轟音。



 轟音。



 また轟音。



 どこかで耳障りな音が聞こえる。





(…………なんだか…………う、る、さい…………)





 断続的な射撃音。


 薬莢が地面で跳ねる音。


 甲高いブースターの噴射音。


 硬い鋼がぶつかり合う衝撃音。


 そして、鼓膜を揺るがす爆発音――。





(…………もう……やめに、しようよ……なん、だ、か…………あたし……眠い、から……さ……)





 遠のく意識の中で、あたしはつぶやく。


 もう、なにも考えたくない気分。


 このまま眠れたら、きっと気持ちいいんだろうな。


 すべてを包む、この赤い闇の中なら――。






『……っかり! しっか……るんだ!! 無事……か!?』





 でも、そんなあたしを呼ぶ声がする。


 聞いたことない声――ずいぶんと激しい感じ。


 けど、耳障りじゃない。 


 子守歌には、ならないけれど。


 あなたは、誰――?






『気を確かに持て!! こんなところで、死ぬなぁっ!!』






 死ぬって、なんだろう――?


 誰か死にそうになってるのかな――?


 ねぇ、教えて――。


 あなたは、誰――?






『もうすぐ、救助が来るっ!! だから、しっかりしろぉっっ……!!』










 あたしは、決して忘れない。




 あの声を。




 焦りの中にも温かさをもって、あたしを包んでくれた、あの声を――。











○ Panzer Frame J-PHOENIX 2 ― CLIO's Side Story ―



―― いつかありがとうと言いたくて ――










 目を覚ますと、そこはあたしの部屋だった。
 冷たく、薄暗い室内灯の中で、身を起こす。
 辺りの様子はどこかぼんやりしてたけれど、胸に手を当てなくても、動悸が激しくなっているのはわかった。




「……ハァ……まさか、今になってあの時の夢を見るなんてね……」




 大きく、ため息をつく。
 久しぶりに見た夢だった。
 あたしが、死にかかったあの日の夢――。
 もう、あれから半年は経つ。
 時の流れは早いと、思わず実感してしまうほどに――。



 そう。かつてあたしのいた部隊は、ヴァリム軍との戦闘で全滅したことがあった。
 まだ――と言っても、今だってベテランじゃないけど――新米パイロットだった頃に味わった苦痛と恐怖の記憶。
 傭兵国家と言ってもアルサレア兵士の練度にはピンキリがあり、経験の浅い部隊が全滅することなんか日常茶飯事。
 で、あたしはたまたま、その運の悪い部隊に居合わせた。
 あの頃は、戦争で死ぬかもしれないという現実すらわかってなかった。我ながら、バカだったと思う。
 はっきり言って二度と同じ目には遭いたくないし、そんなつもりもないから、以来訓練には時間をかけるようになった。



 けど、そんな嫌な記憶であるにも関わらず、あたしにとって実は、とても大切な記憶のひとつでもあったりする。
 なぜなら、あの運命の出会いをもたらしてくれたのも、あの悪夢の日だったから――。




「……ブレッド・アローズ、か……」




 額にまとわりつく髪をかき上げながら、あたしは誰に言うともなくつぶやいた。










 事の始まりは、昨日に遡る。
 あたしの所属する第202特務小隊に、新しい隊長が赴任してきた。
 通称、レガルド小隊と呼ばれるこの部隊は、完成したばかりの宇宙兵器開発施設[シード・ラボ]直属の特務部隊だ。もっとも、あたしもここへ転属を命じられて間もなかったから、詳しい内情までは知らない。
 前のリーダーは死亡したという噂だからその後釜なんだろうけど、問題は年齢。なんでもあたしと同い年だって話だ。
 人材不足が叫ばれるアルサレアだし、どんな人事も珍しくないけど、自分と同じ長さの人生しか歩んでない人間が特務部隊の隊長になるのだから、やっぱり興味は沸く。
 どれほどの腕を持っているのか、確かめてみたいと思った。





「……演習場の使用許可? それは構いませんけど……あまり手荒く扱わないで下さいね」




「……新リーダーと模擬戦を? またずいぶんと思い切った歓迎をしますね……まぁ、あなたの気持ちもわからないではないですから、協力しましょうか」




 リーネ主任の許可を取り、相方のバックスを巻き込んで、あたしは新顔のリーダーを迎えることにした。
 そして、到着したばかりの彼と相見えたわけなんだけど――。








 結果は、見事に惨敗。







 無重力空間でのPFの扱いは簡単に慣れるもんじゃないし、あたしもだいぶ苦戦したんだけど、リーダーはほんの数分で感覚を掴んだみたいだった。
 あとはなんというか、実戦経験の差だろうか? 正直、PFって乗る人間によって、ここまで差が出るんだということを思い知らされた。
 もちろん、悔しくないと言えば嘘になる。でも、負けても納得できないということはなかった。



 しかし、あたしがなにより一番驚いたのは、その後のことだった。






『……二人とも、見事な腕だったよ。これから、よろしく頼む』





 なぜなら、通信で初めて聞いたリーダーの声が、あの日に聞いた声と同じだったから――。












「……ねぇ……あなたが、あの時のパイロットなの……?」



 考えるでもなく、声が漏れていた。

 足を抱えて座りながら、あたしは膝の隙間に顔を埋める。

 グルグル、グルグル――頭の中で、様々な感情がミキサーのように回っている。

 こんな煮え切らない気持ちになるのは初めてだ。

 物事は白黒ハッキリつけるのが、あたしの信条だってのに――。

 自分でも、なんか意外だ。





 ふと時計を見れば、まだ夜中の1時を回ったばかり。
 けど、どうにも目が冴えてしまい、改めて寝付く気にはちょっとなれない。
 少し汗でもかけば、スッキリするだろうか?
 あたしは、気分転換に部屋を出ることにした。












 薄暗い室内から通路に出ると、目が少しチカチカした。
 シード・ラボは先頃完成したばかりで、まだ軍事施設特有の澱んだ空気はない。照明だって無駄に明るかったりする。
 磨き込まれた床は人の顔すら映せそうで、うっかりスカートなんかはけば、下着が見えちゃうなんてことにもなりかねない。
 別に悪意がなくとも、女性にすれば不愉快だろう。そういえばカグヤは、不満を漏らしていたっけ。
 もっとも、あたしにはどうでもいいことで、そもそもスカートなんて、ここ数年はいたことがない。
 こういうことで悩まなくてすむのは、パンツ派の特権だろうか。


 つまらないことを考えながら通路を進んでいると、目的のトレーニングルームに到着する。
 ドアを開けると、かなり広めの空間が開けた。
 そこかしこには、様々なトレーニング・マシーンが置かれている。
 ここは本来、パイロットの筋力養成のための施設だけど、運動する場所に事欠くシード・ラボにおいては、それ以外の人間もよく利用する。
 平時は整備員やオペレーターの姿も多いけど、さすがに今は夜中だけあって、あたしの他に人影は見当たらなかった。




「さてと……とりあえず軽く走りこもうかな」




 誰に言うともなくつぶやき、あたしは部屋の端に並ぶランニングマシーンに向かった。
 一応寝て起きたばかりだし、バカみたいに筋肉を使うのも考えものなので、ジョギング程度の遅いスピードに設定する。
 マシーンの奏でる単調な音が、広い室内に意外と大きく響いた。
 ストレッチをした後、マシーンに飛び乗る。




 そのまま、およそ30分も走っただろうか。
 身体中が汗ばみ、息が少し荒くなったところで、あたしは一息つくことにした。
 マシーンを降りると、心地良い疲労感が身体を包む。同時に頭の中の鬱屈とした感情が、気持ち楽になったように思えた。
 と、その時――。




「あれ……君は確か……クリオ? どうしたんだ? こんな時間に?」




 入口のほうから聞こえてきた声に、あたしは思わず心臓が飛び出しそうになった。




「り……リーダー……っ……!?」




 目を見張るような赤毛に、精悍な顔つき。
 そこにいたのは紛れもなく、ブレッド・アローズ――つまりは、リーダーその人。
 彼はあたしの反応を見て、申し訳なさそうに言う。




「ごめん。驚かせたみたいだな」

「い、いえ……それはいいんですけど、どうしてここに?」

「いや、どうも気が昂ぶっちゃってね。少し運動でもすれば眠くなるかと思って」

「そ、そうですか……あ、あたしも……同じです」




 どうやら、リーダーにとっても寝付けない夜だったらしい。考えることは同じだったわけだ。
 まぁ、この時間に出くわしたのは単なる偶然だろうけど。
 それとも――これも運命、なのかな?
 まさか――そんなことは、ね。




「せっかくだから、一緒にやってもいいかな?」

「は、はい……ぜ、全然構いませんよ!」




 リーダーは微笑むと、あたしの隣のマシーンを起動させた。
 機械が間を置いて並んでいないせいもあって、今あたしたちの間には50cmも距離がない状態。
 近くで見ると、意外とリーダーはたくましくて、すごく大きな背中をしていた。
 う〜ん、なんか、ちょっと顔が熱いのは気のせいかな?



「まぁ、寝る前だし、設定はそこまで速くなくてもいいか」



 考えることも同じ。どことなく親近感が沸いてくる。
 そう考えると、これはやっぱり運命で必然のタイミングだったの――?




(え、ええい! なに考えてるのよクリオッ! しっかりしなさい!!)




 思わず、自分の頭を両手で殴っているあたしがいた。



「……クリオ? なにしてるんだ?」

「え、いえ……あ、あははは……ちょ、ちょっと……頭をスッキリさせようかと」




 間抜けな返事を返しながら、あたしは再びマシーンの上へ。
 これ以上突っ込まれるのは、正直ヤバイ気がする。
 わき目もふらずに走り出したあたしを見て、リーダーも自分のマシーンを動かし始めた。
 しばし、無言で汗を流す時間が続く。









 それからまた30分もした後――あたしたちの姿は、トレーニングルーム脇の休憩スペースにあった。
 結局、軽くどころか、思いっきり汗をかいてしまった。これじゃかえって、寝付けなくなっちゃうだろうか? まぁ、精神的には少し落ち着いたけれど。
 スポーツドリンクをいつもの倍以上飲み干しながら、ゆっくり呼吸を整える。
 最初こそ驚いたけど、やっぱりこれはチャンスだ。ここで、このモヤモヤした気持ちをはっきりさせておこう。
 隣で汗を拭っているリーダーを見て、あたしは静かに話を切り出した。



「あの……リーダー、訊いても……いいですか?」

「ん?」

「リーダーは……ここに来る前、どんな部隊にいたんです?」

「どんな部隊……か」



 わずかに視線を向けた彼は、その質問に複雑な表情を浮かべた。
 愛想の良い顔に、同居するかのように苦悩が生まれる。
 そこには、怒りとも悲しみとも嫌悪とも取れる感情も混じっている。


 あたしは少し違和感を覚えた。
 なにか、語るのをためらっているような感じがする。もしかして触れてはいけないことに触れてしまったとか?
 考えてみれば顔を合わせて間もない上に、質問が突然過ぎた気もする。
 けど、今更撤回することはできないわけで――。




「……クロウ特務小隊って、知ってるかい?」


「いえ……聞いたことありませんけど……」




 そんなあたしに気を遣ったのか、リーダーはしばしの逡巡の後、言葉を紡いだ。
 クロウってことは、カラス? ずいぶん不吉な名前というのが第一印象で、当然あたしの記憶に、そんな部隊の名前はない。
 もっとも、アルサレアの特務部隊なんか100以上もあるわけで、そのすべてを把握している人間なんてまずいない。
 だから、知らないと言っても珍しいことじゃない。もちろん、グレン小隊みたいに名の知れた部隊なら話は別だけど――。


 けれどリーダーは、別にあたしの返答に期待を寄せていたわけではないらしく、すぐに苦笑めいた笑みを漏らした。




「まぁ、知る人間のほうが少ないだろうな。アルサレア軍の中でも、かなり秘匿性の高い部隊だった」


「へぇ……そうなんですか? なんでまた……?」


「突撃偵察を目的としていたからさ」


「……突撃偵察?」




 聞き慣れない単語に、あたしは思わず問い返していた。
 ただの偵察以上の意味が含まれていることは理解できたけど。





「そう……主に激戦区で、様々なデータを収集する部隊さ。もっとも、部隊とは言っても単機で行動することも多かったけどね……」




 リーダーは、忌まわしい出来事を思い出すかのように言った。
 さっき表れた負の表情が、またその顔に垣間見えるようになっている。
 彼には、似合わない表情だ――。




「敵陣に飛び込み、掻き集められるだけのデータを持って帰還する。時には、大規模な戦闘に巻き込まれたり、多対一の状況に追い込まれることもあった……言ってみれば、使い捨てに近い部隊さ。メンバーもすぐに入れ替わって……ほとんどの奴は顔も覚えちゃいない」




 あたしはわずかに息を呑む。
 メンバーがすぐに入れ替わるというのは、死の確率が極めて高いということだろう。どうやら突撃偵察とは、強行偵察を更に突き詰めたものらしい。
 PFが戦場に登場して2年が過ぎたが、戦術的運用面においては未発達な部分が多く、アルサレア、ヴァリム問わず戦闘データの収集は精力的に行われている。
 後方部隊の中でその手の作業を目的とする隊はいるし、前線部隊の任務に情報収集が含まれることも多かったけど――そんな極端に特化した部隊がいたのは初耳だ。




「正直、軍の中で最も非人道的な部隊さ。求められるのは、生き残るための腕と強靭な精神だけ……仲間との信頼関係や情だとかは、なんの意味もない。一人でも生き残れば、任務は達成される……不謹慎な言い方だけど、すべてを犠牲にしても自分一人が助かればいいんだ」


「そう……なんですか……それで…………」




 リーダーの実力が高かったのも、これで頷けた。
 絶望的な戦場で、ただ一人生き残ることを宿命付けられる――そこには一切の甘えが許されない。
 きっと、まともな神経の持ち主では務まらない。
 そして同時に、リーダーがその任務に対して、強い不満と苦痛を抱いていたことも理解できた。
 もちろんあたしだって、そんな部隊は願い下げだし、いたら多分気が狂ってしまうはずだ。





「……ごめん。少し重い話になってしまった。今のことは、他言無用で頼む。一応、おおっぴらにはできないことだから」





 さすがに気まずさを感じたのか、リーダーはわずかに表情を緩める。
 そこには、先ほどまでの苦悩はなくなっている。
 感情のコントロールがうまいのは、その部隊にいたがゆえだろうか? 少なくとも、あたしよりは器用だと思う。
 本当は同い年のはずなのに、あたしには彼が自分より10年は長く生きてるかのような遠い存在に思えた。












「……クリオ。君は、ここに来る前はどうしてたんだ?」


「あたしは……辺境の部隊に所属してました。多分、部隊名を言ってもわかんないくらいの……当時は駆け出しのぺーぺーだったし、士官学校の成績だって、そんなに良かったわけじゃないですから」


「そうか……」




 今度はあたしが答える番だった。
 リーダーの話を聞いた後じゃ、あたしの経歴なんて語っても無意味に思えてくるけど、一応話を振った手前もある。
 けど、あたしは――正直、言わなくてもいいようなことまで、口に出し始めていた。




「……でも、その部隊はもうないんです」



「ないって? それは、なぜ?」



「全滅したんです……ヴァリムとの戦闘で。あたしも重傷を負ったんですけど、なんとか生き延びました。それで療養を終えてから、こっちに転属になったんです」




 一応、これは真実だ。
 例の悪夢の事件――あそこで辛くも一命を取り留めたあたしは、2ヶ月ほど入院生活を余儀なくされた。
 リハビリを終え、ようやくパイロットに復帰できたものの、今度は所属が決まらない。しばらく辞令は下りず、レガルド小隊にやってきたのもつい最近のことだ。
 つまり、今のあたしはブランク上がりなわけで、軍にしてみれば扱いに困る――要はめんどくさい人材の一人ってわけだ。
 今、良い評価をつけるとしたら、悪運の強さくらいだろうか?




「ごめん……悪いことを訊いたな」


「いいんです。それが戦争ってものだと思うし、こうして無事に生きてるんですから……それよりもリーダーこそ、そんな凄い部隊で活躍してたのに、どうして転属になったんです?」


「そうだな。まぁ、上層部の判断だから推測でしかないけど……多分、俺が命令違反ばかりしてたからだろう」


「命令違反?」


「ああ。さっきも言ったように、前の部隊は秘匿性の高い部隊だ。それこそ他部隊の戦闘に関与しちゃいけないし、時には味方のピンチすら無視しなくちゃいけない。そんなやり方に、俺は我慢できなかったんだ」


「ああ……なんか、わかる気がします。リーダーって、そんな冷たそうには見えないから」



 あたしは、思わず頷いていた。
 さっき話に聞いた部隊の性質とリーダーの第一印象とでは、やっぱり違いがあり過ぎると思う。
 昼間の模擬戦をやってなかったら、絶対嘘だとタカをくくってしまっただろう。
 リーダーもそれは自覚していたようで、口元に苦笑いを浮かべている。



「否定はできないな。まぁ、要するに本来の任務を忘れて、一人で救援に行くことが多かったのさ。隊長からもしょっちゅう言われてた……『お前はこの任務に向いていない。こうして生き残っているのが奇跡だ』ってね……」


「ふ〜ん……じゃあ、もしかしたら今回の転属話は、その隊長さんが計らってくれたのかもしれないですね。少しでもリーダーに向いた部隊に行けるように」


「ハハ……そうかもしれないな」




 あたしたちは、声を出して笑った。
 扱いづらい人間という意味で、つまりリーダーとあたしは似た者同士ということだ。
 別にレガルド小隊が掃き溜めだとは言わないけど、こうして一緒になったのは、やはり巡り合わせというものなのかな。



「……あ、あの……リーダー……」

「ん?」

「え……え、と……」




 ひとしきり笑ったところで、あたしはいよいよ本題を切り出そうとした。

 あの悪夢の日に――あたしたちのところに来たのは、リーダーなのか。

 そして、必死に呼びかけてくれたのは、リーダーだったのかどうか――。





「そ……の……」





 ところがここに来て、肝心の言葉が見つからない。それどころか、考えれば考えるほど混乱していくばかり。
 ああ、我ながら、なんてじれったいんだろう。
 どうして、ここで勇気が出ないの?





「……その……め、命令違反だったかも知れないけど……あたしは、そんなリーダーの行動……間違ってなかったと思いますよ。だって……それで救われた味方だって……きっと、いたはずだし……」






 結局、出てきた言葉は、まったく意図してなかったものだった。

 違うったら。あたしが言いたかったのは、そんなことじゃなくて――。







「……ありがとう。そう言ってもらえると、なんだか救われた気分になるよ」






 けれど、リーダーは晴れ晴れとした表情で、あたしに微笑んでみせて――。

 あたしはその笑顔を見たら、もう、なにも言えなくなってしまっていた。












「……すっかり話し込んでしまったな。もうこんな時間だ。そろそろ休まないと」



 リーダーの言葉に我に返って時計を見ると、いつの間にか時刻は深夜の3時を回っていた。
 明日からのスケジュールを考えると、これ以上夜更かしするのは考えものだと思う。特にリーダーは、旅の疲れも抜けていないだろうから。
 あたしは特に反対することもできず、小さく頷くだけだった。




「じゃあ、お休み。クリオ」


「はい……リーダーも……おやすみなさい」



 トレーニングルームを出たところで、あたしはリーダーと別れた。
 立ち去る彼に小さく手を振り、その背中を見送る。
 結局、肝心なことは訊けずじまいなんて――なんだか情けない話だ。




 けど、同時にあたしの中には、わずかな満足感が生まれてもいた。

 それはきっと、リーダーがどんな思いで行動していたのかを、理解したからかもしれない。

 あの時の[彼]もまた――同じ思いを抱いていたはずだから。






「……リーダー……いつかきっと…………」






 今は言葉にもできない不甲斐ないあたし。


 けれど、いつか必ずはっきりさせよう。


 あの悪夢の日の真実を。


 そして、伝えたい。


 精一杯の思いを込めた「ありがとう」の一言を――。







 芽生えた決意を慈しむように、あたしはその手を胸元に押し当てた。








―― FIN ――

 



 ○ あとがき


 こん○○わ。双首蒼竜です。皆様、ご無沙汰しております。
 ここ最近は仕事の多忙で、SSからすっかり離れておりました。おかげで脳みそはすっかり錆び付き、アイデアも浮かばず気力も起きずで見事にスランプ。今も思うようにネタが浮かびません。
 そこでリハビリがてら基本に戻って、この話を書いた次第です。

 ちなみに今回は、J2の裏設定にあった「クリオの生命の恩人はブレッドである」を元に話を作ってみました。
 なかなか生かされていない設定って、Jフェニシリーズには多いんですよね。
 個人的には出来栄え今ひとつな感じなんですが、皆様の感想はいかがでしたでしょうか?
 ご意見いただければ、幸いです。


双首蒼竜


 


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