機甲兵団J-PHOENIX SS
『Price−代償−』







 

 ――何故裏切った!?
 ――これからは、ヴァリムとミラムーンの時代だ。アルサレアは邪魔なんだよ!!


 敵パイロットの言葉を、ミラムーン攻撃軍中佐、ビッチ=ヤードリーは嘲笑で返した。満身創痍のJファー・カスタムを、友軍のPF一個大隊が取り囲んでいる。その事実が、彼にそのような態度をとらせたのだ。


 ――だから裏切るのか・・・まるで子供の論理だな!!
 ――フン、何とでも言え。強国に生まれた貴様に、我らの気持ちなど分かるまい!


 散々世話になった恩人を裏切る羞恥心は、ヤードリーには既に無かった。

(強国間をコウモリのように渡り歩き、生き延びる。それが弱小国家の生存方法。その何処が悪い!?)

 勿論、その言葉の裏には、保身と権力に対する執着が見え隠れしている。万が一、ミラムーンが消滅した場合、一番困るのは彼ら権力者なのだ。


 ――全軍攻撃開始!!あの死に損ないをぶち殺せ!!


 自己の権力を守る為、ヤードリーは攻撃命令を下した。







 

 フィアッツア大陸南西部に位置するミラムーン共和国。大陸で唯一の軌道エレベーターを有するこの国は、高い技術力と大陸南部の肥沃な大地、そして、宇宙から得られる資源を独占することにより大陸一の経済力を誇っている。
 だが反面、軍事力は他国より劣っている為、隣国であるアルサレアと強固な同盟を結び、古よりそれを国の守りとしてきた。東の軍事国家、ヴァリム共和国が各国へ武力侵攻を行う中、ミラムーンが独立を守ってこれたのも、アルサレアの軍事力があればこそである。すなわち、ミラムーンにとって、アルサレアはかけがえのない盟友なのだ。
 しかし、2年前、第4代大統領ベルドリッチ=メガニドが就任して以来、その関係に暗雲が立ち込めていた・・・


 ミラムーンの首都「ラミナスシティー」。この産業国家の中心であり、ベルドリッチは、世界で最も平和で豊かな都市と自負している。だが、経済力に裏付けされたその繁栄振りを目の当たりにすれば、決して誇張でないことは明らかである。
 その中心部にある大統領官邸。白い大理石で造られた美しい外観は「ホワイトハウス」と呼ばれ、ミラムーン国民の自慢であった。しかし・・・

「全て予定通だ。」

 大統領官邸の執務室。人払いをしたベルドリッチは、モニターに向かって告げた。
 俳優のような端整な顔立ちと柔らかな物腰により、市民の圧倒的な支持を得た男だが、今の彼は見るに堪えない厭らしい笑みを浮かべていた。

「あの小うるさいクレスト=ウォルナーも反逆者として更迭した。もはや我らの関係を邪魔する者はいないだろう。」
「それは素晴らしい、ギルゲフ様もお喜びになります。」

 モニターに映るのは、ヴァリム戦略機動軍の軍服を着た女性だった。フォルセア=エヴァ、ヴァリム戦略機動軍の神佐である。

「閣下のような方に力を貸して頂けて、本当に心強いですわ。」
「ハハハ、アルサレアには色々世話になったが、共に心中する義理はないからな。良禽は木を選んで住む・・・というところかな?」

 ベルドリッチは上機嫌で笑った。アルサレアを裏切る見返りとして、彼は莫大な謝礼と地位の保障を約束されている。この裏切りで、アルサレアが滅亡することになったとしても、知ったことではなかった。

「しかし、アルサレアもそろそろ気づくのではなくて?」
「ああ、確かに・・・」

 フォルセアの言葉にベルドリッチは頷いた。上手く誤魔化してはきたが、流石に限界のようだ。親アルサレア派の急先鋒であったクレストを更迭した今、バレるのは時間の問題だろう。

「現に、例のセブンスタルツ基地のことにも感づいたようだ。小うるさいネズミが入り込んだよ。」
「そうですか・・・」

 何気ないように頷きながらも、細めた目が彼女の本音を如実に物語っていた。

「それは困りましたね・・・」

 現在、ミラムーン領内にあるセブンスタルツ基地では、ヴァリムとミラムーンの協同で、決戦兵器「ゼクルヴ」の開発が行われている。関係がバレるのは仕方がないとしても、ゼクルヴの存在まで発覚することは些か面白くなかった。

「なに、心配はいらん・・」
「あら、自信がおありのようですね?」
「無論だ。あそこを守るは、我がミラムーン攻撃軍の中から選び抜かれた最精鋭部隊だ。例え相手が、例のグレンリーダーでも生きては戻れんよ・・・」

 ベルドリッチは不敵に笑った。







 

『ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!』

 パイロットの悲鳴と共に、ゼムンゼンは爆発した。

「ば、馬鹿な・・・こんな事が・・・」

 隊長機のコックピットで、ビッチ=ヤードリーが呻く。彼は目の前で繰り広げられている光景が信じられなかった。

(我々はミラムーン最強の部隊なんだぞ・・・)

 20機を数えた最新鋭PFが、たった1機の、しかも、スクラップ同然の機体に次々やられている。それは、まさに悪夢だった。

『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 ヤケクソになったか、2機の友軍機がJファー・カスタムに殺到する。必殺の同時攻撃だ。十文字に振り下ろしたフォースソードがJファー・カスタムを捉えたかに見えた。だが・・

(なっ、消えた・・・!?)

 真っ二つにしたと思った瞬間、それはかき消えるように消える。

『ざ、残像だと!?』

 次の瞬間、Jファー・カスタムはすれ違い様に2機を一刀両断にしていた。当にそれは目にもとまらぬ動き。いつ自分達が死んだのか、彼らは、それすら分からなかっただろう。

「ば、化け物か!!」

 アルサレア軍が精強であることはヤードリーもよく知っている。だが、これほどのものとは、予想の域を完全に越えていた。

『し、指令、このままでは全滅です。ご指示を!!』

 残存兵力はヤードリー機を含めて3機。普通に考えれば撤退すべきだ。だが、予想外の事態で、完全に血迷っていたヤードリーにはその最も簡単な方法が思い浮かばなかった。

「こ、殺せ!!何としても殺すんだ!!」

 狂ったように彼は叫んだ。







 

「全ては、予定通りに始まり、予定通りに終わるだろう。何も心配はない・・・」

 自信あふれたベルドリッチの言葉に、フォルセアは、ホホホと笑った。

『それでは全てお任せいたしますわ、大統領閣下。』

 それだけ言うと通信が切れた。

「これで良い・・・」

 ベルドリッチは席から立ち上がると、自分でブランデーを注いだ。
 あとは、国内にまだ根強く残る親アルサレア派を一掃すれば、この身は安泰だ。だが、アルサレアの命運が風前の灯火である以上、それも急ぐ必要はないだろう。あまり強引なことをやると世論が騒ぐ。人気者の大統領を演じるのもなかなか大変なのだ。

「まったく愚かな奴らだ・・・アルサレアも、この国に住む連中も・・・」

 悠然とグラスを傾けるベルドリッチ。その時、デスクの電話が激しくなった。

「・・・私だ・・・」

 幸せな気分をぶち壊されて、やや不機嫌そうに受話器を取る。

「・・・軍令部長か・・・何?よく聞こえないが・・・」

 軍令部長の声は明らかに変だった。咳をしているようであり、何かを堪えているようであり、はじめは明瞭に聞こえなかった。

「・・・そんな・・・そんな、馬鹿な・・!!」

 ベルドリッチが呻く。彼の手からグラスが落ち、砕け散った。







 

 焼けただれた大地。散乱するPFの残骸は、いまだに燃えているものもある。
 20機を数えた最新鋭PFは、文字通り全滅し、セブンスタルツ平原は、ヤードリー大隊の墓場と化していた。

「これが、アルサレアの実力なのか・・・・」

 増援部隊として急遽派遣されたミラムーン軍の大尉は、呻くように呟いた。
 味方であったときはそうでもなかったが、敵になって初めてアルサレアの強さが理解できる。自分達がとんでもない相手に喧嘩を売ってしまったことを、大尉は心底後悔していた。

「隊長・・・・」

 呆然と目の前の惨劇を見つめていた上官に、部下が声をかけた。

「何か?」
「上からは追撃命令が出ていますが、本当に追わなくてよろしいのですか?」
「・・・君は、あれを破壊した奴と戦って、勝てる気がするかね・・・?」

 大尉が顎でしゃくった先には、巨大な鉄屑が横たわっている。それは、開発中の決戦兵器“ゼクルヴ”の成れの果てだった。

「・・・100パーセント無理です・・・」
「じゃあ、無視していろ。ヤードリーの二の舞になりたくなかったらな・・・」

 亡きヤードリーは、いけ好かない男ではあったが、その実力は本物であった。しかし、ミラムーン最強などアルサレアの前では何の意味も持たなかったと言うことだ。

(もし、アルサレアが本格的に攻めてきたら・・・・)

 それを考えただけで、背中に冷たいものを感じる。
 緒戦でミラムーンは決戦兵器と最精鋭部隊の全てを失った。もし、アルサレアの本格的な反撃が始まったら、ミラムーンは3日と持たないだろう。よしんば、ヴァリムがアルサレアを滅ぼしたとしても、ミラムーンは過去の産物になっているのだ。

「これが裏切りの代償か・・・恩知らずには相応しい末路だな・・・」

 生き残る為に盟友を裏切ったのに、その選択が己の首を絞める。その喜劇に彼は笑うしかなかった。




 

 聖歴22年、ミラムーンの裏切りをきっかけに、フィアッツア大陸全土を巻き込むこの戦いは、新たな戦局を迎えた・・・









 

Fin


 



【キャラクター解説】

ビッチ=ヤードリ中佐
ミラムーン攻撃軍士官。ゲームでは「有能とは言い難い」とされているが、本作品ではミラムーン軍のエースとして登場。ただし、出世欲があるところは同じ。最新鋭PF“ゼムンゼン改”を愛機とする。
モデルは、「紅」(少年画報社)という漫画に登場するデュポン大尉。
こんな奴がエースなのだから、ミラムーン軍のレベルが分かるというものである。


ベルドリッチ=メガニド
現ミラムーン大統領。保身の為、ヴァリムと内通する。「同盟を結ぶなら強国」とは、ある意味、現実的な視点だったのだが、アルサレアの実力を過小に見ていたことが後に破滅を招く。
モデルは、「銀河英雄伝説」のヨブ・トリューニヒト議長。


フォルセア=エヴァ
ヴァリム諜報部所属の神佐。恐らく現在登場しているキャラクターの中で一番悪い人間である。全ての策謀に彼女の影があるので、今回もそれに習って登場させてみました(笑)。
なお、今回それほど態度が高飛車ではないのは、目的が懐柔だからである。


大尉
ミラムーン軍士官。オリジナルキャラだが名前はない。物語の締めとして登場。祖国の裏切りに関しては、恐らく、ほとんどのミラムーン兵が、彼と同じ心情だったと思われる。


クレスト=ウォルナー
名前だけ登場。駐アルサレア・ミラムーン大使。親アルサレア派の急先鋒であった為、現在軟禁中。


Jファー・カスタムのパイロット
名前は登場しませんが、正体はもうお分かりですね。グレンリーダーです。ミラムーン兵ごときが勝てる道理はありません。


軍令部長
ベルドリッチの電話の相手。制服組のNO,1である。
本編では書かれていないが、電話の内容は、ヤードリー大隊の全滅を知らせるものであった。



 

(一言)

 「誰がために鐘が鳴る」に続く小説第2弾、いかがだったでしょうか?
 今回は毛色を変えて、ミラムーンを主役にしたシリアスなものにしてみました。
 しかし、バトルシーンは難しいですね。もう少し書きたかったのですが、現在はこれが限界のようです。まだまだ修行が必要ですな(笑)
 今回も皆様のご意見を参考としたいので、もし読まれましたら是非感想をお聞かせ下さい。お願いいたします。



 


 管理人より

 ザコさんよりご投稿頂きました!

 なるほど、確かに代償ですね。因果応報とも言いますが(苦笑)

 戦闘シーンに関してはあまり深く考える必要はないですよ。心理描写重視の場合、戦闘シーンはあまり気にする必要がありませんし。

 なお、こちらで訂正した箇所についてですが、文頭の「−(ハイフン)」は「――(ダッシュ2個)」のように使うのが普通です。

 あと他にも、適当な改行と文頭の空白をこちらで入れさせてもらいました(謝)
 



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