「……ふう、ようやく人心地つけたな…」

 カイは戦闘服から準戦闘服(特殊繊維で編んだ私服のような戦闘服)に着替えて、狭い廊下を歩いていた。
 …外の景色を見ると、かなりの低空飛行だが、空を飛んでいるようだ。

 ……ここは輸送機の中である。

 指定ポイントまで無事に到着したカイ達は、そこでクシー達と合流してさらに移動し、森林の中で念入りな偽装工作をしてひっそりと待機していた輸送機に乗り込んで帰還中らしい。

 カイはそのままPF格納庫に移動する。
 そこではクシーが自分の機体をいじっていた。
 …パイロットスーツであるところを見ると、まだ休憩していないらしい。

「……カイか…何か用か?」
「いや、ちょっと様子を見に来ただけだ。…仮にも指揮官に祭り上げられている身…だしな」

 自分の立場を皮肉るように苦笑するカイ。…今の立場に何か不満でもあるのだろうか…?

「…他の連中はどうした?」
「一部を除いては、Eのおかげでろくに出番がなかったと不機嫌そうに出ていった。…いまごろ部屋でふて寝なり一杯やっている頃だろう」
「……そうか…しかしこれでフォルセア……殿も喜ぶだろうな」

 思わず呼び捨てで言いそうになったカイは誤魔化すが、クシーはそれを知ってか知らずか、ポンと肩を叩く。

「…ふ…無理するな。少なくとも俺は任務に私情を挟むつもりは無い…が、俺とてあの女は好かん。…もっとも、そんな事は公然の場では口が裂けても言わんがな。……例え、非公式の任務であろうとも…いや、非公式だからこそ…とも言えるかな…?」

 互いに失笑するカイとクシー。

「確かに…下手に逆らえば、どうなるかは容易に想像が付く。…良い例を見せられているしな」

 カイの脳裏に第一ロットのメンバーだった、ガンマ、ラムダ、アイオタの姿が浮かぶ。
 得意分野はもちろん、他の能力もかなり優秀であったので、今生きていればきっと重用されていたであろうが…惜しむらくは、彼らの実質的な指導者だった研究員達が人間性を考えない…彼らを「兵士」ではなく「兵器」としてしか評価しなかった事である。

「…その事だが…カイ、お前に聞いておきたい事がある」

 今までの温和な感じから突然何か言いたげな顔になったクシーに、カイもその出方を伺うような表情に変える。

「……何かあったのか?」
「…俺はとある作戦中、12番に会ったぞ? 1年…いや半年ほど前の話だ」
「…なに?」

 12番…ミュウは公式記録上、1年以上前…アルサレア戦役が始まる前後に『適性不適格により処分』されている事になっているのである。

「…今迄はお前と12番が特命を受けているものと解釈して、言及は避けていたが…12番の能力が何よりも必要なこの状況になっても、一言の説明すらないのは不自然ではないか? ……事と次第によっては……」
「………そうだな…?」

 手を顎に添えるようにして考える振りをしながら、ほぼ無意識にもう片方の腕で腰を触るカイ。
 腰に当てられた手の近くには銃らしき膨らみがあった。
 クシーもカイの動きに気が付き、そっと背中に手を運ぶ。

「「……………………」」

 互いに腹を探り合うような沈黙と、今にも火花が出そうな睨み合いになる……。

「……フ……」

 意外にも先に動いたのはクシーだった。
 カイの手に思わず力が入るが……

「……そう警戒するな。…この件を詮索したり、上に報告するつもりなど無いよ。…むしろ積極的に協力を申し出たいくらいだ」

 クシーは苦笑しながら背中を向けて、機体の整備を再開する。
 ちなみに背中には何も隠していなかった。
 一瞬呆気に取られたが、すぐに表情を戻すカイ。…ただし、警戒はしたままなのか、腰からは手を離していない。

「…らしくない言葉だな? …任務至上主義であるお前が?」
「任務至上主義だからこそ、だ。…確かに俺はお前と違って、任務遂行の為にはいかなる代償も払う覚悟でいるが、それは信頼に足る上司がいればこそだ」
「それは初耳だな?」
「…命など惜しくはない…むしろ俺の命が勝利の布石となるのであれば本望だが、捨て石やかませ犬になるのは御免だからな」
「……俺は体の良い『生け贄』というわけか?」
「…そういう事になるか? ただ、勘違いはするな…俺はお前が信頼するに足る人間だと思うからこそ……」
「いや、お前の考えはよく分かった…お前の期待に応えられるような、立派な道化役を演じる事にしよう…」

 苦笑しながら格納庫を出るカイを、クシーは敬礼で見送るのだった。








 

機甲兵団J−PHOENIX“PFリップス小隊”

−夢見る乙女の追撃作戦− 番外編 その4(新たなる壁と扉)













 

 一方、こちらはアルサレア室内演習場………

 開始の合図がなり終わるとほぼ同時にセリナがダッシュする。

「…一番槍は私がさせてもらう!」
「ずるいぃ〜セリナちゃん! …こっちも行くよ、イズミちゃん!!」
「うん! 見ててね…お兄ちゃん!!」

 イズミ・プリスがその後を追うようにジャンプし……

「アンタ達たち、抜け駆けは……!?」
「「早い者勝ちだもーん!」」
「…待ちなさいっ!!」

 さらにその後を追う形でリサが移動を開始する。

「……様子…見たほうが……」

 シータの声がトーンダウンしている。どうやら『スイッチ』が入ったようである。

「…いけぇ!」

 セリナのスパークフックがその輝きを増した。

『…スパークフックか…確かにそいつを食らったら厄介だな?』

 セリナの攻撃をジャンプでかわすオマイクロン。

『…CTICS…久しぶりだが…使わせてもらう!』

 オマイクロンがスイッチを押すと、システム表示画面に稼働時間と意味不明のパラメーター表示がされる。

(……WCS強制アクセス…ガトリングとアンカー爆雷の照準システムをインターフェイスに直結!)

 …オマイクロンの頭の中にインターフェイスからの情報が入ってくる。

『……悪いが、その物騒な玩具は壊させてもらう!』
(…多重照準…ロック…!!)

 オマイクロンはミカヅキのガトリングとアンカー爆雷を一斉発射し、スパークフックをまとめて破壊した。

「…な…武器に狙いを!?」
『……お前らに構ってる時間は無いんだよ…!』

 そのままセリナに圧し掛かるように蹴り飛ばす。

「グウウッ!?」

『…トドメ…』
「させるもんですか!」

 リサがすかさずスマートガンを連発しつつ、プリス達は上空からカタールで迫る。

 …シータのJフェニックスはいまだに動かなかった。

(…オマイクロン…何考えてるんだろ? まさか本当にCTICS使うなんて…)

 シータはそう思いつつも、整備端末を操作しつつ、端末から延びているケーブルの先に接続されている手袋を身につける。

「……目には目を…か……。……ごめんなさい…

 …誰に謝ったのだろうか…?

「……CTICS、起動」


 リサの攻撃を再度ジャンプでかわしつつ、プリス・イズミをサマーソルトキックの要領で迎撃するオマイクロン。

「…あう!?」
「……反則〜!」
『…接近戦は得意じゃないが、その辺の連中と同レベルだと思うなよ!』

 PFの機動性能を超えた反応速度で動くオマイクロンに圧倒されるLIPS達。
 …もっとも、オマイクロンの技量ならCTICSを使わなくても、十分圧倒できるだろうが…。

 そこにシータが割って入るように攻撃を仕掛けてくる。

『……チッ!』
「……」

 シータの接近を避けるように退くオマイクロン。

「…大丈夫?」

 起き上がろうとしているセリナを庇う様に前に立つシータ。

「クソッ、いきなり武器破壊か…やってくれる!」
「……セリナ…まだ戦える?」
「……ああ、機体ダメージは殆どない……恐ろしい事にな」

 ……セリナ機は、蹴られた時の衝撃によるもの以外の、機体損傷は見られなかった。
 つまりオマイクロンは発射したほぼ全弾をスパークフック二つに当てた事になる。

「……やっぱりつよい〜」
「…ちょっと、前よりもっと強くなってるじゃない!?」
「……シンとオマイクロンじゃ、PF操縦の腕が違うから……」

 相変わらずの無表情で呟くシータだったが、わずかに微笑んでいるように見えるのは、気のせいであろうか?

「…次はボク……」

 ダッシュするシータにオマイクロンは射撃で応戦した。

『悪いが、お前相手に接近戦挑むほど、俺は命知らずじゃないぜ!?』
「……そうだね」

 何とか接近戦を挑もうとするシータだったが、互いの手の内を知り尽くしている相手だけに、なかなか接近できない。
 そもそも、機動性から言えばミカヅキはJフェニックスのそれをはるかに上回っているので、追いつく事自体が難しいのだが…?

「……」

 シータのJフェニックスはいきなり腕を振り上げると、カタールを投げ付ける。

『…クッ!?』
「…縮地」

 ほとんど反射的にPクロウ改で防御するオマイクロンだが、そのほんの一瞬、動きを止める。
 そして、そのほんの一瞬で姿が掻き消えたかのように瞬間的に加速し、ミカヅキを捕まえると同時にミカヅキの口内へスマートガンを突っ込むJフェニックス。

「…ッ」

 シータはそのまま引き金を引いた。


 …ッッドガガッッン!!


『グアッ!?』


 スマートガンによるアンカー爆雷の誘爆だろう。凄まじい轟音が響き…ミカヅキは頭部を完全に破壊された。

「…CTICSの特徴…反射動作すら機体の動きに反映する……それは長所でもあり、短所でもある……」

 スイッチが入っている状態としてはいつに無く饒舌なシータだった。
 もっとも、接近するまでの攻撃で、シータのJフェニックスもあちこちを損傷しており、それなりにダメージは受けていた。
 しかし、さっきの戦い方と言い今回と言い…ミカヅキとCTICSの弱点を把握してないと出来ない、捨て身の戦法である。

「……機体損傷…20%…脚部駆動系の一部に被害あり……歩行能力30%ダウン…?」

 機体の損害状態を確認しつつ、体勢を整えるため一旦バックステップでミカヅキから離れるシータ。

「…武器排除」

 銃身が歪んで使用不能になったスマートガンを投げ捨てるシータだが、やはり動きがおかしい。
 シータ本人が言っていた通り、かなり機体状態が悪いらしい。

「シータ、大丈夫?」

 リサ達の機体が駆け寄ると、親指を立てて意思表示をするシータ。…まだ余裕はあるようだ。

「…よかったぁ…訓練はこれで終わり……」

 プリスが言いかけるが、ミカヅキがむっくりと起き上がってくる。
 それと同時にミカヅキ…オマイクロンから通信が入る。

『……まだ頭部が破壊されただけだ。…こっちは戦えるぞ?』
『………許可が出ました。…続けてください』

 オマイクロンの声に、マヤが返答した。

「…な、なんでよ!?」
「しつこい男は嫌われちゃうぞ〜」
「…怖いよ〜」
『…やかましい! こっちはまだ完全燃焼してないんだ。…ちょっとばかし、憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ?』
「…いい性格をしているな?」
「変態変態〜!」
「やだぁ…」
「……これだからグレンリーダー様以外の男って……」

『…黙れと言っている!!』

 ……さすがに切れるオマイクロン。

「……オマイクロン…?」

 そんなオマイクロンを見て、シータは訝しげな顔になる。

(……なんかおかしい…オマイクロン……?)
『……クッ』

 オマイクロンは爆発のショックでケガでもしたのか、それとも興奮して血管が切れたのか、応急キットで顔に絆創膏を張りつつ、無針注射器で何かを注射する。

「…おい、何を打った!? ちょっとした痛み止めでも下手したら後遺症が残るぞ!?」

 さすがに元看護婦であるセリナはそういう事に敏感だった。

『…フン、心配するな。ただのブドウ糖だよ。…ちょっとした気付さ』
「……別に心配などしてないが…ブドウ糖で気付け? ……嘘をつくな、嘘を!?」
「………本当だよ?」

「「「「……え?」」」」

 シータだった。

「……ボク達は肉体強化で得た『力』を使うと…低血糖状態っていうのになって、頭がフラフラする…だから、戦闘の後や力を酷使しすぎると、血中糖分を増やす措置が必要になるの」

「「「……はあ…?」」」

 セリナは神妙な顔をしていたが、他の3人には何を言っていたのか良くわからないらしい。おそらくシータもその理由や処置こそ教えられているが、詳しい理屈は分かっていないのだろう。
 ……まあ、いくら有機組織で作られているとは言え、インターフェイスも機械なのだから、動かすにはそれなりのエネルギーが必要である…と考えればいいのだろう…?

『…と言う訳で…今度はこっちから行くぞ!』

 オマイクロンは通信を切ると、センサー系とカメラを予備に切り替えた。

「……多少精度は落ちるが…あとはインターフェイスで補う!」

「……来るぞ!?」

 セリナの声に身構える一同…シータは自然体のままだったが……

『まずは!』

 ガトリングを一斉射するオマイクロン。
 それをかわすLIPS達。シータは脚部の負荷を気にしてか、ジャンプでかわす。

『……今度は…お前だ!』

 リサに狙いをつけたオマイクロン。ガトリングで攻撃しつつ…接近……。

「…く…このぉ!」

 両手持ちのスマートガンを発射するが、ミカヅキにはまったく当たらない。
 あっという間に至近距離まで詰め寄られたリサはそのまま体当たりを食らい、大きく吹き飛ばされる。

「リサ!」

 それをセリナが支える。

『…止めだ!』

 Pクロウ改から爪を出しつつ、ブースト全開でダッシュするミカヅキだが、そこにいきなりシータが着地し、行く手を阻んだ。

『…な!?』
「…やらせない」

 驚異的加速力が仇となり、そのまま接近してしまうミカヅキは、加速した勢いをそのまま受け流すような投げ技で床に叩き付けられる。

『グウッ!?』

 そのままシータは関節技に入ろうとしたが、慌ててブーストで振り切ろうとするオマイクロン。シータもそうはさせまいとしっかりと捕まえる。

『…ったく、お前って奴は…!』
「…離さない」

 オマイクロンは表情こそ笑っているが、内心かなり冷やりとしているだろう。

(……オマイクロン、何か隠してる事…ある?)
(……さてな。…この訓練でいい結果を出せば、今の生活をもう少し優遇してやるって話ならされてるが?)
(………ホントにそれだけ?)
(……他に何かあるってのか?)

 インターフェイスで会話している二人。もちろんこの間も激しい攻防を繰り広げている。

『…クッ!』

 ミカヅキがブースト全開で上空に退避しつつ振り回す事で、何とかシータを振りほどいた。

「…………」
(…やっぱり、何か隠してる…)

 シータはブーストとウイングをうまく使って姿勢を整えながら確信的にそう思い、顔を険しくした。









 

 ……少し時間をさかのぼる……

 オマイクロンはミカヅキに搭乗する前、シータやLIPS達とは別室の会議室にいた。
 どうやら格納庫と隣接する部屋らしく、窓の外にはミカヅキAVの姿が見える。

「…何か用ですか?」

 オマイクロンの他には研究員と少佐の階級をつけた軍人がいるだけである。

「…単刀直入に言おう。これからお前にはあの機体に乗ってもらうが…本気で戦ってもらう」

 その言葉に少々表情を厳しくするオマイクロン。

「…どういう意味で? いまさら念を押して言われなくても…って、俺がまさか八百長をするとでも?」
「……そうは言わんが相手が女だと、お前もやりにくいであろう?」
「…そんな事はない」

 …一瞬言葉に詰まるオマイクロン。
 確かに、彼の性格を考えればPF操縦において自分より格上のシータだけだったのならともかく、LIPSも相手にするとなると……手加減してしまうかもしれない。

「…なに、そう難しい話ではない。…ほんの少々本気で相手して、あのLIPS小隊を痛めつけてくれるだけで良い」
「………訓練だったら、そのくらいは……」
「……もう一度言おう…『痛めつけて』欲しいのだ」
「………」

 言葉の裏にある『殺意』らしき気配を感じ取り、押し黙るオマイクロン。

「なに、ただとは言わない。…お前達にとっても良い話を持って来ている」

 男達は一枚の紙をオマイクロンに渡す。

「……!?」

 そこに書かれていたのは……

 グシャッ!

 ……こちらが確認する前に丸められてしまったが、オマイクロンは珍しく怒りを露にした表情で男達を睨む。

「……どこでこれを?」
「フ…諜報活動はヴァリムの専売特許ではないのだよ。…どういう反応をするか…見てみたいかね?」
「…………」
「…どうすべきかは、そちらに任せる」
「……一つ聞きたい。…なぜそこまでする?」

 オマイクロンが聞くと、軍人の方は表情が…思い出したくない事を思い出したような、不機嫌な顔になる。
 …どうやらLIPSに関わった事で、嫌な思い出でもあるのだろう…?

「…参謀本部長が何を考えているのかは、知る由もないが…趣味で部隊運用するのは我慢ならないだけだ」

 …参謀本部長も別に趣味でLIPSを運用している訳では無いと…信じたいが、少なくても創設当時は『グレンリーダーの秘密を守る』という目的があった。
 …最近では『都合の良い実験台』…もしくは『都合の悪い事をさせる為の特務部隊』という目的で任務を回している事が多いようであるが……?

「……努力は…する…が、あまり期待はするな」
「…別に期待はしていない…せいぜい努力する事だ」

 冷笑を浮かべる軍人達を侮蔑の眼差しで見送るオマイクロン。

「………全く、どこも同じだな……」

 半ば諦めたかのように嘆息するオマイクロンだが、その瞳は決意に満ちたものであった。




 

 …などと言う経緯がオマイクロンにあった事など知る由もないシータは、再び機体をジャンプさせてミカヅキを追撃する。

『……この!』

 ガトリングで攻撃するも、そのままシータは一気に間合いを詰める。

「……」

 ウイングの推力を利用して蹴りかかるシータ機を間一髪でかわすミカヅキ。
 しかし、その瞬間シータの機体は再び掻き消えるかのようにミカヅキの視界から消えた。

「…!?」

 正面モニターしか生きていないので素早くレーダーでシータ機の位置を確認しつつ、退避行動を取ろうとするオマイクロンだが…

「…遅い」

 すでにシータ機はミカヅキの後ろに回りこんでおり、そのままミカヅキを蹴った。

『…ぐうっ!』
「…当たれ!」

 その動きに合わせるかのように正面からプリス・イズミ機がカタールで攻撃してくる。

『…なめるな!』

 ミカヅキはカタールを裏拳で叩くように弾き飛ばすと、蹴り飛ばされた勢いをそのままに体当たりでJフェニックスを押し返し、壁に圧し付ける。

「…くうっ!?」
「……あう!」

 バックステップで一旦離れたミカヅキはそのままPクロウ改で貫こうとするが……

「プリス達だってぇー……ッ!!」

 スマートガンを投げ捨てて、ブースト全開でミカヅキに体当たりする。

『グッ!』

 予想外の動きに一瞬反応が遅れるオマイクロン。
 まるで相撲をとっているかのような体勢になるが、さすがの操縦技術の差でうっちゃられるプリス・イズミのJフェニックス。
 すかさず追撃しようとするミカヅキだが…さすがにリサとスマートガンを拾ったセリナがそれを止めるべく攻撃を仕掛けてきた。

「いた、いたたっ!」
「間違えないで〜!」

 …流れ弾がプリス・イズミにも当たってしまったのは、この際仕方がないだろう。
 (セリナの機体はスパイダー装備してるし)

『……さすがに頭部なしだと性能がガタ落ちになる……!』

 かといって、このままでは退くに退けないオマイクロン。
 その思いを裏切るかのように機体状態はどんどん深刻になっている。
 そして、それはシータも同様だった。

「…脚部ダメージ増大…機動性能さらにダウン……」

 …機体性能上仕方がないとは言え、捨て身同然の攻撃しているのだから、当然といえば当然だが。
 さらには度々使用している足技や縮地も脚部に多大なる負荷をかけているのだろう。
 ミカヅキの様にシータ達特殊強化兵が扱う事を前提に開発された機体と違い、このJフェニックスは一般兵用の量産機だ。
 当然の事ながら、そのパーツは普通に出回っている物で構成されており、各駆動部も標準的な性能しか持ち合わせていない。

「……まだ動ける?」

 さすがにシータ機の状態がかなりまずくなっているのに気が付いていたリサは心配そうに歩み寄る。

「…ちょっとまずいかも」

 …ちょっとどころか、パラメーターは緑の表示が軒並み赤くなっていた。よく見ると警告メッセージもあちこちに出ている。

「……フル稼働で5分…3分が限界……かな?」
「「「「…………」」」」

 絶句するLIPS。
 ちなみに戦闘終了時間まで、まだ10分以上ある。

「……足さえ止められればプリスたちでも…」
「……機動性を封じる方法……そうだな…あの機体重量であのスピード……相当足腰に負荷がかかっているはず……?」
「………特注のパーツ使ってるから、頑丈だよ?」
「…そ、そうか…」

 元々護衛機として開発された上、強襲用としても運用可能な設計になっているのだから、多少の破損でも問題なく動けるようになっているのだろう。

『…何ゴチャゴチャ話してるんだ? …実戦なら、とうにやられてるぞー!?』

 待ちきれなくなったのか、オマイクロンは外部音声で文句を言いながらガトリングで威嚇射撃をする。

「何よ! 訓練なんだから話し合う時間くらいくれたっていーじゃないよ!!」
「そうだそうだ〜! こっちは慣れないチーム編成で戦ってるんだぞ〜女の子に誠意をみせろ〜!」

 LIPSも負けじと反論する。

『…あのなぁ…時間制限あんだぞ!? それとも時間まで口論で戦わせるつもりか?』
「時間制限など話し合いの間、止めていればいいだろう? …それとも何か長引かせるとまずい事でもあるのか?」
『仮にあった所で、そんな事言うと思うのか?』
「……あ、CTICSの時間制限があったっけ?」
「「「「……え?」」」」
『……おい』

 手をポンと叩きながらシータが呟くと、一斉に反応する一同

「なになに、そのシチアイスって〜?」
「…ミカヅキとボクのJフェニックスに搭載されている、脳と機械を直結させるシステムで…制限時間15分……」
「ああ〜それで作戦時間が15分なんだ〜」
「……それと、今のミカヅキは頭部がないから、CTICSでBURMシステムに強制アクセスをかけて頭部が存在しているように誤魔化しているはず…つまりオマイクロンはCTICSを解除できない…」
『グ……』

 痛いところをつかれて思わずうめくオマイクロンだったが、それは無言の肯定となった。

「…と言う事は…下手したら向こうはこっち以上に深刻な状態という訳だな?」
「………多分」
「…なら、戦い方しだいでどうでもなりますね」
「……ねえねえ、こんなのはどう思う?」

 なにやら円陣を組むかのようにこそこそと接触回線で話すLIPSとシータ
 一応、無防備になるのを避けてか、プリス・イズミ機が警戒するかのように円陣を組んでいる3機の肩に手を置きながら前に立ち、ミカヅキの動きを警戒している。

「…だからぁ…こうして……」
「…それなら………だから………は?」
「にゃはははは…面白いねぇ」
「……はどうだろう?」
「うんうん……もいいよねぇ……」

 …正直、オペレータールームからでもはっきりとした事は聞き取れないが…なにか企んでいるのは簡単に想像できた。

『…あの…そろそろ始めたいのですけど……』

 静観していたマヤからも文句が飛ぶと、LIPSたちは円陣を解いた。

「よっし、いっくわよ〜!!」

 リサが気合を入れるように叫ぶと、4機は菱形の様なフォーメーションになり……

「「「「グレンリーダー様のためにぃ!!!」」」」

 …そう叫ぶと一斉に動き出す4機
 ただしシータ機は後方に下がった。

「……CTICSカット……機体を待機モードに……」

 壁際まで下がると、シータ機はジェネレーターをすぐにフル稼働できる状態で機体を停止させる。
 通信回線をリンクしていないオマイクロンでも、シータ機の動きを見て何を狙っているのか容易に想像できた。

(……機関停止で駆動部を冷却して稼働時間を稼ぐと同時に、システムの制限時間を延ばす気か!?)

 焦るオマイクロンに、リサ機とセリナ機が同時に迫る。

『……お前らだけで、どうにかなるとでも思ってるのか!?』
「それはやり方次第だ!!」

 セリナが叫ぶと同時に、リサ機がスマートガンで攻撃…セリナも回り込むように移動しながら同じくスマートガンで攻撃を開始する。

『そんな攻撃!』

 ブーストとステップ移動で難なくかわすミカヅキだが…ジャンプで移動していたプリス・イズミ機が上空から急接近する。

「「あったれぇぇ〜!!」」
『だから、そんな攻撃が通用するものかよ!!』

 二人の攻撃をPクロウ改で捌きつつ、攻撃を加えるオマイクロン。

「くう!」

 胸部及び肩の装甲の一部とウイングが吹き飛ぶが……それでも構わずに突っ込んでくるイズミ達。

「もう一回当たれぇ〜!!」

 プリスとイズミは渾身の力を込めてレバーを押し込み、ミカヅキのPクロウ改に更なる一撃を加えた。

 ……ピシ……

 その一撃で、手甲部分に若干のヒビが入る。

「……く…このっ!」
「…さらば!」

 更なる一撃を加えようとしたが…それは流石に回避された。
 そして、その追撃を邪魔するかのようにセリナ機が接近してくる

「こっちの存在も忘れて貰っては困るな!」

 セリナはイズミ達がいる方向へスマートガンを投げると、肩に背負ったスパイダーを自ら剥ぎ取って、ミカヅキの方向へ投げ付ける。

「リサ!」
「………」

 リサ機がスマートガンで狙いをつけて……ミカヅキと投げ付けられたスパイダー目がけて連射する。

「…当たれ!」

 幸いにも、狙い通りにスマートガンの攻撃はスパイダーに命中し、ミカヅキを巻き込むように爆風と爆煙が飛ぶ。
 もっとも、爆発音と爆風こそ派手だが、スパイダーなので威力は無きに等しい筈である…が、ミカヅキの動きが一瞬止まる。

『……この…!』

 どうやらただでさえ正面モニターしか生きておらず、BURMシステムはおろか、レーダーやWCSもCTICSで辛うじて機能している状態のミカヅキ…そしてオマイクロンには効果があったようだ。

(……コントロールの中心たるCTICS…オマイクロンが『混乱』状態になれば、ミカヅキの動きが止まる……)

 シータはさっき円陣を組んでいた時に話した事を反芻した。

「……食らえ!」

 その一瞬を狙って特攻するかのようにセリナが攻撃をするが…さすがにシータのようには行かず、Pクロウ改で防がれた。

『…なかなかいい狙いだが…二番煎じが通用するか!!』

 ミカヅキはセリナ機の腕を掴むと肘を壊すように逆向きに腕を押し曲げてそのままPクロウ改の爪を胸部から腰部にかけて引き裂く。

「くそっ…」

 どうやら咄嗟に機体をバックステップさせた事でコクピットは無事だったらしく、セリナが悔しがるように叫んだ直後、機体のあちこちから黒煙を上げつつ倒れて…そのまま沈黙する。

(…ち…浅かったか! …これで後二機…もう一機は半壊状態だから…)

 そう思ったオマイクロンは、ほぼ無傷なリサ機に狙いを絞った。
 リサ機は後退しつつ、スマートガンを撃ちまくる。

「…ちょっと〜来ないでよ〜プリス!?」
「……だめ〜…こっちも動けない〜」

 セリナの投げたスマートガンを拾ったものの、さっきの攻撃でオートバランスでもやられたか、フラフラとしながら機体を移動させているイズミとプリスだった。
 そんなやり取りをしている内に、ミカヅキはリサ機に接近し……

『…とっとと逝けっ!!』

 Pクロウ改で明らかなコクピット狙いの攻撃を加える……?

 …ガキィィィン!!

 ……リサのJフェニックスはPクロウ改の攻撃を、スマートガン二つを交差させて防いでいた。

「……オマイクロン…いま、絶対コクピット狙ってたよね?」
『……な!?』

 接触回線で聞こえたその声はリサではなくシータだった。
 (しかも、心なしか怒っているような表情&口調である)

 そして、リサ機に乗っていたシータは武器を投げ捨てるとそのままミカヅキの片腕を抱くように捕まえる

「ちゃんと納得のいく説明、後でして貰うからね〜!!」

 そのまま力任せにミカヅキの腕をねじ切ったシータは、そのねじ切った腕を武器代わりにしてミカヅキに叩きつける。

『グアッ!?』

 状況に混乱しているオマイクロンはたまらず後退する。
 しかし、Pクロウ改を片方失った事でBURM補正「野生の電撃」が無くなったために、明らかに機動性がダウンしていた。

「やーい、ひっかかった〜間抜け〜!」
「油断大敵だよ〜!」
「さっきの円陣のとき、機体を入れ替わってたのに気が付かなかったの〜?」
「…まあ、そういうことだな」
『……おまえらなぁ!!』

 …半ば自棄になって泣き叫ぶオマイクロン……
 …叫びたくなる気持ちは分かるが……(泣)

「……よっしゃあ!! いっくわよぉ〜!」
「こっちもダーッシュッ!!」
「うん!」

 いままでシータ機の調整をしていたリサもここぞとばかりに動き出し、「オートバランスが壊れた」振りをしていたプリス達も動き出す。

「……CTICS起動…手加減無しで行くよ?」

 シータも再びCTICSを起動させると、ミカヅキを追撃する。


『……絶対、納得いかんぞ! こんな無茶苦茶な戦闘〜〜〜〜!!』


 ……最大の武器である機動性を失われた上、ハード・ソフト共に稼動限界が近付いていたミカヅキでは、これ以上抗う術が無かったのは言うまでも無い。














 

 ……模擬訓練終了後……


「にゃはは…はい、氷だよ〜」

 氷嚢を渡しながらケタケタ笑うシータに、渋面とした顔になるオマイクロン。

「…ツツツ……ったく、本当に手加減しなかったな、おまえ?」
「当然でしょ? 実戦と思って戦ってこその「実戦を想定した訓練」なんだし」
「あんな状況、実戦でどう再現できるんだよ!?」
「…何が起こっても不思議じゃないのが実戦だと思うけど……?」
「限度ってもんがあるだろ!? これが実戦なら、円陣組んだ時点で…あいたた…!」
 
 ここはオマイクロンの私室として割り振られている部屋である。

「……さて…オマイクロン…わかってるよねぇ?」

 笑顔からいきなり怖い顔に変わるシータ。声もいつもより低く、妙に迫力がある。(少なくともオマイクロンはそう感じた)

「…う………そ、それは……だな……?」

 目を泳がせながらどう言い訳しようか考えるオマイクロンだが………

「……もしかして、これのせい?」

 シータは懐からヒラヒラと紙を見せる。それを見て、驚愕の表情と共に目を見開くオマイクロン。

「…な!?」
「…さっき部屋に帰ったら、これが入り口に落ちてた」
「………………」

 それはシータに関する調査書だった。
 多分、顔写真などで身元を割り出し、採取した血液や髪の毛でDNA鑑定でもしたのだろう。
 シータは改めてその調査書に目を通す。

「……『2年前、ゲームイベント会場で開催された大会で優勝、優勝の副賞となっていたクルージング旅行中に家族ともども遭難してしまい、未だに生死不明。……なお、後日海底で発見されたクルーザーに両親のものと思われる遺体と、銃痕などの争った痕跡が見られる事、この近海では海賊として手配されている船籍の船影が目撃された噂がある事から、海賊に襲撃されたものと思われる……というのが世間での一般論であるが……その海賊はむやみな殺生は行わない、稀に見る変わり者の集まりであるという証言、そしてその後の彼女の経歴から察するに、海賊の噂は意図的に情報操作されたものであり、彼女の身柄はヴァリム工作員に拉致されたものと推測される』……ふーん、よく調べてるねぇ……」

 …昔のシータの本名はもとより、家族構成から趣味嗜好まで書かれている内容に感心するシータ。

「…好きな物は今も昔も同じだったみたいだね。なんかホッとした……」
「……シータ……」

 どこか暗そうな表情をしているシータに何も言えないオマイクロンであるが……?

「……でも、今さらこんな事で何気にしてるの? ボク、もうほとんど記憶戻ってるし」


 …………………おいっ!?(オマイクロンの心の叫び)


「…あ、そんな事より、これから食事に行こう! みんなと一緒にラーメンでも……」
「ちょ、ちょっと待て、今何て言った!?」
「…え? みんなでラーメン…あ、お蕎麦の方が良い?」
「さらにその前!」
「……記憶が戻った事? あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いとらん!!」

 怪我も忘れて大声で叫ぶオマイクロン。

「…一体いつからだ、いつから!?」
「…えーと最初は試作型ミカヅキで戦ってた時に機体の過負荷で失神した時かなぁ…何か一瞬、自分が誰なのか思い出すのに時間がかかって…そんでシンを助けようとして逆に撃たれた時…あの時も一瞬だけど、昔の記憶だったのかな…そんな感じのイメージが頭をよぎって…?」

 …確かに思い出してみるとそれらしき所も見て取れるが……?

「……その後は…断片的だけど夢とかで見て……徐々に…?」

 思い出しながら考えるシータだが、オマイクロンにはもう一つ気になる事があった。

「………他に何か俺に言う事は無いか…?」

 その問いにちょっと真剣な表情を見せるシータ。

「…ん、何も無いよ〜『オマイクロン』にはね〜」
「……そうか」

 その言葉でシータの記憶がほぼ完全に戻っている事を確認できたオマイクロン。

「……ってちょっと待て…と言う事はベリウム様に会おうとここでがんばっているのは敬愛からの想いじゃなくて……!?」

 シータは困ったような顔で苦笑する。

「……オマイクロン…ボクはどうすればいいんだろうね?」
「……それは………」

 どう答えるべきか迷うオマイクロン。
 オマイクロンは元々ベリウムの部下であり、個人的にはともかく軍人としてはベリウムの事をそれなりに尊敬している。

「……にゃは、なんちゃって〜♪ 別にベリウム様をどうこうする気、無いよ? あ、もし会えたら一言文句言って一発思いっきり手加減して殴ろうかとは思うかもしれないけど♪」
「……シータ?」
「ん〜その事を思い出した時は正直、自分でも怖いくらい重〜くて暗〜い気持ちになったけど……ボクって負け惜しみ強いし」
「……??」

 言っている意味が良くわからず、首を捻るオマイクロン。

「だって悔しいんだもん。…過去に縛られて今の「わたし」を否定するのって」
「…………」
「それに……」

 シータはにんまり笑うと不意にドアを開ける。

 ドタドタドタバタン!!

 イズミとプリス、リサがいきなり転がり入ってくる。
 ちなみにここは研究所内なので基本的に『職員及び関係者以外は立ち入り禁止』の場所な筈である。

「「「……はははははは……ど〜も〜……」」」
「……だからやめておけと言ったんだ」
「なによ〜! セリナだって聞きたそうにしてたじゃない!」
「…興味が無いといえば嘘になるが、聞き耳を立てて聞くような事ではないだろうが!」
「ぐすん、セリナさん冷たいです……」
「シータちゃんが『良い』って言ってたんだから、良いじゃないよ〜!」
「だからと言ってだな……」

 口論を始めるLIPSの面々を見ながら、微笑むシータに唖然とするオマイクロン。

「……こんなにも身近に「お手本」になる人達がいるのに、イジイジと過去(まえ)を振り返って現在(いま)を生きて…未来(さき)を見ないのって、人としてイチバンいけない事だと思うんだ」
「………そうか……」

 オマイクロンは何故シータがここまでLIPSの面々に肩入れするのか、ようやく理解できたような気がした。
 根本的に、境遇が同じなのである。
 もちろんシータも当初はそんな自覚は無かっただろう。しかし、昔を思い出していく内にプリスやイズミの事を思い出し「こんな自分はいや」…「負けたくない」と思うようになったのだろう…?

(……そういう点では、感謝するべきなのかもしれないな……)

「あ、それよりさっきの続き〜。オマイクロンはどうする?」
「……今回はやめとく。口の中切ってるから…」
「そっか。じゃあ、行って来る〜」
「ああ」

 シータはドアを閉めながらウインクする。

(あ、ついでにスミス軍曹に一言『あの時は庇ってくれてありがとう』)
(………礼を言われるような事じゃない)

 最後にインターフェイスで会話する二人。

「…さぁ〜…今日は祝勝会と再会を祝って食べまくるぞぉ!」
「リサさん、太っちゃうよ〜」
「…お金は自分で払ってね、リサちゃん」
「……よ〜し、今日はボクがおごっちゃおう!」
「おお、シータちゃん太っ腹〜!」
「…いいのか? 本来なら我々の方で……」 
「良いよ〜お給料貰ってるけど、ほとんど使ってないからたっぷり余ってるし!」
「……そう言えばシータって少尉なんだよね〜」
「…アルサレアの階級基準はどうなっているのだろうか?」
「「「「それ、禁句〜!」」」」

 徐々に遠ざかっていく声を聞きながら、オマイクロンはフッと力を抜くようにベッドに横たわると、失笑する。

「……強い…な…眩しすぎるくらいに」

 急に襲われる眠気と脱力感にそのまま身をゆだねるオマイクロンであった。

















 

 場所は変わって…ヴァリム領内になる某所では……

「ふうぅ…さっぱりした〜」

 パイは下着姿で部屋を出ようとする……。

「こら、パ〜イ〜!」

 ランが後ろから鷲掴みして、部屋に戻す。

「頭と顔だけじゃなく、ちゃんと体も拭きなさい〜! ただでさえ身体に血の臭いが染みついてんだかラ!」
「い〜や〜っ! この香りが好〜き〜な〜の〜!!」

 暴れるパイから下着を脱がすと、半ば無理やりユニットバスに放り投げるラン。
 …しかし、まるで猫のように空中で姿勢制御し、パイはユニットバスの外に着地する。

「いやだって言ってるでしょ〜!」
「この〜…言う事聞かないと…!」

 室内掃除用のモップを持つラン。

「こっちだって〜!」

 トイレ掃除用のブラシを逆手に構えるパイ

 …このまま泥沼的の不毛な争いに突入するかと思われたが……

 カチャリ…

 …同室していた女の子が、その手には不釣り合いなほどの大型拳銃の撃鉄を起こしつつ、パイに向ける。

 あまりに突然のことに、一瞬硬直するランとパイ。


「「ち、ちょっとタンマ〜ッッ!!?」」

 バスンッ!!


 かろうじて出たランとパイの叫び声をかき消すように鳴り響くキャノン砲のような爆音に、反射的に仰け反る二人。
(硬直してても咄嗟に動けるところはさすがと言うべきであろう…?)

 ちなみに弾丸はパイの頭上を通過し、髪が数本巻き込まれて切断される。

(動いてなかったら、どうなってたんだろ〜…?)
「ワガママ、ダメだよ…」

 銃を撃ったのは、パイよりもちょっと年上そうな…赤みを帯びた黒髪と瞳をした、ショートヘアの女の子だった。
 髪型はパイとそっくりだが…瞳の色や髪の色が全然違うので、姉妹では無さそうだが…?

「何考えてるのヨ! いきなり…」
「…今の訓練弾だよ?」
「「そういう問題じゃない」〜!!」

 …不思議そうな顔をする女の子。

「……何かまずかった?」
「…何が…ってネェ…」
「……脅迫とか口封じにはこれが一番って教わったよ? …『相手を黙らせるにはこれに限る』…って?」
「「…………(汗)」」

 ……どうやら『口封じ』の用法を間違えて覚えているらしい……
 それも最悪な方向で。

(…そう言えば、この子の戦闘指導員ってファイだっケ………)

 ファイの性格を良く知るランは苦笑すると同時に寒気を覚える。

「……シグマ、その事は後で話そうネ。…パイ、とっとと体を洗う!」
「…はぁ〜い…」
「……ほら、シグマも着替えて!」
「…うん……」

 何が悪かったのか分かっていない様子でキョトンとしながら服を脱ぎ始める女の子…シグマをちょっと恨めしそうな顔で見て…今度はシャワーを嫌そうな顔で見ながら、蛇口を掴むパイだった。


 こちらはそのバスルームから少し離れた場所にあるブリーディングルーム……
 銃声らしき音に反応してクシーが立ち上がる。

「……今の音は……銃声か!?」
「…あの銃声は…シグマが撃ったのだろう」

 銃声だけで分かるのか、ファイは特に慌てることなくクシーの問いかけに応えた。

「…分かるのか? ファイ?」
「ああ、ランやパイが持っていた銃では、あの爆音は出せない。…仮にシグマ以外の人間が使ったとしても、反動で銃身がぶれるからあそこまで明瞭な爆音は出せない」
「…そうか…しかしファイ、それはそれで問題なのではないのか? 侵入者の可能性もあるだろうに」

 しばし考えるファイ。

「…それも問題ないだろう。シグマは確かに感情の起伏や表現に乏しいが、侵入者や何か問題が起こったとしたら何らかの『連絡』はするだろうし……」

 一旦言葉を止めるファイ。…何か楽しいことを思い浮かべているような遠い目をしている。

「仮にあの男がまた襲撃をかけてきたとしても、不覚をとるようなことはないだろう。シグマが『全力』になれば、『本気』を出した俺より強いのだし……」
「……それは…そうだな」

 ファイの説明に納得したクシーはそのまま席に戻る。

 …本当にそれで良いのだろうか?

「…それよりも、カイはどうした?」
「……新しい作戦がどうとかで電話していたようだが?」

 ちょうどその時、カイが部屋に入ってきた。

「すまない、待たせた…が、他の連中はどうした?」
「女性陣は入浴中で…残りの一人が今呼びにいった。俺達以外の三人は…聞くまでも無いだろう?」
「……そうだな」

 フッと肩をすくめるクシーに、苦笑しながら嘆息するカイ。

「………次の作戦が決まったのか?」

 いきなり本題を聞くファイ。…彼らしいと言えば彼らしいが。

「…ああ。今度の作戦は主にシグマ…それとファイで行う事になるだろうな?」
「……? また随分と珍しい組み合わせだな……何をさせる気だ?」
「……まあ、12番絡みの作戦とだけ言っておこう」
「!?」
「……12番…ミュウがどうかしたのか? すでに死んだ存在にいまさら…?」

 驚くクシーに不思議がるファイ。

「…詳細については揃ってから話す」
「了解」
「……………(どういうつもりだ……カイ……?)」

 ……どうやらこちらでも何か新しい動きがありそうな雰囲気だった。







 

 …とりあえず…終わり…(何か途中ですいません!)


 



キャラ紹介

シグマ
 ベリウムの特殊強化兵の一人で、シリアルナンバーは18番「シグマ」
 やや赤みを帯びた黒髪と瞳で、髪型はショートカット。見た目の年齢は14歳前後のクローンであるが、他のクローン兵士のようなコピーではなく、ある人物の精子と卵子を交配して生まれた細胞を培養して造られた存在でもある。(誰の子供かは…とりあえず秘密。…まあ、バレバレだと思いますが)
 各能力に特化した傾向が強い第二ロットの中で、『24番の試作品』という名目上、第一ロットから得た戦闘データ、技術を統合させるために調整を受けており…天性の才能も手伝ってか、生身での身体能力及びPF戦闘技術共にかなり高いレベルで安定している万能的技能の持ち主である。
 なおインターフェイスは両手に射撃と剣術重視を備えている上、両足に格闘重視のインターフェイスを有しているだけでなく、四肢の8割が機械(特殊合金の骨と人工生体組織、ナノマシン技術等を駆使した、血と神経が通っている、成長する義手と義足)となっている。
 性格は本来なら純粋無垢・天真爛漫なものであったらしいが、第一ロット以上の身体能力の高さと、かつての「3番暴走事故」の再来を恐れた研究員たちが徹底的な感情抑制と二重三重の暗示をかける事で、感情の起伏がほとんどない、無感情・無表情な性格となる。
 しかし無感情とはいってもどこか本来の性格であった部分が見え隠れしており、命令が無い限りはだれにでも優しく、他者に対して危害を加えるような行動はしないおとなしい性格である。
 上の命令には忠実に従い、「死ね」と命令されれば躊躇いなく自分の頭に銃口を向けかねないため、別の意味でパイ以上に「一人にしておけない」関係上、誰かとコンビになって行動する事が多い。
 趣味は特にないが、体を動かす事が好きらしく、格闘技や剣術に興味を持っており、その腕前は才能・技術共に一流以上のものがある。(なお、一説では才能を良い意味で受け継がせるために何度も試作品を作っては『廃棄』したらしいとの噂もある)
 ただし、水泳は苦手だとか。泳げない訳ではないが…おそらく比重の関係で沈みやすいのだと思われる。
 好きなものは杏やプルーン、李等の甘酸っぱい果実のドライフルーツ、お汁粉など自然素材を使った甘いものが好物らしい。
 名前はコードネームをそのまま使っており、苗字もない。
 理由を聞くと「…個別名称を付け足す事に、何か意味があるの?」という事で、本人は付ける気がないらしい……。
 パーソナルカラーはかつての3番「ガンマ」が使用していた黒を使っている。
 キャラクターイメージは「ガンスリンガーガール」のリコ(髪を黒くした)である





 

縮地について
 理論説明してなかったので補足。
 …簡単に言ってしまえば、「人間は予備動作なしで動かれると「動いた」という認識がしにくくなる」という事と「人間の視覚では瞬間的に加速されたり、自分が考えていた方向とは違う方向に動かれると見失ったり、反応が遅くなる」という理屈を実践した技で、最初の一歩を予備動作なし、もしくは本来の動きとは反対方向へ移動し、相手の死角に入り込む事で「消えた」ように見せる技なのである。
 なお、瞬間的に加速する身体能力も重要であるが、これは必ずしも必要ではない。少なくてもシータは身体能力だけに頼って縮地を発動していないからである(後述参照)

 つまり、この技は近距離で発動する事で真価を発揮する技であり、遠くで見ていると「消えた」とは感じません。(凄いスピードで動いている様に見えるだけ)
 サッカーやバスケットのフェイントをより高度化したような技だと考えてください。
 シータは縮地の他に気殺(気配を完全に殺す事)と忍走(足音を消して走る事)を併用する事で、技を仕掛ける瞬間まで相手に気付かせない、又はまるで分身でもしているかのように見える移動術等も心得ている上、感情抑制(殺気や怒気と言った気配が乏しくなる)の自己暗示をかけているので、この状態で縮地等を使われると、察知するのは非常に困難になる…らしい。
 まあ、ワールド関係者(生身で神速が使える人間)や予知能力保持者なら、話は別ですが(爆)



 

インターフェイスの動力源
 シータが言った「力を使うとフラフラする」とはあえて説明すれば「インターフェイスは血中から糖分を得る事で動いているために、酷使しすぎると低血糖状態になる」という事です。
 ちなみに普通の人間がこの状態になると…体のだるさや全身に力が入らなくなると共に、頭痛・動悸・嘔吐などの症状を伴って……最悪意識不明状態…そして死に至ってしまう…という事らしいです。(時事通信社発行「家庭の医学」より)
 ミュウ・パイ・シグマ…そしてクシー・オマイクロン・ファイなど、特殊強化兵が甘いものや炭水化物系の食物を好物としているのはこれが理由の一つでもある。(体が無意識に糖分を欲しがっているわけですね)
 なお、お酒や柑橘類なんかもそれなりに糖分を含んでいるのです。(苦笑)

 ちなみに、作中に出てきた無針注射は、オマイクロンの私物である。
 (作戦中に必要になる可能性があるので、全員持っていた。シータは私物といえば自分の武器くらいしか持ち出せなかったので、オマイクロンの予備を所持している)
 なお、この症状が発生した場合、ブトウ糖より血糖値上昇作用のある薬品を投与した方が効果的らしいですが…オマイクロンの立場上、薬物の類は入手が難しかったと思われます(建前)<本音は考えて(思いつか)なかった(踊る風さん、ありがとうございました!)





 

第二ロットのメンバー
 …お待たせしました。(?)
 第二ロットメンバーの簡易紹介です

番号 コード(ギリシア読み〔英語読み〕):能力(性別)
13番 ν(ニュー〔ニュー〕):全てにおいて平均的な能力の持ち主だが、15番に殺された(男)
14番 Ξ(クシー〔クサイ〕):現在のクシー。PF操縦能力に秀でた、特殊強化兵副隊長的役割(男)
15番 ο(オミクロン〔オマイクロン〕):現在のオマイクロン。現在はアルサレアにてシータの自称保護者(男)
16番 π(ピー〔パイ〕):現在のパイ。対人戦と諜報に秀でた、メンバー中最年少にして最狂の戦士(女)
17番 ρ(ロー〔ロー〕):???格闘と剣術のインターフェイスを持つ(男)
18番 σ(シグマ〔シグマ〕):現在のシグマ。対人・PF格闘と剣術に天性の才能と能力を持つ(女)
19番 τ(タウ〔タウ〕):???剣術と射撃のインターフェイスを持つ(男)
20番 υ(ユプシロン〔ユープサイラン〕):現在のラン。対人戦と暗殺のスペシャリストにして、暗器使い(女)
21番 φ(フィー〔ファイ〕):現在のファイ。対人戦と暗殺のスペシャリストであり、変装の名人(男)
22番 χ(キー〔カイ〕):現在のカイ。情報処理能力に秀でた、特殊強化兵の隊長的役割(男)
23番 ψ(プシー〔プサイ〕):???整備と格闘のインターフェイスを持つ(女)
24番 ω(オメガ〔オミガ〕):???各能力に特化した特殊強化兵達の集大成?(男)

 …こうしてみると、あと4人もいるのか…(汗)
 全部出し切れるだろうか?(苦笑)<24番は出すつもり無いけれど(汗)




 

機体紹介
Jフェニックスリサカスタム量産型
Jフェニックス、Jブラスター、Jブラスター、Jフェニックス、スマートガン、カタール、ウイング、マクリル、ボアン、ジャンサン、テレスト、ラルサJ、ヴェントヴィα、ベルーン2、ガードジェル
カラーリング
 LIPSの機体と同様。DVDを見てください。(核爆)<手抜きではありません(汗)
 武器についてはデフォルトです。

 LIPS1号機の量産型機体
 会議室のLIPS小説前編の後に提出された機体改修案を見た元帥が、

「…ふむ、使えるな…」

 と思ったかどうか定かではないが、その設計データをベースに再設計した機体である。
 なお、今後量産化されれば「Jフェニックス改」として戦線投入予定だとか。

 LIPSの機体はシャドーウイングのため、強制排除できませんでしたが、今回はウイングを採用し容易にモードチェンジが可能になりました。
 しかも、各スペックはおおむね上昇しており、さらに使いやすくなっている。
 (HMもなかなか使えます)
 セリナやリサの機体も装備が変わっただけで、外装や内部パーツに変更はありません。


ミカヅキAV
ラセツ、キシン、Jファー、ヴェタール、Pクロウ×2、ガトリング×2、ゴウニュ、ボアンΣ2、プラトー、ミマス、ウル、ヴェントヴィα、ホルス、ブーストジェル
カラーリング
頭部(15、15、2)(12、12、0)(28、26、18)
胸部 上記と同じ
腕部 上記と同じ
脚部(18、15、2)(16、13、0)(28、26、18)
両手武器(14、10、2)(23、23、5)(30、30、30)
両肩武器(15、10、0)(15、15、5)(3、3、17)


 ミカヅキのアルサレアヴァージョンとして登場。
 しかし、この機体は鹵獲したミカヅキを修理しただけのものであり、いわば訓練のために応急的に造られたものでしかないという、間に合わせの機体である。
 本来は強襲・夜襲を考慮してか黒を基調とした物だったが、森林・山岳戦を意識して茶系色に変更しているようだ。
 性能的には耐熱よりの防御属性で扱いにくい所もあるが、機動性に関してはかなり高い。
 ※一部オリジナル兵器を使用しているので完全再現ではありません。


ミカヅキAVシータカスタム
オニ、キシン、Jファー、タルカス、Pクロウ×2、ガトリング×2、ダグザH、ヴァハG、ジャンサン、ヘレーネ改、ウルク、ヴェントヴィα、ホルス改、ブーストジェル
カラーリング
頭部(15、15、15)(30、30、30)(30、30、0)
胸部(15、15、15)(30、30、0)(30、30、30)
腕部(30、30、0)(11、11、11)(30、30、30)
脚部(30、30、0)(30、30、30)(11、11、11)
両手武器(30、30、0)(5、5、30)(30、30、30)
両肩武器(30、30、0)(5、5、5)(5、5、30)

 上記のとおり、「ミカヅキAV」は「とりあえず直しただけ」の機体だったが、それを全面的に改修した機体。
 「あまり使えないし、みかけだおし」という事で、噛み付き機能を排除、全体の基本性能を高めている。
 …B速は落ちたが、ヴァハGにする事で総合的機動性能はグラフでは表示しきれないほどに上昇。
 なお、新しいオリジナル設定として、背部&脚部ブーストのエッジを削って刃物の様にしている、足底&足先に収納可能なスパイク&爪を装備している等、彼女らしい格闘(体当たりや足技)重視のカスタマイズも施されている…らしい。
 カラーリングはシータの趣味に合わせたのか、派手な黄色ベースのカラーリングになっている…が、シータの任務は非公式、隠密系の任務が多いと思われるので、このカラーリングで出撃する事は滅多にないと思われますが(汗)<多分、そういう任務の時は灰色・黒など、環境に合わせたものに変更される事でしょう(苦笑)
 ※一部オリジナル兵器を使用しているので完全再現ではありません。






 

 あとがき
 ……ああ、また中途半端な雰囲気で……(涙)
 実際、まだ書くべきところはあるんです!(核爆)
 ミュウのディスクはどうしたとか、量産計画会議の結果はどうなったのかとか、機体紹介の「ミカヅキAVシータカスタム」はどこで登場するのかとか、今回の参謀長の思惑はとか!(滝汗)
 しかし、また長くなってしまう上、そろそろ出さないと時期的にヤバ気なので、このような形でお出しする事をお許しください。
 では、感想をお待ちしています(この際不満をぶつけて頂いても構いません!)

 追伸
 とりあえず、書いてない所は「その5」というより「おまけ」的な話になるかと思います(深謝)


 


 管理人より

 ヨニカさんより第4話をご投稿頂きました!!

 オマイクロン、ナイス!!<何がかは敢えて言わず

 しかしカイ……死相が出てるような(汗)
 


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