モルモット小隊番外編

第??話 「Dead or Alive 〜“all is vanity” but I don't think so〜」


第九幕







 

「俺は犬死が一番嫌いなのでな……逃げさせてもらう」

 二機の敵機が居つくのを見たノートンは、機体に激しく鞭を打った。
 それに応えたJアインは最後の力を振り絞り、足を引きずりながらもブースターの推進力で強引に突貫。

「その前に、借りを返させてもらおうか!」

 赤いPF――ホムラの煉獄――との距離がぐんぐん近くなる。両機の間に影が割り込んできた茶色のPF――カコウの玄冥――だ。

(またこいつか……まぁいい、むしろ――)

 割り込んできた敵機を睨み、PFへパイルバンカーを使った攻撃を命じるトリガーに指を掛け、

(――二機が縦に並んでもらった方が、都合が良い)

 引いた。
 Jアインが目の前に迫った敵機に対し、パイルバンカーを突き出す。
 パイルバンカーの爪が茶色いPFの大型の盾に食いついた。森の中での戦いで何度か杭を打ち込んだ箇所とほぼ同じだ。続いて杭が自動的に打ち出される。

(貫通したか、このまま一気に厄介なこいつが二度と戦場に出られないように……だが――)

 杭から伝わってきた衝撃がコックピットを揺らす。
 ノートンはPFの揺れ具合から杭がシールドを破った事を知ると、そのまま追撃して一気に撃破したい気持ちが芽生えたが抑え、

(――危険だな、こいつ一機の撃破で、アルサレアパイロット数人分の命は散らずに済むだろうが……今は撤退する事が先決だ。他の奴が死のうが生きようが知った事ではないが――)

 強制排除システムを作動、パイルバンカーを含めた全ての兵器、腕部脚部の外装を排除した。

(――自分が死ぬのはごめんだからな……上手くいってくれよ!!)


 

 煉獄に猛然と突撃するJアイン。
 カコウはその間に自らの機体を踊り込ませ、ホムラを護るために玄武の盾――新素材を使用して作られた大型のシールド、その強度は次世代PFの装甲以上――を構えた。

(私にとってホムラは命よりも大切な存在……だから護る!)

 現存するPF用シールドの中で最高度の強度を誇る玄武の盾であるが、近接兵器の中で最強を誇るパイルバンカーの攻撃力は侮りがたく、すでに森の中の戦いで何度か杭を打ち込まれたため、あと一撃でも打ち込まれれば抵抗もなく穿たれてしまう箇所が存在していた。
 カコウはそれを知っていた。そして、敵のパイロットもそれ気が付いている事、それを見逃す事のないパイロットである事を知っていた。
 杭に盾を貫かれたならばそのままコックピット付近も貫かれる。パイルバンカーはそう言う兵器なのだ。

――PFの破壊を主目的とした他の兵器と違い、あくまでもPFの装甲の向こうに潜む敵、向こう側の人を殺す事を目的に兵器。激化する戦争の中で、人の箍が外れ、敵を殺害する事が殺人と繋がらなくなり効率的な殺人を目指す兵器。戦場では極当たり前だがそれ以外の場所では非日常的な、修羅場を知らないものにとっては想像もつかない、殺人。パイルバンカーなどがPFに使用される際もっとも恐ろしいのは使う側が必ずしもそれを意識していない事にある……もっとも、平和を願った故グレン・クラウゼンが中心となって作られたPFは、それを意図して作られた物と言えなくもない、それと意識させないためにである……できれば信じたいものだ。彼の後に立った人間が悪いように使っているのだと、彼は真の平和を目指したのだと……彼の理想とした世界とは、どんな世界であったのだろうか?――

 基本的に半自動で動いているPFは、シールドに杭が当たれば衝撃により動きが一時的に止まる。
 杭が盾を貫けば動けぬPFはそのまま杭をまともに受けてしまう。
 パイルバンカーの威力はPFを貫通するほど強力だ。シールド越しだとしても、貫通とまではいかないがコックピットを潰すには十分である。
 コックピットが潰れれば当然中のパイロットは……

(私の命は拾ってもらった物だから、拾った人のために使うの)

 脱出ポッドの射出は射撃戦時に正常に作動するように最適な設定がなされており、近接戦闘時はどうしても反応が遅れしまう事が多い。いや、近接戦闘時では脱出ポッドなど当てに出来ない。
 脱出ポッドはあくまでも射撃戦時の安全を確保しているに過ぎないのだ。

――PFの安全性の追求は基本的に射撃戦を想定してなされている。なぜなら、グレン・クラウゼンの目指した、敵も味方もこれ以上誰も死なない兵器、を作るためにはどうしても射撃戦中心として作るしかなかった。近接戦闘時に安全性を追及すれば機体の装甲圧が増し、動きが重くなり、機体コストも上がる。ヴァリムのような資金に余裕のある超大国ならば問題はないが、資源が国の建国時から不足し、傭兵などと言う小規模な集団ならばまだしも、例え小国であっても国という大きな組織の主な収益を荷うには非常識極まりない戦争を大前提にした職業を選ばざるを得えなかったアルサレアは、資源などヴァリムに比べればないに等しい。機動性を確保したまま射撃戦時での安全性を確保するまではできたが、それ以上の事はアルサレアにはできなかった。技術的には可能でもそれを可能とする資金と物資がなかったのだ。PF開発の中心人物グレン・クラウゼンの専用機アルサレアGSに斬馬刀と言う近接戦専用兵器が装備されているのは射撃戦中心と位置付けられたPFの方針と矛盾しているようだが、そうではない。あの斬馬刀はあくまで飾りだ。敵を威嚇するための飾りなのである。アルサレアGSの特徴的なヘッドフレームと同様、その存在を敵にアピールするための道具なのだ。戦いはただ敵を倒すだけが目的ではない。敵の肉体を傷つけずに敵の心を挫くのが最善なのだ。PFはその物理的な影響力も高いが、敵に与える精神的な影響力の点も踏まえて作られていた。だが、それは開発当初、アルサレアのみがPFを持っていた時までの話だ。ヴァリムがヌエの開発に成功した以降はただの大量殺戮破壊兵器に成り下がった。未知の兵器ではなくなってしまったからだ。そして、パイロットの意識とPF搭載兵器は射撃戦主体から近接戦主体へと徐々に移行していくこととなる、より確実に敵の息の根を止めるために……――

 カコウにコックピットシートを通してシールドへの衝撃が伝わってきた。衝撃はまだ小さい、爪が当たっただけだ。本当の衝撃はこの後に来る。
 普段、カコウは感情を顔にまったく表さない。たとえ銃口を突きつけられたとしても彼女は眉一つ動かさないだろう。

(お願い……壊れないで)

 そのカコウがモニターを睨みつけ、不安と固い決意の入り混じった表情を浮かべた。
 生まれてはじめて自分の命が、今、この一刹那に、消えることを恐れた。
 二刹那、激しい金属音の後にモニターにシールドを突き抜け迫る杭が見える。
 三刹那、コックピット正面の装甲に杭が激突する。
 次の刹那には彼女の新鮮な柔らかい桃色の肉は、汁っけのある肉片となって杭の染みの一つとなることだろう。そうなるはずだった。
 四刹那、死を覚悟したカコウに、死は訪れなかった。鼓膜を震えさせる、けたたましい音と衝撃が伝わってきただけ、それは目に見えない波だけであり鉄塊ではなかった。
 五刹那、自らの命がまだ尽きていない事への疑問が頭に浮かんだ。しかし、それを考える間もなく別の衝撃が彼女を現実に引き戻した。それは真上から何かを叩きつけられる振動、機体へ致命的損傷を与えることのない、ちょうどPF同士がぶつかったかのような振動だった。

(……Jアインが私の機体を踏み越えた)

 彼女は振動からそれを察知した。

(機体……動く?)

 パイルバンカーのダメージにより機体が動かなくなっているかどうか、彼女が確認するよりも早く体が反応し機体を操作していた。
 右足を引き、半身になり、最小限の動きでPFの視点を前後反転。
 煉獄を跳び越した全武装の解除をしたJアインの後姿が見えた。
 ホムラの煉獄はJアインに向けて撃とうか撃つまいか迷っているように見える。
 カコウは迷わなかった。
 玄冥は未だに半身で、カコウのPFに設定されている挙動上、射撃を行うにはやや無理な体勢――PFは人間の形をもしているとはいえ所詮は機械。一つ一つの挙動は一定の順序と段階をクリアーしながらなされていく、人間のように拍子の間を埋める身体操作は不可能なのだ。もっとも、PFパイロットのパーソナルディスク、そのパイロット独自の動きを可能としPFに個性を持たせる事のできるディスクを書き換えれば、振り向くと同時に撃つ、振り向く動作と射撃体勢とる動作を同時に行う、と言う動作も可能となる。ただし、その動きは人の動きに似て非なるものにすぎない――ではあったが、敵機の背中に照準を付けバスターランチャーUのトリガーを引いた。


 

 強制排除のコマンドを受けつけたJアインは武装と一部装甲板を排除。BURMシステムが切り替わった。
 ノートンは敵を撃破したいと言う悔いを残しつつも、敵機のシールドを踏み越え、ヘッドフレームをを踏む台にし機体を跳躍させる。
 赤いPFの頭上を飛び越え、地に足が着く寸前に着地のショックをブーストにより緩和し、機体を居つかせることなく静かに降り立つ。

「こちら、ノートン・ロウ少尉。悪いが機体限界だ。撤退させてもらうぞ」

 無線を友軍交信チャンネルに合わせ叫び、森の中へと全速力で逃げ込む。
 機体を操るノートンの耳には機体が危険な状態であることを知らせる警告音が、鳴り響いている。オーバーヒートから立ち直ったばかりで急に負荷を掛けたため機体が悲痛の叫び声を上げているのだ。
 コックピット内には警告音だけでなく、通常ならば聞こえるはずのない金属同士が擦れる嫌な音、何かが焦げている様な臭い、どれも一つとっても危険を感じずにいられない不快な存在に埋め尽くされていた。

(よしっ、もう少しだ……後少しだけもってくれ)

 巨木の生い茂る森の中へと入ってしまえば敵の追撃はなくなる、木に遮られ射線が上手く取れなくなるからだ。
 その時ノートンは鳥肌が立つのを感じた。彼のすぐ脇をレーザーが走り、光の筋がこちらに近づいてきた。

(まさかっ!)

 レーザー兵器を装備していた敵は一機だけ、先ほど自分が踏み台にした茶色のPFのみ。
 その敵が攻撃してきたとはノートンは信じられなかった。あまりにも反応が早すぎるからだ。だが、レーザーは確実に近づきつつあった。
 頭では目の前の事実を受け入れられずとも、彼の体はその事実を受け入れ自然と回避運動を行っていた。
 もっとも、それは意思を欠いた行動であった。
 レーザーを回避できたものの思わぬ障害物が目の前に迫った、PFの胴回り程もある太い木だ。
前進とレーザーの回避に推力の全てを使い、もはや機体の方向を変える術はなかった。

(なんて事だ、俺とした事が……こんな初歩的なミスをするとはっ!)

 Jアインは吸い寄せられるように木に激突、幹に機体をめり込ませ機能を完全に停止した。







 

 シンザンの一群と交戦中であったコハク・ミカゲ。
 彼女は五機を相手にたったの独りで敵を翻弄し、かく乱し、圧倒し確実にその数を減らして行く。コハクの搭乗するレッドバード、その姿その動きは捉えどころのない風であった。
 一機目を左脇から、二機目を背中から深々とカタールを突き刺し、PFとパイロットの灯火を同時に吹き消し。
 三機目は仲間の残骸もろとも吹き飛ばし、今まさに四機目のシンザンを仕留めようとしていた。
 瞬間転移でシンザンが消えたのを確認すると機体を急上昇。敵が現れると同時にWCSの自動ロックオンシステムを作動させ、機体の向きを無理やり敵の方に向ける。と、同時に機体を急降下させPF胸部に収まっているコックピットブロックにカタールを真上から突き立てた。
 最後の一機となったシンザンが、アサシンファングをかざし無防備に正面から突撃してくる。
 今までは並のパイロット以上の動きを見せコハクとある程度まで渡り合っていたが、今の動きはぞんざいな物であった。仲間の敵討ち、と怒りに燃えているのだろう。気持ちは分からなくもないが、こんな軽率な突撃をするなど愚行でしかない。

(最後の最後に溺れるとは……哀れね)

 コハクは後方に機体を下げ、レッドバードの頭部に内蔵されているメガバスター放ち、パイロットにむじょうの死を与えた。

(片付いた……カレイドさんと、ロウ少尉は? 降下してきた部隊は?)

 五機のシンザンを全て片付け、状況を把握するために高度を下げながら周囲の索敵を行う。高度を下げるのはまだ狙撃があるかもしれないからだ。

(カレイドさんが向かってから狙撃はされなくなった、おそらく何かした……と思う。ロウ少尉は……)
『こちら、ノートン・ロウ少尉。悪いが機体限界だ。撤退させてもらうぞ』
(……無事か、たしかに撤退の頃合ね)

 ノートンの撤退を知らせる通信が聞こえてきた、どうやら無事なようだ。だが、仲間の把握だけをすれば良いと言うものではない。今回、彼女が請け負っている任務は補給物資の回収と降下部隊の護衛だ。
 補給物資の方はコンテナが二つ投下される予定であったが一つは間違いなく狙撃で破壊された。もう一つの方は投下される所を確認できてないのでわからない。
 肝心の降下部隊の方は、第一陣の内一機がノートンの援護に当たり、一機は狙撃され森の中へと墜落、もう一機は後を追って森の中へと身を隠した。
 第二陣の方は、降下を知らせる通信は聞こえたものの、同のようになっているかはまるで分からない。これらが彼女の現時点で把握している――PFで戦闘を行っているパイロットが味方の降下状況、戦況などをつぶさに把握する事など到底不可能。本来ならば後方に指揮車両や観測班などがおり、戦場を客観的な立場から観察し、把握し、洞察し、指示を出す。戦闘において効率よく作戦をこなすには指揮官の存在は不可欠なのだ。一個小隊辺りPF三機編成が基本であるが、内一人は距離を取り味方の援護射撃でもしながら状況を把握する必要がある。それこそが小隊長の役目なのだ。近接戦闘などを敵に挑んでしまえば他に気を配る余裕などなくなってしまう、近接戦闘を好む小隊長と言うのはアルサレアに数多い、たしかに敵を殲滅するだけなどの単純な作戦で特に指揮をする必要のない場合はそれでもいいのだが今回のような状況の把握を必須とする任務においては、愚考でしかない。これらは元々傭兵と言う最前線で戦い敵と正面から激突する戦闘経験のみが突出して数多いアルサレア軍特有の欠点である。そのためオペレーターなどのへの負担が非常に大きいのが特徴だ。だが、オペレーターは指揮官ではない、あくまでオペレーターでしかないのだ。アルサレアの指揮者には英雄になりたい者が数多い……だが、それは蛮勇の局地にある英雄でしかない。そして、口だけが達者なものも数多い。大局的を見極める人間は数少なく、一介の兵士の数だけがやたらと多い軍隊である――事だ。これらの少ない情報を基に次に何をするべきかコハクは考える。

(補給物資の回収は最後、降下部隊は? わからない。数は五機と聞いているけど、わかっているのは三機だけ、内一機は交戦中、内一機は中破から大破、どうする……どうする? 狙撃は、狙撃の心配がなければ……降下部隊を単独で基地に向かわせても問題はない、狙撃……おそらく、ない)

 PFの高度を下げ森の中へと一旦、身を隠すとコハクはこれ以上の狙撃がないと判断し、考えをまとめた。
 狙撃してきた敵の撃破を確認したわけでもなく、カレイドから通信が入ったわけでもないが、状況から推察し彼女はそう判断した。そう判断するしかなかった。狙撃を恐れてこれ以上この場に留まってもどうしようもないからだ。いま確実にできる事は大人しくこの場に留まり様子を見る事ではなく、何か行動を起こす事だ。

「エスコートから、降下部隊へ、コードレッド、全機基地へ移動を開始して下さい」

 コードレッド、危険を意味するその言葉。敵の攻撃に警戒しつつ行動を、と言う事、護衛不可能と自ら認めたという事だ。

『ルージュ小隊、各機警戒しつつ独自の判断で後退』

 コハクの耳、ルージュ小隊の隊長ラーナ・エルバラードの声が聞こえてきた。コハクの通信を聞いての部下への指示と言うわけだ。

(……ふぅ、実質上任務は失敗か、やはりその場しのぎのために数だけそろえた小隊ですものね……オペレーターさえ付けてもらえないし、噛み合わないのもしょうがないか、誰のせいでもなくこの国におけるアルサレア軍の現状が招いた失敗か……人員不足の影響は大きいわね)

 コハクはため息を一度吐くと森から機体を上昇させ戦場の動きを待った。





 

 降下してきた部隊、ルージュ小隊の現在の動きはこうだ。
 降下第一陣。
 ルージュ小隊隊長ラーナ・エルバラードは、ノートン機が撤退した後も煉獄と玄冥との小競り合い。
 複座型Jアームド機体名シーラビットに搭乗するウミ・ミツヅカ&ウヅキ・ウノハナの二人は、アルサレアの基地方面の小高い丘の上、林の中に潜んでいたヴァリム軍第04PF特殊化部隊所属フィーナ・ニェットの乗るスティングペグィンのPF用狙撃ライフル、カーロメニーナにより狙撃を受け、頭部左足損傷。そのまま森の中へと落ちて行き、単独で基地へ帰還するわけにも行かないのでラーナの指示通り待機している。
 アルサレア軍には珍しいイリア系パーツを中心とした女神降臨の武装形態をしたPFにのるエルシール・ミストリア・リシャールは、目の前でシーラビットが狙撃されているのを助けに行きたい気持ちを抑えながら見つめ、そのまま森の中へと身を隠し周囲の状況をその場を中心に警戒待機中だ。
 降下第二陣。
 最初に降下したオリビア・ホワイトは、エデン・ビサイズの乗ったポッドを脇に抱えた搭乗機Jメガバスターの機能を活かし、予め逃走用に入力しておいた座標によって瞬間転移、敵前逃亡を行った。もっとも、エデンと言う非戦闘員を乗せていたので、この場合は後々問題にはならないだろう。
 ガレフ・セキネ。彼女の搭乗機JファーカスタムSE――Special Edition:スペシャルエディション――は降下直後狙撃手フィーナの攻撃により、肩に装着されたモーターキャノンを破壊されたが、ガレフの素早い判断と行動により被害をそれだけにとどめた。その後、森の中へと機体を隠し状況を把握するために警戒待機を行っていた。


(……どうするか……状況を見極めつつ慎重に歩行で友軍機と合流、それが妥当かな……とりあえず基地方向にでも)

 ガレフ・セキネは降下直後、森の中に身を潜めたものの味方位置の把握をしていないことに気がつき、味方がいるであろうと思われる方向にPFを歩かせて進むことにする。
 遠くの方で何かが爆発する音が連続して聞こえてくる。彼女は敵と味方の激しい攻防を想像しながら、味方の援護に駆けつけたい気持ちを抑え、ゆっくりとPFの歩を進ませる。
 しばらく進むと、

『こちら、ノートン・ロウ少尉。悪いが機体限界だ。撤退させてもらうぞ』

 と言う降下物資回収、降下部隊護衛の任についていると思われる友軍の通信が聞こえてきた。

(味方が劣勢なの? 森から飛び出て私も戦闘を……でも、ラーナ隊長が戦闘中だし――)
『エスコートから、降下部隊へ、コードレッド、全機基地へ移動を開始して下さい』

 彼女が頭の中で今後の行動をどう変更するか考えていると、他の味方機の通信が聞こえてきた。おそらく、護衛部隊の隊長辺りだろう、各機警戒しつつ撤退せよとの事だ。

『ルージュ小隊、各機警戒しつつ独自の判断で後退』

 護衛部隊からと思われる通信に続き、聞きなれた彼女の所属する部隊の隊長であるラーナの声が聞こえてきた。

(――良かった、隊長は無事だったみたいね。後退するとなれば隊長の機体は速いから心配ない、援護の必要なんてないわね……となれば長居は無用か……独自の判断……このまま森の中を進んで逃げた方が良いかな、それとも森の上空に出て素早く撤退するか……二つに一つ)

 どちらを取るか考えているとモニターに映る木々の間に、見慣れたPFの姿が見えた。
 白地にピンクのストライプの入ったJアームド。ウミとウヅキの二人、シーラビットの機体だ。
 モニターの画像を拡大し、肩に付いている“海で泳いでいる兎”のエンブレムを確認、間違いなくシーラビットだと判断するとそちらの方に急いで機体を移動させた。
 近寄ると、シーラビットの頭部と左膝から下がなくなっていることがわかった。心配になった彼女は、

「こちらルージュ5、二人とも生きてる?」

 機体を近寄らせながら通信電波をシーラビットの方向に指向させ呼びかける。

『やっほぉ〜い、元気だよぉ〜♪』

 自力での行動不能となっているJアームドの見た目にまったくそぐわない、すっとんきょうな声で返事が返ってきた。
 入り口の開いているコックピットから、顔を出してイヤフォンマイクをつけたウヅキが両手を振っているのが見えた。

『いやぁ〜ビックリしちゃったよ、いきなりの狙撃だもんねぇ』
「そんな事よりも機体は動くの」
『機体? ウミちゃ〜ん。バランス調整終わったぁ 『あと少しで終わります』 あと少し掛かるみたい』
「聞こえたわ」

 ガレフは損傷したJアームドに近づき、外から損傷具合を改めて観察する。内蔵兵器以外の武装は、落下時に機体バランスを取り直すために手放したようで、装備されていない。

「頭部が損傷しているみたいだけど、大丈夫なの?」
『メインもサブも駄目になっちゃってるね。有視界でいくつもり。ウヅキが周囲を見てウミちゃんが操縦だね』

 その時、ガレフは森の中を歩くPFの足音を耳にした。
 周囲を見回しながらIFF――Identification Friend or Foe:敵味方識別装置――のスイッチを一度だけいれる、彼女の乗るJファーカスタムSEから四方に暗号化されたアルサレア軍を示すサインを乗せた電波が発せられた。味方機ならばなんらかの反応が返ってくるはずだ。敵機ならばこちらの場所を知らせた事になる。
 レーダーをアクティブモードに切り替えたいところであったが、敵だった場合こちらの位置情報を教えるだけなので彼女はそれを控え、PFの光学レンズのみを頼った周囲の策敵を行おうとした。しかし、策敵を行うまでもなくIFFの応答が返ってきた。味方機それもルージュ小隊の反応だ。
 巨木の影から女性型フレーム、Jヴァルキリー系フレーム――イリア系フレームのアルサレアでの呼び名。及び、アルサレアで製造されたイリア系フレームのパーツ。Jヴァルキリーはイリア、Jヴァルキリーカスタムはオードリーの事。性能はヴァリム製の物となんら変わりはない――で構成された細身の白いPF、アーリッシュであった。

『三人とも無事だったみたいね』

 エルシール・ミストリア・リシャールことエルは、安堵感に満ちた声で通信を入れてきた。

「エル、無事みたいね」
『えぇ。本当は単独で基地に帰還するつもりでしたけど、シーラビットの御二人が心配でしたので、敵も引き上げたみたいですしね。先ほど発光信号を上げていましたから』
「発光信号? ここからでは気がつきませんでしたけど……そう、戦闘は終わったんですね」

 ガレフがJファーカスタムSEに空を仰ぎ見させる、モニターには厚く重い灰色の雲とくるくると同じところを旋回する小さな赤い鳥が一羽映っていた。







 

 その男は息を潜めていた。爬虫類や魚類が身を潜め獲物を待ち、動きを止めている時の様に、静かに、不気味に、戦場全体を見渡せる丘に潜んでいた。
 先ほど遠方で撤退を知らせる発光信号が上がった。キョウインにはそれはカコウが上げた物だと容易に知る事が出来た。
 シンザンの一群は先ほどアルサレアの赤いPFに尽く撃墜されたのを眺めていた彼は知っている。フィーナは狙撃手だ発光信号を上げて自らの位置を明かすようなそんな馬鹿な事はしないし、スナイパー故にそう言うことすら考えつかないだろう。ホムラは自ら撤退の意思を表示できるような人間ではない、勝気が強すぎるからだ。となればカコウしか居ないわけだ――彼女は自分の事は何一つわからないが、他人の事は本人以上に感じ取る事ができ、周囲の現状を把握する力にも優れている。もっとも指揮官に向いていると言える――。

 発光信号が上がった後、最初にアルサレアの戦闘機と思われる機影が基地の方へと引き上げた。その後の動きはまだない。
 キョウインは手負いの獲物を待っていた。
 ホムラやカコウが敵部隊の攻撃に参加していたのだ、無傷な物など殆どいないだろう。それが彼の予想であった。
 撤退の意図を戦場全体に知らせる発光信号。
 それは敵味方の間での一時的な停戦の意味を有し、アルサレア、ヴァリム、ミラムーン間を始め、多くの国同士の争いの中で生まれてきた殆どの条約によって守られている。
 国の軍隊に所属するものはこれらの条約を守る義務が科せられている。もし、条約違反を行うような事があれば、その者はそれなりの刑を受け事となる。
 つまり、後退信号が上げられたこの状況下で攻撃を仕掛ける事は法を犯すこととなる。しかし、キョウインはそんな事は気にもかけていない。

(条約違反をやる奴はいねぇと考えている奴は腐るほどいる。こう言うタイミングで仕掛けるのが一番楽しいってのにねぇ。っま、その馬鹿共の先入観のおかげで俺は楽しめるんだけどな、かかっか……ぁぁ、たまんねぇ)

 彼は口から垂れていた涎を手の甲で拭う。
 キョウインの目に両脇を仲間に支えながら基地の方へ飛んでいくJアームドが映った。撤退信号を見て安心しきっているのか、何の警戒もしていないように見える。

「見つけた見つけた、見つけたぞぉ。あれだ、あれに決めた」

 嫌な音をたて舌なめずりをすると、GOKIBURIのようにこそこそと闇に潜み、尾行をはじめた。より確実に、獲物を狩るチャンスを待つために……








 

第十幕へ続く

 



〜あとがき〜
 総計15KBを越えるボツの嵐(一部掲示板で公開中〜♪【CM】)の果てに、やっとこさ完成……が、しかし!
 なんかさえない今回の話。長々と書いているうちに私の実力不足が露見してきましたねぇ、やばいぞ自分!(苦笑)
 2005/01/09 usagi.

 


 管理人より

 バーニィさんよりモルモット小隊番外編第九幕をご投稿頂きました!!

 いやはや、キョウインらしい行動で(爆)

 しかしノートン……大ピンチ?(汗)


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