルガーは後方の基地に移送しました』

「・・・・そうだったわね」

 ユイはそんな命令を出した覚えはないが、この状況でそんな事を言っても仕方がない。

(フォルセアか・・今頃データの解析に大忙しと言ったところかしらね)

 敵の侵攻はまだ基地まで到達していない。

 だが、あのグレンリーダーがいるのなら1分も掛からずに到着する事だろう。と言うのがユイの考えであった。

 何か手を打つなら今しかない。

 そう思ったユイはPF格納庫へと移動し外部スピーカーのスイッチを入れる。

 格納庫の中では機密データの処分の準備や予備のPFの準備で整備員達が忙しく動き回っていた。

“リック整備班長”

 格納庫内にユイの声が響き渡り慌ただしかった整備員達が一瞬静かになる。

 奥で作業をしていたリックは直ぐにユイのイナンナの足元まで駆け寄ってきた。

『なんですか、ユイ中尉』

 油まみれのリックが無線で話し掛けてきた。

「ドゥルガーを移送させたそうね」

『はい、中尉の名前で命令が来ましたので、何か不都合が?』

「いえ、確認したかっただけよ。予備のドゥルガー専用レーザーライフルはある?」

『ありますよ。全て移す時間はありませんでしたからね。どうするのですか?』

「このシンザンで使うのよ」

『無茶ですよ。出力が足りません!』

「あなたは黙って命令を聞けば良いのよ。早く用意しなさい」

『・・・わかりました。でも、無茶しないで下さいね』

 リックが整備員を集めて仕事に取りかかる。

 その間、ユイはイナンナを格納庫の端に寄せ装備していた武装を外し下に置いた。

(基地の爆破は知らせておいた方が良いかしらね・・・・でも、知らせない方がアルサレアの兵力も沢山巻き込めるけど・・・・・・私がこんな事で考えるようになるとはね)


 コックピットの隅に置いてある不知火に目を移す。

(大尉・・・・・あなたならどうします?)

 だが、不知火は当然答えることはない。

(・・・大尉なら悩みもしないか・・・)

 ユイは通信機のスイッチを入れると司令室に繋いだ。

「ユイ=キサラギより、司令室へ」

『こちら司令室どうぞ』

「私の個人の情報筋より、この基地に爆弾は仕掛けてある事が判明。基地指令に直接繋いで頂きたい」

『りょ・・・・了解しました。今、お繋ぎいたします』

「よろしく」

 しばらく待っていると通信が入ってきた。

『爆弾が仕掛けられているそうだね。ユイ中尉』

「そうです」

『どのくらいの規模なんだ?』

「一つでこの基地が壊滅する程の爆弾が三つです」

『解除は?』

「不可能です」

『神佐が仕掛けたのか・・・わかった基地の全員を退避させる。猶予はどれくらいある?』

「1時間ですね」

『ありがとう。ユイ中尉』

 数分後、基地全域に渡って撤退命令が下され、基地にいた人々はあわてて輸送機に乗り込み滑走路から飛び立って行く。

 ユイはコックピット内でリック達が作業を終えるのを待っていた。



 一方、戦場に置いてきぼりをされたマイは・・・・

「何なんだ! あの板はむかつくな!!!!」

 怒っていた。

 マイが接近戦を挑もうと近づけば板がマイの機体に襲いかかりキャノンを撃てば防がれる。

「キャノンも弾が切れちまったじゃねーかよ」

 マイは一人叫びマシンガンを避けながらツインスネイクを撃つ。

 ツインスネイクは兵器破壊を目的として作られた兵器でPF本体へのダメージは少なく兵器も一部の兵器にしか100%の威力を発揮しない兵器である。

 案の定、ツインスネイクも尽く迎撃されていったが気が付くと板の枚数が少なくなっていた。

(お・・・兵器破壊に弱いのか・・・)

 マイはここぞとばかりにツインスネイクを撃ちまくる。

 そしてツインスネイクの弾が底を突くとほぼ同時にガードウイングが全て壊れてしまった。

「こっからが本番だぜー!」

 マイは機体を走らせノートンが乗るブレイブに向かう。

 ノートンは弾が切れたマシンガンを投げ捨てカタールで正面から迎え撃つ。

 マイの乗るイシュタルのブーストサァイフとノートンの乗るブレイブのカタールが激しくぶつかり合う。

 両者の武器が火花を散らし、刃を削り合う。

 マイ、ノートンの二人の機体には未だに致命傷はなく、接近戦においてもお互いにある時は避けある時は受け、お互いにダメージを与えられないまま相手の様子を窺いながらの攻防を続けていた。

 そんな中、マイが行動に出た。

 ブースターの噴射と地面に接触させた鎌で砂柱を上げながら機体を後退させJフェニックスとの距離を取る。



 ノートンからは大量に巻き上げられた砂でマイのイシュタルが見えなくなっていた。

(どこだ?)

 ノートンは視認に頼るのを止めレーダーでマイの動きを追う。

 レーダーからマイの機体が消えたかと思うと周囲の砂も落ち着き少し視界が晴れて来る。

(仕掛けてくる)

 一瞬の静寂が訪れ、ノートンが緊張する。

 モニターの隅に影が映った。

「そこだぁー!」

 機体を一歩踏みだしカタールで渾身の突きを繰り出す。

 ブレイブのカタールが硬い金属を貫く。

 ノートンは確かな手応えを感じていた。

 だがよく見ると貫いたのはイシュタルの装備していたVシールドのみ。

 視界が悪いのと人間が目視に頼りがちなのを利用して盾を囮にしたのだ。

 レーダーに目を移すとマイのシンザンの反応がノートンの真上に見えた。



 砂埃を巻き起こし視界を奪う。

 続いて瞬間転移で背後に現れ盾だけ残し再び転移し相手の真上に、マイはこれだけの事をとっさに思いつき見事に実現させた。

 真下には動きの止まったJフェニックスがいる。

「もらったぁ――!」

 イシュタルのブーストサァイフが振り下ろされ、カタールを手にしていたブレイブの右手首から先が切り落とされる。

「ちぃ、しくじったか」

 マイは一撃で決めるつもりであったがノートンが直ぐに機体を後退させたのでしとめ損ねたのである。

 しかし、マイもVシールドを失ったが相手もカタールを失いJフェニックスに武器は残っていない。

 マイは勝利を確信しながら追撃を開始した。

 マイがブーストサァイフを連続で繰り出すがノートンのそれを紙一重で避けていく。

「いい加減にしやがれ!」

 マイはイシュタルの開いている左手でパンチを繰りだす。

 今までブーストサァイフで続けて攻撃を仕掛けていたので不意を突いた素手による攻撃がブレイブのヘッドフレームに直撃する。

 ヘッドフレームがひしゃげて大きく後ろに仰け反るJフェニックス。

 そこにマイが真上から鎌を振り下ろす。

 だが、ノートンはまだ終わらなかった。

 手首を切断された右腕で鎌の刃を強引に止める。

 鎌の勢いは右肩の付近まで手を切り裂いて止まった。

 マイが鎌を抜くよりも速くズタボロの右腕と左腕で鎌を抱え込みその場で機体を回転させる。

 Jフェニックスの回転に巻き込まれたマイはブーストサァイフを引っ張られ地面に倒れ伏した。
 途中でブーストサァイフを手放したからそれだけですんだのだ。

「面白いじゃねえか」

 マイがイシュタルを起きあがらせる間にノートンは距離を取り、ジータの乗っていたアイリ専用機に積まれたノーマルサックを拾い左手に装備する。

 マイも機体を立たせてブーストサァイフを拾い上げる。

 両者が睨み合い動きを止める。



















 

−サーリットン戦線 ヴァリム軍最前線本拠地−


『中尉、準備が出来ました。』

「了解」

 ユイは準備の出来たドゥルガー専用レーザーライフルをイナンナに装着する。

『中尉あれも一緒に装備して下さい』

 リックに言われた通り背中に弾数補充パックらしきものを装備する。

「これは何なの?」

『弾数補充パックに弾薬の代わりに小型のジュネレーターを積んでみたんです。シンザンの出力不足を補ってくれるはずです』

「急ごしらえで良く作れたわね」

『中尉に言いそびれていましたが前から考えていたんですよ』

「あなた達も早く避難しなさい」

 ユイはリックの仕事ぶりに改めて感心させられた。


 機体を格納庫から外に移動させ敵部隊が侵攻してきた北東に機体を向ける。

 機体のレーダーには敵影が映ってはいないが足止めをしている部隊が交戦中の様子はモニターで小さいながらも確認できた。

(さてと、一掃するには・・・)

 ユイは地形データを素早くチェックする。

 斜線軸上に障害物を無い事を確認すると味方機に通信を入れる。

「ユイ=キサラギより、ヴァリム基地防衛部隊へこれより大出力レーザーによる掃射を開始します。各機の判断で回避して下さい」

 これでレーザーに巻き込まれるようならヴァリムの兵として生きていても役に立たない、遅かれ早かれ戦場にいれば死ぬ運命である。

 そう判断したユイは最大出力に設定し何の迷いもなくトリガーを引いた。

 赤い閃光が戦場を駆け抜ける。

 最初に直進し、次に薙ぎ払われ次々と命を飲み込んでいった。

 ユイの通信を聞いて上空に逃げなかった味方機は何機か落ち、アルサレアの奇襲部隊はグレンリーダーを除きその大半が落ちた事であろう。

 ユイの予想は当たっていた。

 アルサレアの奇襲部隊は9割が全滅、部隊の立て直しを余儀なくされていた。

(これで時間が稼げるわね)

 ところがユイの機体もオーバーヒートにより動かなくなっていた。

 リックの言った通りジュネレーターが持たなかったのだ。

 しかし、爆発しないだけまだましではあった。


 動かなくなったシンザンのコックピットからユイが荷物と刀を持って出てくると、向こうから一台の車が走ってきた。

 乗っているのはリックとその犬だ。

「中尉、早く乗って下さい」

 下から声を掛けてくるリック。

 ユイは無言のまま下に降りると車の近くまで歩いて行き声を掛ける。

「何で退避してないの?」

「中尉にプレゼントがあるんですよ。早く乗って下さい」

 ユイが車に乗るとリックはPF格納庫に向けて車を走らせながら答える。

 リックの犬、マイケルが後部座席で尻尾振ってユイの事を見ている。

 それに気が付いたユイが頭を撫でてやると車のワイパーの如く尻尾をいっそう早く振り喜ぶのであった。

「中尉はまたPFに乗って時間稼ぐつもりでしょ」

 リックが唐突に質問して来た。

「まあ、そうね」

 ユイは別に時間を稼ぐつもりはなかったがアルサレアのPFを基地まで誘導してから基地を爆破するためにPFにはもう一度乗るつもりであった。

 と言っても格納庫に残っているPFはヌエぐらいなものであろう。

「そう思って、中尉の為にPFを用意しているんですよ」

 ちょうど車が格納庫の入り口に到着した。

 色に統一性のないカラフルなPFが一機用意されていた。

「リック班長。用意できましたよ」

「ご苦労。みんなすまないな」

「なに、ユイ中尉のためですよ」

 ユイはカラフルなPFを見上げていた。

「どうです中尉」

 上を見上げていたユイがリックの方を向き答える。

「派手なPFね」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「そうですね・・・でも性能は良いですよ」

 ユイが派手と言うのも仕方がない。

 パーツを組み合わせただけなので色までは塗り替えられていないからである。

 ヘッドはオニ、メインは捕獲したPFのパーツなのかJメガバスター、アームはどこから持ってきたのかスサノオ、レッグはシンザンであった。

 しかも、各パーツは原色のままなのでとてもカラフルな一品に仕上がっていた。

「スサノオなんてどこから持ってきたの?」

「以前に中尉が研究用として取り寄せたのが昨日やっと着いたんです。研究の前に実戦に使う事になってしまいましたけどね」

「使わせてもらうわ。あなた達、早く避難しなさいね」

「了解です。中尉、どうかご無事で」

 ユイは昇降機に乗りコックピットに上がっていき乗り込む。

「システムオールグリーン。弾薬、武装確認、キクイチモンジ、MLRS、ハイドロブラスト・・・・全て問題なし」

『中尉、言い忘れてましたが機体名はフォーチュンです』

「たいそうな名前ね」

『後方基地でお待ちしています』

 ユイはフォーチュンに乗って戦場へと再び向かっていった。

 基地を出て素早く先ほどレーザーで掃射した辺りへ向かうと、ユイの予想通りの戦果があったようだ。

 アルサレアのPFの残骸が山のように積み重なっていた。

 何人か人が動いているのが見えたがどうやらここには動いているPFは無いようだ。

 グレンリーダーとおぼしき機体の姿もない。

 どうやらいったん後退して部隊の立て直しを図っているのだろう。

(・・・・味方機はほとんど引き上げたようね。マイはどうしたかしら)







 その頃マイはコバルトリーダーことノートンとの睨み合いを続けていた。

 ノートンの乗るJフェニックス、ブレイブは右腕が完全に壊れ武装がスパークフックのみに対し、マイのシンザンは武装がブーストサァイフのみとは言え殆ど無傷であった

 風が吹き、砂が舞う中二機のPFが睨み合う。

 風が止んだ。

 それを合図に二機のPFが同時に動く。

「行くぜ!」

 マイが叫ぶ。

 瞬く間に距離がつまりスパークフックとブーストサァイフが交差する。

 マイのイシュタルの鎌がJフェニックスのヘッドフレームをメインフレームから刈り取り吹き飛ばした。

(よし、決まった)

 マイがそう思ったのもつかの間、シンザンのメインフレームに衝撃が走る。

 スパークフックだ。

 イシュタルは後方に大きく吹っ飛ばされJフェニックスはその場に膝を着き脱出ポッドを射出する。

「あぶねえ、あぶねえ・・・もう少しでやられるところだったぜ」

 イシュタルを起きあがらせ機体のダメージを確認するマイ。

「姉貴は大丈夫かな・・・」

 その時、基地の方角で火柱と閃光が上がるのがマイの目に映った。







 ほんの少し前、ユイはフォーチュンでアルサレアの残存兵力結集ポイントに突入した。

(敵部隊確認・・・数は30機・・・)

 シンザンレッグに力を込め跳躍し密集しているアルサレアのPFの上空に到達すると、両肩に装備されているMLRSを連射しながら撃ち出されたミサイルと共に一気に急降下。

 よもやヴァリムの攻撃はもうないだろうと考えていたアルサレア兵達は突然の敵機の来襲に度肝を抜かれた。

 だが、彼らとて今まで戦闘を生き残っている猛者である、直ぐに上空のユイの機体向かって射撃を開始する。

 しかし、WCSの性質上ミサイル迎撃機能が付いていると優先的にミサイルをロックしてしまうので、MLRSを撃ちながら下降してくるフォーチュンに殆どの機体が狙いを絞れないでいた。

 そうこうしているうちに撃ち漏らしたミサイルと共にユイが地上に降り立つ直ぐにユイはブーストを全開。PFの合間をぬいながら大刀キクイチモンジで横を通りすぎざまに斬りつけながら駆け抜けて行く。

 混戦状態で味方への誤射を恐れ攻撃できないでいる機体を次々と一刀のもとに倒していく。

(これくらいで良いわね)

 10機程倒した後、再び上空に逃げ敵機を誘い出すように機体をわざと攻撃させやすいようにゆっくり動かしながらたまにMLRSを撃ち返し徐々に基地の方へと導いていく。








 この間グレンリーダーはどうしていたかと言うと、自分の直接指揮していた奇襲部隊がほぼ壊滅状態になり、傷心の身で全体の戦況を確認するために仮設オペレータールームのある後方へ移動中であった。

 彼がそこに着いた時、オペレータールームはてんやわんやの大忙しであった。

 赤い髪の少女はあたふたとあわてて錯乱状態。

 グレンリーダーは冷静そうな緑色の髪のメガネを掛けたクランに声を掛けた。

「何があったんだ?」

「閣下・・・敵の基地で大規模な爆発がありました。その爆発に30機のPFが巻き込まれました」
「そうか・・・」

 グレンリーダーは唇を噛み締め自分の無力さを嫌という程感じていた。



















 

−双子の悪魔合流ポイントW−


 マイはイシュタルのコックピット内で一人、ユイを待っていたが基地の方角から爆発があってから10分。何のユイからは何の連絡もなかった。

(遅いな姉貴・・・まあ、姉貴に限って万が一ってのはないからな・・・ん、レーダーに反応)

 イシュタルのレーダーにPFの影が一機映ったが識別信号は出ていない。

 現在イシュタルは下半身を砂に埋め砂丘の陰に隠れ停止している状態である。

『マイ・・いるんでしょ』

 通信機からユイの声が聞こえてくる。

「姉貴、遅いぞ・・・遅刻だ遅刻」

『あなたの報告以上の爆薬が仕掛けてあって危うく巻き込まれるところだったわ・・・手を抜いたわね』

「あ・・・・それはだな・・・まあ・・その・・なんだろな・・」

『まあ、良いわ』

 ユイの機体がイシュタルの目の前に降りてくる。

「姉貴、その機体はどうしたんだ?」

『これ? 整備員達からの私へのプレゼントみたいよ』

「へぇ〜、良いな。そのアームフレームだけでも欲しいもんだな」

 マイはユイのフォーチュンに組み込まれているスサノオのアームフレームを羨ましそうに眺めていた。

 スサノオはGエリアにおいてベリウムが独自に開発していたPFなので、非常に数が少なく性能も良いためかなり貴重なパーツで殆ど出回っていないのだ。

 と言っても近々スサノオの量産化計画も立ち上がるらしいので、もう少ししたら少しは出回る事だろう。

『さっさと後方の基地に引き上げるわよ』

「わかったよ。今、機体を起動させるから待ってくれ」



















 

−アルサレア領内 サーリットン戦線後方第三基地−


 最前線での激戦をよそにこの基地は平穏その物であった。

 レイドは基地内の移動の自由を与えてもらい、何をするわけでもないが基地の中をうろちょろしている内に既に日は沈みかけていた。

 明日からはレイドは他のパイロット見習いと共にPFの実習訓練を受けさせられるらしい。

 エルンに任せればPFを動かす事が出来るが、エルンが故障した場合などに備えて訓練を受けさせられるというわけだ。

 しかしレイド自身気は進まなかった。

 だが、レイドの意志に関係なく訓練は強制的に受けさせられる。

 これからも山ほど無理矢理に何でもやらされるのだろうと考えてレイドは途方に暮れていた。

 アルサレアの軍服を支給され、銃も一緒に支給されていた。

 銃の扱い方ぐらいは心得ている。

 死ぬ事はいつでも出来るという事だ・・・だが彼にその勇気はない。

 3回ほど銃に手をかけたが3回とも思いとどまった。

(結局・・・奴らの言う通りにして生きるしかないか)

 そう結論付け納得した。


 レイドは気が付くとPF格納庫の中にいた。

 赤いJフェニックス、エルンの積まれているJフェニックスの前に立っていた。

(エルン)

『何でしょうかレイド様』

 彼が頭の中で呼び掛けるとエルンが返事を返してきた。

 この声は彼にしか聞こえていない。

 耳の奥に埋め込まれた装置が鼓膜を振動させ声を届けているのだ。

 また、レイドは頭の中でエルンに呼び掛けるだけで指示出す事が出来る。

 こめかみに埋め込まれた得体の知れない装置のおかげだ。

(よりによって何でパイロットが俺なんだ?)

『・・・・それはあなたが最初に乗り込み登録したからです』

(俺以外の人間に何故操縦させない?)

『あなたに、パイロット固定を命じられたからです。この質問は今日だけでも4回目です』

(そうだったな)

『なお、質問される前に答えておきますが搭乗者の解除は私の生みの親である博士だけが可能です』

(・・・わかってるよ。質問は四回目だからな)

『他にご質問はありますか?』

(ないよ)

『現在の時刻は23時34分・・・もうお休みになられた方がよろしいと思います』

(・・・ああそうするよ。まさか、お前にそんな事を言われるとはな)

 レイドは自室に戻り眠りについた。

 いつか解放される日を夢見ながら・・・・









 



 −解説−


・マイケル
 犬、性別は雄。ただの何の特徴もない普通の犬。ユイには非常食扱いにされていた


・ミオ=ポーティミング
 見習いパイロット兼オペレーター。髪は金髪、長さはロングで後ろで一つに束ねている。笑顔がウリでレイドが一目惚れした女性。


・チャップ=モンデル
 基地指令兼悪役のおじさん。典型的な悪人だが人相はけっして悪くない、エルンを使って良からぬ事を企んでいるとかいないとか・・・


・イシュタルとイナンナ
 それぞれ双子の悪魔の専用機。武装はゲーム中と殆ど変わってません。


・キクイチモンジ
 両手持ちのPF用カタナ。グリュウのオニに搭載予定だったもののグリュウがいなくなってしまったのでユイが現在では使用している。特注品なので一本しかない。


・フォーチュン
 イナンナの代わりの新しいユイ専用機。瞬間転移は不可能なものの全体的の高スペックなので問題はない。リック中心としたユイのファンである整備員達が短時間で作り上げた機体。


・レイドが頭に埋め込まれた装置
 エルンに脳波を送り指示を出すための装置。これによりエルンとの直接の会話も可能となり機体の遠隔操作も出来る事となる。ただし送受信範囲は狭い。
 ご都合主義の固まりの装置とも言う。


・追加ジュネレーターパック
 弾数補充パックをリックが改良し小型のジュネレーターを搭載これにより、出力不足を補う事が出来る優れもの。これもご都合主義の産物です。


・ハロルド=エイカー
 ミラムーンのPF研究所の所員で年齢34歳。次世代型人工知能エルンの開発者。ヴァリム軍に拉致される。レイドの不幸の原因を作った男。


・ガードウイング
 作動させると機体の周りを回って射撃兵器から護ってくれる便利なウイング。使い方によっては敵を攻撃する事も出来る。なぜなら近づくものにはウイングが手当たり次第に体当たりをするからです。ご都合主義の産物。


・ノートン=ロウ
 コバルトリーダーの本作品における名前。





 −後書き−

 バーニィです。ようやく続きが書けましたが・・・レイド主役なのに出番少ない上に人権も奪われるし、展開が強引だし、反省点多すぎです。私の文章力と表現力の限界ですね。
 次回はレイドのPF操縦特訓編です。

 


 管理人より

 バーニィさんよりご投稿いただきました!

 ……しかし、前回とは打って変わってダーク系の不幸になっちゃいましたね。

 さて、これからどうなっていくのか、見物です。

 


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