「……あれか」

 マックスは丘の上から双眼鏡で、問題の施設跡を見ていた。
 …遠目にははっきりとは分からなかったが、作業員に混じって兵士らしき姿や研究員っぽい白衣の人間の姿も見える。

「PFは…5機…作業用か?」

 PFはJファーを改修したものなのか、外見こそJファーであるものの、ドリルやらパイルバンカーやら、重量級の武器を装備した機体が瓦礫を運んだり細かく砕いたりしていた。
 …さらにその奥には、大型輸送機と護衛らしきPFも見えるが、輸送機に特に注意すべき武装はこれと言って搭載していない…様に見えた。

 一見すれば、普通の被災現場復旧作業に見えるが…

「……災害現場に対戦車ライフルと対PF地雷…ね…」

 仮設テントから出てきた兵士が運んでいた…不審な物を見て、苦笑しつつも情報が本当である事を悟るマックスだった。

「…ま、しかし…これなら、何とかなるかな?」

 マックスは双眼鏡をリュックに詰め込むと、丘の下に止めてあったバイクに飛び乗ってレオン達が待つ森へ移動する。


 …バイクで20分ほど移動した森では、レオンとミュウが持ってきた大型コンテナを擬装しつつ、簡易なテント(床と屋根代わりにビニールを敷いただけ)を張っていた。

「お疲れ」

 レオンは飲料水が入ったビンをマックスに投げる。

『おかえりなさい。こっちの作業も終了してますよ』

 マーキュリーで擬装作業をしていたミュウは、マックスに挨拶するとバイクを緩衝用シートで包んで大型コンテナの棚に収容する。

 

 ……時間経過……

 

「…で、侵入口がこことここ……今見てきた限り、こんな感じだ」

 あれからしばらく休養した後、マックスは地面に地図を書きながら説明する。

「…でしたら、作戦通りで大丈夫そうですね」
「ああ、あとは時間だな……セオリー通りなら夜明け前…ってところだが、日付が変わる少し前が良いだろ」
「…何故ですか? …たしか、明日の早朝機体を出すってお話ですから、機体がでた直後に襲えば?」
「…ん〜それだと、敵さんも相当警戒が強くなるって事…それにもし、機体搬出がマニュアルだった場合、奪うのがかなり面倒になるからな〜」
「……なるほど」
「日付が変わるあたりなら、酒でも飲んで寝てる奴が多いだろうし、ウトウトしやすい時間帯だしな……お前はどう思う?」
「…………」

 マックスがレオンに同意を求めるが、そのレオンは心ここに在らずと言った表情だった。

「…おい、レオン?」
「……あ、あぁ…それで良いんじゃないか?」
「…大丈夫ですか…もしかして体調が……?」

 ミュウがレオンの額に手を添えようとするが、拒否するように手を払うレオン。

「…レオンさん?」
「……悪い…ちょっと考え事をしていた…大丈夫だ」
「…わかりました」

 少し納得できない顔で引き下がるミュウだが…

「では、せめてこれ食べてください」

 …めげずにおにぎりを持ち出して、レオンの前に3個差し出す。

「……悪いが食欲が…」

 などと言いつつ断ろうとしたレオンだが……

シルキスちゃんが作ったものなんですけど…?」
「う……」

 …ジリッとにじり寄るように真剣な目で説明するミュウ…。

「…わかった」

 レオンはここで断ったら(シルキスに)泣かれると思ったか、おにぎりを手にとって口に運ぶ。

「ありがとうございます」

 ミュウはお礼を言うと、再び席に戻る。

「…それじゃ、予定通りって事で…各自準備…センサーは?」

 ミュウは例の整備端末を開いて確認する。

「えと…異常ないですね…。……動作テストも良好です」
「了解、では一旦解散!」
「はいです」
「分かった…」

 各々のPFで準備をしたり、銃器のチェックを始めるレオン達であった。






 

機甲兵団J−PHOENIX 外伝の外伝(番外総集編)

語れられない刻の記録『人機一体を目指して作られた者達 中編 〜悪夢(ナイトメア)再び〜』






 

 アルサレアの元研究施設…もとい秘密地下施設の中では、夜も遅くだというのに慌しく動いていた。
 …もっともマックスの予想通り実際に動いているのは全人員の半分くらいで、残りの半分は夜酒を飲んでいるか、明日の本番に備えて就寝しているようである。

『で、どうなってる?』
「これは閣下…本日はこんな辺境まで…」
『そんな社交辞令を聞いているのではない! 作業の進行状況はどうなってるっ!?』
「は、現在慎重に事を進めて……」

 モニター越しに再び激しく机を叩いている音が響く。

『私はいつまで、と聞いている!』
「……予定通り、今日…明日の早朝には」

 予定通りという言葉を聞いても、モニターの男は落ち着かない様子で机を指で叩いていた。

『いいか、これには私もかなりの予算をつぎ込んでいるのだぞ! …ヴィクティム准将…中将閣下亡き後、私がこの計画にどれだけの尽力を費やしたと思っている!?』
「は、それはもう…(……金を何処かから捻り出して、せっせと送っているだけだろ?)」

 この男からこの施設の責任者を任されている研究員はそんな事を考えつつ、適当に返事をする。

『…エルドラン准将閣下、お茶をお持ちしました』

 モニター越しから弱々しい声で誰かが喋る。

『うむ』

 もうお分かりかも知れないが、この人物はかつて『悪夢の戦略家』と恐れられた人物…「カーレル=ヴィクティム」准将(既に故人であり、現在は2階級特進で中将)の懐刀であった、「ディンゴ=エルドラン」准将である。
 小国の国家予算にさえ匹敵する財力…戦術的にはそこそこ優れた策士であるという噂(自称?)だが、一歩その「戦術」から離れると、一般的な3歳児の図工程度の事しか出来ず、個人的な資質でも「無能」と評して全く差し支えない男である。

 …何故こんな男が准将になれたのか、不思議なのだが……きっと、湯水どころか吐く息の如くお金をばらまいた結果なのだろう?


 そのディンゴは、すこし乱暴な手付きで湯飲みを手に取ると、お茶をすする……。

『…む…メッセ、茶がぬるいぞっ!』
『そそ、そんな、いつも通り70度にしたはずなのに』
『言い訳はいいからさっさと炒れ直してこい!!』
『は、はい、ただいま〜…

 准将子飼いの部下である「メッセ=ライザー」少尉は平謝りしながら走り去っていった。
 ……見た目は可もなく不可もなく…しかし、とても整った平均的顔立ちで、一応結婚もしており、2児の父親でもある。
 …しかし、従順に生きようとするあまり、一人では何も決められない性格のようで、この仕事に就いたのも結婚したのも親か親戚に勧められて…という理由らしく、かなり…いや、極めて消極的な人間であるらしい。

 そのメッセの後ろ姿を見送ったディンゴは、再びモニターに向かい直る。
 …普通なら変なところを見られて、動揺したり気まずい雰囲気になったりするのだが、そんな雰囲気を感じさせないディンゴは、ビシッとモニター越しの研究員を指さす。

『…いいか、もしこの計画に支障を来すようなら、おまえはメッセ以下の人間と評価するから、心しておけよ!』

 ほとんど一方的に宣告すると、回線を切るディンゴ。
 しばし黙考していた研究員であるが…


 それは嫌だ!!


 …心の奥底からそう思った。

 

 一方、そのディンゴは、夕方マックスが外で見た、輸送機のVIPルームにいた。
 准将になってからはもちろんだが、まだ佐官だった頃からヴィクティム准将の脇でゴマをすりつつ喚くだけであったのだが…今回は珍しく自ら足を運んで施設の視察をした後、輸送機で30分ほど移動した、准将貴下の正規部隊が駐留する最寄りの基地に移動していたのだった。

 新しいお茶を持ってくると、メッセを下がらせて、踏ん反り返るように席に座りなおすとお茶を飲み始める………今回のお茶は合格点らしい。

「…ふん、口だけの男が…あの機体の修復にどれだけ時間と資金を浪費していると思っているのだ!?」

 完全に自分の事を棚上げする(自覚がないから?)ディンゴだが………こういうのも近親憎悪と言うのだろうか?


「……………」

 お茶を飲んでも相変わらず落ち着かない様子のディンゴ。しきりに意味もなく椅子から離れて真っ暗で何も見えない外の景色を見たり、部屋に掛けられた悪趣味な絵(時価数億)や観賞用巨大魚(時価数千万)を眺めている。

「…メッセ!」
「はいぃ〜っ…何かご用でぇ〜っ!」

 部屋の外で律儀に待っていたのか、ディンゴが呼ぶとすぐに部屋に入ってくるメッセ。

「ミヤビに『直ちに出撃しおまえが陣頭指揮を執って、残った資料及び物資を回収しろ。もし逆らうなら容赦は無用』と伝えてこい!」
「は、はい!」

 慌てて走り去るメッセを見ながら、ようやく落ち着いた様子のディンゴは席に座る。

「…フフフ、最初からこうしておけばよかったのだ……」

 …満足げに頷くディンゴだが、そう言うことは施設を発つ時に言うべき事であり、さらに言えば…メッセに伝令を頼む…という事も、間違いであるという事に気付いていなかった。



 

 一方…輸送機の格納庫では、ディンゴ准将の(限りなく私設に近い)直轄部隊が待機していた。
 すでに本日予定された作業は終了しており、専属整備士による機体の最終チェックと固定が終われば解散するらしく、各自で休憩していたり仮眠を取ったり、暇をつぶしていたりしていた。

「…えーと、今日の特記事項…特になし……移動にかかった費用は〜…?」

 そんな中、報告書やら会計報告やらを書いているのは、ディンゴ准将直轄部隊の総隊長である「ミヤビ=サウスゴスタ」少佐だった。
 ディンゴ准将とは親戚関係であるために色々言われているが、能力は比較的優秀…性格も真面目で明るいので、軍内部での評価は割と良い。

 …むしろ、彼女がいるからこそ、あのディンゴ准将の下で部隊が健全な状態を維持できるのだ…と専らの噂である。
 ディンゴもやはりミヤビには甘く、彼女には部隊の直接指揮権を与えており、准将貴下の直轄部隊は、事実上彼女が取り仕切っている状態に近いらしい。

「………ははっ…これで上がり…だっ」
「なに〜…!?」
「…やられたっ」

 そのミヤビのすぐ隣では、直轄部隊の中心的人物の一人であり、直轄部隊の中でも実働的、裏方的任務の担当である「テミスト=ラッチェル」特務曹長が、部下である人間を何人か呼び集めてカードゲームに興じていた。

「…あのですね…多くは言いませんけど、私の邪魔はしないで下さい…?」
「……へいへい…」
「「……了解…」」

 暗に「他の所でやって欲しい」と要求するミヤビに、テミスト達は苦笑しながらそこから離れた。

「…ん〜…他には…そうだ、あっちにも連絡しないと」

 おもむろに携帯電話を取り出すと、どこかへ電話を始めるミヤビ。

 

 ……ところかわって…秘密地下研究施設の離れにある仮設警備用施設………

『…と、いうわけで…何か異状ありましたか?』
「……外はどうだった?」
「いえ、外の巡回でも特にこれと言ったことは」
「……大尉は?」
「……は、はぁ…何とか機嫌取って…今眠らせて……」
「…異状ありません、隊長」

 電話越しにミヤビと話しているのは、彼女の部下である「アカネ=ヤツシロ」軍曹だった。
 部隊がここを離れる際、一応最低限の警備を置いておくことになったので、対人・対PF戦両方に強く、実戦経験豊富で冷静な指揮も出来るアカネがこの任を負うことになったらしい。

 ここにはアカネが言ったとおり大尉がいるし…彼女の脇にいるのは少尉なのだが、彼らをさしおいて下士官であるアカネがこの任を負うことになった理由は、ディンゴの直轄部隊に上記のような能力を兼ね備えた人間が稀少だったからだ。
 …なお、そう言う点ではテミストが一番適任であったのだが、出発時に本人が名乗り出たところ…


「…いかん、いかんぞ…貴様までが抜けると、いざという時に困るだろう…!」
「そうですね。施設にあった主な資料やデータは回収済みですし、以外で一番強いテミストも残る事はないでしょうね」
「う、うむそうだ。准将である私がこんな場所まで来ているのだ。警備を手薄にしてヴァリムに付け入る隙を作ることはないだろう!」
「………(アンタを付け狙う馬鹿がいるとも思えないが)……」


 …と、基地に到着するまでの短い時間とは言え、輸送機の護衛を手薄にする事を、当のディンゴはもちろん、彼を大事に思うミヤビも反対であったのが、そうなった理由でもある。


『…わかりました…引き続き、明日まで警備をお願いしますね?』
「…了解…ところで隊長?」
『…なんですか?』
「ここの所長ともめたら?」
『……出来れば穏便且つ紳士的な対応を、この前みたいにいきなり斬り付けるのはやめてください?』
「………了解」
『…えーと、ではくれぐれも頼みます…』

 少しがっかりした口調のアカネに、「危なかった〜」と言いたげな口調で電話を切るミヤビ。

「…さて?」

 ミヤビから頼まれたものの、特にやることが思いつかないアカネは黙考する。

(…資料は一通り押収…残ってるのは例の機体と周辺パーツくらい…これ以上何かしても能率は下がる…)

 今は既に深夜と言ってもおかしくない時間帯だ。それに主だった撤去作業は明るい内に終了して、あとは今日の作業で残った分…重要と思われない資料と、重要だが運び出すのに人目を引きたくないものだけであり、現在は明日の作業に備えて、周辺及び施設内の警戒警備以外の任務は行われていない筈である。

「…すこし、ここを頼める?」
「はっ!」

 近くで控えていた部下(しつこいが、アカネより上官)に周辺警戒を任せると、アカネは外で待機していた何人かを引き連れて、移動を始める

「……暇だから、巡回ついでに…挨拶に行きますか」

 ……どうやら今の今まで、研究施設の責任者に着任の挨拶すらしてなかったらしく、アカネ達は研究施設がある区画へ向かうのだった。


 

 ……再びミヤビの方へ舞台を戻し…20分が経過………


「…んん〜…やっと終わったぁ〜……」

 報告書作成も終わり、ミヤビも備えてあった自販機から冷えたお茶を出して休憩を始めた頃……ようやくディンゴの伝令を携えたメッセが待機室に到着する。

「お待たせしましたぁぁ〜」

 …何故かひどく疲れた様子で部屋に入るメッセ…?

「…遅かったですね?」

 メッセが来るや否や態度が硬化するミヤビであるが…彼女にしてみれば四六時中ディンゴと一緒…しかもディンゴも何かと可愛がる(ミヤビにはそう見えた)メッセが羨ましくて仕方がないらしく、メッセ相手だとこうなってしまうようだ。

「え、えーと、実は……」

 

 ……メッセはさっきディンゴから言われたことを反芻しながらミヤビ達がいるであろう、PF格納庫を目指していたが……

「ちょっとそこのアンタ、暇ならこの荷物運ぶのに手を貸しておくれ!」
「あ、はい〜」

 …と、倉庫から食材を運んでいた食膳係の人間に呼び止められたり……

「そこはワックス掛けたばかり……って、ああ!?」
「…うわぁぁ〜……!?」
「……もう、やり直しじゃない…手伝って下さいますね?」
「は、はいぃ」
「…う〜ん…と言っても…少尉さんに出来そうなこと…? ……次は資料保管室だから…ちょっと鍵を借りに行ってくれます?」
「…つつつ…了解しましたぁ」

 ……その途中で掃除した場所を滅茶苦茶にし、責任を取る代わりに雑用を押し付けられたり……

「…ここに置いておきますよ〜」
「お、ありがとさん少尉殿。…と、そうだ…明日の朝准将閣下に出す献立なんだが、試食してくれないか?」
「…え…あ、はい……」

 …恐縮しながら、最高級ローストチキンや海鮮スープなどを試食したりしていた。


 ―以下中略―


 …その他、行く先々で用を言われてしまった事を説明するメッセに、ミヤビは怒ったような顔、テミストは笑いを堪えつつも呆れているような顔をしていた。

「メッセ、面白いぞ…ある意味羨ましい」
「面白くありません、おじ様の朝ご飯になんてものを出そうとするんですか。朝は軽めでさっぱりとしたものです」

 ……そこを突っ込むのが良いのかどうかはわからないが、とにかくミヤビは怒っていた。

「厨房の人に注意しないと…」
「…そうじゃないだろ…って、ちょっと待てっ!」

 すでにドアを開けて走り出そうとしてたミヤビを止めるテミスト。

「…メッセ、なにか用があってきたんだろ?」
「はい」

 ここで改めてディンゴの伝言を伝えるメッセ……


「そういうことは早く言ってくださいっっ!!」


 …ミヤビに怒鳴られた事は、言うまでもなかった。



 

 …再び舞台が変わり…ほぼ同時刻の秘密地下研究施設……


 巡回を終えたアカネ達は、研究施設の制御管理室に到着する。

「これはこれは…軍曹殿、どうされました?」

 ここの責任者らしき人物が握手を求めながらアカネ達を出迎えた。
 …ただし、『いまさら何しにきた』と言いたげに顔を引き攣らせながらであるが。
 アカネもミヤビに釘を刺されていたので、握手に応じる。

(面倒くさい……)

 …などと考えながら形だけの挨拶を済ましたアカネは、特に表情を変える事無く周りを見回す。

「…現在の進行状況は?」
「残っていた資料の整理は終わった……あとは……」
「…あの機体だけ?」
「……ああ、そうだ」
「…ふーん……」

 それだけ言うと、アカネは各ブロックや外を映し出しているモニター群を眺める。

「ん?」

 外が映っているモニターに何か光る物を見た気がするので、アカネはそちらに視線を運ぶが……

「……!?」

 次の瞬間、施設が激しく揺れ、照明が切れた。

「な、何事だ!?」

 非常照明に切り替わり、突然の事に慌てる研究員たち。

「…バスターランチャーによる砲撃」

 他人事のように言ってのけるアカネに思わず彼女を睨みつける研究員。

「…何を呑気に!? こんな時のための貴様達だろうっ!?」

 などと言う研究員の叫びを打ち消すかのように再び衝撃が施設を襲った。

「……やることは決まっているのだから、別に慌てる必要もないでしょ?」
「な…!?」

 しかし、アカネに慌てた様子は無く、あくまでマイペースな動作で懐から携帯用無線機を取り出す。

「…こちら『ミグ・バード』…『オストリッチ』、状況を報告せよ」
『……こちら『オストリッチ3』、所属不明のPF3機を捕捉!』
「…バスターの射線は?」
『…一つのみです!!』
「……オストリッチ各機、バスターを避けられそうな遮蔽物に隠れて様子見」
『『『ハッ!!』』』
「…ウッドペッカー各機は敵機が接近してきたら出撃して迎撃」
『『了解!』』
「な…ちょっと待て! 地上が攻撃されているのだぞ…それを様子見!?」

 通話内容を横で聞いていた研究員が声をさらに荒げてアカネに歩み寄る。

「…相手はここを本気で攻撃するつもり、無いようだから」
「なんだと…!?」

 研究員を押し退けると、さっき使っていた携帯を操作するアカネ。

「…隊長に連絡するので、邪魔しない。吠えるのも鳴くのも禁止」

 まるでイヌにでも命令するかのように言うアカネに切れたか、研究員は怒りで顔を変色させつつアカネの肩を掴み…

「貴様、状況をちゃんと……」
「…五月蝿い」
 
 ……かかろうとしたが、次の瞬間音も無く動いたアカネのナイフで喉を切りつけられる。

「か、はぁ…かふぁ…!」
「所長!?」

 …切りつけられた事に、切られてから気付いた研究員は声にならない声を上げて尻餅をつく。

「喉笛切っただけよ…すぐ手当てすれば、死なない」
「くぁは…おぐぅあぇ〜」

 まともに喋れない研究員はそのまま医療室へ運ばれる事になった。

『…もしもし、アカネッ? ちょうどこっちから…!』
「…結果は同じなんだから、経過を気にする事無いのに」
『は?』
「いえ、独り言です」

 斬られた研究員の部下達はもちろん、彼女をよく知る同僚達も思わず引いてしまっていたが、それをまったく気にする事無く、ミヤビに現在の状況を端的に説明するアカネであった

 

 ………ほぼ同時刻………

 

「…次!」

 ミュウはバスターランチャーを構えて、再び施設目がけて砲撃する。

「……これで5射目ですけど…敵さんに動き無いですね……」
『…敵機3、いまだに遮蔽物に隠れて動きなし』
「……こちらの狙いを読まれていますね……」
『おそらく』

 索敵モードで待機しているルシル…そのAIたるシルキスから通信が入る。

「…仕方が無いですね…マーキュリー、『スキップ』して『お散歩』! 作戦シークエンスセカンド!」
『了解』

 同じく待機させていたミュウのPF…マーキュリーを音声コマンドで自動操縦に切り替え、シルキスにルシルの機体操作を任せた状態で突っ込ませるミュウ。

「…行きます…!」

 そして、自らもバスターランチャーを地面に置き、代わりにカタールを装備したマックスの機体…イェーガーを操って移動を開始した。


 

 ……ミュウが砲撃を始めた頃に戻り…地下施設内……

「…そろそろ出る…か?」
「…ああ」

 激しい揺れの中、2人の作業員がコソコソと話しながら倉庫に隠れていた。

「……よし、誰もいないな…?」

 暗い倉庫からそっと顔を出して廊下の様子を窺うのは…マックスとレオンである。
 ミュウがイェーガーに乗って暴れているのは、言ってみれば囮である。
 彼女自身の適正を考えれば潜入活動も可能なのだが、マーキュリーとルシル(シルキス)に『命令』出来るのがミュウだけなので、彼女が残る事になったらしい。
 それにレオンは言うに及ばず、マックスも潜入工作は決して苦手な分野ではない。


「…ミュウちゃん、ちゃんとやってくれよ〜」
「ミュウなら、問題ないだろ…それよりも俺達がしっかりしないとな……」
「そりゃそうだっと…」

 そんな事を話しつつも振動が次々と襲い、警報と避難を呼びかけるアナウンスが流れるのを聞きながら、二人は足早に移動する。

「…どっか、情報を引っ張り出せるような端末や回線あるか?」
「なら、この先に電算室があったはずだ…」

 レオンが案内すると、確かに大型の交換機やスーパーコンピューターが並ぶ部屋があった。
 …ロッカーなどから書類の類、そして情報端末なども根こそぎ持っていかれたらしく、書類の切れ端や空のバインダー…何も置かれていない机が散乱している状態であり、人が居そうな気配はない。

「……よし、大丈夫そうだな……?」

 念の為監視カメラらしき物の有無も確認すると、マックスは端末の回線が延びている卓上に腰掛けて、持っていたカバンを開ける。

「…しかし、セキュリティはどうする?」
「ふっふっふ…ミュウからこれ借りてきた」

 マックスが手にしていたカバンから出て来たのは、ミュウの整備用端末である。

「なんでも、特定のキーワード入れて実行すれば、その記述があるデータを根こそぎコピー出来るソフトもあるらしい。並のセキュリティなんか、無いも同然だと」
「……そうか」

 などと説明しつつ、ネットワーク回線に接続するマックスはすでに待機状態になっていた端末を操作する。

「…イシン…これでどうだ?」

 すると、目まぐるしいスピードでファイルが表示される。

「…こりゃ…多すぎるな? ………ちっ…やっぱ大半がダミーかドングル無しじゃ閲覧不能なタイプだ」

 ブラインドタッチとは言えないまでも、手早く操作して情報を確認していくマックス

「…上手いもんだな」
「まーな。ミュウちゃんほどじゃないが………このくらいは………」
「……どうするつもりだ?」
「残飯漁りだよ」
「?」

 マックスがしているのはどうやら……ネットワークに残っている一時ファイルや削除用ファイル、個人管理用ファイルの情報に限定して検索し、めぼしい情報をピックアップしているらしい?

「こういうもんは削除したつもりでも、どっかに痕跡なりバックアップが残ってるもんだ……お、レオン…これ見ろ」
「これは…」

 マックスが開いたのはこの施設の見取り図だった。
 そこから機体情報を検索すると、各格納庫に収容されている機体情報が表示される。

「…例の機体は……D4格納庫…分かるか?」
「…ああ、目を閉じてでも行ける場所だ」

 レオンは念の為地図を再確認すると、頭の中にある経路と照らし合わせる。

(……いけるな…うまく立ち回れば、機体も奪えるか?)

 そう思ったレオンは、マックスにその事を告げるのだった。




 

 ……研究員の『運搬』と『床掃除』を手の空いている人間に任せていたアカネは、ミヤビと携帯で話しながら制御室の中央に立つ。

『すぐに出るけど、そっちに着くまで30…20分かかります!』
「了解、隊長」

 メッセから伝言を伝えられた時点で、ミヤビは即座に待機中の隊員を動員したが、すでに機体を止めていた事もあり、まだ出撃できないでいた。

『あ〜もうっ! メッセがもたもたしてなかったらもうそっちに着いてる時間なのにっ!』

 珍しく怒りで声を荒げるミヤビ…確かに、もしメッセが寄り道する事無くミヤビ達の所まで来れていたのなら、ミュウ達が襲撃を開始した頃には到着していただろう。

 …さらにこうなった原因を追究するなら、そもそもの原因はディンゴにあるのだが、ディンゴ第一主義であるミヤビは、その考えを無意識に頭から排除していた。

「…敵機の動きに変化! こちらに向かってきます!」
「……各機迎撃」
『『『『『了解!』』』』』
「…施設内、不審な者がいないか再チェック」
「はっ!」
「では、隊長…私も出ます」
『おーい、準備終わったぞ〜』
『今行きます〜!
 ではお願いしますねっ!』
「了解」

 アカネが返答を終える前に通信回線が切れた。

「…総隊長も相当慌ててますね?」
「でしょうね…コアラみたいな人だから」
「……コアラ?」
「意味は自分で調べなさい」
「はぁ…?」

 …おそらく、「普段は大人しそうで可愛いけど、中身はかなり獰猛」という意味なのであろうが…?

「…出るから後よろしく…」

 …と、アカネが言いかけた所で通信機に緊急を伝える信号が入る。

『グ…すいません…隊長…』

 何故か弱々しい声で話すので、ちょっと不審気に眉を動かすアカネ。

「どうかした?」
『…大尉に逃げられ………死傷……多数…大尉は…D区…画………』

 それきり、力尽きたのかうめき声しか聞こえなくなった。

「……ベッド、空いてる?」
「はぁ、おそらくは」
「手配、よろしく」
「…了解」

 そのまま歩き出すアカネだったが…再び緊急通信が入った。

「…今度は何…こちら『ミグ・バード』」
『こちら警戒班、場所はCD−4通路!』
「…どうかした?」
『……不審者です!』
「…ふーん……で?」
『…はっ?』
「状況を考えれば、いて当然でしょ…捕まえたの?」
『…は、はい失礼しました! おい、今どうなってるか説明しろ……ああ…うん……

 あくまで淡白なアカネに慌てながら近くにいる人間に状況を確認する兵士…
 その間黙っていたアカネだが、この前に応答していた兵士の言葉を思い出した。

「…あぁ…もし逃げられたのなら、追わなくていいわよ」
『…え…は?』
「死にたいのなら、話は別だけど」
『あの…はい?』

 アカネが何を言いたいのか分からず、困惑する兵士であった。


 

 ……ふたたび同時刻……


「いたぞぉ!」
「あそこか!」

「だぁ〜うざいっ!」

 マックスは嵐のような銃撃を避けながら柱に隠れて、手にしていた手榴弾をぶん投げる。

「うわぁ!?」
「にげ…」

 盛大な爆発が通路の影にいた警備員達を吹き飛ばす。

「おらぁ!」

 その爆風が収まるや否や柱から出て、手にしていた短機関銃で薙ぎ倒していく。

「…ふざけるなぁ!」
「ここで負けたら人としての尊厳に関わるんだ〜!!」

 しかし、警備員側も次々と出現し、マックスを再び押し返す。

「…くっそ〜きりがない…って、前にも言ったなコレ?」

 焦りながらもどこか余裕のあるマックスはまるで短刀の鞘のようなマガジンを取り出し、短機関銃に装填する。

「…俺らだってなぁ…人の命に関わる問題なんだよ……!」

 まるで愚痴るかの様に呟くと、今度は閃光式煙幕弾を思い切り投げる。

「うおっ!?」
「め、目がっ!?」
「反撃しろ…ぃや、まて! グアッ!」
「な、後ろから…!?」
「俺は味方だ…!?」
「うぁっ!」

(……おいおい、まるで素人だな……ま、こっちにとっちゃ好都合だが)
「よーし、とっととずらかるぞ〜相棒っ!!」

 …よほど対人戦闘に不慣れなのか、それとも実戦経験が無さ過ぎるのか…同士討ち状態になってしまったのを見て、呆れながらも大声で叫び…その途中でも短機関銃で牽制したり、煙幕やら散弾式対人地雷(クレイモア)やらをばらまくマックス。

 …敵が罠でさらに混乱しているのを確認すると、再び走り出し……先行して進入路を確保していたレオンに合流する。
 マックスが駆けつけた時、レオンは拳銃を構えつつ、曲がり角を警戒しながら窺っていた。

「……レオン、ここに来るまで…何人倒した?」
「…数えてない」
「…はははは……だと思ったよ」

 マックスが後ろを振り返ると…指折りでは数えられないくらいの人間が倒れていた。
 何とか動こうとしている者もいるが、手足が変な方向に曲がっていたり、知識の無い者から見ても致命傷だと判る傷を負っているので、そのまま放って置いて先に進む。

「…おまえが強いってのは前々から知ってたが、やっぱ常人離れした戦闘力だな……」
「わるかったな」
「別に悪くはないが……っと、こっちか!」

 急に立ち止まると「非常口」と表記された扉を開く二人。
 非常口にはいると、かなり急な階段があり、『↑ D3/D4 ↓』という案内図が書かれていた。

「…ついでだ、もう一つおまけしておくか」

 何かを思いついたかのようにマックスは冷笑すると、さっき投げた煙幕弾らしき物を非常口の隙間から投げ入れ、扉を閉めてドアロックを解除できないようにオートロック装置を壊す。
 そしてさらに、階上に動態反応式の催涙弾を投げると、階下の様子を探りながら下りていたレオンに合流するマックス。

「こっちがD4格納庫目指している以上、あんな小細工しても意味がないんじゃないか?」
「なーに、ちょっとした心理戦だよ。よっぽどの馬鹿でない限り、あそこで戦力を二手に分けるだろうしな」
「…なるほど」
「それよりも、本当に格納庫まで行けば、地上へ直行出来る連絡口があるんだな?」
「ああ、それは間違いない」

 …等と話しつつ、さらに階下へ降りていく……


 

 ……施設の外……

 

「…ん?」

 ミュウ達が接近を始めると同時に2機のPF…JキャノンとJファーを足したようなフォルムを持つ機体が出て来た…と思ったら、いきなり銃口をミュウたちに向けて赤い閃光を次々と放つ。

「ひゃっ!?」

 赤い閃光…LMGによる攻撃をあわてて回避するミュウたちは、一旦後退する。

「マーキュリー、『カメさんのスキップ』!」

 ミュウの言葉に反応し、マーキュリーは動作プログラムを変更…シールドを構えつつ左右ジグザグに移動するような移動でミュウに追従する。

「…レーザーマシンガンの連射ですか…!」
『機体照合該当無し。ただし、この機体と武装形態が酷似している点から、同じ用途で設計されたと推察する』

 シルキスが指摘したとおり、接近戦用武器こそBサァイフからカタナ系の武器に変更されているものの、その他の装備はルシルのそれと全く同じだった。

「…3対5…まともに突っ込めば消耗するだけ……それに敵の動き………」

 ミュウはしばらく黙考するが、すぐに何かを思いついたか通信チャンネルを設定変更する。

「シルキス、通信回線設定を全周波数帯モードに」
『こちらの通話をわざと聞かせるのか?』
「以後の通信は出力最大で…ザザザッ…で」
『了解』

 シルキスもミュウが何を考えてるのか察したか、素直に従う。

「では、行きますよ! マーキュリー、『ウサギさんのスキップ』!」

 

 ……敵サイド………


『ウッドペッカー隊、敵機が再び接近してくるぞ』
「ふん、また押し返してやる! オストリッチ隊は左右から回り込め!」
『『『了解!』』』

 マーキュリー達を牽制、応戦している『オストリッチ』こと「JファーE型(瓦礫破砕作業特化Jファー)」…そして『ウッドペッカー』こと「Jオシリス量産型」であるが……?

 

『ピ〜ガガザグァザ〜!!』
『ヒョロロ〜ガガガガガッ!!!』

「う゛おっ!?」


 …と、いきなり鼓膜が破れそうなほどの大音量が通信回線から入り、おもわず耳をふさぐ。

「何が!?」
『オストザザザ〜ピガッピ〜ザザッ模様!』
「ウッドペッカー1からオストリッチ! ノイズが激しくて聞き取れん!」
『ぜんかグァザザッ〜ガ〜つうガガ〜ザザザのう!!』
「…くっ、ダメか!?」

 通信機を叩きながら回線を切ると、近くにいた僚機に接近し、接触回線を開く。

「…そっちは!?」
『こっちも同じだ!』
「……電波干渉か!?」
『…このノイズ…敵はデータ信号を通信用回線経由で送ってる?』
「なに…!?」
『電話回線を使ってデータ送るのと同じ原理だよ! それを最大出力で発信してやがんだ!』
「んなことぁ、わかってる!!」

 …要は電話している最中にFAX信号やダイヤル信号を送ったのと同じ状態であるらしいが…とにかく、互いに文句を言いつつ、データ回線用のチャンネルを開くと……

【934782CD8DAC979082B582C482E9976C82C882CC82C588EA8B4382C993CB9069】(敵は混乱してる様なので一気に突進)
【97B989F0814193CB906982F089878CE082B782E9】(了解、突進を援護する)

「『………………』」

 ……訳さないと理解不能な符号が次々と表示され、思わず思考が停止する一同だった。



 

 …再び施設内に戻る……


「…妙だ…」

 あれからさらに待ちかまえていた警備員を倒して…D4格納庫の目の前まで移動したマックスとレオンは不審気に辺りを見回す。

「…だな…こんな時間だから、格納庫に人がいないってのは分かるし…追って来てる連中は罠や偽装工作で足止め喰らってるとしても…あまりに人が少なくないか…?」

 ここの指揮を執っているアカネに限らず、少し気が回る人間なら…不審者(レオン達)の狙いが機体やデータの強奪であるとすぐに思いつくだろうし、レオン達もかなりの警戒警備を覚悟して進んでいたのだが……警備の数が少なすぎるのだ。
 その理由はすでに明らかにされているが、その事をこの二人が知るわけもなく、不審に思いながらも慎重に進んでいた。


 …格納庫入口で待ちかまえているのかと警戒し、排気ダクトからの侵入を試みたレオン達だが…やはり格納庫に人影はなく、少し拍子抜けしながら中に入る。

「…なんか、最後はあっけなかったな?」

 そんな事を言いながらも、待ち構えていたと思っていた出入口を、内側からロックするマックス。

「…………」
「……見つかってから10分ちょい経過……ミュウちゃんとの待ち合わせ時間には十分間に合うな」
「……………」
「…?」

 何の返答もないので、マックスはレオンの方を向くと、そのレオンはある一点を凝視したまま立っていた。

「……おーい、レオン?」
「あ、あぁ…すまない」

 やっと反応したレオンに、嘆息しながら苦笑するマックス。

「まだ逃げ切れた訳じゃないんだから、しっかりしてくれよ」
「わかっている」

 マックスの方へ足早に歩き始めるレオンは、問題の機体に向かおうとして階段を下りる。

「…さてと…どれだ?」
「……奥の機体じゃないか?」
「…ん〜…だな?」

 …ふたりは手前にあった作業用機体(JファーE型)を無視し…少し奥へと入ったハンガーに固定されている機体の前に立つ。
 この機体こそ問題の機体であり…レオンが本来乗る筈だった機体…「Jオシリス」である。

 いままであえて説明してなかったが、ここはレオンが強化人間としての措置を受けた施設であり……また拉致される際に故郷を滅ぼされているレオン達強化兵にとっては、最も忌み嫌う場所であると同時に「第二の故郷」的な場所でもあるらしい。
 また、この機体…Jオシリスも、彼らが「欠陥品」の烙印を押されなければ、彼らの乗機となっていたはずだが…欠陥品として処分される直前暴れ出し、そのまま量産型Jオシリス(今のルシル)に乗って逃げてしまった事でここに置き去りになっていたとの事だ。

 …実際には、レオンがキーを連れて逃げた後に発生した、反乱騒動の際に半壊した上、開発担当していた研究員のほぼ全てが姿を消したため、機体修復がごく最近まで行われていたのだが…そんな事レオンが知る筈もないし、それはまた別の話になる。


 …とにかく、レオンにとっては疎ましくも懐かしい機体を目の前にして、レオンは何とも言えないような顔で機体を見上げていた。

「…お〜これがそうか…」

 その一方、マックスは感心した様子で見上げながら、搭乗用デッキを操作する。

「マックス、ここはもういい。…あそこの出入口から外に出てく……」

 レオンがPF搬入口を兼ねた、地上への直通出入口を指差した直後、反対側…レオン達が入って来た方から何かを激しく叩く音がする。

「ちっ……ま、あんな頑丈な扉が早々簡単に破れる訳……」

 などとマックスが言いかけた矢先、鋼鉄製の扉は大きくひしゃげて隙間が空く。

「…な!?」

 そして、その隙間を腕で無理矢理押し広げる様に、一人の男がもの凄い形相と勢いで入ってくる。

「手前らか、人の安眠妨げたヤツァ〜ッ!?」

 

 その男は、そんな叫び声と共に二人に躍り掛かかって来た。

「っなろっ!」

 短く叫びながら短機関銃を撃つマックスだが、まるで昆虫か小動物のような動きで避けられて、コンテナの影に隠れた……

「上だ!」
「んな!?」

 …物影に隠れたかと思った直後、どうやら音もなく上にジャンプしていたらしく、マックスはレオンの叫びに反応して上を向いた瞬間顔面を殴られ、そのまま掴み掛かられてしまう

「…っ…このっ!」

 一瞬ふらっと足がもつれ、荷物を手放しながら倒れてしまうが…それを逆に巴投げの要領で投げ飛ばすマックス。投げられた男も空中でクルッと回転して着地する。

「フハハッいいオモチャ、持ってるじゃねぇかよっ!?」
「ちぃっ!」

 …投げ飛ばしたまではよかったのだが…咄嗟の事だったので短機関銃を盗られてしまったらしい。

「オラァッ!」
「…のっ!」

 男はそのまま短機関銃を連射するので、今度はマックスが逃げ回る羽目になる。
 しかし、その男に今度はレオンが拳銃で狙いをつけ…即座に撃つ…!

「ヒィァハッ!?」

 男は悲鳴とも喜悦とも言えない声で叫ぶと、短機関銃を盾のように使ってレオンの銃弾を防ぎ、マックスの後を追いかける。

「ヒャハハ…残〜念っ!」
「く!」

 壊れた短機関銃をレオンに向かって投げ捨て、その体格に似合わないスピードで一気に移動し、再びマックスに飛びかかろうとする。

「……ハハハハッ!!」
「くぉの…!」

 短機関銃を奪われ、無防備状態のマックスは冷や汗を流しながら逃げていた……が、いきなりニヤリと笑うと腕を伸ばし、袖の中に隠していたデリンジャー(2連式の小型銃)を出して構える。

「っ!?」
「切り札ってのは隠しておくもんなんだよ!」

 そう言い終える前にマックスは銃のトリガーに力を入れ……銃声が鳴り響く。

「ぐぁっ!」

 男の方も咄嗟に防ぎつつ避けようとしたものの、1発が腕に当たり…残りは肩付近をかすめて噴血した。
 さすがにこれには悲鳴を上げて、転がるように退避する男。

「よっしゃ!」

 策がはまってガッツポーズを思わずとるマックスだが、すぐに気を取り直して荷物を取り、男へ注意を向ける。

 男の方もレオンとマックスの動きを気にするように体勢を整える。

「…ふふっふ…やってくれるじゃねぇかよ……くはは……っ」

 痛みで油汗が出ている様にも見えるが…男はそれでも狂気に満ちた顔で笑っていた。

「……だがぁ…切り札って割りにゃ、威力がねぇんだなっ!」

 …すると、男は「ボンッ!」という擬音が相応しいような勢いで筋肉を膨張させて、腕に食い込んでいた銃弾を体外に押し出し…肩の傷も筋肉で無理矢理塞いだのか、出血が止まった。

「いっ!?」
「…こいつは…!」

 その様子を見た二人はそれぞれ驚き、距離をとりながら合流する。
 そして、脱出口目指して逃げる二人。男はまだ追ってこない。

「…いくら小口径の銃だからって、あの近距離だぞ!?」
「とにかく走れ!」

 撃った瞬間、男とマックスの距離は数歩も離れていなかった。
 この距離ならば少々口径が小さくても、一撃必倒の威力を発揮するはずである。
 マックスもそれを理解していたからこそ、ギリギリまで引き付けたのであるが…?

 二人は愚痴りつつも全力で走り、脱出口まで移動したが…

「マックス、お前は先に行け…」
「いや、しかしだな…こんな化け物相手に…」
「…だからこそだ……いいから行け……!」
「……わかったよ」

 レオンが発する何か異様な雰囲気を察したか、マックスはしぶしぶ引き下がる。

「5分たっても出て来なかったら、俺は逃げるぞ〜!?」

 などと言いつつ、マックスは非常口から脱出する。

 レオンはそれを見送ると向き直り…程なくして男の方も姿を現した。

「くははっ…一緒に逃げねぇ〜のかよぉ〜」
「…二人で逃げれば、当然おまえは追いかけてくるだろう? しかし、一人でも残ればお前は逃げた方より待ち構えている方に挑んでくる」
「さぁ〜て…そりゃどうかなぁ…フフッ…ヒャハハッ」
「目の前の敵は最優先で叩き潰せ…そう叩き込まれたはずだからな」
「…なん?」

 男が怪訝な顔ををすると、レオンは軽く深呼吸するように小さく息を吐く。

「…わかるんだよ…俺もそう教えられたからな!

 そして、さっきまでの男と同様に、レオンは突進した。


 

 ……再び施設の外……


 

 妨害電波を出して連携が乱れた隙をついて、一気に距離を詰めたミュウ達はまずJオシリス量産型の一機に狙いを絞ったのか、物影に隠れてLMGを避けつつ突進した。(なお、接近できた時点で、ミュウ達は通信設定を元に戻しています)

(マーキュリー、『AA』!)

 ミュウの指示通り「最も近い敵」に狙いを付けてキャノンを発射するマーキュリーに合わせるように、ルシルがLMG連射でJオシリス量産型を牽制…ミュウが乗るイェーガーは接近してくるJファーE型をガトリングとショットガンで迎撃する。

 役割分担をみると…イェーガーとマーキュリーがJファーE型…ルシルがJオシリス量産型を相手にしているような布陣である。

 こうして見るとルシル(シルキス)が一番負担を強いられている様にも見えるが……

『…地形情報入力……射角修正………計算終了』

 しばらく物影に隠れるように移動しつつ、最低限の応戦しかしてなかったシルキスは、そんな事を呟くとあさっての方向へLMGを連射する。
 しかし、その閃光は壁や柱に当たって反射を繰り返し、まるで誘導ミサイルのようにJオシリス量産型に命中していた。

『あの男が私を使いこなせれば、この程度の芸当は時間をかけずとも出来るのだがな』

 残念そうに呟くと、シルキスは再び変な方向にLMGを撃ちだし、跳弾を利用した攻撃を始めるのだった。


 シルキスがそうやってJオシリス量産型を足止めしている時、ミュウ達はJファーE型を相手にしていたわけだが、そのシルキスが放ったLMGの跳弾は、Jオシリス量産型のみならず、ミュウ達が相手をしていたJファーE型にまで攻撃を加えていた。

 ルシルのLMGとイェーガーのショットガンとガトリングの一斉砲火に遭い、3機の内1機が爆散する。

「…凄い…でもこれなら!」

 この攻撃を見てミュウは驚いていたが、それは敵にとっても同じらしい。その動きからかなり動揺してるのが分かる。
 ミュウも負けじとショットガンとガトリングを連射しつつマーキュリーを遠隔操作してJファーE型に攻撃を加え、さらに一機破壊する。

「…パイロット…脱出確認…! これであと3機…!」

 その間にもルシルがオシリス量産型の1機を破壊し、更なる追撃を加えていく。

「…これで残り2機…シルキス、コンディションは!?」
『……残弾LMG500、MLRS185、パック未使用、各耐久値7割を保持』
(マーキュリーのキャノン残弾は15…耐久値は6割…………!)

 イェーガーの残弾などをチェックしながら、モニターしていたマーキュリーの状態を確認するミュウ……

「……残弾燃料ともにオールグリーン……まだ、大丈夫……!」

 少し自信なさ気に言うミュウ。
 その理由は、作戦時間だった。
 本来なら、ミュウ達は遠距離射撃で敵機を施設から引き離しつつ攻撃し、レオン達が地上に出た所を見計らって接近し、合流後転進…という作戦であった。
 しかし、アカネがその意図を察したおかげで、作戦を繰り上げないとレオン達が孤立してしまうために、予定よりも早く接近戦をしなければならなくなったことが、少し不安らしい。

(…敵さんもこのまま黙ってやられるのを待つとは思えない…増援が来る前に何とか…!)


 などとミュウが考えていると、施設の隅から信号弾が上がる。

「え…マックスさんから合図!? 早い!?」

 予定時間よりも早い信号に驚きつつも機体をそちらに向けるミュウ。

「作戦シークエンスサード! マーキュリー、『犬のお散歩』!」
『了解』

 ミュウの乗るイェーガーに追従するようにマーキュリーが後ろに付き、さらに後方…殿でルシルが弾幕を張りながら追従する。

 信号弾が放たれた場所には、マックスが待っていた。
 その姿を確認し、ミュウはイェーガーの膝を落としてコクピットから出る。
 マーキュリーもその横について停止する。

「マーキュリー、『お手』!」

 そして、ミュウの声に反応してマーキュリーも膝を落とし、手を地面に置く。

「マックスさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、何とかな」
「……えと…レオンさんは…?」
「…この奥で敵の足止めをしてる…だが、あいつなら大丈夫だ…すぐ上がってくる」

 自分の後ろにある…鉄骨や柱の瓦礫で半分以上埋まっている大きな入り口を指差すマックス。
 ミュウもそれを覗き込むが、かなり深いので奥までは見えなかった。

「…わかりました…では、レオンさんを信じてここを死守します。…えーと、端末、返してくれます?」
「あ、ああ…ん〜と?」

 荷物をゴソゴソ探るマックス………

「……あれ?」

 荷物をひっくり返すが、端末らしきものは出てこなかった。

「……あの〜…もしかして……?」
「…すまん、落としたっ!」

 両手を合わせて謝るマックスの脳裏に、男に飛び掛られた情景が思い描かれる。
 …おそらくその時に荷物から端末が零れ落ちたのだろう…と。

「…マックスさん〜……」
「すぐ取り返すから、待ってろ!」
「…え、ちょちょっと待ってください!」

 戻ろうとしたマックスだが、ミュウに止められる。

「私がマーキュリーに乗って行きます!」
「えぇっ! いやしかし」
「…端末にはある種の発信機が付いてますから、機体に乗った方が探しやすいですし、この中なら、接近戦主体のマーキュリーの方が向いてますし」
「は、発信機?」
「はい、マックスさん達が上に来れても、回り囲まれていて信号弾が撃てない〜って事態も想定できましたから」
「…な、なるほど」

 二人がそんな事を話していると、ルシルがマーキュリーとイェーガーのすぐ後ろに着地し、砂煙を上げる。

『早くしろ。そろそろこちらも保たない』
「あ、そうでした…では、マックスさん、そういう事でっ!」

 ミュウはシルキスに返答すると、猛ダッシュでマーキュリーに乗り込もうとする。

『貴様のミスのせいで、想定外の手間が増えたな?』
「…ぐ…」

 言い返したいところだが、事実そのとおりなのでうめき声しか出せないマックスは、イェーガーに乗り込み、機体を立ち上げる。
 そしてそのまま即座に機体を反転し、ルシルの射撃に加勢する。

「…しかし、さっき言いかけたけど…入り口の瓦礫はどうするんだ? PF入れるんなら、あれ邪魔だぞ?」
『こうします!』

 マーキュリーは上昇を開始し…一旦入り口から離れると、一気に突進する。

「行ってきます!!」

 マーキュリーはキャノンを発射し、瓦礫の一部を吹き飛ばした直後、HMを発動して瓦礫に突っ込み…奥まで進んでいった。

「……ミュウちゃんもやる時は豪快だな〜」

 砂煙と爆煙でマーキュリーの姿こそ見えなかったが、感心が混じった呆れ声でそれを見送るマックスだった。


 

 ……再び施設内………

 

 …二人が拳を振るうたび、鉄骨が折れ、金属で造られたはずの壁面が歪む。
 そして、彼らが弾き飛ばされるたびにコンテナが変形し、辺りに小さい部品やゴミを撒き散らしていった。

「ハハッ、まさか生きてロストナンバーさんとやらにお目にかかれるとは、おもわなかったぁぜっ〜!」
「それは、こっちだって同じ気持ちだ〜っ!」

 互いの蹴りが激しく双方を吹き飛ばし、二人の身体に赤黒い痣と傷を作っていく。

 …レオンは別に、自らの素性を男に聞かせたわけではない。
 しかし、レオンが男の戦いや言動で察した様に、男もまたレオンの戦いや能力で察したらしい。


 ……自らと同じであることを……


 二人は痛みなど感じていないかのようにすばやく起き上がると、再び肉体が弾け飛ぶかのように組み合いになる。

「……ぐ…うぅ……」

 …力ではやや分が悪いのか、次第に押されるレオン。

「…ヒハハ…そういやぁ…名乗ってなかったっけかぁ?」
「……必要ない!」

 レオンは相手の隙を付いて一気に押し返し、足を払いながら投げ飛ばす。
 投げられた男は瓦礫に突っ込むが、すぐにそこから飛び出てくる。

「つれねぇこと言うねぇ…先輩さんよぉ…ヒャハハハ……」
(くそ…少し荒削りだが…それでも今の俺よりは強い…真っ向からは不利…!)

 そんなレオンの考えを知ってか知らずか、歪んだ笑みを浮かべながらにじり寄る男だが……

「いたぞぉ、あそこだ!」
「ショウ大尉〜どこですか〜!」

 …ようやく増援が来たのか、入り口付近から声が聞こえ始めた。

「…ちぃ…面白いとこだってのによぉ…!」

 舌を鳴らす男…「ショウ=リクドー」大尉は忌々しそうに入り口の方を見る。

「うおぉぉっ!」
「……!?」

 その隙を見て、レオンがスライディングタックルをショウに喰らわせて、自らはさっと物影に隠れつつ、脱出口に向かい始める。

「あいつが侵入者か…逃がすな!」
「撃て撃て〜!」

 しかし、それは増援の銃弾によって阻まれた。

「…くっ…あと少しなのに…!」

 コンテナの影に隠れながら何か使えるものが無いか探すレオンだが、その視線に何かが留まった。

 ……コンテナの隙間…ちょうど人が横になって通れるくらいの隙間に、少し前に見た端末らしきものが転がっており…その先にはJオシリスの姿が見える。

「…ミュウの端末…か? …マックスが落としていったのか?」

 ミュウのことに思い至ったレオンは、懐にしまってあった物を思い出す。

「……賭けだな…これは」

 レオンはほんの少し…何かに祈るように黙祷すると、懐にしまっていた信号弾を取り出して安全ピンを外し…コンテナの影から信号弾だけ出して、銃撃がするほうへ向けた。


 …その数秒後、筒から信号弾が射出され…激しい閃光がレオンたちの視界を奪う。

「……くぅっ……!」

 爆発の瞬間、目を閉じていたレオンは一気にダッシュする。
 激しい閃光と爆音で敵がどう動いているか分からないが、銃撃が無いことから察するに、
上手く敵の目をつぶしたのだろう。

 この騒ぎに乗じてミュウの端末を拾いながらコンテナの隙間を抜け、搭乗用デッキに飛び移って機体の乗り込む。
 その間、多少の銃撃はあったが照準が定まらないらしく、全然見当はずれな方向に撃っていた。

 ハッチを閉じて計器類のスイッチを入れると、レオンは一息つく。

「…さて、後は動かせるか…か」

 しかし、その心配は杞憂に終わったようだ…システム画面が次々と表示され、網膜や指紋の照合でもしていたのか「認証完了」の表示がされる。

 ちなみに説明すると、このJオシリスはパーソナル登録式の機体である…つまり、あらかじめ登録している人間でないと動かせないのだ。

 レオンが「賭け」と言ったのは、実はここである。
 この機体に書かれていたシリアルナンバーはかつてレオンが使っていたものに間違いないのだが、彼が離れてから数年の時が経っている事もあり、パーソナル登録が抹消されている可能性があったからだ。
 ……パーソナル登録の抹消は、最高責任者(当時はヴィクティム准将)の承認及びパスワード登録が必要であった上、その最高責任者がいきなり暗殺されてしまったために、幸いにもそういった処置はされなかったようだが。

『……数年ぶりか、No.R03。…廃棄されたと聞いていたが?』
「…お前は相変わらずみたいだな、アザゼル」
『バージョンアップは行われていないのだから、当然の事だ』
「…機体を動かすぞ」
『さっきから私の身体を小銃で攻撃している人間を殺すのなら、承認しよう』

 怖い事をサッと言ってのけるAI「アザゼル」だが、レオンも慣れている(?)のか、無視して機体を操作する。
 ハンガーを無理矢理壊しながら武器を手に取り、ミチザネの切っ先を兵士達の方へ向けると、わらわらと逃げ出していく。

『殺らないのか?』
「……逃げる敵を追う趣味はない」
『貴様はこの数年で不要な事ばかりを学んだようだな』
「俺はそうは思わない…少なくても、守らなければいけない存在は出来た」

 昔のシルキスを相手にしている事を思い出すレオンだが、ショウの事を思い出し彼と戦っていた方向へ視線を向ける。

「…あいつは…どこだ……」

 モニターを見回すが、すでにショウの姿は見えなかった。

「……逃げた…いや、それはない…どこかにいる…!」

 ほぼ確信的にそう考えるレオンは警戒しながら機体を移動させる。
 そして、それを裏付けるようにハンガーに固定されていた一機がいきなり動き出し、Jオシリスの右腕を掴むと一気に押し倒され、壁に背を預けて座るような体勢に持ち込まれる。

『クゥァハハハァァッ!!』

 ショウは叫び声なのか笑い声なのか判別できない奇声を上げながら、Jオシリスを殴りつけ、アームドライトピックを大きく振り上げる。

『反応が遅い! ヤル気がないのなら私と代われ!!』
「…断る!」

 きっぱりと言い放つレオンは武器を手放すと、アームドライトピックを掴んで止める。

「…このぉ〜っ!!」

 JファーE型を足で押し退けるように蹴り上げて弾き飛ばすと、LMGの強化型であるレーザーアサルトライフルを拾い上げて連射するJオシリス。
 その赤い閃光はコンテナの中にあったグレネードやらハンドMLRS…と言った武器を撒き散らしつつも破壊し、JファーE型の頭部や腕の装甲を削り取る。

「はぁ…はぁ…」

 少し興奮気味のレオンは、暴れだすもう一人の自分を抑えるかのように、あえて大げさに呼吸をして落ち着かせる。
 …煙が収まると、JファーE型はコンテナや武器の破片に埋められていた。

「…無事な射撃武器は無い…機体を動かそうとしてもあれでは奇襲も無理……」

 そう判断したレオンは、念のためもう一度付近を見回して異状がない事を確認すると、地上への出入り口に向かおうとした。



 

 ミュウが到着したのは、ちょうどそんな時だった

「レオンさん〜……っ!?」

 Jオシリスの姿を確認するなりサッと身構えるマーキュリーだが、オシリスのハッチが開き、レオンの姿を確認すると構えを解いた。

「…よかった、無事みたいですね」
「何かあったのか…?」
「あ、そうです。マックスさんが端末落とした…って…でもこれじゃ…」

 付近の惨状を見渡し、唖然とするミュウ。

「…それなら、俺が拾って持っている」

 ……と言う事で、コクピットから出てきたミュウはマーキュリーの腕を伝ってレオンが乗るJオシリスのコクピットまでやってくる。

「ありがとうございます、レオンさん!」
「いや、礼を言われる事じゃないな……」

 と言いかけたレオンは急に目眩に襲われたのか、頭に手を添えて支える。
 
「…あぁっ、大丈夫ですか…!?」
「…ん…いや、問題ない少しフラッとしただけだ」
「……よかったです…でも、あちこち怪我をしている……」
「さっきまで、生身で戦っていたからな…その時の傷だ」

 心配して怪我の手当てを申し出たり、アザゼルに自己紹介を始めるミュウであったが、レオンは大した事はない事を強調し、時間がない事も理由に挙げて、ミュウを下がらせる。

『今の女がお前にとっての「守らなければいけない存在」か?』
「…そうだな…ミュウも、そうだ」
『そうか』
「…何も言わないのか?」
『私を使う存在の完成度など、興味は無い。お前はお前で好きにするがよかろう』
「……?」

 ……妙に人間的…優しげなアザゼルに怪訝な顔をするレオン。
 どうやら、レオンが知っているアザゼルとはどこかが違うらしい。

『ここから脱出したら、すぐに手当てしますね〜! アザゼルさんともお話したいですし〜!』
「あ、あぁ、わかった!」

 レオンとアザゼルの会話は聞こえなかったようだが、ミュウは外から接触回線でそう言うと、マーキュリーの腕を伝って戻っていった。

『…しかし、すっかり腑抜けになったものだな』
「…そう思うのはお前の勝手だ。俺は兵器になるつもりは無い!」
『腑抜けと言うのはそういう意味では無い…まだ、止めを刺しきれていないぞ?』
「……!」

 アザゼルの言葉どおり、ショウが乗ったJファーE型がいきなり動き出した。
 HMを発動させ、コンテナの破片やゴミを撒き散らかしながら、起き上がる。

『きゃあっ!』
「ミュウ!?」

 ミュウの悲鳴に、ショウの方を見ていたレオンが視線を戻すと、彼女がマーキュリーの腕で四つん這いになって、落ちそうになった身体を支えていた。
 どうやら破片の一部か何かが、マーキュリーに当たって腕が揺れたのだろう。

『だ、大丈夫です〜!』
「くっ…貴様っ!」

 四つん這いのまま移動し始めるミュウを意識するように、レオンはJオシリスを慎重に動かすと、JファーE型にタックルをかます。

『クックッ…フハハッ…ハーハッハッハハハ!!』

 もはやまともな思考もなくしたか、ショウは大声で笑いながらJオシリスのタックルを受け止め、グッと体勢を低く構えてJオシリスの突進力を止める。

「何が可笑しい!? もう正気でいられなくなったか…!?」
『ハハハハハッ…!?』

 笑いながら何をするかと思えば、JファーE型はいきなりJオシリスの足を取ると、横に引っ張り上げるように持ち上げてJオシリスをひっくり返した。
 そして馬乗りになると、腕を抱きしめるようにグッと掴み、覆い被さるように圧し掛かかる。

『クハハッ! こっちの思惑通りに動いたんで、笑いが止まらなかったんだよっ!!』
「何!?」

 直後、JファーE型からHMとはまた異なる光が発生し始め…背中から脱出ポッドが輩出された。

「…!?」
『喰らいなっ!』

 そして、JファーE型はJオシリスに組み付いたままで自爆した。







 

 爆発で吹き飛ばされたJオシリスはゆっくりと起き上がる。
 あちこちに焦げた跡はあるが、大した損傷はしていないようである……?

「グ…まさか自爆するとは…」
『…私のスペックを承知しているのなら、当然の処置だろう。作業用PF如きが、まともな手段で対抗できる筈が無い』

 レオンは頭を揺さぶりながら爆発したJファーE型のほうを見ると、足の一部を残してほぼ完全に大破していた。

『もっとも、あの程度の爆発で私をどうこうできる訳も無いが』
「それよりも、あいつはどうなった…あれでやられたとも思えない」

 自画自賛するように批評するアザゼルを無視して、射出された脱出ポッドの方を見ると、すでにショウは、爆風で倒れていた…別のJファーE型を動かそうとしている所だった。

「くそっ!」

 レオンがJオシリスを立ち上げると同時に、ハッチが閉まって動き出すJファーE型。

『第3ラウンドの開始だぜぇ…ククック…フハハ…!』
「いい加減にしろと言いたくなってきた…」
『貴様や他のサンプルの陰に見えるからか?』
「うるさい! …ミュウ、こいつをとっとと片付けて……!?」

 そう言いかけたレオンだが、マーキュリーがうつ伏せ状態で倒れているのを見て、絶句する。

『コクピットに生命反応がない…どうやら、あの爆発で吹き飛ばされたようだな…』
「…………ミュウッ!!?」

 レオンは辺りを探すが、それらしき人影は無かった。
 あるのはさっきの爆発でさらにゴチャゴチャになった瓦礫が山積みになっているだけだった。
 そして、ショウが操るJファーE型は、レオンの事情など知った事かと言っているかのように、ノーマルサックで殴りかかってくる。

「ぐうっ!」

 不意を付かれたレオン…Jオシリスはまともに吹き飛ばされてしまった。
 吹き飛ばされたショックで転がっていた瓦礫や破片が再び宙に舞い、マーキュリーも小さい瓦礫に埋もれていく。

「この……!」

 起き上がりながらレーザーアサルトライフルで狙いをつけるレオンだが……

「く…!(ミュウの事を考えると、迂闊に撃てないか!)」

 …ミュウの事を気遣い、ただでさえ反射する銃弾を撃つのをためらったレオンはミチザネを構える。

「……!?」

 ミチザネを見ると、何か赤黒い液体が付着しており、それが刀身を伝って腕にまでかかる。
 …劣化した機械オイルが付着しているだけなのだが…見ようによっては、まるで血塗れの剣を持っているように見えなくも無い。
 しかし、これを見たレオンの様子が少しおかしい…表情が強張っており、動揺とも恐怖とも取れる目の色だ。

「…これはオイルだ…鮮血じゃない……!」
『そんなに仲間の事が気になるか?』

 どうやら昔の古傷を呼び起されて、嵐の波のように荒れている心を静めているレオンにアザゼルが茶々を入れる。

「仲間を気遣って、悪いか!?」
『まだ状況を正確には掴んでいないが、私を奪い去るという目的ならば、戦術的に仲間の存命を優先するのは、当然の対応と言える…』

 珍しくレオンの判断が正しいと評するアザゼル。

『…しかし、本当に仲間の命を最優先するならば、あの時タックルなどせずに私を盾にして女を守るべきだったな』
「!!」

 アザゼルの言う『あの時』を思い出し、絶句するレオン。

『相手に射撃武器が無いのは理解できていたはずだ。わざわざタックルなどしなくとも、女の盾となりながら一方的に攻撃できた。…しかし、お前は仲間の命より敵を確実に倒す事を優先した』
「違う! 少しでも早く敵を倒せば、安全になると」
『それは、お前が最も嫌う、『兵器』的な発想だ』
「違うっ!!」
『口で何と言っても、兵器として叩き込まれた戦い方を変える事はできないと言う事だな』
「違う!! 俺は…!」
『口だけなら何とでも言えると言ったはずだ。実行を伴わなければ、それは単なる逃避に過ぎない』
「……!!」

 再び絶句するレオン。
 確かにミュウを守りながらショウを攻撃する手段は他にもあった。
 しかし、そう思いながらも身体が勝手に動きJファーE型にタックルをしていたのだった。

「……俺は…」
『お前の戯言に付き合う暇は無い…あれを放っておくつもりか?』

 レオンがアザゼルと話している内に、ショウはマーキュリーの方へ移動していた。

「な!?」
『あれに乗り換えられたら、少々厄介な事態になると思うが?』
「うあぁっ! させるかぁっ!」

 慌てて機体を操作し、瞬間転移してJファーE型を羽交い絞めにするJオシリス。

「ぐっ、ウオォッ!」

 そして、少し腰を落としてバックドロップのような動きでJファーE型を投げ飛ばす。

『よっぽどその機体に乗ってた女が大事ってかぁ…先輩さんよぉ!』
「聞いていたのか!?」
『内緒話のつもりなら、もう少し小声ですることだなっ!』
「貴様〜っ!」

 さらに興奮したように頭に血を上らすレオン……しかし、いきなりコクピットから警報アラートが鳴り始める。

「なっ!?」
『生体ユニット精神コンディションイエロー。AI設定に基づき、強制干渉を開始する』

 アザゼルとは少々違う声がしたかと思えば、いきなりレオンの手足が操縦桿に固定されてしまう。
 シートからもチョーカーの様な拘束具が飛び出し、レオンの首を締め付ける。

「グアッ!?」
『全く、苦労させられたぞ。貴様を興奮状態まで持っていくのは』
「アザゼル…貴様……!」
『興奮状態まで持っていかなければ、私はお前に干渉出来ないからな』
「…こぉの……ガアァッ!」

 いきなりソファーから放電されて苦悶の表情を浮かべるレオン。

『気絶などさせんから安心しろ。あとは私がやる、貴様は引っ込んでいろ!!』
「グゥアァァ〜ッッ!!」

 しかし、悲鳴を上げながらも必死に抵抗するレオンは拘束具を引きちぎろうと必死に力を入れる。

『…む、さすがに手強くなったな…ならば』

 レオンの身体を操り、レーザーアサルトライフルをマーキュリーの方へ向けるアザゼル。

『仲間の機体を破壊すれば、少しは昔に戻るか?』
「グガガ…やめ……ガァッ!?」

 トリガーを引いた瞬間、何とか射線をずらす事に成功したレオン。
 しかし、やや大きめの瓦礫がさらにマーキュリーの上に圧し掛かる。

「ガググ…きさ…まぁ〜!!」
『私を憎いと思うのは大いに結構…それだけ貴様は正気でいられないからな』

 その時、ショウのJファーE型がいきなり殴りかかってくる。

「こっち、無視してんじゃねぇぞ!?」

 それを肩部のシールドで軽々と受け止めるアザゼル。

『この欠陥品の代替か。貴様には礼を言わねばなるまいな…』

 それだけ言うと、Jオシリスは瞬間転移でJファーE型の背後に回りこみいきなりコクピット付近に剣を突き刺す………

「ッ!?」

 ……突き刺そうとしたが、辛うじてそれを避け、脇で剣を止めるショウ。

『…せめてもの礼に苦しまずに壊してやろうかと思ったが…不服か?』
「ったりめぇだ、コラッ!?」
『ならば、苦しみながら壊れるがいい』

 剣を真上に上げて肩間接を切り裂くJオシリスは、そのまま頭に剣を振り下ろす。

「フッ!」

 しかし、その隙にしゃがんだJファーE型は後ろ回し蹴りでJオシリスの足を払うと、そのまま外へ逃げ出した。

『…逃がすと思うか?』

 多少バランスを崩しただけで、すぐに後を追おうとしたアザゼルだが、再びレオンの妨害に動きが止まる。

『この、欠陥品が…! …これ以上邪魔をするなら、脳組織の破損も覚悟してもらうぞっ!』

「グゥアアアァァァ〜〜〜ッッ!!!」


 この瞬間から、レオンとしての意識は、完全に途切れたのだった………








 

 ………後編に続く………



 



 あとがき

 やっと終わった〜というのが今の正直な感想です<まだ終わってないだろ
 この中編を書き終えるのに半年近い年月がかかってしまいましたよ(死)
 さて、後半はもう少しペースを上げつつ、何とか短めに終わらせたいですね…他の作品も結構停まってるし(汗)
 では、感想やつっ込みなどがあればぜひください(苦笑)




 

設定

 新音声コマンド『○○のスキップ』
 マーキュリー自動遠隔操縦用コマンドで、マーキュリーを外部操作するために追加された。『スキップ』については今までものと同じ(ジャンプ+ブーストで移動しろという意味)
 『カメ』というのは『命令した人物の後ろを追従しながら防御』、『ウサギ』は『命令した人物の前を先行しながら防御』である。
 なお、先行する際は命令した人物が乗った機体から発せられるWCS信号(又はインターフェイスの信号)を読み取ってその範囲内に移動しようとする。
 ほかにも「イヌの〜(併走しながら〜)」や「ネコの〜(周回しながら〜)」などのコマンドがある。


 シルキスとアザゼルの「ナイトメアモード」の違い。
 設定上、シルキスとアザゼルは設計思想や構造も異なるが、この両者は同じAI技師が製作をしている関係上、特徴が非常に似通っている。
 その似通っている点でもっとも顕著なのは、「ナイトメア」と呼称される特殊HMを使用可能である事だろう。
 理屈を簡単に言えば、パイロットの理性の枷を外して『暴走状態』へ導く事で、戦闘力を飛躍的に高めるというものだが、この類似点においての最大の相違点は戦闘力を高める手法である。

 シルキスはパイロットにある種の電気信号(暗示信号)を送って破壊衝動を高め、意図的な『暴走状態』を維持させ、同時にパイロットのサポート(「射撃モード」か「策敵モード」)を行う事で「ナイトメアモード」を発動している。
(発動時シルキスが「破壊…破壊…」と喋り続けるのはパイロットに対しての『暗示』の一種であると推察される)
 それに対してアザゼルはパイロットの意思に関係なく「乗っ取る」事で、パイロットと一体化して強制的に『暴走状態』を維持させ、アザゼル自身が持つ、『アルサレア最強』と言われた人間の戦闘データをパイロットに強いる事で「ナイトメア(バーサーカー)モード」を発動している。
(アザゼルに活動時間を設けているのは、アザゼル自身の過負荷にも因るだろうが、「パイロット(機体操作用生体インターフェイス)を無駄に浪費させない」為の安全装置を兼ねていると推察される)

 アザゼルの方がより「兵器」らしいと言え、シルキスのそれはまだ「人」としての存在を考慮したものであると言えるが、これは人道的配慮からではないのは、説明するまでもないだろう。
 シルキスが搭載されている「Jオシリス量産型」はその名の通り量産を前提として開発されている機体であるため、パイロットもその機体数必要としていた。
 しかし、レオン達に施された強化は一朝一夕でどうなるというものでない…生産性に欠いた強化であるため、生産性を考慮した強化兵士の育成が求められたと思われる。
(これは「覚めた悪夢の終わりで…」で登場の、「戦うほどに強くなる兵士」が「失敗を反省して造った」と評されている事から、彼らが量産機用パイロット(生体インターフェイス)の試作体であったと推察できる)
 そう言った経緯もあり、量産機には機体の多目的・長時間運用も視野に入れ、時間制限という欠点もあったアザゼルタイプのシステムから、薬物投与や暗示などの比較的簡易な強化で運用可能な、シルキスタイプのそれに変更されたと思われる。

 余談だが、このような複雑な工程を経なくともアザゼル単体による機体制御を行えば良かったのではないかと思うかも知れないが、アザゼル系AI及びJインプ(Jオシリス)系機体が開発された当時(聖歴20年後期から聖歴21年?)は、人工知能による機体自律制御が技術的に困難だったらしい。
 (『覚めた悪夢の〜』で、シルキスが機体自律制御を十分に出来なかった事から推察)



 


 管理人より

 ヨニカさんより中編をご投稿頂きました!

 レオン、ちょっとピンチ?(汗)

 しかしメッセは……(苦笑)
 


[感想掲示板へ] [目次へ] [投稿部屋へ] [ヨニカ=グリフィスさんの部屋へ]