※この小説には、PS2ゲーム「機甲兵団J−PHOENIX」および「BT」および「コバルト小隊編」および
「J−2」にはありえない、科学的にも無茶苦茶なオリジナルの設定が数多く用いられています。
詳しくは、後述の用語(誤)集をお読みください
先にそっちを読んでもOKですが、できればこのまま読み進めて、用語(誤)集を読んだ上で、
もう一度読み返していただければ、筆者としては非常に嬉しいです
しかも、既に手遅れな事に筆者の空想(妄想)の最終領域です
ぶっちゃけた話、嘘っぱち設定の嵐です。オフィシャル糞喰らえの展開さえ踏み外す勢いです
その点に関しては、間違いなく物言いがつくとは思いますが、ゴールがすぐそこまで来ているので、
せめて、終点に辿り着くまでは、できれば批判は無しで、お付き合いください
ご理解をよろしくお願いします
以上を踏まえた上で、どうぞ、お楽しみください
薄暗い地下通路だった
どうやら元々は資材搬入路か何かだったようで、幸いPFが直立しても十分に余裕があるくらい天井が高く、
通路の幅も、PFが二機、肩を並べても狭く感じることはない。流石に三機は並べそうにないが
グレンリーダーは、一つ嘆息した
足下に描かれる白線は、まるでスターティンググリットの様に目に映ったが、
否、これはまさにスターティンググリットそのものなのだ。と思い直す
今は消滅したバルメッタ島の奪還作戦を発端とする、Gエリア解放作戦。その最終作戦の、開始線なのだ
白線に爪先を掛け、軽く腰を落とす
いつもは背中に背負っているウィングの代わりに背負わされたのは、突貫工事で調整した多連装ブースター:スライプニルである
正確にはこれも急拵えの代物であり、半分はスクラップに近かった故障品を余剰パーツの継ぎ接ぎで直し、調整しただけの代物だ
それに肩にのし掛かる常とは違う重さのせいで重心の感覚がやや狂って、いつもより前傾しすぎないとすっ転びそうになる
こういう時、“いつもの感覚”に慣れきっていると、イメージフィードバックは不便だ。改めてそう思う
流石に、ここに来てそんなみっともない姿は見せられないというのに
隣に並ぶ機体のパイロットにも、後ろで見守る仲間達にも
「こちら“潜入班”。配置完了」
『了解。ベリウムが指定したタイムリミットまであと15分・・・・・依然、素戔嗚に動きは見られません。
潜入作戦開始までのカウントを送ります』
デジタル表示のカウントダウンが視界の端で閃いた
コンマ単位で時を刻むソレを、重苦しい視線で一目見やり、眼前に視線を戻す
薄暗い通路。きっちり30m間隔で取り付けられている照明が頼りない光を投げ掛けている
その先には何も見えない
だが、グリットから500m先には、不可視のエネルギーフィールドがある筈なのだ
全ての物質の通過を隔絶する結界。触れれば機体の大破は免れまい
不安はある。それに恐怖も勿論ある
だけど ――――
「・・・・・君に貰ったんだ、フェンナ・・・・・勇気を、恐怖を越える勇気を」
襟の裏、翼の刺繍の手触りを指先で感じながら、グレンリーダーは目を閉じる
一瞬の瞑目
その目が見開かれたときには、既に不安や恐怖は拭い去られたかのように消えている
『・・・・・行くか?』
「あぁ!」
そして、二機のPFは猛然とアイドリングを始めた
ジェネレーターが唸りを上げ、背中にマウントされているスライプニルにエネルギーを送り込む
弓弦を引き絞るように、二機のPFは加速の為のエネルギーを溜め込んでいた
500m、直線機動ならば数秒で走破できる短距離だ。しかし、その先にはエネルギーフィールドが待ち構えているのである
カウントは進む。網膜の中で10を切ったデジタル表示を見て操縦桿を握り直し、渇ききった喉でむりやり唾を飲み込んだ
そして、カウントがゼロを刻んだ瞬間、
二人のパイロットは足の裏を乗せていたブーストペダルを、何の躊躇いもなく踏み潰した
「強襲ポッド、射出します。中尉さん、御武運を!」
だんっ!
リーネの小さな握り拳が、薄い保護カバーで覆われた四角いスイッチに振り落ろされた
その直後、内臓を震わせるような振動がシードラボ全体に走り、施設そのものの軌道制御が狂う程の反動が襲い掛かる
ラボの底部、惑星側に開けられた射出口。そこから延びるリニアバレルが、シオンを乗せたポッドを吐き出した
元々が人員運搬用では無い上に、緊急射出の為、倍の出力でRCTを使ったのだ
降下軌道は修正してある。大気圏で燃え尽きることは無いだろうが、絶対の確証は無い
だが今は、シオンの心配よりもラボの心配だ
管制機能が喪失しているこの状況では、精鋭揃いの202特務小隊と言えど苦戦は免れないだろう
下手をすれば・・・・・
「数も種類も判らないのが、こんなにも厄介だなんて・・・・・!」
「施設の復帰に全力を尽くしましょう。私達にできるのはそれくらいです」
唇を噛みしめるカグヤにそう言って、リーネは猛然とシステムの切り替えを始めた
ラボの管制機能が機能していなくても、PF側にだって勿論レーダーくらいはある
しかし、宇宙空間ではPF搭載の貧弱なレーダーでは、はっきり言って役に立たない
早急に索敵系、通信系の復帰を計らなくてはならない
思考と指先に全身全霊の力を振り絞るリーネだが、彼女の耳に本日最大の凶報が飛び込んできた
「RCT射出口より敵機体数機が侵入しました!!現在ペトリューシカ少尉が追撃中!」
「・・・・・マクドガル中尉のポッドを射出していたことだけが不幸中の幸いですね・・・・・
付近の作業員は直ちに避難。念の為、施設内の総員は機密装備を着用すること。すぐに指示してください」
「は、はいっ!」
「内部被害、拡大中!隔壁が突破されています!!」
最悪、シードラボの最後かも知れない
明晰な彼女の頭脳はそこまで考えていた。直後、そんな思考を振り払って彼女はコンソールに向かう
絶望するにはまだ早い。やれることをやるのが先決だ
だから、発令所からブレッドが姿を消していたことに、彼女は気付けなかった
―――― 最後の戦いの幕が、熱く、静かに上がってゆく ――――
<リベル本島、アルサレア拠点:作戦開始、1時間前>
もしここに、アルサレアとヴァリム、両陣営のお偉方がいたら卒倒しただろう
ほぼ満員の作戦会議室。その椅子を占領しているのは、半数はアルサレア籍の軍人だが、
残りの半分はヴァリムの人間だというのだから
状況故に互いに邪険にしあうような雰囲気こそ無いものの、ついさっきまでは命の奪い合いを展開していた者達である
どこか居心地が悪そうな感じもするが、決戦を目前に控えての興奮が、そんな悪い空気を吹き飛ばしてしまっているようだ
お互いの視線にあるのは、敵意ではなく、純粋な戦士へ敬念・・・・・強者への敬意がそこにあった
「では、作戦の概要を説明します」
熱気溢れる会議室の壇上に立ち、そう言ったのはフェンナである
一瞬、その場にいた全員に緊張が走ったが、ヴァリム側に目立った動きは無かった
『いきなり撃たれたらどうするんだ』
そんな心配は杞憂だったようだが、当人は素知らぬ顔で書類を捲る
ちったぁ首相の自覚を持てフェンナ
「本作戦の目的は、ベリウムの勢力を全滅させること。ただ一点です。
現在のところ、敵本拠地は高出力のエネルギーフィールドにより完全に隔絶されていますが、突破口は開けます」
突破口が開ける、その一言に全員が目を輝かせた
だが、どうやって?という類の不安を宿した者も多いのを見て取ったフェンナは、まず説明の言葉を口にした
「突破の方法は二つあります。一つは、エネルギーフィールドが消える瞬間に飛び込むこと」
「消える瞬間?そんなことがあるのか?」
「はい。但し、フィールドが消える瞬間というのは、敵目標:素戔嗚の極大出力ビーム攻撃。“鬼眼光”が放たれる瞬間なのです。
当然、そんな時を悠長に待つわけにはいかないので、もう一つの手段を用意しました」
フェンナは自信たっぷりに言い切った
「敵本拠地のメインジェネレーターに強制介入を掛け、フィールドを消去します」
「ハッキングを・・・掛けるというの?」
胡乱気な眼差しで発言したのは、暁闇小隊の副隊長にして「双子の悪魔」:ユイ・キサラギである
彼女の分析では、基地の電子防壁を突破することは不可能だ・・・・・そう結論付けていたからだ
確かに、ベリウム勢力の本拠地であるリベル本島基地の防衛設備は、半端ではない
高出力エネルギーフィールドによる物理障壁。そしてネットワークからの侵入を阻む逆接防壁+エトセトラの電子トラップ
金と技術に物を言わせた電子の防衛ラインが突破できると豪語するのは、正気の沙汰とは思えない
だが、フェンナはあっさりと頷いて、
「あ、それは何とかなります」
二の句に困るユイであった
そんな双子の悪魔に構わずに、フェンナは書類に視線を落として長い台詞を一気に喋る
「敵拠点のメインジェネレーターに強制介入を掛け、フィールドを無効化できるのですが、
すぐに予備系統のジェネレーターがエネルギーの補填に回るでしょうから、フィールドはほんの僅かな時間しか消去できません。
だから、その間に何機かで敵拠点に潜入し、拠点最深部のジェネレーターを破壊します。
潜入ルートに関しては、ヴァリムの皆さんに調査をしていただいた・・・・・東側のN−12資材搬入路を使います。
潜入班の目標は地下メインジェネレーターの爆破。これによって、地上班を阻むエネルギーフィールドの消失。
そして、素戔嗚本体へのエネルギー供給量を減少させることができます」
「あのデカブツを、弱体化させられる・・・のか?」
にわかには信じがたい。口には出さずとも、ランブルの目ははっきりとそう言っている
その様子に、きっぱりとフェンナは頷き、
「はい。皆さんの見た映像や、衛星写真で写した敵機体が、前戦役中に“ロイナーデ小隊”が交戦したヴァリム製GF、
“闘神”というコードネームで呼称されていた機体なのですが・・・その時の状況と酷似している事がわかりました」
「ロイナーデ小隊?」
誰もが、どこのどいつだそりゃ?という類の顔になった
無理もあるまい。アルサレア兵団の一員であっても、兵団を構成する各小隊を全部覚えているような酔狂はこの場にはいない
「ロイナーデ・クリスタ少佐を指揮官とする小隊です。
前戦役中は辺境警備が主な任務でしたが、任務中に“闘神”の運用実験に遭遇し、これを撃破した。という顛末の報告書が上がっていました」
思い出して良く良く考えれば腑に落ちない点が多い報告書だった
たかが辺境警備にあたっていた小隊に、GFクラス・しかも新型という強敵を相手取る実力があったというのか
報告書を提出したクリスタ少佐(当時は大尉)は、決して多くは語らなかったのだが、撃退に成功した。というのだから咎は無かった
フェンナは頭を切り替えて、当時の報告書のコピーに目を落とした
「つまり、素戔嗚は単体としては未完成な機体であり、自力では十分なエネルギーを供給することができないと推察されます」
「確かに。Gエリアからフィアッツァ大陸本土まで超長距離射撃を仕掛けることができる機体なんて、存在するとは思えませんわね」
「“闘神”という機体も非常に強力な機体だったのですが、エネルギー源を外部に頼っていたことが弱点でした。
今回も全く同じように事が進むとは思っていませんが、
基地施設からのエネルギーを断つことで鬼眼光による本土攻撃を封じ込めることができる可能性があります」
「あんなナリでも、臍の緒がくっついた赤ん坊のまんまってわけだな」
“闘神”の時は、エネルギーフィールド展開装置から供給を受けていた為、基地周辺に敷設されていた装置を破壊すれば良かった
だが今回の素戔嗚は基地施設から有線で接続されており、そこからエネルギーの供給を受けていることが判明している
そして当然、素戔嗚の機体と基地のジェネレーターを繋ぐ臍の緒は、エネルギーフィールドの中
よって、元を断つしか手段が選べなかった
合点がいった様子で、オスコットがにんまりと相好を崩し、明るい声を上げた
できることがある。打つ手はあるのだ。それが判明したのが嬉しいのであろう
「なぁるほどよくわかった、そいつぁしくじれないねぇ」
「ハッキングで、障壁を無効化できる正確な時間はわかっているので?」
アルサレア側の席から太い腕が挙げられた。現在のコバルト小隊の指揮官代行:ムラキ・オニキスである
「はい、それは「わかってるよー。えっと、1.47秒」
「っておい、2秒もねぇのかよ!!?」
資料をめくるフェンナに代わり、ムラキの言葉に即座に返答したのはシュキだが、その内容はあまりイケてない
訂正、あまりにもイケてない
彼女が潜入し持ち帰った、あるいは現地で調べ上げた情報から計算して弾き出された数値が、1.47秒という数値だったのである
どうやっても、それ以上には時間を稼げない。それだけは断言できる
あえて弁明の台詞を述べるなら、これ以上に藪をつつくことは危険だったという理由もある
電子情報戦に於ける基本中の基本は、気付かれてはならない。ということだ
驚愕の声を上げたのはマイだが、はた、と何かを思いついたような顔になって、
「でもよー。んな簡単にハックとかできるんだったら、アイツの、素戔嗚の機体をどうにかすれば良いんじゃねぇの?」
「残念ながら、それは不可能でした」
「エネルギーラインとかの接続だけで、ネットワークでの接続はされてなかったのよね。
機体側で全部ブロックされちゃってて。だから何もできないの」
「ちぇっ、やっぱダメかよ」
「・・・・・こんな時こそ神佐の出番でしょうね・・・・・普段嫌われている人に限って、肝心な時に必要だなんて・・・・・」
思わず本音が出ているユイである
「作戦の概要は理解できましたが、何機で潜入するのですか?」
挙手して質問を口にしたのはルキアである
その質問に、フェンナは少し言い淀み、そして、意を決したように言い切った
「二機です」
一瞬、会議室の空気が凍った
「ハッキングによるフィールド消滅時間と通路の横幅の都合上、これが限界なんです」
フェンナの言葉と共にモニターに投影された潜入経路の通路は、確かに狭い。これでもか、という程に狭い
PFが二機は並べるが三機は並べない。そして僅か1.47秒というハッキングの有効時間は縦列での隊列も不可能にしている
突入のプランは、スライプニルを装備した二機のPFを用い、1.47秒というフィールドの消滅にタイミングを合わせ、
猛スピードで突破するという単純な作戦でしかないのである
何とも、薄氷を渡るような、というか。薄氷の上でフィギュアスケートを演じて見せるような、ギリギリな作戦である
「他の通路から、同時に機体を進入させるっていうのは?」
あっけらかんとした口調で意見を述べたのは、アルサレア最年少の小隊長:マコト・フライトである
単純な考えだが、それなら何とかなるんじゃないか。そう思った者は大勢居た様だ
しかし発言主であるマコト自身は、ムリなんだろーなー、とか考えている。それができるならやっている筈だ
案の定、フェンナは首を横に振った
「他にも地下通路はあるのであすが、隔壁が降りていたり天井が崩落していたりとかで正常な状態で使える道が一つだけなんです。
別ルートは、ありません」
「隔壁だの崩落だの、そんなのPFで撤去すれば良いじゃん」
「フィールドの内側にある異常なんですよ・・・できるなら指示をしています」
あちゃー、という顔を作るマコトだが、内心ではやっぱそうかー。とか考えている
「あ、そだ。フィールドが一瞬でも突破できるって言うんならさー、地上の素戔嗚に直接攻撃仕掛けるってのは?」
施設と素戔嗚への同時攻撃。確かにそれも有効な手段に思えるのだが、発言主であるマイは一つだけ見落としていることがある
「マイ・・・フィールドはすぐに再展開されるのよ。わざわざ袋の鼠になりに行ってどうするの?」
「あ。そりゃそうだ」
「じゃ、そのプランだと・・・・・取りあえず、潜入するのに重量級は除外ってことになるな。いや、こりゃ中量級も厳しいか?」
素直に現実に目を向けたらしいオスコットの言葉に、若年層を除くアルサレアの男性陣は揃って頷いた
ジータとセイバーを除く、グレン・コバルト・スティールレイン小隊の野郎共は揃って中量・重量機ばかりなのである
オスコット然り、ムラキ然り、ランブル然り、ギブソン然り、彼らの率いる子分共もまた、似たような特性の機体が多い
キースのフルブレットなら兵装次第で行けるかもしれないが、彼の本分は広域での強襲・制圧・防衛戦である
閉所環境を一点突破する作戦では、得物に重量を食われる射撃戦特化機よりも、スピード・装甲共に勝る格闘戦仕様機の方が望ましい
「ルーキー、お前もダメだぞ」
「な、何でですか!」
「何でも、だ。良いな」
挙手しようとしていたジータに、ランブルが先んじて釘を刺した
彼の内心を思えば当然の判断であろう。折角基地に潜入しても、メインジェネレーターの破壊という目的を忘れて、
ベリウムの元へ、素戔嗚の元へ突撃しかねないのだから
「それに、お嬢も向いてないか?」
「・・・悔しいですが、この状況でペルフェクシオンの能力を存分に引き出すことは難しいと思います」
モニターに投影される通路の様子を難しい顔で睨みながら、リンナも悔しそうに首を振った
リンナの乗機:ペルフェクシオンは長尺兵器:グレイヴを主兵装としている。狭い場所で扱うには不向きである
そうなると、コバルト小隊の面子は全滅だった
そして、キースは潜入に行ける人選を確認するように指折り数え始め、
「んじゃ、そーなると、アルサレア勢なら・・・・・隊長にアイリにサリアちゃんも何とかなるか?
あとは・・・・・ぉぃぉぃ、セイバーも行けるか」
「あの、何で僕だけ「どうする?機体能力で言えば、アタシと隊長のタッグが良いかな?」
セイバーの愚痴を無視するかたちでアイリがそう言った瞬間、フェンナの目から物凄い勢いで火花が散った
・・・・・ように見えた気がする一同である
「いーやアタシ達だ!コンビで最強って言えばアタシ達以外に有り得ないだろ!」
立ち上がりながら反論を言い放ったのはマイだ
確かに、ユイとマイの、双子の悪魔の実力はフィアッツァ大陸の隅々まで響き渡っていると言っても過言ではない
卓抜した技量と、共感覚という特殊能力を有した双子の連携は、機械じみた精密さで敵手を追いつめる
コンビを組んだ場合の実力を言えば、双子は相性・実力ともにピカイチだろう
「聞いてりゃアルサレアばっかで話進めてるじゃねぇか。共同作戦だろ?ヴァリムにも参加させろこん畜生!」
「マイ・・・・・“こん畜生”なんて言葉をどこで覚えてくるのだ?」
「どこでも良いだろっ!」
どこか論点のずれた言葉に猛然と噛み付かれ、溜息をつくグリュウである
「だが。お前達は駄目だ」
「何でだよっ!」「何故ですか」
思わぬグリュウの言葉に、コンマ数秒の差もなく言い返す双子である
親衛隊こと暁闇小隊の子分共も、物言いたげな顔であった
「お前達には、基地の制圧を頼みたい。敵はベリウムのあの機体・・・素戔嗚だけではないのだからな」
「でもよ、じゃぁ誰が行くんだ?」
「マイ、お前はさっき、自分で何と言った?」
「は?」
「ヴァリムにも参加させろと言っただろう、共同作戦だとも言ったな」
あぁ、と頷くマイだが、ユイは対照的に黙って、頭痛を堪えるような顔で額を押さえた
グリュウの考えていることを察したからだ
(本気なんですか・・・・・まったく隊長、貴方という人は・・・・・)
(へ?何、何なんだよっ!?)
頭を抱えるユイと、正反対に疑問符を頭上にたくさん浮かべまくるマイと、どこか引きつったヴァリム勢の面々を見渡し、
「これは共同作戦だ。ならば、アルサレアとヴァリムの双方から選出しても問題は無いだろう。なぁ?」
なぁ?と同意を求められても困る
そして、凄味の漂う獰猛な笑みを、グリュウ・アインソードはグレンリーダーに向けて見せ、
「私と、アルサレアのエースが、その潜入作戦を受け持とう」
誰もが、その言葉に我を忘れ、会議室は水を打ったように静まりかえった
咳き一つ無い静寂の中で、グリュウは居心地悪そうな顔で振り返る
まるで、舞台上で台詞を間違えた舞台俳優を見守るような、気まずい空気の中で、
グリュウはヴァリムの、暁闇小隊と煉獄小隊の面々を見回して、呟く様にこう訊ねた
「どうした・・・・・私とアルサレアのエースのタッグでは、実力的に不足か?」
冗談じゃねぇ。誰もがそう思い、示し合わせたように首を左右に振った
この星で、最強のタッグだった
<オペレータールーム、作戦開始直後>
カウントダウンが0を刻んだ瞬間、地下で白鳳と黒夜叉が猛然と地を蹴ったのと時同じく、
シュキが放った論理爆弾が敵基地のメインジェネレーターを制御している端末の中で炸裂した
仮に、これと同じ論理爆弾がアルサレア兵団本部で炸裂したら、半日は兵団の機能を停止させる自信がある会心の作である
しかし、それでも稼げる時間は1.47秒という僅かな時間でしかない
無数の予備系統がすぐに制御を代行してしまうからだ。流石の彼女も、ネットワークそのものを崩壊させるような真似はできない
だから、今はその僅かな時間、鼓動の一鳴りとそう変わらない程の一瞬に全てを賭けるしかなかった
オペレーターの誰もが祈る。神がいないなら悪魔でも良い、何としても第一歩を成功させてくれ。と
計算上はうまくいく、シミュレートは何度も繰り返した
うまくいく。その筈だ
フェンナは両手をきつく握り締め、
誰もが硬く目を閉じて、瞼の裏に浮かんだ最悪の光景から目を逸らす
早鐘のように鳴る鼓動が、一つ、二つ、妙に大きく聞こえ・・・
『・・・クリア!』
グレンリーダーの、緊張に上擦った声が聞こえてきた瞬間、本当に全身の力が抜けた
改めてモニタに目を向ければ、見送りに行った機体の視点で二人の無事を確認できた
安堵の余り制動をしくじったのか、前のめりにすっ転んだような格好で地面に手を付いている
だが、確かに、クレスニクと黒夜叉の機体は無事に、フィールドを突破していた
『息の根が止まるかと思ったな』
『あぁ、二度はやらんぞ。こんな真似は』
妙なところで息の合う、両陣営のエースパイロットである
『よし、では俺達は地下の中枢部へ向かう』
『この内部情報は、確かなのか?』
「絶対間違い無し。ナビも入れといたから矢印の方向に向かってドンドン行っちゃって」
「シュ、シュキ!貴方は何て口の利き方をっ!」
相手が何処の誰だろうが、シュキの口調は変わらない。それがヴァリムのエース:黒夜叉であっても
慌ててクランが窘めようとするがそれを制したのは意外にもモニターの向こうにいるグリュウだった
無礼を咎める様子もなく、作戦の第一歩を見事に成功させて見せた少女に敬意さえ見せている
『構わん、今は敵も味方も貴賎の差も無しだ・・・・・ところで、貴官の姓名を聞きたい』
「シュキだよ。シュキ・オールティー。階級は伍長だけど実際はオペレーター見習い」
『感謝しよう。オールティー伍長』
真顔で、ヴァリムのエースに頭を下げられて、シュキは照れた様子でパタパタ手を振り、
「や、やーねおじさん。褒めたって何にも出ないよ」
『お、』
グリュウの心に、ぐっさりと突き刺さった何かが見えたような気がする一同であった
会話を聞いていたマイは修羅姫の中で腹を抱えて笑い転げ、ユイは頭痛を堪える様な顔になっている
グリュウ当人はというと、唇をヒクつかせながら、先ほど言われた言葉を心の中で反芻していた
『確かに、老け顔だよな隊長って』
『マイ、少し慎みなさい』
グリュウ・アインソード中尉、当年とって29歳になる身の上ではあるが、
十代の半ばを過ぎた辺りの少女から、三十路を目前にして「おじさん」呼ばわりされるとは、
流石の彼も予想していなかったようである
『と、とにかく俺達は破壊工作へ向かう。なるべく隠密行動を心掛けるが発見は時間の問題だろう。
すぐに動ける体勢だけは整えておいてくれ』
いくつもの「了解」を受け取りながら、グレンリーダーは気持を引き締めた
今自分達の双肩に掛かっているのは、国家の存亡どころではない。フィアッツァ大陸に住まう全ての人々の命が係っているのだ
失敗するわけにはいかない。絶対に
『地上の方は頼むぞ。ユイ、マイ』
『了解、隊長もお気を付けて』
『しっかり頼むぜー、隊長』
『任せておけ。しかしベリウムと直接対決するお前達の方が危険は大きいのだぞ。
特にマイ。無茶ばかりするな。ユイ、ベル達もまとめて面倒を見てやってくれ』
『心得ています』
『わーかってるって。おーぃアルサレアのエース。隊長の面倒しっかりみてやってくれよー。
人には無茶すんなとか言う割に、自分は平気で無茶な真似ばっかりしやがるからよ』
マイの言葉に、キースも頷きながらぼやきを漏らした
『あーそれはこっちも頼みたいかもしれね。ウチの隊長も独断専行が過ぎるから。なぁアイリ』
『あぁ、言えてる。そー言えば、そーよねー』
どうやら、妙なところで息が合うのは隊長同士だけではなかったらしい
見送りに来ていた子分共まで、こと「隊長」に関してはウマが合うようで、最早メッタ打ちにされた両陣営のエースである
まさかアイリにまで窘められるとは思わなかったグレンリーダーであった
『とにかく、俺たちはもう動くからな。お前たちも早く地上に戻れ』
ういーっす、という気の無い返事を返して踵を返す者も居れば、
びしっと敬礼を一発決めて歩み去るものも居る
表す種類の違いこそあれど、そこにあるのは絶対の信頼だ
そして全員の姿が通路の闇に消える
きっかり30m感覚で頼りない光を投げ落とす照明と、微かに聞こえる空気のうねる音に包まれた途端に、
一気に、武者奮いが走った
誰かに見せて自慢したくなるくらいに、感圧スティックの操縦桿を握る掌が、フットペダルに掛けた爪先が、
おかしいほどに震えてきた
『どうした、怖いのか?アルサレアのエース』
光学接続で問い掛けてくるグリュウの声も、心なしか震えているような気がする
『・・・あぁ、怖い。自分の失敗に、どれだけ多くの人々が巻き込まれるのかと思うと、怖くてたまらない』
『そうか・・・・・やはり、お前は強いな。アルサレアのエース』
普通は逆だろう
怪訝な顔を向けるグレンリーダーに、グリュウは苦笑を浮かべながらこう言った
『この期に及んで、まだお前は自分のことではなく、他の弱者のことを気に掛けている。
無論、戦士としては惰弱と言わざるを得んが、貴様のその甘さは、最早強さと同義だ』
そうだろうか。自問しながらも、彼は深呼吸を一つした。小さく何度も吸って、大きく一つ息を吐く
慣れない抗加速仕様のコクピットの中で、グレンリーダーは腹を括った
隣で静かに、腰の愛刀に手を添えた姿で佇む「相棒」に、早口で支持を出す
『よし、そろそろ行くとしよう。爆弾と起爆装置に異常は無し。そっちは?』
『あぁ、大丈夫だ』
メインジェネレーターへの破壊工作は、時限爆弾の設置という形で行われる
爆弾そのものは急場の仕事だが、ちゃんと爆発するならばなんの問題も無い
仮に爆弾が解体されるようなことになったとしても、ギブソン印の時限爆弾はそう簡単にはバラせない筈だ
速やかにこれをジェネレーターにくっつけて、速やかに自分達は逃げる
基地のメインジェネレーターが機能を停止すれば、フィールドも消え、素戔嗚の機能も大幅に低下する筈
そうなれば後は地上班の奮闘を期待するだけだ
『まずは私が先行しよう。まがりなりにもここはヴァリムの基地で、そしてこいつはヴァリムの機体だ。
敵手を躊躇わせることくらいはできるかもしれん』
『しかし・・・良いのか?グリュウ、お前は同胞を相手にするんだぞ』
『正直を言えば、気負いはある。ベリウムとは袂を分かったが、ここにいる全員が奴の思惑を知っているわけではないだろうしな』
硬い表情のグリュウに、グレンリーダーはだったら、と反論を述べようとするが、
『しかし、ここでお前を先行させて、同胞が薙ぎ倒される姿を見せ付けられるのも我慢がならん。
後ろから逆上した私に斬り倒されたくはないだろう』
『あぁ・・・・・そりゃ、そうだな』
『道中の露払いは私が務める。その代わり、隔壁などの突破は任せたい』
黒夜叉の得物は、白菊之太刀と妖邪刀。どちらも鋭い切れ味で敵を切り伏せる業物だ
だが、生憎、刀の特性そのままに刀身は決して頑丈ではなく、分厚い対爆装甲隔壁の様な硬い相手には相性が悪い
その点、クレスニクのエクスカリヴァは、Arガスプラズマの迸る実体無き光刃であり、振るう相手を選ばないのが強みである
『わかった。俺はルートの確保に全力を尽くそう』
『よし、話は纏まったな』
獰猛な笑みを閃かせ、グリュウは通路の奥。魔物の臓腑のような暗闇へと視線を向けた
グレンリーダーも前傾姿勢を取りながら、シュキ謹製のナビゲータープログラムをチェックする
表示された3D映像の図面を10秒で頭に叩き込み、右手にエクスカリヴァを引っさげた
『あぁ、敵は時間だ。メインジェネレーターまで、一気にカッ飛ばすぞ!』
『ならば行くか!遅れるなよアルサレアのエース!!』
『お前こそ躓くんじゃ無いぞ。ヴァリムのエース!』
盛大な憎まれ口を叩き合い、二人はブーストペダルを踏み潰した
狭ッ苦しい通路を、無謀な程のハイスピードで駆け抜け、走破してゆく
そんな、余りに派手な突破劇が気付かれない筈も無く、スタートから僅か1分程で警報が鳴り響き始めたが、
その時には既に、グリュウは8機のPFを切り伏せており、グレンリーダーは最初の装甲隔壁に大穴を切り開くことに成功していた
この程度の障害は、障害の内に入りはしない。最大の敵は時間なのだから
<リベル本島:地上班>
誰もが、フィールドの間際で臨戦態勢を取っている中、リンナ・イズミは物憂げな表情で溜息をついた
「・・・・・はぁ・・・・・」
『どうしたぁお嬢?トイレだったら早めに行っとけよ』
「違いますっ!」
オスコットの下品な軽口は即座に切り落とす
通信モニターを閉じて、リンナは自分の手首に視線を落とした
数日前までは、見るも痛々しいほどに腫れていた細い手首も、今はほとんど完治しつつある
そう言えば、このテーピングを巻き直してもらうというような約束をシオンがしたのはいつ頃のことだっただろうか
思えば、慕う気持ちが芽生えたのは何時からだろう?
ここ、Gエリアでの任務に就くことになって、今は無くなってしまったバルメッタ島で出会って、
出会ったばかりの時の印象は、はっきり言えば良くなかった
どう感じたかといえば、どこかうだつの上がらない感じのする、情けない人柄のように、彼女の目には映ったからだ
今思えばあの頃のシオンは、「隊長」であろうとするあまり、無理をしていたように思えてくる
「隊長らしく」「上官らしく」。傍目には滑稽とさえ映る場面も多かったが、それもその筈である
彼は指揮官の器ではない
彼は余りにも愚直で、優しく、仲間の命を決して軽んじない人柄なのだ。そんな人間が指揮官に向いている筈が無い
その事でランブルと口論になったこともあった。あの夜のことがもう随分昔のことのように思えてくる
あの、セストニア諸島での一夜を境に、互いに少しだけ近づくことができたのだった
「私は・・・・・隊長を信じています」
何が正しくて何が間違っているのか
悩みながら、葛藤の果てにあって尚、暗中に答えを模索しながら進む彼の姿に、自分は惹かれたのだろうか
今度こそははっきり言おう
今、胸に抱く思いの丈を遠慮無くぶちまけてやろう
そんな決意を固めたのはいつだったか
ドサクサ紛れに取り付けた食事の約束を利用するかいやいや手を打つならば早い方が良い筈だそうしよう
眠れぬ夜にそんな事を考えては次の日の朝がキツかった。そんな状況に終止符を打とうとしていた矢先、
シオンはサーリットンに飛ぶことになり、気持ちの些細な擦れ違いから満足に言葉を交わすこともできなかった
今生の別れになるかも知れない。そう思っていたらサーリットンの奪還戦が終結し、現在シオンは宇宙の人だ
インペリアルが大破した為に、代替機の受領にシードラボへ向かったという話を聞いた瞬間は溜息しか出なかった
隊長業が忙しいとは言ってもいくら何でも程があるでしょう。とかリンナは思ってしまう
本土から離島に飛ばされ、離島から本土へ呼び戻され、挙げ句が宇宙まで行かされて
シオンが帰ってきたら、どんな顔をしようか。何を言ってやろうか
Gエリアでの任務が終わって本土に帰ったら、食事の席にはどんな服を着ていこうか。どんな話を切り出そうか
こんな時だというのに、そんな事ばかりしか頭に浮かんでこない
全部、シオンの所為だ。とリンナは問答無用で勝手に決めつけた
そんな風に沈み込んでいた意識を覚醒させたのは、不意の警報音である
音の源は、フィールドの向こうに聳える敵拠点から。どうやら、潜入班の二人が派手に暴れているらしい
「・・・・・今は、気持を切り替えなさい。リンナ・イズミ!」
自分の両頬に一発、平手を見舞って気合を入れ直す。プラズマ・グレイヴを握り締め、ペルフェクシオンは臨戦態勢になった
作戦では、潜入班がジェネレーターを爆破し、フィールドと素戔嗚の鬼眼光を無力化させる
だが、切り札を封じたところで、ベリウム・ヴァレリウスが簡単に降伏する筈が無いだろう
相手は強敵だ。素戔嗚、というのは太古の神の名なのだと聞いたが、PF開発史上、間違いなく最強の存在だろう
両手に提げた、あまりにも巨大で無骨な剣:斬岩刀は言うに及ばず、あの大きさならば岩どころか山でも斬り崩せそうな代物だし、
弱体化されるとは言え、鬼眼光の威力もPFが直撃を食らえば無事では済まないだろう
他にも、ゼクルヴ・ゼノンやガルバが装備していたような、レーザーネット系の自律兵器
あるいは全方位型バスターランチャー等の装備が予想されている
いや、そんな物を使わなくても拳の一撃でPFは大破するだろうし、摺り足に巻き込まれただけで踏み潰されるだろう
それほどまでに巨大な相手なのだ。そして巨大であるということはそれほどまでに厄介なことなのだ
だが、明るい材料が無いわけでも無かった
一つは、先ほどから何度も挙げているが、外部からのエネルギー供給を断つことによっての弱体化である
エネルギー兵器の出力は大幅に低下し、使用不可能に追い込めるかもしれない
うまくいけば、素戔嗚の機体そのものの運動性も、落とすことができるかもしれない
二つ目は、素戔嗚の装甲材が、ネオ・ジャポネクル合金という点である
同素材は、オニやキシンといった後期型ヴァリム製PFの主装甲材であり、
ドゥークSのような超硬材とは違い、割とよくある素材なのだ
無論、だからといってそう簡単に貫かれるような装甲ではないが、こちらの攻撃の何もかもが通用しないわけではない
明るい条件は2つ見出せた。これだけでも御の字である
何と引き換えにしてでも3つ目を見つけたいところだったので、自分達の手でもぎ取ることにした
急拵えだが、新兵器が間に合ったのだ
『おーぃ、ギブソン。お前もうちょっと地盤がしっかりした所にいた方が良いんじゃねぇか?』
『がはははははは、心配するなゾィ!』
『いや、お前が心配ってゆーか、巻き添えが心配ってゆーか』
ギブソンの愛機:ファクトリーとその子分共、スティールレイン支援砲撃隊の面々にその新兵器は支給されていた
両手・両肩の長射程兵器全てを除装し、代わってマウントされたのはバスターランチャーと、
PFの背中を隠すほどの大きな、ドラム缶(オスコット命名)である
オスコットのネーミングセンスはさて置くとして、見た目はぶっちゃけドラム缶そのまんまである
ただ、その性質に着眼するならば、それは燃料入りドラム缶と言うよりも、超ドデカイ乾電池に近い
中身は、リミッタを外したPF用のジェネレーターである
内蔵されているジェネレーターは、主にヌザやダグザと言った安物のジェネレーターである
ルーフやマクリルといった、一線級のジェネレーターも中には使われているようだ
鹵獲機や友軍の大破機から取り外したジェネレーターに片っ端から手を加え、バスターランチャーに直結
結果、できあがったのが機体側ジェネレーターのオーバーヒートを気にせず最高出力で砲撃を敢行できる光学兵器である
無茶苦茶だ。荷電粒子の光槍を消火ホースで水を撒くように撒き散らすことができるというのだから
勿論、内蔵ジェネレーターのリミッタを取り外してあるのだから、過負荷でドラム缶は爆発する可能性がある
しかし、同砲撃隊の隊長殿は、居並ぶ子分共にこう言った
「むしろ吹っ飛ばせぃ!!がははははは!!」
無茶苦茶だ。本当に無茶苦茶だ
しかし、ランチャーの砲身さえ生きていれば、予備のドラム缶を使い回すことができる
使う都度、中古とは言えまだまだ使えるジェネレーターを吹っ飛んでいくという、
パーツ屋泣かせの高額兵器、もとい光学兵器ではあるが、
現状ではどうしても規格外の高火力が欲しかったのだ
今回の素戔嗚戦において、主力と目されているのがスティールレイン支援砲撃隊である
近接戦仕様機が素戔嗚の巨体を攪乱し、スティールレインが火力を一点集中させる
それが、地上班の受け持つ対素戔嗚攻略作戦である
『しっかし、ウチの隊長は一体どこで道草食ってるんだろうなぁ』
『全く、早く来ないと手柄が無くなるぞ』
『出番もな』
口々にそう言いながらも、どこか不安そうな一同ではあった
シオンが新型機を引っ張ってきたところで、実際の所どうにかなるわけでもない
彼らはまだ02−インペリアルの性能さえ知らないのだから、シオンの戦力を計算に組み込んではいない
だけど、Gエリアで彼の参加した作戦はいつもほぼ全員が生還してきたのだ
罵倒するような憎まれ口を叩かれてはいるが、やはり隊長:シオン・マクドガルの存在は大きいようである
頼りにされている。とは言い難いようだが、愛されている。というべきか
しかしこれもとても微妙な意味合いのような気がするのは何故だろう
「隊長・・・・・今、どうしているのですか・・・?」
リンナは、空を見上げた
視線の先に居るはずの、彼女の「隊長」の姿を思い浮かべながら
(なぁ、ユイ。ホントのところ、勝算はあるのか?)
いつもならば、戦闘前は楽しげな余裕さえ漂わせているマイが、不安そうにそう訊ねてきた
双子の妹の表情こそ意外に思えたが、ユイは氷の仮面じみたいつもの表情で、共感覚の言葉を返す
(万に一つも勝機も無い。と答えたらマイはどうするの?)
(・・・)
苦しげな顔で、マイは言葉を詰まらせた
険しい視線が素戔嗚を睨み、続いて自分の後ろに続く子分共に向けられる
暁闇小隊の愉快な子分共は素戔嗚の異様を目の当たりにしても、誰一人欠けることなくこの作戦に参加していた
内心ではビビっているのであろうことは透けて見えたが、それ以上に、彼らは信頼しているのだ
グリュウと、双子と、肩を並べて戦う仲間達とを
(それでも、アタシは・・・戦うよ。隊長と、アイツ等を裏切る事なんて絶ッ対できない)
その時、マイの表情を彩っていたのは紛れもなく「恐怖」だった
本来バトルヒューマノイドには、「恐怖」などという生温い感情は刷り込まれてはいない
生まれながらにしてキリング・ドールの宿命を与えられた双子は、恐怖を知らなければ一片の慈悲の心も無い
その筈だった
しかし、研究者達にはわからないだろう
殺戮者としての優秀性のみを追求していた彼らには、如何にして双子に「心」が生まれたのか
今の暁闇小隊は、双子にとってただの一部隊ではなく、彼女らの家族と同じである
彼らと、戦争だけでなく生活を共にする中で、二人の「心」が芽吹いたのだ
しかしそれ故に、今キサラギ研の研究者達は双子を再調整しようと画策しているらしい
言い分は単純である。今の双子は殺戮を司る者として不完全だからというのだ
バトルヒューマノイドの存在理由は「殺すこと」の一言に尽きる
しかし今の双子は、「恐怖」を理解するが故に、「慈悲」を知るに至っていた
仲間を失うことを何よりも怖れるあまり、本分である筈の「殺すこと」の優先順位が下がっているとキサラギ研は指摘する
殺戮者の切れ味を鈍らせる「心」や「気持ち」なんぞというものは要らんのである
人間としては、そうした気持ちを抱くことは正しいだろう。だが二人はバトルヒューマノイドであり、人間では『ない』
グリュウ達にも打ち明けてはいないが、恐らく、Gエリアでの任務を終えて本土に戻ったら、
キサラギ研は双子を捕らえようとするだろう
「心」を踏みにじられることは恐ろしいが、それが為に仲間を見捨てることは絶対にできない
結局、二人は何の結論も出せないまま、暁闇小隊を守るためにここにいる
(誰一人、死なせはしないわ。絶対に)
ユイの言葉に、マイも決意を込めて頷く
誰かを殺す為だけに存在を許されていた双子は、大切な何かを守るために戦うことを選んだ
それが、許されないということは承知の上で
そしてその頃、地中の「隊長」達はというと・・・・・
<地下通路走破中、Side:グレンリーダー>
これで切り崩した隔壁は何枚目だろう
最初から数えていたわけではないが、ふとそんな思考が脳裏によぎった
シュキの組み込んだナビゲーションに従い、道を塞ぐ隔壁を突破し、立ち塞がる敵機を斬り伏せ、
既に何時間もの時間が経過したように思うが、実際は潜入開始から5分と経過していなかった
エクスカリヴァをざっくり突き立てた隔壁に蹴りを入れて通路を作り、視線の背後に振り向ける
そこには、菊と妖邪の二刀を手中に、演舞の如く敵機を切り倒す黒夜叉の姿
無造作に切り倒しているように見えても、コクピットを両断された機体は無いし、斬撃を受けて爆発した機体は今のところ無い
この状況下にあっても、グリュウは己に課した制約を破らない
グレンリーダーは改めて思う。自分は本当に、こんな奴と対等に渡り合えていたのだろうか。と
血糊の如く刀身を汚すオイルを振り落とし、納刀した黒夜叉に顎をしゃくる
『あと、どのくらいだ?』
息を切らした様子は無いが、状況だけに口調は固い
「もう3区画突破すれば、到着する筈だ」
短い問いかけに、同じく短く返し、グレンリーダーは視線を行く先に向けた
分厚い隔壁を潜り抜けた、その瞬間
クレスニクの顔面目掛けて突き出されてきた“何か”を、首を捻って避ける。かなりヤバいタイミングだった
空気を噛んで甲高い絶叫を上げるその得物と、暗闇の向こうに立ち塞がる重量級の機体
その姿に、グリュウは見覚えがある
苦いものでも飲み下したような顔で、彼は吐き捨てるように言った
『ここで貴様が出てくるか。バール!!』
『鼠が二匹入り込んでいると聞けば・・・とんだ大鼠だな』
唇を捲り上げるようにして笑みを浮かべ、バール・アックスの乗機:不動はロッドメイスを両手に構え直した
リベル諸島上陸戦でフライト小隊を叩き潰した“ヴァリムの猛牛”が、今、そこに立ち塞がっている
厄介な相手が出てきた。苛立ちを感じながらエクスカリヴァを構えるクレスニクに、黒夜叉から通信が入る
『待て、アルサレアのエース。ここは私に任せてお前は先を急げ』
「馬鹿を言うな!こいつがどういう相手か知らないわけじゃないだろう!」
『少なくとも、お前よりはよく知っているさ・・・だからこそ、ここは私に任せろ。奴には少々、因縁があってな』
静かに押し殺した口調は、紛れも無く「本気」の口調であり、こうなったら最早他人の言葉など耳には入るまい
そう判断したグレンリーダーは、押し黙ったままブーストペダルを踏み潰した
不動の脇を掻い潜る様な機動で突破を試み、
あっけなく、それは成功した
まるで眼中には無い。そう言わんばかりの態度で、不動はクレスニクを素通りさせた
どういうつもりなのか。いや、それを問いただしているような暇など無い
グレンリーダーは腹を括り、グリュウに言い放った
「ここは任せる!」
『仕った』
エクスカリヴァで隔壁を斬り刻む
その間さえ、バールは背を向けたまま棒立ちで居た
言い様のない不安、いや、不信を感じながらも、グレンリーダーは更に歩を進めていった
その、クレスニクの姿が見えなくなって、ようやくグリュウは口を開いた
『・・・どういうつもりだ?』
何に対してなのか、は敢えて口にしなかった
バールは応える。心底嬉しくてたまらんという口調で
『知れたことよ。貴様なら相手が一人ならば必ず一対一を望むだろう。
奴、グレンリーダーが戻ってくるまでに裏切り者である貴様を叩き潰す。その後に、グレンリーダーを倒す。
何人たりとも、ベリウム様の邪魔はさせん』
『二対一では勝ち目が無いと言う自覚があっただけか』
『や、やかましぃっ!!!』
あっさりと核心を突かれたバールは、憤怒の形相でロッドメイスをぶんと振り回した
先端部のギアが凶悪な唸りを上げ始める。触れる物すべてを噛み砕く凶器が上げるその唸りは、どこか悲鳴じみた音で耳をつんざく
『さぁ構えろグリュウ!裏切り者の末路を思い知らせてくれる!』
『・・・・・正直を言うと、安心した』
『なに!?』
怒りに顔を紅潮させたバールとは対照的に、巌の様な表情のまま、グリュウの唇は静かに冷笑を刻んだ
常にその視線にあった、戦士への敬意。彼は己に立ち向かってくる敵手にさえ一念の敬意を払うのだが、
今はそれが、完全に失せていた
『貴様にも義侠心の一つくらいはあるのかと、見直し掛けていたところだったのでな。
安心したよ。貴様はやはり栄光のみに固執し、強者に尻尾を振る犬程度の存在だ』
『なッ、貴様ッ!!』
『貴様こそ思い知るといい、バール・アックス』
刃の如くただひたすらに冷徹な貌のまま、黒夜叉はゆっくりと白菊之太刀の鯉口を切った
薄暗い照明の元でも、僅かに覗いた白刃に宿る不吉な輝きは、見る者全てを射竦める
『思い、知るといい』
ゆっくりと言葉を紡ぎ出し、グリュウは動いた
ゆらり、と上体が揺れ動いた瞬間には、斜面を液体が滑り落ちるような、不気味な程に静かで素早い機動で間合いを詰めている
静から動へ、瞬時に転換したその歩法は、素人目にはまるで瞬間移動の様に映るだろう
だがバールとて素人ではない。一瞬遅れたものの黒夜叉の挙動はしっかりと捉えていた
抜刀、横薙ぎから繋がる雷光の如き袈裟懸けの切り下ろしも、辛うじてロッドメイスで受け止めることができた
バールが得意げな嗤笑を刻もうとした瞬間、グリュウは次の動作に移っていた
太刀を受け止めたロッドメイスの柄に沿って、グリップを握る不動の拳を狙って刀身を滑らせる
奇手に肝を冷やしながらもメイスを振って刀身を弾き飛ばす
太刀を握ったままの黒夜叉は大きく腕を伸ばしたまま体を開く格好になり、
しめた。とばかりにバールは逆の手に構えていたメイスを黒夜叉の脳天目掛けて振り下ろそうとした
バールが会心の笑みを浮かべる
だがグリュウは、不機嫌そうに眉を顰め、何をやっている。とでも言わんばかりにこう吐き捨てた
『阿呆が』
侮蔑の言葉と同時に、黒夜叉は逆手に抜き放った小太刀:妖邪刀を斬り上げている
紫電一閃
電磁衝撃波の一撃では、ドゥークSで作られた堅牢無比な装甲板を貫く事はできない
だが、装甲板に守られていない僅かな隙間を直撃するなら話は別だ。例えば勢いよくメイスを振り被った瞬間の脇下とか
『う、お、おおっ!!?』
不動の肩関節が、衝撃波の直撃に大きく軋んだ。並のPFならば千切れ飛んで当然の一撃だったのだが、
さすがは頑丈一点張りの設計で作り上げられた機体と言うところだろう
『おのれ、卑怯だぞ!小癪な真似をっ!!』
『お前には負ける』
『ほざくなぁぁぁっ!!!!!!』
猛り狂うバールがロッドメイスの柄を接続。双槌を長尺兵器に切り替えて素早く突き込んだ
先端が空気を噛んで唸りを上げる。だが、噛むのは空気ばかりで、肝心の黒夜叉の機体を捉えることが叶わない
機動性を重視するあまり、一部の装甲を除装までしている黒夜叉は、はっきり言えば脆弱な機体だ
鋭く研ぎ澄まされた薄い刃の様なもので、その切れ味に反比例して衝撃に弱くすぐに折れてしまう。そんな機体なのである
ロッドメイス、あるいはハンマースタッフの綺麗な一撃が入れば、それこそ一撃で終わるだろう
掠めるような当たりであったとしても、深刻なダメージを余儀なくされるだろう
ただ一撃。それだけを念じながらバールは黒夜叉を攻め続けるが、その悉くが回避される
『相変わらず、貴様の動きは無駄が多い』
当たれば撃墜必死の攻撃を、せせら笑うようにひらひらと避け続けていた黒夜叉の中で、グリュウは獰猛に笑う
見え見えの挑発に乗ったバールが渾身の力を込めて横撃を放った
しかしそれさえグリュウはやすやすとかいくぐり、一気に踏み込んでくる
肝を冷やしたバールが懐の黒夜叉を睨み下ろし、ハンマースタッフを瞬時にロッドメイスに分割
逆手に握り直して突き下ろそうとするが、グリュウの挙動の方が早かった
刃渡りの短い妖邪の一刀を腰溜めに構え、体ごとぶつかるような格好で不動の腹に突き立てた
だが、
ギンッ!
鋭く響いたのは、妖邪刀の切っ先が弾き返された音だ
装甲の隙間を狙った一撃だったが、不動が咄嗟に跳ね上げた膝に阻まれ、僅かに切っ先がブレたのである
並の機体の装甲ならばそのまま貫き通したであろう必殺の刺突撃も、ドゥークSの装甲には文字通り刃が立たない
己の悪運の強さにバールが唇を捲り上げて嗤う。グリュウはバックステップで距離を取ろうとする
間に合わなかった
直撃ではなかったものの、黒夜叉のヘッドフレームが回転するギアに巻き込まれて弾け飛ぶ
「こいつか・・・」
目の前に聳える巨大なジェネレーターは、カメラを一杯まで上に向けても視界に入りきらなかった
幾ら何でも、馬鹿でかいにも程があろう
「しかし、どうにかなるのか?こいつは・・・・・」
そう呟いて、グレンリーダーは持参してきた爆薬に目を落とした
PFの片腕に提がる程度の大きさのそれは、こんなでっかいジェネレーターを破壊するには到底不可能なように思えるが、
実はそうでも無かったりする
こいつの中身は、ギブソン・ドゥナテロ秘蔵の新型二液混合式高性能爆薬である
混ざる前のA液、B液は、どちらも火に注いだって何にも起こらないような、爆薬の「ば」の字さえ付けられないような代物だ
ところが、両方を混ぜて家庭用コンセントくらいの電気を流せば途端にやる気を出す。着火でもイケるが電気の方が良く燃える
ポリタンク一個分程度の混合液を起爆させれば、至近距離ならPF程度骨さえ残さないマッドカクテルだったりするのである
そして今、クレスニクの手の中にあるのは、ポリタンクで何個どころの騒ぎではない
ドラム缶で数本分の液量である
こいつでどうにか素戔嗚に仕掛けて爆破してやる、という作戦プランもあったのだが、今回はジェネレーター爆破に回された
ジェネレーターさえ止めてしまえば、素戔嗚の機動力、鬼眼光の使用を制限させられる可能性があるのだ
仮に両方に爆薬を振り分けて使ったとしたら、それこそ最悪であろう。どちらも中途半端な威力でどうにかなる代物ではない
起爆装置の作動と同時にA液B液の混合が始まり、10分後に通電する予定だ
起爆装置を処理されてしまう懸念は未だに拭えないが、ギブソンが、
「このギブソン・ドゥナテロ!生涯において最高の傑作ゾィ!!」
と太鼓判を押していたから、多分大丈夫だろう
がはははははは、と笑う姿には、一抹どころか束にして背負えそうな不安を憶えたものだが
爆発物の扱いなんざ、グレンリーダーには何もわからないのだし
「よし、設置は、この辺で良いか・・・」
ジェネレーターの外壁、なるべく目につきにくい隅っこの方に爆薬を取り付けた
あとは起爆装置に信号を送れば準備は完了。逃げるだけだ
だが、
「・・・グリュウ、そっちはど
聞こえてきたのはただ事ではない破砕音だった
ヘッドフレームが派手に砕け散ったがそれ以上の損傷は無い
メインカメラとWCSとレーダーその他索敵系が一切合切天に召されたがそれもあまり関係無い
視界は、コクピットを露出させる有視界操機で確保できる
火器の類は最初から装備していない黒夜叉にとって、WCSのロック機構はほとんど機能させていなかった
唯一使っていたのは相対距離を測定するレーザー測距機くらいだったが、相対距離なんぞ肌で感じれば分かる
レーダーが無くなってもここは狭苦しい地下通路である。別段不自由は無い
両腕は動く。両足も動く。そして何より、グリュウ・アインソードは獰猛な笑みを口元に浮かべている
やってくれる、と言わんばかりに獰猛な笑みを
『どうしたグリュウ!!黒夜叉の実力とはそんなものか!!』
『・・・確かにな。窮鼠猫を噛むとはこの事か』
『そのような余裕を言っていられるのもここまでだ!逆賊、誅すべし!!』
突撃してくる不動を眺めながら、グリュウは白菊之太刀を鞘に納めた
敵を目前に刀を納めるとはどういうことか。バールが怪訝な顔をするが突撃の勢いは変わらない
続いて黒夜叉は腰部ラッチから妖邪刀を鞘ごと外し、奇妙な構えを取った
鞘の切っ先を正面に向けて、右手は鞘に納まったままの妖邪刀の柄を握り締め、左手は妖邪刀の鞘を握っているのである
(何だアレは・・・構うものか、もろともに砕く!!)
雄叫びを上げながら突っ込んでくる不動を、ひたりと据わった視線で射抜き、グリュウは黒夜叉にコマンドを叩き込んだ
両腕の構えはそのまま、姿勢を低くしながら繰り出されるロッドメイスを潜り抜ける
懐に飛び込む。そう見たバールは最前の様に膝蹴りの構えで迎え撃とうとするが、
その瞬間、グリュウはフィアッツァ大陸でのPF史上、最小半径・最高速の円周機動をやってのけた
急激な遠心力に体がコクピットから引き抜かれそうになるのを歯を食いしばって耐え、グリュウはバールの後ろを取った
しかし、バールは後ろを取られても逃げはしない
通常のPFならば、背中というのはブースターベイや射出ポッドの排出機構が集中している弱点なのだが、
不動の背面はドゥークSの装甲板に覆われ、メインフレームの前面とさほど変わらぬくらいの堅牢な装甲を誇るのである
リベル諸島戦においてマコトの度肝を抜いたように、奴の驚愕に引きつった顔を拝むのも一興だ
そんな事を考えながら、余裕の表情で振り返ろうとした
そして黒夜叉が、妖邪刀を鞘から引き抜いた
(・・・何だ、アレは・・・?)
その瞬間鞘走ったのは、今までに無いほどの強烈な紫電の煌めきだ
衝撃波として放たれるはずの超高電圧は刀身に纏わり付いたままでいる
バールの目を、紫電の光が鋭く射抜く。悪寒を感じ咄嗟に身を翻そうとするが、グリュウがそれを許すはずがなかった
ドン、という衝撃
金属と金属がぶつかり合う、硬質の、それでいて重い音
それらを意識した次の瞬間、不動の全身を紫電の煌めきが駆け抜けてゆき、
コクピットは警告で満たされ、それさえも瞬く間に消えた
『電源を落とされた』としか言いようの無い状態である
馬鹿な。言葉にもできない
『妖邪刀・鎧徹し。黒夜叉にとって最後の奥の手だ』
何だ、それは。言葉にしようとするが、あまりの出来事にバールの口は空しく開閉されるばかりだった
息を切らしたグリュウがぜぇぜぇと息を吐きながら、疲れ切ったような口調で最後に告げる
『アルサレアのエースの度肝を抜いてやろうと思って、編み出した奥の手だったのだがな』
その言葉を最後に通信系は沈黙した。いや、通信系だけではない
不動は機体が爆発する様子こそ無いものの、突き立てられた刀身から流れ込んだ高電圧は電装系を一つ残らず灼き殺した筈だ
コクピット周りの絶縁に手抜きがあったなら、機体もろともバール本人まで感電死させていただろう
『手間を掛けさせてくれた礼だ、バール』
そう嘯いて、グリュウは左手に握る妖邪刀の鞘に視線を落とした
鞘から僅かに黒煙が上がっているのは、妖邪刀の刀身に設計限界以上の高電圧をチャージした為に内部機構が灼き切れたようだ
だが、それだけの価値はあった。ただの一撃にて、ドゥークSをぶち抜いてみせたのだから
通常、妖邪刀は鞘に納めた状態で刀身に高電圧をチャージし、紫電の電磁衝撃波を振り出す兵器だ
だが、グリュウが考え出した『鎧徹し』は、最大出力を刀身にチャージ“したまま”刺突撃で放つことで衝撃を一点に集中させる
刀身による刺突と、設計限界を超えるエネルギーを孕んだ電磁衝撃波の槍を一点に打ち込むのだ
貫ぬ物など無いだろうが、過負荷を刀身に強いる為に、恐らく失敗すれば後が無い
蜂の一刺しの如き必殺技だったのだが、ぶっつけ本番でもうまくいったようだ
ふらりと振り返り際、不動の背中に突き立てたままの妖邪刀にちらりと視線を送ってみれば、
やはりというか、露出している柄からは黒煙が立ち上っていた
鍔元まで突き入れた刀身は見えないが、きっと使い物にならない有様になっているだろう
当代皇帝より下賜された、ヴァリム製のカタナの中でも最新にして無二の一振り:「妖邪」を使い捨てるには抵抗があった
バールなんぞの冥土の道連れには勿体無いにも程があると思うのだが、この際、仕方があるまい
刀は、使ってこその刀だ
『・・・陛下なら許してくださるか・・・?』
手中の鞘を腰に戻しながら溜息と共に独白を呟き、ふと視線を巡らせれば、視線の先には戦闘中に邪魔になって放り捨てた爆弾が
しまった、忘れていた
戦いの余韻に浸るあまり、現在の状況をすっぱり忘れてしまっていたではないか
自分はここにバールと戦いに来たのではない。この戦闘はいわば降りかかってきた火の粉を打ち払っただけのこと
本来の目的はこの基地のジェネレーターを爆破して、外周のエネルギーフィールドの除去と、素戔嗚の弱体化を図ることではないか!
『・・・・・おのれ。グリュウ・アインソード、一生の不覚っ!!!』
慌てて爆弾を拾い上げようとするが、そうするよりも早く通路の向こうから白いPFが姿を現した
咄嗟に身構えるが警報は鳴らない
遊軍機:グレンリーダーのクレスニクだった
グリュウは安堵の溜息を一つついて、通信回線を開こうとするが、
ヘッドフレームの全損に、辛うじて生き残っていた通信系が完全にダウンしていることに気付く
グレンリーダーの方もそれに気付いたらしい。敵地の真っ直中だというのに、外部スピーカーを使って大声で黒夜叉に話し掛ける
「グリュウ!どうした、無事なのか!」
『・・・あぁ、上々だアルサレアのエース。お前の方こそ首尾はどうだ?』
「起爆装置は既に作動させてある。あと8分程で起爆の予定だ!脱出するぞ!」
それだけ言うと、話す時間も惜しいとばかりにクレスニクはフルブーストで黒夜叉の横を駆け抜けていった
黒夜叉も爆弾を拾い上げ、起爆装置のタイマーをセットし直して通路の奥に向かって投げ込んだ
もし黒夜叉と不動の通信系が生きていたなら、憤怒の表情のバールが思いつく限りの罵詈雑言を並べていたのが聞こえただろう
聞きたくも無いし、聞いている暇も無いけれど
「しかし、よっと。派手にやられたな」
『案ずるな。見た目ほど深刻ではない。頭と胸部装甲が吹っ飛んだ程度だ』
「・・・姿勢制御系もちょっと歪んでないか?」
『む、おぉっ!!?』
微妙にふらふらした操機をグレンリーダーに指摘された瞬間、黒夜叉がかつて無いほど姿勢を崩した
末代までの語り草に成りうるような、見事なコケっぷりである
有視界操機な上フルブーストという危険な状態のまま、黒夜叉は転倒を
しなかった
咄嗟に、クレスニクが黒夜叉の肩を支え、上体を引き摺り上げてやる
『・・・すまんな。見た目程度には深刻だったようだ』
「双子の言った通りだな。無茶のし過ぎだ」
『・・・・・様にならんな・・・・・』
憮然と呟くグリュウを乗せた黒夜叉を引き摺りながら、クレスニクは加速して行く
自分達が斬り崩してきた通路を駆け抜け、遮蔽物をかいくぐり、縋る追っ手を振り切って、二人は一散に逃げ出して行く
だが、ここで一つ問題がある
起爆まで、残り時間はおよそ7分
黒夜叉を引き摺っているとはいえ、クレスニクの足ならばこの基地からまんまと逃げおおせてお釣りが来る
だが、侵入する時はハッキングで除去したエネルギーフィールドが、今は再展開されているのである
オートロックのドアをこじ開けて入ったのは良いが、閉じこめられる羽目になった。というところだろうか
勿論、爆弾が起爆してジェネレーターを破壊できればフィールドは無くなる
つまり、それまではここから出ることができない
起爆によってジェネレーターが消し飛び、爆発の余波に巻き込まれてもアウト
全力で逃げれば、爆風が地下一帯を吹き飛ばすよりも早く地下通路を通り抜けて地上に出ることができる筈である
計算上は、その筈である
「さて、おとなしく時間まで待っていたいところだったんだが・・・」
思わずぼやくグレンリーダーであった
レーダーの中では自機の後方に赤い光点がたくさん点っている
言うまでもなく敵機群。どうやら強行突入なんてナメた真似をしでかした闖入者を黙って見過ごすつもりはないらしい
これも、言うまでもないか
グレンリーダーは、外部スピーカーのスイッチを入れ、グリュウに言う
「グリュウ。そっちは索敵系が機能しているのか?」
『情けない話だが、全く機能していない・・・敵襲か?』
「あぁ。追っ手だ。お前は通路の中まで待避しておいてくれ。
姿勢制御を調整しなきゃ戦うことも逃げることもできないだろう」
グレンリーダーの申し出に、グリュウは一瞬表情を険しくしたが、すぐに改めた
例えヘッドフレームが大破しても、グリュウ・アインソードの駆る黒夜叉は一山幾らの雑兵輩相手に遅れを取るような事はない
だが、入り組んだ地下通路では近接戦特化機が2機も並んで暴れ回ることはできない
だから、今のところは無傷のクレスニクが残って追撃を凌ぎ、黒夜叉は退避しておく
理屈をぐっと飲み込んで、グリュウは小さく頷いた
『わかった。頃合いを見誤るなよ!』
「お前ほどの無茶はしないさ!」
肩から黒夜叉を離し、クレスニクはそのまま減速してゆく
レーダーに映る敵機群との相対距離を測りながら膝を曲げ、バネを縮めるように下半身に力を溜める
背後から迫る追っ手は既に、ぽつぽつと点る薄暗い照明の中でも姿を確認できるほどに迫ってきていた
近距離格闘戦特化機:ラセツのカスタムモデルを筆頭に局地戦仕様のヌエ
どちらも近接戦で真価を発揮するタイプである。特にラセツ改はベースモデルのラセツをより過激なセッティングにした機体だ
両の拳を覆うカイザーナックルの一撃は、並の中量級が自機の大破覚悟で体当たりを敢行してくるくらいの破壊力がある
クレスニクの装甲:OSJ−3が堅牢とはいえ、不動のドゥークSを引き合いに出せば霞んでしまう
狭い空間で戦うには、機動力が高く、拳という小回りの効く得物を扱うラセツ系統の相手は最も厄介な敵と言えるだろう
だから、グレンリーダーは、初太刀に全てを賭けていた
「・・・・・!!」
クレスニクの膝が上体を押し上げ、同時にフルブースト
敵集団の頭上を飛び越えるような背面跳びを見せ、クレスニクは呆気にとられている先頭のラセツ改を肩越しに睨み下ろす
狙点は肩口から首筋。一撃で仕留める!
「くらえ・・・っ!!」
光刃一閃
振るわれたエクスカリヴァの一撃は吸い込まれるようにラセツ改の肩口に命中し、ヘッドフレームを横から薙ぎ払うように振り抜いた
Arガスプラズマに灼き斬られた上体をぐらりと傾がせて、ラセツ改はその場に崩れ落ちる
どうやら、うまくいったらしい。その事に内心安堵しつつ、グレンリーダーは敵集団の背後に降り立った
エクスカリヴァを両手に構え、照準波を孕んだ眼光で有象無象を睥睨する
しかし、
並の兵士なら尻尾を巻いてもおかしくない状況であろうが、相対したヌエのパイロット達は逆に、俄然色めき立った
そう言えば、リベル諸島域での戦いで、相手のほとんどはベリウムの私兵団なのではないか。という推論を得ていたことを思い出す
恐らくこいつらは、信念からではなく、功名心から戦いに臨んでいるのだろう
「哀れだな・・・だが、負けてやるわけにはいかないんだっ!!」
哀れだ。心からそう思う
ベリウムなんぞの手駒になったばかりに、こんな辺境の、こんな薄暗い地下道で、欲にまみれた彼らはどうなるのだろうか
自分は、どうするのだろうか
右側面からヌエが単機、大鎌を振りかざして飛び掛かってきた
それなりに素早い動作だが、グレンリーダーが反応できないはずもなく、周囲の援護も受けていない単身での突撃である
クレスニクは、エクスカリヴァの切っ先をヌエの動作に合わせるように突き出した
それだけで、自ら光刃に突き刺さりに行くような格好になったヌエは早贄にされた
機能を停止した亡骸を刀身から振り捨て、決死の勢いで突っ込んできた数機に身構える
WCSが背番号を振る。手前から1・2・3番。1番2番が正面から突っ込んできて、3番はやや右寄りの円周軌道
ぱっと見て3番の動きが一番臭いが、多分、本命は2番
3番の動きは完全に無視して、クレスニクはこちらも踏み込んで掛かる
1番の大鎌を弾き飛ばし、その背中に隠れるように忍ぶ2番を袈裟懸けに斬り倒す
エクスカリヴァの光刃は強化タングステンで作られた剛竿ごとヌエの機体を両断してみせた
アテが外れた3番が慌てて突撃してくるが、それもこちらの読み通り
体勢を崩したままの1番を足蹴にして、クレスニクは3番に向き直った
転瞬
光の旋風が吹き荒れた
詩心のある者がこの場にいれば、そんな風に表現したかも知れない
エクスカリヴァが縦横に振るわれたのだ、という事実さえ忘れさせそうな程の、凄絶な斬撃であった
エクスカリヴァを振り切った体勢のクレスニクの前に立っていた筈の3番は倒れ伏し、辛うじて原型をとどめている程度だった
張り倒され、足蹴にされて転倒させられていた1番が、へたり込んだまま立ち上がれないでいる
気持ちはわかる。他のヌエ達も、金縛りにあったかのように動けないようだ
これほどの力の差をまざまざと見せつけられて、怖じ気づかない者などそうそういるものか
(時間は稼げるか)
グレンリーダーは内心で呟きながらも、実は平静を保っていた訳ではない
かつてグリュウが言ったように、彼もまたコクピットを狙うのは嫌いなクチなのである
必要ならば斬る。だが、そこに何の躊躇いも無いわけではない
まして今は、爆弾の起爆数分前という状況である
ここで機体を破壊すれば、間違いなくパイロットは爆発に巻き込まれる。そうなれば助かる見込みは無いのだ
殺さないように加減をしても、結局殺してしまう。できれば戦うことなくこの場を収めたいのが本音なのだが、
そんな甘い考えで渡り合える相手でも無いらしい
「くそっ!!」
横合いから斬りかかってきたヌエの大鎌を弾き返し、腹部に蹴りを叩き込む
体術は彼の得意ではないが、己の勢いの良さが裏目に出た格好でヌエは大きく後退した
内心、苛立ちを募らせるグレンリーダーの腹の内など読めるはずもなく、ヌエ達はこぞって襲い掛かってくる
ふと視線を巡らせて時計を見れば、起爆まであと2分
防戦一方の姿でじりじりと後退しながら、グレンリーダーは見切りを付けることにした
「よし、ここまでだ・・・じゃあなっ!!!」
押し寄せる敵機群を薙ぎ払って、クレスニクは180°回転
フルブーストで一散にその場を逃げ出した
そのあまりに見事な逃げ足の早さに誰もが一瞬呆然として、ヌエ達は慌てて追いかけ始めた
『遅いぞ!アルサレアのエース!!』
グリュウの怒号がまず出迎える
この時点で起爆まで、残り僅か13秒である。じりじりと待たされ続けた身としては、怒鳴り声の一つも上げたくなろう
「すまん、だが間に合うだろう!」
『馬鹿を言うな。ぎりぎりだ!』
「そういう作戦だったんだから、仕方無いだろ!!」
怒鳴り合いながらも、クレスニクと黒夜叉は併走する
既に侵入してきた地下搬入路に入っており、ここから先は一本道だ
躊躇うことなくブーストペダルを踏み潰す
有視界操機中のグリュウは、キャノピーの脇から吹き寄せる風圧に難儀をしながらも必死に黒夜叉を駆けさせていた
「おい、大丈夫なのか!」
『無論だ!!』
そしてカウントが、0を刻んだ
数瞬後、
世界がひっくり返るのではないかと思えるほどの激震が通路を襲い掛かった
<同時刻・リベル本島:素戔嗚コクピット内>
(・・・・・ふむ?)
突如として眼前が警報で溢れかえった
メインジェネレーターからのエネルギー供給緊急停止、サブジェネレーターをメインとする回路に切り替え
(悪足掻きにしては、やってくれる。というところか)
静かにベリウムは思う
そこには別段、怒りも驚きもない
ただ、冷淡に事実を飲み込み、感想を思っただけだった
視線を巡らせれば、明滅するエネルギーフィールドの向こうに居並ぶPF達
信じ難いことに、アルサレアとヴァリムの混合勢力らしい
全長650mのオーガル・ディラムとほぼ同型の素戔嗚からすれば、通常のPFなんぞ文字通り豆粒同然である
作戦の一段階が成功したことに気勢に乗っているようだが、すぐに思い知ることになるだろう
ベリウムは、斬岩刀を持つ右腕を振りかぶった
<同時刻:地上班>
「ぃよっしゃぁぁっ!!!」
基地から立ち上る黒煙を認めた誰かが快哉を上げた
程なくして明滅を始めたエネルギーフィールドに、誰もが興奮を抑えきれない様子で得物を構え直す
「戦闘配置、戦闘配置急げ!」
「前衛は全機突撃!砲撃隊は所定の配置まで全速で移動せよ!!」
そして、完全に無くなったフィールドを踏み越えて、全軍が進撃を始めた
基地にはまだバールやベリウムの私兵団がいた筈だが、今はまだ姿を見せない
好機とばかりに一斉に雪崩れ込むのだが、しかしこうして見上げてみると、改めて思う
「・・・なんて、デカさだよ・・・」
しまいにゃ視界に入りきらない程である
本当に、こんなチャチな兵器でどうにかなるのか。キースは両手で構えたショットガンに目を落とした
装填してあるのはフレシェット・マグナム。サチコ主任謹製の自己鍛造短針散弾。軽量級なら一撃で大破させることもできる弾だ
素戔嗚は通常のPFを基準に物を考えて良いようなスケールではないけれど、関節なんかの装甲が薄い部分に当てれば十分有効な筈だ
自分ではそう考えていたが、こうして見上げてみると、そんな自信も失せてくる
「ビビったのキース!」
即座に、同僚から叱責の声が飛んできた
そのおっかない声音に首を竦ませながらも、キースは言い返す
「あぁ、ちょっとビビった!」
「情けないわね、一番手はもらうわよっ!!!」
ストラングルが地を蹴る。スライプニルをフルブースト
矢の様な勢いで素戔嗚の巨体を目指して突き進んで行
素戔嗚が右手に提げた斬岩刀を振りかぶった
それだけの動作を目の当たりにしただけで、全軍の動きが凍り付く
オーガル・ディラム級の体高にも関わらず、その動きは通常のPFの様に滑らかな動きである
そして無造作に振り上げた斬岩刀、巨大な鉄板を、これまた無造作な動きで振り落とす
別に何かを狙ったわけではないのだろう。事実、直撃を受けたPFは一機も無かった
しかし、刀身の長さが300m近く、身幅で50m。その厚みはPFの肩幅程もある刀である
地面に叩きつけられた刀身は官舎を二棟、倉庫を一棟破壊して、噴煙の様な土煙と膨大な瓦礫を生み出した
こんな物の直撃を受けたなら、文字通り粉砕されるだろう
打つ手はある
何とかできる
そう信じていたのに、その超弩級の衝撃に足下が崩れ去っていく様な感覚さえ感じた
巨体であるが故に、動きの質は鈍重であろう
そう思っていたのは確かだ
しかし、こいつは違う。思っていたよりも遙かに素早い
しかもどんな操縦系統なのか想像も付かないが、動きがとんでもなく精密だ
素戔嗚は無造作な一振りを見せただけだが、剣を扱う者にはその動きの「質」に寒気さえ感じた
剣を縦に振り下ろす。言葉にすれば簡単そうだが、素戔嗚の動きには、僅かな揺らぎや力みさえ無かったのだ
PFの操縦は、操縦桿:ハードウェアによる操作と、IFS:ソフトウェアによる操作に分けられる
挙動の大半はハードウェアで為され、その動きをソフトウェアが個人個人らしい動きに修正するのだが、
人間の動き方と、PFの動き方は勿論違う。重心の関係、装甲の重量、関節の動き方、その他諸々・・・
IFSが幾ら進歩しても、思考がそのままPFの動きに反映されているわけではない
「思い通り」に動く訳ではない。「思った風」に動くだけなのだ。それ故に、PFの挙動には僅かな揺らぎや力みが発生している
グリュウの様な剣術の達人であっても、アイリの様な体術の達人であっても、これは完全に無くすことができない
PFという存在に付きまとう宿命的欠陥である
しかし、素戔嗚は違った
まるで、“こいつがベリウム・ヴァレリウスである”かのような滑らかな動きを見せていた
衝撃冷めやらぬ一同を素戔嗚の追撃が襲う
斬岩刀の派手な一撃は陽動、小物相手にはそれ用の兵装が用意されている
装甲の隙間、至る所から吐き出されるマイクロミサイルが憤進煙の尾を引いて前衛部隊に津波の様に襲い掛かってきた
「ヤッベ、下がれ!!」
それを叫ぶのが精一杯だった
キースは即座にショットガンを手放しマシンガンを両手に構えた
捕捉は容易いが数が多い。こちらの前衛のほぼ全てを押し包む様な勢いのミサイル群である
格闘戦仕様機が慌てて後退し、砲戦仕様機がカバーに入る
中間で迎撃されたミサイルが爆炎と化すが、その数、実に数百発に達していたミサイル群の全てが撃墜できる筈が無く、
炎を割って新たなミサイルが迫ってきた
「こんなものでッ!!」
ジータのグランツが左のアームに装備されている丸盾:ヴィトリアルウェーブを起動させた
ジャミングされたミサイルが数発、踵を返して素戔嗚を襲うが、これは素戔嗚の巨体に取っては本当に豆鉄砲ほどの威力でしかない
射撃や電波兵装でほぼ全てのミサイルに対処し終わった頃、素戔嗚が再び詰め寄ってきた
巨体からは想像も付かないほど優雅な足捌きは怖れている暇も与えてくれない。とにかくキースは指示を叫んだ
「アイリ!サリアちゃんとセイバーで側面に回り込め!正面から俺達で攪乱する!
グレン小隊、格闘戦がイケる奴はアイリに続け!砲戦仕様機は俺の方だ!!」
「りょ、了解!」
キースの言葉に、スライプニルを装備した三機のPFが宙を駆けた
それを見たオスコットも、いつもの余裕綽々な態度を振り捨てて、必死の形相で指示を出す
ジータの抱えるベリウムへの確執が、彼に悲劇を演じさせる・・・そんな危惧を抱いていたのだが、
どうもこいつは、そんなに簡単にやられてくれそうな相手ではない
「お嬢とルーキーもそこに混ざれ!良いか、深入りだけはすんな!」
「は、はいっ!」
グレイヴを握り締めたペルフェクシオンと、雷撃を帯びた斬甲刀を構えるグランツも飛んだ
機甲の翼を打ち振って、先行したグレン小隊の3機を追い駆ける
それを見届けたムラキが胴間声を張り上げる
「よぅし、コバルトの残りは阻止砲戦展開!根性見せろっ!」
「フライト小隊は背面に展開するよ!」
「油断はするなよ」
「あんなもん見せつけられて油断なんかできるわけないでしょうがっ!!行くよチェンナっ!!」
「了解!」
アルサレアのPF達が陣形を組み替えながら展開する
ヴァリム勢のPF達もまた、ユイの指揮の下動き出した
「暁闇小隊はアルサレアと側面挟撃。マイ、頼むわよ」
「りょーかい!行くぜ野郎共!!!」
「煉獄小隊は、暁闇小隊を援護しつつ遊撃に当たれ。サーカム少尉、指揮は任せる」
「了解!煉獄小隊全機は続きなさい!」
修羅姫と紅兎に率いられた二個小隊が素戔嗚を包囲する様に展開する
対してユイは、単機で正面に展開するアルサレア勢に混ざった
「置いてけぼりかぃ?」
キースの軽口には何の返答も返さず、ユイは十文字大手裏剣にコマンドを飛ばした
素戔嗚の次の一手、ゼクルヴ・ゼノンやヘリオスが装備していた物と同じ、レーザーネットと呼ばれる自律兵器をバラ撒いてきたのだ
小型のポッドから放たれるレーザーの一撃一撃の危険性はさほどでもない
特に高機動機であれば簡単にポッドそのものを振り切ることができる
逆に、重量級にとっては勿論のこと、機動力に劣る砲戦仕様機には驚異となる。しかも展開されたポッドは無慮数百発にも及ぶのだ
素戔嗚の正面に陣取っているグレン・コバルトの混成部隊にとっては最悪の一手である
サーリットンでは、シオンが率いていたアームド・メガバスター隊の陣列が一瞬にして瓦解した
その驚異を知っていたマコトやサリアが息を呑み、
「領域展開、排除開始」
ユイの小さな呟きに6枚の大手裏剣が解き放たれた
ブースターに火が入った手裏剣は旋風の様に自軍の周りを駆け巡り、
瞬時に四十八連の苦無と化して、射撃準備位置についてこちらを取り囲んでいたポッドを射抜いてみせた
「自律兵器には私が対処する。攻撃は任せるわ」
感情の片鱗さえ伺わせぬ声音でそれだけ告げ、ユイは新手のポッドに意識を集中させた
四十八連飛苦無:雀蜂の結界。硬目標には効果が薄いが、ミサイルや自律兵器の端末程度、一撃で貫く威力を持ちあわせている
散々苦しめられてきた「双子の悪魔」の片割れからの申し出に、思わず動きが止まるアルサレア陣営の面々だったが、
「よっしゃ、んじゃ頼むわ」
「ご、伍長?!」
オスコットが実にお気楽な口調であっさりと承諾した
ユイはそれに応答を返しはしなかったが、四十八連飛苦無は今も快調にポッドを爆炎に変えている
しかし、憎い仇敵とも言える相手が見せている無防備な背中には、状況を鑑みず良からぬ企みを抱く馬鹿もいるらしい
ひっそりと、鬼百合の背中目掛けて銃口を掲げようとした数機のPFがいたが、
ムラキやランブルが物も言わずに張り倒した
そんな同僚の姿を愉快げに見やり、灰皿代わりの空き缶からまだ長めの吸い殻を探り出したオスコットは、デカイ声で一喝した
「良いかお前等、今はアルサレアもヴァリムも無ぇ!敵はあのデカブツ一機だけだろが!!
それ以外でドンパチなんぞやらかしやがったら問答無用で軍法会議だ!!わーったな!!」
オスコットの怒声の合間にも、ポッドが立て続けに爆散してゆく
護られているのだ
雲霞の如く押し寄せる自律兵器を、一つ残らず、脳が焼き切れそうな程の集中力でコマンドを維持して
それを知った、思い知らされたパイロット達の心根に最早迷いは無い
「コバルト小隊砲撃用意!両翼に展開した部隊を援護する!狙点は四肢に集中せよ!」
ムラキの号令の元、一斉に銃口が掲げられる
何よりも堅牢な「刃の盾」を得たコバルト小隊は、砲撃を開始した
「うおらぁあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
年頃の娘の唇から迸った雄叫びである
四肢の動きを封じるように、素戔嗚の正面に位置するコバルト小隊が砲撃を始め、それに併せて両翼が挟撃
左翼:アルサレアの先陣を切るストラングルが、ガントレットをかざして殴りかかった
これだけの巨体である。「どこをどう殴るのが効果的か」なんてわかりゃしない
だから「とにかく殴る」。それがアイリの方針である
まず目に付いたのは上腕部だった。アイリは何も考えずにぶん殴る
ドガン、と世にも恐ろしい衝突音が鈍く響くが、やはりというか目立ったダメージは与えられていそうにない
「先輩タッチですっ!!!」
唇を噛んだアイリの横をすり抜けて、サリア機:ゾールシカが吶喊
スライプニルの噴射角制御と機体姿勢制御とをOSから強引に奪い取り、無謀なコマンドを機体に突っ込む
見るも恐ろしい殺人的な高機動でゾールシカが素戔嗚の間合いに飛び込み、どデカいハンマーの一撃を叩きつけようとするが、
これは翻った斬岩刀の刀身に防がれた。そのまま大型輸送機の滑走路に使えそうなその刀身を、僅かに凹ませただけに終わる
唇の端を引きつらせたサリアの脳味噌が緊急回避をコマンドした瞬間、斬岩刀を握る巨大なマニピュレーターがジャブを放った
ジャブ、と言えば最も軽い拳撃の種類ではあるが、素戔嗚の拳骨はそれだけでPFの全高に匹敵するほど大きい
裏拳気味に放たれたジャブがゾールシカを襲う
叩きつけたハンマーが跳ね返る反動に逆らわず後退させようとしていたサリアが息を呑み、
「や、やらせるもんかぁっ!!」
微妙に上擦り、裏返った声と共にセイバー機:クラージュが“降ってきた”
ターヴュランスの穂先を重力方向にポイントし、落下ベクトルとスライプニルのフルブーストを合わせたフリーフォール
研ぎ澄まされた先端は狙い違わず素戔嗚のマニピュレーターに炸裂し、予想外に深く突き刺さった
会心の手応えは良いのだが、その代わり深く突き刺さったランスを素早く引き抜くのは難しい
援護を受けながらクラージュはターヴュランスを引き抜いて、セイバーは仲間達に叫んだ
「装甲部分以外は結構脆そうです!マニピュレーターや関節部分は、装甲を貫通できれば内部を破壊できる!」
「でも、アタシの攻撃はあんまり効いてなかったわよ!」
「打撃には強い装甲なんでしょうかぁ・・・」
拳と鉄槌を振るう二人の少女はやや泣きが入りかけている
素戔嗚の装甲材はネオ・ジャポネクル合金。オニやキシンなど、ヴァリム製後期型PFの多くに用いられている装甲材と同じである
同じであるのだが、こいつの装甲はそもそも分厚さが通常のPFの比では無い
頑丈とか堅牢という言葉では表現しきれないほどに、素戔嗚の装甲は単純に「分厚い」
その為、アイリの様な打撃に特化した機体はダメージを与えにくい。装甲ごと内部機構を破壊するのが打撃スタイルの本領だからだ
真逆に、ランスの様な一点突破型の兵器なら、装甲を貫ける可能性がある
ベニヤ板はハンマーで殴ってもなかなか割れないが、釘は軽い力で貫いてゆける
しかし残念なことに、長尺の槍を持っている機体は、強襲部隊の中にはセイバーしか居ない
後はフォースソードやカタールがメインで、あとはクラブだサックだのというところなのである
どうしたものか、とアイリが逡巡していると、
「幾ら装甲が厚かろうと、関係ありませんわ!!ペルフェクシオン、参ります!!」
「続きます!」
「ちょ、リンナ!?ジータも!!?」
機甲の翼で宙を叩きながら、二機のPFがアイリ達を追い越していった
勇敢、を通り越して無謀とさえ思える所行をアイリは止めようとしたが、リンナとジータは耳を貸さない
ペルフェクシオンが先行、後続にグランツ。互いに複雑な軌跡を描く高機動で敵手を攪乱する、アルサレア空戦仕様機のお家芸
「せぃっ!!!」
アイリに比べれば可愛らしい気勢だが、込められた気迫は裂帛のものだ
ペルフェクシオンの繰り出すプラズマグレイヴが赤光の斬閃を描き、素戔嗚の装甲に食い込んだ
どれだけ分厚い装甲板だろうと、Arガスプラズマの奔流には為す術もなく灼き斬られてゆく
クレスニクのエクスカリヴァなら、一撃で腕の半ば辺りまで光刃を徹せたかも知れないが、生憎グレイヴは刃渡りが短い
しかし、それでも装甲を削り取ると言うだけで十分に効果があった
「だぁぁっ!!!」
気合一閃。飛び込んだグランツが装甲の裂け目に斬甲刀を突き立てる
慣性を乗せた刺突撃は装甲を割り、内部機構に達し、ジータはスタンエッジをトリガー
刀身に一瞬纏い付いた超高電圧が「バヂッ!」という耳障りな異音を立てて内部を灼き払う
装甲内部に刃を徹され、更に超高電圧を加えられても素戔嗚の動きは止まらなかったが、腕の動きが確かにぎこちなくなっている
効いているのだ。じわじわと、だろうが
素戔嗚の懐から離脱して来たリンナが、先頭に、庇うように立ちはだかった
「ミカムラ中尉!ここは私達にお任せください!」
「・・・・・こうなったら、リンナ、セイバー!あんた達二人が頼りだからね!」
状況を認識したアイリの判断は迅速だった
「隊の半分、格闘戦仕様機は今すぐ司令部まで後退!過積載でも何でも良いからパイルバンカーとか槍とか拾ってきなさい!
フェンナ、聞いてたでしょ!そっちで何とかできない!?」
ほんの数秒前に決断した事だというのに、フェンナは既に手を打っていた
『今集めてる!輸送機にあるだけ積み込んで飛ばすように手配したから、もう少し頑張って!』
「こっちまで輸送機が飛んできたら撃墜されちゃうかも知れません!どこか適当な所に投下させてくださぁい!」
『わかったわ、基地から西に15kmの地点に投下させます!』
「了解!」
そうしていると、反対側で交戦していたヴァリム勢も武器が合っていない
暁闇小隊の面子の大半は、隊長であるグリュウと同じくカタナを主兵装としている為に、硬目標相手では分が悪い
勿論、並の装甲ならば両断できるほどの業物が揃っているのだが、素戔嗚はあまりにも堅過ぎる
煉獄小隊は、何かにつけて型破りなダンの影響か、てんでバラバラな装備の機体が多い
その為、こちらは暁闇小隊に比べればマシな方だ。高機動力をそのまま武器にするビッグフォーンやアサシンファングがある
パイルバンカー装備の機体も数機、ルキアの紅兎もレーザーカタールでは威力不足と思ったのか、
スイングブレードと呼ばれる新兵器を右手に引っ提げていた
「キサラギ中尉、ここは煉獄小隊が引きつけます!暁闇小隊も一旦後退して兵装の回収に向かってください!」
ルキアの声に、最前線で素戔嗚の装甲に裂傷を刻み付けていた修羅姫が一度距離を取った
死人鎌の切れ味ならば、何とか装甲を貫くことができる
ベクトルが「貫通」ではなく「切断」である為に効率は悪いが、じわじわ効いてくるだろう
しかし、暁闇小隊の子分はそうはいかないのだ
ジータが繰り出したような力任せな刺突撃は、腕の善し悪し以前にカタナの様な細身の刃には向いていない
「・・・軍曹、聞いたな!一旦下がってから応援に来い!アタシはここで踏み止まる!!」
自律兵器を避け、ミサイルで踊り、斬岩刀の横撃をせせら笑いながらマイはベルモットに叫んだ
一瞬、親衛隊の面々に苦渋の色が浮かんだが、それも本当に一瞬のこと
「了解ッ!」
「頼むぜ、あんまり待たせんなよ!!」
マイのそんな一言を背に受け、蹴り飛ばされたように暁闇小隊の子分共は疾駆した
が、その疾走は5秒と続かなかった
暁闇小隊の全員のコクピットに、いきなりシュキの顔が大写しになってこう怒鳴ったからだ
『すとーーーーっぷ、すとっぷすとっぷ!!!』
「な、何だいきなり!?」
『待って待って!あなた達だったらこの基地の区画番号とか詳しいよね、L区画の22番格納庫に行って!』
「はぁ?」
愛しの副隊長にとっとと行ってこいという言葉を掛けられたばかりだというのに、何を言ってるんだこの小娘は
そんな内心の思惑を隠そうともしない子分共だが、シュキは構わず言葉を続ける
『そこに、資材採掘用パーツを装備したPFが格納されてるらしいのよ!ブン取ってくれば使えるかもしれない!』
「お、そいつはイケるんじゃねぇのか!?軍曹、命令は変更だ!使えそうな物はあるったけかっぱらって来い!」
「副隊長、しかし、我々は格納庫を開けるパスを持っていません。緊急時の為、格納庫は閉鎖されています!」
『もう“開けてある”から急いで!』
シュキの言った言葉の内容を、正しく理解できた者はその瞬間はいなかったが、
この、リベル本島司令部の電子障壁をくぐり抜けてメインジェネレーターにハッキングを仕掛けた化け物が誰だったか
それを思い出した一同は揃って頷き、踵を返した
「副隊長!ご無理はなさらぬよう!」
「おめーらこそ、できるだけ急げよ!」
「30秒で戻ってきます!」
幾ら何でもそりゃ無理だろ。とマイが内心で思っていたら、
暁闇小隊の子分共はまるでテレポートでもしたかのように消え失せている
死人鎌を握り直してマイは素戔嗚に向き直った
彼我の体格差は最早笑いが出てくるくらいに差があるが、それでも不思議と負けるような気はしない
死ぬかも知れない。とは思うが、負けるかも知れない。とは思えない
「うし、んじゃ行くぜルキア!アタシが引きつける。煉獄小隊はアタックだ!」
「了解!煉獄小隊前衛各機は突撃せよ、後衛は支援に集中!」
ダン・ロンシュタットを頭とする煉獄小隊の気性は、暁闇小隊よりも激しい
その気性の荒い小隊長殿は不在だが、その子分共は二人の少女からの檄に、応、と返事を返し、
突撃する修羅姫に続いて次々に素戔嗚の巨体に取り付いてゆく
「フライト小隊、話は聞いたわね!挟撃部隊の体勢が整うまでは私達も一歩も退くなっ!」
「小隊各機はツーマンセルを原則!防御を重視!攻撃は軽視!陽動と攪乱を主として展開!
ヤッコさんのデカいカタナよりも自律兵器と“足運び”に注意だよっ!」
フライト小隊は、主に射撃兵器を扱う中量級が揃った小隊である
空戦仕様機のように、空中を舞台にして立ち回ることができない
その為、素戔嗚の摺り足に巻き込まれることが一番の驚異であった。なんせ相手は650m級である
足の大きさだって半端ではない。挙動の一つ一つが既に凶器だ
「チェンナ、ちょっと良い?」
「ん、何?言っておくけど私の機体に射撃能力は無いわよ」
「解ってる。その分近接格闘戦は得意でしょ・・・アイツ、カタナを振り下ろす時の姿勢を見て」
マコトにそう言われてチェンナは目を凝らした
彼女の視界の中で、素戔嗚は斬撃を繰り出す。摺り足で一歩踏み出し、重心をやや前に
相手があまりに小さすぎるからだろうか、少々不自然なほど前のめりな格好だ
「あんまり小さい相手だからかしら、やりづらそうね。それで、私は何をすれば良いの?」
「膝カックン、かましちゃって」
「膝カ・・・・・な、何ですって?」
何で、この激戦の最中にそんな小学生の仕掛ける悪戯の名前を聞かなきゃならんのか
チェンナの困惑には取り合わず、マコトは冷静な眼差しで思うところを述べる
「ホントは、サリアっちのハンマーみたいな重い得物がベストなんだけど、チェンナの斧でもイケると思う。
一歩踏み出した時の、後足はほとんど伸びきっちゃってるでしょ?あんだけ前に踏み込んでりゃああなるよね」
「そりゃそうだけど・・・・・」
理屈はわかる。チェンナのシルフィードも重量物を扱う機体なだけにそれはわかる
しかし、言うことにかいて「膝カックン」たぁ何事だ
チェンナの懊悩する様に、マコトは頭上に疑問符を浮かべながらも迅速に指示を出した
「アタシとチェンナが突っ込む!小隊各機、アタシ達には当てんなよっ!!」
マコト機:ラプソディがフルブーストで突撃
単機で突出した途端、自律兵器やミサイルが襲い掛かってくるが、生憎今日のマコピーはキレている
彼女の憧れるアルサレアGSと同型のヘッドフレーム、そのカメラアイがギラリと輝き、
「未じゅーーーーーーーーーく!!!!!!!」
エキスプロードウェーブを最広領域でトリガー
ジャミングを受けたミサイル群が一気に爆散し、自律兵器のポッドを爆炎に巻き込んだ
安心するのも束の間、新手のミサイルが迫り来るが今度はジャマダハル内臓のレーザーピストルが跳ね上がる
両手のカニバサミを縦横無尽に振り回しながら、ラプソディは跳躍。遮る物は何も無い
目標、素戔嗚が斬撃のモーションに入る。その瞬間、彼女は叫んだ
「チェンナ!今!!」
その名の如く、颶風と化したシルフィードがもの凄い勢いでラプソディを追い抜いていった
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
チェンナの獣の唸り声の様な雄叫びと共に、シルフィードは肩に担いだバトルアックスを振りかぶった
推進炎は放物線の様な軌跡を残し、チェンナは狙い澄ました一撃を素戔嗚の膝裏にぶち込む
弱点とはいえ、PFサイズの相手が繰り出した一撃で千切れ飛ぶほど素戔嗚の関節はヤワではない
しかし、斬岩刀を振りかぶった格好にあった素戔嗚は、シルフィードの一撃にバランスを崩し、膝が地を打った
そのまま後ろにひっくり返るか、と思ったがそこまで甘くはない。肩越しにシルフィードとラプソディを睨み付ける
次の瞬間襲い掛かったのは水面蹴りの一撃だ。普通ならばただの足払いだが、素戔嗚が繰り出すと最早竜巻の様な勢いである
直撃は受けなかったが、蹴り潰された建物からPFの頭くらいの瓦礫がドカンドカン吹っ飛んでくるのである
「退避!退避ぃっ!!!」
「マコト!掴まりなさい!」
逃げ足の遅いラプソディをシルフィードが抱えて一目散に後退する
小隊機の方は距離があった為に大した被害は受けていないようだ
「よっし、やっぱり幾らデカくったって構造はPFとおんなじだよね。対策できる!」
「油断は無しよ」
「とーぜん!!」
笑い合うと、ラプソディとシルフィードは再び地を蹴った
相対するは体格差65倍の超大者である。しかしその差は絶対的なものではないことを自分達は証明できたのだ
立ち向かえる。不可能ではない
「フライト小隊!アタシに続けぇっ!!!」
そして彼らは攻勢に移る
各々を率いる小隊長達の姿に引かれるように、後に全軍が続いてゆく
正面に展開しているコバルト小隊は、鬼百合の庇護の下、快調に砲撃を続けていた
並の貫徹弾や強装弾では装甲に埋まるだけで対したダメージは与えられないが、
それでも運良く装甲の隙間に滑り込んだ弾丸がじわじわと内部にダメージを蓄積させている
時折炸裂する巨大な爆炎の華はランブル機:ディンゴの放ったハイ・エクスプルーシヴやパンツァーシュレックの一撃だ
こちらも装甲を煤けさせるばかりだが、その衝撃が四肢の先端に炸裂したとなれば動きを乱すことくらいはできる
ムラキ機:ゼファーのプラズマライフルや、オスコット機:ゲイボルグのバスターランチャーが、
誘導兵器やミサイルの射出口を狙い撃ち、装甲を貫いた荷電粒子の奔流が爆発を呼んでいる
「おっと、危ねぇ」
四十八連の飛苦無が作り出す結界も、絶対ではない。ユイの思考に僅かにできた死角から飛び込んできたミサイルが3発
しかしこれはキースの早撃ちが撃ち落とした
高速貫徹弾を装填したカービンライフルを構えていた筈なのだが、気が付いた時にはサブマシンガンでミサイルを撃墜している
咄嗟に持ち替えたのだろう。とは頭では理解できるのだが・・・・・
「悪いわね」
「なぁに、気にすんなよ。今度やりあう時に手加減してくれりゃそれで良いさ」
妄言は聞き流してユイは結界の維持に集中する
既に30分以上もコマンドに集中しているのだ。流石のユイも集中力の低下を実感していた
素戔嗚は、主に斬岩刀で側面の部隊を牽制し、遠隔攻撃でこちら、正面のコバルト小隊を攻撃してくる
自律兵器に取り囲まれれば、逃げ足の遅い射撃部隊は簡単に壊滅させることができる・・・そんな計算がされているのだろう
全て鬼百合が単独で対処できるのだが、そろそろ限界が近い。それさえもベリウムの計算の内なのかも知れない
「・・・・・まだ、まだよっ!!」
気を抜けば飛びそうになる意識を繋ぎ止める
自分が抜かれればコバルト小隊は壊滅し、これらの攻撃が側面の両部隊に向かってしまう
「自分が対処する」。そう言ったからには、脳の血管が切れまくっても絶対に退かないつもりだった
「砲撃隊、精度が落ちているぞ。しっかり狙え!」
普通に当てるだけならば外しようのない程にデカイ相手なのだが、デカイだけに弱点を狙った精密な照準でなければ効果が無い
ランブルは先程から素戔嗚の動きに合わせて、四肢の狙った的確な砲撃を連発しているのだが、
実を言えばそろそろ残弾数が心許ないことになっている。それは彼の指揮する砲撃隊の子分共も同じだろう
一度、補給に戻るべきだ。「狂犬」だった頃の自分がそう囁く
しかし、彼の口から出たのはこんな台詞だった
「最後の一発を撃ち尽くすまで一歩も退くな!ここが正念場だぞ!!」
おぉ!という鬨の声が返ってくる
任務の犬はもう居ない。そこには、群れを率い、守り、統べる狼の姿があった
「おーおー、ご立派な指揮官っぷりだこと」
「あれが、あいつの本領なんですよ。伍長」
「隊長がお役御免になる日も近そうだなこりゃ」
軽口を叩き合っているのは、ムラキとオスコットだ
どちらも高出力の光学兵器を手に狙撃を担当している
「しっかし、ホントはこういうの苦手なんだよねオジサンは」
オスコットのぼやきに、ムラキはHUDの下で苦笑を浮かべた
狙撃に特化した高出力プラズマライフルを扱うゼファーほどではないが、ゲイボルグの狙撃も見事なものだ
バスターランチャーの照準精度はどちらかと言えば雑な方なのだが、それでもオスコットはしっかり当てている
「謙遜も過ぎると嫌味ですよ。伍長」
「おぃおぃ、こりゃ本当だっての。射撃だのはこれっぱかしも自信が無いんだぜ?」
「シオンが見たら自信を無くしそうな程、見事な腕前です」
その言葉に盛大に吹き出しながら、二人はトリガーを引く
迸る荷電粒子の光槍に、融解した装甲が捲れ上がりながら爆発を起こした
側面に展開したアルサレア勢、グレン小隊+リンナ&ジータも負けてはいない
輸送機が放り落とした予備の武器を拾ってきた仲間が加わり、本格的な攻勢に移っている
「だぁらあああああぁぁぁっ!!!!!」
「うりゃうりゃうりゃぁぁぁぁっ!!!!!!」
アイリとサリアの師弟コンビが繰り出す連続攻撃が、切り裂かれた装甲の隙間を狙って繰り出される
ストラングルは自重が攻撃の全てである為に相性が悪いのか、やや精彩を欠いている様だが、それでもアイリはアイリである
一切、躊躇うこと無く拳撃を繰り出している。そこにゾールシカがハンマーを振り下ろし、装甲を更に砕いてゆく
「セイバー!今度はこっち!」
「わ、わかった。すぐ行く!」
平素からは考えられないほど頼りにされているセイバーだが、その分いつもよりも忙しい
だが、突撃を主眼に設計されたランスと、直線機動力を馬鹿みたいな数値に押し上げるスライプニルの相性は良かったようだ
フルブーストで素戔嗚の攻撃を巧みにかいくぐりながら、速度の乗った突撃騎槍の先端で装甲を大きく穿つ
大穴の空いた装甲の上からアイリとサリアが打撃を加え、内部機構を叩き潰す
機体の膂力に任せた単純な戦法だが、技量の差はこんな場面でも浮き出てくる物だ
「父さん!!父さん!!応えろよ・・・・・畜生!!!」
「・・・・・参ります!」
あらゆるチャンネルで素戔嗚に通信を繋ごうとするジータだが、未だに返答は一言もない
コクピットにできるだけ近寄って、外部音声でまで叫んだのだが、僅かな変化も見出せなかった
リンナはその悲痛な叫びを無理矢理聞き捨てながら、ペルフェクシオンを操りグレイヴを振るう
真紅の光刃が乱舞する度、装甲が灼け落ちてゆき、そこに残甲刀を構えたグランツが突っ込んでくる
刺突と同時に、スタンガンの先端の様な放電光が刀身に纏い付き、内部機構にダメージを与えている
「何でだよ・・・どうしてなんだ!どうして父さんが、こんな、世界を滅ぼすような事をするんだよッ!!!」
子供の頃から、ずっと封じ込めてきた疑問の真実に応えてくれる唯一の相手にようやく会えたというのに、
ベリウムは、ただの一言さえもジータには返そうとはしなかった
「どうして母さんを殺したんだ!!父さんは、一体何をしようとしていたんだ!!応えろよ!!」
ベリウムは何も応えない。ただ、剣の一撃をグランツに見舞う
もう、幾度繰り返したか分からない程に攻撃を繰り返したのだが、今だの素戔嗚の動きは止まらない
鈍くなりつつはあるのだが、止まる気配は一向に見せない
「こっちが苦しいときは相手だって苦しい筈よ!ここが正念場だかんね!!!」
アイリの檄に全員が気合を入れ直した
そう、ここが正念場なのだから
「副隊長!暁闇小隊全機帰還しました!」
「うっし、待ちくたびれたぜ・・・・・って、おぃ、お前等・・・・・」
思わず脱力した言葉を発してしまったマイである
普段はカタナを主兵装とする暁闇小隊の子分共だが、今は採掘用PFからブン取った兵装を装備している
彼女は、資源採掘用の装備というのを詳しく知らなかったのだが、パイルバンカーとかハンマーとかだろうと予想していた
しかし彼女の予想は大きく外れていたのだ。子分共は全員揃って、巨大なドリルを両手に装着している
その姿は、存外に滑稽というか、ぶっちゃけて言うとあまりイケてない
「・・・・・ぷっ」
「わ、笑うほどにおかしいのでありますかぁぁっ!!!!!」
やはり、自分達でも気になっていたらしい
泣きが入りかけたベルモットの顔がおかしくて、戦闘中だというのに、マイはコクピットの中で大笑いを始めた
膝をバシバシ叩きながら目尻に涙まで浮かべるほどの勢いである。それでいて素戔嗚への反応が疎かにならないのだから、
バトルヒューマノイド恐るべし。というところだろう
あっちの方ではあまりの狂態にルキアがおろおろしているが、マイにとってはいらぬ心配か
「副隊長!自分達はそんなにも、そんなにも滑稽なのですかっ!?」
「・・・・・その装備ならば有効打を打ち出せる。硬目標に対しては有用な装備だと思うわ」
通信で泣きつかれたユイが少し困った顔でそう応えるが、親衛隊の面々の表情はまだ曇ったままだ
ひぃひぃ言いながら呼吸を整えていたマイが、共感覚でユイに応える
(そんな言い方じゃ、アイツらには通じないって)
(・・・・・じゃぁ、どう言えば?)
「おめーら!!!」
修羅姫は肩越しに顔だけ子分共の方に向けて、ビシッと左手の親指を立てて見せた
「なかなかイケてるじゃねーか!そのドリル!!」
「し、しかしさっきまで笑「な、ユイもそう思っただろ!」
「え?えぇ、そ、そうね(ほら、あと一押し!)(う、うん)その・・・・・隊長にも負けないくらい、素敵だわ」
言った後で、ちょっと言い過ぎただろうか。と心配になった
そして案の定、その心配は的中した。良い意味で、あくまで良い意味で的中した
ユイの、どこか照れが混じった(様に見えた)その態度と言葉に、親衛隊の愉快な子分共は一人残らずのぼせ上がり、
「副隊長の為ならぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
「「「「「「「えぇぇぇぇぇんやこぉぉぉらぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」」」」」」」
ベルモットの号令(?)一下、一散に突撃して、その螺旋状の溝が切られた錐:ドリルを思い切り突き立てる
岩盤だろうが砕き散らす、頑丈さがウリの採掘用ドリルを突き立てられたのだ
さしもの素戔嗚の装甲もこれには耐えきれず、次々と大穴が穿たれてゆく
「も一つおまけにぃぃぃぃぃぃっ!!!!?」
「「「「「「「えぇぇぇぇぇんやこぉぉぉらぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」」」」」」」
彼らがヴァリム軍秘蔵の特務小隊と言われる暁闇小隊の隊員である。という事を強く述べておきたい
グリュウが見たら頭を抱えるだろうか、彼も隊長ならば率先してここに加わるだろうか
「煉獄小隊前衛機は一旦後退!暁闇小隊と連携せよ!・・・もぅ、こんな時に、ダンは何やってるのよ!」
指示を叫びながらルキアがぼやきを漏らす
グリュウから「参加するな」と言われてはいたが、まさか本当に戦場に姿を見せないつもりなのだろうか
左翼では空戦仕様機が何機か飛び交っており、その中には間違いなく見覚えのある機体があった
グランツ、ジータの機体だ。ベリウム本人が「死んだ」と言った、彼の息子だ
実の親子が敵味方に分かれて刃を突き付けあっているというのはどういう理由があるのだろうか
「ジータ、何が、貴方をそこまで・・・ッ!!」
ボサッとしている暇は無い。突っ込んできた自律兵器をスイングブレードで叩き落とし、
後衛に迫りつつあったミサイル群を総ナメにロックしてハンドMLRSをトリガー。ミサイル同士の接触に爆炎の華が咲く
「ダン・・・・・ホントに何処で、何やってるのよ、あの馬鹿!!」
紅兎の中で、ルキアは誰よりも長く自分の隣を歩いてきた幼馴染みに毒付いた
「起爆いくよっ!逃げ遅れても知らないからね!!」
マコトの声とほぼ同時に、素戔嗚の足下が弾け飛んだ
PFでの直接攻撃の効果が薄いことなど先刻承知だったマコトが用意していた別の手だ
前衛高機動機の全武装を排除させ、あらかじめ用意していた吸着地雷を装備させた決死隊を投入したのだ
本来ならば、戦車の腹に食いつけば跡形も残さず吹っ飛ばせるような地雷なのだが、
素戔嗚にとってはカンシャク玉が破裂した程度でしかないだろう。それでも、注意を引くことくらいはできる
あわよくば、足下を掬えるかもしれない。その程度の認識だったが、その程度の成果は上がっているようだ
「マコト!地雷のストックがもう少ないわ。決死隊全機での突撃はもう1回が限度よ!」
「OK!もちょっと用意するべきだったね、こりゃ」
チェンナからの通信に悔しげに呟くが、ここまで真っ当な準備をしていたのはフライト小隊だけだ
作戦開始までの短い時間の間に、彼女はアルサレアとヴァリム双方の兵站を飛び回って掻き集めたのである
「よっし、決死隊全機は突撃!これが最後だからって気ぃ抜くなっ!頼むよチェンナ!」
「了解、私に続きなさい!!」
シルフィードの先導に、フライト小隊の決死隊が続いてゆく
小脇に抱えた地雷の爆発では、直接素戔嗚を倒すことは敵わない
だけど、挙動の乱れを誘うことができれば、側面で挟撃している前衛部隊と、正面の射撃隊が有効打を叩き出せる
勝利の為の、この貴重な布石を打つことができるのは、自分達だけなのだ
そんな思いを胸に。決死隊のPFが戦場を駆け抜ける
素戔嗚の降らせるミサイルの雨を潜り抜け、巨体からは想像もできないほどの優雅な足運びに巻き込まれないよう注意を払い、
素戔嗚の足首を狙って地雷を片手にタッチダウンを決めてやる
「OK!全機後退!ほらほら急いで!!」
マコトはそう言って急かすが実際に起爆するのは全機の離脱を確認してからだ
それを知っているチェンナは、自分が一番最初に突っ込むが、逃げるときは一番最後に逃げる
フライト小隊の副隊長として、俊才と呼ばれるが頭の中はまだまだガキンチョの隊長を全力でサポートしてやるのが自分の仕事だ
「今よマコト!!」
「おっけぃ!!!」
二人のぴったりと合った呼吸こそ、フライト小隊を新進気鋭としている原動力なのかも知れない
<アルサレア司令部>
「コバルト小隊、2名脱落!回収班を向かわせます!」
「スティールレイン支援砲撃隊配置完了とのことです!」
「煉獄小隊6機が中破!破損機体は後退中!」
怒号の様な勢いで報告が飛び交うオペレータールームである
アルサレアとヴァリム、両陣営のナビがここに集結している為に、その喧噪は平素の倍以上になっていた
『こちらクレスニク、司令部、聞こえるか!?』
「っ!」
突如聞こえたその声は、フェンナが待ち望んでいたグレンリーダーの声だ
ただ、通信を待つ。そのもどかしさに前戦役の最後を思い出さされて、胸を締め付けられる様な苦しさを感じていたが、
今度は大丈夫だった。ちゃんと無事だった
その事に安堵するあまり涙まで浮かべながら、フェンナは通信を返す
「こ、こちら司令部。フェンナです!ご無事ですか?!」
『あぁ、俺は大丈夫だ・・・ただ、機体がマズイことになった』
その一言に、顔色がさっと変わった
『クレスニクは右腕と左脚部が大破。黒夜叉は頭部全損、内部機構に深刻なダメージがある。
済まない、最後の最後でドジ踏んだ』
最後の最後で爆発の余波に巻き込まれ、姿勢を崩した瞬間足下の瓦礫を避け損ない、転倒してしまったのだ
転倒、とは言う物のそれは「転んだ」なんていうレベルではない
クレスニクは右腕と左脚が大破
右手に握り締めたエクスカリヴァは刀身半ばで砕け、装甲も上腕付近まで完全に捲れ上がり内部機構が火花を散らしている
左脚に至っては膝関節から先が無い。避け損なった瓦礫に引っ掛けてしまい、その際に千切れ飛んだのだ
黒夜叉は、バールとの交戦から損傷は増えていない様に見えるが、
脊椎フレームが歪んでしまい、四肢は健在だが直立歩行さえままならない状態になってしまっている
何より、パイロットであるグリュウ本人がヤバイ状態になっていた
有視界操機をしていた為に、風防の中に飛び込んできたソフトボールサイズの瓦礫に額を痛打し、
慣性中和機構も何もかもクソくらえという危険な状態で、しかもフルブーストのまま転倒してしまったのだ
コクピットから放り出されなかっただけ幸運に恵まれていたと言えるが、あまり慰めにならない状況である
『衛生班を至急寄越してくれ。グリュウが危険だ。外傷は少ない様だが、最悪、脳挫傷か内臓破裂の可能性がある』
「りょ、了解しました、向かわせます!」
<Side・グレンリーダー>
「おい、グリュウ!しっかりしろ!」
脈と自発呼吸はある
まずはそれを確認して、コクピットから体を引き摺り出した
コクピット備え付けの医療キットから蒸留水を探り出し、派手に割れた額の傷にぶっかける
止血スプレーを取り出したところで、こんな物を顔面に吹き付けれるものか。と考え直す
ムース状の泡が固まって患部を覆い殺菌と止血をしてくれる、応急処置にはこれ一本。という便利な代物なのだが、
生憎、顔面の傷には使えない。「万能薬」なんて物はそうそうできないものである
代わりにガーゼを取り出し、折り畳んで押しつけた
そんな程度で頭から出血がそう簡単に止まるとは思えないが、取りあえず包帯をぐるぐる巻きにしてしっかりと締め付けた
「・・・・・・ぬ、ぅ・・・・・」
首筋に垂れ落ちていた血を拭い、センサーフィルムを貼り付けていたところでグリュウが目を覚ました
頭を起こそうとして、傷に激痛が走ったのか、また伏せてしまったけれど
「気が付いたか!」
「むぅ、頭が割れたように痛むな・・・・・くそ、まるで二日酔いだ」
「実際に割れてるんだよ起きようとするな。他に痛むところはないか?」
「・・・・・少々脇腹が痛むが、それ以外はどうという事はない様だ」
センサーフィルムに描き出される脈拍の波形と血圧の数値を睨んで、緊急性は低いとグレンリーダーは判断した
血圧が少々低いが、脈拍は安定している
肋骨にヒビでも入ったのか、やや発熱があるようだがそれも深刻なレベルではない
「薬も色々あるが、素人の手には余る・・・鎮痛剤くらいは使っておくか?」
「いや・・・耐えられる範囲だ。心配するな」
「そうか、衛生班がもうすぐ来る筈だ。それまでは堪えてくれ」
「わかった・・・全く、サマにならん・・・」
小さなぼやきに苦笑を返し、グレンリーダーは戦場に目を向けた
視線の先では、素戔嗚を押し包むように部隊が展開している
戦場の趨勢まではわからないが、蹴散らされている、という印象はない
「あれは、スティールレイン?ギブソンか?」
ふと、視界の隅の方で砲撃姿勢を取る機影に視線を向け、グレンリーダーは怪訝な顔を作った
ギブソン率いるスティールレイン支援砲撃隊の本領は超長距離砲戦である
しかし、今の彼らが展開している地点から素戔嗚までの距離は、半端に「近い」
それに、平素ならば山なりの曲線を描く弾道で砲撃をするために、遮蔽物に隠れるのが常なのだが、今は高台に陣取っている
しばらく様子を見守って、ようやく合点がいった
今回彼らが装備しているのはバスターランチャーとドラム缶:ディスポーサブル・ジェネレーターだった
素戔嗚の巨体にも、その攻撃は通じる。その筈だ
「頼むぞ・・・ギブソン」
豪快な笑いを炸裂させる戦友の姿を脳裏に描きながら、グレンリーダーは小さく祈った
<スティールレイン支援砲撃隊>
「的はあんだけデカいゾィ!!外した奴ぁ飯抜きくらいは覚悟しとけぃっ!!」
豪快に言い放ち、ギブソンはバスターランチャーの砲身を前方に倒した
いつもの実体弾射撃とは勝手が違うが、基本的に直進する光学兵器の方が扱いは簡単だ
バスターランチャーを両手でしっかりと握り締め、両足を大地に踏ん張った
背面にマウントしたドラム缶、リミッターがカットされたジェネレーターは猛然と唸りを上げ始め、
絞り出すようにエネルギーを供給し始めた。機体内ジェネレーターを使うのとは訳が違う
機体維持にエネルギーを割く必要が無い為に、エネルギーを全部砲撃に回せるのだ
下手を打てばジェネレーターが爆発するという危険もあるが、ギブソン自身は、
「むしろ、ぶっ壊せぃ!!!」
と言った。彼自身は間違いなく、本気でそのつもりである
横一列に並んだ子分共の様子を眺めて、ギブソンは顔中を口にして号令を下した
「いくぞ!!!うてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
<素戔嗚・コクピット内>
思ったよりも、やる
それがベリウムが抱いた感想の全てだった
素戔嗚の挙動を目の当たりにして尚、退く様子を見せなかった
誘導・自律兵器がフル稼働しているがそれでもしぶとい。無論、一機も撃破できていないというわけではないが、
味方が吹っ飛ばされようが踏み潰されようが、誰一人、怯える素振りも見せずに向かってくる
だから、思ったよりも、やる。その一言に尽きる
素戔嗚の巨体からすれば、損傷の一つ一つは小さな物なのだが、有り得ないことに装甲を貫いて内部機構にダメージを蓄積させている
許容範囲を超えるダメージは受けていないが、このまま放っておけば事態は深刻になる
とは言え、本当にコイツ等は勝てると思っているのだろうか?
(哀れなものよ・・・)
溜息に近い何かを吐き出し、ベリウムは虫けら程度の大きさでしかないPFを睨み付ける
鬼の眼差しで、睨み付ける
光の奔流が、交錯した
<Side:フェンナ、発令所>
「・・・・・嘘・・・・・」
一番被害が大きかったのは、素戔嗚の正面に陣取っていたコバルト小隊射撃部隊だった
その次が、側面から挟撃していたグレン小隊・コバルト小隊格闘部隊と、暁闇・煉獄小隊
背面に展開していたフライト小隊はほとんど被害を受けてはいない
鬼眼光
素戔嗚の両肩にマウントされている光学兵器
この基地のメインジェネレーターと接続された状態での最大出力砲撃に、本土のカシュー平野は焼き払われた
先程の射撃はそれほどの威力では無かった
しかし、直撃を許したPFを蒸発させる程度の威力は備えていたらしい
広域に拡散した熱と光の雨は、運の悪い数十機のPFの頭上に降り注いだ
その光景に思わず席を立って、フェンナは歯を食いしばった
オペレーターのモニター上は、一瞬で信号途絶のサインが大写しになり、嫌でも被害の大きさを思い知らせてくる
「まさか、出し惜しみをしていたなんて・・・」
メインジェネレーターを破壊すれば、鬼眼光は使用不能になるかもしれない
“かもしれない”
その言葉を過信していたつもりはなかった。だが現実に素戔嗚は交戦開始から今まで鬼眼光を使ってこなかったのだ
油断していた、のだろう。認めざるを得ない。現実にこの有様だ
先程までの奮戦振りは見る影もなく、誰もが何が起こったのか理解するのに精一杯な様子だった
「グレン小隊、撃墜数6!」
「煉獄小隊被害甚大です!」
「回収班展開!急げ!」
「コバルト小隊大破機21!戦線を維持できません!」
悲鳴の様なやりとりを全身で聞きながら、フェンナは小さな拳を握り締めた
このままでは、負ける
改めてそう実感する。彼我の戦力差は絶大だった
スティールレインの集中砲火も命中している。有効打を与えているようだが、そのスティールレインも甚大な被害を被った
次は彼らにトドメを刺すのだろう。そしてスティールレインの火力が無くなれば、打つ手はほとんど無くなってしまう
どうすれば、
どうすれば、良い?
どうすれば、勝てる?
空転する思考の中で、フェンナは泣きそうになりながら必死に考える
『・・・・・敵対する者達全てに告げる。今ならば愚行を受け入れ、容認しよう』
そんな言葉が耳朶を打ったのは、その時だった
「・・・・・なんで、すって・・・・・?」
呆然と、フェンナは繰り返した
恐らくフェンナだけではないのだろう。戦場にいる全てのPF達が動きを止めている
天上から響く声に聞き入るように、誰もが素戔嗚を見上げて凍り付いたように動けないで居た
『今一度繰り返そう。敵対する者達全てに告げる。今ならば愚行を受け入れ、容認しよう』
初めて聞くベリウムの肉声は、スピーカー越しにしては妙に合成音じみて聞こえた
しかし、声質に注意を払える余裕があった者など一人もいない
彼が一体何を言い出したのか。それを追いかけるので精一杯だった
『私に刃向かった貴卿等の実力、ここで散らしてしまうのはあまりに惜しい。今ならば降伏を認めよう』
「・・・・・シュキちゃん。音声通信繋げられますか?」
フェンナの言葉に、シュキは親指と人差し指で○を作った
震える手でフェンナはマイクを握り、ベリウムに返答を返す
「こちらアルサレア首相、フェンナ・クラウゼンです。応答を願います」
『何用か』
ベリウムからすれば、これ以上無いくらいに意外な相手からの通信だろうに
彼は毫も怯んだ様子を見せず、平坦な言葉を紡ぎ出した
あまりに簡潔な返答に、フェンナの方が鼻白んだ程である
「・・・・・貴方の目的は何ですか」
数瞬迷った挙げ句、フェンナはそう訊ねた
他に聞きようが無かったのだ
「本土の三大国を焼き払うと脅しておいてこの場にいる数百名に降伏を勧告する、貴方の狙いは何なのです?
大陸を己の手中に収めたいのではないのですか?」
『征服欲か。そんな陳腐な欲望ではない』
「?」
ますますわからない
征服は目的ではないというのか?
ならば何故、ベリウムは本土の三大国に「私に降伏せよ」等と言ったのか
困惑する一同を睥睨しながら、ベリウムは淡々と言葉を紡ぐ
『確かに、私はフィアッツァ大陸の掌握を目論んではいる。だが、私の目的はそこではない』
「では、一体・・・・・」
どこか合成音じみた、人間らしさを感じさせない声のまま、ベリウムは熱に浮かされたように語る
俄には信じがたい話を、まるで憑かれたような口調のままに
『本土を、一つにするためだ。
アルサレア・ヴァリム・ミラムーン。この三国はもう数十年も争ってきた。
私は、この三国の枠組みを破壊し、世界を一つに纏め上げる。その後は貴様等の好きにするが良い』
誰もが、その言葉に息を呑んだ
『歪みきったこの世界の形を壊し、正しい在り方にしようとしているだけだ。
平穏なる世界を築く為に、私は今の全てを破壊する』
「平穏な世界を気づく為に・・・今の全てを・・・」
その言葉に、フェンナの心は揺れた
今の戦争が無ければ、彼女は父も姉も失うことが無かったのだから
アルサレアもヴァリムもミラムーンも無ければ、こんな戦争は無かったのだから
だけど・・・・・
<アルサレア勢>
「・・・また、面倒な話になりそうだな。ぉぃ」
暢気にそう言いながらタバコに火を点けていられるような余裕があるのはオスコットしかいない
他の面子を見回せば、どいつもこいつも情けないくらいに唖然とした顔になっていた
いや、ムラキだけは少々違ったようだ
「しっかりしろよ。ここでぼさっとしてたら奴の思う壺だぞ!」
「・・・・・あぁ、そうだな」
ランブルの言葉を皮切りに体勢を整え直すが、誰もがぎこちない動きである
無理も無い
使えないだろう、と思われていた鬼眼光が炸裂した直後のタイミングで降伏勧告である
本気で言っているのなら降伏も悪くない。そんな気さえしてくる
「・・・・・ジータ、聞いてるか」
「・・・・・はい」
「お前は、どうする?」
ムラキの問い掛けに、ジータは言葉を返さなかった
ただ、斬甲刀を構え直しただけだ
その姿に、オスコットが苦虫でも噛み潰したかのような顔でぼやく
「無理に付き合うこたぁ無ぇんだぞ、ルーキー」
「・・・・・これは、僕が付けるべき決着なんです。本当なら、僕だけの戦争なんです。
伍長こそ、無理に付き合わないでください」
「言ってくれんじゃねぇの。やっこさんがオルフェンを焼き払ってもケイトとマリーユが生き残るんならとっとと降参するんだがなぁ」
ぼりぼり頭を掻きながらとんでもないことを言い出すオスコットである
日頃から冗談ばかりを言う彼だが、こと家族が絡めば怖いくらいに真剣である。この発言も心の底から本気であろう
「ま、無理だろうからなぁ。つまりやるしかねぇのさ。付き合わせろよルーキー」
諦めたように笑って、鼻腔から盛大に煙を吹き出すオスコットである
その姿に、ムラキとランブルも得物を構え直した
「伍長がそう言うのなら、お供しましょうか」
「ナメられっぱなしというのは、我慢がならんしな」
ムラキはともかく、ランブルが進んで参戦してくるとは思っていなかった一同である
同期の旧友を頼もしげに見やり、ムラキは笑いかけた
「変わったな、ランブル」
「あぁ・・・・・あいつの、マクドガル中尉の所為だ。
それに、ルーキー。お前達も危なっかしくて黙って見てはいられないからな。手を貸してやる」
「坊主、お嬢。そっちはどうだ!?」
坊主って言うなっ!と噛み付いてくるかと思いきや、マコトは意外に冷静な口調でこう返した
「・・・・・言っとくけどさ、分の悪い賭だよ」
「マコト、みんなそんな事は承知の上よ」
諦めが滲んだ口調でチェンナが呟いた
その言葉を聞き届けると、いきなりマコトは頭を掻きむしりながら、
「・・・・・だよね、そうだよね・・・・・あーもう!!少しは勝算とか打つ手とか考えろってのよ!
みんな揃ってボンクラ揃いか大の男が寄ってたかって!!!あーわかったわよわーったわよやってやろうじゃないの!!!
曹長じゃないけど危なっかしくて見てらんないからね!!!!」
「・・・・・そこまで言う?」
「言うよっ!!どいつもこいつも!意地と根性で戦争ができるんなら苦労は無いってのよ!!
「ま、足掻くだけ足掻いてやろうぜ。もう二進も三進も行かないんだからな」
そう言って通信に割り込んで来たのはキースだ
いつものお調子者の仮面のまま、のほほんとした口調でそう指摘する
もっとも、指摘した内容と彼の心境は同じなようだが
「アイリ、そっちはどうだ?やる気か?」
「あったりまえでしょうが!!こんな奴に好き勝手させないわよ!!」
「先輩の言う通りですっ!」
「そ、そうだそうだっ」
「・・・・・セイバー、ちったぁ自分の言葉って奴を大事にしろよ」
アイリの怒声にサリアが釣られ、サリアがやる気ならセイバーもついてくる
しかし、そろそろ一端の顔になりつつあるセイバーなのだが、自分の意思表示に関してはサリアに依るところが大きい
そんな姿が情けなくもあり、頼りなくもあるのだが、腹を括ればあいつは意外に頑固で、根性が据わっている
「お嬢はどうだ?」
「・・・・・私も、戦いますわ」
据わった眼差しでぎらりと素戔嗚を睨み付け、リンナは静かに断言した
今の全てを破壊する?平穏な世界の為に?
「ナメた台詞をおっしゃってくれますこと・・・その様なことを許すはずが無いでしょうが」
「ぉーぃ、お嬢?何か変だぞキレたのか?」
ぎりり、と奥歯を噛み締め、喉の奥でそう唸る
この戦争があったから、多くの犠牲があった。もう二度と帰って来はしない犠牲がたくさん出た
だからと言って、戦争を終わらせるために、世界を破壊して何になる
何も無くなった世界に何の意味がある
「貴方が生み出すのは平穏ではない。ただの破滅ですわ!」
命を賭けてでも護らなくてはならない。「今」にはそれほどの価値があるのだ
犠牲になって多くの命に作られてきた「今」は、確かに血生臭い「過去」があった
だが、その過去を清算したところで、犠牲になったものは元に戻りはしない
それに・・・
「隊長に、まだ私は何も伝えていませんの!貴方なんかに邪魔はさせません!!」
「え、えーと、リンナ?」
「なんですかミカムラ中尉!私はこの任務が終わったら隊長にはっきり言ってやるつもりなんですの!!」
「ず、随分開き直ったのね」
「何でも良いですわ!とにかく、ベリウム・ヴァレリウス!私達は貴方に迎合はしません!!!
<ヴァリム勢>
「ふざけんなてめぇ今更何言ってんだ何のつもりか知らねぇがビビッてんのか掛かって来い!!」
「マイ、ちょっと落ち着きなさい」
妹の頭に冷や水を浴びせながら、ユイは溜息をついた
だが肝心のマイの方はこれっぽっちも平静ではいられないらしい
「落ち着いていられっかよ!!今になって人のやる気を削ぐようなふざけた事言いやがって!!
お前がふっかけてきた喧嘩だろうが!!正々堂々勝負しやがれ!!!」
「・・・・・仕方がないわね」
ユイの頭の中には、全員でベリウムに降伏するという選択肢もあったのだが・・・
それを言うのはやめておいた方が良さそうだ
「暁闇小隊、全機に告ぐ。後退せよ。煉獄小隊も無理に付き合う事はないわ」
「わ、我々を作戦から外すのでありますか!?副隊長!」
「・・・・・えぇ、そうよ」
「待ってくださいキサラギ中尉!貴方達二人だけで対処できる筈がないでしょう!!」
決して、彼女はベルモット達やルキア達のことを足手まといだと思っているわけではない
強いて言えば、「失いたくない」から。である。ベルモット達暁闇小隊の子分共は勿論、
ルキア率いる煉獄小隊の連中も、双子は何となく気に入っていた。無鉄砲さが似ていたからだろうか
「貴方達では戦力にならない。危険だわ」
「ッ!!」
だが、明晰すぎる彼女の頭脳は、いつも冷淡な言葉しか選び出せない
マイまでもが驚いた顔で口を挟んでくるが、それには取り合わずユイは平然とヤミフブキを除装し、白菊之小刀を抜き放った
そんな鬼百合の背中を目にした親衛隊の一同が退くことなどできる筈も無く・・・・・
「副隊長、その命令だけは聞けません!」
「ぉ、おい軍曹!?」
振り返った双子が目にしたのは、示し合わせたように抜刀する暁闇小隊の子分共だった
煉獄小隊の連中は成り行きについて行くのがやっとの様子である
内心の動揺を堪えて、ユイは眉根を寄せてベルモット達に言い放った
「命令が聞こえなかったの?私は、後退せよと命令をしたわ」
「命令違反の処分は我々全員覚悟しております!!」
「ならば罰則規定に従い除隊処分とする」
「ユイ!本気で言ってんのか!!?」
「本気よ」
これ以上無いくらいに狼狽した様子のマイが掴み掛かってくるが、ユイは取り合わず冷酷に言葉を刻みつけた
誰よりも自分達を信頼してくれている子分達に、彼らを護る為に、決別の言葉を吐き出した
「暁闇小隊は現時刻を以て解散。隊長には後ほど報告をする」
はっきりと口にされたその宣告に、ベルモット達の表情が一瞬凍ったが、
彼らは抜刀したまま、双子を押しのけるような格好で最前線に向かってゆく
呆然とする双子を無視するような格好で、親衛隊の子分共は黙って素戔嗚と相対した
「・・・・・貴方達は、何を、やっているの!」
「暁闇小隊だけが我々の居場所でありました。そこを失った今、ここを死地と見定めただけのことです」
「馬鹿な事を!命令するわ、今すぐに後退しなさい!さもなければ機体を破壊してでも私は貴方達を止める!」
「戦力にならんなどという事は承知の上さ。でもな副隊長、あんたの弾除けくらいにはなってやれるだろ」
口々に、冷めた眼差しの子分共が、眼差し同様の口調で反論する
ユイは必死で翻意を促すのだが、誰一人として、決して聞き入れようとはしなかった
どうすれば良いのかわからない、そんな風に狼狽しきったユイを諭すように、ベルが言葉を紡いだ
「副隊長、いつか話したように私達は全員、貴女達に惚れた身であります。
投げ打って惜しい物などありはしない、これが最後だというのなら尚更です」
「・・・私は、それでも・・・・・私は・・・・・」
迷い子の様な顔で震えを止めることができないユイ
彼女の計算がこうまで狂ったことはなかったのだろう
創られて初めてパニックに等しい内心を抱えて、彼女はついに本当の気持ちを吐露してしまう
与えられた理性や、計算の枠を超えた、心からの本当の気持ちを
「私は、私は貴方達を、失いたくない・・・決して、死なせたくない・・・」
「・・・・・もう良いだろ、ユイ、あいつらだって同じなんだよ」
「だからと言って!!」
(こいつらを、さ。死なせたくないって言うんだったらよ)
唐突に共感覚で話し掛けてきたマイの言葉に押し黙り、ユイは続きを待った
戦いの場に立てば、狂気に駆り立てられるように奮闘するマイが、こんな風に堅い眼差しをしているのは初めて見た
きっと妹も同じなのだ
万を超える軍勢をも怖れぬ戦闘狂が、初めて怖いと思ったのだ
親しい仲間を、失うことを
(気合、入れていこうぜユイ。アタシだって、絶っっっ対コイツらを死なせない)
その言葉に、ユイはパイロットスーツの袖ででたらめに目元を拭った
初めて流した涙の熱さに戸惑いながら、彼女は己に問うた。もう一戦、やれるのか?と
答えは考えるまでもない、当然の答えだったけれど
「おぅ、おめーら!あいつがウチの姉貴を泣かせたんだ、ベリウムの野郎に女の涙は高くつくってことを教えてやるぞ!!」
グリュウがいれば間違いなくぼやきの一つも漏らしたであろう台詞に、怒号の様な歓声が帰ってくる
ユイが、声の震えを押し殺して告げる
「・・・・・暁闇小隊全機へ、命令を変更する・・・・・“死ぬな、負けるな、生き残れ”以上だ」
火山の噴火の様な返答が帰ってくる
こいつらの為ならば何を失っても惜しくはない、そのつもりだった
だけど、こいつらの為だからと言って失って良いものなど何一つ有りはしなかった
勝って、誰一人欠けることなく生還する。そう決めたのだ
できるかできないかは関係ない。そう決めたからにはやってみせる
「・・・・・全く、こんな時に。ホントに何処で何やってんのよダン!」
あそこまで見せつけられて、自分達だけ逃げることなどできるものか
ルキアも、煉獄小隊の連中も皆同じような心境らしい
決意を込めて、彼らは得物を構え直した
「キサラギ中尉!ここまで来て煉獄小隊を作戦から外すような事は言いはしませんね!」
柳眉をつり上げたルキアの言葉に、驚いた顔を返す双子である
「・・・・・後退の命令に変更は無い。そのつもりでいたけれど・・・・・」
「いーぜルキア、一緒に来いよ。みんな揃ってベリウムの野郎に一泡吹かせてやろうじゃねぇか」
「当然です!」
「ははっ、思ってたよりもずっと根性あるんだな」
「そうでなかったらダンの副官なんて勤まらないんですっ!
煉獄小隊全機へ、暁闇小隊と連携し素戔嗚の撃破にあたる!着いてきなさい!!」
少女達の怒号を皮切りに、侍達は次々と駆けてゆく
<Side・グレンリーダー>
「・・・参ったな。ここに来てやれることが無いなんて」
「全く、面目のない事だ」
ベリウムの降伏勧告を受けて、逆に意気を上げている一団から離れた所にいる、両陣営のエースパイロットのぼやきである
クレスニクも黒夜叉も大破してしまっているのだから仕方がないのだが、何とも歯痒い気分であった
代替機でもあれば駆け付けてやりたいところだが、現状にそんな余裕があったとは思えない
だから、こうして瓦礫だらけの荒野に座り込んで決戦の風景を眺めている二人である
そうしていると、不意に二人の耳に風を切る異音が聞こえてきた
回収部隊が到着したのだろうか、と思って首を巡らせると
緋色のヤシャが至近距離に着地しようとするところだった
「うわっ!!」
咄嗟に身を伏せ、乱暴な着地処理に舞い上がった石つぶてを避ける
もうもうと立ち籠める砂煙の向こうからは、PFの巨躯が身を起こしている気配が伝わってきた
暗殺者
その可能性を考えた瞬間、ヤシャの外部音声がこんな台詞を口にした
『おぃ、グリュウ。生きてんのか?』
「――― 知り合いか!?」
思わず、グリュウが身を横たえている岩陰に向かってそう叫ぶグレンリーダーである
振り返ると、グリュウは何とか半身を起こしているところだった
『へっ、黒夜叉も様ぁ無ぇな。そんな有様かよ』
「・・・・・まぁ、な。それで、お前は何をしに来たのだ。ダン」
土煙に咳き込みながら発する声が、PFの集音マイクにまで届いているとは思えないが、
グリュウの言葉に、紅夜叉のパイロット:ダンは返事をこのように返した
『その様じゃ、もう戦闘は無理だよな。だから、借りるぜ』
そう言って、大破した黒夜叉の機体から、白菊之太刀を拾い上げた
しかし、紅夜叉は零距離格闘戦特化機である。両のマニピュレーターはカイザーナックルに鎧われており、
とても、手持ち兵装を扱えそうには見えない
そんな心配を見透かしたように、ダンは不敵な笑みを浮かべてこう言った
『心配すんなよ。これ以上無いくらいの使い手を知ってるから・・・・・まだ生きてたら、だけどな』
正直に白状すれば、まだダンの眼差しには迷いがあった
手にした白刃を、信じて手渡すことができるのか
一体、自分は誰にこの刃を、信頼して託そうとしているのか
視線を下ろせば、砂埃の中で迷惑そうな顔をしている二人のエースの姿
だが、グリュウは明らかに、不敵な笑みを浮かべてダンを見上げている
成長したな
言葉にはなっていないが、そんな風にその微笑みは語っていた
ダンは嫌そうに顔を歪めて、
『勘違いすんなよ、グリュウ。
俺はアルサレアに気を許す訳じゃねぇんだ。あいつが、ベリウムが裏切ったのを許せないんだよ』
ぶっきらぼうに言い放ったその言葉に、グリュウはしばらく傷の痛みも忘れて笑い出す
突然の事に慌てるグレンリーダーだが、怪我人である筈のグリュウは、
「頑固者めが・・・だが成長したな!行け!行ってベリウムを止めてこい!」
その言葉が聞こえたのか、ダンの乗機:紅夜叉は地を蹴り、機甲の翼を広げて飛び立った
両の拳を握り締め、その鉄拳を裏切り者に振り下ろす為に
「なぁ、アルサレアのエースよ。一つ賭けをしないか?」
「賭け?」
胡乱な眼差しを向けてくるグレンリーダーに、グリュウはにやりと笑って見せ、
「あぁ、あいつ、素戔嗚にトドメを刺すのはアルサレア陣の機か、ヴァリム陣の機か。どちらだと思う」
「・・・・・お前はどちらに賭けるんだ?」
聞くまでもないだろう。そんな微笑を、獰猛な笑みを浮かべてグリュウは地面に転がった
苦笑を浮かべて、グレンリーダーもグリュウに倣い地面に身を横たえる
大文字に手足を伸ばして感じる荒野の感触は、熱く、乾いていた
「双子あたりが有力か?」
「それだけでは無いぞ。先程の若造も私に次ぐ実力者だ。あれでも特務小隊を率いる隊長だぞ」
「ウチだって負けちゃいないぞ、直属部隊の隊長二人を知ってるだろ?あの二人は双子とだって張り合えるんだからな。
それに、コバルト小隊には年季が入ったベテランパイロットも揃ってる。若手の実力だって相当な物だ」
「暁闇小隊の隊員達もナメてくれるな。あいつらこそ百戦錬磨の兵だ。煉獄小隊も勢いがある連中が揃っている」
「甘く見るなよ。こっちにはとっておきの隠し球があるんだ」
「・・・いつまでも隠しておかずに、そろそろ出したらどうなのだ。その隠し球とやらを」
「・・・・・あー、確かにな。そろそろ来てくれると嬉しいんだが・・・」
ごん
荒野に後頭部を預けたまま、グレンリーダーは空を見上げた
目に映るのは青い空と白い雲
嫌になるくらい平和な青空だが、ほんの90°ばかり視線を巡らせれば、大陸の破滅を宣告した化け物がそこにいる
彼はもう一度青空に目を向けた
誰も気付かなかったけれど、空の片隅で何かが光った
<Side:フェンナ>
瞑目していたフェンナが、きっと眼差しを上げた
小さな拳を胸に当て、声の限りに言い放つ
平穏な世界の為に、その言葉には抗いがたい魅力があった。それは本当だ、だけど・・・・
「だけど・・・・・そんな事をして何になると言うのですか!」
『・・・』
「貴方が平穏な世界を臨んでいるのは解りました。それでも、その為にこの世界を、
この世界の“今”の全てを破壊するというのなら、私達は絶対に貴方を止めて見せます!!
世界の破滅を、黙って見過ごすものですか!!」
『・・・・・威勢の良いことだ』
限りない哀れみを込めて、ベリウムは溜息を吐くような口調で呟いた
眼下を見渡せば、拳骨くらいの大きさのPF達が、指先程度の刃渡りの刃を構えている
豆鉄砲同然の火器をかざしてこちらを睨み上げている
絶望などしてやるものか、掛かって来い。そんな雄叫びが聞こえてきそうだった
鼻先で笑い飛ばそうとしたところで、一瞬、ほんの一瞬、ベリウムの思考が揺らいだ
『止められるものならば・・・止めてみせろ!』
揺らいだ思いを振り払い、その怒声を引き金に素戔嗚は再び鬼眼光を放った
本土にまで届いた荷電粒子の奔流は見る影も無いが、だからといって無力な訳では勿論無い
拡散して放たれる光の雨は、次々と友軍機をキルマークに変えてゆき、フェンナ達のいる管制塔の近くにまで飛んでくる
「首相閣下!貴女だけでも避難を!」
「・・・・・それはできません。一国を束ねる者として、私はここで全てを見届けます!」
クランの言葉に気丈な言葉を返すフェンナだが、その顔色は蒼白であった
打つ手が、無いのだ
鬼眼光の最初の放射に、有効打を叩き出せると見られていたスティールレイン砲撃隊が薙ぎ払われた
その有様は壊滅に近く、生き残りから数えた方が早いくらいの有様である
散発的な砲撃を繰り返してはいるが、逆に目を付けられてトドメを食らったりしている
正面に展開していたコバルト小隊も、挟撃を担当していた両翼の部隊も、飛び火を受けて陣列を崩してしまっている
フライト小隊は損害を受けては居ないが有効打を持ち合わせていない。向かっては蹴散らされるばかりだ
最新鋭機であるクレスニクは中破。戦闘の続行は不可能
黒夜叉は機体・パイロット共に重傷であり、こちらも戦闘は不可能だ
「もう・・・駄目なの・・・?」
小さく呟いたその言葉は、誰の耳にも届くことは無かった
「え・・・何これ・・・?」
「何をぼーっとしているの!しっかりしなさい、シュキ!」
手を止めて呆然と独り言を呟くシュキをクランが怒鳴りつけるが、シュキの視線は放心したようにモニタの一点を見続けている
シュキと同じ物を見たクランもまた、焦りの色が濃い顔に怪訝な表情を浮かべた
「これは・・・?高速接近中の物体有り!凄じいスピードです!」
「な、何ですかそれは!」
何ですかと言われてもそれはこっちが聞きたい
だが、広域レーダーには確かにこちらに接近しつつある飛翔体を捉えている
目の錯覚なのではないかと思えるほどの速度で、こちらに迫りつつある
「識別、ありません。所属等詳細は一切不明!この期に及んで何だと言うの!」
珍しく、クランが取り乱した様子で悪態をつく
無理もない。シュキなんぞはベリウムの降伏勧告からこちら、顔面蒼白になって小刻みな震えを抑えることができないでいる
「およそ、8分で作戦空域に突入します!」
<Side:最前線>
目の前で友軍機が踏み潰された
比喩ではない、文字通り、素戔嗚に踏み潰された
アルサレアの機体だったのか、ヴァリムの機体だったのか。どっちだったのかは不明だが射出ポッドは作動していなかった
「この野郎がぁぁっ!!!!!!!」
目の当たりにしたムラキが吼えた
プラズマライフルを撃ちまくるが、厚い装甲を灼くばかりだ
「ムラキ、熱くなりすぎるな!支援砲撃隊は隊列を組み直、ッ!!」
後方に控えていた砲撃隊の部下に向かって怒鳴るように指示を飛ばそうとしていたランブルの舌が凍り付いた
鬼眼光の一撃が数機の機体を飲み込んで蒸発させたからだ
着弾の余波だけで機体が突き倒されそうになるのを堪えながら、ランブルは歯を食いしばった
0.3秒で弾道計算を終えトリガーを握り潰す。成形炸薬が派手な火の華を咲かせるがこれもそれだけだ
組織だった攻撃をしていた段階ではそれなりに有効な攻撃だった射撃部隊の牽制も、壊乱した状態では何の意味も無い
「だったらこいつでどぉだぁっ!!!」
オスコット機、ゲイボルグが跳躍
バスターランチャーを投げ捨てて、重量級の機体が弾丸のように宙を駆けた
狙点は膝関節、装甲の隙間。インブレイクスピアを両手で握り締めた全力突撃
スピアの穂先が装甲を食い破る。しかし手応えは浅い
オスコットがマインディスペンサーのトリガーを引いた。弾倉内に装填されていた残り全ての爆薬が押し込まれる
爆発
快哉を口にしようとしたオスコットだが、爆炎を切り裂いて襲い掛かった素戔嗚の蹴打に、ゲイボルグはボールのように蹴り飛ばされた
「のわあぁぁぁっ!!!」
受け身もへったくれも無い有様でゲイボルグは背中から官舎にぶち当たり、瓦礫と粉煙に飲み込まれるように消えてゆく
思わずそれを目で追った一同が振り返った瞬間には素戔嗚は容赦無く追い打ちに入っている
斬岩刀が振るわれる。丸めた雑誌でゴキブリを叩き潰そうとするような無造作な一閃
落ちてくる巨大な鉄塊から必死に逃げるが、穿たれた地面から飛び散る瓦礫は避けきれない
PFの胴体程もあるようなアスファルトの塊を身に受けた数機の機体が突き倒された
行動不能になった者達を素戔嗚は容赦無く踏み潰そうとする
「くっそ!大概にしやがれ!!」
斬岩刀の一撃を避け、瓦礫の破片を叩き落とした修羅姫が振り下ろされた鉄板を足場に跳躍
悪態と共にマイは肉薄し、肩に担いだ複合式戦鎌:死人鎌を、畑に鍬でも打ち込む様な勢いで素戔嗚の右手に叩き込んだ
親指の付け根あたりの装甲を食い破った刃先を捻って、更に傷口を掘り返そうとするが、それよりも早く自律兵器が取り囲んでいる
「やらせない!」
ユイの援護。雀蜂の結界は修羅姫を取り囲むレーザーネットを更に取り囲み、投げ撃たれる四十八の苦無は全てのビットを爆炎に変えた
小癪な
喋りはしない存在だが、口以上に物を言う素戔嗚の視線が鬼百合を鬼の視線で睨み下ろした
足場無き中空にあって、鬼百合は信じがたい身ごなしを見せた。拡散する鬼眼光の放射を踊るように避ける
「このっ、これでもくらえぇっ!!!」
ストラングルが吶喊
スライプニルが長大な推進炎を吐き出し、打ち上げられるロケットのように宙を駆けた
狙いは顎。推進力を存分に乗せた渾身のアッパーカット
「どぉりゃぁぁぁぁっ!!!!」
満身の力を余すことなく振り絞った一撃は見事に素戔嗚の下顎にぶち当たり、恐るべき事に全長650mの巨体を僅かに仰け反らせた
だが、それだけだ
力一杯殴りつけたは良かったのだが、衝撃に耐えきれなかった右腕が肩部接合部から千切れ飛ぶ
バランスを崩したところに、仰け反っていた素戔嗚が、叩き落とすような頭突きをストラングルに見舞った
頭部だけで、PFの全高に匹敵するくらいのスケールの差がある相手である
直撃を避ける。それだけで精一杯だった
辛くも残った隻腕を胸に巻き付けるように回して頭突きを受け、スライプニルを斜めに噴射して斜面を転がるように避けることができた
避けた、と言えば聞こえは良いが実際の所満身創痍に変わりはない。動ける方が不思議だ
機体然り、パイロット然り
「おぃこらアイリ!!返事しろ生きてんのか!!?」
「・・・っさいわね生きてるわよ。口ん中切ったが痛いのよ喋らせるんじゃないわよ」
怒鳴るような勢いで安否を問うキースに、唸るような口調でアイリは言い返した
オスコットの二の舞にならなかっただけ御の字と言えるが、やはりこいつは強い。強いなんてもんじゃない
「無闇に攻めても、通用する手段なんて無いってか・・・」
「だからって、何もしないわけにいかないでしょうっ!!!」
「わーってるよ!だからって突っ込んで死にに行くような真似はするんじゃねぇっ!!!」
アイリとキースの怒鳴り合いが交錯する間にも、素戔嗚は動いている
地擦りの斬撃に立ち竦んでいた友軍機が吹っ飛ばされた
離れていた者達も同時に襲い掛かる瓦礫の嵐にも突き倒され、跳ね起きるのが数瞬遅ければ素戔嗚の足捌きに巻き込まれる
最早、これは戦闘とさえ呼べない。強いて言うならばデモンストレーションか
抵抗できる要素など、無いのだ
攻撃が通用しないわけではない。しかし鬼眼光の広域射撃と斬岩刀に接近は阻まれ、
仮に取り付くことに成功したとしてもその装甲は生半な攻撃では貫くことができない
ミサイルやレーザーネットは、そろそろ弾切れが近いのかあまり撃ってこなくなったが、その分肉弾攻撃が激しくなった
「うあぁっ!!!?」
「マコト!!」
瓦礫に足を取られたラプソディが素戔嗚に蹴り飛ばされた
踏み潰された訳ではないが、“くるぶし”の辺りに引っ掛けられたマコト機は錐揉みに回転しながら吹っ飛ばされ、
半壊していた倉庫に突っ込んで完膚無きまでに全壊させた
「おのれぇぇぇっ!!!!!!」
「マーロウ少尉、よせッ!!!」
ランブルが制止の言葉を投げかけたが、沸点に達したチェンナの脳は完全にそれを無視して飛び掛かる
管制塔を輪切りに切り崩しながら振るわれる斬岩刀の横撃をかいくぐり、崩れゆく壁面を足場に軌道を変えた跳躍
稲妻の様な動きで素戔嗚の懐に潜り込む
素戔嗚の懐は、全長僅か10m程のPFからすれば随分と深い
その深い懐に潜り込めば、斬岩刀も鬼眼光もミサイルもレーザーネットも、怖くはない
淡い期待を抱く一同だったが、その期待は木っ端微塵に打ち砕かれた
『巨大である』ということはそれだけで驚異なのである
素戔嗚は武器を振るわない、振るえない
懐には、掌ほどの大きさの敵機が一つ。対処は短く、簡単なものだった
軽く、ブースターを噴かしたのである
ごく短距離、一歩分ほどの距離に推進剤を費やせば良い
それだけで良い
チェンナの駆るシルフィードは打撃モーションに入ったままの、両手に戦斧を振りかぶったままの格好で胸板に叩きつけられる
どこを庇う余裕もない無防備な格好のまま、全速力で壁にぶち当たった様なものである
フルブーストで飛び掛かった速度がそのまま凶器となって跳ね返り、シルフィードを圧殺した
半身を潰した、スクラップ同然のPFが素戔嗚の胸からぽろりと落ちてゆく
容赦無く、素戔嗚はそれを踏み潰そうと片足を持ち上げる
「させん!!」
「ランブル!・・・えぇぃ、間に合わせろよ!!」
全兵装をパージしたランブル機:ディンゴが低い姿勢で素戔嗚の足下に滑り込もうとしていた
制止の声を上げようとしたムラキだが、プラズマライフルを構えて支援に入る
ランブルは、チェンナを見捨てることができなかった。ムラキも仲間を助けることを選んだ
結果として、ディンゴはぎりぎりのところで半身を潰したシルフィードの回収に成功した。が、
直後、素戔嗚の足がアスファルトを踏み潰し、飛び散った瓦礫の飛沫にディンゴとゼファーは為す術もなく突き倒された
「ムラキ少尉!」
「クリスティーン曹長!」
ジータとリンナが口々に名前を叫ぶが、返答を返す者は居ない
誰も、射出ポッドで脱出はしていない。ポッドごと潰される程の損傷を受けた機はいない筈だが、
コクピットの中がどんな有様になっていたのかは知る由もなく、考えたくも無い
『私が、破滅をもたらすだけだと?
破壊は何も生まないだと!?貴様等の様な存在こそがこの戦乱を続けさせているのだろうがッ!!』
不意に、天上から響いたのはベリウムの声だ
最前の合成音じみた無機質な声音とは違い、灼けた鉄のような熱気を孕んだ激しい口調で、
彼は抵抗する者全てを糾弾した
『決着のつかぬ戦を今日まで続けたのが貴様達、アルサレアと、ヴァリムだ!!
国土を荒らし命を散らしそれで尚戦い続けるのは何の為だ!!戦乱の果てに貴様等が見出す物は何だ!!』
「軍曹、逃げなさい!!」
「お二人を見捨てて親衛隊なんぞと名乗ることができる筈が無、うおあぁっ!!!!!」
双子の目の前で、暁闇小隊の子分共が蹂躙された
白刃がへし折れても立ち向かう勇気を手放さなかった親衛隊は、襲い掛かる瓦礫の奔流を食い止める盾として踏み止まっていた
激情に憑かれた双子が吼える
死力を尽くして奮戦するが、たった二機では素戔嗚を押さえ込むことなど叶うはずがない
『貴様等も、私と同じだ、死と破壊を撒き散らし破滅をもたらすだけだ!!
もう、終わらせる。私が全ての幕を引く!!国家など無くなってしまえ、こんな星など、砕けてしまえ!!』
「馬鹿、とっとと逃げ、のわぁぁぁっ!!!?」
「キース!!」
「エルヴィン中尉ーっ!!!」
満身創痍のストラングルの、のろまな回避機動をフォローしたフルブレットが攻撃に巻き込まれた
大地に食い込んだ斬岩刀が振り上げられ、その拍子に巻き上がった瓦礫に背中を打たれていた
ゲイボルグよろしく、フルブレットもボールのように宙を舞い、ストラングルの頭上を飛び越えて官舎2棟を倒壊させた
誰もが、巻き上げられる瓦礫と粉塵に視界を奪われる中で、それらを怖れず地を蹴った者がいる
細身の機体、背には機甲の翼、その両手には赤光を灯す長尺の剛竿
照準波が潜む眼光を獰猛に輝かせ、背中の大出力ブースターは流星の如き推進炎の尾を描く
「貴方は、貴方は神様にでもなったつもりですか ――――っ!!!!!!」
ベリウムに届くとは思っていない、それでもリンナは叫ばずにはいられなかったのだ
誰もが無謀だと思い制止の言葉を口にする。だが、ペルフェクシオンは空戦仕様機でリンナにだって意地がある
援護か離脱か、誰もが一瞬迷って二の足を踏む。結果として誰一人の支援も受けず、一散にペルフェクシオンは突撃した
睨み下ろしてくる素戔嗚には、勿論畏怖を感じる
だが、今の彼女を支配しているのは畏怖以上の激情だった
こいつはきっと、本当に世界を滅ぼす。この星を砕いてでも
「参ります、覚悟をなさい!!」
恫喝というよりも、己を鼓舞するための言葉だ
複雑な軌跡を描く空中軌道で鬼眼光の広域射撃を翻弄しながら、ペルフェクシオンは素戔嗚に肉薄
プラズマグレイヴの先端に宿るArガスプラズマの赤光は、フルチャージしても精々2mほどしか延びない
今のようにフルブーストのまま空中高機動を続けている状態では、グレイヴの方にそこまでのエネルギーを回せない
だから、刃渡りは1m程。これでは、素戔嗚の面の皮も貫けまい
今のままでは、である
リンナとて、そんな事は百も承知
降り注ぐ高エネルギーの雨を出鱈目な機動で凌ぎに凌ぎ、リンナはグレイヴを脇に引きつけて斬撃のモーションに入る
瞬間、素戔嗚はチェンナ機:シルフィードを叩き潰した時と同じように体当たりを仕掛ける
言葉は無かった
誰もが信じ難い機動を、リンナはやってのけた。彼女の技量よりも度胸を今は賞賛したい
ペルフェクシオンを押し潰そうと迫ってきたのは素戔嗚の肩口だった
リンナはプラズマグレイヴの剛竿を斜めに構え、彼我の体格差65倍という相手の体当たりを『受け流した』
受け流した、というには無理があったかもしれない。ペルフェクシオンは衝突地点から斜め上方に跳ね上げられ、
その時には、天地逆さまの格好な上、機体のブースターだけではどうしようも無いほどの縦軸回転に見舞われていた
結果として、である。結果として、ペルフェクシオンは素戔嗚のぶちかましを受けてなお行動不能には陥らず、
逆にその体当たりの踏み込み、運動エネルギーを盗んで素戔嗚の死角に潜り込むことに成功した
機体は独楽の様にブン回っている、揺さぶられた脳髄は思考さえままならない
だが、見るまでもなく、考えるまでもなく、自分の狙いはそこにある
ペルフェクシオンの両手は、ひン曲がったグレイヴを握り締めている
機動系、姿勢制御系へのエネルギー供給をカット、ジェネレーターが生み出す全エネルギーをプラズマグレイヴにぶち込んだ
あらゆる物質を切り裂く真紅の斬閃は、目論み通りに、素戔嗚の肩部にマウントされている鬼眼光の基部を斬り飛ばしていた
この後、全力での離脱が成功すれば、完全にリンナの目論み通りになっていたのだが、
眼下の仲間達が上げた声は、快哉だったのだろうか、警句だったのだろうか、彼女の名だったのだろうか
朦朧とした意識の中でリンナは逃げようとする。だが素戔嗚の挙動は絶望的に早い
ペルフェクシオンが平衡を取り戻すよりも早く素戔嗚は振り返り、未だに空中でくるくる回っている敵機を睨み、斬岩刀を振るった
必ず当たる。必ず死ぬ。そんな物理法則でもあるかの様な斬撃
それでも、リンナは逃げようと必死に足掻いた
真横から迫り来る斬撃を、曲がったグレイヴの柄で受け流そうとした。斜めに押さえ込むように、反動で真上に逃げられるように
そんな虫の良い願いを聞いてくれるような神様はいるはずがなかった
斬られた、という感覚は何も無かった。襲い掛かったのは途方も無い衝撃だ
苦痛に呻くリンナには確認できなかったが、この時ペルフェクシオンは右腕と下半身を完全に砕かれていた
素戔嗚が振り切った斬岩刀を振り戻そうとするのが視界の端に見えた
多分、刃による斬撃ではなく、剣の腹で打ち据えようとしているのだろう
(・・・・・せめて、死に顔くらい綺麗でいたかったですわ)
叩き潰されるであろう自分の姿を想像して、リンナはぽつりとそんな事を考える
轟音
もう、自分は死んだのだろうか
聞こえた轟音は、きっと半壊していたペルフェクシオンを叩き潰した音だったのだろう
苦しい、とか
痛い、とか
そんな風には思わなかった
ただ、静かで、酷く静かで
あぁ、やっぱり、死んだのでしょうね
眠りに落ちるように、意識が闇に沈んでいく。きっと覚めない眠りなんだろう。それが死ぬということなんだろう
その眠りへの誘いは抗い難く、闇の抱擁は安らぎさえ感じさせてくる
ただ、叶うなら、せめて、もう一度
『リンナ!!無事か!!!?』
少女を引き込もうとしていた常闇を打ち払ったのは、どこか涙の湿りを感じさせる、聞き慣れた、聞きたかった声だった
○用語(誤)集、順不同
・この用語集とゲーム本編は、ほとんど関係有りません
加えて、想像で書いている部分がほとんどです。あんまり深く考えちゃダメです
ロイナーデ小隊、部隊名
・コミックス版の「機甲兵団J−フェニックス リストワール・ドゥ・パピオン」に於いて、
主人公:パピオンが所属していた部隊。指揮官はロイナーデ・クリスタ少佐
辺境警備を受け持っていた部隊だが、「闘神」と呼ばれる新型GFの運用実験に遭遇、紆余曲折を経てこれを撃破した
コミックスで描かれたこの事件の真相は報告書には書かれていない
ちなみに、「闘神」の一件は前戦役後期に起こった事件であり、コバ小の時点では既に一年近く経過している
事件当時のロイナーデの階級は大尉だった
おじさん
・その一言はグリュウさえ凍り付かせた
ドラム缶、兵器
・オスコット命名の新兵器
中身はリミッタを外したジェネレーターである
スティールレイン支援砲撃隊に支給され、素戔嗚戦の要とされていたが・・・
『鎧徹し』、技
・グリュウが編み出した一撃必殺の技
電磁衝撃波を放つ妖邪刀の刀身にエネルギーをフルチャージしたまま刺突を放つ
衝撃波の槍と刀身が与えるダメージは不動の装甲:ドゥークSをも貫いて見せた
元々はグレンリーダーと雌雄を決する時の為に編み出したものらしい
文字通り、一撃必殺の威力を持ちうるが、妖邪刀の刀身が耐えきれない為に失敗は許されないリスキーな技
ドリルアーム、兵器
・資源採掘用パーツ・・・・・なのだが、ゲーム中ではなかなか強力なタックル系兵器であり、アイリ機の標準装備
本文中では暁闇小隊が装備。マイ曰く「なかなかイケてる」ということらしい
後書き
一年と5ヶ月振りに、まさかの復活を遂げました。T.Kです
2005年は何気に激動の一年間でした・・・
落雷ってのは怖いですね(待て)
さてさてさてさて、何とか思い描いていた通りの結末に向かってくれそうです
コバルト小隊編を締めくくるベリウム戦の現在の状況は
オスコット、ムラキ、ランブル、チェンナ、マコト、キース、暁闇小隊の子分共がリタイア
いや、決して書き分ける手間を省く為では(待て)
ルキアのキャラが薄いのはきっと私の所為じゃありません。多分ダンの所為です
絡みづらいキャラです・・・彼女、双子にすっかり食われてて・・・
次話で、ゲーム:コバルト小隊編で描かれたシナリオは終結の予定です
おまけマップの話はありませんが、少しだけ蛇足を付け足すつもりなので、もう少し続くでしょうね
ラストバトルは、盛大に、華々しく描きたいと思ってます
シードラボパートも決着つけなきゃ・・・
それでは
シオンとリンナの再会って、3年振りくらい?
いえいえ、ほんの一月振りくらいですよ?
・・・・・ごめんなさい、ほんとーにごめんなさい
管理人より
T.KさんよりArea:10をご投稿頂きました!
遂にシオン帰還!
それと、あえてグレンリーダー&グリュウを離脱させた点は良かったです。
次でラストバトル……次回も楽しみにしております。