―その速さの前には為す術なく、ただ倒れるのみ。
―故に悪魔と称された機体。
―この機体はその悪魔の単なる模造品。
―それ以上でもそれ以下でもない。
―クロノの開発手記より抜粋。



 

―開発報告書

 MPF-001"Van Blace"『ヴァンブレイス』

 分類:強襲型近接装備PF

 アルサレアの制式兵器「J−ファー」を研究し、ミラムーンの技術を盛り込み改修したミラムーン制式PFの第一号。
 新たな装甲材の採用で、元となったJ−ファーに比べ軽量化と同等の耐久力を得ることに成功。
 背部にウィングの採用をすることでPFの最大の利点『機動性』の強化、更なる『汎用性』を獲得する。
 機体のコンセプトとして『騎兵』が挙げられる。
 故に加速力は現存する制式PFの中で上位に位置する。
 その絶大な加速力と高度を使い一気に敵の戦線を突き崩すのが主目的である。
 武装は背部のウィングが固定で制式採用機では右手にレーザーソード、左手にバックラーとサブマシンガンがデフォルトである。
 更に突撃部隊仕様では『ランス』が装備され、レーザーソードは腰にマウントされる。
 なお、この機体の実証テストは改めて上層部にPFの有用性を示す結果となったようだ。
 テストパイロット、機体主設計者共にクロノ・O・クルクスが担当している。





 

 異説機甲兵団J-PHOENIX・Exstage

 「ADM"Van-Blace"」







 

―ミラムーン軍本部・演習場

 ミラムーン軍本部・中央演習場。そこでは多くの兵士が日夜生き残る為に自身の技を磨いている。

 とは言っても他の二国に比べ戦争の只中に居るというわけではないのでどこか弛んだ気配がないわけでもない。

 それは置いておいて、一年前に比べこの演習場の光景は様変わりした。

 何故かと言うとアルサレアが導入した新兵器パンツァーフレームにより戦場の様相が大きく変わったからだ。

 それにより、戦場の中心が戦車からPFへと移り変わった。

 PFは従来の戦車をあらゆる面で凌駕する兵器である。

 絶大な機動力を持ち、不整地踏破力も高く、強力な火砲を連射でき、高いサバイバリティも備えている。

 傭兵国家という性質からか特に戦場から兵―国の重要な資源―の生還に重点を置いたつくりであるが、その能力は元帥自らが証明している。

 ついでに言えば維持費も格段に高い。

 それによりヴァリムとミラムーンの二国は早急にPFの確保と作成を迫られたのだった。

 当然、同時にそれ専用の戦術、戦略、部隊構築のノウハウ確保が必要となる。

 そのためヴァリムでは裏工作も含めた諜報活動をし、ミラムーンでは資源提供の見返りとして技術援助を受けていた。

 最終的にはミラムーンを経由してヴァリムもPFを実用化するのだが。

 ヴァリムの場合もっともネックとなったのは技術面だが、ミラムーンは違った。

 機体そのものやそれを作るものはそろっているのだが、戦争自体と疎遠であるが故に戦術面などで大幅に遅れていた。

 機体があってもそれが使えなければ意味が無いのだ。

 更にはそれをいつでも使えるようにする整備要員も頭数が足りない。

 それを解消しようにもそこまでミラムーンに優秀な人材が転がっているわけでもなく、途方に暮れていた。

 しかし、数ヶ月意外なところからそれを満たす人材が見つかった。

 その人物はミラムーンのもうひとつの問題点すらも解消できる能力までも持っていた。

 その人物はクロノ・O・クルクスという一人の女性であった。

 そうして定められた歯車は本格的に狂い始め、しかし、運命は変わらない。

 

―中央演習場・司令室

 今、中央演習場では砲兵隊の演習が行われていた。

 戦場において間接にしろ直接にしろ火砲支援は大きなウエイトを占める。

 むしろ戦場で火砲を侮ったものから消えていくようなものだ。

 兵器の質と数が同程度ならば、勝敗を分けるのは火砲部隊の腕である。

 なにせ敵とぶつかる前から攻撃できるのだから。

 それ以外にも敵の拠点を破壊したり、拠点の迎撃に使われたりと種々様々な運用方法がある。

 火砲とはそれほど重要なものである。

 それだけに技術を身につけるのは難しいのである。

 確かにPFならば距離、温度、湿度、風向と強さ、傾斜などのデータを入れて引き金を引けばそれだけで撃つことはできる。

 だが、それだけでは有効な支援にはならない。

 火砲支援とは撃てばいいわけではなく、それが前線や大局にとって何かしら意味があるものでなければならない。

 逆に目標を完全に潰せなくても何か意味があればそれだけで立派な支援となる。

 ということで目標地点になるべく正確に射撃できるようになるのはもちろん、データと実際に打つ際の誤差を頭に入れたり、戦況の客観的な分析etc...etc...

 と、やることはたくさんあるのである。

 特に砲兵隊を指揮するのならば必須事項である。

 で、この国の砲兵隊の錬度はというと・・・

「目標地点付近に着弾2発、外れと判断していい砲撃は8割近くという結果でした」

 というオペレーターのアナウンスが流れる。

 つまり、使い物になるのは大体2割ほどと。

 ちなみに今回の演習に参加したのは1中隊、約20機ほどである。

 そうすると約16機は当てにならないという換算になる。

 これは実際の戦闘になるともっと信頼性が減るということも踏まえて砲兵隊が使い物にならないと考えたほうがいいという結果である。

 大体この国には常時動かせる砲兵隊が約2個大隊、1個大隊が2PF中隊と1偵察小隊と1混合火砲中隊との仮定で1PF中隊を20機換算して、PF80機ぐらいが稼動している。

 その中で信用できるほどの腕を持つのが20にも満たないとざっと計算できる。

 だからこそ、より訓練を課すべきなのだが、隣国が戦争状態なのに厭戦気分が蔓延している為どうにもできない。

 正確に言えば、戦争は対岸の火事であって自分たちには火の粉は降りかからないだろうという楽観である。

 上層部にも実際に戦場へ赴いたり、PFの実証試験に立ち会ったりしていないせいでPFの有効性をいまいち信じ切れていない人物がいたりもする。

 結局戦争の当事者でないものたちにとってはその程度の認識でしかないのだ、この世界の現状は。

 だから、数少ない危機感を持ったものたちは色々な方面で活動や工作を行っているわけなのだ。

 今日も色々動いている人がいる。

 因みに本日の中央演習場の予定には砲兵隊の演習の次は新型PFの実証試験と書かれている。

 

 砲兵隊の演習が散々な結果に終わり、撤収してオペレーターが種々の処理をしているとき司令室の扉が開いた。

 そこから色々談笑しながら普段こういうところに関係ない上層部の面々が入ってきた。

 その顔ぶれの中にはミラムーンでも有数の資本家のトップも数人混ざっている。

 ミラムーンよりも自身の保身に走る可能性の高いもの中心なのは多分、この面子を呼んだ張本人の仕業だろう。

 クサナギ・レイフォード大将。

 それが今日のこの顔ぶれを揃えた張本人の名である。

 表面はにこやかに笑みを浮かべ、談笑しながらここまで案内してきたが、内心、

(現実をもう少しでもいいから見ろよ、この毒虫ども)

 とかものすごい暴言を吐いているが気にしない。

 そうして彼らを司令室に招き入れて何を見せるかというと、この後演習場で繰り広げられる光景だ。

 そう、ミラムーン初の自国生産汎用PF『ヴァンブレイス』の実証試験の様子をだ。

「準備完了、いつでも開始できますが」

 そう言いながらオペレーターがクサナギへと振り返る。

 今回この場にいるオペレーターの面々はクサナギの配下ばっかりだったりもする。

 なので他のオペレーター勢に比べ錬度は段違いに高い。

 データの整理などはお手の物である。

 もちろん抹消も。

 それは置いておいて、クサナギはそのオペレーターのほうへと振り向き、上層部の面々を見回した後告げる。

「わかった、開始してくれ」

 そう開始の宣言をした後、上層部の方々のほうを振り向き、

「それでは、ただいまより新型PF『ヴァンブレイス』の実証試験のほうを始めさせていただきます」

 と上辺だけ敬意を払った言い回しをする。

 内側では相変わらず、

(全く、素直に金をだしてくれればこんな手間取らないのに)

 とか悪態をついていた。

 正直、搾れるだけ搾り取ったら用済みだ、とか悪女並みの思考をしている。

 それに予想以上の出費になったのも確かである。

 なぜなら今回のテストパイロットが自分の子飼のパイロットととある傭兵に頼んだからだ。

 上層部の皆さん、ついでに資本家の皆さんに好印象を与える為に腕の立つのをわざわざ選んだ。

 問題は傭兵のほうで、つい二ヶ月ほど前にヴァリムの基地を酒と引き換えに潰してもらった上に、今回の新型とパイロット養成にまで手を貸してもらった。

 これで相当量の秘蔵の酒が消え去った。

 今回も清酒1瓶と引き換えに受けてもらった。

 この二ヶ月でクサナギの財布は軽くなり、酒の貯蔵庫にも空きが目立つようになった。

 まぁその見返りは十二分にあったようだが。

 それに、今回の試験はクサナギ自体もそれなりに楽しみにしていた。

 数少ないとある傭兵の実力を見る機会なのだから。

 そうしてオペレーターの合図と共に試験は開始される。

「それではクロノ・O・クルクス特務少尉始めてください」



 

―中央演習場・演習場内

「ふぅ、なにやら変な階級までついたようね」

『まぁそう言わずに』

 と、愚痴をたれたクロノにすかさずオペレーターが返答する。

 実際上層部の皆さんが来なければこんな階級など必要ない。

 単なる雇われパイロットで終わった。

 だが、薄いとはいえ上層部には階級やら何やらを重視する傾向がある。

 だから名義上ちゃんとした軍属に見せる必要があったのだ。

 情報の改竄はクロノの得意分野なので誰もそれがその場しのぎのものだとは気付かない。

 もともとクサナギ自体がそういう部隊をいくつか所持しているからどうとでも言い訳はできる。

 で、どうしてここにクロノがいるかというと、二ヶ月前のあの戦いが原因だったりもする。

 二ヶ月前ヴァリムの前線基地をさらっと潰した(←戦場を駆ける風Ch1-3参照)クロノはその後帰って報告した。

 それで戦場を駆ける風での物語は終わったのだ。それは間違いない。

 問題はその後だ。

 その戦いで使ったヴァンブレイス・ゼロの性能が高く評価され、一部では接収しようとする動きすら見えた。

 そこまでは何時ものように侵入者撃退用トラップで駆逐できるし、なんでもないことだった。

 でも、その中に正規軍のPFパイロットを使ってやろうとした馬鹿がいた。

 それを撃退したのはいいが、あまりにもミラムーン錬度の低さを物語る結果に終わってしまった。

 更にそれを利用してパイロット養成とヴァンブレイスの再設計の量産型PFの作成まで頼もうとする輩まで現れた。

 敢えて誰とは言うまい。

 そいつに清酒1ダースで買収されて再設計と一部のパイロット養成をこの二ヶ月間にしていた。(←この間にも酒を要求していた。)

(まぁうまいこと暇が潰せたからいいけど)

 そこまで考えた後意識を今に戻す。

 わざと自身の戦闘状態から歯車をはずす。

 あまり派手に振舞うのは好ましくないと判断したから。

 いまさら遅いのではないかという突っ込みは無しの方向でお願いします。

『それではダミードローンを射出します』

 そうアナウンスが流れたと同時に目の前の地形を確認する。

 砲兵隊の演習があったとはいえ、標的になってない付近は多少の起伏を持った平原である。

 その中に三体のPF並みのでかさを持った木偶が舞い降りた。

 ターゲットとなるダミードローンは複雑な動きこそできないが動くとか近くの物体に剣を振ることぐらいはできる造りになっている。

 単純だが、実証試験のターゲットとしては十分である。

 クロノはそれの位置を確認した後右手に持ったランスの握りを確かめる。

 今回ヴァンブレイスは突撃仕様なので円錐を長くして柄をつけたような形の突撃槍を持っている。

 左腰にマウントされているレーザーソードはまだ使う必要はない。

「さて、行くわよ」

 そう小さく呟いてクロノはフルブーストをかける。

 突撃槍は直線的な力が最も殺傷力が高い。

 故にそれを最大に発揮できる正面方向にいるダミードローンに突撃を掛ける。

 狙いは違わず相手のコクピットに当たる部分を正確に貫く。

 刺さった槍を抜いて今度は左手にいるドローンを狙う。

 さすがに規格化された木偶では面白みも無く、二機目、三機目とさっさと貫いていく。

 三機目を潰したとき、オペレーターのアナウンスが聞こえてきた。

『さすがですね』

「まぁこれくらいわね」

 と軽口を叩く。それに続けてオペレーターが言う

『それでは多少思考回路を上げたドローンを三機続けて射出します』

「つまり、一機づつって事」

『いえ、三機同時でもありません』

「あ、そう」

 つまりは変則で来るらしい。

 そうしているうちに一機舞い降りてきた。

 今度は先ほどのレーザーソード装備型ではなくてサブマシンガン装備型だ。

 のらりくらりとした動作でこちらに照準を向ける。

 それの銃口を見て先に射線を外しながらブーストを掛け突撃する。

 そのままの状態で貫かれる。

 貫いたと同時に二機同時に舞い降りる。

 それは先ほどまでと違って機敏な動作で銃口を向け撃ってくる。

 左右に挟まれた状態ではあるが、所詮は木偶。

 ただ向けて撃つことしかできない。

 クロノは突撃を掛けた勢いそのままに地に伏せ、やり過ごす。

 そうしてほぼ伏せるような形からブーストを掛けて無理やり機体を起こし、腰の後ろにマウントしてあったサブマシンガンを左で抜く。

 ぎりぎり有効射程に収まった左のドローンを旋回しながら撃ち抜く。

 そのままサブマシンガンを捨て、左足で踏みとどまり、反動を利用して突撃を掛け、残った最後の一機を潰す。

 ここまで二分足らず、ドローン降下の時間を抜けば一分足らずで終わらせた。

『では、最後のドローンを射出します、がんばってください』

「もらった金の分ぐらいはやるわよ」

 そうして舞い降りた最後のドローンは今までの張りぼてではなく実際のPFを使ったものだった。

 簡単な無線操作による初期ロットのJ−ファー、それがこの実証試験のメインターゲットである。

 これで如何に優越を示せるかにかかっている。

 動作回路も性能が良く、木偶にしては意外と速い動作でこちらを狙ってくる。

 それを見たクロノはランスを捨て、レーザーソードを引き抜く。

 そうしてこの機体の持ち味である機動力に任せて突撃する。

 サブマシンガンの銃口からわずかに態勢をずらすことで回避し、近づく。

 サブマシンガンよりもレーザーソードの間合いに入ったということで木偶が剣を振り上げる。

 が、

 それよりも早くその機体からレーザーソードが生えていた。

 それで機能停止し、実証試験は終わった。

 そして、

『実証試験を終了、続いて実戦試験に入ります』

「わかった」

『では、アーマイル中尉、準備はよろしいですね』

 その言葉に透き通るような高音が答えた。

『当然』

『改めて、アーマイル中尉発進、どうぞ』

『了解、せいぜい良く映るよう頑張ってきますよ』

 そう、彼女、エミル・アーマイル中尉は答える。

 答える言葉と同時に格納庫からひとつ何かが出てきた。

 それは全体的にJ−ファーに似たシルエットで背中に鋼でできた翼を持ち、右手には円錐を長くしたような突撃槍……

 早い話がクロノと同じ量産型ヴァンブレイス、突撃仕様である。

 でも、彼女の機体は微妙に細部が違う。

 ヘッドフレームの部分が多少増設され、多少足回りもすっきりしている。

 実のところ、彼女もオペレーター陣と同様クサナギの配下だったりする。

 故に、クロノの訓練という名の地獄すら生温い惨劇に付き合わされた兵士の一人である。

 その惨劇が終わる頃、各々の機体はそれぞれの特徴に合わせ最適化されていた。

 彼女の場合は統率する立場にあることが多いのでレーダーなどの情報機器の強化、自身の戦い方に合わせ足回りの改善がなされている。

 因みに、クロノの特徴に合わせ最適化するとヴァンブレイス・ゼロのような特化型か、すべての能力に秀でた万能型になる。

 どちらも相当の技量がないと扱いこなせないものである。

 試しにそれのデータをシュミレーターに入れて乗らせたところ、誰も扱いこなせなかった。

 これはもはや技量というより相性の領域にあると誰もが思ったらしい。

 実際はどうなのか推し量る術はない。

 それがクロノの機体の前に降り、向かい合う。

 とりあえず試験であるので勝手に始められない。

 だが、戦いの前の緊張感はあるものだ。エミルにも当然それは感じ取れる。

 更に今回は試験とはいえ実戦装備を使うのだ。緊張して当然だろう。

 万が一が相手に起こるかもしれないし、自分に起こるかもしれない。

 それを見たクロノは気軽に声を掛ける。

 これから戦うのだから殊更軽く。

「やっほー、数日振りだけど、疲れは取れたかしら?」

 と、どう返ってくるかわかりきっていることをわざわざ聞く。

『ええ、誰かのおかげで平日の1.5倍ぐらい疲労は溜まってます』

「あらあら、ちゃんと疲れは取らないと美容に悪いわよ」

『誰の所為だと思ってるんですか』

「多分、この二ヶ月間私が訓練の監督についていたから」

『ちゃんとわかってるんじゃないですか』

「私を雇ったレイフォード大将の所為ね」

『って違う!!あんたの所為だ!!あんたの!!』

 なにやら不毛な領域になってきたからかいを別の声が遮る。

『…二人とも仲がよろしいところ申し訳ないのですが、そろそろ始めたいのですが』

「ええ、いつでもどうぞ」

 と何時ものように返すクロノ。

『……同じく』

 第三者の介入で少しは頭が冷えた様子のエミル。

 両者相応に返す。

 けれど、エミルのほうは苛立ちが多少感じ取れるぐらい、声音が荒れていた。

 まあ、でも、

『少しは緊張取れたみたいねエミル』

『まあ、ね』

 その会話を聞きながらクロノは穏やかな笑みを浮かべる。

 幾らなんでも高々試験程度で緊張しすぎだろうとクロノは思っていた。

 だから緊張をほぐす為からかい八割で言葉を交わしていたのだ。

 どうせ注意してても万が一の事態が起こるときは起こるのだから、気楽にと。

 石の上に落ちる水音が響くような静寂が二人の間に訪れ、開始の宣言が静かに伝えられる。

『では始めてください』

『行きますよ、教官!!』

「さぁ、気楽に戦いましょうか、エミル。そうすれば私に一太刀ぐらいは届くわよ」

『それは実際に』

 エミルの機体が沈み込む。

 クロノの機体は右腕をだらんと下に下ろした自然体のままである。

『打ち合ってから』

 エミルの機体が地を蹴り、右腕にランスを掲げ突撃する。

 クロノの機体は依然として自然体のまま。

『言ってください』

 一切の迷い無い突撃。

 それが、ヴァンブレイス突撃仕様の能力を引き出す最上の行動。

 そうと知っているから彼女はそれを仕掛けた。当然のごとく殺す気で。そうしなければ彼女に届かないから。

 それに相対するクロノは、

「あら、いい突撃ね」

 とのほほんと感想をのたまっていた。

 その言葉を聞いてもエミルは一切動揺しない。

 何せ実力が違いすぎるから、相手の実力を高く評価しているから殺す気で行ったのだ。

 それでも簡単に弾かれるから、そうと知っているから動揺しては居られないのだ。

 ここでクロノは行動に移る。

 目前に迫った突撃槍の先端近くに狙いを定める。

 機体を軽く左に捻り、右手のレーザーソードを握り締める。

 激突ちょっと前くらいに突撃槍の先端ぐらいからレーザーソードを合わせ、軌道をずらす。

 次いでずらした線の大体九十度ぐらいの方向に跳ぶ。

 それで突撃をいなした後、態勢が整いきらないところを狙ってエミル機へと接近する。

 それを見たエミルは突撃槍を捨て、左手でサブマシンガンを抜き、乱射して弾幕を作る。

 最低限これで勢いは削げるかと思ったがそれは違った。

 サブマシンガンの銃口だけ見て弾幕の穴を見つけ、最低限の減速すら行わずに接近してきた。

 それに舌打ちしながらレーザーソードを抜く。

 獲物はクロノがレーザーソードのみ、これは先の実証試験から引き続いているから当然である。

 対するエミルのほうはレーザーソードとサブマシンガン。

 接近戦でもほとんど問題なく使用できるサブマシンガンを持っているエミルのほうが有利に見えるが実際それほど差は無い。

 パターンこそ増えるが機動性重視のヴァンブレイスと回避することに長けているクロノの組み合わせになると意味をほとんど成さなくなるからだ。

 近接距離だろうが零距離だろうが弾が一直線状態になると姿勢を崩して回避される上、そこから予想外の軌道で攻撃が放たれるのでもっと厄介になる。

 それに限定するという使い方ができないでもないが、それだとこちらが対応しきれなくなる。

 だからといってサブマシンガンを捨てるとなると接近戦の技量自体向こうが格段に上なので意味を成さない。

 だからといって捨て身で行くなどもってのほかである。

 捨て身とは身を捨てて事を成す手段であり、玉砕の手段ではない。

 何しろここで自分が求めている結果は勝利である。その勝機が一切見えないのに捨て身をするわけがない。作り出そうとしてもその前に叩き潰される。

 だからといって機を待つわけにも行かない。機を制する術は向こうのほうが上である。こういうことを考えていることからもそれは明らかだ。

 捨て身で行っても機は作れない。かといってこのまま待ってても機は訪れない、訪れても刹那のものだろう。

 思考の苛つきは身体に徐々に影響を及ぼし、機体の制御にも顕れる。徐々に徐々に操作が荒くなる。

 八方塞の状態でジレンマを抱えてもだえているエミルを見てクロノは内心溜息をつく。

(やれやれ、あまり物分りが良すぎるというのも考え物ね)

 この場合の正解は実を言うと捨て身だったりする。確かに勝算も勝機もなく捨て身で仕掛けるのは単なる阿呆だ。

 でも、勝機を作り出せる。それを活かせるかどうかは別として。

 彼女の場合作り出せたとしてもそれを活かすことなく潰されると考えた。

 しかしそれは正しいが、間違ってもいる。

 確かに彼我の技量差を考えれば潰される。けど、賽の目はイカサマをしない限り振ってみなければわからない。

 そのイカサマこそが戦略であり、戦術である。

 イカサマがあっても勝負を仕掛けなければ勝ちは絶対に拾えない。

 理由は簡単だ。勝負を仕掛けなければ勝ちも負けもないのだから。

 クロノは大きく息を吐いた後、わざと警戒を解く。エミルに分かるくらいに。

 その後のことは一切考えていないが、膠着状態をいい加減解きたいと思ったから即座に実行した。

 斬りつけてきた刃を自分の刃で弾いた後、機体をわずかにぐらつかせる。

 それを好機と見たエミルは即座に行動に移す。

 サブマシンガンを捨て、両手でレーザーソードを持って斬りかかる。

 威力、速度共に文句は無し、誘われたという感じがしないわけでもないが彼女の持ちうる中で最高の斬撃。

 だったのだが、唐竹より相手を両断しようとしたそれは、

「やれやれ、ここまで予想通りだと面白みも何もないわね」

 といったクロノによって覆された。

 近距離、0.2秒に満たないような刹那の瞬間にそれは起こった。

 確かに彼女は機体をぐらつかせた。それは間違いようもなく隙だった。

 けど、それだけだった。という話だ。

 クロノはわざと作った隙に付け入ろうとするエミルの挙動を見る。当然この膠着状態を終わらせようとするように動いている。

 それに合わせるようにクロノも動く。

 このためにわざわざ隙を作ったのだから。

 大きく外に振られた右腕を降ってくる刃に合わせるように動かし、同時に機体を加速させる。

 それにより刃が最大威力でもって襲ってくる箇所から逃げた。と同時にエミルの機体の懐に入る。

 上より迫る刃はレーザーソードで防ぎ、空いた左を相手の胴に打ち込む。

 エミルはぐらついた機体を必死に立て直そうとするが、そうするよりも早くレーザーソードを弾かれ、気付いたときには逆にレーザーソードを向けられていた。

 完璧なまでに敗北であった。

 その事実を認めてあっさりとエミルは敗北を宣言した。

 別に勝敗にこだわる必要もないし、勝つ必要もない。単なる試験、それも上に対するものだから尚更。

 この機体がいいものかどうかは乗っている本人がわかっている。それで現場は良いのだ。

 そこへ第三者の声が響き渡る。試験の終了とエミルの敗北を知らせる声が。

『これにてPF【ヴァンブレイス】の実証試験、全行程を終了いたします。お疲れ様でした』



 

―中央演習場・司令室

 試験終了のアナウンスが流れた後、司令室は観客のどよめきで埋まっていた。

 その内容は主に『PFとは凄いものだったんだ』である。

 聞くのと実際に見るのでは大幅に違う。この観客たちはPFの存在を知りながらも見ていないものたちだった。

 それが思考と現実とのギャップを作り、この状況になっている。

 想像上だけの鬼は、現実に戦場を蹂躙する確たる化け物となった。

 そうなるよう今回の試験は仕組まれていた。そして、そのためだけに今回の試験を仕組んだ。

 どう転ぶであれ、それに対抗する為のものを欲するであろう。そうさせる為にクロノという化け物をわざわざ招いたのだ。

 それに、資産家たちには別の面でもプラスとなる。

 例えばヴァリムと裏で通じる為にヴァンブレイスの存在はかなり大きなアドヴァンテージとなる。

 これと自信を持って売りつけられる商品がひとつでもあれば、客は顔をこちらに向けてくれる。

 アルサレアと取引する場合でも同様であろう。

 他国の新型兵器を入手できるというのはそれほどに大きなことであるのだから。

 そうすれば派を問わずに資産家はこぞってこの機体の生産ライセンスをほしがるだろう。

 そこまで計算してクサナギはこの試験をわざわざ観客付きで行った。

 明日にはミラムーン中の報道機関に大々的に発表するつもりである。

 釣りとは餌をばら撒き、食いついてくる魚を取るものである。

 取った魚は必要ないものはリリースして、必要なものは食べたり飾ったりする。

 そう、もう第一目標の魚は食いついた。第二目標がかかるまでにリリースするか否かの精査を完了させればよい。

 そう考えながらクサナギは心の中で笑っていた。

 あくまで彼が守るべき対象なのは軍の兵士と部下、力なき国民である。自分の力でどうにかできるものは守る対象ではないのだ。

 当然そんなことを考えているなど表面に出すことは無い。

 三者三様の思惑が入り乱れながら試験は終了し、退出して行った。

 その光景を見ながらオペレーターの皆様方は、

「何ていうか、馬鹿らしい」

「分かるけど、言わなくても良いんじゃない」

 とか言葉を交わしていたそうな。

 後者の言葉に頷いている大将を背にしながら。

 

―中央演習場・格納庫

 つい先ほどまで熱戦ともいえる攻防を行っていたクロノとエミルは格納庫内で佇んでいた。

 自機の調整についてはすでに終えている。それぐらいは即座に終わらせられるように叩き込まれたから。

 無言で佇む二人の表情は似ているようで微妙に違っていた。

 安堵のような落ち着いた表情というのは共通しているが、エミルのほうには若干焦燥ともいえる色が見える。

 それを知りながらもクロノはただ待つ。どうしたいのかを言われるまで。

 周りは騒がしく仕事をしているが、この二人の周りだけは違って沈黙が降りていた。

 しばし沈黙が続いた後、エミルがその沈黙を破る。

「私は強くなったのでしょうか」

「さあ?」

 クロノのほうを向きながらそう聞いたエミルにクロノは肩をすくめるジェスチャーつきで即座に返す。

 また沈黙が降りると思われたが、更にエミルが続ける。

「全然実感がないんです、強くなったのか弱くなったのか、それとも一切変わっていないのか」

 それは彼女の不安の表れだった。

「今回わかったのは教官との距離が一切縮まっていないことぐらいです」

 そう、自分の手の届く範囲で知り合いが死んでいくことを怖がる彼女が抱える、大きな不安。

「結局私はこの数ヶ月間でどうなったのか、それが、わからないんです」

 最後はかすれてほとんど聞き取れなかったが、それは彼女が話したがらなかった不安の一つ。

 決定的な何かが起こっていない為に自分がどうなったのかという実感を得られない恐怖。

 どうなっているのかわからないという誰もが一度は抱える恐怖。

 それを吐露したエミルに対するクロノの答えは無関心にも聞こえるものだった。

「あーそう」

 誰もが一度は抱える恐怖だからこそクロノの反応は冷淡に近いものであった。

 強くなったのか弱くなったのかは誰にも答えられるものではない。それは自分が実感するものであり、何を指してかは人や目的によって変わる。

 実感がない故の煩悶は自分が実感することでしか解消することができないのである。

 まあクロノも鬼では……あるがそこまで堕ちてはないので助け舟を出してやる。

 引っ張って答えを出させるのは簡単ではあるが、何の意味もないので背中を突き飛ばすだけに留めるという意味があるのか無いのかわからない言葉を掛ける。

「何を迷ってんだか、走り始めた以上終わりまで走っていきなさいよ」

 そこでいったん言葉を切る。

「まあ技術的な面だけなら確実に上達しているわね」

「そうですか…?」

「まったく、私と比べるからそうなるのよ」

「はい」

「敢えて欠点を言うのならもう少し思い切りの良さというものを身につけたほうがいいわね」

「成る程」

「…あんた、実を言うと寝たい?」

「はい、どこかの誰かさんの所為でここ最近疲れが取れませんので」

 やりすぎたかと内心では思っても一切反省しないクロノは彼女を促す。

「なら寝てきたほうが良いわよ。疲れていると判断その他諸々鈍るし、嫌なことばっかり考えるようになるから」

「はい、それでは失礼します」

 エミルはその言葉に従って格納庫を離れていく。

 クロノはその背に向かって言葉を掛ける、本当の意味でのアドバイスを。

「それと、誰かを守りたいのなら余裕を持つよう意識することね」

 余裕がないと自分以外の何も守れないわよ。

 その言葉にエミルは振り返り、笑みを浮かべながら礼を言った。

「ありがとうございます、余裕をもてなくさせた張本人さん」

 最後に嫌味一つ残してエミルは去っていった。

 その背を見ながらクロノは人知れず笑みを浮かべていた。





 

―以上が悪魔の模造品が世に出回り、この世界の歯車が本格的に狂い始めた日に起こった出来事である

―運命は変わらなくても在るべき姿は変容した

―彼女が舞い降りたのはただそれだけの出来事だった

―全てはあるがままに、風の吹くままに


 Exstage

 Arms Develop Mission "Van-Blace"

 fin


 



後書き

 「え〜ごほん、さて、何の前振りもなく始まりました後書き劇場Ex。

  司会進行はExChと同じくセラフ・アレフストレインが勤めさせていただきます。

  ここは別に質問も着てない作中のいろいろな疑問について勝手に答えていく場所です。

  それが苦手な人はスクロールオーバーしてもらっても何の問題もありません。

  今回の話ができた理由は、BTのアーマイル丘陵地であまりにもミラムーン兵が弱すぎて、本当にこんな奴ら味方の陣営に引き込む価値があるのかとかなり不安になったのでもう少し交渉する価値がないと書きにくいと思ったからだそうです。

  これは作者の率直な感想です。

  というわけでてこ入れの意味も込めて多少交渉価値をあげてみました。

  大して上がってないように見えるのは仕様です。

  後、冒頭の砲兵隊の演習や隊編成は作者の捏造設定なので気をつけてください。錬度も捏造です。多分、実際はもう少し高いと思います。

  今回は大してねたがないのでこの辺で幕を下ろさせてもらいます。

  因みに今回の話は作者主観によるミラムーン兵の錬度の低さをクロノさんの力量とやってきたことで和え、クサナギさんの腹黒い一面で仕上げた本編とのずれの発露その序章という位置付けです。

  解りそうでいまいち解りにくい喩えですがその辺はご容赦を。

  それでは又会う機会まで。」



 

解説

―ヴァンブレイス

 強襲型近接装備PFとしてJ−ファーを改良して作ったミラムーン純正PF1号機。あくまでこの作品郡内で話です。
 詳しい特徴などは冒頭に書いたので省く。
 シルエットはほぼJ−ファーそのまま。各所が多少鋭角化され、装甲が簡略化されているところがある。
 当然のごとくJ−ファーより能力は上回っている。
 機動性能はオリジナルより当然下回っている。常人でも取り扱えるくらいに。
 オリジナルの機動性能は常人には扱えません。
 エミル専用機は本当に微細に違っているだけ。

―ヴァンブレイス・ゼロ

 戦場を駆ける風Ch1-3にて出てきたオリジナル・ヴァンブレイスのミラムーン側の呼称。
 空間戦闘型高機動PFとして設計される。
 全身の随所に仕込んだ姿勢制御用バーニアとべクタースラストノズルタイプのメインブースター。
 それと無謀ともいえる軽量化によって化け物レベルの機動性能を誇る。
 主兵装は右腕に持つ近接兵装。これは作戦によって使い分ける為特定せず。
 副兵装としてジャマダハル型短剣「アクイラ」を装備。
 事実は逆だったりするが。
 補助兵装としてチャフとバックラーとウィングを装備。
 これ以外にももう1つなぞが隠されているらしい。

―クロノ・O・クルクス

 この作品群のそもそもの引き金。
 前回の仕事(戦場を駆ける風Ch1-3)の後、素敵に暇をもてあましていたらヴァンブレイスの能力に目がくらんだ資産家の皆様方に襲撃される。
 それを撃退するも、作中にある通り錬度の低さを証明してしまったのでそれを補う為にクサナギに清酒「狐の涙」で釣られる。
 それでヴァンブレイスの量産型とクサナギ直属のパイロットたちに訓練することとなる。
 ほぼ刹那主義的に生きているのは性分か。
 今回は試験ということもあり押さえ気味に行動したらしい。
 でも実際にはそう見えないから驚きである。

―エミル・アーマイル

 クサナギ直属のパイロット部隊の小隊長その1.
 自分が死ぬよりも他者が目の前で死ぬほうが怖いという一見珍しそうでそこまで珍しくないタイプのパイロット。
 なまじ筋がよかった為にクロノに地獄を見せられることとなったある意味不運な人物。
 性格は冷静で礼儀正しいが嫌みや毒を吐く。根が真面目なのでいろんな人にからかわれる。

―クサナギ・レイフォード

 この話の仕掛け人。
 大将としてはかなり若い部類に入るが、持ち前の情報脈と行動力で実戦でのし上がった。
 当然使えない奴は搾れるだけ搾り取って左遷した。
 今回はPFの大幅導入と資本家にPFを作らせる為に公開実証試験を提案した。
 目論見どおり資本家の皆様はヴァンブレイスを作る気が高まったようだ。
 どう使われるかは問わずに。
 作らせるだけ作らせたら軍で接収したり、不利な情報公開して勢力を削り取るつもりである。
 因みに上層部の面々は裏で握った情報で脅したようだ。
 他にも色々と裏で工作しているようだが、それは別の話。

簡易解説

―ミラムーン兵の錬度の低さとその理由
 基本的に公式設定ではなく捏造です。鵜呑みには絶対にしないでください。

―砲兵大隊の編成
 これも上に同じく捏造ですのでご注意ください。
 因みにこの作品群での設定では砲兵大隊は2PF中隊と1偵察小隊と1混合火砲中隊からなる。他にも工兵隊や通信兵などの編隊も存在する。
 ものすごく適当なのが丸わかりですがあまり深くは突っ込まないようにお願いします。



 


 管理人より

 時の妄執さんよりご投稿頂きました!

 どこであっても情報は大事ですからね。

 それに群がる輩の多いこと……といっても人間誰しも利己的ですから当然でしょうが。


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