アミンルーダPF開発研究所。それはPF開発研究の先駆けたるアルサレアの中枢を担う研究所の1つ。
今、そこで新たなPFが誕生しようとしていた…。
新型PFが誕生しようといていた丁度その頃、研究所より数キロ離れた岩場の陰にその一団は、いた。
物言わぬ鋼鉄の巨人―惑星JにおいてPFと呼ばれるそれ―は、じっと研究所を見つめている。彼等はこれからあの研究所を奇襲する事になっていた。
「ユイ少尉、まもなく予定時間です」
そう言ったのはZCX-RK08 ロキに搭乗している若い兵士だった。
ロキはアルサレア製PFではない。そう、彼等はアルサレアとは敵対関係にあるヴァリムの特殊部隊だったのだ。
「やっとパーティのお時間かよ。姉貴、さっさと行って皆殺しにしてこようぜ」
物騒な台詞はロキの右前方に待機している紅蓮の機体からだ。
その機体はロキ、そしてそのロキの後方に控えているJN-NE00 ヌエとは明らかに異なる機体で、左腕には巨大な鎌を、そして右肩にはこれまた巨大な手裏剣を装備している。
「マイ、少し落ち着きなさい」
その言葉はロキの左前方に待機している、先程ロキに搭乗している兵士から呼びかけられた機体から発せられた。この機体も紅蓮の機体と同じ機体だったが、機体色は紅蓮ではなく紫紺で、装備も少々異なっており、左腕には大鎌ではなくガントレット状の兵器―ヤミフブキ―を装備していた。
「これより作戦を開始する。軍曹以下3名は別命があるまでこの場で待機。…何か質問は?」
紫紺の機体に搭乗している兵士―先程ユイ少尉と呼ばれた兵士―がそう言うと、辺りは水を打った様に静まり返る。
「あの…本当に御二人だけで宜しいのですか?」
恐る恐るそう言ったのは、ロキの後方に控えている2機のヌエのうちの1機に搭乗している兵士だった。
「お前等がいるとかえって足手まといなんだよ」
ユイが答えるよりも早く、紅蓮の機体に搭乗している兵士―マイと呼ばれた兵士―がそう答える。
「たかだか1個中隊、あたしらだけで充分なんだよ」
つーか、むしろお前等は邪魔なんだよ。なあ姉貴? そう言ってマイは姉であるユイに同意を求める。ユイはそれには答えず、最初に質問した兵士にこう言った。
「我々だけでは不安だとでも?」
「い、いえっ、とんでもありません! 決してその様な事は…」
別にユイは怒ってそう言った訳ではない。だが、氷の様なその口調は、兵士を怯えさせるには充分過ぎる程の効果を持っていた。
「他に質問がなければ作戦を開始する。マイ、行くわよ」
そう言うとユイは自分の機体であるJN-SZ04Y シンザンの駆動系に火を入れる。するとそれに呼応して紫紺の巨人の瞳に光が宿り、命が吹き込まれる。
「待ってました! 1人残らずぶっ殺してやるぜ!」
その言葉と同時に、マイは自分の機体であるJN-SZ04Mシンザンに、ユイと同じ様に命を吹き込んでやる。
紫紺と紅蓮、2機のシンザンは、まるで計った様なタイミングで同時に加速すると、3機の僚機をその場に残し、研究所へと夜の闇の中へ、その姿を消したのだった―。
2機のシンザンが研究所を奇襲するべく動き出した、その直後に研究所のレーダーは2機の存在をキャッチしていた。
「認識コードのない2機のアンノウンが接近中! 敵の奇襲の可能性があります。警備隊は充分警戒して下さい!」
オペレーターからの通信に、にわかに警備隊に、そして研究所内に緊張が走る。
「2機? 強行偵察か?」
「おい、仮眠してる奴等を叩き起こせ!」
「ハンガー! 出るぞっ!」
オペレータールームからの報せを受けた警備隊が、緊急事態に備えて臨戦態勢を整える。しかし、この時点で彼等には油断があった。
それはこのアミンルーダPF開発研究所が、アルサレアでも屈指の警備を誇る施設であったという事。そして本来、研究所に1個中隊もの警備隊が派遣されるなどという事は、まずありえない。その上、確認された機体数は、僅か2機。圧倒的と言わないまでも、数で勝っているこちらが有利、そんな油断が、確かにあった。
後に、彼等はそれが大きな、あまりにも大きな間違いであるという事に気付くのだが。
「ふん、今更うろたえたって遅すぎるんだよ」
警報鳴り響く研究所を前方に見ながら、マイはそう呟いた。既に敵機を目視で確認できる距離まで、2機のシンザンは接近している。そのスピードは、従来のPFとは比べるべくもない。
こうるさい固定砲台、レーザーカノン砲を片っ端から黙らせながら、2機のシンザンは、全くスピードを緩めずに進撃し、間もなく最終防衛ラインに到達しようとしていた。
「情報ではJファー、カスタム、キャノンがそれぞれ3機、とあるわ」
「どっちにしても大した部隊じゃねーな。つまんねーバトルになりそうだぜ」
姉からの通信に、マイは肩を竦める。
研究所は、もう目前だ。
「マイ・キサラギ、いっくぜー!」
そう名乗りを上げると、マイは果敢に研究所内に突撃していった―。
機体に搭載された警報装置が、自機がロックされた事を示し、警告音を響かせる。間を置かず、APF-004 Jキャノンの装備したMLRSが火を噴く。
ユイは構わずシンザンを突進させる。そしてミサイルが直撃する寸前に、僅かに機体を横に滑らせた。機体のすぐ横をミサイルが通りすぎ、爆発する。
ユイはそのまま動きを止める事無く、シンザンをJキャノンに突進させる。MLRSはおろか、グレネードランチャーの使用可能範囲さえあっさりと突破されたJキャノンが、慌ててレーザーソードを振りかぶる。
「遅い」
冷淡にそう告げて、ユイはシンザンの右肩に装備された十文字大手裏剣を擦れ違い様に投げつける。シンザンとJキャノンが交錯した次の瞬間、シンザンが投げつけた手裏剣がJキャノンのコクピットにヒットし、爆発する。
「敵機撃破。次の目標に移行する」
ユイはそう呟くとシンザンを反転させ、次の標的を定めると、再び機体を走らせた。
ユイのシンザンがJキャノンを屠り、次の標的目掛けて戦場を疾駆していた頃、マイのシンザンは1機のPFと格闘戦を繰り広げていた。
目の前の空間をフォースソードが斬り裂いていく。僅かにバックステップしてそれをかわしたマイのシンザンは、左手に握った大鎌―死人鎌―を振りかぶり、目の前にいるAPF-003C Jファーカスタムの右腕を斬り飛ばすと、返す刃で頭を斬り飛ばし、とどめにコクピットに刃を突き立てた。
爆発、炎上するその機体の後ろではAPF-003 Jファーが何やら妙な物体に全身を切裂かれている。
それはシンザンのヘッドフレームに内蔵されている兵器・バイオゼリーだった。恐らく姉が戦闘中に散布したものだろう。
「これで正規パイロットかよ」
死に損ないのJファーに、右肩に装備された巨大な手裏剣―クロスブーメラン―でとどめを刺すと、マイはそう呟き、今度はこちらに向けてMLRSを発射しようとしているJキャノンに襲い掛かっていった。
こちらに向かって突進してくる紅蓮の機体を迎撃しようと、Jキャノンは右肩に装備したキャノンを発射しようとして…できなかった。いつの間にか背後に出現していた紫紺の機体の攻撃が左肩のMLRSに直撃し、爆発する。更に不幸な事に、それがグレネードランチャーの弾薬に誘爆し、左腕が吹き飛ぶ。
左腕が吹き飛んだ衝撃でバランスを崩したJキャノンに、紅蓮の機体が突進…してこなかった。
友軍のJファーカスタムとJファーが張った弾幕の前に、紅蓮の機体が後退していく。が、その時突然Jファーカスタムが全身から火花を散らし始める。どうやら全身を何かに切り刻まれている様だ。
攻撃の手が一瞬緩んだその隙を、紫紺と紅蓮、2機の機体は見逃さなかった。
紫紺の機体は、全身をバイオゼリーによって切り刻まれているJファーカスタムと、いまだ健在なJファーに向かって手裏剣を投げ、紅蓮の機体はほぼ半壊状態のJキャノンに大鎌を振り下ろす。
2機の同時攻撃によって、JファーカスタムとJキャノン、2機のPFが沈黙する。
一方、飛んできた手裏剣を辛うじて避けたJファーは、手裏剣を投げた紫紺の機体めがけてフォースソードを振り下ろした…筈だった。しかし、振り上げられたフォースソードは結局振り下ろされなかった。
いつの間にか背後に現れた紅蓮の機体の大鎌が、Jファーの腕を斬り飛ばしていたのだ。辛くも紅蓮の機体の追撃を避けたJファーは、距離をとって射撃戦に持ち込もうとする。
その時、警報が鳴った。
反転したJファーの頭部に、無数の小型手裏剣が紫紺の機体から撃ち込まれ、爆発する。動きの止まった機体に紅蓮の機体が襲い掛かり、その手にした大鎌でコクピットを斬り裂く。
その時、別のJファーが死角から紅蓮の機体に斬りかかった。
タイミング的に見て、その斬撃はかわせるものではなかった。しかし、次の瞬間、信じられない事が起こる。
紅蓮の機体が、その場から消えたのだ。Jファーが振り下ろしたフォースソードは、空しく空を斬り、そのまま大地を焦がす。
そして体勢を崩したJファーは、紫紺の機体にとって絶好の標的となり、そのまま手裏剣の餌食となる。
一方、消えた紅蓮の機体は、いつの間にか残っていたJキャノンの背後にいた。それに気付いたJキャノンがレーザーソードで格闘戦を挑もうとする。しかしそれを振りかぶる前に、紅蓮の機体にレーザーソードを腕ごと切断され、返す刃でコクピットを切裂かれたJキャノンは、文字通り一瞬で沈黙する。
突如として姿を消した紅蓮のPFの謎。それは空間を渡る能力―空間転移―。
試験的に開発されたGFゼクルヴのデータを基に、紫紺と紅蓮、2機のPFには空間転移の能力が与えられた。そしてそれ故に2機のPFは、従来のPFには不可能な、不規則かつ予測不可能な攻撃が可能だったのだ。
いつの間にか、戦場に立っているPFは3機だけとなっていた。うち2機はユイとマイの駆る紫紺と紅蓮のシンザン、そして残ったもう1機は、警備隊最後の機体・Jファーカスタムである。他の機体は既にユイとマイによって破壊され、沈黙している。
「もう終りかよ。もっと楽しませろよな」
憮然とした表情でマイがそう言う。
「マイ、予定時間が迫っているわ。…終わらせるわよ」
ユイはそう言うと、一気にシンザンを加速させる。それに合わせてマイのシンザンも加速する。
Jファーカスタムはモーターキャノン、サブマシンガンで2機のシンザンを迎え撃つがどちらの武器もシンザンを止める事はできなかった。
もともとサブマシンガンは牽制用、モーターキャノンはその爆風範囲ゆえに、近接戦闘では使用できない。そして、射撃兵器の効果が薄い事を悟ったらしいJファーカスタムは、サブマシンガンを投げ捨て、モーターキャノンを強制排除し、フォースソードを構える。そして最後の切り札・HMを発動させた。
「へぇ、HMか。少しは考えてるみたいだな」
金色に輝く機体を見て、マイはそう言った。
「もっとも? あたし達相手に無駄な足掻きと言えなくもないけどな」
突進する紅蓮のシンザンの脇を、2枚の大型手裏剣がすり抜けていく。迎え撃つ金色のJファーカスタムは、大きく横に跳躍し、それをやり過ごす。が…。
「計算通り」
冷たい、氷の呟きを漏らしたのは、いつの間にかJファーカスタムの着地地点に出現していた紫紺のシンザン―ユイ―だった。
至近距離から後方に跳躍しながら、紫紺のシンザンは再び2枚の手裏剣を投げる。
かわせないと判断したJファーカスタムは、2枚の手裏剣のうち1枚をフォースソードで斬り落とし、もう1枚を咄嗟に掲げた左腕で受け止める。
爆発。しかし、JファーカスタムはHMによって防御力が向上していた為、決定的なダメージを与えるには至らない。
だが、それすらもユイにとっては予想範囲内の出来事だった。
「どこ見てんだよ」
その声と同時に、Jファーカスタムを激しい衝撃が襲う。いつの間にか背後に回り込んでいた紅蓮のシンザンによる斬撃。紫紺のシンザンの攻撃は、全て陽動だったのだ。
投擲された大鎌が、Jファーカスタムのメインフレームにしっかり喰らいついている。そして紅蓮のシンザンはその柄を握ると、そのまま思い切り振り切る。
腰の部分から両断されたJファーカスタムは、そのまま爆発し、兵器から鉄の塊へと変わる。
「双子の悪魔…覚えときな」
っても、もう死んでるか。そう言ってマイは肩を竦める。
2機のシンザンの足元には、都合9機分のPFの残骸。それは僅か数分の殺戮劇だった―。
「あ〜あ、もう終りかよ。もっと楽しめるかと思ったんだけどな」
緊張感の欠片も感じられない、マイのぼやきにユイが答える。
「マイ、まだ終わってないわよ」
「分かってるって。新型の奪取だろ?」
んなの、置いてきた連中に任しときゃいいじゃん。そう彼女が言おうとした瞬間。
「!…姉貴!」
「分かってる。だから『終わってない』って言ったでしょう」
2人の搭乗するシンザンに搭載されているレーダーが、新たな敵の接近をパイロットに知らせていた。その数、3。
「おいおい。今更1個小隊で何するつもりだよ」
敵の数を確認したマイが、呆れた様に呟く。と、突然オペレータールームからの通信。
「ユイ少尉! 敵の増援がそちらに向かっています!」
「んなこたぁ、分かってんだよ。いちいち下らない事で騒ぐな」
切迫した様子のオペレーターに、マイが答える。
「機種は?」
マイとは対照的に、ユイの返答は驚くほど素っ気なく、冷たい。
「…フェニックス1機、ブラスター2機の1個小隊です」
ややあってオペレーターの返答。そしてその言葉を聞いたマイがヒュウと口笛を吹く。
フェニックス―APF-005 Jフェニックス―は、アルサレアの次世代機と言われる機体で、高い機動性と空戦能力を保有し、高速戦闘に秀でている機体。そしてブラスター―APF-005L Jブラスター―は、Jフェニックスを陸戦仕様にした機体で、PFの中でも最大級の火力を誇り、機体の象徴とも言えるバスターランチャーによる超長距離射撃を得意としている機体だ。
「姉貴、どうするよ?」
マイは指示を仰ぐ様にユイに問い掛ける。選択肢は2つ。増援を無視するか、それとも殲滅するか。
「…始末するわよ」
一瞬の沈黙の後、ユイは決断した。
増援を無視して新型を奪取するという事も考えられたが、撤退中に背後から急襲されれば、こちらが不利になる。更に、別の増援部隊と挟撃でもされようものなら、作戦は失敗に終わってしまうだろう。
背後の不安を取り除く。それがユイの下した決断だった。
しかし、あまり時間をかけていると第2、第3の増援が来る恐れがある。その為、手早く目の前の敵を叩かなければならない。
「時間がないわ。遊びはなしよ」
マイの性格をよく知っているユイは、妹にそう釘を刺した。
通信機の向こうから不満の声。しかしユイはそれを無視してオペレーターに話し掛ける。
「他に何か情報は?」
「先程入った情報によりますと、新型機はヘッドフレームの調整が間に合わなかったらしく、まだそちらに搬入されていないとの事です」
「おいおい、二度手間かよ」
それが意味する事を知って、うんざりとした調子でマイ。
PFの真の能力を引き出す為には、規格統一されたパーツが不可欠となる。それが一つでも欠ければ、そのPFは真の能力を発揮できない。つまり、強奪したPFの真の能力を引き出す為に、再びパーツを奪いに来なければならないという事だ。
「それも予想範囲内の事態よ」
うんざりとしているマイとは対照的に、淡々とユイ。
「また新しい情報が入り次第、こちらから連絡します。…御武運を」
「了解」
オペレーターの言葉にユイはそう答え、再び戦闘態勢に入る。
「あのさあ、姉貴?」
「時間がない、そう言った筈だけど」
何か言いたそうなマイに、ユイはそう答える。
「…まだ何も言ってないって」
あからさまに不機嫌な声で、マイ。
「分かるわよ。マイの考えている事くらい」
相変わらずの調子でユイはそう答える。
双子だからなのか、それとも特殊な環境で育ったからなのか、或いはその両方か。
明確な理由は2人にも分からない。
だが、2人はごく普通に、呼吸をするのと同じ位普通に、お互いの考えている事、望んでいる事が分かった。
相手が何を欲し、何を望み、何を考えているのか。そういった諸々の事が、ただ、何となく分かるのだ。
それ故ユイは、マイが言葉に出さずとも、何を考え、何を望んでいるのかを知る事ができた。だから先程の言葉が出てきたのだ。
「いいじゃん、別に。新型の奪取は残してきた連中に任せておけば」
「そういう問題ではないでしょう」
とんでもない事を言い出すマイに、ユイはそう言い返す。
そういう問題だよ。そう言い返そうとしたマイは、その言葉を飲み込んで機体を大きく横へ跳躍させた。そしてユイもほぼ同時に、マイとは逆の方向へ機体を跳躍させる。
一瞬遅れて、絶大な破壊力を秘めた緑の閃光が、2機のいた空間を薙ぎ払う。あと一瞬でも反応が遅れていたら、2機のシンザンは跡形もなく蒸発していただろう。
それはJブラスターの最も得意とする、主兵装バスターランチャーによる目視外からの超長距離射撃だった。
「味なマネしやがって」
着地と同時に、マイは自らが搭乗する紅蓮のシンザンを、未だ目視する事すらできない敵機に向けて突進させる。
バーナー炎を背負って闇を疾走する紅蓮のシンザン。それに併走する様に並びかける、紫紺のシンザン。
そして、闇を駆け抜ける2機のシンザンの軌跡を追う様にして放たれる、破壊の閃光。しかし、絶大なる破壊力を秘めたその閃光は、2機のシンザンを撃墜するどころか、その足を止める事すらできなかった。
バスターランチャーの破壊力は、確かに脅威だが、当たらなければどうという事はない。鈍足・重量級のPFならばまだしも、2人の駆るシンザンは、機動性において他の追随を許さないほどの性能を誇っている。そんな機体に、バスターランチャーによる攻撃など、脅威となる筈もなかった。
2機のシンザンは闇を駆ける。未だ姿の見えない敵に向かって。その時―、
((高速接近する熱反応?))
2人の駆るシンザンが、前方から接近する「何か」の存在を察知していた。その数、1。
「マイ」
接近する「何か」が何であるかを知ったユイは、たった一言、妹に向かってそう呟く。
「任せとけって」
対するマイの返答も、たった一言。しかし、2人にはそれで充分だった。
やがて闇の中から「何か」が姿を現した。それはアルサレアの次世代機と呼ばれるPF―Jフェニックス―。
闇の中から姿を現したJフェニックスは、牽制にサブマシンガンの弾をばら撒きながら、こちらに接近してくる。
接近してくるJフェニックスに対し、ユイは僅かに機体を減速させ、逆にマイは機体を更に加速させると、姉の駆る紫紺のシンザンをJフェニックスの視界から隠す様に移動する。そしてユイもまた、再び機体を加速させると、妹の駆る紅蓮のシンザンに身を隠す様にして移動する。
高速で接近する、3機のPF。瞬く間に3機を隔てる距離が縮まり、間合いが射撃戦のそれから格闘戦のそれへと変化する。
先行したマイのシンザンが振りかぶった死人鎌と、Jフェニックスが薙ぎ払ったカタールが、両機の間に火花を散らす。
が、次の瞬間にはJフェニックスはその場から飛び退いている。右手のカタールを紅蓮のシンザンに向かって構え、左手のサブマシンガンの銃口を横に向ける。銃口の先に居るのは…紫紺のシンザン。
一瞬の膠着。そして3機のPFは同時に動いた。
サブマシンガンの銃口が火を噴くのと同時に、紅蓮のシンザンはJフェニックスに向かって突進し、紫紺のシンザンは転移能力を発動し、その場から姿を消す。
再び死人鎌とカタールが激突し、火花を散らす。2機が再び離れた時、既に紫紺のシンザンは2機のレーダーから消えていた。
「さあて、楽しませてもらおうか」
マイはそう言うと、再び死人鎌を振りかぶり、Jフェニックスに向かってシンザンを突進させた―。
紅蓮のシンザンとJフェニックスが対峙している頃、紫紺のシンザンはそこからかなり離れた場所に転移していた。
既にレーダーからマイのシンザンとJフェニックスは姿を消している。そしてその代わりに新たな反応が、2つ。
ユイはその反応を確認すると同時に、機体の上半身を僅かに傾けた。すると直後に緑色の閃光がそれまでヘッドフレームがあった部分を薙ぎ払っていく。言うまでもなく、それはJブラスターのバスターランチャーによる攻撃だった。
「単調極まりない攻撃…まるで洗練されていない」
ユイは小さく呟くと、再びシンザンを転移させる。そして転移が終了した時、シンザンはJブラスターのバックをとっていた。
出現と同時に放たれる十文字大手裏剣。1機目のJブラスターは、振り向く間さえ与えられず切り裂かれ、沈黙する。
2機目は背後の異変を感じ取り、素早く振り向いたが、その時既に紫紺のシンザンはJブラスターの懐に飛び込んでいた。
「さようなら」
呟きと共に放たれる無数の小型手裏剣。零距離から放たれたそれは、Jブラスターのコクピットを完全に破壊し、爆発させた。
一瞬で2機のJブラスターを葬ったユイに、通信が入る。
「ユイ少尉、こちら回収部隊です。新型機の回収は終了しました」
「了解。これよりそちらと合流。本部へ帰還する」
「了解しました。合流まで現場で待機します」
短い通信の後、ユイはちらりと時計に目をやった。時計は予定時間を既に1分オーバーしている事を示している。
ユイは小さく息を吐くと、回収部隊が待機しているであろう研究所に向かって、シンザンを反転させ、フルブーストで引き返し始めた―。
「!」
Jフェニックスと交戦していたマイは、姉が文字通り一瞬でJブラスター2機を沈めた事を知った。
「マジかよ姉貴…」
落胆した様に呟くマイ。
任務遂行を第一と考える姉と違い、彼女は戦闘、それも強敵との戦闘にしか興味がない。
目の前の機体は、アルサレアでも次世代機と名高いJフェニックス。エースクラスのパイロットにのみ配備されるという高性能機だ。戦闘を楽しむというなら、これ以上ない相手だろう。
姉がJブラスターを引き受けたのも、自分がJフェニックスと戦う為の時間を与える為だった筈なのだが…。
「姉貴は時間にうるさいからな」
そう呟いて、マイは無理やり納得する事にした。いずれにせよ、時間がない。敵を撃破したのなら、姉はすぐにでも戻ってくるだろう。
大きな溜息を一つ。そしてマイはモニター越しにJフェニックスを睨みつけて言った。
「いくぜ、覚悟しな」
言葉と共に、思い切りブーストペダルを踏み込み、機体を加速させる。
大鎌を構えた紅蓮のシンザンが、Jフェニックスに向かって疾る。
突進してくる相手に対し、Jフェニックスは右手に構えたカタールを突き出し、それを止めようとした。
「甘い!」
大鎌の柄でカタールを弾き返したシンザンは、その勢いをそのまま利用し、逆袈裟の要領でJフェニックスを切り裂き、更にそのまま一回転、今度は横薙ぎに切り裂いた。
腰の部分から両断されたJフェニックスは爆発、炎上する。
「もうちょっと楽しめるかと思ったんだけどな」
溜息と共に口から出た言葉。その言葉に応える者は誰もいない筈だったが…。
「言った筈よ。『時間がない』と」
応える筈のない言葉に応えたのは、闇の中から現れた紫紺の機体。
「既に予定時間をオーバーしているわ。急ぐわよ」
そう言うとユイは、妹の返事も待たずに機体を加速させ、闇の中へと消えていった。
「ちぇ、もう終わりかよ」
不完全燃焼に終わったマイはつまらなそうに呟くも、機体を加速させると、先行した紫紺の機体を追って、自らも闇の中へと消えていったのだった―。
「少尉。お疲れ様です」
研究所に戻ってきた2人に、回収部隊は敬礼する。ユイは回収部隊に頷きかけ、撤退を告げる。
「これより撤退する。…マイ」
「…あいよ」
ユイの言葉に、マイは不承不承頷く。どうやら先程の一件をまだ根に持っているようだ。
「先導してやるからついてきな。…遅れんなよ」
死人鎌を担いだ紅蓮の機体に続き、回収部隊も夜の闇へと消えていく。それを見届けたユイは、足元に転がっていたグレネードランチャーを拾い上げる。それは、この研究所を警備していたPFが装備していたものだ。
グレネードランチャーを拾い上げた瞬間、機体が警告音を発する。
重量過多によるフレーム負荷の増加。しかしユイはそれを無視すると、グレネードランチャーの残弾を確認。WCSをリンクさせると、その銃口を研究所へと向けた。
一瞬の後、研究所は爆発音と共に炎に包まれる。
炎の照り返しを受けて、輝く紫紺の機体。その足元には既に役目を終えたグレネードランチャーが転がっている。
「任務完了。これより本部へ帰還する」
誰にともなくユイはそう呟くと、爆発炎上する研究所を背に、先行したマイ達を追って闇の中へと消えていった―。
後に「アームド強奪事件」と呼ばれるアルサレア新型PF強奪事件の、これが始まりだった。
そしてこの時、新型PF「シンザン」を駆り、警備部隊を全滅させた2人は、後に「双子の悪魔」として恐れられる事となるのだった―。
機甲兵団J−PHOENIX BURSTTACTICS「アミンルーダ警護」に続く―。
あとがき
どうも蒼輝狼(我龍)です(某派遣会社の社長とは同一人物です。訳あって名前が変わっていますが、どうぞ宜しく)
「機甲兵団J−PHOENIX 紫紺と紅蓮の戦慄」をお届けします。
書きたかったのは「双子(とシンザン)の圧倒的な強さ」。2人の強さが伝われば良いのですが…。
ちなみに作中のシンザンは、後の専用機とは装備が異なっています(具体的にはマイのシンザン)
作中のシンザンの装備は「幻の小隊」に準じていますので、あしからず。
それにしても…難しかった…。ブランクがあるとはいえ、ここまでてこずるハメになるとは…。
特にユイ。彼女はBTとコバルトでは微妙に性格が変わっているので苦労しました(それでなくても難しいキャラなのに/泣)
散々悩んだ挙句、某小説のキャラをモデルにしてやり過ごしました(爆)
ユイ姉、難しいよ…(泣)
しかし、いったい誰がここまで双子にハマると予想しただろうか…。
最初はハラワタ煮えくり返るくらい憎かったのに(爆)
…ともかく、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
…念の為に言っておきますが、続きませんよ? 最後のあれは、あくまでゲーム本編に続くという意味です。
管理人より
蒼輝狼さんよりご投稿頂きました!
というわけで、双子の悪魔が主役です(笑)
かなり原作(BT)に近い形の性格でしたねw<非常に新鮮でした!
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