モルモット小隊番外編

第??話 「Dead or Alive 〜“all is vanity” but I don't think so〜」


第八幕







 

「くらえっ!」

 ホムラは力強く、トリガーを引いた。
 ハンドヘルファイヤー――ヘルファイヤーを弾頭部に積んだミサイル、形状は大型のハンドMLRS程度――から放たれたミサイルが、Jアインに止めをさす邪魔をした大型の戦闘機の後を追う。
 カコウがバスターランチャーU――バスターランチャーの、照射時間、威力、エネルギー効率を改良したもの、ヴァリム軍の次期正式バスターランチャーの先行量産品――を放ち、戦闘機の進路を潰し回避行動に制限を掛ける。しかし、大型戦闘機はやすやすとミサイルを引き離し、進路を阻害するレーザーを軽々とかわしていった。
 速度が速く、対PFを重視されている兵器では攻撃が当たり辛いのだ。それも仕方がない事だった。
 PF開発当初ならともかく、現在では動きの鈍重な輸送機を攻撃する事はあっても、動きの速い戦闘機をPFで攻撃する事などなくなっている。さらにはPFの装甲が年々厚さをまして行くので、必然的に火器の火力も増してゆく。速度の速い対象を攻撃する機会が減り、装甲の厚いそこそこの速度を持つ対象を攻撃する機会が増える。それが、兵器全体の攻撃速度の低下を招いているのだ。

(まったく、当たりゃしねぇ……PF戦と基地攻略戦以外を意識してないのが裏目にでちまったな……っち、ガトリングが壊れてなきゃなんとなるんだがな)

 戦闘機の動き単調になったのを見て、ミサイルを放とうとしたが、敵機は射程圏外にでてしまった。だが、射程外へと出たのは一瞬だけで旋回を終えた戦闘機はすぐにこちらへと向かってきた。
 それも、低空で正面から一直線に。
 これを見たホムラは自分が馬鹿にされているように感じ思わず叫んだ。

「なめんじゃねぇぞ!」

 両肩の軽量型ヘルファイヤー――ヘルファイヤーの軽量小型版、対PFミサイルの弾頭に内蔵されている、H型対PFミサイルとも呼ばれる。HはヘルファイヤーのH――とハンドヘルファイヤーを発射。
 ホムラの煉獄の脇に立ったカコウの玄冥はバスターランチャーUを構え確実に当てられる時を待つ、戦闘機が煉獄の攻撃を避ける時を。




 

 赤い揺らめく炎のシルエットを持つPF。
 ラーナは機体停止したJアインへ攻撃を仕掛けようとしていたその機体に、戦闘機形態のアルファズル・フェニックスを急接近させ、赤いPFの反撃態勢が整う前に完璧な奇襲を仕掛けた。
 アルファズル・フェニックスの専用兵器、対艦プラズマキャノン――使い捨て兵器であったディスポーザブルサーマルプラズマライフルの改良品、大型化する事により威力を維持したまま耐久力の上昇に成功し、三発のみだった弾数が数百発まで増えている。また、弾速も飛躍的に上がっている。大きさはバスターランチャー程度――を撃ち込み、赤いPFの左腕を覆うように装備されていたインナーアームガトリングを破壊したのだ。
 赤いPFともう一機、茶色いPFの脇を通り過ぎ敵の様子を窺いつつ機体を旋回させる。
 敵の反撃は早かった。
 奇襲に動じる事もなく冷静に的確に反撃を行う、敵が優秀なパイロットである証拠だ。加えて、お互いに感覚的に位置を把握しあい阿吽の呼吸で隙を埋め合う動き、コンビとしても優秀な事を現していた。

(敵ながら、良い反応……厄介そう――)

 ラーナは気を引き締めた。
 PFを遥かに凌駕する速度で飛行し、戦闘機形態ではPFに及ばないまでも従来の戦闘機以上に不規則かつ多彩な動きが可能なアルファズル・フェニックス。
パイロットに掛かる重圧はPFも戦闘機も凌ぐ、地上でのPFパイロット規定では耐圧服の着用は個人の自由だが、アルファズル・フェニックスにおいては着用が必須となっている事がそれを如実に表している。
 彼女は体に掛かる重圧に耐えながら、冷静に敵の力量を推し量ろうとしていた。
 敵の強さによって、早期撤退か、撃破か、時間を引き延ばすのか、今後の行動が大きく変わるからだ。

(――撃破は無理ね――)

 彼女は先ほどの反撃の速さから、短時間での撃破は不可能と判断する。

(――敵の武装は?――)

 バスターランチャーUのレーザーをかわし、

(――バスターランチャーに――)

 ヘルファイヤーの弱装版とは言え、輸送機アルバトロスを一撃で落としかねない威力を秘めたミサイルを背面迎撃ミサイルで迎撃、

(――厄介な大型ミサイル……――)

 ミサイルが大規模な爆発を起こす。
 ラーナのアルファズル・フェニックスにダメージこそなかったが、爆風で気流が乱され大きく機体が揺らいだ。

(――っと、直撃したら、不味いわね……直撃しないでも有効範囲内の爆風に巻き込まれただけで終わりかねない――)

 攻撃を回避し敵の攻撃方法を見、力量をはかり終えると攻撃を仕掛けるために一度敵の射程外まで離脱し、正面から再接近するために旋回を開始。

『ルージュ4、オリビア・ホワイト降下開始!』

 ここでオリビアの、降下開始を告げる通信がラーナの耳に聞こえてきた。

(――もう少しね。足止めをすれば……時間にして一分と言ったところ?)

 旋回を終え、低空から二機の敵機へと再接近。
 墜落警告音が鳴り響くが、ラーナはそれを気にもせず低空のまま距離を縮める。

 ――壱秒――

 敵機からミサイルが放たれた。約時速700kmのミサイルと、約時速900kmのラーナ機の距離が急速に狭まる。
 彼女はミサイルの迎撃も回避もしない。代わりにオーギュメンター――【ugmenter】:推力増強装置の意、通常の推進剤に特殊な推進剤を加え、短時間ながらも通常推力の約50%の向上を可能とする装置――のスイッチを入れ、アルファズル・フェニックスを加速させる。
 周囲に巨人がその巨体に見合った大きさの太鼓を叩いたような音が響き渡る。
 アルファズル・フェニックスが空気の壁を突き破った音だ。

 ――壱と(よん)分の壱秒――

 低空で音速に達した事により、機体後方の地面が大きく抉れ激しく土砂を巻き上げる。
 加速を続けながらミサイルに接近するラーナ機、わずかな機体操作でミサイルへの直撃を避け、すれ違う。

 ――壱と(よん)分の弐秒――

 ここで、ミサイルの近接信管が作動し……なかった。
 アルファズル・フェニックスの横を通り過ぎ、機体の発生させる衝撃破に巻き込まれあらぬ方向に飛んで行き、

 ――壱と(よん)分の参秒――

 爆発した。
 敵機の放ったミサイルはPFの速度を想定し設定されている近接信管を搭載していた、そのため作動のタイミングが最適に行われなかったのだ。

 ――弐秒――

 爆発により生じた衝撃波を背に受け、更に加速をする機体。
 機体が速まるのとは逆にラーナ自身の身体には急激な加速によるダメージが大きくなってゆく。

(と……飛ばしすぎたかな?)

 彼女は自分の体の上げる悲鳴を聞きながら、心の中で苦笑いをする。
 大きな盾を持ったPFがバスターランチャーUを放とうとするのが見えた。
 ラーナは赤いPFに狙いをつけた対艦プラズマキャノンのトリガーに指を掛ける。

 ――弐と(よん)分の壱秒――

 バスターランチャーUとプラズマキャノンの銃口から、同時に光が放たれた。
 レーザーとプラズマがすれ違いそれぞれのターゲットへと向かう、ラーナは機体を若干上昇させレーザーを避ける。しかし、バスターランチャーUより放たれるレーザーは本来これだけでは避け切れない。
 レーザーが照射されている間、PFのパイロットが俗に言う"薙ぎ払い"――文字通りの意味で、バスターランチャーは上下左右に動かすことによる敵の追尾や、草を鎌で薙ぐ様に複数の敵をまとめて払う事ができる――を行えるからだ。しかし、今回はそれが行われなかった。
 茶色いPFが、ラーナ機から放たれたプラズマが赤いPFに向かっているとわかり、カバーするために照射を中止したからだ。
 ラーナはほくそ笑む、薙ぎ払いがない事を予想していたのだ。
赤いPFのパイロットホムラは、敵の攻撃を避ける事を忘れていたり、攻撃に専念し過ぎたりしていた訳ではない。
 二人が一緒にいる故の、一心同体、以心伝心、言葉を交わさずともサポートし合えるコンビ故の、ほぼ完成されしまっている個体――或いは個体と大差ないほど密接な集団――に必ずといってもいいほど生じる"習慣"と言う落とし穴だ。
 彼らのコンビネーションが悪いのではない、良すぎるのだ。
 対艦プラズマキャノンから放たれた、人間ならば一瞬にして蒸発させるほどの熱量を持ったプラズマが、茶色いPFの手に余るように見受けられるほど大きな盾に着弾。

 ――弐と(よん)分の弐秒――

 盾の表面でまばゆい閃光を生じ、辺り一面が一刹那、白磁の色に染め上げられ何も見えなくなった。
 それはラーナにとって二機の敵を隠す光の壁となり、死角を作った。
 光の壁の向こうから、何かが襲ってくる気配がした。
 彼女の目はその兆しを見、危機、と言う直感としてラーナに知らせた。

(まずいっ!)

 一秒未満の世界の時間的な制約により、言葉では具体的にはっきりと感じきれない危機を感じたラーナは、心の中で叫び音速を超えた状態で機体を戦闘機形態から人型へと変形させる操作をする。

 ――弐と(よん)分の参秒――

 人型へと移行してゆくアルファズル・フェニックス。
 機体正面の表面積が増すにつれ、普段はおとなしく何の危害も加えない大気が、機体に牙を剥く。

 ――参秒――

 人型へと移行を終えたアルファズル・フェニックス、機体に急制動がかかる。
 ラーナの全身に数メートルの高さからコンクリートの地面に叩きつけられたかの様な衝撃が襲いかかった。
 彼女に痛みを感じている間などない。変形を終えた機体の足を接地させ速度を落とす。
 泥のように何の抵抗もなく地面がえぐれ、AFの足首の深さをした溝が出来た。
 PFでこのような事をすれば、即、膝なり足首なり、腰部なりが損傷、折断(せつだん)される。
 互換性を持たせていない分、AFの方がPFよりも関節部などの人型特有の負荷が掛かりやすい部分の強度が高い。だからこそ可能な操縦だ。しかし、いくらAFでも音速からの急減速は危険の伴う紙一重のものである。無傷ではいられない。
 プラズマが着弾した光が薄まり、茶色いPFが放ったアントキラーの爆風が眼前に迫る。
アントキラーは直撃させるのが目的ではなくフライキラーと同様、爆風で敵に損傷を与える事を目的とした兵器だ。
 今のこの状況で爆風に巻き込まれれば、バランスを崩し地面に激突し、アルファズル・フェニックスは自らの速度で転げ回り鉄屑と成り果てだろう。

 ――参秒と(よん)分の壱秒――

 爆風が機体へと到達する前に、ラーナの機体への命令は間に合った。
 機体を横にジャンプさせ、何とかバランスをとりつつ、地に線を描きながらまたも滑り続ける。機体速度が速すぎるので脚部のグリップ力は何の意味もなかった。

 ――参秒と(よん)分の弐秒――

 プラズマ着弾時の発光が目潰しの効果を生み、敵機の動きは止まっている。
 紙一重で機体バランスを取りながら、ラーナの勘はこの気を逃すまいと彼女に攻撃を促がす。

 ――参秒と(よん)分の参秒――

 彼女は機体の胸部バルカンの発射トリガーを引き、茶色いPFに向け発砲する。
 大きな盾を持ったPFはいまだ硬直中だったが、赤いPFが茶色いPFを押し退け、前に出た。
 バルカンの銃弾が当たるが、機体表面を軽くなぞるだけ赤いPFの装甲にかすり傷を与える程度の効果しかない、赤いPFは通常PFを遥かに凌駕する強度を誇っているのだ。

 ――(よん)秒――

 赤いPFがミサイルを放つ、ヘルファイヤータイプのミサイルだ。
 これを見たラーナは、再び機体を戦闘機形態へと移行させ、背筋に寒気を感じつつ、空へ逃げる。

(一分間……私の体が持つかしら)

 たった四秒間の攻防だけで彼女は十分以上も戦った後とかわらぬ疲労を感じていた。




 

 まともにプラズマの発光を見たせいではっきりとしない視覚。
 PFのモニターには自動で光度の調整を行う機能があるが、減光してなお強烈な光であった。それだけ敵機の発したプラズマの威力が高いと言うことだ。
 ホムラはぼやけた映像の中で、敵機が玄冥の横を取る姿をかすかに見た。
 先ほどのプラズマをカコウの機体に撃ち込まれる事を恐れた彼は、とっさに機体を動かし玄冥と位置を入れ替わった。これもお互いに庇い合うと言う"習慣"だ。
 敵機のシルエットが見える。戦闘機の姿をしていたはずの敵が、人型の機体に見える。

(なんだ、俺の目の調子がおかしいのか?)

 煉獄の機体表面を敵のバルカンが刺した。
 銃弾を気にする事もなく敵機をロックするとミサイルを放つ、すると敵は、

(姿が、変わった!?)

 一瞬にして人型から戦闘機へと変形を終え、上空へと逃げた。

(変形するのか……搭載兵器が変形するのはいいが、可変PF? そんなPF、アルサレアに存在すんのか!?)

 惑星Jの地表で活躍する人型兵器=PF。
 そういった先入観のため、ホムラはいま見た事がすぐには信じられなかった。
 人型兵器から戦闘機へと変形する機体に興味はあったが、彼は謎のPFについて考えるのはすぐに止めた、カコウが気になったからだ

「カコウ、無事か?」
『……無事』

 カコウはすぐにひっそりとした声で通信を返してきた。
 次に彼はレーダーに目をやる。上空でアルサレアの一機のPFと戦っていた複数のシンザンの反応が残り一機となっている。たった一機のPFにみな行動不能に陥れられたらしい。
 狙撃手のフィーナ・ニェットの姿は確認できないのは仕方がないとして、キョウインの姿までもが確認できない。

(キョウインの奴、なにやってやがんだ!)

 キョウインに苛立ちを覚えながら、自分自身にも苛立ちを覚えた。
 彼の仕えるリュウハにアルサレアを威圧してくるようにと、今回の出撃前に言われた。つまり、今回リュウハがわざわざ彼を出向かせたのは、ヴァリムの力を見せつけアルサレアを心理的に追い詰めアルサレアに恐怖を覚えさせる、ホムラはこの戦闘の目的をそのように理解していた。しかし、実際は敵を圧倒するどころではなく、互角かそれ以下の戦いであった。
 リュウハの命令を達成できない自分の未熟さに、彼は苛立っていた。

(やりきれねぇな……だが、引くしかないか……どうする、ホムラ?)











 

『潔癖症気味のお嬢さん、おはこにばんわ』

 フィーナ・ニェットの眼前にPFが現れ、呑気に挨拶をしてきた、その声は、戦闘中とは場違いなほど呑気な声だ。
 予期もしなかった事が起こり、混乱の波に飲まれそうになった理性を、懸命に状況を把握すべく思考力を働かせる事により手元にとどめようと努めた。
 だが、敵は目の前だ、考える時間など一秒たりともない。

(なに? 何が起きたのどうして目の前に敵がいる? 歩行じゃない、ブーストじゃない……瞬間転移? ありえない、あるわけがない。私は敵に捕捉されてないのよ、されてないのに何で? 歩行なの、ブーストなの、違うそんなんじゃ、そんなんじゃ……瞬間転移? でも、ありえ……)

 混乱の迷路で彷徨うフィーナは同じところを回るだけで、一向に出口に出られない。

『……ちょっと、痛いが我慢していてくれよ』

 呆けた彼女の耳に声が聞こえてきた。
 フィーナは思考を中断し本能的な行動にでようとした、とりあえず目の前の敵に何でも良いから攻撃をする、彼女の本能に従った体は機体を操作しカーロメニーナで敵機を殴りつけようとした。
 突然目の前に迫った危機で異常に研ぎ澄まされた彼女の感覚器官。
 その耳はフィーナの体が機体に攻撃命令を出すよりも早く、機体がかすかに揺れ装甲表面を金属の爪で引っかく高く耳障りな嫌な音を聞いた。

「ッパイ――」

 敵機のシルエットを思い出し、それがパイルバンカーの爪だと彼女は悟ったが気がつくのが遅かった。
 外部装甲に硬い物が当たった音がする。どこか遠くの音などではなくすぐ近く、コックピットブロックの側だ。
 コックピット内右側のモニターや計器類が外側から加わった力で内側にひしゃげる。

「――っひぃ」

 と、フィーナは短く息を吸い込み、喉を鳴らし、とっさに身を縮め両手で頭部を抱え込む。
 硬い金属が紙のように引き裂ける音が彼女の耳に響いた。
 細かく冷たい金属片が彼女の白い手袋やヴァリム製の耐圧服を貫き、下にある湿った肉に突き刺さる、生暖かい血が彼女の右半身を新鮮な紅で染め上げた。
 苦痛に身をよじり喘ぐフィーナ、彼女のすぐ右脇を太い杭が通り過ぎ、引き返す。
 続いて、今度は機体左側面から衝撃が襲い掛かる、パイルバンカーで攻撃を仕掛けてきたPFが何かで殴りつけてきのだ。
 彼女の搭乗するスティングペグィンが吹き飛ばされた。
 フィーナをシートに固定していたベルトが千切れ、体が宙に浮く。飛ばされた彼女は後頭部を強く打ちつけしまい、

(……ご、めん……兄さん、わ……た、し)

 意識を失った。







 

 動きを止めたコックピットの中でノートンはじっと待機していた、辛抱強く期を待っていた。

(……おかしい、敵が止めを刺さない、どう言う事だ? ミカゲ少尉が、あの二機と交戦でもしているのか?)

 彼は敵が止めを刺してこないことを不思議に思いながら、何時止めを刺されてもおかしくないという不安を感じていた。
 疑問と不安で神経をすり減らす彼には時が異様に長く感じられる。
 しんっと静まり返っていたコックピット内に、低い何かの音が聞こえてきた。
 モニターからオーバーヒートの文字が消え、各計器が活動を再開。

(よしっ、いけるぞ)

 操作盤を操作しBURMシステムの情報を呼び出す。
 正常に稼動している事を確認すると、素早く兵器の強制排除箇所を設定する。全兵器排除の項目を選択し、更に追加として、腕部と脚部の装甲板の排除も設定する。
 さらに、HM【Hyper Mode:ハイパーモード】の発動までの硬直時間を確認、その時間が極短時間であること確かめると、機体を再起動させた。

(これ以上の戦闘は無理だからな……状況はどうなっているか判断できないが、ミカゲ少尉がいればなんとなるだろう。俺はやるべき事をやった……あとは自己の生存に専念させてもらうとしようか)

 モニターに映像が映る。
 赤いPFが茶色いPFと入れ替わり、味方機と思われる機体のバルカンの攻撃を身代わりに受けているところだった。

(友軍機……降下してきた部隊か? ルージュ小隊と言ったかな)

 降下予定であった部隊の構成をすぐに思い出そうとしたが、具体的にどのような機体がどの程度、何機降下してくるのかなど具体的な情報を知らされていなかった事を思い出した。補給物資とPF部隊が一小隊降下するのでそれらを護衛し基地までエスコートせよ、としか指示を受けていなかったのだ。
 それは、ここホーシェレンシュタウファン王国のアルサレア軍内では、完全にヴァリム軍に包囲されている状況のため、情報伝達は極めてごく少量しかやり取りが行われないからであった。
 物量面でも情報面でも、どの面をとっても圧倒的に不利なのがこの国での現状なのだ。
 赤いPFがノートンのJアインを一撃で行動不能にまで追い込んだ威力を持つミサイルを放った。
 人型であった味方機は戦闘機のような形状へと変形し、上空へと逃げた。

(……アルファズルなのか、あの博士好みの機体に見受けられるしな、上も面白い物を投入してきたな)

 ノートンは変形する人型兵器を目の前にしたが、さほど驚く事もなかった。むしろ懐かしい物を見る目でそれを見た。
 二機の敵機は、アルファズルの機体に気を取られている。これをチャンスと見た彼は行動を開始した。







 

『……無事』

 一言、ホムラへ返事を返すと、カコウは搭乗機である玄冥をパートナーであるホムラの乗る煉獄の横に立たせ、変形する謎のPFにを接近させないように単発的な攻撃を仕掛けていた。
 ホムラが今後の行動を考えあぐねているのだと彼女は感じていた。攻撃に彼らしい一気呵成にたたみ掛ける勢いがないからだ。
 引くか引かないか、引くならどの様に引くのか、引かぬのならどれ位まで戦った後引くのか、カコウはホムラがこの種の繊細な決断が苦手な事を知っていた。だから、彼が決断を下すまで彼の思考を妨げないように、また敵に妨げさせないように徹底的に彼を守ると心に決めていた。
 カコウがバスターランチャーUで大空を飛び回る敵を攻撃、煉獄も近づけさせないためにミサイルを放つ、二機が同時に攻撃を仕掛けた。

 それは二機の動きが居ついた時だった。
 カコウの背筋に一瞬、寒い物が走る。
 ただの一瞬だが、今の状態でJアインが攻撃を仕掛けてきたらホムラを守れる可能性が低い、そう考えたからだ。嫌な予感がした。
 Jアインは先ほどからずっと動かない、完全に活動停止なのかも知れないし、そうでないのかも知れない。
 カコウは動くか動かないかはっきりとしないJアインの危険性を忘れてはいなかったのだ。普通ならば動きもしない敵の事など忘れてしまうところだが、ここが必要以上に周囲への警戒を行う彼女の長所であり短所でもあった。
 予感が現実のものでない事を確認するために、レーダーに目を移す。
 嫌な予感は不思議と当たるものだ。
 Jアインが動いていた、まっすぐに煉獄の背中に向かって、Jアインが起き上がってすぐに射撃兵器を使わなかったのは煉獄の装甲が厚い事を承知しているおり、確実にパイルバンカーを背後から撃ち込むためだ。

(……彼を護る)

 間をおかず意識がそう判断したが、体はすぐに反応しない。カコウは意識に比べ動きの鈍重な体が疎ましく思った。
 森の中でのJアインとの戦いと先の変形する戦闘機との戦い、連続する高位の戦いの中で高揚していく彼女の意識とは逆に、体の疲労は確実に重なっていた。
 体が思いのほか鈍いのは高まった意識と低下した体力の差である。
 バスターランチャーUはまだ照射中、煉獄はミサイルを更に放つ。

(ホムラが危ない、ホムラが危ない、ホムラが危ない……)

 頭の中で同じ言葉を連呼し、PFへと命令を伝える体に動けと檄を飛ばす。
 レーザーの照射を中止し、旋回させつつ機体を煉獄とその背後に迫るJアインの間に移動させる。
 旋回を終えると、Jアインの姿がモニターに映った。敵機は突然割り込まれた事に動じもせず、機体速度を落とさずにそのまま前進を続けた。
 カコウは玄冥に、玄武の盾を構えさせる。

(……また、パイルバンカーで前と同じところを攻撃されたら、盾が持たないかもしれない、機体の装甲は厚いけどあの杭は防ぎきれない、終わりかも……でも……でも、護らなきゃ――)

 不安を振り払い彼女は覚悟を決めた。

(――私にとってホムラは命よりも大切な存在だから……)








 

第九幕へ続く

 



〜設定〜


形式番号:AAF−008
機体名:アルファズル・フェニックス
全高:9.6m
全体重量:8.9t
基本ジェネレーター出力:2950kw
装甲材料:超硬材OSJU
固有内蔵兵器:両腕腕内蔵レーザー、胸部内蔵バルカン、背部可変ウィング(バルカン、小型ミサイル)、腰部小型ミサイル
専用兵器:専用対艦プラズマキャノン、レーザーソード内蔵シールド
固有BURM:疾風迅雷
開発コンセプト:可変型AF

解説:外見はJフェニックス似ているが細部は異なる。大きさは一回り小さいく、性能上はブースト、ジェネレーターの性能がJフェニックスの物を上回り、空中での運動能力はこちらの方が格段に上である。最大の特徴は可変機構で二足歩行の人型と、戦闘機形態がある。開発時に特に戦闘機形態時の性能を重視されており、PFを凌駕するその機動性は現代(PF開発以後)の戦場では飛びぬけて高い。アルファズル・フェニックスは人型のAFとして作られたのではなく、戦闘機を人型兵器であるAFに可変可能する、と言う流れで開発されている。そのため人型よりも戦闘機形態での性能を重視されている。ベースとなった戦闘機はAHF−11アーケオプテリクス。
 両腕に内蔵されたレーザーは、PFのレーザーピストルと同じ物と思ってよい。胸部内蔵バルカンもPFに内蔵されているものとほぼ同等。シールドに内蔵されているレーザーソードもPFの物と威力はなんら変わらない。これらの兵器はPFと大差ないが、専用の手に装備される対艦プラズマキャノンの威力は群を抜いている、PFの兵器にディスポーザブルサーマルプラズマライフルと言うサーマルプラズマライフルを改造し、威力を重視した使い捨ての兵器がある。対艦プラズマキャノンは大型のプラズマライフルと呼べるもので、ディスポーザブル以上の威力とプラズマライフルの弾数、プラズマライフルを凌ぐ弾速を有している。ヴァリムの空中空母オーガル・ディラムの装甲を一撃で貫く威力を目指されて作られただけあって、局所的な威力は計り知れない。着弾すれば閃光がほとばしりその見た目は派手ではあるが、実弾兵器のように爆発により衝撃波を起こすわけではないのであくまでも局所的な威力が高いだけである。そのため、PFなりGFなり、オーガル・ディラムなりに攻撃をする場合、一撃目で装甲を破壊、一撃目と同じ着弾点への二撃目で内部へ損傷を与えると言う手間が要る。プラズマを発射する兵器のどうしようもない欠点である。
 戦闘機形態で目標に急速接近、対艦プラズマライフルで対象を破壊、主にアルファズル・フェニックスはその様な使い方をする。また、重力が1Gならば地表面からの単独での大気圏外への離脱、宇宙空間からの大気圏突入が可能となっている。


 

形式番号:ZCX−ST13
機体名:スティングペグィン
全高:10.3m
本体重量:15.8t
基本ジェネレーター出力:1600kw
装甲材質:ジャポネクル超合金
固有内蔵兵器:なし
専用兵器:カーロメリーナ(右腕装備、左腕補助)、ECM【Electtonics Counter Measure】ユニット(右肩)
完全規格外装時特殊BURM:なし
開発コンセプト:遠距離狙撃機

解説:第04PF特殊化部隊に配備されているカスタムPF。その部隊はPFの有効な運用方法を探るために設立されたPF特殊部隊で種々の種類のPFが存在しており、それぞれ試作的に開発されPFパーツや兵器を組み込んである。
 このスティングペグィンの場合、カーロメニーナ、ECMユニットの二つの兵器と、ヘッドパーツのサイト強化ヘッドを狙撃用に改造した、狙撃特化ヘッドがそれらに当たる。
カーロメニーナは120mmの口径をもつ狙撃用ライフルで、弾に使用しているのはHEAPF【High Explosive Anti Panzer Frame】と、HVAP【Hyper Velocity Armor Piercing】の中間的存在でHEAPFの程の破壊力もなくHVAPほどの貫通力もない、DAD【Dissipation And Death】と呼ばれる特殊弾を使用している。
 ECMユニットは、敵レーダーを混乱させる装置で、敵のレーダー波に干渉し分散させ、PFと言う固体として認識させない。基本的に敵PFの射程外からの狙撃が多いので使用する機会は少ないが、敵レンジ外に具合の良い狙撃ポイントを確保できない時などに役にたつ。もう一つの効果として、敵味方の見境は無いがレーダー上に電波的にダミーの標的を作り出せる。
 狙撃特化ヘッドはその名の如く狙撃の性能を高めたヘッドフレームだ。遠距離からの狙撃と言うスタイルのため、電波を放つ通常のWCSを使用する事が少ないので、PFの狙撃用スコープと連動する光学レンズ類の精度が高められている。電子的な点ではWCSサイトの射程距離、精度を高めてあるが、電波を発し自らの存在を知らせてしまうため通常のWCSによるロックは行われる事は少ない、ただし、精度の高さは他のものと一線を隔す。





 

〜あとがき〜

 たかだか数秒の出来事だというのに、文章にするとなんと長い事か……いや、長すぎる。私、まだまだ未熟であります(苦笑)
 戦闘のある一面は一瞬一瞬の駆け引きが多々あり、本人は自覚していないかもしれないけど、人間ってのは限定的とはいえ瞬間的に凄い情報量を処理できるんですよね。
時間間隔はそれこそ個人個人で違うわけだし、一秒が十秒の人も居れば、一秒が一秒の人も居る。凄い集中力を持つ人ってのは、時間が濃いんでしょうね。濃いって表現……なんか妙ですが(自爆)
一日が二十四時間ではなく、三十時間でありたい、今日この頃の兎であります(意味不明)
   2004/11/04 usagi.

 


 管理人より

 バーニィさんよりモルモット小隊番外編第八幕をご投稿頂きました!!

 たかが数秒、されど数秒ですからね。特に短期決戦を重視した機体にとっては大事です。

 しかしキョウイン……この状況でどう動く?


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