第二話イメージ



 *1「わたし」


 「わたし」は夢を見ている。

 夢の中でわたしは巨人になっていた。

 白銀の、騎士のような巨人に。

 目の前には、視界の奥まで続く紅い砂漠と、わたしと対峙する黒い巨人。

 ―――ああ、そういえば、この間も夢に出てきたな。
そんなことを考えながら、巨人を見つめる。
 わたしは巨人から逃げるように後ずさるが、わたしの内に居る「誰か」が、目の前の巨人に対して
激しい憎悪の炎を燃やしている。

 気が付けば、わたしは右手に銀色に輝くナイフを握っていた。
わたしが持つにしては大振りな―――壊し、殺すために生まれたナイフ。
その刃が振動して、白熱化していく感覚が腕を伝わる。

 戦っても、黒い巨人には勝てない。それは、この間の夢で負けてしまったことからも判る。
だから、わたしは今度こそ「わたしの中」にいる「彼」に伝えなければならない。

 「駄目、勝てない。逃げて・・・」
そう言おうとしたとき、意識が急速に浮上していく感覚に襲われる。
このままでは眼が醒めてしまう―――そう思ったが、抗うこともできずにカラダとココロが別れていく。


 ―――ここは、サーリットン。

 紅と灰に染まった、多くの死が降り積もる砂漠。

 わたしは一度も来た事がない、でも、何度も見たことのある景色。





 *2「ぼく」


 「ぼく」は、目の前の黒い化け物を見つめながら、化け物とは反対方向機体を走らせている。
だが化け物との距離は一向に離れず、むしろ追いつかれているようにも思える。

 今この機体は背部、特にブースターの損傷が激しい。噴射剤を使えてもせいぜい1度、それも
大して距離が離せそうにないことが、音声と絵による解説で、素人であるぼくでも理解できた。

 それならば、と思い、右手親指のボタンを数回押し、武装の一つであるアサルトナイフを選択する。
モニターの右下に選択した武装を簡略化した画像と相変わらず読めない文字が表示され、続いてトリガーを引くと、バシュッと音がして、
機体の右手首の辺りから2メートルほどのワイヤー付きナイフが飛び出し、手の中に柄が納まる。

 そのままトリガーを引くと、ナイフの柄に付いたバイクのハンドルのような部分を機体が握り締める。
ナイフが高速振動を始め、やがて白熱化しだした。

 そのまま右ペダルを戻し、右のスティックを軽く上に傾け、手首を前に倒す。
機体はその歩みを止め、ぼくの動きに合わせてナイフを前方にかざす。

 次いで右ペダルを思い切り踏み込み、機体を前方に全力疾走させる。
急加速によるGで、体が一瞬シートに押し付けられる。
機体が激しく上下に振動し、砂に足を取られながらも黒い塊に接近する。

 『―――駄目・・・勝・・・・・・逃げ―――』

 機械の音声が苦しそうに何かを呟いたが、ぼくは構わず巨人を疾駆させ続けた。





 *3


 砂煙でよく見えなかった黒い巨躯の細部が、近付くにつれて徐々に明らかになる。
逞しい腕と足には筋肉のような隆起があり、一対の足で立つその姿は人間のようにも見える。
胸と腰を覆う装甲板は、まさにパンツァー・フレームのそれだ。

 「機体を―――着込んでいるのか―――」
前進を続けながら、意味もなく言葉を洩らす。

 以前コイツと出会った時とは、形状が異なっている。
「あのとき」、コイツは4本足で地面を這いながら、仲間を殺していった。
それが今は、二本の足で地に立ち、服のように装甲を着込んでいる。

 この機体の元のパイロット―――ジャックと言ったハズ―――が殺されたのなら、
おそらくヤツが着ている機体のパイロットも死んでいる。正面からヤツにナイフを突き立てることに、何ら躊躇いはない。

 ―――中に死体が遺されているのなら、ナイフを突き立てるのは当然腹部か頭部に限定されるのだが―――

 だが、もし二本足で立ち上がることも、機体を着ることも、ヤツの知能に基づいているのならば―――

 ―――正面から挑むのは危険だ。そう判断する。






 *4


 相手との距離が7メートルほどになるまで接近し、ペダルをすばやく一旦戻す。
瞬時に左足を大きく踏み込むと同時に右足を引き、機体を右におよそ90°急旋回させる。
旋回しながら視線を素早く左に移す。目前に、化け物の伸びる触手のような指が迫っていた。
 ジャックはコレに「へし折られた」のか、と思いながら、左ペダルを引き、同時に両手のスティックを下に勢いよく倒す。
機体はその動きに追従して膝を折り曲げ、上体を前に倒し、触手の直撃をかわす。

 がりがりという音とともに鈍い振動が後ろから伝わり、コクピットが激しく振動する。
ぼくが見ている左モニターに機体の簡略図が表示され、損傷があった箇所が黄色で塗りつぶされて報告される。
触手が背中に命中したのだ。

 だが、ここまで来たらそんなことに構っている暇はない。
前進を続けていた黒い化け物は、既にこちらの機体と触れ合うくらいまで接近していた。

 「―――ッおぉ―――!」
そのままぼくは右手首を左に捻り、右スティックを左に思い切り振る。
屈みこんだままの機体はその腕を振るい、右手に握ったナイフを相手の黒い左わき腹に突き立てる。
ナイフと装甲の間で多量の火花が散り、一瞬目が眩む。
横目でナイフが装甲板に深々と突き刺さったのを確認すると、そのまま右手中指のトリガーを引き、
次いで右ペダルを思い切り踏み込む。

 中指のトリガーは兵器の仕様変更スイッチになっている。
多連送ミサイルポッドから、ミサイルの入ったポッド自体を打ち込む様にするなど、
武装によって仕様は様々らしい。

 例えばこのナイフなら―――





 *5


 右手中指のトリガーを引くと、機体はナイフと柄をキンッという乾いた音をたてて切り離した。
右ペダルを思い切り踏み込むと、ナイフの柄を掴んだまま機体は怪物から逃げる様に走り出す。
そしてぼくは左のペダルも全力で踏み込み、背中のブースターを起動させる。
機体は急加速し、全身の血液が背中に押し込まれるような感覚が走る。
 
 ぼくからは見えないが、おそらくこの機体は背中から火の玉を吹き上げながらその巨体を飛ばしているのだろう。

 そして、ぼくはナイフを切り離したときからモニター右下の武装画面に映っているカウントに目を移す。


 ――――――4――――――3――――――2――――――1―――――――――0。


 瞬間、黒い巨人の左わき腹が、轟音とともに炸裂した。





 *6


 このナイフは相手を内部から破壊するため、遅延信管―――いわゆる、手榴弾に似た構造になっている。
切り離せば内部の粉末状にしたマグネシウムを混ぜた火薬式雷管(導火線)に引火、そのまま5秒ほどの時差の後に、ナイフの芯に詰められた成形炸薬を爆発させる。
そのまま砕けたナイフの破片と衝撃波で内部から吹き飛ばすという特殊な構造になっている。

 戦闘前に行った武装チェックの際にこの機能について知ってはいたが、どの程度の範囲に効果があるのかは判らなかった。
だから、点火した後は出来るだけ相手から離れる必要があったのだ。

 そのためにブースターを起動させ続けていたが、限界だったようだ。
相手が炸裂した次の瞬間、ぼくは背中を強く殴られたような衝撃に襲われる。

 ブースターが爆発したんだ、と気付く。恐らくは、先刻の攻撃が原因で。
数瞬後、機体は勢い良く、胸部から砂漠に叩き付けられた。





 *7


 地面に叩き付けられた衝撃で、身体が激しく揺さぶられる。
シートベルトを着けていなかったため、揺さぶられた身体はそのまま前に投げ出されるような格好になって正面のモニターにぶつかる。
頭部を打ちつけ、視界が真っ赤に染まる。
額を、切った。血が、目に入った。

 バウンドした身体は、再びシートに背中から打ち付けると、再度モニターにぶつかって止まった。
ペダルは踏んだままだったが、爆発に機体の脚部が巻き込まれたのか、全く反応しない。
幸い、足はペダルに固定してあったために捻挫程度で済んだ様だ。腕も骨折はしていない。

 それでも、もうスティックを握る余力さえ残っていない。ナイフを振るう一撃だけで既に身体は限界だった。





 *8


 「くっ・・・ぅぅ―――」
声にならない程小さな呻き声を絞り出しながら、ぼくは手元に近いコンソール・キーを操作して敵の位置に機体の外部カメラを切り替える。
予想通りならば、もはやアレは生きてはいない。そう思うだけで、気絶しそうな程の安堵感に襲われる。







 ノイズが混じった正面モニターに、黒い塊が映し出される。









怪物





 ―――生きて、いる。



 怪物は生きている。わき腹に打ち込んだナイフは黒い体表には届かず、
わき腹を覆っている装甲板を吹き飛ばした。その下にある本体には致命傷を与えられなかったのだ。

 くそっ・・・。
もはや喋れない口で悪態を付いた後、次第に暗くなる視界で、悠然と佇む敵を見つめる。
最早機体は全く動いてくれない。自分の身体も。

 意識が急速に沈み込んで行くのが判る。
消えゆく意識の底で、仲間たちと、ぼくを止めようとしたナビゲーターと、
この機体の持ち主―――ジャックに、心から謝罪した。










ぼくの世界は、そこで途切れた。












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 あとがき


*内容について
主人公は、はっきり言って弱いです。
メインキャラはオリジナル・原作含めて多数登場予定ですが、あくまで一般兵士や民間人そこらの
能力のキャラクターを複数入れるつもりです。

尚、似たような単語やストーリーが出てきても、他作品と同様の世界設定にはならないように配慮します。
(例えば、アサルトナイフなど)


*機体について
今回のナイフの機構は、本編の通り兵器変形システムっぽくしてみました。
ワイヤーは電力供給とナイフを落として無くさないようにするため(笑)に付いてます。
ナイフ爆弾という描写も、あんまり無いだろうなぁとか考えながら。
遅延信管(ちえんしんかん)というのは、用語で「ディレイ」(待ち時間とか、そういう意味)と言うそうです。
レッドア○ズという漫画を参照。
ちなみにワイヤーを抜いて、投げてから爆発させることもできます。
その他中身の構造は下記参照です。

設定資料1・ナイフ図解

次回は主人公以外の方々をメインにするつもりです。
何でもないことをやたら長ったらしく書いてしまう癖があるのでなんとか治したいです。



 


 管理人より

 鵺さんより第二話をご投稿頂きました!

 攻撃が届かず、ピンチになってしまいましたね(汗)

 しかし、この機体は色々秘密がありそうですね。
 


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