『こちらルージュリーダー、ラーナ・エルバラード中佐これより降下を開始、援護を頼む』
ルージュ小隊の隊長、ラーナ・エルバラードは物資と彼女の小隊を護衛してくれるはずの小隊に向け、降下を開始すると告げる通信を入れた。
大きく口を開けているアルバトロスの後部ハッチに向け、輸送物資を積んだエアバック付きコンテナが滑り出す。
「シーラビット、アーリッシュ、続いて降下、注意してよ」
『シーラビット、降下開始〜♪』
お気楽な、ウヅキの声と共にシーラビット――海兎、ウミ・ミツヅカの"海"と、ウヅキ・ウノハナの卯月から月を取った卯、すなわち"兎"、二つを合わせて言語変換をした、ウミ&ウヅキコンビのコードネーム、ちなみにPFのエンブレムは海で泳いでいる兎の絵である――が降下し、
『ルージュ3、アーリッシュ、出ます』
続いてアーリッシュが降下。
(さて、私も行こうかしらね……)
PFとは異なるコックピットレイアウトを持つ、プロジェクトシリウスに敗れ去った計画の遺児……AF、アルファズル・フェニックス。
彼女の座るシートの眼前に広がる、足元から彼女の頭上を通り越した辺りまでの二二〇度を越す範囲に広がる広域モニター。
そのモニターの向こうに見える、ハッチから外に飛び出していったアーリッシュの背中を見ながら、
(……リップス小隊……全員無事だと良いのだけど……あの子達に限って何かあるとは思えないけどね、執念が凄いからね)
ラーナは頭の中で、ゴルビーから救出を言いつけられているリップス小隊の四人の姿を思い浮かべる。しかし、
(……腕もそこそこあるし、なんと言っ……あれ、どんな顔してたっけ? さんざん映像資料みたりして覚えたのに……まっ、良いか、今は人の心配よりも自分の心配をしないと)
彼女たちの顔に霞がかかった様にはっきりと思い出せない。
顔の思い出せないリップスの小隊の事は直ぐに頭の隅に追いやり、気を引き締め、薄紫色の左肩を除いた部分が全て、不気味に黒く塗られた機体を空に投げ出す。
ラーナが機体をアルバトロスから出した直後、補給物資を積んだコンテナが爆発した。
「各機散開!」
それを敵機による攻撃と判断し部下たちに指示を出すと、自身は機体を変形させた。
人型をしていた機体は、一秒もかからずに戦闘機の姿へと瞬時に変形を果たす。
AF、アルファズル・フレームと呼ばれる機体は、パンツァーフレームに似た形状を持ちながら中身はPFとはまるで違う二足歩行汎用人型兵器で、プロジェクトシリウスと肩を並べてアルサレアの次期主力兵器の開発を行っていたのだが、競争に敗れ表向きでは中止された計画――実際にはアルサレアの各研究所のお零れに預かり、少ない資金で細々と研究を続けられ、一部の成果がPFへと転用されPFの進化に一役買っている――から生まれた機体である。
汎用性を重視した細かい各パーツ間の互換性、パイロットの八割を超える生還率達成、互換性と安全性に重きを置かれたPFと違い、AFは最低限の互換性を有しつつ、兵器として効率のよさと独創性に重点が置かれている。また、機体内部構造がどうしても複雑で大きくなってしまうPFに比べ、内部に独特の機構を組み込む事が可能になっており、ラーナのアルファズル・フェニックスに組み込まれた可変機構やPFのモニターよりも広範囲が見渡せる広域モニターもそのおかげで可能となっている。
PFを凌ぐ加速力でその場を離れ、大きく旋回しつつ高度を上げる。
ラーナが下に目をやると、広域モニターの中にシーラビットが頭部を吹き飛ばされる姿が見えた。
(レーダーに映っている敵の攻撃とは思えない……遠距離? ヴァリムにも私のAFの様に常識破りの機体があるのか……)
エルのアーリッシュは森の中に姿を隠し次の指示を待っている、散開としか指示を与えられておらず、基地までエスコートしてくれるはずの部隊は敵と交戦中で手が放せない、物陰に隠れ指示を待つしかないのだ。
「……誘いか」
目を細め、シーラビットが止めを刺されずに、膝と頭部が破壊されただけで地へと落下して行くのを見て、彼女は呟き、
(二人には悪いけど、今は放置……下手に動いて流れ弾に当たらないことを祈ってるわ)
兵士としては正常な、人間としては冷たい決断をする。
一緒に降下した部下たちの動きと位置を確認すると、レーダーに目をやり護衛するはずになっている小隊の動きの確認作業に移る。
(一機は四機の敵機と空中で交戦……もう一機は敵機と地上で二機……もう一機は? 見当たらない……どうする? シーラビットの回収はできない、物資は破壊された……オリビアとガレフを待ってから、動くか……でも、遠距離からの攻撃はどうする? 対処のしようがない)
その時、地表で爆発が起き護衛部隊の一機と思しき機体が弾き飛ばされるのが見えた。
爆発の瞬間に生じた火球は大きく、ヘルファイヤー、一回りか二回り小さいとは思えるが地獄の炎と呼ばれるそれに近い物があった。
(冗談じゃない!? あんなものアルバトロスが喰らったらひとたまりもないじゃない)
弾の数はわからないがヘルファイヤー級の兵器を一機のPFのためだけに使用するとは思えない、その事から彼女はまだ先ほどの兵器の弾が、最低でも一発は残っているのだろうと想像し、もうすぐ現れるアルバトロス二番機に撃たれるのではないかと不安になった。
『ロウ少尉!』
護衛部隊の一機、赤いPFに乗るコハク・ミカゲ少尉の叫びが通信機から聞こえてきた。
(護衛部隊の一機は行方不明、赤いPFは四対一の戦いの最中に周囲に気を配ってるだけでも凄い、でもこれ以上の動きを期待するのはおそらく無理、今の吹き飛ばされた機体は、たぶん……行動不能……しかたがない、私が抑えるか)
あまり考えている時間がない事を感じ、ラーナは行動に移る事にした。
機体を急降下させ、
『ルージュ2、休止。ルージュ3、拠点防衛! 私は援護!!』
部下に今できる指示を出し、彼女はヘルファイヤー級の兵器を持った敵機の元に向かった。
コハク機への怒りに燃える狙撃手、フィーナ・ニェットはJアームドの頭部を吹き飛ばした後、敵が近寄ってくるかどうか様子を窺っていた。
目の前で仲間に危機が訪れた時、人が取る行動は簡単だ。巻き添えを食わないように隠れるか、 思わず助けに行くか、それとも吃驚して動けなくなるか、そんな所だ。
戦場慣れしてない人間なの場合、大概が助けに行ってしまう事が多い。
生身ならば危険を文字通り肌で感じ近寄らないこともあるが、PFと言う鋼鉄の身体の中にいると、どうやらそう言った、肌で感じるという事が少なくなるようだ。
フィーナの知る限り、ベテラン、新兵を問わず、五割程度のパイロットは迂闊に近寄る事があった。そういった経験から彼女は、Jアームドの頭部と膝を撃ち抜いたのである。
彼女はやろうとも思えばコックピットを直接、攻撃することもできたが確実な戦果よりも物資の破壊と足止めと言う方を優先した。
「……誰も近寄らない、ならば次の敵を確実に仕留める!」
一瞬レッドバードを仕留めようとも思ったが彼女は次の輸送機の到着を待った、輸送機が二機来るということはヴァリムに筒抜けで予め彼女は知っていたのだ。
森の外へとでると言うミスを犯してしまったノートンのJアインに向かい、小型ヘルファイヤーを積んだ弾頭、回避も迎撃も間に合わない距離までそれは迫っていた。
(……できる事は一つ)
迫る弾頭を睨みつけ、奥歯が砕けるのではないかと言うほど強くかみ締め、床を踏み抜く勢いでブーストペダルを踏みつけると、全速力で後退。
コックピット内で鳴り続けている警告音がより激しく響き、Jアインが悲鳴を上げた。
(……南無三)
心の中で念仏を唱え、サブマシンガンで迎撃。
気化燃料に火がつき一気に爆発、Jアインに衝撃が襲い掛かり、重い鋼の身体が宙に浮き吹き飛ばされる。
「っは! どんなもんだ!!」
ホムラは煉獄のコックピット内で拳を握り締め、歓喜していた。
こそこそと木々の間を動き回り、時折、貧弱なマシンガンの弾で攻撃してくる敵機が、間抜けにも森の外へと自ら飛び出すのを見て、彼は迷わず愛機である煉獄の手にしているハンドヘルファイヤーを放った。
ハンドヘルファイヤーの近接信管は射出されて直ぐに作動するものではないが、相手も森の中にいたのでは木を誤認してしまう。そのせいで今まで撃てなかったのだ。
放たれた弾体は真っ直ぐに飛んで行き、小ざかしい敵機を吹き飛ばした。
吹き飛んだJアインは地面に一本の筋をつけながら数十メートル滑り、止まった。動く気配は無い、機能を停止したのかもしれない。
「どうだ、見たかカコウ。はっはっは、ざまぁみやがれ、アルサレア!」
『……まだ、作戦中』
ホムラの相棒で常に彼の後を付き従うカコウが、注意しなければ聞き取れない様な小さな声で返事を返す。
「わかってる、わかってる……さっさと止めを刺して……」
彼は森から機体を出させ、倒れたまま動かないJアインに機体を近づけるが、Jアインは一向に起き上がる気配がない。
この場合、考えられる事は、PFが故障し活動を停止、動けるがわざと動かない。
どちらの場合でも、放っておき背中を向けないように離れ、本来の任務に戻ればそれで問題がないのだが、ホムラは自分を苦戦させていた相手だけに、このままにしておくのは危険な様な気がした。
(……もう少し待って、降服する様子が見られなかったら、もう一発ぶち込んで止めを刺してやる)
何も考えず直ぐに止めをさすのが一番確実な方法ではあった。この距離からハンドヘルファイヤーを叩き込めば中のパイロットは熱で焼け死に、PFは完全に機能しなくなる。
ホムラの嫌うキョウインならば迷わずにそうするところだろう。だが、彼はキョウインの様に好んで無抵抗――相手が抵抗し、攻撃してくるのであれば、相手の事など考えずに攻撃が行なえる。それは相手がこちらに被害を与える敵だからだ。しかし、相手が無抵抗な場合、すでに敵ではなくなっている……と、皆が皆かんがえているのなら世界は平和だが、いちど敵と認識してしまうと、どんな状況でも相手が敵であると言う考えを捨てきれない人間はいくらでもいる、さらに厄介な事にそれを肯定するかのように、弱者は無抵抗を装い強者をだます事が多い――のものへ、相手を確実に死に至らしめるとわかっている攻撃はしないし、その様な事は必要な時以外はする気はしなかった。
彼とて人間である、無抵抗で動かないものに止めを刺すのは気が引けるのだ。しかし、兵士である彼はそれなりの理由があり必要とあれば、何の躊躇もなく仕留める。キョウインは趣味的殺人を犯し、ホムラは職業的殺人を犯す――趣味での殺人、職業での殺人、この二つを別物と考えるか、同じと考えるかは、人によるし、観方よる。ただ殺人という同じ枠組みの内である事は間違いない。そして、出口まではわからないが、入り口はまったく別物である事は間違いない――。
そこで、彼は少しだけ待つ事にしたのだ。
ほんの、数秒間秒。
ノートンはハンドヘルファイヤー爆発、Jアインを全速後退させる事により、その被害を最小限に抑えた。
吹き飛ばされた機体が地面を削りながら滑り、止る。
(っつ……なんとか、生きてるか)
自分の意識がまだ身体の中にある事を確認すると、直ぐにJアインを起こそうとする。だが、機体は何の反応もしない。
――Over Heat.
彼がモニターを見るとそう表示してあった。
(……くそっ! オーバーヒートとは……)
この時になって彼はようやく、けたたましくなっていた警告音が止み、コックピット内が暗い事に気が付いた。
ノートンは煉獄と玄冥と戦うために、Jアインに短時間ながら性能以上の動きを要求した。そのせい冷却液の冷却率以上の熱が発生していたところに、先ほどの爆発の熱が加わり、機体がハイパーモード――PFに備わった短時間ながら機体性能を飛躍的にアップさせるシステム――の発動後の様に動かなくなったのだ。
(っち、直ぐに動かないとなれば危険だが脱出するしかない……敵は炎のように動物を本能的に怯えさせる、熱い圧力を持った奴だ。ゆっくり次の行動を考えている時間は無い)
機体が動かせないとわかった彼は、直ぐに脱出ポッドを起動させようとする。
誤って操縦中に作動させないために付いている安全カバーを拳で叩き割り、射出レバーを引いた。だが、レバーを引いても何の変化もなかった。
(……どう言う事だ、整備不良か!?)
レバーの脇に脱出不可を知らせるランプが付いていた。
脱出ポッドは基本的に、PFの背面に射出される設計になっている。地面を背にしたこの状態では作動しないのだ。機体によっては全面背面共に脱出可能なものもあるが、あいにくこの機体はそうではなかった。
脱出ポッドが作動しないとわかっても、彼は慌てなかった。
ならばハッチから外に出るまで、とハッチ開放スイッチを押した。
(!?……開かない……だ、と)
暗いコックピット内で憎々しくハッチを数回叩いたが、虚しく音が響くだけで、一向に開く気配はない。
(この状況……運に頼るしかないか)
機体の再起動を待つためにシートに座り直し、操縦桿を握り締める、彼の目はまだ諦めていなかった。
数秒ホムラは待ったが、Jアインは何の反応も示さない。
「悪りぃが、死んでもらうわ……お前みたいのがいると、ヴァリムの連中が死んじまうからな……」
彼がトリガーに指を掛けた瞬間。
『ホムラ』
抑揚のない声でカコウがホムラを呼んだ。
彼以外の人が聞いたのなら、カコウの静かな声の中にある意思に気が付かなかったであろうが、ホムラは理解した。
彼女の声は危険を知らせるものだと。
この状況での危険とは敵の接近しかない。敵の攻撃であるのならば、カコウは黙って間に割って入り、玄冥の手にした盾で煉獄を庇ってくれるからだ。
レーダーを見れば確かに敵がそこに映っていたが、今からゆっくり旋回しても敵の攻撃が始まる前に間に合う距離だ。
(っへ、のこのことやられに来たか!)
彼はモニターに目を移しすぐに機体を旋回させ、その敵の方へと機体を向けようとする。
煉獄の機体側面に軽い衝撃が走った。マシンガンなどの速射系の威力の低い攻撃のようだ。
(な、んだとぉ!)
旋回し終え、煉獄が敵機を前面に捉える前に攻撃が来たのだ。
これはホムラにとって予想外であった。先ほどレーダーで確認した敵との距離では、彼の今まで経験した事のあるPFとの戦いにおいて、攻撃を受けた事など一度もない。
特に今回はカコウと一緒だ、彼女はホムラが攻撃を受けそうになった時に必ずカバーに入ってくれる、この攻撃はホムラの予想外でもあったが、カコウにとっても予想外だったのだ。
ホムラはもう一度、レーダーを確認する。そこに彼が目にしたものは先ほどの位置からすぐ間近まで迫った敵機であった。
(速い! こいつはPFじゃない)
モニターの中で何かの光が青白く輝き、続いて爆発が起こり煉獄は地に横倒しにされ、その直後なにかが高速で近くを通り過ぎる空気の振動を感じられた。
何が起こったのかと、モニターで被弾箇所を確認する、インナーアームガトリングが破壊されていた。軽い爆発音が起こるカコウの玄冥に装備されたアントキラー――対空用のフライキラーと似たような効果を持つ、対地用兵器――の攻撃だろう。
敵の姿を確認するために機体を起き上がらせる。
ちょうど、空に逃げた敵機にバスターランチャーU――バスターランチャーの、照射時間、威力、エネルギー効率を改良したもの、ヴァリム軍の次期正式バスターランチャーの先行量産品――を放ったところであった。
戦闘機は速度だけでバスターランチャーの攻撃をかわす。
遠距離なので細かいところまではわからないが、敵機のシルエットを見たホムラの顔に驚きの色がはっきりと浮かび上がった。
(戦闘機だと、いまさら戦闘機でPFに戦闘を挑もうってのか、アルサレアは……だが――)
戦闘機はPF開発後、その役目を失い完全に姿を消していた。
現存する戦闘機の使用は主に偵察のみに限られており、戦場で直接攻撃を行うなどの役割はなかった。偵察にしても純粋な偵察目的で作られた航空機の方が成果も精度も高く、無人偵察機の存在もあり、有人飛行――無人戦闘機を大量に生産し、特攻させると言う案も考えられたが、ミサイルを生産した方がよいとの結論に至り、無人戦闘機の生産計画は頓挫している。ただ、データは残っているのでいつか使われる日が来るかもしれない――をしなければならない純粋な戦闘機には活躍の場はなかった。
特にPF、アルサレアではJフェニックス、ヴァリムではカルラ、などの空戦に特化した機体が開発されたため、航続距離、航行速度においてPFを遥かに勝る戦闘機だがますますその生き場を失ってしまった。
戦闘機とPFとの差で問題になるのは、距離や速度ではなく火力と装甲であった。
戦闘機はPFに比べ火器の搭載量が少なく、その火力も四速歩行戦車や従来の戦車の主砲が、PFの装甲の前では銀玉鉄砲並の威力しか持たなかったのと同じく、PFの前では無力に等しかった。
装甲におけるその差は歴然で、歩兵の携帯火器の一撃で墜落してしまう戦闘機と、PFでは比べ物にならないほどの差が生じていた。
PFとの性能差もそうだが戦闘機が活躍の場を失った最大の要因は、PF対PFにのみアルサレア、ヴァリム両国の注目が移ってしまった事であった――PF同士による正面からのぶつかり合い。それが戦場の主だった戦いで、補給路を断つ、後方の基地を叩くと言った戦法は、少なくなってしまった。それと言うのも戦場で主に使われる兵器の殆ど全てがPFにとって代わったと言うのが原因である。軍全体のPF依存傾向が軍一部の戦術的移動速度の低下を招き、戦場の戦いはハイテクを駆使した最先端の戦いから、前時代的な戦いへとタイムスリップしているのであった。これは……ギルゲフ・ド・ガルスキーの望みどおりの展開であり、アルサレアやヴァリムの死傷者を減らす事を目的とし、グレン・クラウゼンが中心となり、アルサレアで開発したPFは、ギルゲフの野望達成にもっとも適した兵器だったのだ。グレン・クラウゼンはその事を、PFの開発がギルゲフを助ける結果となる事を知っていたはずなのだが……アルサレアの英雄が何を考えていたかは、もはや誰も知らない。ただ、PF開発がアルサレアを長く凄惨な苦境へと導いたと言う結果だけがそこにはある――
(――煉獄のインナーアームガトリングを破壊したぐらいだ。ただの戦闘機じゃなさそうだな)
ホムラは従来の役に立たない戦闘機ではなく、PFと立派にわたりあえる火力を有した戦闘機と認識を改め、
(――火力は高いようだが、装甲はどうかな!)
カコウと共に攻撃を開始した。
コハク・ミカゲは焦っていた。
目の前のシンザンに思いのほか手を焼き、先ほどの爆発、おそらくはノートン・ロウがヘルファイヤー級の敵の攻撃を受けた。つまり、敵機を抑えきれなくなったということだ。どうやら降下してきた部隊の隊長が抑えに向かったようだが、それもいつまで持つかわからない。
(早く片付けないと……不確定要素が多すぎる)
カレイドの実力、降下してきたラーナ・エルバラード中佐と言う人物の実力、ノートンの状態、狙撃手の存在、森の中の詳細不明の敵、降下してきた部隊の残り二機の動き、予想を立てようにもあまりに不確定要素が多すぎた。
彼女にできるのは素早く敵を倒し、状況をしっかりと把握する事だけであった。
『あー、あー、聞こえますか、ミカゲさん』
一機のシンザンの背中に、カタールを突きたてたとき不意にノイズ混じりの通信が入ってきた。
「カレイドさん?」
『はい、そうです。狙撃手の方はお任せく――』
カタールを抜き、パイロットを失くし動かなくなったシンザンを別のシンザンに向けて蹴る。
『――ださい。相手はレーダーに反応しませんし、センサーを全てパッシブモードにしているみ――
味方を蹴り寄越されたシンザンは思わず機体を受け取ってしまう。
『――たいだし、こっちもパッシブで地上から接近して叩くのが無難でしょう。いま手が空いて――』
(たしかに、パッシブモードで近づけば、相手もパッシブモードの場合、目視で発見でもしない限りは見つからないでしょうけど……敵の位置は……)
味方機を受け取って動きを止めたシンザンに、レッドバードの頭部に内蔵されたメガバスターを放つ。
『――いるのは私ぐらいなもんですしね』
(……声に出してもいない言葉に反応する人だし……もしかしたら、敵の位置もわかっているかも……でも、そんな事、あり得るの?)
コハクの放ったメガバスターが、カタールの突きで絶命したパイロットを乗せたシンザンのジェネレーターに命中し、大爆発を起こす。
「狙撃手をお願いします」
『りょーかい』
(……私でも把握してない、狙撃手の位置……あの人はわかっている? 普通はわからないと思うけど、相手の意思でも感じ取って場所を把握するのでしょうか)
全部で五機いたシンザンも残り二機。
その二機は仲間の敵を討たんと、同時に接近戦を挑んできた。
「こんなこと考えるなんて……私も変になってしまったのでしょうかね」
ラーナのアルファズル・フェニックスが煉獄のインナーアームガトリングを破壊し、ノートンが暗いコックピット内でJアインの再起動を待ち、カレイドが地上から狙撃をしているフィーナの元へと移動。コハクが二機のシンザンと接近戦を行っている時。
アルバトロス二番機から物資が投下され、
「ルージュ4、オリビア・ホワイト降下開始!」
その掛け声と共に、ポッドを抱えた防御力超特化カスタマイズJメガバスター、タートル・オブ・ゲイルに搭乗したオリビア・ホワイトが降下した。
彼女の手はいつでも瞬間転移で逃げられるように転移スイッチへと手を掛けている、流石は敵前逃亡の常習犯。
降下直後、彼女の真下で補給物資を満載したコンテナが爆発、フィーナの狙撃だ。
「うっひぃぃぃ、ててててて、転移!」
オリビアはすぐそばで起きた爆発に驚き、涙目になり早くも逃亡用座標へと向かい瞬間転移を開始、何の被害も受けないまま作戦領域からの離脱を完了する。
『はやっ!!』
ポッドの中で身を硬くして恐怖に耐えていたエデンは、あまりにも早い逃亡の早さに声をあげた。
オリビアが転移した直後、ガレフ・セキネがアルバトロスから出てきた。
彼女はすぐに物資を積んだコンテナが破壊されており、早くもオリビアが敵前逃亡を果たしていることに気が付いた。
「ふぅ、また敵前逃亡……あれほど言ったのに、あとで隊長にしぼってもらわないと」
口では呑気なことを言っているが彼女の行動に無駄はなく、自らが乗るJファーカスタム・スペシャルエディション――通常のJファーカスタムと違い、アルサレアに数多くいる天才と呼ばれる人の一人、サチコ・ロックナートがチューンナップを手がけたレア物の機体である。Jファーカスタムと言う機体は、Jファーをベースに搭乗パイロットにあわせ調整された強化パーツを組み込んだ、Jファーの指揮官用カスタマイズ機で、様々なバリエーションが存在する。一括りにJファーカスタムといってもその機体ごとの差は意外と大きいのである。また、Jファーカスタムは基本的にそのパイロット専用にチューンナップされている。カスタムPFとはまた違ったカスタマイズ機と言うわけだ――を敵の攻撃を受けないように素早く森の中へと隠そうとする。
(いったい、敵は何処から攻撃してコンテナを破壊したの? どうせオリビアの事だからコンテナが壊されて恐くなって逃げ出したのだろうけど……敵は何処……)
狙撃手の存在を知らないガレフは、そんな疑問を頭に浮かべながら行動していた。
森の中へと機体を隠すよりも早く敵の攻撃が来た、狙撃だ。
右肩のモーターキャノンが弾け飛ぶ。
この程度ならばPFの行動に何の支障もないが、敵の姿も見えないと言うのに飛んできたその攻撃をガレフは何の行動も取るまもなくまともに食らってしまった。
敵の第二射が来る前に何とか森に身を隠したが、降下後すぐに彼女が動き出していなかったら、危うく狙撃の餌食になってしまうところであった。
二機目の輸送機の到着を知ったフィーナはそちらにカーロメニーナ銃口を向け、狙いを絞った。
まずは単純な垂直落下をする物資を確実に仕留める。
次に片手にポッドを持ち、片手にシールドを持ったJメガバスターに狙いを移す。
(シールドは撃ち抜けない……あれは……あれにするか)
Jメガバスターの手にしたポッドに狙いを定め、照準を合わせ、トリガーを引……彼女は指を止めて射撃をやめた、瞬間転移で敵機が消えたのだ。
彼女は転移先を確かめようなどせず、次の獲物へ意識を移す、あまり同じ敵にこだわりすぎていては結果的に敵を大量に逃すことになってしまう、彼女は単純なことではあるが物資を落としJアームドを行動不能にした事により、レッドバードへの怒りが冷めてきていた。
次の機体が現れた、Jファーカスタムだ。
すぐにもっとも有効的な射撃ポイントに照準を合わせる、それはコックピット。これ以上の増援はないだろうとふんだ彼女は確実に頭数を減らす事を決めたのだ。
彼女は何回かコックピットを狙撃し一撃で機体とパイロットを同時に活動停止へと追い込んだ事があるが、
(ごめんね……戦争だから、恨まないでよ)
コックピットを狙撃=殺人。
フィーナはまだ、そのことを意識せずにはいられず、故意に殺人を犯すことに躊躇せずにはいられなかった。彼女はまだ人殺しに慣れてはいないのだ。
今回のターゲット、Jファーカスタムは動きが早かった。すぐにブーストを吹かし下降を開始する。
降下直後のパイロットは今まで盲目であったレーダーからの情報を確認し、自分の置かれた状況を把握し、以後の行動を決定しなければならい。そのため動きが遅くなりがちで、狙撃の絶好の機会なのだが、フィーナの躊躇と、Jファーカスタムのパイロットの並よりも素早い判断、それが重なった結果。
フィーナは狙撃の機会を無駄にしてしまった。
狙撃の機会はいつもあるわけではない、戦闘中に一回だけしか訪れない時もあり、滅多やたらにあるものではない。
(速い……でも!)
貴重な狙撃の機会を失ったフィーナであったが、何とか一撃だけでもと、森に入るまでの短い時間の中で狙える機会を窺い。
「当たれっ!」
少々強引ながら狙撃を試みた。しかし、その効果は敵の肩に装備されたモーターキャノンを破壊するだけに止まった。
「くそっ!」
白い手袋をした手で、コックピットの壁を叩き悔しがるフィーナ。
モニターの画面が急に暗くなった。
何が起きたのかと、彼女がモニターを見るとPFの顔がそこにある、カレイドのボトムガイスト・オブ・ドックである。
「なっ、いつのまに!」
主戦場から距離はそんな簡単に近寄れる距離ではない、ブーストで移動をすれば速く着けるが簡単に見つかってしまう。ブーストで堂々と近づく敵を見過ごしてしまうほどフィーナは狙撃だけに集中してはいなかった。
しっかり、警戒はしていたのだ。地上を歩いて来たにしても速すぎる。
ウォークレッグで走ってくればたしかに速いが、速いぶん足音が大きくブーストよりも目立った接近方法となる。ゆっくりと歩いてくるしか、目立つことのない接近手段は無いのだが、どういうわけか手がすぐに届く距離に敵が迫っていた。
『潔癖症気味のお嬢さん、おはこにばんわ……ちょっと、痛いが我慢しててくれよ』
慌てて機体を動かし目の前の敵を突き飛ばそうと思った彼女に、音もなく忍び寄ったPFは声を掛けパイルバンカーを彼女の機体に……
〜設定〜
○エルシール・ミストリア・リシャール搭乗機
機体名:アーリッシュ
イメージ機体構成:(上から順に)イリア・ミルク・イリア・イリア・ヴィトリアルウェーブ・レーザースピア・ウイング・ダグザH・ヴァハG・プラトー・テレスト・エリドゥ・ヴィントヴィα・ホルス改・ブーストジェル
〜あとがき〜
ぜんぜん進まない話、異常に長い戦闘シーン……反省中です。 2004/10/04 usagi.
管理人より
バーニィさんよりモルモット小隊番外編第七幕をご投稿頂きました!!
アルファズルの機体が出てきましたか(笑)
それにしてもカレイド……やはり神出鬼没&記録読み取り(?)あり(爆)
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