※この小説には、PS2ゲーム「機甲兵団J−PHOENIX」および「BT」および「コバルト小隊編」および
「J−2」にはありえない、科学的にも無茶苦茶なオリジナルの設定が数多く用いられています。
 詳しくは、後述の用語(誤)集をお読みください
 先にそっちを読んでもOKですが、できればこのまま読み進めて、用語(誤)集を読んだ上で、
 もう一度読み返していただければ、筆者としては非常に嬉しいです
 しかも、上記に加えてこの辺りから筆者の空想(妄想)の部分が多くなってきます
ぶっちゃけた話、嘘っぱち設定の嵐です。オフィシャル糞喰らえの展開を間違いなく突き進みます
 その点に関しては、間違いなく物言いがつくとは思いますが、ゴールの見え始めた話です
 せめて、終点に辿り着くまでは、できれば批判は無しで、お付き合いください
 ご理解をよろしくお願いします

 以上を踏まえた上で、どうぞ、お楽しみください








 

『なぁ、隊長』

「・・・」

『隊長、ってばよ!!聞いてんのか!!?』

「―――そう怒鳴らずとも聞こえている。どうした」

『何なんだよアイツのあの偉ッそうな態度はよ!!ちょっと階級が上だからってイバってんじゃねぇよったく!!!』

「またか?マイ、それを何度も言うな。ちょっとどころか、四階級も違う上官だぞ」

『いーや言うね言わせてもらうね!態度もそうだけどあの二つ名は何だよ“ヴァリムの猛牛”ってダッッッッッッッセぇよなぁ!?
牛だぜ牛。牛は長閑に牧場にでも引っ込んでろっての!!』

『そう言えば、マイは隊長に初めてお会いした時に何と言ったかしらね・・・・・そう、“黒牛”だったかしら?』

「ふむ、そんな事もあったな。私も長閑な牧場に引っ込むか」

『そんな古ぃ話引っ張り出すなよって言うか何で憶えてるんだよ』

『ですが隊長。私も此度の命令には承伏しかねます。これでは、私達“暁闇”小隊がまるで・・・・・』

「捨て石の様に使われている。か?」

『判っていながら、何故ですか!?サーリットンでは確かに“暁闇”小隊が受けた損害は軽微でした。
だからと言って・・・・・ッ!!』

「・・・・・」

『・・・・・何か、別の思惑でもあんのか?隊長』

「・・・・・腑に、落ちんのだ」

『『何が?』ですか?』

「Gエリアで採掘された資源だが、ほとんどが未だにリベル本島にある。
輸送計画の発動前にアルサレアがGエリアに乗り込んできたとはいえ、それが原因で輸送を遅らせるのは道理に合わん。
むしろ早める方が自然だろう。しかし、現実に本土へ輸送された資源は、初期の段階で発掘された物だけだった。
それに、リベル本島の工場設備は、とても資源精製の為とは思えぬ大規模な物を備えている」

『ベリウム・ヴァレリアスが資源を独占し、何か企んでいる?』

「あぁ、恐らく何か裏があるだろう。だが、それに至る根拠はそれだけでは無い。何だと思う?」

『ベリウムと、軍の掌握を狙う上層部の一派が手を組んでいる。というのはどうでしょう』

「惜しいぞユイ、考えの方向性は悪くない。だがもっと悪い。考えられる限りで最悪の組み合わせだ」

『ベリウムと神佐が密会してたとか?』

「近くなったがそれも違う。先程、ベルモットが裏をとった。キサラギ研究所の連中が動いている」

『キサラギの研究者が・・・・・!?』

「あぁ・・・・・済まない、お前達の前で言うべきではなかった」

『いいえ、お気になさらず』

『遠慮無く見捨てられる、ってもんだよなぁ?』

「・・・・・ともかく。膨大な資源と充実した工廠。それにキサラギ研の研究者だ。必ず何かがある。
ベリウム・ヴァレリアスの企てがヴァリムにとっての利となるならば良し。そうで無かった場合は是正せねばならん」

『その為には、動向を見守る必要がある・・・・・だからこんな命令を受けたのですか?』

「まぁ、アルサレアのエースとの戦いを楽しむのも目的の一つではあるのだがな」

『結局ソコかよ。ったく、いつまで経っても飽きねぇのな』

「日頃、私をしつこく訓練に付き合わせているのは誰だ?マイ。同じ言葉を返すぞ」

『マイ、あなたの負けよ。これに懲りたら少し控えるのね』

『い、良いだろ別に!そ、その・・・・・飽きねぇんだから・・・・・
だ、第一!いっつも「隊長にも参加して貰うべきだ」って言ってんのはそっちだろ!?
何だかんだ言ってユイが行かねぇからあたしがいっつも行ってるんじゃないかよ!!』

『そ、それは!!』

「なんだ。二人揃って私を振り回していたのか?全く・・・・・」

『・・・・・申し訳ありませんでした。以後、自粛します』

『・・・・・悪かったよ・・・・・この通りっ!』

「いや、私も書類仕事ばかりでは気が滅入るしな。それに稽古不足を気遣ってくれるのは助かる。
少し加減してくれると嬉しいが・・・・・まぁ、そう深刻に考えるな。暇な時は遠慮しなくても構わんぞ」

『あ、そうなのか?じゃぁこの作戦が終わったら早速一勝負『マイ、隊長の言った言葉を本当に聞いていたの?』
えっと、遠慮しなくて良いんだろ?『違うわよ』え、違うのか?『違うわ』どして?いーじゃん来て貰えば『だからそうじゃなくて』

「・・・・・そのくらいにしておけ二人とも・・・・・」

 

育て方を間違ったか・・・・・?

 

まるで父親の様な台詞を、彼、グリュウ・アインソード中尉は口の中で噛み殺した












機甲兵団・J−PHOENIX 〜コバルト小隊編〜

Area:09 リベル諸島・南方面 − 淵にて目覚める者












 

<Side:グレン小隊、輸送機内・格納庫>

 

轟くエンジン音と整備機械の作業音に負けないくらいの、半ば以上怒鳴り声の様な指示が飛び交っている

アルサレアには、オーガル・ディラムの様な超弩級の機動空母が無い為に、大所帯での空輸はかなり難儀な事情がある

大型の輸送機をありったけ手配し、各小隊のパイロットと機体を運ぶのだが、その格納スペースでは最終点検に余念がなかった

作戦開始時刻までもう幾らも無い為に、整備工達は全知を振り絞って整備に臨み、

パイロット達も己の愛機の為に油で顔を汚しながら整備の手に加わっている

 

そんな光景とは無縁。とでも言わんばかりに、キース・エルヴィン中尉は暢気にコーヒーなんぞ啜っていた

 

「ふぃ〜」

 

あまつさえ、その褐色の液体がもたらす香味とぬくもりに酔いしれるような溜息さえついている

・・・・・その様に書くと格好良く思えるかも知れないが、実際はコーヒーをずるずる啜っておっさん臭い所作で表情を弛ませている

そうした部分が、“見た目二枚目、中身三枚目”と呼ばれる理由になっている事に、彼は気付いているのだろうか

 

「くぉら、きーすっ!!!!!」

 

エンジン音にも負けぬ程の、一際大きく響いたその怒声は、思わず手を止めてしまった工員がいた程の音量である

直後彼等の脳天に古参の工員の拳骨が降り注いだことはとても気の毒に思うのだが、彼女は生憎そんなこたぁ知ったこっちゃ無い

同僚のだらけた姿を視界に捉えるやいなや、汚れたボルトを片手にキースをロックオン

そして、躊躇いもせずぶん投げる



 

ごんっ!



 

ボルト、とは言っても手首の半分くらいの太さがある図太い奴である

決して高くは響かぬ重い音にこめかみに冷や汗を伝わせながら、キースは引きつった笑みを歩み寄ってくる少女に向けた

油に汚れた頬を僅かに膨らませてずかずかと歩み寄ってくるのは、小隊の斬り込み役にして“ロケット”と渾名される名物娘

今更言うのも阿呆らしいが、アイリ・ミカムラ中尉である

 

「・・・・・死ぬかと思ったぞ俺は」

「整備不良で二階級特進の方がマシ?」

「縁起でも無ぇこと言うなよ。これでもちゃんと面倒みたんだぜ」

「それにしちゃ終わるのが早いじゃない。手、抜いたんじゃないでしょうね」

「・・・・・モンキーレンチ片手に詰め寄るのはやめようぜアイリ。それは絶対死ねる。
言われなくたって、ちゃーんと整備もしたしパラメータも打ち直したって。アイツはいつでも絶好調さ」

「なら、良いけど・・・・・」

 

不審げな顔でアイリはストラングルの整備に戻ってゆき、その後ろ姿を見送るキース

紙コップを唇に戻そうとした彼に、不意に横から声が掛かった

 

「もう終わったのか?キース」

「えぇ、まぁ。そっちこそ作戦会議はどうなったんすか?隊長」

「予定通り、という事になったよ。俺達は南方面から侵入し、西からコバルト小隊率いる混成部隊が侵攻する」

 

機内備え付けのコーヒーメーカーから自分のコーヒーを注ぎながら、グレンリーダーはそう言った

平素からあまり表情を崩さない彼だが、ストラングルの整備に悪戦苦闘しているアイリの姿に、つい苦笑を拵えた

 

「アイリは、相変わらずだな」

「ははっ、確かに」

「少し、手伝ってやったら良いんじゃないか?」

「自分の機体を、他のパイロットにいじらせちゃ駄目でしょ」

 

そう言いながら、キースは紙コップを持っている右手に視線を落とした

爪の間に染み込み、黒ずませているオイルは、多分もう落ちそうにない

彼の整備が早いのは決して手を抜いているからではない。自分の機体のことくらいなら、彼は殆ど知り尽くしているからだ

 

「隊長こそ、チェックは?」

「あぁ、俺は駄目だよ。今までのPFなら何とか手を出せたけど、クレスニクは駄目だ。まるで勝手が違う」

 

全てのPFの共通点

各フレームの結合部分の統一規格を廃し、剛性や出力系を根本的に見直した機体。それがクレスニクの正体である

それが為に、内部機構は通常のPFとは大きく異なっており、

その違いようを例えるなら、自動車のエンジンとジェットエンジンくらいの開きがある

決してPFの整備は簡単ではないが、自動車のエンジンを直せない自動車整備工は居ない

だが、ジェットエンジンの修理ができる自動車整備工というのは、まず居ないだろう

今も、クレスニクには専属のメカニック達が細心の注意を払いながら作業を進めている

そんな様子を眺めて、ふと、グレンリーダーがキースに問うた

 

「そう言えば、皆新しい兵装を貰ったんだよな。どんなのなんだ?」

 

そうした辺りが気になる所を見ると、彼も存外に子供っぽいのかも知れない

その問いかけにキースはコーヒーを一口啜る間に内容を思い出し、

 

「あぁ、アイリの奴は何とかガントレットだったか、新しい格闘兵器を。俺は、ショットガンとライフル一丁ずつ」

「ショットガンよりも、マシンガンの方が好きなんじゃなかったのか?」

「新型の弾が回ってきたんで、それの実戦テストも兼ねて。レポート出すと臨時収入があるんすよ」

「そ、そうか・・・・・サリアとセイバーは、あれ、スライプニルか?」

 

視線を巡らせ、見つけた部下の機体には、アイリの乗機:ストラングルの背にマウントされている物と同じ、

高出力有骨格多連装推進機構:スライプニルが取り付けられていた

ゴスティール山脈戦でデビューを飾ったサチコ主任お手製の化け物ブースターが、サリア機とセイバー機にまで取り付けられていた

こうなってしまうと、ストラングルとゾールシカとクラージュの揃い踏みは、まるで特攻小隊の趣である

 

「あぁ、サリアちゃんは、『アイリ先輩とお揃いでっ!』ってな具合で即決。
セイバーはなかなか決められなかったから、サリアちゃんが勝手に決めたんだっけ。『セイも同じのでっ!!』つってね。
セイバーのはスピアも変わってたっけか?まぁ、そんなとこでしたよ」

「あの二人・・・・・大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。サリアもセイバーも、あれでなかなか肝が据わってるんだから」

 

とは言うものの、サリアとセイバーの二人はと言うと、二人ともサリアの乗機:ゾールシカの整備に参加している

だが、髪の毛まで油まみれになって作業に参加しているのはセイバーで、サリアは何故か外装を磨いている

時々、サリアがセイバーに何か声を掛けると、彼は下から新しい雑巾を放り投げていた

それを受け取り損ねたサリアが頬を膨らませて、何故かセイバーの方が平謝りの態である

グレンリーダーとキースには、二人の間で交わされている会話の内容まで想像できるようだった

 

「ま、俺達は大丈夫ですよ。隊長は“お姫様”のご機嫌、伺わなくても良いんすか?」

 

にへっ、と表情を弛ませて、キースが問う

そのあまりに緩んだ表情にグレンリーダーは少しだけ眉を顰め、

 

「とてもじゃないが声を掛けられる雰囲気じゃなかったよ。
・・・・・何と言うか、こう、久しぶりに見るあの娘のオペレーター姿に・・・・・」

「見惚れて、ですかぃ?」

「いや、気圧されて・・・・・」

 

苦笑するグレンリーダーに、キースは同じような笑みを浮かべて見せた、ただし数倍の苦みを滲ませて、である

こっそり溜息をつきながら、心の中で、お気の毒、と告げておく

久しぶりのオペレーター業務に、ただならぬ気合を入れて臨んでしまったのが、

フェンナ、いや、フェンリエッタ事務准尉にとって一生の不覚だったというところだろう

 

「考えてみれば、声明発表や書類の決裁ばかりフェンナに押しつけていたんだよな・・・・・」

「神経磨り減らす仕事ばっかだったし。久しぶりのオペレーターが楽しくて仕方ない。ってところでしょぉよ」

「・・・・・だが、しかし・・・・・」

「だぁ、またそれかよ!」

 

沈んだ口調になる“将軍”相手に、キースはやおら立ち上がって、鼻先に指先を突き付けて唾を散らせながら言い放った

 

「良いか隊長。あの娘はフェンナじゃねぇ。フェンリエッタ・クローヴィス事務准尉殿だ。
だったら別に、そんなに気を遣うことも心配することもねぇ。だろ?そりゃ危険はあるけど、それは全部俺達次第なんだぜ。
輸送機には弾の一発も撃ち込ませねぇ。それっくらいの自信も無ぇのか?隊長!」

「・・・・・」

「ここまで来て連れてくるんじゃなかったとか言うんじゃねぇぞ。泣き言なんか聞いてやらねえからな」

「・・・・・あぁ」

 

神妙な顔で頷くグレンリーダーの隣に、キースは癖っ毛の金髪をがしがし掻きながら腰掛けた

ぬるくなったコーヒーを一息に流し込んで、ぼやくように言う

 

「“らしく”行こうぜ将軍閣下。今は、それが必要なんだから」

「・・・・・簡単に言うなよ。将軍らしくって、それが一番苦手なんだ」

「ま、そのカッコ見りゃそうだろうなぁ」

 

へらっと笑ってキースは言うが、そこまで言われると流石にムッとするグレンリーダーである

しかし、事実なだけに返す言葉も無い

ゴテゴテした階級章や勲章、装飾の類で絢爛豪華に飾り立てられた礼服でも着て毅然としていれば、少しは貫禄が漂うかも知れない

だが、今のグレンリーダーの着衣はと言うと、前戦役の頃と同じく、キース達も着ているパイロットスーツと同じ物なのだから

しかも、少々着古してきていて、襟の辺りは垢じみているし、所々に繕った跡が見られる始末である

ちなみに、この針仕事を請け負ったのはフェンナ。アイリも挑戦したのだが針穴に糸を通す時点で挫折した

 

「べ、別に良いだろう。着慣れているんだから」

「でもよぉ、いつまでもソレっていうのは、なぁ・・・・・」

「うるさいな。とにかく俺は、PFに乗る時まで礼服を着るつもりなんて無いからな!」

 

声を荒げてそう言うグレンリーダーである

式典用の大礼服や、会見用の略式礼服など、色々“正装”が求められる将軍職だが、

やはり、と言うべきか、彼はそういう堅くて重くて苦しい類の装いは嫌いな様だ

ちなみに、フェンナも彼と同じで正装嫌いである。執務室では未だにオペレーターの制服を着用しているくらいだ

 

もっとも、彼がパイロットスーツを換えようとしないしない理由はそれだけでは無い

 

キースの視線が逸れているのを横目で確認して、彼は襟章の裏にそっと指を滑らせた

そこには、親指の先くらいの大きさだが、白い翼の刺繍がある

サーリットンでの前線指揮を執る為に出撃するとフェンナに告げてから、彼女がこっそり縫ったらしい

どうして?と問う彼に、フェンナは真っ赤になりながらこう言った

 

『え、えと、その、おまもりみたいなものです!
だから、その、何て言うか・・・・・無事に、帰ってきて欲しいですから・・・・・』

 

ぁぅぁぅ、と口ごもるフェンナであった

翼のマークは、アルサレアでは伝統的に成功の印と言われている

幸運を運んでくる翼だとか、未来へ羽ばたく翼だとか、諸説は色々語られているが、とにかく、縁起物として扱われているようだ

改めて見直してみると、白い刺繍糸で縫われた翼は少し形が歪んでいるが、実にしっかりと縫い止められている

 

決して、この翼が彼の元を離れないように、と

 

しばらくの間、もじもじしていた彼女だが、意を決したように表情を引き締めると、

両手を胸の上で組み合わせ、祈りを捧げるように両目を閉じて、

 

『翼の勇気が、貴方と共にありますように』

 

静かに、加護を願う言葉を口にしたのだった

 

「・・・・・少しで良い、勇気を貸してくれ・・・・・もう、二度と迷わぬように」

 

何一つ護れなかった、その癖ずっとヒビの入った“将軍”の仮面を被り、一人の少女を欺き続けてきた自分とは、

いい加減、訣別しなくてはならない

仲間達と、そして小さな翼に向かって、彼は小さく助力を願った








 

そして、リベル諸島の西方面からコバルト小隊が侵攻を始める180分前、

グレン小隊の誰の頭上にも、暁闇小隊の誰の頭上にも等しく、その作戦開始の時はやってきた








 

<Side:グレン小隊、リベル諸島・南方面>

 

極端な自然環境に支配されているGエリアだが、ここリベル諸島域も例外ではない

コバルト小隊が進軍する予定の西方面は、氷に閉ざされた氷原だというのに、

今、彼等の眼前にある光景は、緑に満ちた、背の高い草が絨毯のように広がる草原の長閑な光景である

天候次第では、気温などにかなりの差が出るという報告がされていたが、とても今の様子を見るにそうは思えない

日向ぼっこには絶好の日和である

 

『・・・・・何か、さ。踏み荒らすのが勿体無ぇよな』

 

キースのぼやきに小さく苦笑を見せてしまう

不謹慎な呟きだが無理も無い。彼の昼寝好きはグレンリーダーも良く承知している

草原を、まるで海原の様に波打たせている風は穏やかで、この場を戦場にするのは、この大地に申し訳ないように思えてくる

それ程までに、だだっ広くて何も無い、そしてそれ故に美しい自然がそこにあった

だが、

 

「俺達はこれ以上、ここを踏み荒らさない、踏み荒らさせない為に来たんだぞ」

『そーよ!しゃきっとしなさいっ!!』

 

アイリの一喝に、キースはおっかなそうに肩を竦めた

こうしたノリも、グレンリーダーにとっては何だか随分久しぶりのような気がする

とても、これからドンパチを繰り広げるようには思えないような緊張感の無さ

だがそれは弛緩ではなく、逆に張りつめているからこそ出てくる無駄口であることも彼は知っている

サリアやセイバーはまだそこまでの境地には至っていないらしい。強ばった顔付きだ

 

「二人ともそこまでだ。仮にも兵団でトップクラスの特務小隊の隊長だろう。
きりっとしておかないと後で子分達に笑われるぞ」

『了解』『了〜解』

「フェン・・・リエッタ。ヴァリム側の状況は?」

 

言い淀む辺り、彼はやはり嘘が下手だと思われる

 

『こちらオペレータールーム。ヴァリム前線基地に動きは無いようです』

「気付いていない。なんて事は無いよな?」

『それは間違い無いでしょう』

 

モニターの向こうにいるフェンナ、現在はフェンリエッタ・クローヴィス事務准尉を名乗っている彼女も苦笑した様子だ

ここリベル諸島南方面には、あまりにも大胆に、堂々と侵攻してきたのだから

まさか気付いていない筈が無い。“気付いているけど気付いていないふり”をして、罠に誘い込む算段なのかも知れないが

 

「事、ここに至って、小細工は無しだな」

 

その呟きを聞きつけた全員が、頷いた

覚悟を決めた、兵(つわもの)の眼差しで

 

「予定通り、作戦を開始する。グレン小隊とグラップラー隊で先陣を切る。中衛はブラスター隊。キャノン隊は後詰めとして侵攻せよ。
各隊隊長は管制との連絡を密に取り合い、独断での行動は控えるように」

 

いくつもの「了解」が返ってきた

それは絶対的な信頼の証

そして同時に、双肩にかかる命の重さの証明でもある

重い荷物だ。だが決して投げ出してはならない大切な荷物だ

 

「・・・・・よし」

 

静かに吸って、吐く

躊躇いも後悔も、邪魔なのでまとめて吐き出しておく

これが、コバルト小隊の隊長:シオン・マクドガル中尉であったなら、さらに力の抜ける一幕があったかも知れないが、

彼はグレン小隊の隊長である。“伝説”とまで言われる特務小隊の、隊長なのだ

 

(らしく行こうぜ、将軍閣下)

 

キースの言った言葉が、ありがたく思えた

その通りだ。らしく行こう

今は、ソレが必要なのだから

 

クレスニクはエクスカリヴァを抜き放ち、Arガスプラズマの光刃を敵拠点目掛けて突き付けると、

声の限りに叫んだ

 

「行くぞぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

大地を割るような鬨の声が炸裂し、手に手に得物を構えた機甲の兵士達が怒濤の勢いで駆け出した








 

<Side:暁闇小隊、黒夜叉:コクピット内>

 

『・・・・・と、言うわけでこちらの前哨部隊は5分ともたずに全滅しました』

『早ッ!!』

 

焦りもなく悔しさもない、ただ無表情に淡々と事実を報告するのはユイである

マイは呆れた様子で、実に短い感想を口にしていたが

 

「まぁ、標準機は言うに及ばず、森林戦仕様とはいえ、ヌエではそんなものだろう。救護は?」

『今のところ戦死者の報告はありません。救護班は既に分かれています』

『で、隊長。あたし達の出番は?そろそろだろ?』

「いや、まだだ」

『何でだよ!?もうアルサレアは来てんだぜ!?』

『マイ、あなたも聞いていたでしょう。アームドの量産モデルの、実戦での試験運用の話は』

 

前戦役の最中で、フィアッツァ大陸に“双子の悪魔”の名を鮮烈に刻みつけた、「J−アームド強奪事件」

グレン小隊を直衛とする厳重警備の輸送車両隊を奇襲し、当時の最新鋭機:J−アームドをまんまと奪って見せた事件の後に、

ヴァリムで複製、量産された機体は「ダークアームド」という、あまりにも安直なコードネームを与えられている

J−アームドは、“コア・バスター”という大出力レーザーキャノンを胴体に内蔵しており、その破壊力は折り紙付きだが、

アルサレアでは、その絶大すぎる攻撃力に何か抱くものでもあるのだろうか、どちらかというと拠点防衛機として機能させている

が、ヴァリムでは本家とは対極の、重武装の中距離戦仕様機として運用を決定した

そんな機体の量産体制が整ったのが前戦役の終結間際

結局、ダークアームドは前戦役ではプロトモデルが数機出撃しただけで終わってしまったが、今回はその量産型が届いているらしい

 

その話は、暁闇小隊の幹部であるグリュウと双子には通達が入っていたのだが、

マイはそれを完全に忘れていたようだ

 

『でぇぇっ!?聞いてねぇよそんなの!!』

『「言ったぞ」わよ』

『・・・・・無視しちゃ、駄目か?』

『駄目』

 

膨れっ面でぶつぶつと抗議するマイだが、ユイは鉄面皮で受け流す

耳元に聞こえる口喧嘩がうるさくならない間に調停する必要がある

グリュウはそう判断して、ゆっくりと口を開いた

 

「マイ、そう言うな」

『でもよぉ〜。折角、改造して貰ったってのにさぁ』

 

ぶん、と修羅姫が手にしている大鎌を一閃させる

湾曲する刃は内蔵されたブースターの推進力を借りて、強烈な斬撃を叩き込むことを可能にしているが、

よく見れば、微妙にフォルムが異なっている

今までよりも鎌の刃が一回り大きくなり、その刃の反対側・・・・・ブースターが埋設されている方にまで、刃が生えている

更に長柄の逆端にはレーザーナイフの赤光が輝いていた

歪な形の錨を引き延ばしたような、もしくはツルハシじみたシルエットのソレは、“鎌”と言うには少々不格好な代物だが、

そのお陰で修羅姫の姿は今まで以上の禍々しさとなった

 

「・・・・・まぁ、気持ちは解るが」

 

グリュウは思わず苦笑を漏らした

件の大鎌を手にしたマイとの模擬戦は、かのグリュウ・アインソードをして「手を焼いた」とぼやいた程だったからだ

大振りの斬撃を回避して尚襲い来る逆刃の追撃。長尺兵器を封じるインファイトでは掻き毟るようなレーザーナイフの猛攻

それらの複合的な要素に振り回されることなく、逆に振り回すマイには、正直、手を焼いた

 

『でも、隊長には勝てねぇんだよなぁ』

 

不思議そうに呟くマイだが、それが聞こえたグリュウは心の中で『そうでもないぞ』と反論しておく

一見すれば、演舞の様に大鎌を振り回す修羅姫だが、グリュウの目にはまだ、それが真っ直ぐに振り回しているようにしか見えない

実戦となれば、マイは恐ろしいほどの勘の良さで戦陣を展開するのだが、彼女は理に弱く、洗練に欠ける

速く、強いのだが、どの斬撃も基本的に“素直”なのだ。とグリュウは見ていた

彼女の攻勢は読みやすく、また守勢に転じれば変則的な手に弱い。能力が高いだけに気付けなかったのかも知れない

今回与えられた複合式戦鎌、通称:死人鎌は、そうした彼女のオフェンスの欠点を補う良い得物だった

攻勢に今までの様な素直さが失せ、悪魔じみた悪知恵から繰り出される変則的な連続攻撃には、グリュウでさえ肝を冷やしたのである

 

(これは・・・・・じきに、追い越されるかもな)

 

若き副官を頼もしく思うと同時に、戦々恐々とするグリュウである

 

『ユイにも勝てねぇんだよなぁ。もう、手の出しようが無いって感じで』

 

拗ねた口調で賞賛されて、ユイは複雑な表情を浮かべた

ユイは、マイとは真逆に、彼女は常にカウンターパンチャー的なスタイルで戦陣を展開する

全ての挙動に対し計算尽くで作戦を組み立てていくスタイルは、確かに強い。彼女は百手先まで思考できる頭の持ち主なのだから

だが、それが為に、計算通りに誘った動きで圧倒されると、ユイは予想外に脆い

グリュウ救出の為にマイとたった二人でアルサレア要塞に殴り込みを掛けた時、J−アームド相手に思わぬ痛手を被っていたように

誤解を招きそうな表現だが、マイは勘で動いており、ユイは考えて動いている

どちらが正しく、強いのかは状況次第で変わってゆくが、“思考の速さ”こそが彼女の最大の武器である事は間違いない

十文字大手裏剣は思考制御型の誘導兵器だ。思考の速さ、正確さ、その計算の深さでユイの右に出る者は居ない

だからこそ、凡人では二つと同時に操れぬ誘導兵器を、彼女は六枚も同時に操ることができている

そして今回、鬼百合は見た目こそ何も変わっていないが、背中に背負っているその大手裏剣が大きく改造されていた

一枚の大手裏剣に取り付けられている四本の刃。その結合部分にカイザーナックルと同じ類の電磁誘導機構が取り付けられたのだ

大手裏剣の枚数は六枚、二四本。刃は更に縦に二つ分かれるために、電磁投射可能な刃の本数は総じて四八本

四十八連飛苦無:雀蜂、それが今回鬼百合に追加された兵装形態の名称である

ユイの高速思考展開が操る十文字大手裏剣と、そこに加わった四十八連装の飛刀への分解連携は、最早手の出しようが無い

元々、全方位への攻撃力・防衛力を備えていた機体だったが、これにより指向的な攻撃力が増強された感じだ

 

『正面切って突っ込んじゃ勝てねぇし、だからって他の手なんてなぁ・・・・・』

 

飛び道具を使う。という考えはマイの中には存在しないようだ

模擬戦で、マイはこの雀蜂の結界に無策で(それこそが彼女の本領なのだが)突入し、背後からヘッドフレームを一撃されていた

結果が敗北だったために気付いていないようだが、それが正解だったのだ

ユイだって、まさかマイが何の躊躇いも無く突撃してくるとは、予想はしていたが本当にやられた瞬間は一瞬だけ思考が凍った

その“一瞬”が“数瞬”であったなら、結果はまた違った物になっていたかも知れない。マイの踏み込みはそれ程に鋭かった

下手にあれこれ考えている間に、ユイはそれを打ち破る方策を考えてしまう。だから、一気に勝負を決めに行く正面突撃こそが、

ユイの張り巡らせる雀蜂の結界を潜り抜ける、唯一の方法だった・・・・・今回はユイの方に軍配は上がってしまったが

 

『なぁ、隊長だったらどうにかできるか?アレ』

『隊長には通用しなかったわ』

『はぁっ!!?』

 

マイの問い掛けに、グリュウ本人が口を開くよりも早くユイが結果を言ってしまった

モニターの向こうから、マイが何だか新種の珍獣を見るような、まん丸に見開いた目でこっちを見ている

 

『ど、ど、ど、どうやって!!?』

「お前と同じだ。正面から斬り込んだ。
・・・・・もっとも、先に二人の模擬戦を見ていたからそれに踏み切れたのだがな」

 

順番が逆だったなら、結果も逆だっただろうよ。と苦笑と共に付け加えておく

 

『う〜、何か悔しいなぁ。畜生』

 

唇を尖らせて、上目遣いに剣呑な視線をぶつけてくるマイに、嫌な予感を感じたグリュウは機先を制してこう言った

 

「腹いせなら私ではなくアルサレアの連中にぶつけてやってくれ」

『・・・りょーかい。覚悟してろよアルサレア!今に目に物くれてやるかんな!!』

 

死人鎌をぶんぶか振り回すマイの姿に、グリュウは小さく溜息をついた

どうやら今度の訓練で八つ当たりの的にされることは回避できたようだ

そんなグリュウに、ユイが小さく訊ねてくる

 

『隊長、こういうのを“一挙両得”というのですか?』

「どうだかな、当たらずとも遠からず。というところだろう。・・・しかし、マイはどこでああ言う言葉遣いを憶えてくるのだ?」

『恐らく、ベルモット曹長、いえ、軍曹あたりでは無いでしょうか』

「あれが、年頃の娘の言葉遣いとは・・・・・」

『?』

 

グリュウの呟きに、ユイはきょとんとした顔を返すばかりだった

今もマイは、未だに姿を見せないアルサレアに向かって、馬鹿阿呆間抜けから始まる罵詈雑言を外部スピーカーから垂れ流している

それが聞こえた(聞こえない筈が無いか)、暁闇小隊の面々の意気が上がっているのは良いことなのだが―――

 

「ユイ、双子の姉として、何か思うところは無いのか?」

『隊の戦意高揚の為に、私も加わるべきでしょうか?』

「・・・・・それだけはやめてくれ」

 

妙なテンションで盛り上がる暁闇小隊の中で、その隊の隊長殿は疲れたような溜息をつき、

得物を振りかざして雄叫びを上げる子分共の姿を見て、どこか自棄っぱち気味な笑みを、その口元に宿して見せた








 

<Side:グレン小隊>

 

「だあああぁぁぁぁッ、しゃぁぁッ!!!!!!!!!」

 

アイリ・ミカムラ中尉(17歳、性別:女性、現在思春期真っ盛り、大絶賛片思い中)の掛け声であるということを明記しておきたい

ノーマルサックに代わり、彼女の愛機:ストラングルの両の拳を鎧うのは、カイザーガントレットと呼ばれる新兵器である

だが、これを新兵器と言ってしまって良い物かどうか。目新しさなど一切無いのだから

言ってみれば、カイザーナックルの不良品である。電磁誘導射出機構を廃し、マニピュレーターとしての機能をも廃し、

残ったのは、ただの頑丈な籠手

 

それだけである

それだけの、兵器である

 

「ふぅっ!どっせぇぇぃっ!!!!!」

 

低く沈めた姿勢から、目の前に立ち尽くすダークアームドの脇腹目掛けてフック気味のボディブローを痛烈に叩き込み、

その衝撃で“く”の字に屈み込んだそいつに向かって、スライプニルの推進力を乗せたトドメの一撃を顔面にぶち込んだ

恐るべき事にPFの巨体が後ろに一回転し、後頭部を地面で強打して、その拍子にヘッドフレームは千切れ飛び、

そのまま五回転ほどして、ようやく地面に倒れ伏して動かなくなった

ラリアットでも叩き込んだのかと思うような一撃だが、れっきとした拳撃であったことを強く述べておきたい

 

アイリくらいの格闘戦技術があると、結局はそれで十分なのだ

拳の前面しか使えなかったノーマルサックと違い、ガントレットは正に籠手そのものなのである

拳は勿論、手首から肘にかけてを防護するそれは、本来は防具として存在するはずの物なのだが、

 

「どぁりゃあああぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ガントレットは全面返り血の如く、撃破済み敵PFのオイルでべったりと汚れている。立派に、得物として機能していた

そんな、アイリとストラングルの姿を見た、彼女の同僚のキース・エルヴィン中尉の第一声である

 

「こ、怖ぇっ!!」

 

非常に同感である

キースは今、そんな突出しがちな同僚達を、三歩離れたところから援護している

基本はサブマシンガンでの制圧射撃、今回はある程度の機動性を考えて両肩のラッチにマウントしていたガトリングは除装しており、

代わりに予備の弾倉をしこたまとショットガン、あとは実弾使用のライフルを一丁背負っていた

フルブレットの銃撃で撃破はできなくとも、周りには味方が大勢居るのだ

足を止めて狼狽えてる奴を見つければ、後はその辺の味方が勝手にぶちのめしてくれる

ヤバイ相手には、右手に構えるショットガンの砲口が向いた

 

吐き出す弾は当然散弾だが、今回はちょっと訳が違う

 

九粒散弾の一粒一粒が形状記憶合金製で、発射からコンマ1秒足らずでその身を短針弾に換える自己鍛造弾

人呼んで、“フレシェット・マグナム”

鋭く尖った先端は、装甲の薄い部分ならば容易く貫き、確実に機体内部を破壊するマッドな代物

ちなみに開発元は、技術開発部の悪魔と渾名される、悪名高きサチコ・ロックナード主任

その性質の都合上、(当たり前だが)いつまで経っても試用許可が降りなかったと言う代物だが、

この度試用許可が下り、サチコゾーンの一角から発掘されてようやく日の目を見た曰く付きの一品である

短“針”弾とは言っても、人間サイズで言えば“釘”どころではなく“杭”というべき大きさのぶっとい奴である

破壊力は折り紙付きだった

 

「でも・・・・・できれば、これでコクピットは狙いたくねぇな」

 

必要ならば、躊躇い無く“パイロットを殺す”という選択を採るキースだが、流石にそう呟いた

人間の身体にこんな物が撃ち込まれればどうなるか・・・・・考えたくなかった

 

「ちょ、サリア、サリア!出すぎだよ危ない!!」

「あに言ってんのよアイリ先輩なんか先陣斬ってるじゃない!行くわよセイっ!!先輩に続くんだからぁっ!!」

「う、うん・・・だぁっ、だからっ!サリアっ!!危ないってば!!」

 

若年コンビは相変わらずの暴走(?)ぶりである。あ、年齢で言えばアイリも十分若年か。それはさておくとして、

ゾールシカもクラージュも、それぞれスライプニルを装備したために直線機動力の数値は馬鹿みたいに跳ね上がっている

アイリのストラングルも、スライプニルの機動力を格闘戦では存分に活かし、敵機をぶん殴っているのだが、

サリアのゾールシカは、そんな技術的な部分など感じさせない。単純にフルブーストの勢いを借りてハンマーを叩き付けていた

 

それだけで、星になるほどぶっ飛ばされているのだけれど

 

時には蹴打も繰り出していたようだが、スライプニルの加速とハンマーの重量を合わせた一撃の破壊力に比べれば、見劣り、どころか

装甲の破片をぶちまけながら、文字通り吹っ飛ばされる敵PF達は、哀れとさえ思える程だった

そんなサリアにあたふたと慌てながらついて行くセイバーだが、どうしてなかなか、槍の先端は一度敵の方を向けば揺るぎもしない

真っ直ぐに、躊躇い無く、目を逸らさずに突き進むその根性は賞賛に値する

クラージュが両腕で抱えているのは、インパルススピアに代わって支給された突撃騎槍で、ターヴュランスと呼ばれている

姿形は、中世の馬上槍そのもので、円錐を引き延ばしたような長い穂先に、全長の割にあまりに短いグリップが取り付けられている

 

が、勿論それだけでは無い

 

ランスのそこかしこに内蔵されたサブブースターが、更に突撃を加速させるという逸品である

ここまでくると馬鹿馬鹿しいとさえ思えてくるが、このサブブースターの推進角度を操れば錐揉み機動での突撃までできると言う

“乱気流”の名を冠するこいつの由来であるが、そこまで凄絶な突撃をセイバー・シドニスが見せるかどうか

疾風怒濤のターヴュランス・ハイマニューバ。彼の腕前と度胸に期待したい

 

「第一から第三分隊は正面攻撃、第四、第五は両翼に展開してこれを援護せよ!
グレン小隊!遅れるなよ!!!」

 

先陣に立ってエクスカリヴァを縦横に振るう白鳳:クレスニクの中でグレンリーダーが全軍を鼓舞する

PFの身長よりも長大な刃渡りを持つ光刃を振るい、敵機を次々と撃破してゆくその様は、後に続く者の戦意に高揚を与えてくれる

 

負けるものか、と

退くものか、と

 

土煙が視界を奪う。銃声や破砕音で聴覚は埋め尽くされる

そんな世界の中で、白い翼が進むべきを示してくれる。光の剣を振りかざし、我に続けと呼び声を上げる

例え、自分にとっては罪の証の様な肩書きでも、いつかシオンが言ったように、“将軍”の名は多くの人々にとっての希望なのだ

この、戦場に於いてもまた

 

『グレン小隊各機へ、敵拠点方面より新手が接近中です!』

 

耳に懐かしいナビの声

レシーバーから届くフェンナ、いや、フェンリエッタの声に、グレンリーダーはつい唇を綻ばせた

何故か、嬉しかったのだ

心から信頼してくれる相手が、側にいてくれると言うことが

 

「機種は?」

『・・・・・照合でました。シンザンタイプです!』

「双子か!?」

 

“シンザン”

その名の持つ不吉な意味に、キースが即座に口を挟む

本気の目でレーダーサイトを睨むが、生憎PFのレーダーレンジでは未だにその姿を捕捉するには至っていない

 

『・・・・・いえ、機数30、いえ、35機確認しました。全て同じ規格機体の様です。
カテゴリーB、Cは未確認』

「そりゃ良かった・・・・・目つき替えちまった分損したな」

「はいはい、ちゃちゃっと行くわよ!!」

 

ダークアームドが乱射したコアバスターに、見る影もなく焼き払われた林を踏み越えてPFが走る

グレン小隊の各機が先行、その後に格闘戦仕様機:グラップラーが続いてゆく

ブラスター隊やキャノン隊は丘陵地の頂上などで援護射撃の構えだ

ダークアームドはまだ全滅してはいないが、グラップラー隊でも何とかなるだろう

元であるJ−アームドと同じく、装甲の分厚い重量級だ。つまりは機動力で劣る

格闘戦仕様機のグラップラーの機動力なら、十分に翻弄できる程度の相手で、2、3機で取り囲むように不意を突けば、

決して倒すことが難しい相手ではなかった。受けた被害は0では無かったけれど

 

「しっかし、こいつらは・・・・・厄介だよな」

 

キースが表情を引き締めて言うのだから相当なものだ

シンザンは、先程まで相手にしていたダークアームドとはほぼ対極に位置する高機動型である

クロスブーメランと、アサシンファングの二刀流で武装したそいつらは、猿じみた動きの軽快さでこちらを翻弄してくる

直線的な機動では捉えにくい、厄介な相手だ

 

「アイリ。突っ込み過ぎんなよ。こういう相手は苦手だろ?」

「ふん、だ」

 

キースの忠告をアイリは鼻息で吹き飛ばし、ブーストペダルを踏み込んだ

スライプニルのフルブースト。制止の声は完全に無視。抗加速仕様のコクピットの中で、彼女は獰猛に笑う

敵の先導機がクロスブーメランを投げつけてきた

うねる様な軌道で迫ってくる十字の刃だが、それはストラングルの身を切り裂くよりも早く中空で弾け飛んだ

フルブレットからの援護射撃。ショットガンに代わって背中に提げていたライフルを右腕で構えている

対装甲用の徹甲弾は見事にクロスブーメランに命中し、木っ端微塵に打ち砕いていた

 

そして、ストラングルが接敵する

相手のシンザンは両手にアサシンファングを構え、両の拳が地面を擦りそうなほど低い姿勢のまま接近してくる

アイリは躊躇うことなく突撃

 

「こーゆー相手は、ね!」

 

不敵に無敵な笑みを浮かべ、アイリは操縦桿からコマンドを叩き込んだ

接敵に合わせて減速し、両腕をやや高めに構える

初撃はローキック。だがこれは避けられた

シンザンは嘲笑うように空中に膝を揃えた格好で浮かんでいた。両腕にアサシンファングを逆手に構え、

独楽の様なスピンでストラングルの頭を斬り裂こうとしている

 

転瞬、

 

ボクサーが相手のフックをかいくぐるような動きで、ストラングルの上体が沈み込んだ

必殺の刃が頭上を通過するやいなや、空振った体勢のまま空中で背中を向けているシンザンに猛然と掴みかかり、

 

「掴めばこっちのもんなのよ!!!!」

 

背中から腰目掛けて膝蹴りを叩き込み、仰け反ったそいつの首に槌を振り下ろすような肘の一撃。駄目押しとばかりに頭を踏み抜く

一瞬の攻防で、シンザンは哀れな姿に為り果てた

 

(こ、怖ぇ・・・)

 

アルサレア属の誰もが同じ感想を脳裏に浮かべたのは言うまでもない

そんな屍を足下に、アイリは不敵な表情を拵えて眼前に佇むシンザン共を睥睨する

思う、こいつらは夜襲・奇襲をさせてこそ実力を発揮するタイプのPFだ

正面切ってのぶつかり合いでも苦戦するだろうが、こちらの機動が上回っていれば五分以上の展開に持ち込める

得物が重いサリアやセイバーは苦戦するかも知れないが、そうそう簡単にやられはすまい

後続がようやく追い付いてきて、グレンリーダーのクレスニクがストラングルを庇うような格好でエクスカリヴァを構えた

何故か苦笑しているグレンリーダーから、アイリに通信が入る

 

「アイリ、あまり無茶をするなよ」

「あら、これくらい無茶でもなんでもないですよ?」

「馬鹿、そういう問題じゃねーっての!」

「なによキース馬鹿って言うこと無いじゃない!!」

「そーですよ、キース先輩のばかー!」

「ちょ、ちょっと待てサリアちゃん!何で俺が!?」

「アイリ先輩をばかって言った人がばかなんです!」

「え、えっと、サリア。サリアってば!今はそんなこと言ってる場合じゃ

 

その通りだった

馬鹿なやりとりを繰り広げるグレン小隊目掛けて、30を越えるシンザン達は一斉にクロスブーメランを投げつけてきた

誰もが咄嗟に身構える

キース機:フルブレットのWCSは即座にそれらを捕捉し、彼は迎撃しようとしたが、

それよりも数段早く、グレンリーダーが反応していた

跳躍、同時にフルブーストでの空中機動を展開。推進炎が複雑な軌跡を描き、エクスカリヴァの残光が陽炎に揺らぐ大気に滲む

 

斬った、

斬った、

斬った

 

60を越えるクロスブーメランを、一つ一つ、的確に斬り落としてゆく

エクスカリヴァを縦横に振るい、こちらを斬り裂こうと高速回転しながら迫る十字の刃を返す刀で逆に斬り裂く

一瞬でシンザンをスクラップにして見せたアイリだが、流石にこんな真似はできない

 

(やっぱ、適わないなぁ)

 

胸中でそんな台詞を呟きながら、ちょっと悔しいお年頃だった

シンザン達が一斉に、両の手にそれぞれ、アサシンファングを逆手に構え、黒い機体が疾駆する

そしてグレン小隊も負けじと得物を構えて突撃した

ストラングルが殴り、フルブレットが撃ち抜き、ゾールシカがぶっ飛ばし、クラージュが貫き、

蒼天より、クレスニクがパワーダイヴで降下強襲を見舞う

 

「一気に敵拠点を落とすぞ!!遅れるな!!」

 

グレンリーダーの言葉に、鬨の声がそこら中で沸き上がる

その勢いはまるで津波のように、“ヴァリム”を飲み込んで行った








 

<Side:暁闇小隊、黒夜叉:コクピット内>

 

『ダークアームド隊、突破されました。後詰めのシンザン隊が出撃していますが、時間の問題でしょう』

 

ユイの口調は、まるで自軍の劣勢を伝えているとは思えない程に淡々とした口調だが、グリュウの表情に別段変化はない

ダークアームドは優秀な機体だが、かのグレン小隊がそう簡単に負けるはずが無いと思っているからだ

 

『それと、悪いニュースです。西方面からアルサレアの別働隊が諸島本拠地に奇襲を掛けてきました』

「ほぅ?」

『これにより、出撃していた援軍が立ち往生。バール・アックス大佐よりの言葉を要約して伝えれば、
『何とかしろ』だそうです。現在、援軍のおよそ半数以上が本拠に帰還中。こちらに来るのはおよそ5個小隊程度でしょう。
援軍としての機能は、期待できません』

『なぁなぁ、あたし達って嫌われてんのか?』

『・・・・・さぁ?』

 

マイの案外素朴な疑問に、流石のユイも首を傾げるばかりだ

ヴァリム軍では野郎共の隠れファン急増中の双子だが、二人ともそんな奇特な連中は子分達だけだろうと思っているし、

むしろ自分達の生い立ちを思えば、忌避されるものと考えられる。実際はそうでもないのだが

その会話を聞きつけたベルモット軍曹と暁闇小隊の愉快な子分共は、心の中でバールへの抗議と双子へのエールを全力で送っていた

そんな、どこか擦れ違いなやりとりに表情を歪めながら、グリュウは小さく首を横に振る

 

「嫌われているのは、むしろ私だな」

『バール・アックス大佐とは、何か因縁が?』

「因縁、というほど根が深いものではないが、まぁ、いざこざがあったことは確かだ」

 

隻眼を細めて、グリュウは小さく苦笑した

『我こそがエースだ』と息巻いていたバールを訓練試合で負かしたことはグリュウも憶えている(というかそれくらいしか接点が無い)

だが、まさか、それが原因で援軍まで渋られているとは考えにくかった

結局の所、グリュウが思っている以上に、バールは矮小な人物だっただけなのだけれど

 

「こちら暁闇小隊隊長、グリュウアインソード。管制室、応答を求む」

『こちら管制室』

「ダークアームド隊のデータは採れたか?」

『・・・・・採る間も無かった。というのが正直な所です』

「まぁ、無理もあるまいな・・・・・あぁ、それと、援軍としてこちらに向かっている小隊に連絡を頼む。
“暁闇”小隊に直接支援は無用。他の小隊の救援に向かうように、と」

『よろしいのですか?』

「構わんさ」

 

獰猛な笑みを大きく浮かべ、黒夜叉は白菊之太刀を握り締め、鞘を払う

抜き放たれた白刃は陽光を受けて輝いている。今日も、良く斬れるだろう

こいつは誰よりも長く己に寄り添ってくれている本妻だ。今日の機嫌は輝きで判る

そしてそれを見た暁闇小隊に、さっと緊張が走った

付き合いの長い連中だ。グリュウの思考はわかっている

太刀の切っ先はまずは天へ向けられ、そして地平を指す

 

アルサレアの軍勢が、その切っ先の先端には居る筈だ

 

「総員、覚悟は・・・・・できているな?」

 

グリュウが全員にそう尋ねる

わざわざ聞くまでもないその言葉に、言葉を返した者は居なかった

ただ、修羅姫は死人鎌を肩に担ぎ、鬼百合はヤミフブキを握り直した

そして暁闇小隊の子分共:主にキシンやロキを乗機とする一同は一斉にカタナの鯉口を切った

無言のままのやりとりは、彼等の覚悟の深さをありありと語る

並の部隊には存在しない、異質な気迫と緊張感

誰もが、滅多に表情を崩さないユイでさえ、獰猛な笑みを浮かべ、グリュウの号令を待っている

 

(好きだな、こういう空気。わくわくしてくる)

(そう?・・・・・そうかも、ね)

 

共感覚で交わされた双子の意識を読みとれた者はいないが、子分共の殆どは同じ事を考えていただろう

先頭に立つ彼等の“隊長”は、絶対的な安心感と信頼感を与えてくれる強さを持っており、

その後ろに控える“副隊長”は、彼女らにはみっともない姿は絶対に見せられないと言う、少々不純だが、彼らの奮闘の原動力である

決して揺るがぬ連帯感、一体感、心の強さが、彼ら暁闇小隊を最強たらしめている真の理由なのかも知れない

 

そして、黒夜叉は地平に向けていた白刃を一閃させ、腹の底から気を吐いた

 

「総員抜刀!!我らが前に立ち塞がる者は全て斬り払え!!暁闇小隊、出陣する!!!」

 

グリュウの大音声に、一斉にカタナが抜き放たれ、剣林は眩く陽光を照り返す

大地と、天まで揺るがせるような鬨の声を上げながら、黒の戦鬼率いる侍達は、一散に駆け出していった








 

<リベル本島:ヴァリム軍本拠地>

 

「で、何でこんな時に俺達は留守番なんだよ!!!!」

 

がぁっ!と吼えたのは、ヴァリム秘蔵の特務小隊の二番隊:“煉獄”小隊の副隊長であるダン・ロンシュタットである

態度もでかいが声もでかい

格納庫の隅々まで響き渡るような大音声に直撃された煉獄小隊の隊長殿は耳を押さえて言い返した

 

「うるさいわね!!何回も言わなくても、いい加減聞き分けなさいよ!!」

「るせぇっ!!!納得できるかぁっ!!!」

 

言うまでもなく、リベル本島のこの基地はGエリアで最も規模の大きな物で、ヴァリムの司令部である

ここを陥とされてはヴァリムの敗北は間違いない

だから、特務小隊と残存戦力を集中させて交戦の構えを見せている。至極、真っ当な考えだ

だが、ダンはそれが納得できないようだ

 

「・・・・・あいつが出てきてるなら、相手をするのは俺だ。他の奴なんかに手ぇ出させやしねぇ」

 

押し殺した、唸る様な口調に彼女:ルキア・サーカムは息を呑む

彼との付き合いは他の誰よりも長い彼女である。未だかつて、こんな風に昏く燃えるような表情は見たことがなかった

恐れを抱くと同時に、寂しい気持ちになる

 

「ねぇ、ダン。やっぱり・・・・・駄目なの?」

「考え直せ、ってか?それこそ何回も言わせるな。あいつは、ジータは俺が潰す。絶対にだ!」

「・・・・・どうして・・・・・?」

「あぁ?」

 

俯けた表情は、前髪に隠れて見ることはできない

だが、瘧のように震える体と、握り締められた拳と、掠んだ声から簡単に伺い知れた

 

「どうして、そんなことばっかり言うのよ!兄弟みたいに過ごしてきたじゃない!
ジータは、誓いまで忘れていないって言ってたでしょう!それなのに何で信じられないの!!」

「・・・・・」

「ヴァリムを逃げた理由はわからない。
でも、言ってたじゃない。“巻き込みたくなかったからだ”って。私達には言えない事情があったのよ」

 

涙声のルキアに背を向ける

全ての言葉を跳ね返すように、背を向けてしまう

彼女が何か怒鳴っているようだが、ダンには聞こえない

 

ダンも、それがわからないわけではないのだ

ジータがどんな性格だったのかは知っている。あいつくらい馬鹿正直で糞真面目な奴はいなかった

そんなあいつだから、自分達の事は多分真っ先に考えたのだろう

だが、彼が巻き込まれたのが何らかの事件であったならば、ジータは自分達を守るために何も言わなかった。そこまでは考えられる

冷静になってみれば、敵味方として相対しはしたが、あいつは何一つ変わっていなかった

 

だけど、あいつは死んだと聞かされていた。彼の父:ベリウムから

 

どういうことなのか

どういう経緯があって、ジータがアルサレアに付いているのか

帰還後、ベリウムに問い直したが、やはり結果は彼の知る事実と変わらなかった。“息子は何年も前に死んでいる”

もしかしたら、アルサレアが自分とルキアを攪乱するために用意した“良く似た別人”なのではないかという可能性まで考えたが、

これは即座に棄却した。拳を交えた自分ならば確信を持てる。アイツは間違いなくジータ・ヴァレリアス本人だった

 

ルキアの言うように、確かめるべきだろう

本人の口から事情を聞けば、納得できる答えが返ってくるのかも知れない

だけど・・・・・








 

「“ロンシュタット”の誇りに懸けて、アルサレアは、絶ッ対にぶッ潰す・・・・・!!相手が、誰だろうと、絶対にだ!!!」








 

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