機甲兵団J-PHOENIX外伝
『誰がために鐘は鳴る−隊長奪還作戦秘話−』







 

聖歴23年、アルサレア要塞を舞台に行われたアルサレア帝国とヴァリム共和国の決戦、『アルサレア戦役』はグレンリーダー達の活躍もあり、アルサレアの勝利に終わった。英雄グリュウ・アインソードをはじめ全軍の6割を失ったヴァリム軍は撤退、以後この損失を埋めるため多くの時間を費やすことになる。だが、勝利したアルサレア軍も無傷というわけではなかった。この戦いで多くの優秀なパイロットの命が失われた。そして、勝利に貢献したグレンリーダーもそこになかった。
そして、アルサレア戦役が終結して数週間が経過した・・・




 

アルサレア要塞外周部・リップス小隊宿営地

「グレンリーダー様が・・・それは本当ですか!?」

セリナ・バーミントは目の前に立つオペレーターの制服に身を包んだ栗毛の少女を凝視した。

「フェンナさん・・その情報に間違いないよね!?」
「ホントの本当だよね!!」
「間違いだったら1億ギャラ、精神的慰謝料としてもらうからね!!」

リサ・イワサキ、イズミ・ウッドビレッジ、そしてプリス・ピーピアス。リップス小隊のメンバーである少女達は何時になく真剣な表情で少女に念を押す。だが一方で、目の輝きが彼女達の期待の程を如実に物語っていた。

「・・・もし間違いだったら私が楽にしてやる・・・」
「ええ、多分間違いないと思います・・・」

セリナの物騒な呟きを表面上無視して、栗毛の少女=フェンナ・クラウゼンは小さく頷いた。

「クレスト大統領からのホットラインで得た情報です。十分信頼に値します。」

次の瞬間、ツギハギだらけのボロい天幕が歓喜の声に包まれた。無理もない、フェンナが彼女達に伝えた情報−“ミラムーンの国境にあるヴァリムの秘密基地にグレンリーダーが囚われていることが確認された”−は、まさに彼女達が待ち望んでいたものなのだから。

「ああ・・・グレンリーダー様・・・よくぞ御無事で・・・」
「グレンリーダー様・・・本当に良かった・・・」
「お兄ちゃん・・・・イズミ、信じていたよ・・・」
「グレンリーダー様・・・・」

セリナは日記帳に頬を擦り付け、リサは左腕に巻かれた包帯に手を当てる。イズミは上に羽織った男物の制服を、プリスはネックレスにした金貨をそれぞれ握りしめた。その行動は4人バラバラだ。だが、赤らめた頬と潤んだ瞳、4人に共通するその表情は、恋する乙女のそれであった。
彼女達がアルサレアのエース、グレンリーダーに出会ったのはたった一度、それもグレンリーダーの側からしてみれば記憶にも残らない程度の出会いである。だが、それを運命の出会いと信じた彼女達は、独自にどんな指揮系統にも属しない独立愚連隊「リップス小隊」を結成し、以後、グレンリーダーと感動の再会を果たすべくひたすらグレン特務小隊の追っかけをしていたのである。ちなみに、彼女達の行動を出来るだけ制御すべく、お目付役兼担当オペレーターとしてリップス小隊に派遣されたのがフェンナであった。

「ありがとう、フェンナさん!!」

プリスが感激のあまりフェンナに抱きついた。

「金持ちのくせに全然奢ってくれないからケチだと思っていたけれど、貴女はやっぱり良い友達だよ!!」

これは、感謝・・・なのだろうか。とてもそのようには聞こえないが、まあともかく心のこもった言葉であることに間違いなかった。もっとも、『感謝するだけならタダ』がモットーのプリスに相応しく、何の実もないものであったけれども。

「別に大したことではありません。」

乱れた襟元を直しながら、フェンナはニコリと微笑んだ。

「正確な情報をお伝えすることが私の任務でしたから・・・」
「そのことだが、フェンナさん・・・何故私達にその情報を?」

ふと疑問を感じ、セリナはそれを口にした。フェンナがリップス小隊の担当オペレーターだったのは(どこかの小隊と兼任だったらしいが、セリナは詳しくは知らなかった)1ヶ月前までである。その後、宰相就任に伴う退役で、リップス小隊との関係は表面上完全に途切れていた。しかも在任中は、グレン特務小隊についての情報は『国家機密ですので、私もよく知りません』の一点張りだったのである。セリナが疑問に思うのも無理はなかった。

「そうですね・・・」

セリナの問いにフェンナは少しだけ首を傾けた。

「・・・これが最も正しい選択であると私には思えたから・・・という理由ではいけませんか・・・?」
「本当にそれだけですか・・・?」
「それだけです・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」

ガシッ!!
セリナは無言でフェンナの両手を握りしめた。心なしか少し涙ぐんでいた。

「ありがとう、フェンナさん。グレンリーダー様は必ず私がお助けします。そして、必ずや立派なグレンリーダー様の花嫁御寮になって見せます!!」
「・・・・」
「何言っているの、セリナ!!」

セリナの言葉に残りのメンバー達が不平の声を上げた。

「グレンリーダー様をお助けして結ばれるのは私よ!!」
「お兄ちゃんは、イズミのものなんだから、手を出さないで下さい!!」
「私よ、私!!もし手を出したら1兆ギャラ払ってもらうから!!」

捕らぬ狸の何とやら。激しく言い争う4人の姿をフェンナは無言で見つめていた。ひどく複雑な表情を浮かべて・・・




 

30分後:アルサレア要塞

「宰相閣下・・・」

執務室に戻ったフェンナを軍服姿の眼鏡の男が出迎えた。作戦参謀のアルフレッド・カーマイン中佐だ。

「進行状況はどうですか・・・?」
「準備は全て整いました。パイロットの到着次第、何時でも出撃出来ます。」
「そうですか・・・それは何時になりそうです?」
「オルフェン防衛の任に当たっていましたバートン兵長は既に到着しています。エルヴィン少佐とミカムラ大尉は国境警備の任に就いていたところを呼び戻しましたので、もう少しかかります。ですが、遅くとも15:00までには全員揃います。」
「分かりました。」

アルフレッドの報告にフェンナは小さく頷いた。全て予定通りに進んでいる。このまま順調にいけば、現地に到着するのは夜半になるだろう。それは、救出作戦という任務の性質を考えれば非常に都合が良かった。

「そう言えば、例の連中はどうしましたか・・・?」
「・・・彼女達なら例の基地に向かいました・・・」
「フン、失礼・・まあ、あんな連中でも陽動の役割ぐらいにはなるでしょうな。」

アルフレッドは露骨に軽蔑の表情を浮かべた。大多数のアルサレア軍人がそうであるように、彼もまた、リップス小隊に好意的ではなかった。

「最低でも今夜一杯、敵の目を惹き付けていて欲しいものです。『グレンリーダ様効果』とやらに期待するとしましょう・・・」
「・・・でも、彼女達の気持ちを考えると可哀相な気もします・・・」

フェンナは複雑な表情で言った。嘘をついたつもりはないが、セリナ達を騙したことに違いはない。セリナ達に対する罪悪感と自分への嫌悪感が鋭い棘となって胸の奥に突き刺さっていた。

「閣下は知らなかったのです・・・」

フェンナの内心を知ってか知らずか、アルフレッドは口元を歪めると、冷酷極まる声でサラリと言った。

「マクガイバー将軍が例の基地から遠く離れたミュレンシェン基地に移送されたことなど貴女は知らなかった・・・それだけのことですよ。」


アルフレッドが退室した後、フェンナはデスクの上に置かれた写真立てを手に取った。そこにはJファーに指揮を執るグレンリーダーがいた。

(ヒロト・・・・・)

グレンリーダーの姿をなぞると、写真立てを愛おしそうに両手で抱きしめる。その時のフェンナは、アルサレアの宰相でもグレン将軍の忘れ形見でもない、ただの恋する一人の少女だった。

「セリナさん、リサさん、イズミさん、そしてプリスちゃん、御免なさい・・・でも、これだけは譲れないの・・・」

自分がどんなに汚いことをしているかは分かっている。彼女達の純粋な気持ちを踏みにじったのだから。
ミレンシェン基地にグレンリーダーが囚われていることを知った時、彼女の脳裏を横切ったのはリップス小隊に対する不安だった。あのグレンリーダーに関する情報だけはヴァリム諜報部顔負けの収集力を誇る彼女達に作戦終了までこの情報を隠しておくことが出来るだろうか。もしかしたら、その作戦の途中に突然乱入してきて全てを台無しにしてしまうのではないか・・・これまで何度もそうしてきたように。

(違う、そうじゃない・・・私が一番怖かったのは・・・)

フェンナは自分の考えを打ち消した。自分が一番恐れていたこと、それは、彼女達が自分より先に彼を救い出してしまうのではないかということだ。本来なら喜ぶべき事かもしれない。だが、彼女の女としての感情がそれを許せなかった。リップス小隊を救出作戦の陽動として活用することを思いついたのも、少しでも彼女達をグレンリーダーから引き離しておきたかったに他ならない。

(もしかしたら、私が一番醜いのかもしれない・・・・)

綺麗な顔をして、心の中では嫉妬の炎を燃やしている。こんな自分を見ればあの人は失望するだろうか、それとも・・・

「それでも貴方は私を好きになってくれますか・・・?」


その夜、フェンナ達グレン特務小隊は、ヴァリムのミュレンシェン基地を奇襲、グレンリーダーこと、ヒロト・マグガイバー少将の救出に成功した。一方、秘密基地に奇襲をかけたリップス小隊は、無謀な攻撃とヴァリム軍の反撃により壊滅した。4人仲良く捕まった牢の中で、彼女達は初めて自分達が騙されていたことを知るのだが全ては後の祭りであった。その後、彼女達はフェンナへの復讐を誓い大脱走を決行するのだが、それはまた別の物語である。
聖歴23年、グレンリーダーを巡る乙女達の戦いは更に熾烈さを増している・・・・






 

<完>

 



(登場人物解説)
フェンナ=クラウゼン
言わずと知れたJフェニックス1のヒロイン。元グレン特務小隊担当オペレーター。後にリップス小隊の担当オペレーターも兼任。(兼任の理由は、リップス小隊のお目付役というのが名目だが、その実、「暇な時間を与えるとグレン将軍の死に気づいてしまうから」という上層部の思惑が大きい・・・というのが、My設定)
現在、アルサレア宰相。本作ではかなり黒い部分を見せる。大人しい御嬢様タイプは、案外、内に負の感情を溜め込んでいるものでしょう(笑)。

アルフレッド・カーマイン中佐
本作唯一のオリジナルキャラ、別名「狂言回し」。
30代の眼鏡をかけた若手士官。前線タイプの軍人ではないが、参謀としては極めて優秀な男であり、本作品においては、グレンリーダー救出作戦を立案した。
ツェレンコウフ参謀本部長の信任が厚く、彼もまた上官を尊敬している・・・が、リップス小隊の扱いに関してだけは意見を異にしている。

セリナ・バーミント
独立愚連隊「リップス小隊」のリーダー格。階級は軍曹待遇(従軍看護婦時代)。
唯一の大人であるため、リップス小隊の中では珍しい常識人。だが、グレンリーダーのことになると一変、タガが外れる傾向にある。本作では、宰相(フェンナ)の殺害すら口にしたが・・・

リサ・イワサキ
独立愚連隊「リップス小隊」のメンバー。本作品ではいるだけです(笑)。階級は一等兵(整備員時代)

イズミ・ウッドヴィレッジ
独立愚連隊「リップス小隊」のメンバー。元御嬢様。
My設定では、小隊発足以前よりフェンナとは顔見知り(友人ではない。むしろ本家御嬢様のフェンナに劣等感と嫉妬を抱いていた)。その設定は活用されることなく、本作品ではリサと同様いるだけ。階級は三等兵待遇

プリス・ピーピアス
独立愚連隊「リップス小隊」のメンバー。守銭奴
フェンナに対する彼女の友情は、最悪の形で裏切られる。階級は、三等兵待遇

ヒロト・マクガイバー少将(グレンリーダー)
Jフェニックス1の主人公。本作では名前だけ登場。ちなみに、名前は私のお気に入りの漫画と小説の主役の名前からそれぞれ拝借。何から拝借したか分かった方はかなりすごい。
ヒント
「ヒロト」は漫画のキャラ。地球を救うため、自らの命を犠牲にした16歳です「マクガイバー」は小説より拝借。電撃文庫の某夜間戦闘機パイロットです



(一言)
・・・えー、以前、掲示板でも書きましたが、この作品はそもそも試作品・・小説の書き方を練習すべく書いた習作だったのですが、いかがだったでしょうか?
最初は、リップス小隊がメインであり、本当は戦闘シーンも入れたかったのですが、現在の力量を考えてそれはカット。しかも主役の座は、いつのまにかサブのフェンナ嬢にとられてしまいました。まあ、フェンナ嬢は、Jフェニックスの女性キャラの中で、1,2を争うお気に入りのキャラなので、「それもいいか・・・」と考え、そのままにしてしまいました(笑)。
今作品の欠点、出来なかった部分は、改良して次回作に生かしたいと考えていますので、どうか感想をお聞かせ下さい。



 


 管理人より

 ザコさんよりご投稿頂きました!

 なるほど……確かに陽動には使いやすそうですね。

 逆に奇襲などには思いっきり使いにくいですし、まさに適役。
 



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