大破したPFのコックピット。何かが焼ける臭い。薄暗くはあったが、それでも分かるほどの――赤。
まるでペンキでもぶち撒けたかの様に、コックピットは赤く染まっていた。
そしてその中心に座したまま動かない、1人の人物。
コックピットを赤く染め上げているのは、その人物の血液だった。
その惨状を一目見ただけで、絶望的な確信が心を支配する。
そのパイロットは……彼は、助からない。と。
震える手を伸ばし、そっと彼に触れると、ねっとりとした液体がべったりと掌に付着し、指の隙間から零れ落ちていく。
生温かいその液体が指の隙間から零れ落ちていくその様は、彼女に彼の生命が消えつつある事を突きつけた――。
視界が暗転する。
彼女が再び視界を取り戻した時、世界は炎に包まれていた。
爆発。炎上。そしてまた爆発。
そんな惨劇を、彼女は1人PFの中から見つめていた。
耳に飛び込んでくるのは爆発音。そして、その音にかき消されそうなほどか細い、人の声。
それは、助けを求めるもの、命乞いをするもの、そして断末魔――。
いずれの声にも彼女は応えた。鉛弾と鋼鉄の刃をもって。
目に付くものは全て壊し、殺した。己の激情の命ずるままに。
再び視界が暗転し――そして彼女は目を覚ました。
「……夢?」
時計で時間を確認すると、まだ眠りに落ちて数時間しか経っていない。
ふと、そこで彼女は自分の頬が冷たい事に気付き、指先を滑らせる。
「涙……?」
何故、涙など流していたのだろう?
(アークレル……)
夢の内容を思い出して、自分の掌を見つめると、あの時の生々しい感触が蘇ってくるようだった。
そしてその後に見た、もう1つの夢。
目に付くものは全て壊し尽くし、殺し尽くした。あの夢。
ふっと自嘲の笑みがこぼれる。あれは夢などではない。現実だ。
実際、昨日も彼女はあの夢と同じ光景を現実で見ていたし、その時の行動は夢に出てきたものと何ら変わらなかった。
かつての同胞に牙を剥き、殺し尽くし、壊し尽くす。
全てを捨て、それでも尚彼女を駆り立てるのは、消える事のない復讐心と、ほんの僅かな希望。
一体この手は、何の、誰の血で汚れているのか。それすら今の彼女には分からなかった。
ただ分かっている事は…願いが叶うまで、自分はこの手を血で汚し続けるだろうという事だけ。
乾きかけた涙を拭い、彼女は立ち上がった。
まだ疲労は残っていたが、目はすっかり覚めてしまった為、恐らくはもう眠れないだろう。
本来ならば、眠れなくとも身体を休めなければならないのだろうが、彼女は手早く着替えると自室を後にした――。
自室を後にした彼女が向かった先は…特別PF格納庫。
たった1体のPFの為に、特別に用意されたその場所に『彼』はいた。
「アークレル……」
ブラフォードという名を与えられたそのPFを、彼女は世界で唯1人『アークレル』と呼ぶ。
……彼がまだ人の姿をしていた時の名前で。
見上げた視界が、不意に歪む。頬を流れるものの感触。
「また泣いてる……」
目を閉じ、顔を片手で覆って呟く。
流れる涙は、何を訴えているのか。
悲しみか、絶望か。それとも――。
馬鹿馬鹿しい。
閉じた視界の闇の中、彼女は自嘲気味に呟く。
この涙に、悲しみ以外の理由などある筈がない。あってはならないのだ。
暫くして、彼女が再び目を開けた時には、もう涙は止まっていた。
見上げた瞳が映すのは、1体のPF。
何よりも、誰よりも大切な人の変わり果てた姿。
「大丈夫。あなたは私が必ず助けてあげるから」
その為ならば、どれだけの血と涙が流れようとも、どれだけの悲しみや苦しみが生まれようとも構いはしない。
たとえ、流される血と涙が自分のもので、生まれる悲しみと苦しみが自分のものだったとしても。
覚悟は、『あの日』にした筈なのだから。
心の裡から湧き上がる、声なき叫びを押し殺し、彼女は独り戦い続ける。
たった1つ、「大切な人を助ける」という、その願いの為に――。
―声なき叫び―(完)
あとがき
続・やっつけ。再びやっつけ。むしろ、やっつけでなければ書けない事に最近気付きました。我龍です。
ネタ降臨から執筆(?)までの経緯は、前作「鋼鉄の祈り」と同じなので割愛。
「またか」って感じなんですが…ネタが降臨しまくりです。
話が重くなりがちなのは…グロリアとレガルドの設定のせいもあるんでしょうが、元ネタのせいとも言い切れないあたり…(遠い目)
書きあがってみれば「ただ1つの願いの為に」と被ってる気がしますが…黙殺していただけると嬉しいです(殴打)
…というか…誰か彼女を幸せにしてあげて下さい(ほろり)
さてさて、今回も懲りずに付き合っていただいた皆様、ありがとうございました!
管理人より
我龍さんよりご投稿頂きました!
どんなことをしてでもレガルドを助けようとする志は流石というか……
コレを読むと、ゲームでも表現次第ではもう少し印象を良くできた気がしますね。
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