ヴァリムの中心から辺境に向かう幹線道路を、トレーラーが疾走していた。
それ自体は珍しい事ではない。問題は運転している人間だった。
「……ファイお兄ちゃん、時間だよ?」
運転していたのはどう見ても14歳程度の女の子だったからだ。
「……もうそんな時間か…シグマ、交代だ」
アイマスクをして寝ていた男…ファイは運転していた女の子…シグマにトレーラーを路肩に止めるよう指示し、軽く首や肩を回す。
シグマは指示通りにトレーラーを止めると、ファイの真似でもしているのか、同じように首と肩を回す。
「…さて、もう一息だな?」
今度はファイが運転席に座り、シグマが助手席に移る。
そして、再びトレーラーは動き出した。
「…………」
…シグマは興味深そうな感じだが、無言で窓の外を見ている。
普段なら見て判らない物、興味深い物を目にしたり耳にすると「あれ、何?」と聞いてくるので、おそらく知識としては頭にあるのだろうが、実際に目で見るのは初めてな物もあるからだろう。
「……少しは眠ったらどうだ?」
「…眠くない」
「そうか。……ならば音楽でも…」
一応気を遣っていたのか、ファイは止めていたモニター付きマルチプレイヤーを起動し、適当に(運転中なので中身を確認せずに)選んだディスクを挿入する。
すると、モニターに映像が映る。…どうやら音楽CDではなく、何かの映像が撮られていたディスクを挿入してしまったようだ。
……やや不鮮明ではあるが、ファイにはこの映像には見覚えがあるらしい。…わずかに表情を変える。
「…でも、よく反応できたね〜?」
「……似たような奴を一人、知っているからな」
……どうやら、以前とある施設内でファイ達が戦った記録映像であるようだ?
この時の映像はフォルセアに提出している筈なので、おそらくコピーしたものだろう。
「……暇つぶしと反省検討を兼ねて持ってきた物がいつの間にか紛れ込んでいたようだ」
……などと言うファイだが…とことん任務優先主義な男である。…こんな時くらいもうすこしまともな物を用意していれば良いのだが(汗)
別の物に変えようとするファイだが……
「…これ見たい」
……と、シグマが言うので、そのままにする。
「おまえが見てもそれほど参考にはならないと思うが?」
「……………」
シグマは無言で首を横に振ると、そのまま映像に集中する。
「…好きにしろ」
「…うん」
相変わらず無言で映像記録を鑑賞するシグマと運転しながら音だけ聞くファイ。
「…失礼した。俺の名はファイ…悪いが、全力で戦わせてもらう…」
「…俺も舐められたものだ…全力を出し切らなくても勝てると思われていたのかな…?」
「……今にして思えば、この時の前口上は先に奇襲を行った後でするべきだったな……?」
後悔している…という訳ではないようだが、そう呟くファイである。
「……ファイお兄ちゃん、何か言った?」
「…ん…いや、なんでもない」
「『かかってこい』と言ってるのに構えてどうする!?」
(………そういえば、あの時もそんな事を言われたか)
テレビの中で激しい格闘戦が繰り広げられる中、ファイはそんな台詞が頭に浮かび、昔の訓練時代を思い出していた。
……なお、運転中にテレビを見たり、運転以外の事を考えてしまうのは大変危険ですので、決して真似しないでください(汗)
〜回想シーン開始〜
俺は調整が終わった早々、シータの下で修行を始める事になった。
教官として紹介されたシータを見て、最初は…
(如何に先輩格とは言え、何故年下の人間を…)
…と、思っていたが、最初の手合わせで成す術無く打ち倒された事でその認識は崩れ去った……自らが密かに抱いていた自負と共に。
それからずっと、俺はシータを超えようと必死に修行を行った。
もともと肉体能力的な所は性別や体格の差で勝っていたから、銃器の使用を含めた戦いでなら、シータ相手でも負けない実力を備えてきた頃……
「……ガフッ!?」
…大きく吹き飛ばされて大岩に叩きつけられる。
「グゥッ!! …かはっ……」
ここは研究施設の外にある、野戦用の訓練場だ。
どうやって吹き飛ばされたのかは俺自身よく理解出来ていないが……吹き飛ばした奴は俺の目の前にいる男……シータの師匠にして特殊強化兵体術関連の教官である『アルフォンス=ヴォルフバインド』だ。
そのアルフォンスは今、俺…そしてシータとパイ、ランの4人をまとめて相手にして戦っていた。
……事の始まりは、つい30分前の事だ。
いつものようにシータの指示の元、俺とパイ…俺とチームを組む事になったランで訓練をしていた時に…今までは武器の取り扱いや体術の基礎しか教えていなかったあの男が『まとめて手合わせしてやろう』と言い出してきたのは。
シータは「まーた御師様ってば気まぐれで…」と言いかけ殴られていたようだが、その動きは全く視認できない動きだった。
「……で、どうするよ? やるのかやらねぇのか?」
「…まぁ、御師様がそう言うんでしたら……」
そういった直後、シータはまたしても視認できないような動きで蹴られた……?
「手前ぇには聞いてねぇっ!」
……くっ…今の動き…シータは反応できたのか、咄嗟に防ごうとした動きが見て取れるが…俺には全く見えなかった……!?
「…了解しました。御師の師ならば、私としては問題ありません」
「同じく〜」
「たまには先生相手(ランは暗器の扱いをアルフォンスに教わっている)にこれ使ってみるのも良いかもネ」
手にしていた針や手甲に収容されている鋼線を見ながら笑うランの後ろで、砂地に頭から突っ込んでいたシータも立ち上がって挙手する。
「…イタタ…ボクも参加しま〜す。…パイはともかく、ファイは弟子にして間もないし……」
「……ふん…ま、いいだろ。…俺としても少々確認したいことがあるしな」
……?
何処か不機嫌そうな顔でシータを睨んでいるのは、俺の気のせいか?
…そして、各々軽く準備をした後、4対1の実戦形式の模擬訓練が始まった。
まず動いたのはシータとパイだ。さすがに4人同時だと動きにくくなるので、俺とランは構えを取って様子を見る事にした。
それこそ常人から見たら瞬間移動しているとしか思えないような動きでアルフォンスに迫る二人だが、アルフォンスはそんな2人を鼻で笑うような表情のまま、まず裏拳でパイを薙ぎ飛ばし、パイの後ろから攻撃してくるシータを足払いのような蹴撃で迎撃…姿勢を低くして腕で受け止めたシータだが、その直後体勢を入れ替えたアルフォンスに殴り飛ばされる。
「……どうした…かかってこい?」
「……くっ!」
慎重に間合いを取りながら隙をうかがう…が、何故か自然体のままで立っているだけのはずの男に隙が見出せない。
…そして、その瞬間目の前からフッと消えた…様に見えた男からの攻撃を受け、俺は思い切り吹き飛ばされる事となった。
「…『かかってこい』と言ってるのに構えてどうすんだ、あぁ!?」
「……く……!」
アルフォンスに怒鳴られてフッと我に帰った俺は、呻きながらも体を動かそうとしたが、まるで力が入らないのでキッと目の前の男を睨み付ける。
「…目だけは一人前か? 一度しか言わねぇから耳に穴開けて聞いとけ! 構えなんてのは、後の先を取るための物で、先の先を取るつもりなら不要の物だってな!」
そして、俺に問答している隙を狙って復活したシータ達が一斉に襲いかかってきたので、向き直る。
「八艘!!」
シータがそう叫んだ瞬間、姿を掻き消すように刹那的に飛翔し、付近の木の幹や岩壁をまるでスーパーボールが跳ね返るように移動する。
…最初の1、2回はまだ見えたが、跳ね返るたびに加速するスピードに、俺達ですらインターフェイスで位置を確認しないと見失いかねないスピードだ。
……強化兵でもなく、まして一番間近にいるアルフォンスでは目で追うどころか視認する事さえ不可能なはずだ……
「……はぁぁっ!!」
…シータの拳がアルフォンスを……あっさりとかわされただと!?
ドゴッ!!
かわされたシータの拳は、自分の身長の倍はありそうな大岩を捉え、粉々に砕いた。
「……相変わらずの馬鹿だな……奇襲するのに声なんか出すんじゃねぇ〜っ!!」
「がっ!?」
後ろから蹴られたシータはそのまま自分が砕いた大岩だった物の瓦礫に突っ込んだ…が、素早く起きあがって体勢を立て直し、腕に付いた擦り傷を舐める。
「にゃろ〜」
今度はパイがランの援護攻撃と同時に仕掛けてきた。
ランがナイフや針をパイの動きに合わせるように投げる。
「……縮地!」
パイの姿が掻き消え…そこからナイフや針が飛んでくるが、それを指で払うように叩き落しつつ、真横から攻撃してくるパイの攻撃を受け止めるアルフォンス。
「…自分を囮に…ってか? まだ甘いな?」
「……そう思う〜?」
ニヤリと笑うパイ。
……何か考えて…なるほど、そういうことか。
「…ああ、思うな」
俺も今度は上手くいくかと思ったが、拳を受け止めた反対側の腕を自分の真上に上げると、上から落ちてくる数本のナイフを指で挟むように止めた!?
…最初から気付いていたのか!?
「…い!?」
「…ばれてタ!?」
「……ったりめぇだぁっ!! こんな使い古された幼稚な手段に、誰が引っかかるか〜っ!!」
アルフォンスはあわてて蹴りを入れてくるパイを、片手であしらったついでのカウンターのように腹部に掌底を加えて、その状態のまま(さしずめ砲丸投げの選手のように)ランに向かって投げて、二人まとめて吹き飛ばす。
そして、手にしていたランのナイフをいつの間にか自分の背後に移動していたシータに向かって投げる。
「……うみゅ〜」
「……くっ……!」
半失神状態のパイを受け止めるように倒れたランを一瞬だけ見ると、アルフォンスは唾をはき棄てるように舌を鳴らして、今度はシータの方を見る。
「…にゃははははは……」
すこしナイフがかすめたのか、頬と側頭部からほんの少し血を流しているシータ。
……俺らが言える台詞ではないが……もはや人間ではないな…この男…!?
「……ったく、久々に手合わせしてみりゃ、この馬鹿弟子は妙な強化されて弱体化してる、おまけにその弟子たちは腑抜け揃いと来たか!?」
……腑抜けだと……!
聞いた話だとこの男はシータに皆伝を示すという白紙の手記帳を渡した後、何故かちょくちょく姿を消していたらしい。その為、基礎や武器を扱う以外の体術訓練は、シータが勤めることになったようだ。
俺達の実質的な格闘技の師がアルフォンスではなくシータであるのはこう言った事情があるのだが…それを棚に上げて……!
「……弱体化じゃないよ〜…感情制御ですってば〜」
「……俺に言わせりゃ同じことだ! 要は感情に任せた行動すると、自分の力が制御できないだけだろが!?」
「……はい………」
「……腑抜けとは聞き捨てならないな……ク……確かに修行を始めて間もないとは言え……」
…この…先の衝撃でまだ体調が戻っていないのか……あの程度で…動け!
「…ふん」
アルフォンスは俺に歩み寄り、張り手のように軽く押す。
……な……!?
何とか踏ん張ったが、自分でも不思議なくらい力が入らず、数歩下がりながらバランスを崩し、片膝を付けるように倒れる。
「…あの程度の攻撃受けて、もう足腰に力が入らないか? 今の馬鹿弟子でもそんなにゃならんぞ?」
「……く…!」
……単純な腕力などではともかく、打たれ強さや受身などの体術ではまだ及ばないとでも言うのか……!?
「………お師匠(おっしょー)様って……前はもっと強かったの〜?」
「……さぁ…ボクはわかんないけど……?」
その瞬間、アルフォンスはまたしても瞬間転移のように移動し、シータの頭をデコピンする。
「うに゛ゃっ!?」
それだけで仰け反るように吹き飛ばされて、慌てて地面に手をつき、バック転するシータ…!?
「…ったく、馬鹿だ馬鹿だと思っていちゃ〜いたが、本当に大馬鹿だったらしいな……!?」
「……むぅ〜…御師様のいぢわる〜!」
さすがにムッとした顔をするシータ。俺はもちろん、パイやランも似たような心境だろう。
しかし、それをあの男は鼻で笑うとシータを見る。
「……もっともてめぇにゃ皆伝やったから、その後お前がどうしようと俺は知ったこっちゃねぇが……どうするかわかってるな…?」
…何かは知らないが、アルフォンスから異様な気配が……!?
「…うにゃ…分かりました〜」
……あのシータが蛇に睨まれた蛙のように萎縮している……それほどのことなのか?
「…よし、食料狩り行って来い!!」
「「は〜い」」
………今のは俺の聞き間違いか?
「……武器とか罠はなし?」
「…皆伝やったから、強制はしねぇよ」
「了解です」
「あたしは〜?」
「……どうせ罠なんか使う気ないだろ?」
「…あたり〜♪」
…ランも惚けているような表情をしているので、幻聴や聞き間違いではないようだ……
(…ん〜ボクらのあいだじゃ、手合わせしたら、負けた方が食事作る事になってるの)
インターフェイスを使って会話の解説をするシータだが……
(……俺達もやるのか……?)
(当然♪)
((……………))
(…あたし、何か捕まえてくる〜♪)
(……あ、念の為言っとく。…逆らったら、御師様に手足縛られて山道引き回されるか、滝が目の前にある川に落とされるよ?)
………どうやら、他に選択肢はないらしい……
痛む体をむりやり押し上げて、食事の準備を始める俺達だった。
……一旦ここでファイの視点を離れます………
久々の食料狩りをする事になったシータとパイは別々に行動する事にした。
その方が何かと効率がいいからだった。
(ホントはパイが一緒だと後ろから狙われてるみたいで落ち着かないだけなんだけど)
苦笑しながらシータはそんな事を思い、今は魚を捕まえるべく川辺を歩いていた。
「……お、ちょうど良い場所発見♪」
丁度川の水が支流にそれて流れが滞っているような岩場を見つけてニヤリと笑うシータは、魚が隠れられそうな岩の近くの水面に両手を付ける。
そして、一回大きく深呼吸すると、グッと手に力を込める。
「……迅雷……」
そう呟くと水面がまるで微弱な地震でも発生している様に震える。
「……ん〜……」
両手を離してしばらく待っていたシータは、水面に痙攣しながらプカリと浮かぶ魚を確認すると、顔を綻ばす。
「にへへ…エサ確保♪」
……エサ?
少々意味不明な言葉を言うシータだが、その気絶している魚を数匹捕まえると、慣れた足取りで木や岩を足場にして移動し、やや大きい沼のようにも見える、流れが殆ど無い大きな川に辿り着く。
「……よーし!」
シータは懐からラン特製のワイヤーと針、掌が見えるような構造になっている厚手の皮手袋を取り出すと、簡易な釣り道具を作って先ほど捕まえた魚に括り付けて放流する。
まだ辛うじて生きていた魚はそのままゆらりと川の中へ姿を消していった。
残った魚を手甲の爪牙で切り身にして適当に放り投げたシータは、しばし獲物がエサに喰らい付くのを待つ。
………待つ事数分…………
さすがに少々の時間では魚はひっかからず、シータは暇を持て余していた。
「……パイは何か獣捕まえてくるって言ってたけど…………」
ふと別行動をしているパイが気になるシータ。
「………また、変なことしてないと良いけど……」
…気になるといっても、パイ個人ではなく、パイに巻き込まれる存在の心配をしているようだった(汗)
………ここでふたたびファイの視点に戻ります………
「…よっと」
かまど作りと言うのも疲れるな……幸い、さっきシータが砕いた岩があるから材料には事欠かないが。
「……ラン、薪の方はどうだ?」
「…ちょいまち……」
ふとランの方に視線を送れば、ランは人間サイズくらいあるような大きな枯れ木を宙に固定している所だった。
……ランらしいな……
ランの得意武器はワイヤーだ。おそらく、訓練を兼ねてワイヤーを枯れ木の先端に括り付けて宙に浮かせているのだろう。
「……何をするつもりだ?」
「こうするつもりィ」
ランは両手の手甲から分銅付きのワイヤーを射出すると、宙に浮いた木に巻き付けて、さながら鮟鱇を包丁で捌くように枯れ木をバラバラにしていく。
…そして、人の大きさほどもあった枯れ木はほんの2分〜3分足らずで小間切りにされた。
「…よし、なかなか良い調子!」
「ったりめぇだ、俺がわざわざ手前ぇ用に拵えたもんだからな」
「…うーん、早く実戦で使いたいわネ〜」
自慢げなアルフォンスだが…いくら勝ったとはいえ少しは手伝え。
「…ん? …『少しは手伝えよお前』とか言いたげな顔だな…ファイ?」
…しまった…視線で考えを読まれたのか?
「……いえ、気のせいでしょう」
「ま、俺にはどうでも良いことだが、あの馬鹿弟子みたいになりたくないなら、気ぃつけろよ」
…確かに気をつけなくてはいけないな…俺の主任務は潜入工作……この程度のポーカーフェイスくらい出来なくてどうする……これでは任務遂行など到底無理だ。
「…了解」
極力平静を装いながら、俺は作業を再開した。
……時間経過………
…竈と薪の準備も終わり、竹幹を利用した飯と焼き芋の準備も終わった頃、シータとパイが戻ってきた。
「…手前ぇはい・つ・ま・で経っても変わらねぇ〜な〜……!?」
「いたいいたいいたいいたい〜〜!」
「散々時間かけた挙句、また食べにくいものを捕まえて来やがってぇ〜!?」
「魚釣ろうとしたらこんなのが釣れちゃったんだもん〜!」
…アルフォンスは苦笑とも笑顔とも取れる顔でシータの側頭部をグリグリしていた。…いままでの行為の過激さからすれば、2人の間ではおそらく軽くじゃれ付いている程度の感覚なのだろう。
……シータが持ってきたのは体長1m半程度のワニだった。
今はシータの爪牙とランのワイヤーで皮を剥いで内臓を取り出し、さらに輪切りにして石焼にしているが……本当に食えるのか?
…パイはパイで大蛇やら山猫やら…わざととしか思えないようなものしか取ってこない始末…。
「兎なり鳥なり、もう少しまともなものは取って来れないのか?」
「…だってそれだとすぐに死んじゃってつまらないし〜」
「……お前達は慣れているのだろうが…初めて食べるこっちの身にもなれ」
「……そうよネ〜……」
ゴスゴスゴスッ!
「ぐぅぉっ!?」
「…ツツツ…」
「………痛い〜」
少し離れて小声で話しているといきなりアルフォンスに殴られる……!?
「ウダウダ言ってねぇで手と体動かしやがれ!」
「ちょ、ちょっと待て、今さっきまで……!?」
…シータが頭抱えている方を指差した瞬間、俺は再び何が起こったのか分からぬまま、宙を舞った………
………………食事終了……………………
「……っとっとっとぉ」
……シータは胸の前で手を合わせるように西瓜を手で挟み、何度か叩く…?
「…ほい」
「…ん」
それをアルフォンスに投げ付けると何故か金属製のストローを用意して西瓜に刺し、『…ズズズズ……』という音をさせながら吸う。
「……ふぅ〜食後のデザートはこれに限る」
「…西瓜ジュース?」
「……あたしもやる〜♪」
シータが次に手にしていた西瓜をパイが奪い取ると、シータと同じ様にポンポンと西瓜を叩く…が、その瞬間西瓜が破裂するように砕けた。
「……あう〜びちゃびちゃ〜……」
「……威力調整がめっちゃむずかしーんだよね〜」
……そのようだが……今のは一体?
「……あ、ファイは知らなかったっけ? ……これは『八供』って技を応用したんだ♪」
「…八供?」
「そ……ちなみに、『全力』で使うとこうなる♪」
シータは足元に転がる石を拾うと宙に投げた石に一撃を加える………
その瞬間、石は妙に甲高い音を出して…砕けるという表現すら生ぬるい勢いで粉々になった………!?
「……な……?」
「…格闘重視インターフェイスの振動波を利用した技だから、多用は出来ないけどね」
「……多用する必要があるのか? …一撃でも十分だと思うが……」
「…殺したくないから」
……なるほど…しかし、シータより未熟な俺が何を言った所で、弱者の戯言に過ぎないが……個人的には甘いと思う。兵器として生まれ、育てられた俺にはそう感じた。
「…でも、この技使えば絶対負けないんじゃない…殆ど反則的攻撃だシ?」
「……甘い」
「にゃ?」
「「……ん?」」
ランの言葉を否定したのはいつの間にか酒を混ぜて飲んでいたアルフォンスだった。
「……確かにその技は一撃必殺だし、防ぐ手段は腕を潰す以外無いが……技の優劣で戦闘の勝敗を分けるなんてのは、有り得ないって事だ」
「…それは正論ですが…シータの体術なら並の人間では付いていく事すら不可能…」
「並の人間なら、な。…だが、もし敵が俺くらいの強さだったらどうなる?」
………それは………
「…勝てないと思う」
……シータが静かに…そしてはっきりと言う。
…たしかに、この男はもはや並の人間レベルのものではない…俺達ですら見切れない動きを繰り出す体術…しかもあの大型武器を軽々と振り回す膂力…。
「しかし、貴方ほどの強さを持つ敵がそうそういるとは……?」
そういいかけた瞬間、ハリセンで叩かれる。
……どこから出した…!?
そう思いつつ睨むが、無視して話を続けるアルフォンス。
「…それが甘いと言ってんだよ。…言っとくが、俺より強い奴なんて広い世界探せばザッと見積っても最低1000人はいるぞ?」
「「「「1000人!!?」」」」
「……お前らでも分かる名前を挙げれば…アルサレアならエ…『クレイジーウインド』こと「ケイオウ=ロイドゲイル」特尉とか、ミラムーンの「ゴールド=スレイブ」特佐……ヴァリム内では「レッド=ソニア」少佐、「レビ=ブラウド」中佐…「ホワイト=アルバート」近衛少将とかな?」
……その名なら、たしかに『要注意人物』として何度も聞かされた覚えがある。
しかし、ケイオウ特尉は限りなく死亡に近い行方不明ではなかったか?
「…この辺りの存在が『本気』出せば、俺如きがどうあがいた所で勝てねぇな?」
「……まるで実際に試したような物言いですネ?」
「……その中の何人かとは、実際に試したんだよ」
「…世の中広いよね〜…きゃはは」
…パイよ…お前は事の事態を読みきれてないだろう…しかし、それはいくらなんでも過大評価をしていないか……?
「…他にもカ・ティア、ゼッウォー…数え上げればキリがないが、俺にとってはいずれも一生をかけてでも乗り越えたいと思う相手だな」
「あの〜その人たちって……誰ですか?」
…シータの言葉に…一瞬、何かを言いかけたアルフォンスだが、珍しく『言い過ぎた』と思わせるような表情をすると手を振って誤魔化した……?
「…ま、ここで馬鹿やっている限り、そんな事を気にする必要はねぇよ。……手前ぇらがまず気にするべきは、俺に一撃当てる事だな……」
……そう言われて、先の戦いで一撃もこの男に有効打を与えていない事を思い出し、愕然となる……。
……そうだ…対人戦に特化したこの4人がかりでこの体たらくでは、今後の展開次第では『廃棄』されてしまうではないか……!
「……そうでした〜」
「…また一撃当てるかダウンさせないと帰してもらえないの〜?」
ニヤリと笑うアルフォンス……?
「ふふ、そこまで言わんが…日が落ちるまでに何とも出来ないと、夕飯の支度もやってもらう事になるな?」
…………その後、日が落ちるまでに辛うじて一撃当てた俺達だが、訓練終了を言い渡されたその場で倒れるほど消耗していたのにもかかわらず、アルフォンスは軽く汗をかいているだけだったのをおぼろげながら覚えているが…それが無性に悔しかった。
……回想シーン終了………
ファイが物思いに耽りながら運転していた間にすっかり日が暮れたため、手近なパーキングエリア……道の駅で食料を調達して食事をしていた。
「……明日の朝には着きそうだな」
「うん」
言葉少なめに黙々と食事をするファイとシグマ。
「……シグマ、一つ聞きたい」
「…なに?」
…すこし間をおいて、何かを考えながらシグマに問いかけるファイ。
「……おまえは戦闘に限定して、目標となる人物はいるか?」
「シータお姉ちゃん」
ファイの質問に即答するシグマ。
「……何故だ? お前の能力はすでにシータを凌ぐレベルなのに?」
シグマはシータを始め、ガンマ、アイオタ、ラムダ、ミュウの戦闘技術やそれに関連する知識を統合すべく調整された強化人間だ。
当然、肉体的能力もその知識と技術に見合うレベルで調整されているはずである。
「…わかんない……でもシータお姉ちゃんとは1回しか戦った事無いけど、もう1回やったら勝てる気しないから」
「………そうか」
何か安心した様子のファイを不思議そうに見るシグマだが、特に何の会話もする事無く食事を再開した。
(……俺もまず御師…シータと再び合間見えて……そしてアルフォンス…Gエリア戦線が始まった頃から再び姿を消したが…まずこの2人を超えなければな……)
シグマの横顔を見てそう思うと、ファイも食事を再開した。
(そのためにも、この作戦は必ず成功させる……!)
今回の作戦内容を改めて思い出し、決意を新たにするファイであった。
余談(話に取り入れるつもりが、文字通り余ってしまいました)<待て!
なぜアルフォンスが姿を消したかというと……時はGエリア戦線が始まる前に遡る。
「…もう少しどうにかならんのか? 貴官の能力は評価するが訓練のたびに戦闘不能になるのは、他のカリキュラムに支障をきたす」
「…ふん、たった数年で指定されたレベルまで戦闘力を高めろと言われれば、ああもなる」
アルフォンスと研究員達が何かを話しているようだ?
「話はそれだけか? …ならばもう出るぞ?」
「待ちたまえ! この話はまだ……!」
「…俺のやり方に文句があるなら、いつでも解任すれば良いだろう?」
他の研究員の罵声に近い文句を無視してアルフォンスは部屋を出た。
「…ふう、全く聞く耳もたん男だ」
「奴の言うとおり、即刻解任すべきでは?」
「…そうしたい所だが…そうなれば奴めは元は近衛部隊所属……いま本国に戻られてこの計画を暴露されては何かと問題が出る……」
「何故そのような輩をこの計画に引き込んだのだ!?」
「…推挙した人間の口車に乗せられたわ。奴もあの男同様、この計画には否定的な所があったしな」
「しかし、当時の状況を考えれば仕方なかったのでは?」
「うむ、ただでさえ人手不足だったのだ。…多少の気質の問題などさして気にされなかったようだしな」
「…私のせいだというのか?」
「いえいえ、そのような事は……」
どこぞの議会のように問題が別の方向に移っているのは、気のせいだろうか?
……一方、アルフォンスは……
「…ったく、他人への文句ばかりで自分達の問題は棚上げした挙句、こうなったんだろうが……!」
先ほどの会話を思い返してムカついていたのか、不機嫌な顔で廊下を歩いていた。
「さて、こんな時化た場所はさっさと出て、訓練場のマイホームに戻るか……」
いつの間にか野戦訓練場を私有化しているアルフォンスである(苦笑)
この研究施設にも彼用の部屋があるのだが、気に入らなかったのか訓練場の何処かに山小屋を建てて生活しているとの事である。
シータたちが聞いた話だと『上司だった男の趣味の影響』であるらしいが?
………しばし時間経過………
どこをどう移動してきたかはわからないが、とにかく道なき道を移動してアルフォンスは自分の家にもどる。
「ん?」
アルフォンスが冗談で作っていた郵便受けに手紙が入っていた。
…こんな所まで郵便配達する奴がいるとは思えないのだが……(汗)
「………こういう事するのは…?」
アルフォンスが開くと…少なくともこの一帯で使われている共用語ではないようであるらしく、読めなかったが…アルフォンスは読めるのかちょっと表情を険しいものに変える。
「……現時点を持って…………を一時凍結、『鬼王』の下へ集え……ね?」
一瞬、珍しく苦笑するアルフォンスだが、意を決するように荷物をサッとまとめると、一筆書く。
『しばらく旅に出る。……<中略>……なお、俺の家を発見できなかった場合、どこに逃げても容赦しねぇから覚悟するように』
…そして、訓練内容に『家探し』を追加し、ルールらしきものを書くと、それをシータに渡して姿を消したらしいが…その結果がどうなったかは、本人たちのみが知るところである。
……終わり……
なお、ファイとシグマの「作戦」は別作品にて展開する予定……(核爆)
あとがき
どーも、また、またしても半端な終わり方に(汗)
そして、この作品…次の作品への繋ぎとシータの格闘術の解説を兼ねた作品であるのに、いつのまにやらアルフォンスの強さが目立ってしまいましたね(反省)
彼の出自については疑問が多い所ですが、私自身把握してない所が多く(マテ)、あえて断言しませんが(激マテ)、彼はある組織に所属している…と思われます(滝汗)
では、感想ありましたらいつでもどうぞ(苦笑)
設定紹介
シータの技
八艘(はっそう)
縮地応用技の一つで「八艘跳び」とも言われる技(クリスマス番外編にて既出)
瞬間的にダッシュする事で行う縮地を使っての移動術で、助走をしない走り幅跳び(高跳び)を連続して8回行うような感じである事からついた名だが、シータがその気になれば十数回連続で行う事もある。
戦闘時では壁だろうと天井だろうと水面を流れる流木だろうと足場にしてしまう移動術なので、至近距離で発動されるとまず視認は不可能。
飛翔するたびに移動速度を上げられるので、作中のように目くらまし+威力を高めるための予備動作としても使われるらしい。
迅雷・神籟(じんらい・しんらい)
シータの切り札的技であり、彼女が無形流皆伝となったきっかけでもある技その1。読みがほぼ同じなのは、裏表がある技という意図で紛らわしい命名をしたらしい。
両手のインターフェイスから指向性を付けた超音波(不可聴音波)を対象にぶつけるように送出する事で対象にさまざまな効果を与える技である。
迅雷は人が不快を感じる超音波及び超低周波(振動波)を送出することで、内臓と神経を刺激し体調を狂わせ、最終的に気絶、麻痺状態に追い込む技。一方、神籟の方は特性が全く逆となり、人が安らぎを感じる超音波(俗に『1/fのゆらぎ』と呼ばれる)を送出することで、体調を良くすると同時に鎮静効果…一種の癒し的な効果を持ち、攻撃用というよりは戦闘補助用の技である
ただし、いくら指向性を付けているとは言えシータも少なからず影響を受ける事、常時インターフェイスを使用する事から消耗が激しく、長時間の使用は彼女自身にとっても危険な、諸刃の剣である。
そして、周波数が調整可能なので、理論上人以外の生物にでも効果はあるとか。(生物の個体差で影響する周波数が違う)
なお、実際に人間相手に使った場合だと、迅雷は吐き気、目眩、頭痛、不快感などの症状が確認されているが、気絶・麻痺についてはシータがそこまで使ってないのであくまで理論上の話である。神籟の場合は自己代謝(治癒)や睡眠を促す効果もあるので、回復用としても使われるらしい。
技のモチーフ…たしかイルカも似た様な事をしているらしいところから(汗)。
ちなみに、音楽のライブなどで観客や演奏者がトランス状態になるのも同じ理屈が働いているからであるとかないとか?(苦笑)
八供(はっく)
シータの切り札的技であり、彼女が無形流皆伝となったきっかけでもある技その2。
格闘重視インターフェイスの「強力な超低周波(により発生する振動波)を飛ばす」能力を最大限に活かした技であり、理論上格闘・諜報重視インターフェイス装備者なら誰でも使える技である。
しかし、威力を高めすぎるとインターフェイスそのものが壊れる事…そして威力と精度を高めるためにはかなりの集中力と、気功術に近い技術を極めないといけないために、現状ではシータとシグマくらいしか使えない技である。
ファイやパイも使えないわけではないが…威力はかなり低い
通常の攻撃と同時に振動波(+気功波)をぶつける事で対象の肉体を内部崩壊させる技であり、無生物に対しては分子崩壊を引き起こさせる技である。
アルフォンスも使えない事は無いが、シータほど威力ある攻撃は出来ないらしい。
インターフェイス無しだと、拳を刹那的に停めないと出来ないのに対し、シータは『停める』必要が無いので、拳を思い切り振り抜きつつ出来るからであるが…彼女の場合、両手を使う、威力は半減以下という制限こそあるが、インターフェイスのみでも出来るようだ。…つまり、投げるついでやちょっと触れただけでも発動可能なのである(滝汗)
ただし、シータは極力殺しをしたくないので、人間相手に本気(殺す気)で使った事はまだ一度も無いらしい…が、シグマの場合必要とあれば躊躇わない上に足に格闘重視インターフェイスがあるので…威力は測定不能だとか(マテ)<足は手の3〜4倍の筋力な上、シグマの足は義足(苦笑)
なお、ファイ達はいいとこ、対象の血管や筋、腱を傷付ける程度である。
この技も威力を調整さえすれば、治療用として応用可能だとか(苦笑)
技のモチーフは「るろうに剣心」で出てくる「二重の極み」、そして「影技(シャドウ・スキル)」の「神音」より応用しています(苦笑)<あと「ベターマン」の「共鳴周波数による音波攻撃」なども少々……(汗)
命名理由は作中の通り、インターフェイスのみだと拝むような状態で技を発動させていたから。
余談ですが、何故シータが技名に「8」の数字を頻繁に取り入れるのか、ですが…自分のコード番号「8番」を意識しているからの他に、技名を叫んでも技が何であるかを読まれ難くするためである…って、あえて言わなくても良いことですね(苦笑)
本人曰く「叫んだ方が威力、上がりそうな気がするから♪」と言っています。その上で叫びやすい、短い技名にしているようですね(笑)
管理人より
ヨニカさんより後編をご投稿頂きました!
き、厳しい……(汗)
しかしだからこそ今の彼らがある……と(爆)
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