<同時刻:地上班>
「ぃよっしゃぁぁっ!!!」
基地から立ち上る黒煙を認めた誰かが快哉を上げた
程なくして明滅を始めたエネルギーフィールドに、誰もが興奮を抑えきれない様子で得物を構え直す
「戦闘配置、戦闘配置急げ!」
「前衛は全機突撃!砲撃隊は所定の配置まで全速で移動せよ!!」
そして、完全に無くなったフィールドを踏み越えて、全軍が進撃を始めた
基地にはまだバールやベリウムの私兵団がいた筈だが、今はまだ姿を見せない
好機とばかりに一斉に雪崩れ込むのだが、しかしこうして見上げてみると、改めて思う
「・・・なんて、デカさだよ・・・」
しまいにゃ視界に入りきらない程である
本当に、こんなチャチな兵器でどうにかなるのか。キースは両手で構えたショットガンに目を落とした
装填してあるのはフレシェット・マグナム。サチコ主任謹製の自己鍛造短針散弾。軽量級なら一撃で大破させることもできる弾だ
素戔嗚は通常のPFを基準に物を考えて良いようなスケールではないけれど、関節なんかの装甲が薄い部分に当てれば十分有効な筈だ
自分ではそう考えていたが、こうして見上げてみると、そんな自信も失せてくる
「ビビったのキース!」
即座に、同僚から叱責の声が飛んできた
そのおっかない声音に首を竦ませながらも、キースは言い返す
「あぁ、ちょっとビビった!」
「情けないわね、一番手はもらうわよっ!!!」
ストラングルが地を蹴る。スライプニルをフルブースト
矢の様な勢いで素戔嗚の巨体を目指して突き進んで行
素戔嗚が右手に提げた斬岩刀を振りかぶった
それだけの動作を目の当たりにしただけで、全軍の動きが凍り付く
オーガル・ディラム級の体高にも関わらず、その動きは通常のPFの様に滑らかな動きである
そして無造作に振り上げた斬岩刀、巨大な鉄板を、これまた無造作な動きで振り落とす
別に何かを狙ったわけではないのだろう。事実、直撃を受けたPFは一機も無かった
しかし、刀身の長さが300m近く、身幅で50m。その厚みはPFの肩幅程もある刀である
地面に叩きつけられた刀身は官舎を二棟、倉庫を一棟破壊して、噴煙の様な土煙と膨大な瓦礫を生み出した
こんな物の直撃を受けたなら、文字通り粉砕されるだろう
打つ手はある
何とかできる
そう信じていたのに、その超弩級の衝撃に足下が崩れ去っていく様な感覚さえ感じた
巨体であるが故に、動きの質は鈍重であろう
そう思っていたのは確かだ
しかし、こいつは違う。思っていたよりも遙かに素早い
しかもどんな操縦系統なのか想像も付かないが、動きがとんでもなく精密だ
素戔嗚は無造作な一振りを見せただけだが、剣を扱う者にはその動きの「質」に寒気さえ感じた
剣を縦に振り下ろす。言葉にすれば簡単そうだが、素戔嗚の動きには、僅かな揺らぎや力みさえ無かったのだ
PFの操縦は、操縦桿:ハードウェアによる操作と、IFS:ソフトウェアによる操作に分けられる
挙動の大半はハードウェアで為され、その動きをソフトウェアが個人個人らしい動きに修正するのだが、
人間の動き方と、PFの動き方は勿論違う。重心の関係、装甲の重量、関節の動き方、その他諸々・・・
IFSが幾ら進歩しても、思考がそのままPFの動きに反映されているわけではない
「思い通り」に動く訳ではない。「思った風」に動くだけなのだ。それ故に、PFの挙動には僅かな揺らぎや力みが発生している
グリュウの様な剣術の達人であっても、アイリの様な体術の達人であっても、これは完全に無くすことができない
PFという存在に付きまとう宿命的欠陥である
しかし、素戔嗚は違った
まるで、“こいつがベリウム・ヴァレリウスである”かのような滑らかな動きを見せていた
衝撃冷めやらぬ一同を素戔嗚の追撃が襲う
斬岩刀の派手な一撃は陽動、小物相手にはそれ用の兵装が用意されている
装甲の隙間、至る所から吐き出されるマイクロミサイルが憤進煙の尾を引いて前衛部隊に津波の様に襲い掛かってきた
「ヤッベ、下がれ!!」
それを叫ぶのが精一杯だった
キースは即座にショットガンを手放しマシンガンを両手に構えた
捕捉は容易いが数が多い。こちらの前衛のほぼ全てを押し包む様な勢いのミサイル群である
格闘戦仕様機が慌てて後退し、砲戦仕様機がカバーに入る
中間で迎撃されたミサイルが爆炎と化すが、その数、実に数百発に達していたミサイル群の全てが撃墜できる筈が無く、
炎を割って新たなミサイルが迫ってきた
「こんなものでッ!!」
ジータのグランツが左のアームに装備されている丸盾:ヴィトリアルウェーブを起動させた
ジャミングされたミサイルが数発、踵を返して素戔嗚を襲うが、これは素戔嗚の巨体に取っては本当に豆鉄砲ほどの威力でしかない
射撃や電波兵装でほぼ全てのミサイルに対処し終わった頃、素戔嗚が再び詰め寄ってきた
巨体からは想像も付かないほど優雅な足捌きは怖れている暇も与えてくれない。とにかくキースは指示を叫んだ
「アイリ!サリアちゃんとセイバーで側面に回り込め!正面から俺達で攪乱する!
グレン小隊、格闘戦がイケる奴はアイリに続け!砲戦仕様機は俺の方だ!!」
「りょ、了解!」
キースの言葉に、スライプニルを装備した三機のPFが宙を駆けた
それを見たオスコットも、いつもの余裕綽々な態度を振り捨てて、必死の形相で指示を出す
ジータの抱えるベリウムへの確執が、彼に悲劇を演じさせる・・・そんな危惧を抱いていたのだが、
どうもこいつは、そんなに簡単にやられてくれそうな相手ではない
「お嬢とルーキーもそこに混ざれ!良いか、深入りだけはすんな!」
「は、はいっ!」
グレイヴを握り締めたペルフェクシオンと、雷撃を帯びた斬甲刀を構えるグランツも飛んだ
機甲の翼を打ち振って、先行したグレン小隊の3機を追い駆ける
それを見届けたムラキが胴間声を張り上げる
「よぅし、コバルトの残りは阻止砲戦展開!根性見せろっ!」
「フライト小隊は背面に展開するよ!」
「油断はするなよ」
「あんなもん見せつけられて油断なんかできるわけないでしょうがっ!!行くよチェンナっ!!」
「了解!」
アルサレアのPF達が陣形を組み替えながら展開する
ヴァリム勢のPF達もまた、ユイの指揮の下動き出した
「暁闇小隊はアルサレアと側面挟撃。マイ、頼むわよ」
「りょーかい!行くぜ野郎共!!!」
「煉獄小隊は、暁闇小隊を援護しつつ遊撃に当たれ。サーカム少尉、指揮は任せる」
「了解!煉獄小隊全機は続きなさい!」
修羅姫と紅兎に率いられた二個小隊が素戔嗚を包囲する様に展開する
対してユイは、単機で正面に展開するアルサレア勢に混ざった
「置いてけぼりかぃ?」
キースの軽口には何の返答も返さず、ユイは十文字大手裏剣にコマンドを飛ばした
素戔嗚の次の一手、ゼクルヴ・ゼノンやヘリオスが装備していた物と同じ、レーザーネットと呼ばれる自律兵器をバラ撒いてきたのだ
小型のポッドから放たれるレーザーの一撃一撃の危険性はさほどでもない
特に高機動機であれば簡単にポッドそのものを振り切ることができる
逆に、重量級にとっては勿論のこと、機動力に劣る砲戦仕様機には驚異となる。しかも展開されたポッドは無慮数百発にも及ぶのだ
素戔嗚の正面に陣取っているグレン・コバルトの混成部隊にとっては最悪の一手である
サーリットンでは、シオンが率いていたアームド・メガバスター隊の陣列が一瞬にして瓦解した
その驚異を知っていたマコトやサリアが息を呑み、
「領域展開、排除開始」
ユイの小さな呟きに6枚の大手裏剣が解き放たれた
ブースターに火が入った手裏剣は旋風の様に自軍の周りを駆け巡り、
瞬時に四十八連の苦無と化して、射撃準備位置についてこちらを取り囲んでいたポッドを射抜いてみせた
「自律兵器には私が対処する。攻撃は任せるわ」
感情の片鱗さえ伺わせぬ声音でそれだけ告げ、ユイは新手のポッドに意識を集中させた
四十八連飛苦無:雀蜂の結界。硬目標には効果が薄いが、ミサイルや自律兵器の端末程度、一撃で貫く威力を持ちあわせている
散々苦しめられてきた「双子の悪魔」の片割れからの申し出に、思わず動きが止まるアルサレア陣営の面々だったが、
「よっしゃ、んじゃ頼むわ」
「ご、伍長?!」
オスコットが実にお気楽な口調であっさりと承諾した
ユイはそれに応答を返しはしなかったが、四十八連飛苦無は今も快調にポッドを爆炎に変えている
しかし、憎い仇敵とも言える相手が見せている無防備な背中には、状況を鑑みず良からぬ企みを抱く馬鹿もいるらしい
ひっそりと、鬼百合の背中目掛けて銃口を掲げようとした数機のPFがいたが、
ムラキやランブルが物も言わずに張り倒した
そんな同僚の姿を愉快げに見やり、灰皿代わりの空き缶からまだ長めの吸い殻を探り出したオスコットは、デカイ声で一喝した
「良いかお前等、今はアルサレアもヴァリムも無ぇ!敵はあのデカブツ一機だけだろが!!
それ以外でドンパチなんぞやらかしやがったら問答無用で軍法会議だ!!わーったな!!」
オスコットの怒声の合間にも、ポッドが立て続けに爆散してゆく
護られているのだ
雲霞の如く押し寄せる自律兵器を、一つ残らず、脳が焼き切れそうな程の集中力でコマンドを維持して
それを知った、思い知らされたパイロット達の心根に最早迷いは無い
「コバルト小隊砲撃用意!両翼に展開した部隊を援護する!狙点は四肢に集中せよ!」
ムラキの号令の元、一斉に銃口が掲げられる
何よりも堅牢な「刃の盾」を得たコバルト小隊は、砲撃を開始した
「うおらぁあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
年頃の娘の唇から迸った雄叫びである
四肢の動きを封じるように、素戔嗚の正面に位置するコバルト小隊が砲撃を始め、それに併せて両翼が挟撃
左翼:アルサレアの先陣を切るストラングルが、ガントレットをかざして殴りかかった
これだけの巨体である。「どこをどう殴るのが効果的か」なんてわかりゃしない
だから「とにかく殴る」。それがアイリの方針である
まず目に付いたのは上腕部だった。アイリは何も考えずにぶん殴る
ドガン、と世にも恐ろしい衝突音が鈍く響くが、やはりというか目立ったダメージは与えられていそうにない
「先輩タッチですっ!!!」
唇を噛んだアイリの横をすり抜けて、サリア機:ゾールシカが吶喊
スライプニルの噴射角制御と機体姿勢制御とをOSから強引に奪い取り、無謀なコマンドを機体に突っ込む
見るも恐ろしい殺人的な高機動でゾールシカが素戔嗚の間合いに飛び込み、どデカいハンマーの一撃を叩きつけようとするが、
これは翻った斬岩刀の刀身に防がれた。そのまま大型輸送機の滑走路に使えそうなその刀身を、僅かに凹ませただけに終わる
唇の端を引きつらせたサリアの脳味噌が緊急回避をコマンドした瞬間、斬岩刀を握る巨大なマニピュレーターがジャブを放った
ジャブ、と言えば最も軽い拳撃の種類ではあるが、素戔嗚の拳骨はそれだけでPFの全高に匹敵するほど大きい
裏拳気味に放たれたジャブがゾールシカを襲う
叩きつけたハンマーが跳ね返る反動に逆らわず後退させようとしていたサリアが息を呑み、
「や、やらせるもんかぁっ!!」
微妙に上擦り、裏返った声と共にセイバー機:クラージュが“降ってきた”
ターヴュランスの穂先を重力方向にポイントし、落下ベクトルとスライプニルのフルブーストを合わせたフリーフォール
研ぎ澄まされた先端は狙い違わず素戔嗚のマニピュレーターに炸裂し、予想外に深く突き刺さった
会心の手応えは良いのだが、その代わり深く突き刺さったランスを素早く引き抜くのは難しい
援護を受けながらクラージュはターヴュランスを引き抜いて、セイバーは仲間達に叫んだ
「装甲部分以外は結構脆そうです!マニピュレーターや関節部分は、装甲を貫通できれば内部を破壊できる!」
「でも、アタシの攻撃はあんまり効いてなかったわよ!」
「打撃には強い装甲なんでしょうかぁ・・・」
拳と鉄槌を振るう二人の少女はやや泣きが入りかけている
素戔嗚の装甲材はネオ・ジャポネクル合金。オニやキシンなど、ヴァリム製後期型PFの多くに用いられている装甲材と同じである
同じであるのだが、こいつの装甲はそもそも分厚さが通常のPFの比では無い
頑丈とか堅牢という言葉では表現しきれないほどに、素戔嗚の装甲は単純に「分厚い」
その為、アイリの様な打撃に特化した機体はダメージを与えにくい。装甲ごと内部機構を破壊するのが打撃スタイルの本領だからだ
真逆に、ランスの様な一点突破型の兵器なら、装甲を貫ける可能性がある
ベニヤ板はハンマーで殴ってもなかなか割れないが、釘は軽い力で貫いてゆける
しかし残念なことに、長尺の槍を持っている機体は、強襲部隊の中にはセイバーしか居ない
後はフォースソードやカタールがメインで、あとはクラブだサックだのというところなのである
どうしたものか、とアイリが逡巡していると、
「幾ら装甲が厚かろうと、関係ありませんわ!!ペルフェクシオン、参ります!!」
「続きます!」
「ちょ、リンナ!?ジータも!!?」
機甲の翼で宙を叩きながら、二機のPFがアイリ達を追い越していった
勇敢、を通り越して無謀とさえ思える所行をアイリは止めようとしたが、リンナとジータは耳を貸さない
ペルフェクシオンが先行、後続にグランツ。互いに複雑な軌跡を描く高機動で敵手を攪乱する、アルサレア空戦仕様機のお家芸
「せぃっ!!!」
アイリに比べれば可愛らしい気勢だが、込められた気迫は裂帛のものだ
ペルフェクシオンの繰り出すプラズマグレイヴが赤光の斬閃を描き、素戔嗚の装甲に食い込んだ
どれだけ分厚い装甲板だろうと、Arガスプラズマの奔流には為す術もなく灼き斬られてゆく
クレスニクのエクスカリヴァなら、一撃で腕の半ば辺りまで光刃を徹せたかも知れないが、生憎グレイヴは刃渡りが短い
しかし、それでも装甲を削り取ると言うだけで十分に効果があった
「だぁぁっ!!!」
気合一閃。飛び込んだグランツが装甲の裂け目に斬甲刀を突き立てる
慣性を乗せた刺突撃は装甲を割り、内部機構に達し、ジータはスタンエッジをトリガー
刀身に一瞬纏い付いた超高電圧が「バヂッ!」という耳障りな異音を立てて内部を灼き払う
装甲内部に刃を徹され、更に超高電圧を加えられても素戔嗚の動きは止まらなかったが、腕の動きが確かにぎこちなくなっている
効いているのだ。じわじわと、だろうが
素戔嗚の懐から離脱して来たリンナが、先頭に、庇うように立ちはだかった
「ミカムラ中尉!ここは私達にお任せください!」
「・・・・・こうなったら、リンナ、セイバー!あんた達二人が頼りだからね!」
状況を認識したアイリの判断は迅速だった
「隊の半分、格闘戦仕様機は今すぐ司令部まで後退!過積載でも何でも良いからパイルバンカーとか槍とか拾ってきなさい!
フェンナ、聞いてたでしょ!そっちで何とかできない!?」
ほんの数秒前に決断した事だというのに、フェンナは既に手を打っていた
『今集めてる!輸送機にあるだけ積み込んで飛ばすように手配したから、もう少し頑張って!』
「こっちまで輸送機が飛んできたら撃墜されちゃうかも知れません!どこか適当な所に投下させてくださぁい!」
『わかったわ、基地から西に15kmの地点に投下させます!』
「了解!」
そうしていると、反対側で交戦していたヴァリム勢も武器が合っていない
暁闇小隊の面子の大半は、隊長であるグリュウと同じくカタナを主兵装としている為に、硬目標相手では分が悪い
勿論、並の装甲ならば両断できるほどの業物が揃っているのだが、素戔嗚はあまりにも堅過ぎる
煉獄小隊は、何かにつけて型破りなダンの影響か、てんでバラバラな装備の機体が多い
その為、こちらは暁闇小隊に比べればマシな方だ。高機動力をそのまま武器にするビッグフォーンやアサシンファングがある
パイルバンカー装備の機体も数機、ルキアの紅兎もレーザーカタールでは威力不足と思ったのか、
スイングブレードと呼ばれる新兵器を右手に引っ提げていた
「キサラギ中尉、ここは煉獄小隊が引きつけます!暁闇小隊も一旦後退して兵装の回収に向かってください!」
ルキアの声に、最前線で素戔嗚の装甲に裂傷を刻み付けていた修羅姫が一度距離を取った
死人鎌の切れ味ならば、何とか装甲を貫くことができる
ベクトルが「貫通」ではなく「切断」である為に効率は悪いが、じわじわ効いてくるだろう
しかし、暁闇小隊の子分はそうはいかないのだ
ジータが繰り出したような力任せな刺突撃は、腕の善し悪し以前にカタナの様な細身の刃には向いていない
「・・・軍曹、聞いたな!一旦下がってから応援に来い!アタシはここで踏み止まる!!」
自律兵器を避け、ミサイルで踊り、斬岩刀の横撃をせせら笑いながらマイはベルモットに叫んだ
一瞬、親衛隊の面々に苦渋の色が浮かんだが、それも本当に一瞬のこと
「了解ッ!」
「頼むぜ、あんまり待たせんなよ!!」
マイのそんな一言を背に受け、蹴り飛ばされたように暁闇小隊の子分共は疾駆した
が、その疾走は5秒と続かなかった
暁闇小隊の全員のコクピットに、いきなりシュキの顔が大写しになってこう怒鳴ったからだ
『すとーーーーっぷ、すとっぷすとっぷ!!!』
「な、何だいきなり!?」
『待って待って!あなた達だったらこの基地の区画番号とか詳しいよね、L区画の22番格納庫に行って!』
「はぁ?」
愛しの副隊長にとっとと行ってこいという言葉を掛けられたばかりだというのに、何を言ってるんだこの小娘は
そんな内心の思惑を隠そうともしない子分共だが、シュキは構わず言葉を続ける
『そこに、資材採掘用パーツを装備したPFが格納されてるらしいのよ!ブン取ってくれば使えるかもしれない!』
「お、そいつはイケるんじゃねぇのか!?軍曹、命令は変更だ!使えそうな物はあるったけかっぱらって来い!」
「副隊長、しかし、我々は格納庫を開けるパスを持っていません。緊急時の為、格納庫は閉鎖されています!」
『もう“開けてある”から急いで!』
シュキの言った言葉の内容を、正しく理解できた者はその瞬間はいなかったが、
この、リベル本島司令部の電子障壁をくぐり抜けてメインジェネレーターにハッキングを仕掛けた化け物が誰だったか
それを思い出した一同は揃って頷き、踵を返した
「副隊長!ご無理はなさらぬよう!」
「おめーらこそ、できるだけ急げよ!」
「30秒で戻ってきます!」
幾ら何でもそりゃ無理だろ。とマイが内心で思っていたら、
暁闇小隊の子分共はまるでテレポートでもしたかのように消え失せている
死人鎌を握り直してマイは素戔嗚に向き直った
彼我の体格差は最早笑いが出てくるくらいに差があるが、それでも不思議と負けるような気はしない
死ぬかも知れない。とは思うが、負けるかも知れない。とは思えない
「うし、んじゃ行くぜルキア!アタシが引きつける。煉獄小隊はアタックだ!」
「了解!煉獄小隊前衛各機は突撃せよ、後衛は支援に集中!」
ダン・ロンシュタットを頭とする煉獄小隊の気性は、暁闇小隊よりも激しい
その気性の荒い小隊長殿は不在だが、その子分共は二人の少女からの檄に、応、と返事を返し、
突撃する修羅姫に続いて次々に素戔嗚の巨体に取り付いてゆく
「フライト小隊、話は聞いたわね!挟撃部隊の体勢が整うまでは私達も一歩も退くなっ!」
「小隊各機はツーマンセルを原則!防御を重視!攻撃は軽視!陽動と攪乱を主として展開!
ヤッコさんのデカいカタナよりも自律兵器と“足運び”に注意だよっ!」
フライト小隊は、主に射撃兵器を扱う中量級が揃った小隊である
空戦仕様機のように、空中を舞台にして立ち回ることができない
その為、素戔嗚の摺り足に巻き込まれることが一番の驚異であった。なんせ相手は650m級である
足の大きさだって半端ではない。挙動の一つ一つが既に凶器だ
「チェンナ、ちょっと良い?」
「ん、何?言っておくけど私の機体に射撃能力は無いわよ」
「解ってる。その分近接格闘戦は得意でしょ・・・アイツ、カタナを振り下ろす時の姿勢を見て」
マコトにそう言われてチェンナは目を凝らした
彼女の視界の中で、素戔嗚は斬撃を繰り出す。摺り足で一歩踏み出し、重心をやや前に
相手があまりに小さすぎるからだろうか、少々不自然なほど前のめりな格好だ
「あんまり小さい相手だからかしら、やりづらそうね。それで、私は何をすれば良いの?」
「膝カックン、かましちゃって」
「膝カ・・・・・な、何ですって?」
何で、この激戦の最中にそんな小学生の仕掛ける悪戯の名前を聞かなきゃならんのか
チェンナの困惑には取り合わず、マコトは冷静な眼差しで思うところを述べる
「ホントは、サリアっちのハンマーみたいな重い得物がベストなんだけど、チェンナの斧でもイケると思う。
一歩踏み出した時の、後足はほとんど伸びきっちゃってるでしょ?あんだけ前に踏み込んでりゃああなるよね」
「そりゃそうだけど・・・・・」
理屈はわかる。チェンナのシルフィードも重量物を扱う機体なだけにそれはわかる
しかし、言うことにかいて「膝カックン」たぁ何事だ
チェンナの懊悩する様に、マコトは頭上に疑問符を浮かべながらも迅速に指示を出した
「アタシとチェンナが突っ込む!小隊各機、アタシ達には当てんなよっ!!」
マコト機:ラプソディがフルブーストで突撃
単機で突出した途端、自律兵器やミサイルが襲い掛かってくるが、生憎今日のマコピーはキレている
彼女の憧れるアルサレアGSと同型のヘッドフレーム、そのカメラアイがギラリと輝き、
「未じゅーーーーーーーーーく!!!!!!!」
エキスプロードウェーブを最広領域でトリガー
ジャミングを受けたミサイル群が一気に爆散し、自律兵器のポッドを爆炎に巻き込んだ
安心するのも束の間、新手のミサイルが迫り来るが今度はジャマダハル内臓のレーザーピストルが跳ね上がる
両手のカニバサミを縦横無尽に振り回しながら、ラプソディは跳躍。遮る物は何も無い
目標、素戔嗚が斬撃のモーションに入る。その瞬間、彼女は叫んだ
「チェンナ!今!!」
その名の如く、颶風と化したシルフィードがもの凄い勢いでラプソディを追い抜いていった
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
チェンナの獣の唸り声の様な雄叫びと共に、シルフィードは肩に担いだバトルアックスを振りかぶった
推進炎は放物線の様な軌跡を残し、チェンナは狙い澄ました一撃を素戔嗚の膝裏にぶち込む
弱点とはいえ、PFサイズの相手が繰り出した一撃で千切れ飛ぶほど素戔嗚の関節はヤワではない
しかし、斬岩刀を振りかぶった格好にあった素戔嗚は、シルフィードの一撃にバランスを崩し、膝が地を打った
そのまま後ろにひっくり返るか、と思ったがそこまで甘くはない。肩越しにシルフィードとラプソディを睨み付ける
次の瞬間襲い掛かったのは水面蹴りの一撃だ。普通ならばただの足払いだが、素戔嗚が繰り出すと最早竜巻の様な勢いである
直撃は受けなかったが、蹴り潰された建物からPFの頭くらいの瓦礫がドカンドカン吹っ飛んでくるのである
「退避!退避ぃっ!!!」
「マコト!掴まりなさい!」
逃げ足の遅いラプソディをシルフィードが抱えて一目散に後退する
小隊機の方は距離があった為に大した被害は受けていないようだ
「よっし、やっぱり幾らデカくったって構造はPFとおんなじだよね。対策できる!」
「油断は無しよ」
「とーぜん!!」
笑い合うと、ラプソディとシルフィードは再び地を蹴った
相対するは体格差65倍の超大者である。しかしその差は絶対的なものではないことを自分達は証明できたのだ
立ち向かえる。不可能ではない
「フライト小隊!アタシに続けぇっ!!!」
そして彼らは攻勢に移る
各々を率いる小隊長達の姿に引かれるように、後に全軍が続いてゆく
正面に展開しているコバルト小隊は、鬼百合の庇護の下、快調に砲撃を続けていた
並の貫徹弾や強装弾では装甲に埋まるだけで対したダメージは与えられないが、
それでも運良く装甲の隙間に滑り込んだ弾丸がじわじわと内部にダメージを蓄積させている
時折炸裂する巨大な爆炎の華はランブル機:ディンゴの放ったハイ・エクスプルーシヴやパンツァーシュレックの一撃だ
こちらも装甲を煤けさせるばかりだが、その衝撃が四肢の先端に炸裂したとなれば動きを乱すことくらいはできる
ムラキ機:ゼファーのプラズマライフルや、オスコット機:ゲイボルグのバスターランチャーが、
誘導兵器やミサイルの射出口を狙い撃ち、装甲を貫いた荷電粒子の奔流が爆発を呼んでいる
「おっと、危ねぇ」
四十八連の飛苦無が作り出す結界も、絶対ではない。ユイの思考に僅かにできた死角から飛び込んできたミサイルが3発
しかしこれはキースの早撃ちが撃ち落とした
高速貫徹弾を装填したカービンライフルを構えていた筈なのだが、気が付いた時にはサブマシンガンでミサイルを撃墜している
咄嗟に持ち替えたのだろう。とは頭では理解できるのだが・・・・・
「悪いわね」
「なぁに、気にすんなよ。今度やりあう時に手加減してくれりゃそれで良いさ」
妄言は聞き流してユイは結界の維持に集中する
既に30分以上もコマンドに集中しているのだ。流石のユイも集中力の低下を実感していた
素戔嗚は、主に斬岩刀で側面の部隊を牽制し、遠隔攻撃でこちら、正面のコバルト小隊を攻撃してくる
自律兵器に取り囲まれれば、逃げ足の遅い射撃部隊は簡単に壊滅させることができる・・・そんな計算がされているのだろう
全て鬼百合が単独で対処できるのだが、そろそろ限界が近い。それさえもベリウムの計算の内なのかも知れない
「・・・・・まだ、まだよっ!!」
気を抜けば飛びそうになる意識を繋ぎ止める
自分が抜かれればコバルト小隊は壊滅し、これらの攻撃が側面の両部隊に向かってしまう
「自分が対処する」。そう言ったからには、脳の血管が切れまくっても絶対に退かないつもりだった
「砲撃隊、精度が落ちているぞ。しっかり狙え!」
普通に当てるだけならば外しようのない程にデカイ相手なのだが、デカイだけに弱点を狙った精密な照準でなければ効果が無い
ランブルは先程から素戔嗚の動きに合わせて、四肢の狙った的確な砲撃を連発しているのだが、
実を言えばそろそろ残弾数が心許ないことになっている。それは彼の指揮する砲撃隊の子分共も同じだろう
一度、補給に戻るべきだ。「狂犬」だった頃の自分がそう囁く
しかし、彼の口から出たのはこんな台詞だった
「最後の一発を撃ち尽くすまで一歩も退くな!ここが正念場だぞ!!」
おぉ!という鬨の声が返ってくる
任務の犬はもう居ない。そこには、群れを率い、守り、統べる狼の姿があった
「おーおー、ご立派な指揮官っぷりだこと」
「あれが、あいつの本領なんですよ。伍長」
「隊長がお役御免になる日も近そうだなこりゃ」
軽口を叩き合っているのは、ムラキとオスコットだ
どちらも高出力の光学兵器を手に狙撃を担当している
「しっかし、ホントはこういうの苦手なんだよねオジサンは」
オスコットのぼやきに、ムラキはHUDの下で苦笑を浮かべた
狙撃に特化した高出力プラズマライフルを扱うゼファーほどではないが、ゲイボルグの狙撃も見事なものだ
バスターランチャーの照準精度はどちらかと言えば雑な方なのだが、それでもオスコットはしっかり当てている
「謙遜も過ぎると嫌味ですよ。伍長」
「おぃおぃ、こりゃ本当だっての。射撃だのはこれっぱかしも自信が無いんだぜ?」
「シオンが見たら自信を無くしそうな程、見事な腕前です」
その言葉に盛大に吹き出しながら、二人はトリガーを引く
迸る荷電粒子の光槍に、融解した装甲が捲れ上がりながら爆発を起こした
側面に展開したアルサレア勢、グレン小隊+リンナ&ジータも負けてはいない
輸送機が放り落とした予備の武器を拾ってきた仲間が加わり、本格的な攻勢に移っている
「だぁらあああああぁぁぁっ!!!!!」
「うりゃうりゃうりゃぁぁぁぁっ!!!!!!」
アイリとサリアの師弟コンビが繰り出す連続攻撃が、切り裂かれた装甲の隙間を狙って繰り出される
ストラングルは自重が攻撃の全てである為に相性が悪いのか、やや精彩を欠いている様だが、それでもアイリはアイリである
一切、躊躇うこと無く拳撃を繰り出している。そこにゾールシカがハンマーを振り下ろし、装甲を更に砕いてゆく
「セイバー!今度はこっち!」
「わ、わかった。すぐ行く!」
平素からは考えられないほど頼りにされているセイバーだが、その分いつもよりも忙しい
だが、突撃を主眼に設計されたランスと、直線機動力を馬鹿みたいな数値に押し上げるスライプニルの相性は良かったようだ
フルブーストで素戔嗚の攻撃を巧みにかいくぐりながら、速度の乗った突撃騎槍の先端で装甲を大きく穿つ
大穴の空いた装甲の上からアイリとサリアが打撃を加え、内部機構を叩き潰す
機体の膂力に任せた単純な戦法だが、技量の差はこんな場面でも浮き出てくる物だ
「父さん!!父さん!!応えろよ・・・・・畜生!!!」
「・・・・・参ります!」
あらゆるチャンネルで素戔嗚に通信を繋ごうとするジータだが、未だに返答は一言もない
コクピットにできるだけ近寄って、外部音声でまで叫んだのだが、僅かな変化も見出せなかった
リンナはその悲痛な叫びを無理矢理聞き捨てながら、ペルフェクシオンを操りグレイヴを振るう
真紅の光刃が乱舞する度、装甲が灼け落ちてゆき、そこに残甲刀を構えたグランツが突っ込んでくる
刺突と同時に、スタンガンの先端の様な放電光が刀身に纏い付き、内部機構にダメージを与えている
「何でだよ・・・どうしてなんだ!どうして父さんが、こんな、世界を滅ぼすような事をするんだよッ!!!」
子供の頃から、ずっと封じ込めてきた疑問の真実に応えてくれる唯一の相手にようやく会えたというのに、
ベリウムは、ただの一言さえもジータには返そうとはしなかった
「どうして母さんを殺したんだ!!父さんは、一体何をしようとしていたんだ!!応えろよ!!」
ベリウムは何も応えない。ただ、剣の一撃をグランツに見舞う
もう、幾度繰り返したか分からない程に攻撃を繰り返したのだが、今だの素戔嗚の動きは止まらない
鈍くなりつつはあるのだが、止まる気配は一向に見せない
「こっちが苦しいときは相手だって苦しい筈よ!ここが正念場だかんね!!!」
アイリの檄に全員が気合を入れ直した
そう、ここが正念場なのだから
「副隊長!暁闇小隊全機帰還しました!」
「うっし、待ちくたびれたぜ・・・・・って、おぃ、お前等・・・・・」
思わず脱力した言葉を発してしまったマイである
普段はカタナを主兵装とする暁闇小隊の子分共だが、今は採掘用PFからブン取った兵装を装備している
彼女は、資源採掘用の装備というのを詳しく知らなかったのだが、パイルバンカーとかハンマーとかだろうと予想していた
しかし彼女の予想は大きく外れていたのだ。子分共は全員揃って、巨大なドリルを両手に装着している
その姿は、存外に滑稽というか、ぶっちゃけて言うとあまりイケてない
「・・・・・ぷっ」
「わ、笑うほどにおかしいのでありますかぁぁっ!!!!!」
やはり、自分達でも気になっていたらしい
泣きが入りかけたベルモットの顔がおかしくて、戦闘中だというのに、マイはコクピットの中で大笑いを始めた
膝をバシバシ叩きながら目尻に涙まで浮かべるほどの勢いである。それでいて素戔嗚への反応が疎かにならないのだから、
バトルヒューマノイド恐るべし。というところだろう
あっちの方ではあまりの狂態にルキアがおろおろしているが、マイにとってはいらぬ心配か
「副隊長!自分達はそんなにも、そんなにも滑稽なのですかっ!?」
「・・・・・その装備ならば有効打を打ち出せる。硬目標に対しては有用な装備だと思うわ」
通信で泣きつかれたユイが少し困った顔でそう応えるが、親衛隊の面々の表情はまだ曇ったままだ
ひぃひぃ言いながら呼吸を整えていたマイが、共感覚でユイに応える
(そんな言い方じゃ、アイツらには通じないって)
(・・・・・じゃぁ、どう言えば?)
「おめーら!!!」
修羅姫は肩越しに顔だけ子分共の方に向けて、ビシッと左手の親指を立てて見せた
「なかなかイケてるじゃねーか!そのドリル!!」
「し、しかしさっきまで笑「な、ユイもそう思っただろ!」
「え?えぇ、そ、そうね(ほら、あと一押し!)(う、うん)その・・・・・隊長にも負けないくらい、素敵だわ」
言った後で、ちょっと言い過ぎただろうか。と心配になった
そして案の定、その心配は的中した。良い意味で、あくまで良い意味で的中した
ユイの、どこか照れが混じった(様に見えた)その態度と言葉に、親衛隊の愉快な子分共は一人残らずのぼせ上がり、
「副隊長の為ならぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
「「「「「「「えぇぇぇぇぇんやこぉぉぉらぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」」」」」」」
ベルモットの号令(?)一下、一散に突撃して、その螺旋状の溝が切られた錐:ドリルを思い切り突き立てる
岩盤だろうが砕き散らす、頑丈さがウリの採掘用ドリルを突き立てられたのだ
さしもの素戔嗚の装甲もこれには耐えきれず、次々と大穴が穿たれてゆく
「も一つおまけにぃぃぃぃぃぃっ!!!!?」
「「「「「「「えぇぇぇぇぇんやこぉぉぉらぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」」」」」」」
彼らがヴァリム軍秘蔵の特務小隊と言われる暁闇小隊の隊員である。という事を強く述べておきたい
グリュウが見たら頭を抱えるだろうか、彼も隊長ならば率先してここに加わるだろうか
「煉獄小隊前衛機は一旦後退!暁闇小隊と連携せよ!・・・もぅ、こんな時に、ダンは何やってるのよ!」
指示を叫びながらルキアがぼやきを漏らす
グリュウから「参加するな」と言われてはいたが、まさか本当に戦場に姿を見せないつもりなのだろうか
左翼では空戦仕様機が何機か飛び交っており、その中には間違いなく見覚えのある機体があった
グランツ、ジータの機体だ。ベリウム本人が「死んだ」と言った、彼の息子だ
実の親子が敵味方に分かれて刃を突き付けあっているというのはどういう理由があるのだろうか
「ジータ、何が、貴方をそこまで・・・ッ!!」
ボサッとしている暇は無い。突っ込んできた自律兵器をスイングブレードで叩き落とし、
後衛に迫りつつあったミサイル群を総ナメにロックしてハンドMLRSをトリガー。ミサイル同士の接触に爆炎の華が咲く
「ダン・・・・・ホントに何処で、何やってるのよ、あの馬鹿!!」
紅兎の中で、ルキアは誰よりも長く自分の隣を歩いてきた幼馴染みに毒付いた
「起爆いくよっ!逃げ遅れても知らないからね!!」
マコトの声とほぼ同時に、素戔嗚の足下が弾け飛んだ
PFでの直接攻撃の効果が薄いことなど先刻承知だったマコトが用意していた別の手だ
前衛高機動機の全武装を排除させ、あらかじめ用意していた吸着地雷を装備させた決死隊を投入したのだ
本来ならば、戦車の腹に食いつけば跡形も残さず吹っ飛ばせるような地雷なのだが、
素戔嗚にとってはカンシャク玉が破裂した程度でしかないだろう。それでも、注意を引くことくらいはできる
あわよくば、足下を掬えるかもしれない。その程度の認識だったが、その程度の成果は上がっているようだ
「マコト!地雷のストックがもう少ないわ。決死隊全機での突撃はもう1回が限度よ!」
「OK!もちょっと用意するべきだったね、こりゃ」
チェンナからの通信に悔しげに呟くが、ここまで真っ当な準備をしていたのはフライト小隊だけだ
作戦開始までの短い時間の間に、彼女はアルサレアとヴァリム双方の兵站を飛び回って掻き集めたのである
「よっし、決死隊全機は突撃!これが最後だからって気ぃ抜くなっ!頼むよチェンナ!」
「了解、私に続きなさい!!」
シルフィードの先導に、フライト小隊の決死隊が続いてゆく
小脇に抱えた地雷の爆発では、直接素戔嗚を倒すことは敵わない
だけど、挙動の乱れを誘うことができれば、側面で挟撃している前衛部隊と、正面の射撃隊が有効打を叩き出せる
勝利の為の、この貴重な布石を打つことができるのは、自分達だけなのだ
そんな思いを胸に。決死隊のPFが戦場を駆け抜ける
素戔嗚の降らせるミサイルの雨を潜り抜け、巨体からは想像もできないほどの優雅な足運びに巻き込まれないよう注意を払い、
素戔嗚の足首を狙って地雷を片手にタッチダウンを決めてやる
「OK!全機後退!ほらほら急いで!!」
マコトはそう言って急かすが実際に起爆するのは全機の離脱を確認してからだ
それを知っているチェンナは、自分が一番最初に突っ込むが、逃げるときは一番最後に逃げる
フライト小隊の副隊長として、俊才と呼ばれるが頭の中はまだまだガキンチョの隊長を全力でサポートしてやるのが自分の仕事だ
「今よマコト!!」
「おっけぃ!!!」
二人のぴったりと合った呼吸こそ、フライト小隊を新進気鋭としている原動力なのかも知れない
<アルサレア司令部>
「コバルト小隊、2名脱落!回収班を向かわせます!」
「スティールレイン支援砲撃隊配置完了とのことです!」
「煉獄小隊6機が中破!破損機体は後退中!」
怒号の様な勢いで報告が飛び交うオペレータールームである
アルサレアとヴァリム、両陣営のナビがここに集結している為に、その喧噪は平素の倍以上になっていた
『こちらクレスニク、司令部、聞こえるか!?』
「っ!」
突如聞こえたその声は、フェンナが待ち望んでいたグレンリーダーの声だ
ただ、通信を待つ。そのもどかしさに前戦役の最後を思い出さされて、胸を締め付けられる様な苦しさを感じていたが、
今度は大丈夫だった。ちゃんと無事だった
その事に安堵するあまり涙まで浮かべながら、フェンナは通信を返す
「こ、こちら司令部。フェンナです!ご無事ですか?!」
『あぁ、俺は大丈夫だ・・・ただ、機体がマズイことになった』
その一言に、顔色がさっと変わった
『クレスニクは右腕と左脚部が大破。黒夜叉は頭部全損、内部機構に深刻なダメージがある。
済まない、最後の最後でドジ踏んだ』
最後の最後で爆発の余波に巻き込まれ、姿勢を崩した瞬間足下の瓦礫を避け損ない、転倒してしまったのだ
転倒、とは言う物のそれは「転んだ」なんていうレベルではない
クレスニクは右腕と左脚が大破
右手に握り締めたエクスカリヴァは刀身半ばで砕け、装甲も上腕付近まで完全に捲れ上がり内部機構が火花を散らしている
左脚に至っては膝関節から先が無い。避け損なった瓦礫に引っ掛けてしまい、その際に千切れ飛んだのだ
黒夜叉は、バールとの交戦から損傷は増えていない様に見えるが、
脊椎フレームが歪んでしまい、四肢は健在だが直立歩行さえままならない状態になってしまっている
何より、パイロットであるグリュウ本人がヤバイ状態になっていた
有視界操機をしていた為に、風防の中に飛び込んできたソフトボールサイズの瓦礫に額を痛打し、
慣性中和機構も何もかもクソくらえという危険な状態で、しかもフルブーストのまま転倒してしまったのだ
コクピットから放り出されなかっただけ幸運に恵まれていたと言えるが、あまり慰めにならない状況である
『衛生班を至急寄越してくれ。グリュウが危険だ。外傷は少ない様だが、最悪、脳挫傷か内臓破裂の可能性がある』
「りょ、了解しました、向かわせます!」
<Side・グレンリーダー>
「おい、グリュウ!しっかりしろ!」
脈と自発呼吸はある
まずはそれを確認して、コクピットから体を引き摺り出した
コクピット備え付けの医療キットから蒸留水を探り出し、派手に割れた額の傷にぶっかける
止血スプレーを取り出したところで、こんな物を顔面に吹き付けれるものか。と考え直す
ムース状の泡が固まって患部を覆い殺菌と止血をしてくれる、応急処置にはこれ一本。という便利な代物なのだが、
生憎、顔面の傷には使えない。「万能薬」なんて物はそうそうできないものである
代わりにガーゼを取り出し、折り畳んで押しつけた
そんな程度で頭から出血がそう簡単に止まるとは思えないが、取りあえず包帯をぐるぐる巻きにしてしっかりと締め付けた
「・・・・・・ぬ、ぅ・・・・・」
首筋に垂れ落ちていた血を拭い、センサーフィルムを貼り付けていたところでグリュウが目を覚ました
頭を起こそうとして、傷に激痛が走ったのか、また伏せてしまったけれど
「気が付いたか!」
「むぅ、頭が割れたように痛むな・・・・・くそ、まるで二日酔いだ」
「実際に割れてるんだよ起きようとするな。他に痛むところはないか?」
「・・・・・少々脇腹が痛むが、それ以外はどうという事はない様だ」
センサーフィルムに描き出される脈拍の波形と血圧の数値を睨んで、緊急性は低いとグレンリーダーは判断した
血圧が少々低いが、脈拍は安定している
肋骨にヒビでも入ったのか、やや発熱があるようだがそれも深刻なレベルではない
「薬も色々あるが、素人の手には余る・・・鎮痛剤くらいは使っておくか?」
「いや・・・耐えられる範囲だ。心配するな」
「そうか、衛生班がもうすぐ来る筈だ。それまでは堪えてくれ」
「わかった・・・全く、サマにならん・・・」
小さなぼやきに苦笑を返し、グレンリーダーは戦場に目を向けた
視線の先では、素戔嗚を押し包むように部隊が展開している
戦場の趨勢まではわからないが、蹴散らされている、という印象はない
「あれは、スティールレイン?ギブソンか?」
ふと、視界の隅の方で砲撃姿勢を取る機影に視線を向け、グレンリーダーは怪訝な顔を作った
ギブソン率いるスティールレイン支援砲撃隊の本領は超長距離砲戦である
しかし、今の彼らが展開している地点から素戔嗚までの距離は、半端に「近い」
それに、平素ならば山なりの曲線を描く弾道で砲撃をするために、遮蔽物に隠れるのが常なのだが、今は高台に陣取っている
しばらく様子を見守って、ようやく合点がいった
今回彼らが装備しているのはバスターランチャーとドラム缶:ディスポーサブル・ジェネレーターだった
素戔嗚の巨体にも、その攻撃は通じる。その筈だ
「頼むぞ・・・ギブソン」
豪快な笑いを炸裂させる戦友の姿を脳裏に描きながら、グレンリーダーは小さく祈った
<スティールレイン支援砲撃隊>
「的はあんだけデカいゾィ!!外した奴ぁ飯抜きくらいは覚悟しとけぃっ!!」
豪快に言い放ち、ギブソンはバスターランチャーの砲身を前方に倒した
いつもの実体弾射撃とは勝手が違うが、基本的に直進する光学兵器の方が扱いは簡単だ
バスターランチャーを両手でしっかりと握り締め、両足を大地に踏ん張った
背面にマウントしたドラム缶、リミッターがカットされたジェネレーターは猛然と唸りを上げ始め、
絞り出すようにエネルギーを供給し始めた。機体内ジェネレーターを使うのとは訳が違う
機体維持にエネルギーを割く必要が無い為に、エネルギーを全部砲撃に回せるのだ
下手を打てばジェネレーターが爆発するという危険もあるが、ギブソン自身は、
「むしろ、ぶっ壊せぃ!!!」
と言った。彼自身は間違いなく、本気でそのつもりである
横一列に並んだ子分共の様子を眺めて、ギブソンは顔中を口にして号令を下した
「いくぞ!!!うてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
<素戔嗚・コクピット内>
思ったよりも、やる
それがベリウムが抱いた感想の全てだった
素戔嗚の挙動を目の当たりにして尚、退く様子を見せなかった
誘導・自律兵器がフル稼働しているがそれでもしぶとい。無論、一機も撃破できていないというわけではないが、
味方が吹っ飛ばされようが踏み潰されようが、誰一人、怯える素振りも見せずに向かってくる
だから、思ったよりも、やる。その一言に尽きる
素戔嗚の巨体からすれば、損傷の一つ一つは小さな物なのだが、有り得ないことに装甲を貫いて内部機構にダメージを蓄積させている
許容範囲を超えるダメージは受けていないが、このまま放っておけば事態は深刻になる
とは言え、本当にコイツ等は勝てると思っているのだろうか?
(哀れなものよ・・・)
溜息に近い何かを吐き出し、ベリウムは虫けら程度の大きさでしかないPFを睨み付ける
鬼の眼差しで、睨み付ける
光の奔流が、交錯した
<Side:フェンナ、発令所>
「・・・・・嘘・・・・・」
一番被害が大きかったのは、素戔嗚の正面に陣取っていたコバルト小隊射撃部隊だった
その次が、側面から挟撃していたグレン小隊・コバルト小隊格闘部隊と、暁闇・煉獄小隊
背面に展開していたフライト小隊はほとんど被害を受けてはいない
鬼眼光
素戔嗚の両肩にマウントされている光学兵器
この基地のメインジェネレーターと接続された状態での最大出力砲撃に、本土のカシュー平野は焼き払われた
先程の射撃はそれほどの威力では無かった
しかし、直撃を許したPFを蒸発させる程度の威力は備えていたらしい
広域に拡散した熱と光の雨は、運の悪い数十機のPFの頭上に降り注いだ
その光景に思わず席を立って、フェンナは歯を食いしばった
オペレーターのモニター上は、一瞬で信号途絶のサインが大写しになり、嫌でも被害の大きさを思い知らせてくる
「まさか、出し惜しみをしていたなんて・・・」
メインジェネレーターを破壊すれば、鬼眼光は使用不能になるかもしれない
“かもしれない”
その言葉を過信していたつもりはなかった。だが現実に素戔嗚は交戦開始から今まで鬼眼光を使ってこなかったのだ
油断していた、のだろう。認めざるを得ない。現実にこの有様だ
先程までの奮戦振りは見る影もなく、誰もが何が起こったのか理解するのに精一杯な様子だった
「グレン小隊、撃墜数6!」
「煉獄小隊被害甚大です!」
「回収班展開!急げ!」
「コバルト小隊大破機21!戦線を維持できません!」
悲鳴の様なやりとりを全身で聞きながら、フェンナは小さな拳を握り締めた
このままでは、負ける
改めてそう実感する。彼我の戦力差は絶大だった
スティールレインの集中砲火も命中している。有効打を与えているようだが、そのスティールレインも甚大な被害を被った
次は彼らにトドメを刺すのだろう。そしてスティールレインの火力が無くなれば、打つ手はほとんど無くなってしまう
どうすれば、
どうすれば、良い?
どうすれば、勝てる?
空転する思考の中で、フェンナは泣きそうになりながら必死に考える
『・・・・・敵対する者達全てに告げる。今ならば愚行を受け入れ、容認しよう』
そんな言葉が耳朶を打ったのは、その時だった
「・・・・・なんで、すって・・・・・?」
呆然と、フェンナは繰り返した
恐らくフェンナだけではないのだろう。戦場にいる全てのPF達が動きを止めている
天上から響く声に聞き入るように、誰もが素戔嗚を見上げて凍り付いたように動けないで居た
『今一度繰り返そう。敵対する者達全てに告げる。今ならば愚行を受け入れ、容認しよう』
初めて聞くベリウムの肉声は、スピーカー越しにしては妙に合成音じみて聞こえた
しかし、声質に注意を払える余裕があった者など一人もいない
彼が一体何を言い出したのか。それを追いかけるので精一杯だった
『私に刃向かった貴卿等の実力、ここで散らしてしまうのはあまりに惜しい。今ならば降伏を認めよう』
「・・・・・シュキちゃん。音声通信繋げられますか?」
フェンナの言葉に、シュキは親指と人差し指で○を作った
震える手でフェンナはマイクを握り、ベリウムに返答を返す
「こちらアルサレア首相、フェンナ・クラウゼンです。応答を願います」
『何用か』
ベリウムからすれば、これ以上無いくらいに意外な相手からの通信だろうに
彼は毫も怯んだ様子を見せず、平坦な言葉を紡ぎ出した
あまりに簡潔な返答に、フェンナの方が鼻白んだ程である
「・・・・・貴方の目的は何ですか」
数瞬迷った挙げ句、フェンナはそう訊ねた
他に聞きようが無かったのだ
「本土の三大国を焼き払うと脅しておいてこの場にいる数百名に降伏を勧告する、貴方の狙いは何なのです?
大陸を己の手中に収めたいのではないのですか?」
『征服欲か。そんな陳腐な欲望ではない』
「?」
ますますわからない
征服は目的ではないというのか?
ならば何故、ベリウムは本土の三大国に「私に降伏せよ」等と言ったのか
困惑する一同を睥睨しながら、ベリウムは淡々と言葉を紡ぐ
『確かに、私はフィアッツァ大陸の掌握を目論んではいる。だが、私の目的はそこではない』
「では、一体・・・・・」
どこか合成音じみた、人間らしさを感じさせない声のまま、ベリウムは熱に浮かされたように語る
俄には信じがたい話を、まるで憑かれたような口調のままに
『本土を、一つにするためだ。
アルサレア・ヴァリム・ミラムーン。この三国はもう数十年も争ってきた。
私は、この三国の枠組みを破壊し、世界を一つに纏め上げる。その後は貴様等の好きにするが良い』
誰もが、その言葉に息を呑んだ
『歪みきったこの世界の形を壊し、正しい在り方にしようとしているだけだ。
平穏なる世界を築く為に、私は今の全てを破壊する』
「平穏な世界を気づく為に・・・今の全てを・・・」
その言葉に、フェンナの心は揺れた
今の戦争が無ければ、彼女は父も姉も失うことが無かったのだから
アルサレアもヴァリムもミラムーンも無ければ、こんな戦争は無かったのだから
だけど・・・・・
<アルサレア勢>
「・・・また、面倒な話になりそうだな。ぉぃ」
暢気にそう言いながらタバコに火を点けていられるような余裕があるのはオスコットしかいない
他の面子を見回せば、どいつもこいつも情けないくらいに唖然とした顔になっていた
いや、ムラキだけは少々違ったようだ
「しっかりしろよ。ここでぼさっとしてたら奴の思う壺だぞ!」
「・・・・・あぁ、そうだな」
ランブルの言葉を皮切りに体勢を整え直すが、誰もがぎこちない動きである
無理も無い
使えないだろう、と思われていた鬼眼光が炸裂した直後のタイミングで降伏勧告である
本気で言っているのなら降伏も悪くない。そんな気さえしてくる
「・・・・・ジータ、聞いてるか」
「・・・・・はい」
「お前は、どうする?」
ムラキの問い掛けに、ジータは言葉を返さなかった
ただ、斬甲刀を構え直しただけだ
その姿に、オスコットが苦虫でも噛み潰したかのような顔でぼやく
「無理に付き合うこたぁ無ぇんだぞ、ルーキー」
「・・・・・これは、僕が付けるべき決着なんです。本当なら、僕だけの戦争なんです。
伍長こそ、無理に付き合わないでください」
「言ってくれんじゃねぇの。やっこさんがオルフェンを焼き払ってもケイトとマリーユが生き残るんならとっとと降参するんだがなぁ」
ぼりぼり頭を掻きながらとんでもないことを言い出すオスコットである
日頃から冗談ばかりを言う彼だが、こと家族が絡めば怖いくらいに真剣である。この発言も心の底から本気であろう
「ま、無理だろうからなぁ。つまりやるしかねぇのさ。付き合わせろよルーキー」
諦めたように笑って、鼻腔から盛大に煙を吹き出すオスコットである
その姿に、ムラキとランブルも得物を構え直した
「伍長がそう言うのなら、お供しましょうか」
「ナメられっぱなしというのは、我慢がならんしな」
ムラキはともかく、ランブルが進んで参戦してくるとは思っていなかった一同である
同期の旧友を頼もしげに見やり、ムラキは笑いかけた
「変わったな、ランブル」
「あぁ・・・・・あいつの、マクドガル中尉の所為だ。
それに、ルーキー。お前達も危なっかしくて黙って見てはいられないからな。手を貸してやる」
「坊主、お嬢。そっちはどうだ!?」
坊主って言うなっ!と噛み付いてくるかと思いきや、マコトは意外に冷静な口調でこう返した
「・・・・・言っとくけどさ、分の悪い賭だよ」
「マコト、みんなそんな事は承知の上よ」
諦めが滲んだ口調でチェンナが呟いた
その言葉を聞き届けると、いきなりマコトは頭を掻きむしりながら、
「・・・・・だよね、そうだよね・・・・・あーもう!!少しは勝算とか打つ手とか考えろってのよ!
みんな揃ってボンクラ揃いか大の男が寄ってたかって!!!あーわかったわよわーったわよやってやろうじゃないの!!!
曹長じゃないけど危なっかしくて見てらんないからね!!!!」
「・・・・・そこまで言う?」
「言うよっ!!どいつもこいつも!意地と根性で戦争ができるんなら苦労は無いってのよ!!
「ま、足掻くだけ足掻いてやろうぜ。もう二進も三進も行かないんだからな」
そう言って通信に割り込んで来たのはキースだ
いつものお調子者の仮面のまま、のほほんとした口調でそう指摘する
もっとも、指摘した内容と彼の心境は同じなようだが
「アイリ、そっちはどうだ?やる気か?」
「あったりまえでしょうが!!こんな奴に好き勝手させないわよ!!」
「先輩の言う通りですっ!」
「そ、そうだそうだっ」
「・・・・・セイバー、ちったぁ自分の言葉って奴を大事にしろよ」
アイリの怒声にサリアが釣られ、サリアがやる気ならセイバーもついてくる
しかし、そろそろ一端の顔になりつつあるセイバーなのだが、自分の意思表示に関してはサリアに依るところが大きい
そんな姿が情けなくもあり、頼りなくもあるのだが、腹を括ればあいつは意外に頑固で、根性が据わっている
「お嬢はどうだ?」
「・・・・・私も、戦いますわ」
据わった眼差しでぎらりと素戔嗚を睨み付け、リンナは静かに断言した
今の全てを破壊する?平穏な世界の為に?
「ナメた台詞をおっしゃってくれますこと・・・その様なことを許すはずが無いでしょうが」
「ぉーぃ、お嬢?何か変だぞキレたのか?」
ぎりり、と奥歯を噛み締め、喉の奥でそう唸る
この戦争があったから、多くの犠牲があった。もう二度と帰って来はしない犠牲がたくさん出た
だからと言って、戦争を終わらせるために、世界を破壊して何になる
何も無くなった世界に何の意味がある
「貴方が生み出すのは平穏ではない。ただの破滅ですわ!」
命を賭けてでも護らなくてはならない。「今」にはそれほどの価値があるのだ
犠牲になって多くの命に作られてきた「今」は、確かに血生臭い「過去」があった
だが、その過去を清算したところで、犠牲になったものは元に戻りはしない
それに・・・
「隊長に、まだ私は何も伝えていませんの!貴方なんかに邪魔はさせません!!」
「え、えーと、リンナ?」
「なんですかミカムラ中尉!私はこの任務が終わったら隊長にはっきり言ってやるつもりなんですの!!」
「ず、随分開き直ったのね」
「何でも良いですわ!とにかく、ベリウム・ヴァレリウス!私達は貴方に迎合はしません!!!
<ヴァリム勢>
「ふざけんなてめぇ今更何言ってんだ何のつもりか知らねぇがビビッてんのか掛かって来い!!」
「マイ、ちょっと落ち着きなさい」
妹の頭に冷や水を浴びせながら、ユイは溜息をついた
だが肝心のマイの方はこれっぽっちも平静ではいられないらしい
「落ち着いていられっかよ!!今になって人のやる気を削ぐようなふざけた事言いやがって!!
お前がふっかけてきた喧嘩だろうが!!正々堂々勝負しやがれ!!!」
「・・・・・仕方がないわね」
ユイの頭の中には、全員でベリウムに降伏するという選択肢もあったのだが・・・
それを言うのはやめておいた方が良さそうだ
「暁闇小隊、全機に告ぐ。後退せよ。煉獄小隊も無理に付き合う事はないわ」
「わ、我々を作戦から外すのでありますか!?副隊長!」
「・・・・・えぇ、そうよ」
「待ってくださいキサラギ中尉!貴方達二人だけで対処できる筈がないでしょう!!」
決して、彼女はベルモット達やルキア達のことを足手まといだと思っているわけではない
強いて言えば、「失いたくない」から。である。ベルモット達暁闇小隊の子分共は勿論、
ルキア率いる煉獄小隊の連中も、双子は何となく気に入っていた。無鉄砲さが似ていたからだろうか
「貴方達では戦力にならない。危険だわ」
「ッ!!」
だが、明晰すぎる彼女の頭脳は、いつも冷淡な言葉しか選び出せない
マイまでもが驚いた顔で口を挟んでくるが、それには取り合わずユイは平然とヤミフブキを除装し、白菊之小刀を抜き放った
そんな鬼百合の背中を目にした親衛隊の一同が退くことなどできる筈も無く・・・・・
「副隊長、その命令だけは聞けません!」
「ぉ、おい軍曹!?」
振り返った双子が目にしたのは、示し合わせたように抜刀する暁闇小隊の子分共だった
煉獄小隊の連中は成り行きについて行くのがやっとの様子である
内心の動揺を堪えて、ユイは眉根を寄せてベルモット達に言い放った
「命令が聞こえなかったの?私は、後退せよと命令をしたわ」
「命令違反の処分は我々全員覚悟しております!!」
「ならば罰則規定に従い除隊処分とする」
「ユイ!本気で言ってんのか!!?」
「本気よ」
これ以上無いくらいに狼狽した様子のマイが掴み掛かってくるが、ユイは取り合わず冷酷に言葉を刻みつけた
誰よりも自分達を信頼してくれている子分達に、彼らを護る為に、決別の言葉を吐き出した
「暁闇小隊は現時刻を以て解散。隊長には後ほど報告をする」
はっきりと口にされたその宣告に、ベルモット達の表情が一瞬凍ったが、
彼らは抜刀したまま、双子を押しのけるような格好で最前線に向かってゆく
呆然とする双子を無視するような格好で、親衛隊の子分共は黙って素戔嗚と相対した
「・・・・・貴方達は、何を、やっているの!」
「暁闇小隊だけが我々の居場所でありました。そこを失った今、ここを死地と見定めただけのことです」
「馬鹿な事を!命令するわ、今すぐに後退しなさい!さもなければ機体を破壊してでも私は貴方達を止める!」
「戦力にならんなどという事は承知の上さ。でもな副隊長、あんたの弾除けくらいにはなってやれるだろ」
口々に、冷めた眼差しの子分共が、眼差し同様の口調で反論する
ユイは必死で翻意を促すのだが、誰一人として、決して聞き入れようとはしなかった
どうすれば良いのかわからない、そんな風に狼狽しきったユイを諭すように、ベルが言葉を紡いだ
「副隊長、いつか話したように私達は全員、貴女達に惚れた身であります。
投げ打って惜しい物などありはしない、これが最後だというのなら尚更です」
「・・・私は、それでも・・・・・私は・・・・・」
迷い子の様な顔で震えを止めることができないユイ
彼女の計算がこうまで狂ったことはなかったのだろう
創られて初めてパニックに等しい内心を抱えて、彼女はついに本当の気持ちを吐露してしまう
与えられた理性や、計算の枠を超えた、心からの本当の気持ちを
「私は、私は貴方達を、失いたくない・・・決して、死なせたくない・・・」
「・・・・・もう良いだろ、ユイ、あいつらだって同じなんだよ」
「だからと言って!!」
(こいつらを、さ。死なせたくないって言うんだったらよ)
唐突に共感覚で話し掛けてきたマイの言葉に押し黙り、ユイは続きを待った
戦いの場に立てば、狂気に駆り立てられるように奮闘するマイが、こんな風に堅い眼差しをしているのは初めて見た
きっと妹も同じなのだ
万を超える軍勢をも怖れぬ戦闘狂が、初めて怖いと思ったのだ
親しい仲間を、失うことを
(気合、入れていこうぜユイ。アタシだって、絶っっっ対コイツらを死なせない)
その言葉に、ユイはパイロットスーツの袖ででたらめに目元を拭った
初めて流した涙の熱さに戸惑いながら、彼女は己に問うた。もう一戦、やれるのか?と
答えは考えるまでもない、当然の答えだったけれど
「おぅ、おめーら!あいつがウチの姉貴を泣かせたんだ、ベリウムの野郎に女の涙は高くつくってことを教えてやるぞ!!」
グリュウがいれば間違いなくぼやきの一つも漏らしたであろう台詞に、怒号の様な歓声が帰ってくる
ユイが、声の震えを押し殺して告げる
「・・・・・暁闇小隊全機へ、命令を変更する・・・・・“死ぬな、負けるな、生き残れ”以上だ」
火山の噴火の様な返答が帰ってくる
こいつらの為ならば何を失っても惜しくはない、そのつもりだった
だけど、こいつらの為だからと言って失って良いものなど何一つ有りはしなかった
勝って、誰一人欠けることなく生還する。そう決めたのだ
できるかできないかは関係ない。そう決めたからにはやってみせる
「・・・・・全く、こんな時に。ホントに何処で何やってんのよダン!」
あそこまで見せつけられて、自分達だけ逃げることなどできるものか
ルキアも、煉獄小隊の連中も皆同じような心境らしい
決意を込めて、彼らは得物を構え直した
「キサラギ中尉!ここまで来て煉獄小隊を作戦から外すような事は言いはしませんね!」
柳眉をつり上げたルキアの言葉に、驚いた顔を返す双子である
「・・・・・後退の命令に変更は無い。そのつもりでいたけれど・・・・・」
「いーぜルキア、一緒に来いよ。みんな揃ってベリウムの野郎に一泡吹かせてやろうじゃねぇか」
「当然です!」
「ははっ、思ってたよりもずっと根性あるんだな」
「そうでなかったらダンの副官なんて勤まらないんですっ!
煉獄小隊全機へ、暁闇小隊と連携し素戔嗚の撃破にあたる!着いてきなさい!!」
少女達の怒号を皮切りに、侍達は次々と駆けてゆく
<Side・グレンリーダー>
「・・・参ったな。ここに来てやれることが無いなんて」
「全く、面目のない事だ」
ベリウムの降伏勧告を受けて、逆に意気を上げている一団から離れた所にいる、両陣営のエースパイロットのぼやきである
クレスニクも黒夜叉も大破してしまっているのだから仕方がないのだが、何とも歯痒い気分であった
代替機でもあれば駆け付けてやりたいところだが、現状にそんな余裕があったとは思えない
だから、こうして瓦礫だらけの荒野に座り込んで決戦の風景を眺めている二人である
そうしていると、不意に二人の耳に風を切る異音が聞こえてきた
回収部隊が到着したのだろうか、と思って首を巡らせると
緋色のヤシャが至近距離に着地しようとするところだった
「うわっ!!」
咄嗟に身を伏せ、乱暴な着地処理に舞い上がった石つぶてを避ける
もうもうと立ち籠める砂煙の向こうからは、PFの巨躯が身を起こしている気配が伝わってきた
暗殺者
その可能性を考えた瞬間、ヤシャの外部音声がこんな台詞を口にした
『おぃ、グリュウ。生きてんのか?』
「――― 知り合いか!?」
思わず、グリュウが身を横たえている岩陰に向かってそう叫ぶグレンリーダーである
振り返ると、グリュウは何とか半身を起こしているところだった
『へっ、黒夜叉も様ぁ無ぇな。そんな有様かよ』
「・・・・・まぁ、な。それで、お前は何をしに来たのだ。ダン」
土煙に咳き込みながら発する声が、PFの集音マイクにまで届いているとは思えないが、
グリュウの言葉に、紅夜叉のパイロット:ダンは返事をこのように返した
『その様じゃ、もう戦闘は無理だよな。だから、借りるぜ』
そう言って、大破した黒夜叉の機体から、白菊之太刀を拾い上げた
しかし、紅夜叉は零距離格闘戦特化機である。両のマニピュレーターはカイザーナックルに鎧われており、
とても、手持ち兵装を扱えそうには見えない
そんな心配を見透かしたように、ダンは不敵な笑みを浮かべてこう言った
『心配すんなよ。これ以上無いくらいの使い手を知ってるから・・・・・まだ生きてたら、だけどな』
正直に白状すれば、まだダンの眼差しには迷いがあった
手にした白刃を、信じて手渡すことができるのか
一体、自分は誰にこの刃を、信頼して託そうとしているのか
視線を下ろせば、砂埃の中で迷惑そうな顔をしている二人のエースの姿
だが、グリュウは明らかに、不敵な笑みを浮かべてダンを見上げている
成長したな
言葉にはなっていないが、そんな風にその微笑みは語っていた
ダンは嫌そうに顔を歪めて、
『勘違いすんなよ、グリュウ。
俺はアルサレアに気を許す訳じゃねぇんだ。あいつが、ベリウムが裏切ったのを許せないんだよ』
ぶっきらぼうに言い放ったその言葉に、グリュウはしばらく傷の痛みも忘れて笑い出す
突然の事に慌てるグレンリーダーだが、怪我人である筈のグリュウは、
「頑固者めが・・・だが成長したな!行け!行ってベリウムを止めてこい!」
その言葉が聞こえたのか、ダンの乗機:紅夜叉は地を蹴り、機甲の翼を広げて飛び立った
両の拳を握り締め、その鉄拳を裏切り者に振り下ろす為に
「なぁ、アルサレアのエースよ。一つ賭けをしないか?」
「賭け?」
胡乱な眼差しを向けてくるグレンリーダーに、グリュウはにやりと笑って見せ、
「あぁ、あいつ、素戔嗚にトドメを刺すのはアルサレア陣の機か、ヴァリム陣の機か。どちらだと思う」
「・・・・・お前はどちらに賭けるんだ?」
聞くまでもないだろう。そんな微笑を、獰猛な笑みを浮かべてグリュウは地面に転がった
苦笑を浮かべて、グレンリーダーもグリュウに倣い地面に身を横たえる
大文字に手足を伸ばして感じる荒野の感触は、熱く、乾いていた
「双子あたりが有力か?」
「それだけでは無いぞ。先程の若造も私に次ぐ実力者だ。あれでも特務小隊を率いる隊長だぞ」
「ウチだって負けちゃいないぞ、直属部隊の隊長二人を知ってるだろ?あの二人は双子とだって張り合えるんだからな。
それに、コバルト小隊には年季が入ったベテランパイロットも揃ってる。若手の実力だって相当な物だ」
「暁闇小隊の隊員達もナメてくれるな。あいつらこそ百戦錬磨の兵だ。煉獄小隊も勢いがある連中が揃っている」
「甘く見るなよ。こっちにはとっておきの隠し球があるんだ」
「・・・いつまでも隠しておかずに、そろそろ出したらどうなのだ。その隠し球とやらを」
「・・・・・あー、確かにな。そろそろ来てくれると嬉しいんだが・・・」
ごん
荒野に後頭部を預けたまま、グレンリーダーは空を見上げた
目に映るのは青い空と白い雲
嫌になるくらい平和な青空だが、ほんの90°ばかり視線を巡らせれば、大陸の破滅を宣告した化け物がそこにいる
彼はもう一度青空に目を向けた
誰も気付かなかったけれど、空の片隅で何かが光った
<Side:フェンナ>
瞑目していたフェンナが、きっと眼差しを上げた
小さな拳を胸に当て、声の限りに言い放つ
平穏な世界の為に、その言葉には抗いがたい魅力があった。それは本当だ、だけど・・・・
「だけど・・・・・そんな事をして何になると言うのですか!」
『・・・』
「貴方が平穏な世界を臨んでいるのは解りました。それでも、その為にこの世界を、
この世界の“今”の全てを破壊するというのなら、私達は絶対に貴方を止めて見せます!!
世界の破滅を、黙って見過ごすものですか!!」
『・・・・・威勢の良いことだ』
限りない哀れみを込めて、ベリウムは溜息を吐くような口調で呟いた
眼下を見渡せば、拳骨くらいの大きさのPF達が、指先程度の刃渡りの刃を構えている
豆鉄砲同然の火器をかざしてこちらを睨み上げている
絶望などしてやるものか、掛かって来い。そんな雄叫びが聞こえてきそうだった
鼻先で笑い飛ばそうとしたところで、一瞬、ほんの一瞬、ベリウムの思考が揺らいだ
『止められるものならば・・・止めてみせろ!』
揺らいだ思いを振り払い、その怒声を引き金に素戔嗚は再び鬼眼光を放った
本土にまで届いた荷電粒子の奔流は見る影も無いが、だからといって無力な訳では勿論無い
拡散して放たれる光の雨は、次々と友軍機をキルマークに変えてゆき、フェンナ達のいる管制塔の近くにまで飛んでくる
「首相閣下!貴女だけでも避難を!」
「・・・・・それはできません。一国を束ねる者として、私はここで全てを見届けます!」
クランの言葉に気丈な言葉を返すフェンナだが、その顔色は蒼白であった
打つ手が、無いのだ
鬼眼光の最初の放射に、有効打を叩き出せると見られていたスティールレイン砲撃隊が薙ぎ払われた
その有様は壊滅に近く、生き残りから数えた方が早いくらいの有様である
散発的な砲撃を繰り返してはいるが、逆に目を付けられてトドメを食らったりしている
正面に展開していたコバルト小隊も、挟撃を担当していた両翼の部隊も、飛び火を受けて陣列を崩してしまっている
フライト小隊は損害を受けては居ないが有効打を持ち合わせていない。向かっては蹴散らされるばかりだ
最新鋭機であるクレスニクは中破。戦闘の続行は不可能
黒夜叉は機体・パイロット共に重傷であり、こちらも戦闘は不可能だ
「もう・・・駄目なの・・・?」
小さく呟いたその言葉は、誰の耳にも届くことは無かった
「え・・・何これ・・・?」
「何をぼーっとしているの!しっかりしなさい、シュキ!」
手を止めて呆然と独り言を呟くシュキをクランが怒鳴りつけるが、シュキの視線は放心したようにモニタの一点を見続けている
シュキと同じ物を見たクランもまた、焦りの色が濃い顔に怪訝な表情を浮かべた
「これは・・・?高速接近中の物体有り!凄じいスピードです!」
「な、何ですかそれは!」
何ですかと言われてもそれはこっちが聞きたい
だが、広域レーダーには確かにこちらに接近しつつある飛翔体を捉えている
目の錯覚なのではないかと思えるほどの速度で、こちらに迫りつつある
「識別、ありません。所属等詳細は一切不明!この期に及んで何だと言うの!」
珍しく、クランが取り乱した様子で悪態をつく
無理もない。シュキなんぞはベリウムの降伏勧告からこちら、顔面蒼白になって小刻みな震えを抑えることができないでいる
「およそ、8分で作戦空域に突入します!」
<Side:最前線>
目の前で友軍機が踏み潰された
比喩ではない、文字通り、素戔嗚に踏み潰された
アルサレアの機体だったのか、ヴァリムの機体だったのか。どっちだったのかは不明だが射出ポッドは作動していなかった
「この野郎がぁぁっ!!!!!!!」
目の当たりにしたムラキが吼えた
プラズマライフルを撃ちまくるが、厚い装甲を灼くばかりだ
「ムラキ、熱くなりすぎるな!支援砲撃隊は隊列を組み直、ッ!!」
後方に控えていた砲撃隊の部下に向かって怒鳴るように指示を飛ばそうとしていたランブルの舌が凍り付いた
鬼眼光の一撃が数機の機体を飲み込んで蒸発させたからだ
着弾の余波だけで機体が突き倒されそうになるのを堪えながら、ランブルは歯を食いしばった
0.3秒で弾道計算を終えトリガーを握り潰す。成形炸薬が派手な火の華を咲かせるがこれもそれだけだ
組織だった攻撃をしていた段階ではそれなりに有効な攻撃だった射撃部隊の牽制も、壊乱した状態では何の意味も無い
「だったらこいつでどぉだぁっ!!!」
オスコット機、ゲイボルグが跳躍
バスターランチャーを投げ捨てて、重量級の機体が弾丸のように宙を駆けた
狙点は膝関節、装甲の隙間。インブレイクスピアを両手で握り締めた全力突撃
スピアの穂先が装甲を食い破る。しかし手応えは浅い
オスコットがマインディスペンサーのトリガーを引いた。弾倉内に装填されていた残り全ての爆薬が押し込まれる
爆発
快哉を口にしようとしたオスコットだが、爆炎を切り裂いて襲い掛かった素戔嗚の蹴打に、ゲイボルグはボールのように蹴り飛ばされた
「のわあぁぁぁっ!!!」
受け身もへったくれも無い有様でゲイボルグは背中から官舎にぶち当たり、瓦礫と粉煙に飲み込まれるように消えてゆく
思わずそれを目で追った一同が振り返った瞬間には素戔嗚は容赦無く追い打ちに入っている
斬岩刀が振るわれる。丸めた雑誌でゴキブリを叩き潰そうとするような無造作な一閃
落ちてくる巨大な鉄塊から必死に逃げるが、穿たれた地面から飛び散る瓦礫は避けきれない
PFの胴体程もあるようなアスファルトの塊を身に受けた数機の機体が突き倒された
行動不能になった者達を素戔嗚は容赦無く踏み潰そうとする
「くっそ!大概にしやがれ!!」
斬岩刀の一撃を避け、瓦礫の破片を叩き落とした修羅姫が振り下ろされた鉄板を足場に跳躍
悪態と共にマイは肉薄し、肩に担いだ複合式戦鎌:死人鎌を、畑に鍬でも打ち込む様な勢いで素戔嗚の右手に叩き込んだ
親指の付け根あたりの装甲を食い破った刃先を捻って、更に傷口を掘り返そうとするが、それよりも早く自律兵器が取り囲んでいる
「やらせない!」
ユイの援護。雀蜂の結界は修羅姫を取り囲むレーザーネットを更に取り囲み、投げ撃たれる四十八の苦無は全てのビットを爆炎に変えた
小癪な
喋りはしない存在だが、口以上に物を言う素戔嗚の視線が鬼百合を鬼の視線で睨み下ろした
足場無き中空にあって、鬼百合は信じがたい身ごなしを見せた。拡散する鬼眼光の放射を踊るように避ける
「このっ、これでもくらえぇっ!!!」
ストラングルが吶喊
スライプニルが長大な推進炎を吐き出し、打ち上げられるロケットのように宙を駆けた
狙いは顎。推進力を存分に乗せた渾身のアッパーカット
「どぉりゃぁぁぁぁっ!!!!」
満身の力を余すことなく振り絞った一撃は見事に素戔嗚の下顎にぶち当たり、恐るべき事に全長650mの巨体を僅かに仰け反らせた
だが、それだけだ
力一杯殴りつけたは良かったのだが、衝撃に耐えきれなかった右腕が肩部接合部から千切れ飛ぶ
バランスを崩したところに、仰け反っていた素戔嗚が、叩き落とすような頭突きをストラングルに見舞った
頭部だけで、PFの全高に匹敵するくらいのスケールの差がある相手である
直撃を避ける。それだけで精一杯だった
辛くも残った隻腕を胸に巻き付けるように回して頭突きを受け、スライプニルを斜めに噴射して斜面を転がるように避けることができた
避けた、と言えば聞こえは良いが実際の所満身創痍に変わりはない。動ける方が不思議だ
機体然り、パイロット然り
「おぃこらアイリ!!返事しろ生きてんのか!!?」
「・・・っさいわね生きてるわよ。口ん中切ったが痛いのよ喋らせるんじゃないわよ」
怒鳴るような勢いで安否を問うキースに、唸るような口調でアイリは言い返した
オスコットの二の舞にならなかっただけ御の字と言えるが、やはりこいつは強い。強いなんてもんじゃない
「無闇に攻めても、通用する手段なんて無いってか・・・」
「だからって、何もしないわけにいかないでしょうっ!!!」
「わーってるよ!だからって突っ込んで死にに行くような真似はするんじゃねぇっ!!!」
アイリとキースの怒鳴り合いが交錯する間にも、素戔嗚は動いている
地擦りの斬撃に立ち竦んでいた友軍機が吹っ飛ばされた
離れていた者達も同時に襲い掛かる瓦礫の嵐にも突き倒され、跳ね起きるのが数瞬遅ければ素戔嗚の足捌きに巻き込まれる
最早、これは戦闘とさえ呼べない。強いて言うならばデモンストレーションか
抵抗できる要素など、無いのだ
攻撃が通用しないわけではない。しかし鬼眼光の広域射撃と斬岩刀に接近は阻まれ、
仮に取り付くことに成功したとしてもその装甲は生半な攻撃では貫くことができない
ミサイルやレーザーネットは、そろそろ弾切れが近いのかあまり撃ってこなくなったが、その分肉弾攻撃が激しくなった
「うあぁっ!!!?」
「マコト!!」
瓦礫に足を取られたラプソディが素戔嗚に蹴り飛ばされた
踏み潰された訳ではないが、“くるぶし”の辺りに引っ掛けられたマコト機は錐揉みに回転しながら吹っ飛ばされ、
半壊していた倉庫に突っ込んで完膚無きまでに全壊させた
「おのれぇぇぇっ!!!!!!」
「マーロウ少尉、よせッ!!!」
ランブルが制止の言葉を投げかけたが、沸点に達したチェンナの脳は完全にそれを無視して飛び掛かる
管制塔を輪切りに切り崩しながら振るわれる斬岩刀の横撃をかいくぐり、崩れゆく壁面を足場に軌道を変えた跳躍
稲妻の様な動きで素戔嗚の懐に潜り込む
素戔嗚の懐は、全長僅か10m程のPFからすれば随分と深い
その深い懐に潜り込めば、斬岩刀も鬼眼光もミサイルもレーザーネットも、怖くはない
淡い期待を抱く一同だったが、その期待は木っ端微塵に打ち砕かれた
『巨大である』ということはそれだけで驚異なのである
素戔嗚は武器を振るわない、振るえない
懐には、掌ほどの大きさの敵機が一つ。対処は短く、簡単なものだった
軽く、ブースターを噴かしたのである
ごく短距離、一歩分ほどの距離に推進剤を費やせば良い
それだけで良い
チェンナの駆るシルフィードは打撃モーションに入ったままの、両手に戦斧を振りかぶったままの格好で胸板に叩きつけられる
どこを庇う余裕もない無防備な格好のまま、全速力で壁にぶち当たった様なものである
フルブーストで飛び掛かった速度がそのまま凶器となって跳ね返り、シルフィードを圧殺した
半身を潰した、スクラップ同然のPFが素戔嗚の胸からぽろりと落ちてゆく
容赦無く、素戔嗚はそれを踏み潰そうと片足を持ち上げる
「させん!!」
「ランブル!・・・えぇぃ、間に合わせろよ!!」
全兵装をパージしたランブル機:ディンゴが低い姿勢で素戔嗚の足下に滑り込もうとしていた
制止の声を上げようとしたムラキだが、プラズマライフルを構えて支援に入る
ランブルは、チェンナを見捨てることができなかった。ムラキも仲間を助けることを選んだ
結果として、ディンゴはぎりぎりのところで半身を潰したシルフィードの回収に成功した。が、
直後、素戔嗚の足がアスファルトを踏み潰し、飛び散った瓦礫の飛沫にディンゴとゼファーは為す術もなく突き倒された
「ムラキ少尉!」
「クリスティーン曹長!」
ジータとリンナが口々に名前を叫ぶが、返答を返す者は居ない
誰も、射出ポッドで脱出はしていない。ポッドごと潰される程の損傷を受けた機はいない筈だが、
コクピットの中がどんな有様になっていたのかは知る由もなく、考えたくも無い
『私が、破滅をもたらすだけだと?
破壊は何も生まないだと!?貴様等の様な存在こそがこの戦乱を続けさせているのだろうがッ!!』
不意に、天上から響いたのはベリウムの声だ
最前の合成音じみた無機質な声音とは違い、灼けた鉄のような熱気を孕んだ激しい口調で、
彼は抵抗する者全てを糾弾した
『決着のつかぬ戦を今日まで続けたのが貴様達、アルサレアと、ヴァリムだ!!
国土を荒らし命を散らしそれで尚戦い続けるのは何の為だ!!戦乱の果てに貴様等が見出す物は何だ!!』
「軍曹、逃げなさい!!」
「お二人を見捨てて親衛隊なんぞと名乗ることができる筈が無、うおあぁっ!!!!!」
双子の目の前で、暁闇小隊の子分共が蹂躙された
白刃がへし折れても立ち向かう勇気を手放さなかった親衛隊は、襲い掛かる瓦礫の奔流を食い止める盾として踏み止まっていた
激情に憑かれた双子が吼える
死力を尽くして奮戦するが、たった二機では素戔嗚を押さえ込むことなど叶うはずがない
『貴様等も、私と同じだ、死と破壊を撒き散らし破滅をもたらすだけだ!!
もう、終わらせる。私が全ての幕を引く!!国家など無くなってしまえ、こんな星など、砕けてしまえ!!』
「馬鹿、とっとと逃げ、のわぁぁぁっ!!!?」
「キース!!」
「エルヴィン中尉ーっ!!!」
満身創痍のストラングルの、のろまな回避機動をフォローしたフルブレットが攻撃に巻き込まれた
大地に食い込んだ斬岩刀が振り上げられ、その拍子に巻き上がった瓦礫に背中を打たれていた
ゲイボルグよろしく、フルブレットもボールのように宙を舞い、ストラングルの頭上を飛び越えて官舎2棟を倒壊させた
誰もが、巻き上げられる瓦礫と粉塵に視界を奪われる中で、それらを怖れず地を蹴った者がいる
細身の機体、背には機甲の翼、その両手には赤光を灯す長尺の剛竿
照準波が潜む眼光を獰猛に輝かせ、背中の大出力ブースターは流星の如き推進炎の尾を描く
「貴方は、貴方は神様にでもなったつもりですか ――――っ!!!!!!」
ベリウムに届くとは思っていない、それでもリンナは叫ばずにはいられなかったのだ
誰もが無謀だと思い制止の言葉を口にする。だが、ペルフェクシオンは空戦仕様機でリンナにだって意地がある
援護か離脱か、誰もが一瞬迷って二の足を踏む。結果として誰一人の支援も受けず、一散にペルフェクシオンは突撃した
睨み下ろしてくる素戔嗚には、勿論畏怖を感じる
だが、今の彼女を支配しているのは畏怖以上の激情だった
こいつはきっと、本当に世界を滅ぼす。この星を砕いてでも
「参ります、覚悟をなさい!!」
恫喝というよりも、己を鼓舞するための言葉だ
複雑な軌跡を描く空中軌道で鬼眼光の広域射撃を翻弄しながら、ペルフェクシオンは素戔嗚に肉薄
プラズマグレイヴの先端に宿るArガスプラズマの赤光は、フルチャージしても精々2mほどしか延びない
今のようにフルブーストのまま空中高機動を続けている状態では、グレイヴの方にそこまでのエネルギーを回せない
だから、刃渡りは1m程。これでは、素戔嗚の面の皮も貫けまい
今のままでは、である
リンナとて、そんな事は百も承知
降り注ぐ高エネルギーの雨を出鱈目な機動で凌ぎに凌ぎ、リンナはグレイヴを脇に引きつけて斬撃のモーションに入る
瞬間、素戔嗚はチェンナ機:シルフィードを叩き潰した時と同じように体当たりを仕掛ける
言葉は無かった
誰もが信じ難い機動を、リンナはやってのけた。彼女の技量よりも度胸を今は賞賛したい
ペルフェクシオンを押し潰そうと迫ってきたのは素戔嗚の肩口だった
リンナはプラズマグレイヴの剛竿を斜めに構え、彼我の体格差65倍という相手の体当たりを『受け流した』
受け流した、というには無理があったかもしれない。ペルフェクシオンは衝突地点から斜め上方に跳ね上げられ、
その時には、天地逆さまの格好な上、機体のブースターだけではどうしようも無いほどの縦軸回転に見舞われていた
結果として、である。結果として、ペルフェクシオンは素戔嗚のぶちかましを受けてなお行動不能には陥らず、
逆にその体当たりの踏み込み、運動エネルギーを盗んで素戔嗚の死角に潜り込むことに成功した
機体は独楽の様にブン回っている、揺さぶられた脳髄は思考さえままならない
だが、見るまでもなく、考えるまでもなく、自分の狙いはそこにある
ペルフェクシオンの両手は、ひン曲がったグレイヴを握り締めている
機動系、姿勢制御系へのエネルギー供給をカット、ジェネレーターが生み出す全エネルギーをプラズマグレイヴにぶち込んだ
あらゆる物質を切り裂く真紅の斬閃は、目論み通りに、素戔嗚の肩部にマウントされている鬼眼光の基部を斬り飛ばしていた
この後、全力での離脱が成功すれば、完全にリンナの目論み通りになっていたのだが、
眼下の仲間達が上げた声は、快哉だったのだろうか、警句だったのだろうか、彼女の名だったのだろうか
朦朧とした意識の中でリンナは逃げようとする。だが素戔嗚の挙動は絶望的に早い
ペルフェクシオンが平衡を取り戻すよりも早く素戔嗚は振り返り、未だに空中でくるくる回っている敵機を睨み、斬岩刀を振るった
必ず当たる。必ず死ぬ。そんな物理法則でもあるかの様な斬撃
それでも、リンナは逃げようと必死に足掻いた
真横から迫り来る斬撃を、曲がったグレイヴの柄で受け流そうとした。斜めに押さえ込むように、反動で真上に逃げられるように
そんな虫の良い願いを聞いてくれるような神様はいるはずがなかった
斬られた、という感覚は何も無かった。襲い掛かったのは途方も無い衝撃だ
苦痛に呻くリンナには確認できなかったが、この時ペルフェクシオンは右腕と下半身を完全に砕かれていた
素戔嗚が振り切った斬岩刀を振り戻そうとするのが視界の端に見えた
多分、刃による斬撃ではなく、剣の腹で打ち据えようとしているのだろう
(・・・・・せめて、死に顔くらい綺麗でいたかったですわ)
叩き潰されるであろう自分の姿を想像して、リンナはぽつりとそんな事を考える
轟音
もう、自分は死んだのだろうか
聞こえた轟音は、きっと半壊していたペルフェクシオンを叩き潰した音だったのだろう
苦しい、とか
痛い、とか
そんな風には思わなかった
ただ、静かで、酷く静かで
あぁ、やっぱり、死んだのでしょうね
眠りに落ちるように、意識が闇に沈んでいく。きっと覚めない眠りなんだろう。それが死ぬということなんだろう
その眠りへの誘いは抗い難く、闇の抱擁は安らぎさえ感じさせてくる
ただ、叶うなら、せめて、もう一度
『リンナ!!無事か!!!?』
少女を引き込もうとしていた常闇を打ち払ったのは、どこか涙の湿りを感じさせる、聞き慣れた、聞きたかった声だった
○用語(誤)集、順不同
・この用語集とゲーム本編は、ほとんど関係有りません
加えて、想像で書いている部分がほとんどです。あんまり深く考えちゃダメです
ロイナーデ小隊、部隊名
・コミックス版の「機甲兵団J−フェニックス リストワール・ドゥ・パピオン」に於いて、
主人公:パピオンが所属していた部隊。指揮官はロイナーデ・クリスタ少佐
辺境警備を受け持っていた部隊だが、「闘神」と呼ばれる新型GFの運用実験に遭遇、紆余曲折を経てこれを撃破した
コミックスで描かれたこの事件の真相は報告書には書かれていない
ちなみに、「闘神」の一件は前戦役後期に起こった事件であり、コバ小の時点では既に一年近く経過している
事件当時のロイナーデの階級は大尉だった
おじさん
・その一言はグリュウさえ凍り付かせた
ドラム缶、兵器
・オスコット命名の新兵器
中身はリミッタを外したジェネレーターである
スティールレイン支援砲撃隊に支給され、素戔嗚戦の要とされていたが・・・
『鎧徹し』、技
・グリュウが編み出した一撃必殺の技
電磁衝撃波を放つ妖邪刀の刀身にエネルギーをフルチャージしたまま刺突を放つ
衝撃波の槍と刀身が与えるダメージは不動の装甲:ドゥークSをも貫いて見せた
元々はグレンリーダーと雌雄を決する時の為に編み出したものらしい
文字通り、一撃必殺の威力を持ちうるが、妖邪刀の刀身が耐えきれない為に失敗は許されないリスキーな技
ドリルアーム、兵器
・資源採掘用パーツ・・・・・なのだが、ゲーム中ではなかなか強力なタックル系兵器であり、アイリ機の標準装備
本文中では暁闇小隊が装備。マイ曰く「なかなかイケてる」ということらしい
後書き
一年と5ヶ月振りに、まさかの復活を遂げました。T.Kです
2005年は何気に激動の一年間でした・・・
落雷ってのは怖いですね(待て)
さてさてさてさて、何とか思い描いていた通りの結末に向かってくれそうです
コバルト小隊編を締めくくるベリウム戦の現在の状況は
オスコット、ムラキ、ランブル、チェンナ、マコト、キース、暁闇小隊の子分共がリタイア
いや、決して書き分ける手間を省く為では(待て)
ルキアのキャラが薄いのはきっと私の所為じゃありません。多分ダンの所為です
絡みづらいキャラです・・・彼女、双子にすっかり食われてて・・・
次話で、ゲーム:コバルト小隊編で描かれたシナリオは終結の予定です
おまけマップの話はありませんが、少しだけ蛇足を付け足すつもりなので、もう少し続くでしょうね
ラストバトルは、盛大に、華々しく描きたいと思ってます
シードラボパートも決着つけなきゃ・・・
それでは
シオンとリンナの再会って、3年振りくらい?
いえいえ、ほんの一月振りくらいですよ?
・・・・・ごめんなさい、ほんとーにごめんなさい
管理人より
T.KさんよりArea:10をご投稿頂きました!
遂にシオン帰還!
それと、あえてグレンリーダー&グリュウを離脱させた点は良かったです。
次でラストバトル……次回も楽しみにしております。