モルモット小隊番外編

第??話 「Dead or Alive 〜“all is vanity” but I don't think so〜」


第一幕







 

「おはよう、諸君!!」

 俺は復帰した。
 実に一ヶ月ぶりに俺、ウィル・レイヤードは、病院から退院し原隊復帰を果たしたのだ。
 当初は数日間の駐屯予定だったが、すっかり俺たちが落ち着いてしまった基地の、モルモット小隊仮控え室の扉を開く。
 そこには、しばらく見なかったみんなの歓迎の笑顔があると……思っていたのだが。

「なんだってこんなに始末書が多いのよ!!!」

 と、絶叫しながら始末書の代筆をしているナタリー君の姿と。

「……」

 激しく叫ぶナタリー君が動ならば、静の状態で背中から延びたコードを、コンセントにさし込み充電中の、ロアがいただけであった。
 二人とも、いや、一人と一体は俺にまったく気が付いてくれなかった。
 これが現実か……病院のベッドの上で、エリア中尉のゆっくり口調でしゃべる話を聞きながら夢見ていた、“隊員総出の快気祝いパーティー!” やはり、あれは夢でしかなかったのか。

「ロアァ〜、ロアァ〜、どこに行ったんだぁ〜い、ちょっと来てくれよぉ〜」

 俺がドアを開けたままの姿勢で、存在に気が付いてもらえない寂しさに打ちのめされていると、廊下をこちらに歩いてきながらロアを呼ぶ、ライナーの声が聞こえてきた。
 このまま、歩いてくればこの部屋に来る。
 彼ならば、まじめなライナー君ならば、俺に気が付いてくれるに違いない。こうなったら自分から声をかけると、隊長の威厳をそこないそうで怖いから、気が付いてくれるのを待ってみよう。

「ロアァ〜、ロアァ〜、データ取りを手伝ってくれよぉ〜」

 よしよし、だんだん近づいてきたぞ。
 ロアは充電中。
 ナタリー君は目を充血させて始末書に追われていて未だに俺に気が付いていない、ライナー君、君だけが頼りだ!

「ロア、ここかい?」

 部屋の入り口で俺は目立つようにわざとそのまま立っている。ライナーが俺の脇から部屋の中を覗き込んだが、まだ気が付かないようだ。
 ライナーが覗きにくそうな顔をしながら俺の方を見上げた。
 目が合った!

「おじさん、ちょっとどいてよ。そんなところに立ってたら邪魔だよ」
「お……」

 俺は絶句した。
 よもや、ライナー君に顔を忘れられてしまうとは、確かにそんなによく話をしていたわけではないが……隊長の……い、威厳が……。
 ロアのモノアイが、キュピ〜ンという効果音でも聞こえてきそうな光り方をした。
 始動したロアは部屋をぐるりと見回すと、こちらに目を留める、声をかけた主であるライの姿を見つけたようだ。

「お久しぶりです、ウィル隊長。退院おめでとうございます」

 なんと! ライナーで無くまず俺に話しかけてくれた!!
 俺の心は感動でいっぱいだ。隊長やっててよかったぁぁぁ!!

「あ、隊長だったんだぁ」
「ウィル隊長、申し訳ありません。ライは自分の好奇心を満たす対象を見つけると、それしか見えなくなってしまうのです」

 ライナーが遅れて反応する。
 やはり、気が付いていなかったんだね。
 ロアはしっかりライナー君のフォローをこなす。ライナーは研究者だからな、そう言う気質は仕方がないことだ……それにしても、俺の存在は彼の好奇心の「こ」の字にも引っかからないのか。

「隊長、いらしてたんですか……すみません、仕事に追われていて気が付きませんでいた」

 おぉ、ナタリー君もようやく気が付いてくれた。う〜ん、ロアありがとう。
 俺は無言でロアに近づいてゆき思わず握手してしまった……しかし、悲しいなぁ、人間ではなく機械が初めに気が付いてくれるとは、ロアの冷たい手の感触が、なんだか寂しい。

「ロア、ちょっと、整備手伝ってよ。新しいのが来たから人手がいるんだ」
「かしこまりました。直ちに参りましょう……隊長、それでは失礼します」
「じゃ、隊長さん」
「整備よろしく頼むぞ」

 俺は一人と一機を見送った……しかし、ロアって人間が中に入っているんじゃないかと思ってしまうような奴だよな。

「隊長」

 ナタリー君が後ろから俺を呼んだ。振り返ると彼女がにこやかにこちらを向いていた。
 笑顔で迎えてくれるとは……うん、うん、俺の威厳もまだ錆びちゃいないな。

「はい、どうぞ!」

 と言って、彼女が無いやら俺に白い物を差し出す。むむ、快気祝いか? 嬉しいな。

「これは?」

 俺はいちおう聞いてみた。

「始末書です……判子とサインお願いします」

 始末書……始末書か……そう言えば、入院する前に色々あったもんなぁ。
 俺は入院する前の嫌な出来事と失敗の数々を次々と思い出した。

「あぁ、判子ね……判子を押すだけで良いのか?」
「はい、私がそれ以外の事は済ませておきましたから、モルモット小隊の小隊長としての判子を下さい」
「えぇっと……どれに押せば良いんだ?」
「あっちの段ボール箱に入っているの全部です」

 ダンボール箱? 
 俺が部屋の隅に眼を移すと、そこには“みかん”や“りんご”と書かれたダンボールになにやら紙がいっぱい入っているのが目に入ってきた。

「あれ、全部か?」
「はい、大変だったんですよ。私一人で隊長がサインや判子を押すだけにまでしたんですから」
「ご苦労だったな、じゃあ、俺がお判子押しておくから休んでいて良いよ」
「いえ、まだあるのでそれを片付けてから休ませてもらいます」

 はは、まだあるんだ……。
 俺は七箱ほどのダンボールを見て、あと一箱二箱増えたとしてもあまりかわらないな、と思いながら椅子について判子を押し始めた。
 もちろん、判子を押す前に書類に目を通してからだ。どんなものが紛れ込んでいるか分からないからな……それにしても、こんなに失敗が多かったかな?

 俺がしばらく判子を押す作業に没頭していると、部屋のドアが激しく開かれた。
 言い忘れていたが、この部屋のドアはいまどき珍しく手動で開閉するドアノブが付いているタイプだ。はっきり言ってかなりのレアもののドアで、扉マニアかなんかいたら盗んでいくに違いない。
 基地施設の殆どのドアは、丈夫な金属製の自動ドアだ。セキュリティーなんかの関係でそう言うドアが主流なのだが、このモルモット小隊仮控え室は、ずいぶんと前に仮設宿舎として立てられたれたものの一室を借りているので、ある意味防犯はかなりずさんなものとなっている……まぁ、基地の奥の方にあるから盗みに入る奴なんて、変わり者のスパイぐらいしかいないんだろけどな、それにここにあるのは始末書の山だ。こんなものは盗まれたってどうと言うことは無い……と思う。

「ウィルさぁ〜ん、酷いですぅ〜〜」

 ドアを激しく開けたのは、ドアが壁とぶつかって発した凄まじい音とは裏腹に静かにゆっくり喋るエリア中尉だった。
 何が酷いのか……それは俺が彼女に嘘をついたことを言っているのだろう。
 俺が嘘をついたと言うのは、別に酷いこととは思っていない。
 俺はただ危険を回避しただけだ。
 エリア中尉は「仕事はどうしたんだ?」と言うぐらい俺の看病のために、毎日良く通ってくれた。それは非常に嬉しいことだったのだが、退院が近づいたある日、彼女は……。

「退院の日は、私が車で迎えに来ますねぇ〜そしたら一緒にその日はドライブでもしましょぉ〜〜」

 と、言い出したのだ。
 俺は仕事をしなければならないと、表向きの理由で断わろうとしたが彼女はまったく聞き入れてくれなかった。
 表向きの理由といったが、ちゃんとした理由は他にある。俺が危篤だとかの話が出た時の彼女の運転騒ぎを思い出し、彼女と一緒にドライブなんかに言ったらきっと何かトラブルが再び起こるに違いない、と思った俺はその危険を回避したかったのだ。

「ウィルさぁ〜ん、聞いてるんですかぁ〜〜〜」

 俺が回想シーンを展開していると、いつの間にか彼女が俺の隣に椅子を引きずってきて座り込んでいる。
 回想シーンに意識が飛んでいたのでまったく彼女の話を聞いていなかった。

「え? あぁ、そうだな」

 そこでとりあえず適当に返事をしておいた。

「やっぱりぃ、そうなんですねぇ〜」

 エリア中尉が突然嬉しそうな声をあげた……何かあったのか?

「やっぱりって、何がだ中尉?」
「いまぁ〜私がぁ〜」

 なんか、エリア中尉の喋り方が、いつもよりスローなのは気のせいか?
 俺は彼女の話を聞きながら、書類に目を通して判子を押してゆく、彼女の方を向いて真剣に耳を傾けていたら、判子押しが終わらなくなってしまうからだ。

「隊長とぉ〜、私とがぁ〜お似合いのカップルだってぇ〜ナタリーさんがぁ」

 ふむ、ふむ、これは請求書か……ラセツのメインフレーム? こんなもの誰が頼んだんだ。しかも、外注だし……。

「言ったのでぇ、私がウィルさんに〜、ウィルさんはそう思いますかぁ? って聞いたらぁ〜」

 ん、ヨハンス=フォスト=グリフィス? ヨハンスか、なんだってこんなもの頼んだんだ。何々、新しいカスタムPFに必要なパーツか、幾らだ? げっ、高いじゃないか!!

「ウィルさんがぁ、そうだな、ってぇ言ってくれましたぁ〜」

 言い終わると、エリア中尉は嬉しそうな顔して俺の腕に抱きついてきた。
 俺も男だ、女性に抱きつかれれば悪い気はしない、正直に言えば嬉しいが……。

「あ゛……」

 抱きつかれた拍子に俺は思わずその請求書に判子を押してしまった。ヨハンス……運が良いな、この請求書は通しておくよ。
 そんな俺たちの様子を見ていたナタリーが一言。

「隊長、見せ付けるのは他でやって下さい!」

 彼女の目を見れば、何故か嫉妬の炎でメラメラ燃えている。
 そう言えばギーグ&ベロニカの女性バージョンだったね、ナタリー君は……しかも、浮気性だとかラン君が言ってたな。

「んっ、うん……エリア中尉。今、俺は判子押しで忙しいから、君は君の仕事をしっかりこなしてくれたまえ」
「私の仕事はぁ〜ウィルさんの補佐ですからぁ、いつも一緒ですぅ〜」

 俺は咳払いをしながら俺なりに威厳たっぷりに言ったのだが、彼女はあっさりといつもの調子で返事を返してきた。

「今は特に無いからナタリー君の仕事を手伝っていくれ……その、なんだ。判子押すのは一人で出来るから」
「はぁ〜い、そう仰るならそう致しますぅ〜」

 彼女は、お手伝いしまぁ〜す、といつもの調子で話しながらナタリーの方に行った……これで良し。

 しばらく時間が経ち、俺が“ベロニカとギーグのせいで風紀が乱れて困っている”という苦情への陳謝の手紙にサインと判子を押そうとしている時。

「隊長、いらっしゃいますかー」

 そう言いながらラン君が部屋に入ってきた。
 部屋に入るなりエリア中尉と仕事をしているナタリー君を一睨みし、俺の方を向いた。

「隊長、いたいた。バレッドさんが格納庫に来てくれって言ってましたよ」
「バレッドが?」
「ライから隊長が退院したって聞いので、バレッドさんが呼んできてくれって」
「なんだろうな……」

 俺はそう言いながら席を立つ。
 長いこと座っていて疲れたので思わず、ヨッコラショ、などと声をかけながら立ってしまった。その途端に皆の視線が、俺に集まったのでちょっと恥ずかしかった。

「隊長の新しい機体が来たんですけど、特殊なんで隊長への説明と機体の調整だそうです」
「なるほど、そう言う事か……ナタリー君、エリア中尉、後はよろしく」
「了解」「いってぇ〜」

 俺はエリア中尉の「いってらっしゃい」を聞き終える前に、部屋を出てラン君と一緒に格納庫へと向かって歩いて行った。







 

 俺とラン君が廊下を歩いていると、何人もの人が向こうの方から、こちらの方に急ぎ足で歩いてきた。
 なんだか忙しそうだな、と思いながら歩いて行くとその理由がなんとなくわかった。
 廊下の向こうからクリステルが歩いてきたのだ……きっと、急ぎ足で歩いていた人々はクリステルの起こす災害を恐れて逃げていったのだろう。基地に長い事いるのだから、きっとその被害もかなりのものになっているはずだし、みんな良くわかっているのだろう。
 そう言えば、クリステルがどうとか言う始末書が多かったもんな。

「あら、隊長さんじゃありませんか」

 相変わらずサングラスをかけているクリステルが、声を掛けてきた。あのサングラス、前に俺があげた奴かな?

「久しぶりだな、クリステル」
「お久しぶりですわね」

 あれ? いつの間にかラン君がいなくなっている。
 辺りを見回すとクリステルから距離を取り、とおくからこちらを眺めている……よほどいやな目にあったんだな、きっと。

「よかったですね、退院できて」

 クリステルが俺の方をぽんっと叩いた。
 その途端、廊下の隅、俺の後ろに置いてあった消火器が、突然消化剤をぶちまけた!
 あたり一面、真っ白け……俺の背中も真っ白け……俺の髪も真っ白け……。

「げふぉ、っふぇ、っげっほ、げっほ」

 ぶちまけられた消化剤が落ち着き、辺りが見えるようになってきた。
 俺の髪の毛も服も白いのに、クリステル君は……まったく白くなかった、まったく、汚れていない。
 何時もの事か……。

「じゃ、私、行くとこがありますので」

 クリステル君は何事も無かったようにその場を後にした。

「隊長、大丈夫ですか?」

 遠くから事の成り行きを見ていたラン君が近寄ってきた……ラン君、君の遠くから様子を見るその姿勢は実に正しいよ。

「何とか生きてる……それにしても、これどうしたもんかな?」
「っま、ほっときましょ」
「いや、ほっとくのは不味いだろ……」

 そう、廊下に消火器を撒き散らしておいて放っておくのは不味い。また始末書が増えるからだ……待てよ、あそこまであるんだ。一枚増えたところでどうと言うことは無いか。

「よしっ、今回は放っておこう!」
「そうそう、適当に誰か片付けておいてくれますよ」

 決断すると俺はサッサとその場を後にした……その後、罪悪感が残ってしまった俺は、この日の深夜、誰も片付けていなかったこの後始末を自らするのであった。
後日、始末書も来た事は言うまでもない。しかし、始末書が何故うちに来る……基地の問題だろうに、もしかして、基地の悪い事はみんなクリステルのせいにして家に回しているのか?


 さて、格納庫。
 なんだか明るい雰囲気に思えるのは気のせいか?

「はぁ〜い、お昼ご飯なのですぅ〜」

 明るいのは何故かと思っていたら、どうやらその原因はエミールにあるようだ。よくわからないが、整備員のみんなに食事を配っている。そう言えば……腹減ったな。

「エミールさんは、隊長が入院中、ずっと炊事担当班の手伝いしているんですよ。パイロットは小隊が機能してないとやる事が無いですからね」

 ラン君が、解説してくれた。そうか……ご苦労だったな、エミール君。

 改めて格納庫を見回すと、見慣れない機体がいくつか目に入ってきた。
 格納庫からGRIL系のPFは一切なくなっており、かわりにカスタムPFなんかが置いてある。
 GIRL系がなくなったのは非常にありがたいことだが、やたらと印象が強かったのでいざなくなって見ると少し寂しい気もするな。
 「俺の機体はどこだろな?」と、思いながらぐるりと見回すとやたらと目立つカラーリングのPFが目に付いた。よくよく見ればそのカラーリングには見覚えがある、たしかヨハンスの機体だ。

「あれは、ヨハンスさんの新しいクリムゾンですよ。ラセツメインが届いたって言って大はしゃぎしてました……男の人っていくつになっても子供ですよね」

 俺がヨハンスの機体に見とれているのに気がついたラン君がわざわざ解説してくれた。
 ラン君、君の言うとおりだ、男というのは死ぬまで浪漫を追い続ける子供なのだよ。

「そうか……あれがラセツメインを組み込んだ機体か、経費で落としたんだからたっぷりヨハンスには働いてもらわないとな」
「経費で落ちたんですか?」
「……まぁ、いちおうな」

 本当に経費で落とすのはこれからだけど……まぁ、判子押してしまったからな。きっと経費で落としてくれることだろう。仮に落ちなくても俺の給料から天引きだな。

「へぇ〜PFのパーツって外注しても落とせるんだ……今度、頼んでおこっかな、新進気鋭のタールネクル社って言うのがあるんですよ」
「あまり高くないやつにしてくれよ」

 ……失言をしてしまった。しかし、ヨハンスだけ特別と言うわけには行かないからな、今度予算案についてゴルビーの爺さんとよく話し合わないとな。

「隊長の機体はあれですよ」

 ラン君が指差した先には、以前に乗っていたグリームニル同様に黒い機体があった……まさか、またアザゼルが搭載されているなんて事は無いだろうな、だったら絶対に嫌だぞ。俺が今度あいつに会ったら本当に殺されかねないからな。
 よく見てみれば、Jファー量産方のシルエットをしていたグリームニルに似てはいるが微妙に違う。
 そうか、シルエットはJファーカスタムにそっくりだ、でも……なんか違う。隣に並んでいるシンザンカラーの見慣れないPFと比べてわかったが、今度の機体は他のPFよりも一回り小さいようだ。
 と言うことは……PFではなくて、またアルファズルだとかの機体だろうか?
 アルファズルと言えば、前にレイシスとか言う小さな研究員の女の子が俺に「アルファズルって知っている?」とか聞いてきたな、なんでもあの子は実験中の事故で行方不明になったとか噂を聞いたが、う〜む、そういう実験中の行方不明……つまりは死亡。死体を確認してないから行方不明なだけだからな、そう言う実験こそ俺たちモルモット小隊に回ってくるべきだと思うんだけどな……ゴルビーは何を考えているんだ?
 俺が珍しくまともな事を考えてながら、バレッドと遠くからでも目立つロアが作業中の、新しい機体の足元へ向かって歩いて行く。ちょうどシンザンカラーの機体の横を通り過ぎようとした時、上から声をかけてくる人物がいた。

「隊長〜生きてたんですね〜」

 上を見上げるとコックピットのところで作業をしている主婦の後姿が見えた。
 しかし、俺は驚かない……こんなところにいるはずのない、ネギとフランスパンがとび出している買い物籠を自分の直ぐ横においた、いかにも安物のエプロンつけた主婦がいたとしても、俺は決して驚かないのだ。
 なぜなら、家の隊にはコスプレ大好きなエドがいるからだ!

「エド、何やってんだ……今度は主婦か?」
「呼びました隊長?」

 なんと、エドがそのPFの足元から出てきた。つなぎを着てとってもまじめに整備の作業を手伝っていたようだ……って事は、あれは誰だ。
 俺がもう一度上を見え上げると主婦の姿をしたクルーエル博士が! ぁあ、嫌なものを見てしまった。まさか、あの爺さんがコスプレするとは予想外だ。

「引っかかったのう、ウィルよ!」

 偉そうに爺さんが喋りだした。しかし、おかしい……さっき声を掛けてきたのは爺さんの声じゃなかった。爺さんは声真似がうまいのか。

「ひゃっひゃっひゃ、不思議そうな顔をしておるのぉ、答えて進ぜよう。あの声は録音しておいたエドの声を再生しただけじゃ!」

 世紀の大発明を発表し、どうだ凄いだろ、と言いたげで偉そうな態度をする、よくある手を解説してくれた爺さん。
 う〜む、彼にとっては何でも世紀の大発明に違いない。だが、何で俺が疑問に思っている事が分かったんだ? まぁ、怖いから考えない事にしよう。

 さ、程よく寒くなったところで次、行こうか、次……。

「エド、もしかしてこの機体はお前の新しい機体か?」
「そうですよ。友達がくれたんです」

 くれた? PFを……くれた?? どういう友達なんだ。
 俺はもう一度シンザンカラーのPFを足元から上まで見直してみる。

「こりゃぁ〜わしを無視するでない!」

 クルーエル爺さんは自分が思いのほか相手にされないので、コックピットのところで地団太を踏んでいる……それにしても、爺さんはあそこで何をしているんだろうか?
 そう言う疑問も浮かんだが気にしないことにして、エドとラン君、俺の三人そろってあからさまな作り笑いをして爺さんに手を振っておいた。

「それはそうと、隊長の新しい機体面白そうですね」
「面白い? エド、あの機体はなんか面白いものでも積んであるのか」
「何も積んでないから面白いんですよ」
「隊長、油売ってないでさっさと来てくださいよ、けっこう無駄に時間喰ってますよ」
「じゃあ、エド、整備頑張れよ」

 俺はラン君にせかされ、新しい機体のところへと今度こそ向かった。

「お、隊長、退院おめでとう……さて、隊長にはこの機体のセッティングに付き合ってもらわないといけないんだけど、時間は大丈夫ですよね?」

 バレッドが愛想の良い笑顔で俺を迎えてくれた。うん、うん、これだよこれだ、やっぱ退院後は仲間の温かい笑顔で迎えられるのが一番。

「どうすればいいんだ?」
「基本的には新品のPFと同じですよ。コックピットに乗って軽いシュミュレーションを数十回こなして隊長に合わせたセッティングに変えるんです」
「PFのパーソナルデータ入れられないのか?」
「それがねぇ。無理みたいなんですよ。前のグリームニルはまだ良かったんだけどこのスヴィバルは……あ、スヴィバルってのはこの機体の名前ですよ。この機体はなかなか頑固者でね。ライに専属整備士になってもらうつもりなんですけど、手間の掛かる奴なんですよ」
「そうか……すまないな」
「なぁに、家はモルモット小隊ですからね。手間の掛からないものなんてまわってきませんから、慣れっこですよ」
「そういってもらえると助かるな、さて……じゃあ、はじめるか」

 それから数時間、予想以上に手間取り判子押しに戻ることなくこの日の作業は終了した。







 

 俺が退院した日から数日が過ぎた時。
 ゴルビーからモルモット小隊に海外へ飛べとの命令が届いた。これは「実験ではなく実戦を行なえ」と言う内容の命令であった。

 ベロニカ&ギーグの二人は既に現地に向かっており、向こうで合流との事だ。
 実はまだ、クリステルとエミール君のカスタムPFが納期の遅れで届いていない。実戦は避けたいのだが、小隊としての定数を大幅に超えているので、そのまま送り出されるのだろう。

 俺たちが向かう場所は、ホーシェレンシュタウファンとか言う舌を噛みそうな名前の国だ。
 海の向こうの島国で、アルサレアが援助している国でもある。援助といっても鉱物資源目当ての援助なので、持ちつ持たれつの関係だ。
 その島は山が多く、天然の要塞によりヴァリムの攻勢からずっと難を凌いできていたのだが、どうにも情勢は不利らしい。
 国土の六割をヴァリムに制圧され、首都圏もぐるりと一周ヴァリムに囲まれているとか、おそらく補給路もほぼ断たれているんだろう。補給物資は高高度から輸送機で近づき投下後、地上部隊がせっせと拾って何とかしているみたいだ。
 おそらく、俺たちが行く時はPFの投下と一緒に補給物資も投下して、降りた途端に戦闘とか、回収作業にいそしんだりと、相当大変なのは容易に想像できる。

 それにしても、どう考えても片道切符としか思えない。部隊の回収とかの事をゴルビーが考えてくれているのかどうか、非常に怪しいものだ。
 捨て駒でもけっこうだが犬死だけはしたくない。
 急に軍人らしい仕事が来たので、俺個人はやりがいがあって良いが他のメンバーがなんとなく心配だ・・・だが、タフな連中ばかりだからきっと大丈夫だろう。
 それにしても詳しい任務内容は聞かされていないのも不安の種だ。

 「飛べ」とだけ言われたから・・・モルモットはモルモットでしかなく、ただ言われた事を実行するのみ、戦争だからな、仕方がない事といえばそれまでだ。






 

第二幕へ続く

 



 〜後書き〜

 LIPS暗殺を巡るモルモット小隊における最終戦争。
 けっこう、長くなりそうなので分割して投稿する事と致しました……モルモット本編の方はしばらくお休みして、こっちを書いて行きます。しばしお付き合い下さい。 2004/05/28 usagi.


 


 管理人より

 バーニィさんよりモルモット小隊番外編をご投稿頂きました!!

 遂に始まってしまいましたね……(笑)

 さて、海外に派遣される彼等(というかウィル)はどうなるのか!
 


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