*1「僕」


 古代遺跡じみた建物へと足を踏み入れる前に時計を確認し、サーヴィランスへと振り返る。
さっきまで「僕」がしていた通りに、サーヴィランスは手足を投げ出した格好で力なく座り込んでいる。
柔軟体操をしているようにも見えるが、その足は砂の中にすっかり埋まってしまっていた。

 もう一度時計を見て時刻を確認する。今は午後10時20分。

 ―――あと、10分だ。
僕は屋根の無い石の建物へと歩みを進め、入り口とおぼしき四角い穴をくぐる。

 建物の内部は、まるで教会の様だった。
左右に幾つもの石柱が横倒しに並べられ、奥には一段高くなった石舞台と、最深奥にはかろうじて
人間の形をした、高さ5メートルほどの石像が置かれている。
 
 像の表情は伺い知ることはできないが、その腕にはかつて子供の像が抱かれていたのだろう。
崩れかかった外観からは、作られた当時よりも神秘さがにじみ出ているような風貌をしている。

 そう、「まるで」ではなく、ここは教会だったのだ。
さしずめ僕は、石像の前―――低い石段を登った石舞台の上―――に立つ依頼主に、罪を告白する
「哀れな子羊」といったところだろうか。

 しばらく教会の内装を見回し、ゆっくりと依頼主の元へと近づく。

 残り時間は、あと5分。


 *2「記録映像」


 パンツァー・フレームの主兵装―――「80mmサブマシンガン」の装弾数は、64発だ。
「ノ」の字に曲がったマガジンの内部には32発の弾丸を横二連装に詰め込んであり、
32発毎に左右の弾倉を切り替えることで、見かけ以上に装弾数を増やしている。

 そしてその内の半分―――32発が、黒い怪物に向かって放たれる。
32度の閃光と轟音がモニターを埋め、怪物の掲げた左腕―――その腕に掴まれた、J−ファーカスタムの
ウイングパーツへと、吸い込まれるように突き刺さる。

 怪物が盾にしたウイングはほんの数発で粉砕され、残りの弾丸は全て無防備な怪物の左腕を破壊する。
パンツァー・フレームの加速力と自身の加速力を乗せた弾丸は、黒い怪物の肘から下を吹き飛ばし、
怪物をわずかによろめかせた。

 加速を続けてさせていたジャックは、そのままもう一度右手のトリガーを引く。
弾切れになったマガジンが切り替わり、がちり、という音とともに新たな弾丸が銃へと注ぎ込まれる。

 続けて上半身を捻るように左スティックを後ろ、右スティックを前に突き出しながら左へ倒し、
機体の上体を大きく左へ回転させる。

 よろめいた怪物めがけて、ジャック機は右肩から体当たりを喰らわせる。
凄まじい衝撃でカメラの視界が大きくブレを起こし、ノイズが走る。
カメラの視界が戻ったとき、ジャックの機体は倒れた怪物の上に馬乗りになっていた。

 右膝を地面に着け、作業モードに切り替えた左手で怪物の右腕を押さえ込む。
そのまま、怪物の頭部に銃口を突きつけた。


*3


 ジャックは、トリガーを引かない。
それどころかスティックから手を離し、じっと怪物を眺めている。
機体も両手のコントロールを失い、押さえ込んだ腕に力が入っていない。

 そのまま、ジャックは左コンソールの「VOICE」キーを叩き外部音声に切り替え、怪物に向かって呼びかけを始める。
何を思ったのか、もの言わぬ怪物に「投降するんだ!」と何度も強く言い放つ。

 怪物は勝機と見たのか、戒めから開放された右腕の触手を振るい、ジャック機のマシンガンを打ち壊した。
真ん中から真っ二つにへし折れたマシンガンを器用に掴み、怪物は更にジャック機の左腕めがけて右腕を振るう。

 左肩に直撃を受け、怪物の触手に握られていたマシンガンが暴発した。
32発分の炸薬が炸裂し、コクピットの左モニターに閃光が走る。

 「こ―――の、畜生!」

 即座にジャックは両ペダルを引き、ブースト移動で怪物から距離をとる。
損傷は左肩装甲半壊。装甲板のアクチュエーター(肩装甲の可動機構)部のみの損傷なので、腕の稼動自体には大きな問題は無い。

 だが、ジャックは反撃を行わない。
苛立っているのか、手早く左右を見回して機体の損傷を確認すると、その場で機体の膝を着かせ、
「OPEN/CLOSE」キーを押して、怪物の目の前でコクピットを開放する。
二重のハッチが開放され、シートが上方へせり出していく。

 ジャックは腰と足のシートベルトを外し、立ち上がる。
直後に右から吹いた砂嵐に、ジャックは思わず顔を背けて右手で砂をしのいだ。

 ―――そのとき、横を向いたジャックの目が、「紅く染まっているように」見えた。


 *4


 ジャックは目を閉じ、浅く呼吸を整えると、目を開いて怪物に向き直る。
そのとき、もう目は紅くなかった。

 怪物が迫る。
吹き飛ばした左腕からは木の根のようなものが生え、失われた形を復元しようとしていた。
ジャックは両腕を広げる。

 怪物の右腕が動く。
マシンガンの暴発で2本の触手が失われていたが、残りの2本がジャックへと迫る。
ジャックは恐怖を抑えているのか感じていないのか分からないが、腕を広げたまま叫ぶ。
砂嵐が周囲を襲い、何を叫んだのか分からなかった。

 怪物の触手が迫る。
そしてそのまま、ジャックの首に絡みつき、その首を
――――――――――――


 ――――――――――――映像が、途切れた。


 *5「ジャック・イリーガル」


 「―――これが、”ジャック”の最期の映像よ」

 わずかの沈黙の後、メイルが告げた。
「ぼく」は、電源の落ちて暗くなった画面を見つめている。
構わず、メイルは続ける。

 「この後機体は待機モードへ移行、映像は一旦途切れているわ。
次の映像には、ジャック。貴方が乗って、この機体を動かしていた……。
―――そして、またあの怪物と戦闘を行っている。結果は、知っている通りね」
ゆっくりと話し終えて。一息着く。

 「―――なあ、結局、この化けモンは何なんだ?」
 やけに落ち着いた口調で、アームスが尋ねる。
おそらくは、メイルとぼくの両方に対しての質問だろう。

 「あたしは何も知らないわ。ジャック、貴方は?」

 「ぼくも分からない」
 互いに首を横に振り、そう答える。そうとしか答えられない。

 「そっか――――――。でもまぁ、コイツが最初の事件から絡んでたのは間違いないだろうな」
 どこか達観したような口調で語る。

 「最初の―――ぼくの仲間が、死んだ―――」
 思い出す。
 怪物の姿、ひしゃげる戦車、全てを奪う炎、仲間たちの怒号、悲鳴、断末魔―――。

 「大丈夫?」
 「―――え?うわっ」
 気が付くと、目の前にケイの顔があった。慌てて顔を離すと、よく見えないのかケイは少し目を細めた。
 あまり意識してしまわないように呼吸を整えて、「大丈夫だよ」と軽く返しておいた。

 「何にせよ、これで当座の活動方針は決まったわ。今後、陸路での輸送は控え、演習も、有事に備えて実弾を使います。
まだチーフに許可を取らなければならないけど、認可も下りるでしょう。―――意義は、無いわね?」
 極めて事務的に、メイルが言い放つ。
ここまできっぱりと言い切るのだから、彼女はこの施設でもかなりの有力者なのだろうと、思う。

 ただ、一つ気になることがあった。

 「―――ぼくはこれから……どうなる?」

 「貴方には、しばらくこの施設に居て貰うことになるわ。数日間の事情聴取を行った後、アルサレア本国か、
ヴァリム本国で身元の受け入れ先を探すことになるわね。―――それまでは、しばらくあたしたちが貴方の生活を
サポートしていくことになると思うから、後のことは気にしないで」

 ―――戦いは、出来ないのか―――。


 *6「僕」


 「―――来たか」
 そう一言だけ言い、男は石舞台の上から僕を見下ろす。

 「―――久しぶりだね。3年振りかな――――――ギルゲフ?」


 ギルゲフ・ド・ガルスキー。

 5年前に終結した「アルサレア戦役」を引き起こしたヴァリムの影の暗躍者であり、
ガルスキー財団という「戦争屋企業」を抱える世界的な富豪。
直属の私設部隊や一握りの人間以外は、その顔を見たものすら居ないという。
―――そして、今もなお、影で実力者として生きている。

 だが、

 「―――違うな。キミは、ギルゲフではない。そうだろう?」
 僕の言葉に、男は唇を吊り上げて笑う。
年齢は、40を越えたばかり、といったところだろうか。
染めたような黒髪をオールバックに撫で付け、引き締まった顔をしている。
髭をたくわえてはおらず、やや釣り上がった目と、厳格な性格を思わせる眉が印象的だ。

 黒いスーツに身を包んだその姿は、正に「影の実力者」を名乗るにふさわしいだろう。
しかし、彼が本物の「ギルゲフ」ならば、わざわざこんな辺境まで出向いてくる必要はない。
そもそも、年齢からして外見と大きく食い違うのだ。
それに―――

 「もしキミがギルゲフなら、ガルスキー財団が指示した要人暗殺の記録が漏洩することもないだろう。
―――彼は、あまり有能な指導者とは言えないみたいだしね。キミの方が、ああいったことは似合ってるよ」

 「本物だろうが偽者だろうが、どちらでも構わんさ。依頼さえ、こなして貰えればな」

 多少の皮肉を込めたつもりだったのだが、彼には伝わらなかったようだ。


        ―――あと、2分―――


 「―――確認するかい?」
 そう言って、石舞台の上へMOディスクを投げてよこす。

 「いや、信じよう。御苦労だったな」
 石舞台の上に落ちたディスクを一瞥して、彼はそう言って再び僕を見下ろす。

 「あの機体は、君の自由にしてもらって構わない。もう一つ、依頼をこなせば、な」
 唇を獰猛に吊り上げ、嘲る様に男が笑う。

 
        ―――あと、1分―――


 「依頼だって?僕の仕事はこれで終わりだろう?」
 一抹の不安を覚え、聞き返す。


 僅かな沈黙。男は笑みを崩さない。


 「当初の仕事は、だ。だが予想外の"イレギュラー"が発生した。
君の仕事は、それの駆除――――――」

       ―――Just、攻撃開始―――


 *7


 最後まで聞かなかった。

 雲を裂き、幾つもの閃光が迸る。
降り注いだ細い光の筋は全部で18。
その全てがギルゲフと名乗った人物を貫き、ガラス質の流紋岩で出来た石舞台を焼く。
凄まじい熱気とともに流紋岩が溶け、光が消えると急速に冷えて固まった。

 後には、ギルゲフが居た場所の少し手前を中心に黒曜石がへばりついたクレーターが形成されていた。
クレーターが出来たのは、固体だった石が溶かされ、再び凝固するときに蒸発して体積が減ったためだろう。

 「―――僕はね、彼らのことを、それなりに気に入っていたんだよ」
 吐き捨てるように、呟く。

 この砲撃は、「サーヴィランス」の子機による熱線砲だ。
大気圏内を高速飛行して摩擦熱を吸収し、長時間掛けて溜め込まれた熱線を、幾つもの子機から光として放射し、地表で凝縮、
焦点から上下数十メートルまで焼き払うことが出来る。
遥かな昔、聖暦はおろか西暦という年号が生まれる前から発明されていた―――実に原始的な武器だ。

 使うことは初めてだったが、照準誤差も、焦点位置もおおむね正確だった。
子機に内蔵されている実体弾や粒子兵器を使う手も考えたが、地表に衝突した衝撃波で僕自身が巻き添えを食う、
という危険性を考えてやめておいた。

 ―――とはいえ、どうやら失敗に終わったらしい。

 「―――驚いたな。まさかそこまで、使いこなせるとは思っていなかった」

 声は消えない。しかも、”驚いた”という割には落ち着いたいやらしい声だ。
今の男は巧妙な立体映像か、ダミーだったようだ。ディスクを受け取らなかったのは、動けば作り物と分かってしまうからだろう。

 「今日から、キミと僕は敵同士だ。彼は死なせない」
 僕は言い放ち、声に背を向ける。

 ―――途端、背後の壁が崩れ落ち、巨人―――パンツァー・フレームが現れる。

 JN−01、ヌエ―――濃緑色で丸みのある形状が特徴の、ヴァリム共和国軍の主力機体だ。
右腕にパンツァー・フレームの標準装備である80mmサブマシンガンが握られている。
左腕で壁を殴り壊したらしい。破片はそこまで飛散しなかったため、僕には破片は当たらなかった。

 その機体は、頭から腰元辺りまでを、大きな赤茶けた布で覆っていた。
恐らくは僕を待ち伏せしていたのだろう。依頼を断るか、不審な行動を起こせば攻撃するよう仕組んでいたようだ。


 ―――だが、それくらい見抜けない僕ではない。

 ヌエの後方で座り込んでいた「サーヴィランス」が動く。無人稼働プログラムが起動したのだ。
全自動で前方に居たヌエを捕捉し、下腕部の肥大化した左腕で横になぎ払う。


 相手の敗因は、待ち伏せに徹していたために、僕とギルゲフの会話の間にサーヴィランスを破壊できなかったことだろう。

 20メートル以上の高さから振り下ろされた腕の直撃を頭部に受け、ヌエは頭部の破片を派手に撒き散らしながら
横倒しに崩れ落ちる。

 ゆっくりと僕に向けて手を差し伸べるサーヴィランスへと、僕は歩き出す。
敵が一機しか居なかったのは、僕を見くびっていたからではない。いつでも殺せる、という意味なのだろう。

 「―――僕は、生き延びるさ」

 ゆっくりと持ち上がるサーヴィランスの手の上で、破壊された教会を眺めながら僕は呟いた。











 第十話へ



 





あとがき

*内容について
会話を組み立てるのって、一筋縄じゃいかないです。
メインキャラの会話がなかなかかみ合わなくて、結局こんな状態です。
今更ですが、サーヴィランスの操縦方法が昔の「少年ジャンプ」に連載されていたスーパーロボット漫画
「魔神竜バリオン」と同じである事に気付きました。キーボード操作。

*人物について
ギルゲフ・ド・ガルスキー(偽) 年齢不詳 男性
髪色:黒 瞳:茶
本名は不明、本人はガルスキー財団の長、ギルゲフと名乗って活動していが、まったくの別人。
怪物が「家」と呼ばれる場所へ現れることを予測し、監視を「僕」へと依頼した人物。
サーヴィランスをはじめとした「ギガンティック・フレーム」型に酷似した機体を多数保有している。
今回の姿が本当のものかどうかも、定かではない。

ギルゲフ・ド・ガルスキー 78歳 男性
髪色:不明 瞳:不明
J−PHOENIXシリーズ全てに名前が登場している。
ヴァリムをバックアップする巨大組織「ガルスキー財団」のトップで、
J−PHOENIX世界観上での、世界有数の富豪。
ミラムーンや、他の地下組織へも太いパイプを持ち、ミラムーンを買収、さらには
前アルサレア最高指揮官グレン・クラウゼンを暗殺し、世界の覇者を目指した。
が、現グレン将軍ことグレンリーダー、グレン・クラウゼンの娘フェンナ・クラウゼンらによって、
その野望は打ち砕かれた。
現在も暗躍を続け、シリーズ全てを通してキーポイントとなる人物である。

*機体について
サーヴィランス 捕捉その2
遠距離熱線砲は、紀元前200年代にアルキメデスが発案し、
「ブリアーレの鏡」という名が付けられた兵器の応用。また、「僕」は、そのことから
この機体名称をアルキメデスの畏怖の名「ブリアーレ」で呼ぶこともある。
多数の人間が湾曲した鏡に太陽光を集め、その焦点を一点に集中することで高熱を発し、
離れた位置に居るローマ軍の船に火を放ったと言われている。

今回の小説中の武器は摩擦熱を高熱の光学レーザーに変換、一点に照射することで対象を焼き払うもの。


*次回かもう少し後、キャラとメカの設定イラストを載せようと思います。去年描いてたやつは今見ると恥ずかしいのでなるだけ描きなおします。


 


 管理人より

 鵺さんより第九話をご投稿頂きました。

 なるほど、こう来るとは……(笑)

 これでもう一人の「僕」も本格的に動き出しそうですね。
 


[感想掲示板へ] [目次へ] [投稿部屋へ] [鵺さんの部屋へ]