○ 機甲兵団J-フェニックス オリジナル・ストーリー [虚空の鳳凰]
エピローグ 「――人は未来へと思いをつないで――」
空が青い――抜けるような青空。
その空を駆けていくのは無数の鳩――平和の象徴だ。
「……なんか、夢みたいな戦いでしたね……」
グレンリーダーの横にたたずみながら、フェンナは言った。
「……確かに、終わってしまえば、なにもかも悪夢だったんじゃないかと思うな……だが、そんなことは決してない。今、俺たちがいる場所こそが……あの戦いの証だ」
「そう……ですね……」
フェンナの瞳に、涙が浮かぶ。
二人の前にあるのは、ふたつの墓標。
刻まれた名前は、ヴァイスとシリア――二人が、親しかった者たちの名前――。
実際には、たくさんの犠牲者があった。
元帥と首相として彼らに追悼の意を示すのは、政治を預かる者として、当然の役目ではあった。
しかし、今の二人は違った。
彼らは純粋に、ヴァイスたちの旧友として、この場所にいた――。
「あの時……大佐は言ったよ。未来を掴めと……幸せな未来を掴め、とな」
グレンリーダーは、ふたつの墓に花をたむけながら続けた。
「そして、俺も誓った……もう、悲しい戦いは終わらせると。その誓いがある限り、俺は決して、あの戦いを忘れはしない。大佐との誓いを果たすことが……今の俺の義務であり、約束なんだ」
「グレンリーダー……」
目を閉じて祈りを捧げるフェンナ。
二人は、自然と無言で寄り添う――。
その後ろから、唐突に声が聞こえてきた。
「……それは、元帥閣下だけが背負うものではないはずですよ」
ゆっくりと立ち上がり、振り返ったグレンリーダーたちの視界に、二人の男の姿が映る。
ケイオウとカティルだった。
「ケイオウ少佐、カティル中尉……」
グレンリーダーの言葉に、ケイオウは苦い表情で頭を掻いた。
「――その言い方は、どうも慣れないですね……自分は、特尉のほうが向いていますよ」
「――謙遜する必要はない。君たちはそれだけの手柄をあげたんだからな」
特尉という階級そのものに、ケイオウが意味を見出していることは知っていた。
それでも、グレンリーダーはあえて階級を上げたのだ――彼もまた、未来へと進まねばならない人間なのだから。
「……手柄、ですか。人殺しの結果として得られるものに、価値などありませんね……」
皮肉げにつぶやくカティル――その言葉は重い。
グレンリーダーは、ため息と共に頷いた。
「――そうだな……考えてみれば、そんな当たり前のことにすら、我々は気づかなくなっていたのかもしれないな……」
「――戦争をしてきた人間の性、ですか……ヴァリムとの休戦協定も、無効になるみたいですね」
空を見上げて、ケイオウが続ける。
その言葉にフェンナが悲しそうに俯いた。
やはり、どこまでいっても、この二国が相容れることはないのだろうか。
「――なぜ……わからないんでしょうね……人間は、いつまでたっても……」
「……人の恨みは、きれいごとでは消えたりしませんよ……戦争が長いこと続けばなおさらです」
カティルの言葉は現実そのものだった――そう言い切るのは簡単だった。
だが、彼らの中には理想がある。
それは、未来に生きる人間の意志そのものだ。
「――でも、自分はあきらめないし、きっと戦いは終わらせますよ……もう、こんな思いはたくさんだ!今ここで、改めて誓おう……隊長と、副隊長に!誰も悲しまなくてすむ未来を作ると!!」
ケイオウが拳を握り締める。
グレンリーダーたちもまた、力強く頷いた。
穏やかに吹き抜けていく風。
その中に、四人を鼓舞する声が聞こえたような気がした――。
「――やっぱ、ここにいたのか。あんたらしいな」
とある基地のPFドックの中に、皮肉げな声が響いた。
「リグワイトか……久しぶりだな」
愛機、雪風のコクピットから身を乗り出したレビは、かつての部下を見やって小さく笑った。
「――そんなに自分のPFべったりじゃあ、あの可愛らしい大佐が泣いてんじゃないのかい?」
「……大きなお世話だ。お前こそ、なにしに来た?」
「ま、ちょっとした挨拶だよ……サーリットン戦線に行くことになったんでな」
それは、アルサレアとヴァリムの戦いにおいて、常に激戦区となった地域の名前であった。
レビは顔をしかめる。
「フン……こんなズタボロの状態で、まだ殺し合いをやろうってのか?懲りない奴らだな。ガルスキー財団の連中は」
「……その殺し合いをするのが、俺たちの仕事だからな。オマンマの食い上げになるよりは、マシってもんさ……そういや、あんたは一応、穏健派なんだったな」
「……なんだよ。その一応ってのは……」
リグワイトは皮肉げに笑う。
「――いや。どうも、あんたを見てると、単なる好戦派にしか見えないんでな」
「言ってろ!!用が済んだのなら、とっとと帰ったらどうだ!!」
スパナを投げつけるレビ。
リグワイトの足下で、それが大きく跳ねた。
「――言われなくてもそうするさ。上のことはよくわからんが……ま、達者でやってくれ」
「……フン……」
二人は互いに背を向けた。
地位の差はあったが、彼らはもう直接的な上官と部下の立場ではないのだ。
ややあって、リグワイトが立ち止まる。
目を合わせぬまま、彼はボソリとつぶやいた。
「しかし……あんたのことは、嫌いじゃなかったぜ……」
それは、彼にしては意外な言葉だったが、レビは素直に受け止めた。
「お互いにな……せいぜい、くたばるなよ。戦友……」
「……フ……またな」
遠ざかっていく足音がドックに響き渡る。
生死を共にした男たちは、それ以上、言葉を交わすことはなかった。
「……世話になったな大尉。おっと、今は少佐か」
ミラムーンの軍事施設の一角――修復が済んだスペリオルの前で、シェルは言った。
目の前には、数箇所に包帯を巻いたロンがいる。
彼は静かに笑ってみせた。
「――ハハ……世話になったのは、こっちのほうですよ……しかし、これからどうされるのですか?」
「あたしたちの仕事は傭兵だから。火種があれば、どこにでも飛び込んでいくわよ」
シェルの傍ら――イリア・ソニックカスタムの前に立つラムスが言った。
彼女はどこか晴れやかな笑顔だ。
「ま、そういうこった。飛んで火にいる夏の虫みたいな生活だな」
「……そのたとえ、なんか間違ってる気もするんだけど?」
「――お前が、まぎらわしいこと言うからだろ……とにかく、こちとら生活がかかってんでねぇ。どこかのバカのおかげで」
今回の戦いにおける支払金は結構な額ではあったが、シェルたちにとってはまだ不足なようである。
今頃、アルサレアではケイオウがくしゃみをしているだろう。
「……そうですか。わかってはいましたが、こうしてお別れの時が来ると、寂しいものですね」
「――な〜に、少佐?辛気臭い顔してぇ……今生の別れじゃあるまいし。ねぇ?」
どこか楽天的な表情で、ラムスはシェルのほうを向いた。
シェルもまた、笑って頷く。
「――そうそう、また、気が向いたら遊びに来てやるよ……そん時は、例の約束、頼むぜ?」
約束という言葉に、ロンも笑った。
「――ああ……そうでしたね。一杯、奢らせてもらいますよ」
「せいぜい、大金を用意しといてくれ。俺の口は結構肥えてるからな。並の酒じゃ満足しないぜ?」
「な〜に言ってんだか……安酒しか飲んだことないくせにぃ」
「う……おいおい、バラすなよなぁ」
ラムスの突っ込みに、シェルは膨れた。
わずかに間を置いて、三人は吹き出す。
夕暮れに、明るい声がこだました。
「――んじゃ、そろそろ行くぜ。元気でやれよ、少佐!!」
「……ええ。あなたたちも!」
シェルたちが、自分のPFに乗り込んでいく。
やがて、二機は音をたてて立ち上がった。
巻き起こる風を受けながら、ロンはゆっくりと敬礼した――。
広大な宇宙を隔てた蒼き星。そこに広がる空もまた、抜けるような蒼さだった。
その空を議事堂の庭から眺めるレレナ。
吹き抜ける風が、彼女の髪をなびかせていた。
「――な〜にを、たそがれているのかしらぁ?」
背後から聞こえた声に、彼女はゆっくりと振り返る。
そこには、温和な微笑みを浮かべたエルルがいた。
「……エルルさん?どうして、ここに?」
軍人である彼が、このような場所にいるのは意外だった。
レレナの傍らに来ながら、彼はつぶやくように言う。
「上官の付き添い……ま、ちょっとしたヤボ用よ。来たついでに、あなたの顔が見たくなってね……」
「――そうですか……」
レレナの顔には、以前のような険はない。
彼女の顔も、どこか穏やかだった。
「……ずいぶん、頑張っているみたいじゃない。反戦派の筆頭、レレナ・ツォルリカ議員」
エルルが笑ってつぶやく。
皮肉げな言い回しだったが、そこには彼女を認める意志があった。
レレナもまた笑う。
「……ええ。なんとか。まだまだ力不足みたいですけど……」
「――そんなことはないと思うわよ……最近は、戦争反対の声が、だいぶ大きくなってきてる。軍の内部にも、少なからず動揺が広がり始めているわ。お飾りだった政府の威信が復活しつつあるって」
「――そうですか……でも、いいんですか?エルルさん。そんなことをおおっぴらに言ってしまって?」
誰が聞いているわけでもないのだが、軍にとって不利益な情報を漏らすのは、軍人としてはあるまじきことだった。
だが、エルルに悪びれた様子はない。
「――いいのよ……戦いはなにも生まない。避けられる戦争なら、やらないほうがいいんだから……あなたも、そう思うでしょ?」
続けられた言葉も、およそ軍人らしくなかった。
だが、レレナは小さく首を振る。
「……私は、そんなに立派な志を持っているわけでもないです。ただ……閣下みたいな人を、もう出したくないだけです……」
その言葉に、しばしエルルは黙り込んだ。
「そうね……でも、それが閣下の遺志だった。それを、あなたは受け継いでいる……私にはできないこと。だから胸を張っていいわ……私も陰ながら応援している」
一介の軍人であるエルルに、戦いを止めさせるだけの力はなかった。
だが、政府の人間――軍人ではない人間ならば、話は別だ。
ガルディスから託された遺志は、今、間違いなく目の前の少女のもとにあった。
彼女の歩む道は茨の道だ。
だが、それを助け、彼女を守り通すことが自分の役目なのだと、エルルは思っていた。
「ありがとう……エルルさん」
レレナは男の言葉に、微笑みを返す。
エルルもそれを見て、また笑った。
「さ〜〜て、そろそろ行くわ。私も、あんまり暇じゃないのよねぇ……」
彼は颯爽と、踵を返す。
たたずむレレナを残して、ゆっくりと歩き出しながら、彼は静かにつぶやいた。
「……レレナちゃん。あなた、いい女になったわよ……」
その言葉に、わずかに頬を染めるレレナ。
あまりにも真面目な口調だったせいか、彼女はなにも言い返すことができなかった。
暖かい陽射しが降り注ぐ。
天空に浮かぶ太陽の光は、優しげな瞳のように、成長した少女を見守っていた――。
END
○ あとがき
かくして[虚空の鳳凰]完結です!!
ま、それほど手を加えたわけでもないんですが、なかなかこうして見ると、粗が多いですねぇ。
とはいえ、このような形でリメイクできたことは、嬉しい限りです。
管理人のタングラム氏&読者の皆様、ありがとうございました!
次回作があるかは疑問ですが、あったら、またお会いしましょうね!!
双首蒼竜
管理人より
遂に虚空の鳳凰(リメイク版)完成です!!
長かったような短かったような……とは言えリメイク版にしては完結までの時間は(双首蒼竜さんの努力により)早かった方でしょうね
双首蒼竜さん、お忙しい中お疲れ様でしたm(_ _)m
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