モルモット小隊番外編

第??話 「Dead or Alive 〜“all is vanity” but I don't think so〜」


第四幕







 

 混沌の発端であるリップス小隊。
 彼女たちは「ホーシェレンシュタウファン王国にグレンリーダーあり!」と言うキル・リップスの流した偽情報に見事にはまり、基地で輸送機を強奪し無理やりこの国に入り込んでいた。

 彼女たちがこの国のどこにいるのかと言うと怪しい霧のたち込める“迷いの森”である。
 迷いの森はフィアッツァ大陸にも存在する不思議な森で、惑星J全土で似た様な場所が複数確認されている。
 フィアッツァ大陸と、ここホーシェレンシュタウファン王国は共に“森”と言う形をとっているが、他の国などでは谷、山、などの森と同じような“迷いの場”が存在し、惑星Jの謎として千年以上も前から存在し続けている。

 何故、未だに謎なのか?
 答えは簡単である。調査をしようにも出かけた調査隊が尽く行方不明になってしまい誰一人として帰還しないのだ。

 稀に迷い込んでも無事に帰って来られる人もいる、だが、その人々の話を聴いても何一つとして謎の解明は進んでいない。
 彼らに聞いても得られる物は限られているのだ「霧しか見えなかった」「気が付いたら、森の外にいた」と言う事が主で森に住んでいる動物も、奥に何があるのかも、全ては謎のままであった。
 一説には、惑星J上の何処にでも現れる害虫GOKIBURIが生息にしている場所、などと言う事も言われている。
 実際、GOKIBURIが多く見かけられる場所は迷いの場が近くに存在するので、あながち嘘ともいえない説である。







 

 ねばねばと身体にまとわり付く、蜘蛛の巣が身体に絡みついた時の様な不快感の伴う、怪しい霧に包まれた迷いの森のどこか……ここが何処なのかは最新の科学をもってしても特定できない。
 そう、特定できないのだ。森を覆う霧が機械の電波を惑わし、人の視覚を惑わし、中からも外からも自分の位置を完全に特定できないのである
 つまりリップスは、行方不明、迷子、遭難、などの言葉で表される状況にいる事になる。

 一週間ほど前、彼女たちは迷いの森付近でヴァリム軍と遭遇し、そのまま戦闘となった。
 ふざけた態度からは想像できないのだが、リップスの四人が乗る二機の複座式Jフェニックスの実力はヘタなヴァリムのパイロットよりも高い。
 だが、今回遭遇した敵は並以上に強い敵だった上に数が多かった。

 彼女たちは天性の優れた生存本能に従い逃亡を図った。
 その際に逃げ込んだのが此処、迷いの森だ。
 アルサレア軍がリップスの動きをトレースできていたのはその時までで、現在ではMIA【Missing In Action】、戦闘中行方不明扱いとなっていた。



 

「――ぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 浅黒い肌をした、リップス小隊のリーダー的存在であるセリナ・バーミントは、絶叫と共に跳ね起きた。
 その本来なら遠くまでよく聞こえたであろう声は、森中の霧に音を吸収されてしまったかの様で響く、さほど大きな声とならなかったが、隣に寝ていた人間を起こすには十分であった。

「んあぁ? どうしたのセリナちゃん」
「いや、ちょっと悪い夢を見ていたんだ」
「ゆめぇ?」

 彼女の横で寝ていた赤い髪をした、まだ幼い顔のプリス・ピーピアスが眠そうな目をこすりながら声を掛けてくる。
 欠伸をしながらもいちおう心配そうな顔をしている、器用なものだ。

「何でもない……何でもない夢さ」
「そう」

 セリナは温かい焚き火のあるはずの場所を見たが火が消えていた。

 迷いの森に迷い込んだ彼女たちは、PFで何時間か彷徨ったのだが、一向に森から出られずにいた。
 PFの操縦はけっこう疲れるもので、疲れ果ててしまった彼女たちはPFからおり適当に枝を拾い集め焚き火をつけ四人でそれを囲んでいた。
 最初のうちは四人でとりとめのない会話をしていたのだが、いつのまにか全員寝てしまっていたようだ。

「……見張りも立てないで寝てしまうとは、無用心だったな」
「そういや、そだね。何時寝たんだか良く覚えてないや」
「お前もか、プリス。私も良く覚えていないんだ……」

「二人を起こして、これからどうするか話し合うか?」
「寝てたら夢しか見れないもんね」

 プリスは立ち上がり、並んで寝ている青く長い髪に縦ロールが特徴のイズミ・ウッドビレッジと、深緑の髪色をしメガネを掛けているリサ・イワサキを起こそうとした。







 





 

 ホーシェレンシュタウファン王国へと向かう二機の輸送機。その輸送機はノートン、コハク、カレイドが援護する予定の輸送機である。
 十トンを超えるPFを同時に最大四機まで輸送する事が可能で、ミラムーン製の大型輸送機をベースにアルサレアが手を加え、高高度まで上昇可能にしたものだ。
 大きな翼を持ち優雅に大空を飛ぶ機体、名前をアルバトロスと言い、設計上、PF単独での上昇可能距離を上回る高度を飛行するので、安全に輸送物資を運ぶ事が可能だ。
 この輸送機が無ければアルサレアはホーシェレンシュタウファン王国への軍事力援助を行なえずにいた事だろう。しかし、逆に言えば、 この輸送機でしか援助が行なえない。
 アルバトロスがホーシェレンシュタウファン王国の運命を握っており、この輸送機がアルサレアの貴重な資源調達源を失うか否かの、重要な鍵を握っている事になる。

 とは言え、アルサレアはこの資源調達ルートは半ば諦めていた。それも当然である。首都圏は囲まれ、資源を輸出する事が出来る状態ではないのだ。
 そのため、この地に送られる兵士はノートン・ロウに代表されるような、捨て駒的兵士たちがその殆どであった。

 そんな地に向かう輸送機の中にはROUGEと呼ばれる特務小隊の面々が分乗していた。
 先行する輸送機にROUGEのリーダーである小隊長、ラーナ・エルバラード。
 複座型Jアームドに乗る、光沢のある茶色い髪を長く伸ばしているウミ・ミツヅカ。
 年のわりにはどう見てみ幼く、それをますます助長するような言動が特徴的な、ウヅキ・ウノハナ。
 槍の達人でそれを活かしスピアを主体とした機体構成のPFに乗る、エルシール・ミストリア・リシャール。
 この四名が搭乗している。
 彼女たちは降下が近いのでPFのコックピットで待機し、作戦前の雑談などに花を咲かせていた。

「そう言えばウヅキさん、リップス小隊の皆さんは行方不明なんですってね」

 複座型のコックピットの後ろに座るウミが、前に座っているウヅキに話しかけた。
 ウヅキはウミの方を振り返り大きな瞳をぱちぱちと二度三度瞬かせ首を傾げる。

「そうだっけ……元気に“ぐれんり〜だ〜さまぁ〜♪”とか言って野原を走り回っているじゃないかな」
「あらぁ? そうでしたか」

 コックピットに乗り込む前に、小隊長であるラーナから「リップスは行方不明になっている」と聞かされたと記憶しているウミは、ウヅキのその言葉にどっちが正しいのか分からなくなってしまった。普通の人ならばそんな事で分からなくはならないが、彼女は違った。

(ぇぇぇぇ、どうしましょう……私のパートナーのウヅキさんが嘘をつくなんて思えませんし……ラーナ隊長だって、嘘なんてつく人じゃありません。私、どっちを信じればいいのかしら……二人とも……二人とも、きっと嘘なんてついてませんわ。でも、でも、もしかしたら二人とも嘘をついていて……私を苛めるつもりなの)

 ウミは独りで想像を膨らませながら、身体を縮こまらせ暗く不安な顔をすると、もじもじと身体を動かし始めた。
 そんなウミの姿を確認したウヅキは楽しそうに笑顔を作ると前を向き直り、食べかけのチョコスナックを口に放り込んだ。

(みょほほぉ〜、ウミちゃんってば、直ぐに考え込んじゃうんだからぁ。やっぱ、ウミちゃんで遊ぶと、たっのしいなぁ〜)

 ウヅキはウミの、直ぐに相手の言葉を鵜呑みにして信じ込んでしまう性格を利用して楽しんでいる。ウミもウミでこれまで数え切れないほど、この様にだまされているにも拘らず、自分がだまされている事に一度として気が付いた事はなかった。

「お、入電あり! スイッチ、オン!! ……隊長、待機ご苦労様です」

 通信の呼び出し音に気が付いたウヅキが、楽しそうにスイッチを押すと、通信用モニターに小隊長であるラーナの顔が映し出される。彼女はその画面に向かい無邪気な笑顔と共に敬礼をした。

『ウヅキ、ウミ、もうじき降下よ。準備は良い?』
「はぁ〜い。ウヅキ準備万端、発車お〜らい!」
「……どうしよぉ、どうしよぉ」

 元気の良いウヅキとは反対に、ウミはまだ想像の世界から抜け出ておらず、未だに不安な顔をしていた。

『ウヅキ、また何かしたの?』
「何もしていないよ」
『降下の時までには、ウミをこっちの世界に連れて戻してよね』
「りょぉ〜かい、そう言えばエルちゃんは準備OKなのかなぁ」
『当然です。貴方と一緒にしないで下さい』

 もう一つの通信用モニターにエルこと、エルシール・ミストリア・リシャールの顔が映し出された。どうやら通信を聞いていたようだ。

「エルちゃん、盗み聞きは良くないぞぉ」
『人を盗人みたいに、言わないで下さい。たまたま耳に入ってきただけです』

 エルの顔立ちには古代の大理石で出来た彫刻を思わせる気品があり、軍とは縁遠い世界の住人の様に思える。

『私は貴方のように、作戦行動前にPFのコックピットでお菓子なんて食しません!』

 どうも、話の内容が噛み合っていない。
 頭の中で自己完結して自分の言いたい事だけを言っているのかも知れない。会話に気を使わないでも良かったお嬢様育ち故だろう。

「なんだ、エルちゃんもお菓子食べたいの?」
『違います、私が言いたいのはですね』
『二人とも、ストップ! エルは会話がちょっとずれるんだから、落ち着いて話しなさい。 ウヅキはウミやエルで遊ばないの、いいわね! それと、ウミを現実に引き戻しておきなさい』
「りょうかぁ〜い」『了解致しました』


 

 もう一機の輸送機、こちらには“タートル・オブ・ゲイル”と呼ばれる防御力超特化型Jメガバスターに搭乗する、長身に知的なメガネが似合う、ウヅキとはうって変わって大人びたオリビア・ホワイトクレイ。
 Jファーカスタム・スペシャルエディションに乗る、アルサレアの祭事を司る家に生まれたばかりに、都合により男の名前を与えられ、それに答えるべくいつでも男装の、ガレフ・セキネ。
 この二人に、先ほどの四人を合わせてROUGEと呼ばれる小隊の主要メンバーになる。

 ROUGE、ルージュ小隊は各特務小隊のサポートを目的に作られた特務小隊だ。
 しかし、実際はリップス小隊のフォローがその主な任務で、今回もツェレンコフ・ゴルビーから特命を受け戦場に向かっていた。
 ゴルビーからの任務内容は「命を狙われているリップス小隊を保護し本国に無事連れ戻せ」と言うもの、単純でありながら一筋縄ではいかない任務である。

 オリビアはメガネの奥の瞳を潤ませ、定まらない視線をコックピット中に駆け巡らせている。
 そうして不安な気持ちを少しでも紛らわそうとしているのだ。
 しかし、まったく気持ちは楽にならず不安は益々高まる一方であった。

「ガレフさぁーん」
『どうしました?』

 声を震わせ、同僚ガレフ・セキネに助けを求めて通信を入れるオリビア。
 ガレフの凛っとした声を聞いて安心したせいかオリビアは瞳に溜めていた涙を零しそうになった。

「うぅ、ぐすっ、私たち無事に帰れるますかねぇ?」
『弱気ですね。でも、大丈夫。わたくしが守ってあげます……』

 涙を堪えコックピットで弱気の発言をするオリビア。それを励ます、ガレフ。
 美しい仲間を思いやるシーンに見えるが、実はそうではない。

『だから、今度は逃げないで下さいね』
「だ、大丈夫。今度は逃げませんよ……絶対」
『そうは言うけど、今まで戦闘中に何回逃げました?』

 オリビアは戦闘中に危険になると逃げると言う癖があるのだ。
 ただ逃げるのではない瞬間転移で完全に消え去るのだ。しかも、味方を置いて。
 ガレフは、今度はそうはならない様にと言う思いから、彼女に釘を刺そうと言うわけだ。
 オリビアの絶対は逃げ癖に関しては有り得ない。

「う〜んと……三回かな?」

 先ほどまで泣きそうだった彼女だったが、不安はどこかに飛んでいってしまい、今度は恍けて逃走回数を誤魔化そうとする。
 まるで、いままでが芝居だったかの様にも思えるがそうではない、彼女は本当に戦闘が怖いのだ。
 どれくらい怖いかというと弾がモニターに映ると思わず目を瞑ってしまうぐらいに怖がりだ。
 しかし、それでいて楽天家でもあるので会話により戦闘の事を一時的にでも忘れられれば、彼女の不安も一時的に解消される。

『まぁ、そう言う事にしておきましょう。十回以上逃げているなんて言えないですよねぇー』

 ガレフは言葉の語尾を延ばし、オリビアの逃亡回数二十四回の話を曖昧に終わりにした。

「とほほぉ、もう逃げませんよ……だから、しっかり守って下さいね」
『逃げなかったらね』

 PFコックピット内で話し込んでいる二人とは別に、ルージュ小隊に欠かせないもう一人の構成メンバーがPFの足元においてあるポッドの中にいた。
 エデン・ビサイズと言う男だ。
 彼はルージュ小隊の専属メカニックだ、独りで全PFの整備を殆ど行っており、その腕前は折り紙付であった。
 今回の遠征に際して「現地のメカニックになどルージュのPFは任せられない」と意気込みついて来たのだが、今では後悔していた。

(あぁ、ついて来なけりゃ良かった……こんな降下方法をするなんて思ってなかったもんなぁ)

 エデンはホーシェレンシュタウファン王国の戦況を考慮せずに志願したのであった。
 過酷な条件でも自分の整備の腕でPFの性能を何処まで引き出せるのか試してやろう、と言う好奇心と整備魂が彼に志願させた。そこまでは良かった。
 問題は、降下の方法だ。
 まさか人間をコンテナと同じ方法で落とすわけには行かないので、ポッドに人間を乗せそれをPFが持ち、一緒に降下するという方法をルージュリーダーことラーナは選択していた。

(隊長はPF乗ってるから良いけど、俺は悲惨だよな、人に運ばれるんだから、よりによって……)

 エデンの不安を増す材料として、今回ポッド運搬役がオリビアと言う事があった。
 逃げのオリビアとして有名だが、戦闘中に敵の弾が怖くて目を瞑ると言う“臆病オリビア”と言う通り名もあるのである。
 そんなパイロットに運ばれるのだ……不安にならない方がおかしい。

(だ、だけど、俺が組み込んだBURMシステム誤認装置があれば、ポッドをPFに兵器と勘違いさせてオリビアの機体と一緒に瞬間転移できるはずだ……実際に試したこと無いけど……やっぱり、不安だ)

 哀れなエデンである。









 

 ルージュ降下予定ポイント付近。
 コハクとカレイドはPFのセンサーモードをパッシブに切り替え、森の中に身を潜め待機していた。ノートンのPFの姿はまだ見えない。
 コハクの赤いカスタムPFレッドバードの隣に、ダークグレーのカラーリングのPFが一機。カレイドのボトムガイスト・オブ・ドックと言う長ったらしい名前の機体だ。
 機体本体はカスタムPFの様だが、その装備している武装は見慣れない武装が多い。「なんで、正規の軍人でもない傭兵でこれだけのPFと兵器を所有できるんでしょうか、壊れた時の整備や修理はどうするんですかね?」と言う疑問をコハクは持っていたが、聞いてもろくな答えが返ってきそうに無いので聞かずにいた。
 それに、素性はどうあれ今は味方としてアルサレアと契約をしているわけだし、役に立てばそれで良いという割り切りもしていた。

『ところで、ノートン・ロウ少尉ってどういう人なんです?』

 カレイドがPF間の通信手段の一つ、接触回線を使用してコハクに話しかけてきた。
 接触回線はコックピットの振動を接触させたPF間でやり取りして交信される、例えるなら複雑な機構を持つ糸電話のようなものだ。

「ロウ少尉ですか、私も個人的に知っているわけでは無いですけど、作戦時には頼りになる人だと思いますよ」
『たしか、元コバルト小隊の隊長でしたっけ? ん、あれ……今のコバルトリーダーはミカゲさんでしたっけ?』
「なにを言っているのですか、カレイドさん?」

 コバルト小隊、そんな名前の小隊はコハクの知る限り存在はしなかった。仮に知っていたとしても彼女にはアルサレアの軍人では無いカレイドに教える気は毛頭ない。
 当然、彼女がその小隊の隊長などであるわけがないし、今現在、コバルトのコの字も入っていないこの小隊に彼自身所属し、彼の部隊の上官であるコハク本人にそんな質問をしてきた。
 戦力になればそれで良しと割り切っていたコハクではあったが、内心作戦に連れてきた事を後悔してきていた。

(時間の感覚だけではなくて、この人は自分自身の事、かなりの物に対して疎いのでしょうか……カレイドさんを連れてきたのは、失敗だったかもしれませんね。作戦行動そのものを忘れられたら大変な事に、なってしまいます……戦力外と、思った方が良いのかもしれません)

『う〜ん……記憶違いだったかなぁ』
「……薬でもやっているんですか?」

 まだ悩んでいるカレイドに、コハクは思わず直球で尋ねてしまった。
 それも無理ない、カレイドは先ほどから会話がかみ合わないし、わけの分からない事を言ってばかりだ。
 誰だって薬、いわゆる覚醒剤や麻薬を使用しているのでは無いか、と疑問に思ってしまう。

『……薬? ヤクですか、あれはねぇ。駄目ですよ……身を滅ぼします。それに私は一瞬たりとも気を抜けませんからねぇ……気を抜いた瞬間飛んじゃいますから、まぁ……癖にはなりますね』
「そうですか、戦闘のときは飛ばないようにお願いしますね」
『了解、りょ〜かい、任せといてくださいよ』

 かえってきたカレイドの気の抜けた返事に、コハクはため息を付かずに入られなかった。

(はぁ……心配です。飛ぶとか飛ばないとか……ここまで酷いとは、思ってもいませんでした)

『あと……1分もすればシンザンが来ますよ』
「はい?」
『もうじきですねぇ、くくっ』

 カレイドの声が裏返る、これから起こる戦闘を楽しみにしているようだ。
 彼の声を聞いたコハクは、ぞわぞわした嫌な感じを覚えると同時に、彼女が昔よくかいだ臭いを思い出した。PFに乗っているとあまり嗅ぐ事の出来ない、血の硝煙の臭いを。

「なに、言ってるんですか?」
『……贄が足りないかな』
(嫌になりますね、この人……はやく、終わらせたいな)

 表面上は常に冷静で何事にも動じないコハクであったが、麻薬常習者とさほど変わらぬパイロットの乗った僚機には、顔を曇らせ不安を抱かずに入られなかった。
 それに、カレイドの存在自体が彼女の心に苛立ちを起こさせていた。









 

 リップス四人娘は、焚き火を囲みながらこれからどうするのか話し合っていたが、けっきょく答えは出ないまま、会話はただの雑談へと移行していた。

「ねぇねぇ、この森に来てどのくらい経つ?」

 イズミが何気なくそんな事を呟く。
 プリスは彼女の横で焚き火に枝を出し入れして遊んでいる。

「私の時計だと……3時間といった所だな」
「そう? 私の時計だと、5時間と21分よ」
「それはお前の時計が狂っているのだ」
「なによぉ、私の時計が狂ってるわけないでしょ!」
「どういう根拠でそんな事をいっている! だいたい、この間だってな……」
「私はメカに関しては絶対なのよ。時計だって、私の物は何時も念入りに確かめているんだから……」

 三時間と言ったセリナと、五時間と二十一分と言ったリサがたいした事でもないのに口喧嘩を始めてしまった。

「二人ともよくやるねぇ〜」
「しょうがないよ、イズミちゃん。年寄りって言うのはガミガミ、口うるさいもんだからね」
「やっぱ、年寄りはやだよね。プリス」
「ああ言う、年のとり方はしたくないよね」

 二人の口論を眺めながらプリスとイズミは大して年も変わらない二人を眺めていた。

「それにしても、この霧、晴れないないねぇ」
「まったく、嫌な霧だな……」
「そうよねぇ、霧のせいなのか私のJフェニックスのレーダーも調子悪いし、GPS【Global Positioning System】も全然駄目」

 つい先ほどまでデッドヒートしていた二人は、いつの間にか口喧嘩を止めていた。顔に怒りをあらわにして争っていた二人だが、いまの顔には見る影もない。

「ところでな、プリス、イズミ」
「……なに?」
「年寄りって誰だ!」

 セリナとリサの視線を受け、言葉を失ったイズミとプリスは静かに手を上げ二人を指差した。

「修正してやる」「なぁんですってぇぇ!」

 セリナとリサが同時に上げた叫び声をゴングに、二対二のタッグマッチが開始された。
 どこにいてもリップス四人娘は平和の中に生きている。回りに迷惑を掛けているとも知らずに、平和の中にだけいる。
 彼女たちにとって、四人での喧嘩は楽しい遊びと変わらないものらしく、取っ組み合いをしている四人は、どこか楽しそうに見えた。







 

『来ましたよ、コハクさん』

 カレイドがコハクに、接触回線で話しかけてきた。先ほどの会話からちょうど一分が経っている。
 コハクはパッシブモードの各センサーの表示を見たが何の反応も示していない。
 それも当然だ、待ち伏せするにも攻撃するにも、正面からぶつかり合うような戦いでもなければレーダー、各種センサーは、受動的な外部からの情報を感知するだけのパッシブモードに切り替えるのが普通だ。
 今回は、アルサレア側が輸送物資の回収、ヴァリム側がその阻止、どちらの陣営も輸送機が到着してからが本格的な行動開始である。それまでは、お互いなりを潜めて隠れているものだ。
 だから、目視で見つけない限りは敵を発見すると言うことは無い。

「敵が来たんですか?」
『そうですよ、じゃっお先に……』
「ちょ、ちょっと、カレイドさん!」

 止めるまもなく彼は機体を宙に躍らせて、飛び出していってしまった。
 コハクはカレイドの行動にあきれつつ、動き出したからには仕方がないので自分も彼の後を追うことにした。
 レーダーをパッシブモードからアクティブモードに切り替える。目に見えないレーダー波が、周囲に飛んでいった。
 彼女が自機レッドバードをジャンプさせようとした時、PFサイズの金属の塊に反射したレーダー波が彼女の元へと帰ってくる。

(本当に敵が来ていたんですね……ロウ少尉はまだ来ていないですけど、少し片付けておきましょうか)

 彼女が機体をジャンプさせる巨大な木々の枝の間を抜け空に出る、数百メートル先にカレイドの乗る機体が見えた。
 レーダーに映る敵の機影は八機、レーダー波の届かない死角に紛れ込んでいるのがもう三機ほど潜んでいてもおかしくないだろう。
 ダークグレーのカレイドの機体が胸部に内蔵されているキャノンを放つ。距離があるので完全なめくら撃ちだ。
 だが、敵にこちらの存在を教え何らかの動きを強要するには十分な攻撃である。
 森の中から四機のシンザンが飛び出す。そのジャンプ力であっという間にこちらよりも高い位置を取った。
 コハクは上からの攻撃を恐れ、むやみに追いかける事をせず機体の高度を下げ森に機体を隠す。

「カレイドさん、一端引いて下さい」
『はははっ、良いねぇ。この感覚、止められないよな』

 カレイドはコハクの言葉が完全に通じていないようだ、機体を上昇させ追いかけようとしているが、案の定、空から降ってくる手裏剣や弾丸を回避するだけで精一杯のように見える。

「カレイドさん!」

 もう一度呼び掛けたがまるで反応がない。
 コハクは彼がもう役にはたたないと割り切り独りで何とかする方法を模索しだす。

(半端なスタンドプレーでは、何もできないと言うのに……まったく)

 森の中から上空の様子を窺っていた彼女の機体の周囲が揺らいだ。二機のシンザンが瞬間転移して現れようとしているのだ。
 コハクは気配で敵の瞬間転移を察したのか、勘なのか、予想していたのか、あるいはその全てか、敵機が完全にこの場に現れレーダーに映りこむよりも速く反応した。かなりの反応速度だ。
 ブーストペダルを踏み込み、レッドバードを木の陰に移す。
 シンザンが二機現れた。瞬間転移後の目の前に敵がいると思い込んでいた敵のパイロットは、いるはずの敵がいないので吃驚したのだろう。動きが一瞬止まる。
 コハクはがら空きになったその背中にPFの手に装備されたサブマシンガンを叩き込み飛び出した。背中の装甲版が弾け飛び、破片が周囲の木に刺さる。
 破片がレッドバードにも当たったがそれは軽い音を立てるだけで何の障害にもならない。

(どっちが速い?)

 コハクはモニターに映るシンザンの動きを見極めようとした。どちらもジャンプで逃げるのは分かりきっている。
 奇襲をするはずが奇襲をされたのだ、ベテランであろうが新米であろうが動揺はする。先ほど一瞬動きが止まった事からもそれは見て取れる。
 逃げずに反撃を試みてくるのもいるが、それほどのパイロットならはじめから森の中の姿が見えない敵への確実性に欠ける瞬間転移での奇襲など行わない。
 レッドバードからの距離は二機とも同じぐらいだ。
 二機がほぼ同時に膝を屈伸させる。だが、コハクの目は両パイロットの動きの差を捉えていた。一秒にも満たないその差を。
 若干遅れ気味の手負いのシンザンのコックピットに向かいカタール突き刺、

(外れた?)

 せなかった。突きはコンマ何秒の誤差で空振りに終わってしまう。
 攻撃を運良く回避できた手負いのシンザンも上空へと逃れる。
 コハクはすぐさま機体に上を向かせサブマシンガンで攻撃しようとした。しかし、その敵機に近づく味方機の機影がレーダに見えたのでトリガーから指を離す。
 味方機はノートンのJアインであった。
 彼は上昇中のシンザンのコースに割り込み頭頂部あたりから強引にパイルバンカーを打ち込む、ヘッドフレームは上からの圧力と自らの上昇スピードとのぶつかり合いに耐え切れず平たく潰れ、人の様にビクッと体を震わせる四肢を強張らせると地上へとシンザンが落下していった。
 ノートンのJアインに装備されたパイルバンカー、機体の左腕にはPFの自重の数倍の負荷が掛かったことだろう。そのまま?げてもおかしくない位だ。

(そうか、私は……迷ってたんだ)

 ノートンの相手のパイロットの事を考えてない躊躇ない、戦いぶりを見て先ほど外した理由がなんとなくわかった気がした。そして、彼へ吐き気もする程の嫌悪感を抱いた。

(彼の考え方……戦法や行動ではなく、殺人を殺人とも思ってもいない考え方……あれが、嫌いなんだ……自分を見ているみたいで、嫌なんだ。だから、敵、いえ。ヴァリムのパイロットを殺せなかった。信じられないな……こういう感じを味わうなんて、夢にも思わなかった……っふふ、生きてて良かった)

『少尉、遅れてすまない。機体の調子が悪くてスピードが出ないんだ。悪いが無茶を出来ないから頼りにさせてもらう』
「了解、無茶は任せておいてください」

 ノートンは無茶をできないと言ったが先ほどのパイルバンカーの使い方も十分無茶な部類に入る。
 突然、コハクが頭部に内蔵されているメガバスターを空のノートンに向かって放つ。
 ノートンは横に移動し、いとも容易くよけたが、Jアインの背中にアサシンファングでタックルをしようとしてたシンザンは肩部に直撃を受け機体バランスを崩した。そこをノートンが止めを刺す。

『助かった』
「いえ、この調子で片付けていきましょう」
『少尉の僚機は?』
「空で遊んでます」
『っふ、そうか……』

 そう言うと彼のJアインは空を見仰いだ。
 上空五百メートル程のところで、カレイドは楽しそうに十機ほどのシンザンを引き連れて楽しそうに飛び回っていた。








 

第五幕へ続く

 



〜設定〜


○ROUGEメンバー紹介

〔R〕ラーナ・エルバラード 年齢:二十七歳 性別:女 階級:中佐
 髪と瞳は紫、髪の長さ肩ぐらいまでで無造作に切ってあり手入れが行き届いていない。性格は基本的に大雑把で細かい事には拘らない、日常生活においてはズボラだが、戦闘に関しては沈着冷静、と極端。 
十五歳の時からアルサレアの傭兵をしており、元戦闘機乗り。PFが出回ってからはPFに乗り換え順調に昇進を続けていたが、ある時ゴルビーの目に止まり、ルージュ小隊の小隊長に抜擢された。小隊長になってからは任務の性質上、戦果を上げられず、彼女の本心は戦いたくてウズウズしている。戦争は嫌いだが、戦闘は嫌いではない好戦的な面がある。血を見るのが好きとか危ない境界線を越えてはいないが、戦うことしか知らないので、それ以外には生きる道を見いだせないでいる。


〔O〕オリビア・ホワイトクレイ 年齢:十六歳 性別:女 階級:軍曹
身長、180cm。顔立ちは大人びており実質年齢よりもかなり年上に見られる事が多い。眼鏡をかけているので、知的に見えるらしくデスクワーク系の仕事を沢山回され易い。しかし、それは見た目だけでなくデスクワークをしっかりとこなせるだけの能力を持っているからである……実はPF戦は苦手。
性格は、遊び回りたいし、彼氏作りたいし、美味しいモノ食べたいし、とかなりやんちゃ。見た目とは違い自由奔放な遊び人気質といえる。しかし、お金にはしっかりしており真面目に仕事をする勤勉家。
戦闘では、敵の攻撃に目をつぶるなどと、命知らずなことをする馬鹿者だが、その都度仲間のフォローにより九死に一生を得てきた。ちなみに、デスクワーク系の仕事が多かったせいか、方々に人脈があり情報戦が得意。また、物資の調達が極端に得意。
搭乗PFは、シールドを構えていれば亀になれるJメガバスターに搭乗しており、やばくなると瞬間転移でスタコラサッサ……その際に、味方を置いておく事も多い。

 上記のキャラは【踊る風さん】から頂きました!


〔U〕ウヅキ=ウノハナ(卯乃花 卯月) 年齢:二十二歳 性別:女 階級:軍曹
性格はお気楽、極楽、能天気をそのまま表現し、何事も前向きで、常に笑いを絶やさない。自分の事を自分で「ウヅキ」と言う。その割にその名前、容姿ともにコンプレックスある様で、指摘されると怒り出す。見た目・精神年齢ともに低く見られることが多く五歳は若く見られる事もしばしばあるとか、本人はその事を気にしている。
好きな事は可愛い物を集める事と目立つ事、写真を撮る事、おいしい物食べ歩き、得意な事は変装(自称)、射撃戦である。

 上記のキャラは【ヨニカ=グリフィスさん】から頂きました。なお、キャライメージは「HAPPY☆LESSON」の「四天王うづき」との事です。


〔U〕ウミ=ミツヅカ(三塚 海) 年齢:二十一歳 性別:女 階級:少尉
ダークブラウンの髪と瞳で、髪はロングという容姿。性格は一応常に冷静沈着に見えるが……実は人と話す時には極度に緊張してしまう極度の上がり症。そのため他人を意識せずに独り言の様に話す事が多い。ただし、長く一緒にいて慣れた相手には、それほど上がらなくなる。
 素で非常によくボケをかます。そのため仲間によく突っ込まれており、ツッコミ役にはなれない。事務処理能力は高くその方面が向いてる。

 上記のキャラは【タングラムさん】より頂きました!


〔G〕ガレフ・セキネ 年齢:二十一歳 性別:女 階級:軍曹
アルサレアの祭事を司る家系に生まれ、生まれる直前の神託で「男が生まれればアルサレアに幸福がもたらされる」と言われたが女性だった。しかし、ガレフの両親は不幸にも彼女に男の名前を与えてしまった。
外見は美女のままだが、服は男物を着用している。それは、女性に生まれてしまい彼女の両親、特に父親がガッカリしている事をひしひしと感じながら育ったため、彼女なりに少しでも期待に沿うようにとの考えからである。軍に入ったのも、PFのパイロットになったのもその様な理由からの様だ。

上記キャラは【神楽歌さん】から頂きました!


〔E〕エルシール=ミストリア=リシャール 年齢:十九歳 性別:女 階級:大尉
通称、エル。完璧主義者ですが特に周りにまで厳しいとかそういうことはない、むしろ自分の目標に向かってマイペースに突き進む。自分は自分、周りは周りと割り切っているところがある。
口調はハキハキと喋るので初対面の相手には好感を抱かれない方が珍しい、と言うぐらい周りからは人気がある。だが少しでも付き合うと分かるが・・・・感覚がずれているところがある。特に会話などは食い違う事がしばしば良くある。
使う得物は槍系、ミストリア家のお嬢様でもあるエルの家系は武芸の名門中の名門で、どんな武器でも、と言うわけにはいかないが、槍、スピア系ならば10000人切りでも朝飯前だろうという噂がある。

上記キャラは【桃音さん】から頂きました!


〔専属整備員〕エデン・ビサイズ 年齢:25歳 性別:男 階級:少尉
癖のある機体が数多くあるROUGEで整備担当をしている。部隊に欠かせない名整備士! 好奇心が旺盛なせいなのかパイロットに黙って設定を微妙に変えたりして動作不良をまれに起こす事もあるが、殆どの場合は性能が向上し良い結果を招く事の方が多い。しかも、オリジナル特殊BURMすら作り出してしまう! PFの整備に関してはアルサレア内でも10本の指に入る人物で貴重な人材である。

 上記キャラは【護鬼さん】から頂きました。




 

〜後書き〜

 随分と前に、募集しておいてなかなか出せなかったROUGEのメンバーがようやく出せました。まだモルモットは出ませんが、彼らが出てからは一気に話しが終結へと進む予定なので、今しばらくのお付き合いを願います。 2004/06/20 usagi.

 


 管理人より

 バーニィさんよりモルモット小隊番外編第四幕をご投稿頂きました!!

 ROUGE……そういえばキャラの殆どが初登場ですね(笑)

 しかしそんな所に幽へ……もとい隠れていたとは(苦笑)


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