Chapter6 邂逅:〜混沌の使徒 (レビ=プラウド篇)


 

 雪風。
 アルサレアではホワイトセラフ(白い熾天使)と恐れられる、ヴァリムが世界に誇る航空支配型PFの頂点に位置する機体。最強の翼。
 白とエメラルドグリーンで彩られた、戦場の芸術作品。
 見るものを魅了し、死へと誘う、美しき告死天使
 
 味方であれば、これほど心強いものはない。
 だが、敵であれば―――


 

 雪風6機とルシファーとの対決。誰もが長期化すると考えていた。しかし、それはあまりに早い幕切れであった。

 

 ―――敵影6 雪風 無人機 小隊形成 コンビネーション注意―――
 コクピットのディスプレイに次々と文字が流れる。そして、
 ―――上方 左右 三方同時攻撃 接触まで0.7秒―――
 “交戦開始”―――そう表示が変わった瞬間、ルシファーは全ての推進機構を開放。敵との距離は一気に消失し、動き始めたばかりの上方の敵をディバイドバスターブレードで横に薙ぎ払い、餌食となった機体は横に分割されて爆散した。

「まず1機・・・下に2機、更に後方3機」

 コクピット内にシオリの声が響き渡る頃にはルシファーは自由落下に推進力を加えた超高速で鉛直に相対していた。
 ルシファーは擦れ違う瞬間にブレードを振る。だが、敵とて雪風。受け止める体勢をとる。しかし、敵はブレードの刃を防ぐ事には成功しても、落下する運動エネルギーを乗せた一撃によって上半身ごと圧し折られたような格好となった。
 空戦において速度は最強の武器となる。

「・・・あと、4機」

 残った雪風は間合いを開けながらルシファーに向かって背部外軸に装備されているミサイルオービットが放射状に一気に射出された。

「おいっ、撃って来やがったぞ!!」

 今まで戦闘の全てをシオリに任せて腕組を決め込んでいたレビが慌ててトリガーを握り、狼狽したように叫んだ。

「自機直上に熱源32・・・でも、このタイミングなら!!」

 シオリは叫んだ。そして、同時にディスプレイには“Defense Field Stand by”という文字が流れた。
 ルシファーが蒼く輝いた瞬間に機体は一気に敵を目指して上昇、多少はミサイルがフィールドに掠りつつも、放射状に広がったミサイルが加速するまでの僅かな間を紫電の流星は紙一重のタイミングで擦り抜ける。
 ルシファーはライフルとシールドをブレードモードにして突撃。
 敵も素早くディバイドバスターブレードを構えたが、ブレードの出力で遥かに勝るルシファーにブレードごと両断された。
 ―――残り3機。
 アタックウィングからフェザー射出。不気味に紅く輝く光球が8つ、ルシファーの周囲に滞空。バスターモードで一斉射。

 

 ヴァリムが誇る最新鋭機とて、最高速度まで加速し切ったルシファーを止める事など出来はしなかった。





 

 結果、シオリの操るルシファーは、ヴァリムが誇る航空支配型PF雪風6機を僅か3分足らずで解体した。
 確かに無人機を制御する人工知能はプログラムを忠実にこなす事しか出来ないという制限があり、単体で見れば総合的にはベテランパイロットに及ばないという代物ではある。だが、機械の反応速度は人間のそれを遥かに凌ぎ、更に寸分違わぬ連携攻撃を可能とするため、今回のように自機一機を集団で襲われるようなシチュエーションでは人間で太刀打ち出来る代物ではないのだ。
 それをいとも簡単に撃破したのである。それは、彼女の脳が明らかに人工知能を越えたレベルでシステムを掌握しているという事を意味していた。

「・・・行きましょう、アルサレア要塞へ!!」
「あ・・・ああ」

(おっ、俺より強いんじゃないか?)

 ルシファーは夜明け前の空へと消えて行ったが、何かがスッキリしたような声の彼女に対し、その圧倒的な強さに驚愕を受けた彼の声は気後れしたようにも聞こえた。



 

「虎の子の雪風6機が僅か3分で・・・・・・凄いものが見れましたね閣下、敵じゃなくて良かった」
「そうだな。・・・頼んだぞ2人とも、全ては平和な未来のために」

 ルシファーがその姿を黄昏始めた空に溶け込ませるまで、ライクヘルドは敬礼をし続ける。二人の未来を見送るように。













 

 1445時。ヴァリム・アルサレア間 国境上空。
 日は少し傾きかけていた。のんびりはしていられない。
 だが、レビは少し心配そうだ。喜び勇んでファーレンを出てきた割に失速が早いようだった。

「どうしたの?」
「いや。アルサレア要塞にどうやって入ろうかなとな。アルサレア要塞に入るには、何らかのコネがなければ難しい。ならば、捕虜として入るしかない。だが、ただの捕虜では意味がない。少なくとも『現地の協力者』に会うまでの時間と場所を確保しなければならないのだから、相手にとって有用な人間である事をアピールする事が必要だ」
「ふ〜ん・・・・・・で、どうするの?」
「どうするのって言われてもなぁ・・・・・・やっぱアレしかないかなぁ?」
「アレって?」

 シオリが興味津々な顔で聞く。

「とにかく目立ったらいいんだよ。嫌でも話を聞かせるにはな。ついでに信頼も得られれば万々歳だ」

 レビはニヤリとした顔で答える。この表情は、彼が悪巧みをしたときに見られる特徴だった。
 「あっ、その顔。また何か悪い事なんじゃないの?」

 ―――やはり長い付き合いの彼女にはそれが解ってしまうようだった。レビは気まずそうに横を向く。
 そのとき、レビは何か重要な事を思い出した。この会話を逸らすには都合がいい。

「ところで、さっき雪風6機を相手にしただろ・・・何でそんなに強いんだよ、これじゃぁ俺がいる意味ってないんじゃないか?」

 シオリはヴァリム最強と言われているレビからそれを聞いた瞬間に、一転して得意そうな顔になった。

「えへへっ、そうでしょ〜ぉ・・・実は貴方がいない間にコツコツ練習してたのよ。でも、あのセレスとか言うのには全然歯が立たなかった。貴方が倒した最初のセレスにもね。やっぱり経験不足なのよ、私。私ならあんな突飛なアイディアなんか思い付かないから・・・」
「つまり、プログラム通りにしか動かない敵なら先読み出来る分有利だが、相手が人間とかなら経験不足の分が落ち目になるという事か・・・いやぁ、良かった良かった。『私一人で出来るから貴方なんかいる意味ないよ〜』なんて言われた日にはどうしようかと思っていたんだよ」
「もぅ、私がそんなこと言うと思ってるの? 二人は一心同体・・・・・・って、今のところ私の体はないけれどね」
「自分で言って落ち込むなよ・・・いや、体はあるじゃないか、この機体だよ。俺達二人はルシファーという体の中では一人なんだよ。だから、生きるも死ぬも一緒、完全に二人で一人じゃないか」

 それを聞いてシオリは頷く。

「・・・確かに、一理あるかも。そうだね、私ったら、何でこんなに下らない事を考えてたんだろう」
「心、洗われたか?」
「ええ、心、洗われました。それではアルサレアに向かって行きましょうか!!」


 シオリはルシファーを僅かに増速。それは心が軽くなったから。





 

 そして、太陽に照らされたヴァリム・アルサレア国境線。
 ステラマックスと同時に起こった重力干渉によって引き起こされた恒星風は、索敵の主流であるドップラーレーダーを無効にしていた。しかし、長距離以外なら熱探知や光学レーダー、更には目視まで健在であったために油断は出来ない。
 それも、ここから先は本当の意味での『敵地』―――自分に同情するような人間はほぼいないと言って良いだろう。


「国境警備隊を一気に飛び越える。シオリ、出力全開。速度はマッハ5だ!!」
「了解っ!」

 ルシファーはその場から消えたように飛び去った。ルシファーの機影は両国の国境警備隊基地で観測されたが、その速度は既に追撃出来る限界を遥かに超えていた。


 ルシファーは遂にアルサレアに入ったのだった。











 

 同時刻、ヴァリム共和国首都ザームシティー。
 ジャニターのクイーン・オブ・フェアリーはヴァリム軍本部に到達していた。


「レビ中佐はアルサレアに向かわせました」

 もうすぐこの機から降りなければならない。カースウェイは手に持つコーヒーカップを名残惜しそうに見つめる。

「フェイズ3の準備は整ったな。後は、奴がアルサレアを引き付けさせるだけだ。それ以外に奴が生き残る手段はない。死に物狂いでやってくれるだろう」

 ガルクスは会議で使用する書類を一通り確認しながら、頬杖をつく。
 カースウェイは手を広げて呆れる。少しくらいは言葉を選べば良いものを。

「貴方は意地悪な人だ」
「お前ほどではないよ、カースウェイ。それとも、本当の名前で呼ぼうか?」
「まだそれは早いですね。もう暫く、カースウェイ=E=グリフでいさせてもらいましょう。この国にいるには、その方がまだ都合が良くてね」

 カースウェイは、すっかり冷め切ったコーヒーを一気に流し込む。

「行きましょう。この茶番劇、貴方は幹事役なのですから」


 ―――2人はニヤリと顔を合わせる。この機を逃す訳には行かない。
 ヴァリム、ミラムーン、そしてアルサレアをも巻き込む陰謀が、始まりを迎えた。







 

 同時刻。西ファーレン基地 最下層


「おっしゃぁ!! だんだん慣れてきたぜ!!」

 流石に何時間も乗せられているのだ、ようやくマトモに動かせるようになってきた。
 撃墜スコアを確認する。最高得点を更新。

「士官学校主席を舐めんなよってんだ!!」

 ソウリュウは増長していた。
 だが、すぐに気付いたようにそれを止めた。この辺りも冷静だ。

「って、シミュレーションじゃなぁ・・・・・・」

 小さな溜息が漏れた。まだ実機演習の許可は出ていない。ガルクスの帰還待ちだ。
 実戦に勝る訓練はないと思っているソウリュウだけに、今は時間の流れが歯痒かった。

(中佐は今頃ミラムーンに着いているのだろうか。この任務、どうもおかしい。嫌な予感がする。早くこの機体をモノにして援護に行かなくては)

「体力的にもあと10時間は保つな。もうひと踏ん張りだ」

 シミュレーターを再起動。敵戦力を雪風10機に設定、10分以内にケリをつける。


 ソウリュウの戦いも、まだ始まったばかりだ。







 

 1530時。アルサレア要塞まであと500kmの地点。

 アルサレア要塞まで目と鼻の距離。相対する基地の数も増えてきている。


「・・・危なかったですね」

 先程飛び越えた基地を遥か後方にした後で、シオリは唐突に言った。

「何が?」
「先程の基地の中にはスナイパーライフルを持ったPFが5機もいましたよ」


 

「鉄の三角形か。衛星が妨害されていなかったら危なかったな」

 鉄の三角形(アイアン・トライアングル)とは、元は上空を高速で飛行する航空機等に射撃弾・誘導弾を確実に命中させるために、発射弾と目標の速度をPFのレーダーと基地のレーダー、衛星のレーダーの3つの情報をWCSで3次元的に処理して目標の予測到達位置に的確に発射させる防空システムの俗称である。
 それは敵が遮蔽物のない空中にいる事で最大の効果を発揮し、如何なる距離にいても確実な命中を保証する。
 また、全ての友軍機の情報は互いにリンクしているため、部隊にいる一機の情報だけで全方位から同時攻撃を仕掛ける事も可能である強力無比な防空システムである。
 これを避けるにはWCSの予測を遥かに超える軌道で回避するか、衛星か基地の何れかのレーダーを破壊ないし欺瞞する必要があった。
 本来なら鉄壁の制空権を確保するこのシステムに、ルシファーとはいえ単機で突入する事は死を意味した。だが、鉄の三角形はステラマックスによる強力な電波障害、衛星の破損などによってその機能を大きく低下させていたのだ。
 確実な侵入を成功させるにはこの機をおいて他にはない。
 だが、それでも危険な事には変わりはない。スナイパーライフルの弾速は実体弾兵装の中でもトップクラスである。万一相対でぶつかれば、機体へのダメージは光学兵器の比ではない。如何にルシファーが強力なディフェンスフィールドを持っていようとも、それがどこまで通用するかは未知数なのだ。


「スナイパーライフルを持っていた機体は何れもアルサレア軍の標準型、Jファーネクスト。世界初の第三世代PF・・・・・・優秀な機体ですが、鉄の三角形が満足に使えない状況で照準を合わせるにはこちらが速過ぎたようです」
「5機もか・・・まぁ、予想はしていたが・・・って、あの速度でそこまで見えたのか!!」

 肝心な事を忘れていた。音速の数倍で飛行しながら、地上の敵機体の機種や機数、装備を完全に把握する。これは人間には絶対に不可能な芸当である。生体融合によって増大したシオリの戦闘能力は、既にレビの想像の範疇をも凌駕しようとしていた。

「だが、回避出来たのは君のおかげだな。敵までは見えなかったが、それまでに機体が小刻みに移動方向を変えていたのには気付いたさ」
「あっ、解りました?でも、生身でそこまで気付ければ凄いですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生身って」

 ―――そんな事言われても何て言ったら良いのだろうと、レビは困惑した。

 

「でもまぁ、・・・・・・そろそろだな。アルサレア要塞と言えばアルサレア最大最強の拠点だ、グレン小隊なんてものが出て来たら苦戦は必死だからなぁ。・・・尤も、俺は戦った事はないからどれだけ強いのかは知らないが」

 現在のグレン小隊はグレン中隊のキース隊とアイリ隊の中からミッションの内容によって選抜される特務部隊としての位置付けがされていた事を、レビは知らなかった。

「・・・・・・ちょっと心配ですね」
「気にするな、雪風6機も同時に相手に出来るのなら気負うほどでもないからな」
「まっ、油断さえしなければ大丈夫でしょうね。どうせこっちも相手を撃滅するために行くんじゃないですから」
「だが、一応は戦わせて貰うぞ。アルサレア最強のグレン小隊・・・その隊長であるグレンリーダーと言えばアルサレア最強のパイロットだろうからな。どちらが強いか、是非戦いたいものだ」

 シオリは最も恐れていた言葉を耳にした。それが聞きたくなかったから最初に『撃滅するために行かない』と釘を刺したのだ。しかし、今度の彼に狂気の表情は無かった。純粋に楽しみにしていたようである。
 シオリはその顔を見て、ハッと思い出した。

「まさか、さっき言ってた『アレ』って、それの事?」
「・・・・・・・・・(コクン)」
「そんなんで機体壊したらどうすんのよ!!」

 シオリは怒った。それは自分の命が惜しいからではない。
 敵地で交戦して機体を失えば、レビがどのような扱いを受けるかは想像に難くない。ましてやアルサレアは野蛮な傭兵国家と教えられてきたのだ、それでは命が残るかさえも怪しいものだ。

「最初から投降してもいいんだが、力がある事を示しておかないと交渉のテーブルでイニシアチブを取れないかも知れない。外交の基本はパワーバランス。その上でしかソフトパワーが役に立たないのだよ」

 レビはフフンと、自分の知識を得意げに披露する。―――が。

「そんな事くらい解ってるわよ!! 私だってザーム国立大学院 政治学研究科を飛び級で出てるのよ!!! だいたいそんな前提なんか、自分が勝たなきゃ意味ないじゃない!! それに、相手を一人だって殺したら交渉なんか応じてもらえる訳ないじゃないの!!!」
「いや、ちょっと待て!! 誰も本気で殺し合うなんて言ってないし!!」

 レビは困惑を隠し切れない。シオリがヒステリーを起こしたのを見るのは初めてだった。
 ―――まったく、ブレインデバイスには人の心を感情的にさせる機能でも備わっているのだろうか。

「じゃぁ、どうするのよ」
「いや、そんなに怒らなくても・・・・・・。あのな、俺達はアルサレア軍に入らなきゃ動けないんだ。だからシオリの言う通り殺し合いなんかしない。でも、ただの捕虜だったらアルサレア軍に拘束されるだけで終わってしまう。だから、アルサレアで一番強いグレン小隊を相手にして、良い戦いをしてから『話がしたい』って言えば、雑魚なんか相手にしなくても自動的に軍の上層部と話が出来るって寸法さ」
「あ・・・・・・・・・解ってるわよ、そんな事くらい」

 シオリは顔を赤らめながらそっぽを向く。
 ―――うっ、かわいいかも。
 少しばかりその表情を観察する。
 その『いやらしい視線』を感じたシオリは、少し薄ら寒い劣情の意識を感じた。

「・・・・・・何、どうしたのよ?」
「あっ、いや、何でもない。でも、この作戦の成功は君の手腕にかかっている。コクピットを外すように協力を要請する、シオリ=セガワ大佐」

 取り敢えず敬礼して誤魔化す。
 「当てにしてるって事さ」
「だったら最初からそう言いなさいよ〜っ」

 歴戦の戦士であるレビに当てにされている事に機嫌を直したシオリは、投げキッスまでサービスする。つくづく女とは怖いものだと、レビは思った。

 

「ところで、やっぱりアルサレア軍に入るんですか?」
「方法が他にないだろう。蒼いのが消えた以上、紅い方の情報を持つアルサレアに行く方が利口だ」
「でも、アルサレアの人は皆ヴァリムを恨んでるんでしょ・・・大丈夫かな」

 彼女はいつになく弱気な表情を見せた。

「・・・・・・あまり考えてはいなかったが・・・今更ヴァリムに帰る訳にもいかないからな・・・傭兵にでも・・・無理か・・・。この機体に自爆装置でも付けさせて誠意でも見せるか」
「自爆・・・ですか?」

 シオリは、自分の身体に爆弾を巻きつけられる事を想像して、嫌な気分になった。それはそうだ。今までの人生の中、そんな場面に出くわした事など一度もないのだ。

「これは相手から来そうな提案だろうからな。まぁ、秘密裏に解除したりしてな」
「・・・・・・それは相手から言って来た時だけにしましょう」

 そんな事を自分から言い出すことは止めよう。シオリはそう誓った。


 ルシファーは加速する。黄昏の空の中、不安と期待の入り混じるアルサレア要塞に向かって。







 

 アルサレア要塞まであと僅かとなった。唯一誤算だったのは、日が傾きかけているためにアルサレア要塞周辺の電波障害がかなり軽微となっている事であった。
 それはそうだ。本来はミラムーン材質研究所に行く筈だったのだから。それがアルサレア要塞まで北上するのだから、時間がかかって当然だ。
 しかし、今まで自らの身を隠してくれていた電波障害がなくなれば、こちらの位置が『まるわかり』になってしまう。
 あと少しだというのに、困った事になったものだ。

 アルサレア要塞がレーダー範囲に入る。最後の障害があるとすれば、このタイミングをおいて他にない。

 シオリは警戒を厳にとる。早速網にかかった。警報音が鳴る。だが、シオリの顔が青ざめる。本物の『ヤバい奴等』が現れたのだ。

「レーダーに反応、敵影4・・・機種は遠距離型JフォートレスにJブレイカー、格闘型Jスラッシャー・・・これは・・・Jフェニックスのカスタム仕様です!! 通信が入っていますが、どうしますか」
「いや、まだしなくとも良い。こちらの実力を示してからだ。4機か・・・グレン小隊だな。御手合わせさせて貰おうか」

 そう言った瞬間、何かの鉄の塊のように見えるJフォートレスからシアン色の光が放たれた。
 専用兵装のTHELキャノン。その破壊力はPF携行武器とは格が違う。

「どわっ!! この距離でいきなりか・・・流石はグレン小隊だ・・・」

 初弾は完全に回避。だが、それも束の間、今度の射撃は確実にコースを捉えていた。

「避け切れない!!」

 シオリの叫びがコクピットを揺らす。フィールド全開。敵弾命中。振動。

「ぐううううううっ、もらったか!! シオリッ、状況は!!」
「フィールドを僅かに貫通したもののダメージ軽微、照射時間が短かったのが幸いでした。今度は・・・Jフェニックスです!!」
「ちいっ!!」

 ルシファーが距離をとるために速度を上げた瞬間、地上から数え切れないほどの光条が放たれた。

「流石、連携が上手いな。前の雪風なんかより断然強いぞ!!」

 ルシファーは飛行変形を解き、その全てを回避。狙いは良いがタイミングがまだまだだ。

「後方、熱源!!」
「甘いっ!!」

 後方から放たれたのはJフェニックスカスタムのディバイドビームライフル、それを回避した瞬間、ルシファーの懐に2つの機体が見えた。先程のJフェニックスカスタムとJスラッシャーであった。

「(甘い)・・・のは俺の方っ!?」
「任せてっ!!」

 シオリは叫び、ルシファーはJフェニックスカスタムのビームカタールを同型のそれで、Jスラッシャーのギガビームブレードをディバイドバスターブレードで防いだ。

「やっぱしグレン小隊に単機は無謀だったかもな。・・・・・・足を止める気か、ならばっ!!」

 今度はレビが咆哮し、マルチブースターの急速後退で2機をいなすと、射撃体勢を取りつつあったJブレイカーへと向かって一気に降下。
 案の定、突撃を受けたような格好となったJブレイカーは至近距離でメガバスターランチャーを放つ。だが、うろたえ弾に当たるような2人ではない。

「銃身の融解を確認、Jブレイカーのバスターランチャーはもう使えない筈です」
「ちょっと賭けだったが、こっちは何とかなったな」

 Jブレイカーが銃身の融けかかったメガバスターランチャーを強制排除するのを確認すると、興味がなくなったかのようにJフェニックスカスタムの方へと向かって行った。


 Jフェニックスカスタム。フレームこそJフェニックスだが、装備はルシファーと殆ど相違がない。
 ―――万能型の空戦型PF。一番警戒しなければならないのはコイツだ。

「結構やるな・・・コイツがグレンリーダーか?・・・しかし色がなぁ・・・」
「ピンクですしね・・・。でも、グレンリーダーは確かJUフェニックスという機体に乗っている筈ですが。・・・あの機体のパイロットはきっと女性ですね」
「確かに・・・良く考えれば機体がJフェニックスなんてのも可笑しな話だからな・・・来る!!」

 Jフェニックスカスタムはディバイドビームライフルを連射。地上に何本もの光の柱が突き刺さる。
 だが、レビはマルチブースターを連続噴射させて、その隙間を縫うようにすり抜ける。
 PFが空中でダンスを舞っているように見えるのは、シオリがそう動かしているからだ。美しい動き。それは全く無駄がない動きという事を意味していた。ただのOSではこんな動きを再現する事は不可能だ。相手はさぞかしビビっている事だろう。

「Jフェニックスのアタックウィング展開を確認」
「痺れを切らして一斉射撃に出る気だな。若い若い。・・・変形して距離をとる」

 ルシファーは変形し、攻撃範囲であった地点から一気に脱出する。
 Jフェニックスカスタムも遅れて大G加速でそれに追随する。
 空中での高速チキンレースの始まりだ。

 

 ルシファーの高速飛行に、Jフェニックスカスタムが喰らいつく。振り切られまいと向こうは必死だ。
 レビは少し考えると、ニヤリとしながら推力を少しずつ絞り始めた。

「どうして速度を落とすんですか?」

 敵のオールレンジ攻撃を避けるには超高速旋回による離脱がセオリーである。しかし、現実にレビは速度を落としている。疑問に思ったセガワは聞いてきた。

「こうするんだよ!!」

 レビは変形を解くと、その場で180度ターンしてJフェニックスカスタムの方へ一気に折り返す。これでオーバースピードのJフェニックスは大きくコースアウトする筈だ。その間にもう一機を押さえれば時間が稼げる―――筈だった。
 そこに唯一の誤算があった。

「何ぃ?」
「勿体ない・・・」

 その瞬間、メインフレームに衝撃が走った。
 簡単にすり抜けられると思っていた筈が、非常識にも相手はあの一瞬の間にライフルでメインフレームを殴っていたのだった。この相対速度では巡航モードだったセラフィムロードのリニアフィールドも衝撃吸収で精一杯だ。メインフレームに僅かな凹み傷がつく。
 おそらく反射的な行動だろう。ライフルで殴る事は実弾系のライフルが弾切れになって使い物にならなくなった時くらいである。それをメイン武器の、しかも弾切れのないエネルギー系のライフルで行うとは思ってもいなかった。それも、マニピュレーターを破損するというリスクを冒してまで。
 ただの蛮勇である以外に形容のしようがない。


「被害は?」
「戦闘に支障はありません」
「まっ、戦力が上手く削げた事を喜んでおこう」

 そう思った瞬間、Jフェニックスカスタムの腕部からブレードが伸びた。一気に突撃。
 しかし、相手が斬り掛かった瞬間に右に回避。なかなか鋭いが、踏み込みが馬鹿正直過ぎる。
 擦れ違いに後ろから相手の背中をシールドの腹で殴りつけて払い除ける。
 次に来たJスラッシャーが巨大なブレードを展開。惑星Jで最強の近接武器、噂に名高いギガビームブレード。ルシファーもディバイドバスターブレードを構え、それに対応して両者は空中で激しく鍔競り合う。
 そして両者は同時にハイパーバーニアを全開にする。パワーとパワーのガチンコ勝負。
 だが、如何にこちらの武装が出力を強化しているとはいえ、もともと出力では向こうが上回っている。このままでは少々分が悪い。だが、分の悪い戦いも悪くない。

「何てパワーだ・・・やはり格闘戦は最高だな」

 レビは久し振りの真向勝負に本気になり掛けていた。
 その瞬間、機体後方に反応があった。それは両腕にレーザーソードを装備したJブレイカーであった。
 迂闊にも完全にノーマークであった。だが、下手に動けばJスラッシャーに背中を見せる事になる。

「やべっ、シオリッ!!」
「もぅ、目の前だけに集中するから」

 そこでレビはシオリの力を垣間見る事になった。
 シオリは前方のJスラッシャーと剣を交えたままの状態で、後ろから来たJブレイカーのレーザーソードをアタックウィングのブレードオービットで防ぐという荒技を披露した。
 こんな事は、I’s-Link Systemでは絶対に不可能だ。荒業どころではない、神業だ。


「おいおいおいおい!! 凄い事するな・・・」
「へへっ、このくらいはさせて貰いますけどね〜」

 シオリは照れたような顔をした。モニターに顔が出るくらいなのだから、まだ余裕があるようだ。
 そして、Jブレイカーのレーザーソードが出力超過で爆発し、バランスを崩したのを確認すると、相手が味方の危機に隙を見せた瞬間にルシファーはHDDバーニア全開で急発進。Jスラッシャーを一気に押し返す。それに対抗意識を燃やしたのだろうか、相手も加速して逆に追い返そうとする。猪突猛進、頭に血が上りやすいタイプのようだ。
 レビはすぐさまマルチブースター全開で斜め下に急速後退する事でJスラッシャーを振り解き、間髪を入れずブースト全開で距離をとる。
 こういう突撃タイプの奴は好きだが、扱い易いのが珠に瑕だ。





 

 激しい空中戦は一段落し、疲れの色が見え始めた両者は一旦距離をとる。

「結構しんどかったな・・・しかし、こっちが破壊するつもりで行けば、そう苦戦するものでもなかったかも知れんがな」

 このときレビはグレン小隊を過小評価していたのかも知れない。殺す気でいけば自分一人で全員片付ける事が出来ると。しかし、この優勢はシオリというブレインデバイスがあっての事である。

「半分は私のおかげでしょ?」

 そう釘を刺す。少なくとも、彼女がいなければ最初の連携攻撃の時点で深手を負っていた筈なのだから。

「でも、アルサレア要塞はすぐそこなのに、どうして援軍が来ないので・・・・・・いえ、来ました、速度はマッハ3。機種・・・JUフェニックスです!!」

 それを聞いた瞬間にレビの目付きが変わった。

「来やがったか、本命が!! ・・・よぉし、通信を繋げぇ!!」

 シオリは、わくわくしたような表情の彼に半ば呆れながらも通信を繋いだ。

「・・・繋ぎましたよ」
「あ、ああ、すまない・・・・・・グレンリーダーだな・・・俺と勝負して貰おうか。アルサレア最強と言われる力・・・見せてくれたまえ」

 すると、今まで通信のひとつも入れなかった相手に驚いたような声で返事が帰って来た。

「何者だ!!」
「ふふふふ・・・名前は捨てたよ・・・捨てた名で良ければ・・・いや、名乗るのは・・・俺に勝ってからにして貰おう!!」

(はははっ、何言ってんだ俺は・・・)

 レビは白々しく偽る自分の滑稽さと、それに真面目に答える相手の生真面目さに笑いが止まらなかった。


 ―――だが。レビはニヤリとする。アルサレア最強の戦士であるグレンリーダーとのタイマン勝負。
 ここからが最高のクライマックスだ、血が沸き踊るぜ!!

「シオリ、手を出すなよ!!」
「えっ、ちょっと!?」

 気を取り直したレビはディバイドバスターブレードを構えさせ、推力全開でJUフェニックスに突撃する。
 少々不意打ち的な攻撃であったが、グレンリーダーは何とか上方に回避する。反応速度がさっきの奴等とは段違いだ。こうでなくては面白くない。

「はっはぁー、甘いぜ!!」

 ルシファーは遥か上空のJUフェニックスに向かってディバイドバスターライフルを放つ。一射、二射、三射と、連射する。
 だが、相手もアルサレア最強と呼ばれる歴戦の戦士。光条の間を擦り抜けるように巧みに回避、すぐさまアタックウィングからフェザーオービットを射出。
 4基を自機周辺に、もう4基を相手の周辺に配置する。
 自機周辺のフェザー4基をディバイドビームライフルと共に一斉射。
 同時にルシファーの回避の瞬間を狙って残りの4基がランダムにこちらを追う。そして一基ずつバラバラに連続発射、相手の動きを牽制しながら追い込んでゆく。機体をあれだけ動かしながら、フェザーの操縦も精密で戦術的だ。今までの敵とは桁が違う。
 ―――少なくともフェザーの操縦は奴の方が上だ。レビはそう思った。いちいち凄過ぎて余計に燃えてくるぜ。
 だが、どうやらこちらが格闘戦に持ち込もうとしている事はバレているようだ。安い挑発などに乗ってはくれない。なら、その挑発に乗らざるを得ない状況を作り出すまでだ。
 ルシファーは増速する。
 だが、こちらが接近しようとしても、JUフェニックスは迫り来る敵に対してハイパーバーニア全開で距離を保つ。
 堅実な戦い方だが、面白みに欠ける。さっきのスラッシャーのパイロットの方がよほど自分好みの性格をしている。


 そんな事を思っている間にも、JUフェニックスは自機周辺のフェザーオービットを左右に2基ずつ少し離し、同士討ちを避けると同時にシールドを構えながらディバイドビームライフルを敵に向ける。7門の砲孔のうち内側の3門はこちらを直接狙い、残りの4門は逃げ場を塞ぐ。今度は挟み撃ちだ。
 こちらの前後左右から一斉射。全方向から同時に、そして連続的に襲い掛かる。
 逃げ道は殆どない。

「チキショウ、コイツ無茶苦茶強ぇえじゃねぇか!!」


 レビは操縦レバーを一気に曲げ、ブーストペダル乱暴に蹴る。急速バレルロールで後方からの斉射を回避。
 僅かな間を置いてディフェンスフィールドを全開。高密度プラズマが青白く輝く。命中弾あり、幾つかが装甲を灼いた。流石に全ては回避し切れないようだ。
 だが、これだけでは終わらなかった。JUフェニックスのフェザーオービットはその力の限り敵を追い、光条を放ち続ける。
 レビはシールドで辛うじて防ぐ。だが、多目的シールドは防御面で劣る。そう長くは保たない。
 敵はここぞとばかりに集中攻撃をかける。対してこちらは完全に防御に回っている。後手後手だ。

「ええぃ、クソッ!!」

 レビは苦虫を噛み潰したような声を喉から捻り出す。卑怯者・腰抜け、鶏姦野郎。様々な侮蔑の言葉を並べ立てる。だが、状況は変わらない。
 命中弾が多くなってきた。装甲表面の温度が上昇し、内部機構にダメージが出るのもそう遠くない。
 フェザーオービットの攻撃力では強化されたディフェンスフィールドを貫通したところで殆どダメージにはならない。だが、これだけ一方的に貰い続けると、損傷が蓄積していくのは時間の問題だ。
 だが、敵は待ってはくれない。JUディバイドビームライフルを斉射。亜光速の弾丸がシールドを弾き、ルシファーはバランスを崩す。

「しまった!! シオリ、シールドは!?」
「まだ大丈夫、でも拙い事には変わりがないわ」

 浅かった、シールドの破壊には至っていない。


 レビは奥歯をギリリと噛み締め、表情は苦渋に歪む。

「格闘戦でさっさと決めて投降してやろうと思ったのによ・・・・・・野郎、ブッ潰す!! 行くぞシオリッ!!」
「・・・・・・なによ、結局そうなるんじゃない。解ったわ。BD・フルブラスト!!」

 ―――まったく情けない姿を晒してしまったが、こうなったら本気でやってやる。
 レビは相手の遠距離戦を重視する消極的な姿勢に『自分勝手に』ブチ切れた。


 投げ出された機体を一瞬で立て直し、再度バレルロールで第2射を回避。背部ミサイルをばら撒きながらHDDバーニアで一気に加速、ミサイルを追い抜かす。爆発的な推力にフェザーオービットは追い切れない。出遅れたJUフェニックスとの相対距離を一瞬で詰める。

「調子に・・・乗ってんじゃねぇ!!」

 両腕のブレードで回転斬り、すかさず回し蹴りを入れる。アルティメットアクションの超高速版だ。続けて先程のミサイルがバランスを崩して無防備状態のJUフェニックスに殺到する。

「やってやれ!!」

 レビは吼える。
 JUフェニックスが爆煙の中から姿を現す。致命傷にはないっていないが、かなりの損傷は受けている筈だ。
 敵のフェザーオービットが傷付いた機体を守るように展開される。

 

「野郎、性懲りもなく無粋な兵器を使いやがって。・・・シオリッ、君の力で叩き落してくれ」
「無粋な兵器って事は、あのフェザーオービットだけを狙えば良いの?」
「ああ、奴とは格闘戦で戦いたいんだ」
「とか言っておいて先に撃ってるじゃない!!」
「いや、あれはつい・・・頼むよ」
「・・・はいはい」

 ディスプレイから彼女の顔が消え、代わりに“Attack Wing Stand by”という文字が流れた。それが―――
 ―――Open an Attack(攻撃開始)―――
 となった瞬間に8基全てのフェザーオービットがアタックウィングから射出された。
 紅い光を湛えた不気味な羽根だ。


 出力を強化した『絶対破壊』、リニアフィールドに守られた『絶対防御』、そしてフェザー自身が強力な推進装置を内蔵する『絶対機動』。
 空を支配する絶対者の翼。これこそがセラフィムロードの真骨頂。
 ―――テメェが持ってる『ただのアタックウィング』とはデキが違うんだよ。

 

「放て!!」

 レビは吼え、シオリはそれに従う。2人の思考はブレインデバイスとI’s-Link Systemを通して完全に一体化、全てを共有化する。正に一心同体だ。
 同時にルシファー増速。ハイパーバーニアとHDDバーニアが火を噴く。フルブースト。敵のバーニアも速かったが、こちらの推力はそこに超がつく。超高速だ。


 ルシファーのディバイドバスターライフルと、JUフェニックスのディバイドビームライフルが激しく交差する。
 同時に、周囲に十数本もの光条が連続的に走り続ける。
 その瞬間から互いが互いへの全方位飽和攻撃を開始した。


 しかし、そもそも互いが互いを飽和攻撃するのは無茶な話である。フェザーの操縦がある程度は自動で行われるとは言え、アタックウィングによる全方位攻撃を回避しながら、相手を全方位攻撃が出来るほど、人間の思考力の限界は高くなかった。そのため、過度の集中は機体制御とフェザー操縦を反比例させてしまう。だからこそ、どうしても攻撃よりも回避を優先せざるを得ない。
 ―――だが、それは普通の場合のみの事であった。

「どぉしたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 レビは叫んだ。
 その咆哮はルシファーのフェザーオービットがJUフェニックスのフェザーオービットを全て破壊したのと同時であった
 こちらには2人分の脳があるのだ。それも片方はブレインデバイス。パイロットが1人、それもI’s-Link Systemしか搭載していないJUフェニックスでは攻撃精度が比較にならない。

「あの〜ぉ、せっかくの気分をブチ壊して悪いんだけど、アレ壊したの私なんですけど・・・」
「あっ、ああ・・・ありがとう。・・・あっ、フェザーオービットは戻さなくて良いぞ。移動が下がるのは仕方ないが、やっぱり格闘戦には無粋過ぎる武器だからな」

 レビは照れ臭そうに微笑むと、アタックウィング基部に装着されているミサイルオービットを強制排除し、ディバイドバスターライフルを投げ捨てた。
 そして通信の周波数を最初のようにハッキングで無理矢理合わせ、強制的に通信を繋げる。

「ライフルを捨てろ、格闘戦だ!!」

 ―――これだけ誠意を見せてやっているのだ、いいかげん・・・・・・
 だが、相手からの返事はディバイドビームライフルの一斉射でであった。こちらがわざわざメイン武装のディバイドバスターライフルやアタックウィングまで排除してやったというのに。どこまで頭が固い人間なんだ。


 回避する事は容易であったが、いきなりの御挨拶に気分が悪くなった。

「ああっ、聞こえてねぇのかクソが!! こっちは射撃武器まで捨ててやってるってのによぉ!!」

 レビはルシファーに落とした武器を指差させ、地団駄を踏ませた。ルシファーのOSが人間の脳と一体化した事で、PFで再現可能なアクションが飛躍的に増えたのだ。

「へ〜ぇ、この機体、こんなのも出来るんだ・・・あと、通信は全然繋がってないみたいですよ」

 こんなときに電波要害だ。日はもう傾いているのだから、恒星風自体が強くなったという事だ。恒星周囲の重力バランスが崩れたと見える。まったく鬱陶しい。

「なっ、それより・・・そんなところで感心するなよ」

 ルシファーは右腕アーマードガントレットからブレードを展開させた。
 中指と薬指をクイクイと動かして、かかって来いと徴発する。
 ―――これなら大丈夫だろう。いい加減にしないと、またキレそうで嫌だが。


 少しばかりの沈黙が訪れる。





 

 暫くすると、相手もこちらの意向を汲み取ったのであろう、ライフルを捨てて腕部アーマードガントレットからブレードを展開させた。

「そう来なくてはな・・・シオリ、手を出すなよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・今度は助けてあげないわよ」

 半ば呆れた顔だ。今日1日でこの表情を何度見た事か。こちらも苦笑する。これも何度目だろうか。


 ルシファーとJUフェニックス。両者の機体は驚くほどに共通点が多い。開発された国が違うとはいえ、兄弟機のような間柄。それでも後に開発されたルシファーの方が性能は上、レビの格闘戦のセンスも合わせれば、勝算は十分にある。
 だが、殊に接近戦に於いて機体性能や操縦技術だけで勝敗を分ける事は出来ない。
 死に直面する恐怖を最後の最後まで背負い、背中を合わせた状態で冷静さを保つ事が出来るか―――つまり『気合』が最終要素として大きな位置を占める。
 それは相手がアルサレア最強のグレンリーダーなら尚更であった。


 両者互いに隙を窺いながら空中を旋回する。隙は外面からは見えないが、今の感覚は搭乗するパイロットの鼓動、息遣いを教えてくれる。
 ―――この、喉がジリジリと焼け付くような感覚が堪らない。やはり格闘戦が最高だ。

 

 そして十数周目に入ったところでJUフェニックスが仕掛けた。

「速い!!」

 虚を突いた一撃はルシファーの頭上を捉えていた。レビはすかさず操縦桿を引き寄せる。後退。
 全てが遅く見える。剣の振りも、機体の後退も。全てが無限に感じる。
 敵のブレードの切っ先が、目の前を通り過ぎる。辛うじてマルチブースターによる急速後退が間に合ったようだ。
 ―――今のはヤバかった。レビは息を呑む。
 そして、瞬間的にHDDバーニアで距離を詰めると、ブレードを突き立てる。しかし、それに反応していたグレンリーダーは同じブレードで受け止め、フリーになっていた片腕のシールドでカウンター。ルシファーも呼応して同じシールドでそれを防ぐ。

「良いねぇ・・・この感覚、脳が灼けるようだぁ!!」

 レビは叫び、シールドからブースターを吹かせてJUフェニックスを振り払った。

「隙を見せたな・・・とどめぇぇぇぇぇっ!!」

 バランスを崩したJUフェニックスにルシファーのブレードが迫った。ほぼ密着状態。後ろに躱しても間に合わない。これで終わりだ。安心しろ、コクピットは狙わない。
 だが、敵の諦めは想像以上に悪かった。
 ブレードが機体に触れるまでの一瞬に、敵は後ではなく前に向かってブースターを噴かしたのだ。激突。激しい衝撃。なんという荒業だ。

「あの状況で・・・野郎、出来るな・・・・・・うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 終止符を打てなかったルシファーは、レビの咆哮と共に再びJUフェニックスに襲い掛かった。





 

 あれからどのくらい経ったのだろう。いや、実際には殆ど時間は経っていないのであるが、感覚の全てを集中させている両者には無限のように感じられた事だろう。
 しかし、その間にも両機の腕は満身創痍になっており、どちらかの一撃を受ければ今にも崩れ落ちそうな様相を呈していた。


(考えろ・・・俺ならどのタイミングを狙う? 隙を作って見せるか? ・・・いや、小細工は無用、敵の攻撃を見切るだと?ふん、どうせなら先制攻撃でケリを付けてやる)

 レビは『カッ』と目を見開き、その瞬間に残った全ての推進機構に火を付けた。敵も全く同じタイミングで突撃して来る。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ―――これで決める!!


 双方とも音速を遥かに越え、激しく交差する。
 激突による轟音は互いに結び合った後の事であった。

 衝撃波が同心円状に砂埃を立て、周りの木々を揺らす。

 遅れてきた凄まじい轟音と共に崩れ落ちたのは、JUフェニックスの方であった。
 こちらが速度の差で僅かに競り勝ったのだろう。
 だが、機体は爆散する事なく、それどころか何事もなかったかのように着地した。
 ―――そもそも最初からコクピットなど狙ってはいないが、それでも思ったより傷が浅かったようだ。ルシファーとて、右腕以外は殆ど無傷に近い。実際には痛み分けだ。
 レビは本気を出したのに作戦通りにいった事に安堵と、少しの物足りなさを感じた。


 続いてルシファーも降下する。損傷したJUの周りには、グレン小隊の仲間達が集まっていく。こちらを警戒しながら。
 少し寂しい思いでそれを見下ろす。人気がある事は羨ましいものだ。


 

「ふん、顔くらい見せてやるかな」

 レビはそう言いながらもかつらと仮面を着ける。

「えっ、それで行くの!?」
「まぁ、社交辞令って事で。女に間違えられればすぐには殺されなかったりしてな」
「いや、それは・・・・・・」

 シオリの制止は時既に遅く、レビはアルサレア人に対するさり気ない侮蔑の言葉を吐きながら、コクピットハッチを開いた。


 空調を通していない新鮮な空気。冬の冷気に冷まされて、火照った体に心地よく感じる。

 日はもう完全に暮れようとしている。紫外線は大丈夫だろう。

 ワイヤーロープを伝って地上に降りる。両手を挙げて頭に当てる。投降のポーズ。

 続いてJUフェニックスのコクピットハッチが開放される。

 背の高い青年のようなシルエットだ。顔までは良く解らない。

 

 ―――アルサレア最強のエース、グレンリーダー。アルサレアを統治する最高権力者グレン=クラウゼン2世。
 そしてグレン小隊・・・・・・・・・ヴァリム将兵を恐怖させた最強部隊。一体どんな奴等なのだろう。楽しみだ。











 

 アルサレアの地に降り立ったレビ=プラウド。彼の目的は謎の機動兵器の破壊であった。
 しかし、破壊目標であるアレスは既に人工衛星J’s Moonに到達していた。
 彼はこのアルサレアで、そのような行動を起こすのか。


 そして、人知れず暗躍するジャニター。

 戦場はまた、新たな表情を彼等に晒し始めた











 

Panzer Frame J-Phoenix Anecdote 「Mechanized weapon from Nothingness」

Scenario4“Lucifer is reincarnated, with that the Panzer Frame fuses with a human.”
END.

to be continued・・・Scenario5“The disturbance that broke out in a certain devil castle on Geostationary orbit changes the old order of the world”





 




 さぁさぁさぁ!! 遂に終了したシナリオ4

 この最終話はシナリオ3の最終話の裏番組でした!!

 グレン小隊とのガチンコと、グレンリーダーとのタイマン勝負。
 レビとグレンリーダーとの本気バトルは、他の作品ではなかなか見られない好カード
 !!

 そして、シオリの能力も爆発でした。
 ブレインデバイスシステムの究極形態。それはブレインデバイスとI’s-Link Systemを通してパイロットとデバイスの思考を完全に一体化、全てを共有化する『マン・マシーン・フュージョン』。
 ルシファーが単機でグレン小隊とガチンコできたのも、これが大きな要因です。
 そして、今までの実験機はこれが失敗していたから、第四話にも出てきた『何らかのズレ』が起こって暴走してしまった訳です。
 それを可能にしたのは『愛と信頼の成せる業』だったりします(笑)



 

 そういえば、シオリは既に大学院を出ているという記述がありました。少しややこしいので解説を。
 前提として、シオリの年齢を25歳程度と仮定します。


 ヴァリムの学制は日本と同じで、初等学校(小学校)が6年、中等学校(中学校)、高等学校が3年ずつ、そして大学が4年があります。
 しかし、これとは別に初等学校卒業時に5年過程の軍学校へ進学するという選択肢があります。そしてシオリは軍学校出身です。
 因みに軍学校では高等学校卒業資格が得られるので、通常の高校生よりも1年早く、17歳で大学進学資格が得られるという訳です。
 尤も、軍学校のほぼ全て学生はそこから部隊配属か、成績優秀者のみ2年過程の士官学校に進みます。
 因みにソウリュウはこの士官学校の戦闘指揮官養成科を主席で出ています。そして卒業してすぐフェンリル機動師団に志願、配属されたので、まだ19歳です。それでもいきなり副官をやっているのは、指揮能力ではなくPFの操縦力量がレビの次に高かったというだけで、口だけの奴は三流以下だというのが、レビの考え方です。
 ところで、そうではない人間。シオリのように軍学校出身者で大学に行く人間は、軍隊生活に嫌気がさした人間か、よほどの才能がある人間だけです。シオリはヴァリム最高峰のザーム国立大学の政治学部へ進学していますから、よほどの才気とコネがあったのでしょう(父親が現役の大将だった時代ですしね)。

 そして、覇権国家であるヴァリムでは徴兵制くらいありそうですから、地球の某国家のように18歳から2年間の徴兵制があるとします。しかし、軍学校出身者は訓練課程を修了しているので徴兵が免除されます。そのため合計で3年早く大学に進学する事が出来るのです。
 また、ここの大学は最短2年で単位取得中退が可能なので、19歳で大学院に進む事が出来ます。そこでシオリは21歳で政治学の修士号、23歳で博士号を取得した訳です。(別にシオリは天才というわけではありません。努力家の秀才タイプです。少なくとも大学院への飛び級ならば普通に勉強していれば難しい事ではありません。2年は無理ですが・・・)

 そして父親の引退と共に、官僚軍人を育成する高等士官学校(日本でいう防衛大学校。ここを出ないと将官クラスには絶対なれない)を特別枠(学術研究者出身の特別士官を徴用する目的で募集される枠)で入学。通常は3年過程だが、シオリは軍学校出身で博士号を持っているので1年で卒業。親の七光りもあって24歳で大佐に任官されます。
 当初は顔、スタイル(といっても胸はないが)、能力、家柄を備えたアイドル軍人として注目されていたが、能力ではなく外見だけを軍のプロパガンダに利用される事を嫌い、軍本部と衝突した経験を持つ。その後は軍本部ではなくフェンリル機動師団に志願、再三の説得を無視し、配属されて1年。現在は25歳という訳です。
 階級は殆ど変わらなくても、士官学校しか出ていない戦闘指揮官のレビと、政治色の強い官僚軍人のシオリとは、学歴に大きく差があります。

 因みに、レビとの最初の出会いは、軍学校でクラスメイトになったときです。別に幼馴染だったという訳ではありません。
 何故か身寄りと過去の記憶のないレビに、彼とは何の関係もない筈である彼女の父親ショウゾウ=セガワが後見人になったという異様な関係からスタートしました。
 シオリと同じくレビも彼の事を父親と思っているのにはこうした背景があります。
 その辺りも、レビの出生の謎と大きく関係していく事になるのですが・・・・・・・・・本編中でそれが明かされるかどうかは未定です(滝汗) 



 

 そしてガルクスから驚愕の事実が明かされましたね。カースウェイは本名じゃない!!(そりゃ、コードネームですしね)

 一体誰なのか!?

(誰でもなかったら、わざわざ加筆してまで伏線張ったりしないですからね。某重大人物の血縁とだけ言っておきます)


 そのガルクスも何やら暗躍を始めています。
 何か知らないうちにアルサレアに飛ばされてしまったレビはこれからどうなる!?
 そして一人訓練に勤しんでいるソウリュウは何を思う!?
 レビを捕縛したアルサレアは、彼にどのような処分を下すのか!?


 次のストーリーはアルサレアがメイン。事態の深刻さを感じたグレンリーダーによって新キャラや新機体、懐かしのあのキャラまでが一挙に登場。この動乱もフィナーレに向けて大きく前進していきます。
 そしてアルサレアの暗部、ツェレンコフ参謀本部長の暗躍など、新たなアクターも増えて、謎の機動兵器をめぐる策謀はますますヒートアップ!!

 各陣営の意図が複雑に交錯するハイスケールの陰謀劇。各人の動きにチェック!!


 

 あと、余談ですが、この時代はフェンナとグレンリーダーが結婚(まぁ、マスオさんですな)していて、グレンリーダーには正式にグレン2世を襲名してもらっています。だから、レビ作品での本名はグレン=クラウゼンです。







 

 さて、次回はシナリオ5『魔上攻略〜J's Moon攻略戦〜』です。

 どうでもいいですが、英語版タイトルは“The disturbance that broke out in a certain devil castle on Geostationary orbit changes the old order of the world”
 直訳すると『静止軌道上にある悪魔の城で起こった動乱が世界の旧秩序を変える』という意味です。(構文が頭でっかちだとかいうツッコミは勘弁して下さいw)
 邦題タイトルと全然違います。そもそも日本にあるハリウッド映画の邦題は本物の題名と全く違うものが多いらしいので、ちょっとシャレてみました。
 ですが、これはこれで本質を突いています。むしろ、邦題の方が表面的な事象しか映してはいません。
 言葉は価値鏡です。それに応じた意味を持っています。

 そう、シナリオ5は、2つの意味を同時に内包した複合的なストーリー構成になっています。一見ただの戦闘であっても、それには重要な意味が含まれている。目に見えるだけが真実や、物事の本質であるとは限らない。そんな作品にしたいと考えたので、日本語の題名と英語での題名が異なっているのです。


 とはいえ、ここから先は書き溜めたストックが殆どありませんし、少し時間的に余裕がなくなってきたのですぐには更新出来ないとは思いますが、どうぞ見捨てないでくださいね(笑)


 あと、この作品で出て来る主人公達の機体は順次立体化されていくので、そちらの方も見てもらえれば作中のイメージが更に固まっていくと思います。どうぞお試しください。


 それではまた。


 

 でわでわ〜


 


 管理人より

 レビさんよりシナリオ4のChapter6をご投稿頂きました!

 ……グレン小隊もレビ&ルシファーのどちらも敵に回したくないですね(苦笑)

 さて、タイトルからして次は宇宙ですか……どのような事になるのか見物です。
 


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