「おやすみなさい…アークレル」
そう呟いた女性は、悲哀を湛えた双眸で物言わぬ鋼鉄の巨人を暫し見上げ…やがて何かを振り切るようにして巨人に背を向け、静かに去っていった。
もしも自分がヒトであったなら…溜息の1つでもついただろうか? それとも、あまりに重いものを背負ってしまった彼女を抱きしめただろうか?あるいは、優しい言葉の1つでもかけただろうか?
だが、それはいずれもヒトの身ならぬ今の自分には不可能な事だった。
彼女はいつも一日の終わりに彼のもとを訪れる。そして必ずこう言うのだ。
『大丈夫。私が必ず助けてあげる』と。
しかし、皮肉にもその言葉を言われる側である自分は知っている。それが不可能だという事を。
かつて事故で重傷を負い、紆余曲折を経てPFの生体パーツとして組み込まれた自分が、徐々に不安定な状態、すなわちPFの部品として変化しつつある事を。
PFに侵食され、ヒトとしての意識を保つ事が難しくなるにつれ、心に湧き上がる感情は…不思議と恐怖ではなかった。
恐怖がないといえば、それは嘘になる。だが、それ以上に彼の心を占めていたのは、毎夜彼のもとを訪れ、そして常に彼と共にあろうとする彼女―グロリア―の事だった。
自分がこの様な姿になってしまった事を彼女は悲しみ、そしてその様な危険な兵器の実験運用に自分を起用したアルサレアを憎むようになってしまったのだ。
更にそんな彼女に追い討ちをかけたのが、フォルセアの『ヴァリムのMM計画ならば、彼を助けられるかもしれない』という甘言だった。
結果、彼女は機密情報を持ち出し、アルサレアを裏切った―。
ヒトとしての姿を失った自分を助ける為に。
だが、彼女の裏切り行為はそれだけに留まらなかった。
彼女は復讐という名のもとに、アルサレアの各研究施設を襲撃し、職員達を惨殺するという暴挙に出たのだ。
そして、襲撃にはしばしば自分も強制参加させられた。それはPFとしての自分のデータ収集というフォルセアの根回しもあったが、彼女自身がどこかでそれを望んでいなかったといえば、恐らくは嘘になるだろう。
彼女はこう言ったのだ。『私と共に復讐しましょう。あなたをこんな身体にしたアルサレアに』と。
ヒトの身であったなら、いや、ヒトの身でなくとも言葉が話せたら…。今でもそう思わずにはいられない。
自分はそんな事は望んでいない。止めてくれ。
そう叫びたくとも、言葉を発する事の叶わぬこの身では、どうする事もできない。
彼女がその手をかつての同胞の血で染めていく様を止める事も、目を背ける事も、自分には許されない。
たとえヒトとしての自分がそう望んでも、PFとしての身体がそれを許さないからだ。
そして、彼自身も彼女と共に、多くの同胞を葬ってきた。
彼女の暴挙を止める事も、目を背ける事もできない状況で、僅かに残っている心が悲鳴をあげる。
もうやめてくれ。もうたくさんだ。と。
だが、自らの意思を伝える手段を持たない彼は、それを彼女に伝える事ができない。
たった1つ、自分の望みを伝える事すら―。
ヒトとして僅かに残っている心で、彼は必死に、それこそ何かに縋る様に祈る。
どうか、彼女が復讐を止めてくれるように。
どうか、彼女が笑顔になってくれるように。
そして―どうか、彼女が幸せになってくれるように。
自分の望みは、いつだって彼女の幸せだった。
だが、いま自らの存在が彼女から笑顔を…幸せを奪ってしまっている。
それが彼には耐えられなかった。自分の存在が消えてしまう事よりも。
ヒトの身ならざる今の自分では、彼女に何もしてやれない。
抱きしめてやる事も、優しい言葉をかけてやる事も…何も。
だから彼は祈る。それだけが今、自分にできる唯一の事だから。
現実は辛すぎて、そして彼女は背負ったものが重すぎて、笑う事を…笑顔を忘れてしまったかの様にすら見える。
少なくとも、ヴァリムに来てから彼は一度も彼女の笑顔を見た事がない。
だから祈る。祈らずにはいられない。
どうか、彼女が夢の中では幸せでいられますように。
どうか、彼女が夢の中では笑っていられますように。
物言わぬ鋼鉄の巨人が、人知れず…だが、常に祈っているという事は…誰も知らない。
かつて、その巨人がヒトであった事を知る者ですら―。
―鋼鉄の祈り―(完)
あとがき
はい。ものを投げない。毒を吐かない。という訳で夢の世界の住人、我龍です。
…白状します。やっつけです。イキオイです。なのでツッコミどころ満載です。むしろオンパレードです。
でも、ツッコミも毒も耐性がないので大目に見てやって下さい。お願いします。
ええと、話の元ネタ自体は実はJフェニじゃなかったりしますが…元の作品じゃ書きにくい、というか、書いた事がないので、「(Jフェニで)適当なキャラに当てはめられないかな」と不届きな事を考えていたら、結構レガルドとグロリアにハマったので、そのまま突っ走ってみました。
一応、前作「ただ1つの願いの為に」と繋がるようにしてみたんですが…失敗風味?(滝汗)
とりあえず、やっつけとはいえ、このSSとも呼べないようなシロモノにここまで付き合っていただき、ありがとうございました。
管理人より
我龍さんよりご投稿頂きました!
いや、かなり立派なというかこちらの方が本物の二次創作ですから(笑)
しかしレガルドが一番辛いでしょうねぇ……
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